説明

発光素子アレイ並びに露光装置及び画像形成装置

【課題】有機EL素子アレイを用いた露光装置において、発光素子の配列ピッチに応じた高解像性を取って高い画像品質を得ると共に、発光素子(発光領域)の大きさ及び形状を、発光素子の最大輝度が低く抑えられるものとして、その発光素子の長寿命化を図る。
【解決手段】有機EL素子アレイ40を構成する有機EL素子の発光領域45について、発光素子が並ぶ方向における幅Mを、層間絶縁層の膜厚の2.5倍以上であり、かつ、発光素子の配列ピッチPの83%以下とする。これにより、露光性能において、発光素子の配列ピッチに応じた高解像性を有しつつ、かつ、発光素子の輝度が最適に抑えられて、その長寿命化が図られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の発光素子をライン状などに配置して構成された発光素子アレイ、並びに発光源として発光素子アレイを用いた露光ヘッドを含む露光装置、及びその露光装置を用いた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の画像形成装置において、入力される画像情報信号に応じて感光体面に画像の潜像を形成させる露光装置として、レーザー光を走査して感光体面に照射するものや、形成画像の1画素に発光素子1つが対応し、その発光素子がライン状に並べられて構成されたライン型露光ヘッドを用い、集光レンズを通して感光体面に各発光素子の光を順次照射するものなどが知られている。そして、ライン型露光ヘッドとしては、発光ダイドー度(LED)素子を用いたラインヘッドなどがよく知られ、その他、発光素子に有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子を用いるものも開発されている。
【0003】
ところで、画像形成装置の露光装置としてラインヘッドを用いるとき、その発光素子を大きくすると、画像の解像度が低下し、画像品質が低下するという問題があり、また、発光素子の光量と寿命との関係にも留意する必要がある。
【0004】
すなわち、ラインヘッドを露光装置として用いるとき、形成画像の画素に当たる発光素子は、高解像度の画像を得るためにできるだけ小さく設計しなければならない一方で、感光体への潜像形成に必要な光量も確保しなければならない。そこで、光量を確保するために、発光素子は、輝度を高く設定することにもなるが、そのとき、発光素子としての寿命が、一般に、短くなる。
【0005】
ここで、露光ヘッドとして、LED素子を用いたラインヘッドを使用するとき、LED素子は、発光可能な輝度が高く、かつ、発光寿命が画像形成装置の製品寿命より十分長いので、輝度を高くしても、LED素子の寿命を確保することができ、そして、点発光素子なので、高解像度の画像を得るために発光素子の配列ピッチが密になる場合でも、十分な光量と寿命を共に確保することが可能である。
【0006】
さらに、鮮明な画像を得るために、特許文献1では、LED素子の配列方向におけるLED素子の幅(長さ)を配列ピッチに対して一定の関係以下の長さとすることで、感光体面に照射される光の光学特性(MTF:modulation transfer function)が50%以上にでき、印字ドットの境界を明瞭にして照射できるとしており、これにより、発光素子の配列ピッチに応じた解像性が得られることになる。
【0007】
一方、有機EL素子は、素子の発光領域を任意の形状とすることができ、発光領域内での輝度分布が略均一な面発光素子であり、略均一な輝度分布を有する発光領域を広くすることで単位面積当たりから放出される光量(輝度)を多く(高く)することができるので、表示装置用などの解像度に対する発光素子の大きさでは、実用的な光量及び寿命を確保することができるようになってきている。
【特許文献1】実公平6−17550号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、画像形成装置のための露光装置は、必要な解像度が表示装置に比べて数倍高く、その高い解像度に伴って発光素子の大きさをより小さくしなければならず、その露光ヘッドとして、有機EL素子を用いたラインヘッドを使用するとき、有機EL素子は、そのように、取れる発光領域の広さが限られるので、所定の光量を得るには輝度を相当に高くする必要があり、その結果、寿命が十分に取れないという問題がある。
【0009】
また、有機EL素子の発光領域内輝度分布は、略均一であるものの、実際には、完全な均一ではない。図7は、発光素子アレイにおける1つの発光素子が発光しているときのその発光領域内での輝度分布と、それぞれの図中のA又はBにおける輝度プロファイル(図示箇所における輝度の相対量)とを示すもので、(a)は有機EL素子の例、(b)はLED素子の例である。図7において、主走査方向とは発光素子アレイにおいて発光素子が並ぶ方向である。
【0010】
図7(a)に示されるように、有機EL素子は、略均一な発光領域内輝度分布を有するものの、実際には、その発光領域周囲に輝度が低下する部分(図中のCなどの部分。輝度低下部分と呼ぶ)がある。
【0011】
そして、このような輝度低下部分があると、その分、完全に均一な発光領域内輝度分布を有する場合に比べ、素子(発光領域)全体から得られる総光量が少ないものとなる。従って、発光領域の端(周囲)の輝度低下部分が広いと、同じ光量を得るためには発光領域の中心部の最大輝度をさらに上げる必要があり、それによって、発光素子の発光寿命がより短くなる。
【0012】
また、有機EL素子は、発光領域内輝度分布がLED素子とは大きく異なる。図7に示されるように、発光領域内輝度分布が、有機EL素子は(a)に示されるように略均一であるのに対し、LED素子は、(b)に示されるように不均一で、主走査方向の両端部分で輝度が極大又は最大となっている。
【0013】
そして、発光素子の発光領域内輝度分布が異なると、集光レンズを通して結像される像、すなわち結像面での光量分布も異なるので、集光レンズ透過後の結像面での光学特性(MTF)は、LED素子と有機EL素子とでは、発光素子の大きさ・配列等に対する依存性が異なる。それゆえ、前記特許文献1に示されたLED素子の幅と配列ピッチとの関係は、有機EL素子を用いた露光ヘッドに、そのまま適用できるものではない。
【0014】
このように、有機EL素子では、寿命を確保するために、その発光領域を可能な範囲で広くするように設計しなければならないのに対して、上記従来の、点発光で輝度が高いことを前提に発光素子面積を狭くして解像性を得ようとするような構成では、有機EL素子に必要とされる発光領域の広さの確保と露光装置としての高解像性とを両立させられないという課題を有していた。
【0015】
本発明は、このような従来の課題を解決するものであり、有機EL素子アレイを用いた露光装置において、発光素子(発光領域)の配列ピッチに応じた高解像性を取って高い画像品質を得ると共に、発光素子(発光領域)の大きさ及び形状を、発光素子の最大輝度が低く抑えられるものとして、その発光素子の長寿命化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上記目的を達成するために、列を成して並ぶ複数の発光素子を含んで構成される発光素子アレイにおいて、前記発光素子が、基板面上に設けられた下部電極、発光層を含む有機多層膜、及び対向電極を含んでなる発光領域を有し、また、前記基板面に対しパターン化されて前記下部電極と前記対向電極との間に設けられ、前記下部電極の一部を覆ってこの部分における当該発光素子の発光を規制する層間絶縁層を含み備え、前記発光領域は、その幅が、前記発光素子が並ぶ方向において、前記層間絶縁層の膜厚の2.5倍以上で、かつ、当該発光素子の配列ピッチの83%以下であることを特徴とするものである。
【0017】
また、列を成して並ぶ複数の発光素子を含んで構成される発光素子アレイにおいて、前記発光素子が、基板面上に設けられた下部電極、発光層を含む有機多層膜、及び対向電極を含んでなる発光領域を有し、また、前記基板面に対しパターン化されて前記下部電極と前記対向電極との間に設けられ、前記下部電極の一部を覆ってこの部分における当該発光素子の発光を規制する層間絶縁層を含み備え、その少なくとも一部が前記層間絶縁層により規制されて形成された前記発光領域は、その形状が円も含めた略楕円又は五角形以上の多角形であることを特徴とするものとしてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、発光領域の幅を、発光素子が並ぶ方向において、層間絶縁層の膜厚の2.5倍以上であり、かつ、発光素子の配列ピッチの83%以下とすることで、略均一な発光領域内輝度分布を有する有機EL素子を含んで構成される発光素子アレイを用い、露光性能において、発光素子の配列ピッチに応じた高解像性を有しつつ、かつ、発光素子の輝度が最適に抑えられて、その長寿命化が図られた、高画質・長寿命の露光ヘッドが実現できるという効果を奏する。
【0019】
また、発光領域の形状を略楕円又は五角形以上の多角形とすることで、発光領域における端(周囲)の輝度が低下する部分の割合を小さくすることができ、四角形の発光領域と比べ、同一発光面積から得られる総光量が多く取れ、その分、発光領域における最大の輝度を低くできて、発光素子の寿命を延ばすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の実施の第1の形態は、列を成して並ぶ複数の発光素子を含んで構成される発光素子アレイにおいて、前記発光素子が、基板面上に設けられた下部電極、発光層を含む有機多層膜、及び対向電極を含んでなる発光領域を有し、また、前記基板面に対しパターン化されて前記下部電極と前記対向電極との間に設けられ、前記下部電極の一部を覆ってこの部分における当該発光素子の発光を規制する層間絶縁層を含み備え、前記発光領域は、その幅が、前記発光素子が並ぶ方向において、前記層間絶縁層の膜厚の2.5倍以上で、かつ、当該発光素子の配列ピッチの83%以下であることを特徴とするものである。
【0021】
この構成によって、発光領域の幅を、発光素子が並ぶ方向において、層間絶縁層の膜厚の2.5倍以上であり、かつ、発光素子の配列ピッチの83%以下とすることで、略均一な発光領域内輝度分布を有する有機EL発光素子を含んで構成される発光素子アレイを用い、露光性能において、発光素子の配列ピッチに応じた高解像性を有しつつ、かつ、発光素子の輝度が最適に抑えられて、その長寿命化が図られた、高画質・長寿命の露光ヘッドが実現できる。
【0022】
本発明の実施の第2の形態は、列を成して並ぶ複数の発光素子を含んで構成される発光素子アレイにおいて、前記発光素子が、基板面上に設けられた下部電極、発光層を含む有機多層膜、及び対向電極を含んでなる発光領域を有し、また、前記基板面に対しパターン化されて前記下部電極と前記対向電極との間に設けられ、前記下部電極の一部を覆ってこの部分における当該発光素子の発光を規制する層間絶縁層を含み備え、その少なくとも一部が前記層間絶縁層により規制されて形成された前記発光領域は、その形状が円も含めた略楕円又は五角形以上の多角形であることを特徴とするものである。
【0023】
この構成によって、発光領域の形状を略楕円又は五角形以上の多角形とすることで、発光領域における端(周囲)の輝度が低下する部分の割合を小さくすることができ、四角形の発光領域と比べ、同一発光面積から得られる総光量が多く取れ、その分、発光領域における最大の輝度を低くできて、発光素子の寿命を延ばすことができる。
【0024】
本発明の実施の第3の形態は、実施の第1又は第2の形態における発光素子アレイと、前記発光素子アレイを構成する各発光素子が発する光を集光して感光体面上へ導く集光レンズとを備えることを特徴とする露光装置である。
【0025】
この構成によって、実施の第1又は第2の形態における発光素子アレイと、集光レンズとを含み備えることで、露光性能において高解像性を有しつつ、かつ、長寿命化が図られた有機EL素子を含んで構成される発光素子アレイを用いた露光装置が実現できる。
【0026】
本発明の実施の第4の形態は、実施の第3の形態の露光装置を具備したことを特徴とする画像形成装置である。
【0027】
この構成によって、実施の第3の形態の露光装置を備えることで、露光性能において高解像性を有しつつ、かつ、長寿命化が図られた有機発光素子アレイを用いる露光装置を備えた画像形成装置が実現できる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の実施例について図面を用いて説明する。
【0029】
(実施例1)
本発明に係るカラー画像形成装置(以下、本実施例において本装置と呼ぶ)は、4つの色材でカラーを構成し、その色材それぞれについて、同時に画像形成が行なわれるものである。図1は、本装置内部の模式断面を示す。
【0030】
図1において、本装置は、各色材での像形成体として4つの感光体1、2、3及び4と、それらの4つの感光体に跨って延在する転写ユニット5と、感光体1、2、3及び4のそれぞれの周辺に配置された、帯電装置6、7、8及び9と、解像度が600dpi(ドット/インチ)の露光装置10、11、12及び13と、現像装置14、15、16及び17と、感光体クリーニング装置18、19、20及び21とを画像形成の主要な要素として構成されている。
【0031】
そして、現像剤格納部22、23、24及び25は、それぞれ現像装置14〜17に対応する色の色材であるトナーを格納しており、それらに格納されているトナーは、形成される画像の濃度が基準の画像においてほぼ一定となるように各現像装置14〜17へ補給される。
【0032】
転写ユニット5は、ベルト状転写体26と、このベルト状転写体26を周回駆動するための駆動ローラ27と、駆動ローラ27とは反対側に位置する支持ローラ28と、画像形成時においてベルト状転写体26に張力を与えることによりベルト状転写体26の感光体1〜4と当接または対向する面を平面化させるための張力ローラ29とその他で構成されている。ベルト状転写体26は、形成された潜像がトナーで現像されたトナー画像を、いったん当該転写体の表面上に直接載せ、その後、形成画像が記録される記録用紙に転写するいわゆる中間転写体である。
【0033】
押圧ローラ30は、対向する支持ローラ28と共に記録用紙転写部31をなし、ベルト状転写体26を介して、記録用紙に押圧力を加え、ベルト状転写体26上に現像されたトナー画像を記録用紙に転写する。
【0034】
ベルトクリーニング装置32は、記録用紙に転写されずにベルト状転写体26の表面に残ったいわゆる残トナーをクリーニングするものである。
【0035】
更に、本装置には、記録用紙を格納しておくための給紙カセット33と、記録用紙を給紙カセット33から記録用紙転写部31へ供給するための、ピックアップローラ34、給紙ローラ35及びレジストローラ36等からなる給紙部37と、記録用紙の表面に転写されたトナー画像を定着させるための定着装置38とその他が設けられている。そして、給紙された記録用紙は、図中の経路39に沿って搬送される。
【0036】
次に、本装置における画像形成の動作について説明する。
【0037】
まず、第1の色材の色に対応する画像について、自転する第1の感光体1は、第1の帯電装置6によって一様に帯電された後、第1の露光装置10によって、入力される画像情報信号に従って露光され、これにより形成された静電潜像を当該第1の色材である第1のトナーで現像する。第1の感光体1面上の、静電潜像がトナーで現像され、可視化されたトナー画像(第1のトナー画像)は、周回するベルト状転写体26へ、感光体1とベルト状転写体26とが接触し又は対向する位置において転写される。
【0038】
次に、第1のトナー画像と同様に、第2の感光体2の表面に形成された第2の色材のトナー画像(第2のトナー画像)が、周回するベルト状転写体26に転写された第1のトナー画像が第2の感光体2と接する位置に至ったタイミングに合わせて、第1のトナー画像の上に重ねて転写される。
【0039】
同様に、第3、第4のトナー画像も重ねて転写されて、ベルト状転写体26上に、4色の重ね画像が形成される。このベルト状転写体26の上に形成された重ね画像は、その後、記録用紙に、記録用紙転写部30において一括転写され、定着装置38により定着されて、入力された画像情報信号に従ったカラー画像が記録用紙に記録される。
【0040】
次に、本装置における露光装置10〜13について、以下、更に詳しく説明する。
【0041】
本装置の露光装置10〜13は、発光素子として有機EL素子(単にEL素子とも呼ぶ)を用い、そして複数個の有機EL素子が、600dpiの解像度に相当する42.3μm間隔で一列に並んだ(この並ぶ方向を主走査方向と呼ぶ)有機EL素子アレイを備え、そのEL素子(発光領域)の大きさに特徴がある。
【0042】
図2は、露光装置10の一部を拡大して示す概略の斜視図である。露光装置11、12及び13も露光装置10と同一形態をとり、以下、露光装置10を代表として説明をする。
【0043】
図2において、有機EL素子アレイ40は、長尺のハウジング41中に保持されている。
【0044】
ハウジング41は、その両端に設けた位置決めピン42を装置本体に設けられた位置決め穴に挿入させると共に、ハウジング41の両端に設けたねじ挿入孔43を通してねじで装置本体に取り付けられることによって、露光装置10が装置の所定位置に固定される。
【0045】
ガラス基板44面上には、複数の有機EL素子45で構成された有機EL素子アレイ40と、それぞれのEL素子45を駆動する薄膜トランジスタ(TFT)(後述する図3に図示)とが形成されている。
【0046】
ロッドレンズ(登録商標)アレイ46は、集光レンズとして屈折率分布型のロッドレンズ47を俵積みして主走査方向に並べたもので、発光領域45の前面上方置かれて、発光される光に対して結像光学系を構成している。
【0047】
図3は、図2に示した有機EL素子アレイ40内の1つのEL素子45近傍の構成を示す、主走査方向に直角な面における断面図である。なお、有機EL素子アレイ40の主走査方向における断面も、1つのEL素子45について、後述するTFT48の部分を除き図3と同様である。
【0048】
ガラス基板44は、例えば0.5mmのガラス基板である。
【0049】
TFT48は、ガラス基板44上に形成された厚さ50nmのポリシリコンからなり、EL素子45毎に設けられて、EL素子45の発光を駆動・制御する。
【0050】
絶縁膜49は、厚さ100nm程度のSiOからなり、ガラス基板44及びコンタクトホールを除くTFT48の上に形成されている。
【0051】
下部電極である陽極50は、厚さ150nmのITO(Indium Tin Oxide)からなり、絶縁膜49の上で、EL素子45が形成される位置に、かつ、コンタクトホールを介してTFT48に接続するように形成されている。
【0052】
第二の絶縁膜51は、厚さ120nm程度のSiOからなり、発光素子(発光領域)45となる位置以外の所に形成されている。
【0053】
層間絶縁膜(バンク)52は、2μmのポリイミドからなり、パターンニングにより発光素子(発光領域)45となる部分に穴53をなして、第二の絶縁膜51の上に形成されている。
【0054】
そして、バンク52で囲まれた穴53の中には、陽極50側から順に、厚さ50nmの正孔注入層54と、厚さ50nmの発光層55とが成膜され、さらに、その発光層55の上面及び穴53の周囲内面も含めたバンク52の外面を覆うように、対向電極として、厚さ100nmのCaからなる陰極第一層56と、厚さ200nmのAlからなる陰極第二層57とが順に成膜されている。ここで、発光層55に用いる材料、及び、正孔注入層54に用いる材料には、例えば、特開平10−12377号、特開2000−323276等で公知の種々のものが利用できる。このような材料によって、EL素子45をガラス基板44上に容易に作製することができ、製造コストを抑えることもできる。
【0055】
さらに、これらの上に、窒素ガス等の不活性ガス58が封入され、厚さ1mm程度のカバーガラス59でカバーされて有機EL素子アレイ40が構成されている。
【0056】
以上のように構成された、バンク52で囲まれた穴53の中で、陽極50、発光層55、陰極第一層56、陰極第二層57等からなる部分が、発光領域45となる。そして、発光領域45は、光をTFTガラス基板44側へ向けて発する。
【0057】
このような構成において、有機EL素子45は、バンク52の穴53の中が発光領域となっており、その周囲が、厚さ2μmのポリイミドからなるバンク52によって形成され、その発光領域の外での発光が規制されている。ここで、厚さ2μmのポリイミドのバンク52に穴53を設けるパターンニングでは、穴53は、5μmが、実際に形成できる大きさのほぼ最小限界であり、EL素子(発光領域)の幅をバンク52の厚みの2.5倍(厚さ2μmのポリイミドでは5μm)より大きくすることで、形成が容易にできる。
【0058】
以上のような構成において、次に、露光装置の光学的特性について述べる。
【0059】
露光光源の潜像形成能力を評価する光学的な一つの指標としてMTF(modulation transfer function)がある。MTFは、複数の発光素子(発光領域)が列をなして並ぶ発光素子アレイにおいては、発光している素子(発光領域)と消灯している素子(発光領域)とが交互に並ぶ状態において得られる光量分布の明部と暗部のコントラストとして定義される。
【0060】
図4は、複数のEL素子(発光領域)45(45a、45b、45c、45d及び45e)からなる有機EL素子アレイ40と、この有機EL素子アレイ40が発する光のロッドレンズアレイ46透過後の光量分布との関係を示すものである。
【0061】
図4の(a)において、有機EL素子アレイ40は、主走査方向に、幅がMの有機EL素子(発光領域)45が、配列ピッチP(本実施例では600dpiに相当する42.3μm)で配置されている。そして、同図(b)は、その有機EL素子アレイ40においてEL素子(発光領域)45を1つおきに光らせた(45b及び45dが発光。45a、45c及び45eが消灯)ときのロッドレンズアレイ透過後の光量分布を示す。
【0062】
前述したように、MTFは、図4に示すような、有機EL素子アレイ40の発光状態が、発光しているEL素子(発光領域)と消灯しているEL素子(発光領域)とが交互に並ぶ状態において、ロッドレンズアレイ46を通して得られる光量分布の明部と暗部のコントラストに当たり、具体的には、MTFは、光量分布の最大値をImax、最小値をIminとしたとき、(Imax−Imin)×100/(Imax+Imin)[%]として算出できる。
【0063】
このように、MTFは、画像の解像性を示す指標であり、画像形成装置において、感光体上に明瞭な潜像を形成するために要求されるMTFは、前述した特許文献1においては50%以上必要であるとされているが、さらに鮮明な形成画像とするにはより高い値が望まれる。また、集光レンズであるロッドレンズアレイ46を通して得られる光量分布でのMTFは、ロッドレンズ47の焦点深度を考慮した位置範囲内において、所定の値以上でなければならない。面発光素子である有機EL素子を用い、集光レンズを使用する露光装置では、深度0.05mmの範囲においてMTFを80%以上とすることで、解像性の良好な画像が得られる。
【0064】
図5は、ロッドレンズアレイ46を通して得られる光量分布について、照射光の焦点方向の位置に対するMTFを実測した結果を示す。
【0065】
図5において、各曲線は、複数のEL素子(発光領域)45が一列に並ぶ有機EL素子アレイ40において、そのEL素子(発光領域)45の幅Mについて、ロッドレンズアレイ46を通して得られる光量分布での、焦点方向の位置に対するMTFの変化を表す。例えば、EL素子(発光領域)の幅Mが35μmの有機EL素子アレイ40では、MTFは、合焦位置で約88%で、また、合焦位置に対しておよそ−0.061mmの位置からおよそ+0.057mmまでの範囲で80%以上であり、EL素子(発光領域)の幅Mが55μmの有機EL素子アレイ40では、合焦位置で約74%で、80%以上のMTFが得られない。
【0066】
このように、EL素子(発光領域)45の幅Mが狭くなるに応じて、MTFはより高くなり、また、所定値以上のMTFとなる深度が広がる。
【0067】
(表1)は、図5に示される内容をもとに、ロッドレンズアレイ46を通して得られる光量分布で、有機EL素子アレイ40におけるEL素子(発光領域)45の幅Mに対し、MTFが80%以上となる深度を示したものである。
【0068】
【表1】

【0069】
(表1)に示されるとおり、EL素子(発光領域)45の主走査方向における幅Mが35μmでは、MTFが80%以上となる深度を±0.057mm確保できている。このことから、EL素子(発光領域)45の主走査方向における幅Mを、EL素子45の配列ピッチP(本装置では600dpiに相当する42.3μm)の83%(Pが42.3μmでは35μm)とすることで、±0.057mmの深度においてMTFを80%以上とすることができ、高い解像性を得つつ、素子の寿命の観点から、EL素子45の発光領域を最大限に広く取ることができる。
【0070】
そして、前述したように厚さ2μmのポリイミドに対して幅35μmの穴の形成は可能で容易でもあるので、本装置ではEL素子(発光領域)45の主走査方向における幅Mを35μmとし、画像形成装置における露光装置として必要な深度において、感光体表面上に高解像度で鮮明な潜像が形成できるMTFを取りつつ、素子の長寿命化を図っている。
【0071】
以上述べたように、有機EL素子アレイにおけるEL素子(発光領域)の主走査方向での幅Mを、バンク52の厚さの2.5倍以上で、かつ、EL素子(発光領域)の配列ピッチPの83%以下とすることにより、画像形成装置における露光装置として、発光素子(発光領域)の形成が可能であり、必要な焦点深度を取ると共に、感光体表面上に高解像度で鮮明な潜像が形成できるMTFも取ることができて、高い画像品質が得られつつ、発光素子(発光領域)の大きさを、発光素子の最大輝度が低く抑えられるものとして、その発光素子の長寿命化を図ることができる。
【0072】
なお、ベルト状転写体26は、その代わりに、例えば、用紙をベルト上に吸着してその用紙上にトナー画像を載せるいわゆる転写紙搬送体であってもよい。
【0073】
また、露光装置の解像度は、本実施例では600dpiとしたが、5000dpi程度まであればどのような解像度であってもよい。
【0074】
また、発光領域45は、本実施例では、その少なくとも一部が層間絶縁層52により規制されて形成されたものとしたが、必ずしも層間絶縁層52によって形成されている必要はなく、どのようなものによって形成されていても構わない。
【0075】
また、有機EL素子アレイ40は、EL素子アレイ(発光領域)45が、本実施例では、一方向(主走査方向)にのみ列をなして並ぶものとしたが、2次元の列をなして並ぶものであってもよい。この場合、各列の方向について、EL素子(発光領域)の幅を、バンク材料の厚さの2.5倍以上で、かつ、EL素子(発光領域)の配列ピッチの83%以下とすることにより、本実施例と同様の効果が得られる。
(実施例2)
本実施例のカラー画像形成装置(以下、本実施例において本装置と呼ぶ)は、露光装置における有機EL素子アレイのEL素子(発光領域)の形状に特徴があるもので、その他については実施例1と同じ構成である。そこで、本実施例においても、以下、図1〜3も用いて説明する。
【0076】
図6は、有機EL素子アレイにおける1つのEL素子(発光領域)を示す上面図で、(a)は本実施例のもの、(b)は本装置において代替できるものの例であり、(c)は比較のために示す一般的なものである。
【0077】
本実施例では、EL素子(発光領域)45は、図6(a)に示すような略楕円としている。図6(a)において、EL素子(発光領域)45は、その周囲で輝度が低下して、輝度低下部分61が存在する。これは、図3において、穴53をなして、その中を発光領域とし、その発光領域の外での発光を規制するバンク52による影響で、発光層55の膜厚が周囲で不均一に厚く分布していることによるものである。
【0078】
EL素子(発光領域)45の形状を楕円又は円とすることで、図6(c)に示すような一般的な四角形と比べて、EL素子(発光領域)45の面積を同じとしたとき、EL素子(発光領域)45の周囲に存在する輝度低下部分61の面積を狭くすることができ、その分、EL素子(発光領域)45において輝度低下のない部分の面積を広くできる。これゆえ、面発光のEL素子では露光に必要な光量を得るための発光領域内輝度分布における最大輝度を抑えて、EL素子の長寿命化を図ることができる。
【0079】
なお、EL素子(発光領域)45は、図6(b)に示すような五角形以上の多角形としても、図6(c)に示す一般的な四角形の場合に比べて、上述の効果が同様にある程度得られる。
【0080】
また、EL素子(発光領域)45を円も含めた略楕円又は五角形以上の多角形にすると共に、実施例1にて述べたように有機EL素子アレイにおけるEL素子(発光領域)の幅を、バンク材料の厚さの2.5倍以上で、かつ、EL素子(発光領域)の配列ピッチの83%以下とすることで、発光素子(発光領域)の配列ピッチを所望の高い画像解像度が取れるものにできて高い画像品質が得られと共に、発光素子(発光領域)の大きさ及び形状を、発光素子の最大輝度が低く抑えられるものとして、その発光素子の長寿命化をより効果的に図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
有機EL素子アレイを用いた本発明に係る露光装置及び画像形成装置は、例えば、ビジネス又はSOHO市場向けのプリンタ、複写機、ファクシミリ装置、及び小ロット印刷市場向けの小型オンデマンド印刷機等への利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明に係る実施例1及び実施例2のカラー画像形成装置の概略構成断面図
【図2】本発明に係る実施例1及び実施例2における露光装置の斜視図
【図3】本発明に係る実施例1及び実施例2における有機EL素子の構成断面図
【図4】(a)は本発明に係る実施例1のものも含む有機EL素子アレイの上面模式図、(b)は同有機EL素子アレイの発光光量分布を説明する図
【図5】図4に示される有機EL素子アレイを用いた露光装置の照射光における焦点方向の位置とMTF(実測値)との関係を示すグラフ
【図6】(a)は本発明に係る実施例2における有機EL素子(発光領域)を示す上面図、(b)は実施例2において代替可能な有機EL素子(発光領域)を示す上面図、(c)は比較のための一般的な有機EL素子(発光領域)を示す上面図
【図7】(a)は有機EL素子の発光領域内輝度分布を示す図、(b)はLED素子の発光領域内輝度分布を示す図
【符号の説明】
【0083】
1〜4 感光体
5 転写ユニット
6〜9 帯電装置
10〜13 露光装置
14〜17 現像装置
18〜21 感光体クリーニング装置
22〜25 現像剤格納部
26 ベルト状転写体
40 有機EL素子アレイ
44 ガラス基板
45 有機EL素子(発光領域)
46 ロッドレンズアレイ
52 層間絶縁膜(バンク)
61 輝度低下部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
列を成して並ぶ複数の発光素子を含んで構成される発光素子アレイであって、
前記発光素子は、基板面上に設けられた下部電極、発光層を含む有機多層膜、及び対向電極を含んでなる発光領域を有し、
また、前記基板面に対しパターン化されて前記下部電極と前記対向電極との間に設けられ、前記下部電極の一部を覆ってこの部分における当該発光素子の発光を規制する層間絶縁層を含み備え、
前記発光領域は、その幅が、前記発光素子が並ぶ方向において、前記層間絶縁層の膜厚の2.5倍以上で、かつ、当該発光素子の配列ピッチの83%以下であることを特徴とする発光素子アレイ。
【請求項2】
列を成して並ぶ複数の発光素子を含んで構成される発光素子アレイであって、
前記発光素子は、基板面上に設けられた下部電極、発光層を含む有機多層膜、及び対向電極を含んでなる発光領域を有し、
また、前記基板面に対しパターン化されて前記下部電極と前記対向電極との間に設けられ、前記下部電極の一部を覆ってこの部分における当該発光素子の発光を規制する層間絶縁層を含み備え、
その少なくとも一部が前記層間絶縁層により規制されて形成された前記発光領域は、その形状が円も含めた略楕円又は五角形以上の多角形であることを特徴とする発光素子アレイ。
【請求項3】
請求項1又は2記載の発光素子アレイと、前記発光素子アレイを構成する各発光素子が発する光を集光して感光体面上へ導く集光レンズとを備えることを特徴とする露光装置。
【請求項4】
請求項3記載の露光装置を具備したことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−334920(P2006−334920A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−162282(P2005−162282)
【出願日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】