説明

発光素子材料および発光素子

【課題】高発光効率かつ耐久性に優れた発光素子を提供すること。
【解決手段】陽極と陰極との間に少なくとも発光層が存在し、電気エネルギーにより発光する素子であって、該素子は特定の構造を有するピレン化合物と、蛍光ピーク波長が500nm以上680nm以下の有機蛍光物質を含むことを特徴とする発光素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光色素や電荷輸送剤として有用なピレン化合物およびこれを用いた発光素子であって、表示素子、フラットパネルディスプレイ、バックライト、照明、インテリア、標識、看板、電子写真機および光信号発生器などの分野に利用可能な発光素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
陰極から注入された電子と陽極から注入された正孔が両極に挟まれた有機発光体内で再結合する際に発光するという有機薄膜発光素子の研究が、近年活発に行われている。この発光素子は、薄型でかつ低駆動電圧下での高輝度発光と、発光材料を選ぶことによる多色発光が特徴であり、注目を集めている。
【0003】
この研究は、コダック社のC.W.Tangらによって有機薄膜発光素子が高輝度に発光することが示されて以来、多くの研究機関が検討を行っている。コダック社の研究グループが提示した有機薄膜発光素子の代表的な構成は、ITOガラス基板上に正孔輸送性のジアミン化合物、発光層であるトリス(8−キノリノラート)アルミニウム(III)、そして陰極としてMg:Agを順次設けたものであり、10V程度の駆動電圧で1,000cd/mの緑色発光が可能であった(非特許文献1参照)。
【0004】
また、有機薄膜発光素子は、発光層に種々の蛍光材料を用いることにより、多様な発光色を得ることが可能であることから、ディスプレイなどへの実用化研究が盛んである。特に赤色、緑色、青色の三原色の発光材料の研究が最も活発であり、特性向上を目指して鋭意研究がなされている。
【0005】
有機薄膜発光素子における最大の課題の一つは、素子の耐久性と発光効率の向上である。高効率な発光素子を得る手段としては、ホスト材料にドーパント材料(蛍光材料)を数%ドーピングすることにより発光層を形成する方法が知られている。(特許文献1参照)ホスト材料には高いキャリア移動度、均一な成膜性などが要求され、ドーパント材料には高い蛍光量子収率、均一な分散性などが要求される。例えば、青色材料としては、スチリルアミン誘導体(特許文献2参照)やペリレン誘導体(特許文献3参照)、ピレン化合物を用いる技術が開示されている(特許文献4〜6参照)。緑色材料としては、スチルベン系化合物(特許文献7参照)、キノリン誘導体とキナクリドン化合物(特許文献8参照)、赤色材料としては、アミノスチリル化合物(特許文献9参照)、ジケトピロロピロール誘導体とピロメテン化合物(特許文献10参照)、クマリン化合物とジシアノメチレンピラン化合物(特許文献11参照)などがあるが、充分な発光効率と耐久性を示すものは無かった。上記に限らず、発光材料を形成するホスト材料、ドーパント材料はそれぞれ数多くあり、これらを組み合わせるとその数は膨大になる。また一般的にはホスト材料からドーパント材料へのエネルギー移動のし易さの指針としては、ホスト材料の蛍光スペクトルおよびドーパント材料の吸収スペクトルの重なり度合いや分子間距離などが知られている(非特許文献2参照)が、全ての発光メカニズムが解明されているものでは無く、試行錯誤的な部分が多い。すなわちより良好な発光特性を有する発光素子を得るためには、新規なホスト材料、ドーパント材料の発見だけではなく、最適なホスト材料とドーパント材料の組み合わせを発見することが非常に重要になる。
【非特許文献1】アプライド フィジクス レターズ(Applied Physics Letters)(米国)1987年,51巻,12号,p.913−915
【特許文献1】特許第2814435号公報
【特許文献2】特開平5−17765号公報
【特許文献3】特開2003−86380号公報
【特許文献4】特開2001−118682号公報
【特許文献5】特開2004−75567号公報
【特許文献6】特開2002−63988号公報
【特許文献7】特開平2−247278号公報
【特許文献8】特開平3−255190号公報
【特許文献9】特開2002−134276号公報
【特許文献10】特開2003−86379号公報
【特許文献11】特開平5−202356号公報
【非特許文献2】“有機EL素子とその工業化最前線”、エヌ・ティー・エス、1998年、p.66
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ホスト材料とドーパント材料の組み合わせの最適化を行い、高発光効率かつ耐久性に優れた発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、陽極と陰極との間に少なくとも発光層が存在し、電気エネルギーにより発光する素子であって、該素子の発光層は一般式(1)で表されるピレン化合物と蛍光ピーク波長が500nm以上680nm以下の有機蛍光物質を含むことを特徴とする発光素子である。
【0008】
【化1】

【0009】
(R〜R15はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、アミノ基、シリル基、−P(=O)(−R16)(−R17)、並びに隣接置換基との間に形成される環構造の中から選ばれる。R16およびR17はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、アリール基、ヘテロアリール基の中から選ばれる。R〜R10のうちいずれかn個は二環式ベンゾへテロ環との連結に使われる。nは1〜4の整数である。Xは酸素原子、硫黄原子、−NR18−の中から選ばれる。R18は水素、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アリール基、ヘテロアリール基の中から選ばれる。R18はR15と結合し環を形成していてもよい。)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば高発光効率かつ耐久性に優れた発光素子が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の発光素子は、少なくとも陽極と陰極、およびそれら陽極と陰極の間に介在する発光素子材料からなる有機層とで構成されている。
【0012】
本発明で用いられる陽極は、正孔を有機層に効率よく注入できる材料であれば特に限定されないが、比較的仕事関数の大きい材料を用いるのが好ましく、例えば、酸化錫、酸化インジウム、酸化亜鉛インジウム、酸化錫インジウム(ITO)などの導電性金属酸化物、あるいは金、銀、クロムなどの金属、ヨウ化銅、硫化銅などの無機導電性物質、ポリチオフェン、ポリピロールおよびポリアニリンなどの導電性ポリマーなどが挙げられる。これらの電極材料は、単独で用いてもよいが、複数の材料を積層または混合して用いてもよい。
【0013】
電極の抵抗は、発光素子の発光に十分な電流が供給できればよく、発光素子の消費電力の観点からは低抵抗であることが望ましい。例えば、300Ω/□以下のITO基板であれば素子電極として機能するが、現在では10Ω/□程度の基板の供給も可能になっていることから、100Ω/□以下の低抵抗品を使用することが特に望ましい。ITOの厚みは抵抗値に合わせて任意に選ぶ事ができるが、通常100〜300nmの間で用いられることが多い。
【0014】
また、発光素子の機械的強度を保つために、発光素子を基板上に形成することが好ましい。基板としては、ソーダガラスや無アルカリガラスなどのガラス基板が好適に用いられる。ガラス基板の厚みは、機械的強度を保つのに十分な厚みがあればよいので、0.5mm以上あれば十分である。ガラスの材質については、ガラスからの溶出イオンが少ない方がよいので無アルカリガラスの方が好ましいが、SiOなどのバリアコートを施したソーダライムガラスも市販されているのでこれを使用することもできる。さらに、陽極が安定に機能するのであれば、基板はガラスである必要はなく、例えば、プラスチック基板上に陽極を形成しても良い。ITO膜形成方法は、電子線ビーム法、スパッタリング法および化学反応法など特に制限を受けるものではない。
【0015】
本発明で用いられる陰極に用いられる材料としては、電子を有機層に効率良く注入できる物質であれば特に限定されないが、一般に白金、金、銀、銅、鉄、錫、亜鉛、アルミニウム、インジウム、クロム、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、カルシウム、マグネシウムおよびこれらの合金などが挙げられる。電子注入効率をあげて素子特性を向上させるためには、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、カルシウム、マグネシウムまたはこれら低仕事関数金属を含む合金が有効である。しかしながら、これらの低仕事関数金属は、一般に大気中で不安定であることが多く、例えば、有機層に微量のリチウムやマグネシウム(真空蒸着の膜厚計表示で1nm以下)をドーピングして安定性の高い電極を使用する方法が好ましい例として挙げることができる。また、フッ化リチウムのような無機塩の使用も可能である。更に、電極保護のために白金、金、銀、銅、鉄、錫、アルミニウムおよびインジウムなどの金属、またはこれら金属を用いた合金、そしてシリカ、チタニアおよび窒化ケイ素などの無機物、ポリビニルアルコール、塩化ビニル、炭化水素系高分子化合物などを積層することが、好ましい例として挙げられる。これらの電極の作製法は、抵抗加熱、電子線ビーム、スパッタリング、イオンプレーティングおよびコーティングなど、導通を取ることができれば特に制限されない。
【0016】
本発明の発光素子を構成する有機層は、発光素子材料からなる少なくとも発光層から構成される。有機層の構成例としては、発光層のみからなる構成の他に、1)正孔輸送層/発光層/電子輸送層および、2)発光層/電子輸送層、3)正孔輸送層/発光層などの積層構成が挙げられる。また、上記各層は、それぞれ単一層からなってもよいし、複数層からなってもよい。正孔輸送層および電子輸送層が複数層からなる場合、電極に接する側の層をそれぞれ正孔注入層および電子注入層と呼ぶことがあるが、以下の説明では正孔注入材料は正孔輸送材料に、電子注入材料は電子輸送材料にそれぞれ含まれる。
【0017】
正孔輸送層は、正孔輸送材料の一種または二種以上を積層、混合するか、正孔輸送材料と高分子結着剤の混合物により形成される。正孔輸送材料としては、例えば、4,4’−ビス(N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ)ビフェニル、4,4’−ビス(N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ)ビフェニル、4,4’,4”−トリス(3−メチルフェニル(フェニル)アミノ)トリフェニルアミンなどのトリフェニルアミン誘導体、ビス(N−アリルカルバゾール)またはビス(N−アルキルカルバゾール)などのビスカルバゾール誘導体、ピラゾリン誘導体、スチルベン系化合物、ヒドラゾン系化合物、ベンゾフラン誘導体やチオフェン誘導体、オキサジアゾール誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体などの複素環化合物、ポリマー系では前記単量体を側鎖に有するポリカーボネートやスチレン誘導体、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリフルオレン、ポリビニルカルバゾールおよびポリシランなどが好ましいが、発光素子の作製に必要な薄膜を形成し、陽極から正孔が注入できて、さらに正孔を輸送できる化合物であれば特に限定されるものではない。
【0018】
本発明において、発光層は単一層でも複数層からなってもどちらでもよく、それぞれ発光材料(ホスト材料、ドーパント材料)により形成され、これはホスト材料とドーパント材料との混合物であっても、ホスト材料単独であっても、いずれでもよい。すなわち、本発明の発光素子では、各発光層において、ホスト材料もしくはドーパント材料のみが発光してもよいし、ホスト材料とドーパント材料がともに発光してもよい。ホスト材料とドーパント材料は、それぞれ一種類であっても、複数の組み合わせであっても、いずれでもよい。ドーパント材料はホスト材料の全体に含まれていても、部分的に含まれていても、いずれでもよい。ドーパント材料は積層されていても、分散されていても、いずれでもよい。ドーパント材料の量は、多すぎると濃度消光現象が起きるため、ホスト材料に対して20重量%以下で用いることが好ましく、さらに好ましくは10重量%以下である。ドーピング方法としては、ホスト材料との共蒸着法によって形成することができるが、ホスト材料と予め混合してから同時に蒸着してもよい。
【0019】
本発明において、発光層は一般式(1)で表されるピレン化合物と蛍光ピーク波長が500nm以上680nm以下の有機蛍光物質を含有する。一般式(1)で表されるピレン化合物はドーパント材料としても用いることができるが、ピレン化合物の高いキャリア移動特性を考慮するとホスト材料として用いることが好ましい。また、蛍光ピーク波長が500nm以上680nm以下の有機蛍光物質はドーパント材料として用いることが好ましい。ここで、蛍光ピーク波長とはジクロロメタン溶液状態における値とする。蛍光ピーク波長が680nmより大きいと視感度が悪くなり、高効率赤色発光が得られにくくなる。
【0020】
発光材料に含有されるホスト材料としては、前記ピレン化合物一種のみに限る必要はなく、複数のピレン化合物を混合して用いたり既知のホスト材料の一種類以上をピレン化合物と混合して用いてもよい。具体的にはアントラセンなどの縮合アリール環を有する化合物やその誘導体、4,4’−ビス(N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ)ビフェニルなどの芳香族アミン誘導体、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム(III)をはじめとする金属キレート化オキシノイド化合物、ジスチリルベンゼン誘導体などのビススチリル誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、インデン誘導体、クマリン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピロロピリジン誘導体、ペリノン誘導体、シクロペンタジエン誘導体、オキサジアゾール誘導体、カルバゾール誘導体、ピロロピロール誘導体、ポリマー系では、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体そして、ポリチオフェン誘導体が好適に用いられる。
【0021】
本発明で用いる発光層が有する一般式(1)で表されるピレン化合物は、以下に示す構造を有する。
【0022】
【化2】

【0023】
〜R15はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、アミノ基、シリル基、−P(=O)(−R16)(−R17)、並びに隣接置換基との間に形成される環構造の中から選ばれる。R16およびR17はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、アリール基、ヘテロアリール基の中から選ばれる。R〜R10のうちいずれかn個は二環式ベンゾへテロ環との連結に使われる。nは1〜4の整数である。Xは酸素原子、硫黄原子、−NR18−の中から選ばれる。R18は水素、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アリール基、ヘテロアリール基の中から選ばれる。R18はR15と結合し環を形成していてもよい。
【0024】
これらの置換基のうち、アルキル基とは、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などの飽和脂肪族炭化水素基を示し、これは無置換でも置換されていてもかまわない。置換されている場合の置換基には特に制限は無く、例えば、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基等を挙げることができ、この点は、以下の記載にも共通する。また、アルキル基の炭素数は特に限定されないが、入手の容易性やコストの点から、通常、1〜20の範囲である。
【0025】
また、シクロアルキル基とは、例えば、シクロプロピル、シクロヘキシル、ノルボルニル、アダマンチルなどの飽和脂環式炭化水素基を示し、これは無置換でも置換されていてもかまわない。アルキル基部分の炭素数は特に限定されないが、通常、3〜20の範囲である。
【0026】
また、複素環基とは、例えば、ピラン環、ピペリジン環、環状アミドなどの炭素以外の原子を環内に有する脂肪族環からなる基を示し、これは無置換でも置換されていてもかまわない。複素環基の炭素数は特に限定されないが、通常、2〜20の範囲である。
【0027】
また、アルケニル基とは、例えば、ビニル基、アリル基、ブタジエニル基などの二重結合を含む不飽和脂肪族炭化水素基を示し、これは無置換でも置換されていてもかまわない。アルケニル基の炭素数は特に限定されないが、通常、2〜20の範囲である。
【0028】
また、シクロアルケニル基とは、例えば、シクロペンテニル基、シクロペンタジエニル基、シクロヘキセニル基などの二重結合を含む不飽和脂環式炭化水素基を示し、これは無置換でも置換されていてもかまわない。
【0029】
また、アルキニル基とは、例えば、エチニル基などの三重結合を含む不飽和脂肪族炭化水素基を示し、これは無置換でも置換されていてもかまわない。アルキニル基の炭素数は特に限定されないが、通常、2〜20の範囲である。
【0030】
また、アルコキシ基とは、例えば、メトキシ基などのエーテル結合を介した脂肪族炭化水素基を示し、脂肪族炭化水素基は無置換でも置換されていてもかまわない。アルコキシ基の炭素数は特に限定されないが、通常、1〜20の範囲である。
【0031】
また、アルキルチオ基とは、アルコキシ基のエーテル結合の酸素原子が硫黄原子に置換されたものである。
【0032】
また、アリールエーテル基とは、例えば、フェノキシ基などのエーテル結合を介した芳香族炭化水素基を示し、芳香族炭化水素基は無置換でも置換されていてもかまわない。アリールエーテル基の炭素数は特に限定されないが、通常、6〜40の範囲である。
【0033】
また、アリールチオエーテル基とは、アリールエーテル基のエーテル結合の酸素原子が硫黄原子に置換されたものである。
【0034】
また、アリール基とは、例えば、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、フェナントリル基、ターフェニル基、ピレニル基などの芳香族炭化水素基を示す。アリール基は、無置換でも置換されていてもかまわない。アリール基の炭素数は特に限定されないが、通常、6〜40の範囲である。
【0035】
また、ヘテロアリール基とは、例えば、フラニル基、チオフェニル基、オキサゾリル基、ピリジル基、キノリニル基などの炭素以外の原子を環内に有する芳香族基を示し、これは無置換でも置換されていてもかまわない。ヘテロアリール基の炭素数は特に限定されないが、通常、2〜30の範囲である。
【0036】
アミノ基とは、無置換でも置換されていてもよく、置換基としては例えばアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基などが挙げられ、これら置換基はさらに置換されていてもかまわない。
【0037】
シリル基とは、例えば、トリメチルシリル基などのケイ素原子への結合を有する官能基を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。シリル基の炭素数は特に限定されないが、通常、3〜20の範囲である。また、ケイ素数は、通常、1〜6の範囲である。
【0038】
隣接基との間に形成される環構造とは、前記一般式(1)で説明すると、R〜R10の中から選ばれる任意の隣接2置換基(例えばRとR)が互いに結合して共役または非供役の縮合環を形成するものである。これら縮合環は環内構造に窒素、酸素、硫黄原子を含んでいてもよいし、さらに別の環と縮合していてもよいが、これら縮合環を構成する原子が炭素原子と水素原子のみであると、優れた耐熱性が得られるため好ましい。
【0039】
一般式(1)で表されるピレン化合物は、分子中にピレン骨格と、二環式ベンゾヘテロ環(ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、インドール環)を1〜4個有している。これにより高いキャリア移動度と耐熱性を両立することが可能となり、素子の発光効率を向上させると共に耐久性を向上させることができる。また、このピレン化合物は薄膜状態で500nm以上の蛍光ピーク波長を有することから、青緑〜赤色領域(500〜680nm領域)におけるホスト材料として好適に用いることができる。
【0040】
ここで、R〜R10のうちいずれかn個は二環式ベンゾヘテロ環との連結に使われるが、原料の入手性や合成の容易さから、R、R、R、Rのうち少なくとも1つが二環式ベンゾヘテロ環との連結に用いられることが好ましい。また、安定な薄膜形成の観点から、RからR10のうち少なくとも1つがアリール基またはヘテロアリール基であると、ピレン化合物同士の会合が抑制されるため、好ましい。また、一般式(1)のXが酸素原子であると、より高い発光効率が得られるため好ましい。
【0041】
一般式(1)で表されるピレン化合物の合成には、公知の方法を使用することができる。ピレン骨格に二環式ベンゾヘテロ環を導入する方法は、例えば、ハロゲン化ピレン誘導体と二環式ベンゾヘテロ環金属試薬によるパラジウムやニッケル触媒下でのカップリング反応を用いる方法やハロゲン化二環式ベンゾヘテロ環とピレン誘導体ボロン酸とのパラジウムやニッケル触媒下でのカップリング反応を用いる方法などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0042】
上記一般式(1)に表される二環式ベンゾヘテロ環を含む基を有するピレン化合物としては、具体的に以下を例示することができる。
【0043】
【化3】

【0044】
【化4】

【0045】
【化5】

【0046】
【化6】

【0047】
本発明で用いられる蛍光ピーク波長が500nm以上680nm以下の有機蛍光物質としては、ナフタセン、ルブレン、ペリレン、テリレンなどの縮合芳香環を有する化合物やその誘導体、チオフェン、イミダゾピリジン、ピラジン、ナフチリジン、キノキサリン、ピロロピリジン、チオキサンテン、ピリジノチアジアゾール、ピラゾロピリジンなどのヘテロアリール環を有する化合物やその誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、アミノスチリル誘導体、アルダジン誘導体、ジケトピロロ[3,4−c]ピロール誘導体、2,3,5,6−1H,4H−テトラヒドロ−9−(2’−ベンゾチアゾリル)キノリジノ[9,9a、1−gh]クマリンなどのクマリン誘導体、イミダゾール、チアゾール、チアジアゾール、カルバゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、トリアゾールなどのアゾール誘導体およびその金属錯体、芳香族アミン誘導体、ビス(ジイソプロピルフェニル)ペリレンテトラカルボン酸イミドなどのナフタルイミド誘導体、ペリノン誘導体、アセチルアセトンやベンゾイルアセトンとフェナントロリンなどを配位子とするEu錯体などの希土類錯体、4−(ジシアノメチレン)−2−メチル−6−(p−ジメチルアミノスチリル)−4H−ピランなどのピラン誘導体、マグネシウムフタロシアニン、アルミニウムクロロフタロシアニンなどの金属フタロシアニン誘導体、亜鉛ポルフィリンなどの金属ポルフィリン誘導体、ローダミン化合物、デアザフラビン誘導体、オキサジン化合物、フェノキサジン誘導体、フェノキサゾン誘導体、キナクリドン誘導体、ジシアノエテニルアレーン誘導体などを用いることができるが、溶液状態で高い蛍光量子収率を有するものが、高効率発光を得る点から好ましく用いられる。また、一般式(1)で表されるピレン化合物と組み合わせる場合、エネルギー移動効率の観点から、蛍光ピーク波長が500nm以上650nm以下がより好ましい。
【0048】
有機蛍光物質の中でも、一般式(2)で表されるピロメテン骨格を有する化合物が蛍光量子収率が高く蛍光スペクトルの半値幅が狭いことから、高効率・高色純度発光が得られる。
【0049】
【化7】

【0050】
19〜R25はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、シアノ基、アミノ基、シリル基、−P(=O)(−R28)(−R29)、並びに隣接置換基との間に形成される環構造の中から選ばれる。R28およびR29はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、アリール基、ヘテロアリール基の中から選ばれる。R26およびR27は同じでも異なっていてもよく、ハロゲン、水素、アルキル、アリール、複素環基から選ばれる。Yは炭素原子または窒素原子であるが、窒素原子の場合には上記R25は存在しない。なおこれらの置換基の説明は上述したものと同じである。
【0051】
上記ピロメテン骨格を有する化合物は、本発明におけるピレン化合物との相性に優れることから、ホスト材料とドーパント材料間のエネルギー移動が効率的に起こる。このため高発光効率と高い耐久性を兼ね備えた発光素子を得ることが可能となる。
【0052】
上記のような一般式(2)で表されるピロメテン金属錯体としては、以下の具体例を挙げることができる。
【0053】
【化8】

【0054】
【化9】

【0055】
【化10】

【0056】
また、一般式(3)で表される有機蛍光物質でも蛍光量子収率が高く蛍光スペクトルの半値幅が狭いことから、高効率・高色純度発光が得られる。
【0057】
【化11】

【0058】
30〜R45はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アリールエーテル基、複素環基、シアノ基、アルデヒド基、カルボニル基、エステル基、カルバモイル基、アミノ基、並びに隣接置換基との間に形成される環構造の中から選ばれる。mは1または2である。
【0059】
これらの置換基のうち、ハロゲンとはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素を示す。
【0060】
また、アラルキル基とは、例えば、ベンジル基、フェニルエチル基などの脂肪族炭化水素を介した芳香族炭化水素基を示し、脂肪族炭化水素と芳香族炭化水素はいずれも無置換でも置換されていてもかまわない。
【0061】
また、アルデヒド基、カルボニル基、エステル基、カルバモイル基には脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素、複素環などで置換されたものも含み、さらに脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素、複素環は無置換でも置換されていてもかまわない。
【0062】
その他の置換基の説明は上述したものと同様である。
【0063】
また、一般式(4)で表される有機蛍光物質でも蛍光量子収率が高く蛍光スペクトルの半値幅が狭いことから、高効率・高色純度発光が得られる。
【0064】
【化12】

【0065】
46〜R61はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アリールエーテル基、複素環基、シアノ基、アルデヒド基、カルボニル基、エステル基、カルバモイル基、アミノ基、並びに隣接置換基との間に形成される環構造の中から選ばれる。
【0066】
これらの置換基の説明は上述したものと同様である。
【0067】
上記一般式(3)または一般式(4)で表される有機蛍光物質は、本発明におけるピレン化合物との相性に優れることから、ホスト材料とドーパント材料間のエネルギー移動が効率的に起こる。このため高発光効率と高い耐久性を兼ね備えた発光素子を得ることが可能となる。
【0068】
上記のような一般式(3)で表される有機蛍光物質としては、以下の具体例を挙げることができる。
【0069】
【化13】

【0070】
また、上記のような一般式(4)で表される有機蛍光物質としては、以下の具体例を挙げることができる。
【0071】
【化14】

【0072】
一般式(2)で表される化合物の合成には公知の方法を使用することができる。ピロメテン環を形成する方法としては、例えばピロール誘導体と有機酸クロライドをオキシ塩化リンの存在下に反応させる方法が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0073】
一般式(3)で表される化合物の合成には公知の方法を使用することができる。例えばナフチルボロン酸誘導体と4,4’−ジブロモビナフチルをカップリングし、さらに塩化アルミニウム/塩化銅により縮環させることにより製造することができるが、これに限定されるものではない。
【0074】
一般式(4)で表される化合物の合成には公知の方法を使用することができる。例えば二分子のベンゾ[k]フルオランテン誘導体を三フッ化コバルトとトリフルオロ酢酸無水物の存在下でカップリングすることにより製造することができるが、これに限定されるものではない。
【0075】
発光材料に含有されるドーパント材料としては、前記有機蛍光物質一種のみに限る必要はなく、複数の有機蛍光物質を混合して用いたり、上述のドーパント材料の一種類以上を有機蛍光物質と混合して用いてもよい。
【0076】
本発明において、電子輸送層とは、陰極から電子が注入され、さらに電子を輸送する層である。電子輸送層には、電子注入効率が高く、注入された電子を効率よく輸送することが望まれる。そのため電子輸送層は、電子親和力が大きく、しかも電子移動度が大きく、さらに安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時および使用時に発生しにくい物質で構成されることが望ましい。しかしながら、正孔と電子の輸送バランスを考えた場合に、電子輸送層が陽極からの正孔が再結合せずに陰極側へ流れるのを効率よく阻止できる役割を主に果たすならば、電子輸送能力がそれ程高くない材料で構成されていても、発光効率を向上させる効果は電子輸送能力が高い材料で構成されている場合と同等となる。したがって、本発明における電子輸送層には、正孔の移動を効率よく阻止できる正孔阻止層も同義のものとして含まれる。
【0077】
電子輸送層に用いられる電子輸送材料としては、ナフタレン、アントラセンなどの縮合多環芳香族誘導体、4,4’−ビス(ジフェニルエテニル)ビフェニルに代表されるスチリル系芳香環誘導体、アントラキノンやジフェノキノンなどのキノン誘導体、リンオキサイド誘導体、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム(III)などのキノリノール錯体、ベンゾキノリノール錯体、ヒドロキシアゾール錯体、アゾメチン錯体、トロポロン金属錯体およびフラボノール金属錯体などの各種金属錯体が挙げられるが、駆動電圧を低減し、高効率発光が得られることから、炭素、水素、窒素、酸素、ケイ素、リンの中から選ばれる元素で構成され、電子受容性窒素を含むヘテロアリール環構造を有する化合物を用いることが好ましい。
【0078】
本発明における電子受容性窒素とは、隣接原子との間に多重結合を形成している窒素原子を表す。窒素原子が高い電子陰性度を有することから、該多重結合は電子受容的な性質を有する。それゆえ、電子受容性窒素を含むヘテロアリール環は、高い電子親和性を有し、電子輸送能に優れ、電子輸送層に用いることで発光素子の駆動電圧を低減できる。電子受容性窒素を含むヘテロアリール環は、例えば、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、キノリン環、キノキサリン環、ナフチリジン環、ピリミドピリミジン環、ベンゾキノリン環、フェナントロリン環、イミダゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、トリアゾール環、チアゾール環、チアジアゾール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンズイミダゾール環、フェナンスロイミダゾール環などが挙げられる。
【0079】
これらのヘテロアリール環構造を有する化合物としては、例えば、ベンズイミダゾール誘導体、ベンズオキサゾール誘導体、ベンズチアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、ピラジン誘導体、フェナントロリン誘導体、キノキサリン誘導体、キノリン誘導体、ベンゾキノリン誘導体、ビピリジンやターピリジンなどのオリゴピリジン誘導体、キノキサリン誘導体およびナフチリジン誘導体などが好ましい化合物として挙げられる。中でも、トリス(N−フェニルベンズイミダゾール−2−イル)ベンゼンなどのイミダゾール誘導体、1,3−ビス[(4−tert−ブチルフェニル)1,3,4−オキサジアゾリル]フェニレンなどのオキサジアゾール誘導体、N−ナフチル−2,5−ジフェニル−1,3,4−トリアゾールなどのトリアゾール誘導体、バソクプロインや1,3−ビス(1,10−フェナントロリン−9−イル)ベンゼンなどのフェナントロリン誘導体、2,2’−ビス(ベンゾ[h]キノリン−2−イル)−9,9’−スピロビフルオレンなどのベンゾキノリン誘導体、2,5−ビス(6’−(2’,2”−ビピリジル))−1,1−ジメチル−3,4−ジフェニルシロールなどのビピリジン誘導体、1,3−ビス(4’−(2,2’:6’2”−ターピリジニル))ベンゼンなどのターピリジン誘導体、ビス(1−ナフチル)−4−(1,8−ナフチリジン−2−イル)フェニルホスフィンオキサイドなどのナフチリジン誘導体が、電子輸送能の観点から好ましく用いられる。
【0080】
上記電子輸送材料は単独でも用いられるが、上記電子輸送材料の2種以上を混合して用いたり、その他の電子輸送材料の一種以上を上記の電子輸送材料に混合して用いても構わない。また、アルカリ金属やアルカリ土類金属などの金属と混合して用いることも可能である。電子輸送層のイオン化ポテンシャルは、特に限定されないが、好ましくは5.8eV以上8.0eV以下であり、より好ましくは6.0eV以上7.5eV以下である。
【0081】
発光素子を構成する上記各層の形成方法は、抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、スパッタリング、分子積層法、コーティング法、インクジェット法、印刷法、レーザー誘起熱転写法など特に限定されないが、通常は、素子特性の点から抵抗加熱蒸着または電子ビーム蒸着が好ましい。
【0082】
層の厚みは、発光物質の抵抗値にもよるので限定することはできないが、1〜1000nmの間から選ばれる。発光層、電子輸送層、正孔輸送層の膜厚はそれぞれ、好ましくは1nm以上200nm以下であり、さらに好ましくは5nm以上100nm以下である。
【0083】
本発明の発光素子は、電気エネルギーを光に変換できる発光素子である。ここに電気エネルギーとは主に直流電流を指すが、パルス電流や交流電流を用いることも可能である。電流値および電圧値は特に制限はないが、素子の消費電力や寿命を考慮すると、できるだけ低いエネルギーで最大の輝度が得られるようにするべきである。
【0084】
本発明の発光素子は、例えば、マトリクスおよび/またはセグメント方式で表示するディスプレイとして好適に用いられる。
【0085】
本発明におけるマトリクス方式とは、表示のための画素が格子状やモザイク状など二次元的に配置されたものをいい、画素の集合で文字や画像を表示する。画素の形状やサイズは用途によって決まる。例えば、パソコン、モニター、テレビの画像および文字表示には、通常一辺が300μm以下の四角形の画素が用いられ、また、表示パネルのような大型ディスプレイの場合は、一辺がmmオーダーの画素を用いることになる。モノクロ表示の場合は、同じ色の画素を配列すればよいが、カラー表示の場合には、赤、緑、青の画素を並べて表示させる。この場合、典型的にはデルタタイプとストライプタイプがある。そして、このマトリクスの駆動方法としては、線順次駆動方法やアクティブマトリクスのどちらでもよい。線順次駆動の方が構造が簡単であるという利点があるが、動作特性を考慮した場合、アクティブマトリクスの方が優れる場合があるので、これも用途によって使い分けることが必要である。
【0086】
本発明におけるセグメント方式(タイプ)とは、予め決められた情報を表示するようにパターンを形成し、決められた領域を発光させることになる。例えば、デジタル時計や温度計における時刻や温度表示、オーディオ機器や電磁調理器などの動作状態表示および自動車のパネル表示などが挙げられる。そして、前記マトリクス表示とセグメント表示は同じパネルの中に共存していてもよい。
【0087】
本発明の発光素子は、各種機器等のバックライトとしても好ましく用いられる。バックライトは、主に自発光しない表示装置の視認性を向上させる目的に使用され、液晶表示装置、時計、オーディオ装置、自動車パネル、表示板および標識などに使用される。特に、液晶表示装置、中でも薄型化が課題となっているパソコン用途のバックライトとしては、従来のものが蛍光灯や導光板からなっているため薄型化が困難であることを考えると、本発明における発光素子を用いたバックライトは薄型で軽量であることが特徴となる。
【実施例】
【0088】
以下、実施例をあげて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、下記の各実施例にある化合物の番号は上記に記載した化合物の番号を指すものである。
【0089】
合成例
化合物[13]の合成
1−ブロモピレン15gを四塩化炭素400mLに溶解し、窒素雰囲気下、臭素2.7mLの四塩化炭素溶液100mLを滴下し、12時間室温にて攪拌した。析出した固体をろ取し、メタノールで洗浄した。得られた固体をトルエンで再結晶を繰り返し、1,6−ジブロモピレン5.7gを得た。
【0090】
得られた1,6−ジブロモピレン2.0gにトリルボロン酸2.3g、リン酸三カリウム5.9g、テトラn−ブチルアンモニウムブロミド0.90g、N,N−ジメチルホルムアミド60mLを加え、減圧脱気後、窒素雰囲気下とした。混合溶液に酢酸パラジウム64mgを加え、130℃にて6時間攪拌した。室温に冷却した後、水500mLに注ぎ込み、析出した固体をろ取した。得られた固体を熱トルエンに溶解し、セライトを用いて熱時ろ過し、濃縮した。得られた固体を酢酸エチルで洗浄し、さらにトルエンで再結晶し、1,6−ジトリルピレン1.8gを得た。
【0091】
得られた1,6−ジトリルピレン1.3gをN,N−ジメチルホルムアミド30mLに溶解し、窒素気流下、N−ブロモスクシンイミド0.6gを加え、60℃で5時間攪拌した。室温に冷却後、水30mlを注入し、ジクロロメタン100mlで抽出した。有機層を水50mlで2回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、濃縮した。トルエンから再結晶し、3−ブロモ−1,6−ジトリルピレン1.0gを得た。
【0092】
3−ブロモ−1,6−ジトリルピレン1.0gに2−(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)ベンゾ[b]フラン1.6g、リン酸三カリウム2.8g、PdCl(dppf)・CHCl57mgと脱気したジメチルホルムアミド25mlを加え、窒素気流下、100℃で4時間加熱撹拌した。室温に冷却した後、水30mlを注入し、ろ過した。メタノール30mlで洗浄した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、化合物[13]0.34gを得た。
【0093】
得られた粉末のH−NMR分析結果は次の通りであり、上記で得られた結晶が化合物[13]であることが確認された。
H−NMR(CDCl(d=ppm)):2.51(ss, 6H), 7.24-7.42(m, 7H), 7.55-7.70(m, 6H), 7.99-8.40(m, 6H), 8.74(d, 1H)。
【0094】
合成例2
化合物[26]の合成
上記と同様にして得た1,6−ジブロモピレン1.0gに2−ベンゾフランボロン酸1.4g、リン酸三カリウム3.0g、テトラn−ブチルアンモニウムブロミド0.45g、N,N−ジメチルホルムアミド30mLを加え、減圧脱気後、窒素雰囲気下とした。混合溶液に酢酸パラジウム42mgを加え、130℃にて5時間攪拌した。室温に冷却した後、水200mLに注ぎ込み、析出した固体をろ取した。得られた固体を熱1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンに溶解し、セライトを用いて熱時ろ過した。室温に冷却後、析出した固体をろ取した。得られた固体を、N,N−ジメチルホルムアミドで洗浄し、化合物[26]0.71gを得た。
【0095】
得られた粉末のH−NMR分析結果は次の通りであり、上記で得られた結晶が化合物[26]であることが確認された。
H−NMR(CDCl(d=ppm)):7.26-7.42(m, 6H), 7.66-7.75(m, 4H), 8.18-8.30(m, 4H), 8.42-8.45(m, 2H), 8.84(d, 2H)。
【0096】
合成例3
化合物[84]の合成
特開2005−53900号公報記載の方法に従い合成した。2−(4−メトキシベンゾイル)−3,5−ビス(4−t−ブチルフェニル)ピロール4.7g、2,4−ビス(4−t−ブチルフェニル)ピロール3.3gを1,2−ジクロロエタン30mLに溶解し、オキシ塩化リン1.5gを加え、加熱環流下12時間反応させた。室温に冷却後、ジイソプロピルエチルアミン5.2g、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体5.6gを加え、6時間攪拌した。50mlの水を加え、ジクロロメタンを投入後、有機層を抽出し、濃縮した。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、化合物[84]5.0gを得た。
【0097】
得られた粉末のH−NMR分析結果は次の通りであり、上記で得られた結晶が化合物[84]であることが確認された。
H−NMR(CDCl(d=ppm)):1.19(s, 18H) , 1.35(s, 18H), 3.51(s, 3H) , 5.94(d, 2H) , 6.54(s, 2H) , 6.67-6.73(t, 6H) , 6.88(d, 4H) , 7.45(d,4H) ,7.85(d, 4H)。
【0098】
合成例4
化合物[96]の合成方法
Synthesis,p23,January/February(1992)記載の方法に従い合成した。3,6−ジ−t−ブチルナフチル−1−ボロン酸3.0gと4,4’−ジブロモビナフチル2.2gをトルエン10mlと2M 炭酸カリウム水溶液10mlに溶解し、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)250mgを加えた。混合溶液を加熱環流下8時間反応させた。室温に冷却後、析出した結晶をろ過して回収した。回収した粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、結晶3.1gを得た。得られた結晶を減圧乾燥した後、ジメトキシエタン100mlに溶解し、カリウム49.6gを加え、室温で48時間反応させた。反応液に塩化カドミウムを加え、室温で24時間反応させた後、50mlの水を加え、ジクロロメタンを投入後、有機層を抽出し、濃縮した。粗生成物を減圧乾燥し、二硫化炭素100mlに溶解し、塩化アルミニウム3.0gと塩化銅3.0gを加えて、室温で24時間反応させた。反応液に100mlの水を加え、ジクロロメタンを投入後、有機層を抽出し、濃縮した。得られた粗生成物をアルミナカラムクロマトグラフィーにより精製し、化合物[96]0.38gを得た。
【0099】
得られた粉末のH−NMR分析結果は次の通りであり、上記で得られた結晶が化合物[96]であることが確認された。
H−NMR(CDCl(d=ppm)):1.45(s, 36H), 7.58(br.s, 4H), 8.18 (m, 12H)。
【0100】
合成例5
化合物[101]の合成方法
J.Am.Chem.Soc.,118,2374(1996)記載の方法に従い合成した。(7,12−ジフェニル)ベンゾ[k]フルオランテン600mgと三フッ化コバルト910mgをトリフルオロ酢酸無水物25mLに溶解し、加熱環流下36時間反応させた。室温に冷却後、50mlの水を加え、ジクロロメタンを投入後、有機層を抽出し、濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、化合物[101]110mgを得た。
【0101】
得られた粉末のH−NMR分析結果は次の通りであり、上記で得られた結晶が化合物[101]であることが確認された。
H−NMR(CDCl(d=ppm)):6.51(d, 4H), 7.36-7.39(m, 4H), 7.46-7.48(m, 8H), 7.59-7.62(m, 4H), 7.62-7.64(m, 12H), 7.74(d, 4H)。
【0102】
実施例1
化合物[13]および化合物[84]を用いた発光素子を次のように作製した。30×40mmのガラス基板(旭硝子(株)製、15Ω/□、電子ビーム蒸着品)上にITO導電膜をガラス基板中央部分に150nmの厚さで30×13mmの大きさに形成し陽極とした。陽極が形成された基板を“セミコクリン56”(商品名、フルウチ化学(株)製)で15分間超音波洗浄してから、超純水で洗浄した。この基板を素子を作製する直前に1時間UV−オゾン処理し、真空蒸着装置内に設置して、装置内の真空度が5×10−4Pa以下になるまで排気した。抵抗加熱法によって、まず正孔注入材料として、銅フタロシアニンを10nm、正孔輸送材料として、4,4’−ビス(N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ)ビフェニルを50nm蒸着した。次に、発光材料として、ホスト材料として化合物[13]を、ドーパント材料として化合物[84](ジクロロメタン溶液状態での蛍光ピーク波長:606nm)をドープ濃度が1%になるように40nmの厚さに蒸着した。次に、電子輸送材料として、下記に示すE−1を35nmの厚さに積層した。次に、フッ化リチウムを0.5nm蒸着した後、アルミニウムを1000nm蒸着して陰極とし、5×5mm角の素子を作製した。ここで言う膜厚は、水晶発振式膜厚モニター表示値である。この発光素子からは、発光効率2.3lm/Wの高効率赤色発光が得られた。この発光素子は、40mA/cmで直流駆動したところ、輝度半減時間は2,100時間であった。
【0103】
【化15】

【0104】
比較例1
ホスト材料として下記に示すH−1を用いた以外は、実施例1と同様にして発光素子を作製した。この素子からは、発光効率0.5lm/Wの桃色発光が得られた。この発光素子は、40mA/cmで直流駆動したところ、輝度半減時間は200時間であった。
【0105】
【化16】

【0106】
比較例2
ホスト材料として1,4−ジケト−2,5−ビス(3,5−ジメチルベンジル)−3,6−ビス(4−メチルフェニル)ピロロ[3,4−c]ピロール(以下、H−2とする)を用いた以外は、実施例1と同様にして発光素子を作製した。この素子からは、発光効率2.0lm/Wの赤色発光が得られた。この発光素子は、40mA/cmで直流駆動したところ、輝度半減時間は300時間であった。
【0107】
実施例2〜11
ホスト材料、ドーパント材料、電子輸送材料として表1に示す材料を用いた以外は、実施例1と同様にして発光素子を作製した。但し、化合物[55]はExciton社製のPyrromethene546を使用した。なお、表1中、D−1〜D−3およびE−2〜E−4は下記に示す化合物である。
【0108】
【化17】

【0109】
実施例12
ドーパント材料として下記に示すD−4(ジクロロメタン溶液状態での蛍光ピーク波長:553nm)をドープ濃度が5%になるように用いた以外は、実施例1と同様にして発光素子を作製した。この素子からは、発光効率1.5m/Wの赤色発光が得られた。この発光素子は、40mA/cmで直流駆動したところ、輝度半減時間は1,000時間であった。
【0110】
【化18】

【0111】
比較例3
ドーパント材料として下記に示すD−5(ジクロロメタン溶液状態での蛍光ピーク波長:686nm)を用いた以外は、実施例1と同様にして発光素子を作製した。この素子からは、発光効率0.2m/Wの赤色発光が得られた。この発光素子は、40mA/cmで直流駆動したところ、輝度半減時間は900時間であった。
【0112】
【化19】

【0113】
実施例1〜12および比較例1〜3の結果を表1に示す。
【0114】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極との間に少なくとも発光層が存在し、電気エネルギーにより発光する素子であって、該素子の発光層は一般式(1)で表されるピレン化合物と蛍光ピーク波長が500nm以上680nm以下の有機蛍光物質を含むことを特徴とする発光素子。
【化1】

(R〜R15はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、アミノ基、シリル基、−P(=O)(−R16)(−R17)、並びに隣接置換基との間に形成される環構造の中から選ばれる。R16およびR17はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、アリール基、ヘテロアリール基の中から選ばれる。R〜R10のうちいずれかn個は二環式ベンゾへテロ環との連結に使われる。nは1〜4の整数である。Xは酸素原子、硫黄原子、−NR18−の中から選ばれる。R18は水素、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アリール基、ヘテロアリール基の中から選ばれる。R18はR15と結合し環を形成していてもよい。)
【請求項2】
Xが酸素原子であることを特徴とする請求項1記載の発光素子。
【請求項3】
、R、R、Rのうち少なくとも1つが二環式ベンゾへテロ環との連結に用いられることを特徴とする請求項1記載の発光素子。
【請求項4】
〜R10のうち少なくとも1つがアリール基またはヘテロアリール基であることを特徴とする請求項1記載の発光素子。
【請求項5】
蛍光ピーク波長が500nm以上680nm以下の有機蛍光物質が一般式(2)で表されるピロメテン骨格を有する化合物であることを特徴とする請求項1記載の発光素子。
【化2】

(R19〜R25はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、シアノ基、アミノ基、シリル基、−P(=O)(−R28)(−R29)、並びに隣接置換基との間に形成される環構造の中から選ばれる。R28およびR29はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、アリール基、ヘテロアリール基の中から選ばれる。R26およびR27は同じでも異なっていてもよく、ハロゲン、水素、アルキル、アリール、複素環基から選ばれる。Yは炭素原子または窒素原子であるが、窒素原子の場合には上記R25は存在しない。)
【請求項6】
蛍光ピーク波長が500nm以上680nm以下の有機蛍光物質が一般式(3)で表される化合物であることを特徴とする請求項1記載の発光素子。
【化3】

(R30〜R45はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アリールエーテル基、複素環基、シアノ基、アルデヒド基、カルボニル基、エステル基、カルバモイル基、アミノ基、並びに隣接置換基との間に形成される環構造の中から選ばれる。mは1または2である。)
【請求項7】
蛍光ピーク波長が500nm以上680nm以下の有機蛍光物質が一般式(4)で表される化合物であることを特徴とする請求項1記載の発光素子。
【化4】

(R46〜R61はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アリールエーテル基、複素環基、シアノ基、アルデヒド基、カルボニル基、エステル基、カルバモイル基、アミノ基、並びに隣接置換基との間に形成される環構造の中から選ばれる。)
【請求項8】
発光層と陰極の間にさらに少なくとも電子輸送層が存在し、電子輸送層が電子受容性窒素を有するヘテロアリール環からなる化合物を含有し、ヘテロアリール環からなる化合物が炭素、水素、窒素、酸素、ケイ素、リンから選ばれる元素で構成されていることを特徴とする請求項1記載の発光素子。

【公開番号】特開2008−252063(P2008−252063A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−305249(P2007−305249)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】