説明

発光組成物の製造方法、光源装置の製造方法、及び表示装置の製造方法

【課題】製造コストの低減を図ることが可能な発光組成物の製造方法、及びこの発光組成物を有する光源装置・表示装置の提供。
【解決手段】蛍光体の原料を混合して混合物を得る混合物作成工程と、この混合物を焼成して焼成物を得る焼成物作成工程とを有する発光性組成物の製造方法において、少なくとも一方の工程に対して、酸素以外の元素からなるメラミンあるいはジシアンジアミド等の窒素含有有機化合物を添加する窒化物蛍光体発光性組成物の製造方法。該窒化物蛍光体発光性組成物を光源装置・表示装置の発光体に用いることにより装置全体の製造にかかるコストの低減が図れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光組成物の製造方法、この発光組成物を含む光源装置の製造方法、及びこの光源装置を備える表示装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイをはじめとする、所謂フラットパネルディスプレイと呼称される表示装置においては、光出力に寄与する光学素子(液晶素子など)が、自発光素子ではなく、外部から与えられる光を変調する受動型素子であるため、この光学素子とは別に、バックライトとなる光源装置が設けられている。
バックライトには、一般に、直下(ダイレクト)方式と、エッジライト(サイドライト)方式との2種類がある。
【0003】
このバックライトとしては、冷陰極管を用いる構成が一般的とされてきた。しかし、近年、発光効率の高い発光ダイオード(LED)が開発され、これをバックライトの光源に用いる研究が進められている。
既に知られているバックライトのLED光源としては、青色を発光するLEDの周囲に黄色光に変換する蛍光体(黄色蛍光体)を分散配置し、青色と黄色の合成で白色を得る、いわゆる白色LEDが挙げられる。また、黄色蛍光体を、導光板や反射シート及び光学フィルム等に分散させ、離れた位置にあるこれらの黄色蛍光体に対して青色LEDの青色光が照射される構成によって白色光を得る手法も提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
しかし、青色域以外の可視光域を黄色でカバーする構成では、特に赤(R),緑(G),青(B)の各色に対する要求が厳しいディスプレイ用途において、所望の特性を得ることが難しい。ここでの特性とは、輝度や、RGBの各色における色度である。
これに対して、ディスプレイ用途における要求に応じて、青色光を緑色光に変換する蛍光体(緑色蛍光体)と、青色光または緑色光を赤色光に変換する蛍光体(赤色蛍光体)とをそれぞれ選び分けることにより、所望の特性により近づけようとする手法も提案されている(例えば特許文献2参照)。
【0005】
これらに例示されるように、近年、ディスプレイをはじめとする電子機器においては、高品質の蛍光体が必要であり、かつ重要な役割を果たすようになっている。
しかしながら、高品質の蛍光体を製造することに関しては、歩留まりやコストの面から、改善に対する要求が強まっている。
【0006】
例えば、酸素以外の元素からなる蛍光体を製造する過程では、酸素の混入を抑制する工夫も多く提案されているが、この混入を完全に防ぐことは難しい。
しかし、蛍光体は、原料の濃度比と発光特性の間に密接な関係があるため、その発光中心元素の濃度を予め決めて原料を混合する必要がある。調製した後で濃度を変更することは、蛍光体としての特性の低下を伴うことが多いため、好ましくないとされている。
したがって、酸素の混入などによって発光中心元素の価数が変化するなど、蛍光体を構成する原料が本来の濃度を維持できずに製造された蛍光体は、製品に用いることができないまま廃棄せざるを得ない。
【0007】
また、例えば、蛍光体の原料の中には、高価で代替の難しいものがある。このような原料の具体例としては、発光中心がEu2+である蛍光体の原料である、EuNが挙げられる。このEuNに例示されるような高価な原料を用いた場合、前述のような廃棄に至らない場合でも、コストの低減を図ることは困難である。
【特許文献1】特開平08−007614号公報
【特許文献2】特開2004−327492号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、製造コストの低減を図ることが可能な発光組成物の製造方法と、この発光組成物を含む光源装置の製造方法、及びこの光源装置を備える表示装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る発光組成物の製造方法は、窒化物蛍光体を有する発光組成物の製造方法であって、少なくとも、前記蛍光体の原料を混合して混合物を得る、混合物作製工程と、前記混合物を焼成して焼成物を得る、焼成物作製工程と、を有し、前記混合物と、前記焼成物との、少なくとも一方に対して、酸素以外の元素からなる有機化合物を添加することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る光源装置の製造方法は、窒化物蛍光体を有する発光組成物を含む光源装置の製造方法であって、前記発光組成物の製造を、少なくとも、前記蛍光体の原料を混合して混合物を得る、混合物作製工程と、前記混合物を焼成して焼成物を得る、焼成物作製工程と、によって行い、前記混合物と、前記焼成物との、少なくとも一方に対して、酸素以外の元素からなる有機化合物を添加することを特徴とする。
【0011】
本発明に係る表示装置の製造方法は、窒化物蛍光体を有する発光組成物を含む光源装置を備える表示装置の製造方法であって、前記発光組成物の製造を、少なくとも、前記蛍光体の原料を混合して混合物を得る、混合物作製工程と、前記混合物を焼成して焼成物を得る、焼成物作製工程と、によって行い、前記混合物と、前記焼成物との、少なくとも一方に対して、酸素以外の元素からなる有機化合物を添加することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る発光組成物の製造方法によれば、混合物と、焼成物との、少なくとも一方に対して、酸素以外の元素からなる有機化合物を添加することから、製造コストの低減が図られる。
【0013】
本発明に係る光源装置の製造方法によれば、発光組成物の製造におけるコストの低減が図られることから、装置全体の製造コスト低減が図られる。
【0014】
本発明に係る表示装置の製造方法によれば、発光組成物の製造におけるコストの低減が図られることから、装置全体の製造コスト低減が図られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
<発光組成物の製造方法の第1の実施の形態>
本発明に係る発光組成物の製造方法の第1の実施の形態について説明する。
蛍光体の原料としては、少なくとも、Euと、A元素と、D元素と、E元素と、窒素とを用いることにより、最終的に得る蛍光体を、少なくとも一部がCaAlSiN3と同一の結晶構造を有する蛍光体として製造することが好ましい。ここで、Aは、M元素以外の2価の金属元素からなる群から選ばれる1種または2種以上の元素、Dは、4価の金属元素からなる群から選ばれる1種または2種以上の元素、Eは、3価の金属元素からなる群から選ばれる1種または2種以上の元素である。
本実施形態では、A元素がCa、D元素がSi、E元素Alである場合を例として説明を行う。
【0016】
本実施形態に係る発光組成物の製造方法においては、まず、蛍光体の原料(最終的に得る発光組成物の主原料)としてSi、AlN、CaCO、及びEuNを、モル比で1:3:2.984:0.016となる割合で用意する。そして、この主原料に対して、所定の割合で、酸素以外の元素からなる有機化合物を混合することにより、混合物を得る、混合物作製工程を行う。なお、本実施形態では、炭酸塩としてCaCOを用いているが、他の炭酸塩を用いることもできるし、炭酸塩を用いるかわりに金属と酸化物を同時に用いても良い。
ここで、酸素以外の元素からなる有機化合物としては、様々な有機化合物を用いうるが、特に、炭素,窒素,水素のみからなる有機化合物、中でもメラミン(2,4,6−トリアミノ−1,3,5−トリアジン)、或いはメラミンに類似した構造を有するジシアンジアミドなどが好ましい。これは、最終的に得る発光組成物の特性が特に良好であったためである。特性が特に良好であった主たる要因のひとつとしては、添加された有機化合物に由来するガスカーボンの還元性によって、系内の酸素(炭酸塩などから発生する酸素も含む)の蛍光体への取り込みが抑制されるとともに、添加された有機化合物に由来する窒素が蛍光体の窒素源となることによって、蛍光体の所定の構造の形成が促されることが考えられる。
【0017】
有機化合物としては、炭素(C),窒素(N),水素(H)のみからなるものが、特に好ましいと考えられる。酸素(O)が混入してしまうと、本来発光中心となるべきEu2+がEu3+となって、目的とする蛍光体が得られなくなるおそれが生じるためである。前述のメラミンやジシアンジアミドは酸素を含まないため、蛍光体の製造に用いるにあたっては、例えばメラミンの製造に用いられてきた尿素などよりも、好ましいと考えられる。また、有機化合物の割合は、主原料に対して、mol%で5%以上200%以下とすることが好ましい。5%よりも低いと、前述した2次粒子の形成が充分に抑制されず、200%よりも高いと、最終的に得る発光組成物において炭素成分が過剰に残存して発光効率が低下するためである。
なお、後述する第2実施形態におけるように、炭素粉末を秤量して混合物に加えることもできるが、有機化合物に由来する炭素で充分と判断される場合には、炭素粉末を加えることを省略することもできる(本実施形態では省略する)。最終的に得る発光組成物に含まれる炭素量は、有機化合物の添加量と、後述する焼成工程における焼成条件(温度,圧力,ガスの種類など)によって増減する。
【0018】
次に、秤量した混合物及び炭素粉末を、窒素雰囲気中のグローブボックスにおいて、メノウ乳鉢を用いて20分間混ぜ合わせ、中間体を作製する中間体作製工程を行う。
得られた中間体を、混合した粉末をボロンナイトライド(BN)製の円筒形坩堝に挿入する。坩堝に挿入した混合粉末を、窒素ガス(N)と水素ガス(H)の還元性混合ガス雰囲気中、1気圧、1700℃の条件で、2時間焼成して焼成物作製工程を行い、発光組成物を作製した。
なお、焼成条件(温度,圧力,ガスの種類など)は適宜選定し得るが、ガスとしては、窒素ガスや水素ガスのほか、アンモニアなどを用いることができる。
【0019】
<発光組成物の製造方法の第2の実施の形態>
本発明に係る発光組成物の製造方法の第2の実施の形態について説明する。
本実施形態においても、前述のA元素がCa、D元素がSi、E元素Alである場合を例として説明を行う。
【0020】
本実施形態に係る発光組成物の製造方法においては、まず、蛍光体の原料(最終的に得る発光組成物の主原料)としてSi、AlN、Ca、及びEuNを、モル比で1:3:0.985:0.045となる割合で混合し、混合物作製工程を行う。
【0021】
次に、混合物作製工程で得られた混合物の中から10gを秤量し、Si、AlN、Ca及びEuNの総モル数と、添加された有機化合物のモル数とに基づいて、混合物とは別に炭素粉末を秤量する。具体的には、先に秤量した10gの混合物における主原料の総モル数と添加有機化合物のモル数とに基づいて、主原料の総モル数に対し0〜1倍の範囲で任意の量の炭素粉末を秤量する。なお、最終的に得る発光組成物に含まれる炭素量は、この秤量した炭素粉末の量と、有機化合物の添加量と、後述する焼成工程における焼成条件(温度,圧力,ガスの種類など)によって増減する。
【0022】
次に、秤量した混合物及び炭素粉末を、窒素雰囲気中のグローブボックスにおいて、メノウ乳鉢を用いて20分間混ぜ合わせ、中間体を作製する中間体作製工程を行う。
得られた中間体を、混合した粉末をボロンナイトライド(BN)製の円筒形坩堝に挿入する。坩堝に挿入した混合粉末を、窒素ガス(N)と水素ガス(H)の還元性混合ガス雰囲気中、1気圧、1700℃の条件で、2時間焼成して焼成物を得ることにより、焼成物作製工程を行う。
【0023】
その後、この焼成物に対して、所定の割合で、酸素以外の元素からなる有機化合物と、焼成物の特性評価から不足していると判断された原料(例えば発光中心元素に対応する原料)とを添加することにより、発光組成物作製工程を行い、発光組成物を得る。
ここで、酸素以外の元素からなる有機化合物としては、様々な有機化合物を用いうるが、特に、炭素,窒素,水素のみからなる有機化合物、中でもメラミン(或いはメラミンに類似した構造を有するジシアンジアミドなど)が好ましい。これは、最終的に得る発光組成物の特性が特に良好であったためである。特性が特に良好であった主たる要因のひとつとしては、添加された有機化合物に由来するガスカーボンの還元性によって、系内の酸素(炭酸塩などから発生する酸素も含む)の蛍光体への取り込みが抑制されるとともに、添加された有機化合物に由来する窒素が蛍光体の窒素源となることによって、蛍光体の所定の構造の形成が促されることが考えられる。
【0024】
有機化合物としては、炭素(C),窒素(N),水素(H)のみからなるものが、特に好ましいと考えられる。酸素(O)が混入してしまうと、本来発光中心となるべきEu2+がEu3+となって、目的とする蛍光体が得られなくなるおそれが生じるためである。前述のメラミンやジシアンジアミドは酸素を含まないため、蛍光体の製造に用いるにあたっては、例えばメラミンの製造に用いられてきた尿素などよりも、好ましいと考えられる。また、有機化合物の割合は、主原料に対して、mol%で5%以上200%以下とすることが好ましい。5%よりも低いと、前述した2次粒子の形成が充分に抑制されず、200%よりも高いと、最終的に得る発光組成物において炭素成分が過剰に残存して発光効率が低下するためである。
【0025】
図1は、前述した実施形態に係る製造方法で得られる発光組成物によって構成できる、光源装置と、この光源装置をバックライトとして備えたこの表示装置の、一例の概略構成図である。
本実施形態に係る製造方法によって得られる発光組成物を用いれば、発光組成物の製造にかかるコストを低減できることから、装置全体の製造にかかるコストの低減も図ることが可能となる。
【0026】
この表示装置1について、説明する。
この表示装置1は、光源装置2及び光学装置3を有する。
【0027】
光源装置2は、液晶装置を有する光学装置3に対する、バックライト装置である。本実施形態において、表示装置1は、直下方式とされている。
この光源装置2の、樹脂による導光部7内には、青色光源として、例えば青色LEDによる複数の発光体6が設けられている。発光体6の形状は、例えばLEDであればサイドエミッタータイプや砲弾タイプなど、様々な種類のものから適宜選択して用いることができる。
【0028】
蛍光部8には、前述した蛍光体が、例えば樹脂による媒体中に分散配置されている。
ここで、蛍光体が分散される媒体とは、青色発光LEDの周囲に直接形成される樹脂(白色LEDの一部)でも良いし、導光板,反射シート,光学フィルム等のように青色発光LEDから離れた位置にあるものでも、蛍光体が分散配置される媒体であれば良い。
【0029】
蛍光部8は、互いに異なる発光波長帯を有する、第1蛍光体を含む第1の発光組成物による第1蛍光部8aと、第2蛍光体を含む第2の発光組成物による第2蛍光部8bとから構成される。
第1蛍光部8aを構成する第1蛍光体としては、赤色蛍光体として例えばCaS:Euを挙げることができる。この場合には、450nm近傍にピークを有する励起スペクトルに対応する波長帯(励起波長帯)の光照射に基づいて、発光中心波長654nm,主たる発光波長帯600nm〜750nmのスペクトルを有する蛍光を得ることができる。なお、赤色域の発光を得るために、第1蛍光体の発光波長帯は、610nm〜670nmの少なくとも一部を含むことが好ましい。
また、第2蛍光部8bを構成する第2蛍光体は、緑色蛍光体として例えば(Sr1-x-yCaxBay)Ga2S4:Euを挙げることができる(0≦x≦1,0≦y≦1,x+y≦1)。一例としてSrGa2S4:Euを用いた場合には、450nm近傍にピークを有する励起スペクトルに対応する波長帯の光照射に基づいて、発光中心波長532nm,主たる発光波長帯490nm〜600nmのスペクトルを有する蛍光を得ることができる。なお、緑色域の発光を得るために、第2蛍光体の発光波長帯は、510nm〜550nmの少なくとも一部を含むことが好ましい。
この光源装置2においては、第1の発光組成物と第2の発光組成物とのうち、少なくとも一方が、前述した本実施形態に係る発光組成物である。
【0030】
また、光源装置2の、光学装置3に対向する最近接部には、拡散シート9が設けられている。この拡散シート9は、青色光源や各蛍光体からの光を、光学装置3側へ面状に均一に導くものである。光源装置2の裏面側には、リフレクタ4aが設けられている。また、必要に応じて、リフレクタ4aと同様のリフレクタ4bが、導光部7の側面にも設けられる。樹脂としては、エポキシ、シリコーン、ウレタンのほか、様々な透明樹脂を用いることができる。
なお、光源装置2は、図2に示すように、導光部7の側面に発光体6が配置された方式としてもよい。すなわち、発光体6からの光が導光部7の後部斜面(リフレクタ4c;反射シート)で光が反射され、第1のプリズムシート21及び第2のプリズムシート22を経て拡散シート9に至る、所謂エッジライト(サイドライト)方式としても良い。
【0031】
一方、本実施形態において、光学装置3は、光源装置2からの光に対して変調を施すことにより所定の出力光を出力する液晶装置である。
この光学装置3においては、光源装置2に近い側から、偏向板10と、TFT(Thin Film Transistor;薄膜トランジスタ)用のガラス基板11及びその表面のドット状電極12と、液晶層13及びその表裏に被着された配向膜14と、電極15と、電極15上の複数のブラックマトリクス16と、このブラックマトリクス16間に設けられる画素に対応した第1(赤色)カラーフィルター17a,第2(緑色)カラーフィルター17b,第3(青色)カラーフィルター17cと、ブラックマトリクス16及びカラーフィルター17a〜17cとは離れて設けられるガラス基板18と、偏向板19とが、この順に配置されている。
ここで、偏向板10及び19は、特定の方向に振動する光を形成するものである。また、TFTガラス基板11とドット電極12及び電極15は、特定の方向に振動している光のみを透過する液晶層13をスイッチングするために設けられるものであり、配向膜14が併せて設けられることにより、液晶層13内の液晶分子の傾きが一定の方向に揃えられる。また、ブラックマトリクス16が設けられていることにより、各色に対応するカラーフィルター17a〜17cから出力される光のコントラストの向上が図られている。これらのブラックマトリクス16及びカラーフィルター17a及び17cは、ガラス基板18に取着される。
【0032】
そして、この表示装置1や光源装置2の製造においては、優れた発光組成物を安価に製造して用いることができることから、低コストで装置を製造することも可能となる。
【0033】
<実施例>
本発明の実施例について、説明する。
本実施例では、前述した製造方法によって発光組成物を製造し、得られた発光組成物について具体的に検討を行った結果について、説明する。
【0034】
図3は、前述の第2実施形態で説明した製造方法における、焼成物作製工程までの(つまり従来と同様の)手順のみで得た発光組成物、及び、焼成物作製工程後に酸素以外の元素からなる有機化合物(本実施例ではメラミン)とEuNを添加して焼成物と混ぜ合わせた(つまり本実施形態に係る)発光組成物の、発光スペクトルの測定結果を示す。
【0035】
図3の結果より、焼成物作製工程までの手順のみで得た発光組成物、本実施例では結晶中のEuが1.6mol%であるCaAlSiN:Euの発光スペクトル(図中m)に対し、焼成物にメラミン及びEuNを添加して混ぜ合わせた本実施例に係る発光組成物、本実施例では結晶中のEuが3mol%であるCaAlSiN:Euの発光スペクトル(図中m´)は、発光強度が向上し、発光中心波長も長波長側にシフトしていることが確認できた。
【0036】
なお、本実施形態におけるように酸素以外の元素からなる有機化合物を添加することなく、単にEuNを添加して焼成物と混ぜ合わせて得た発光組成物の発光スペクトルは、図示しないが、スペクトルが大幅に変化してしまい、特性の劣化が生じてしまうことが確認できた。
また、図示しないが、結晶中のEuが3mol%であるCaAlSiN:Euを、焼成後に有機化合物を添加する手順を経ることなく直接(つまり焼成前の混合物の時点でEu濃度を3mol%として)製造した場合には、本実施形態に係る発光組成物のスペクトル(図中m´)と同様の発光特性を示すことも確認できた。
【0037】
図3に関するこれらの結果から、本実施形態(特に前述の第2実施形態)に係る製造方法によって発光組成物を製造することにより、従来は特性の劣化を避けることができなかった蛍光体の組成再調整を、特性の劣化を抑えながら行うことが可能になることが、確認できた。特性の劣化が抑制されることにより、歩留まりの向上やコストの低減が可能となる。
【0038】
図4は、前述の第1実施形態で説明した製造方法における、炭酸塩(本実施例ではSrCO)に有機化合物の一例としてメラミンを添加して混合物を作製した発光組成物、及び、有機化合物を添加することなく炭酸塩から混合物を作製した発光組成物の、発光スペクトルの測定結果を示す。なお、いずれも、前述した同様の還元雰囲気中で焼成を行った。
【0039】
図4の結果より、単に炭酸塩を原料に用いた従来の製造方法による場合(図中n)、発光組成物の発光スペクトルは、原料に炭酸塩でないSrを用いた場合に比べて、蛍光体結晶中に酸素が混入したことによる短波長側へのシフトが確認された。これに対し、本実施例に係る、メラミンとともに炭酸塩を混ぜ合わせて混合物作製を行った場合(図中n´)、発光スペクトルは原料にSrを用いた場合と同様となることが確認できた。
【0040】
図4に関するこれらの結果から、本実施形態(特に前述の第1実施形態)に係る製造方法によって発光組成物を製造することにより、従来は特性の劣化を避けることができなかった原料(本例では炭酸塩)による発光組成物の製造を、特性の劣化を抑えながら行うことが可能になることが、確認できた。特性の劣化が抑制されることにより、歩留まりの向上やコストの低減が可能となる。
【0041】
なお、図5は、本実施例に係る蛍光体における、Euの濃度(mol%)の変化に応じた発光強度の変化について検討した結果である。
発光強度の測定は、分光光度計(SPEX社製FLUOROLOG−3)を用いて行った。この分光光度計を用い、各蛍光体に対して発光中心波長460nmの青色光を照射し、この青色光の励起によって蛍光体から生じる発光スペクトルを、500nm〜780nmの範囲について測定した。
【0042】
図5の結果より、Euが2.0mol%以上で、高い発光強度が得られることが確認できた(図中x´)。なお、2.5mol%以上4.0mol%以下の割合で含まれる範囲では、特に高い発光強度が得られることが確認できた。なお、この範囲では、平均値(図中曲線x)に比べても、特に高い発光強度が得られている。
【0043】
また、図6は、本実施例に係る蛍光体における、Euの濃度(mol%)の変化に応じた発光中心波長の変化について検討した結果である。
図6の結果より、Euの濃度とともに長波長化が図られることが確認できた(図中y´)。この範囲では、平均値(図中直線y)に比べても、特に大幅な長波長化が進んでいる。
【0044】
すなわち、図5及び図6の結果から、本実施形態に係る発光組成物の製造によれば、Euの濃度が2.0mol%以上5.0mol%以下の範囲である場合に、発光強度の向上と、発光中心波長の長波長化とが図られた発光組成物を、歩留まりの向上やコストの低減を図りながら製造できることが確認できた。
なお、図示しないが、蛍光体結晶中のEuの濃度が5.0mol%の試料の輝度は、1.0〜4.0mol%の試料より20%以上低いことが確認できた。したがって、前述の第1実施形態及び第2実施形態で説明した製造方法によれば、Euの濃度が2.5mol%以上4.0mol%以下の場合、特に高輝度の発光組成物を、歩留まりの向上やコストの低減を図りながら製造することができる。
【0045】
以上の実施の形態で説明したように、本実施形態に係る発光組成物の製造方法によれば、優れた発光組成物を安価に製造することが可能となる。
具体的には、前述の第1実施形態に係る発光組成物の製造方法によれば、特に、酸素を有する原料(例えば炭酸塩)を利用した蛍光体の製造が可能となる。また、前述の第2実施形態に係る発光組成物の製造方法によれば、特に、いったん合成を完了した蛍光体の組成を発光特性の劣化なしに再調整することが可能となる。
【0046】
すなわち、従来は、高価な原料を用いているために廃棄に至らなくともコストが高く、廃棄に至る量の増加(歩留まりの低下)に伴って更にコストが上昇していたが、本実施形態に係る発光組成物の製造方法によれば、これらのいずれの場合にも、コストを大幅に抑制することが可能となる。
例えば、従来は、Ca等のアルカリ土類金属イオンは、母体を構成するイオンであることから、原料となるアルカリ土類金属イオンの窒化物(Caなど)を多量に必要とする一方で、アルカリ土類金属窒化物が高価であるという問題があった。これは、SiやAiNなどのように生産方法が確立されている(工業的にも多量に量産されている)原料と比較して、アルカリ土類金属窒化物の生産量が限られていることなどが原因であった。これらの原因のために、アルカリ土類金属の窒化物は、蛍光体を製造する際に比較的少量で済むEuNに匹敵するほど、高価であった。
更に、このアルカリ土類金属イオンの窒化物は不安定であり、大気中で容易に加水分解する(アンモニアを生成しながら水酸化物に変化する)ため、混合以前の(原料の)段階で酸素濃度が上昇してしまう。その結果、従来の蛍光体の製造では、混合及び焼結した後の蛍光体中におけるEu2+の濃度低下が進行し、発光特性の劣化に至ってしまうことが多かった。
しかしながら、本実施形態に係る製造方法によれば、前述したような高価な原料を用いることを避けることができるとともに、発光特性の劣化を抑制することもできることから、コストの低減を図ることが可能となる。そして、必要に応じて更に、特性劣化を抑制しながら蛍光体の組成を再調整できることから、この場合には更なるコスト低減と、歩留まりの向上をも図ることが可能となる。
【0047】
そして、この発光組成物を用いることにより、光源装置や表示装置などの、装置の製造コストの低減を図ることも、可能となる。
【0048】
なお、従来蛍光体の製造において利用されてきた還元雰囲気中での焼成(所謂還元窒化法)と比較しても、本実施形態に係る製造方法は、優位性を有する。すなわち、従来の還元窒化法では適切に製造することが困難であった原料を用いる場合にも、図4に示したように、目的とする発光組成物(蛍光体)を適切に製造することが可能となる。具体例としては、前述した酸素の取り込みによる酸窒化物の形成を抑制するとともに、窒化物の形成を促進することが可能となる。
また、蛍光体の製造においては、有機化合物は不純物として特性劣化や結晶形成阻害などの要因となることが多い(例えばポリビニルアルコールなどは分解過程で酸を生じるため蛍光体を溶かしてしまう)ため、製造過程で添加することは問題がある(不適切である)が、本実施形態で挙げた有機化合物を選択的に用いて製造を行えば、それらの問題を回避して、優れた発光組成物を得られることが確認できた。
【0049】
以上、本発明に係る発光組成物の製造方法、光源装置の製造方法、及び表示装置の製造方法の実施の形態を詰め異したが、この実施の形態の説明で挙げた使用材料及びその量、処理時間及び寸法などの数値的条件は好適例に過ぎず、説明に用いた各図における寸法形状及び配置関係も概略的なものである。すなわち、本発明は、この実施の形態に限られるものではない。
【0050】
例えば、第1実施形態におけるように、炭酸塩や金属及び酸化物を原料に用い、かつ酸素以外の元素からなる有機化合物を添加して混合物を作製した後で、更に、第2実施形態におけるように、焼成物に対して酸素以外の元素からなる有機化合物を添加しながら発光中心の濃度を調整することもできる。
また、前述の第1実施形態及び第2実施形態では、発光体が青色発光ダイオードである場合を例として説明を行ったが、発光体として、より短波長側に発光波長帯を有するもの(例えば近紫外発光ダイオードなど)を用い、かつ赤色,緑色,青色の3種類の蛍光体を有する装置構成とすることもできる。すなわち、光源装置及び表示装置を構成する各部材や材料は必要に応じて選定されうる点をはじめ、本発明は、種々の変形及び変更をなされうる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に係る製造方法の一例によって得られる発光組成物を有する光源装置と、この光源装置を備える表示装置の、具体的構成例を示す概略構成図である。
【図2】本発明に係る製造方法の一例によって得られる発光組成物を有する光源装置の、他の具体的構成例を示す概略構成図である。
【図3】本発明に係る製造方法の一例によって得られる発光組成物、この発光組成物を有する光源装置を有する光源装置、及びこの光源装置を備える表示装置の、一例の説明に供する説明図である。
【図4】本発明に係る製造方法の一例によって得られる発光組成物、この発光組成物を有する光源装置を有する光源装置、及びこの光源装置を備える表示装置の、一例の説明に供する説明図である。
【図5】本発明に係る製造方法の一例によって得られる発光組成物、この発光組成物を有する光源装置を有する光源装置、及びこの光源装置を備える表示装置の、一例の説明に供する説明図である。
【図6】本発明に係る製造方法の一例によって得られる発光組成物、この発光組成物を有する光源装置を有する光源装置、及びこの光源装置を備える表示装置の、一例の説明に供する説明図である。
【符号の説明】
【0052】
1・・・表示装置、2・・・光源装置(バックライト装置)、3・・・光学装置(液晶装置)、4a・・・リフレクタ、4b・・・リフレクタ、4c・・・リフレクタ(反射シート)、6・・・発光体、7・・・導光部、8・・・蛍光部、8a・・・第1蛍光部、8b・・・第2蛍光部、9・・・拡散シート、10・・・偏向板、11・・・TFTガラス基板、12・・・ドット電極、13・・・液晶層、14・・・配向膜、15・・・電極、16・・・ブラックマトリクス、17a・・・第1カラーフィルター、17b・・・第2カラーフィルター、17c・・・第3カラーフィルター、18・・・ガラス基板、19・・・偏向板、21・・・第1のプリズムシート、22・・・第2のプリズムシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化物蛍光体を有する発光組成物の製造方法であって、
少なくとも、前記蛍光体の原料を混合して混合物を得る、混合物作製工程と、
前記混合物を焼成して焼成物を得る、焼成物作製工程と、
を有し、
前記混合物と、前記焼成物との、少なくとも一方に対して、酸素以外の元素からなる有機化合物を添加する
ことを特徴とする発光組成物の製造方法。
【請求項2】
前記原料が、炭酸塩と、酸化物及び金属との、少なくとも一方を含み、
前記混合物に対して、酸素以外の元素からなる有機化合物を添加し、その後、前記焼成物作製工程を行う
ことを特徴とする請求項1に記載の発光組成物の製造方法。
【請求項3】
前記焼成物に対して、酸素以外の元素からなる有機化合物と、前記蛍光体の発光中心となる元素を含む原料とを添加する
ことを特徴とする請求項1に記載の発光組成物の製造方法。
【請求項4】
前記窒化物蛍光体の発光中心が、Eu2+である
ことを特徴とする請求項1に記載の発光組成物の製造方法。
【請求項5】
前記蛍光体の原料として、少なくとも、Euと、A元素と、D元素と、E元素とを用いる
ことを特徴とする請求項1に記載の発光組成物の製造方法。
(ただし、Aは、M元素以外の2価の金属元素からなる群から選ばれる1種または2種以上の元素、Dは、4価の金属元素からなる群から選ばれる1種または2種以上の元素、Eは、3価の金属元素からなる群から選ばれる1種または2種以上の元素。)
【請求項6】
前記A元素が、Caであり、前記D元素が、Siであり、前記E元素が、Alである
ことを特徴とする請求項5に記載の発光組成物の製造方法。
【請求項7】
前記蛍光体が、少なくとも一部、CaAlSiN3と同一の結晶構造を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の発光組成物の製造方法。
【請求項8】
前記有機化合物が、炭素と、窒素と、水素のみからなる有機化合物である
ことを特徴とする請求項1に記載の発光組成物の製造方法。
【請求項9】
前記有機化合物が、メラミン、ジシアンジアミドのいずれかである
ことを特徴とする請求項1に記載の発光組成物の製造方法。
【請求項10】
前記蛍光体中における、Eu及びEu2+の総量が、2.0mol%以上5.0mol%以下の割合である
ことを特徴とする請求項1または2に記載の発光組成物の製造方法。
【請求項11】
前記有機化合物の添加量が、前記原料に対して、5mol%以上200mol%以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の発光組成物の製造方法。
【請求項12】
焼成工程に先立って、前記混合物の組成及び量に基づく炭素粉末を、前記混合物に添加する工程を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の発光組成物の製造方法。
【請求項13】
窒化物蛍光体を有する発光組成物を含む光源装置の製造方法であって、
前記発光組成物の製造を、少なくとも、前記蛍光体の原料を混合して混合物を得る、混合物作製工程と、前記混合物を焼成して焼成物を得る、焼成物作製工程と、によって行い、
前記混合物と、前記焼成物との、少なくとも一方に対して、酸素以外の元素からなる有機化合物を添加する
ことを特徴とする光源装置の製造方法。
【請求項14】
窒化物蛍光体を有する発光組成物を含む光源装置を備える表示装置の製造方法であって、
前記発光組成物の製造を、少なくとも、前記蛍光体の原料を混合して混合物を得る、混合物作製工程と、前記混合物を焼成して焼成物を得る、焼成物作製工程と、によって行い、
前記混合物と、前記焼成物との、少なくとも一方に対して、酸素以外の元素からなる有機化合物を添加する
ことを特徴とする表示装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−120946(P2008−120946A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−308184(P2006−308184)
【出願日】平成18年11月14日(2006.11.14)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】