説明

発光装置およびその製造方法

【課題】高精細化が可能で、配線部の接続信頼性に優れた発光装置を提供する。
【解決手段】基板と、第1の電極と発光層と第2の電極が基板側からこの順に積層されてなる発光素子と、n型の薄膜トランジスタと、から少なくともなる発光装置であって、該発光素子と該トランジスタとは、該基板に接して並列配置され、該トランジスタのチャネル層の電界効果移動度は、1cm−1−1以上であり、かつ、該第2の電極は、前記トランジスタのドレイン電極と接続されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子を含む発光装置およびその製造方法に関する。特には、有機電界発光素子(有機EL素子)を含む発光素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機EL素子を用いた発光装置が盛んに研究されている。有機EL素子を用いた発光装置は、自発光性、高速応答性、高視野角性など優れた特徴をもち、大画面・高精細の表示装置への応用が期待されている。通常の有機EL素子は、ガラスなどの基板上に陽極、有機層、陰極の順に積層された構造を有する。
【0003】
有機EL素子は、駆動時間とともに劣化が進行し、端子間抵抗が増加する。この劣化は駆動電流が大きいほど顕著であるため、表示装置として必要な輝度を確保したまま小電流駆動を可能にするためには、各画素がフレーム保持動作をすることが必須であり、アクティブマトリクス駆動技術が重要となる。有機EL素子のアクティブマトリクス駆動の駆動素子として、さまざまなチャネル材料を用いた薄膜トランジスタ(Thin film transistor:TFT)が開示されている。例えば、非晶質シリコンTFT(特許文献1参照)、低温多結晶シリコンTFT、有機TFT(特許文献2参照)等がある。
【0004】
劣化が進行しても有機EL素子を安定に制御するためには、駆動TFTがp型の場合には、有機EL素子の陽極をTFTのドレイン電極に接続することが望ましい。n型TFTを用いる場合は、有機EL素子の陰極をTFTのドレイン電極に接続することが望ましい。このうち集積化が容易なのは、p型TFTを用いる場合である。なぜならば、有機EL素子では、陽極は素子下面に、陰極は同上面にそれぞれ形成されるため、特許文献2のようにTFTのドレイン電極と有機EL素子の陰極との配線層を基板上に直接形成することができるからである。
【0005】
しかしながら、p型TFTとしての低温多結晶シリコンTFTは、製造の工程が複雑でコストが高く、さらに大面積化が困難であるという問題がある。また、多くの有機TFTはp型であるが、それらの電気特性および環境安定性は実用に十分でない。
【0006】
他方、非晶質シリコンTFTはn型であるが、安価に製造でき、液晶表示装置に幅広く用いられており、有機EL素子の駆動を目指した開発も盛んである。有機EL素子の陰極をn型TFTのドレイン電極と接続するには、少なくとも有機EL素子の発光層の厚さを超えて配線がなされることが必要である。
【0007】
また、透明伝導性酸化物多結晶薄膜を、透明電極のみならずチャネル層に用いたTFTの開発も近年活発に行われている。例えば、特許文献3には、ZnOを主成分として用いた透明伝導性酸化物多結晶薄膜をチャネル層に用いたTFTが開示されている。また、特許文献4には、次のことが記載されている。すなわち、非晶質酸化物膜(ZnIn(x+3y/2+3z/2)(式中、MはAl及びGaのうち少なくとも一つの元素であり、比率x/yが0.2〜12の範囲であり、比率z/yが0.4〜1.4の範囲にある))を透明電極に用いる。これらの薄膜はn型伝導性を示し、これらを用いたTFTの電界効果移動度は非晶質シリコンTFTのそれを超える。また、上記薄膜は、低温で成膜でき、かつ可視光に透明であるため、プラスチック板やフィルムなどの基板上にフレキシブルな透明TFTを形成することが可能であるとされている。その形成手段としては、大面積にわたり均一な薄膜を形成可能なスパッタリング法が有望である。
【0008】
有機EL素子とn型TFTとを接続する方法としては、平坦化膜を用いてTFTと有機EL素子を基板厚さ方向に積層する方法が特許文献1に開示されている。この場合、有機EL素子の光はTFTと反対側に放出される(トップエミッション型)。特許文献1では、有機EL素子の陰極は、バッファ層の厚さとTFT基板の平坦化膜の厚さとを合わせた厚さを超えてTFTのソース電極と接続される。
【特許文献1】特開2005−276809号公報
【特許文献2】特開2003−255857号公報
【特許文献3】特開2004−103957号公報
【特許文献4】特開2000−044236号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記特許文献1の方法において、バッファ層は有機層を画素ごとに分離するためのもので、有機層よりも厚みがあり、多くの場合数100nmから数μmの厚さを持つ。特に、発光層を溶液から形成する場合、一時的に多量の溶液が基板上に盛られることになり、隣接画素間で異なる発光層を混じり合わせずに形成するためにはバッファ層を厚くする必要がある(通常1μm以上)。また、平坦化膜は文字通りTFTの厚みによる基板の凹凸を吸収するためのもので、少なくとも1μm程度の厚みがある。
【0010】
したがって、発光素子の陰極とTFTのドレイン電極を接続する場合、配線層が越える高低差は1.5μm程度から数μmに達する。このような大きな高低差を越える配線においては、配線層が段差を十分に被覆できないことがあり、その場合接続不良(段差切れ)が発生する。また、これらの平坦化膜およびバッファ層の形成時にフォトリソグラフィー工程がそれぞれ必要であり、コスト高につながる。特に、バッファ層や平坦化膜が厚い場合はプロセス時間が長くなる。
【0011】
それに対し、有機EL素子とn型TFTとを最も簡単に接続する方法としては、有機EL素子とTFTとを並列配置する方法が考えられる。しかし、そうすると、n型TFTとして非晶質シリコンTFTを用いる場合、電界効果移動度が小さいためTFTのレイアウト面積が非常に大きくなり、画素の高精細化が非常に困難であった。
【0012】
すなわち、通常構成の有機EL素子をn型TFTで駆動する発光素子を設計する場合、配線の確実さと高精細とは相反する要求であり、これらを同時に満たすことが問題となっていた。
【0013】
本発明は、上記課題を解決するものであり、高精細化が可能で、配線部の接続信頼性に優れた発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、基板と、第1の電極と発光層と第2の電極が基板側からこの順に積層されてなる発光素子と、n型の薄膜トランジスタと、から少なくともなる発光装置であって、該発光素子と該トランジスタとは、該基板に接して並列配置され、該トランジスタのチャネル層の電界効果移動度は、1cm−1−1以上であり、かつ、該第2の電極は、前記トランジスタのドレイン電極と接続されていることを特徴とする。また、前記トランジスタのチャネル層は、InとGaとZnからなる群のうち少なくとも1つの元素を含み、かつ少なくとも一部が非晶質の酸化物であることを特徴とする。また、前記発光層は、有機化合物からなることを特徴とする。また、前記第1の電極と第2の電極の少なくとも一方は、透明導電性酸化物であることを特徴とする。また、前記基板と前記第1電極の間に、絶縁体が挿入されていることを特徴とする。また、前記絶縁体は、チャネル保護層であることを特徴とする。また、前記絶縁体は、第1電極の平坦化膜であることを特徴とする。また、互いに隣接して配置された画素間に、発光層を隔てるための隔壁を有することを特徴とする。また、前記隔壁の内部に、前記トランジスタの少なくともチャネル部の一部が形成されていることを特徴とする。また、チャネル保護層がさらに設けられ、該チャネル保護層が前記隔壁を兼ねていることを特徴とする。
【0015】
さらに、本発明は、基板上に、ゲート電極、配線、ゲート絶縁膜、チャネル層、ソース電極、ドレイン電極、チャネル保護層よりなる、n型の薄膜トランジスタを形成する工程と、該基板上に該トランジスタと並列するように発光素子の第1電極を形成し、そして該第1電極上に発光層を積層する工程と、該発光層および該トランジスタのドレイン電極上に前記発光層と前記ドレイン電極の双方を接続するように、第2電極を積層する工程と、発光素子およびトランジスタが形成された該基板上の少なくとも発光素子を含む部分を封止する工程と、から少なくともなり、該第1電極上に発光層を積層する工程の後に、該トランジスタのドレイン電極の表面のうち少なくとも一部には、該発光層が形成されていないことを特徴とする発光装置の製造方法である。また、前記第1電極上に発光層を積層する工程の前に、ドレイン電極の表面の少なくとも一部に対する疎水化処理を行う工程を含むことを特徴とする。また、前記疎水化処理は、ドレイン電極の表面の部分フッ素化アルカンチオールによる化学修飾処理であることを特徴とする。また、前記第1電極上に発光層を積層する工程の後に、トランジスタのドレイン電極上に発光層を形成する工程と、該ドレイン電極上に形成された該発光層の一部を除去する工程と、を含むことを特徴とする。また、前記発光層を除去する工程は、レーザアブレーションによる処理を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、有機EL素子とn型TFTとを並列配置して接続し、その際、チャネル層として酸化物半導体を用いることで、高精細度と接続歩留まりの高さを両立した発光装置を作製することができる。また、本発明は、発光層に有機材料を用いた発光装置を低コストで提供することができる。また、本発明は、大面積化が可能な発光装置を提供することができる。また、本発明は、ボトムエッミッション型、トップエミッション型、または両面発光型が可能な発光装置を提供することができる。さらに、本発明は、プラスチック基板の様な軽量で割れ難い基板、もしくは可撓性のある基板を用いた発光装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
最初に、本発明の発光装置の概略を説明する。
【0018】
本発明者らは、TFT(薄膜トランジスタ)チャネル層用半導体材料の探索、およびTFTと発光素子との集積化に関する研究を精力的に行った。その結果、チャネル層にある種の半導体材料を用いた場合、TFTと発光素子の接続を容易にするために、TFTと発光素子を並列配置しても高精細化が可能であることを見出した。
【0019】
まず、代表的な発光装置を仮定し、それを構成する発光素子を駆動するために必要な電流を以下のように見積もってみる。
【0020】
対角60インチカラーフルハイビジョン(1080p)パネルの最大画素サイズは692×231(um)である。これと同じ発光面積をもつ素子を、配線等の非発光面積や光の取り出し損失を見込んで、最大輝度2000cdm−2で駆動したいとする。発光効率が、5cdA−1である場合、必要な電流は1000×(692×10−6)×(231×10−6)/5=64×10−6(A)である。
【0021】
次に、これを駆動するTFTに必要な電界効果移動度μを求める。
【0022】
駆動TFTは主に飽和領域で用いられるので、TFTの電流電圧特性の式はIds=(1/2L)WμCi(Vgs−Vth)となる。ここで、Wはチャネル幅(um)、μは電界効果移動度(cm−1−1)、Ciはゲート絶縁膜の単位面積あたりのキャパシタンス(Fcm−2)、Vgsは駆動TFTのゲート−ソース電圧(V)、Vthは駆動TFTの閾値電圧(V)である。
【0023】
TFTと発光素子とを並列配置する場合、TFT部は発光しないためTFTのレイアウト面積への要求性能は厳しいものとなる。TFTと発光素子とを並列配置しながら必要な開口率を確保できるための最大のチャネル幅がW=690(um)であるとし、L=5(um)、Ci=17nFcm−2(200nm厚SiO)、(Vgs−Vth)=4(V)と仮定する。
【0024】
ここで、実験室レベルにおける非晶質シリコンTFTの電界効果移動度の最大値として1を仮定すると、上式よりドレイン電流の最大値は19μAとなる。この試算は一例であるが、すなわち、電界効果移動度1程度のTFTを用いると、チャネル幅を大きくしなければ、発光素子に必要な電流駆動力を出すことができない。製品としての非晶質シリコンTFTにおいては、さらに電界効果移動度が小さいため、非晶質シリコンTFTを用いる以上、発光素子とTFTを並列配置した発光装置の作製は非常に困難である。
【0025】
他方、酸化物半導体をチャネル層に用いた場合、例えばμが5程度以上のTFTを容易に作製することができる。したがって、酸化物半導体は上記のような発光素子とTFTとが並列配置された発光装置の駆動TFTに好適に用いることができる。
【0026】
また、必要最低限以上に電界効果移動度が大きい場合には、別な利点が生まれる。例えば、実際のWを690umよりも小さくすることができる。すなわち、この場合には開口率を大きくすることができる。これにより、発光素子の電流密度が減少し、発光素子が有機EL素子である場合にはその劣化を遅らせることができる。また、開口率を大きくする代わりに画素回路に用いるTFTの数を増やしてもよい。これにより、TFT自体の劣化の影響を打ち消すなどの高度な機能を画素回路に付与することができる。
【0027】
発光素子としては有機化合物からなるEL素子(有機EL素子)が望ましい。この場合、構成各要素(陽極・発光層・陰極)の成膜温度が低いため、プラスチックなどの可撓性基板上に発光装置を作製することができる。
【0028】
さらに、良好な表示のために発光層の第1または第2電極のうち少なくとも一方は十分な光透過率を確保することが求められる。基板側の第1電極を実質透明とすることで、ボトムエミッション型発光装置を作製することができる。また、基板と反対側の第2電極を実質透明とすることで、トップエミッション型発光装置を作製することができる。また、第1および第2電極の両方の透過率を高めることで、両面発光素子を作製することができる。透明導電性酸化物が以上の目的を満たす透明電極材料として好適である。
【0029】
これより、本発明の発光装置の実施の形態を図を参照しながら詳細に説明する。
【0030】
まず、図1を用いて本発明の最も基本的な実施形態を説明する。
【0031】
本発明の発光装置は、基板1と、該基板に接して形成された、発光素子18と、TFT10と、から少なくとも構成される。前記発光素子18は、第1の電極8と、発光層12と、第2の電極13が基板側からこの順に積層されてなる。前記TFT10は、ソース6・ドレイン5・ゲート2の各電極、ゲート絶縁膜3、チャネル層4、およびチャネル保護層9からなる。
【0032】
ここで、TFT10のチャネル層4はn型半導体であり、ドレイン電極5は発光素子の第2電極13と接続されている。また、基板1表面への投影で見るとTFT10は発光素子18と並列配置されている。また、基板1表面と垂直方向への投影で見ると、TFT10の設置面と、発光素子18の設置面とを概略等しい高さとし、配線の確実さを確保する。さらに、TFT10の電界効果移動度を1cm−1−1より大きくすることで、必要な開口率を確保する。
【0033】
次に、本発明の発光装置の最も基本的な実施形態の製造方法を、図2を参照して説明する。
【0034】
まず、基板1に接してTFT10を、以下の手順で作製する。基板1に、ゲート電極2および配線7を、そしてゲート絶縁膜3、チャネル層4を形成する。次に、ソース電極6およびドレイン電極5を、そしてチャネル保護層9を形成する。次に、発光素子の第1電極8を基板に接して直接形成する。次に、第1電極上に発光素子の発光層12を積層する。第2電極13の形成直前において、TFTのドレイン電極5の少なくとも一部が露出していることが求められる(図2の指示番号11)。ドレイン電極5を露出させるために、予め発光層をドレイン電極5上の一定領域に形成しないか、もしくは一旦形成した後に除去する。続いて、発光層12上に第2電極13を積層する。このとき、第2電極13はドレイン電極5の露出部11上へ延在しており、電極13とドレイン電極5双方が接続される。なお、第2電極13は、以上のように形成と同時にTFTのドレイン電極と接続されてもよいし、他の工程および接続部材を伴って接続されてもよい。
【0035】
最後に、発光素子18を大気中の酸素や水分などから保護するために、基板上の少なくとも発光素子18を含む部分を封止する。これを、例えば図2のように光硬化樹脂14・16と無機スパッタ膜15の任意周期の積層とオーバーコート層17の形成によって行ってもよいし、金属缶やガラスによってキャップをしてもよい。
【0036】
本形態では、TFT10の設置面と発光素子18の設置面との高低差はゼロとみなせる。したがって、第2電極13が超える高低差は、高々発光層の厚み程度となり、高い歩留まりが期待できる。
【0037】
また、別の実施形態では、発光素子の第1電極8を作製するべき箇所の基板が露出しておらず、基板との間に何らかの絶縁層が挿入されていてもよい。この場合、配線が超える高低差は発光層12の厚みと、上記絶縁層の厚みの合計程度となる。ただし、発明の効果を得るためにはこの絶縁層の厚さを十分小さくすることが求められる。
【0038】
この例の1つとして、図3のようにTFTのチャネル保護層9を、エッチングせずに基板1上に広く残しておく場合が挙げられる。この場合、TFTのドレイン電極5上方の少なくとも一部にコンタクトホール19を設け、後にドレイン電極5が発光素子の第2電極13と接続できるように露出しておくことが求められる。
【0039】
本形態では、TFT10の設置面と発光素子18の設置面との高低差は、チャネル保護層9の厚みである。配線が超える高低差は、発光層12の厚みとチャネル保護層9の厚みの合計程度となる。前述の最も基本的な構成と比較すると高低差が増すが、チャネル保護層9は400nm程度の厚さで十分なTFT保護性能を発揮するため、本形態では高い歩留まりが期待できる。また、何らかの原因でチャネル保護層9のパターニングの空間分解能が悪い場合、本形態は先述の最も基本的な構成と比較して素子不良を回避しやすい。
【0040】
また、本形態の別の例として、図4のようにTFTを作製した後で、第1電極8を作成するべき箇所の基板1上に第1電極の平坦化膜20を設ける場合が挙げられる。ここで、平坦化膜20は第1電極8の面積程度の領域にわたって基板1の表面粗さを吸収できればよく、層間配線のための平坦化膜に対して膜厚が一桁程度以上薄い。この場合も、上と同様にドレイン電極の少なくとも一部は露出させておく。
【0041】
本形態では、TFT10の設置面と発光素子18の設置面との高低差は、平坦化膜20の厚みである。配線が超える高低差は発光層12と平坦化膜20の厚みの合計程度となり、高い歩留まりが期待できる。さらに本形態では、第1電極8の凹凸による電界集中を回避し、発光素子18の短絡や劣化を防ぐことができる。
【0042】
本形態の上記絶縁層に当てはまらない、好ましくない例としては、層間配線をするための平坦化膜がある。これは下地の段差を吸収するために厚さが数μm程度あり、発光素子とTFTとの接続配線がこのような段差を越えると本発明の効果が得られない。
【0043】
また、本形態の上記絶縁層に当てはまらない、他の好ましくない例としては、発光層を塗布形成する場合に発光層溶液を閉じ込めるための隔壁がある。これも少なくとも1μm程度以上の厚みがあり、発光素子とTFTとの接続配線がこのような段差を越えると本発明の効果が得られない。
【0044】
次に、本発明のさらに別の実施形態を説明する。これは、発光層を塗布工程により形成する場合に特に適したものである。
【0045】
本実施形態の発光装置は、基板1と、発光素子18と、TFT10に加え、隣接画素間の発光層を隔てるための隔壁21を具える。前記発光素子1は、第1の電極8と、発光層12と、第2の電極13が基板側からこの順に積層されてなる。前記TFT10は、ソース6・ドレイン5・ゲート2の各電極、ゲート絶縁膜3、チャネル層4、およびチャネル保護層9を有する。
【0046】
本実施形態の発光装置の製造方法を、図5を参照しながら説明する。
【0047】
まず、基板1に接してTFT10を、上記と同様の手順で作製する。次に、発光素子18の第1電極8を基板に接して直接形成する。次に、隔壁21を感光性ポリイミドなどで形成する。発光層溶液が溢れ出して隣接画素へ浸入することを防ぐために、隔壁21には十分な厚みをもたせてある。次に、ドレイン電極5の一部を露出させるために、例えば、部分フッ素化アルカンチオールによる化学修飾を露出部11に施す。次に、発光層12の有機溶媒溶液を塗布し乾燥させ、第1電極上に発光層12を形成する。溶媒を乾燥させた時点で、露出部11の少なくとも一部に発光層12が形成されていない領域が残存している。続いて、発光層12上に第2電極13を積層する。このとき、第2電極13は露出部11上へ延在しており、電極13とドレイン電極5とが接続される。最後に、基板上の少なくとも発光素子18を含む部分を封止する。
【0048】
本形態によれば、画素ごとに異なる発光層12を、互いに混じり合わせることなく塗布形成することができる。なお、隔壁21は上記のようにTFTと並列配置してもよいし、図6のようにTFTのチャネル部を被覆するように設けてもよい。後者の場合、開口率の向上が期待できる。
【0049】
また、本形態の別様態として、図7のように隔壁を新たに設けず、TFTのチャネル保護層を厚く形成し(例えば〜1μm厚)、前記隔壁の機能を兼ねさせてもよい。そうすることで、画素ごとに異なる発光層を区別して塗布形成するための構造を、少ないフォトリソグラフィー工程数で実現することが可能である。
【0050】
これより、本発明の発光装置の諸構成要素について、より詳しく説明する。
【0051】
まず、基板について説明する。
【0052】
基板の材料としては、絶縁性の物質、例えばガラス、プラスチックなどが用いられる。また、シリコン単結晶などの半導体、および金属箔などの導体に、適宜絶縁膜を付加したものを用いることもできる。集積する発光素子が有機EL素子である場合、発光素子の劣化の抑制および歩留まりの向上のために、十分な平坦性と、水分や酸素などに対する十分なバリア性を持っていることが求められる。平坦性やバリア性などを持たせるための層を一様に1層以上積層してある場合は、機能上、それらの層も含めて基板と呼ぶ。
【0053】
次に、発光素子について説明する。
【0054】
(a)第1電極(下部電極)
十分なホール注入性をもたせるために、仕事関数の大きな材料が用いられる。加えて、ボトムエミッション型の場合は十分な透明性が求められる。また、第1電極の発光層側表面に突起があると素子の電界集中を招き発光素子の劣化につながるため、十分な平坦性が求められる。錫ドープ酸化インジウム(ITO)や、金、白金などが用いられる。
【0055】
(b)発光層
まず、表示に必要な発光特性を示すことが求められる。良好な発光特性を発現するために、実際には単層ではなく以下のような多層膜が好適に用いられる。ホール輸送層/発光層兼電子輸送層(電子輸送機能を有する発光層)、ホール輸送層/発光層/電子輸送層、ホール注入層/ホール輸送層/発光層/電子輸送層、ホール注入層/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層。以降、本明細書では上記多層構造をまとめて発光層と呼ぶ。しかし、本発明の発光層は、以上の例に限定されはしない。
【0056】
発光層の成膜法は、ドライプロセスでもウェットプロセスでもよい。前者は真空蒸着法を含み、後者はスクィージー印刷、グラビア印刷、インクジェット塗布、ディスペンサ塗布などを含む。
【0057】
また、発光層においては、次の(1)または(2)のいずれかの処理ができることが求められる。(1)続く工程で発光素子の第2電極13がTFTのドレイン電極に接続されるために、ドレイン電極5上の少なくとも一部に発光層が形成されないように、適当な手段でパターニングできる。(2)一旦発光層を均一に形成した後、何らかの手段でドレイン電極5上に形成された発光層の少なくとも一部を除去できる。
【0058】
このうち(1)は、初めから露出部に発光層を形成しないことであっても、下地材料による表面エネルギーの違いなどにより自発的に開口を形成することであってもよい。
【0059】
上記前者の例はマスキングであり、シャドーマスク真空蒸着法などが含まれる。シャドーマスク法によれば、発光層のパターニング時に基板を汚染してしまう危険性が少ない。
【0060】
上記後者の例は、発光層を特に塗布もしくは印刷などの工程によって作製する場合に有効であるが、TFTドレイン電極の露出部に対して表面エネルギーの低くなる表面処理(疎水化処理)を施すことが挙げられる。疎水化処理を行うと、アライメント(基板の位置決め)工程を必ずしも必要とせずに、吸着母材選択的な表面処理が行えるため、発光装置を低コストで製造できる。具体的には、部分フッ素化アルカンチオールなどにより電極表面を化学修飾した後に有機層溶液を塗布・乾燥することで開口を形成できる。特に、部分フッ素化アルカンチオールによる化学修飾処理は化学的に安定で緻密な膜が得られ、かつ吸着母材選択性が高く、パターニングの効果が高いので好ましい。このとき、ドレイン電極の表面が金やパラジウムなどであることが好ましいが、これに限定はされない。
【0061】
また、(2)の加工手段はレーザ加工や機械加工、収束イオンビーム加工などが含まれる。このうちレーザ加工は他分野(プリント基板加工など)への応用実績も豊富な技術であるため、発光装置を低コストで製造できる。
【0062】
(c)第2電極(上部電極)
十分な電子注入性(低仕事関数)をもつ金属や金属酸化物が用いられる。トップエミッション型の場合は十分な透明性を備えていることが求められる。具体的には、マグネシウムドープ銀や、アルカリ金属塩とアルミニウムの2層蒸着膜等が利用可能である。
【0063】
(d)TFT
まず、構造について説明する。上記説明ではTFTの例として逆スタガ構造のTFTを用いたが、TFTとして、正スタガ型、逆スタガ型、正コプラナー型、逆コプラナー型のいずれかを用いることができる。
【0064】
次に、チャネル層について説明する。
【0065】
スパッタ法や電子線蒸着法などのドライ成膜法、あるいはゾルゲル法や印刷などのウェット成膜法のいずれかによって成膜されるn型半導体が用いられる。そして、電界効果移動度が1cm−1−1より大きいことが求められる。酸化物半導体はこの基準を満たすチャネル材料として用いることができる。つまり、チャネル層は、InとGaとZnからなる群のうち少なくとも1つの元素を含む。非晶質のものでは、In−Ga−Zn−O系薄膜、多結晶質のものではZnO、In−Zn−O系混晶薄膜などを用いることができる。特に、In−Ga−Zn−Oスパッタ膜を用いれば、少なくともチャネル層が可視光領域において透明であり、電界効果移動度が大きなTFTを作製することができる。また、チャネル材料のスパッタ成膜が可能であるため、大面積の発光装置を作製することができる。また、チャネル材料の成膜温度が低いため、プラスチックなどの可撓性基板上に発光装置を作製することができる。さらには、In−Ga−Zn−Oスパッタ膜において、少なくとも一部を非晶質とすることが望ましい。これにより、エッチング加工性が向上する。また、スパッタ膜全体が非晶質であれば、低温ポリシリコンTFTで見られるような隣接画素回路間の特性ばらつきを防ぐことができる。
【0066】
TFTにおける電界効果移動度の測定法にはいくつかの定義があり、飽和領域での電界効果移動度は、例えば次のようにして求めることができる。ドレイン−ソース電流(Ids)の平方根をゲート−ソース電圧(Vgs)に対してプロットし、傾きが最大になるゲート電圧において接線を引き、この切片と傾きから電界効果移動度と閾値電圧を求めることができる(√Ids−Vgs法)。
【0067】
次に、ゲート、ソース、ドレイン電極、配線について説明する。
【0068】
ソース・ドレイン・ゲートの各電極や、電源線・セレクト線・データ線等の配線としては、AlやCr、Wなどの金属やAl合金、WSi等のシリサイドなどが利用可能である。1本の配線が複数の材料の接続により形成されていてもよい。また、多層膜であってもよい。有機膜をパターニングする際、ドレイン電極の表面修飾を行う場合には電極材料を適切に選択することが求められる。例えば、チオールによる表面修飾を行う場合には、ドレイン電極の少なくとも最表面は金やパラジウムなどであることが好ましい。
【0069】
次に、ゲート絶縁層について説明する。
【0070】
平坦な膜が形成でき、ゲート−ソースリーク電流Igsがドレイン−ソース電流Idsに比べて実用上十分小さい材料であることが求められる。化学蒸着(CVD)成膜によるSi、SiO、SiOや、RFマグネトロンスパッタによるSiO等、およびこれらからなる多層膜の中から選ばれる。CVDによる成膜は、成膜速度が大きく、製造時間を短縮することができ好ましい。また、RFマグネトロンスパッタによる成膜は、緻密で熱的・化学的に安定な膜を与え、TFTの環境安定性の点で好ましい。
【0071】
次に、チャネル保護層について説明する。
【0072】
これは、TFT作製後、後続プロセスの薬液や、使用環境での雰囲気などからチャネル層を保護するためのものである。TFTのドレイン電極の少なくとも一部が露出するように、適当な手段でパターニングできるものであることが求められる。チャネル保護層はゲート絶縁膜と同様の材料群から選んで用いられる。
【実施例】
【0073】
これより、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の例に限定されはしない。
【0074】
(実施例1)
本実施例では、本発明に従う発光装置を作製し、評価した。
【0075】
まず、TFTチャネル層として用いるアモルファスIn−Ga−Zn−Oスパッタ膜の評価をした。
【0076】
被成膜基板としてはガラス基板(コーニング社製1737)を脱脂洗浄したものを用意した。ターゲット材料としては、InGaO(ZnO)組成を有する多結晶焼結体(サイズ98mmΦ5mmt)を用いた。この焼結体は出発原料として、In:Ga:ZnO(各4N試薬)を湿式混合(溶媒:エタノール)し、仮焼結(1000度:2時間)乾式粉砕、本焼結(1500℃:2時間)を経て作製した。このターゲットの電気伝導度は0.25(Scm−1)であり、半絶縁体状態であった。堆積室内の到達真空は、3×10−4Paであり、成膜中の全圧を0.53Paとし、酸素ガス比を3.3%とした。また、基板温度は特に制御せず、ターゲットと被成膜基板間の距離は80(mm)であった。投入電力はRF300Wであり、成膜レートは、2(Ås−1)で行った。
【0077】
60nm積層した膜に対し、測定対象面に対して入射角0.5度でX線を入射させX線回折測定を行った(薄膜法)。その結果明瞭な回折ピークは認められなかったことから、作製したIn−Ga−Zn−O系薄膜はアモルファスであると判断された。
【0078】
蛍光X線(XRF)分析の結果、薄膜の金属組成比はIn:Ga:Zn=1:0.9:0.6であった。さらに、斜入射X線反射率測定(Grazing incidence x−ray reflectivity:GIXR)では、Kiessig fringesと呼ばれる明瞭な振動が広い2θ範囲にわたって見られ、膜の高い平滑性が示唆された。また、同薄膜の電気伝導度を測定したところ、約7×10−5(Scm−1)であった。得られた薄膜を白色光に透かしてみたところ、肉眼では呈色していなかった。
【0079】
以上のことから、作製したIn−Ga−Zn−O系薄膜は、結晶のInGaO(ZnO)0.6の組成に近いアモルファス層であり、酸素欠損が少なく、電気伝導度が小さな透明な平坦薄膜であることが分かった。
【0080】
次に、逆スタガ型TFTを、下記の手順で作製した。
【0081】
ガラス基板(コーニング社製1737)について超音波脱脂洗浄をアセトン、IPA、超純水により各5分づつ行った後、空気中100℃で乾燥させた。この上にゲート電極として、電子ビーム蒸着法でチタンと金を合計50nm蒸着し、リフトオフ法でパターニングした。次に、RFマグネトロンスパッタにより、ゲート絶縁膜となるSiO層を全面に成膜した(成膜ガスAr、成膜圧力0.1 Pa、投入電力400W、膜厚100nm)後、エッチングでパターニングした。続いて、チャネル層となるアモルファスIGZO層をRFマグネトロンスパッタにより成膜した(成膜ガスO(3.3%)+Ar、成膜圧力0.53Pa、投入電力300W、膜厚50nm)。続いて、チャネル層をエッチングでパターニングした。これらのスパッタ成膜中には基板温度は特に制御しなかった。最後に,電子ビーム蒸着法で再びチタンと金を合計200nm成膜し、ソース電極およびドレイン電極を形成した。チャネル長とチャネル幅はそれぞれL=10(μm)、W=40(μm)とした。
【0082】
図8に、上記手順で作製したTFTにおいて室温下で測定したIds−Vgs特性を示す。ドレイン−ソース電圧(Vds)は+10(V)とした。on/off比を、Vgs=+20(V)のときのIdsの、Vgs=0(V)のときのIdsに対する比として定義すると、6.5×10であった。また、√Ids−Vgs法により、電界効果移動度と閾値電圧を求めたところ、3.5(cm−1−1)、+7.2(V)であった。
【0083】
以上より、チャネルがn型半導体であることが明らかであり、アモルファスIn−Ga−Zn−O系半導体がn型であるという事実と矛盾しない。しかも、TFTの電界効果移動度は十分大きく、この発光装置構成での画素の高精細化が可能である。
【0084】
次に、発光装置を製作した。
【0085】
上記と同様の方法で予めTFTが形成されたガラス基板上に、次の手順で有機EL素子を作製し、TFTと有機EL素子を集積することができる。ただし、L=5(μm)、W=690(μm)とし、配線を除いた駆動TFTの面積を0.02mm以下とする。
【0086】
TFT保護層となるSiOをRFマグネトロンスパッタにより成膜し、エッチングによりパターニングする。さらに、基板上のTFTと隣接する領域に、有機EL素子陽極となるITO電極をRFマグネトロンスパッタにより成膜し、エッチングによってパターニングする。こうすることで、TFTの設置面と発光素子との設置面との高さが揃っている。
【0087】
ITO電極上に、有機EL素子の発光層として、次のものをこの順に抵抗加熱法により真空蒸着する。銅フタロシアニン(CuPc)、N,N’−ジ−1−ナフチル−N,N’−ジフェニル−1,1’−ビフェニル−4,4’ジアミン(α−NPD)、トリス(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム(III)(Alq3)。このとき、TFTのドレイン電極上の一部領域上にはいずれの層も形成させずに露出させておくために、シャドーマスクを用いて各層のパターニングを行う。最後に、有機EL素子陰極としてフッ化リチウムとアルミニウムを別なシャドーマスクを通して抵抗加熱により真空蒸着する。この陰極はTFTのドレイン電極上の前記露出領域に重なるように延在しており、この成膜操作をもってTFTと有機EL素子との接続が完了する。また、有機EL素子の有効面積は陰極と陽極の重なった領域により定まり、0.08mm程度とする。
【0088】
有機EL素子の陽極を電源に接続し、TFTのソース電極を接地する。TFTのゲート電極に信号電圧を印加すると、印加電圧に応じて変調された有機EL素子の発光が得られる。
【0089】
上記発光装置は、TFTと発光素子との接続不良に基づく不良画素が少ない。かつ、各画素の発光素子とTFTを合わせた面積が十分小さく、発光装置の高精細化が可能である。
【0090】
(実施例2)
実施例1と同様にして予めTFTが形成されたガラス基板上に次の手順で有機EL素子を作製し、TFTと有機EL素子を集積することができる。
【0091】
TFT保護層となるSiOをRFマグネトロンスパッタにより成膜し、エッチングによりパターニングする。続いて、基板上のTFTと隣接する領域に有機EL素子陽極となるITO電極をRFマグネトロンスパッタにより成膜し、エッチングによってパターニングする。続いて、感光性ポリイミドにより、発光層の画素分離のための隔壁を形成する。隔壁は、TFTおよび発光素子の陽極がともに露出するように形成する。また、隔壁の厚さは1μm以上とする。ITO電極の親水処理・隔壁の撥水処理として、それぞれ酸素プラズマ処理・フッ素プラズマ処理を行う。続いて、疎水化処理として部分フッ素化アルカンチオールであるCF(CF(CHSH のトルエン溶液に浸漬し、トルエンで十分にリンスしよく乾燥する。この操作により、ドレイン電極の露出部のみに部分フッ素化アルカンチオールを付着させ、続く発光層の塗布に対し撥液性を付与する。
【0092】
ホール注入層として、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリ(スチレンスルホナート)(PEDOT:PSS)水溶液、発光層としてLUMATION green 1303(ダウケミカルカンパニー社製)溶液を順に塗布する。そして、不活性雰囲気中で乾燥させる。この時点で、ドレイン電極上に発光層が形成されずに露出している領域が一部残っている。
【0093】
最後に、有機EL素子陰極としてフッ化リチウムとアルミニウムを、シャドーマスクを通して抵抗加熱により真空蒸着する。ここでも、有機EL素子の有効面積は陰極と陽極の重なった領域により定まり、0.08mm程度とする。この陰極はTFTのドレイン電極の前記露出領域に重なるように延在しており、この成膜操作をもってTFTと有機EL素子との接続が完了する。
【0094】
有機EL素子の陽極を電源に接続し、TFTのソース電極を接地する。TFTのゲート電極に信号電圧を印加すると、印加電圧に応じて変調された有機EL素子の発光が得られる。
【0095】
上記発光装置はTFTと発光素子との接続不良に基づく不良画素が少ない。かつ、各画素の発光素子とTFTを合わせた面積が十分小さく、発光装置の高精細化が可能である。しかも、隔壁を形成したことにより、発光層を画素間で混ざり合わずに塗布形成することができる。また、発光層を形成しない上記領域を設ける手段が疎水化処理であることによって、有機層のパターニングのためのアライメント工程が不要であり、安価に発光装置を作製できる。さらに、疎水化処理が部分フッ素化アルカンチオールによる化学修飾処理であるため、化学的に安定で緻密な疎水性皮膜が得られパターニングの効果が高い。
【0096】
(実施例3)
実施例1と同様に予めTFTが形成されたガラス基板上に次の手順で有機EL素子を作製し、TFTと有機EL素子を集積することができる。
【0097】
まず、TFT保護層となるSiOをRFマグネトロンスパッタにより成膜し、エッチングによりパターニングする。続いて、基板上のTFTと隣接する領域に有機EL素子陽極となるITO電極をRFマグネトロンスパッタにより成膜し、エッチングによってパターニングする。続いて、感光性ポリイミドにより、発光層の画素分離のための隔壁を形成する。隔壁は、TFTのチャネル部分を被覆し、かつドレイン電極の一部が露出するように設ける。また、隔壁の厚さは1μm以上とする。ITO電極の親水処理・隔壁の撥水処理として、それぞれ酸素プラズマ処理・フッ素プラズマ処理を行う。ホール注入層としてPEDOT:PSS水溶液、発光層としてLUMATION green 1303(ダウケミカルカンパニー社製)溶液を順に塗布し、不活性雰囲気中で乾燥させる。この時点で、TFTのドレイン電極のうち隔壁外部に露出した部分上には発光層が形成されている。この部分の一部について、パワーを適切に調節した近赤外レーザ加工機によりホール注入層と発光層だけをアブレーションして除去する。最後に、シャドーマスクを通して有機EL素子陰極を抵抗加熱により真空蒸着する。ここでも、有機EL素子の有効面積は陰極と陽極の重なった領域により定まり、0.08mm程度とする。この陰極は前記レーザ加工領域に重なるように延在しており、この成膜操作をもってTFTと有機EL素子との接続が完了する。
【0098】
有機EL素子の陽極を電源に接続し、TFTのソース電極を接地する。TFTのゲート電極に信号電圧を印加すると、印加電圧に応じて変調された有機EL素子の発光が得られる。
【0099】
上記発光装置はTFTと発光素子との接続不良に基づく不良画素が少ない。かつ、各画素の発光素子とTFTを合わせた面積が十分小さく、発光装置の高精細化が可能である。しかも、TFTのチャネル部が隔壁の内部に内蔵されており、開口率を大きくとることができる。さらに、発光層を形成しない上記領域を設ける手段がレーザアブレーションであることによって、安価に発光装置を作製できる。
【0100】
(実施例4)
実施例3において、SiOのスパッタリングに続き、CVDによりSiを成膜する(〜3μm厚)。この2層膜を一括してパターニングし、「TFTチャネル部の保護層」兼「発光層の隔壁」とする。この隔壁は、TFTのチャネル部分を被覆し、かつ少なくともドレイン電極の一部が露出するように設ける。続いて、基板上のTFTと隣接する領域に有機EL素子陽極となるITO電極をRFマグネトロンスパッタにより成膜し、エッチングによってパターニングする。ITO電極の親水処理として、酸素プラズマ処理を行う。以下、ホール注入層・発光層以降の工程は実施例3と同様である。
【0101】
有機EL素子の陽極を電源に接続し、TFTのソース電極を接地する。TFTのゲート電極に信号電圧を印加すると、印加電圧に応じて変調された有機EL素子の発光が得られる。
【0102】
上記発光装置はTFTと発光素子との接続不良に基づく不良画素が少ない。かつ、各画素ごとの発光素子とTFTを合わせた面積が十分小さく、発光装置の高精細化が可能である。しかも、TFTのチャネル保護層が隔壁を兼ねているため、発光層が塗布形成可能であり、かつ開口率を大きくとることができる。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明に係る発光装置およびその製造方法は、有機電界発光ディスプレイをはじめとする各種フラットパネルディスプレイに幅広く用いられる。また、被駆動素子の面積を確保するために高移動度n型半導体を用いるという点は、TFTをスイッチング素子に用いた表示素子アレイだけでなく同各種センサアレイ、また同アクチュエータアレイなどにも幅広く応用できる。また、n型半導体に室温形成できるものを選ぶことにより、プラスチックなどの低融点基板上に作製でき、ICカードやIDタグなど幅広い分野に応用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】本発明の発光装置の基本となる実施形態を説明する断面図である。
【図2】本発明の発光装置の基本となる実施形態を製造する工程の説明図である。
【図3】本発明の発光装置の別形態を説明する断面図である。
【図4】本発明の発光装置の別形態を説明する断面図である。
【図5】本発明の発光装置の別形態を製造する工程の説明図である。
【図6】本発明の発光装置の別形態を説明する断面図である。
【図7】本発明の発光装置の別形態を説明する断面図である。
【図8】Ids−Vgs特性(実線)と、√Ids−Vgs特性(破線)を示す図である。
【符号の説明】
【0105】
1 基板
2 ゲート電極
3 ゲート絶縁膜
4 チャネル層
5 ドレイン電極
6 ソース電極
7 配線
8 第1電極
9 チャネル保護層
10 TFT
11 ドレイン電極の露出部
12 発光層
13 第2電極
14 光硬化樹脂
15 無機スパッタ膜
16 光硬化樹脂
17 オーバーコート層
18 発光素子
19 コンタクトホール
20 第1電極の平坦化膜
21 隔壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、第1の電極と発光層と第2の電極が基板側からこの順に積層されてなる発光素子と、n型の薄膜トランジスタと、から少なくともなる発光装置であって、
該発光素子と該トランジスタとは、該基板に接して並列配置され、
該トランジスタのチャネル層の電界効果移動度は、1cm−1−1以上であり、かつ、
該第2の電極は、前記トランジスタのドレイン電極と接続されていることを特徴とする発光装置。
【請求項2】
前記トランジスタのチャネル層は、InとGaとZnからなる群のうち少なくとも1つの元素を含み、かつ少なくとも一部が非晶質の酸化物であることを特徴とする請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
前記発光層は、有機化合物からなることを特徴とする請求項1または2に記載の発光装置。
【請求項4】
前記第1の電極と第2の電極の少なくとも一方は、透明導電性酸化物であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項5】
前記基板と前記第1電極の間に、絶縁体が挿入されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項6】
前記絶縁体は、チャネル保護層であることを特徴とする請求項5に記載の発光装置。
【請求項7】
前記絶縁体は、第1電極の平坦化膜であることを特徴とする請求項5に記載の発光装置。
【請求項8】
互いに隣接して配置された画素間に、発光層を隔てるための隔壁を有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項9】
前記隔壁の内部に、前記トランジスタの少なくともチャネル部の一部が形成されていることを特徴とする請求項8に記載の発光装置。
【請求項10】
チャネル保護層がさらに設けられ、該チャネル保護層が前記隔壁を兼ねていることを特徴とする請求項8に記載の発光装置。
【請求項11】
基板上に、ゲート電極、配線、ゲート絶縁膜、チャネル層、ソース電極、ドレイン電極、チャネル保護層よりなる、n型の薄膜トランジスタを形成する工程と、
該基板上に該トランジスタと並列するように発光素子の第1電極を形成し、そして該第1電極上に発光層を積層する工程と、
該発光層および該トランジスタのドレイン電極上に前記発光層と前記ドレイン電極の双方を接続するように、第2電極を積層する工程と、
発光素子およびトランジスタが形成された該基板上の少なくとも発光素子を含む部分を封止する工程と、
から少なくともなり、
該第1電極上に発光層を積層する工程の後に、該トランジスタのドレイン電極の表面のうち少なくとも一部には、該発光層が形成されていないことを特徴とする発光装置の製造方法。
【請求項12】
前記第1電極上に発光層を積層する工程の前に、ドレイン電極の表面の少なくとも一部に対する疎水化処理を行う工程を含むことを特徴とする請求項11に記載の発光装置の製造方法。
【請求項13】
前記疎水化処理は、ドレイン電極の表面の部分フッ素化アルカンチオールによる化学修飾処理であることを特徴とする請求項12に記載の発光装置の製造方法。
【請求項14】
前記第1電極上に発光層を積層する工程の後に、トランジスタのドレイン電極上に発光層を形成する工程と、該ドレイン電極上に形成された該発光層の一部を除去する工程と、を含むことを特徴とする請求項11に記載の発光装置の製造方法。
【請求項15】
前記発光層を除去する工程は、レーザアブレーションによる処理を含むことを特徴とする請求項14に記載の発光装置の製造方法。

【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−277101(P2008−277101A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−118737(P2007−118737)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】