説明

発光装置および光生成方法

【課題】GaN基板を電流経路として有効利用した発光ダイオード素子を用いて、高信頼性化および発光効率の向上を図った発光装置を提供する。
【解決手段】この発光装置は、下記(A)の発光ダイオード素子と、該発光ダイオード素子に印加される電流が最大電流Imaxを超えないように制御する制御回路と、を備え、(a)Imax/A≧220〔A/cm〕;かつ(b)下記(A)の発光ダイオード素子のI−V曲線が、20(mA)〜Imax(mA)の範囲内に、該曲線の傾きの変化率が減少から増加に転じる点を有さない、ことを特徴とする。(A)活性層を含む複数のGaN系半導体層を有する積層構造がGaN系半導体基板の主面上に設けられ、n側電極が該GaN系半導体基板の表面または該GaN系半導体基板上に積層されたコンタクト層の表面の一部に形成され、該n側電極の面積Aが該活性層の面積Aの20%以下である、発光ダイオード素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GaN系半導体基板上にGaN系半導体からなる積層構造(発光構造)を設けてなる発光ダイオード素子を用いた発光装置に関し、特には、GaN系半導体基板を電流経路として有効利用した発光ダイオード素子を用いて、高信頼性化および発光効率の向上を図った発光装置に関する。本発明は、また、GaN系半導体基板上にGaN系半導体からなる積層構造(発光構造)を設けてなる発光ダイオード素子を用いた、光の生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
GaN系半導体とは、化学式AlInGa1−a−bN(0≦a≦1、0≦b≦1、0≦a+b≦1)で表される化合物半導体であり、3族窒化物半導体、窒化物系半導体などとも呼ばれる。pn接合構造、ダブルヘテロ構造、量子井戸構造などの発光素子構造をGaN系半導体で構成した発光ダイオード素子(以下、「LED素子」または単に「素子」ともいう)は、緑色〜近紫外の光を発生することが可能であり、信号機やディスプレイ装置等の用途で実用化されている。また、このような発光ダイオード素子を蛍光体と組合せることにより構成された白色LEDが、液晶ディスプレイのバックライトや、照明用の光源として使用されている。最近では、このような発光ダイオード素子の中でも、近紫外光を発生させるものが、UV硬化樹脂やUVインキの硬化用光源として使用され始めている。
【0003】
従来、発光ダイオード素子の基板材料として、サファイア基板に代えてGaNやAlNなどのGaN系半導体基板を用いる試みが広くなされている(例えば特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−150220号公報
【特許文献2】特開2000−174338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、GaN系半導体基板を用いたLED素子は、サファイア基板を用いたものと比べると半導体中の転位欠陥の密度が低いので、電流の印加による半導体の劣化が生じ難いこと、また、GaN系半導体基板の熱伝導率がサファイア基板よりも良好であることから、高い電流密度で駆動するのに有利と考えられる。しかしながら、特許文献1、2のいずれにおいても、基板材料としてGaN基板を用いることは記載されているものの、例えば300〜400μm角の素子に100mA以上といった大電流を流すことは想定されていない。特許文献2では、素子に印加される電流は20mAである。
【0006】
他方で、LED素子からの光取出しを考えた場合、GaN系半導体基板の表面などに形成されるメタル電極は光吸収体として作用するので、こうした電極のサイズを小さくすることが、光の吸収を抑える点で有利である。
【0007】
そこで、本発明の目的は、メタル電極のサイズを小さくすると同時に、GaN系半導体基板を電流経路として有効利用した発光ダイオード素子を用いて、高信頼性化および発光効率の向上を図った発光装置を提供することにある。また、本発明の他の目的は、かかる発光ダイオード素子を用いて、高い効率で光を発生させる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨は以下に存する。
1.下記(A)の発光ダイオード素子と、該発光ダイオード素子に印加される電流が最大電流Imaxを超えないように制御する制御回路と、を備え、
(a)Imax/A≧220〔A/cm〕;かつ
(b)下記(A)の発光ダイオード素子のI−V曲線が、20(mA)〜Imax(mA)の範囲内に、該曲線の傾きの変化率が減少から増加に転じる点を有さない、
ことを特徴とする発光装置。
(A)活性層を含む複数のGaN系半導体層を有する積層構造がGaN系半導体基板の主面上に設けられ、n側電極が該GaN系半導体基板の表面または該GaN系半導体基板上に積層されたコンタクト層の表面の一部に形成され、該n側電極の面積Aが該活性層の面積Aの20%以下である、発光ダイオード素子。
【0009】
2.前記GaN系半導体基板がm面GaN基板である、上記1に記載の発光装置。
【0010】
3.前記GaN系半導体基板のキャリア濃度が2.5×1017〜5×1018cm−3の範囲内である、上記1または2に記載の発光装置。
【0011】
4.下記(A)の発光ダイオード素子に電流を印加して発光させることを含む、光の生成方法であって、該発光ダイオード素子に印加する最大電流をImaxとしたとき、
(a)Imax/A≧220〔A/cm〕;かつ
(b)下記(A)の発光ダイオード素子のI−V曲線が、20(mA)〜Imax(mA)の範囲内に、該曲線の傾きの変化率が減少から増加に転じる点を有さない、
ことを特徴とする方法。
(A)活性層を含む複数のGaN系半導体層を有する積層構造がGaN系半導体基板の主面上に設けられ、n側電極が該GaN系半導体基板の表面または該GaN系半導体基板上に積層されたコンタクト層の表面の一部に形成され、該n側電極の面積Aが該活性層の面積Aの20%以下である、発光ダイオード素子。
【0012】
5.前記GaN系半導体基板がm面GaN基板である、上記4に記載の方法。
【0013】
6.前記GaN系半導体基板のキャリア濃度が2.5×1017〜5×1018cm−3の範囲内である、上記4または5に記載の方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、GaN系半導体からなる発光構造をGaN系半導体基板上に備える発光ダイオード素子を含む、信頼性および発光効率が改善された発光装置が提供される。
【0015】
また、本発明によれば、GaN系半導体からなる発光構造をGaN系半導体基板上に備える発光ダイオード素子を用いて、高い効率で光を発生させる方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1形態の発光ダイオード素子の構成を模式的に示す断面図である。
【図2】第2形態の発光ダイオード素子の構成を模式的に示す断面図である。
【図3】第3形態の発光ダイオード素子の構成を模式的に示す断面図である。
【図4】発光ダイオード素子の具体的な構成例を示す図である。
【図5】発光ダイオード素子の模式的なI−V曲線である。
【図6】n側メタル電極形状の一例を示す平面図である。
【図7】実験例における発光ダイオード素子のI−V曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について幾つかの実施形態を例示して説明する。
1.LED素子
本発明の発光装置に使用することのできるLED素子の形態は様々であるが、以下では、いくつかの形態のLED素子の構成について最初に説明し、続いて全形態に共通する特徴部について説明する。図2〜図4においては、図1と同様の構造部に同一または対応する符号を付し、重複する説明は省略するものとする。また、各図に表された層構造はあくまで一例であって、本発明においては、単一の層として描かれているものが複数の半導体層で構成されていてもよいし、あるいは、複数の層として描かれているものが単一の半導体層で構成されていてもよい。
【0018】
(第1形態)
図1のLED素子は、n型導電性のGaN基板10と、その基板の主面(図示上面)10a上に形成された積層構造20とを備えている。積層構造20は、この例では、基板10側から順に、n型クラッド層23、活性層25、およびp型クラッド層27を有している。
【0019】
図1の素子は、また、GaN基板10の裏面に形成されたn側電極E1と、積層構造20上に形成されたp側電極E2とを有している。n側電極E1は、図示するようにGaN基板10の裏面の一部のみに形成されている。
【0020】
(第2形態)
図2のLED素子は、上記同様、n側導電性のGaN基板110と、その基板上に形成された積層構造120とを備えている。
【0021】
積層構造120は、一例として、基板110側から順に、n型クラッド層123、活性層125、第1のp型クラッド層127A、第2のp型クラッド層127B、およびp型コンタクト層129を有している。
【0022】
図2の素子では、積層構造120の一部をエッチングにより除去することでGaN基板110の露出した部分110sに、n側電極E1が直接形成されている。図1の素子と違って、基板厚み方向に投影して見た場合にn側電極と活性層とが重なっていないので、n側電極から基板に注入される電流は、その全てが基板の内部を横方向(厚さ方向に直交する方向)に拡散して活性層に達することになる。ゆえに、GaN基板の導電性を高くすることが、素子に大電流を流したときの順方向電圧を低くするうえで特に重要となる。
【0023】
(第3形態)
図3のLED素子は、基本的には図2の素子の電極配置と類似しているが、n側電極E1が基板に直接設けられていない点で相違している。すなわち、図3の素子は、エピタキシャル層としてn型クラッド層兼コンタクト層23′を有しており、n側電極E1はこの層23′上の一部に形成されている。
【0024】
このようにコンタクト層23′を介してn側電極E1が設けられるLED素子としては、さらに、図4に示すような素子であってもよい。図4のLED素子は、n型導電性のm面GaN基板210と、その基板上に形成された積層構造220とを備えている。積層構造220は、一例として、基板210側から順に、第1のアンドープGaN層221、n型GaNコンタクト層222、第2のアンドープGaN層223、n型クラッド層224、活性層225、p型クラッド層226、および、p型コンタクト層227を有している。
【0025】
積層構造220上には、オーミック性の透光性導電補助層E2bと、その層上に形成されたp側メタル電極E2aとが設けられている。n側電極E1は、積層構造220の一部をエッチングにより除去することでコンタクト層222が露出した部分222sに形成されている。
【0026】
(共通構造)
各形態に共通して、n側電極E1は、その面積Aが活性層の面積Aの20%以下、好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下となるように形成されている。なお、面積A、Aはそれぞれ基板厚み方向に投影して見た場合の電極および活性層の面積のことを意味する。n側電極E1の面積Aは小さくし過ぎると接触抵抗が増加する場合があるので、通常は活性層の面積Aの3%以上、好ましくは5%以上とする。
【0027】
なお、図4の素子においては「活性層の面積A」は素子のメサ部235における面積であり、具体的には、全体としては略矩形であって一部に略半円状の凹部が形成された平面形状の面積ということになる。
【0028】
GaN基板にはケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、錫(Sn)、酸素(O)のようなn型不純物がドープされ、そのキャリア濃度(≒不純物濃度)が2.5×1017cm−3以上、好ましくは5×1017cm−3以上とされる。キャリア濃度が2.5×1017cm−3より低い場合、抵抗が高く、電流経路としての機能が不十分となる。電流経路として機能させることだけを考えれば、GaN基板のキャリア濃度に特に上限はないが、エピタキシャル成長の下地としての機能を考慮すると、キャリア濃度は5×1018cm−3以下、更には1×1018cm−3以下に抑えることが望ましい。不純物の過剰な添加は結晶性を低下させるからである。結晶性を低下させないことは、基板の熱伝導率を低下させないためにも重要である。
【0029】
図3、図4のタイプの素子においては、GaN基板に電流経路としての機能を負担させることによって、n側電極E1が設けられるコンタクト層23′、222のコンタクト層を1μm未満に薄くすることができる。このことは、該層の形成に要する時間の短縮を通して、素子の製造コストの低下に寄与し得る。コンタクト層23′、222は、n側電極E1の接触抵抗を低くするために、GaN基板よりもキャリア濃度が高く設定される。
【0030】
活性層は、特に限定されるものではなく、従来から公知の構造を採用することができる。代表的なものとして、量子井戸層と障壁層とが繰り返し積層されたMQW(多重量子井戸)構造を挙げることができる。
【0031】
n型クラッド層としては、n型不純物をドープしたGaN系半導体を用いることができる。あるいは、GaN系半導体はアンドープの状態でもn型の導電性を示すので、n型クラッド層はアンドープのGaN系半導体で形成してもよい。
【0032】
p型クラッド層には、p型不純物をドープしたGaN系半導体を用いることができる。
【0033】
n側電極E1およびp側電極E2も、従来から公知の材料で形成することが可能であり、コンタクト抵抗が小さくなるような金属材料が選ばれる。n側電極E1には、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、タングステン(W)、バナジウム(V)、クロム(Cr)などを、p側電極E2については、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、金(Au)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)などを、好ましく用いることができる。
【0034】
図4の素子においてp型コンタクト層上に設けられたオーミック性の透光性導電補助層は、ITO(インジウム錫酸化物)のような透明導電性酸化物を用いて形成することができる。
【0035】
上記のように構成されたLED素子は、n側電極が小面積とされるにも拘わらず、GaN系半導体基板が電流経路として有効活用されることから、大電流を注入したときの動作電圧を低減させることができる。動作電圧が低い場合、素子の発熱が小さくなるので、結果として、素子を構成する部材の劣化が進み難くなり、信頼性や寿命の向上を図ることができる。また、発熱が小さいことから、素子の温度上昇に伴う内部量子効率の低下も抑えることができる。
【0036】
LED素子の発熱の低減は、当該素子だけでなく、素子が実装された発光装置において素子周辺に配置される部材、例えば、封止樹脂であるとか、素子の固定に用いられる接着材料の劣化抑制にも大きく寄与する。また、LED素子が白色LEDの励起用光源として使用される場合には、使用される蛍光物質の劣化が抑制される他、明るさを調節したときの色度変化も抑えられる。これは、蛍光物質の発光特性には温度依存性があるところ、LED素子の発熱が小さければ、LED素子に印加する電流を変化させたときの蛍光体の温度変化が抑えられるからである。
【0037】
また、メタル電極は一般に光吸収体として作用するものであるところ、上記のLED素子においてはn側電極が小さく形成されているので、電極による光の吸収が抑えられ、素子の発光効率を向上させることができる。
【0038】
(その他の構造)
n側電極は、例えば図6に示すような接続部E105a(ボンディングワイヤなどを接続するためのボンディングパッド部)と、電流を拡散させるための延長部E105bとを有するものであってもよい。この延長部E105bとしては、図示のような線状のものの他にも、ネット状または樹枝状(不図示)であってもよい。用語「電極の面積A」には、このような延長部E105bの電極面積も含まれる。このような延長部を有するn側電極は、通常、LED素子の面積が大きい場合(例えば、500μm角以上)に採用されるが、GaN系半導体基板を電流経路として有効に活用することにより、かかる延長部の面積を減らすことができる。
【0039】
(発光装置)
上記の各形態のLED素子は、セラミックパッケージ、樹脂パッケージ、スラグ、リードフレーム、ユニット基板などに実装された形で、本発明の発光装置に組み込まれる。また、本発明の発光装置は、SMD型LEDパッケージ(チップ型LEDと呼ばれることがある)、砲弾型ランプ、パワーLED、チップオンボード(COB)型ユニットなどを備え、その内部に上記の各形態のLED素子を含むものであり得る。更に、本発明の発光装置は、LED素子が放出する光の一部を吸収して、異なる波長の光に変換する蛍光物質を備えてもよい。従って、本発明の発光装置は白色LEDを含むものであり得る。
【0040】
本発明の発光装置は、LED素子に印加される電流を制御するための制御回路を備える。この制御回路は、発光装置の使用時にLED素子に印加される電流が、所定の最大電流値を越えないようにすることができるものであればよい。この制御回路の具体的な構成は特に限定されないが、一例として、公知の電流制限回路が挙げられる。
【0041】
本発明の発光装置は、使用時にLED素子に印加される最大電流値をImaxとしたときに、Imaxが下記条件(i)および(ii)を満たすことをひとつの特徴としている。
【0042】
max/A≧220〔A(アンペア)/cm〕・・・(i)
素子のI−V曲線において、20(mA)〜Imax(mA)の範囲内に該曲線の傾きの変化率が減少から増加に転じる点を有さない。・・・(ii)
【0043】
条件(i)は、活性層の面積Aが68400μm(6.84×10−4cm)のLED素子の場合であれば、使用時に当該LED素子に印加される最大電流値Imaxが0.15A(150mA)以上であることを示している。
【0044】
条件(ii)については、図5を参照して説明する。図5は、LED素子の模式的なI−V曲線である(横軸が電流If、縦軸が電圧Vf)。図示するように、LED素子のI−V曲線は、順方向電流値がIとなるまでは上に凸のカーブであるが、Iを超えると傾きが急増し、下に凸のカーブとなる。換言すれば、曲線の傾きの変化率がIを境に減少から増加に転じる。この変曲点における順方向電流値Iのことを、以下「変曲点電流値」ともいう。
【0045】
条件(ii)は、「最大電流値Imax」を、この変曲点電流値Iより低い値に設定することを意味している。図5に示すように、変曲点電流値Iを越える電流をLED素子に印加すると、順方向電流の増加とともに順方向電圧が急激に増加することとなる(I−V曲線の傾きが急になる)ので、熱として失われる電流が増加する。
【0046】
本発明の発光装置においては、最大電流Imaxを上記のような変曲点電流値Iより低く設定するが、そのImaxが上記(i)を満たし得るように、LED素子が構成されていることが重要である。このような素子特性については、特開平10−150220号公報および特開2000−174338号公報のいずれにおいても何ら記載されていない。
【0047】
3.実験例
以下、図4に例示したGaN系LED素子の試作および評価の結果を以下に記す。LED素子の平面形状は350μm×340μmの矩形とした。
【0048】
3−1.エピタキシャル成長
基板として、n型不純物としてSiが添加されたn型導電性のm面GaN基板を用意した。その基板上に、常圧MOVPE法を用いて複数のGaN系半導体層をエピタキシャル成長させて半導体層を形成した。III族原料にはTMG(トリメチルガリウム)、TMI(トリメチルインジウム)およびTMA(トリメチルアルミニウム)、V族原料にはアンモニア、Si原料にはシラン、Mg原料にはビスエチルシクロペンタジエニルマグネシウム((EtCp)Mg)を用いた。
【0049】
各層の成長温度および膜厚を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
n型GaNコンタクト層、n型GaNクラッド層、p型AlGaNクラッド層およびp型AlGaNコンタクト層に添加した不純物の濃度は表2に示す通りである。
【0052】
【表2】

【0053】
p型AlGaNクラッド層およびp型AlGaNコンタクト層に添加したMgの活性化は、p型AlGaNコンタクト層を所定時間成長させた後、MOVPE装置の成長炉内で基板温度が室温まで降下する間に、該成長炉内に流す窒素ガスおよびアンモニアガスの流量を制御する方法を用いて行った。
【0054】
3−2.p側電極およびn側電極の形成等
上記エピタキシャル成長により形成した半導体積層体の表面(p型AlGaNコンタクト層の表面)に、電子ビーム蒸着法によりITO膜を210nmの厚さに形成した。続いて、フォトリソグラフィとエッチングの技法を用いて、このITO膜を所定の形状にパターニングして、透光性導電補助層を形成した。
【0055】
このITO膜を熱処理した後、リフトオフ法を用いて、n側電極とp側電極を同時に所定のパターンに形成した。これらの電極は、TiW層の上にAu層を積層した積層構造とした。n側電極とp側電極を形成した後、露出した半導体積層体の表面および透光性電極の表面に、SiOからなるパッシベーション膜を213nmの厚さに形成した。
【0056】
最後にスクライブおよびブレーキングを行うことによりウェハを分断し、LED素子をチップにした。
【0057】
3−3.順方向電圧の評価
上記手順にて得た、m面GaN基板のキャリア濃度の異なる3種類のLEDチップ(サンプル1〜3)のそれぞれに対して、n側電極とp側電極を通して電流をパルスモード(周期=1PLC)で印加し、順方向電流(If)と順方向電圧(Vf)との関係を調べた。電流値は0〜350mAの範囲で変化させ、熱の影響を避けるために電流印加直後に電圧測定を行った。
【0058】
図7は、サンプル1〜3のI−V曲線である(横軸がIf、縦軸がVfのI−V曲線)。m面GaN基板のキャリア濃度は、小さい方から順にいうとサンプル1、サンプル2、サンプル3の順であり、キャリア濃度が高くなるにつれてVfは低くなった。また、サンプル間のVfの差は順方向電流が大きくなるにつれて大きくなる傾向が見られた。
【0059】
上記定義した変曲点電流値(I−V曲線が上に凸のカーブから下に凸のカーブに変わる点における電流値)は、表3に示すように、m面GaN基板のキャリア濃度が高くなるにつれて高くなる傾向が見られた。
【0060】
【表3】

【0061】
サンプル1〜3では、n側電極(オーミック電極を兼用するメタルパッド)の面積(7230μm)が活性層(68400μm)の面積の10.6%であり、n側電極が活性層に比べ小面積であるので、pn接合のn側を流れる電流の経路としてのGaN基板の寄与の違いが、このようなI−V曲線の違いになったと考えられる。
【符号の説明】
【0062】
10、110、210 GaN基板
20、120、220 積層構造
E1 n側電極
E2、E2a p側電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)の発光ダイオード素子と、該発光ダイオード素子に印加される電流が最大電流Imaxを超えないように制御する制御回路と、を備え、
(a)Imax/A≧220〔A/cm〕;かつ
(b)下記(A)の発光ダイオード素子のI−V曲線が、20(mA)〜Imax(mA)の範囲内に、該曲線の傾きの変化率が減少から増加に転じる点を有さない、
ことを特徴とする発光装置。
(A)活性層を含む複数のGaN系半導体層を有する積層構造がGaN系半導体基板の主面上に設けられ、n側電極が該GaN系半導体基板の表面または該GaN系半導体基板上に積層されたコンタクト層の表面の一部に形成され、該n側電極の面積Aが該活性層の面積Aの20%以下である、発光ダイオード素子。
【請求項2】
前記GaN系半導体基板がm面GaN基板である、請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
前記GaN系半導体基板のキャリア濃度が2.5×1017〜5×1018cm−3の範囲内である、請求項1または2に記載の発光装置。
【請求項4】
下記(A)の発光ダイオード素子に電流を印加して発光させることを含む、光の生成方法であって、該発光ダイオード素子に印加する最大電流をImaxとしたとき、
(a)Imax/A≧220〔A/cm〕;かつ
(b)下記(A)の発光ダイオード素子のI−V曲線が、20(mA)〜Imax(mA)の範囲内に、該曲線の傾きの変化率が減少から増加に転じる点を有さない、
ことを特徴とする方法。
(A)活性層を含む複数のGaN系半導体層を有する積層構造がGaN系半導体基板の主面上に設けられ、n側電極が該GaN系半導体基板の表面または該GaN系半導体基板上に積層されたコンタクト層の表面の一部に形成され、該n側電極の面積Aが該活性層の面積Aの20%以下である、発光ダイオード素子。
【請求項5】
前記GaN系半導体基板がm面GaN基板である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記GaN系半導体基板のキャリア濃度が2.5×1017〜5×1018cm−3の範囲内である、請求項4または5に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−98205(P2013−98205A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236860(P2011−236860)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】