説明

発光装置

【課題】固体発光素子および波長変換素子からなる白色光源を、光の利用効率良くでき、白色光源で色むらなく集光できる発光装置を提供する。
【解決手段】発光装置10は、第1分光分布を発光する固体発光素子12と、固体発光素子12の光を受けて第2分光分布を発光する波長変換素子13と、第1分光分布の光および第2分光分布の光を集光する光学レンズ14とを備え、光学レンズ14が、屈折および全反射を利用する幾何光学レンズ15と、回折光学素子16とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体発光素子と波長変換素子からなる白色光源を光源とした発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、底面に平坦部を有する円柱状導光体の片端部もしくは両端部にLEDを配置し、平坦部には微細な凹凸によって形成された反射手段が設けられ、底面側には反射シートを配設し、円柱状導光体の上面側に、特定色の色素もしくは蛍光体を含んだ拡散シートを配置した発光装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
従来より、発光ダイオードから放射された青色光により励起されて、主として黄色光を発光する黄色系蛍光体を有し、青色光および黄色光が混色されることにより白色光を放射する色変換部とを具備する発光装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
従来より、青色光および黄色光の全ての光が入射して平行光とするように各光源部の発光面を包囲する入射面、入射面に対向して設けられ入射した青色光および黄色光を平行光として反射する全反射面、および平行光を集光させて白色発光部を生成する複数のレンズ面を備え、各光源部の照射領域が重なり合うように構成された光取出レンズを具備する発光装置が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
従来より、回折素子が、開口数NA3に相当する領域にて、第1の光ディスクに収束する波長λ1の光として3次回折光を最も強く発生し、第2の光ディスクに収束する波長λ2の光として2次回折光を最も強く発生し、第3の光ディスクに収束する波長λ3の光として2次回折光を最も強く発生する格子形状を有し、開口数NA3から開口数NA2に相当する領域にて、第1の光ディスクに収束する波長λ1の光として6次回折光を最も強く発生し、第2の光ディスクに収束する波長λ2の光として4次回折光を最も強く発生し、波長λ3の光に対しては3次回折光を最も強く発生する格子形状を有し、開口数NA2から開口数NA1に相当する領域にて、第1の光ディスクに収束する波長λ1の光としてm次回折光を最も強く発生する格子形状を有する回折格子から成る発光装置が知られている(例えば、特許文献4参照)。
【0006】
従来より、第1の回折格子面と、第1の回折格子面に向かい合う第2の回折格子面とを備える発光装置が知られている(例えば、特許文献5参照)。
【0007】
従来より、回折レンズに入射する光から生じるN次回折光を第1の情報媒体の情報記録面上に、第1の厚さの透明部を介して収束させ、回折レンズに入射する光から生じるM次回折光を第2の情報媒体の情報記録面上に、第2の厚さの透明部を介して収束させる発光装置が知られている(例えば、特許文献6参照)。
【0008】
従来より、非球面の第1表面と回折面である第2表面とを有する凸レンズを用いて収差を減少させる発光装置が知られている(例えば、特許文献7参照)。
【0009】
従来より、正の屈折力を持った回折型光学素子と、正の屈折力を持った屈折型光学素子と、負の屈折力をもった屈折型光学素子とより構成された発光装置が知られている(例えば、特許文献8参照)。
【0010】
従来より、第2および第3の領域が、使用する光の波長で実質的に透明な互いに異なる材料をもって構成され、第1および第2のレリーフパターンが、実質的に等しいピッチ分布で、互いに異なる溝深さを有し、それらの対応する部位が近接して配置されている発光装置が知られている(例えば、特許文献9参照)。
【0011】
従来より、基板上にアッベ数が異なる少なくとも2つの材質より成る第1,第2の回折格子を各ピッチ毎に対応するように重ね、第1の回折格子は1周期内で一方向に厚さが減少する格子を有し、該第2の回折格子は1周期内で該一方向に厚さが増加する格子を有している発光装置が知られている(例えば、特許文献10参照)。
【0012】
従来より、2種類の分散の異なる材質からなる複数の回折格子を積層した格子構造をもち、該格子構造での最大光路長差が波長の整数倍となる波長である設計波長を複数有し、該設計波長λ0が次の条件を満たす回折光学素子を、光学系中に含む発光装置が知られている(例えば、特許文献11参照)。
【0013】
従来より、回折格子形状が形成されている面を備えた回折撮像レンズを用いた発光装置が知られている(例えば、特許文献12参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2009−43611号公報(図1、請求項1)
【特許文献2】特開2007−294379号公報(図1、請求項1)
【特許文献3】特開2007−265964号公報(図1、請求項1)
【特許文献4】国際公開第2007/013346号公報(図2、請求項1)
【特許文献5】特許第4086082号公報(図3、請求項1)
【特許文献6】特許第4148287号公報(図1、請求項1)
【特許文献7】特開平4−213421号公報(図1、請求項1)
【特許文献8】特開平6−324262号公報(図1、請求項1)
【特許文献9】特開平9−127322号公報(図1、請求項1)
【特許文献10】特開平10−133149号公報(図1、請求項1)
【特許文献11】特開2000−241614号公報(図2、請求項1)
【特許文献12】特許第4077510号公報(図1、請求項1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
近年、光源部に発光ダイオード(LED素子)を用いた製品が多く見られるようになった。照明器具においても、シーリングライトおよびベースライトといった光を拡散させるタイプや、ダウンライトおよびスポットライトといった光を集光させるタイプ等、多種多様な照明器具にLED素子が用いられている。
光源として用いられるLED素子には、以下の種類がある。
単色LED素子、単色LEDを複数色組み合わせた白色LED素子(RGB素子の組み合わせ等)、単色LEDと蛍光体とを組み合わせた白色LED素子(青色LEDと黄色蛍光体との組み合わせ)、等である。
【0016】
照明器具において一般的に用いられるのは、発光強度や効率の面から、青色LEDと黄色蛍光体とを組み合わせた白色LED素子が主である。
将来、有機ELやレーザーを光源とした照明器具が開発される可能性がある。
【0017】
図29に示すように、これらの光源においてもLEDと同様に、単色発光する固体発光素子101と波長変換素子102とにより次世代白色光源100を構成する手法が研究されている。
波長変換をする際、短波長から長波長に変換するのは比較的容易であるが、長波長から短波長に変換するのは困難である。よって、次世代白色光源の場合もLEDと同様に、青色と黄色蛍光体となる組み合わせが一般的になると考えられる。
この場合、白色LEDの色むらの発生原理と、次世代白色光源の色むらの発生原理とは同じになる。
【0018】
図30に示すように、青色を平行光に変換する場合、白色LED111を光源とし、屈折レンズ112で集光する際に、屈折レンズ112の結像効果により、照射面113に光源像が写る。この時、白色LED111は青色発光部に比べ黄色発光部の面積が大きいため、照射面113の中心が青色114になり、周辺が黄色115となる色むらが認められる。
【0019】
図31に示すように、黄色を平行光に変換する場合、青色と同様に、白色LED121を光源とし、屈折レンズ122で集光する際に、屈折レンズ122の結像効果により、照射面123に光源像が写る。この時、白色LED121は青色発光部に比べ黄色発光部の面積が大きいため、照射面123の中心が青色124になり、周辺が黄色125となる色むらが認められる。
【0020】
図32に示すように、白色LED131を光源として全反射レンズ132で集光する場合、屈折レンズ部分133は前述と同様に色むらを生じる。
全反射レンズ部分134を通る光線は、屈折レンズ部分133と同様に、青色発光部に比べ黄色発光部の面積が大きいため、照射面135の中心が青色136aになり、周辺が黄色136bとなる色むらが認められる。
【0021】
図33および図34に示すように、さらに、白色LED131は、光線角度により波長変換素子137からの光強度が異なる。この白色光源自体の色むらは、光線角度の違いにより蛍光体内部を伝播する距離が変化することに起因する。
なお、この白色LED131自体の色むらは、白色LED131の品種(蛍光体の塗られ方)によって様々であり、光線角度が深くなると波長変換素子137からの光が強くなるものも有れば、光線角度が深くなると波長変換素子137からの光が弱くなるものもある。
固体発光素子138のピーク波長は、概ね430nm〜460nmであり、波長変換素子137のピーク波長は、概ね550nm〜600nmである。
【0022】
全反射レンズ132は立体角π方向の全ての光線角度の光を集光し照射する。よって、全反射レンズ132を用いた場合、色むらの発生理由は、固体発光素子138および波長変換素子137の発光面積の差と、白色LED131自体の色むらとの2種類存在し、照射面135の色むらは複雑となる。
【0023】
図35および図36に示すように、白色LED131からの発光を全反射レンズ132によって集光した際に生じる色むらの配光においては、光軸付近において青色のむらを生ずる。
図37および図38に示すように、白色LED131からの発光を全反射レンズ132によって集光した際に生じる色むらの配光においては、光軸付近において黄色の色むらを生ずる。
図39および図40に示すように、これらの配光を照射した際の色むらは、照射面135の各座標の色度を計測することにより評価される。
【0024】
一方、前述した特許文献1に記載された発光装置は、色むらを防止するために、拡散シートにより拡散させる。
しかし、前述した特許文献1に記載された発光装置は、拡散するために集光効果が低減されるとともに漏れ光が発生して光の利用効率が低下する。
【0025】
前述した特許文献2に記載された発光装置は、複数の青色LEDを集光して黄色蛍光体に照射して白色化する。
しかし、前述した特許文献2に記載された発光装置は、器具が大型化するとともに漏れ光が発生して光の利用効率が低下する。
【0026】
前述した特許文献3に記載された発光装置は、レンズ出射面に凸レンズを形成して拡散する。
しかし、前述した特許文献3に記載された発光装置は、前述した特許文献1と同様に、拡散するために集光効果が低減されるとともに漏れ光が発生して光の利用効率が低下する。
【0027】
前述した特許文献4に記載された発光装置は、各波長で回折/透過を選択的に行う。
しかし、前述した特許文献4に記載された発光装置は、特定の波長のみを考慮しているために白色光源で利用する場合は更なる技術的考慮が必要であるとともに指向性の強いレーザーであり、立体角2π(str)で発光する光の場合は光の利用効率が低減する。
【0028】
前述した特許文献5に記載された発光装置は、同じ光ヘッド装置でCD/DVD/Blu−Rayの全ての情報を読み取り可能とする。
しかし、前述した特許文献5に記載された発光装置は、前述した特許文献4と同様に、特定の波長のみを考慮しているために白色光源で利用する場合は更なる技術的考慮が必要であるとともに指向性の強いレーザーであり、立体角2π(str)で発光する光の場合は光の利用効率が低減する。
【0029】
前述した特許文献6に記載された発光装置は、光ヘッド装置において、複数の回折次数光を発生させ、厚みのことなる光学ディスクを読み取る。
しかし、前述した特許文献6に記載された発光装置は、特定の波長のみを考慮しているため、白色光源で利用する場合は更なる技術的考慮が必要であるとともに指向性の強いレーザーであり、立体角2π(str)で発光する光の場合は光の利用効率が低減する。
【0030】
前述した特許文献7ないし特許文献12に記載された発光装置は、撮像光学系において、回折型光学素子を用いて色収差を補正したり、あるいは回折効率の波長依存性を低減、すなわち可視光範囲で等しい回折効率とし、フレア発生を抑制する。
しかし、前述した特許文献7ないし特許文献12に記載された発光装置は、白色光源を考慮しているが、色収差改善の際の波長毎の出射角度差は高々光学材料の分散による出射角度差であり、照明の波長毎の出射角度差より小さく、本特許の色むら改善を考慮した設計ではない。また、前述した特許文献7に記載された発光装置は、回折型光学素子以外に多くの光学素子を必要とするため、高コストとなるとともに開口数NAが小さく、立体角2π(str)で発光する光の場合は光の利用効率が低減する。
【0031】
本発明は、前述した課題を解決するためになされたものであり、その目的は、固体発光素子および波長変換素子からなる白色光源を、光の利用効率良くでき、白色光源で色むらなく集光できる発光装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0032】
本発明に係る発光装置は、第1分光分布を発光する固体発光素子と、前記固体発光素子の光を受けて第2分光分布を発光する波長変換素子と、前記第1分光分布の光および前記第2分光分布の光を集光する光学レンズとを備え、前記光学レンズが、屈折および全反射を利用する幾何光学レンズと、回折光学素子とを具備し、前記回折光学素子の設計波長が、前記第2分光分布のピーク波長である。
【0033】
本発明に係る発光装置は、第1分光分布を発光する固体発光素子と、前記固体発光素子の光を受けて第2分光分布を発光する波長変換素子と、前記第1分光分布の光および前記第2分光分布の光を集光する光学レンズとを備え、前記光学レンズが、屈折および全反射を利用する幾何光学レンズと、回折光学素子とを具備し、前記回折光学素子の設計波長が、前記第1分光分布のピーク波長である。
【0034】
本発明に係る発光装置は、前記第2分光分布のピーク波長が、550nm〜600nmである。
【0035】
本発明に係る発光装置は、前記第1分光分布のピーク波長が、430nm〜460nmである。
【0036】
本発明に係る発光装置は、前記回折光学素子が回折レンズである。
【0037】
本発明に係る発光装置は、前記回折光学素子が周期回折格子であり、前記幾何光学レンズの中心軸に対して同心円対称である。
【0038】
本発明に係る発光装置は、前記回折光学素子がランダム形状格子である。
【0039】
本発明に係る発光装置は、前記幾何光学レンズの中心が凹んでいる形状である。
【発明の効果】
【0040】
本発明に係る発光装置によれば、固体発光素子および波長変換素子からなる白色光源を、光の利用効率良くでき、白色光源で色むらなく集光できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係る第1実施形態の発光装置の白色光源の断面図
【図2】本発明に係る第1実施形態の発光装置における幾何光学レンズの屈折部による光線図
【図3】本発明に係る第1実施形態の発光装置における幾何光学レンズの全反射部による光線図
【図4】本発明に係る第1実施形態の発光装置における幾何光学レンズの配光の特性図
【図5】本発明に係る第1実施形態の発光装置における幾何光学レンズの配光の説明図
【図6】本発明に係る第1実施形態の発光装置における回折レンズの断面図
【図7】本発明に係る第1実施形態の発光装置における回折レンズの干渉の説明図
【図8】本発明に係る第1実施形態の発光装置における回折レンズの設計概念図
【図9】本発明に係る第1実施形態の発光装置における回折レンズの断面図
【図10】本発明に係る第1実施形態の発光装置における回折レンズの光の振る舞いの説明図
【図11】本発明に係る第1実施形態の発光装置における回折レンズの設計概念図
【図12】本発明に係る第1実施形態の発光装置における回折レンズのランダム形状格子の説明図
【図13】本発明に係る第1実施形態の発光装置における回折レンズのバイナリ形状による形状近似の説明図
【図14】本発明に係る第1実施形態の発光装置における回折光学素子の解析技術のまとめ図
【図15】本発明に係る第1実施形態の発光装置における波長変換素子の集光の特性図
【図16】本発明に係る第1実施形態の発光装置における個体発光素子の集光の特性図
【図17】本発明に係る第1実施形態の発光装置における回折光学素子による色むらの改善イメージ図
【図18】本発明に係る第1実施形態の発光装置における回折レンズの波長を変えた解析図
【図19】本発明に係る第1実施形態の発光装置における照射面の光強度分布図
【図20】本発明に係る第1実施形態の発光装置における設計波長からのずれの影響図
【図21】本発明に係る第1実施形態の発光装置における設計波長からのずれの影響図
【図22】本発明に係る第1実施形態の発光装置における周期回析格子の波長依存性の説明図
【図23】本発明に係る第1実施形態の発光装置における設計次数1次/3次の各波長の回析効率図
【図24】本発明に係る第1実施形態の発光装置における設計次数1次の各波長の回析効率図
【図25】本発明に係る第1実施形態の発光装置における設計次数3次の各波長の回析効率図
【図26】本発明に係る第1実施形態の発光装置における波長440nmの場合の光の振る舞い図
【図27】本発明に係る第1実施形態の発光装置における波長580nmの場合の光の振る舞い図
【図28】本発明に係る第2実施形態の発光装置の断面図
【図29】白色LEDの断面図
【図30】青色を平行光に変換する場合の色むらの説明図
【図31】黄色を平行光に変換する場合の色むらの説明図
【図32】屈折全反射レンズで集光する場合の色むらの説明図
【図33】白色LEDの光線角度の説明図
【図34】図33における波長変換素子と波長変換素子との関係図
【図35】光軸付近において青色のむらを生ずる配光の説明図
【図36】図35における波長変換素子と波長変換素子との関係図
【図37】光軸付近において黄色のむらを生ずる配光の説明図
【図38】図37における波長変換素子と波長変換素子との関係図
【図39】色むらの評価の側面図
【図40】照射面の色むらの様子の図
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明に係る複数の実施形態の発光装置について図面を参照して説明する。
(第1実施形態)
図1に示すように、本発明に係る第1実施形態の発光装置10は、第1分光分布を発光する固体発光素子12および固体発光素子12の光を受けて第2分光分布を発光する波長変換素子13を有する白色光源11と、第1分光分布の光および第2分光分布の光を集光し、屈折および全反射を利用する幾何光学レンズ15および回折光学素子16を具備する光学レンズ14とを備える。
なお、本発明において「集光」という表現は、「ある方向に向けて光を平行光にすること」と定義し、「微小スポットに収束すること」という意味ではない。
回折光学素子16は、回折レンズまたは周期回折格子であって幾何光学レンズ15の中心軸に対して同心円対称またはランダム形状格子であり、設計波長が概ね第2分光分布のピーク波長または概ね第1分光分布のピーク波長である。第2分光分布のピーク波長は、概ね550nm〜600nmであり、第1分光分布のピーク波長は、概ね430nm〜460nmである。
【0043】
図2に示すように、固体発光素子12および波長変換素子13から出射した光線は、幾何光学レンズ14の屈折レンズ部分17に入射され、集光される。
図3に示すように、固体発光素子12および波長変換素子13から出射した光線は、幾何光学レンズ14の全反射レンズ部分18に入射され、集光される。
【0044】
図4に示すように、幾何光学レンズ15では、光軸から離れた角度で集光するように設計され、集光される配光の特性を有する。このとき、白色光源11は、固体発光素子12の発光面積に比べて波長変換素子13の発光面積が大きいこと、白色LED自体の色むらは光線角度が大きくなるほど波長変換素子13からの光強度が強いことの特徴を持つ。
【0045】
図5に示すように、この配光による照射面23の色むらは、中心部19および周辺部20が第2分光分布のピーク波長の色味であり、その間21に環状に第1分光分布のピーク波長の色味が現れる。
なお、光軸から離れた角度で集光するのは、その後、回折光学素子16でさらに集光するためである。
従って、回折光学素子16の形状と幾何光学レンズ15の形状とは互いに影響し合い、回折光学素子16の形状に合わせて幾何光学レンズ15の形状が設計される。
図5は、屈折レンズ部分17および全反射レンズ部分18の光線を足し合わせた配光である。この幾何光学レンズ15からの光線を一旦ある擬似光源として近似すると、擬似光源からの光線を、回折レンズを用いて集光すると考えることができ、回折レンズの設計が容易となる。
【0046】
次に、本発明の要部である回折光学素子16の動作について説明する。
本発明における「回折光学素子」とは、透過部材に形成された微細な間隔・高さでならぶ構造全般を指す。そこで、本発明の特徴を述べる前に、構造の例を以下に示し、それらの各構造の公知の設計・解析技術を順に説明する(参考文献:“回折光学素子入門” オプトロニクス社(1997)、“デジタル回折光学”丸善(2005))。
図6に示すように、回折レンズ22の形状は、フレネルレンズのような軸対称形状をしているが、各レンズの高さ、間隔がサブ波長オーダーの形状であることが一般的なフレネルレンズとは異なる。
図7に示すように、回折レンズ22によって光波面の干渉が起こり、平行光が入射した場合は一点に収束し、逆に一点から発散する光は平行光に集光される。
図8に示すように、回折レンズ22は、設計に際して、距離L〜Lにおいて、以下の数式1が成り立つように距離L3を設定する。
なお、nは回折レンズ22の材料の屈折率、mは設計回折次数(整数)、λは設計波長である。
また、本発明においては、設計の際に選択した回折次数を設計回折次数、設計の際に選択した波長を設計波長と定義する。
【0047】
【数1】

【0048】
図9に示すように、回折レンズ22は、周期的に繰り返し同じ微細構造を持つ。本発明では、この様な形状を周期回折格子と定義する。
なお、周期形状は軸対称形状や、とい状形状が有る。
また、ステップを持つ段差形状を多数有するが、これらは前述の回折レンズと同様、滑らかな形状を近似したものである、形状がサブ波長オーダーであるため、このように形状を近似することが多い。
図10に示すように、周期回折光学素子による光の干渉においては、周期回折光学素子によって光波面の干渉が起こり、平行光が入射した場合は全ての光がある方向に平行光化され集光する。
図11に示すように、回折レンズ22は、設計に際し、格子高さhは、下記の数式2を満たすように設計される。なお、nは回折レンズ材料の屈折率、mは回折次数(整数)、λは設計波長である。
【0049】
【数2】

【0050】
また、回折角度θoutは、下記の数式3から算出される。回折角度θoutに合わせて格子周期dを選択する。
【0051】
【数3】

【0052】
図12に示すように、回折レンズ22は、ランダムな微細構造を持つ。本発明では、この様な形状をランダム形状格子と定義する(日本では決まった呼び名は無いが、海外では「diffuser」と呼ばれている)。
なお、ランダム形状格子の設計方法は、直接的設計手法(direct design technique)、反復最適化アルゴリズム(interactive optimization algorithms)、反復フーリエ変換アルゴリズム(IFTA:Iterative Fourier Transform Algorithm)、進化プログラムに基づいたアルゴリズム、等が有名である(参考文献:“デジタル回折光学”丸善(2005))。
このような設計方法は、総じて、初めに光の波長を考えずに全ての波長に共通である位相を考え、位相分布を設計する。その後、設計した位相分布Φ(x)と設計波長λとを用いて、下記の数式4で形状h(x)に変換する。
【0053】
【数4】

【0054】
図13に示すように、回折レンズ22は、バイナリ形状による形状近似において格子高さhが設定される。
【0055】
図14に示すように、回折光学素子16の解析技術をまとめると、回折光学素子16を通過した光がどのように振舞うかを計算により求めることができる(参考文献:光学技術者のための電磁場解析入門、オプトロニクス社(2010))。
【0056】
本発明で注目するのは、公知の設計・解析技術では、設計波長λを用いて回折光学素子16の形状を決定することである。
波長依存性の定量的な説明については後述するが、定性的に論じると、回折光学素子16による光の偏向の作用は、入射する光の波長が設計波長に近いほど、効果がある。
よって、図15に示すように、回折光学素子16の設計波長が概ね波長変換素子13からの第2分光分布のピーク波長であり、かつ、回折光学素子16の形状が光を集光するように設計されることにより、波長変換素子13からの光を効率良く集光する。
このとき、図16に示すように、固体発光素子12からの第1分光分布の光は、設計波長から離れた分光分布であり、効率よく集光されない。
この場合の配光は、ある理想的な回折光学素子形状により、波長変換素子13と固体発光素子12からの配光が回折光学素子16を通過することによって同じ配光になるものである。
図17に示すように、このような光の偏向をもたらす回折光学素子16が存在すれば、固体発光素子12/波長変換素子13のそれぞれの配光が重なり、色むらが生じなくなる。
【0057】
図18に示すように、定量的な回折光学素子16の波長依存性と、それを用いた色むらの改善について、回折レンズ22の波長依存性は、回折レンズ22の設計波長を520nmとし、点光源の波長を460nm/520nm/630nmと変化させて、1m後方にある照射面23に光を集光する。
図19に示すように、このときの照射面23の光強度分布は、設計波長である520nmの光は集光されているが、その他の波長の光は集光の程度が低い。
なお、図19は、理想的な点光源から球面波の光を飛ばして回折レンズ22によって集光する光学系において、点光源の波長を変えて解析を行った結果である。
図20に示すように、設計波長と光源の波長とが等しい場合は、回折レンズ22による光の位相分布の変化が各レンズ形状で等しく、波面の位相が揃う。
しかしながら、図21に示すように、設計波長と光源の波長が異なる場合には、回折レンズ22による光の位相分布の変化が隣り合うレンズ形状で揃わず、波面の位相がずれる。これにより、設計波長と光源の波長が異なれば、光の集光の程度が低い。
このように、図4に示した配光では、波長変換素子13からの第2分光分布の光を効果的に集光し、かつ、固体発光素子12からの第1分光分布の光を程度を低く集光させると色むらが改善できる、と定性的に考えられる。このときの回折レンズ22の設計波長は、概ね第2分光分布のピーク波長となる。
なお、図35,図36,図37,図38に示したように、色むらの出現が固体発光素子と波長変換素子で逆になるケースもある。その場合、回折レンズ22の設計波長は、概ね第1分光分布のピーク波長とすればよい。
【0058】
図22に示すように、周期回折格子の波長依存性について、周期回折光学素子16の設計・解析にかかわる式は、以下の数式5,数式6,数式7,数式8,数式9に示される。
なお、以下の解析の数式5式,数式6,数式7,数式8,数式9はフラウンホーファー回折に基づいたスカラー解析である。
【0059】
【数5】

【0060】
【数6】

【0061】
【数7】

【0062】
【数8】

【0063】
【数9】

【0064】
図23に示すように、周期格子形状を理想的な三角形形状とし、設計波長を580nm、設計次数を1次および3次とした場合の各設計次数回折光の各波長の回折効率は、設計次数を大きくすれば設計次数の回折光の波長依存性が大きくなる。
図24に示すように、設計次数1次とした場合、設計次数以外の回折光を含む各波長の回折効率は、波長が異なった場合に設計次数以外の次数の回折光が発生していることがわかる。
図25に示すように、設計次数3次とした場合、設計次数以外の回折光を含む各波長の回折効率は、波長が異なった場合に設計次数以外の次数の回折光が発生していることがわかる。
図26および図27に示すように、設計波長を580nm、設計次数を3次とした周期回折光学素子16に、波長440nmおよび波長580nmの光線を入射した場合の光の振る舞いは、波長が異なった場合に設計次数以外の次数の回折光が発生していることがわかる。撮像光学素子の分野ではこれをフレア光/ゴーストと呼んでいる。
これらから明らかなように、設計次数を大きくすると、設計次数以外の回折光の波長依存性は大きくなる。
ここで、このフレア光に注目すると、撮像光学素子ではフレア光が不要であるために除去するための公知技術が多いものの、このフレア光を上手く利用することにより、照射面に生じる色むらを低減することができる。
【0065】
図12に示したランダム形状格子の波長依存性について、ランダム形状格子は、初めに光の波長を考えずに全ての波長に共通である位相を考えて位相分布を設計する。その後、設計した位相分布Φ(X)と設計波長λを用いて、下記数式10を用いて形状h(x)に変換する。
【0066】
【数10】

【0067】
定性的に考えると、これも回折レンズ22および周期回折格子同様、設計波長を第2分光分布のピーク波長周辺で行い、かつ、設計次数を1〜4次程度で行なうことにより、最適な回折光学素子形状になる。
【0068】
以上、説明したように第1実施形態の発光装置10によれば、光学レンズ14が、屈折および全反射を利用する幾何光学レンズ15と、回折光学素子16とを具備し、回折光学素子16の設計波長が、概ね第2分光分布のピーク波長であるために、光学レンズ14が、固体発光素子12および波長変換素子13の光をバランス良く集光するので、効率の低下を抑えつつ色むらを改善して集光できる。
【0069】
また、第1実施形態の発光装置10によれば、光学レンズ14が、屈折および全反射を利用する幾何光学レンズ15と、回折光学素子16とを具備し、回折光学素子16の設計波長が、概ね第1分光分布のピーク波長であるために、光学レンズ14が、固体発光素子12および波長変換素子13の光をバランス良く集光するので、効率の低下を抑えつつ色むらを改善して集光できる。
【0070】
そして、第1実施形態の発光装置10によれば、第2分光分布のピーク波長が、概ね550nm〜600nmであるために、光学レンズ14が、固体発光素子12および波長変換素子13の光をバランス良く集光するので、効率の低下を抑えつつ色むらを改善して集光できる。
【0071】
さらに、第1実施形態の発光装置10によれば、第1分光分布のピーク波長が、概ね430nm〜460nmであるために、光学レンズ14が、固体発光素子12および波長変換素子13の光をバランス良く集光するので、効率の低下を抑えつつ色むらを改善して集光できる。
【0072】
さらにまた、第1実施形態の発光装置10によれば、回折光学素子16が回折レンズ22であるために、光学レンズ14が、固体発光素子12および波長変換素子13の光をバランス良く集光するので、効率の低下を抑えつつ色むらを改善して集光できる。
【0073】
加えて、第1実施形態の発光装置10によれば、回折光学素子16が周期回折格子であり、幾何光学レンズ15の中心軸に対して同心円対称であるために、光学レンズ14が、固体発光素子12および波長変換素子13の光をバランス良く集光するので、効率の低下を抑えつつ色むらを改善して集光できる。
【0074】
また、第1実施形態の発光装置10によれば、回折光学素子16がランダム形状格子であるために、色むらがランダムに変化する場合に、固体発光素子12および波長変換素子13の光をバランス良く集光するので、効率の低下を抑えつつ色むらを改善して集光できる。
【0075】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る第2実施形態の発光装置について説明する。
なお、以下の第2実施形態において、前述した第1実施形態と重複する構成要素や機能的に同様な構成要素については、図中に同一符号あるいは相当符号を付することによって説明を簡略化あるいは省略する。
【0076】
図28に示すように、本発明に係る第2実施形態の発光装置30は、幾何光学レンズ31の中央に外周縁から長さ寸法L1だけ小さい外径寸法L2で凹んだ部分32が形成されており、屈折レンズ部分33と全反射レンズ部分34とから出た光を分離し、出射面に導き易くなる。
このとき、発光装置30は、幾何光学レンズ31において、屈折レンズ部分33と全反射レンズ部分34との色むらの出現原因はそれぞれ違うため、その色むらの改善の回折光学素子形状の特徴も異なる。
そのため、発光装置30は、屈折レンズ部分33と全反射レンズ部分34とのそれぞれから出射する配光を、それぞれの擬似光源として回折光学素子16を設計できる。
これにより、屈折レンズ部分33および全反射レンズ部分34とのそれぞれの回折光学素子16を最適に設計しやすくなる。
【0077】
第2実施形態の発光装置30によれば、幾何光学レンズ31の中心が凹んでいるために、屈折レンズ部分33および全反射レンズ部分34のそれぞれの配光に対して最適な回折光学素子形状を設計できる。
【0078】
なお、本発明の発光装置は、前述した各実施形態に限定されるものでなく、適宜な変形や改良等が可能である。
【符号の説明】
【0079】
10,30 発光装置
12 固体発光素子
13 波長変換素子
14 光学レンズ
15,31 幾何光学レンズ
16 回折光学素子
22 回折レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1分光分布を発光する固体発光素子と、
前記固体発光素子の光を受けて第2分光分布を発光する波長変換素子と、
前記第1分光分布の光および前記第2分光分布の光を集光する光学レンズとを備え、
前記光学レンズが、屈折および全反射を利用する幾何光学レンズと、回折光学素子とを具備し、
前記回折光学素子の設計波長が、前記第2分光分布のピーク波長である発光装置。
【請求項2】
第1分光分布を発光する固体発光素子と、
前記固体発光素子の光を受けて第2分光分布を発光する波長変換素子と、
前記第1分光分布の光および前記第2分光分布の光を集光する光学レンズとを備え、
前記光学レンズが、屈折および全反射を利用する幾何光学レンズと、回折光学素子とを具備し、
前記回折光学素子の設計波長が、前記第1分光分布のピーク波長である発光装置。
【請求項3】
請求項1に記載の発光装置において、
前記第2分光分布のピーク波長が、550nm〜600nmである発光装置。
【請求項4】
請求項2に記載の発光装置において、
前記第1分光分布のピーク波長が、430nm〜460nmである発光装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のうちのいずれか1項に記載の発光装置において、
前記回折光学素子が回折レンズである発光装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項4のうちのいずれか1項に記載の発光装置において、
前記回折光学素子が周期回折格子であり、前記幾何光学レンズの中心軸に対して同心円対称である発光装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項4のうちのいずれか1項に記載の発光装置において、
前記回折光学素子がランダム形状格子である発光装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のうちのいずれか1項に記載の発光装置において、
前記幾何光学レンズの中心が凹んでいる形状である発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【公開番号】特開2012−133086(P2012−133086A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284353(P2010−284353)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】