説明

発振器

【課題】劣化が少なく目的とする周波数のクロックパルスを出力することのできる発振器を提供すること。
【解決手段】発振器1は、固定電極212と空隙を隔てて配置された可動電極214とを有する振動子21を用いた発振器であって、基準電圧を供給する基準電圧供給回路3と、
クロックパルスの入力によって作動する昇圧回路41を備え、基準電圧を所定の大きさの電圧に変換して出力する電圧調整回路4とを有し、前記振動子21は、電圧調整回路4から出力された前記所定の大きさの電圧が固定電極212と可動電極214との間に印加されるように構成されており、昇圧回路41に入力される前記クロックパルスは、振動子21を発信源として得られたものであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、MEMS(Micro Electro Mechanical System)技術を利用し、半導体基板にMEMS素子を備えた発振器が知られている。このような発振器においては、MEMS素子が振動子として用いられ、目的とする周波数のクロックパルスを外部の回路等に出力する。
【0003】
発振器の振動子に用いられるMEMS素子としては、例えば、固定電極と可動電極とを有し、これらの電極間に特定の交流電圧を印加することにより、可動電極が振動するものが知られている(例えば、特許文献1)。また、前記特定の交流電圧は、可動電極の固有振動周波数(以下、共振周波数)である事が一般的である。
このような発振器として、例えば、図11に示す発振器が挙げられる。図11に示す発振器は、MEMS振動子と能動回路から構成された発振回路と、MEMS振動子にバイアス電圧を印加するためのバイアス電圧印加回路と、発振器と外部回路との間の相互干渉を防ぐための緩衝回路とで構成されている。
【0004】
このような発振器に備えられた振動子は、前記可動電極及び前記固定電極間に印加する静的な電圧(バイアス電圧)を変化させると、共振周波数が変化する性質を有する。なお、バイアス電圧は直流電圧である事が一般的である。このため、印加するバイアス電圧を調整して、共振周波数を調整する事が可能である。このような振動子は、非常に微小なものであるため、精度よくその共振周波数を目的とする範囲内に収めるように製造することが難しいが、バイアス電圧を適宜調整することにより、共振周波数を目的とする範囲内に収めることが可能である。
【0005】
また、印加可能なバイアス電圧に対して、バイアス電圧による振動子の共振周波数が十分に小さい場合には、振動子は、バイアス電圧が大きいほど周波数の変動幅が増加する性質を持つ。このため、振動子の周波数変動幅を広げたい場合には意図的に高いバイアス電圧を振動子に印加する場合もある。
また、振動子(MEMS素子)の適切なバイアス電圧は、振動子の形状、形態により決定されるが、その形状によっては前記発振器の能動回路の駆動電圧よりも高い電圧が必要となる場合がある。発振回路の能動回路の動作電圧は比較的低い値(例えば、3V)に設定される場合が多いが、前記バイアス電圧の適切値がこれを超える場合(例えば、5〜10V)は、昇圧回路の付加が必要となる。
【0006】
共振周波数を目的とする範囲内に収めるため、または振動子の周波数変動幅を広げるための発振器としては、例えば、図12に示す構成の発振器が挙げられる。このような発振器を用いた場合、印加するバイアス電圧により発振回路の発振周波数を調整する事が可能となる。
図12に示す発振器は、基準電圧を供給する基準電圧供給回路と、基準電圧をより高い電圧に変換する昇圧回路と、昇圧された電圧を振動子に印加し、振動子の振動からクロックパルスを得て外部回路に出力する発振回路と発振器と外部回路との間の相互干渉を防ぐための緩衝回路で構成されている。
【0007】
このように、適切なバイアス電圧を印加するため、もしくは、振動子の共振周波数の変動範囲を広げるために、バイアス電圧を昇圧する昇圧回路が用いられる場合がある。昇圧回路としては、チャージポンプ回路が好適に用いられる。チャージポンプ回路は、比較的面積の小さいものであり、例えば、半導体基板上に収納できるため、発振器の小型化に適している。しかしながら、チャージポンプ回路は、クロックパルスを外部から得て作動する。このため、外部にある水晶振動子等のクロックパルスをチャージポンプ回路に用いた場合、水晶振動子等のクロックパルスは、発振器及び振動子(MEMS素子)とは必ずしも周波数が一致しないため、この干渉により発振器から発信されるクロックパルスが劣化する(例えば、ノイズの増大)問題が懸念される。このように発振器から発信されるクロックパルスが劣化すると、発振器から出力されるクロックパルスを利用するマイコン、コントローラ等の外部回路において誤動作が生じる恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−111831公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、劣化が少なく目的とする周波数のクロックパルスを出力することのできる発振器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の発振器は、固定電極と空隙を隔てて配置された可動電極とを有する振動子を用いた発振器であって、
基準電圧を供給する基準電圧供給回路と、
クロックパルスの入力によって作動する昇圧回路を備え、前記基準電圧を所定の大きさの電圧に変換して出力する電圧調整回路とを有し、
前記振動子は、前記電圧調整回路から出力された前記所定の大きさが電圧を前記固定電極と前記可動電極との間に印加されるように構成されており、
前記昇圧回路に入力される前記クロックパルスは、前記振動子を発信源として得られたものであることを特徴とする。
これにより、劣化が少なく目的とする周波数のクロックパルスを出力することのできる発振器を提供することができる。
【0011】
本発明の発振器では、前記電圧調整回路から出力される電圧の大きさを前記所定の大きさに調整することより、前記振動子の共振周波数を所定の数値範囲内に設定することが好ましい。
これにより、劣化が少なく目的とする周波数のクロックパルスを出力することのできる発振器を提供することができる。
【0012】
本発明の発振器では、前記振動子の振動を基に前記クロックパルスを生成し、該クロックパルスを前記昇圧回路および外部に出力する発振回路を有することが好ましい。
これにより、劣化が少なく目的とする周波数のクロックパルスを出力することのできる発振器を提供することができる。
本発明の発振器では、前記発振回路と前記昇圧回路との間に、前記クロックパルスが通過する緩衝回路を有することが好ましい。
これにより、昇圧回路の動作が発振回路のクロックパルスの生成に影響を与えることを防止することができる。
【0013】
本発明の発振器では、前記電圧調整回路は、分圧回路を有し、
該分圧回路は、前記基準電圧をより低い電圧に変換して前記昇圧回路に出力し、
前記昇圧回路は、前記分圧回路から入力された電圧をより高い電圧に変換して前記所定の大きさの電圧として出力することが好ましい。
これにより、振動子に印加する電圧の大きさを調整することがより容易となる。
【0014】
本発明の発振器では、前記電圧調整回路は、分圧回路を有し、
前記昇圧回路は、前記基準電圧をより高い電圧に変換して前記分圧回路に出力し、
前記分圧回路は、前記昇圧回路から入力された電圧をより低い電圧に変換して前記所定の大きさの電圧として出力することが好ましい。
これにより、振動子に印加する電圧の大きさを調整することがより容易となる。
本発明の発振器では、前記振動子を発信源とする前記クロックパルスを分周して前記昇圧回路に入力する分周回路を有することが好ましい。
これにより、振動子が発生させるクロックパルスの周波数が高く、昇圧回路の作動に適していないものであっても、分周して用いることにより昇圧回路が好適に作動する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施形態に係る発振器のブロック図である。
【図2】図1に示す発振器が備える発振回路の回路図である。
【図3】図2に示す発振回路が備える振動子の概略断面図である。
【図4】図3に示す振動子の共振周波数と振動子に印加されるバイアス電圧との関係を示すグラフである。
【図5】図1に示す発振器が備える昇圧回路の回路図である。
【図6】図1に示す発振器が備える分圧回路の回路図である。
【図7】図1に示す発振器の作動時における昇圧回路の出力電圧および振動子の共振周波数の時間変化をしめすグラフである。
【図8】本発明の第2実施形態に係る発振器のブロック図である。
【図9】本発明の第3実施形態に係る発振器のブロック図である。
【図10】従来の発振器の実施形態の一例を示すブロック図および発振器に備えられた発振回路の一例を示す回路図である。
【図11】従来の発振器の実施形態の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の発振器を添付図面に示す各実施形態に基づいて詳細に説明する。
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る発振器のブロック図、図2は、図1に示す発振器が備える発振回路の回路図、図3は、図2に示す発振回路が備える振動子の概略断面図、図4は、図3に示す振動子の共振周波数と振動子に印加されるバイアス電圧との関係を示すグラフ、図5は、図1に示す発振器が備える昇圧回路の回路図、図6は、図1に示す発振器が備える分圧回路の回路図、図7は、図1に示す発振器の作動時における昇圧回路の出力電圧および振動子の共振周波数の時間変化を示すグラフである。なお、以下では、説明の便宜上、図1〜図7の上側を「上」、下側を「下」、右側を「右」、左側を「左」と言う。
【0017】
図1に示す発振器1は、発振回路2と、基準電圧供給回路3と、電圧調整回路4と、緩衝回路5A、5Bとを有している。
このような発振器1においては、発振回路2において所定の周波数を有するクロックパルスが生成され、該クロックパルスは、発振器1から外部回路100へ出力される。また、発振器1は、通常、半導体基板上に設けられており、例えば、ICチップ中の電子回路として設けられている。
【0018】
以下、発振器1の各部について説明する。
図2に示すように、発振回路2は、振動子21と、バイアス回路22と、第1の増幅回路23と、第2の増幅回路24とを有している。
図3に示すように、振動子21は、基板211上に設けられており、基板211上に形成された固定電極212と、可動電極213とを有している。
【0019】
可動電極213は、基板211上に形成された支持部214と、固定電極212と空隙を隔てて対向配置された可動板(可動部)215と、支持部214と可動板215とを連結する連結部216とを有している。可動板215は、連結部216を介して支持部214に片持ち支持されている。
可動板215は、弾性を有し、所定のばね定数を有しているため、上下方向に力が加えられることにより、上下方向に弾性振動することができる。
【0020】
また、可動板215と固定電極212との間に、可動板215の固有振動数と同等の周波数を持つパルスを注入すると、可動板215が振動(共振)し、固定電極212および可動板215間の容量が変化するために、電流が流れ、この結果、振動子21より共振周波数(固有振動周波数)の信号が出力される(共振される)。
また、振動子21には、バイアス回路22を介して、電圧調整回路4において調整された所定の大きさの静的な(直流の)電圧がバイアス電圧として、印加されている。振動子21の可動板215の共振周波数(以下、単に「振動子21の共振周波数」ともいう。)は、固定電極212と可動電極213との間に印加されるバイアス電圧の大きさによって変化するため、バイアス電圧の大きさを適宜調整することにより、振動子21の共振周波数を所望の値に設定することができる。すなわち、振動子21は、微小であるため、設計された寸法からの誤差が生じやすく、共振周波数が、所望の値からずれやすいが、このようにバイアス電圧の大きさを設定することにより、共振周波数の所望の値からの誤差を修正することができる。
【0021】
これは、バイアス電圧が固定電極212と可動電極213との間に印加されることにより、可動板215の「見かけ上のばね定数」が変化することによる。図4に示すように、固定電極212と可動電極213との間に印加されるバイアス電圧が大きくなるほど、振動子21の共振周波数は低下し、また、共振周波数の低下の度合いも大きくなる。なお、発振器1は、後述する昇圧回路41を備えた電圧調整回路4を有するため、比較的大きなバイアス電圧を振動子21に印加することができる。
また、振動子21に印加されるバイアス電圧が大きすぎる場合、可動板215が固定電極212に吸引されて接触する(Pull−in)。このため、バイアス電圧は、このような現象が起きない範囲の大きさで調整される。
【0022】
図3に示すように、第1の増幅回路23は、振動子21から出力された信号を増幅する。増幅された信号は、その一部が第2の増幅回路24へ入力されるとともに、振動子21に帰還して振動子21に注入される。
第2の増幅回路24は、第1の増幅回路23から入力された信号をさらに増幅する。そして、第2の増幅回路24によって増幅された信号(クロックパルスφ)は、電圧調整回路4および外部回路100に出力される。
【0023】
以上のような発振回路2は、以下のようにしてクロックパルスを出力する。まず、バイアス回路22を介して電圧調整回路4からバイアス電圧が振動子21に入力されることにより、振動子21が動作可能な状態となり、さらに、振動子21に共振周波数成分を含む交流信号が注入され、かつ、振動子21および第1の増幅回路23を含む閉ループで発振条件が満たされた場合、回路が発振する。この発振により生じた信号の一部が第2の増幅回路24で増幅され、クロックパルスφが発振回路2より出力される。なお、発振回路2の起動時においては、振動子21にバイアス電圧を最初に印加した場合等に生じる振動子21への印加電圧の変動により振動子21が振動を開始して交流電流が流れ、この交流電流が第1の増幅回路23によって増幅されて振動子21に帰還する。振動子21に注入される共振周波数成分を含む交流信号は、通常、この帰還した交流電流である。
【0024】
図1に示すように、基準電圧供給回路3は、電圧調整回路4への印加電圧(基準電圧Vb)を発生する。なお、基準電圧供給回路3からの印加電圧は、図1では昇圧回路41のみに前記基準電圧は供給されているが、図中の他回路(発振回路2、緩衝回路5A、5Bなど)へ併せて供給されていてもよい。
電圧調整回路4は、昇圧回路41と、昇圧回路41の後段に設けられた分圧回路42とを有している。
電圧調整回路4は、昇圧回路41により基準電圧Vbをより高い電圧Voに変換するとともに、分圧回路42において昇圧回路41で昇圧された電圧Voをより低い電圧Vpに変換することにより、振動子21の共振周波数が所望の値となるような大きさの静的なバイアス電圧Vpを発生させ、これを発振回路2に供給する。
【0025】
図5に示すように、昇圧回路41は、クロック発生回路411とチャージポンプ回路412とを有している。上述したように、昇圧回路41により基準電圧Vbをより高い電圧Voに変換して出力する。
クロック発生回路411は、発振回路2で発生したクロックパルスφを用い、周波数および位相がクロックパルスφと同一の正相クロックパルスVφと、位相がクロックパルスVφと反転した以外は正相クロックパルスVφと同一の逆相クロックパルスV¬φとを発生させ、チャージポンプ回路412に入力する。正相クロックパルスVφ 、逆相クロックパルスV¬φは、いずれもLレベルのときに0ボルト、HレベルのときにVbボルトとなるように設定されている。
【0026】
なお、符号「¬ 」は、反転、つまり正相に対する逆相を意味する。また、クロック発生回路411は、クロック発生回路411を駆動させるための電位Vddと、接地電位Vssとの電位差による電圧が供給されており、これを動力として作動する。
チャージポンプ回路412は、いわゆるDicksonチャージポンプ回路であり、正相クロックパルスVφおよび逆相クロックパルスV¬φを利用して、入力された基準電圧Vbをより大きい電圧Voを出力する。
【0027】
チャージポンプ回路412は、直列接続された5つのスイッチング素子(ダイオード接続NMOS)MD1、MD2、MD3、MD4、MD5と、これらのスイッチング素子MD1〜MD5の各接続点に一端側が接続される4つのコンデンサC1、C2、C3、C4と、これらのスイッチング素子MD1〜MD5のうち、終段のスイッチング素子MD5の出力側に一端側が接続されるコンデンサCoutとを備える。また、コンデンサC1、C3の他端側(図中、下側)には、正相クロックパルスVφが入力されるようにクロック発生回路411と接続されており、コンデンサC2、C4の他端側(図中、下側)には、逆相クロックパルスV¬φが入力されるようにクロック発生回路411と接続されている。また、昇圧される基準電圧Vbは、スイッチング素子MD1の入力側から入力され、昇圧された電圧Voは、スイッチング素子MD5の出力側から出力される。
【0028】
このような回路においては、正相クロックパルスVφがLレベル(0ボルト)、逆相クロックパルスV¬φがHレベル(Vbボルト)のときには、コンデンサC1、C3の他端側電位が0ボルト、コンデンサC2、C4の他端側電位がVbボルトになるので、スイッチング素子MD1、MD3が導通状態となるとともにスイッチング素子MD2、MD4が遮断状態となる。このため、コンデンサC1には入力される基準電圧Vb相当(Vb−VF)による電流が流れ込む一方で、コンデンサC2、C4にはVbボルト分加算された電位による電流がそれぞれ次段のコンデンサC3、Coutに流れ込む。ここで、VFとは、各スイッチング素子MD1〜MD5を通過する際の順方向降下電圧を表わす。
【0029】
これに対し、正相クロックパルスVφがHレベル(Vbボルト)、逆相クロックパルスV¬φがLレベル(0ボルト)のときには、コンデンサC2、C4の他端側電位が0ボルト、コンデンサC1、C3の他端側電位がVbボルトになるので、スイッチング素子MD2、MD4が導通状態となるとともにスイッチング素子MD1、MD3が遮断状態となる。このため、電圧Vb分だけ電位が増加したコンデンサC1、C3による電流がそれぞれ次段のコンデンサC2、C4に流れ込む。
【0030】
このようなスイッチング素子MD1〜MD4によるスイッチング動作とコンデンサC1〜C4、Coutによる充放電動作とにより、コンデンサC2には入力電圧Vbの約2倍の電圧(2Vb−2VF)、コンデンサC3には基準電圧Vbの約3倍の電圧(3Vb−3VF)、コンデンサC4には基準電圧Vbの約4倍の電圧(4Vb−4VF)がそれぞれ充電され、終段のコンデンサCoutには入力電圧Vbの約5倍の電圧(5Vb−5VF)が充電される。これにより、出力電圧Voとして約5Vbボルトを取り出して、分圧回路42に出力することが可能となる。
【0031】
上述したような昇圧回路41は、発振回路2から出力されたクロックパルスφを利用し、基準電圧Vbをより高い電圧に変換している。このように、昇圧回路41が発振回路2から出力されたクロックパルスφを用いることにより、発振器1の外部からクロックパルスを得る必要がなくなるため、発振器1では、発振回路2由来のクロックパルスのみが使用される。この結果、例えば、外部のクロックパルスと振動子21とのクロックパルスとが干渉することによる、発振回路2から出力されるクロックパルスφの劣化が、防止される。また、発振器1内に新たな振動子を有する必要がないため、発振器1が簡素化され、発振器1や発振器1が搭載された半導体基板のチップサイズが小さいものとなる。
【0032】
なお、このチャージポンプ回路412は、必要に応じて、出力電圧Voの大きさを変更可能である。例えば、コンデンサC1とスイッチング素子MD2との間、コンデンサC2とスイッチング素子MD3との間、コンデンサC3とスイッチング素子MD4との間、コンデンサC3とスイッチング素子MD4との間から、それぞれ電圧を取り出して出力電圧Voとすることができる(回路は図示せず)。また、昇圧の必要がない場合には、スイッチング素子MD1の入力側から電圧を取り出して、出力電圧Voとすることができる(回路は図示せず)。
分圧回路42は、上述したように、昇圧回路41で昇圧された電圧Voをより低い電圧Vpに変換して発振回路2に入力する。
【0033】
図6に示すように、分圧回路42は、抵抗分圧回路であり、直列接続された抵抗器R1、R2、R3、R4と、スイッチSW1、SW2とを有している。
スイッチSW1は、抵抗器R1と抵抗器R2との間に接続された線と、抵抗器R2と抵抗器R3との間に接続された線とを接続可能である。スイッチSW2は、抵抗器R2と抵抗器R3との間に接続された線と、抵抗器R4と抵抗器R4との間に接続された線とを接続可能である。
【0034】
そして、分圧回路42は、抵抗器R1の抵抗値と、抵抗器R2〜R4のうち使用される抵抗器の総合の抵抗値との関係により、抵抗器R1の上部にある入力端子から入力された電圧Voを分圧(降圧)し、抵抗器R1と抵抗器R2との間から出力されるバイアス電圧Vpとして発振回路2に出力する。
なお、スイッチSW1を接続することにより、抵抗器R2を短絡させることができ、スイッチSW2を接続することにより、抵抗器R3を短絡させることができ、これらにより、抵抗器R2〜R4のうち使用される抵抗器の総合の抵抗値を変化させることができるため、バイアス電圧Vpを適宜調整することができる。
【0035】
なお、図示では抵抗器4個,スイッチ2個の例を挙げているが、必ずしもこれに限らない。例えば、抵抗器は必要な分解能を確保するための数(例えば8個)を設ける事も可能であり、またそれを切り替えるスイッチも必要な数(例えば6個)を設ける事も可能である。更に、発振回路2への供給端子の出力位置も、図示のR1とR2の中点に限らず、使用する抵抗器のうちの適切な接続点から出す事も可能である。要は、発振回路2へ供給する電圧に応じて適切な電位を出力できる機能を備えていればよい。
【0036】
緩衝回路5Aは、バッファアンプであり、発振回路2と昇圧回路41との間に設けられている。緩衝回路5Aでは、発振回路2から出力され、昇圧回路41に入力されるクロックパルスφが通過する。そして、昇圧回路41と発振回路2との相互の動作に影響を与えることを防止する。
緩衝回路5Bは、バッファアンプであり、発振回路2と外部回路100との間に設けられている。緩衝回路5Bでは、発振回路2から出力され、外部回路100に入力されるクロックパルスφが通過する。そして、外部回路100と発振回路2との相互の動作に影響を与えることを防止する。
【0037】
なお、緩衝回路5A、5Bは、省略することもできる。
また、図示していないが、基準電圧供給回路3、昇圧回路41および分圧回路42を各々接続する場合、相互に干渉が懸念される場合がある。この場合は各々の接続について、緩衝回路を介在させて接続してもよい。
以上のような構成を有する発振器1は、電圧調整回路4を有することにより、発振回路2に入力されるバイアス電圧を調整することできるため、振動子21に製造時における周波数特性のずれ(誤差)が生じている場合であっても、所望の共振周波数で発振することができる。特に、昇圧回路41が用いるクロックパルスとして、発振回路2が発するクロックパルスφを用いることにより、外部のクロックパルスを用いる場合と比較して、発振回路2で出力されるクロックパルスφが劣化すること(例えば、ノイズが入ること)が防止される。また、外部のクロックパルスを用いないことにより、発振器1の外部に発振回路を設ける必要がなくなり、半導体基板上の回路を簡素化することができる。
また、図7に示されるグラフには、上述したような発振器1の作動時における、昇圧回路41の出力電圧Vo、および振動子21の共振周波数frの時間変化を示した。
【0038】
発振器1を起動してすぐには昇圧回路41の出力電圧Voは目的とする大きさとはならず、初期の出力電圧は、基準電圧Vbである。そして、出力電圧Voは、一定時間かけて上昇し、目的とする大きさとなった時点で定常状態となる。
一方、振動子21の共振周波数frは、上述したようにバイアス電圧Vpによって変化する。発振器1の動作当初は、昇圧回路41からの出力電圧Voが低いため、バイアス電圧Vpが低くなっており、共振周波数frは高いものとなる。そして、昇圧回路41からの出力電圧Voが上昇するにつれて共振周波数frは低下し、出力電圧Voが一定となった時点で共振周波数frは一定となる。
【0039】
<第2実施形態>
次に、本発明の発振器の第2実施形態について説明する。
図8は、本発明の第2実施形態に係る発振器のブロック図である。
以下、第2実施形態について、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。なお、前述した第1実施形態と同様の構成には、同一符号を付してある。
【0040】
本発明の第2実施形態にかかる発振器1Bは、電圧調整回路4Bの構成が第1実施形態と異なる以外は、前述した第1実施形態と同様である。
本実施形態において、電圧調整回路4Bは、昇圧回路41および分圧回路42を有するが、入力される基準電圧Vbの処理の順序が異なる。すなわち、基準電圧供給回路3からの基準電圧Vbは、分圧回路42へ入力される。そして、分圧回路42において、基準電圧Vbは、より小さい電圧Vo’に変換されて出力される。次に、分圧回路42において出力された電圧Vo’は、昇圧回路41に入力され、より高い電圧Vpとして出力される。
そして、昇圧回路41から出力された電圧Vpは、バイアス電圧Vpとして発振回路2に入力される。
以上のような第2実施形態によっても、第1実施形態と同様の効果を発揮することができる。
【0041】
<第3実施形態>
次に、本発明の発振器の第3実施形態について説明する。
図9は、本発明の第3実施形態に係る発振器のブロック図である。
以下、第3実施形態について、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。なお、前述した第1実施形態と同様の構成には、同一符号を付してある。
【0042】
本発明の第3実施形態にかかる発振器1Cは、緩衝回路5Aと昇圧回路41との間に分周回路6を有すること以外は、前述した第1実施形態と同様である。
分周回路6は、発振回路2から緩衝回路5Aを介して入力されたクロックパルスφをより低い周波数のクロックパルスφ’に変換して出力する。具体的には、分周回路において、クロックパルスφの周波数を利用して、クロックパルスφの周波数の整数分の1(1/n)の周波数のクロックパルスφ’を生成する。
【0043】
分周回路6から出力されたクロックパルスφ’は、昇圧回路41へ入力され、基準電圧Vbの変換に用いられる。これにより、例えば、発振回路2から出力されるクロックパルスφの周波数が高く、昇圧回路41が作動しにくい場合であっても、分周回路6において生成されたより周波数の低いクロックパルスφ’を用いることにより昇圧回路41が好適に作動する。
【0044】
なお、このような場合、発振器1内には、異なる周波数の2つのクロックパルス(クロックパルスφおよびクロックパルスφ’)が存在することになるが、クロックパルスφ’の周波数は、クロックパルスφの周波数の整数分の1であるため、クロックパルスφの劣化は防止されている。
以上のような第3実施形態によっても、第1実施形態と同様の効果を発揮することができる。
【0045】
以上、本発明の発振器を図示の各実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置換することができる。また、他の任意の構成物が付加されていてもよい。また、本発明の発振器は、前記各実施形態のうち、任意の2以上の構成(特徴)を組み合わせたものであってもよい。
例えば、上述した実施形態では、振動子として可動電極が方持ち支持された振動子を用いたが、これに限定されず、例えば、可動電極が両持ち支持された振動子、櫛歯型静電アクチュエータ等の、静電引力によって駆動し、弾性振動可能な各種振動子を用いることができる。
【符号の説明】
【0046】
1、1B、1C……発振器 2……発振回路 21……振動子 211……基板 212……固定電極 213……可動電極 214……支持部 215……可動板 216……連結部 22……バイアス回路 23……第1の増幅回路 24……第2の増幅回路 3……基準電圧供給回路 4、4B……電圧調整回路 41……昇圧回路 411……クロック発生回路 412……チャージポンプ回路 42……分圧回路 5A、5B……緩衝回路 6……分周回路 100……外部回路 MD1、MD2、MD3、MD4、MD5……スイッチング素子 C1、C2、C3、C4、Cout……コンデンサ R1、R2、R3、R4……抵抗器 SW1、SW2……スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定電極と空隙を隔てて配置された可動電極とを有する振動子を用いた発振器であって、
基準電圧を供給する基準電圧供給回路と、
クロックパルスの入力によって作動する昇圧回路を備え、前記基準電圧を所定の大きさの電圧に変換して出力する電圧調整回路とを有し、
前記振動子は、前記電圧調整回路から出力された前記所定の大きさが電圧を前記固定電極と前記可動電極との間に印加されるように構成されており、
前記昇圧回路に入力される前記クロックパルスは、前記振動子を発信源として得られたものであることを特徴とする発振器。
【請求項2】
前記電圧調整回路から出力される電圧の大きさを前記所定の大きさに調整することより、前記振動子の共振周波数を所定の数値範囲内に設定する請求項1に記載の発振器。
【請求項3】
前記振動子の振動を基に前記クロックパルスを生成し、該クロックパルスを前記昇圧回路および外部に出力する発振回路を有する請求項1または2に記載の発振器。
【請求項4】
前記発振回路と前記昇圧回路との間に、前記クロックパルスが通過する緩衝回路を有する請求項3に記載の発振器。
【請求項5】
前記電圧調整回路は、分圧回路を有し、
該分圧回路は、前記基準電圧をより低い電圧に変換して前記昇圧回路に出力し、
前記昇圧回路は、前記分圧回路から入力された電圧をより高い電圧に変換して前記所定の大きさの電圧として出力する請求項1ないし4のいずれかに記載の発振器。
【請求項6】
前記電圧調整回路は、分圧回路を有し、
前記昇圧回路は、前記基準電圧をより高い電圧に変換して前記分圧回路に出力し、
前記分圧回路は、前記昇圧回路から入力された電圧をより低い電圧に変換して前記所定の大きさの電圧として出力する請求項1ないし4のいずれかに記載の発振器。
【請求項7】
前記振動子を発信源とする前記クロックパルスを分周して前記昇圧回路に入力する分周回路を有する請求項1ないし6のいずれかに記載の発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−232791(P2010−232791A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−75907(P2009−75907)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】