説明

発泡成形体の製造方法、発泡成形体及び該発泡成形体からなる車両用ラゲージボックス

【課題】 凹凸模様を有する成形金型を用いることなく、発泡成形体の表面の全域に凹凸を形成することができ、意匠性を向上させることができると共に、表面に傷等が付き難い発泡成形体を得ることができる発泡成形体の製造方法を提供することを課題とする。また、かかる方法によって成形された発泡成形体及び該発泡成形体からなる車両用ラゲージボックスを提供することを課題とする。
【解決手段】 成形金型内の成形空間に充填された複数の発泡樹脂粒子を型内成形して一次成形体を形成する発泡成形工程と、成形空間から取りだされた一次成形体を加温することで一次成形体の少なくとも表面を再膨張させて凹凸を形成する凹凸形成工程とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡樹脂粒子からなる発泡成形体の製造方法に関し、また、かかる方法によって成形された発泡成形体及び該発泡成形体からなる車両用ラゲージボックスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、発泡樹脂粒子を用いて成形された発泡成形体は、軽量であると共に加工性に優れているため、様々な形状に成形されて用いられている。例えば、物品を収容可能に構成された車両用(例えば、自動車用)ラゲージボックスや工具等を嵌め込むようにして収納するツールボックス等を形成する材料として広く利用されている。かかる発泡成形体は、一般的に、成形金型内に形成された成形空間に充填された複数の発泡樹脂粒子が型内成形されることによって成型空間の形状に対応した形状に形成されている。
【0003】
かかる発泡成形体は、通常、表面が略平滑なものとなるため、発泡成形体の表面に加わる外力(物品や手等が触れた際に加わる力)によって傷や凹みが付き易く、また、付いた傷や凹みが目立ち易いものとなり、製品(即ち、発泡成形体)の見栄えが容易に損なわれてしまう場合がある。そこで、前記ラゲージボックス等のように使用者の目に見える製品として発泡成形体が使用される場合には、成型空間を形成する面に凹凸模様(シボ模様)が形成された成形金型を用い、発泡成形体の表面に凹凸模様を転写することで、傷等が付いた状態であっても目立ち難くすることが可能となっている。
【0004】
凹凸模様を有する成形金型は、一般的に、鋳造用金型を用いて鋳造されている。具体的には、かかる成形金型は、金網やパンチングメタルといった凹凸模様成形部材を表面に取り付けた鋳造用原型(以下、単に「原型」と略す。)を作製し、該原型から凹凸模様が転写された砂型を成形した後、該砂型を用いて凹凸模様が転写された鋳造用金型を作製して鋳造されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】登録実用新案第3045015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような凹凸模様を有する成形金型は、前記鋳造用金型を作製する際に、凹凸模様成形部材の取り付け等の手間とコストがかかってしまうため、通常の成形金型よりも製造コストが嵩むものとなってしまう。また、かかる成形金型によって成形された発泡成形体は、上述したように傷等が付いた状態を目立たなくすることができるものの、傷等自体を付き難くすることは困難である。
【0007】
さらに、成形金型の形状(詳しくは、成形空間の形状)によっては、原型に凹凸模様成形部材を取り付けることができない領域(不連続面の境界部分や曲面状の領域)があるため、成形空間を形成する面の全域に凹凸模様を転写することができない場合がある。このため、得られた発泡成形体の表面の全域に凹凸模様を形成することができず、意匠性に劣るものとなる。
【0008】
そこで、本発明は、凹凸模様を有する成形金型を用いることなく、発泡成形体の表面の全域に凹凸を形成することができ、意匠性を向上させることができると共に、表面に傷等が付き難い発泡成形体を得ることができる発泡成形体の製造方法を提供すると共に、かかる方法によって成形された発泡成形体及び表面を再膨張させた凹凸を有する発泡成形体を提供することを課題とする。また、これらの発泡成形体からなる車両用ラゲージボックスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかる発泡成形体の製造方法は、成形金型内の成形空間に充填された複数の発泡樹脂粒子を型内成形して一次成形体を形成する発泡成形工程と、成形空間から取りだされた一次成形体を加温することで一次成形体の少なくとも表面を再膨張させて凹凸を形成する凹凸形成工程とを備えることを特徴とする。
【0010】
かかる構成の発泡成形体の製造方法によれば、複数の発泡樹脂粒子を型内成形して一次成形体を成形する発泡成形工程と、成形空間から取りだされた一次成形体を加温して一次成形体の少なくとも表面を再膨張させて凹凸を形成する凹凸形成工程とを備えることで、凹凸模様を有する成形金型を用いることなく発泡成形体の表面の全域に凹凸を形成することができると共に、表面に傷等が付き難い発泡成形体を得ることができる。
【0011】
具体的には、成形空間から取り出した一次成形体を加温することにより、一次成形体の少なくとも表面が再膨張し、一次成形体の表面に凹凸が形成された状態となる。これにより、発泡成形体(即ち、一次成形体)の表面は、弾性変形可能な状態となり、発泡成形体の表面が外力(物品や手等が接触した際に加わる力)によって変形した際にも、外力が取り除かれることで復元し、発泡成形体の表面に傷等が付き難くなる。即ち、傷等の付き難い表面性状を有する発泡成形体を得ることができる。
【0012】
また、発泡成形体の表面に凹凸が形成されているため、発泡成形体の表面に傷等が付いてしまった場合であっても、表面に形成された凹凸によって傷等を目立たなくすることもできる。
【0013】
また、前記凹凸は、発泡成形体の表面の全域に亘って形成されると共に、整った形状の凹凸となるため、意匠性の高い高級感のある外観を得ることができる。
【0014】
また、本発明にかかる製造方法は、前記凹凸形成工程が一次成形体を50℃以上90℃以下の温度雰囲気下で2時間以上加温するように構成されていることが好ましい。
【0015】
かかる構成によれば、一次成形体が50℃以上90℃以下の温度雰囲気下で2時間以上加温されることで、得られる発泡成形体の全体の寸法が所望する寸法からズレてしまうのを抑制することができる。
【0016】
具体的には、一次成形体を凹凸形成工程で加温することで、一次成形体が再膨張するため、成形空間から取り出した直後よりも一次成形体全体の寸法が大きくなり、所望する寸法から外れてしまう場合がある。しかしながら、上記の温度範囲と加温時間によって凹凸形成工程が行なわれることで、発泡成形体の表面に凹凸を形成しつつも発泡成形体全体の寸法の変化を最小限にすることができる。
【0017】
また、本発明にかかる製造方法は、成形金型内の成形空間に充填された複数の発泡樹脂粒子を型内成形して一次成形体を形成する発泡成形工程を備える発泡成形体の製造方法であって、前記発泡成形工程における成型空間内の圧力が所定の圧力となった際に一次成形体を成型空間から取り出すことで一次成形体の少なくとも表面を再膨張させて凹凸を形成することを特徴とする。
【0018】
かかる構成の発泡成形体の製造方法によれば、成型空間内の圧力が所定の圧力となった際に一次成形体を成形空間から取り出すことで、凹凸模様を有する成形金型を用いることなく発泡成形体の表面の全域に凹凸を形成することができると共に、表面に傷等が付き難い発泡成形体を得ることができる。
【0019】
具体的には、発泡成形工程では、成形空間に充填された発泡樹脂粒子が型内成形される際に膨張するため、成形空間内の圧力(以下、内圧と記す)が増加した状態となる。そして、この状態で所定時間維持されることで、一次成形体が形成されて内圧が減少する。つまり、内圧が残っている状態においては、一次成形体は依然として膨張可能な状態であるため、内圧が所定の圧力となった際に一次成形体を成形空間から取り出すことで、一次成形体の表面は更に膨張し、一次成形体の表面に凹凸が形成された状態となる。
【0020】
これにより、発泡成形体(即ち、一次成形体)の表面は、弾性変形可能な状態となり、発泡成形体の表面に外力が加わって変形した際にも、外力が取り除かれることで復元し、発泡成形体の表面に傷等が付き難くなる。即ち、傷等の付き難い表面性状を有する発泡成形体を得ることができる。
【0021】
また、発泡成形体の表面に凹凸が形成されているため、発泡成形体の表面に傷等が付いてしまった場合であっても、表面に形成された凹凸によって傷等を目立たなくすることもできる。
【0022】
また、前記凹凸は、発泡成形体の表面の全域に亘って形成されると共に、整った形状の凹凸となるため、意匠性の高い高級感のある外観を得ることができる。
【0023】
なお、発泡成形工程における成形空間内の圧力とは、成形空間に充填された発泡樹脂粒子が膨張することによって成形空間の中心から外方に向かって発生する力(即ち、発泡樹脂粒子によって成形空間を形成する面に加わる力)のことをいう。
【0024】
また、本発明にかかる製造方法は、前記一次成形体を成形空間から取り出す際の成形空間内の圧力が0.02MPa以上0.04MPa以下であることが好ましい。
【0025】
かかる構成によれば、前記一次成形体を成形空間から取り出す際の成形空間内の圧力が0.02MPa以上0.04MPa以下であることで、得られる発泡成形体の全体の寸法が所望する寸法からズレてしまうのを抑制することができる。
【0026】
具体的には、成形空間内に圧力が残った状態で一次成形体を成形空間から取り出すと、一次成形体は、更に膨張するため、成形空間から取り出した直後よりも一次成形体全体の寸法が大きくなり、所望する発泡成形体全体の寸法から外れてしまう場合がある。しかしながら、上記の圧力範囲となった際に一次成形体を成形空間から取り出すことで、発泡成形体の表面に凹凸を形成しつつも発泡成形体全体の寸法の変化を最小限にすることができる。
【0027】
また、本発明にかかる発泡成形体は、上記何れかに記載の発泡成形体の製造方法を用いて形成されることを特徴とする。また、本発明にかかる発泡成形体は、成形金型内の成形空間に充填された複数の発泡樹脂粒子が型内成形されてなる発泡成形体であって、少なくとも発泡成形体の表面を再膨張させて形成された凹凸を備えることによって表面の算術平均粗さRaが6μm以上15μm以下となることを特徴とする。かかる構成によれば、発泡成形体の表面は、弾性変形可能な状態となっているため、外力が加わった際の緩衝性が優れたものとなる。これにより、発泡成形体の表面に傷等が付き難くなる。
また、本発明にかかる車両用ラゲージボックスは、前記発泡成形体からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
以上のように、本発明によれば、凹凸模様を有する成形金型を用いることなく、発泡成形体の表面の全域に凹凸を形成することができ、意匠性を向上させることができると共に、表面に傷等が付き難い発泡成形体及び該発泡成形体からなる車両用ラゲージボックスを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】第1及び第2実施形態にかかる発泡成形体からなる車両用ラゲージボックスの一例を示した図。
【図2】第1及び第2実施形態にかかる発泡成形体の断面を概念的に示した図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の第1実施形態について図1及び2を参照しながら説明する。
【0031】
本実施形態にかかる発泡成形体の製造方法(以下、本願第1方法と記す)は、使用者の目に見える状態で使用される発泡成形体、即ち、意匠性が求められる発泡成形体を成形する際に用いることができる。例えば、図1に示すように、自動車のトランクルームやラゲージスペース等で用いられる車両用ラゲージボックスAを構成する発泡成形体を成形する際に用いることができる方法である。
【0032】
該ラゲージボックスAは、物品を収容可能に構成された少なくとも一つ(本実施形態では8つ)の収容部A1を備え、全体が発泡成形体を用いて一体的に形成されている。また、ラゲージボックスAは、使用者の手によって車体に対して着脱自在に構成されている。このため、ラゲージボックスAは、表面に物品が接触したり、手や指等が押し付けられたりした際の力(外力)によって、傷や凹み等が付きやすい環境で使用されるものである。
【0033】
本願第1方法は、成形金型(図示せず)内の成形空間に充填された複数の発泡樹脂粒子を型内成形して一次成形体を成形する発泡成形工程と、成形空間から取りだされた一次成形体の表面に凹凸を形成する凹凸形成工程とを備えるものである。
【0034】
前記発泡樹脂粒子としては、特に限定されるものではないが、熱可塑性樹脂から形成されたものを用いることができる。具体的には、熱可塑性樹脂に発泡剤を含浸させて発泡性の熱可塑性樹脂とし、該発泡性の熱可塑性樹脂を水蒸気等で加熱して予備発泡させたものを用いることができる。熱可塑性樹脂としては、特に限定されるものではないが、ポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂等)、または、これらを含んだ複合樹脂を用いることができる。加工性や製造コストの観点からポリスチレン系樹脂とポリオレフィン系樹脂とを含んだ複合樹脂を用いることが好ましい。
【0035】
前記成形金型は、雄型及び雌型から構成され、雄型と雌型とが組み合わされることで前記成形空間が形成されるように構成されている。また、成形金型は、成形空間内に高温の水蒸気を噴霧可能に構成されている。具体的には、成形金型は、雄型及び雌型の内部に高温の水蒸気を導入可能に構成され、成形空間を形成する雄型及び雌型の面から高温の水蒸気を噴霧可能に構成されている。
【0036】
前記発泡成形工程は、発泡樹脂粒子が充填された成形空間に高温の水蒸気を噴霧し、発泡樹脂粒子を加熱発泡させて成形する工程である。具体的には、該発泡成形工程は、成形空間に充填された複数の発泡樹脂粒子と高温の水蒸気とを接触させることで、発泡樹脂粒子を膨張させると共に、隣接する発泡樹脂粒子同士の表面を熱融着させ、成形空間の形状に対応した形状の一次成形体を成形する工程である。
【0037】
前記凹凸形成工程は、成型空間から取り出した一次成形体を加温することで一次成形体の表面を再膨張させ、一次成形体の表面に凹凸を形成する工程である。具体的には、前記凹凸形成工程は、成型空間から取り出した一次成形体を所定の温度雰囲気下で所定時間加温することにより行なわれるものである。一次成形体を加温する温度としては、50℃以上90℃以下の温度であることが好ましく、60〜80℃であることがより好ましい。
【0038】
また、一次成形体を加温する際には、一次成形体を一定温度で継続的に加温することが好ましく、例えば、恒温槽内に一次成形体を配置して所定時間加温することが好ましい。一次成形体を加温する時間としては、2時間以上であることが好ましい。
【0039】
凹凸形成工程を実施することによって一次成形体(即ち、発泡成形体)の表面には、凹凸が形成される。詳しくは、一次成形体の表面は、図2に示すように、複数の発泡樹脂粒子における表面形成領域a1が連なって形成されており、成形空間から取り出した直後の一次成形体の表面は、図2(a)に示すように、表面形成領域a1が略平滑な状態となっている。この状態において、一次成形体を加温することにより、一次成形体の表面(即ち、各表面形成領域a1)が膨張し、図2(b)に示すように、平滑な状態であった各表面形成領域a1が膨出した状態となる。これにより、一次成形体(即ち、発泡成形体)の表面の全域に亘って凹凸(深さh)が形成されることとなる。なお、この状態における発泡成形体の表面の算術平均粗さRaは、6μm以上15μm以下となることが好ましい。
【0040】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態に係る発泡成形体の製造方法(以下、本願第2方法と記す)は、本願第1方法と同様に、表面に凹凸が形成された発泡成形体を製造する方法であり、主に発泡成形工程を実施した後の工程が異なるものである。
【0041】
具体的には、本願第2方法は、発泡成形工程における成型空間内の圧力(内圧)が所定の圧力となった際に一次成形体を成型空間から取り出すことで、一次成形体の少なくとも表面を再膨張させて凹凸を形成する点で本願第1方法と異なる。前記内圧は、成形空間内の発泡樹脂粒子が高温の水蒸気と接触して膨張することで成形空間の中心から外方に向かって発生する力(即ち、発泡樹脂粒子によって成形空間を形成する面に加わる力)である。
【0042】
つまり、成形空間に内圧が残った状態とは、成形空間内の発泡樹脂粒子が膨張可能な状態であり、かかる状態で、一次成形体を成形空間から取り出すことにより、一次成形体の表面が更に膨張することとなる。これにより、平滑な状態であった各表面形成領域a1が膨出した状態となって発泡成形体の表面に凹凸が形成される。一次成形体を成形空間から取り出す際の成形空間の内圧としては、0.02MPa以上0.04MPa以下であることが好ましい。
【0043】
以上のように、本願第1及び第2方法によれば、凹凸模様を有する成形金型を用いることなく、発泡成形体の表面の全域に凹凸を形成することができ、意匠性を向上させることができると共に、表面に傷等が付き難い発泡成形体及び該発泡成形体からなる車両用ラゲージボックスを得ることができる。
【0044】
即ち、本願第1及び第2方法は、一次成形体の表面に形成された凹凸が弾性変形可能な状態となるため、発泡成形体の表面が外力(物品や手等が接触した際に加わる力)によって変形した際にも、外力が取り除かれることで復元し、発泡成形体の表面に傷等が付き難くなる。即ち、傷等の付き難い表面性状を有する発泡成形体を得ることができる。
【0045】
また、発泡成形体の表面に凹凸が形成されるため、発泡成形体の表面に付いた傷等を凹凸によって目立たなくすることもできる。また、表面形成領域a1の形状に対応した整った形状の凹凸となるため、意匠性の高い高級感のある外観を得ることができる。また、凹凸が形成されることで、発泡成形体と他の部材(車体やシート等)との接触面積が小さくなるため摩擦が低下し、発泡成形体と他の部材とが擦れた時に生じる音鳴り(異音)を防止することができる。
【0046】
また、本願第1方法は、一次成形体が50℃以上90℃以下の温度雰囲気下で2時間以上加温されることで、発泡成形体の表面に凹凸を形成しつつも発泡成形体全体の寸法の変化を最小限にすることができる。
【0047】
また、本願第2方法は、一次成形体を成形空間から取り出す際の成形空間内の圧力が0.02MPa以上0.04MPa以下であることで、発泡成形体の表面に凹凸を形成しつつも発泡成形体全体の寸法の変化を最小限にすることができる。
【0048】
また、前記車両用ラゲージボックスAは、前記発泡成形体から形成されることで、物品を収容したり、手で持ち上げたりした際にラゲージボックスAに加わる外力によって表面が変形した場合であっても、傷等が付き難くいものとなる。
【0049】
なお、本発明にかかる発泡成形体の製造方法は、上記実施形態に限定されるものではなく種々の変更が可能である。
【0050】
例えば、上記実施形態では、本願第1及び第2方法によって成形される発泡成形体は、使用者の目に見える状態で使用されるものであるが、これに限定されるものではなく、使用者の目に触れない、即ち、意匠性が求められない発泡成形体であってもよい。具体的には、自動車の振動などによる異音を防止するために車内に敷設される床材(ティビアパッド)や、シート等の嵩上げのために設置される嵩上げ材等であってもよい。
【0051】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0052】
<本願第1方法による発泡成形体の作製>
1.実施例1
ポリプロピレン系樹脂(プライムポリマー社製、商品名「F−744NP」、融点:140℃)1920gと、ファーネスブラック(三菱化学社製、商品名「#900」)80gとを混合して押出機に供給し、溶融混練する。そして、ストランドカットにより造粒してペレット化し、ポリプロピレン系樹脂にファーネスブラックを4質量%含有させた球状(卵状)のカーボン含有ポリプロピレン系樹脂粒子(100粒あたり80mg、平均粒子径:約1mm)を得た。
【0053】
次に、撹拝機付5Lオートクレープに、前記カーボン含有ポリプロピレン系樹脂粒子800gを入れ、水性媒体として純水2kg、ピロリン酸マグネシウム20g、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ0.5gを加え、撹拌して水性媒体中に懸濁させて10分間保持し、その後60℃に昇温して水系懸濁液とした。
【0054】
次に、ジクミルパーオキサイド0.7gを溶解させたスチレン単量体340gを前記懸濁液中に30分かけて滴下し、滴下後30分間保持することによりカーボン含有ポリプロピレン系樹脂粒子にスチレン単量体を吸収させた。
【0055】
次に、反応系の温度をカーボン含有ポリプロピレン系樹脂粒子の融点と同じ140℃に昇温し、2時間保持することでスチレン単量体をカーボン含有ポリプロピレン系樹脂粒子中で重合(第1の重合)させた。
【0056】
次に、第1の重合の反応液をカーボン含有ポリプロピレン系樹脂粒子の融点より20℃低い120℃にして、この懸濁液中に、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ1.5gを加えた後、重合開始剤としてジクミルパーオキサイド3.6gを溶解したスチレン単量体860gを4時間かけて滴下し、カーボン含有ポリプロピレン系樹脂粒子にスチレン単量体を吸収させながら重合(第2の重合)を行った。
【0057】
この滴下終了後、120℃で1時間保持した後に140℃に昇温し、3時間保持して重合を完結させ、カーボン含有改質ポリスチレン系樹脂粒子を得た。
【0058】
その後、反応系の温度を60℃にして、この懸濁液中に、難燃剤としてトリ(2,3−ジブロモプロピル)イソシアネート(日本化成社製)60gと、難燃助剤として2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン(化薬アクゾ社製)30gを投入し、投入後、反応系の温度を130℃に昇温して2時間撹拝を続け、難燃性を有するカーボン含有改質ポリスチレン系樹脂粒子を得た。
【0059】
次に、常温まで冷却し、カーボン含有改質ポリスチレン系樹脂粒子を5Lオートクレーブから取り出した。取り出し後、カーボン含有改質ポリスチレン系樹脂粒子2kgと水2Lとを再び撹拝機付5Lオートクレープに投入し、発泡剤としてブタン300gを注入した。
【0060】
注入後、70℃に昇温し、4時間撹拌を続けた。その後,常温まで冷却して5Lオートクレープから取り出し、脱水乾燥して発泡性カーボン含有改質ポリスチレン系樹脂粒子(以下、発泡性樹脂粒子と記す)を得た。
【0061】
次に、得られた発泡性樹脂粒子を笠原工業株式会社製PSX40予備発泡機に1000g投入し、PSX40予備発泡機缶内に0.15MPaの圧力の水蒸気を供給し、嵩密度0.033g/cm3に予備発泡させて発泡樹脂粒子を得た。そして、得られた発泡樹脂粒子を7日間室温で放置した。
【0062】
その後、400mm×300mm×30mmの大きさのキャビティ(成形空間)を有する成形金型を用い、キャビティ内に発泡樹脂粒子を充填して0.20MPaの水蒸気をキャビティ内に50秒間導入して加熱し、型内成形を行なって一次成形体(密度:0.033g/cm3)を作製した(発泡成形工程)。その後、一次成形体の面圧(内圧)が0.001MPaに低下するまで冷却して一次成形体を取り出した。なお、一次成形体を成形金型から取り出す際の成形空間内の圧力を取出し圧力という。
【0063】
そして、直ちに一次成形体を50℃の恒温槽内で2時間加熱し、表面を再膨張させて凹凸を有する発泡成形体を得た(凹凸形成工程)。
【0064】
2.実施例2、比較例1及び2
凹凸形成工程における加熱温度及び加熱時間が異なること以外は、実施例1と同一条件で発泡成形体を作製した。
【0065】
<本願第2方法による発泡成形体の作製>
3.実施例3
実施例1における一次成形体の取出し圧力が下記表1に記載の圧力であること、凹凸形成工程を行なわなかったこと以外は、実施例1と同一条件で発泡成形体を作製した。
【0066】
4.実施例4、比較例3及び4
一次成形体の取出し圧力が下記表1に記載の圧力であること以外は、実施例3と同一条件で発泡成形体を作製した。
【0067】
<算術平均粗さRaの測定>
1.測定方法
JIS B 0601−1994「表面粗さ−定義及び表示」に準拠した方法で算術平均粗さRaの測定を行なった。実施例1乃至4の測定結果は、下記表1に示す。また、比較例1乃至4の測定結果は、下記表2に示す。
2.測定設備
・測定装置:ダブルスキャン高精度レーザー測定器 LT−9500(キーエンス社製)及びLT−9010M(キーエンス社製)
・データ処理ソフト:非接触輪郭形状 粗さ測定システム MAP−2DS(コムス社製)(測定範囲:20000μm、測定ピッチ:10μm、速度:1000μm/秒、評価長さ(ln):12.5mm、カットオフ(l):2.5mm、平均フィルタ:4、ノイズフィルタ:1)
・測定箇所:得られた発泡成形体の縦方向横方向のそれぞれ3カ所
【0068】
<全体寸法変化率の測定>
平面上に載置された発泡成形体の外周全体を覆うように形成された測定治具を用いて測定を行なった。具体的には、前記測定治具は、平面上に載置された発泡成形体を覆った状態(測定治具の内部に発泡成形体が配置された状態)で、発泡成形体との間に所定の隙間が形成されるように構成されたものである。そして、得られた発泡成形体と測定治具との間の隙間の大きさを測定し、所望する隙間の大きさに対する割合を全体寸法変化率とした。全体寸法変化率が1%以下であるものを「○」とし、1%を超えるものを「×」とした。実施例1乃至4の測定結果は、下記表1に示す。また、比較例1乃至4の測定結果は、下記表2に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
<まとめ>
上記実施例1及び2と比較例3とを比較すると、実施例1及び2の算術平均粗さRaの方が比較例3よりも高い値となっている。つまり、実施例1及び2のように凹凸形成工程を行なうことで、比較例3のように凹凸形成工程を行なわず、且つ、成形空間内に圧力が残っていない状態で一次成形体を取り出して発泡成形体とした場合(従来の発泡成形体)よりも、発泡成形体の表面により高い(より深い)凹凸が形成されることが認められる。
【0072】
また、実施例3及び4と比較例3とを比較すると、実施例3及び4の算術平均粗さRaの方が比較例3よりも高い値となっている。つまり、実施例3及び4のように成形空間内に圧力が残った状態で(成形空間内の圧力が所定の圧力となった際に)一次成形体を取出すことで、従来の発泡成形体よりも、発泡成形体の表面により高い(より深い)凹凸が形成されることが認められる。
【0073】
また、実施例1及び2と比較例1及び2とを比較すると、比較例1は、算術平均粗さRaが実施例1及び2よりも低い値となっている。また、比較例2は、算術平均粗さRaが実施例1及び2よりも高い値となっているものの、全体寸法変化率が大きくなっている。つまり、実施例1及び2のように、凹凸形成工程の加熱温度を50℃以上90℃以下として2時間以上加熱することで、算術平均粗さRaの値が高く、且つ、全体寸法変化率が小さい発泡成形体を作製することができる。
【0074】
また、実施例3及び4と比較例3及び4とを比較すると、比較例3は、算術平均粗さRaが実施例3及び4よりも低い値となっている。また、比較例4は、算術平均粗さRaが実施例3及び4よりも高い値となっているものの、全体寸法変化率が大きくなっている。つまり、実施例3及び4のように、成形金型内の圧力が0.02MPa以上0.04MPa以下となった際に一次成形体を取出した方が算術平均粗さRaの値が高く、且つ、全体寸法変化率が小さい発泡成形体を作製することができる。
【0075】
以上のように、凹凸形成工程を行なうこと、或いは、成形金型内の圧力が所定の圧力となった際に成形空間から一次成形体を取り出すことで発泡成形体の表面に凹凸を形成することができ、意匠性を向上させることができると共に、表面に傷等が付き難い発泡成形体を得ることができる。
【0076】
さらに、凹凸形成工程の加熱温度を50℃以上90℃以下として2時間以上加熱すること、或いは、成形金型内の圧力が0.02MPa以上0.04MPa以下となった際に一次成形体を成形空間から取り出すことで、上記のように表面に凹凸を形成すると共に、発泡成形体の全体の寸法が所望する寸法から外れてしまうことを抑制することができる。
【符号の説明】
【0077】
A…車両用ラゲージボックス、a1…表面形成領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形金型内の成形空間に充填された複数の発泡樹脂粒子を型内成形して一次成形体を形成する発泡成形工程と、成形空間から取りだされた一次成形体を加温することで一次成形体の少なくとも表面を再膨張させて凹凸を形成する凹凸形成工程とを備えることを特徴とする発泡成形体の製造方法。
【請求項2】
前記凹凸形成工程は、一次成形体を50℃以上90℃以下の温度雰囲気下で2時間以上加温するように構成されることを特徴とする請求項1に記載の発泡成形体の製造方法。
【請求項3】
成形金型内の成形空間に充填された複数の発泡樹脂粒子を型内成形して一次成形体を成形する発泡成形工程を備える発泡成形体の製造方法であって、
前記発泡成形工程における成型空間内の圧力が所定の圧力となった際に一次成形体を成型空間から取り出すことで一次成形体の少なくとも表面を再膨張させて凹凸を形成することを特徴とする発泡成形体の製造方法。
【請求項4】
前記一次成形体を成形空間から取り出す際の成形空間内の圧力は、0.02MPa以上0.04MPa以下であることを特徴とする請求項3に記載の発泡成形体の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか一つに記載の発泡成形体の製造方法を用いて形成されることを特徴とする発泡成形体。
【請求項6】
成形金型内の成形空間に充填された複数の発泡樹脂粒子が型内成形されてなる発泡成形体であって、少なくとも発泡成形体の表面を再膨張させて形成された凹凸を備えることによって表面の算術平均粗さRaが6μm以上15μm以下となることを特徴とする発泡成形体。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の発泡成形体からなることを特徴とする車両用ラゲージボックス。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−20405(P2011−20405A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−169039(P2009−169039)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】