説明

発熱体及び画像形成装置

【課題】画像形成装置に用いられる発熱体において、摺動性と耐久性と高熱伝導性とを兼ね備えた発熱体を提供すること。
【解決手段】発熱体30は、絶縁基板31上に形成された、通電により発熱する抵抗体32と、抵抗体32を保護する絶縁層33とを有し、絶縁層33にBN(窒化ホウ素)微粉末を分散させた構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱体及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
画像定着装置の定着器には、熱ローラ方式、フィルム加熱方式、電磁誘導加熱方式などが用いられ、実用化されている。
【0003】
従来、フィルム加熱方式に用いられる発熱体には、フィルム状の定着ベルトが発熱体上を円滑に摺動できるように、イミド系樹脂、フッ素系樹脂等を発熱体の摺動層として用いる方式が提案されている(特許文献1、特許文献2)。
【特許文献1】特開2003−131502公報
【特許文献2】特開2004−198448公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した発熱体においては、次に述べる課題がある。
【0005】
イミド系樹脂を摺動層に用いた発熱体においては、耐久性に問題はないが、摩擦抵抗が大きく十分な摺動性を得ることができないため、発熱体の表面に耐熱性グリース等の潤滑剤を用いなければならない。
【0006】
フッ素系樹脂を摺動層に用いた発熱体においては、イミド系樹脂とは対照的に、十分な摺動性を得ることができる。しかし、一般にフッ素系樹脂は柔らかいため、十分な耐久性を得ることができない。また、抵抗体保護のために形成された絶縁層を覆うように摺動層を設けた場合、絶縁層での摩耗が進み抵抗体を損傷させる可能性がある。
【0007】
抵抗体を覆う絶縁層、摺動層は熱伝導性が低いため、抵抗体で発生した熱を効率的に定着ベルトへ伝導することができず、定着ベルトの加熱に時間を要し、定着器のウォームアップ時間に影響を与えている。
【0008】
そこで本発明は、画像形成装置の定着装置に用いられる発熱体において、摺動性と耐久性と高熱伝導性とを兼ね備えた発熱体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の構成を特徴とする発熱体、及び画像形成装置である。
【0010】
(1)画像形成装置の定着装置に適用できる発熱体であって、絶縁基板と、前記絶縁基板上に形成された抵抗体と、前記抵抗体を覆う絶縁層とを有し、前記絶縁層にBN微粉末を分散させたことを特徴とする発熱体である。この構造を用いれば、BN微粉末により前記絶縁層表面に、島状の微細な凸形状が形成されたものとなるので、定着ベルトと発熱体との接触面積の低減により摩擦抵抗が低下する。これにより、摺動性と耐久性とが向上し、絶縁層と抵抗体に損傷を与えることなく、定着ベルトを摺動させることができる。また、BN微粉末は高熱伝導性を持ち、前記抵抗体で発生した熱を効率的に前記定着ベルトへ伝導させることができるため、定着器のウォームアップ時間を短縮し、消費電力を抑えることができる。
【0011】
(2)前記(1)に記載の発熱体において、前記絶縁基板がセラミックからなり、前記抵抗体が形成された面は、当該抵抗体側へ凸なる湾曲形状であることを特徴とする発熱体である。セラミックを基材に用いることにより、前記抵抗体に対する絶縁性と、十分な機械的強度とを有する。前記定着ベルトに接する前記絶縁基板の凸状湾曲面は滑らかな形状を持ち、前記定着ベルトとの摩擦抵抗を低減させることができる。
【0012】
(3)前記(1)に記載の発熱体において、前記絶縁層が低融点ガラスからなり、前記低融点ガラス中の前記BN微粉末の重量比率が、10%以上40%以下であることを特徴とする発熱体である。この重量比率の範囲において、優れた絶縁性と摺動性と耐久性と高熱伝導性とを兼ね備えた発熱体を形成することができる。
【0013】
前記(1)ないし前記(3)のいずれかに記載の発熱体を定着装置に有する画像形成装置である。この構造を有する発熱体を備えた定着器を有することで、耐久性と低消費電力性と低コスト性に優れた画像形成装置を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(1)発熱体30
図1は本発明における、発熱体30の斜視図、図2は断面図、図3は絶縁層33の構成を示す図である。図1、図2に示すように、発熱体30は断面視湾曲形状の絶縁基板31の表面に発熱用の抵抗体32を備え、抵抗体32は絶縁層33で覆われた構造をしており、絶縁層33は図3に示すように、BN微粉末34が分散されたものである。
【0015】
ここで、図5は本発明における発熱体30を有する定着器13の正面断面図である。図5に示すように、図1の構造を持った発熱体30は、定着器13において凸状湾曲面を定着ベルト20内面に接した状態で使用される。
【0016】
絶縁基板31は抵抗体32の基材で、絶縁性と高熱伝導性とを兼ね備えた材質が用いられ、抵抗体32保持のために用いられる。絶縁基板31としては、アルミナ、窒化アルミ、窒化ケイ素等のセラミックを成形したものを用いることができ、セラミックを用いることで、絶縁性、高熱伝導性、機械的強度を有する絶縁基板とすることができる。
【0017】
絶縁基板31において、定着ベルト20内面に接する凸状湾曲面は滑らかな形状を持つ。これにより、定着ベルト20の摺動による摩擦抵抗を低減させ、耐久性を向上させている。
【0018】
抵抗体32は、Ag/Pd(銀パラジウム)合金等の導電性物質を主成分とし、絶縁基板31表面の長手方向に沿って回路パターンが形成されたもので、端子32aを介して通電することにより発熱し、絶縁層33を介して接する定着ベルト20を加熱する。
【0019】
絶縁層33は、イミド系樹脂、ガラス等の絶縁性物質中にBN微粉末34が分散された構造であり、膜厚は10μm以上30μm以下程度である。分散されるBN微粉末34が酸化しやすいので、絶縁層33の基材には、無機物であるホウ素系、ビスマス系等の低融点ガラスを用いることが好ましい。このような構成を備えた絶縁層33は、図3に示すように、BN微粉末34の一部が絶縁層33表面に露出、または絶縁性物質に覆われた状態で突出して、表面に微細な凸形状が形成されたものとなる。そして、定着ベルト20が発熱体30の表面上を摺動する際、定着ベルト20と絶縁層33との接触面積が減少し、摩擦抵抗が低下する。これにより、摺動性と耐久性とが向上し、絶縁層33と抵抗体32に損傷を与えることなく、定着ベルト20を摺動させることができる。
【0020】
また、BN微粉末34は高熱伝導性を持ち、抵抗体32で発生した熱を効率的に定着ベルト20へ伝導させることができるため、定着器13のウォームアップ時間を短縮することができ、また消費電力を抑えることができる。
【0021】
BN微粉末34としては、粒径が0.1μm以上10μm以下のものを用いることができる。この範囲で良好な分散性と摺動性を得られる好ましい粒径の範囲としては0.5μm以上5μmであり、より好ましくは0.5μm以上4μm以下である。
【0022】
低融点ガラス中のBN微粉末34においては、重量比率を10%以上40%以下とすることが好ましい。この範囲内であれば、絶縁層33の表面に所望の形状を形成することができ、優れた絶縁性と摺動性と耐久性と高熱伝導性とを兼ね備えた発熱体とすることができる。
【0023】
(2)画像形成装置の概略
画像形成装置の概略について図4を用いて説明する。図4は本発明に係るフィルム方式の画像形成装置の概略図である。画像形成部は、像担持体である感光体1、感光体1を一様に帯電する帯電ローラ2、一様帯電した感光体1に対して画像信号により変調されたレーザ光を照射して静電潜像を形成する露光機3等からなっている。現像部は、現像ロータリー4内に配置されたイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各色現像機5からなり、ロータリーの回転により各色現像機5が順次感光体1に当接して感光体1上の静電潜像を現像する。
【0024】
感光体1上のトナー像は、1次転写位置において感光体1に当接する中間転写ベルト6に転写される。中間転写ベルト6は、駆動ローラ7、従動ローラ8間に渡って張架されている。1次転写位置aにおいて転写された中間転写ベルト6上のトナー像は、駆動ローラ7と対向して2次転写ローラ9が配置された2次転写部10において、用紙上に記録(2次転写)される。用紙は、給紙カセット11、搬送経路12を通って2次転写部10に搬送され、2次転写後、定着器13に搬送されて定着トナー像が定着される。両面印字の場合には、用紙は定着後に反転して両面印字時搬送経路14を経由して再度2次転写部10へ搬送されて裏面への記録が行われる。
【0025】
(3)定着器13の概略
図5は定着器13の正面断面図、図6は図5のA−A(中心線)断面図である。本発明における発熱体30を有した定着器13の概略について図5、図6を用いて説明する。定着ベルト20は加熱部材である発熱体30と押圧部材40との間にテンション力がかかった状態で掛け渡され、発熱体30によりトナー溶融に必要な温度まで加熱昇温され、外部の制御装置(図示せず)により、ベルト表面温度が一定の温度に保つように発熱体30の発熱量が制御される。この時の定着ベルト20の表面温度は、150℃以上180℃以下程度に制御されている。定着ベルト20は、直径30mm以上50mm以下、周長95mm以上160mm以下で、厚さ30μm以上50μm以下のPI(ポリイミド)等の耐熱性樹脂フィルム、もしくは厚さ20μm以上40μm以下のSUS(Steel Use Stainless)やNi、Fe等の金属製基板の表層に、PFA(パーフルオロアルコキシアルカン)やPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などのフッ素系樹脂が設けられている。また、基材とフッ素樹脂層の間に弾性層として厚さ150μm以上300μm以下程度のシリコンゴム層等を有することもある。
【0026】
発熱体30は定着ベルト20の内側において、押圧部材40と対向し、加圧ローラ50と反対側に設けられ、発熱体30と押圧部材40との間にはテンション力として1kgf以上3kgf以下の荷重がかかっているため定着ベルト20は発熱体30に密着し、定着ベルト20を効率よく加熱する。このテンション力により、ニップ内部での定着ベルト20のたわみを防止し、定着ベルト20を定着部材に充分に押し付けることができる。
【0027】
押圧部材40は定着ベルト20の内側に配置され、定着ベルト20を横方向に張り出す曲面状の翼部分40a、40bと、加圧ローラ50に向かって凹形状の中間部分40c、軸方向所定間隔毎に設けられた板状部材40dからなっている。押圧部材40としては、PPS(ポリフェニルスルファイド)、PAI(ポリアミドイミド)、PI等の耐熱性樹脂から形成されており、表面には定着ベルト内面との摩擦力を低減するためにPTFEやPFA等のフッ素樹脂層を有することもある。
【0028】
図5に示すように、押圧部材40の翼部分40a、40bと中間部分40cとの接続部40e、40fは凸部を形成し、定着ベルト20を介して加圧ローラ50に当接し、中間部分40cは定着ベルト20と非接触である。なお、凸部先端の曲率半径は0.5mm以上2.0mm以下であり、曲率を持たせることで、定着ベルト20の摺動によるベルト摩耗が低減される。凸部先端が当接する当接部S1、S2は定着ニップの入口部、出口部を形成し、図5において定着ベルト20が時計方向に回転している場合、当接部S1が入口部、当接部S2が出口部で、S1とS2間が定着ニップ幅となる。このような構成であるため、押圧部材40の形状によりニップ幅を設定することが可能で、本発明における実施例ではニップ幅を8mm以上12mm以下程度としている。
【0029】
押圧部材40は、軸方向に延びる直径10mm以上20mm以下程度の金属製たわみ防止シャフト60に固定され、定着ベルト20を介して加圧ローラ50を荷重15kgf以上40kgf以下程度で押圧し、定着ニップを形成している。軸方向所定間隔毎に設けられた板状部材40dは、中央部に窪みが形成され、この窪みにたわみ防止シャフト60の突起部61が嵌合し、この嵌合により押圧部材40はたわみ防止シャフト60に固定される。この構造により、押圧部材40が定着ベルト20内面との摩擦でシャフト回りに回転することを防ぐことができる。
【0030】
本発明における実施例では、押圧部材40が定着ニップ部の入口と出口のみで定着ベルトの内面に接触し、定着ベルト20との接触面積が小さいため、定着ベルト20から押圧部材40への熱流出が少なくなり、立ち上がり時間が短縮される。また、押圧部材40の接続部40e、40fが定着ベルト20を介して加圧ローラ50に食い込む形状になるため、加圧ローラ50と定着ベルト20の摩擦力が増大し、定着ベルト20の滑りを防止することができる。また、押圧部材40は軸方向所定間隔毎に設けられた板状部材40dでたわみ防止シャフト60と接しているため、押圧部材40とたわみ防止シャフト60との接触面積が小さくなり、押圧部材40からたわみ防止シャフト60への熱流出を少なくすることができる。
【0031】
加圧ローラ50は金属製パイプの表層に、1mm以上5mm以下程度の弾性層を有し、前記弾性層をPFAやPTFE等のフッ素系樹脂が覆っている。駆動力は加圧ローラ50に与えられ、定着ベルト20は加圧ローラ50との摩擦力により回転し、加圧ローラ50表面と定着ベルト20表面は等速で回転する。
【0032】
なお、押圧部材40、たわみ防止シャフト60、加圧ローラ50の軸方向長さ、定着ベルト20の幅(長手方向長さ)は概ね同じで、A3機では310mm以上340mm以下程度、A4機では220mm以上250mm以下程度であり、本定着装置はA3機、A4機の何れにも適用可能である。
【実施例】
【0033】
円弧状の絶縁基板31は、アルミナのグリーンシートを円弧状にアルミナパイプの治具上に形成し1500℃で焼成した後、端部を切断することにより作製した。
【0034】
抵抗体32は、この絶縁基板31表面にAg/Pd合金をスクリーン印刷により回路パターンを形成し、900℃で焼成することにより作製した。抵抗体32は、絶縁基板31の端部に通電用の端子32aとともに、絶縁基板31の長手方向に沿った回路パターンのヒータを構成している。
【0035】
絶縁層33は、低融点ガラス中に、BN微粉末34を重量比率20%添加し、混錬機で分散させたものを、抵抗体32を覆うようにスクリーン印刷した後、450℃で焼成することにより形成した。絶縁層33の膜厚は20μmである。
【0036】
以上の工程で作製した発熱体30は、図3に示すように、絶縁層33中に分散したBN微粉末の一部が絶縁層33表面に露出、またはガラスに覆われた状態で突出して微細な凸形状が形成されたものとなっていた。
【0037】
BN微粉末34が分散されていない絶縁層33を用いた場合、定着ベルト20との摩擦係数は0.5以上0.7以下であったものに対して、本実施例の発熱体30の摩擦係数は0.15程度であり、BN微粉末34の分散による摺動性向上の効果が確認された。
【0038】
低融点ガラスにBN微粉末34を分散させた絶縁層33の絶縁性は、従来用いられているガラスの絶縁層と同等以上であった。
【0039】
また、実機による紙送り動作を繰り返し、発熱体30表面の変化を確認することによって、耐久性能評価を行ったところ問題無く、BN微粉末34の添加により、絶縁層33、抵抗体32の損傷を防ぎ、発熱体30の耐久性向上に効果があることを確かめられた。
【0040】
また、絶縁体33中にBN微粉末34を分散させることで、絶縁体33の熱伝導性が向上した。そのため、効率的に定着ベルト20を加熱することができ、定着器13のウォームアップ時間を短縮することができた。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明における発熱体30の斜視図
【図2】図1の断面図
【図3】絶縁層33の構成図
【図4】本発明に係るフィルム方式の画像形成装置の概略図
【図5】定着器13の正面断面図
【図6】図5のA−A断面図
【符号の説明】
【0042】
13…定着器、20…定着ベルト、30…発熱体、31…絶縁基板、32…抵抗体、32a…通電用端子、33…絶縁層、34…BN微粉末、40…押圧部材、50…加圧ローラ、60…たわみ防止シャフト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像形成装置の定着装置に適用できる発熱体であって、絶縁基板と、前記絶縁基板上に形成された抵抗体と、前記抵抗体を覆う絶縁層とを有し、前記絶縁層にBN(窒化ホウ素)微粉末を分散させたことを特徴とする発熱体。
【請求項2】
請求項1に記載の発熱体において、前記絶縁基板がセラミックからなり、前記抵抗体が形成された面は、当該抵抗体側へ凸なる湾曲形状であることを特徴とする発熱体。
【請求項3】
請求項1に記載の発熱体において、前記絶縁層が低融点ガラスからなり、前記低融点ガラス中の前記BN微粉末の重量比率が、10%以上40%以下であることを特徴とする発熱体。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の発熱体を定着装置に有する画像形成装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−170676(P2008−170676A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−3238(P2007−3238)
【出願日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】