説明

発酵確認方法

【課題】微生物発酵により生成されたアルコールについて実験が可能な学習方法を提供する。
【解決手段】本発明は、乾燥酵母22と培養素27と水とを培養容器11に投入して液体培地15を形成し、その液体培地15中で酵母菌を繁殖させる。培養容器11の液体培地15上の空間に充満する気体を、気体採取装置60で吸引し、吸引された気体を検知管30に導入して気体中のアルコール含有率を測定する。その測定値が予め求めた基準値以上になったところで、液体培地15を燃料電池50に投入して発電させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微生物を利用した学習方法に関し、特に、アルコール発酵およびバイオマスエネルギーの学習方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルコール発酵は古来より食品工業・化学工業における分野で食品製造・化学原料の製造方法として利用されており、学校教育においても食品化学における学習指導の一環としてアルコール発酵に関する実験教育が行われている。
【0003】
しかしながら、これらの実験教育においては発酵により生成されるアルコールを直接確認するというものではなく、微生物が生成した二酸化炭素を目視で確認するというものがほとんどであり、実際に発酵によりどの程度のアルコールが生成されたかは確認することは困難であった。
【0004】
これは水溶液中のアルコールの濃度を測定するためには、ガスクロマトグラフや酵素を用いた発色反応を吸光度計により確認する必要があるなど、特殊な技術が必要であり、一般の小中学校、高校の設備では実施できないからである。
【0005】
また、近年では発酵により生成されるアルコールは化石燃料の代替エネルギー、いわゆるバイオマスエネルギーとしても注目されている。これに関しても就学児童向け学習指導が必要とされているが、安価で簡易な実験方法がこれまでに報告されておらず、アルコールを燃料として用いた学習方法はこれまでに存在しなかった。
【特許文献1】特開2007−20407号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、その目的は特殊な設備を必要とせず、簡易な方法で微生物発酵により生成されたアルコールの濃度を確認でき、かつその生成したアルコールによってバイオマスエネルギーについての実験が可能な学習方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明は、酵母菌と、前記酵母菌の培養素と、水とを酵母培養用の培養容器中に投入し、液体培地内で前記酵母菌を繁殖させ、前記容器内の前記液体培地上に充満する試料気体を、気体採取装置によって一定量吸引し、吸引された前記試料気体を検知管内に導入し、前記検知管内部に配置され、アルコール含有量に応じた長さ変色する薬剤充填層を通過させ、前記薬剤の変色長さによって前記試料気体中のアルコール含有量を求め、前記試料気体中のアルコール含有量が基準値以上に増加したことが検出されると、前記液体培地の少なくとも一部を採取してアルコール燃料電池に投入し、前記アルコール燃料電池に接続された負荷を前記アルコール燃料電池の起電力によって動作させ、アルコール発酵の有無を判断する発酵確認方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、燃料電池に注入された液体にアルコールが含有されていること、ひいては酵母のアルコール発酵によってアルコールが生産されたことが目視にて容易に観察される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1の符号1は、本発明の発酵確認方法に用いることができる学習キットを示している。
この学習キット1は、酵母培養用の培養容器11と、乾燥酵母(酵母菌)22が樹脂フィルム21に包装された酵母包装物20と、培養素(ここでは砂糖)27が包装紙26に包装された培養素包装物25と、アルコール検出用の検知管30とを最小構成として販売されており、ここでは、それらに加え、アルコールを燃料とする燃料電池50が一緒に販売されている。
【0010】
燃料電池50の構造を簡単に説明すると、図2は、燃料電池50の内部構造を簡単に説明するための模式図であり、アルコールを燃料とする燃料電池50は、一般に、容器51の内部に正極52と負極53と電解質膜55が配置されている。
正極52と負極53は、裏面が電解質膜55に接触されており、負極53の表面には液体のアルコールが接触し、正極52の表面には大気が接触するように構成されている。
【0011】
正極52と負極53には触媒が含有されており、負極53では、アルコールが触媒によって分解され、水素イオンと電子が生成される。水素イオンは、電解質膜55を通って正極52に到達し、電子は正極52と負極53の間に接続された外部回路59を通って正極52に到達し、正極52の触媒と大気中の酸素によって水が生成される。
【0012】
負極53と正極52で起こる化学反応を下記に示す。
燃料極(負極):C25OH+3H2O→12e-+12H++2CO2
空気極(正極):12e-+12H++3O2→6H2
ここでは、外部回路59は後述する負荷57に接続されており、外部回路59を流れる電子により、負荷57が駆動される。
【0013】
次に、上記のような燃料電池50を動作させるためのアルコールを生成する方法について説明する。
先ず、培養容器11の上部に設けられた主開口13上の蓋14を取り、酵母包装物20と培養素包装物25から乾燥酵母22と培養素27を取り出し、精製水と共に、主開口13から培養容器11内に投入し、蓋14を閉める。
【0014】
図3は水に培養素27が溶解して液体培地15が形成された状態を示している。
液体培地15内には乾燥酵母が含まれており、乾燥酵母中の胞子が発芽すると、液体培地15内で酵母が増殖し、アルコール発酵が進行する(ここでは、発酵により、エタノールが生成される)。
【0015】
培養容器11内では、半分程度の高さまで液体培地15が配置されており、培養容器11の内部の液体培地15よりも上方には、アルコール発酵前は空気が充満されており、アルコール発酵が進行し、液体培地15にアルコールが生成されると、一部は気体となって培養容器11内部の空間に放出される。
アルコールが生成されるときには、アルコール以外にも二酸化炭素(CO2)等が発生し、培養容器11の内部空間に放出される。
【0016】
蓋14には圧力調整用の通気口18が設けられており、通気口18から二酸化炭素や気体のアルコールの一部が大気に放出されるので、培養容器11の内圧は大気圧と等しくなる。尚、通気口18と、後述する吸引口17のいずれか一方又は両方に、細菌が通過できない程度に細かい滅菌フィルタを配置し、培養容器の内部に雑菌が混入しないようにすることもできる。
アルコール発酵が進行すると、培養容器11内の液体培地15上の空間のアルコール濃度も上昇する。
【0017】
乾燥酵母と培養素と水を培養容器11内へ投入した時刻を発酵開始時刻とすると、本発明では、培養容器11内部の液体培地15上の空間のアルコール含有率と、液体培地15に含有されるアルコール含有率とが発酵開始時刻から測定されており、アルコール含有率と発酵開始時刻を起算点とする経過時間とが、対応付けて記録され、培養容器11内部の気体のアルコール含有率が分かれば、液体培地15のアルコール含有率も分かるようになっている。
【0018】
図5は、経過時間と培養容器11内部の気体のアルコール含有率との関係を、酵母量毎に示すグラフである。ここでは、培養素(グルコース)6.7gと水20mlを混合して液体培地15を作成し、後述するように気体のアルコール含有率は検知管30を用いて測定した。
【0019】
気体のアルコール含有率を求めると同時に、液体培地15のアルコール含有率を測定した。図6は、液体培地15のアルコール含有率の測定結果と、図5のグラフから得られた結果であり、培養容器11内部の気体のアルコール含有率に対する液体培地15のアルコール含有率を示すグラフである。
【0020】
培養容器11内の気体のアルコール含有率を測定する方法について説明すると、図4(a)の符号60は気体採取装置を示している。
図1の検知管30は、アルコール含有率測定用である。検知管30は細長のガラス管31を有しており、図4(b)に示すように、ガラス管31の両端を折り、開封した状態で、取付口側を気体採取装置に装着する。
アルコールを採取する際には、予め検知管30が装着された気体採取装置60の採取ロッド63を採取装置本体61に押し込んでおく。
【0021】
蓋14には通気口18の他に吸引口17が設けられており、検知管30の採取口側を吸引口17に直接、又はゴム管を介して接続し、採取ロッド63を引き、検知管30を通して所定量(例えば培養容器11の容積20cc、液体培地15量10ccに対し100cc)の気体を吸引する。
このとき、通気口18を大気と接続しておけば、気体採取装置60で吸引された分の気体が通気口18から供給されるので、培養容器11の内部空間は減圧にならず、大気圧と等しい状態が維持される。
【0022】
検知管30の内部には、アルコールと反応して変色する試薬が封入され、薬剤充填層32が形成されている。
気体中にアルコールが含有されている場合、気体の通過中は、反応試薬は採取口側に近い位置から反応が進行し、含有されている量に応じた長さだけ薬剤充填層32が変色する。
【0023】
ガラス管31には、変色の起点位置をゼロとして、反応したアルコールの量に応じた位置に目盛35が設けられており、変色部分の終点位置の目盛35を読むと、反応したアルコールの量が分かり、反応したアルコール量と気体採取装置60に吸引した気体の体積から、気体中のアルコール含有率が分かる。
【0024】
上記図5のグラフの気体中のアルコール含有率は、検知管30の目盛35の読みで示されている。なお、ここでは、反応試薬には重クロム酸塩が用いられており、アルコール(エタノール)によって重クロム酸塩が還元されると変色するように構成されている。
【0025】
燃料電池50を動作させるために必要なアルコール含有率の最低値(例えば3%)は分かっており、液体培地15のアルコール含有率がその値のときの、培養容器11内部の気体のアルコール含有率は予め求められている。尚、本発明でアルコール含有率とは体積百分率であり、%で示す。
【0026】
培養容器11内部の気体のアルコール含有率を検知管30で測定し、その値から換算した液体培地15のアルコール含有率が、燃料電池50を動作させることができる値であった場合、注射器様の液体採取装置によって液体培地15を所定量採取し、図2に示したような、外部回路59に組み込まれた燃料電池50に注入する。燃料電池50の正極52と負極53の間には負荷57が接続されている。
【0027】
採取した液体培地15を燃料電池50の注入孔54から内部に注入すると、燃料電池50が発電を開始し、負荷57に電圧が印加される。負荷57がファンであれば回転が開始し、LED等のランプであれば発光し、スピーカーのような音源であれば音が出る。負荷57の代わりに電圧計等を設け、電圧計の示す電圧値でも確認することができる。
【0028】
このように、燃料電池50に液体培地15を注入し、燃料電池50に発電させて負荷57を動作させると、発電の事実が視認で確認できることから、燃料電池50に注入された液体にアルコールが含有されていること、ひいては酵母のアルコール発酵によってアルコールが生産されたことが実感される。
【0029】
従って、培養容器11内への乾燥酵母、培養素、水の投入から、培養容器11内の気体中のアルコール含有率の測定や、液体培地15の採取と燃料電池50への投入を、学習者に作業させると共に、アルコール発酵や燃料電池の仕組みを学習させると、学習者に印象深く記憶させることができる。
【0030】
培養素は特に限定されないが、グルコース、ショ糖、フルクトース等種々の糖類を用いることができる。また、培養素に、糖類以外の添加物を添加してもよい。
液体培地15は、そのまま燃料電池50に投入してもよいが、電極(特に負極53)の汚染を防止するために、培養容器11から液体培地15を採取する時に、又は/及び、培養容器11から採取し終わってから液体培地15を燃料電池50に投入する前に、微生物が通過できない孔径のフィルターでろ過することが望ましい。
【0031】
燃料電池50としては、メタノール直接燃料電池(DMFC:Direct Methanol Fuel Cell)を利用することも出来、またエタノール直接燃料電池(DEFC:Direct Ethanol Fuel Cell)を利用することもできる。DMFCとしては、例えば中村理科工業(株)社製のものがあり、DEFCとしてはActa社(イタリア)製のものがある。
【0032】
学習キット1の保存性を考慮すると、酵母は乾燥状態のように休眠状態のものを用いることが望ましい。また、アルコールを発生するものであれば、酵母以外にも種々のアルコール発生菌を使用することができる。
【実施例】
【0033】
酵母(ドライイースト)と、グルコースと、水を下記表1に記載する割合で混合し、液体培地15を形成した。
【0034】
【表1】

【0035】
その液体培地15を30℃で3時間発酵させ、培養容器11内の空間の気体アルコールを検知管30で測定した。検知管30指示値は1.2%であり、該指示値から予測される液体培地15アルコール含有率は9%である。
【0036】
この液体培地15をフィルター(ADVANTEC社製、孔径0.8μm)でろ過した後、メタノール燃料電池50に投入し、液注入最高電圧とを測定し、負荷57(プロペラ)の回転時間を測定したところ、上記表1に示したように、液体培地15中のアルコール(メタノール)によってメタノール燃料電池50が発電し、負荷57が動作することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に用いる学習キットの一例を説明する図
【図2】本発明に用いる燃料電池を説明する断面図
【図3】液体培地が形成された状態を説明する断面図
【図4】(a):気体採取装置を説明する側面図、(b)気体採取装置に検知管を取り付けた状態を説明する側面図
【図5】気体アルコール含有率と、発酵経過時間の関係を示すグラフ
【図6】気体アルコール含有率と、液体培地中のアルコール含有率との関係を示すグラフ
【符号の説明】
【0038】
1……学習キット 11……培養容器 15……液体培地 50……燃料電池 30……検知管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵母菌と、前記酵母菌の培養素と、水とを酵母培養用の培養容器中に投入し、液体培地内で前記酵母菌を繁殖させ、
前記容器内の前記液体培地上に充満する試料気体を、気体採取装置によって一定量吸引し、吸引された前記試料気体を検知管内に導入し、前記検知管内部に配置され、アルコール含有量に応じた長さ変色する薬剤充填層を通過させ、
前記薬剤の変色長さによって前記試料気体中のアルコール含有量を求め、
前記試料気体中のアルコール含有量が基準値以上に増加したことが検出されると、前記液体培地の少なくとも一部を採取してアルコール燃料電池に投入し、前記アルコール燃料電池に接続された負荷を前記アルコール燃料電池の起電力によって動作させ、アルコール発酵の有無を判断する発酵確認方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−224264(P2008−224264A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−59467(P2007−59467)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(390010364)光明理化学工業株式会社 (18)
【Fターム(参考)】