説明

皮膚と粘膜のセラミド濃度を増加させるためのスフィンゴミエリナーゼの使用並びに該酵素を含有する局所塗布に適した皮膚科用および化粧用組成物

【課題】皮膚と粘膜のセラミド濃度を増加させるための局所塗布に適した皮膚科用または化粧用の組成物の提供。
【解決手段】細菌から得られるスフィンゴミエリナーゼを配合した組成物。スフィンゴミエリナーゼはグラム陽性菌、グラム陰性菌、乳酸菌またはこれらの混合菌から抽出するのが好ましい。特に乳酸菌を用いるのが好ましく、乳酸菌としてはラクトバチルス・アシドフィルス等のラクトバチルス属、ビフィドバクテリウム・アドレスセンチス等のビフィドバクテリウム属、ストレプトコッカス・ラクチス等のストレプトコッカス属の菌が挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は皮膚と粘膜のセラミド濃度を増加させるためのスフィンゴミエリナーゼ(入手源:グラム陽性菌、グラム陰性菌、乳酸菌またはこれらの混合菌)の使用並びに該酵素を含有する局所塗布に適した皮膚科用および化粧用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミド(N−アシルスフィンゴシン)は脂質代謝産物であって、最近になって、種々の作因(agent)の刺激により数時間以内に細胞内部で放出される重要な細胞内メッセンジャーまたは血清欠損によってもたらされるものとして提案されており、G0/G1相(phase)とアポプトシス(apoptosis)における細胞阻害と関連づけられている。
【0003】
現在では、セラミドはスフィンゴミエリンのシグナル変換経路に関連する第2メッセンジャーとみなされている。セラミドは、スフィンゴミエリンに対して特異的なホスホリパーゼCの形態を有するスフィンゴミエリナーゼの作用効果に起因してスフィンゴミエリンによって放出される。細胞内においては、セラミドは増殖と分化に影響を及ぼし、タンパク質の分泌を調節し、DNA切断とアポプトシスを誘発し、また、サイトカインの合成と分泌を促進する。
【0004】
これらの種々の異なる作用の基礎となる分子メカニズムはまだ完全には解明されていない。他方、セラミドの放出をもたらす分子内アゴニストについてはより詳細に知られている。スフィンゴミエリンの加水分解は細胞を外因性スフィンゴミエリナーゼと接触させるか、または内因性スフィンゴミエリナーゼを活性化するアゴニストと接触させた後では急速に進行する。この種のアゴニストにはTNF−α、Fasリガンド、インターロイキン1−β、IFN−γ、1α,25−ジヒドロキシビタミンDおよびNGFが含まれる。
【0005】
驚くべきことには、スフィンゴミエリナーゼもセラミドを皮膚と粘膜へ放出させるアゴニストとして作用することを本発明者は究明した。皮膚代謝におけるセラミドの重要性を以下の記載によって明らかにする。
【0006】
なお、スフィンゴミエリナーゼを含有する化粧用組成物は既に知られている。特許文献1にはこの種の組成物が開示されている。この場合に得られたスフィンゴミエリナーゼは、老化性皮膚中の該酵素の生理的減少に拮抗することによって、該皮膚に有益なモイスチャリング効果をもたらすセラミドへのスフィンゴミエリンの変換を促進させるために使用される。
【0007】
しかしながら、該公報には、この種の組成物が皮膚科の疾患を処置するために治療的に使用できる可能性は開示されておらず、また、提案もされていない。さらに、スフィンゴミエリナーゼは高等動物の脳や肝臓等の組織から面倒で複雑な方法によって得ている。
【0008】
表皮の主要な細胞構成要素はケラチノサイト、メラノサイト、ランゲルハンス細胞、線維芽細胞、内皮細胞およびマクロファージである。単形核白血球および多形核白血球は炎症または腫瘍の発生の過程において皮膚を浸潤する。一方、細胞内隙は主として中性の脂質、糖タンパク質、タンパク質分解生成物、デスモゾーム、活性酵素、脂腺の生成物およびセラミドから成る。この「れんがとモルタル」状構造が完全である限り、皮膚には保護層および選択透過性フィルターが付与される。
【0009】
表皮の分化過程、即ち、基底層内での細胞分裂から開始し、ケラチノサイトの死と脂質障壁の形成で終了する過程においては、細胞はその脂質合成能を変化させる。この結果、表皮の基底層はリン脂質とコレステロールによって特徴づけられ、一方、最外層はコレステロール、遊離脂肪酸および、特に、セラミドによって特徴づけられる。
【0010】
スフィンゴ脂質を主成分とする角質層の脂質は表皮の水に対する透過性障壁の維持において重要な役割を果たす。スフィンゴ脂質は表皮の顆粒状細胞の層板体から排出される。角質層の43〜46%を占めるセラミド(スフィンゴ脂質)は角質層の主要な極性脂質であって、細胞接着における漏水に対する皮膚の障壁機能および表皮の分化において基本的な役割を果たす。文献に記載されたデータによれば、セラミドは表皮内においてリン脂質様中間体を経由して新たに合成される。セラミドは角質層内においてはかなりの高濃度(全脂質の40%まで)で存在する。
【0011】
皮膚の機能特性は、皮膚の表面外観のように、加齢と共に変化する。加齢した皮膚は経皮漏水の低下に関係する角質層中の含水量の低下によって特徴づけられる。セラミド2:スフィンゴ脂質の比は加齢と共に低下することが知られている。加齢に伴うセラミドの減少は加齢過程においてみられる皮膚の脱水の原因となっている可能性がある。
【0012】
さらに、異常なセラミド濃度(欠損症)がアトピー性湿疹、皮膚病、皮膚炎、特にアトピー性皮膚炎および乾癬においてみられる。最近、セラミド1の先天性欠損症が常染色体上の劣性スフィンゴリピドーシスにおいてみられるようになっている。スフィンゴリピドーシスに基づく一般的な疾患、例えば、ファブリー病、ゴーシュ病およびテー・サックス病においても同様のことがよく知られている。シェーグレン・ラルソン症候群は正常な皮膚障壁の破壊を伴うセラミド1および6の欠損症と関連する。
【0013】
上記の事実を考慮するならば、皮膚中のセラミドを高濃度に維持することは明らかに有用である。さらに、粘膜中のセラミド濃度に関しても、スフィンゴミエリナーゼの使用が有効であることが判明した。
【0014】
現在、市場においては、抽出法または合成によって得られたセラミド類を含有する多数の製品が販売されており、これらの製品は皮膚科用または化粧用として使用されている。セラミドを外部から局所投与することによって、加齢、薬物、洗剤および物理的作因等によって変化を受ける皮膚の脂質障壁を改修することが提案されている。
【0015】
このような外部投与によっては、年齢、解剖学的部位、季節的な要因および疾患に応じてセラミドを定性的および/または定量的に変化させることはできない。従って、セラミドの外部投与によっては加法的な作用効果(内因性セラミド+外因性セラミド)が得られるだけであって、調整的な作用効果(季節、解剖学的部位、疾患の進行段階等に応じたセラミド濃度の調整)は得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開昭63−216813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
驚くべきことには、本発明者は、酸性ではなくて中性のスフィンゴミエリナーゼが細菌の細胞内に高濃度で存在すること、およびスフィンゴミエリナーゼが皮膚と粘膜中においてセラミドの生成を誘発することを究明した。
【0018】
本発明の1つの目的は、皮膚と粘膜のセラミド濃度を増加させるための局所塗布に適した皮膚科用または化粧用の組成物を調製するために、細菌から得られるスフィンゴミエリナーゼを使用する技術を提供することである。
【0019】
また、本発明の別の目的は、皮膚と粘膜のセラミド濃度の増加をもたらすのに有効な量のスフィンゴミエリナーゼを含有する皮膚科用または化粧用の組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
即ち、本発明は、皮膚と粘膜のセラミド濃度を増加させるための局所塗布に適した皮膚科用および/または化粧用の組成物を調製するための、細菌から得られるスフィンゴミエリナーゼの使用に関する
【0021】
また、本発明は、皮膚と粘膜のセラミド濃度の増加をもたらすのに有効な量の、細菌から得られるスフィンゴミエリナーゼを含有する皮膚科用または化粧用の組成物にも関する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、細菌から得られるスフィンゴミエリナーゼを使用することによって、皮膚と粘膜のセラミド濃度を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例において、8人の被験者から得られたエタノール抽出物のオートラジオグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明よれば、スフィンゴミエリナーゼはグラム陽性菌、グラム陰性菌、乳酸菌またはこれらの混合菌から抽出するのが好ましい。
【0025】
乳酸菌は下記の群から選択するのが好ましい:
ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・ブレヴィス、ラクトバチルス・ブクネリ、ラクトバチルス・カセイ、ラクトバチルス・カテナフォルメ、ラクトバチルス・セロビオスス、ラクトバチルス・クリスパツス、ラクトバチルス・クルヴァツス、ラクトバチルス・デルブルエキイ、ラクトバチルス・フェルメンツム、ラクトバチルス・ジェンセニイ、ラクトバチルス・レイクマニイ、ラクトバチルス・ミヌツス、ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・ロゴサエ、ラクトバチルス・サリヴァリウス、ビフィドバクテリウム・アドレスセンチス、ビフィドバクテリウム・アングラツム、ビフィドバクテリウム・ビフィドゥム、ビフィドバクテリウム・ブレヴェ、ビフィドバクテリウム・カテヌラツム、ビフィドバクテリウム・デンチウム、ビフィドバクテリウム・エリクソニイ、ビフィドバクテリウム・インファンチス、ビフィドバクテリウム・ロングム、ビフィドバクテリウム・プランタルム、ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラツム、ビフィドバクテリウム・シュードロングム、ストレプトコッカス・ラクチス、ストレプトコッカス・ラフィナラクチスおよびストレプトコッカス・テルモフィルス。
【0026】
本発明の好ましい態様によれば、細胞は凍結乾燥細胞または音波破砕細胞の形態で使用する。
【0027】
本発明によれば、経皮投与に適した製剤用または化粧用の組成物を調製するために皮膚への浸透性もしくは吸収性促進剤としてスフィンゴミエリナーゼを単独で使用するか、または他の促進剤と併用することができる。
【0028】
本発明によれば、このような組成物に配合されるスフィンゴミエリナーゼはグラム陽性菌、グラム陰性菌、乳酸菌またはこれらの混合菌から抽出するのが好ましい。
【0029】
乳酸菌は下記の群から選択するのが好ましい:
ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・ブレヴィス、ラクトバチルス・ブクネリ、ラクトバチルス・カセイ、ラクトバチルス・カテナフォルメ、ラクトバチルス・セロビオスス、ラクトバチルス・クリスパツス、ラクトバチルス・クルヴァツス、ラクトバチルス・デルブルエキイ、ラクトバチルス・フェルメンツム、ラクトバチルス・ジェンセニイ、ラクトバチルス・レイクマニイ、ラクトバチルス・ミヌツス、ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・ロゴサエ、ラクトバチルス・サリヴァリウス、ビフィドバクテリウム・アドレスセンチス、ビフィドバクテリウム・アングラツム、ビフィドバクテリウム・ビフィドゥム、ビフィドバクテリウム・ブレヴェ、ビフィドバクテリウム・カテヌラツム、ビフィドバクテリウム・デンチウム、ビフィドバクテリウム・エリクソニイ、ビフィドバクテリウム・インファンチス、ビフィドバクテリウム・ロングム、ビフィドバクテリウム・プランタルム、ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラツム、ビフィドバクテリウム・シュードロングム、ストレプトコッカス・ラクチス、ストレプトコッカス・ラフィナラクチスおよびストレプトコッカス・テルモフィルス。
【0030】
本発明の好ましい態様によれば、上記組成物に含有させる細胞は凍結乾燥細胞または音波破砕細胞の形態である。
【0031】
本発明による皮膚科用または化粧用の組成物には組成物1グラムあたり1×10〜1×1015CFUの乳酸菌を含有させるのが好ましい。
【0032】
本発明による皮膚科用または化粧用組成物は下記の成分を含有していてもよい:
外因性セラミドもしくは外因性セラミド含有物、スフィンゴミエリン、脂肪酸、コレステロール、セラミダーゼインヒビター、プロテアーゼインヒビター、免疫調節剤、ビタミン、成長因子、界面活性剤、乳化剤、安定剤、脂質、レオロジー添加剤(rheological additive)、湿度調節剤、酸化防止剤、防腐剤、着色剤、レーキ(lake)、顔料、助剤(例えば、酸、塩基、プロペラント(propellant))および機能性成分(収斂剤、抗脂漏剤、抗ふけ剤、脱臭剤、皮膚清浄剤、角質形成剤、モイスチャーライザー、抗乾皮剤、平滑剤、スクリーン(screen)、日焼け止め剤、着色剤、抗脱色剤、皮膚軟化剤、回復剤、栄養剤、抗しわ剤、アンチラジカル、スチフナー(stiffener)、抗皮膚線条剤、血管保護剤、抗皮膚発疹剤、鎮静剤、抗蜂巣炎剤、強壮剤、興奮剤、高溶出剤、脱毛剤、爪保護剤)。
【0033】
本発明による皮膚科用または化粧用組成物は液体状、半液体状、半固体状、固体状または粉状の形態に調製することができ、例えば、次の形態が挙げられる:
クリーム、軟膏、ローション、カプセル、パール剤、膣坐剤、マスカラ、洗眼薬、錬歯磨、合嗽剤、リップスティック、リポソーム、石鹸、ひげそり用石鹸、トニック、灌水、高位浣腸液、シャンプー、抗ふけ剤、含浸状および/または薬剤処理状の包帯もしくはガーゼ、パッチ、薬剤添加エマルション、経皮性のゲルもしくはパッチ。
【0034】
上記微生物が皮膚中でセラミド生成の誘発能を有することを確認するために、以下の実験をおこなった。該実験はヒトの皮膚中においてセラミドを生成させる酵素であるスフィンゴミエリナーゼの検出に基づくものである。
【実施例】
【0035】
1.方法
乳酸菌における中性および酸性のスフィンゴミエリナーゼのアッセイ
凍結乾燥したストレプトコッカス・テルモフィルス10mgを以下の成分を含有する緩衝液500μl中に再懸濁させた:HEPES 20mM(pH7.4)、MgCl 10mM、EDTA 2mM、DTT 5mM、NaVO 0.1mM、NaMoO 0.1mM、p−ニトロフェニルホスフェート30mM、β−グリセロホスフェート10mM、ATP750mM、PMSF1μM、ロイペプチン10μM、ペプスタチン10μM(シグマ・ケミカル社製)および0.2%トリトン(Triton)X−100(中性のスフィンゴミエリナーゼ活性のアッセイの場合)もしくは0.2%トリトンX−100(酸性のスフィンゴミエリナーゼ活性のアッセイの場合)500μl。
【0036】
調製した試料を「ビブラセル超音波発生装置[ソニック・アンド・マテリアルズ社(ダンバリー、コネクチカット)製]を用いる音波破砕による溶解処理に付した。この場合、溶解処理は音波破砕と停止を交互に10秒間ずつおこない、全体で1分50秒間おこなった。得られた音波破砕試料を4℃での遠心分離処理(14000rpm)に30分間付し、上澄みを回収し、次いでタンパク質の濃度をバイオ−ラート・ラボラトリーズ社(リッチモンド、カリフォルニア)製キットを用いて測定した。
【0037】
試料100μgを以下の成分を含有する緩衝液(最終体積:50μl)中において37℃で2時間インキュベートした:HEPES 20mM、MgCl 1mM(pH7.4)および[N−メチル−14C]スフィンゴミエリン(SM)(0.2μCi/ml、a.s.56.6mCi/mmol;アメルシャム社製)2.25μl。
【0038】
酸性のスフィンゴミエリナーゼの活性を測定するために、菌溶解質100μgを以下の成分を含有する緩衝液(最終体積:50μl)中において37℃で2時間インキュベートした:酢酸ナトリウム250mM、EDTA 1mM(pH5.0)、および[N−メチル−14C]SM2.25μl。クロロホルム:メタノール:酢酸(4:2:1)混合物の添加によって反応を遮断した。
【0039】
リン脂質を抽出し、TLCによってプレート上で分析し、SMの加水分解率をオートラジオグラフィーと液体シンチレーションを用いて定量した。音波破砕菌中に含まれるSMアーゼの量はユニット/mgタンパク質の単位で表示した。中性のSMアーゼ1ユニットによって、1分間あたり1μMのスフィンゴミエリンが加水分解された(pH7.4;37℃)。酸性のSMアーゼ1ユニットによって、1時間あたり1nMのSMが加水分解されたN−アセチルスフィンゴシンとコリンホスフェートが生成した(pH5.0;37℃)。
【0040】
クリームの調製と処置(持続時間と用法)
音波破砕乳酸菌を含有するクリームを脱水性基剤クリームを用いて調製し[基剤クリーム20g入りチューブ2本および音波破砕乳酸菌(1×1012CFU)を水20mlに加えた液体を含む小びん1本を原料として用いた。]、調製したクリームを以下の表1に示す8人のボランティアの前腕に毎日塗布することによって表皮の角質層中のセラミド濃度がどのような影響を受けるかについて調べた。
【0041】
【表1】

【0042】
被験者は対照クリームおよび試験用の乳酸菌含有クリームを1日に2回(朝と夕方)自分で塗布した(約1ml)。対照クリームは右前腕に塗布し、実験用クリームは左前腕に塗布した。両方のクリームは十分に吸収されるまでこすりつけた。表皮の角質層の脂質は、クリームの塗布開始前(T0)および処置開始から1週間後(T1)に、99.5%エタノールを用いて前腕を洗浄することによって捕集した。
【0043】
エタノール抽出物は回転エバポレーターを用いて濃縮した後、蒸発乾燥させた。乾燥させた試料をクロロホルム2mlに溶解させ、次いで該溶液を窒素を用いて乾燥させた後、セラミド定量用のDAGキナーゼアッセイ用試薬[アメルシャム社(バッキンガムシャー、英国)製]を用いる処理に付した。抽出処理を3回おこなった後、脂質を窒素を用いて再度乾燥させ、次いでクロロホルム100μlに溶解させ、該溶液をクロロホルム:メタノール:酢酸[65:15:5(v/v/v)]混合液を処理溶剤として用いる薄層クロマトグラフィー(TLC)処理に付した。ホスホリル化セラミドをオートラジオグラフィーを用いて検出した。
【0044】
セラミド−1−フォスフェートに相当するパッチを切り取り、β−カウンター内のシンチレーション液を用いる放射能カウント処理に付した。セラミドの存在量をセラミドの標準品[ウシの脳から得られたタイプIIIのセラミド;シグマ・ケミカル社(セントルイス、ミズリー)製]を用いて得られた標準曲線に基づいて決定した。
【0045】
2.結果
乳酸菌におけるスフィンゴミエリナーゼ活性
音波破砕乳酸菌試料における中性スフィンゴミエリナーゼの活性度は約2×10−7ユニット/菌1mgであったが、酸性スフィンゴミエリナーゼの活性は検知されなかった。
【0046】
皮膚中のセラミド濃度に対する音波破砕ラクトバチルス菌の効果
上記の「方法」のセクションに記載のようにして得られたエタノール抽出物中のセラミド濃度を以下の表2に示し、各々のオートラジオグラフを図1に示す。これらのデータから明らかなように、被験者間には基本的にかなりの個人差があるにもかかわらず、全被験者の前腕の皮膚におけるセラミド濃度は両方のクリームの塗布によって増加した。
【0047】
しかしながら、この増加効果は乳酸菌含有クリームの塗布後においてより顕著にみられた。さらに重要なことには、セラミド濃度に対する実験用クリームの効果は基剤クリームによって誘発される効果に比べてより早い時点で検出することができ、このことは前者がより早い作用効果をもたらすことを示すものである。
【0048】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明に係る細菌から得られるスフィンゴミエリナーゼ含有組成物は、局所塗布に適した皮膚科用組成物および化粧用組成物として有用である。
【符号の説明】
【0050】
T0 クリームの塗布開始前
T1 処置開始から1週間後

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚と粘膜のセラミド濃度を増加させるための局所塗布に適した皮膚科用および/または化粧用の組成物を調製するためのスフィンゴミエリナーゼの使用であって、スフィンゴミエリナーゼがグラム陽性菌、グラム陰性菌、乳酸菌またはこれらの混合菌から得られること特徴とする該使用。
【請求項2】
アトピー性湿疹、皮膚病および皮膚炎、特にアトピー性皮膚炎、乾癬、魚鱗癬、ファブリー病、ゴーシュ病、テー・サックス病およびシェーグレン・ラルソン症候群の予防的処置または治療的処置のための局所塗布に適した皮膚科用組成物を調製するための請求項1記載の使用。
【請求項3】
乳酸菌が下記の群から選択される請求項1または2記載の使用:ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・ブレヴィス、ラクトバチルス・ブクネリ、ラクトバチルス・カセイ、ラクトバチルス・カテナフォルメ、ラクトバチルス・セロビオスス、ラクトバチルス・クリスパツス、ラクトバチルス・クルヴァツス、ラクトバチルス・デルブルエキイ、ラクトバチルス・フェルメンツム、ラクトバチルス・ジェンセニイ、ラクトバチルス・レイクマニイ、ラクトバチルス・ミヌツス、ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・ロゴサエ、ラクトバチルス・サリヴァリウス、ビフィドバクテリウム・アドレスセンチス、ビフィドバクテリウム・アングラツム、ビフィドバクテリウム・ビフィドゥム、ビフィドバクテリウム・ブレヴェ、ビフィドバクテリウム・カテヌラツム、ビフィドバクテリウム・デンチウム、ビフィドバクテリウム・エリクソニイ、ビフィドバクテリウム・インファンチス、ビフィドバクテリウム・ロングム、ビフィドバクテリウム・プランタルム、ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラツム、ビフィドバクテリウム・シュードロングム、ストレプトコッカス・ラクチス、ストレプトコッカス・ラフィナラクチスおよびストレプトコッカス・テルモフィルス。
【請求項4】
経皮投与に適した製剤用または化粧用の組成物を調製するための請求項1から3いずれかに記載の使用。
【請求項5】
スフィンゴミエリナーゼを凍結乾燥細胞または音波破砕細胞の形態で用いる請求項1から4いずれかに記載の使用。
【請求項6】
皮膚と粘膜のセラミド濃度の増加をもたらすのに有効な量のスフィンゴミエリナーゼを含有する皮膚科用または化粧用の組成物であって、スフィンゴミエリナーゼがグラム陽性菌、グラム陰性菌、乳酸菌またはこれらの混合菌から得られることを特徴とする該組成物。
【請求項7】
乳酸菌が下記の群から選択される請求項6記載の組成物:ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・ブレヴィス、ラクトバチルス・ブクネリ、ラクトバチルス・カセイ、ラクトバチルス・カテナフォルメ、ラクトバチルス・セロビオスス、ラクトバチルス・クリスパツス、ラクトバチルス・クルヴァツス、ラクトバチルス・デルブルエキイ、ラクトバチルス・フェルメンツム、ラクトバチルス・ジェンセニイ、ラクトバチルス・レイクマニイ、ラクトバチルス・ミヌツス、ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・ロゴサエ、ラクトバチルス・サリヴァリウス、ビフィドバクテリウム・アドレスセンチス、ビフィドバクテリウム・アングラツム、ビフィドバクテリウム・ビフィドゥム、ビフィドバクテリウム・ブレヴェ、ビフィドバクテリウム・カテヌラツム、ビフィドバクテリウム・デンチウム、ビフィドバクテリウム・エリクソニイ、ビフィドバクテリウム・インファンチス、ビフィドバクテリウム・ロングム、ビフィドバクテリウム・プランタルム、ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラツム、ビフィドバクテリウム・シュードロングム、ストレプトコッカス・ラクチス、ストレプトコッカス・ラフィナラクチスおよびストレプトコッカス・テルモフィルス。
【請求項8】
スフィンゴミエリナーゼが凍結乾燥細胞または音波破砕細胞の形態である請求項6または7記載の組成物。
【請求項9】
組成物1グラムあたり1×10〜1×1015個の乳酸菌を含有する請求項6から8いずれかに記載の組成物。
【請求項10】
下記の成分をさらに含有する請求項6から9いずれかに記載の組成物:外因性セラミドもしくは外因性セラミド含有物、スフィンゴミエリン、脂肪酸、コレステロール、セラミダーゼインヒビター、プロテアーゼインヒビター、免疫調節剤、ビタミン、成長因子、界面活性剤、乳化剤、安定剤、脂質、レオロジー添加剤、湿度調節剤、酸化防止剤、防腐剤、着色剤、レーキ、顔料、助剤(例えば、酸、塩基、プロペラント)および機能性成分(収斂剤、抗脂漏剤、抗ふけ剤、脱臭剤、皮膚清浄剤、角質形成剤、モイスチャーライザー、抗乾皮剤、平滑剤、スクリーン、日焼け止め剤、着色剤、抗脱色剤、皮膚軟化剤、回復剤、栄養剤、抗しわ剤、アンチラジカル、スチフナー、抗皮膚線条剤、血管保護剤、抗皮膚発疹剤、鎮静剤、抗蜂巣炎剤、強壮剤、興奮剤、高溶出剤、脱毛剤、爪保護剤)。
【請求項11】
下記の形態を有する請求項6から10いずれかに記載の組成物:クリーム、軟膏、ローション、カプセル、パール剤、膣坐剤、マスカラ、洗眼薬、錬歯磨、合嗽剤、リップスティック、リポソーム、石鹸、ひげそり用石鹸、トニック、灌水、高位浣腸液、シャンプー、抗ふけ剤、含浸状および/または薬剤処理状の包帯もしくはガーゼ、パッチ、薬剤添加エマルション、経皮性のゲルもしくはパッチ。

【図1】
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【公開番号】特開2009−138006(P2009−138006A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−23731(P2009−23731)
【出願日】平成21年2月4日(2009.2.4)
【分割の表示】特願平10−523431の分割
【原出願日】平成9年11月14日(1997.11.14)
【出願人】(503220679)アクティアル・ファルマセウティカ・ソシエダデ・ポル・クオタス・デ・レスポンサビリダデ・リミターダ (10)
【Fターム(参考)】