説明

皮膚にグリセロールを長期補足するための注入可能なヒドロゲル

本発明は、生理学的に許容可能な分散媒中に、質量で:ヒドロゲルの全質量に対してグリセロール0.01%乃至5%及び架橋されたヒアルロン酸又はそれらの塩の1種0.1%乃至5%を含む注入可能なヒドロゲルであって、該ヒアルロン酸又はそれらの塩の1種は、二官能性の又は多官能性の分子によって該バイオポリマーの鎖の間に共有結合を形成することによって架橋されたことを特徴とし、湿式加熱で殺菌されて及び1Hzの周波数で1.10より小さいか又は等しいTanδを有する、注入可能なヒドロゲルに関する。本発明はまた、前記ヒドロゲルの製造方法、前記ヒドロゲルを含有するキット、及び皮膚科学におけるその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は皮膚にグリセロールを長期補足するための注入可能なヒドロゲルに関する。
【0002】
本発明はまた、皮膚科学分野における上記ヒドロゲルの方法及び使用にも関する。
【背景技術】
【0003】
グリセロール、内因性分子、は、皮膚に重要な役割を有するトリヒドロキシアルコールである。内因性グリセロールは皮膚弾性力及び表皮バリアの回復における皮膚の水和に特に主要な役割を果たす(British Journal of Dermatology, 159(1):23-34, July 2008, Fluhr, J. W.; Darlenski, R. *; Surber)。
【0004】
表皮上のグリセロールの種々の有益な効果は、とりわけ角質層(皮膚の再外層)の水和、皮膚のバリア機能、皮膚の機械的性質、刺激物の刺激に対する保護及び創傷治癒の処置の促進を含む (British Journal of Dermatology, 159(1):23-34, July 2008, Fluhr, J.
W.; Darlenski, R. *; Surber)。
【0005】
グリセロールを含む生成物の局所適用は、アトピー性皮膚炎の場合と同様に、乾燥症及び劣化してきた表皮バリアによって特徴づけられる疾患において皮膚の特性を改善することが従来技術から知られている。
【0006】
その上、加齢に伴って、我々は皮膚のグリセロール量の減少に気付く。
【0007】
グリセロールの補足は皮膚にとってとても有益であることは、上述の全てから推測できる。
【0008】
それゆえ、多くの化粧品はその組成中にグリセロールを有する。このように、1日1回又は2回の適用をすると、皮膚はグリセロールの有益な効果から利益を得る。しかしながら、この溶液は毎日、皮膚の局所的な処置を必要とする。
【0009】
化粧品の使用と同様に、皮膚へのグリセロール水溶液の注入は極めて短期間にグリセロールの有益な効果から利益を得ることを可能にする。実際に、注入されたグリセロールのほぼ全ては、角質層への注入場所から急速に角質層に移動し、そして毎日の洗浄によって皮膚の表面から取り除かれる。このように、グリセロールの有益な作用は“一度限り”である(PNAS, 100(12):7360-7365, June 2003, Hara, M.W.; Verkman, A.S. / Journal d'Investigation Dermatologique, 125: 288-293, 2005, Choi, H.C)。
【0010】
ヒアルロン酸(HA)含有グリセロールの注入溶液は従来技術において記載されている。それら粘弾性特性のおかげで、これらの溶液はグリセロールの放出を遅らせるとされているように思われる。しかしながら、皮膚内に注入した場合、これら溶液はグリセロールの長期補足を提供しない(長くても1週間の期間の補足)。実際に、ヒアルロン酸は1週間足らずで、皮膚内で代謝される(Wenner-Gren International series; The chemistry, biology and medical applications of hyaluronan and its derivatives, Laurent, T.C.)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
結局、皮膚にグリセロールを長期にわたって徐々に放出するようにする注入可能なヒド
ロゲルは従来技術に存在しない。
【0012】
従って、本発明の目的は、多くの性質を有し及び上述した欠点のいくつかを避ける新規な注入可能なヒドロゲルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
従って、本発明は生理学的に許容可能な分散媒中に、質量で:
ヒドロゲルの全質量に対してグリセロール0.01%乃至5%及びヒアルロン酸又はそれらの塩の1種の架橋バイオポリマー0.1%乃至5%を含む注入可能なヒドロゲルであって、該ヒアルロン酸又はそれらの塩の1種は、二官能性の又は多官能性の分子によって前記バイオポリマーの鎖の間に共有結合を形成することによって架橋されることを特徴とし、湿式加熱で殺菌され及び1Hzの周波数で1.10より小さいか又は等しいTanδを有する、前記注入可能なヒドロゲルに関する。
【0014】
パラメーターTanδは位相角のタンジェントとして定義される通常のレオロジーパラメーターであり、該位相角は振動レオロジー試験中の応力と歪み間との位相差である。ファルコーネ(Falcone)による研究において実施されているように、位相角のタンジェントは、特に架橋されたヒアルロン酸に基づいてゲルの粘弾性特性を特徴付けることを可能にする(Journal of Biomedical Material Research, part A, January 2008, Falcone, S.J.; Berg, R.A.)。架橋されたヒアルロン酸に基づくゲルに関し、パラメーターTanδは皮膚におけるゲルの残留、即ち注入部位でのその存在、とおそらく相関がある。
【0015】
全く驚いたことには、グリセロールの0.01%乃至5%及び共有結合の形成によって架橋されたヒアルロン酸の0.1%乃至5%基づくヒドロゲルであって、続いて湿式加熱で殺菌され、1Hzの周波数でのTanδが1.10より少ないか又は等しいような粘弾性特性を有する該ヒドロゲルは、
−グリセロール及び湿式加熱で殺菌された非架橋のヒアルロン酸に基づくゲル(従来技術で記載されているグリセロールを用いたゲルの1種)と比較して、皮膚中にグリセロールの放出持続期間をかなり増加させること(比較例2参照)、
−湿式加熱で殺菌されていない、グリセロールと架橋されたヒアルロン酸に基づくゲルと比較して、著しく肌にグリセロールの放出持続期間を増加させること(比較例1参照)、
−湿式加熱で殺菌されていないグリセロールと架橋されたヒアルロン酸に基づくゲルと比較して、著しい残留性、即ち注入部位でのゲルの存在、を増加させること(比較例1参照)、
を可能にする。
【0016】
適した濃度でのヒアルロン酸の共有架橋結合、適した濃度でのグリセロールの存在、十分に高温での湿式加熱による殺菌及び特有の粘弾特性を有するゲルを得るという4つの選択は、長期間にわたって皮膚にグリセロールを放出するための数ヶ月間の残留性及びボリュームを有するグリセロールを備えた注入可能なヒドロゲルを得ることを可能にする。それ故に、本発明に従う注入可能なヒドロゲルの特別な特性の組合せによって、グリセロールは長期にわたってゲルから徐々に溶出し、このようにして、グリセロールが長期のあいだ補足されることから、ゆっくり時間をかけて皮膚に利益を与える。
【0017】
本発明によれば、グリセロールの濃度はヒドロゲルの全質量に対して、0.01%乃至5質量%、好ましくは0.5%乃至2.5%である。5質量%を超えると、ヒドロゲルのオスモル濃度は高すぎて、それを皮膚内に注入するのに適さない。
【0018】
本発明によれば、架橋されたヒアルロン酸又はその塩の1種の濃度は、ヒドロゲルの全
質量に対し0.1%乃至5質量%、好ましくは0.5%乃至3質量%である。
【0019】
本発明によれば、ヒロドゲルは1Hzの周波数で1.10より低いか又は等しいTanδを有する。好ましくはヒドロゲルは1Hzの周波数で0.80より低いか又は等しいtanδを有する。
【0020】
好ましくは、ヒアルロン酸又はその塩の1種(架橋前)の分子量は1000Da乃至10×106Da、好ましくは500,000及び4×106Daである。
【0021】
本発明によれば、1つの又は複数の天然起源の他の多糖と共に又は無しに、非架橋の又は既に架橋したヒアルロン酸について、例えばエポキシド、エピハロヒドリン及びジビニルスルホンから選択される二官能性の又は多官能性の分子によって架橋が生じる。例えば、使用される架橋剤はブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)又はジビニルスルホン(DVS)である。
【0022】
本発明の特定の態様によれば、ゲルは、また、生物又はヒドロゲルに有益な効果を有する、(天然起源の多糖のような)他の生態適合性ポリマー及び/又は(リドカイン、局所麻酔薬のような)他の薬理的活性物質又は(ビタミンもしくはミネラル塩のような)非薬理的活性物質も含むことができる。
【0023】
本発明によれば、前記注入可能なヒドロゲルは湿式加熱で殺菌される。
【0024】
有利には、殺菌は100℃より高い温度で実施される。好ましくは、殺菌は121℃より高いか又は等しい温度で実施される。
【0025】
例えば、以下の殺菌サイクルの1種:131℃1分間/130℃3分間/125度7分間/121℃20分間又は121℃10分間
が使用され得る。
【0026】
本発明はまた、
a)二官能性の又は多官能性の分子を用いて、前記バイオポリマーの鎖間を共有結合の形成によって、ヒアルロン酸又はその塩の1種の架橋バイオポリマーの少なくとも0.1%乃至5質量%を含む第1混合物を調製する段階、
b)段階a)中に、ヒアルロン酸又はその塩の1種のバイオポリマーの架橋の前に、中に又は後に、0.01%乃至5質量%のグリセロールを添加して、均質な混合物を形成する段階、
c)このようにして得られたゲルをすぐに使用できる形態に転換する段階、
d)湿式加熱で生成物を殺菌する段階
を含む、上記に記載の注入可能なヒドロゲルの製造方法に関する。
【0027】
グリセロールは実際には、架橋されたヒアルロン酸に基づくゲルの製造中に架橋されたヒアルロン酸に基づくゲルに添加でき、即ち、段階a)におけるヒアルロン酸に基づくゲルの架橋前もしくは架橋中に、又はまさに段階a)の終わり:バイオポリマーの架橋後に添加できる。
【0028】
この注入可能なヒドロゲルの製造方法中で、殺菌温度は100℃よりも高い。
【0029】
好ましくは、殺菌温度は121℃より高いか又は等しい温度で実施される。
【0030】
特に、ヒドロゲルの製造方法中、殺菌は以下のサイクル:
131℃1分間/130℃3分間/125℃7分間/121℃20分間又は121℃10分間の1つに従って実施される。
【0031】
このようにして得られたゲルは、1Hzの周波数でTanδが1.10より低いか又は等しい、及び好ましくは0.08より低いか又は等しいようなレオロジー特性を有する。
【0032】
本発明の1つの目的はまた、シリンジ形態であり及び上記に記載のような注入可能なヒドロゲルであるキットに関する。
【0033】
キットの一態様によれば、これは本発明に従う注入可能なヒドロゲルを含有するバイアル又はボトルの形態であり得、及び注入用シリンジに採取するのに適しえる。
【0034】
本発明はまた、哺乳類の皮膚の化学的、物理的及び機械的特性を改善するための、本発明に従う注入可能なヒドロゲル又は上記に記載のキットの使用に関する。
【0035】
特に、本発明はまた、しわ及び線を埋めるため、及び/又はボリュームを与えるため、及び/又は皮膚に潤いを与えるため、及び/又は表皮細胞活性を再生させるため、及び/又は皮膚の硬度及び弾性の機械特性の維持のため、及び/又は表皮及び真皮の刺激を維持するため、及び/又は真皮の抗酸化活性を刺激するため、及び/又は皮膚の老化を防ぐため、及び/又は創傷治癒の処置を促進するため、前述の注入可能なヒドロゲル又は上記記載のキットの使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
この添付図に関して本発明を実施する実施例の下記記載を読むことで、本発明がよりよく理解され、並びに他の目的、詳細、特徴及びその利点が明確になるだろう。
【図1】図1は数週間かけて、2つのゲル:(湿式加熱で殺菌なされていないゲル)ゲルA及び(本発明に従う)ゲルBから表皮の表面層におけるグリセロールの濃度の%変化を表すカーブを示し、
【図2】同様に図2は、数週間かけて2つのゲル:(本発明に従う)ゲルB及び(非架橋のヒアルロン酸に基づくゲル)ゲルCから表皮の表面層のグリセロールの濃度の%変化を表すカーブを示す。
【実施例】
【0037】
本発明の実施例:
本発明を説明するためにヒロドゲルの製造例が示されるが、これは本発明の範囲を決して制限しない。
【0038】
ヒアルロン酸ナトリウム(分子量2.2×106Da)3.5gを1%の水酸化ナトリ
ウム溶液25mLに添加した。この混合物を1時間静置し、その後10分間スパチュラで混合した。それから架橋反応をブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)263μLを添加することによって開始させ、そしてそれを10分間スパチュラーを用いて攪拌した。この反応混合物を2時間、50度の水浴中に置いた。この混合物を1Mの塩酸を用いて生理的pHに調製した。体積をpH7に緩衝された溶液で116mLに調製した。
【0039】
その次に、このようにして得られたゲルを、残りの架橋剤を取り除くために、pH7に緩衝された溶液に対して24時間透析した(再生セルロース、分画限界:分子量60kDa)。
【0040】
グリセロール1.7質量%を架橋されたヒアルロン酸に基づくゲルに添加し、次いでこの混合物をスパチュラを使用して15分間、均質化した。
【0041】
次いで、このゲルを1mLのガラスシリンジの中にいれた。
【0042】
ヒアルロン酸ナトリウムの全濃度は2.1質量%と測定された。
【0043】
グリセロールの全濃度は1.68質量%と測定された。
【0044】
ゲルのpHは7.02と測定され、及びそのオスモル濃度は308mOsm/kgであった。
【0045】
初期の生物学的汚染の測定値は10CFU/gより少なかった。
【0046】
得られたシリンジの半分はヒロドゲルAを構成する。
【0047】
得られたシリンジの他の半分は以下のサイクル(131℃、1分)の湿式加熱で殺菌した。これらシリンジは本発明に従うヒロドゲルBを構成する。
【0048】
ヒドロゲルのレオロジー特性は、40mmのフラットジオメトリー、1000ミクロンの空隙及び25度の分析温度を備えた型番AR1000レオメーター(ティー・エイ・インスツルメント社(TA instruments)製)を使用して調査した。
【0049】
ヒドロゲルAに関して、粘弾性パラメーターTanδの測定値(1Hzで)は0.51に等しい。
【0050】
ヒドロゲルBに関して、粘弾性パラメーターTanδの測定値(1Hz時)は0.67に等しい。
【0051】
上記例からのヒロドゲルA及び(本発明に従う)ヒドロゲルB間の比較試験1
ラビット生体内試験:
ヒロドゲルA0.2mLの目盛り付きの皮内注射4本及び(本発明に従うヒドロゲル)ヒロドゲルB0.2mLの目盛り付きの皮内注射4本を全く同一のラビットに注射した。
【0052】
t=0では、“丘疹”の存在が各々の注入部位で見出され、注入部位でゲルの存在が証明された。各々の丘疹の直径はキャリパーゲージを用いて測定され、それから1つの丘疹の初期平均面積をヒドロゲルA及びヒドロゲルBについて計算した。
【0053】
t=3ヶ月では、注射された2種類のヒロドゲルについて、これら丘疹の全ての存在が見えた(丘疹はヒドロゲルAの4つの丘疹又はヒドロゲルBの4つの丘疹の初期平均面積の1/2より大きい平均面積を有していた)。
【0054】
t=6ヶ月では、本発明に従うヒドロゲルBを用いて形成された丘疹がまだ存在することが見出されたが(丘疹はヒドロゲルBの4つの丘疹の初期平均面積の1/2より大きい平均面積を有していた)、ヒドロゲルAを用いて得られた丘疹は今はかろうじて見えることがわかった(丘疹はヒドロゲルAの4つの丘疹の初期平均面積の1/2よりも小さい平均面積を有していた)。
【0055】
それ故、本発明に従うヒドロゲルBはヒドロゲルAの面積よりも著しく優れた残留性を有していた。
【0056】
加えて、得られた各々の丘疹で、ラビットの表皮の表面層のグリセロール濃度を最大1
0週間わたって週に一度測定した。測定されたグリセロール濃度の平均値を調査された各々のゲルに関して及び調査された各々の時間に関して計算した。ヒドロゲルAに関して及びヒドロゲルBに関して、時間をかけて測定されたグリセロール濃度の変化を対比した(図1参照)。
【0057】
皮膚のグリセロール放出のより高速なキネティクス(kinetics)は本発明に従うヒドロゲルBに関してよりもヒドロゲルAに関して見出された。
【0058】
上記例からの(本発明に従う)ヒドロゲルB及び湿式加熱で殺菌された、非架橋のヒアルロン酸及びグリセロールに基づくヒドロゲル(下記に記載のヒドロゲルC)間の比較試験2
ゲルを、pH=7で緩衝された溶液中にグリセロール1.7質量%及び架橋されていないヒアルロン酸(分子量2.2×106Da)2.1質量%で構成した。1mLガラスシ
リンジに充填した後、ゲルを以下のサイクル(131℃、1分)の湿式加熱で殺菌した。これらシリンジはヒロドゲルCを構成する。
【0059】
ヒドロゲルCのレオロジー特性は40mmのフラットジオメトリー、100ミクロンの空隙及び25度の分析温度を備えた型番AR1000レオメーター(ティー・エイ・インスツルメント社製)を使用して調査した。
【0060】
ヒドロゲルCに関して粘弾性パラメーターTanδの測定値(1Hzでの)は0.64に等しかった。
【0061】
ラビット生体内試験:
ヒロドゲルC0.2mLの目盛り付き注射4本を前試験に関して、同じラビットに実施した。
【0062】
t=0で、“丘疹”の存在は各々の注入部位で見出され、注入部位でゲルの存在が証明された。各々の丘疹の直径をキャリパーゲージを用いて測定し、その後ヒドロゲルCに関し1つの丘疹の初期平均面積を計算した。
【0063】
t=1週間で、ヒドロゲルCを用いて得られた丘疹は今はかろうじて見えことがわかった(丘疹は、ヒドロゲルCの4つの丘疹の初期平均面積の1/2より小さい平均面積を有していた)。
【0064】
t=2週間で、ヒドロゲルCを用いて得られた丘疹の全てはもはや見えないことがわかった。
【0065】
それ故、本発明に従うヒドロゲルBはヒドロゲルCよりかなり優れた残留性を有する。
【0066】
加えて、得られた各々の丘疹で、ラビットの表皮の表面層のグリセロール濃度を1、2、3及び4週間後に測定した。測定されたグリセロール濃度の平均値を調査した各々の時間に関して計算した。ヒドロゲルCに関して及びヒドロゲルBに関して時間をかけて測定されたグリセロールの濃度変化を比較した(図2参照)。
【0067】
皮膚のグリセロール放出のキネティクスは、本発明に従うヒドロゲルBよりもヒドロゲルCの方が非常に速くなることが見出された。
【0068】
従って、本発明に従う製剤において、湿式加熱で殺菌した後の、架橋されたヒアルロン酸及びグリセロール間に実質的な相乗効果が見出された。本発明に従う製剤におけるグリ
セロールの存在はその残留性、即ち注入部分でのゲルの残存時間、を著しく増加させ、及びその結果として、それは長い時間をかけた皮膚中のグリセロールの放出を増加させることを可能にする。
【0069】
それ故に、湿式加熱で殺菌を受け、及び1Hzの周波数でTanδが1.10よりも低いか又は等しい粘弾性特性を有している、グリセロール及び共有結合を形成することによって架橋されたヒアルロン酸に基づくゲルは、皮膚中のグリセロールの徐々に、長期間にわたる放出を可能にする。グリセロール及び架橋されたヒアルロン酸は、それらが本発明に従って組み合わされた場合、相乗効果を奏する。このことは、本発明の条件における湿式加熱の殺菌は、グリセロールの及び/又は架橋されたヒアルロン酸の熱活性化が可能になり、それはより優れた架橋されたHA−グリセロール親和力を可能にし、及びその結果として(湿式加熱で殺菌されていないゲルと比較して)皮膚におけるグリセロールの長期間にわたる放出が可能になるという事実によって説明できる。
【0070】
本発明に関して:
−湿式加熱で殺菌された、グリセロールと(非架橋の)ヒアルロン酸に基づくゲル(従来技術に記載されているゲルの種類)は皮膚におけるグリセロールの長期にわたる放出を確保できないこと
−実際、その放出の持続期間は約1週間より短い、
−湿式加熱で殺菌されていない、グリセロールと共有結合性の架橋されたヒアルロン酸に基づくゲルは本発明に従う製剤と同等の結果を与えることはできないこと(皮膚中のグリセロール放出持続期間は著しく短い)、
−1Hzの周波数で1.10よりも大きいTanδのようなレオロジー特性を有している、グリセロールと共有結合性の架橋されたヒアルロン酸に基づくゲルは、本発明に従う製剤と同等の結果を得るには、適した粘弾性特性及び/又は充分な残存性を有しない。実際に、皮膚中のグリセロール放出の持続期間は著しく短いこと、
を明確にして、指摘することは重要である。
【0071】
これら要因は当業者によって推測できないことを指摘することもまた重要である。
【0072】
実際、ヒアルロン酸に基づくゲルを架橋することは、皮膚中の該ゲルの残存性を増加させることを、当業者は知っている。しかしながら、ゲルにおけるグリセロールの低い分子量(分子量=92g/mol)及びヒアルロン酸の低い濃度(5質量%よりも低い濃度)を踏まえれば、当業者は、グリセロール分子はゲル中を容易に移動すること(ゲル中でグリセロールを補足するのに不十分な、ヒアルロン酸によって誘導されたゲルの立体障害)、及びその結果として皮膚中でグリセロールは素早く放出されることを容易に推測するであろう。また、ヒアルロン酸の鎖の架橋はゲル内部の立体障害の大きな増加をもたらさないので、ヒアルロン酸の架橋は、非架橋のヒアルロン酸に基づくゲルと比較して、皮膚中のグリセロール放出のキネティクスにはほとんど変化をもたらさないことも、当業者は容易に推測するであろう。
【0073】
言い換えれば、[グリセロール+共有結合の形成によって架橋されたヒアルロン酸+湿式加熱の殺菌+特定の粘弾性特性]の組合せが長期にわたって、徐々に皮膚にグリセロールを放出していくことを可能にするとは、当業者は予測できない。
【0074】
本発明を特定の態様に関して説明したが、決してこれに制限されないこと、及び、本発明の範囲内であれば、これら組合せと同様に記載された手段についての全ての等しい技術を含むことはきわめて明らかである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0075】
【非特許文献1】British Journal of Dermatology, 159(1):23-34, July 2008, Fluhr, J. W.; Darlenski, R.*; Surber.
【非特許文献2】PNAS, 100(12):7360-7365, June 2003, Hara, M.W.; Verkman, A.S.
【非特許文献3】Journal d'Investigation Dermatologique, 125: 288-293, 2005, Choi, H.C
【非特許文献4】Wenner-Gren International series; The chemistry, biology and medical applications of hyaluronan and its derivatives, Laurent, T.C.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生理学的に許容可能な分散媒中に、質量で:
ヒドロゲルの全質量に対してグリセロール0.01%乃至5%及びヒアルロン酸又はそれらの塩の1種の架橋バイオポリマー0.1%乃至5%を含む注入可能なヒドロゲルであって、
該ヒアルロン酸又はそれらの塩の1種は、二官能性の又は多官能性の分子によって該バイオポリマーの鎖の間に共有結合を形成することによって架橋されることを特徴とし、
前記注入ゲルは湿式加熱で殺菌されて及び1Hzの周波数で1.10より小さいか又は等しいTanδを有する、
注入可能なヒドロゲル。
【請求項2】
前記グリセロールが、ヒドロゲルの全質量に対して0.5%乃至2.5%の範囲の質量濃度で存在する、請求項1記載の注入可能なヒドロゲル。
【請求項3】
前記ヒアルロン酸又はそれらの塩の1種がヒドロゲルの全質量に対して0.5%乃至3%の範囲の質量濃度で存在する、請求項1又は請求項2に記載の注入可能なヒドロゲル。
【請求項4】
1Hzの周波数数で前記パラメータTanδが0.80より小さいか又は等しい、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の注入可能なヒドロゲル。
【請求項5】
前記ヒアルロン酸又はそれらの塩の1種の分子量が1000Da及び10×106Da
の間、好ましくは500,000及び4×106Daの間である、請求項1乃至請求項4
のいずれか1項に記載の注入可能なヒドロゲル。
【請求項6】
1つ又は複数の天然起源の他の多糖と共に又は無しに、非架橋の又は既に架橋したヒアルロン酸について、エポキシド、エピハロヒドリン及びジビニルスルホンから選択される二官能性の又は多官能性の分子によって、架橋が生じる、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の注入可能なヒドロゲル。例えば、使用される該架橋剤はブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)又はジビニルスルホン(DVS)であり得る。
【請求項7】
前記注入可能なヒドロゲルが生物に又はヒドロゲルに良い影響を奏する、少なくとも1種の他の生体適合性ポリマー及び/又は少なくとも1種の薬理的活性物質及び/又は少なくとも1種の非薬理的活性物質を含むことを特徴とする、請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の注入可能なヒドロゲル。
【請求項8】
a)二官能性の又は多官能性の分子により前記バイオポリマーの鎖の間に共有結合を形成することによって、ヒアルロン酸又はそれらの塩の1種の架橋されたバイオポリマーの少なくとも0.1%乃至5質量%を含む第一混合物を調製する段階、
b)段階a)中に、ヒアルロン酸又はそれらの塩の1種の架橋バイオポリマーの架橋結合の前、中又後にグリセロールの0.01%乃至5質量%を添加し、これにより均一の混合物を形成する段階、
c)これにより得られたゲルをすぐ使用できる形態に転換する段階
d)湿式加熱で生成物を殺菌する段階
を含む、注入可能なヒドロゲルの製造方法。
【請求項9】
前記殺菌温度が100℃より高い、請求項8に記載の注入可能なヒドロゲルの製造方法。
【請求項10】
前記殺菌は121℃より高いか又は等しい温度で実施される、請求項8又は請求項9に
記載の注入可能なヒドロゲルの製造方法。
【請求項11】
前記殺菌が以下のサイクル:131℃1分間/130℃3分間/125℃7分間/121℃20分間又は121℃10分間
の1つに従って実施される、請求項8乃至請求項10のいずれか1項に記載の注入可能なヒドロゲルの製造方法。
【請求項12】
得られた前記ゲルが、1Hzの周波数で、1.10より小さいか又は等しい、好ましくは0.08より小さいか又は等しい、Tanδを有する、請求項8乃至請求項11のいずれか1項に記載の注入可能なヒドロゲルの製造方法。
【請求項13】
シリンジ形態で、及び請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の注入可能なヒドロゲルを含有する、キット。
【請求項14】
バイアル又はボトルの形態で、及び請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の注入可能なヒドロゲルを含有する、及び注入用シリンジに取込むのに適した、キット。
【請求項15】
哺乳動物の皮膚の化学的な、物理的な及び機械的な特性を改善するのに適した、請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の注入可能なヒドロゲル又は請求項13又は請求項14に記載のキット。
【請求項16】
しわ及び線を埋めるため、及び/又はボリュームを与えるため、及び/又は皮膚に潤いを与えるため、及び/又は表皮細胞活性を再生させるため、及び/又は皮膚の硬度の及び弾性の機械特性の維持のため、及び/又は表皮と真皮の刺激を維持するため、及び/又は真皮の抗酸化活性を刺激するため、及び/又は皮膚の老化を防ぐため、及び/又は創傷治癒の処置を促進するため、適用される請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の注入可能なヒドロゲル又は請求項13又は請求項14に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−527926(P2012−527926A)
【公表日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−512426(P2012−512426)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【国際出願番号】PCT/FR2010/050937
【国際公開番号】WO2010/136694
【国際公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(511111840)アンタイス エス.エイ. (2)
【Fターム(参考)】