説明

皮膚外用剤

【課題】 TGF−βII型受容体の活性を抑制し、ケロイド、肥厚性瘢痕、瘢痕を処置する手段を提供することを課題とする。
【解決手段】 下記一般式(1)に表される化合物又はその塩を皮膚外用剤に含有させる。一般式(1)に表される化合物としては、モリンが好ましい。一般式(1)で表される化合物及び/又はその塩の含有量は0.1〜10質量%であることが好ましく、前記皮膚外用剤は、ケロイド、肥厚性瘢痕、瘢痕治療の処置用であることが好ましく、前記ケロイド、肥厚性瘢痕、瘢痕はTGF−βに起因するものを対照とすることが好ましい。
【化1】


(但し、R1,R2,R3,R4,R5,R6,R7,R8,R9,R10はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1−4のアルキルオキシ基
または水酸基を表す)
一般式(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケロイド、肥厚性瘢痕、瘢痕の処置技術に関し、更に詳細には、TGF−βII型受容体に起因しておこるケロイド、肥厚性瘢痕、瘢痕の処置技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ケロイド、肥厚性瘢痕、瘢痕とは、外傷・熱傷・手術等の創傷後に形成される瘢痕であり、真皮コラーゲン組織の線維化・線維成分の蓄積を特徴としている。現在、ケロイド、肥厚性瘢痕、瘢痕は、1)手術療法、2)ステロイド局所療法、3)肥厚性瘢痕治療剤、4)圧迫療法等によりその治療がなされている。
【0003】
手術療法では、再手術による瘢痕再形成の危惧があり、ステロイド局所療法では、局所注射により強い痛みを伴い、萎縮・二次感染の危険性を有する他、使用量によっては全身性の副作用を示すため、その使用には制限がある。また、圧迫療法では、中断すると創傷部の再隆起が起こるため、治療に長期間を要することが問題となっている。また、ケロイド、肥厚性瘢痕治療薬としては、トラニラスト(商品名「 リザベン」)が使用されているが、副作用として出血性膀胱炎様症状が知られている。このため、本症の治療は必ずしも充分であるとは言えず、更に高い有効性と安全性を有するケロイド、肥厚性瘢痕治療剤の開発が切望されている。その他、抗エリスロポエチン抗体のようなエリスロポエチン拮抗物質などもケロイド、肥厚性瘢痕の形成抑制に効果があるとされているが、タンパク製剤である点で使用勝手がよいとは言えない。(例えば、特許文献1、特許文献2を参照)
【0004】
瘢痕形成や組織の線維化は、損傷組織の病理的修復の結果であり、その過程において、損傷部位や線維細胞の異常な増殖およびコラ−ゲンの大量合成や沈着が見られる。この修復過程においてトランスフォ−ミング成長因子(TGF−β)は重要な役割を果たしている。(例えば、特許文献3、特許文献4、特許文献5を参照)実際、増殖ケロイド組織においては、TGF−βとその受容体の大量発現が確認され、(例えば、非特許文献1、非特許文献2を参照)抗体を用いてTGF−βの作用を押さえることにより傷口の修復過程における瘢痕形成を有効に押さえることが出来た。(非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6を参照)また、不活欠損型TGF−βII型受容体の細胞表面における大量発現が、細胞内のTGF−βのシグナル伝達を有効に阻害することが知られている。(例えば、非特許文献7を参照)
【0005】
一方、モリンは、既知物質であり、(例えば、特許文献6を参照)抗酸化作用や薬剤耐性克服作用を有することが知られているが、(例えば、特許文献7、非特許文献8、9を参照)TGF−β2II型受容体への作用も、ケロイド、肥厚性瘢痕、瘢痕への作用も全くしられていなかった。
【0006】
【特許文献1】特開2000−219626号公報
【特許文献2】特開2002−326958号公報
【特許文献3】特表2003−509030号公報
【特許文献4】特表2000−500643号公報
【特許文献5】特表平08−504577号公報
【特許文献6】WO2002084294
【特許文献7】特開2003−171274号公報
【非特許文献1】Wang, R.; Ghahary, A.; Shen, Q. Wound Repair Regen 8, 128−137, 2000.
【非特許文献2】Schmid, P.; Itin, P.; Cherry, G. Am. J. Pathol. 152, 485−493, 1998.
【非特許文献3】Shah, M.; Foreman, D.M.; Ferguson, M.W. Lancet 339, 213−214, 1992.
【非特許文献4】Shan, M.; Foreman, D.M.; Ferguson, M.W. J. Cell. Sci. 108, 985−1002, 1995.
【非特許文献5】Yamamoto, H.; Ueno, H.; Ohshima, A. J. Biol. Chem. 271, 16253−16259, 1996.
【非特許文献6】Liu, W. ; mehara, B.J.; Chin, G.S. Ann. Plast. Surg. 44, 543−551, 2000.
【非特許文献7】Bottinger, E.P.; Jakubczak, J.L.; Haines, D.C. Cancer Res. 57, 5564−5570, 1997.
【非特許文献8】Mutat. Res. 58, 231−9, 1978.
【非特許文献9】Life Science 67, 1, 91−99, 2000.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
TGF−βII型受容体の活性を抑制し、ケロイド、肥厚性瘢痕、瘢痕を処置する手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この様な状況を鑑みて、本発明者等は「TGF−βシグナル伝達を抑制し、ケロイド、肥厚性瘢痕、瘢痕を処置する手段を提供すること」を解決すべく、研究を重ねた結果、一般式(1)に表される化合物またはその塩が優れたTGF−βII型受容体アンタゴニスト作用を有していることを見出し、発明を完成させた。すなわち、本発明は次の通りである。
(1)下記一般式(1)に表される化合物又はその塩を含有する皮膚外用剤
【0009】
【化1】

(但し、R1,R2,R3,R4,R5,R6,R7,R8,R9,R10はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1−4のアルキルオキシ基
または水酸基を表す)
一般式(1)
【0010】
(2)一般式(1)に表される化合物がモリンであることを特徴とする、請求項1に記載の皮膚外用剤
【0011】
【化2】

モリン
【0012】
(3)一般式(1)で表される化合物及び/又はその塩の含有量0.1〜10質量%であることを特徴とする(1)または(2)に記載の皮膚外用剤
(4)ケロイド、肥厚性瘢痕、瘢痕治療の処置用であることを特徴とする(1)〜(3)いずれか1項に記載の皮膚外用剤
(5)前記ケロイド、肥厚性瘢痕、瘢痕がTGF−βに起因するものであることを特徴とする(4)に記載の皮膚外用剤
(6)一般式(1)に表される化合物及び/又はその塩のケロイド、肥厚性瘢痕、瘢痕の処置のための使用
(7)一般式(1)がモリン及び/又はその塩のケロイド、肥厚性瘢痕、瘢痕の処置のための使用
(8)ケロイド、肥厚性瘢痕、瘢痕が、TGF−βに起因するものである、(6)または(7)に記載の使用
【発明の効果】
【0013】
本発明によればTGF−βII型受容体を抑制し、ケロイド、肥厚性瘢痕、瘢痕を処置する手段を提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の皮膚外用剤は、一般式(1)に表される化合物及び/又はその塩を遊行し得分として含有することを特徴とする。一般式(1)において、R1〜R10に表される基は、それぞれ独立に水素原子、水酸基又は炭素数1〜4のアルキルオキシ基を表す。この様なアルキルオキシ基を構成するアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、1−メチルエチル基、ブチル基、1−メチルプロピル基、2−メチルプロピル基、1,1−ジメチルエチル基などが好適に例示できる。この様な一般式(1)に表される化合物の内、より好ましいものは、水酸基乃至はアルキルオキシ基を4〜8個有するものであり、5〜7個が特に好ましい。水酸基乃至はアルキルオキシ基はいずれを取ることも可能であるが、特に好ましくは全て水酸基の形態である。この様な化合物には、既に既知化合物であって、市販されているものが存し、かかる市販品を購入し使用することも出来る。この様な市販品としては、例えば、モリン(2−(2,4−Dihydroxyphenyl)−3,5,6,7−tetrahydroxy−4H−1−benzopyran−4−one ;morin)、2−(2−(4−ヒドロキシフェニル)−4H−1−ベンゾピラン−4−オン)(2−(4−Hydroxyphenyl)−4H−1−benzopyran−4−one)、5−ヒドロキシ−2−(4−ヒドロキシフェニル)−4H−1−ベンゾピラン4−オン)(5−−Hydroxy−2−(4−hydroxyphenyl)−4H−1−benzopyran−4−one)等が好ましく例示できる。特に好ましいものは、モリンである。これは、TGFβ2受容体を阻害する効果に優れるためである。又、これらの塩としては、通常知られている塩であれば特段の限定無く用いることが出来、例えば、ナトリウム塩やカリウム塩のようなアルカリ金属塩、カルシウム塩やマグネシウム塩のようなアルカリ土類金属塩、トリエタノールアミン塩やトリエチルアミン塩などの有機アミン塩、リシン塩やアルギニン塩などの塩基性アミノ酸塩などが好適に例示できる。本発明の皮膚外用剤に於いて、かかる一般式(1)に表される化合物及び/又はその塩は、唯一種を含有させることも出来るし、二種以上を組み合わせて含有させることも出来る。本発明の皮膚外用剤に於ける、かかる一般式(1)に表される化合物及び/又はその塩の好ましい含有量は、総量で、皮膚外用剤全量に対して、0.1〜10質量%であり、より好ましくは、0.5〜5質量%である。これは、少なすぎると、効果を奏さない場合が存し、多すぎても効果が頭打ちになり、徒に処方の自由度を束縛するのみになる場合が存するからである。
【0015】
本発明の皮膚外用剤には、前記一般式(1)に表される化合物以外に、通常皮膚外用剤で使用される製剤化のための任意成分を含有することが出来る。この様な任意成分としては、例えば、マカデミアナッツ油、アボガド油、トウモロコシ油、オリーブ油、ナタネ油、ゴマ油、ヒマシ油、サフラワー油、綿実油、ホホバ油、ヤシ油、パーム油、液状ラノリン、硬化ヤシ油、硬化油、モクロウ、硬化ヒマシ油、ミツロウ、キャンデリラロウ、カルナウバロウ、イボタロウ、ラノリン、還元ラノリン、硬質ラノリン、ホホバロウ等のオイル、ワックス類、流動パラフィン、スクワラン、プリスタン、オゾケライト、パラフィン、セレシン、ワセリン、マイクロクリスタリンワックス等の炭化水素類、オレイン酸、イソステアリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、ウンデシレン酸等の高級脂肪酸類、セチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、オクチルドデカノール、ミリスチルアルコール、セトステアリルアルコール等の高級アルコール等、イソオクタン酸セチル、ミリスチン酸イソプロピル、イソステアリン酸ヘキシルデシル、アジピン酸ジイソプロピル、セバチン酸ジ−2−エチルヘキシル、乳酸セチル、リンゴ酸ジイソステアリル、ジ−2−エチルヘキサン酸エチレングリコール、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、ジ−2−ヘプチルウンデカン酸グリセリン、トリ−2−エチルヘキサン酸グリセリン、トリ−2−エチルヘキサン酸トリメチロールプロパン、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン、テトラ−2−エチルヘキサン酸ペンタンエリトリット等の合成エステル油類、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、ジフェニルポリシロキサン等の鎖状ポリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサンシロキサン等の環状ポリシロキサン、アミノ変性ポリシロキサン、ポリエーテル変性ポリシロキサン、アルキル変性ポリシロキサン、フッ素変性ポリシロキサン等の変性ポリシロキサン等のシリコーン油等の油剤類、脂肪酸セッケン(ラウリン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム等)、ラウリル硫酸カリウム、アルキル硫酸トリエタノールアミンエーテル等のアニオン界面活性剤類、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム、ラウリルアミンオキサイド等のカチオン界面活性剤類、イミダゾリン系両性界面活性剤(2−ココイル−2−イミダゾリニウムヒドロキサイド−1−カルボキシエチロキシ2ナトリウム塩等)、ベタイン系界面活性剤(アルキルベタイン、アミドベタイン、スルホベタイン等)、アシルメチルタウリン等の両性界面活性剤類、ソルビタン脂肪酸エステル類(ソルビタンモノステアレート、セスキオレイン酸ソルビタン等)、グリセリン脂肪酸類(モノステアリン酸グリセリン等)、プロピレングリコール脂肪酸エステル類(モノステアリン酸プロピレングリコール等)、硬化ヒマシ油誘導体、グリセリンアルキルエーテル、POEソルビタン脂肪酸エステル類(POEソルビタンモノオレエート、モノステアリン酸ポリオキエチレンソルビタン等)、POEソルビット脂肪酸エステル類(POE−ソルビットモノラウレート等)、POEグリセリン脂肪酸エステル類(POE−グリセリンモノイソステアレート等)、POE脂肪酸エステル類(ポリエチレングリコールモノオレート、POEジステアレート等)、POEアルキルエーテル類(POE2−オクチルドデシルエーテル等)、POEアルキルフェニルエーテル類(POEノニルフェニルエーテル等)、プルロニック型類、POE・POPアルキルエーテル類(POE・POP2−デシルテトラデシルエーテル等)、テトロニック類、POEヒマシ油・硬化ヒマシ油誘導体(POEヒマシ油、POE硬化ヒマシ油等)、ショ糖脂肪酸エステル、アルキルグルコシド等の非イオン界面活性剤類、ポリエチレングリコール、グリセリン、1,3−ブチレングリコール、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ジグリセリン、イソプレングリコール、1,2−ペンタンジオール、2,4−ヘキシレングリコール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオール等の多価アルコール類、ピロリドンカルボン酸ナトリウム、乳酸、乳酸ナトリウム等の保湿成分類、グアガム、クインスシード、カラギーナン、ガラクタン、アラビアガム、ペクチン、マンナン、デンプン、キサンタンガム、カードラン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、グリコーゲン、ヘパラン硫酸、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸ナトリウム、トラガントガム、ケラタン硫酸、コンドロイチン、ムコイチン硫酸、ヒドロキシエチルグアガム、カルボキシメチルグアガム、デキストラン、ケラト硫酸,ローカストビーンガム,サクシノグルカン,カロニン酸,キチン,キトサン、カルボキシメチルキチン、寒天、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、ベントナイト等の増粘剤、表面を処理されていても良い、マイカ、タルク、カオリン、合成雲母、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、無水ケイ酸(シリカ)、酸化アルミニウム、硫酸バリウム等の粉体類、表面を処理されていても良い、ベンガラ、黄酸化鉄、黒酸化鉄、酸化コバルト、群青、紺青、酸化チタン、酸化亜鉛の無機顔料類、表面を処理されていても良い、雲母チタン、魚燐箔、オキシ塩化ビスマス等のパール剤類、レーキ化されていても良い赤色202号、赤色228号、赤色226号、黄色4号、青色404号、黄色5号、赤色505号、赤色230号、赤色223号、橙色201号、赤色213号、黄色204号、黄色203号、青色1号、緑色201号、紫色201号、赤色204号等の有機色素類、ポリエチレン末、ポリメタクリル酸メチル、ナイロン粉末、オルガノポリシロキサンエラストマー等の有機粉体類、パラアミノ安息香酸系紫外線吸収剤、アントラニル酸系紫外線吸収剤、サリチル酸系紫外線吸収剤、桂皮酸系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、糖系紫外線吸収剤、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、4−メトキシ−4’−t−ブチルジベンゾイルメタン等の紫外線吸収剤類、エタノール、イソプロパノール等の低級アルコール類、ビタミンA又はその誘導体、ビタミンB6塩酸塩,ビタミンB6トリパルミテート,ビタミンB6ジオクタノエート,ビタミンB2又はその誘導体,ビタミンB12,ビタミンB15又はその誘導体等のビタミンB類、α−トコフェロール,β−トコフェロール,γ−トコフェロール,ビタミンEアセテート等のビタミンE類、ビタミンD類、ビタミンH、パントテン酸、パンテチン、ピロロキノリンキノン等のビタミン類などが好ましく例示できる。本発明の皮膚外用剤は、この様な必須成分及び任意成分を常法に従って処理することにより、製造することが出来る。
【0016】
本発明の皮膚外用剤としては、皮膚に外用で適用される組成物であれば特段の限定無く適用でき、例えば、化粧水、クリーム、乳液のような化粧料(含む医薬部外品)、皮膚外用医薬、皮膚外用雑貨などが例示できる。特に好ましいものは、その使用態様が的確に指示できる皮膚外用医薬である。又、本発明の使用は、この様に、一般式(1)に表される化合物を用いて、ケロイド、肥厚性瘢痕、瘢痕の治療や予防などの処置を行うものであり、その使用形態は、前記の皮膚外用剤のように皮膚外用剤に含有させ、化合物を使用する形態も取れるし、局部注射剤形に製剤化し、局部注射などの直接投与での使用も可能である。
【0017】
以下に、実施例を挙げて、本発明の皮膚外用剤について、更に詳細に説明を加えるが、本発明がかかる実施例にのみ限定されるものではないことは言うまでもない。
【実施例1】
【0018】
TGF−b IIRc/Fcキメラ受容体を用いたバインディングアッセイ
1)化合物
モリンは、SIGMA社より購入した試薬(Lot No. 10K2502)を使用した。
1H−NMR(CDCl3)δ: 6.17 (1H, d, J=1.9Hz), 6.29 (1H, d, J=1.9Hz), 6.30−6.40 (2H, m),
7.23 (1H, d, J=7.6Hz), 9.74 (1H, s), 10.66 (1H, s).
FAB−MS m/z: 303[M+H]+.

2)評価方法
アッセイに用いる緩衝液は、全て市販の純度の高い試薬から調製した。Buffer Aは、10mM Na2HPO4, 0.150M NaCl, pH 7.2を含む溶液として、Binding Bufferは、128 mM NaCl, 5 mM KCl, 5mM MgSO4, 1.3mM CaCl2, 50mM HEPES, pH7.6を含む溶液として作製した。
Buffer Aを用いて0.5g/mLのTGF−b IIRc/Fcキメラ受容体(R&D Systems, 341−BR)溶液を1mL調製し、50?LのProtein A agarose beads (PIERCE, 20333)を加えて室温で2時間攪拌させることにより、TGF−b II型キメラ受容体結合ビ−ズ(以下ビ−ズ)を調製した。ビ−ズをBinding Bufferで2回洗浄した後、5%BSAを含むBinding Bufferを用いて室温で2時間攪拌させることでブロッキングをおこなった。ボルテックスにて十分に攪拌した後、反応用のチュ−ブに100?Lずつ分注した。
反応用チュ−ブに評価化合物および125IでラベルしたTGF−?1(Perkin Elmer, NEX−267)を添加し、室温で2時間反応させた。反応終了後、ビ−ズを400?LのBinding Bufferで3回洗浄し、測定用のチュ−ブに移した。ガンマカウンタ−(Aloka社製)によって各サンプルの放射活性を測定し、その放射活性を受容体に結合した[125I]TGF−?1として評価化合物の結合阻害活性を比較した。非特異的結合の減算は、大過剰のコ−ルドTGF−?1(R&D Systems, 240−B)を添加した群をもうけ、その値を差し引くことによって算出した。
上記方法に従いモリンのTGF−βII型レセプタ−に対する結合親和性を評価した結果を、以下の表1に示す。これより、モリンが優れたTGF−βII型レセプタ−に対する結合親和性を有し、該受容体の活性を抑制していることが判る。
【0019】
【表1】

【実施例2】
【0020】
培養ヒト線維芽細胞におけるSmad2リン酸化阻害活性
1)化合物
モリンは、SIGMA社より購入した試薬(Lot No. 10K2502)を使用した。
2)評価方法
アッセイに用いる緩衝液は、全て市販の純度の高い試薬から調製した。ヒト正常線維芽細胞 (ATCC, CCD−1113sk) を6−wellプレート (Falcon, 353046) に2x105/wellで播種し、48時間後に評価化合物を添加、さらにその1時間後にTGF−?1 (R&D SYSTEMS, 240−B) を添加した。TGF−?1刺激開始から15分後に氷冷したPBSで2回洗浄し、1wellあたり100?LのSDSサンプルバッファーを加えて各サンプルを調製した。各サンプル100?Lのうち25?LをSDS−PAGEに用い、常法に従ってウエスタンブロッティングを行った。リン酸化Smad2量を調べるための抗体として、Phospho−Smad2 (Ser465/467) Antibody (Cell Signaling TECHNOLOGY, #3101)、トータルのSmad2量を調べるための抗体として、Smad2 Antibody (Cell Signaling TECHNOLOGY, #3102)を使用した。各タンパクの量を示すバンドは、Phototope−HRP Western Blot Detection System (Cell Signaling TECHNOLOGY, #7071)を使用し、X線フイルム (富士写真フイルム, RX−U) で検出した。
【0021】
上記方法に従いモリンのTGFシグナル阻害活性を評価した結果を以下の図1に示す。これより、モリン10−5M添加により培養ヒト線維芽細胞におけるTGF−βによるSmad2リン酸化が抑制されていることが明らかに認められ、モリンが優れたTGF−βシグナル伝達抑制作用を有していることが判る。
【実施例3】
【0022】
以下に示す処方に従って、本発明の皮膚外用剤(皮膚外用医薬)を製造した。即ち、イ、ロ、ハの成分をそれぞれ80℃に加温し、イに攪拌下徐々にロを加え乳化し、更に攪拌下ハを加えて中和して、攪拌冷却し、本発明の皮膚外用剤を得た。
【0023】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、ケロイド、肥厚性瘢痕、瘢痕の治療剤乃至は予防剤に応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施例1のSmad2リン酸化阻害活性を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)に表される化合物又はその塩を含有する皮膚外用剤
【化1】

一般式(1)
(但し、R1,R2,R3,R4,R5,R6,R7,R8,R9,R10はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキルオキシ基 または水酸基を表す)
【請求項2】
一般式(1)に表される化合物がモリンであることを特徴とする、請求項1に記載の皮膚外用剤
【化2】

モリン
【請求項3】
一般式(1)で表される化合物及び/又はその塩の含有量0.1−10質量%であることを特徴とする請求項1または2に記載の皮膚外用剤
【請求項4】
ケロイド、肥厚性瘢痕、瘢痕治療の処置用であることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載の皮膚外用剤
【請求項5】
前記ケロイド、肥厚性瘢痕、瘢痕がTGF−β(トランスフォ−ミング成長因子−β)に起因するものであることを特徴とする請求項4に記載の皮膚外用剤
【請求項6】
一般式(1)に表される化合物及び/又はその塩のケロイド、肥厚性瘢痕、瘢痕の処置のための使用
【請求項7】
一般式(1)がモリン及び/又はその塩のケロイド、肥厚性瘢痕、瘢痕の処置のための使用
【請求項8】
ケロイド、肥厚性瘢痕、瘢痕が、TGF−βに起因するものである、6または7に記載の使用

【図1】
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【公開番号】特開2007−84446(P2007−84446A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−271832(P2005−271832)
【出願日】平成17年9月20日(2005.9.20)
【出願人】(000113470)ポーラ化成工業株式会社 (717)
【Fターム(参考)】