説明

皮膚水分含有量を調節および改善するためのスクレログルカン解重合物

【課題】皮膚水分含有量を調節および改善するためのスクレログルカン解重合物を提供する。
【解決手段】本発明は、解重合されたスクレログルカンを、単独でまたは1種もしくはそれ以上の有効成分と組み合わせて、化粧的または皮膚科学的スキンケア分野において健全な皮膚バリアを保護および回復させるための保湿剤として、および抗炎症活性成分として使用することに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、解重合されたスクレログルカンを、単独でまたは1種もしくはそれ以上の有効成分と組み合わせて、化粧的または皮膚科学的スキンケア分野において健全な皮膚バリアを保護および回復させるための保湿剤として、および抗炎症活性成分として使用することに関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚の最外層である角化した皮膚(角質層、SC)は重要なバリア層であり、環境による影響を防ぐために特に大切である。皮膚が平滑性、弾力性、および柔軟性を保つためには適度な水分が必要である。このような発見は、基礎的な研究、特にヤコビ(Jacobi)およびシュライト(Schuleit)およびサカール(Szakall)((非特許文献1)、(非特許文献2)、(非特許文献3))によって確認されている。
【0003】
人間は皮膚を通じて一日に数デシリットルから数リットルの水を外部に放出する。皮膚中に存在する水の由来は様々であり、より最近の研究結果によれば、これらは蒸気または液体のいずれかの形態で存在し、タンパク質にも吸着されている。表皮に含まれる水分の量ははっきりとは分かっていないが、角質層のどこかの層に最大30%の含有量で水が存在していることが推測できる。
【0004】
水が皮膚の異なる層を通り抜けて移動することは確信を持って推測することができる。水が皮膚の複数の層を通り抜けて拡散するモデルには様々なものがあるが、どれも決定的な証明には至っていない。
【0005】
疎水性物質は脂質孔(lipid pore)を通り抜けて角層に侵入することができるが、水もこれと同様に、特定のいわゆる「水性孔(aqueous pore)」によって輸送されると考えられている。このような孔は直径が15〜25Åであると言われている。
【0006】
水で満たされたチャネルが角質層を貫通していることを仮定した別の考え方もある。凝集した水を中に収容できるだけの十分な大きさを有する穴が脂質二重層系に存在することが、X線を用いた回折実験で示すことができている。
【0007】
したがって、皮膚の水分を調節するためには、透過障壁が健全であることに加えて、表皮の角層内で水と結合性のある物質が形成されて存在していることが必要であることは明白かつ確実である。表皮にはこのような天然保湿因子(NMF)が含まれており、皮膚中の水分と結合する。これは複数の化合物の混合物に相当し、アミノ酸40%、ピロリドンカルボン酸12%、尿素7%、ならびに無機および有機塩(主に乳酸塩)41%から構成されている。
【0008】
極端な環境条件、例えば冬期の低温や極端な乾燥などは、肌荒れを引き起こす大きな原因となる。しかも、表皮中に存在する保湿因子は、洗浄や入浴を頻繁に行うことによって容易に失われる。このようになると、皮膚のより深い層からより多くの水が逃げ出すことが可能となり、いわゆる経皮水分喪失(TEWL)が増大することによって皮膚の乾燥が引き起こされる。天然保湿因子の喪失は、水分含有量の低下およびケラチン層の柔軟性の低下と相関があると推測されている。
【0009】
このことは、感覚的に、皮膚表面のきめの粗さ、落屑、ツヤのなさ、およびくすみがひどくなるといった皮膚そのものの症状によって表面化する。その結果として、角質層の水結合能力に依存する皮膚の柔軟性が失なわれ、バリア機能に障害が起こる。それにより、角層の水分含有量がさらに低下することになる。
【0010】
常に皮膚を乾燥させないように入念な手入れを行うことは、美容面から必要とされるばかりでなく、慢性皮膚疾患を防ぐ有効な手段であることが多くの試験から示されている。この点については、対応する配合物を局所適用することによって皮膚の水分調節を効果的に助けることができる。
【0011】
皮膚の水分含有量を測定するための多くのインビボ法が知られている。これは、物理的パラメータ、例えば、皮膚水分と直接相関のある角層の導電性や誘電性(静電容量)などを測定するものである。角質層の水和の測定には様々な機器、例えば、コルネオメーター(corneometer)型式CM820およびCM825(カレッジ・アンド・カザカ(Courage+Khazaka))や、「ダーマル・フェーズ・メーター(dermal phase meter)」スキコン(Skicon)200(ノバ(Nova))等が利用できる。これらの非侵襲的で簡便な方法を用いることにより、皮膚水分の変化を定量的に測定することが可能である。さらに、ダーマル・トルク・メーター(Dermal Torque Meter)(ダイアストロン(DiaStron))を用いるか、あるいはキュトメーター(Cutometer)(カレッジ・アンド・カザカ)を用いて皮膚の粘弾性を測定することができる。
【0012】
皮膚の乾燥状態を緩和するとともに皮膚の水分平衡を回復させることを意図とした水分調節効果(hydroregulative effect)を有する数多くの化粧製剤がある。エマルジョン形態にあるこれらの製剤は、皮膚に脂分および水分を補給するのに理想的な製剤であり、一般に、適用時に保護作用を発揮する多くの有効成分を含んでおり、それによって皮膚表面の状態を改善したり、例えば皮膚水分を調節する効果や皮膚表面の内側に浸透することでケア作用を引き出す効果(care properties taking effect)によって皮膚の機能状態を変化させる。
【0013】
化粧成分および配合物が表皮の水分含有量に好ましい影響を及ぼす機序には様々なものがある:
脂質またはポリマーの膜で皮膚を閉塞することによって皮膚の上層からの水の蒸散を抑制することが可能である。その結果、皮膚の下層から上層へと水が送り出されても発汗が減少するので、SC上層の皮膚水分が大幅に増加する。しかしながら、典型的には、このような閉塞状態により皮膚内部に水が蓄積されると角層の内因性の膨潤が進み、その結果として、皮膚の再生能力が低下してしまう。
【0014】
配合の観点からは、角質層よりも水分を多く含む化粧品を製造し、それにより、この配合物を不変のまま浸透させることで水をSCに送り出すことが可能である。これと同様に、特定の脂質は経表皮水分喪失を低減させることが可能であるため、これを保湿剤の1種とみなすこともできる。
【0015】
さらなる慣用的な手法は、ケラチン層に十分な量の水分を一定の時間にわたり確実に補給することを目的とした化粧用エマルジョンの活性化成分として保湿剤を添加することである。保湿剤は湿潤剤とも呼ばれ、表皮に水を留めておく一方で、角層上層のバリア機能を安定化させることによって、TEWLを低減することを目的としたものである。
【0016】
多くのこのような物質が過去に記載されており、既に使用されている。これらは一般に、程度の差はあるが、水と結合する能力と、洗い流された天然物質の全部または一部を補う能力を有している。このようなものとしては、原則として、吸湿性物質、特に、多価アルコール、エトキシル化ポリオール、糖類、多糖類(例えば、角質層内の水と結合できることから水分調節に重要な役割を果たす皮膚本来の保湿剤であるヒアルロン酸およびその塩等)等が挙げられる。これが結果的には皮膚の弾力性の改善につながる。
【0017】
スクレログルカン(INCI:スクレロチウムガム、化学名:β−1,3−グルカン)は、微生物由来の多糖類である。グルコース単位が2つ置きにβ−1,6結合を介してさらなるグルコースと結合している(一般式)。天然の形態のスクレログルカンは、中性媒質中において、分子量が3〜5×10のβ−グルカンに典型的な三重らせんを形成している。中性から弱酸性のpHにおける水への溶解度は最大で約1.5〜2%である。
一般式
【化1】

【0018】
スクレログルカンが高い増粘性を有することは広く知られており、このことは様々な特許に記載されている((特許文献1)、(特許文献2)、(特許文献3))。
【0019】
また、β−グルカンは抗ウイルスおよび抗菌作用を有するため、この種の生体高分子を医薬および食品分野において使用することが記載されている(例えば、(特許文献4)、(特許文献5))。β−グルカンが免疫刺激作用を示すことは一般に知られており、この種の物質を有効成分として抗老化およびサンケア用途に用いることに興味が持たれている((特許文献4))。
【0020】
特許(特許文献6)においては、増粘性を有することに加えて、スクレログルカンを含む化粧料配合物を局所適用した後に皮膚の水和が改善されることが示された。ここに記載されたスクレログルカンの平均分子量は1〜12×10である。当該明細書においては、皮膚が潤うこと以外にも、その抗炎症効果や、さらには、最終配合物が皮膚に心地よい感触を与えることも強調されている。その生成物は濃度1%の溶液形態にあり、これを10%までの量で配合物に添加することができる。
【0021】
【特許文献1】欧州特許第0979642号明細書
【特許文献2】国際公開第00/60198号パンフレット
【特許文献3】特開昭61−267503号公報
【特許文献4】国際公開第98/04082号パンフレット
【特許文献5】英国特許第2050825号明細書
【特許文献6】米国特許第6162449号明細書
【非特許文献1】ヤコビ,J.Appl.Physiol.,1958年5月,12(3),pp.403〜7
【非特許文献2】シュナイダー・ダブリュ(Schneider W)およびシュライト・エイチ(Schuleit H),Arch.Klein.Exp.Dermatol.,1951年12月,193(5),pp.434〜59
【非特許文献3】サカール・エー(Szakall A),Arch.Klein.Exp.Dermatol.,1957年,206,pp.374〜9
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
驚くべきことに、解重合されたスクレログルカンが、皮膚の水和に関し、高分子量の誘導体をはるかに上回る有効性を示すことがここに見出された。
【0023】
さらに、解重合されたスクレログルカンは分子量がより低く、それに付随して粘度がより低いことから、結果的には最終配合物中に比較的高濃度で添加することができる。
【0024】
さらに驚くべきことに、解重合されたスクレログルカンが抗炎症活性を有し、したがって、抗炎症剤およびアフターサン用スキンケア製剤に適用するのに好適であることが見出された。
【課題を解決するための手段】
【0025】
したがって、本発明は、最終配合物中に、好適な担体と一緒に、最終濃度0.05〜6.0、好ましくは0.2〜2.0重量%で添加することが可能な、平均分子量が8×10〜1×10、好ましくは1×10〜7×10のβ−1,3−スクレログルカンを提供する。
【0026】
すなわち、本発明は、下記の各発明をそれぞれ提供する。
1.一般式、
【0027】
【化2】


を有し、平均分子量が8×10〜1×10、好ましくは1×10〜7×10であるβ−1,3−スクレログルカン。
【0028】
2.皮膚および皮膚付属器を局所治療するための化粧料および/または皮膚科学的配合物であって、有効成分として、一般式、
【0029】
【化3】


を有し、平均分子量が8×10〜1×10であるβ−1,3−スクレログルカンを、0.05〜6.0重量%含む、配合物。
【0030】
3.1種またはそれ以上の乳化剤を0〜10重量%、1種またはそれ以上の稠度調整剤を0〜10重量%、1種またはそれ以上の界面活性剤を0〜30重量%、1種またはそれ以上の化粧用油またはエモリエント剤を0〜30重量%、ならびに通常の助剤および添加剤を慣用の濃度で含む、前記2に記載の化粧料および/または皮膚科学的配合物。
【0031】
4.皮膚の水分含有量を調節および改善するための、前記2および/または3に記載の化粧料および/または皮膚科学的配合物。
【0032】
5.皮膚の抗炎症治療のための、前記2および/または3に記載の化粧料および/または皮膚科学的配合物。
【0033】
6.アフターサン用スキンケア製剤を製造するための、前記2および/または3に記載の化粧料および/または皮膚科学的配合物。
【0034】
7.ヘアトリートメント組成物およびヘアコンディショニング組成物を製造するための、前記2および/または3に記載の化粧料および/または皮膚科学的配合物。
【0035】
8.トコフェロールおよび誘導体、アスコルビン酸および誘導体、デオキシリボ核酸、レチノールおよび誘導体、アルファリポ酸、ナイアシンアミド、ユビキノン、ビサボロール、アラントイン、フィタントリオール、パンテノール、α−ヒドロキシ酸、アミノ酸、ヒアルロン酸、ポリグルタミン酸、クレアチンおよびクレアチン誘導体、グアニジンおよびグアニジン誘導体、セラミド、スフィンゴ脂質、フィトスフィンゴシンおよびフィトスフィンゴシン誘導体、スフィンゴシンおよびスフィンゴシン誘導体、スフィンガニンおよびスフィンガニン誘導体、疑似セラミド、精油、ペプチド、タンパク質、タンパク質加水分解物、植物抽出物、ならびにビタミン複合体の群から選択される少なくとも1種の化合物を含む、前記2〜7のいずれかに記載の化粧料および/または皮膚科学的配合物。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本発明に対応する化粧料組成物は、例えばエマルジョンやクリーム等のスキンケア用配合物であってもよく、スクレログルカンは、例えば、水分含有量の改善や、さらには皮膚上での被膜形成性(したがって保護性)といった1種またはそれ以上の作用を示す。この被膜形成作用により、柔らかく絹のような肌感触も得られる。
【0037】
スキンケア用配合物は、水性ローション、油中水型または水中油型エマルジョン、オイルもしくはオイル−アルコールローション、陰イオン性もしくは非イオン性両親媒性脂質小胞体の分散液、水性、水−アルコール、アルコール、もしくはオイル−アルコールゲル、固形スティック、またはエアゾールとして配合することができる。
【0038】
油中水型または水中油型エマルジョンとして配合する場合、化粧的に許容可能な担体は、好ましくは、配合物の総量を基準として油相を5〜50%および水を47〜94.95%含む。
【0039】
油相は、任意の化粧用油またはその混合物を含んでいてもよい。この種の油としては、例えば、流動パラフィン、スクワラン、ワセリン、セレシン等の脂肪族炭化水素類、オリーブ油、扁桃油、ごま油、アボカド油、ヒマシ油、カカオ脂、パーム油等の植物油類、サメ肝油、タラ肝油、鯨油、牛脂、バター脂等の動物油類、ミツロウ、カルナウバロウ、鯨ロウ、ラノリン等のロウ類、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘン酸等の脂肪酸類、ラウリル、ステアリル、セチル、およびオレイルアルコール等の脂肪族アルコール類、ならびにミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソセチル、ミリスチン酸オクタデシル、ステアリン酸ブチル、ラウリン酸ヘキシル、アジピン酸のジイソプロピルエステル、セバシン酸ジイソプロピル等の脂肪族エステル類が挙げられる。オイル−アルコールローションまたはオイル−アルコールもしくはアルコールゲルに使用するのに好ましいモノ−またはポリオールとしては、エタノール、イソプロパノール、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール、グリセロール、およびソルビトールが挙げられる。
【0040】
本発明に対応する化粧料配合物は、保湿作用および皮膚鎮静作用を有する。
【0041】
化粧および皮膚科学分野に慣用されている配合成分に加えて、生体由来の有効成分または有効成分の組合せを併用することも可能である。生体由来の有効成分とは、例えば、トコフェロール、酢酸トコフェロール、パルミチン酸トコフェロール、アスコルビン酸、デオキシリボ核酸、レチノール、ビサボロール、アラントイン、フィタントリオール、パンテノール、α−ヒドロキシ酸、アミノ酸、ヒアルロン酸、クレアチン(およびクレアチン誘導体)、グアニジン(およびグアニジン誘導体)、セラミド、フィトスフィンゴシン(およびフィトスフィンゴシン誘導体)、スフィンゴシン(およびスフィンゴシン誘導体)、疑似セラミド、精油、ペプチド、タンパク質加水分解物、植物抽出物、およびビタミン複合体を意味するものと理解される。
【0042】
上述の組成のスキンケア製品以外にも、ヘアケア用配合物、例えば、スクレログルカンを含有し、化学治療によって炎症を起こした頭皮に鎮静効果を示すシャンプーおよび/またはコンディショナーが可能である。
【0043】
分子量が1×10〜12×10の高分子量スクレログルカンは、スクレロチウム・ロルフシイ(Sclerotium rolfsii、ATCC15205)を発酵させることによって生成する。このためには、スクレロチウム・ロルフシイ(ATCC15205)菌を微好気的条件下に培養液中で培養する。この場合の培養液は、炭素源(好ましくはグルコース)、窒素源、リン源、塩化カリウム、硫酸マグネシウム七水和物、硫酸鉄(II)七水和物、および酵母エキスを含む。
【0044】
最後に、15〜40℃の温度で撹拌することにより培養工程を終了し、液体から細胞塊を分離して高分子量スクレログルカンを単離する。高分子量スクレログルカンの解重合は、これを溶液としたものを毛細管から押し出して、多糖鎖が剪断力によって切断されるように行ってもよい。この工程に好適な溶媒は、水、アセトン、またはベンゼンを、メタノール、エタノール、イソプロパノール、またはn−プロパノール、およびテトラヒドロフラン等の有機溶媒と混合したものである。解重合度は、圧力等の様々な物理的パラメータに加えて、毛細管の直径および長さにも依存する。この手順を繰り返すことによって、定められた解重合度に到達させる。
【0045】
別法として、スクレログルカンの解重合は、例えば、高分子量誘導体を水酸化ナトリウムおよび過酸化水素の水溶液と一緒に定温放置することによっても達成することができる。
【0046】
上述の処理を経た後のスクレログルカン解重合物は、主鎖であるβ−1,3結合で結合したグルコピラノースおよび側鎖であるβ−1,6結合で結合したグルコピラノースから構成される三重らせんの三次元構造を有し、平均分子量が8×10〜1×10、好ましくは1×10〜7×10、特に好ましくは2×10〜6×10である。β−1,3−スクレログルカン解重合物の三次元構造は、実験的に、例えば、光回折技術を用いた方法またはゲル濾過によって決定することができる。
【0047】
処方例
本発明による配合物は常法により調製され、スクレログルカン解重合物は、好ましくは、配合物の水相中に溶解される。皮膚処理用組成物の目安となる典型的な処方は従来技術に属し、例えば、各基本成分および有効成分の製造業者による案内書に記載されている。この場合、スクレログルカンは、通常、0.05〜6.0重量%の濃度で存在させることができる。
【0048】
典型的なエマルジョン(W/OまたはO/W)は、例えば、
スクレログルカン解重合物を0.05〜6.0重量%、
1種またはそれ以上の乳化剤を0〜10重量%、
1種またはそれ以上の稠度調整剤(consistency regulator)を0〜10重量%、
1種またはそれ以上の化粧用油またはエモリエント剤を0〜30重量%、ならびに
慣用の助剤および添加剤を慣用の濃度で含んでいる。
【0049】
本発明をさらに例証するための有効性の実証
有効性の実証を行うに当たり、化粧料配合物中に存在する成分によって起こり得る影響を排除するため、標準的な配合物を調製した(これを表1にまとめた)。さらに、本発明において提案されているスクレログルカンの重合度の影響を調査するため、様々な鎖長の解重合物を使用した(この点に関しては表2参照)。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】


〔実施例〕
【0052】
以下に示す実施例は、本発明の主題をより詳細に例示することを目的としたものである。
【実施例1】
【0053】
人工の担体材料を用いた水分保持能力の測定
担体材料(バイトロ・スキン(Vitro Skin)(商標)基材、米国ミルフォードのIMSインコーポレーテッド(IMS Incorp.,Milford,USA))を用いて水分保持能力を測定する。総重量を求めた後、供試用化粧料配合物をその上に塗布し、再度秤量する。
【0054】
スパチュラを用いて基材に配合物(表1、解重合物1〜4または天然のスクレログルカン2%を含む)を軽くたたきつけた後、伸展させることによって塗布する。その後、この試料を、22℃、相対湿度72%で4時間定温放置し、最後に再び秤量する。最初および最終的な秤量は、定められた条件(22℃、相対湿度55%)に環境調整された室内で実施する。相対的な重量(=水)損失を算出することができる。
【0055】
図1に示す平均値は、少なくとも15回の別々の測定からなる。
【0056】
図1から、スクレログルカン解重合物、特に解重合物2が、対照配合物(「空試験値との比較」)だけでなく高分子量の出発物質と比較しても有効な水分保持能力を有していることが示される。
【実施例2】
【0057】
コルネオメトリー(corneometry)を用いた皮膚水分のインビボ測定
コルネオメトリーは、角質層の物理的パラメータの変化に基づく非侵襲的方法であり、それによって皮膚水分を判断することができる。実際は、12〜15人の被験者を集め、コルネオメーターHM99(カレッジ・アンド・カザカ、独国コローン(Cologne,Germany))を製造業者の指示に従って使用し、供試用配合物を1回塗布するごとにその前後の皮膚水分を測定する。
【0058】
定められた条件である22℃および相対湿度55%で15分間被験者の環境調整を行った後、コルネオメトリーによって皮膚の水和を測定する。次いで、供試用配合物50mg(表1、解重合物1〜4および天然の出発物質1%を含む)をそれぞれ皮膚の直径2.5cmの範囲に塗布し、2分経過した後、配合物の残留物があれば取り除く。
【0059】
接触時間を2時間経過させた後に、15分間(22℃、相対湿度55%)環境調整を行った後、皮膚の水和を再び測定する。コルネオメーター単位(CU)の相対的な上昇は、皮膚の水和が改善されていることと直接相関がある(図2)。
【0060】
この図から、スクレログルカン解重合物、特に解重合物4が、皮膚の水和に関し天然の出発物質をはるかに上回る有効性を示すことが明らかである。
【実施例3】
【0061】
治療的研究(curative study)を用いた抗炎症効果の測定
ドクター・シュレーダー研究所(Dr.Schrader Institute)(独国ホルツミンデン(Holzminden,Germany))において治療的研究を実施し、高分子量の出発物質と比較したスクレログルカン解重合物4の抗炎症効果を実証する。このために20人の被験者を集め、有効成分0.5%を含む供試用配合物(表1参照)を皮膚に塗布し、その後、試験を開始する前および試験中に3日間にわたってこの範囲に照射を行う。試験に用いる範囲は背中である。まず、被験者のMEDu(何も処理していない皮膚が紅斑する最小照射量)を測定し、次いで、その翌日に、色彩色差計および分光光度計で開始時の状態を記録する。
【0062】
次いで、(=第0日目)、シュレーダー(Schrader)に従い、COLIPA放射スペクトルに対応するソーラーシミュレーターSU5000を用いて皮膚に紫外光を照射する。照射量をMEDuの1.75倍に固定し、皮膚に軽い紅斑反応を惹起させる。照射後、被験者に、供試用配合物を決められた範囲に1日2回づつ塗布するように指導する。
【0063】
解重合物を毎日塗布することと並行して、同研究所において、各場合ごとに拡散反射(remission)スペクトル測定および色測定を行う。こうすることにより、照射前ならびに照射から24および48時間後の皮膚の発赤を拡散反射吸光度の積分値の形態で定量的に確認することができる。
【0064】
図3に、紅斑が最高に達した第1日目(=照射から24時間後)とともに第2日目の皮膚発赤の%値を示す。これにより、スクレログルカン解重合物4を用いると、天然の出発物質を用いた場合よりも著しく速く皮膚の発赤が収まることから、抗炎症効果を有していることが示される。
【実施例4】
【0065】
人工皮膚モデルに対する抗炎症効果の測定
人工皮膚モデルであるスキンエシック(SkinEthic)(商標)(仏国ニースのスキンエシック・ラボラトリーズ(SkinEthic Laboratories,Nice,France))を用いたインビトロ研究により、スクレログルカン解重合物4の抗炎症効果を調査する。
【0066】
このための一連の試験を行うに当たって、最初に、各場合において、濃度0.1mg/mlまたは1mg/mlの0.9%塩化ナトリウム溶液(「空試験値との比較」)または解重合物4のいずれか30μlを人工皮膚に24時間塗布する。
【0067】
次いで、皮膚モデルに炎症反応を起こすため、0.25%の硫酸ドデシルナトリウム水溶液30μlを塗布し、40分後、人工皮膚を培養する培養液でこれを単に洗い流す。硫酸ドデシルナトリウム(SDS)は皮膚刺激性が非常に強い洗剤として知られている。こうして損傷を与えた後、各場合において、再び濃度0.1mg/mlまたは1mg/mlの0.9%塩化ナトリウム溶液(「空試験値との比較」)または解重合物4のいずれか30μlを人工皮膚に塗布する。
【0068】
細胞損傷のパラメータとして、酵素である乳酸脱水素酵素(LDH)を測定する。これは、損傷を受けた細胞内の細胞質から放出されるものであり、したがって、細胞上清の光度測定を行うことによって検出することができる。細胞損傷の測定は、SDSを塗布した直後およびその24時間後にも実施する。
【0069】
図4は、皮膚モデルに塗布を行ってから24時間後のLDH放出を示すものである。これによれば、スクレログルカン解重合物4は、濃度が0.1mg/mlの場合でさえもLDHの放出をほぼ半分に低減することが可能な、抗炎症効果の非常に高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】各種の水分保持能力を示すグラフである。
【図2】各種のコルネオメトリー単位の相対的上昇を示すグラフである。
【図3】各種の皮膚の発赤を示すグラフである。
【図4】各種のLDH放出を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式、
【化1】


を有し、平均分子量が8×10〜1×10、好ましくは1×10〜7×10であるβ−1,3−スクレログルカン。
【請求項2】
皮膚および皮膚付属器を局所治療するための化粧料および/または皮膚科学的配合物であって、有効成分として、一般式、
【化2】


を有し、平均分子量が8×10〜1×10であるβ−1,3−スクレログルカンを、0.05〜6.0重量%含む、配合物。
【請求項3】
1種またはそれ以上の乳化剤を0〜10重量%、1種またはそれ以上の稠度調整剤を0〜10重量%、1種またはそれ以上の界面活性剤を0〜30重量%、1種またはそれ以上の化粧用油またはエモリエント剤を0〜30重量%、ならびに通常の助剤および添加剤を慣用の濃度で含む、請求項2に記載の化粧料および/または皮膚科学的配合物。
【請求項4】
皮膚の水分含有量を調節および改善するための、請求項2および/または3に記載の化粧料および/または皮膚科学的配合物。
【請求項5】
皮膚の抗炎症治療のための、請求項2および/または3に記載の化粧料および/または皮膚科学的配合物。
【請求項6】
アフターサン用スキンケア製剤を製造するための、請求項2および/または3に記載の化粧料および/または皮膚科学的配合物。
【請求項7】
ヘアトリートメント組成物およびヘアコンディショニング組成物を製造するための、請求項2および/または3に記載の化粧料および/または皮膚科学的配合物。
【請求項8】
トコフェロールおよび誘導体、アスコルビン酸および誘導体、デオキシリボ核酸、レチノールおよび誘導体、アルファリポ酸、ナイアシンアミド、ユビキノン、ビサボロール、アラントイン、フィタントリオール、パンテノール、α−ヒドロキシ酸、アミノ酸、ヒアルロン酸、ポリグルタミン酸、クレアチンおよびクレアチン誘導体、グアニジンおよびグアニジン誘導体、セラミド、スフィンゴ脂質、フィトスフィンゴシンおよびフィトスフィンゴシン誘導体、スフィンゴシンおよびスフィンゴシン誘導体、スフィンガニンおよびスフィンガニン誘導体、疑似セラミド、精油、ペプチド、タンパク質、タンパク質加水分解物、植物抽出物、ならびにビタミン複合体の群から選択される少なくとも1種の化合物を含む、請求項2〜7のいずれか一項に記載の化粧料および/または皮膚科学的配合物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−342351(P2006−342351A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−158340(P2006−158340)
【出願日】平成18年6月7日(2006.6.7)
【出願人】(500442021)ゴールドシュミット ゲーエムベーハー (28)
【Fターム(参考)】