説明

皮革用マーキングセット

【課題】 皮革への筆記時には優れた定着性を備えた筆跡を形成できると共に、該筆跡が特定溶剤によって容易且つ確実に消去できる、筆記した皮革製品の使用状態を限定することのない皮革用マーキングセットを提供するものである。
【解決手段】 顔料と樹脂と有機溶剤を含む油性インキ組成物を内蔵するマーキングペンと、前記マーキングペンによる筆跡を消去する消去液とからなる皮革用マーキングセットであって、前記消去液がメトキシプロパノールを主溶剤とすると共に、前記樹脂として、25℃におけるメトキシプロパノールへの溶解度が100g以上、且つ、水への溶解度が5g以下であるものを樹脂成分全量中70重量%以上含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は皮革用マーキングセットに関する。詳細には、動物皮革や合成皮革に筆記した像を付属の消去液で容易に消去できる皮革用マーキングセットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、油性マーカーに用いられるインキとして、皮革への筆記が可能な油性インキが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
前記インキによる筆跡は、平滑面に筆記した場合であっても、擦過や水の付着により剥離されることがない定着性に優れたものである。そのため、誤って筆記した箇所や筆跡全体を変更したい場合に消去することができず、溶剤等で拭いた場合、皮革表面のワックスが剥離して皮革を傷めたり、着色剤が拡がって筆跡が滲んでしまうことがある。
これに対して、皮革への筆記が可能であり、形成した筆跡が水を用いて消去できる油性インキが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
しかしながら、前記特許文献2記載のインキは、耐水性に乏しいため、不用意に濡れた際に筆跡が滲んだり消えてしまうため、使用用途が室内で使用される皮革製品に限定される。
【特許文献1】特開平11−140372号公報
【特許文献2】特開昭63−202679号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、従来の不具合を解消するものであり、即ち、皮革に筆記した際には優れた定着性を備えた筆跡を形成できると共に、該筆跡が水の付着で消えることなく、特定溶剤によって皮革製品を傷めることなく容易且つ確実に消去できる、筆記する皮革製品の使用環境を限定することのない皮革用マーキングセットを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、顔料と樹脂と有機溶剤を含む油性インキ組成物を内蔵するマーキングペンと、前記マーキングペンによる筆跡を消去する消去液とからなる皮革用マーキングセットであって、前記消去液がメトキシプロパノールを主溶剤とすると共に、前記樹脂として、25℃におけるメトキシプロパノールへの溶解度が100g以上、且つ、水への溶解度が5g以下であるものを樹脂成分全量中70重量%以上含有することを用件とする。
更には、前記メトキシプロパノールが、消去液全量中60重量%以上含有されること、前記樹脂が、アルキルフェノール系、テルペンフェノール系、フェノール系、マレイン酸系、ケトン系、スチレン系のいずれかであることを用件とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明により、皮革への定着性に優れた筆跡を形成できると共に、付属の消去液を用いて皮革製品を傷めることなく容易且つ確実に筆跡を消去できる、広範囲の皮革製品に対して使用可能な皮革用マーキングセットを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明は、撥水やツヤ出しのために天然ワックスが塗布されている皮革(牛革、馬革、豚革、カンガルー革、羊革、ダチョウ革、山羊革等の動物皮革や、布や不織布等に合成樹脂を塗布してなる合成皮革、塩化ビニルを発泡させて布や不織布等に塗布したビニールレザー等)表面への良好な筆記(描画)と、該筆記により形成した筆跡を容易、且つ、残像(色残り)を生じることなく確実に消去することが可能な皮革用のマーキングセットである。
【0007】
前記マーキングペンには、顔料と樹脂と有機溶剤を少なくとも含む油性インキ組成物が内蔵される。
前記顔料は、染料に比べて筆記時に皮革内に浸透し難いため、消去可能なインキに適した着色剤である。
【0008】
前記顔料としては、従来油性インキに適用される汎用の顔料が適宜用いられる。
具体的には、カーボンブラック、群青、二酸化チタン顔料等の無機顔料、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ顔料、チオインジゴ顔料、スレン顔料、キナクリドン系顔料、アントラキノン系顔料、スレン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ジオキサジン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、イソインドリノン系顔料等の有機顔料、アルミニウム粉やアルミニウム粉表面を着色樹脂で処理した金属顔料、透明又は着色透明フィルムにアルミニウム等の金属蒸着膜を形成した金属光沢顔料、フィルム等の基材に形成したアルミニウム等の金属蒸着膜を剥離して得られる厚みが0.01〜0.1μmの金属顔料、金、銀、白金、銅から選ばれる平均粒子径が5〜30nmのコロイド粒子、蛍光顔料、蓄光性顔料、熱変色性顔料、芯物質として天然雲母、合成雲母、ガラス片、アルミナ、透明性フィルム片の表面を酸化チタン等の金属酸化物で被覆したパール顔料等が挙げられる。
前記顔料は一種又は二種以上を併用してもよく、インキ組成物中3〜40重量%の範囲で用いられる。
【0009】
前記樹脂は、筆記時の筆跡定着性と、消去液付着時の剥離性を満たすために、25℃におけるメトキシプロパノールへの溶解度が100g以上であり、且つ、25℃における水への溶解度が5g以下であるものが主成分として用いられる。
前記物性の樹脂は、全樹脂成分のうち70重量%以上含有することにより、皮革への筆跡定着性と、消去液への溶解剥離性を満たすと共に、筆跡に水が付着した場合であっても、滲みや剥離を生じることのない筆跡が形成できる。
前記物性の樹脂としては、アルキルフェノール系、テルペンフェノール系、フェノール系、マレイン酸系、ケトン系、スチレン系等の樹脂が用いられ、具体的には、アルキルフェノール系樹脂として、ヒタノール1501〔日立化成工業(株)製〕、タマノル100S〔荒川化学工業(株)製〕、テルペンフェノール系樹脂として、YSポリスターS145、マイティエース〔以上、ヤスハラケミカル(株)製〕、フェノール系樹脂として、レジトップPS−2980〔群栄化学工業(株)製〕、マレイン酸系樹脂として、マルキードNo.33、アラスター700〔以上、荒川化学工業(株)製〕、ケトン系樹脂として、シンセティックレジンSK、シンセティックレジンAP〔以上、デグサ社製〕、スチレン系樹脂として、ピコラスチックA75〔イーストマンケミカルカンパニー社製〕等が例示できる。
【0010】
また、前記物性の樹脂と共に、インキの粘性、筆跡の滲み抑制等を付与するために、通常油性インキ組成物に用いられる有機溶剤に対して可溶な樹脂を併用することが可能である。
具体的には、ケトン樹脂、アミド樹脂、アルキッド樹脂、ロジン変性樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、テルペン系樹脂、クマロン−インデン樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、ポリメタクリル酸エステル、ケトン−ホルムアルデヒド樹脂、α−及びβ−ピネン・フェノール重縮合樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、マレイン酸樹脂、アクリル樹脂、ポリアクリル酸ポリメタクリル酸共重合物等が挙げられる。
【0011】
これらの樹脂は、前記条件で一種又は二種以上を併用(この場合、前記物性の樹脂が70重量%以上となる)して用いることができ、インキ組成中2〜50重量%、好ましくは5〜40重量%、更に好ましくは10〜35重量%の範囲で用いられる。2重量%未満では筆跡の皮革への定着性が充分発揮できず、50重量%を越えて添加するとインキの粘度が高くなるため、吐出性が低下する。
【0012】
前記有機溶剤としては、前記樹脂が可溶なものが用いられ、例えば、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、tert−アミルアルコール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ベンジルグリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノフェニルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノフェニルエーテル、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メチルイソブチルケトン、メチルn−プロピルケトン、メチルn−ブチルケトン、ジ−n−プロピルケトン、ギ酸n−ブチル、ギ酸イソブチル、酢酸メチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n−ブチル、酪酸メチル、酪酸エチル、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸プロピル等を例示できる。
前記有機溶剤は一種又は二種以上を併用してもよく、インキ組成中35〜90重量%の範囲で用いられる。
【0013】
更に、前記インキ組成物中には、必要に応じて上記成分以外に、筆跡白化防止剤、耐乾燥性付与剤、防錆剤、粘度調整剤、顔料分散剤、界面活性剤等の各種添加剤を使用できる。
前記添加剤はいわゆる慣用的添加剤と呼ばれるもので、公知の化合物から適宜必要に応じて使用することができる。
【0014】
前記油性インキ組成物を充填するマーキングペン自体の構造や形状は、特に限定されるものではなく、例えば、繊維チップ、フェルトチップ、プラスチックチップ等のマーキングペン用ペン先を筆記先端部に装着し、軸筒内部に収容した繊維束からなるインキ吸蔵体にインキを含浸させ、筆記先端部にインキを供給する構造、軸筒内部に直接インキを収容し、櫛溝状のインキ流量調節部材や繊維束からなるインキ流量調節部材を介在させて筆記先端部に所定量のインキを供給する構造、軸筒内部に直接インキを収容し、弁機構により筆記先端部に所定量のインキを供給する構造のマーキングペン等が挙げられる。
尚、前記マーキングペンは、ペン先を覆うキャップを備えたキャップ式のマーキングペンの他、ノック式、回転式、スライド式等の出没機構を有し、軸筒内にペン先を収容可能な出没式のマーキングペンであってもよい。
【0015】
前記マーキングペンと組み合わされる消去液には、主溶剤(全溶剤中の50重量%以上を占める)としてメトキシプロパノールが用いられる。
前記メトキシプロパノールは、皮革表面に塗布された天然ワックスに対して、溶解や剥離を生じることがなく、適度な乾燥性を備えているため、前記皮革表面に筆跡を形成した場合であっても、天然ワックスの皮膜を溶解、剥離することなく、インキのみを確実に消去できる。そのため、本願の皮革用マーキングセットを用いることにより、皮革を傷めることなく筆跡を消去でき、再筆記や再描画が可能となる。
【0016】
前記消去液には、乾燥性や粘度を調整するために、消去液中に他の溶媒を添加することもできる。前記溶媒としては、メトキシプロパノールと相溶するものであれば汎用のものが用いられ、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール等のアルコール系溶剤、エトキシプロパノール等のグリコール系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸メチル、炭酸ジメチル、γ−ブチロラクトン等のエステル系溶剤、メチルエチレンケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤等が挙げられる。
その際、前記メトキシプロパノールが消去液全量中60重量%以上含有するように前記溶剤を添加することが好ましい。
これにより、消去液塗布時の乾燥性を筆跡消去に適した状態とすることができるため、筆跡が残ったまま消去液が乾燥することや、消去液が乾燥せずに皮革上に残ること等の不具合を生じることがなくなる。
その他必要に応じて香料等を添加することもできる。
【0017】
前記消去液は、瓶や樹脂容器に収容され、紙、綿棒、布帛等に付着させて筆跡上を擦ることにより使用する他、塗布具形態の容器に収容し、塗布部で筆跡上を擦ることにより使用される。
【0018】
前記皮革用マーキングセットにより、適用可能な皮革製品として、室内、室外等の使用環境を制限することがなくなるため、鞄、ランドセル、靴、衣服、ベルト、帽子、財布、バングル、時計用ベルト、眼鏡、首輪、リード、手帳、筆記具、ソファー、車両用のシート、ハンドル、シフト類等の皮革製品に対して筆記や描画ができ、その像が水や汗の付着により剥離、消色することなく皮革製品を使用できる。更に、筆跡の訂正や描画の消去をしたい場合には、皮革製品を傷めることなく容易且つ確実に消去できるものとなる。
【実施例】
【0019】
以下の表にマーキングペンのインキ組成と消去液の組成を示す。尚、表中の数値は重量部を示す。
【0020】
【表1】

【0021】
【表2】

【0022】
表中の注番号に沿って原料の内容を以下に示す。
(1)東洋アルミニウム(株)製、商品名:アルミニウムペースト0241M、アルミニウム含有量70%
(2)オリエント化学工業(株)製、商品名:バリファストブラック3806
(3)ヤスハラケミカル(株)製、商品名:YSポリスターS145
〔25℃溶解度〕メトキシプロパノール;100g以上、水;5g以下
(4)荒川化学工業(株)製、商品名:マルキードNo.33
〔25℃溶解度〕メトキシプロパノール;100g以上、水;5g以下
(5)理化ハーキュレス(株)製、商品名:ピコラスチックA−75
〔25℃溶解度〕メトキシプロパノール;100g以上、水;5g以下
(6)積水化学工業(株)製、商品名:エスレックBM−1
〔25℃溶解度〕メトキシプロパノール;100g以上、水;5g以下
(7)群栄化学工業(株)製、商品名:レヂトップPS−2980
〔25℃溶解度〕メトキシプロパノール;100g以上、水;5g以下
(8)荒川化学工業(株)製、商品名:アルコンP−100
〔25℃溶解度〕メトキシプロパノール;5g以下、水;5g以下
(9)ニホンゼオン(株)製、商品名:クイントンA100
〔25℃溶解度〕メトキシプロパノール;5g以下、水;5g以下
(10)BASFジャパン(株)製、商品名:ルビテックK17
〔25℃溶解度〕メトキシプロパノール;100g以上、水;30g以上
【0023】
インキの調製
前記実施例及び比較例の配合量で各原料を混合し、25℃で3時間撹拌溶解することにより油性インキ組成物を得た。
【0024】
マーキングペンの作製
前記実施例及び比較例のインキ組成物を市販のマーキングペン(パイロットコーポレーション製;M−20PM)に充填することで、黒色、白色、黄色、銀色の油性マーキングペンを得た。
【0025】
消去液の調製
前記実施例及び比較例の配合量で各原料を混合、撹拌することにより消去液を得た。尚、得られた消去液は、ガラス瓶に収容してなる(消去液A〜E)。
【0026】
前記各四色のマーキングペン(実施例インキ:マーカー群A、比較例インキ:マーカー群B)と、各消去液(消去液A〜E)を組み合わせて皮革用マーキングセットとした後、以下の試験を行なった。
【0027】
耐水性試験
各マーキングペンを用いて、白色の牛革と合皮の表面に三個連続して丸を書き、十分に乾燥させた後、筆跡部分を浸水させて、25℃で20時間放置した際の筆跡の状態を目視により観察した。
消去性試験
各マーキングペンを用いて、白色の牛革と合皮の表面に三個連続して丸を書き、十分に乾燥させた後、各セットの消去液に浸漬した綿棒で筆跡上を一往復擦った際の消去性を目視により観察した。
試験結果を以下の表に示す。
【0028】
【表3】

【0029】
尚、表中の記号の評価は以下の通りである。
耐水性試験
○:筆跡に変化は見られない。
×:筆跡に剥離箇所が見られる。
消去性試験
○:筆跡が完全に剥離消去できる。
△:筆跡が皮革上に拡がり、一部が残存する。
×:筆跡が皮革内部に浸透する、もしくは、全く消去できない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料と樹脂と有機溶剤を含む油性インキ組成物を内蔵するマーキングペンと、前記マーキングペンによる筆跡を消去する消去液とからなる皮革用マーキングセットであって、前記消去液がメトキシプロパノールを主溶剤とすると共に、前記樹脂として、25℃におけるメトキシプロパノールへの溶解度が100g以上、且つ、水への溶解度が5g以下であるものを樹脂成分全量中70重量%以上含有することを特徴とする皮革用マーキングセット。
【請求項2】
前記メトキシプロパノールが、消去液全量中60重量%以上含有される請求項1記載の皮革用マーキングセット。
【請求項3】
前記樹脂が、アルキルフェノール系、テルペンフェノール系、フェノール系、マレイン酸系、ケトン系、スチレン系のいずれかである請求項1又は2に記載の皮革用マーキングセット。

【公開番号】特開2009−114398(P2009−114398A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−291601(P2007−291601)
【出願日】平成19年11月9日(2007.11.9)
【出願人】(000111890)パイロットインキ株式会社 (832)
【Fターム(参考)】