説明

直動案内装置用のシール装置

【課題】転動体と案内レールの軌道溝との接点付近に油膜を形成しやすくすることによって潤滑剤の少ない状態で使用されても油膜切れを回避するとともに少量の潤滑剤を有効利用して潤滑不足による早期摩耗等を回避することができる直動案内装置用のシール装置を提供する。
【解決手段】シール装置10は、直動案内装置1に用いられ、案内レール2の軌道溝22bに対応する突部13bを有する合成ゴム製のシール部11を有する。シール部11の突部13bには、案内レール2の軌道溝22bと転動体4との接点CP2,CP3に対応する位置に形成されたスリット14a,14bが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直動案内装置用のシール装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、直動案内装置は、軸方向に延びる案内レールを跨いで断面コ字形のスライダが搭載され、その案内レールの外側面とこれに対向するスライダの内側面とにそれぞれ軌道溝が形成され、その軌道溝に多数の転動体が装填されていて、それら転動体の転動循環によりスライダと案内レールとが相対的に直線運動する。
この直動案内装置は精密装置であり、装置内へ外部の異物が侵入すると、転動体の円滑な転動の妨げとなり、性能が損なわれることになりやすい。そこで、直動案内装置には、案内レールとスライダとの隙間の開口をシールするシール装置が装着される。
【0003】
このシール装置の従来例として、例えば、図9に示すもの(特許文献1参照)が知られている。
図9に示すシール装置100は、スライダの両端面に設けられたエンドキャップに取付ねじで取り付けられる。シール装置100は、スライダと案内レールとの隙間の前後両サイドの開口をシールするサイドシールである。
【0004】
シール装置100は、エンドキャップの外形に合わせた断面略コ字形状で、潤滑油中で含油処理されたシール部101と、シール部101の裏面に設けられた金属板部102とを備えている。シール部101は、エンドキャップの外形形状に合わせた略コ字形状で、所定の厚みを有する合成ゴム製であり、例えばニトリルゴムのような原料を金型を用いて圧縮成型したものである。シール部101の凹部の内面形状は、案内レールの横断面の外形に略一致しており、案内レールの上面及び両側面に沿う形状に形成されている。即ち、シール部101の凹部には、案内レールの上側の軌道溝に対応する突部103a、案内レールの下側の軌道溝に対応する突部103b及び保持器逃げ溝に対応する突部103cが設けられている。そして、金属板部102は、エンドキャップの外形形状に合わせた略コ字形状であり、その両袖部に取付ねじ用の貫通孔104が形成されるとともに、グリースニップル用の貫通孔105が形成されている。この金属板部102は、案内レールとは接触しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−153216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、この従来の図9に示すシール装置100にあっては、以下の問題点があった。
即ち、図9に示すシール装置100は、合成ゴム製のシール部101と金属板部102とで構成されるが、クリーンルーム等の潤滑剤(潤滑油)の少ない状態で使用される直動案内装置では、シール部101が案内レールの軌道溝に接触することにより油膜切れを起こし易いという問題点があった。
【0007】
また、外部環境の汚染を回避するため、シール装置100の潤滑剤塗布量を最小限にしたいという要求があるが、このように潤滑剤量を少量にすると、潤滑不足によって早期摩耗等が発生するという問題点があった。
従って、本発明は、上述の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、転動体と案内レールの軌道溝との接点付近に油膜を形成しやすくすることによって潤滑剤の少ない状態で使用されても油膜切れを回避するとともに少量の潤滑剤を有効利用して潤滑不足による早期摩耗等を回避することができる直動案内装置用のシール装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のうち請求項1に係る直動案内装置用のシール装置は、軸方向に延びる案内レールと、該案内レール上を軸方向に移動可能に設けられたスライダと、前記案内レールと前記スライダとの間に設けられた転動体とを備えた直動案内装置に用いられ、前記スライダの両端面に取り付けられ、前記案内レールと前記スライダとの隙間の軸方向前後両側の開口をシールするシール装置であって、前記案内レールの軌道溝に対応する突部を有する合成ゴム製のシール部を有するシール装置において、前記シール部の前記突部には、前記案内レールの軌道溝と前記転動体との接点に対応する位置に形成されたスリットが設けられていることを特徴としている。
【0009】
また、本発明のうち請求項2に係る直動案内装置用のシール装置は、請求項1記載の直動案内装置用のシール装置において、前記スリットは、前記案内レールの軸方向に延びるとともに、軸方向前端の入口にテーパを有していることを特徴としている。
更に、本発明のうち請求項3に係る直動案内装置用のシール装置は、請求項1記載の直動案内装置用のシール装置において、前記スリットは、前記案内レールの軸方向に延びるとともに、軸方向前後両端の入口及び出口にテーパを有していることを特徴としている。
【0010】
また、本発明のうち請求項4に係る直動案内装置用のシール装置は、請求項1乃至3のうちいずれか一項に記載の直動案内装置用のシール装置において、前記シール部の前記突部が、前記案内レールの上側軌道溝及び下側軌道溝のそれぞれに対応する上側突部及び下側突部で構成され、前記スリットが、前記上側突部及び下側突部のそれぞれに設けられた、前記案内レールの上側軌道溝及び下側軌道溝のそれぞれと前記転動体との接点に対応する位置に形成された上側スリット及び下側スリットで構成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明のうち請求項1に係る直動案内装置用のシール装置によれば、シール部の突部には、案内レールの軌道溝と転動体との接点に対応する位置に形成されたスリットが設けられているので、潤滑剤(潤滑油)が当該スリットを介して案内レールの軌道溝と転動体との接点付近に集中し、転動体と案内レールの軌道溝との接点付近に油膜を形成しやすくすることができる。これにより、潤滑剤の少ない状態で使用されても油膜切れを回避するとともに少量の潤滑剤を有効利用して潤滑不足による早期摩耗等を回避することができる直動案内装置用のシール装置を提供できる。
【0012】
また、本発明のうち請求項2に係る直動案内装置用のシール装置は、請求項1記載の直動案内装置用のシール装置において、前記スリットは、前記案内レールの軸方向に延びるとともに、軸方向前端の入口にテーパを有しているので、潤滑剤(潤滑油)がテーパ及びスリットを介して案内レールの軌道溝と転動体との接点付近に集中しやすくなり、転動体と案内レールの軌道溝との接点付近に油膜をより形成しやすくすることができる。
【0013】
更に、本発明のうち請求項3に係る直動案内装置用のシール装置は、請求項1記載の直動案内装置用のシール装置において、前記スリットは、前記案内レールの軸方向に延びるとともに、軸方向前後両端の入口及び出口にテーパを有しているので、潤滑剤(潤滑油)が入口のテーパ、スリット及び出口のスリットを介して案内レールの軌道溝と転動体との接点付近により集中しやすくなり、転動体と案内レールの軌道溝との接点付近に油膜をより一層形成しやすくすることができる。
【0014】
また、本発明のうち請求項4に係る直動案内装置用のシール装置は、請求項1乃至3のうちいずれか一項に記載の直動案内装置用のシール装置において、前記シール部の前記突部が、前記案内レールの上側軌道溝及び下側軌道溝のそれぞれに対応する上側突部及び下側突部で構成され、前記スリットが、前記上側突部及び下側突部のそれぞれに設けられた、前記案内レールの上側軌道溝及び下側軌道溝のそれぞれと前記転動体との接点に対応する位置に形成された上側スリット及び下側スリットで構成されているので、上側スリットを介して案内レールの上側軌道溝と転動体との接点付近に潤滑剤(潤滑油)を集中させることができ、また、下側スリットを介して案内レールの下側軌道溝と転動体との接点付近に潤滑剤(潤滑油)を集中させることができ、転動体と案内レールの上側及び下側軌道溝との接点付近に油膜を形成しやすくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係るシール装置が用いられる直動案内装置の斜視図である。
【図2】図1の直動案内装置からエンドキャップを除去した状態の正面図である。
【図3】本発明に係るシール装置の第1実施形態の単体の斜視図である。
【図4】案内レールの軌道溝と転動体との接点を説明するための図である。
【図5】図3に示すシール装置における下側突部近傍の拡大図である。
【図6】本発明に係るシール装置の第2実施形態の単体の斜視図である。
【図7】図6に示すシール装置における上側及び下側突部近傍の斜視図である。
【図8】本発明に係るシール装置の第3実施形態の斜視図である。
【図9】従来例のシール装置の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図1は、本発明に係るシール装置が用いられる直動案内装置の斜視図である。図2は、図1の直動案内装置からエンドキャップを除去した状態の正面図である。
図1に示す直動案内装置1は、軸方向に延びる案内レール2と、案内レール2上を軸方向に移動可能に設けられたスライダ3と、案内レール2とスライダ3との間に設けられた複数の転動体4(ボール、図2参照)とを備えている。
【0017】
ここで、案内レール2は、略直方体状に形成され、両側面21bの各々には、軸方向に延びる上下2列の上側軌道溝22a及び下側軌道溝22bが形成されている。この下側軌道溝22bの溝底部には、保持器逃げ溝23が設けられている。
また、スライダ3は、案内レール2上に軸方向に移動可能に設けられたスライダ本体3Aと、スライダ本体3Aの軸方向両端部に取り付けられた一対のエンドキャップ3Bとを備えている。
【0018】
スライダ本体3Aは、図2に示すように、案内レール2を跨ぐように横断面がコ字状をなし、案内レール2上を横断するようにのびる胴部33と、胴部33の両端部に設けられた1対の袖部34とを備えている。両袖部34の各々の内側面には、案内レール2に設けられた上下2列の上側軌道溝22a及び下側軌道溝22bのそれぞれに対向する上下2列の上側軌道溝32a及び下側軌道溝32bが形成されている。案内レール2の上側軌道溝22a及び下側軌道溝22bとスライダ本体3Aの上側軌道溝32a及び下側軌道溝32bとで上側転動通路及び下側転動通路が形成される。また、スライダ本体3Aの両袖部34の各々の内部には、図2に示すように、上下2列の戻し通路用の上側貫通孔31a及び下側貫通孔31bが形成されている。これら上側貫通孔31a及び下側貫通孔31bは、上下2列の上側軌道溝32a及び下側軌道溝32bに対して軸方向に平行に延びるとともに、スライダ本体3Aの両袖部34の軸方向両端部を貫通するように形成されている。
【0019】
また、スライダ本体3Aの軸方向両端部には、1対エンドキャップ3Bが複数の取付ねじ5により取り付けられる。各エンドキャップ3Bは、案内レール2を跨ぐように横断面がコ字状をなしている。各エンドキャップ3Bには、上側転動通路と上側貫通孔31aとを連通させる上側方向転換路と、下側転動通路と下側貫通孔31bとを連通させる下側方向転換路とが形成されている。そして、上側転動通路、上側貫通孔31a及び上側方向転換路で転動体の上側循環経路が形成されるとともに、下側転動通路、下側貫通孔31b及び下側方向転換路で転動体の下側循環経路が形成される。
【0020】
上側循環経路及び下側循環経路の双方には複数個の転動体4が装填されて、これによりスライダ3が案内レール2上を移動可能となる。なお、エンドキャップ3Bの端部には、図1に示すように、グリースニップルgが取り付けてある。
そして、スライダ3の一対のエンドキャップ3Bの其々の端面には、シール装置10が複数の取付ねじ5により取り付けられている。図3には、本発明に係るシール装置の第1実施形態の単体が示されている。
【0021】
このシール装置10は、案内レール2とスライダ3との隙間の軸方向前後両側の開口をシールするサイドシールであり、潤滑油中で含油処理された合成ゴム製のシール部11と、シール部11の裏面に加硫接着等の手段により一体的に重ねて補強された金属板部12とを備えている。
シール部11は、エンドキャップ3Bの外形に合わせた横断面がコ字状をなした所定の厚みを有する合成ゴム製であり、下記で具体的に述べる原料を金型を用いて圧縮成形したものである。シール部11の凹部の内面形状は、案内レール2の横断面の外形形状に一致している。即ち、シール部11の凹部の内面は、案内レール2の上面21a及び両側面21bに沿う形状をなしている。そして、シール部11の凹部の内面には、案内レール2に設けられた上側軌道溝22aに対応する上側突部13a及び案内レール2に設けられた下側軌道溝22bに対応する下側突部13bが設けられている。また、この下側突部13bの上下中央部には、案内レール2下側軌道溝22bに設けられた保持器逃げ溝23に対応する逃げ溝用突部13cが設けられている。
【0022】
このシール部11の下側突部13bには、図3に示すように、案内レール2の下側軌道溝22bと転動体4との接点CP2,CP3(図4参照)に対応する位置に形成された下側スリット14a,14bが設けられている。
ここで、案内レール2の下側軌道溝22bと転動体4との接点CP2,CP3及び案内レール2の上側軌道溝22aと転動体4との接点CP1について図4を参照して説明しておく。図4は、案内レールの軌道溝と転動体との接点を説明するための図である。
【0023】
転動体4は、案内レール2の下側軌道溝22bに対して、転動体4の中心C2を基準に水平線に対して45°上方に回転した接点CP2と、転動体4の中心C2を基準に水平線に対して45°下方に回転した接点CP3とで接触する。また、転動体4は、案内レール2の上側軌道溝22aに対して、転動体4の中心C1を基準に水平線に対して45°下方に回転した接点CP1とで接触する。
【0024】
このように、シール部11の下側突部13bには、案内レール2の下側軌道溝22bと転動体4との接点CP2,CP3に対応する位置に形成された下側スリット14a,14bが設けられているので、滲み出てきた潤滑剤(潤滑油)が当該スリット14a,14bを介して案内レール2の下側軌道溝22bと転動体4との接点CP2,CP3付近に集中し、転動体4と案内レール2の下側軌道溝22bとの接点CP2,CP3付近に油膜を形成しやすくすることができる。これにより、潤滑剤の少ない状態で使用されても油膜切れを回避するとともに少量の潤滑剤を有効利用して潤滑不足による早期摩耗等を回避することができる直動案内装置1用のシール装置10を提供できる。なお、下側スリット14a,14bを設けていないと、滲み出た潤滑剤(潤滑油)が下側突部13bによって掻きだされてしまって下側軌道溝22bと転動体4との接点CP2,CP3付近に集中しない。
【0025】
そして、下側スリット14a,14bは、案内レール2の軸方向に延びるとともに、図5によく示すように、軸方向前端の入口にテーパ15a,15bを有している。これらテーパ15a,15bは、下側突部13bの軸方向前端面から下側スリット14a,14bに向けて形成される。このように、下側スリット14a,14bの軸方向前端の入口に15a,15bを設けることにより、潤滑剤(潤滑油)が入口のテーパ15a,15b及び下側スリット14a,14bを介して案内レール2の下側軌道溝22bと転動体4との接点CP2,CP3付近に集中しやすくなり、転動体4と案内レール2の下側軌道溝22bとの接点CP2,CP3付近に油膜をより形成しやすくすることができる。
【0026】
金属板部12は、エンドキャップ3Bの外形に合わせた横断面がコ字状をなし、その両袖部に取付ねじ8用の貫通孔16が形成されるとともに、それら両袖部を連結する連結部には、グリースニップルg用の貫通孔17が形成されている。この金属板部12は、案内レール2とは非接触である。
次に、シール装置10のシール部11の材質及び含油処理について述べると、シール部11に使用できる合成ゴムとしては、アクリルニトリルブタジエンゴム(ニトリルゴム)、水素化ニトリルゴム、アクリルゴム、エチレンプロピレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、エピクロルヒドリン系ゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等があげられる。
【0027】
また、含油処理に使用する潤滑油としては、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート、トリ−2−エチルヘキシルトリメリテート、テトラ−2−エチルヘキシルピロメリテート等のエステル油、ヘキサデシルジフェニルエーテル、オクタデシルジフェニルエーテル等のアルキルポリフェニルエーテル油、エイコシルナフタレンその他のアルキルナフタレン油、鉱油、ポリα−オレフィン油、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン等のシリコーン油、パーフルオロポリエーテル油などのフッ素油等をあげることができる。
【0028】
含油処理は、先に説明した材質の合成ゴムシールを所定の潤滑油中にて浸漬して行う。その場合、シールのゴムと金属板部12との接着処理をゴムの含油処理の前に行っておく。含油処理の際の温度、時間等の浸漬条件は、目的とする含油量により決定される。
含油量については、5〜50重量%が好適であり、より好ましくは10〜30重量%である。5重量%未満では、浸漬によりゴム組織内に入り込んだ潤滑油の量が少ないため、その後滲み出てくる潤滑油量が少なすぎて、直動案内装置1の作動性の向上に大きな効果が認められない。一方、50重量%を超えると、含油処理をするのに時間がかかるために、元のゴムシールが劣化したり、あるいは含油量が多すぎるためにゴムシール自体の強度低下を引き起こしたりしてシール装置としての実用上の使用が難しくなる。
【0029】
次に、図6および図7を参照して、本発明に係るシール装置の第2実施形態を説明する。図6は、本発明に係るシール装置の第2実施形態の単体の斜視図である。図7は、図6に示すシール装置における上側及び下側突部近傍の斜視図である。
図6に示すシール装置10は、図3に示すシール装置10と基本構成は同様であり、スリットの設け方が異なっている。図6において、図3に示すシール装置10と同一又は相当部分には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0030】
図6に示すシール装置10においては、シール部11の下側突部13bに、案内レール2の下側軌道溝22bと転動体4との接点CP2,CP3(図4参照)に対応する位置に形成された下側スリット14a,14bが設けられている。また、シール部11の上側突部13aにも、案内レール2の上側軌道溝22aと転動体4との接点CP1(図4参照)に対応する位置に形成された上側スリット14cが設けられている。
【0031】
このように、シール部11の上側突部13aにも、案内レール2の上側軌道溝22aと転動体4との接点CP1に対応する位置に形成された上側スリット14cが設けられているので、上側スリット14cを介して案内レール2の上側軌道溝22aと転動体4との接点C1付近に潤滑剤(潤滑油)を集中させることができ、また、下側スリット14a,14bを介して案内レール2の下側軌道溝22bと転動体4との接点CP2,CP3付近に潤滑剤(潤滑油)を集中させることができ、転動体4と案内レール2の上側軌道溝22a及び下側軌道溝22bとの接点CP1,CP2,CP3付近に油膜を形成しやすくすることができる。
【0032】
そして、図7に示すように、下側スリット14aは、案内レール2の軸方向に延びるとともに、軸方向前後両端の入口および出口にテーパ15a(図7には入口のテーパのみ図示)を有し、下側スリット14bも、案内レール2の軸方向に延びるとともに、軸方向前後両端の入口および出口にテーパ15bを有している。
また、図7に示すように、上側スリット14cも、案内レール2の軸方向に延びるとともに、軸方向両端の入口および出口にテーパ15cを有している。
このように、下側スリット14a,14b及び上側スリット14cは、案内レール2の軸方向に延びるとともに、軸方向前後両端の入口及び出口にテーパ15a,15b,15cを有しているので、滲み出てきた潤滑剤(潤滑油)が入口のテーパ15a、15b、15c、スリット14a、14b、14c及び出口のスリット15a,15b,15cを介して案内レール2の軌道溝22a,22bと転動体4との接点C1,C2,C3付近により集中しやすくなり、転動体と案内レールの軌道溝との接点付近に油膜をより一層形成しやすくすることができる。
【0033】
なお、図6に示すシール装置10において、シール部11の材質、含油処理及び含油量は図3に示すシール装置10のシール部11と同様である。
また、本発明に係るシール装置の第3実施形態を図8を参照して説明する。図8は、図8は、本発明に係るシール装置の第3実施形態の単体の斜視図である。 図8に示すシール装置10は、図6に示すシール装置10と基本構成は同様であり、シール部11の凹部の内面形状が異なっている。図8において、図6に示すシール装置10と同一又は相当部分には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0034】
図8に示すシール装置10においては、シール部11の下側突部13bの上下中央部が案内レール2の下側軌道溝22bに沿って湾曲して形成され、図6に示すような、案内レール2の保持器逃げ溝23に対応する逃げ溝用突部13cが設けられていない。
その一方、図8に示すシール装置10においては、シール部11の下側突部13bに、案内レール2の下側軌道溝22bと転動体4との接点CP2,CP3に対応する位置に形成された下側スリット14a,14bが設けられている。また、シール部11の上側突部13aにも、案内レール2の上側軌道溝22aと転動体4との接点CP1に対応する位置に形成された上側スリット14cが設けられている。
【0035】
また、下側スリット14aは、案内レール2の軸方向に延びるとともに、軸方向前後両端の入口および出口にテーパ15aを有し、下側スリット14bも、案内レール2の軸方向に延びるとともに、軸方向前後両端の入口および出口にテーパ15bを有している。また上側スリット14cも、案内レール2の軸方向に延びるとともに、軸方向両端の入口および出口にテーパ15cを有している。
【0036】
なお、図8に示すシール装置10において、シール部11の材質、含油処理及び含油量は図3に示すシール装置10のシール部11と同様である。
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されずに、種々の変更、改良を行うことができる。
例えば、図3に示す第1実施形態において、スリットは、案内レール2の下側軌道溝22bと転動体4との接点CP2,CP3に対応する位置に形成されているが、この接点CP2,CP3に対応する位置に形成せずに、案内レール2の上側軌道溝22aと転動体4との接点CP1に対応する位置にのみ設けてもよい。この場合、滲み出てきた潤滑剤(潤滑油)が当該スリットを介して案内レール2の上側軌道溝22aと転動体4との接点CP1付近に集中し、転動体4と案内レール2の上側軌道溝22aとの接点CP1付近に油膜を形成しやすくすることができる。
【0037】
また、図3に示す第1実施形態において、テーパ15a,15bは必ずしも設けなくてもよい。
また、図6に示す第2実施形態において、テーパ15a,15b,15cは必ずしも設けなくてもよい。また、テーパ15a,15b,15cは、スリット14a,14b,14cの軸方向前後両端の入口および出口ではなくて軸方向前端の入口あるいは後端の出口のみに設けてもよい。
【0038】
なお、本発明を実施するための形態(第1乃至第3実施形態)では、含油処理した合成ゴム製のシール部11を有するシール装置の例を示したが含油処理していない合成ゴム製のシール部を有するシール装置としてもよい。
【符号の説明】
【0039】
1 直動案内装置
2 案内レール
3 スライダ
3A スライダ本体
3B エンドキャップ
4 転動体
5 取付ねじ
10 シール装置
11 シール部
12 金属板部
13a 上側突部
13b 下側突部
13c 逃げ溝用突部
14a 下側スリット
14b 下側スリット
14c 上側スリット
15a テーパ
15b テーパ
15c テーパ
16 取付ねじ用の貫通孔
17 グリースニップル用の貫通孔
21a 案内レールの上面
21b 案内レールの側面
22a 案内レールの上側軌道溝
22b 案内レールの下側軌道溝
23 案内レールの保持器逃げ溝
31a 戻し通路用の上側貫通孔
31b 戻し通路用の下側貫通孔
32a スライダ本体の上側軌道溝
32b スライダ本体の下側軌道溝
33 銅部
34 袖部
g グリースニップル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に延びる案内レールと、該案内レール上を軸方向に移動可能に設けられたスライダと、前記案内レールと前記スライダとの間に設けられた転動体とを備えた直動案内装置に用いられ、前記スライダの両端面に取り付けられ、前記案内レールと前記スライダとの隙間の軸方向前後両側の開口をシールするシール装置であって、前記案内レールの軌道溝に対応する突部を有する合成ゴム製のシール部を有するシール装置において、
前記シール部の前記突部には、前記案内レールの軌道溝と前記転動体との接点に対応する位置に形成されたスリットが設けられていることを特徴とする直動案内装置用のシール装置。
【請求項2】
前記スリットは、前記案内レールの軸方向に延びるとともに、軸方向前端の入口にテーパを有していることを特徴とする請求項1記載の直動案内装置用のシール装置。
【請求項3】
前記スリットは、前記案内レールの軸方向に延びるとともに、軸方向前後両端の入口及び出口にテーパを有していることを特徴とする請求項1記載の直動案内装置用のシール装置。
【請求項4】
前記シール部の前記突部が、前記案内レールの上側軌道溝及び下側軌道溝のそれぞれに対応する上側突部及び下側突部で構成され、前記スリットが、前記上側突部及び下側突部のそれぞれに設けられた、前記案内レールの上側軌道溝及び下側軌道溝のそれぞれと前記転動体との接点に対応する位置に形成された上側スリット及び下側スリットで構成されていることを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか一項に記載の直動案内装置用のシール装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−190360(P2010−190360A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−36985(P2009−36985)
【出願日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】