説明

直接感熱性平版印刷版

【課題】本発明の課題は、サーマルヘッドで直接描画される、廃液の発生がなく明室下での作業性に極めて優れる直接感熱性平版印刷版において、印字ムラがなく、また印刷性、特に刷り出し時の汚れや網点シャドウ部の汚れ性が改善され、かつ画像部の刷り出し時のインキ乗りに支障を与えない直接感熱性平版印刷版を提供することにある。
【解決手段】支持体上に、ゼラチン及び熱溶融性微粒子を含有する感熱層を最表層として設け、かつ該感熱層の直下にゼラチン及び平均粒子径0.1μm以下の親水性無機微粒子を含有する中間層を有することを特徴とする直接感熱性平版印刷版。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い解像性を有する画像を得ることが可能で、かつ明室下での取り扱いが可能で、製版に関して処理液を必要とせずそのまま印刷に供することのできる、サーマルヘッドで熱印字を行う直接感熱性平版印刷版に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータ情報からのディジタル信号に基づき、平版印刷版を製版するCTP(コンピュータ・トゥ・プレート)印刷版は、レーザーを用いて直接感光材料を露光し、現像液を用いて現像処理を行うことが一般的に行われている。しかし、現像処理に伴い発生する廃液の処理が環境負荷となる。最近では地球環境保護を重視する市場要望が強く、印刷版製版システムに対しても改善を強く望まれている。
【0003】
そこで、現像処理等で処理液を使用せずに平版印刷版を製版する方法が多数提案されている。これらは液体を用いた現像処理を行わないことでプロセスレス印刷版と呼ばれており、このタイプの印刷版としては、レーザー光を用いたアブレーションにより画像部あるいは非画像部を除去するタイプや、インクジェット方式にて画像部を形成するタイプ、熱溶融性や熱可塑性の微粒子を用いて画像部を形成するタイプなどが提案されている。しかし、アブレーションを利用したタイプでは、アブレーションされた表層の飛散物による露光装置内部の汚染が問題となっている。インクジェット方式によるタイプでは、インキ受理層を最表面に有する印刷版表面に画像形成物質即ち疎水性物質を液状として吐出し、インキ受理層にインキ着弾後、固化もしくは光または熱により硬化させる。従って、吐出ノズル出口での固化もしくは硬化が発生し易くノズル詰まりによる製版不安定性の問題がある。
【0004】
熱溶融性の微粒子を利用するタイプで特に熱により画像形成された後に印刷機上で非画像部を剥離するタイプでは、印刷機上で非画像部が剥離されるため、インキローラー等への剥離物の堆積が問題となる。
【0005】
また、非画像部を除去せずそのまま印刷可能なタイプも提案されており、例えば特許文献1に記載の感熱性の平版印刷版等がある。このような感熱性平版印刷版は支持体上に親水性樹脂と熱溶融性微粒子を含有する層を最表層として有しており、現像に起因する廃液もなくまたレーザー描画装置に比べ安価なサーマルヘッドを用いることができるので簡便な印刷版システムとして有効である。しかし、該感熱性平版印刷版は親水性である感熱層を画像様に加熱し、その加熱部分をインキ受理性を有する画像部として利用する一方、未加熱部を親水性の非画像部として利用するため、非画像部にもインキ受理性となる物質がそのまま残存している。このため印刷条件によっては印刷汚れが発生し易い問題があった。
【0006】
特に上記感熱性平版印刷版をサーマルヘッドを用いて熱印字を行う直接感熱方式で使用する場合には非印字部(非画像部)もサーマルヘッドと接触するため、微弱ながらカブリが発生し、印刷条件によっては印刷開始(刷り出し時)の版面汚れや、網点シャドウ部の汚れ性が、他のタイプの平版印刷版に比べ劣る等の印刷性での不都合が生じる場合があった。また熱溶融性微粒子を有する画像形成層の下層に親水性層を有する印刷版(特許文献2、3、4)もいくつか提案されているが、サーマルヘッドを用いた熱印字方式による印刷時の汚れ性の改善に着目したものではなく、十分な効果は得られなかった。また特に特許文献4では、平均粒径0.2〜10μmの水分散性フィラーを用いるため、それが最表層の表面粗さに影響する。サーマルヘッドでの熱印字においては、発熱体からの熱伝導を均一化するためにできるだけ最表層は平滑であることが望ましく、表面粗さが0.2μmを超える場合には印字ムラが発生し、良好な印刷再現が得られない悪影響が出る場合があった。
【特許文献1】特開2001−180144号公報
【特許文献2】特開2004−195724号公報
【特許文献3】特開2006−187911号公報
【特許文献4】特開2000−122269号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記問題を鑑み本発明の課題は、廃液の発生がなく明室下での作業性に極めて優れたサーマルヘッドで熱印字される直接感熱性平版印刷版において、印字ムラがなく、また印刷性、特に刷り出し時の汚れや網点シャドウ部の汚れ性が改善され、かつ画像部の刷り出し時のインキ乗りに支障を与えない直接感熱性平版印刷版を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は以下に記載の直接感熱平版印刷版によって達成できることを見出した。
1.支持体上に、ゼラチン及び熱溶融性微粒子を含有する感熱層を最表層として有し、かつ該感熱層の直下にゼラチン及び平均粒子径0.1μm以下の親水性無機微粒子を含有する中間層を有することを特徴とする直接感熱性平版印刷版。
2.前記最表層が親水性無機微粒子を実質的に含有しないことを特徴とする前記1記載の直接感熱性平版印刷版。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、サーマルヘッドの直接描画に対応し、廃液の発生がなく明室下での作業性に極めて優れ、印字ムラがなく、特に刷り出し時の汚れや網点シャドウ部の汚れに対して優れ、かつ画像部の刷り出し時のインキ乗りに支障を与えない直接感熱性平版印刷版を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に用いられる直接感熱性平版印刷版は、サーマルヘッドによる熱印字(直接描画)方式に対応し、支持体上にゼラチンをバインダーとして用い、ラテックス等の熱溶融性の微粒子を含有する層を最表層として有し、感熱層の直下にゼラチン及び平均粒子径が0.1μm以下の親水性無機微粒子を含有する中間層を有するものであって、画像描画後から印刷機に装着されて印刷実施中においてもいずれの層も実質的に剥離及び溶解除去されない、全く現像処理を行わないタイプの平版印刷版である。
【0011】
このような直接感熱性平版印刷版の感熱層は、熱が与えられない場合(非画像部)は親水性を維持するが、熱が加わるとその部位は含まれる熱溶融性の微粒子が互いに、またバインダーとも溶融し、加熱された部分が全体として疎水性へと変換するようになっている。従って、本発明の直接感熱性平版印刷版では、熱が与えられた部分が疎水性へと変換するために印刷時にインキを受理することが可能となる。しかし、熱が与えられていない非画像部でも、疎水性の熱溶融性の微粒子が存在しており、層全体としての親水性は低下していることとなる。このため、最表層の直下に親水性の中間層を設けることで版全体としての給湿液の吸水量を向上させることができ、印刷汚れ性が良好となる。但し吸水量が多い場合には逆にインキ乗りを阻害して印刷に悪影響を招く恐れがあるし、吸水することで中間層が脆弱化しては耐刷性に影響を与えることとなる。そこで本発明者らは、これらのバランスに着目した結果、水の吸収/保持能と機械的強度の両立性に優れたゼラチン及び平均粒子径が0.1μm以下の親水性無機微粒子を含有する中間層を設け、かつバインダーとしてゼラチンを含有する感熱層を設けることで、刷り出し時の汚れや網点シャドウ部の汚れに対して優れると共に、画像部の刷り出し時のインキ乗りに支障を与えず、バランス良く印刷が行えることを見出した。さらに親水性の無機微粒子は、その平均粒径が0.1μm以下として中間層に含有させることで、最表層の平滑性に悪影響せず、従ってサーマルヘッドでの熱印字においても均一に最表層に接触するため、印字ムラとなることがない。
【0012】
本発明の直接感熱性平版印刷版について詳細に説明する。本発明の直接感熱性平版印刷版はゼラチンと熱溶融性微粒子を含有する感熱層を最表層として有し、その直下にゼラチン及び平均粒子径が0.1μm以下の親水性無機微粒子を含有する中間層を有する。もちろんこれら二層での構成以外に下引き層として後述する支持体との接着性を向上させるための層などを塗設しても構わない。また最表層の厚みは、0.5〜10μmが好ましく、より好ましくは1〜5μmである。またサーマルヘッドによる熱印字が良好となるように最表層は出来るだけ平滑な表面であることが望ましく、中心線表面粗さRaが1μm以下、さらに好ましくは0.5μm以下であることが好ましい。
【0013】
また、本発明の直接感熱性平版印刷版は、画像描画後から印刷機に装着されて印刷実施中においてもいずれの層も実質的に剥離及び溶解除去されない、全く現像処理を行わないタイプの平版印刷版である。従って製版もしくは印刷機上で現像処理を全く行わないため、剥離・溶解除去のための特性は不要であり、印刷時の機械的ストレスにできるだけ耐性を向上させるため、用いる感熱層及び中間層は架橋し硬膜させておくことが好ましい。
【0014】
本発明の直接感熱性平版印刷版の中間層は、印刷性の向上を目的にゼラチンを構成主体とすることが好ましい。ここで構成主体とは、中間層の全乾燥固形分量に対してゼラチンが50質量%以上であることを意味する。また塗設時の視認性のための染料や塗布性を改善するための各種活性剤を適宜添加することができる。また中間層の厚みとしては後述するゼラチンの種類や適用される硬膜剤に応じて調整されるが、汚れ性とインキ乗りのバランスを勘案すれば最表層の厚みの1/2〜2倍とすることが好ましい。
【0015】
また本発明の中間層が含有する親水性の無機微粒子としては、コロイダルシリカ、二酸化チタン、アルミナ等が挙げられる。これらの大きさとしては、最表層の表面粗さに影響を与えないために直接感熱性平版印刷版の中心線表面粗さRa以下とすることが好ましく、例えば出力解像度が600dpi以上、さらに1200dpi以上となると、その再現性は表面平滑性に大きく影響されるため直接感熱性平版印刷版の最表層の中心線表面粗さRaの半分以下の大きさであることが好ましく、加えて塗膜中に均一に分散することが有効に機能することも踏まえ、平均粒子径として0.1μm以下であり、さらに好ましくは0.02μm以下が良い。また含有率としてはゼラチンに対して、親水性無機微粒子は1〜20質量%が好ましい。
【0016】
一方で、本発明の直接感熱性平版印刷版の最表層に印刷地汚れ性を防止する目的でコロイダルシリカ、二酸化チタン、アルミナ等の親水性の無機微粒子を含有させることは、粒子径による表面粗さへの影響とは別に、最表面にこれらの親水性の無機微粒子が存在するため、印刷に用いる印刷インキや湿し水等や印刷速度や印刷圧など各種印刷条件によっては画像部のインキ乗りを阻害する場合が見られ、安定な印刷物を得られにくい。従って最表層には実質的に親水性無機微粒子を含有させないことが好ましく、感熱層中に1質量%以上の親水性無機微粒子を含有しないことが好ましい。
【0017】
次に本発明の感熱層及び中間層が含有するゼラチンについて説明する。本発明の直接感熱性平版印刷版の最表層及び中間層に用いるゼラチンとしては、動物のコラーゲンを原料としたゼラチンであれば全て使用できるが、豚皮、牛皮、及び牛骨から得られるコラーゲンを原料としたゼラチンが好ましい。また、ゼラチンの種類も特に制限はないが、石灰処理ゼラチン及び酸処理ゼラチンの他、特公昭38−4854号公報、特公昭39−5514号公報、特公昭40−12237号公報、特公昭42−26345号公報、米国特許第2,525,753号明細書、米国特許第2,594,293号明細書、米国特許第2,614,928号明細書、米国特許第2,763,639号明細書、米国特許第3,118,766号明細書、米国特許第3,132,945号明細書、米国特許第3,186,846号明細書、米国特許第3,312,553号明細書、英国特許第1,033,189号明細書等に記載のゼラチン誘導体等が挙げられ、これらは1種または2種以上を組合わせて用いることができる。
【0018】
また本発明の直接感熱性平版印刷版の感熱層及び中間層が好ましく含有する硬膜剤としては、例えば、クロム明ばんのような無機化合物、ホルマリン、グリオキサール、マレアルデヒド、グルタルアルデヒドのようなアルデヒド類、尿素やエチレン尿素等のN−メチロール化合物、ムコクロル酸、2,3−ジヒドロキシ−1,4−ジオキサンのようなアルデヒド類縁化合物、2,4−ジクロロ−6−ヒドロキシ−s−トリアジン塩や、2,4−ジヒドロキシ−6−クロロ−s−トリアジン塩のような活性ハロゲンを有する化合物、ジビニルスルホン、ジビニルケトンやN,N,N−トリアクリロイルヘキサヒドロトリアジン、活性な三員環であるエチレンイミノ基やエポキシ基を分子中に二個以上有する化合物類、高分子硬膜剤としてのジアルデヒド澱粉等の種々の化合物の1種もしくは2種以上を用いることができる。また本発明の直接感熱性平版印刷版の感熱層及び中間層にはゼラチン以外の親水性樹脂を50質量%を超えない範囲でさらに含有させても構わない。
【0019】
本発明に係わる熱溶融性微粒子について説明する。本発明に係わる熱溶融性微粒子とは、加熱することにより溶融もしくは互いに融着することで、微粒子状形態から変化し一体化するものである。具体的には熱可塑性樹脂類やワックス類など常温で固体である熱可融性の化合物類の微粒子化されたもので、固体あるいは水分散されたものであれば使用することができる。例としては、水系溶媒に分散可能なポリマーラテックスなどが挙げられる。これらの分散状態の例としては、水不溶な疎水性ポリマーの微粒子が分散しているものや、ポリマー分子が分子状態またはミセルを形成して分散しているものなどを指すがいずれも好ましい。これらの平均粒径は、1〜50000nmが好ましく、5〜1000nmがより好ましい。ポリマーラテックスの粒径分布に関しては特に制限はなく、広い粒径分布を持つものでも、単分散の粒径分布を持つものでも良い。
【0020】
より具体的には、例えば熱可塑性樹脂類としては、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリスチレン、エチレン−ブタジエン共重合体等のジエン(共)重合体類、スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体等の合成ゴム類、ポリメチルメタクリレート、メチルメタクリレート−メタクリル酸共重合体、メチルアクリレート−(N−メチロールアクリルアミド)共重合体、ポリアクリロニトリル等の(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸共重合体、ポリ酢酸ビニル、酢酸ビニル−プロピオン酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−エチレン共重合体等のビニルエステル(共)重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン等及びそれらの共重合体等が挙げられる。
【0021】
また、常温で固体である熱可融性の化合物としては、パラフィン類やワックス類ではカルナバワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスなど、ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ベヘン酸、モンタン酸などの脂肪酸及びそのエステル、アミド類が挙げられる。あるいは芳香族エーテル、エステル及びまたは脂肪酸アミド等なども挙げられる。具体的にはステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、メチロールベヘニン酸アミド、オレイン酸アミド、パルミチン酸アミド等の脂肪酸アミド、p−ベンジルビフェニル、ジベンジルテレフタレート、1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸フェニル、シュウ酸ジベンジル、シュウ酸ジ−p−クロルベンジル、シュウ酸ジ−p−メチルベンジル、アジピン酸ジ−o−クロルベンジル、1,2−ビス(3−メチルフェノキシ)エタン、1,2−ビス(3,4−ジメチルフェニル)エタンなどを用いることができる。
【0022】
これらの熱溶融性微粒子は必要に応じて2種以上混合して使用することができるし、また複数の層としても良い。また、中でも熱が与えられた時に自己架橋する樹脂が特に好ましい。本発明に係わる直接感熱性平版印刷版の最表層に含有される量としては、用いられる親水性樹脂とのバランス、所望の感度により最適化されるが、0.01〜10g/m2の範囲であれば良く、好ましくは0.1〜5g/m2である。さらに好ましくは0.5〜2g/m2である。
【0023】
本発明の直接感熱性平版印刷版の感熱層は、前述した熱溶融性微粒子とゼラチンのバランスとしては質量比で1:1〜10:1の範囲であれば良い。詳細には用いる材料により、インキ乗り性や保水性のバランスを印刷試験にて最適化することが好ましい。
【0024】
また、最表層を塗設するために、助剤としてアニオン系、カチオン系もしくはノニオン系界面活性剤のいくつかを用いても良いし、マット剤、増粘剤、帯電防止剤も用いることができる。さらに画像視認性のために光熱変換能を有さない感熱発色剤、着色剤等を用いることもできる。
【0025】
本発明の直接感熱性平版印刷版の支持体としては、耐水性を有する支持体が印刷版として用いる特性として好ましく、例えば、プラスチックフィルム、樹脂被覆紙、耐水紙などが使用できる。具体的にはポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエーテルサルフォン、ポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート、ポリカーボネート、ポリアミド及びポリ塩化ビニル等のプラスチックフィルムとこれらプラスチックを表面にラミネートやコーティングした樹脂被覆紙、メラミンホルムアルデヒド樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂、エポキシ化ポリアミド樹脂などの湿潤紙力剤によって耐水化された紙を使用することができる。
【0026】
また、上記の他にプラスチックフィルムと金属板(例えば、鉄、ステンレス、アルミニウムなど)やポリエチレンで被覆した紙などの材料(複合基材ともいう)を適宜貼り合わせた複合支持体を用いることもできる。これらの複合基材は、本発明の最表層あるいは中間層を形成する前に貼り合わせても良く、また、最表層もしくは中間層を形成した後に貼り合わせても良く、印刷機に取り付ける直前に貼り合わせても良い。
【0027】
支持体の厚さは、感熱製版装置の記録適性及び平版印刷機適性等の観点から100〜300μm程度が好適である。
【0028】
上述の耐水性を有する支持体の表面は、本発明の中間層との接着性を高めるために、プラズマ処理、コロナ放電処理、遠紫外線照射処理等の易接着処理や下引き層を設けるなどの処理を施しても良い。
【0029】
本発明に係わる下引き層としては、ゼラチンやラテックスを含む層を支持体上に、単層、もしくは2層として形成することがより好ましい。下引き層の厚さは、通常乾燥膜厚0.1〜10μm程度である。また、2層構成とする場合には、耐水性の支持体に近い側の層(下層)は、耐水性の支持体との接着性の観点から、ラテックスを含有する層であることが好ましく、さらに中間層に近い側の層(上層)は中間層との接着の観点から、ゼラチンを含有する層であることが好ましい。
【0030】
また下引き層に用いられるラテックスは具体的には、ポリビニルブチラール等のアセタール樹脂、分子鎖末端にヒドロキシル基を有するポリエステル樹脂、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体等が挙げられる。
【0031】
下引き層塗布後、中間層を塗設するが、ワイヤーバー塗布、グラビア塗布の様な、支持体へ塗布コーターが直接接触する塗布方式においては、下引き層が硬化していることが好ましく、ゼラチンを硬化させる硬膜剤を添加する必要がある。本発明においては本発明の効力を満たす硬膜剤であれば種類は問わないが、代表的な硬膜剤の種類としてはビニル系、ビニルスルホン系、エポキシ系、ペプチド系、メラミン系、ホルマリン系、アルデヒド系、トリアジン系などであり、そのなかでもビニル系、エポキシ系が好ましい。
【0032】
また下引き層には特開平7−20596号公報に記載の導電性ポリマー含有層や金属酸化物含有層のような導電性層を設けることが好ましい。このような導電性を有する層は支持体上であればいずれの側に塗設されても良いが、好ましくは支持体に対し画像形成機能を有する層の反対側に塗設するのが好ましい。この導電性層を設けると帯電性が改良されてゴミなどの付着が減少し、印刷時の白抜け故障などが大幅に減少する。
【0033】
本発明の直接感熱性平版印刷版の画像形成には、例えば、厚膜または薄膜のラインヘッドを用いたラインプリンターや薄膜のシリアルヘッドを用いたシリアルプリンタ等が使用できる。記録エネルギー密度は、10〜100mJ/mm2であることが好ましく、また商業印刷に耐えうる高品質な出力画像を得るためにはヘッドの画像記録密度が600dpi以上であることが好ましい。
【0034】
以下、本発明を実施例にて詳細に説明する。尚、記載中、「部」及び「%」は特に示さない限り質量基準である。
【実施例1】
【0035】
厚さ150μmの両面ポリエチレン被覆紙(RC紙)をコロナ放電加工した後、下記処方からなる中間層塗工液及び最表層(画像形成層)塗工液を塗布、乾燥し直接感熱性平版印刷版を作製した。乾燥塗工量はそれぞれ、1μm及び2μmとした。作製した直接感熱平版印刷版の中心線表面粗さRaは、東京精密機械社製SURFCOM触針計を使用して測定し0.2μmであった。
【0036】
[最表層塗工液]
・親水性樹脂;ゼラチン(12%水溶液) 80部
(ニッピ社製IK3000)
・熱溶融性の微粒子;カルボキシ変性スチレンブタジエン共重合体(固形分45%)
30部
(大日本インキ化学工業社製 ラックスター7132−C)
・熱溶融性の微粒子;1,2−ビス(3−メチルフェノキシ)エタン 30部
(三光社製KS−232)分散液(30%分散液)
・顕色剤;4−ヒドロキシ−4′−イソプロポキシジフェニルスルホン 30部
(日本曹達社製D−8)分散液(30%水分散液)
・発色剤;3−ジブチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン 9部
(山本化成社製ODB−2)分散液(30%水分散液)
・硬膜剤;ジビニルスルホン 1.2部
【0037】
[中間層塗工液1]
・ゼラチン(12%水溶液) 80部
(ニッピ社製IK3000)
・ジビニルスルホン(硬膜剤) 1.2部
・コロイダルシリカ 5部
(日産化学工業社製スノーテックスC;SiO2濃度20%、粒子径0.01〜0.02μm)
【0038】
上記の方法で作製された直接感熱性平版印刷版を、ダイレクトサーマルプリンタ(東芝ホクト電子社製1200dpiサーマルプリントヘッド(ヘッド平均抵抗値7kΩ)を装着したもの)にて、印刷速度2msec/line、印加エネルギー0.02W/dotの印字条件にて120lpiの網点画像を記録した。
【0039】
次に、印刷機はハマダ印刷機械社製オフセット印刷機HAMADA H234、インキはT&K TOKA社製スーパーTEKPLUS墨L、及び給湿液は三菱製紙社製SLM−OD30を使用して5000枚の印刷を行った。
【0040】
印刷物の品質についての評価を行ったところ、印刷開始時汚れ(印刷を開始して直後から印刷機から排出される印刷物が良紙となる枚数)は10枚目で良好、印刷を開始して直後から印刷機から排出される印刷物が適正な画像濃度となる枚数をカウントした印刷開始時適正濃度到達枚数(画像部におけるインキ受理性(インキ乗り性)の指標とした)は5枚目からと良好であった。また印刷を開始して印刷物が適正濃度となった状態で網点部の画像面積率80%以上のシャドウ部の再現性を観察したが問題なく適正であった。さらに5000枚目の印刷物の網点部の画像面積率5%ハイライト部も良好であった。
【実施例2】
【0041】
上記中間層塗工液1で用いたコロイダルシリカの代わりに、別のコロイダルシリカ(日産化学工業社製スノーテックスZL;SiO2濃度40%、粒子径0.07〜0.1μm)を2.5部加えた他は実施例1と同様に直接感熱性平版印刷版を作製した。作製した直接感熱平版印刷版の中心線表面粗さRaは、同様に0.2μmであった。さらに同様に印刷評価を実施した。印刷開始時汚れ、印刷開始時適正濃度到達枚数、及び網点部の画像面積率80%以上のシャドウ部の再現性は実施例1と同等であったが、5000枚目の印刷物の網点部の画像面積率5%ハイライト部は1000枚目の印刷物に比べてインキ濃度がやや低下していた。
【実施例3】
【0042】
上記中間層塗工液1で用いたコロイダルシリカの代わりに、市販のコロイダルアルミナ(日産化学工業社製アルミナゾル−520;Al23濃度20%、粒子径0.01〜0.02μm)を5部加えた他は実施例1と同様に直接感熱性平版印刷版を作製した。作製した直接感熱平版印刷版の中心線表面粗さRaは、同様に0.2μmであった。さらに同様に印刷評価を実施したところ、実施例1と同様の良好な印刷物を得た。
【実施例4】
【0043】
上記最表層塗工液に、市販のコロイダルシリカ(日産化学工業社製スノーテックスC;SiO2濃度20%、粒子径0.01〜0.02μm)を上記最表層塗工液全量に対して5部加えた他は実施例1と同様に直接感熱性平版印刷版を作製した。作製した直接感熱平版印刷版の中心線表面粗さRaは、同様に0.2μmであった。さらに同様に印刷評価を実施した。印刷開始時汚れは3枚目でさらに良好となったが、印刷開始時適正濃度到達枚数は20枚目となった。また、印刷を開始して印刷物が適正濃度となった状態で網点部の画像面積率80%以上のシャドウ部の再現性を観察したが問題なく適正であった。しかし5000枚目の印刷物の網点部の画像面積率5%ハイライト部は1000枚目の印刷物に比べてインキ濃度がやや低下していた。
【0044】
比較例1
上記中間層塗工液1を下記の中間層塗工液2とした他は、実施例1と同様に直接感熱性平版印刷版を作製し、同様に印刷評価を実施した。印刷開始時適正濃度到達枚数は5枚目からと良好であったものの、印刷開始時汚れは30枚目まで悪化し、また、印刷を開始して印刷物が適正濃度となった状態で網点部を観察したところ、画像面積率5%ハイライト部は良好であったものの、画像面積率80%以上のシャドウ部の再現性を観察したが部分的に詰まりが生じていた。
【0045】
[中間層塗工液2]
・ゼラチン(12%水溶液) 80部
(ニッピ社製IK3000)
・ジビニルスルホン(硬膜剤) 1.2部
【0046】
比較例2
上記中間層塗工液1を下記の中間層塗工液3とした他は実施例1と同様に直接感熱性平版印刷版を作製し、同様に印刷評価を実施した。ダイレクトサーマルプリンタで印字したところ、直接感熱性平版印刷版上に再現された網点画像は、実施例1で得られた製版物に比べ、未発色部分は見られなかったが画像が部分的に薄い部分があり、ガサツキ感が強くものであった。また、印刷開始時汚れは5枚目までであったが、印刷開始時適正濃度到達枚数は10枚目からと悪化し、網点画像のガサツキ感が反映されたため実施例1に比べ良好な印刷物が得られなかった。さらに5000枚目の印刷物の網点部の画像面積率5%ハイライト部は1000枚目の印刷物に比べてインキ濃度が低下していた。
【0047】
[中間層塗工液3]
上記中間層塗工液1のコロイダルシリカに代えて、市販のシリカ(日産化学工業社製MP−2040;SiO2濃度40%、平均粒子径0.2μm)を5部加えた。
【0048】
比較例3
上記中間層塗工液を下記の中間層塗工液4とした他は、他は実施例1と同様に直接感熱性平版印刷版を作製し、同様に印刷評価を実施した。ダイレクトサーマルプリンタで印字したところ、直接感熱性平版印刷版上に再現された網点画像は、部分的に発色していないカスレ状の印字ムラが生じており、良好な製版物は得られなかった。印刷物も同様に再現され、印刷開始から良好な印刷物は得られなかった。
【0049】
[中間層塗工液4]
上記中間層塗工液1のコロイダルシリカに代えて、市販のシリカ(富士シリシア化学社製サイリシア435;平均粒子径2.5μm)を5部加えた。
【0050】
比較例4
下記の最表層塗工液2とした他は実施例1と同様に直接感熱性平版印刷版を作製し、同様に印刷評価を実施した。印刷開始時適正濃度到達枚数は5枚目からと良好であったものの、印刷開始時汚れは50枚目まで悪化し、また、印刷を開始して印刷物が適正濃度となった状態で網点部を観察したところ、画像面積率5%ハイライト部は良好であったものの、画像面積率80%以上のシャドウ部の再現性を観察したが部分的に詰まりが生じていた。
【0051】
[最表層塗工液2]
・親水性樹脂;シラノール基変性ポリビニルアルコール(10%水溶液) 100部
(クラレ社製クラレRポリマー R1130)
・熱溶融性の微粒子;カルボキシ変性スチレンブタジエン共重合体(固形分45%)
30部
(大日本インキ化学工業社製ラックスター7132−C)
・熱溶融性の微粒子;1,2−ビス(3−メチルフェノキシ)エタン 30部
(三光社製KS−232)分散液(30%分散液)
・顕色剤;4−ヒドロキシ−4′−イソプロポキシジフェニルスルホン 30部
(日本曹達社製D−8)分散液(30%水分散液)
・発色剤;3−ジブチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン 9部
(山本化成社製ODB−2)分散液(30%水分散液)
・架橋剤;グリオキザール 0.8部
【0052】
比較例6
上記中間層塗工液1を下記の中間層塗工液5とした他は、他は実施例1と同様に直接感熱性平版印刷版を作製し、同様に印刷評価を実施した。印刷開始時適正濃度到達枚数は5枚目からと良好であったものの、印刷開始時汚れは30枚目まで悪化し、また、印刷を開始して印刷物が適正濃度となった状態で網点部の画像面積率80%以上のシャドウ部の再現性を観察したが部分的に詰まりが生じていた。
【0053】
[中間層塗工液5]
・ポリビニルアルコール(10%水溶液) 100部
(クラレ社製PVA117)
・グリオキザール(架橋剤) 0.8部
・コロイダルシリカ 5部
(日産化学工業社製スノーテックスC;SiO2濃度20%、粒子径0.01〜0.02μm)
【0054】
上記の結果から明らかなように、本発明の直接感熱性平版印刷版によれば、サーマルヘッドを用いた直接感熱方式で使用する場合において、熱印字における印字ムラの発生がなく、印刷開始(刷り出し時)の版面汚れや、網点シャドウ部の汚れ性が改善され、かつ画像部の刷り出し時のインキ乗りに支障を与えないため、損紙の発生が少なく良好な印刷物を得ることが可能となる。また、明室下でも作業が行え、かつ現像液を使用することがないので環境にも非常に良好である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に、ゼラチン及び熱溶融性微粒子を含有する感熱層を最表層として有し、かつ該感熱層の直下にゼラチン及び平均粒子径0.1μm以下の親水性無機微粒子を含有する中間層を有することを特徴とする直接感熱性平版印刷版。
【請求項2】
前記最表層が親水性無機微粒子を実質的に含有しないことを特徴とする請求項1記載の直接感熱性平版印刷版。

【公開番号】特開2009−196262(P2009−196262A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−41839(P2008−41839)
【出願日】平成20年2月22日(2008.2.22)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】