説明

真空ポンプの軸の支持装置

【課題】低真空側の転がり軸受の振動可能性および抵抗可能性という特に矛盾する要求を満たす真空ポンプの軸の支持装置を提供する。
【解決手段】本発明は、ハウジングと、軸線方向に力を発生し且つ軸方向剛性を有する第1の軸受と、転がり軸受として形成され且つ軸方向および半径方向剛性を有するホルダ内に配置されている第2の軸受とを備えた真空ポンプの軸の支持装置に関するものである。第2の軸受に高い軸方向力が加えられたときに軸受の振動可能性が失われることを回避するために、前記ホルダが振動台および固定部を含み、この場合、振動台は、振動台の軸方向および半径方向運動を可能にするメタル結合要素を介して、ハウジング内に保持されている固定部と結合されていることと、および振動台と固定部との間に配置されている軸方向ばねにより、ホルダの軸方向における剛性がホルダの半径方向における剛性より大きく、この場合、ホルダの軸方向剛性が第1の軸受の軸方向剛性より大きいこととが提案される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハウジングと、軸線方向に力を発生し且つ軸方向剛性を有する第1の軸受と、転がり軸受として形成され且つ軸方向および半径方向剛性を有するホルダ内に配置されている第2の軸受とを備えた真空ポンプの軸の支持装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ターボ分子真空ポンプ略してターボ・ポンプ内において、高速回転するロータはステータと協働してポンプ作用を発生する。このロータは支持されなければならず、この場合、種々の方法が既知となっている。商業的に成功している一変更態様は、ロータ軸の低真空側端部に転がり軸受を使用し、およびロータ軸の高真空側端部に永久磁気軸受を使用している。
【0003】
この永久磁気軸受は軸方向に磁化されたリング状の永久磁石から構成され、この場合、複数の磁石リングが軸方向に相互に積層されている。この積層内において、磁石リングは相互に逆の極性を向かい合わせている。極性の積層順序は同じであるが異なる直径を有する2つの積層が使用され且つそのうちの1つはロータにおよび他の1つはステータに装着される。正常運転においては、2つの積層の磁石リングは同じ高さに配置され、即ち同心且つ同一平面内に配置されている。積層の各層内に同じ極性が与えられているので、軸受は反発作用に基づいている。これは好ましくない副次的効果を有している。ロータの軸方向に荷重がかかり且つロータが正常位置から偏位した場合、リングはその正常位置からシフトする。この状況において前記反発によりさらに軸方向力が発生する。この力はかなりの大きさで低真空側の転がり軸受に荷重を与え且つ転がり軸受に軸方向押込み荷重を与えることになる。
【0004】
低真空側転がり軸受にかかる荷重は次の理由から危険である。即ち、この軸受は、振動の伝達を小さくするために、ターボ・ポンプのハウジング内に振動可能に保持されていなければならない。したがって、一方の振動可能性と他方の軸方向力に対する抵抗可能性とは矛盾する要求として対立しているからである。
【0005】
弾性変形可能な各構造に剛性が割り当てられてもよい。このことは、機械的構成要素例えば振動リングに対してと同様に永久磁気軸受に対しても適用する。永久磁気軸受の場合、正常位置から偏位した場合の軸方向力の発生は、剛性で行わせることができる。
【0006】
従来、転がり軸受ないしはそのアダプタはエラストマー材料内に埋め込まれ、これにより軸方向および半径方向に振動可能性が与えられた。しかしながら、これによっては、前記矛盾する要求を全く考慮できないか、または考慮できても不十分であるにすぎない。さらに、振動可能性は、エラストマー材料それ自身にかなり依存するものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特に前記矛盾する要求を満たす軸の支持装置を提供することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題は請求項1の特徴を有する軸の支持装置により解決される。
転がり軸受のホルダは振動台および固定部を有し、この場合、固定部はハウジングとの結合部を示す。振動台および固定部はメタル結合要素により相互に結合され、メタル結合要素は軸方向および半径方向運動を可能にする。このホルダの利点は、転がり軸受の位置精度を決定する全ての機能が、振動台、固定部およびメタル結合要素というメタル要素によって受け持たれることである。従来技術においてエラストマーの公差が大きいことが原因で発生し且つ手動調節によって調整されてきた位置の精度不良はもはや問題とならない。したがって、時間のかかる調節過程は必要ではない。さらに、最新の工作機械の製作精度はメタル本体において反映されるので、大量生産において高い生産性が達成される。ホルダの機能の材料への依存性は従来技術においてよりも明らかに低くなる。メタル結合要素に追加して軸方向ばねが使用される。これにより、ホルダの軸方向における剛性はホルダの半径方向における剛性よりも大きい。軸方向ばねおよびメタル結合要素の寸法は、ホルダの軸方向剛性が第1の軸受の軸方向剛性より大きいように決定される。このようにして、ホルダは、上記の矛盾する要求を考慮することを可能にし、および一方で、軸方向および半径方向における振動可能性を失うことなく、高い軸方向力をもつ荷重を受けとめることを可能にする。他の利点は、ホルダが要求する構造空間が小さいことである。さらに、比較的長い使用時間後および種々の軸受温度後においてもホルダの特性変化が現われないことが利点である。
【0009】
請求項2−8は本発明の有利な変更態様を示す。特に、本発明の利点は、第1の軸受が永久磁気軸受であるときに利用可能であり、その理由は、このような軸受は第2の軸受の軸方向における平均以上の荷重を発生させる原因となるからである。この軸受の組み合わせをターボ分子真空ポンプに利用することが好ましく、その理由は、ターボ分子真空ポンプはきわめて高い真空圧力を発生させるために使用されるからである。したがって、高真空側に磁気軸受を使用することが有利であり、この場合、本発明は、従来技術に記載の不利を受けることなく、同時に転がり軸受を低真空側に使用することを可能にする。
【0010】
添付図面により、例として本発明を2つの実施例の形で説明し且つその利点を示すものとする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は、本発明による装置がその中で有利に使用可能なターボ・ポンプを示す。ターボ・ポンプは例として複数の部分3a、3b、3cから組み立てられているハウジングを有し、ハウジングはガス入口1およびガス出口2を備えている。ハウジング内にステータ・ディスク12が存在し、ステータ・ディスク12はスペーサ・リング13により軸方向に相互に間隔をなして保持される。軸4上にロータ・ディスク11が固定され、ロータ・ディスク11はスペーサ・リングにより提供されたスペーサ・リング間の自由空間内に突出している。ロータ・ディスクおよびステータ・ディスクは羽根を備えている。軸は第1の高真空側軸受8および第2の低真空側軸受9により回転可能に支持される。駆動装置6は軸したがってロータ・ディスクを高速で回転させ、これによりディスクのポンプ作用が形成される。軸受8は永久磁気軸受として形成されている。低真空側軸受9はホルダ10内にはめ込まれ、一方、ホルダ10はハウジング部分3c内に固定されている。この図1においてはホルダは略図で示されているにすぎないが、以下の本文において、図2−4を用いてより詳細に説明する。
【0012】
図2はホルダ10の本発明による第1の実施形態を示す。図2の部分a)はホルダの軸に沿った断面図を示す。転がり軸受9は玉軸受として形成され且つ振動台20に固定されている。振動台20はメタル結合要素22により固定部21と結合されている。結合要素はたわみ可能な棒であり、このたわみ可能な棒の少なくとも3つが周囲に分配配置されている。固定部と振動台との間に軸方向ばね25が配置され、軸方向ばね25は波形ばねとしてまたはエラストマー・リングとして形成されていてもよい。これにより、ホルダの軸方向における剛性はホルダの半径方向における剛性より大きくなる。エラストマー・リングの使用はそれ自身によって熱をより良好に除去する。図2の部分b)にこれが示されている。即ち、棒は、固定部上の120°オフセットされた始点26から始まり、始点に対して周方向にオフセットされた振動台上の終点27において終る。棒の長さ、その厚さ、および始点および終点の形状により、たわみ特性したがって振動台の振動特性が決定可能である。棒は始点と終点との間で渦巻状にまたは円弧セクションとして伸長する。
【0013】
メタル結合要素の形状は、振動台に対して、軸方向および半径方向に運動することを可能にする。この場合、半径方向および軸方向における剛性は異なり且つ棒の形状および軸方向ばねの寸法により第1の軸受8および第2の軸受9からなる組み合わせの要求に同調可能である。特に、ホルダの軸方向剛性は第1の永久磁気軸受の剛性よりも大きくなるように決定されている。ロータの軸方向における偏位はもはや軸受9の軸方向における振動可能性を失わせることはない。
【0014】
図3および図4はホルダ10の本発明による第2の実施形態を示す。この実施形態においてはホルダは2枚のプレートを有し、これらのプレートの1つは振動台20の機能を有し、および他の1つは固定部21の機能を有している。2つのプレート間のメタル結合要素は軸方向にオフセットされた共軸の2つのシリンダ33および34から構成され、シリンダ33および34は3つのウェブにより上下位置で相互に且つプレートと結合されている。さらに、エラストマー・ダンパ31が設けられ、エラストマー・ダンパ31は振動台の運動を半径方向においてダンピングする。軸方向運動に対しては軸方向ばね32が設けられている。
【0015】
図4のシリンダの斜視図はウェブの配置を表わす。周方向に等間隔に分配された3つのラジアル・ウェブ35はシリンダ34を固定部21と結合する。周囲に分配された複数のアキシアル・ウェブ36はシリンダを相互に結合する。わかりやすくするためにここではウェブは誇張して示されている。アキシアル・ウェブを介しての結合により、両方のシリンダは相対的に半径方向運動をすることができる。ラジアル・ウェブは特に軸方向運動を可能にするが傾斜運動もまた可能にする。これにより、運動特性は種々の方向に相互に十分に分離され且つウェブの寸法により相互に十分に分離するように調節可能である。アキシアル・ウェブおよびラジアル・ウェブが周囲に沿って相互にオフセット配置されていることにより、ホルダの変形範囲が拡大され且つ一種のカルダン懸架が形成される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】ターボ分子真空ポンプの断面図である。
【図2】a)は第1の実施形態における装置の断面図であり、b)はこの実施形態のA−A断面図である。
【図3】装置の第2の実施形態の断面図である。
【図4】第2の実施形態の斜視図である。
【符号の説明】
【0017】
1 ガス入口
2 ガス出口
3a、3b、3c ハウジング部分
4 軸
6 駆動装置
8 第1の軸受(高真空側軸受)
9 第2の軸受(低真空側軸受)
10 ホルダ
11 ロータ・ディスク
12 ステータ・ディスク
13 スペーサ・リング
20 振動台
21 固定部
22 結合要素
25、32 軸方向ばね
26 始点
27 終点
31 エラストマー・ダンパ
33、34 シリンダ
35 ラジアル・ウェブ
36 アキシアル・ウェブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング(3a、3b、3c)と、
軸線方向に力を発生し且つ軸方向剛性を有する第1の軸受(8)と、
転がり軸受として形成され且つ軸方向および半径方向剛性を有するホルダ(10)内に配置されている第2の軸受(9)と、
を備えた真空ポンプの軸(4)の支持装置において、
前記ホルダが振動台(20)および固定部(21)を含み、この場合、振動台は、振動台の軸方向および半径方向運動を可能にするメタル結合要素(22)を介して、ハウジング内に保持されている固定部と結合されていることと、および
振動台と固定部との間に配置されている軸方向ばね(25、32)により、ホルダの軸方向における剛性がホルダの半径方向における剛性より大きく、この場合、ホルダの軸方向剛性が第1の軸受(8)の軸方向剛性より大きいことと、
を特徴とする真空ポンプの軸(4)の支持装置。
【請求項2】
固定部(21)および振動台(20)がリング状に且つ1つの平面内に配置されていることを特徴とする請求項1の装置。
【請求項3】
メタル結合要素(22)が、たわみ可能であり且つ周囲に分配された少なくとも3つの棒であることを特徴とする請求項1または2の装置。
【請求項4】
固定部(21)および振動台(20)が、平板状に且つ軸方向にオフセット配置されていることを特徴とする請求項1の装置。
【請求項5】
メタル結合要素(22)が軸方向にオフセット配置された共軸の2つのシリンダ(33、34)であり、シリンダ(33、34)はそれぞれ少なくとも3つのウェブ(35、36)を介して上下位置で相互に且つプレートと結合されていることを特徴とする請求項4の装置。
【請求項6】
シリンダ間のウェブ(36)およびシリンダとプレートとの間のウェブ(35)が、相互に周方向にオフセット配置されていることを特徴とする請求項5の装置。
【請求項7】
第1の軸受(8)が永久磁気軸受であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかの装置。
【請求項8】
ロータの支持装置がターボ分子真空ポンプに使用されることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかの装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−39183(P2008−39183A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−193374(P2007−193374)
【出願日】平成19年7月25日(2007.7.25)
【出願人】(391043675)プファイファー・ヴァキューム・ゲーエムベーハー (44)
【Fターム(参考)】