説明

真空蒸着装置、基板の製造方法および太陽電池

【課題】 ロール状の基板にパターニングしながら金属層を継続してマスク蒸着する。
【解決手段】 本発明のある態様において、基板10を長手方向に送るための基板給送機構120と、基板10の一方の面に向かう位置に配置される蒸着源130と、メタルマスク12を長手方向に送るためのマスク移動機構140とを備える薄膜を形成する真空蒸着装置100が提供される。マスク移動機構140は、帯状のメタルマスク12の展開された部分を、基板10と蒸着源130との間の空間を仕切るように渡して基板1から離間した状態を保って送る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は真空蒸着装置、基板の製造方法および太陽電池に関する。さらに詳細には、本発明は、可撓性の基板上にパターニングされた薄膜を形成するための真空蒸着装置、パターニングされた薄膜が形成された基板の製造方法、および、パターニングされた薄膜または基板を備える太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生産のための環境負荷が小さい太陽電池として薄膜太陽電池が注目されている。薄膜太陽電池には、複数の光電変換素子を基板の一方の面の上に複数形成し、各光電変換素子をその基板上にて直列に接続して使用されるものがある。このような構成は、集積型の薄膜太陽電池と呼ばれている。例えば、集積型の薄膜太陽電池が特許文献1(特公平5−72113号公報)に提案されている。
【0003】
集積型薄膜太陽電池の構造は、スーパーストレート型pin構造とサブストレート型nip構造とに大別される。スーパーストレート型の太陽電池においては、発電のための光は基板を通過してから発電層すなわち半導体層に入射する。このため、スーパーストレート型太陽電池においては、透明または透光性の基板が採用され、形成される発電層にとって基板が光の入射側(以下「前面側」という)に配置される。この場合の半導体層には、基板側からp層、i層、n層の順に積層されるpin構造が採用される(例えば、上記特許文献1)。これに対して、サブストレート型の太陽電池においては、発電のための光は、基板を通過せずに半導体層に入射する。このためサブストレート型の太陽電池においては、不透明な基板や透光性に乏しい基板を採用することが可能であり、基板は、形成される半導体層にとって光の入射側とは逆の側(「裏面側」)に配置される。この場合の半導体層には、基板側からn層、i層、p層の順に積層されるnip構造が採用される。サブストレート型nip構造の直列接続構造を実現するためのパターニング加工を容易にする手法が特許文献2(特許4248351号明細書)に提案されている。
【0004】
上述の各提案の集積型の薄膜太陽電池の構成を子細にみると、裏面電極層・半導体層・前面透明電極層が積層された光電変換層が基板上において光電変換部の各単位(以下、単位光電変換部という)に区切られている。各単位光電変換部は、基板上において直列接続されて集積型の薄膜太陽電池をなしている。その際の直列接続は、隣接する二つの単位光電変換部のうち、一方の単位光電変換部の前面透明電極層と、他方の単位光電変換部の裏面電極とを互いに電気的に接続して行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平5−72113号公報
【特許文献2】特許4248351号明細書(特開2005−93903号公報)
【特許文献3】特開2002−57357号公報
【特許文献4】特開2003−297158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
集積型の薄膜太陽電池を作製する場合には、いくつかの技術課題を克服することが求められている。その課題のひとつに前面透明電極層の電気抵抗に関する課題がある。
【0007】
具体的には、薄膜光電変換素子には、前面透明電極層の材料としてITO(スズドープ酸化インジウム)などの透明導電性材料が採用されている。しかし一般に、透明導電性材料は金属と比較して電気抵抗が高い。実際、金属の抵抗率が2〜20μΩ・cm程度であるのに対し、透明電極層に用いる透明導電性材料の抵抗率は400μΩ・cm程度である。直列接続された太陽電池モジュールにおいて前面透明電極層の電気抵抗が高いと、曲線因子(FF)が低下し光電変換効率(Eff)も低下する。
【0008】
前面透明電極層の電気抵抗を低減させる最も単純な解決策は、前面透明電極層の膜厚を増すことである。しかし、前面透明電極層の膜厚を増大させる手法は太陽電池においては採用しがたい。というのも、前面透明電極層に求められる技術的要件には電気的要件に加えて光学的要件も含まれるためである。具体的には、太陽電池の光電変換効率を高めるためには、発電に用いる波長域(おおむね400nm〜1200nm)の光を損失無く半導体層に吸収させることが必要となる。このため、半導体層より前面側に配置される前面透明電極層にはその波長域の光をできるだけ多く透過させることが要求される。より詳細には、前面透明電極層には、約500nm〜約700nmの波長域において反射を抑えること、および、約700nmより長波長側(近赤外域も含む)において吸収を抑えることが求められる。一方、透明導電性材料を用いる前面透明電極層を配置すると、前面透明電極層の両面は、一般には周囲の媒体と屈折率が整合しない界面または表面となる。そのような屈折率の不整合の面における反射を抑制するため、前面透明電極層の膜厚は、前面透明電極層それ自体の薄膜の干渉による低反射の条件が成立するように注意深く決定される。また、透明導電性材料はその材質自体の吸収も避けられない。これらの要因により、現状の透明導電性材料を用いる限り、前面透明電極層の膜厚を増大させる手法による電気抵抗の低減は必然的に発電のための光量の減少を伴う。このため、この手法を採用することはできない。なお、上述の発電に用いる波長域は、単数あるいは複数の半導体層の分光感度特性が敏感な範囲である。
【0009】
電気抵抗の課題を解決する別の手法として、前面透明電極層に代えて、または前面透明電極層に加えるようにしてごく薄い金属層を形成し、金属層を光が透過するようにする手法も考えられる。しかし実際にはこの手法も採用し得ない。例えば、抵抗率の低い銀(Ag)を10nm程度の小さい膜厚に形成した場合であっても透過率は70%前後となる。それ以外の30%ほどの光は光電変換に寄与しない。つまり、ごく薄い金属層を用いると、前面透明電極層の抵抗によるロスを軽減させるよりも光量の減少による影響が大きくなるため、同じ照射光量に対する発電量すなわち光電変換効率(Eff)はかえって低下する。
【0010】
ところで、サブストレート型の薄膜太陽電池において、直列接続のための構成として、いわゆるSCAF(Series Connection through Apertures formed on Film)構造の薄膜太陽電池が提案されている(例えば特許文献3:特開2002−57357号公報)。この構成においては、ある単位光電変換部の前面透明電極層からの電流を隣合う単位光電変換部の裏面の電極に接続するため、多数の集電孔が設けられる。このように配置される集電孔を利用する場合にも、上述の前面透明電極層の電気抵抗は問題となる。このような集電孔を用いる場合に検討される工夫としては、前面透明電極層の各部から集電孔までの距離が可能な限り一定になるように集電孔を配置することが考えられる。端的には、集電孔の数を増大させたり、集電孔それ自体のサイズを大きくしたりすることが望ましい。というのはこのようにすることによって、前面透明電極層を電荷が移動する距離が短くなり、前面透明電極層の透明導電性材料の電気抵抗を低減させたのと同様の効果が生じるためである。この電気抵抗の低減は、発電領域における曲線因子および光電変換効率を向上させる。しかし一方で、集電孔の数やサイズを増大させるのに伴って発電領域それ自体の面積の減少は避けられない。この面積の減少は、太陽電池セルの光電変換効率を低下させる要因となるため、SCAF構造であっても集電孔の配置、数、サイズの工夫による性能の改善効果には限界がある。
【0011】
これらの課題に対処すべく、本出願の発明者は、前面透明電極層に接して配置され、光電変換層に到達するように光を透過させる光透過領域が設けられたパターンをなす金属層をさらに備える薄膜太陽電池を提案している(本出願と同一出願人による特許出願:特願2010−060355号)。当該提案の薄膜太陽電池においては、前面透明電極層に接するように金属層を配置することによって前面透明電極層の電気抵抗に起因する上述の課題が解決される。しかしながら、このような金属層を効率よく形成する手法はこれまで知られていない。
【0012】
そこで、本出願の発明者は、光透過領域が設けられたパターンをなす金属層を効率よく形成する手法、特に前面透明電極層に接するように金属層を形成するための手法を種々検討した。本出願の発明者がその検討に際して注目したのは、透明電極層に接するように金属層を形成するための具体的な技術要件である。
【0013】
透明電極層に接するようにして形成されて透明電極層の電気抵抗を低下させる効果を発揮するような金属層は、所定のパターンとなるように形成される。そのようなパターンを形成するための一つの手法として、全面に金属層を形成した後に、その金属層を例えばエッチングによって除去する手法が考えられる。しかしながら、そのような除去を伴う手法はいくつかの理由によって好ましいものとはならない。その一つの理由は、生産効率が低下するためである。少なくとも全面に金属層を形成する工程と金属層の一部を除去する工程とを行う必要があり、これら2工程が新たに必要となる。エッチングなどの除去の工程を用いる限り、金属層の下にその時点までに形成されている構造物(下地構造物)に影響を与えることなく金属層のみの除去を要することも問題となる。例えばその除去の工程がエッチングであれば、金属層のパターン形成の際には、下地構造物のエッチング耐性を考慮する必要が生じる。したがって、全面に金属層を形成しその後に除去を伴う手法は、太陽電池のためにパターンを有する金属層を形成する手法として好ましいとはいえない。
【0014】
ここで、除去する工程を必要とせずに前面透明電極層よりも前面側に金属層のグリッド電極を形成する手法として、金属コロイド溶液などを透明電極層の面に印刷してグリッド電極やバスバー電極を形成する手法が提案されている(特許文献4:特開2003−297158号公報)。この手法は、形成後の金属層を除去するプロセスを伴わないために、除去を用いることによる課題を生じさせない手法ではある。しかしながら、印刷によってグリッド電極やバスバー電極を形成しようとすると、印刷の塗布や乾燥工程が一様となりにくく、太陽電池の出力のばらつきを増大させる。したがって、この提案の手法は量産性を高めにくいという問題点がある。また、このような印刷を用いて集積型の太陽電池を作製する場合には、単位光電変換部を集積するための配線を接続するための精密な位置合わせも必要となる。加えて、印刷によって精細なパターンとなるように電極を形成することは、それ自体が困難である。さらには、特許文献4の提案では、金属コロイド溶液自体が非常に高価であるという課題もある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
以上の検討を踏まえ、本出願の発明者は、除去プロセスを伴わずにパターンを形成が可能であり、均質性の高い金属層の形成を行うことが可能な手法として、マスク蒸着法(いわゆるマスクデポ法)に着目した。マスク蒸着法は、蒸着の際に蒸着材料が飛行する空間に、その蒸着材料を遮蔽することが可能な膜または板(以下、総称的に「マスク」ともいう。)を配置し、その膜または板に開口を目的の形状に形成することによって、必要なパターンの膜または層を形成する手法である。その際に用いられるマスクは、特に形成される薄膜が金属層である場合には、金属製のマスク(メタルマスク)を用いることが有用である。
【0016】
ところが、マスク蒸着法を適用してロール状の基板を採用する太陽電池を量産しようとしたところ、発明者はある問題に直面した。マスク蒸着に用いるメタルマスクには蒸着の堆積物が蓄積する。問題となるのはその堆積物の量である。堆積物の量が過大であれば、パーティクルまたはダストが生じるばかりか、メタルマスクの開口形状が変わってしまったり、さらにはその目詰まりも生じうる。この点について補足して詳細に説明する。
【0017】
まず、ロール状に形成した基板を用いるのは、基板の面積を大面積化することによって生産効率を高めるためである。ロール状の基板としては、例えば1000mを超えるような長尺の帯状の基板が採用される。なお、このような基板はウエブとも呼ばれる原反の基板であり、最終製品(例えば太陽電池)はその基板に複数配列して作製されてそこから切り出される。ロール状にして扱うような帯状の基板を採用すると、成膜などの各処理は、そのようなロール状の基板を必要に応じて展開した部分を対象にして施すことが可能となる。このため、帯状の基板を用いることは、大面積の基板を扱うことによって生産効率を高めるための有効な手法となる。ちなみに、枚葉基板すなわち一枚一枚の単位の基板を用いる手法によって大面積化による生産効率の向上を達成しようとしても、基板のみならずそれを収容する処理装置をも大型化する必要が生じ、各装置のフットプリント(設置面積)の点から効率的とは言い難い。
【0018】
このような長尺の帯状の基板を対象にしてマスク蒸着法を採用して連続的に金属層を形成しようとすると、上述したようにメタルマスクへの堆積物がより大きな問題となるのである。というのは、金属層が形成される基板が長尺で大面積であるために、帯状の基板を対象にするメタルマスクには多量の堆積物が付着するためである。その堆積した金属材料は、パーティクルやダストの原因となって最終製品に付着すると電気的な異常を引き起こすおそれがある。
【0019】
そればかりではない。特に前面透明電極層に接するように金属層をパターニングする場合には、金属層のパターンを個別に見ると、微細なパターンのものが用いられる。前面透明電極に対して光を通過させるような領域を十分に確保しようとする場合には、金属層のパターンは幅の狭いライン状の形状が好ましいためである。このため、開口の幅は非常に狭くならざるを得ず、開口形状の変動や開口の目詰まりを起こしやすいものとなる。このように、形成する微細なパターンを微細にしようとするほど、メタルマスクの開口形状の変動や開口の目詰まりの問題が一層深刻となる。
【0020】
このような課題に対し、帯状の基板を用いる場合にもマスク蒸着法を効率よく行うための手法として、本出願の発明者は、メタルマスク自体を送りながら成膜を行うことにより、パーティクルや目詰まりの問題を生じさせないマスク蒸着法を着想した。
【0021】
本発明のある態様においては、真空蒸着装置が提供される。すなわち、本発明のある態様においては、ロール状に巻かれている帯状の基板のうちの展開された部分を該基板の長手方向に送るための基板給送機構と、該基板の一方の面に向かう位置に配置され、薄膜を形成する蒸着材料を該一方の面に向かって放出するための蒸着源と、ロール状に巻かれておりいくつかの開口が設けられている帯状のメタルマスクのうちの展開された部分を、前記基板と該蒸着源との間の空間を仕切るように渡して前記基板から離間した状態を保って、前記メタルマスクの長手方向に送るためのマスク移動機構とを備えるパターニングされた薄膜を形成する真空蒸着装置が提供される。
【0022】
本発明における別の態様においては、基板の製造方法が提供される。すなわち、ロール状に巻かれている帯状の基板のうちの展開された部分を基板給送機構により該基板の長手方向に送る工程と、該基板の一方の面に向かう位置に配置される蒸着源により、薄膜を形成する蒸着材料を該一方の面に向かって放出する蒸着処理が行われる蒸着処理工程と、ロール状に巻かれておりいくつかの開口が設けられている帯状のメタルマスクのうちの展開された部分を、前記基板と該蒸着源との間の空間を仕切るように渡して前記基板から離間した状態を保って、前記メタルマスクを該メタルマスクの長手方向にマスク移動機構により送る工程とを含むパターニングされた薄膜を備える基板の製造方法が提供される。
【0023】
本発明の各態様において真空蒸着装置とは、真空を利用して例えば金属材料などを蒸発させて基板に堆積させるための装置を一般に指している。また、帯状の基板は、各種の材質の基板を含み、基板の形状は、ある方向(長手方向という)に長く、それに直交する方向(幅方向という)に狭くされている基板をいう。そのような基板は、保管等の便宜のために適宜ロール状に巻かれる。基板は、そのロール状の巻かれた状態から必要に応じて引き延ばされて展開される。基板が展開された部分は、長手方向に延びる帯(ウエブ)となって、さらに必要に応じて巻取ることが可能である。本発明の各態様の真空蒸着装置においては基板のうち展開された部分が成膜の対象となる。
【0024】
基板給送機構は、一定速度によって基板を送るすなわち給送することができるようになっている。典型的には、基板を巻取っているロールから基板が巻出されて展開され、展開された基板の部分が長手方向に送られ、最後に別のロールに巻取られる、という流れにしたがって給送が行われる。
【0025】
帯状のメタルマスクは、基板と同様にロール状に巻かれるような金属製の帯状の膜または薄板であり、その両面を貫通する開口が設けられている。この開口は一方の面から他方の面に向かう通路をなす。そして、開口以外の膜または板の部分は、そこを通過する蒸着材料の蒸気を遮断する遮蔽部となる。メタルマスクは、ロール状に巻かれた部分から展開されると、基板に接しないように基板から離間されて空間を仕切るようにして渡される。マスク移動機構は、そのような展開されたメタルマスクの部分を送って移動させる。
【0026】
なお、本発明の製造方法の態様において、各工程の順序は明示されない限りその記載順に行われることに限定されない。同様に、本発明の製造方法の態様は特段明示されない限り、いくつかの工程が同時にあるいは一部同時に実行されること、および、いくつかの工程が連続せずに行われることも含んでいる。
【発明の効果】
【0027】
本発明のいくつかの態様によれば、ロール状から展開して送られる基板に薄膜を形成する場合において、メタルマスクに堆積する蒸着材料の量が過大とならないように保ちつつ、メタルマスクを用いてパターンを効率よく形成する蒸着処理が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明のある実施形態における蒸着装置の構成を示す概略断面図である。
【図2】本発明のある実施形態の蒸着装置における基板およびメタルマスクのスピードの時間変化を示すタイミングチャートである。
【図3】本発明のある実施形態において用いられるメタルマスクの構成を示す構成図である。
【図4】本発明のある実施形態において用いられるメタルマスクの構成を示す構成図である。
【図5】本発明のある実施形態の蒸着装置の一部の構成を示す概略斜視図である。
【図6】本発明のある実施形態の蒸着装置の一部の構成を示す概略断面図である。
【図7】本発明のある実施形態の蒸着装置の構成を示す概略断面図である。
【図8】本発明のある実施形態の薄膜太陽電池の構成を示す平面図(図8(a))および拡大平面図(図8(b))である。
【図9】本発明のある実施形態の薄膜太陽電池の構成を示す概略断面図である。
【図10】本発明のある実施形態において薄膜太陽電池を製造する工程を説明する工程フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下の説明に際し特に言及がない限り、全図にわたり共通する部分または要素には共通する参照符号が付されている。また、図中、各実施形態の要素のそれぞれは、必ずしも互いの縮尺比を保って示されてはいない。
【0030】
<第1実施形態>
[装置構成]
図1は、本実施形態の真空蒸着装置の概略構成を示す概略断面図である。本実施形態の蒸着装置100は真空槽110の内部に、基板給送機構120と、蒸着源130と、マスク移動機構140とを備えている。蒸着装置100はそれ以外にも、真空蒸着を実行するための排気系統(図示しない)等の要素を備えている。
【0031】
真空槽110は、基板10およびメタルマスク12が配置される基板室112と、蒸着源130が配置される蒸着室114とからなる。基板室112および蒸着室114それぞれには専用の排気ポートが設けられ、各排気ポートに別々の排気系統が接続される。基板室112には上記の基板給送機構120とマスク移動機構140とが設置される。基板給送機構120には基板10が搭載され、マスク移動機構140にはマスク12が搭載されている。
【0032】
基板給送機構120は、ロール状に巻かれている帯状の基板10のうちの展開された部分10Uを基板10の長手方向に送るために用いられる。このために、基板給送機構120には、基板巻出しロール122、基板搬送ロール(巻出し側)124、基板搬送ロール(巻き取り側)126、および、基板巻き取りロール128が備えられている。
【0033】
ここで、本実施形態にて用いられる基板10について説明する。本実施形態の基板10は、長尺の帯状の形状にされていて、少なくともロール状に巻取ることが可能となる程度の可撓性を備えている。この基板10として採用されるものには、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルサルフォン(PES)、アクリル、ポリアミド、ポリイミドアミド、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、各種の液晶ポリマーなどの絶縁性プラスチックフィルムがある。これら以外に基板10として採用される基板としては、ステンレス薄板などの金属膜、薄板または箔を用いることも可能である。なお、本実施形態における基板10は、帯状の基板すなわち薄い連続体を一般に呼称するものであり、その基板10には、この蒸着装置100によって蒸着を行う時点において他の膜が形成されていたり、何らかの他の要素または構造物(下地構造物)付加されたりしていてもよい。下地構造物を有する基板の典型的な例としては、裏面電極層、半導体層および前面透明電極層を含む構成要素が形成されたサブストレート型の太陽電池それ自体を挙げることができる。
【0034】
蒸着装置100には、このような基板10を蒸着処理のために搭載する基板巻出しロール122が設けられる。蒸着処理の開始時点において、基板巻出しロール122の周りには基板10がロール状に巻かれている。これに対して、基板巻き取りロール128は基板10のうち蒸着処理が施された部分を巻き取るために用いられる。
【0035】
基板巻出しロール122と基板巻き取りロール128との間には、基板搬送ロール(巻出し側)124と基板搬送ロール(巻き取り側)126とが装備される。基板搬送ロール124および基板搬送ロール126は、それぞれが複数のロールまたはローラ(図1においては、各4個のロール)によって構成されている。基板搬送ロール124および基板搬送ロール126は、展開された基板10それ自体または基板10に形成されている下地構造物に対して付加逆な変形やダメージを与えない程度の摩擦力を作用させながら、基板10に摩擦係合している。そして基板10は、展開された部分10Uが基板搬送ロール124と基板搬送ロール126との間に渡されており、その渡されている部分10Uには長手方向に引っ張り応力すなわち張力が印加されている。なおこの張力は、基板10と摩擦係合している基板搬送ロール124と基板搬送ロール126とによって印加される。また、例えば基板10の幅方向両端にスプロケット用の孔の列が設けられているような場合には、基板搬送ロール124と基板搬送ロール126の一部に、その孔の列に対してかみ合い係合するようなスプロケットを備えるロールまたはローラを含んでいてもよい。
【0036】
蒸着処理は、基板搬送ロール124および126の間を渡されている基板10の展開された部分10Uに対して行われる。そのために、基板10の一方の面10Fに向かう位置に蒸着源130が配置される。図1においては、蒸着源130は紙面上、基板10の展開された部分10Uの下方に設置されている。
【0037】
蒸着装置100においては、蒸着の処理効率を高めるために同一の構成の二つの蒸着源130を蒸着室114に配置している。蒸着源130には、内部に高温に加熱される蒸着皿(図示しない)が配置され、そこに蒸着材料が供給される。蒸着源130の上端部は開放されていて、その上端部からは、蒸着皿からの蒸着材料の蒸気が放出される。この蒸着材料は十分に減圧にされた蒸着室114を図1の上方に向かって移動する。
【0038】
マスク移動機構140には、メタルマスク12がロール状に巻かれて搭載されている。このメタルマスク12を送るためにマスク移動機構140にはメタルマスク巻出しロール142とメタルマスク巻き取りロール144とが備えられている。マスク移動機構140にはさらにガイドロール146および148が備えられている。ガイドロール146および148はメタルマスク12の展開された部分12Uをガイドしている。そのガイドによってメタルマスク12は基板10の展開された部分10Uから所定のギャップだけ離間した位置を保つようになっている。このメタルマスク12には、メタルマスク12の長手方向に張力が印加されている。この張力は、メタルマスク巻出しロール142とメタルマスク巻き取りロール144とによって印加されている。張力によってメタルマスク12の展開された部分12Uの部分はほぼ平面の形状を維持することが可能となるため、メタルマスク12を平面に保持するための手段を別途装備する必要はない。
【0039】
このメタルマスク12は全体が帯状の形状にされている。帯状のメタルマスク12は、メタルマスク巻出しロール142においてロール状に巻かれており、その長さにわたって微細な開口26(図3)が設けられている。なお、メタルマスク12の詳細については後述する。
【0040】
基板室112と蒸着室114の間には、隔壁116が設けられている。その隔壁116には、基板10の展開された部分10Uおよびメタルマスク12の展開された部分12Uそれぞれのさらに一部に対応するように、開口116Aが設けられる。この開口を通じて、蒸着室114内の蒸着源130からの蒸着材料がメタルマスク12および基板10に向かって移動する。なお、蒸着室114の内部は、基板室112の内部に比べて高い真空度となっている。これは、真空蒸着に必要な真空度を達成するために必要な空間を蒸着室114に限定することによって真空槽110の内部全体を高い真空度を維持する必要性をなくし、実際に蒸着装置100を使用する際の真空排気の時間を短縮するためである。
【0041】
基板10のうち上記の一方の面10Fからみて背面となる面の側には、ヒーター150が配置される。ヒーター150は、展開された部分10Uのうち開口116Aに曝される部分を背面から加熱することができる。基板10を、それ自体および下地構造物に悪影響のない温度範囲においてヒーター150によって加熱することにより、例えば、蒸着される金属層の密着性や膜質を調整することが可能となる。
【0042】
[処理動作]
次に蒸着装置100における処理動作を説明する。蒸着装置100において基板10の展開された部分10Uが基板給送機構120により長手方向に送られる。蒸着源130からは、薄膜を形成する蒸着材料が基板10の一方の面10Fに向かって放出される。メタルマスク12は、展開された部分12Uが、基板10と蒸着源130との間の空間を仕切るように渡されている。そして、そのメタルマスク12は、基板10から離間した状態を保って、メタルマスク12の長手方向にマスク移動機構140によって送られる。以上が蒸着装置100の動作の概要である。
【0043】
図2は、このような蒸着装置100の動作における基板10およびメタルマスク12のスピードの時間変化を示すタイミングチャートである。以下、蒸着装置100の動作の様子を、基板10が送られるスピードとメタルマスク12が送られるスピードとの時系列の変化に基づいて説明する。蒸着装置100を動作させるためには、典型的には、蒸着処理の進行、基板10の送り、およびメタルマスク12の送りの動作に関していくつかの具体的な形態(以下「動作形態」という)を採用することができる。その動作形態を説明するために、図2においては、時間を横軸にとり、縦軸には基板10が送られるスピードとメタルマスク12が送られるスピードを記載している。以下、蒸着装置100の典型的な動作を動作形態に分けて説明する。蒸着装置100動作形態は、蒸着処理の進行中の期間において、基板10が給送されているか静止されているかの観点と、メタルマスクが移動されているか静止されているかの観点に基づく組み合わせによって4つに区分される。
【0044】
[第1の動作形態:基板とメタルマスクマスクを連続して送る動作]
蒸着装置100を動作させる第1の動作形態を基板10とメタルマスク12のスピードの時系列変化によって図2(a)に示す。図2(a)に示すように、第1の動作形態は、基板10が一定のスピードにより送られ、かつ、メタルマスク12も一定のスピードにより送られるように蒸着装置100が動作するものである。この場合には、蒸着処理中に、基板10とメタルマスク12はいずれも蒸着源130に対して移動してゆく。
【0045】
[第2の動作形態:基板を連続して送りメタルマスクをステップ移動する動作]
蒸着装置100を動作させる第2の動作形態を図2(b)に示す。この第2の動作形態においても基板10が一定のスピードにより送られる。しかし、第2の動作形態におけるメタルマスク12はステップ移動される。すなわち、メタルマスク12は、上述した第1の動作形態とは異なり、蒸着処理の進行中においては静止されている。なお、ステップ移動は、メタルマスクを一定時間静止させた後、一定距離だけメタルマスクを送る動作を繰りかえす動作である。
【0046】
さらに、この第2の動作態様においては、典型的には、蒸着処理も間欠的に行われる。その蒸着処理が実行されている期間を蒸着処理1、蒸着処理2、・・・蒸着処理M(Mは整数)と記載して区別することとする。図2(b)に示したように、蒸着処理j(jは1以上M未満の整数)の期間と蒸着処理j+1との各期間において、基板10が一定のスピードにより送られる。蒸着処理jは、その期間において継続して蒸着処理が行われている単位蒸着処理となる。なお、図2においては、「蒸着j」等と略記している。その蒸着処理jの間、メタルマスク12は静止されていて、スピードは0となっている。そして、蒸着処理jが終了し、蒸着処理j+1が開始されるまでの期間(蒸着処理を一時中断する休止期間)には、メタルマスク12はマスク移動機構140によってある距離(マスク送り量)だけ送られる。マスク送り量の典型例は、例えば、メタルマスク12の長手方向における差し渡しの開口116Aの長さである。そのような距離をマスク送り量とすれば、展開された部分12Uのうち蒸着処理jにおいて露出された部分(露出幅)が、次の蒸着処理j+1においては開口116Aに露出しない。
【0047】
留意すべき点として、上述したマスク送り量は、メタルマスク12の長手方向における開口116Aの差し渡しの長さの半分程度としうることが挙げられる。同様に留意すべき点として、蒸着処理1〜蒸着処理Mの各蒸着処理の期間に挟まれるすべての休止期間において、メタルマスク12を送ることが必須でないことも挙げられる。これらのメタルマスク12のマスク送り量や送るタイミングは、メタルマスク12を送る目的に合わせて適宜に決定される。つまり、メタルマスク12を送る目的は、メタルマスク12のうちのマスク蒸着に使用される部分における堆積物の付着量を許容される範囲に維持することにある。そのため、この目的を達成しうる限度においてマスク送り量を増減すること、または、送りのタイミングを調整することは本実施形態の範囲に含まれる。例えば、メタルマスク12を静止したまま複数回の蒸着処理が施され、ある所定の条件が満たされた場合にメタルマスク12を移動させるようにする、つまり、基板の展開された部分10Uを送る工程とメタルマスクの展開された部分12Uを送る工程との実行回数の比率を複数回対一回とすることが考えられる。そのような所定の条件の例としては、基板10に施す蒸着処理が所定の回数経過したこと、ある蒸着処理時間だけ処理が継続されたこと、ある所定の距離だけ基板10が給送されたこと、が挙げられる。
【0048】
なお、第2の動作形態の蒸着処理の休止期間中において基板10の給送を継続するか停止するかは任意に選択される。基板10には長手方向の部分をみた場合に、蒸着を必要としない領域または蒸着される金属層が薄くても良い領域を設けることが可能である。そのような領域が開口116Aに面して配置されるタイミングであれば、蒸着処理は休止しても何ら影響がない。したがって、基板10を送り続けてそのようなタイミングになったときに蒸着処理を休止してメタルマスク12を送る、という動作も第2の動作形態の一態様である。
【0049】
[第3の動作形態:基板をステップ給送しメタルマスクを連続して送る動作]
蒸着装置100を動作させる第3の動作形態を図2(c)に示す。この第3の動作形態においては、第1の動作形態と同様にメタルマスク12は一定のスピードにより送られる。しかし、上述した第1の動作形態とは異なり、第3の動作形態における基板10はステップ給送される。この第3の動作態様の蒸着処理も、第2の動作形態と同様に、典型的には間欠的に行われる。なお、ステップ給送は、基板を一定時間静止させた後、一定距離だけ基板を送る動作を繰りかえす動作である。
【0050】
図2(c)に示したように、第3の動作形態においても、蒸着処理が実行されている各期間を蒸着処理jのように記載して区別すると、蒸着処理jと蒸着処理j+1との各期間において、基板10は静止されてスピードが0となっているのに対し、メタルマスク12は一定のスピードにより送られる。すなわち、蒸着処理の休止期間に、基板10が基板給送機構120によって送られる。この送り量(基板送り量)は、典型的には、基板10の展開された部分10Uのうち蒸着処理jにおいて開口116Aに露出された部分(露出幅)が、蒸着処理j+1においては開口116Aに再び露出しない程度の距離とする。これ以外にも、開口116Aに露出したメタルマスク12の部分の長さ、あるいは、基板10に一定のピッチで蒸着処理の単位領域を並べるようにする場合にはそのピッチ、といった基板送り量を採用することも可能である。この基板送り量は、基板10にマスク蒸着によってパターン成膜を行う目的を達成しうる範囲において適宜に決定される。なお、蒸着処理の休止期間中において、メタルマスク12の送りを継続するか停止するかは任意に選択される。
【0051】
[第4の動作形態:基板とメタルマスクをともにステップにて送る動作]
蒸着装置100を動作させる第4の動作形態を図2(d)に示す。この第4の動作形態においては、基板10もメタルマスク12もステップ的に送られる。また、蒸着処理も、第2および第3の動作形態と同様に典型的には間欠的に行われる。
【0052】
図2(d)に示したように、第4の動作形態においては、蒸着処理jと蒸着処理j+1との各期間において、基板10とメタルマスク12はともに静止されてスピードが0となっている。そして、蒸着処理の休止期間には、基板10は基板給送機構120によって送られ、メタルマスク12はマスク移動機構140によって送られる。この際の基板送り量およびマスク送り量は、上述した第2および第3の動作形態と同様に、典型的には、例えば、それぞれのうち開口116Aに露出された部分(露出幅)が、蒸着処理j+1においては露出されない程度の距離とする。これらの送り量が適宜調整されることも第2および第3の動作態様と同様である。メタルマスクの送りのタイミングが適宜決定されることについても、第2の動作形態の場合と同様に第4の動作形態においても留意されるべきである。
【0053】
[第2〜第4の動作形態における間欠的な蒸着処理]
ここで、第2〜第4の動作形態として記載した間欠的な蒸着処理においては、ある単位蒸着処理と、次の単位蒸着処理との間には明確な休止期間が設けられている。各単位蒸着処理中には継続して蒸着処理が行われている。このような間欠的な蒸着処理を実施するためには、蒸着処理の開始や休止といった制御を可能な限り正確に行える手法を採用することが好ましい。このため、蒸着装置100には、蒸着源130とメタルマスク12との間の空間、または、蒸着源130と基板10との間の空間を仕切るように蒸着材料を遮るシャッター152を配置するのが好ましい。このシャッター152は、蒸着処理の実行中には開かれ、蒸着処理の休止中には閉じられるように動作する。図1にはその開かれた状態でのシャッター152の配置を示し、閉じた状態でのシャッター152の配置を仮想線(二点鎖線)により明示している。
【0054】
[基板とメタルマスクの送りのスピード]
上述した第1〜第4の各動作態様においては、基板10とメタルマスク12のいずれもが、一定速度によってまたはステップ的に送られる。このとき、好ましくは、マスク移動機構140によって送られるメタルマスク12の平均の移動スピードが、基板給送機構120によって送られる基板10の平均の給送スピードよりも遅くされる。ここで平均スピードとは、一定速度によって送られる場合はそのスピードをいい、ステップ的に送られる場合には、送り量の距離をステップの繰り返し周期の時間によって除した値として規定することができる。これ以外にも、例えばロール状の基板のロールのうち、エンドロール(蒸着装置に搭載するために予備的に引き出されたり未処理のままとされる部分)の長さを除いた実質的な処理長さを、そのロールに対して蒸着処理を行うのに要する合計時間によって除した値を基板の平均の送りスピードとしてもよい。これらの点はメタルマスク12に対しても同様である。メタルマスク12の平均の移動スピードを基板10の平均の給送スピードよりも遅くすることによって、継続して行われる蒸着処理に利用されるメタルマスク12の長さを、同じ時間において処理される基板10の長さよりも短くすることが可能となり、量産上の大きな利点が得られる。メタルマスク12の全長をロール状の基板10の全長よりも短くした場合であっても、蒸着装置100を停止させずにロール1巻分の基板10の処理を行うことが可能となるためである。
【0055】
[メタルマスクのパターン]
次に、図3および図4を参照して、蒸着装置100に用いられるメタルマスク12のパターンの詳細について説明する。図3は、メタルマスク12の構成を示す構成図である。具体的には、図3には、ストライプパターンすなわちライン状の開口が複数設けられているパターンのメタルマスク12を示している。図3(a)はこのメタルマスク200のうちの一部を取り出した平面図である。メタルマスク12は、例えばSUS等の適当な材質の可撓性の帯状の金属板22から作製される。その金属板22には、メタルマスク12の長手方向に延びる微細な開口26によるパターンが形成されている。図3(b)には、メタルマスク12の中央部分24の拡大図が示されている。メタルマスク12には、開口26としてスリット状の開口部が形成されている。このようなメタルマスク12が基板10の一方の面10Fの側に配置されて蒸着処理が実行されることにより、ライン状の金属層がその一方の面10Fの上にパターニングして形成される。
【0056】
さらに、蒸着装置100に用いるメタルマスク12においては、図3(b)に示したメタルマスク12の開口パターンを他のパターンにするような変形も可能である。図4には、上述のメタルマスク12に代えて採用しうる他のパターンのメタルマスク12A〜12Cの構成を示す。図4(a)に中央部分24Aの拡大図を示すメタルマスク12Aは、スリット状の開口26Aに直交する向きに延びる開口28が、各開口26Aの間の膜または板に設けられているようなマスクである。このような少なくとも二つの方向に延びるライン部を有するようなパターンを用いることも本実施形態として採用することができる。ここで、例えば図4(a)に示した構成では、開口26Aと開口28とがつながっていない。このようにする理由は一つには、メタルマスクによって形成可能なパターンがメタルマスク自体の板または膜が島状に独立した遮蔽部を形成できないという事情があるためである。もう一つには、そのようなパターンとされて必ずしも金属層が互いに連続するように形成されていなくとも、透明電極層の見かけ上のシート抵抗が十分に低減されて光電変換効率を向上させる効果が得られるためでもある。
【0057】
図4(a)に示したメタルマスク12Aでは、例えば開口26Aの開口幅を開口28の開口幅と異ならせることによって、開口26Aによって形成されるライン部の線幅を広く、開口28によって形成されるライン部の線幅を狭くすることも可能である。このようにライン部の線幅を方向によって異ならせることによって、幅の広い主ライン部と幅の狭い副ライン部とを形成することも好ましい。前述のようなライン部を構成することによって数の多いラインを小さい線幅で形成することになるため、光電変換効率への影響を抑制しつつ、電気抵抗を効果的に低減することが可能となる。
【0058】
また、図4(b)に中央部分24Bの拡大図として示すメタルマスク12Bは、スリット状の開口26Bが延びる方向において互いに分離されている。このように分離された開口26Bを用いる場合には、その開口が分離された部分、すなわちメタルマスク12Bの膜自体がつながっている部分30に対応する領域には金属層は形成されず、金属層のパターンは互いに分離されたパターンとなる。この場合にも、開口を形成するためのメタルマスク12Bをより簡易に作製することができる。さらには、この延びる方向において互いに分離されたパターンの金属層を用いても透明電極層の見かけ上のシート抵抗が低減される効果は十分に得られる。したがって、このようなメタルマスク12Bも本実施形態の蒸着装置100のために用いることができる。
【0059】
加えて、図4(c)に中央部分24Cの拡大図として示すメタルマスク12Cは、スリット状の開口26Cも、開口26Cに直交するように延びる開口28Cもともにそれぞれが延びる方向において分離されている。このように分離された開口26Cおよび28Cを用いるような構成は、図4(a)示したメタルマスク12Aの構成と図4(b)に示したメタルマスク12Bの構成の特徴を兼ね備えるものであり、このようなメタルマスク12Cも本実施形態の蒸着装置100のために用いることができる。
【0060】
本実施形態の蒸着装置100のために利用されるメタルマスク12、12A〜12Cには、種々のマスクを採用することができる。その材質を例示すれば、各種ステンレス鋼(SUS)、36%Ni−Fe(インバー鋼)、42%Ni−Fe(DF−42)などが挙げられる。これらのうちから最も好ましいものを選択するなら、上述のインバー鋼が選択される。これは、インバー鋼が低膨張金属であるためである。ただし、本実施形態の蒸着装置100においてはSUS製マスクを採用しても十分に目的を達することができる。その理由は、SUS製マスクであっても、10μm程度より細い高精細な開口部を形成することが可能であり局所的な寸法精度に問題は生じにくいためである。加えて、本実施形態の蒸着装置100において形成される金属層のパターンとして主に想定されているものが、位置合わせのために必要な精度が高くないものであることもこのようなマスクの材質の選択に影響している。一般に、基板の全幅にわたるような長距離にわたる寸法精度が要求されるのは、形成されるパターンを基板の何らかの構造物に対して精度良く位置合わせする必要がある場合といえる。本実施形態の蒸着装置100においてそのような長距離の寸法精度を担保する必要がなければ、各種の層の形成時の熱の影響を考慮して低膨張金属のマスクを採用する必然性は高くはない。なお、メタルマスクの厚みは、10〜50μm程度から選択される。その厚みを厚くするとロール状にすることが難しくなり、開口の幅も高精細なものとしにくくなる。一例としては、開口の幅は、ほぼ、メタルマスクの厚み程度が下限となる。
【0061】
[蒸着装置の動作形態とパターンとの関係]
次に、上述した蒸着装置100の第1〜第4の動作形態それぞれに適するマスクパターンについて説明する。第1の動作形態すなわち基板10とメタルマスク12のいずれもが連続して送られている動作に対しては、典型的には、図3のメタルマスク12と、図4(b)に示したパターンのメタルマスク12Bとが適する。メタルマスク12は、開口26がメタルマスク12の長手方向に延びている。この方向は、図1に示したように基板10の長手方向でもある。このメタルマスク12を用いる場合には、蒸着処理中に基板10とメタルマスク12との間にスピード差が生じる場合となることもある。このような場合であっても、基板10とメタルマスク12との差によって生じる相対速度のベクトルの方向と開口26の延びる方向とが一致しているために、形成されるパターンには大きな不具合は生じない。ちなみに、図4(b)のメタルマスク12Bでは、つながった部分30が存在する。このような領域が存在しても、形成されるパターンがライン状に形成されるため、特段問題はない。
【0062】
第1の動作形態においては、基板10とメタルマスク12が送られる給送または移動における幅方向のシフト幅が小さくなるように、すなわち、給送または移動のために基板が基準となる直線から逸脱して変位する変位量が小さくなるように、基板給送機構120およびマスク移動機構140を構成するのが好ましい。このように構成して、例えば、その変位量がメタルマスク12の開口26の幅に比べて十分に小さければ、基板10およびメタルマスク12を送りながらマスク蒸着を実行することが可能となり、高い生産効率が達成される。
【0063】
第2の動作形態と第3の動作形態に対して適するメタルマスクは、典型的には図3のメタルマスク12と図4(b)に示したメタルマスク12Bであり、第1の動作形態の場合と共通している。これは、基板10が一定速度で送られ、メタルマスク12がステップ移動される動作(第2の動作形態)も、基板10がステップ給送され、メタルマスク12が一定速度で送られる動作(第3の動作形態)も、メタルマスク12と基板10とが互いに対して動いている状態で蒸着される点において第1の動作形態と共通しているためである。したがって、第2の動作形態と第3の動作形態に対して適するメタルマスクは、例えば、第1の動作形態の場合と同様にメタルマスク12(図3)および図4(b)のメタルマスク12Bである。
【0064】
第1〜第3の動作形態とは異なり、第4の動作形態、すなわち基板10とメタルマスク12とのいずれもがステップ的に送られる動作には、より多くのパターンが適する。具体例を挙げると、図3および図4に明示したすべてのメタルマスクのパターンが第4の動作形態に対して適することとなる。というのも、蒸着処理の段階において基板10とメタルマスクが互いに対して静止しているため、例えば、基板の長手方向に対して0でない角度をなすようにして延びるライン状の開口のパターンも何ら問題なく形成されるためである。
【0065】
<第1実施形態の変形例>
以上の第1実施形態は、その利点を維持したまま様々に変形することができる。代表的な変形例として、変形例1〜変形例4について以下に説明する
【0066】
<変形例1>
図5は、メタルマスクを送る向きと基板の送る向きを交差させた変形例の蒸着装置100Aの一部の構成を示す概略斜視図である。この図5には、メタルマスク12Dと基板10との位置関係が示されている。ここに示す以外の蒸着装置100Aの構成は、図1に示した蒸着装置100の構成と同様である。
【0067】
蒸着装置100Aにおいては、メタルマスク12Dは基板10とある角度で交差しており、メタルマスク巻出しロール(図示しない)からガイドロール148によってガイドされてからメタルマスク巻き取りロール144Aに巻取られる。このメタルマスク12Dにも蒸着装置100(図1)の場合と同様に長手方向に張力が印加されている。この交差の角度は、例えば90°とされ、図5には90°の角度における構成を示している。
【0068】
このような構成の蒸着装置100Aを用いる場合であっても、マスク蒸着によって基板10上にパターンを形成しながら薄膜を形成することが可能となる。このような場合に用いられるメタルマスク12Dのパターンは、典型的には、図5に示したように基板10の長手方向に延びるライン状の開口28Dを複数有するようなパターンとする。このような開口が形成されているメタルマスク12Dを蒸着装置100Aに採用すると、蒸着装置100の動作形態として上述した第2および第4の動作形態によって動作することが可能となる。つまり、蒸着処理中にメタルマスク12Dが静止していれば、基板10が一定速度で送られているとき(第2の動作形態)にも、あるいは基板10が静止しているとき(第4の動作形態)にも、いずれの場合であっても開口28Dによるパターンが良好に形成される。加えて、蒸着装置100Aのような構成では、蒸着装置100との対比において全く別の実用上の利点も生まれる。蒸着装置100Aの構成では採用される基板10の幅とメタルマスク12Dの幅とを独立して選択することが可能となるので、基板10やマスク12Dの選択肢が広がる。その一例を挙げると、基板10よりも幅狭のメタルマスク12Dを用いて幅広の基板10へのパターン成膜を行うことが可能となる。このためには、開口116A(図5)の形状を、基板10の長手方向における差し渡しの長さL1を幅狭のメタルマスク12Dの有効幅に合わせ、基板10の幅方向における差し渡しの長さL2を幅広の基板10の有効幅に合わせるようにすると好ましい。
【0069】
蒸着装置100Aに用いることができるメタルマスクは図5に示したメタルマスク12Dばかりではない。図3に示したメタルマスク12、すなわちメタルマスクの長手方向に延びるライン状の開口26を複数有するメタルマスクを用いることも可能である。このようなメタルマスクを用いる場合には、蒸着装置100に関連して説明した動作形態のうち、第3および第4の動作形態によって蒸着装置100Aを動作させることが可能となる。第3および第4の動作形態においては蒸着処理の実行中に基板10が静止しているためである。このため第3および第4の動作形態においては、メタルマスクが静止している場合のみならず、一定速度で送られている場合であっても、メタルマスクの長手方向に延びるようなライン状の開口(例えば開口26、図3)によるパターンが良好に形成される。
【0070】
<変形例2>
蒸着装置100(図1)や蒸着装置100A(図5)において、メタルマスク12および12Dには、そのメタルマスク自体にとっての長手方向に張力が印加されている。形成されるパターン精度を一層向上させるための手法として、さらにメタルマスクには幅方向の張力すなわち拡幅力を印加することが好ましい。これは、ロール状にされるようなメタルマスクでは張力によって形状が安定し、拡幅力を付与されたメタルマスクを基板により近接させることが可能になるためである。
【0071】
このような拡幅力をメタルマスク12に付与するためには、種々の手段を用いることが可能である。最も典型的には、ガイドロール146または148(図5において、146Aまたは148A)を逆クラウン形状のロールまたはローラとする。逆クラウン形状のロールは、中凹形状のクラウンのロール、またはコンケイブ・ローラとも呼ばれる。この逆クラウン形状のロールは、概して円筒状の外周面となっているロールにおいて、その軸方向中央における直径が、軸方向の両端部付近の直径よりも小さくなっているようなロールである。その逆クラウン形状のロールをガイドロール146および148(146Aおよび148A)のいずれか一方または両方として採用すると、メタルマスク12には幅方向の張力も生じる。このような構成によって、メタルマスクには幅方向の張力を簡易に印加することが可能となるため、逆クラウンロールは、拡幅力生成手段となる。なお、ガイドロール146または148(146Aまたは148A)に用いる逆クラウン形状を極端な形状すなわち直径の差が大きい形状にすると、メタルマスク12と基板10との間のギャップの均一性に問題が生じかねない。このため、その逆クラウン形状の具体的な形状は、印加する張力とギャップの一様性とが勘案されて決定される。なお、逆クラウン形状のロール以外には、例えば湾曲したロールを用いることによってメタルマスク12に拡幅力を作用させることも可能である。
【0072】
<変形例3>
次に、変形例3として、蒸着源の好ましい配置について説明する。図6は、基板10とメタルマスク12を蒸着源130の直上の位置において、基板10およびマスク12の進行方向を法線とする面によって切断した蒸着装置100の概略断面図であり、基板10、マスク12、および蒸着源130の位置関係を示している。蒸着装置100において形成されるパターンにおいては、形成されるパターンの絶対的な寸法や基板10の全幅といった長距離にわたる寸法には高い精度は要求されず、むしろ、パターンのエッジがシャープなものであることに対する要求が高い。というのは、例えば太陽電池の前面透明電極の電気抵抗を金属の細線パターンによって実質的に低下させる目的の下では特段の位置合わせは必要なく、より求められるのが、金属層が形成される領域が、光の透過領域にまで広がらないことだからである。
【0073】
そこで、このような要求に対応する蒸着源130の配置について説明する。本実施形態の蒸着装置100において精度の高いパターニングが実現するためには、蒸着源130を基板10からある程度離れた位置に置くことが好ましい。これは、蒸着源130の大きさを小さくすることによってパターンのエッジがシャープになるのと同一の原理に基づく。そこで、この蒸着源130の位置関係をより具体的に規定するため、蒸着が施される面(基板の一方の面10F)からみた角度に着目して説明する。本実施形態においては、好ましくは、図6に示したように、金属層41が被着される一方の面10Fからみて、蒸着源130おいて蒸着原料が放出される範囲がなす角度δを、メタルマスク12の開口26のなす角度θよりも小さくなるような角度とする。このような関係を満たすように蒸着源130を配置すると、パターンのエッジが十分にシャープになる。
【0074】
ここで、メタルマスク12の開口の張る角度θは、メタルマスク12が基板10から離間されているため、ギャップGにも依存する。一方、蒸着源130が張る角度δは、蒸着源130と基板10との距離ばかりではなく蒸着源130の広がりにも依存する。つまりより一般には、上に規定した角度θと角度δの間の関係は、蒸着源130の配置や広がりのみならず、ギャップG、開口のサイズ、マスクの厚みにも依存する。このような性質から、上記の角度の関係は一般にこれらの各要素の間の配置や形状を規定するものといえる。さらにより実際的な面からは、基板10やマスク12の各種の誤差やばらつき、移動に伴う変動まで考慮されて、ある程度の余裕を見て上記の角度の関係を満たすように蒸着源130の構成やその配置が決定される。
【0075】
<変形例4>
次に、図7を参照して、温調ロールを備える実施形態の変形例の蒸着装置100Bについて説明する。図7は、蒸着装置100Bの構成を示す概略断面図である。蒸着装置100Bは、蒸着装置100(図1)のヒーター150に相当する位置において温調ロール150Aを備えている。温調ロール150Aは、その位置において図面上の上方に向く基板10の面(背面)に接している。この温調ロール150Aは、接している基板10の温度を伝導によって制御するためのものである。この制御のために温調ロール150Aには、図示しない温度制御機構が備えられている。図1の蒸着装置100と比較すればわかるように、図7に示した蒸着100Bにおいては、基板巻出しロール122および基板搬送ロール124と基板巻き取りロール128および基板搬送ロール126との配置が図の上方にシフトされている。これは、基板10の背面(上面)を温調ロール150Aの外周面に密着する範囲を広げて温度制御をより確実とするためである。
【0076】
蒸着装置100Bにおいて、蒸着室114と基板室112とを隔てる隔壁116Bには、開口116Cが設けられる。この開口116Cの大きさは、基板10の背面が温調ロール150Aに密着している範囲に応じて設定されている。こうして基板10は、一方の面10Fのうち開口116Cによって蒸着源130に曝されている部分を対象にして、メタルマスク12を通した蒸着処理が施される。
【0077】
このような構成の蒸着装置100Bを用いる利点は、一つには、基板10の温度の制御を、蒸着装置100におけるヒーター150の場合に比べてより直接的に行えることである。このため、例えば基板10を加熱する場合に、制御される温度の精度や基板内での均一性が高まる。蒸着処理される薄膜についても、その膜質や一様性を均質に管理することが可能となる。蒸着装置100Bのもう一つの利点は、基板10を冷却することが可能となることである。例えば、基板10の耐熱温度を上回りかねない条件によって蒸着処理を行う場合を考える。このような場合に温調ロール150Aによって基板10を冷却することが可能であれば、基板10の温度を、基板10または基板10上の下地構造物に対して悪影響が生じない範囲の温度に制御して成膜処理を行うこと可能となる。このように、温調ロール150Aを用いることにより基板10の温度がより精密に制御され、基板10の材質の選択肢が広がり、さらに蒸着処理の条件の選択幅も広がる。
【0078】
<第2実施形態>
次に、上述した第1実施形態の蒸着装置を用いて薄膜太陽電池を作製する第2実施形態について説明する。
【0079】
図8は、本実施形態の薄膜太陽電池の構成を示す平面図(図8(a))および拡大平面図(図8(b))である。また、図9は、本実施形態の薄膜太陽電池の構成を示す概略断面図である。加えて、図10は、本実施形態において薄膜太陽電池を製造する工程を説明する工程フロー図である。
【0080】
本実施形態においては、SCAF(Series Connection through Apertures formed on Film)構造の集積型の薄膜太陽電池300が作製される。薄膜太陽電池300には、その使用時のため、例えば耐候性を確実にするために付加的な部材(封止部材など)も適宜付加される。これらの付加的な部材については、本実施形態を明確に説明するために記載および図示が省略されている。
【0081】
図8(a)に示すように、SCAF構造の薄膜太陽電池300においては、電気絶縁性の基板35を貫通して開口させるように集電孔31と接続孔32が形成されている。その基板35の一方の面(第1面)には、単位光電変換部320、320、・・・320の列が設けられている。これらの単位変換部320、320、・・・320は、光を電気に変換する光電変換層が分離線33によって区切られたものである。こうして単位変換部320、320、・・・320それぞれは互いに電気的に分離されている。基板のもう一方の面(第2面)に配置される接続配線層も、分離線34によって単位接続配線部340、340、・・・340の列となるように各単位へと区切られている。以下、単位光電変換部や単位接続配線部に用いる符号については、総称する際には添え字を略した符号により示し、これらの個別のものを指す場合には添え字を付して示す。基板35の第1面と第2面は、基板35の厚みをなす両面からそれぞれ選択される。ここでは、基板の両面のうち、光電変換層が配置または形成される面を第1面としている。また、薄膜太陽電池300を説明する各図面において、断面を記載する各図面においては上方に向く面が第1面として描かれ、平面を記載する各図面においては紙面が第1面となるように描かれている。
【0082】
薄膜太陽電池300においては、図8(b)に示すように、分離線33と分離線34とは同様のものが複数繰り返して一方向に並んでいる。ただしその並びをみると、分離線33と分離線34は、基板の各面において互いの位置が異なるようにずらされている。こうして、単位光電変換部320をなす区切りの位置と単位接続配線部340をなす区切りの位置とが互い違いになるようにされている。単位接続配線部340は、一つひとつの単位接続配線部すなわち単位接続配線部340をみると、基板の第1面にて隣り合う二つの単位光電変換部320および320i+1に電気的に接続可能な領域に対して基板35を介して重なるようになっている。
【0083】
図9は、図8(b)の拡大平面図においてA−A’部における断面図(図9(a))とB−B’部における断面図(図9(b))である。基板35に開口として形成される集電孔31および接続孔32は、その基板35を貫通するようになっていて、この集電孔31および接続孔32を通じて第1の面の単位光電変換部のそれぞれが直列接続されるように構成されている。すなわち、例えば、薄膜太陽電池300の中央部をみると、分離線34、34によって区切られている単位接続配線部340は、その単位接続配線部340と重なる一方の単位光電変換部320の前面透明電極層39に対して、集電孔31を通じて接続されている。さらに単位接続配線部340は、その同じ単位接続配線部と重なるもう一方の単位光電変換部320i+1の裏面電極層36に対しても接続孔32を通じて接続されている。この接続構成が繰り返されることによって、第2面の単位接続配線部340、340、・・・340のそれぞれを配線として、第1の面における単位光電変換部320、320、・・・320がその並びの順に直列接続されている。
【0084】
単位光電変換部320は、光電変換層が分離線33、33によって区切られたものである。ここで、接続孔32が設けられる両端部以外は、裏面電極層36とnip接合構造を含む半導体層38と前面透明電極層39とが、基板35の第1面の上にこの順に備えて光電変換層が構成されている。一方、接続孔32が設けられる両端部には、前面透明電極層39が形成されていない(図9(a)の接続孔32付近参照)。このため、接続孔32が設けられる両端部においては、露出された半導体層38と、その基板側の裏面電極層36とが接続孔32にまで延びている。
【0085】
本実施形態の薄膜太陽電池300においては、前面透明電極層39の上すなわち前面側の面の上には、半導体層38への光を透過させる光透過領域が設けられたパターンをなす金属層41がさらに備えられている。図8(b)に示すように、この金属層41のパターンは、薄膜太陽電池300においては分離線33に直交する向きに延びて金属層41に覆われているライン部と、各ライン部の間に設けられ、金属層41に覆われていないスペース部とを有している。この金属層41が配置されないスペース部は光の通過領域となる。薄膜太陽電池300の金属層41をこのようなパターンをなすようにして配置するためには、上述した第1実施形態のマスク蒸着法が用いられる。
【0086】
次に、このような構造の薄膜太陽電池300を作製する工程について、図10を参照して説明する。まず、薄膜太陽電池300を作製する基板としては、絶縁性の基板35(以下、「基板35」という)が採用される。具体的には、例えばポリイミドフィルムが用いられる。他に採用することができる基板の材質の例としては、PET、PEN、PES、アクリル、アラミド等の絶縁性プラスチックフィルムを挙げることができる。
【0087】
基板35にはまず、接続孔32のための開口が形成される。このために打ち抜き金型(パンチ)によって基板35の所定の位置に開口が設けられる(接続孔形成工程S102)。次いで、減圧下において加熱することにより、基板35の材質のポリイミドフィルムから放出されるガスを除去する脱ガス処理S104が行われる。なお、この脱ガス処理S104は、接続孔形成工程S102の前後いずれかもしくは両方において実施してもかまわない。
【0088】
その後、基板35の一方の面(第1面)に裏面電極層36が形成され(裏面電極層形成工程S106)、次いで、基板35の面のもう一方の面(第2面)に第1接続配線層37が形成される(第1接続配線層形成工程S108)。裏面電極層36は、例えば銀(Ag)を膜厚200nmとなるようにスパッタリング法によって形成される。第1接続配線層37の材質は、裏面電極層36と同じくAgが採用される。これら裏面電極層36および第1接続配線層37の材料としては、これら以外にAg合金、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、チタニウム(Ti)等の金属を用いることができる。裏面電極層36には、金属層と透明電極層との多層構造からなる膜などを用いることもできる。これら裏面電極層36および第1接続配線層37を形成する際の成膜法としては、スパッタリング法に限らず、真空蒸着法やスプレー成膜法、印刷法、塗布法、めっき法等の公知の手法を採用することもできる。
【0089】
裏面電極層形成工程S106と第1接続配線層形成工程S108とを終えると、基板35の第1面に形成した裏面電極層36と基板35の第2面に形成した第1接続配線層37とは接続孔32の内側壁付近において直接重なり、互いに電気的に接続される。
【0090】
第1接続配線層形成工程S108を終えると、接続孔2の場合とは別の打ち抜き金型を用いて基板35に集電孔31が形成される(集電孔形成工程S110)。この際には、基板35のみならず、その段階において基板5に形成されている裏面電極層36および第1接続配線層37も貫通するようにして集電孔1が形成される。さらに、基板35の第1面側には半導体層38が形成される(半導体層形成工程S112)。この半導体層38は、例えばアモルファスシリコンのn層、i層、およびp層を基板35側から配置するnip構造のシリコン(Si)層である。その形成のためには、例えば高周波容量結合プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法が用いられる。ここで、本実施形態において半導体層8を形成する際の成膜手法は特段限定されない。上記の高周波容量結合プラズマCVD法を用いること、さらには、そのための成膜装置として平行平板型のシャワーヘッド電極を放電電極とする装置を利用することは、本実施形態にて利用され得る好ましい成膜手法の例である。半導体層38の他の構成としては、微結晶Siをi層に用いた光電変換層としてもよいし、また、アモルファスSiのnip構造と微結晶Siのnip構造とを積層するような多接合型(タンデム型)の光電変換層としてもよい。n層およびp層の構成材料の別例としては、アモルファスSiOなどの合金を用いるように本実施形態を変形することも可能である。さらに各種の技術的改良を施すために、界面層やトンネル接合層としてSiOやアモルファスSi、微結晶Si層を追加することも可能である。
【0091】
本実施形態における半導体層38の形成の際には、蒸着処理の処理効率を高めるための他の工夫も有用である。例えば、基板35を連続搬送させながら連続成膜するロール・ツー・ロール方式は、本実施形態のための好ましい工程として採用することができる。これ以外にも、搬送モードと成膜モードとを繰りかえすように動作して、成膜モードにおいては基板を停止させた状態となるようにして蒸着処理を進める手法(ステッピングロール法)もまた本実施形態の好ましい工程として採用することができる。
【0092】
半導体層形成工程S112によって光電変換層が形成された後、さらに、前面透明電極層39として基板35の第1面の側に透明導電性材料を堆積させる(透明導電層形成工程S114)。この際、光電変換層の両側端部、すなわち、接続孔32が設けられる部分には、マスクを掛けて透明導電性材料を堆積させないようにする。結果として、この部分に半導体層38が露出する(図2(b))。上述の直列接続された単位光電変換部320を複数の列をなすように設ける場合(図示しない)にも、各列の間には、透明導電性材料を堆積させない。こうして、透明導電層39が接続孔32の領域に形成されないようにしておく。
【0093】
本実施形態の前面透明電極層39のための透明導電性材料には各種の透明導電性材料を用いることが可能であり、その材質は特に限定されない。この透明導電性材料は、典型的には、ITO、SnO、TiO、ZnO、IZO(In−ZnO、登録商標)などの金属酸化物の透明導電性材料のいずれかまたはその組み合わせ(積層体または混合物)が選択される。さらに、透明導電層形成工程S114の成膜方法としてはRFスパッタリング、DCスパッタリング、印刷法、塗布法なども採用することができる。
【0094】
次いで、基板35の第2面側の全面に、第2接続配線層40が形成される(第2接続配線層形成工程S116)。この第2接続配線層40としては、金属材料などの低抵抗の導電層が形成される。第2接続配線層形成工程S116を終えると、基板5の第1面に形成した前面透明電極層39と基板35の第2面に形成した第2接続配線層40とが集電孔31の内側壁付近において直接重なり、互いに電気的に接続される。なお、第2接続配線層10は基板35の第2面において第1接続配線層37にも接するように形成されるため、第2面におけるこれらの接続配線層は互いに接続されて電気的には一体化された接続配線層をなしている。
【0095】
第2接続配線層形成工程S116の後、基板35の第1面側の前面透明電極層39の面の上に、マスクを用いて所定のパターンが形成されるようにして、金属層41が形成される(金属層形成工程S118)。この金属層41の材質には、銀(Ag)などの金属材料を採用することができる。これ以外にも、Ag合金、Al、Cu、Ti等の金属材料を用いて多層構造からなる膜などを用いることもできる。ちなみに、金属層の材質の選択の際に考慮される要因は、蒸着が可能であること、太陽電池の製品(モジュール)に期待される使用期間の間に劣化が生じないこと等である。
【0096】
金属層形成工程S118において用いられるマスクは、図3に示したメタルマスク12である。このメタルマスク12のようなマスクを用いた金属層41として形成されるパターンは、各種のパターンとすることができる。このライン部の幅としては、例えば1mm以下とすることが望ましく、さらには、200μm以下とすることが好ましい。また、ライン部の幅の下限は、10μm以上であれば、上述のメタルマスク12によってパターンを形成することができるため好ましい。一方、各ライン部の繰り返しの周期(ピッチ)は、ライン部の幅を超え、10mm以下の値から選ばれる。なお、本実施形態においてはこの繰り返しのピッチは必ずしも一定のピッチであることが必須とされてはいない。しかしながら、一定したピッチによって等間隔に配列されるライン部は、金属層41のパターンとして典型的なものの一例である。
【0097】
金属層41がストライプパターンとされる場合に、ライン部のピッチp(図3(b))として望ましい値は、集電孔のピッチやそのサイズとの兼ね合いによって決定される。集電孔31に対して電流が流れることによって電気抵抗を低減させる趣旨に適う限り、そのピッチの値は種々の観点から設定される。例えば、図8のように、ある方向に一定した間隔をおいて並ぶように集電孔31が列をなして形成されているとする。そのような集電孔31の列に対して、その列の向きにライン部の並びをたどったライン部の繰り返しのピッチが集電孔1のピッチよりも小さいようなラインを用いることが好ましい。なお、図1とは異なり、集電孔の列とライン部の列とが平行でないときには、ライン部のピッチを集電孔の列の向きにたどるようにして規定するものとする。このような平行でない場合であっても、平行の場合と同様に、ライン部のピッチを集電孔のピッチよりも小さくするのが好ましい。前述のようなピッチの関係に構成すると、集電孔一つひとつに対して金属層41のライン部が一つ以上となる比率によって対応付けされるため、前面透明電極層39の電気抵抗を低減させる効果や、各集電孔の集電の際の抵抗値が、各集電孔に対して均一化される効果が得られる。より具体的な例を挙げれば、直径約1mmの集電孔1が5mmピッチにより並んで列をなしている場合において、図8(a)のように金属層11のライン部の並びがその列の向きに平行となっている場合には、ライン部の繰り返しのピッチは5mm以下とすることが好ましい。さらには、金属層が形成される所定のパターンが1mmのピッチとされることによって、集電孔のひとつに少なくとも一つ以上のラインが対応することになるため、さらに好ましい。
【0098】
上述の各種の技術要件が勘案されて選択される金属層41のパターンの典型例を一つあげるとすれば、集電孔が直径約1mmであり5mmピッチになるように配列されている場合には、金属層41を50μm幅のラインを1mmのピッチにて繰りかえすストライプパターンとする。
【0099】
集電孔と金属層41のライン部の並びとの関係については、上述のように、一つには、ライン部が集電孔31の周縁部につながるようにすることが好ましい。このように構成すると、集電孔31に対して前面透明電極層の電気抵抗を低減させる効果が得られるためである。それ以外にも、ライン部が集電孔31につながっていないような構成も好ましい構成である。というのは、金属層41に期待している機能が前面透明電極層の電気抵抗値(見かけ上のシート抵抗)を低減させることによって光電変換効率を改善することにあるためである。つまり、集電孔31に至る経路を金属層によって形成して電気抵抗の低い経路が確立されることはもちろん好ましいが、金属層41に期待しているのはむしろ、前面透明電極層のシート抵抗を低減させる効果である。ライン部が集電孔31につながっていない構成にはより積極的な理由もある。集電孔31に通じないようなライン部を設けることは、金属層41のライン部の位置合わせの位置ずれの許容範囲が広がることを意味する。このため、ライン部が集電孔31につながっている必要がないことは、金属層41を設けるという工程を追加しても薄膜太陽電池の製造歩留まりが低下しにくいという効果も奏する。
【0100】
このような金属層41のパターンを形成する際に考慮される技術的要因としては、一つには性能上の要因として前面透明電極層9のうち光電変換に寄与する面積に対する金属層41が被覆する面積の割合、すなわち被覆率が挙げられる。加えて、前面透明電極層39に対する電気抵抗の低減の効果も考慮される。被覆率が考慮されるのは、金属層によって光電変換層への到達する光の光量の減少が避けられないためである。この被覆率を小さくすると、光量が増加するものの、金属層41による電気抵抗の低減効果が限定される。その逆に被覆率を大きくすると、金属層41による電気抵抗の低減効果の観点では有利となるものの光量が減少する。これらを考慮すると、被覆率は10%以下にすることが好ましい。ここで、電気抵抗の低減効果は、金属層41の層厚にも依存する。電気抵抗の低減効果を高めるためには金属層41の層厚を増大させることも好ましい。これとは逆に、金属層41がごく薄い膜である場合には光が透過する点を考慮すれば、金属層41の層厚を減少させることも好ましい。
【0101】
金属層形成工程S118の後に、基板35の第1面側に分離線33によるパターニングが行われる(第1面パターニング工程S120)。このパターニングによって、半導体層38が裏面電極層39と同一の形状を有するようにされる。前面透明電極層39は、接続孔32の付近には形成されていないが、分離線33の付近は裏面電極と同じ位置において区切られる。その結果、分離線3に囲われる形状のうち端部の接続孔32の付近を除いた部分において、裏面電極層36、半導体層38(半導体層)、および前面透明電極層39が、この順に積層された単位光電変換部320が形成される。
【0102】
本実施形態の薄膜太陽電池300においては、この第1面パターニング工程S120によって、前面透明電極層39に加えて、前面透明電極層39に接するように形成されるパターン化された金属層41も同時に分離される(図2(b))。このため、基板35の第1面において隣接するように位置することになる二つの単位光電変換部320および320i+1は、金属層41が一旦は両者をつなぐように形成されたとしても、基板35の第1面の側において分離線33によって電気的に分離されている。
【0103】
単位光電変換部120を形成する工程をより確実に行うため、本実施形態で示した第1面パターニング工程S120に加えて予備的なパターニング処理を行うことも好ましい。この予備的なパターニング処理は、例えば、裏面電極層形成工程S106よりも後であって、半導体層形成工程S112よりも前となるいずれかの段階において実施される。この予備的なパターニング処理の際にも、裏面電極層36を区切るようにパターニングされるのは分離線33の位置とされる。
【0104】
最後に、基板35の第2面の側に対しても分離線34の位置にレーザー加工が施される(第2面パターニング処理S122)。この第2面パターニング処理S122においては、第2接続配線層40と第1接続配線層37とが同時に分離される。これにより、基板5の第2面に単位接続配線部340が形成される。この第2面パターニング処理S122においては、電力取り出し電極(図示しない)の電気的な分離すなわち個別化も行われ、基板35の周縁部に第1面の側の分離線と重なるようにレーザー加工により分離線が描かれる(いずれも図示しない)。このようにして、形成された第2面の分離線をみると、全ての薄膜太陽電池素子を一括して囲う周縁、および二列の直列接続太陽電池素子の隣接する境界(周縁導電部の内側)には分離線がある。分離線34を含めて分離線の中にはどの層も残らないようにされている。
【0105】
こうして、形成された単位光電変換部の直列接続の列において電気的な経路を図8(a)の紙面の左側から順に追ってみる。まず、図8(a)の左側の第1の単位光電変換部320(前面透明電極層39、半導体層38、裏面電極36)から、縦に並んだ集電孔31を通じて第1の単位接続配線部340に接続される。そして、第1の単位接続配線部340から接続孔32を通じて第2の単位光電変換部320に接続される。以下、この繰り返しによって、第Nの単位光電変換部320まで接続されて第Nの単位接続配線部340までつながっている。直列接続された単位光電変換層320全体からの出力を取り出すためには、例えば、第Nの単位接続配線部340が電力を取り出すための電極としても利用される。また、第1の単位光電変換部320の裏面電極36またはその裏面電極36に接続された配線部も電力を取り出すための電極として利用される。
【0106】
薄膜太陽電池モジュールの実用性を一層高めるために、封止材やバックシートなどが外装としてラミネートされる。この封止材やバックシートとしては、例えばEVA、PE、PET、ETFE、などの各種の樹脂材料が採用される。ここではこれらの材質は図示していない。
【0107】
金属層41は、前面透明電極層39の前面に配置している。このような配置であっても光電変換層に入射する光量が減少することによる発電量の低下の影響は抑制することができる。というのは、金属層41のライン部の線幅を極細にすることにより、そのようなライン部の陰となる部分に対しても光が回折して光が侵入する効果が期待できるためである。このような効果が得られる線幅は、例えば200μm以下、好ましくは100μm以下であれば十分な効果が期待できる。なお、金属層41によってライン部を形成する場合には、線幅には作製上の下限値をも考慮する必要がある。特に、マスクの開口を通して形成されるライン部には、マスクを形成することが可能な線幅によって線幅の下限値が決定される。その具体的な値は、マスクの製造技術が通常のものであれば10μm程度となる。
【0108】
また、金属層41の層厚についても、電気抵抗を低減させる効果はごく小さな層厚であっても達成される。具体的には、金属層41の層厚は、10nm以上1μm以下とすることが好ましく、さらに好ましくは、100nm以下とされる。特に100nm以下のようなごく薄い層厚であれば、金属層であっても金属層状に入射した光のうちには透過する光が生じる場合がある。このような透過光は光電変換層に入射するため、光電変換層に入射する光が減少することそれ自体による悪影響を緩和することができる。
【0109】
本実施形態に示した薄膜太陽電池300は、高精細にパターニングした金属層に電気伝導を分担させることによって、前面透明電極層の見かけのシート抵抗を低減させてその効果を発揮するものである。このため、金属層の局所的なパターンを高精細なパターンとするために高精細マスクが使用される。ここで留意されるべきは、このように金属層11を高精細にパターニングして形成することと、その形成の際に実行される位置合わせに必要な精度とは別であることである。なぜなら、本実施形態において実現される前面透明電極層の見かけ上のシート抵抗が低減される効果は、金属層の各ラインが精細に作製されていることにより達成されるからである。この際には、例えばそのような各ラインを他の特定の配線や他の要素に精密に位置合わせして配置することは必ずしも要しない。このため、前面透明電極層の見かけ上のシート抵抗を低減させるためには、金属層41の配置される領域全体が前面透明電極層の範囲に適合されている程度とすることができる。このように、パターニングされているμm単位での位置合わせが必要とされないことは薄膜太陽電池の製造上の大きな利点といえる。例えば、ロール状の基板を用いて生産効率を高めるような場合であっても、金属層の形成においてそれに見合った高い生産効率を目指してメタルマスクを移動させる第1の実施形態のような場合に、メタルマスクを精密に位置合わせする必要がないからである。
【0110】
以上に説明した薄膜太陽電池300によって太陽電池の性能が改善されるかどうかを確認するために、薄膜太陽電池300の実施例サンプルを作製した。その薄膜太陽電池100の実施例サンプルを比較例サンプルと比較した結果を以下に説明する。
【0111】
[実施例サンプル]
実施例サンプルとして、第3実施形態の薄膜太陽電池300の構成を有する薄膜太陽電池セルを作製した。作製した工程は図10に基づいて説明した通りである。また、具体的な条件は以下の通りとした。まず、基板35として厚さ50μmのポリイミドフィルムを用いた。接続孔形成工程S102にてパンチを用いて、接続孔32を開口させ、脱ガス処理S104として10Pa以下の減圧下で基板温度が350℃となるように加熱し基板のポリイミドフィルムの脱ガス処理を行った。裏面電極層形成工程S106の裏面電極層として、銀(Ag)を膜厚200nmになるようにスパッタリングにより形成した。この際の圧力は1Paとした。
【0112】
第1接続配線層形成工程S108として、基板35の第2面にAgを2Paの圧力でArガスのスパッタリング法により、第1接続配線層37を形成した。集電孔形成工程S110としては、パンチにより直径が1mm、ピッチが5mmとなるように集電孔31を多数形成した。
【0113】
次に、半導体層形成工程S112として単接合のアモルファスSi太陽電池をプラズマCVD法により半導体層38を形成した。半導体層38の各層の層厚は、n層20nm、i層300nm、p層20nmとした。この際、容量結合プラズマ法を用いて形成した。具体的には、プラズマCVD装置の放電電極として平行平板型のシャワーヘッド電極を用いて電極間距離20mmにおいて放電周波数を27.12MHzとして半導体層8を形成した。なお、半導体層38の形成時には、基板35を静止させた状態とした。
【0114】
さらに詳細な条件は以下のとおりである。まず、SiHガス、Hガス、およびPHガスの混合ガスを用いて、n型アモルファスSi層を形成した。このときの放電パワーは5W、成膜温度(基板の設定温度)は300℃とした。次に、SiHガスおよびHガスの混合ガスを用いて、i型アモルファスSi層を形成した。このときの放電パワーは20Wとし成膜温度を280℃とした。さらに、SiHガス、Hガス、およびBガスの混合ガスを用いて、p型アモルファスSi層を形成した。このときの放電パワーは5W、成膜温度160℃とした。
【0115】
その後、透明導電層形成工程S114として、作製したアモルファスSiからなるnip単接合構造の上に前面透明電極層39を基板35の第1面の側に形成した。この前面透明電極層39の透明導電性材料にはITOを採用した。その形成条件は、本実施例ではArガスによるRFスパッタリング法により処理中の圧力を0.7Paとし、その層厚を70nmとした。この際、接続孔32の付近をマスクすることにより、接続孔32に前面透明電極層39が形成されないようにした。
【0116】
次いで第2接続配線層形成工程S116として、第2面の全面に第2接続配線層40となるニッケル(Ni)層を形成した。ニッケル(Ni)層の形成は、2Paの圧力でArガスによるスパッタリング法により実施された。
【0117】
さらに、金属層形成工程S118として、前面透明電極層9(ITO層)の上に金属層41を形成した。この際、開口幅50μmの1mmピッチのスリットが形成されているSUS製メタルマスクを用いて、真空蒸着法で10nm厚にAg層を形成した。この真空蒸着法には、フラッシュ蒸着法を採用した。最後に、第1面パターニング工程S120と第2面パターニング処理S122とを行った。第1面パターニング工程S120のレーザー加工によって第1面の裏面電極36、半導体層38、および金属層41が所定の形状とされた。
【0118】
[従来例サンプル]
前面透明電極層(ITO層)の上に金属層の形成を行わない以外は実施例サンプルと同様にして比較例サンプルを作製した。
【0119】
上述の実施例サンプルおよび従来例サンプルの太陽電池セルをそれぞれ5セルずつ作製した。各セルを対象にしてソーラーシミュレータを用いて電流−電圧特性を測定し、太陽電池の光電変換効率(Eff)を求めた。光の照射条件は100mW/cmとした。その結果を表1に示す。
【表1】

【0120】
表1には、太陽電池セルサンプルそれぞれにおいて測定された実際の光電変換効率の測定値(単位:%)と、各サンプルの測定値から算出される実施例内および従来例内における光電変換効率の平均値とを示している。実施例サンプルおよび従来例サンプルともに測定値には多少のバラつきがみられるものの、本実施形態を実際に適用した実施例サンプルの光電変換効率の平均値は、従来例サンプルの場合に比べて0.28%向上した。このように、本実施形態の薄膜太陽電池300の構成を採用することによって太陽電池の光電変換効率(Eff)が向上した。
【0121】
このように比較例サンプルに対して実施例サンプルの光電変換効率(Eff)が向上したのは、その構成上の相異点である前面透明電極層の上に配置した金属層41の有無が影響しているためと本出願の発明者は判断している。つまり、実施例サンプルでは前面透明電極層を電荷が移動する距離(集電距離)が比較例サンプルに比して実質的に短くなっている。このため、前面透明電極層の抵抗成分による太陽電池特性の曲線因子(FF)の低下が生じにくくなって、光電変換効率(Eff)が向上している。さらに、本出願の発明者は、金属層41の付加によって生じる光量の減少は問題となっておらず、薄膜太陽電池セル全体としてみても光電変換効率が改善していると推測している。
【0122】
<第2実施形態:変形例>
以上の第2実施形態は、その利点を維持したまま様々に変形することができる。例えば、金属層が形成される位置は、前面透明電極層に接しているような金属層41の位置以外の位置とすることができる(図示しない)。典型的には、前面透明電極層と半導体層の間、すなわち前面透明電極層の裏面側に金属層を配置しても、同様の効果を奏することが可能となる。この場合には、これまで説明してきた図9に示したような前面透明電極層の前面側に金属層を配置する場合と同様に分離線33によって金属層も区切られる。なお、このような構成を採用する場合には、半導体層38の光電変換特性に悪影響が及ぼされないような金属層の材質や形成方法が選択される。また、図10に示した金属層形成工程S118は、半導体層形成工程S112の後、透明導電層形成工程S114よりも前の段階にて行われる。
【0123】
以上、本発明のいくつかの実施形態を具体的に説明した。上述の各実施形態および実施例は、発明を説明するために記載されたものであり、本出願の発明の範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきものである。また、各実施形態の他の組合せを含む本発明の範囲内に存在する変形例もまた、特許請求の範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明によれば、帯状の基板を採用した場合であってもメタルマスクを用いてマスク蒸着法を実行することが可能となる。このため、パターニングされた金属層を高い生産性によって形成することが可能となる。特にその金属層が太陽電池に採用された場合には、曲線因子および光電変換効率が向上された太陽電池が提供され、そのような太陽電池を一部に含むような任意の電力機器または電気機器の普及または高性能化に大きく貢献する。
【符号の説明】
【0125】
100、100A、100B 蒸着装置
10 基板
10F 一方の面
10U 展開された部分
12、12A、12B、12C メタルマスク
12U 展開された部分
110 真空槽
112 基板室
114 蒸着室
116、116B 隔壁
116A、116C 開口
120 基板給送機構
122 基板巻出しロール
124、126 基板搬送ロール
128 基板巻き取りロール
130 蒸着源
140 マスク移動機構
142 メタルマスク巻出しロール
144、144A メタルマスク巻き取りロール
146、148 ガイドロール
150 ヒーター
150A 温調ロール
152 シャッター機構
22 金属板
24、24A、24B、24C 中央部
26、26A、26B、26C、28、28C 開口
30 つながっている部分
300 太陽電池
320 単位光電変換部
340 単位接続配線部
31 集電孔
32 接続孔
33、34 分離線
35 基板
36 裏面電極層
37 第1接続配線層
38 半導体層
39 前面透明電極層
40 第2接続配線層
41 金属層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロール状に巻かれている帯状の基板のうちの展開された部分を該基板の長手方向に送るための基板給送機構と、
該基板の一方の面に向かう位置に配置され、薄膜を形成する蒸着材料を該一方の面に向かって放出するための蒸着源と、
ロール状に巻かれておりいくつかの開口が設けられている帯状のメタルマスクのうちの展開された部分を、前記基板と該蒸着源との間の空間を仕切るように渡して前記基板から離間した状態を保って、前記メタルマスクの長手方向に送るためのマスク移動機構と
を備える
パターニングされた薄膜を形成する真空蒸着装置。
【請求項2】
前記メタルマスクが、該メタルマスクの長手方向または前記基板の長手方向のいずれかの方向に延びるライン状の開口を複数備えるストライプパターンを有している
請求項1に記載の真空蒸着装置。
【請求項3】
前記メタルマスクが、前記基板の長手方向と0でない角度をなして延びるライン状の開口を複数有している
請求項1または請求項2に記載の真空蒸着装置。
【請求項4】
前記基板の長手方向と前記メタルマスクの長手方向とが互いに交差して配置される
請求項1に記載の蒸着装置。
【請求項5】
前記蒸着源と前記基板との間の空間、または、前記蒸着源と前記メタルマスクとの間の空間を仕切って前記蒸着材料を遮るシャッター機構をさらに備える
請求項1に記載の真空蒸着装置。
【請求項6】
前記蒸着源は、前記基板の前記一方の面の薄膜形成位置において前記蒸着原料を放出する範囲のなす角度が、該一方の面から離間して配置されている前記メタルマスクの前記開口の該膜形成位置に対応する開口のなす角度よりも小さくなるようなものである
請求項5に記載の真空蒸着装置。
【請求項7】
前記基板給送機構が、前記基板の他方の面の側において、前記基板のうちの展開された部分の少なくとも一部に接し、温度が制御されている温調ロールを有するものである
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の真空蒸着装置。
【請求項8】
ロール状に巻かれている帯状の基板のうちの展開された部分を基板給送機構により該基板の長手方向に送る工程と、
該基板の一方の面に向かう位置に配置される蒸着源により、薄膜を形成する蒸着材料を該一方の面に向かって放出する蒸着処理が行われる蒸着処理工程と、
ロール状に巻かれておりいくつかの開口が設けられている帯状のメタルマスクのうちの展開された部分を、前記基板と該蒸着源との間の空間を仕切るように渡して前記基板から離間した状態を保って、前記メタルマスクを該メタルマスクの長手方向にマスク移動機構により送る工程と
を含む
パターニングされた薄膜を備える基板の製造方法。
【請求項9】
前記メタルマスクの前記展開された部分を送る工程が、前記蒸着処理が実行されながら前記メタルマスクを送り続けるよう前記マスク移動機構が動作する工程である
請求項8に記載の基板の製造方法。
【請求項10】
前記基板の前記展開された部分を送る工程が、前記蒸着処理工程が実行されながら前記基板を送り続けるように前記基板給送機構が動作する工程である
請求項8または請求項9に記載の基板の製造方法。
【請求項11】
前記蒸着処理工程には継続して蒸着処理が行われる単位蒸着処理工程が複数含まれていて、各単位蒸着処理工程が終了し次の単位蒸着処理工程が開始されるまでの間に蒸着処理の休止期間が設けられている
請求項8に記載の基板の製造方法。
【請求項12】
前記メタルマスクの前記展開された部分を送る工程が、前記単位蒸着処理工程が実行されている時に前記メタルマスクを静止させ、前記休止期間のうちのいずれかに前記メタルマスクを送るよう前記マスク移動機構が動作する工程である
請求項11に記載の基板の製造方法。
【請求項13】
前記基板の前記展開された部分を送る工程が、前記単位蒸着処理工程が実行されている時に前記基板を静止させ、前記休止期間に前記基板を送るよう前記基板給送機構が動作する工程である
請求項11に記載の基板の製造方法。
【請求項14】
前記マスク移動機構によって送られる前記メタルマスクの平均の移動スピードが、前記基板給送機構によって送られる前記基板の平均の給送スピードよりも遅い
請求項8乃至請求項13のいずれか1項に記載の基板の製造方法。
【請求項15】
前記休止期間を複数経た場合に、前記基板の前記展開された部分を送る工程の実行回数と前記メタルマスクの前記展開された部分を送る工程の実行回数との比率が複数回対1回とされる
請求項11または請求項13に記載の基板の製造方法。
【請求項16】
可撓性を有しロール状にされている基板の一方の面の上に透明導電層を形成する工程と、
前記透明導電層が形成された面に対して、請求項8乃至請求項15のいずれか1項に記載の基板の製造方法によって金属薄膜である薄膜をパターニングして形成する工程と
を含む
透明導電層の上にパターニングされた金属薄膜を備える基板の製造方法。
【請求項17】
請求項8乃至請求項15のいずれか1項に記載の基板の製造方法によって、金属薄膜である薄膜をパターニングして形成する工程と、
前記基板に形成された該金属薄膜の上に透明導電層を形成する工程と
を含む
パターニングされた金属薄膜の上に透明導電層を備える基板の製造方法。
【請求項18】
第1面と第2面とを有する電気絶縁性の基板と、
裏面電極層と、nip接合構造を含む半導体層と、前面透明電極層とが前記基板の前記第1面の上に該第1面の側からこの順に配置される光電変換層と、
前記前面透明電極層に接して配置され、前記光電変換層に到達するように光を透過させる光透過領域が設けられたパターンをなす金属層と
を備え、
前記透明電極層および前記金属層を備える前記基板が、請求項16または請求項17に記載の製造方法によって形成された基板である
太陽電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−62542(P2012−62542A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−208718(P2010−208718)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】