説明

真空遮断器の電極接点材及びその製造方法

【課題】耐電圧や遮断性能を向上できる真空遮断器の電極接点材、及び製造が簡単な真空遮断器の電極接点材の製造方法を提供する。
【解決手段】真空雰囲気の遮断室内に対向配置する通電導体1の端面にコイル電極2を設け、これらコイル電極2の対向端面に固着するCu−Cr合金素材を用いた電極接点材3を摩擦攪拌処理によって加工処理する。摩擦攪拌処理の際、Cu−Cr合金素材面に良導電性材を介在させて行い、電極接点材3はコイル電極2と固着する面側に良導電性材成分を含有する良導電性材含有層を有すると共に、各コイル電極が対向する面側にCu−Crの二相組織層を有するようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は真空遮断器の電極接点材及びその製造方法に係り、特に特に耐電圧及び遮断性能を向上でき、また製造が容易な真空遮断器の電極接点材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、真空遮断器10は、図4に示す如くセラミック等の絶縁材料からなる略円筒状の中空部材11の両端部に、封鎖金具12、13をそれぞれ介在させて金属製の端部板14及び15を固着して絶縁容器を形成し、この内部を真空雰囲気の遮断室に構成する。
【0003】
遮断室の内部には、端部板14を貫通して気密に固着する固定側の通電導体16と、端部板15を貫通する可動側の通電導体17を配置している。各通電導体16及び17には、それぞれ遮断室内で対向する電極を取り付けている。これらの電極は、例えば図4に示す如く、アークを駆動する磁界発生手段となる円弧溝等を備えるコイル電極19A、20Aと、コイル電極19A、20Aの対向端面側に固着する電極接点材19B、20Bとから形成されている。
【0004】
可動側の通電導体17は、一端を端部板15に固定すると共に、他端を通電導体側に固定するベローズ18により気密を保持し、操作装置(図示せず)で軸方向に移動可能に構成する。そして、操作装置を駆動して電流遮断する際に、電極接点材19B、20B間等に発生するアークに基づく悪影響を防止するため、中空部材11の内面やベローズ18面を保護するシールド筒21や22を配置している。
【0005】
ところで、コイル電極19A、20Aの対向面に固着する電極接点材19B、20Bは、真空遮断器10の性能、即ち大電流から小電流まで良好に遮断できて絶縁耐力も高く、しかも耐融着性が良いこと等の性能に大きく影響するため、従来から種々の材料や製造方法が提案されている。
【0006】
例えば特許文献1に記載の如く、導電性の良好なCu(銅)と耐アーク性成分のクロム(Cr)とを適切な割合で含む粉末混合物を、圧縮してから真空中等の非酸素雰囲気で焼結してCu−Cr焼結合金を作り、これを冷間加工して真空遮断器の電極接点材を作って、使用することが提案されている。
【0007】
また、特許文献2では真空遮断器の電極接点材として、Cu−Crの混合物を不活性ガス雰囲気中又は真空中で溶融し、この溶湯をアトマイズ法で微細化してCuマトリックス中に均一に分散した平均粒径5μm以下のCrを含み、しかも平均粒径150μm以下のCu−Cr合金粉末を得て、このCu−Cr合金粉末を焼結してCrの平均粒径を2から20μmとし、遮断電流や対溶着性等の向上を図ることも提案されている。
【0008】
更に、特許文献3にはCu板とCr板との積層体や、Cu板Cr粒との積層体、Cu粒とCr粒との混合体や成形体、Cu−Cr合金体の接点表面全面に、高エネルギ密度を有するレーザを所定のオーバラップ率で照射し、急激でしかもピーク温度の極めて高い熱履歴を与えることにより、照射表面より深さ50μm程度の領域で、Cu相中に直径が0.1から5μmの微細Crを存在させ、再点弧発生確率を小さくし、遮断特性を向上させる真空遮断器用接点の製造方法が提案されている。
【0009】
また更に、特許文献4には真空遮断器の接点部材として、Cu又はCu合金からなる第1層と、これと接合するCu−Cr系複合材料からなる第2層とで作る積層複合材料を用い、高い電気伝導度や熱伝導率及び耐熱性を有し、しかも耐アーク性の良くできるようにすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表平4−505986号公報
【特許文献2】特開平4−95318号公報
【特許文献3】特開平4−312723号公報
【特許文献4】特開平11−229057号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記したように真空遮断器の電極接点材は、焼結合金母材中のCrの粒径が微細でかつ均一な組織であれば、耐電圧や遮断性能が向上することが知られている。しかし、上記した各特許文献の如き通常の固相焼結による焼結合金母材の製造では、Cr粉の粒径が10μm程度であると、酸化が進んでしまって焼結が難しく、しかも酸素含有量が増加するため、真空遮断器の性能を低下させてしまうことになる。
【0012】
また、特許文献2のように真空アーク溶解等により製造するCu−Cr合金の電極接点材は、微細で均一な組織となるので、良好な耐電圧や遮断性能を有する。しかし、導電率が低くて真空遮断器の電極接点材としては接触抵抗が高くなってしまうし、真空アーク溶解では高価でしかも生産性が悪い欠点がある。
【0013】
更に、36kV以上の電圧の真空遮断器では、電極接点材の表面に電流アークを発生させ、その後急速冷却させてCr微細分散層を生成する方法(電流化成法)もある。この電流化成法では、接点部材面に均一に皮膜を生成させるには、何回かのアーク発生処理が必要である。その上、この処理時のアークによる金属蒸気が、真空遮断器の絶縁容器を構成するセラミック容器の内面を汚損し、真空遮断器の寿命を低下させてしまう欠点がある。しかも、10から20μmの厚さのCr微細分散層を生成するのが限度であって、より高い電圧に使用する真空遮断器の電極接点材では、開閉回数が多くなるに従って、耐電圧の低下が著しくなる問題があり、この改善が望まれていた。
【0014】
本発明の目的は、耐電圧や遮断性能を著しく向上できて電極側との接合も良好に行える真空遮断器の電極接点材を提供することにある。
【0015】
また、本発明の他の目的は、コイル電極の対向端面に固着する電極接点材中に、Crを微細化したCu−Cr二相組織層を容易に形成でき、しかも製造が簡単な真空遮断器の電極接点材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明により真空遮断器の電極接点材は、真空雰囲気の遮断室内に対向配置する通電導体の端面にコイル電極を設け、前記各コイル電極の対向端面に固着する少なくとも導電性成分と耐アーク性成分の合金材を用いたものであって、前記合金素材に良導電性材を介在させた摩擦攪拌処理により、前記コイル電極を固着する面側に良導電性材成分を含有する良導電性材高含有層を有すると共に、前記各コイル電極の対向する面側に導電性成分と耐アーク性成分の二相組織層を有するように構成したことを特徴としている。
【0017】
好ましくは、前記二相組織層は、導電性成分と耐アーク性成分が100〜300nmに分散していることを特徴としている。
【0018】
また本発明による真空遮断器の電極接点材の製造方法は、所定の厚さの少なくとも導電性成分と耐アーク性成分の合金素材上に良導電性薄板を配置し、前記良導電性薄板の面側から前記良導電性薄板及び前記合金素材に対して摩擦攪拌処理を施して、前記合金素材には一面側に良導電性材成分を含有する良導電性材高含有層を有すると共に、他の面側に導電性成分と耐アーク性成分が100〜300nmに分散している導電性成分と耐アーク性成分の二相組織層を有するように形成し、前記良導電性材高含有層と二相組織層との外表面に成形加工処理を施したことを特徴としている。
【0019】
好ましくは、前記良導電性材薄板にはCu板を用いたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
本発明の真空遮断器の電極接点材によれば、遮断室内に対向配置する通電導体の端面に設ける電極に固着する電極接点材は、コイル電極の面側に良導電性材成分を含有する良導電性材含有層を有すると共に、各コイル電極が対向する面側に導電性成分と耐アーク性成分の二相組織層を有するようにしたから、導電性成分と耐アーク性成分の二相組織層のため耐電圧が良好で遮断性能を向上できるし、良導電性材含有層は導電率が良好なためコイル電極側との電気的接続も良好に行うことができる。
【0021】
また、真空遮断器の電極接点材の製造方法では、少なくとも導電性成分と耐アーク性成分を含む合金素材上に良導電性薄板を重ね配置した状態で摩擦攪拌処理を行って形成するため、良導電性材含有層と導電性成分と耐アーク性成分の二相組織層とを有する電気的特性の良い電極接点材を容易に製造することができる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の電極接点材を用いた真空遮断器の電極の一実施例を一部断面して示す正面図である。
【図2】(a)から(e)は、本発明の一実施例である真空遮断器の電極接点材の製造方法を順に示す概略図である。
【図3】従来の真空遮断器の例を示す概略縦断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の真空遮断器の電極接点材は、少なくとも導電性成分と耐アーク性成分を含む合金素材を用いており、この合金素材の面に良導電性材を介在させた摩擦攪拌処理で、電極を固着する面側に良導電性材成分を含有する良導電性材高含有層を有し、かつ各電極の対向面側に導電性成分と耐アーク性成分の二相組織層を有した電極接点材としている。電極接点材は、所定の厚さの少なくとも導電性成分と耐アーク性成分を含む合金素材上に良導電性薄板を配置し、この良導電性薄板の面側から摩擦攪拌処理を施し、一面側に良導電性材成分を含有する良導電性材高含有層を有すると共に、他の面側に導電性成分と耐アーク性成分が100〜300nmに分散している二相組織層を有する電極接点材を製作する。
【実施例1】
【0024】
以下、本発明の真空遮断器の電極接点材及びその製造方法を、図1から図2を用いて説明する。真空遮断器の固定側及び可動側の各電極は、図1に示す如く従来のものと同様に通電導体1の端面に、電流遮断時に生じたアークを駆動する磁界を発生させるための円弧溝4を備えたカップ状のコイル電極2と、このコイル電極2同士が対向する面に固着する耐アーク性の良い電極接点材3とから構成されている。
【0025】
電極接点材3は、図2を用いて後述する如く少なくとも導電性成分と耐アーク性成分を含む合金素材31と良導電性材32を組み合せ、しかも摩擦攪拌を用いた本発明の製造方法によって製作する。この本発明の電極接点材3は、コイル電極2とろう付け等で固着する面側に良導電性材成分を含有する良導電性材高含有層3Aを有すると共に、固定側及び可動側の各コイル電極3が対向する面側に耐アーク性成分が微細に分散した導電性成分と耐アーク性成分の二相組織層3Bを有するように形成している。
【0026】
電極接点材3は、良導電性材高含有層3Aを有しているからコイル電極2への固着が円滑に行えるし、また導電性が優れているあるからコイル電極2と電極接点材3との電気的接続も良好に行える。しかも、真空遮断器の電流遮断時に生ずるアークが点弧する面となる側に、特に耐アーク性成分が微細に分散した二相組織層3Bを有しているから、従来に比べて耐電圧が良好でより一層遮断性能を向上できるようになる。
【0027】
本発明による真空遮断器の電極接点材の製造方法は、例えば図2(a)から(e)に示す手順によって製造する。本発明の電極接点材を製造するため、少なくとも導電性成分と耐アーク性成分を含む合金素材31を使用する。この合金素材31は、導電性成分の40〜80重量%のCu粉末と、耐アーク性成分の20〜60重量%のCr粉末(或いはMo粉末)を混合し、この混合体を圧縮成形してから、真空或いは不活性ガス中等の非酸素雰囲気で焼結して作る焼結法で形成したものを使用する。又は、上記量の耐アーク性成分のCr粉を圧縮してから焼結して焼結体を作り、この焼結体に導電性成分のCuを含浸させる焼結含浸法によって形成した材料を使用する。
【0028】
なお、上記した合金素材31には、周知の如く電極接点材間の溶着を抑えるため、必要に応じてBi、Te、Zn、Pb等の耐溶着成分を添加することができる。以下の説明では、導電性成分のCuと耐アーク性成分のCrからなるCu−Cr合金素材31を用いた例で説明する。
【0029】
電極接点材の製造にあたっては、先ず図2(a)に示す如くCu−Cr合金素材31を準備する。Cu−Cr合金素材31は、後述の外表面平坦化処理を考慮して電極接点材3よりも少し直径が大きく、厚さ3〜5mmのものを準備して使用する。
【0030】
次に、図2(b)に示す如くCu−Cr合金素材31の一方の面上に、厚さ2から5mmの良導電性薄板32を配置する。良導電性薄板32としては、電気的導電特性が良くて後述する加工処理が容易に行えるような薄板、例えば銅板やアルミニウム板を使用する。以下の説明では、良導電性薄板32に銅板を用いた例で説明する。
【0031】
続いて、良導電性薄板32の銅板を配置したCu−Cr合金素材31は、図2(c)に示す如く摩擦攪拌接合と同様に、スターロッドと称される回転加工材33の先端を、銅板32側から押し当てる。そして、銅板32に回転加工材を加圧して回転させた時の摩擦攪拌処理による摩擦熱及び加工熱によって表面を軟化させる。この摩擦攪拌処理により、銅板32にCu−Cr合金素材31の一部が混じり合った銅成分の多い良導電性材高含有層3Aと、Cu−Cr合金素材31を摩擦攪拌してCu及びCr、特にCrを微細化したCu−Cr二相組織層3Bとを形成する。Cu−Cr二相組織層3Bは、特にCrが100〜300nm程度の微細に分散している状態にすれば、電流遮断時に生ずるアークが点弧する電極接点材3として極めて効果的である。
【0032】
その後、図2(d)に示す如く良導電性材高含有層3AとCu−Cr二相組織層3Bの外面の摩擦攪拌加工処理で荒れた面を、例えば厚さ1mm程度切除する外表面平坦化処理を施すと共に必要な加工穴等を形成する。そして、厚さ1から4mmの良導電性材高含有層3Aと、厚さ2から4mmのCu−Cr二相組織層3Bを有する平板状の電極接点材3にする。
【0033】
最後に、図2(e)に示す如く電極接点材3の良導電性材高含有層3A側を、通電導体1の端面に取り付けたカップ型のコイル電極2の面にろう付けにより固着し、Cu−Cr二相組織層3Bが真空遮断器の各電極間の電流遮断時に生ずるアークが点弧する面に存在するようにして完成する。
【0034】
本発明による真空遮断器の電極接点材の製造方法では、Cu−Cr合金素材31上に良導電性薄板32を配置した状態で、摩擦攪拌処理を行うことにより、良導電性材高含有層3Aと、Cu及びCrを微細化したCu−Cr二相組織層3Bとを有する電極接点部材を容易に効率良く形成することができる。
【0035】
上記した本発明の実施例では、真空遮断器の電極を、カップ状のコイル電極と電極接点材とを組み合せた構造で説明したが、カップ状のコイル電極に代えて複数の螺旋溝を有する平板状の縦磁界発生電極を用い、これに電極接点材を固着する構造にも適用でき、同様に遮断性能を向上できることは明らかである。
【符号の説明】
【0036】
1…通電導体、2…コイル電極、3…電極接点材、3A…良導電材高含有層、3B…Cu−Cr二相組織層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空雰囲気の遮断室内に対向配置する通電導体の端面にコイル電極を設け、前記各コイル電極の対向端面に固着する少なくとも導電性成分と耐アーク性成分を含む合金材を用いた電極接点材であって、前記合金材に良導電性材を介在させた摩擦攪拌処理により、前記コイル電極を固着する面側に良導電性材成分を含有する良導電性材含有層を有すると共に、前記各コイル電極が対向する面側に導電性成分と耐アーク性成分の二相組織層を有するように構成したことを特徴とする真空遮断器の電極接点材。
【請求項2】
請求項1において、前記二相組織層は、耐アーク性成分が100〜300nmに分散していることを特徴とする真空遮断器の電極接点材。
【請求項3】
所定の厚さの少なくとも導電性成分と耐アーク性成分を含む合金素材上に良導電性薄板を配置し、前記良導電性薄板の面側から前記良導電性薄板及び前記合金素材に対して摩擦攪拌処理を施して、前記合金素材には一面側に良導電性材成分を含有する良導電性材高含有層を有すると共に、他の面側に耐アーク性成分が100〜300nmに分散している導電性成分と耐アーク性成分の二相組織層を有するように形成し、前記良導電性材高含有層と前記二相組織層との外表面に成形加工処理を施したことを特徴とする真空遮断器の電極接点材の製造方法。
【請求項4】
請求項3において、前記合金素材には、導電性成分の40〜80重量%のCu粉末と、耐アーク性成分の20〜60重量%のCr粉末を含むCu−Cr合金素材を用いたことを特徴とする真空遮断器の電極接点材の製造方法。
【請求項5】
請求項3において、前記良導電性材薄板にはCu板を用いたことを特徴とする真空遮断器の電極接点材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−272278(P2010−272278A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−121729(P2009−121729)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【出願人】(501383635)株式会社日本AEパワーシステムズ (168)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】