説明

眼の血管新生もしくは水腫状の疾患および障害を処置するためのヒストンデアセチラーゼインヒビター

眼の血管新生または水腫状の疾患および障害を処置するための、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)インヒビターを含む眼科組成物およびその使用が、開示される。上記化合物は、眼の血管新生または水腫状の疾患または障害に罹患しているヒトを処置する際に特に有用である。眼の血管新生または水腫状の疾患または障害に罹患している患者を処置するための方法は、薬学的に有効な量のヒストンデアセチラーゼ(HDAC)インヒビターを投与する工程を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼用組成物におけるヒストンデアセチラーゼ(HDAC)インヒビターおよびその使用方法に関する。その化合物は、眼の血管新生または水腫状の疾患または障害に罹患しているヒトを処置する際に特に有用である。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
本願は、2002年11月12日に出願した米国特許出願番号60/425,574からの優先権を主張する。
【0003】
新生血管の形成(新脈管形成)を阻害することが公知である多くの因子が存在する。例えば、ヘパリンまたは特定のヘパリンフラグメントの存在下で新脈管形成を阻害するように機能するステロイドが、Crumら、A New Class of Steroids Inhibits Angiogenesis in the Presence of Heparin or a Heparin Fragment,Science,Vol.230:1375〜1378,December 20,1985に開示される。著者らは、そのようなステロイドを、「新脈管形成抑制(angiostatic)」ステロイドを呼ぶ。新脈管形成抑制性(angiostatic)であることが見出されているこの種類のステロイドに含まれるのは、コルチゾルおよびコルテキソロンのジヒドロ代謝物およびテトラヒドロ代謝物である。上記ステロイドが新脈管形成を阻害する機構に関する仮説を試験することに関する追跡研究において、ヘパリン/新脈管形成抑制(angiostatic)ステロイド組成物が、足場依存性内皮が付着している基底膜骨格の解離を引き起こして、毛細血管の退化を生じることが、示された。Ingberら、A Possible Mechanism for Inhibition of Angiogenesis by Angiostatic Steroids:Induction of Capillary Basement Membrane Dissolution,Endocrinology,Vol.119:1768〜1775,1986を参照のこと。
【0004】
新脈管形成を阻害する際に有用なテトラヒドロステロイド群が、Aristoffら、米国特許第4,975,537号に開示される。上記化合物は、頭部外傷、脊椎外傷、敗血症性ショックまたは外傷性ショック、発作、および出血ショックを処置する際の使用について開示される。さらに、上記特許は、胚移植における、ならびに癌、関節炎、および動脈硬化症の処置における、これらの化合物の有用性を考察する。Aristoffらに開示されるステロイドのうちのいくつかは、温血動物における新脈管形成を阻害するためにヘパリンまたはヘパリンフラグメントと組み合わせて、米国特許第4,771,042号において開示される。
【0005】
ヒドロコルチゾンの組成物である「テトラヒドロコルチゾル−S」およびU−72,745Gは、各々をβシクロデキストリンと組み合わせて、角膜新生血管形成を阻害することが示されている:Liら、Angiostatic Steroids Potentiated by Sulphated Cyclodextrin inhibit Corneal Neovascularization,Investigative Ophthalmology and Visual Science,Vol.32(11):2898〜2905,October,1991。上記捨てとリドは、単独で、新生血管形成をいくらか減少するが、新生血管形成の後退をもたらす際に単独では有効ではない。
【0006】
テトラヒドロコルチゾル(THF)は、Folkmanら、Angiostatic Steroids,Ann.Surg.,Vol.206(3),1987において新脈管形成抑制(angiostatic)ステロイドとして開示されており、新脈管形成抑制(angiostatic)ステロイドは、異常な新生血管形成により支配される疾患(糖尿病性網膜症、血管新生緑内障、および水晶体後線維増殖症を含む)のために潜在的な用途を有し得ることが、示唆されている。
【0007】
特定の非ステロイド性抗炎症薬物(NSAID)は、病理的状態において新脈管形成および脈管水腫を阻害し得ることが、以前に示されている。ほとんどのNSAIDが、水腫をもたらす脈管透過性および親脈管形成に影響を与える能力は、シクロオキシゲナーゼ酵素(COX−1およびCOX−2)をブロックする能力に関連するようである。COX−1およびCOX−2は、炎症媒介因子(例えば、PGE)の減少に関係する。さらに、PGE阻害は、種々のサイトカイン(脈管内皮増殖因子(VEGF)を含む)の発現および生成の減少をもたらすようである。VEGFは、全臨床モデルの眼において種々の漏出および新脈管形成を生成することがお公知である。また、VEGFレベルの増加が、糖尿病性網膜症および加齢性黄斑変性を有する患者の眼由来の新生血管組織および細胞外液において見出された。従って、NSAIDは、PGEレベルと、VEGFの発現および活性に対するPGEの効果とを調節することによって、脈管漏出および新脈管形成を阻害し得る。この理論は、COX−2インヒビターの全身投与は、組織PGEレベルおよび組織VEGFレベルを減少し、それにより腫瘍誘導性新脈管形成を防止することを示す、動物腫瘍モデルを含む研究によって支持される。これらのモデルにおいて、VEGF活性および新脈管形成は、連続的COX−2遮断の間に外因性PGEを添加することによって、回復される。しかし、NSAIDは、選択的COXインヒビターが脈絡膜新生血管形成を阻害するように見えないという点で、眼の新生血管形成(NV)の動物モデルにおいて可変の活性を有するようである。実際、これらの研究は、CNVの発症におけるCOX−1および/またはCOX−2の役割に疑問を生じさせる。
【0008】
共有に係る米国特許出願番号09/929,381において記載されるように、特定の3−ベンゾイルフェニル酢酸および誘導体(これらは、NSAIDである)は、新脈管形成関連障害を処置するために有用であることが、見出された。
【0009】
ヒストンは、8量体粒子を形成する核タンパク質であり、この周りで、染色体DNAが反復様式で傷付けられる。このDNA保存様式は、核における極めて長いDNA分子に適合するのを補助し、損傷に対してDNAを安定化するのを補助し、そして転写因子にDNAが接近する能力を調節するように作用する。ヒストンは、長い正に荷電したリジンテールを有し、このテールは、DNAの負に荷電したリン酸骨格に静電気的に結合しており、それにより、DNA−ヒストン複合体を形成するように作用する。この状態で、転写因子は、DNAに対する接近能力を有さず、従って、遺伝子発現が抑制される。上記リジンの窒素のアセチル化は、上記DNA−ヒストン複合体の局所的巻き戻しを生じ、それにより、転写因子の接近を可能にし、それにより、遺伝子発現を促進する。このヒストンデアセチラーゼ(HDAC)酵素ファミリーは、N−アセチル化リジンから非アセチル化状態へ戻る変換を触媒し、上記ヒストン−DNA複合体の再形成を引き起こし、それにより、遺伝子転写を抑制する。
【0010】
細胞の腫瘍原性形質転換に関する理論の1つは、腫瘍原性促進(pro−oncogenic)シグナルと抗腫瘍原性(anti−oncogenic)シグナルとの間の不均衡の重要性を仮定する。より具体的には、腫瘍サプレッサータンパク質(例えば、p53およびp21)をコードする遺伝子における機能変異の喪失は、癌進行に相関付けられている。腫瘍サプレッサータンパク質の発現を促進し、かつ/またはほとんど分化していない癌細胞が分化するのを誘導する、因子が、癌治療に対する多くのアプローチの対象である。
【0011】
上記HDAC酵素ファミリーは、遺伝子転写を抑制することによって、分化促進(pro−differentiation)タンパク質および腫瘍サプレッサータンパク質の発現を抑制する。従って、この酵素ファミリーの阻害は、抗癌治療ストラテジーとして調査されている。具体的には、いくつかのHDACインヒビターは、種々の癌の前臨床モデルにおいて有望であることが示されている。例えば、HDACインヒビターであるスベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)は、癌細胞分化の強力な誘導因子であると報告されており(Munsterら、Cancer Research,Vol.61:8492〜8497,2001)、インビトロで癌細胞増殖を停止すると報告されており(Butlerら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,Vol.99:11700〜11705,2002)、動物モデルにおいて腫瘍を縮めると報告されており(Butlerら、Cancer Res.,Vol.60:5165〜5170,2000)、フェーズI臨床試験においてほぼ用量制限毒性がないこと(白血球生成の抑制がないことを含む)を示した。これは、抗癌剤について珍しい(Kellyら、Proc.Amer.Soc.Clin.Oncol.,Vol.20:87a,2001)。上記スベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)は、現在、フェーズII臨床試験中である。さらに、HDAC酵素活性は、腫瘍サプレッサータンパク質発現を阻害することにより新脈管形成を促進すること(Kimら、Nature Medicine,Vol.7:437〜443,2001)、およびHDACインヒビター(SAHHを含む)は、VEGF誘導体新生血管形成を誘導し得ること(Deroanneら、Oncogene,Vol.21:427〜436,2002)が、最近示された。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0012】
(発明の要旨)
眼の血管新生または水腫状の疾患または障害に罹患しているヒトを処置するためのHDACインヒビターの使用に関する。
【0013】
(発明の詳細な説明)
後区新生血管形成は、先進国における後天性失明の最も一般的な2つの理由である滲出型加齢性黄斑変性(AMD)および増殖性糖尿病性網膜症(PDR)の原因である、視力を脅かす病理である。現在、滲出型AMDの間に生じる後区NVについて認可されている唯一の処置は、レーザー光凝固治療またはVisudyne(登録商標)を用いる光力学治療である。両方の治療は、罹患した脈管構造の閉塞を含み、これは、網膜に局在化したレーザー誘導性損傷を生じる。硝子体切除および膜除去を伴う外科的介入は、増殖性糖尿病性網膜症を有する患者について現在利用可能な唯一の選択肢である。厳密に病理学的な処置は、後区NVに対して使用することについて承認されていないが、いくつかの種々の化合物が、臨床的に評価中であり、この化合物としては、AMDについては、例えば、酢酸アネコルタブ(anecortave acetate)(Alcon,Inc.)、EYE 001(Eyetech)、およびrhuFabV2(Genentech)が挙げられ、糖尿病性黄斑水腫については、LY333531(Lilly)およびフルオシノロン(Bausch & Lomb)が挙げられる。
【0014】
黄斑水腫をもたらす糖尿病患者における高血糖症により誘導される網膜微小血管構造の変化に加えて、新生血管膜の増殖もまた、脈管漏出および網膜の水腫に関係する。水腫が黄斑に関与する場合、視力は悪化する。糖尿病性網膜症において、黄斑水腫は、視力喪失の腫瘍原因である。新脈管形成障害と同様に、レーザー光凝固は、水腫状状態を安定化または回復するために使用される。水腫のさらなる発達を減少すると同時に、レーザー光凝固は、細胞破壊的な手順であり、不幸なことに、罹患した眼の視野を変化させる。
【0015】
眼のNVおよび水腫について有効な薬理学的治療は、患者に十分な効力を提供する可能性があり、多くの疾患においては、それによって、侵襲性外科的手順も損傷性レーザー手順も回避される。上記NVおよび水腫の有効な処置は、患者の生活の質および社会における生産性を向上させる。また、盲者に補助および健康管理を提供することに関係する社会的コストを、劇的に減少させ得る。
【0016】
HDACインヒビター(化合物)は、数ある有用性のうちでも、VEGF誘導性新生血管形成を阻害し、従って、眼のNVもしくは水腫状の疾患もしくは障害に罹患しているヒト患者を処置するために有用であると考えられ、上記疾患もしくは障害は、例えば、糖尿病性網膜症、慢性緑内障、網膜剥離、鎌状赤血球網膜症、加齢性黄斑変性、虹彩ルベオーシス、ブドウ膜炎、新生物、フックス虹彩異色性虹彩毛様体炎、血管新生緑内障、角膜新生血管形成、複合型硝子体切除および水晶体切除術から生じる新生血管形成、網膜虚血、脈絡膜血管不全、脈絡膜血栓症、頸動脈虚血、挫傷性(contusive)眼損傷、未熟児網膜症、網膜静脈閉塞、増殖性硝子体網膜症、角膜新脈管形成、網膜微小血管症、および網膜(黄斑)水腫である。これらは、低い機構関連毒性を考慮すると、特に魅力的である(HDACインヒビターとして機能して腫瘍学的適用について調査中である化合物の種類に関する概説について、Marksら、Nature Reviews Cancer,Vol.1:194〜202,2001;Marksら、Curr.Opin.Oncol.,Vol.13:477〜483,2001を参照のこと)。
【0017】
本発明の特に好ましいHDACインヒビターとしては、式I:
【0018】
【化4】

のHDACインヒビターが挙げられ、上記式Iにおいて、
Yは、RNHC(O)またはRC(O)NRであり、
は、必要に応じて置換されたアリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリールオキシ、アリールアルキルオキシ、またはアルキルであり、このアリールなどの環式系は、二環式であり得;
は、必要に応じて置換されたアリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリールオキシ、アリールアルキルオキシ、またはアルキルであり、このアリールなどの環式系は、二環式であり得;
は、H、アルキル、またはC(O)Rであり;
は、必要に応じて置換されたアリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリールオキシ、アリールアルキルオキシ、またはアルキルであり、このアリールなどの環式系は、二環式であり得;
Rは、(CHまたはCH(A−R)−(CHn−1であり;
nは、3〜8であり;
Aは、NH、O、S、CH、NHCO、またはNHCOであり、そして
は、必要に応じて置換されたアリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、またはアルキルであり、このアリールなどの環式系は、二環式であり得る。
【0019】
本発明の式Iの特に好ましい化合物に包含されるのは、以下の化合物:
【0020】
【化5】

である。
【0021】
化合物1〜3、5および6は、出所の参考文献中に詳説される方法によって合成され得る。化合物4は、Chembridge Corporation,16981 Via Tazon,Suite G,San Diego,California,USA,92127から市販されている。
【0022】
本発明の他の特に好ましい化合物としては、以下の化合物:
【0023】
【化6】

(Sigma,PO Box 14508,St.Louis,MO,63178〜9916から市販されている、トリコスタチンA);
【0024】
【化7】

(MS−275:出所参考文献:Suzukiら、J.Med.Chem.42:15,3001〜3003(1999);
【0025】
【化8】

(オキサムフラチン:Calbiochem−Novabiochem International,10394 Pacific Center Court,San Diego,CA 92121,USAから市販されている)
が挙げられる。
【0026】
本発明の範囲に包含されるのは、表題化合物の個々のエナンチオマー、ならびにそれらのラセミ混合物および非ラセミ混合物である。一般には、上記個々のエナンチオマーは、多数の方法により生成され得る。この方法としては、適切なエナンチオマー的に純粋な出発物質またはエナンチオマーが濃縮された出発物質からのエナンチオ選択的合成;キラル試薬、触媒、溶媒などを使用する、ラセミ/非ラセミ出発物質またはアキラル出発物質からの合成(例えば、Aysmmetric Synthesis,J.D.MorrisonおよびJ.W.Scott編、Academic Press Pubslishers(New York)1985),第1巻〜第5巻;Principles of Asymmetric Systhesis,R.E.GawleyおよびJ.Aube編;Elsevier Publishers(Amsterdam 1996)参照);ならびに多数の公知の方法による、例えば、キラルHPLCによるサンプルの精製(A Practical Guide to Chiral Separations by HPLC,G.Subramanian編、VCH Publishers(New York 1994);Chiral Separations by HPLC,A.M.Krstulovic編、Ellis Horwood Ltd.Publishers(1989))によるか、または酵素によるカルボン酸エステルサンプルのエナンチオ選択的加水分解(Ohno,M.;Otsuka,M.,Organic Reactions 37:1(1989))による、ラセミ混合物および非ラセミ混合物からの単離が挙げられるが、これらに限定されない。当業者は、ラセミ混合物および非ラセミ混合物を、いくつかの手段により取得し得ることを認識する。そのいくつかの手段としては、非エナンチオ選択的合成、部分分解、または種々のエナンチオマー比を有するサンプルの混合さえもが挙げられるが、これらに限定されない。本発明の原理から逸脱せず、本発明の利点を犠牲にせずに、添付の特許請求の範囲の範囲内において、そのような詳細からの逸脱がなされ得る。また、本発明の範囲内に包含されるのは、個々のエナンチオマーを実質的には含まない個々のアイソマーである。
【0027】
用語「アルキル」は、飽和しておりかつ1〜15個の炭素原子を有する、直鎖または分枝鎖の脂肪族炭化水素基を包含する。このアルキル基は、他の基(例えば、ハロゲン、ヒドロキシル、またはアルコキシ)で置換され得る。好ましい直鎖または分枝鎖のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、およびt−ブチルが挙げられる。
【0028】
用語「シクロアルキル」は、結合して1つ以上の環(縮合されても、分離していてもよい)を形成する、直鎖または分枝鎖の、飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基を包含する。上記環は、他の基(例えば、ハロゲン、アミノ、ヒドロキシル、アルコキシ、または低級アルキル)で置換され得る。好ましいシクロアルキル基としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、およびシクロヘキシルが挙げられる。
【0029】
用語「ヘテロシクロアルキル」とは、少なくとも1つのヘテロ原子(例えば、O、S,またはN)をその環中に含む、シクロアルキル基を指す。ヘテロシクロアルケニル環は、5〜8個の環原子を備えて分離していても、8〜10個の原子を備えて縮合していてもよい。開放価を有するヘテロシクロアルキル環の水素またはヘテロ原子は、他の基(例えば、低級アルキル、アシル、アミノ、ヒドロキシ、または水素)で置換され得る。好ましいヘテロシクロアルキル基としては、ピペリジン、ピペラジン、ピロリジン、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロピラニル、およびテトラヒドロチエニルが挙げられる。
【0030】
用語「低級アルキル」は、1〜6個の炭素(C〜C)を含むアルキル基を示す。
【0031】
用語「ハロゲン」は、フルオロ、クロロ、ブロモ、またはヨードを示す。
【0032】
用語「アリール」とは、芳香族である炭素ベースの環を指す。その環は、フェニルのように分離していても、ナフチルのように縮合していてもよい。その環水素は、他の基(例えば、低級アルキル、ヒドロキシ、アミノ、またはハロゲン)で置換され得る。
【0033】
用語「ヘテロアリール」とは、少なくとも1つのヘテロ原子(例えば、O、S、またはN)をその環中に含む、芳香族炭化水素環を指す。ヘテロアリール環は、5〜6個の環原子を備えて分離していても、8〜10個の原子を備えて縮合していてもよい。開放価を有するヘテロアリール環水素またはヘテロ原子は、他の基(例えば、低級アルキル、アミノ、ヒドロキシ、またはハロゲン)で置換され得る。ヘテロアリール基の例としては、イミダゾール、ピリジン、インドール、キノリン、フラン、チオフェン、ピロール、テトラヒドロキノリン、ジヒドロベンゾフラン、およびジヒドロベンズインドールが挙げられる。
【0034】
用語「アリールオキシ」とは、酸素に結合しているアリール基を指す。用語「アリールアルキルオキシ」とは、アルキル基に結合しているアリール基であって、酸素原子に結合しているアリール基を指す。
【0035】
本発明はまた、上記化合物を含む組成物およびその使用方法に関する。本発明の方法に従って、1つ以上の上記化合物と、薬学的に受容可能なキャリアとを含む、全身投与または局所投与のための組成物が、それを必要とする哺乳動物に投与される。上記組成物は、望ましい特定の投与経路のために当該分野で公知である方法に従って処方される。
【0036】
本発明の化合物は、全身投与または局所投与のいずれかで投与され得る。全身投与は、経口投与、経皮投与、皮下(subdermal)投与、腹腔内投与、皮下(subcutaneous)投与、経鼻投与、舌下投与、または直腸投与を包含する。眼内投与のための局所投与は、局所(topical)投与、硝子体内投与、眼周囲投与、経強膜(transcleral)投与、眼球後投与、テノン叢(sub−tenon)投与、または眼内デバイスを介する投与を包含する。好ましい投与は、処置される眼の新生血管の型に依存する。
【0037】
本発明に従って投与される組成物は、薬学的に有効な量の1種以上の本発明の化合物を含む。本明細書中で使用される場合、「薬学的に有効な量」とは、NVおよび/または水腫を減少または予防するために十分な量である。一般に、眼のNVまたは水腫の処置のために全身投与されることが意図される組成物について、化合物の全量は、約0.01〜100mg/kgである。
【0038】
以下の局所的眼科処方物および全身処方物は、本発明に従って有用である、熟練した臨床家の裁量に従って1日当たり1〜4回投与される。
【実施例】
【0039】
(実施例1)
【0040】
【表1】

(実施例2)
【0041】
【表2】

(実施例3)
【0042】
【表3】

(実施例4)
【0043】
【表4】

(実施例5)
【0044】
【表5】

(実施例6)
【0045】
【表6】

本発明の好ましい組成物は、眼のNVまたは水腫状の疾患または障害(例えば、糖尿病性網膜症、慢性緑内障、網膜剥離、鎌状赤血球網膜症、加齢性黄斑変性、虹彩ルベオーシス、ブドウ膜炎、新生物、フックス虹彩異色性虹彩毛様体炎、血管新生緑内障、角膜新生血管形成、複合型硝子体切除および水晶体切除術から生じる新生血管形成、網膜虚血、脈絡膜血管不全、脈絡膜血栓症、頸動脈虚血、挫傷性眼損傷、未熟児網膜症、網膜静脈閉塞、増殖性硝子体網膜症、角膜新脈管形成、網膜微小血管症、および網膜(黄斑)水腫)に罹患しているヒト患者に投与することが意図される。
【0046】
本発明は、特定の好ましい実施形態を参照することにより記載されているが、本発明の特殊な特徴からも本質的な特徴からも逸脱することなく、本発明の他の具体的形態または改変形にて本発明が具体化され得ることが、理解されるべきである。従って、上記の実施形態は、本発明の範囲のすべての局面において例示的であって限定的ではないと考えられる。本発明の範囲は、上記の説明によってではなく、添付の特許請求の範囲によって示されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼の血管新生または水腫状の疾患または障害に罹患している患者を処置するための方法であって、該方法は、
薬学的に有効な量のHDACインヒビターを投与する工程
を包含する、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記HDACインヒビターは、式I:
【化1】

の化合物であり、該式Iにおいて、
Yは、RNHC(O)またはRC(O)NRであり、
は、必要に応じて置換されたアリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリールオキシ、アリールアルキルオキシ、またはアルキルであり、該アリールなどの環式系は、二環式であり得;
は、必要に応じて置換されたアリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリールオキシ、アリールアルキルオキシ、またはアルキルであり、該アリールなどの環式系は、二環式であり得;
は、H、アルキル、またはC(O)Rであり;
は、必要に応じて置換されたアリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリールオキシ、アリールアルキルオキシ、またはアルキルであり、該アリールなどの環式系は、二環式であり得;
Rは、(CHまたはCH(A−R)−(CHn−1であり;
nは、3〜8であり;
Aは、NH、O、S、CH、NHCO、またはNHCOであり、そして
は、必要に応じて置換されたアリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、またはアルキルであり、該アリールなどの環式系は、二環式であり得る;
方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法であって、前記式Iの化合物は、
【化2】

からなる群より選択される、方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、前記眼の血管新生または水腫状の疾患または障害は、糖尿病性網膜症、慢性緑内障、網膜剥離、鎌状赤血球網膜症、加齢性黄斑変性、虹彩ルベオーシス、ブドウ膜炎、新生物、フックス虹彩異色性虹彩毛様体炎、血管新生緑内障、角膜新生血管形成、複合型硝子体切除および水晶体切除術から生じる新生血管形成、網膜虚血、脈絡膜血管不全、脈絡膜血栓症、頸動脈虚血、挫傷性眼損傷、未熟児網膜症、網膜静脈閉塞、増殖性硝子体網膜症、角膜新脈管形成、網膜微小血管症、および網膜(黄斑)水腫からなる群より選択される、方法。
【請求項5】
請求項2に記載の方法であって、前記眼の血管新生または水腫状の疾患または障害は、糖尿病性網膜症、慢性緑内障、網膜剥離、鎌状赤血球網膜症、加齢性黄斑変性、虹彩ルベオーシス、ブドウ膜炎、新生物、フックス虹彩異色性虹彩毛様体炎、血管新生緑内障、角膜新生血管形成、複合型硝子体切除および水晶体切除術から生じる新生血管形成、網膜虚血、脈絡膜血管不全、脈絡膜血栓症、頸動脈虚血、挫傷性眼損傷、未熟児網膜症、網膜静脈閉塞、増殖性硝子体網膜症、角膜新脈管形成、網膜微小血管症、および網膜(黄斑)水腫からなる群より選択される、方法。
【請求項6】
請求項4に記載の方法であって、前記HDACインヒビターは、
【化3】

からなる群より選択される、方法。

【公表番号】特表2006−512318(P2006−512318A)
【公表日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−551638(P2004−551638)
【出願日】平成15年10月30日(2003.10.30)
【国際出願番号】PCT/US2003/034617
【国際公開番号】WO2004/043352
【国際公開日】平成16年5月27日(2004.5.27)
【出願人】(399054697)アルコン,インコーポレイテッド (102)
【Fターム(参考)】