説明

眼球乾燥症候群の処置および予防に対し効果を有する組成物

動物およびヒトの細胞内および体内でヒアルロン酸の合成を促進するウリジンおよびその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の物質を活性成分として含んでなる組成物、およびそれを含有する医薬製剤が提供される。本発明の組成物および医薬製剤は、眼球乾燥症候群の処置および予防に効果的である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼球乾燥症候群の予防および/または処置用組成物に関する。より具体的には、本発明は、ウリジンおよびその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の物質を活性成分として含んでなる、眼球乾燥症候群の予防および処置用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
眼球乾燥症候群は涙液欠乏または涙液成分の変化に起因する涙液層の障害を表す総称であり、様々な眼の不快症状を伴う。(非特許文献1によれば、眼球乾燥症候群は涙液欠乏または過度の涙液蒸発により生じる眼表面疾患と定義でき、眼瞼間の眼表面に傷害を引き起こすとともに眼の不快症状および眼球炎症を伴う。加えて、眼球乾燥症候群の定義は任意の症候性外眼部病態を含むまでに拡張されており、これは近年、神経原性の要素を伴う新型の眼球乾燥症候群(LASIK術後に起こるドライアイなど)や涙液層組成の変質に起因する眼表面疾患などが発生しているためである(非特許文献2)。
【0003】
眼科外来を訪れる全患者のうち50%超が眼球乾燥症候群であると報告されている。高齢者、特に閉経後女性の70〜80%が眼球乾燥症候群に起因する眼の不快感を経験している。過去には、眼球乾燥症候群の病理学的原因は、涙腺による涙液産生量の減少により生じる水層の欠乏であると考えられていた。しかしながら、最近の研究により、眼球乾燥症候群の主な原因は外部環境からの刺激に応答した炎症反応または内因性炎症反応であることが明らかとなり、それに伴い角膜上皮細胞の障害および角膜上皮細胞と角膜実質細胞との間の相互作用の減少により生じる慢性的な眼表面傷害に関する問題が提起されている。
【0004】
眼球乾燥症候群は、加齢、ホルモン欠乏または変化、環境因子(風、熱、塵埃、タバコの煙、ヘアドライヤー等)、慢性的に低い瞬目率(VDT症候群)、コンタクトレンズの装用、LASIK視力矯正手術、薬物療法、および自己免疫疾患(ループス、関節リウマチおよびシェーグレン症候群)など、様々な病因により発症し得る(非特許文献3)。
【0005】
この症候群を処置するため、通常は人工涙液または軟膏を使用して眼球の潤滑作用を改善するとともに眼表面に水分を補給する。しかしながら、人工涙液等は直接的な抗炎症効果を呈さず、ひいては抗炎症剤の併用処置も付随する。抗炎症剤の例としては、i)人工涙溶液などの、点眼剤としての涙液補給剤、ii)細胞質タンパク質シクロフィリン−シクロスポリン相互作用のT細胞活性化に対する阻害効果を利用するRESTASIS(商標)(シクロスポリン眼科用乳剤)などの点眼剤、iii)眼表面上の涙液およびムチン分泌を刺激することによりドライアイを処置するP2Y2受容体アゴニストであるジカフォソル(Diquafosol)などの点眼液、iv)涙液安定性の改善により重篤な眼球乾燥症候群を処置するための自己血清点眼剤、およびv)ステロイドを挙げることができる。
【0006】
しかしながら、これらの治療薬の大半は症状を軽減する処置であって根本的なものではないとともに、従って角膜上皮細胞と角膜実質細胞との間の相互作用の減少により生じる慢性的な眼表面の外傷、および複雑且つ多様な機序および環境因子を含む病因が関与する眼球乾燥症候群の処置に対し根本的な解決を提供するものではない。結果として、このような好ましくない現在の状況から患者の苦痛は深刻化する。加えて、慢性的な点眼剤の乱用は、医療費の増加を伴う。更に、ステロイド薬は眼圧を上昇させるとともに慢性疾患および障害におけるその長期使用は白内障および緑内障の合併症を引き起こし得るため望ましくない。
【0007】
本目的上、当該技術分野においては、傷害された細胞の回復を補助すると同時に有害な副作用を引き起こすことなく炎症を軽減することにより根本的に眼球乾燥症候群の処置および/または予防が可能な代替薬を開発する差し迫った必要性がある。
【0008】
これに関連して、本出願の発明者らは、ウリジンおよびその誘導体がヒトに無害であるとともにヒアルロン酸(HA)の合成を促進し、従って眼球乾燥症候群の根本的な処置および/または予防が可能であることを発見した。これらの発見に基づき我々は、ウリジンまたはその誘導体を活性成分として含んでなる眼球乾燥症候群の処置および/または予防用組成物を提案している。
【0009】
ヒアルロン酸(HA)は天然に存在する生体高分子であるとともに無色且つ透明な直鎖状多糖で、高粘度且つ分子量が50,000〜13,000,000ダルトンであり、およびN−アセチル−D−グルコサミンとD−グルクロン酸とが交互になっている単糖を反復単位として含有する。
【0010】
粘弾性はヒアルロン酸の物理的特性の1つであり、眼および関節に対する緩衝効果の提供を介した潤滑作用により細胞保護機能を呈することが知られているとともに、創傷治癒反応に関与することも分かっている。従って、炎症反応の初期において、ヒアルロン酸は細胞浸潤およびサイトカイン分泌を増加させ、ひいては創傷治癒反応を促進するとともに、フリーラジカルを減少させることにより抗酸化作用に寄与し、結果的に炎症反応のメディエータとしての役割を果たす。
【0011】
それゆえ、ヒアルロン酸は、血管新生および細胞増殖を促進することにより組織再生を補助し、コラーゲンの不必要な沈着を低減することにより小さな瘢痕は残すが創傷修復に関与し、およびまた角膜上皮再生および表皮再生に対しても効果を呈する。従って、最近では多くの研究がヒアルロン酸の各種治療薬としての利用に焦点を合わせている。例えば、ヒアルロン酸は、関節炎薬、ドライアイ薬、しわを低減させるための美容補助剤、外科手術後に使用される抗接着剤、美容保湿剤、人工皮膚、創傷治癒、瘢痕除去剤、白内障手術補助剤など、様々な用途に使用され得る。
【0012】
加えて、ヒアルロン酸を含有する従来の点眼溶液と同じく、涙液蒸発の低減を介した治療効果並びに潤滑効果および細胞再生効果を及ぼす製剤があった。しかしながら、ヒト皮膚の表皮層および真皮層において観察されるヒアルロン酸は、半減期が約1日と非常に短く、および分子量の違いによってその活性は大幅な変動を呈すると見られる。従って、人体に必要な量のヒアルロン酸を外因的なヒアルロン酸注射のみで満たすことは困難であったと同時に、その作用について懐疑的な見解も提示された。
【0013】
【特許文献1】韓国特許公報第1994−0008033 B1号明細書
【非特許文献1】「Report of the National Eye Institute/Industry Workshop on Clinical Trials in Dry Eyes」(1994年)
【非特許文献2】American Journal of Ophthalmology、140、507頁、2005年
【非特許文献3】American Journal of Ophthalmology、137、337−342頁、2004年
【非特許文献4】MARTINDALE、1989年、1627頁
【非特許文献5】Journal of Ocular Pharmacology & Therapeutics 21(2)、139−148頁、2005年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、本発明は、上記の問題およびいまだ解消されない他の技術的問題を解決するためのものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述したような事実に基づく様々な広範且つ集中的な研究および実験の結果として、本発明の発明者らは、ウリジンおよびその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の物質を活性成分として含んでなる組成物および医薬製剤の使用が、意外にもヒアルロン酸(HA)の合成を促進したことを確認しており、これは人体に無害であるとともに様々な薬理効果を有し、かつ結果的に眼球乾燥症候群の根本的な処置および/または予防を提供し得るものである。本発明はこれらの発見に基づき完成された。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の態様に従えば、上記および他の目的は、ウリジンおよびその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の物質を活性成分として含んでなる眼球乾燥症候群の処置および/または予防用組成物を提供することにより実現される。
【0017】
上述されるとおり、本発明に係る組成物はウリジンまたはその誘導体を含有し、このときウリジンまたはその誘導体は人体の細胞または組織によるヒアルロン酸の産生を誘発することによって内因性ヒアルロン酸の合成を継続的に促進するため、眼に対しヒアルロン酸が継続的に補給されるようになり、これが強力な保湿成分として働く。更に、ウリジンまたはその誘導体はヒアルロン酸合成の促進に加え、様々な種類のグリコサミノグリカン(GAG)の合成を促進するとともに一酸化窒素(NO)の産生を阻害する。
【0018】
本明細書で使用されるとき、用語「グリコサミノグリカン」は概して、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、ケラチンなどのムコ多糖類を参照し、これらは、潤滑効果、創傷治癒効果および保湿効果を提供可能であるとともに、従って眼球乾燥症候群を含むムコ多糖類の欠乏により生じる様々な疾患の処置において効果的に使用され得る。従って、本発明に係るウリジンおよびその誘導体を含有する組成物は眼球乾燥症候群の処置または予防に対し優れた治療効果を及ぼし得る。
【0019】
一酸化窒素(NO)は細胞および組織中の炎症関連因子である。炎症病巣においては、炎症の発症に関わるタンパク質である誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)の発現が増加し、これが結果的に一酸化窒素の産生増加をもたらして炎症を悪化させる。それゆえ、一酸化窒素産生の低減が効果的な炎症の治療法として認められている。その一方で、眼球乾燥症候群は創傷誘導性の炎症も伴う。従って、本発明に係るウリジンおよびその誘導体は一酸化窒素の産生を減少させ得るか、または一酸化窒素を効果的に除去し得るとともに、結果として、眼球乾燥症候群の炎症処置に対し優れた効果を及ぼし得る。
【0020】
結果的に、本発明の組成物は、眼球乾燥症候群の処置および/または予防、炎症の調節および傷害された角膜上皮細胞および角膜実質細胞の回復を提供し、ひいては上皮細胞障害の処置が可能であるとともに、従って二次的因子により引き起こされる角膜上皮障害の処置にもまた有益であり得る。
【0021】
更に、従来の外因的ヒアルロン酸の直接的な注射は単に局所的(局部的)な効果が得られるに過ぎず、ひいては提供される治療効果が限られている。本発明に係るウリジンおよびその誘導体を含有する組成物は、従来技術により被るこれらの問題を解決し得るとともに、経口投与を含む様々な経路を介したその投与を可能にすることで迅速な治療効果および安全な処置を実現する。
【0022】
ウリジンはRNAの構成に必要な4つのリボヌクレオシドの1つで自然界に広く分布し、分子量は約244.20であるとともに分子式はC12である。これまでに知られているウリジンの薬理活性は次のようなものである。例えば、ウリジンを生体内投与すると、ウリジンはウリジンキナーゼの触媒作用によりウリジン5’−リン酸(phospate)に変換されることが知られており、従って酵素欠乏またはピリミジンヌクレオチド欠乏および核酸合成の欠乏に有用であるとともに、ひいてはオロト酸尿症(orotic acidonuria)を軽減する薬物として有用であり得る(非特許文献4)。加えて、ウリジンはコラーゲン関節炎の治療薬として使用され得ることも知られ(特許文献1、韓国グリーン・クロス社(Green Cross Holdings Corp.)に譲渡された)、または他の薬理活性物質との合成製剤の形態のウリジンは、脳血管疾患、肝疾患、末梢神経障害および組織低酸素症の処置にも使用され得る。しかしながら、上述の公刊物または特許のうち、本発明において実証されるとおり、ヒアルロン酸合成の促進を介した眼球乾燥症候群の予防および処置を開示または提言したものはない。
【0023】
本発明者らは、ウリジンまたはその誘導体がヒアルロン酸の合成並びにグリコサミノグリカンの合成を促進するとともに一酸化窒素(NO)の産生を阻害し、従って眼球乾燥症候群の目覚しい処置が可能であることを新規に発見した。これらの発見および事実はまた、以下の例を通じて実証され得る。
【0024】
具体的には、本発明者らは、角膜実質細胞および上皮細胞におけるヒアルロン酸およびグリコサミノグリカン産生の促進および一酸化窒素(NO)産生の阻害に対するウリジンおよびその誘導体の活性を計測し、結果として、ウリジンおよびその誘導体が眼球乾燥症候群の処置において上皮細胞の修復を伴う優れた効果を呈することを確認した。他方で、ウリジンまたはその誘導体が点眼剤および経口製剤のいずれとしても優れた治療活性を呈するとともに、ヒアルロン酸およびグリコサミノグリカン産生の促進度および一酸化窒素(NO)産生の阻害度がウリジンまたはその誘導体の濃度と相関することを確認した。
【0025】
結果として、ウリジンおよび/またはその誘導体を活性成分として含有する眼球乾燥症候群の予防および処置用組成物は上皮細胞の回復を通じて眼球乾燥症候群を予防および処置し得るとともに、ひいては眼球乾燥症候群に付随する数多くの疾患向けの様々な治療薬として開発され得ることが考えられる。本発明に係る眼球乾燥症候群の予防および処置用組成物は、上記のウリジンおよび/またはその誘導体を活性成分として含んでなるとともに、必要に応じて薬学的に許容可能な担体の添加を伴い、眼球乾燥症候群の予防薬および治療薬として調合されてもよい。
【0026】
本発明の組成物に使用され得るウリジン誘導体の例としては、限定はされないが、ウラシル、ウリジン一リン酸、ウリジン二リン酸、トリアセチルウリジン、トリベンゾイルウリジン、5−エチルウリジン、2−デオキシウリジン、イソプロピリデンウリジンおよびこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、好ましくは1種以上の物質を挙げることができる。
【0027】
ヒアルロン酸の合成を誘発可能な範囲である限り、活性成分、即ちウリジンまたはその誘導体の含量に特別な制限はない。活性成分の含量は、組成物の総重量を基準として、好ましくは0.1〜20重量%、より好ましくは1〜10重量%の範囲であり得る。
【0028】
好ましくは、本組成物は薬学的に許容可能な担体または媒体を含有する医薬組成物であり得る。
【0029】
本発明の医薬組成物の好適な用量は、調合方法、投与様式、患者の年齢、体重および性別、病理学的状態、食事、投与時間、投与経路、排泄率および応答に対する感度など、様々な因子に応じて変化し得る。
【0030】
ウリジンまたはその誘導体は臨床投与時に経口または非経口経路を介して投与され得るとともに一般的な医薬調剤の様々な形態で使用され得る。即ち、本発明の組成物は実際の臨床投与時に様々な経口および非経口調剤の形態で投与されてもよい。組成物を所望の剤形に調合するとき、調剤は、従来の充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、および希釈剤または界面活性剤などの媒体を使用して調製される。経口投与用固形調剤としては、例えば、錠剤、丸薬、粉末、顆粒およびカプセルが挙げられるとともに、ウリジンまたはその誘導体を、デンプン、炭酸カルシウム、スクロース、ラクトースおよびゼラチンなどの1種以上の媒体と混合することにより調製される。単純な媒体に加え、ステアリン酸マグネシウムおよびタルクなどの潤滑剤が使用されてもよい。経口投与用液体調剤としては、懸濁液、内服用溶液、乳剤およびシロップを挙げることができる。水および流動パラフィンなどの一般的に使用される単純な希釈剤に加え、上述の調剤は様々な媒体、例えば湿潤剤、甘味剤、香料および防腐剤を含有し得る。非経口投与用調剤としては、滅菌水溶液、非水性溶媒、懸濁液、乳剤、凍結乾燥調剤および坐薬が挙げられる。非水性溶媒および懸濁液としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油などの植物油、エチルオレートなどの注射用エステル等が使用され得る。坐薬用基剤としては、ウイテプゾール、マクロゴール、Tween61、カカオ脂、ラウリン脂、グリセリンおよびゼラチンが使用されてもよい。
【0031】
投与量単位は、個別用量の1倍、2倍、3倍または4倍量、または個別用量の1/2倍、1/3倍または1/4倍量を含有してもよい。好ましくは、個別用量は1回に投与される量の活性薬物を含有するとともに、典型的には1日に投与される総量、またはその1/2倍、1/3倍または1/4倍量に相当する。ウリジンまたはその誘導体の効果的な用量は濃度に依存するが、好ましくは0.1〜1,000mg/kg、より好ましくは0.4〜200mg/kgの範囲であるとともに1日1〜6回投与されてもよい。
【0032】
好ましくは、本組成物は、1種以上の化粧品的または栄養的に許容可能な担体または媒体を含有する組成物として調合され得る。即ち、本組成物は、化粧品または化粧品添加剤、飲料または飲料添加剤、または食品若しくは食品添加剤の形態の眼球乾燥症候群の予防および処置用組成物として調製され得る。
【0033】
本発明の別の態様に従えば、ウリジンまたはその誘導体を活性成分として含有する、眼球乾燥症候群を予防および/または処置するための機能性健康食品が提供される。本発明の明細書全体を通じて使用される用語「機能性健康食品」は、ウリジンまたはその誘導体が一般食品に添加されその機能が改善される食品を参照する。ウリジンまたはその誘導体は一般食品に添加されてもよく、またはカプセル、粉末、懸濁液などの形態に調製されてもよい。ウリジンまたはその誘導体を含有するかかる機能性健康食品の摂取により健康に有益な効果がもたらされるとともに、従来の薬物と異なり食品原料が原料として使用されるため、薬物の長期使用時に起こり得る有害な副作用がないという利点を呈する。
【0034】
本発明のウリジンまたはその誘導体を食品添加剤として使用することが所望される場合、ウリジンまたはその誘導体は単独で添加され得るか、または他の食品または食品成分と併用され得るか、または他の従来の方法に従い適切に使用されてもよい。活性成分の混合量は使用目的(予防薬、健康上または治療上の処置)に応じて好適に決定され得る。概して、ウリジンまたはその誘導体の混合を伴う食品または飲料の製造時、これらの物質は好ましくは、原料の総重量を基準として0.1〜20重量%の量で添加され得る。しかしながら、健康および衛生上の目的または健康管理から長期摂取が意図される場合、上述の量のウリジンまたはその誘導体は上記に指定された範囲未満に調整されてもよい。加えて、本発明の健康食品は好ましくは、それが上述されるとおり医薬組成物として用いられる場合には、ウリジンまたはその誘導体を規定の毒性範囲内に収まる量で含有する。
【0035】
上述の食品の種類に特別な制限はない。ウリジンまたはその誘導体が添加され得る食品の例として肉類、ソーセージ、パン、チョコレート、キャンデー、スナック、菓子類、ピザ、ラーメン、他の麺類、ガム、脱脂粉乳、乾燥食品、ローフード、乳酸菌発酵乳およびアイスクリームを含む乳製品、各種スープ、飲料、茶、飲み物、アルコール飲料およびマルチビタミン製剤を挙げることができる。具体的には、ウリジンまたはその誘導体を含有する健康食品の例として、ウリジンまたはその誘導体を主成分として作られる圧搾液、茶、ゼリーおよびジュースなどの健康食品および特定の嗜好品を挙げることができる。加えて、浮腫、腎炎および尿道炎を処置すべき標的疾患または障害とする民間薬を挙げることができる。
【0036】
本発明のウリジンまたはその誘導体を化粧品原料として使用することが所望される場合、それらは単独で添加され得るか、または他の化粧品成分と併用され得るか、または他の従来の方法に従い適切に使用され得る。活性成分の混合量はその使用目的に応じて好適に決定され得る。概して、ウリジンまたはその誘導体を使用する化粧品の製造においては、これらの物質は好ましくは、原料の総重量を基準として0.1〜20重量%の量で添加され得る。化粧品としては、限定はされないが、アフターシェーブ剤、ローション、クリーム、パックおよびカラー化粧品が挙げられる。
【0037】
本発明の更に別の態様に従えば、活性成分としての上述の組成物、および1種以上の薬学的に許容可能な担体または媒体を含んでなる眼球乾燥症候群の予防および/または処置用製剤が提供される。
【0038】
従って、上述の製剤は、必要に応じて、薬学的に許容可能な担体、希釈剤、媒体またはこれらの任意の組み合わせを含有し得る。これらの成分は活性成分の生物体への投与を促進する。
【0039】
担体は、標的細胞または組織への当該化合物または物質の添加を促進する化合物として定義される。担体の種類に特別な制限はないが、担体は好ましくは、所望の調剤に応じて当該技術分野において従来から使用されるもの、例えば、デンプン、ラクトース、マンニトール、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチおよび無機塩類などの固体担体、蒸留水、生理食塩水、含水グルコース溶液(aqueous glucose solution)、アルコール類、例えばエタノール、プロピレングリコール、およびポリエチレングリコールなどの液体担体、および各種動物油および植物油、白色ワセリン、パラフィンおよびワックスなどの油性担体からなる群から選択される少なくとも1つであり得る。
【0040】
媒体の例としては、ラクトース、スクロース、マンニトールおよびソルビトールなどの充填剤、コーンスターチ、小麦デンプン、コメデンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、および/またはポリビニルピロリドン(PVP)などのセルロース系物質を挙げることができる。
【0041】
本組成物の医薬調剤としての調製は、当該技術分野において周知の従来の方法により行われ得る。好ましくは、医薬調剤は、薬学的に許容可能な経口、外用、経皮または経粘膜製剤であり得る。例えば、医薬調剤は、散剤、顆粒、溶液、丸薬、トローチ、懸濁液、乳剤、シロップ、錠剤、粉末、軟カプセル、硬カプセル、懸濁液、注射用製剤または乳化液、または非経口投与用の単回または頻回用量製剤であり得る。より好ましくは、医薬調剤は経口製剤または点眼剤であり得る。特に、本発明に係る経口製剤は、点眼剤の使用にほぼ匹敵する優れた効果を及ぼし得る。かかる事実は以下の例を通しても確認され得る。
【0042】
上記および他の目的、特徴および本発明の他の利点は、以下の詳細な説明を添付の図面と併せて検討することで明確に理解されるであろう。
【実施例】
【0043】
ここで、本発明は以下の実施例を参照してより詳細に記載されることとなる。これらの実施例は本発明を説明するためだけに提供されるとともに本発明の範囲および精神を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0044】
実施例1:角膜実質細胞および角膜上皮細胞の単離
取り出された角膜組織から眼血管が除去された。次に取り出された組織が5%抗生物質−PBSで洗浄され、3mlの1×トリプシン(0.05%)/EDTA(0.01%)中に入れられた後、37℃で80分間の振盪インキュベーションに供された。得られた懸濁液はプールされ、SHEM培地(10%FBS含有DMEM/F12(1:1)+0.5%PS+4mMのL−グルタミン+10ng/mLのEGF+5μg/mLのインスリン+30ng/mLのコレラ毒素+0.18mMのアデニン+2nMの3,3’,5−トリヨード−L−チロニンナトリウム塩+0.4μg/mLのヒドロコルチゾン)で洗浄されたうえ、1,200rpmで5分間遠心された。この時点で、1.2U/mLのディスパースIIが上皮として使用した後の残りの組織に添加され、単離された細胞が37℃で2時間インキュベートされた。次に、1.2U/mLのディスパースIIが除去されたうえ200U/mLのI型コラゲナーゼ(5ml)が細胞上で処置され、次に細胞が37℃で振盪インキュベーションに供された。細胞懸濁液がプールされ、培養培地(10%FBS含有DMEM/F12(1:1)+1%PS)で洗浄され、1,200rpmで5分間遠心されたうえシャーレ上に置かれた。
【0045】
実施例2:角膜実質細胞におけるヒアルロン酸の産生に対するウリジンの効果
角膜実質細胞が細胞のウリジン(0μM〜10μM)による処置によって48時間刺激された。100μlの細胞培養物を収集し、100μlのビオチン化ヒアルロン酸結合タンパク質(b−HABP、50ng/mL)と室温で1時間反応させた。
【0046】
実験前日、20μg/mLのHAおよび20mMのNaCO溶液が96ウェルプレートに添加された後、プレートは冷蔵庫に24時間貯蔵されたうえ標準アッセイ緩衝液(SAB)で3回洗浄された。1%BSAが96ウェルプレートに添加された後、プレートを室温で90分間反応させたうえSABで3回洗浄することによりHAコーティングプレートを調製した。
【0047】
上記で調製された細胞培養物をHA−コーティングプレートに添加し、室温で1時間攪拌しながら反応させた。その後、こうして反応させた細胞培養物をSABで3回洗浄した後、エクストラアビジンアルカリホスファターゼ(1:80000)を添加し、室温で30分間反応させ、SABで3回洗浄した。100mMのNaClおよび5mMのMgCl中の1mg/mLの二ナトリウムp−ニトロフェニル溶液を細胞培養物に添加し、次にこれを20〜60分間反応させた。その後、3NのNaOHを添加して反応を終了させ、ヒアルロン酸量を405nmで計測した。こうして得られた結果を図1に示す。
【0048】
図1に示されるとおり、角膜実質細胞のウリジンによる処置がウリジン濃度5μMまでは濃度依存的様式でヒアルロン酸の産生を促進したことが確認された。
【0049】
実施例3:角膜実質細胞におけるグリコサミノグリカンの産生に対するウリジンの効果
角膜実質細胞が、細胞のウリジン(0μM〜50μM)による処置によって48時間刺激された。細胞培養物が収集され、グリコサミノグリカン量がバイオカラー(Biocolor)アッセイキットを使用して550nmで計測された。こうして得られた結果を図2に示す。図2に示されるとおり、角膜実質細胞のウリジンによる処置がウリジン濃度1μMからは濃度依存的様式でグリコサミノグリカンの産生を促進したことが確認された。
【0050】
実施例4:角膜実質細胞における一酸化窒素(NO)の産生に対するウリジンの効果
角膜実質細胞が100μMのHで刺激された後ウリジン(0μM〜100μM)で48時間刺激された。100μlのグリース試薬(4μg/mL)を細胞懸濁液に添加し、得られた混合物を室温で15分間攪拌しながら反応させた。一酸化窒素(NO)量が540nmで計測された。こうして得られた結果を図3に示す。図3に示されるとおり、角膜実質細胞のウリジンによる処置がウリジン濃度50μMまでは濃度依存的様式で一酸化窒素(NO)の産生を阻害したことが確認された。
【0051】
実施例5:角膜実質細胞の増殖に対するウリジンの効果
角膜実質細胞が96ウェルプレートでインキュベートされ、ウリジン(0μM〜10μM)で48時間刺激された。細胞計数が細胞計数キット−8(CCK−8)を使用して450nmで行われた。こうして得られた結果を図4に示す。図4に示されるとおり、角膜実質細胞のウリジンによる処置が0.1μM以上のウリジン濃度で細胞の増殖を促進したことが明らかとなった。
【0052】
実施例6:角膜上皮細胞におけるグリコサミノグリカンの産生に対するウリジンの効果
眼球上皮細胞がウリジン(0μM〜50μM)による処置によって48時間刺激された。細胞培養物が収集され、グリコサミノグリカン量がバイオカラー(Biocolor)アッセイキットを使用して550nmで計測された。こうして得られた結果を図5に示す。図5に示されるとおり、上皮細胞のウリジンによる処置が濃度依存的様式でグリコサミノグリカンの産生促進を呈したことが確認された。
【0053】
実施例7:角膜上皮細胞における一酸化窒素(NO)の産生に対するウリジンの効果
眼球上皮細胞が100μMのHにより刺激された後、ウリジン(0μM〜100μM)により48時間刺激された。100μlのグリース試薬(4μg/mL)を細胞懸濁液に添加し、得られた混合物を室温で15分間攪拌しながら反応させた。一酸化窒素(NO)量が540nmで計測された。こうして得られた結果を図6に示す。図6に示されるとおり、眼球上皮細胞のウリジンによる処置が濃度依存的様式で一酸化窒素(NO)の産生を阻害したことが確認された。
【0054】
実施例8:動物生体内実験
ウサギ涙腺へのコンカナバリンAの注射を介して眼炎症を引き起こすことにより眼球乾燥症候群が誘発された(非特許文献5)。ウリジンをリン酸緩衝生理食塩水中にそれぞれ5%および10%濃度まで溶解させて得られた溶液が点眼剤として使用された。市販の0.1%ヒアルロン酸製剤が陽性対照群として使用され、およびリン酸緩衝生理食塩水が対照群として使用された。1%および5%ウリジン製剤、ヒアルロン酸製剤およびリン酸緩衝生理食塩水がそれぞれドライアイを誘発させたウサギの眼に点眼されたうえ眼細胞の細胞診所見が行われ、眼球乾燥症候群の軽減が確認された。こうして得られた結果を図7に示す。
【0055】
図7に示されるとおり、ウリジンを使用した点眼剤が、眼細胞の細胞診所見において陽性対照群および対照群と比較したとき顕著な上皮細胞の修復を呈したことが確認された。
【0056】
実施例9:臨床試験
ドライアイの他に眼疾患を有さず、従来の薬物を少なくとも2ヶ月間投与してもそれ以上病態の寛解を呈さず、涙液分泌検査(シルマー試験)で涙液の分泌が5mm未満であり、鼻涙管閉塞を含む外科的処置が必要なドライアイ患者から書面による被験者用インフォームドコンセント用紙を得た後、患者に対しウリジン(100mg/日)を含有する経口製剤およびウリジンを含有しない経口プラセボ製剤が二重盲検法により1日3回、3ヶ月間経口投与された。処置開始時点および処置開始後2週間、1ヶ月、2ヶ月および3ヶ月において、角膜の症状および病態の変化および有害な副作用の有/無が、細隙灯顕微鏡検査、眼圧の計測、検眼鏡検査、シルマー試験、細胞診所見および眼球前部の分析写真により客観的に評価された。加えて、個々の患者の主観的な質問表が準備され、患者の自覚症状の変化および有害な副作用の有/無が観察された。
【0057】
図8は涙液分泌検査(シルマー試験)の結果を示すグラフであり、および図9は角膜染色の結果を示すグラフである。図8および9を参照すると、ウリジン投与群はシルマー試験および角膜染色において顕著な差を呈したことから、ウリジンの点眼剤および経口製剤のいずれとしての適用も眼球乾燥症候群の処置に治療上有効であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0058】
前述から明らかなとおり、ウリジンおよびその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の物質を活性成分として含んでなる本発明の組成物および医薬製剤の使用は、ヒト細胞内および体内におけるヒアルロン酸の合成を促進するとともに、従って眼球乾燥症候群を予防および処置することができる。
【0059】
本発明の好ましい実施形態が例示目的で開示されたが、当業者は、付属の特許請求の範囲に開示されるとおりの本発明の範囲および精神から逸脱することなく、様々な修正、追加および差換えが可能であることを理解するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】異なるウリジン濃度に応じた角膜実質細胞におけるヒアルロン酸合成度を示すグラフである。
【図2】異なるウリジン濃度に応じた角膜実質細胞におけるグリコサミノグリカン合成度を示すグラフである。
【図3】異なるウリジン濃度に応じた角膜実質細胞における一酸化窒素(NO)の産生に対するウリジンの効果を示すグラフである。
【図4】角膜実質細胞の増殖に対するウリジンの効果を示すグラフである。
【図5】異なるウリジン濃度に応じた眼球上皮細胞におけるグリコサミノグリカン合成度を示すグラフである。
【図6】眼球上皮細胞における一酸化窒素(NO)の産生に対するウリジンの効果を示すグラフである。
【図7】ドライアイを誘発させたウサギのウリジン点眼剤による処置後のドライアイの症候の軽減について、処置群と対照群との間で比較するグラフである。
【図8】ドライアイ患者へのウリジン経口投与後の涙液分泌試験(シルマー試験)の結果を示すグラフである。
【図9】ドライアイ患者へのウリジン経口投与後の角膜染色の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウリジンおよびその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の物質を活性成分として含んでなる眼球乾燥症候群の予防および/または処置用組成物。
【請求項2】
前記ウリジン誘導体が、ウラシル、ウリジン一リン酸、ウリジン二リン酸、トリアセチルウリジン、トリベンゾイルウリジン、5−エチルウリジン、2−デオキシウリジン、イソプロピリデンウリジンおよびこれらの任意の組み合わせからなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記活性成分の含量が、前記組成物の総重量を基準として0.1〜20重量%の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
化粧品学的に許容可能な担体または媒体を含有する化粧品組成物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
栄養学的に許容可能な担体または媒体を含有する食品または飲料組成物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
薬学的に許容可能な担体または媒体を含有する医薬組成物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
活性成分としての請求項1に記載の組成物、および1種以上の薬学的に許容可能な担体または媒体を含んでなることを特徴とする眼球乾燥症候群の予防および/または処置用治療製剤。
【請求項8】
前記担体が、
デンプン、ラクトース、マンニトール、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩などの固体担体;
蒸留水、生理食塩水、グルコース水溶液、エタノール、プロピレングリコールなどのアルコールおよびポリエチレングリコールなどの液体担体;および
各種動物および植物油、白色ワセリン、パラフィン、ワックスなどの油性担体
からなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする請求項7に記載の製剤。
【請求項9】
前記活性成分の含量が0.1〜20重量%の範囲であることを特徴とする請求項7に記載の製剤。
【請求項10】
散剤、顆粒、溶液、丸薬、トローチ、懸濁液、乳剤、シロップ、錠剤、粉末、軟カプセル、硬カプセル、懸濁液、注射用製剤、乳化液または非経口投与用単回若しくは頻回用量製剤であることを特徴とする請求項7に記載の製剤。
【請求項11】
経口製剤または点眼剤であることを特徴とする請求項7に記載の製剤。
【請求項12】
薬学的に許容可能な媒体を含有することで、食用飲料、食品または化粧品の形態で調合し得ることを特徴とする請求項10に記載の製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2009−517380(P2009−517380A)
【公表日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−542227(P2008−542227)
【出願日】平成18年11月18日(2006.11.18)
【国際出願番号】PCT/KR2006/004866
【国際公開番号】WO2007/061200
【国際公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(504435416)エムディー バイオアルファ カンパニー リミテッド (6)
【Fターム(参考)】