説明

着色層付きガラス板の製造方法

【課題】自動車用窓ガラス板などの機械的、化学的耐久性が高度に要求される部位へも適用が可能な着色層付きガラス板の製造方法の提供。
【解決手段】ポリシラザンと、平均粒子径200nm以下の顔料微粒子と、有機溶媒とを含む組成物を、ガラス基板の少なくとも一方の表面に塗布した後、塗膜を硬化させることを特徴とする着色層付きガラス板の製造方法。JIS−R3212(1998年)により定められる方法によって、前記着色層に対してCS−10F摩耗ホイールで1000回転の摩耗試験を行った際の、試験前後の曇価の増加量が5%以下であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着色層付きガラス板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両用ガラス板や建築用ガラス板、眼鏡用ガラス板向けに、透明性を保持しつつ、所望の色に着色したガラスの提供が求められている。特に、自動車用ガラス板においては、使用される部位や用途によって様々な色調が要求されるようになってきている。たとえば、車体の色との一体感を出し、高級感を持たせたい場合のブルー系、ブロンズ系のガラス(たとえば、特許文献1)、主に女性向けには肌がきれいに見えるピンク系のガラス(たとえば、特許文献2)、運転中の眩しさを低減し視認性を高めたい場合のイエロー系のガラス(たとえば、非特許文献1)などが挙げられ、実用化されつつある。
【0003】
このうち、特許文献1に記載されたブルー系の着色ガラス板は、車内側からガラス板を見た場合にはグレー色調のガラス板であり、車外側からガラス板を見た場合にはメタリックブルー色調のガラス板である。自動車の車体色には、多くのメタリック色調のものが見られるため、特許文献1に記載されたガラス板を自動車窓に用いることにより、多くの車種の自動車について車体色との一体感が得られる。
【0004】
また、非特許文献1に記載があるように、イエロー系のガラスは、散乱しやすい波長の短い光を遮断することにより、視界のボケを防止でき、視認性を向上できる。このような効果を期待して、運転者がイエロー系のサングラスを使用する効果が多く見られ、同様に自動車窓用のガラス板をイエロー系の色調にすることで視認性を向上させた窓ガラスになると考えられる。
【0005】
上記のような着色ガラスを製造する方法としては、大きく分けて2つの方法が考えられる。一つは、ガラス溶融素地に着色成分となる金属イオンを添加することによりガラス板そのものを着色する方法であり、他方はガラス表面に着色性の被膜を成膜する方法である。前者の方法は、同じ色のガラス板を大量に製造する場合には低コストで生産できるため好ましく、実際、多くの車両用、建築用の着色ガラス板がこの方法により製造されている。しかしながら、この方法によって発現できる色調には制限があり、また少量多品種といったニーズに応えることは困難であった。
【0006】
一方、後者の方法は、被膜中に着色成分を添加することによってガラス板を着色するため、着色成分の選択によって非常に多岐にわたる色調の発現が可能であり、また少量多品種の生産に好適に用いられる。ただし、被膜の機械的耐久性が弱くなりやすいという問題があった。
【0007】
この問題を解決するため、有機樹脂マトリックスと比較して耐久性に優れた無機質のマトリックスをゾルゲル法により作製し、該マトリックス中に遷移金属を溶解させてガラス板面上に着色被膜を形成する方法が提案されてきている(特許文献3、4参照)。しかし、これらの方法においては所望の色調を発色させ、また被膜の耐久性を高めるために高温(300℃以上)での加熱処理を行う必要があるため、ガラス板の使用部位によっては適用が困難であったり、また耐熱性の低い有機系の着色成分は使用できないという問題もあった。
【0008】
【特許文献1】特開2004−213112(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平11−228176(特許請求の範囲、実施例)
【特許文献3】特開平9−30836号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開2000−281384号公報(特許請求の範囲)
【非特許文献1】日本眼科紀要、1992年、第43巻、第1号、80頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記問題点に鑑み、本発明は、低温での硬化で十分な耐久性を有する着色層付きガラス板を得るための製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ポリシラザンと、平均粒子径200nm以下の顔料微粒子と、有機溶媒とを含む組成物を、ガラス基板の少なくとも一方の表面に塗布した後、塗膜を硬化させることを特徴とする着色層付きガラス板の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の着色層付きガラス板の製造方法によれば、従来法のような高温での加熱処理が不要となり、また塗布−低温硬化からなる1回の成膜プロセスによって十分な耐久性を有する着色層付きガラス板を製造できる。そのため、特に自動車用窓ガラス板などの製造において製造方法の簡易化、製造コストの低減が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明の構成要素について詳細に説明する。
本発明の製造方法において、ポリシラザンは、着色成分となる顔料微粒子の結合剤又は分散媒として働いて被膜硬度を高め、着色層の高い機械的、化学的耐久性を発現させるとともに、ガラス基板の表面への着色層の密着性を付与する構成成分である。ポリシラザンとは、−SiR−NR−SiR−(R、Rは、それぞれ独立に水素もしくは炭化水素基を表し、複数のRは異なっていてもよい)で表される構造を有する線状又は環状の化合物の総称であり、加熱あるいは水分との反応によってSi−NR−Si結合が分解してSi−O−Siネットワークを形成する材料である。テトラアルコキシシランなどから得られる酸化ケイ素系被膜と比較して、ポリシラザンから得られる酸化ケイ素系被膜は高い機械的耐久性やガスバリヤ性を有する。なお、上記の反応は通常300℃程度までの加熱では完全に進行するわけではなく、膜中にSi−N−Si結合、もしくは他の結合形態で窒素が残り、少なくとも一部に酸窒化ケイ素が生成していると考えられる。また、このような窒素原子を含む酸化ケイ素についての質量比(後述する質量比[顔料微粒子]/[SiO]等)は、ケイ素原子の全てが酸化ケイ素のケイ素原子であるとして計算した数値(酸化ケイ素に換算した数値)をいう。
【0013】
また、本発明においてポリシラザンとしては、上記化学式でR=R=Hであるペルヒドロポリシラザン、R=メチル基等の炭化水素基、R=Hである部分有機化ポリシラザン、及びこれらの混合物が好ましく用いられる。これらのポリシラザンを用いて形成される紫外線遮蔽層は機械的強度及び酸素バリヤ性が高いため非常に好適である。特に好ましいポリシラザンはペルヒドロポリシラザンである。
また、200℃以下の温度で効率よく硬化を促進させるため、上記のポリシラザンに対し、金属錯体やアミン系の硬化触媒を同時に添加することが好ましい。
【0014】
ポリシラザンの分子量は、500〜5000程度が好ましい。分子量が500以上であることで、硬化が有効に進行しやすくなる。一方、分子量が5000以下であることで、硬化時の架橋点の数が適度に保たれ、着色層中にクラックやピンホールが発生することを防止できる。
【0015】
ポリシラザンを硬化して得られるマトリックス(以下、単にマトリックスともいう)は、無機質の酸化ケイ素を主体とするマトリックスであり、このマトリックスは着色層に非常に高い機械的、化学的耐久性を付与する。
【0016】
このとき、酸化ケイ素を主体とする、とは、酸化ケイ素よりモル比で多くの量を含む他の成分が該マトリックス中に含まれないことを意味しており、厳密な意味でのSiOとなっている必要はない。具体的には、ガラス質を維持できる他の金属原子、たとえばガラス網目形成成分、もしくは中間成分であるB、Al、Zr、TiなどがSiのモル量よりも少量含まれていてもよい。これら少量成分の含有割合は、質量比で5%以下であることが好ましい。
【0017】
さらに、マトリックス中にN、Cなどの陰イオン成分がOのモル量よりも少ない量で含まれていてもよい。なかでも、マトリックス中にSiに対して1原子%以上のNを含むと、着色層の機械的耐久性が高まることがあるため好ましい。一方、マトリックス中のNの含有割合をSiに対して20原子%以下とすると、ガラス基板の表面に着色層を充分に密着できるため好ましい。
【0018】
次に、平均粒子径200nm以下の顔料微粒子は、着色層付きガラス板に所望の色を付与するための着色成分として働く構成成分である。
この顔料微粒子は、平均粒子径が200nm以下であることが非常に重要である。ここで、平均粒子径とは液中に存在する顔料粒子の分散粒子径を表しており、動的光散乱方式粒度分布計で測定されるメジアン径を用いている。平均粒子径が200nm以下であることで、被膜の透明性を発現させることができ、また、被膜の機械的耐久性を維持しやすくなる。より好ましい平均粒子径は150nm以下であり、さらに好ましくは100nm以下である。平均粒子径の下限は10nmであることが好ましい。これより粒子径が小さくなると、着色力が低下する恐れがあるからである。
【0019】
後述のとおり、本発明の製造方法においては従来のような高温(300℃以上)での加熱処理を行わないため、耐熱性の高い無機系顔料はもちろん、耐熱性が低いとされる有機顔料をも使用することが可能である。なかでも、特に昨今の液晶モニターのカラーフィルター材料として技術革新の進んだ有機顔料は、色の自由度や透明性、堅牢度が大きく向上しており、好適に使用される。
【0020】
具体的には、一例を挙げると、ブルー系であればフタロシアニンブルー系有機顔料(PB15:1、15:3、15:6など)や、コバルトブルー(PB28)、紺青(PB27)ウルトラマリン(PB29)などの無機顔料、グリーン系であればフタロシアニングリーン系有機顔料(PG7、PG36)や、コバルトグリーン(PG19)、ビリジアン(PG18)などの無機顔料、イエロー系であればキノフタロン系(PY138)、縮合アゾ系(PY128)、アゾ錯体系(PY150)、イソインドリン(PY139)系の各有機顔料や、ビスマスイエロー(PY184)、チタンイエロー(PY53)などの無機顔料、赤系であればジケトピロロピロール(PR254)系、アントラキノン系(PR177)などの有機顔料や酸化鉄(PR101)などの無機顔料など、また黒色系であればカーボンブラック(PBk7)や銅スピネル系などが挙げられ、所望の色調に合わせてこれらを単独あるいは混合して用いることができる。たとえば、イエロー系顔料とグリーン系顔料を混合することで黄緑色の発色をさせることができる。もちろん、有機顔料と無機顔料とを混合して用いることも可能である。
【0021】
分散媒となる有機溶媒の種類としては、ポリシラザンを溶解させ、かつ顔料微粒子を分散させることができるものであれば特に限定はされないが、好適に使用できる溶媒としては、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ヘキサン、デカヒドロナフタレン等の脂肪族炭化水素、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸ブチル、酢酸プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのエステル類、ジブチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類、ピリジン、アセトニトリル等の含窒素有機溶媒、などが挙げられる。なかでも、溶解力やポリシラザンの安定性等を考慮すると、芳香族炭化水素類、ケトン類、エーテル類が好ましく用いられる。これら有機溶媒は単独でも、混合しても用いうる。分散させるための方法としては、公知の方法を利用でき、超音波分散、ホモジナイザー、ボールミル、ビーズミル、ペイントシェーカーなどのメディアミルや、ジェットミル、ナノマイザーなどの高圧衝撃ミルを利用できる。
また、これら顔料を分散させるために、各種界面活性剤や樹脂成分を添加することも可能である。
【0022】
本発明の組成物中に含まれる顔料微粒子及びポリシラザンの含有比率は、所望の着色度に応じて適宜調整し得るが、質量比で[顔料微粒子]/[SiO]=1/100〜20/100の間にあることが好ましい。上記含有比率を1/100以上とすることで、1回の成膜プロセスにより所望の着色度を有する着色層を得やすくなる。一方、含有比率を20/100以下とすることで、得られる着色層中の顔料微粒子の分散性を高められ、かつ、着色層の機械的、化学的耐久性を維持しやすくなる。上記含有比率が3/100〜20/100の範囲であるとさらに好ましい。
【0023】
また本発明の組成物中には、紫外線吸収性材料を含んでいてもよい。特に、顔料微粒子として耐光性の低い有機系の顔料微粒子を使用した場合には、組成物中に紫外線吸収性材料を含有させることで、顔料微粒子の耐光性を保持でき、好ましい。紫外線吸収性材料としては、紫外線領域に特性吸収を有する材料であれば特に限定はされないが、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ナフタレン系紫外線吸収剤、蛍光増白剤、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化チタン、炭化珪素からなる群から選ばれる1種以上を使用することが好適である。このうち、酸化亜鉛や酸化セリウムといった無機系の紫外線吸収性材料の平均粒子径は、200nm以下であり、微粒子状であることが好ましい。ここで、本明細書において平均粒子径とは、分散液中に存在する微粒子の分散粒子径を指しており、動的光散乱方式粒度分布計で測定されるメジアン径を用いている。紫外線吸収性材料の平均粒子径が200nm以下であることで、着色層の透明性を高く維持できる。より好ましくは、平均粒子径が150nm以下であり、さらに好ましくは100nm以下である。一方、紫外線吸収性材料の平均粒子径が5nm以上であることが、耐光性維持の点で好ましい。
【0024】
また本発明の組成物中には、近赤外線吸収性材料を含んでいてもよい。近赤外線とは、波長800nm〜2000nm程度の太陽光に含まれる赤外線のことを指し、この領域の光を遮蔽することで、断熱性を付与することができる。近赤外線吸収性材料としては、近赤外線領域に吸収を有するものであれば特に指定はされないが、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、アンチモンドープ酸化錫(ATO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛、ホウ化ランタンなどの無機系の近赤外線吸収性材料や、シアニン系、フタロシアニン系、イモニウム系、ジイモニウム系などの有機系の近赤外線吸収性材料が挙げられる。これらのうち、ITO、ATOといった無機系の近赤外線吸収性材料の平均粒子径は、200nm以下であり、微粒子状であることが好ましい。近赤外線吸収性材料の平均粒子径が200nm以下であることで、着色層の透明性を高く維持できる。より好ましくは、平均粒子径が150nm以下であり、さらに好ましくは100nm以下である。一方、近赤外線吸収性材料の平均粒子径が5nm以上であることが、断熱性を発現させやすい点で好ましい。
【0025】
本発明の組成物中に上記のような紫外線吸収性材料や近赤外線吸収性材料を含む場合、その含有比率は、質量比で[顔料微粒子+紫外線吸収性材料+近赤外線吸収性材料]/[SiO]で100/100以下であることが好ましい。上記含有比率が100/100以下であることで、被膜の高い耐久性を維持できるとともに、着色層の透明性を維持でき好ましい。上記含有比率が50/100以下であるとさらに好ましい。
【0026】
また、上記組成物には、塗布性やレベリング性、乾燥性の制御のために、各種界面活性剤や樹脂成分を顔料微粒子の分散を損なわない範囲で含んでいてもよい。
【0027】
これらを含む組成物をガラス基板上に塗布した後、塗膜を硬化させて着色層付きガラス板を製造する。塗布方法は特に限定はされず、ディップコート法、スピンコート法、スプレーコート法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、ロールコート法、メニスカスコート法、ダイコート法など、公知の方法を用いることができる。塗布後、後述する硬化を行う前に、室温〜50℃程度の温度で数分程度静置する、いわゆるセッティングを行うことが、塗膜のレベリング性を向上できるため好ましい。
【0028】
硬化は、好ましくはガラス基板温度が250℃以下となる温度で加熱することにより行う。ガラス基板温度が250℃以下となる温度で加熱を行うことで、顔料自身の分解が起きにくくなる。加熱温度は、より好ましくはガラス基板温度が200℃以下となる温度とする。このとき、加熱時間は特に限定されないが、通常は数分〜数時間で行う。
【0029】
また、硬化触媒を含むポリシラザンを用いた場合には、加熱処理以外に、雰囲気中の水分による硬化も可能である。すなわち、約80%以上の湿度下に数10分〜数日間、もしくは40〜80%の湿度下に数日間〜数週間保持することで、室温付近の温度でも硬化が進行し、充分な強度を持った被膜とすることもできる。
【0030】
本発明に用いるガラス基板は、特に限定はされず、無機系のガラス材料からなるガラス板や、有機系のガラス材料からなるガラス板を例示できる。自動車の窓用、特にウインドシールドや摺動窓用には無機系のガラス材料からなるガラス板を用いることが好ましい。無機系のガラス材料としては、通常のソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等のガラス材料が挙げられる。このとき、無機系のガラス材料として、紫外線や赤外線を吸収するガラスを用いることもできる。本発明においては、コストなどの面から好ましくはソーダライムガラス板を使用する。
【0031】
本発明の製造方法により得られる着色層の層厚は、1〜4μmであることが好ましい。ポリシラザンを硬化させて得られる本発明の着色層は非常に硬質であるため、層厚を厚くすると、特に加熱硬化時に層中に亀裂(クラック)やピンホールが発生しやすくなるが、層厚を4μm以下とすることで、クラックやピンホールの発生を防止できる。一方、上記層厚を1μm以上とすることで、所望の色の着色層を形成でき、また、着色層の耐摩耗性を高く維持できる。より好ましい層厚は1.5〜4μmの範囲である。
【0032】
また、本発明の製造方法を用いると、高い機械的耐久性を有する着色層を形成できる。具体的には、JIS−R3212(1998年)により定められる方法によって、CS−10F摩耗ホイールで1000回転の摩耗試験を行った際の、試験前後の曇価の増加量を5%以下とすることが好ましい。曇価の増加量を5%以下とすることで、当該着色層に対し、ガラス基板自体の耐摩耗性にほぼ匹敵し、かつ終始昇降され摺動される自動車用のドアガラス板などにも充分に使用できる程度に優れた耐摩耗性を付与できる。曇価の増加量は、より好ましくは3%以下とする。
【0033】
以上のように、本発明の製造方法によれば、塗布−低温硬化という1回の簡便なプロセスにより、優れた耐久性を有する着色層付きガラス板を効率よく経済的に製造できる。このとき、無機系のガラス材料からなるガラス板を大気中、650〜700℃近い温度まで昇温し、急冷して強化処理を行って得られる強化ガラスをガラス基板として用いれば、高い耐久性を備えた着色層付きの自動車窓用及び建築用ガラス板を効率よく経済的に製造できるため、特に好ましい。
【0034】
さらに、自動車のフロントガラスなどに用いられる合わせガラスの2枚のガラス板のうち、いずれかのガラス板として、本発明の方法で製造されたガラス板を用いることもできる。この場合、本発明の製造方法で作製された着色層付きガラス板を車外側のガラス板、車内側のガラス板、いずれに用いてもよい。本発明の製造方法により得られる着色層はガラス基板自体の耐摩耗性にほぼ匹敵する耐摩耗性を有するため、車内側ガラス板の内側あるいは車外側ガラス板の外側など、終始露出され機械的及び化学的耐久性が高度に要求される部位にも着色層を設けることができる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の実施例を挙げてさらに説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお、得られた着色層付きガラス板(例1〜7)を以下のとおり評価した。
【0036】
[評価]
1)平均粒子径:動的光散乱式粒度分布計(日機装:UPA―ST150)により粒度分布を測定し、得られたメジアン径(D50)を平均粒子径とした。
2)層厚:下記組成物をガラス板面上に塗布した後、硬化する前の塗膜の一部を剃刀を用いて剥離させておき、ガラス板面が露出するようにした。硬化後に触針式表面粗さ計(Sloan社製:DEKTAK3)を用いて段差を測定して層厚[μm]を得た。
【0037】
3)色調:色彩計(コニカミノルタ社製:CM−3600d)によりc光源、2°視野での主波長(λd)及び刺激純度(ρe)を求めた。
4)曇価(ΔH):ヘイズメータ(東洋精機製作所:ヘイズガードプラス)により同一サンプルについて4点測定し、その平均値をヘイズ値とした。
【0038】
5)耐摩耗性:テーバー式耐摩耗試験機を用い、JIS−R3212(1998年)に記載の方法によって、CS−10F磨耗ホイールで1000回転の摩耗試験を行い、試験前後の傷の程度を曇価(ヘイズ値)によって測定し、曇価の増加量[%]で評価した。
6)耐薬品性:0.05モル/リットルの硫酸溶液及び0.1モル/リットルの水酸化ナトリウム溶液を被膜上に滴下し、25℃で24時間放置したのち水洗して試験前後での外観、特性の変化を追跡した。外観、特性の変化が見られないものを合格とした。
【0039】
[例1]
キシレン中に20wt%の低温硬化型ペルヒドロポリシラザンを含むポリシラザン溶液(数平均分子量:1000、AZエレクトロニックマテリアルズ社製)を20g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート中に15wt%のキノフタロン系黄色顔料(PY138、平均粒子径=109nm)を含む顔料分散液(山陽色素社製)を1.3g、ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤CGL−777MPA−D(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.21g及びシクロペンタノン10gを撹拌しながら混合し、組成物Aを得た。
【0040】
得られた組成物Aを、表面を清浄にしたソーダライムガラス(厚さ2mm、縦10cm、横10cm)上にスピンコート法によって塗布し、室温で5分間セッティングの後、大気中、180℃で60分間乾燥させて着色層付きガラス板を得た。得られた着色層付きガラス板の評価結果を表1に示す。
【0041】
[例2]
上記ポリシラザン溶液を20g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート中に15wt%のフタロシアニングリーン系緑色顔料(PG36、平均粒子径=84nm)を含む顔料分散液(山陽色素社製)を1.3g、ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤CGL−777MPA−D(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.21g及びシクロペンタノン10gを撹拌しながら混合し、組成物Bを得た。
組成物Aに代えて組成物Bを使用した以外は例1と同様にして、着色層付きガラス板を得た。得られた着色層付きガラス板の評価結果を表1に示す。
【0042】
[例3]
上記ポリシラザン溶液を20g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート中に15wt%のキノフタロン系黄色顔料(PY138、平均粒子径=140nm)を含む顔料分散液(日弘ビックス社製)を1.3g、ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤CGL−777MPA−D(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.21g及びシクロペンタノン10gを撹拌しながら混合し、組成物Cを得た。
組成物Aに代えて組成物Cを使用した以外は例1と同様にして、着色層付きガラス板を得た。得られた着色層付きガラス板の評価結果を表1に示す。
【0043】
[例4]
上記ポリシラザン溶液を20g、上記15wt%のキノフタロン系黄色顔料を含む顔料分散液を1.1g、上記15wt%のフタロシアニングリーン系緑色顔料を含む顔料分散液を0.2g、ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤CGL−777MPA−D(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.21g及びシクロペンタノン10gを撹拌しながら混合し、組成物Dを得た。
組成物Aに代えて組成物Dを使用した以外は例1と同様にして、着色層付きガラス板を得た。得られた着色層付きガラス板の評価結果を表1に示す。
【0044】
[例5]
組成物Dに対し、さらにシアニン系赤外線吸収剤IRA870(EXCITON社製)を1質量%添加し、撹拌しながら混合して組成物Eを得た。
組成物Aに代えて組成物Eを使用した以外は例1と同様にして、着色層付きガラス板を得た。得られた着色層付きガラス板の評価結果を表1に示す。
【0045】
[例6]
上記ポリシラザン溶液を20g、キシレン中に15wt%のコバルトブルー顔料(PB28、平均粒子径=94nm)を含む顔料分散液(シーアイ化成社製)を2.6g、ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤CGL−777MPA−D(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)0.21g及びシクロペンタノン10gを撹拌しながら混合し、組成物Fを得た。
組成物Aに代えて組成物Fを使用する以外は例1と同様にして、着色層付きガラス板を得る。着色層付きガラス板の評価結果は表1に示すとおりとなる。
【0046】
[例7]
メチルトリメトキシシラン0.9g及びテトラメトキシシラン9.0gを混合したのち、40℃で溶液を撹拌しながら0.01モル/リットルの硝酸水溶液10.0gを徐々に滴下した。そのまま室温で1時間撹拌を続けて溶液が透明になったことを確認し、溶液Gとした。得られた溶液G20gを撹拌しながら、エタノール中に15重量%のコバルトブルー顔料(PB28、平均粒子径=78nm)が分散した顔料分散液(シーアイ化成社製)2.6gをゆっくりと滴下し、組成物Hを得た。
組成物Aに代えて組成物Hを使用する以外は例1と同様にして、着色層付きガラス板を得る。着色層付きガラス板の評価結果は表1に示すとおりとなる。
【0047】
【表1】

【0048】
本願の実施例1〜6においては、比較例である例7と比較して耐摩耗性に優れた高耐久な着色層付きガラス板が得られたことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の製造方法で得られる着色層付きガラス板は優れた耐久性を有しており、自動車用のドアガラス板など、機械的及び化学的耐久性が高度に要求される部位への適用も可能である。また、本発明の製造方法によれば、優れた耐久性とを両立した着色層付きガラス板を1回の成膜プロセスにより低コストで製造できるので、特に自動車用ガラス板、建材用ガラス板等の作製に好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリシラザンと、平均粒子径200nm以下の顔料微粒子と、有機溶媒とを含む組成物を、ガラス基板の少なくとも一方の表面に塗布した後、塗膜を硬化させることを特徴とする着色層付きガラス板の製造方法。
【請求項2】
前記組成物中の顔料微粒子及び酸化ケイ素に換算したポリシラザンの含有比率が、質量比で[顔料微粒子]/[SiO]=1/100〜20/100である請求項1に記載の着色層付きガラス板の製造方法。
【請求項3】
前記組成物中にポリシラザンの硬化触媒を含む請求項1又は2に記載の着色層付きガラス板の製造方法。
【請求項4】
前記顔料微粒子が有機顔料である請求項1〜3のいずれかに記載の着色層付きガラスの製造方法。
【請求項5】
前記組成物中に、さらに紫外線吸収剤を含む請求項1〜4のいずれかに記載の着色層付きガラス板の製造方法。
【請求項6】
前記組成物中に、さらに近赤外線吸収剤を含む請求項1〜5のいずれかに記載の着色層付きガラス板の製造方法。
【請求項7】
前記着色層の層厚が1〜4μmである請求項1〜6のいずれかに記載の着色層付きガラス板の製造方法。
【請求項8】
JIS−R3212(1998年)により定められる方法によって、前記着色層に対してCS−10F摩耗ホイールで1000回転の摩耗試験を行った際の、試験前後の曇価の増加量が5%以下である請求項1〜7のいずれかに記載の着色層付きガラス板の製造方法。
【請求項9】
前記請求項1〜8に記載の製造方法によって作製された着色層付きガラス板。
【請求項10】
平均粒子径200nm以下の顔料微粒子を含む、ポリシラザンに由来する酸化ケイ素マトリックスからなる、層厚が1〜4μmの着色層を片面又は両面に有するガラス板。

【公開番号】特開2008−201624(P2008−201624A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−39815(P2007−39815)
【出願日】平成19年2月20日(2007.2.20)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】