説明

矢板の圧入工法

【課題】 地盤の掘削時に負荷の偏り及び掘削主軸の振れを防止して地盤に真っ直ぐな掘削孔を形成する。
【解決手段】 回転駆動される掘削主軸9の外周面にケーシング10を外嵌装備すると共に、ケーシング10の外周面に矢板Pを配設支持し、前記掘削主軸9の先端部に、掘削主軸9が掘削方向へ回転したときに地盤Gからの掘削抵抗で掘削主軸9の軸線Oを中心にして均等に拡径し、又、掘削主軸9が前記と反対方向へ回転したときに地盤Gとの摩擦抵抗により矢板Pに衝突しない大きさに縮径するビット部15を備えた掘削工具13をダウンザホールハンマー12を介して取り付けた掘削装置1を用い、当該掘削装置1を起立姿勢で支持し、この状態で回転打撃される掘削工具13のビット部15によって地盤Gを掘削しながらケーシング10及び矢板Pを圧入し、矢板Pの圧入完了後に掘削工具13のビット部15を縮径状態として掘削工具13等を地盤G中から引き抜く。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、玉石混じりの砂礫層や岩盤、転石等が存在する硬質の地盤にU形の鋼製の矢板を圧入する工法に係り、特に、硬質の地盤の掘削と矢板の圧入とを同時に行うようにした矢板の圧入工法の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、硬質の地盤の掘削と矢板の圧入とを同時に行う矢板の圧入工法としては、例えば、特許第2997402号公報(特許文献1)に開示された工法が知られている。
【0003】
即ち、前記矢板の圧入工法は、図7に示す如く、オーガマシン31により回転駆動される掘削主軸32に円筒状のケーシング33を外嵌装備すると共に、前記掘削主軸32の先端部にダウンザホールハンマー34を介して偏心掘削ビット35を取り付けた掘削装置30を用い、U形の鋼製の矢板Pをチャック装置36等によりケーシング33の外周面にケーシング33に沿って配設支持し、オーガマシン31により掘削主軸32を回転駆動して偏心掘削ビット35を回転させると共に、当該偏心掘削ビット35をダウンザホールハンマー34により打撃し、偏心掘削ビット35の回転打撃作用によって地盤Gを掘削しながらケーシング33及び矢板Pを圧入するようにし、矢板Pの圧入完了後に偏心掘削ビット35を矢板Pと衝突しない位置に回転させ、この状態でケーシング33及び偏心掘削ビット35を地盤G中から引き抜くようにしたものである。
【0004】
前記矢板の圧入工法は、掘削主軸32及びダウンザホールハンマー34により回転打撃される偏心掘削ビット35によって地盤Gを掘削し、掘削孔を形成しながら矢板Pを圧入するようにしているため、玉石混じりの砂礫層や岩盤等が存在する硬質の地盤Gの掘削が容易になると共に、硬質の地盤Gへの矢板Pの圧入を迅速且つ容易に行うことができると云う利点がある。
【0005】
又、この矢板の圧入工法は、図8及び図9に示す如く、ビット本体35a及びビット軸部35bから成る偏心掘削ビット35を用いているため、偏心掘削ビット35を矢板Pに衝突することなく地盤G中から引き抜くことができると共に、掘削孔の内径を矢板Pの幅と同等或いはそれ以上に形成することができ、矢板Pの圧入をより一層容易に行えると云う利点がある。
【0006】
しかしながら、従来の矢板の圧入工法は、地盤Gを掘削する掘削ビットに偏心掘削ビット35を用いているため、地盤Gを掘削する際に負荷が偏り、掘削主軸32に振れが生じて真円で真っ直ぐな掘削孔を形成することができないと云う問題があった。その結果、矢板Pを所定の位置に正確に圧入することが困難であった。然も、地盤Gを掘削する際に掘削主軸32が振れると、偏心掘削ビット35にかかる掘削抵抗が大きくなり、掘削作業を円滑に行えないことになる。
【0007】
又、従来の圧入工法は、偏心掘削ビット35を掘削孔から地上へ引き抜く際に、掘削主軸32を所定角度だけ回転させて偏心掘削ビット35が矢板Pに衝突しないような位置で停止させなければならないが、偏心掘削ビット35が掘削孔内に位置しているために偏心掘削ビット35の向きが判り難く、偏心掘削ビット35を矢板Pに衝突しないような位置で停止させるのに時間がかかり、偏心掘削ビット35の引き抜き作業に手数がかかると云う問題があった。
【0008】
更に、従来の矢板の圧入工法は、偏心掘削ビット35の回転打撃作用により地盤Gを掘削するようにしているため、偏心しているビット本体35aの先端部分のみが大きく摩耗したり、或いは破損したりすると云う問題があった。
この場合には、偏心掘削ビット35を交換しなければならないが、ビット本体35aとビット軸部35bとが一体的に形成されているため、偏心掘削ビット35全体を交換しなければならず、経済性等に極めて劣ると云う問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第2997402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような問題点に鑑みて為されたものであり、その目的は、地盤の掘削時に負荷の偏り及び掘削主軸の振れを防止して地盤に真円で真っ直ぐな掘削孔を形成するとこができると共に、掘削工具にかかる掘削抵抗が小さくて済み、又、掘削工具等の地盤からの引き抜き作業を簡単且つ容易に行え、然も、掘削工具が摩耗・破損した場合でも、掘削工具の摩耗・破損した部分のみを交換できて経済性に優れた矢板の圧入工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1の発明は、オーガマシンにより回転駆動される掘削主軸に円筒状のケーシングを外嵌装備すると共に、当該ケーシングの外周面にU形の矢板を配設支持し、前記掘削主軸の先端部に、掘削主軸が掘削方向へ回転したときに地盤からの掘削抵抗により掘削主軸の軸線を中心にして均等に拡径し、又、掘削主軸が掘削方向と反対方向へ回転したときに地盤との摩擦抵抗により矢板に衝突しない大きさに縮径する縮拡径自在なビット部を備えた掘削工具をダウンザホールハンマーを介して取り付けた掘削装置を用い、当該掘削装置を三点式の杭打機又は静荷重型圧入機のクランプ機構部により起立姿勢で昇降自在に支持し、この状態で掘削主軸及びダウンザホールハンマーにより回転打撃される掘削工具の拡径状態のビット部によって地盤を掘削しながらケーシング及び矢板を圧入し、矢板の圧入完了後に掘削主軸を掘削方向と反対方向へ回転させて掘削工具のビット部を矢板に衝突しない縮径状態とし、この状態でケーシング及び掘削工具を地盤中から引き抜くようにしたことに特徴がある。
【0012】
本発明の請求項2の発明は、請求項1の発明に於いて、掘削装置を、静荷重型圧入機のオーガ駆動部や掘削主軸、オーガスクリュー、オーガヘッド等からパイルオーガ部のオーガヘッドに替えて、ダウンザホールハンマー及び掘削工具を配設した構成の掘削装置としたことに特徴がある。
【0013】
本発明の請求項3の発明は、請求項1又は請求項2の発明に於いて、拡径状態のビット部の回転による最大軌跡円の直径がU形の矢板の幅とほぼ同じなる掘削工具を用い、U形の矢板を、その一方の継手用係合部が前記最大軌跡円の内側に位置し且つ他方の継手用係合部が前記最大軌跡円の外側に位置するようにケーシングの外周面に配設支持し、この状態で掘削工具の回転打撃作用によって地盤を掘削しながらケーシング及び矢板を圧入するようにしたことに特徴がある。
【0014】
本発明の請求項4の発明は、請求項1、請求項2又は請求項3の発明に於いて、前記掘削工具には、ダウンザホールハンマーの先端部に掘削主軸の軸線に合致する状態で取り付けられ、掘削主軸の回転力及びタウンザホールハンマーの打撃力を受ける円柱状のガイドデバイスと、ガイドデバイスの先端部にその円周方向に均等に配置され、ガイドデバイスの先端部に所定角度回転自在に且つ交換可能に取り付けられた複数個のビットヘッドから成る縮拡径自在なビット部とから構成した掘削工具を用いたことに特徴がある。
【発明の効果】
【0015】
本発明の請求項1に係る矢板の圧入工法は、掘削主軸の先端部にその軸線を中心にして縮拡径するビット部を備えた掘削工具をダウンザホールハンマーを介して取り付けた掘削装置を用い、地盤の掘削時に回転打撃される掘削工具のビット部が掘削主軸の軸線を中心にして均等に拡径した状態で地盤を掘削するため、掘削工具がバランス良く回転して負荷の偏りがなくなり、掘削工具の回転による掘削主軸の振れが防止されて地盤に真円で真っ直ぐな掘削孔を形成することができる。その結果、矢板を所定の位置に正確に圧入することができる。
又、本発明の請求項1に係る矢板の圧入工法は、地盤の掘削時に負荷の偏りをなくして掘削主軸が振れないようにしているため、掘削工具にかかる掘削抵抗が大きくならず、掘削作業を円滑に行うことができる。
更に、本発明の請求項1に係る矢板の圧入工法は、掘削主軸が掘削方向と反対方向へ回転したときに地盤との摩擦抵抗により矢板に衝突しない大きさに縮径するビット部を備えた掘削工具を用いているため、掘削工具を掘削孔から引き抜く際には掘削主軸を掘削方向と反対方向へ回転させるだけで、掘削工具のビット部を矢板に衝突しない大きさに縮径させることができ、地盤からの掘削主軸及び掘削工具等の引き抜き作業を簡単且つ容易に行える。
加えて、本発明の請求項1に係る矢板の圧入工法は、掘削主軸及びダウンザホールハンマーによる回転打撃される掘削工具により地盤を掘削しながら矢板を圧入するようにしているため、岩盤等が存在する硬質の地盤であっても、矢板の圧入を簡単且つ容易に行える。
【0016】
本発明の請求項2に係る矢板の圧入工法は、従前の静荷重型圧入機のパイルオーガ部を有効に活用することができ、設備費や矢板圧入工事の大幅な削減が可能になる。
【0017】
本発明の請求項3及び請求項4に係る矢板の圧入工法は、上記効果に加えて更に次のような優れた効果を奏することができる。
【0018】
即ち、本発明の請求項3に係る矢板の圧入工法は、拡径状態のビット部の回転による最大軌跡円の直径がU形の矢板の幅とほぼ同じなる掘削工具を用い、U形の矢板を、その一方の継手用係合部が前記最大軌跡円の内側に位置し且つ他方の継手用係合部が前記最大軌跡円の外側に位置するようにケーシングの外周面に配設支持し、この状態で掘削工具の回転打撃作用によって地盤を掘削しながらケーシング及び矢板を圧入するようにしているため、先に地盤に圧入した矢板に隣接して次の矢板を圧入する際、隣接する矢板の継手用係合部同士の係合が可能になると共に、掘削工具の拡径状態のビット部が先行の矢板に干渉しないようにすることができ、矢板の継手用係合部の変形や損傷を防止することができる。その結果、矢板の引き抜きを円滑に行えると共に、矢板の再使用も可能となる。
【0019】
又、本発明の請求項4に係る矢板の圧入工法は、縮拡径自在なビット部がガイドデバイス部に交換可能に取り付けられた複数のビットヘッドから成る掘削工具を用いているため、地盤の掘削によりビット部が摩耗、破損した場合でも、摩耗、破損したビット部のビットヘッドのみを交換すれば良く、掘削工具全体を交換する必要がなくなり、経済性に優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の矢板の圧入工法を実施するのに使用する掘削装置を三点式の杭打機で支持した状態の側面図である。
【図2】掘削装置の一部分を省略した一部破断側面図である。
【図3】掘削装置の掘削工具を示し、一部分を省略した掘削工具の断面図ある。
【図4】掘削工具を示し、(A)はビット部が拡径した状態の底面図、(B)はビット部が縮径した状態の底面図である。
【図5】矢板の圧入工程を示す説明図である。
【図6】掘削装置を静荷重型圧入機のクランプ機構部で支持した状態の側面図である。
【図7】従来の矢板の圧入工法に使用する掘削装置の一部省略側面図である。
【図8】従来の掘削装置の要部の側面図である。
【図9】従来の掘削装置の偏心掘削ビットの底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明の矢板の圧入工法を実施するのに使用する掘削装置1を三点式の杭打機2により起立状態で支持した状態を示し、前記三点式の杭打機2は、クローラ等の走行部3を有する機体本体4と、機体本体4の前部に傾倒自在に支持されたリーダ5と、リーダ5にその長手方向に沿って摺動自在に取り付けられたオーガマシン6(掘削装置1のオーガマシン6と兼用)と、リーダ5を起立状態に支持する左右一対のバックステー7及びステーシリンダ8等を備えており、従来公知のものと同様構造に構成されている。
【0022】
本発明の矢板の圧入工法に用いる掘削装置1は、図1及び図2に示す如く、三点式の杭打機2のリーダ5に沿って昇降自在に支持されるオーガマシン6(三点式の杭打機2のオーガマシン6と兼用)と、オーガマシン6に垂下状態で連結され、オーガマシン6によって回転駆動される中空状の掘削主軸9と、オーガマシン6に垂下状態で連結され、掘削主軸9に同心状に外嵌される円筒状のケーシング10と、オーガマシン6に設けられ、ケーシング10を回転駆動するケーシング回転駆動手段(図示省略)と、ケーシング10の上端部に設けられ、U形の矢板Pの上端部を支持するチャック装置11と、掘削主軸9の下端部にダウンザホールハンマー12を介して取り付けた掘削工具13とから構成されており、オーガマシン6による掘削主軸9の回転に伴って掘削工具13が掘削主軸9の軸線Oを中心にして回転すると共に、掘削主軸9の中空部に供給される圧縮エアーにより駆動するダウンザホールハンマー12によって掘削工具13が所定のストローク上下動して打撃するようになっている。
【0023】
前記掘削装置1の掘削工具13は、図2乃至図4に示す如く、ダウンザホールハンマー12の先端部に掘削主軸9の軸線Oに合致する状態で取り付けられ、掘削主軸9の回転力及びタウンザホールハンマー12の打撃力を受ける円柱状のガイドデバイス14と、ガイドデバイス14の先端部にその円周方向に均等に配置され、ガイドデバイス14の先端部に所定角度回転自在に且つ交換可能に取り付けられた複数個のビットヘッド15′から成る縮拡径自在なビット部15と、ビット部15の各ビットヘッド15′をガイドデバイス14に着脱自在に取り付けるための複数本の抜け止めピン16とから構成されており、掘削主軸9が掘削方向へ回転したときには、ビット部15の各ビットヘッド15′が地盤Gからの掘削抵抗により掘削主軸9の軸線Oを中心にして拡径する方向へ回転し、又、掘削主軸9が前記と反対方向へ回転したときには、ビット部15の各ビットヘッド15′が地盤Gとの摩擦抵抗により矢板Pに衝突しない大きさに縮径する方向へ回転するようになっている。
【0024】
具体的には、ガイドデバイス14は、先端部側(図3の下端部側)が後端部側(図3の上端部側)よりも大径となる多段円柱状に形成されており、小径の後端部側がダウンザホールハンマー12に連結され、その軸線回りに回転力を受けると共に、軸線方向先端側に打撃力を受けるようになっている。
【0025】
このガイドデバイス14の先端部には、ガイドデバイス14の先端面側及び外周面側に開口する凹部14aがガイドデバイス14の円周方向に等角度で形成されている。この実施の形態では、凹部14aは、ガイドデバイス14の先端部に120度間隔で三つ形成されており、各凹部14aの底面には、ビットヘッド15′を着脱自在に取り付けるための軸孔14bが形成されている。
【0026】
又、ガイドデバイス14の先端部には、その外周面から軸線方向へ向かうピン孔14cがガイドデバイス14の円周方向に120度間隔で三つ形成されており、各ピン孔14cは、軸孔14bの内周面にその接線方向に接する状態で開口させられている。
【0027】
更に、ガイドデバイス14内には、ダウンザホールハンマー12からの圧縮エアーをガイドデバイス14の先端部に形成した各凹部14a内及びガイドデバイス14の先端面に形成したすり鉢状の窪み部14d内へそれぞれ供給する空気孔14eが形成されている。この空気孔14eは、その下流側部分が分岐して各凹部14aの底面及び窪み部14dの底面に於いて開口しており、各凹部14aの底面及び窪み部14dの底面から圧縮エアーを噴出するようになっている。これによって、岩盤等の掘削時にその掘削粉等が空気孔14eから噴出される圧縮エアーにより掘削孔27とケーシング10との隙間を通って地上へ吹き上げられることになる。
【0028】
一方、ビット部15を構成する各ビットヘッド15′は、ガイドデバイス14の凹部14aに収容される厚肉のブロック状のビット本体部15aと、ビット本体部15aの後端面に垂直に連設されて凹部14aの底面に形成した軸孔14bに回転自在且つ抜き差し自在に嵌合される円柱状のビット軸部15bとから構成されており、ビット本体部15aの先端面には、ダウンザホールハンマー12からの衝撃力を岩盤へ伝えて岩盤を破壊切削する超硬合金等の硬質材料から成る突起17が多数植設されている。
【0029】
又、各ビットヘッド15′のビット軸部15bの外周面には、断面が半円形状の環状溝15cが形成されている。この環状溝15cは、ビット軸部15bを軸孔14bに嵌合してビット本体部15aの後端面を凹部14aの底面に当接させたときにピン孔14cに合致するように形成されている。
【0030】
そして、各ビットヘッド15′は、ビット軸部15bをガイドデバイス14の軸孔14bに嵌合し、ガイドデバイス14のピン孔14cに抜け止めピン16を嵌合して抜け止めピン16の一部分をビット軸部15bの環状溝15cに係合させ、この状態で抜け止めピン16をスナップリング18で抜け止めすることによって、ガイドデバイス14の先端部に抜け止めされた状態でビット軸部15bの軸線を中心にして回転可能に支持され、又、スナップリング18を外して抜け止めピン16をピン孔14cから抜き取ることによって、ガイドデバイス14から取り外すことができるようになっている。
【0031】
上述した掘削工具13は、掘削主軸9が掘削方向へ回転したときには、ビット部15の各ビットヘッド15′が地盤Gからの掘削抵抗によりビット軸部15bの軸線を中心してガイドデバイス14の外方へ拡がるように回転し、ビット本体部15aの先端部分がガイドデバイス14の外周面から外方へ突出し且つビット本体部15aが凹部14aの壁面14a′に当接して位置決された状態で回転される。即ち、掘削工具13は、地盤Gの掘削時にそのビット部15が掘削主軸9の軸線Oを中心にして均等に拡径した状態で掘削方向(図4(A)の矢印方向)へ回転されることになる。
【0032】
又、掘削工具13は、掘削主軸9が前記と反対方向へ回転したときには、ビット部15の各ビットヘッド15′が地盤Gとの摩擦抵抗によりビット軸部15bの軸線を中心してガイドデバイス14の内方へ縮まるように回転し、ビット本体部15aが凹部14a内に収容された状態で回転される。即ち、掘削工具13は、ビット部15が縮径した状態で掘削方向と反対方向(図4(B)の矢印方向)へ回転されることになる。
【0033】
尚、この実施の形態に於いては、掘削工具13には、拡径状態に於けるビット部15の回転による最大軌跡円Sの直径がU形の矢板Pの幅Wとほぼ同じなる掘削工具13が使用されている。
【0034】
次に、上述した構成の掘削装置1及び三点式の杭打機2を用いたU形の矢板Pの圧入工法について説明する。
【0035】
先ず、三点式の杭打機2により掘削装置1を地上の所定個所に起立姿勢で支持し、一番目の矢板P(図5の右端の矢板P)を、図5に示すようにその幅方向中心Cが掘削主軸9の軸線Oに対して矢板Pの各継手用係合部Pa,Pbの幅にほぼ相当する長さだけずらした状態でケーシング10の外周面に配設支持する。
即ち、一番目の矢板Pを、その一方の継手用係合部Paが拡径状態に於けるビット部15の回転による最大軌跡円Sの内側に位置し且つ他方の継手用係合部Pbが前記最大軌跡円Sの外側に位置するようにケーシング10の外周面にその長手方向に沿って配設支持する。
【0036】
このとき、矢板Pの上端部は、チャック装置11によってケーシング10に支持され、矢板Pの下端部は、ケーシング10側に設けた差し込み金具(図示省略)を矢板P側に設けた受け金具(図示省略)に差し込むことによって、ケーシング10に支持される。
又、掘削工具13は、ケーシング10の先端(下端)から突出した状態となっている。
【0037】
そして、オーガマシン6により掘削主軸9を掘削方向へ回転駆動して掘削工具13を掘削方向へ回転させると共に、この掘削工具13をダウンザホールハンマー12によって打撃し、掘削工具13の回転打撃作用により地盤Gを掘削しながら、一番目の矢板Pをケーシング10と一緒に地盤Gの所定の深さまで圧入する。
【0038】
このとき、掘削工具13のビット部15が掘削主軸9の軸線Oを中心にして均等に拡径した状態で地盤Gを掘削するから、負荷の偏りがなくなり、掘削工具13の回転による掘削主軸9の振れが防止されることになる。その結果、地盤Gに真円で真っ直ぐな掘削孔27を形成することができると共に、掘削工具13にかかる掘削抵抗が大きくならず、掘削作業を円滑に行うことができる。従って、矢板Pを所定の位置に正確に圧入することができる。
又、地盤Gの掘削時には、各ビットヘッド15′のビット本体部15aがガイドデバイス14の凹部14aの壁面14a′に当接し、各ビットヘッド15′が拡径した状態で位置決めされるので、ビットヘッド15′に作用する掘削負荷の大部分が凹部14aの壁面14a′によって受け止められることになり、そのため掘削負荷がビットヘッド15′のビット軸部15bに集中すると云うことがなく、ビット軸部15bの損傷や破損を防止することができる。
更に、地盤Gの掘削時には、ガイドデバイス14に形成した空気孔14eから圧縮エアーが噴出されているため、掘削の際に発生する掘削粉等が圧縮エアーにより掘削孔27とケーシング10との隙間を通って地上へ吹き上げられる。
【0039】
一番目の矢板Pの圧入が完了したら、掘削主軸9を掘削方向と反対方向へ回転させる。そうすると、掘削工具13のビット部15が地盤Gとの摩擦抵抗により拡径状態から矢板Pに衝突しない縮径状態に縮径する。この状態で掘削装置1を地上に引き上げることによって、ケーシング10、掘削工具13、ダウンザホールハンマー12及び掘削主軸9を一番目の矢板Pに沿って地盤G中から引き抜くことができる。
【0040】
このとき、掘削主軸9を掘削方向と反対方向へ回転させるだけで、掘削工具13のビット部15を矢板Pの先端に衝突しない縮径状態とすることができるため、掘削装置1の引き抜き作業を簡単且つ容易に行うことができる。
【0041】
次に、地上に引き上げた掘削装置1を三点式の杭打機2により矢板Pの幅Wだけ移動させた後、二番目の矢板P(図5の真中の矢板P)を一番目の矢板Pと逆向きにケーシング10の外周面に配設支持すると共に、二番目の矢板Pの一方の継手用係合部Pbを前記最大軌跡円Sの外側に位置させて掘削孔27内に位置する一番目の矢板Pの継手用係合部Paに係合させ且つ二番目の矢板Pの他方の継手用係合部Paを前記最大軌跡円Sの内側に位置させた状態で、一番目の矢板Pの場合と同様に掘削工具13の回転打撃作用によって地盤Gを掘削しながら二番目の矢板Pを圧入し、二番目の矢板Pを一番目の矢板Pと接合する。
【0042】
このとき、拡径状態のビット部15の回転による最大軌跡円Sの直径が矢板Pの幅Wとほぼ同じなる掘削工具13を用いて地盤Gを掘削しながら矢板Pを圧入して行くため、既に圧入された一番目の矢板Pに対して二番目の矢板Pの圧入を行う際、隣接する矢板Pの継手用係合部Pa,Pb同士の係合が可能になると共に、掘削工具13の拡径状態のビット部15が一番目の矢板Pに干渉しないようにすることができる。その結果、矢板Pの継手用係合部Paの変形や損傷を防止することができ、矢板Pを地盤Gから引き抜く際にその引き抜き作業を容易に行えるうえ、矢板Pの再使用が可能となる。
【0043】
二番目の矢板Pの圧入が完了したら、掘削主軸9を掘削方向と反対方向へ回転させ、掘削工具13のビット部15を矢板Pの先端へ衝突しない縮径状態とした後、この状態で掘削装置1を地上へ引き上げてケーシング及び掘削工具13等を二番目の矢板Pに沿って地盤G中から引き抜く。
【0044】
引き続き、掘削装置1を三点式の杭打機2により矢板Pの幅Wだけ更に移動させた後、三番目の矢板P(図5の左端の矢板P)を二番目の矢板Pと逆向きにケーシング10の外周面に配設支持すると共に、三番目の矢板Pの一方の継手用係合部Pbを前記最大軌跡円Sの外側に位置させて二番目の掘削孔27内に位置する二番目の矢板Pの継手用係合部Paに係合させ且つ三番目の矢板Pの他方の継手用係合部Paを前記最大軌跡円Sの内側に位置させた状態で、前記と同様に掘削工具13の回転打撃作用によって地盤Gを掘削しながら三番目の矢板Pを圧入し、三番目の矢板Pを二番目の矢板Pと接合する。
【0045】
三番目の矢板Pの圧入が完了したら、掘削主軸9を掘削方向と反対方向へ回転させ、掘削工具13のビット部15を矢板Pの先端へ衝突しない縮径状態とした後、この状態で掘削装置1を地上へ引き上げてケーシング10及び掘削工具13等を三番目の矢板Pに沿って地盤G中から引き抜く。
以下、同様にして四番目の矢板P、五番目の矢板P等を順次地盤Gへ圧入して行く。
【0046】
このような矢板Pの圧入に於いては、掘削主軸9及びダウンザホールハンマー12により回転打撃される掘削工具13の回転打撃作用によって、地盤Gを掘削して掘削孔27を形成しながら矢板Pを圧入するから、岩盤や転石等の存在する硬質の地盤Gの掘削が容易になると共に、そのような地盤Gへの矢板Pの圧入を迅速且つ容易に行うことができる。特に、ビットヘッド15′に突起17を植設しているため、岩盤の掘削には特に有効である。
更に、掘削時には、ビットヘッド15′が拡径して矢板Pの幅Wと同一の掘削孔27を形成し、又、地盤G中からの引き抜き時には、ビットヘッド15′が縮径して矢板Pに衝突しないような掘削工具13を用いているため、掘削孔27の内径を十分大きく形成することができ、従って矢板Pの圧入を容易に行えると共に、掘削孔27の直進性を維持して矢板Pを所定位置に正確に圧入することができる。
【0047】
上記の実施の形態に於いては、掘削装置1を三点式の杭打機2により起立姿勢で支持し、この状態で掘削装置1により矢板Pを地盤Gに圧入するようにしたが、他の実施の形態に於いては、図6に示すように、掘削装置1を従前の静荷重型圧入機(例えば、株式会社技研製作所のスーパークラッシュパイラー)のクランプ機構部19を用いて起立姿勢で支持し、この状態で掘削装置1により矢板Pを地盤Gに圧入するようにしても良い。
尚、従前の静荷重型圧入機(スーパークラッシュパイラー)のクランプ機構部19を用いる場合には、当該静荷重型圧入機のオーガ駆動部や掘削主軸、ケーシング、オーガスクリュー、オーガヘッド等から成るパイルオーガ部(図示省略)に改良を加え、そのオーガスクリュー及びオーガヘッドに替えてダウンザホールハンマー12及び掘削工具13を組み付けすることにより、これを前記掘削装置1として利用するようにしても良い。
【0048】
前記静荷重型圧入機のクランプ機構部19は、地上に設置した反力架台(図示省略)又は既に地盤Gに圧入したU形の矢板Pを掴むクランプ20を下部に備えたサドル21と、サドル21の上面に設けられ、サドル21に対して前後にスライド移動するスライドベース22と、スライドベース22に立設され、スライドベース22上で旋回可能なリーダマスト23と、リーダマスト23の前部に昇降可能に支持され、油圧シリンダ24により昇降する昇降フレーム25と、昇降フレーム25に旋回可能に設けられ、U形の矢板P及び掘削装置1のケーシング10を掴むチャック部26等から成り、地上に設置した反力架台又は既に地盤Gに圧入したU形の矢板Pをクランプ20で掴み、反力架台又は既設の矢板Pから反力を取った状態でチャック部26に保持された掘削装置1を用いて矢板Pを地盤Gに圧入するようにしたものである。
この静荷重型圧入機のクランプ機構部19は、従来公知のものと同様構造に構成されているため、ここではその詳細な説明を省略する。
又、掘削装置1は、前述の通り静荷重型圧入機のパイルオーガ部を構成するケーシングの内部のオーガスクリュー及びオーガヘッドに替えて、ダウンザホールハンマー12及び掘削工具13等を配設することにより、形成するようにしても良い。
尚、静荷重型圧入機のクランプ機構部19は、掘削装置1のケーシング10及び矢板Pを起立姿勢で掴むチャック部26を備えているため、掘削装置1のチャック装置11を省略している。
【0049】
而して、前記静荷重型圧入機のクランプ機構部19によれば、地上に設置した反力架台又は既に地盤Gに圧入したU形の矢板Pをクランプ20で掴んでから、チャック部26により矢板Pと掘削装置1のケーシング10を起立姿勢で強固に掴み、この状態で掘削装置1のオーガマシン6及び静荷重型圧入機のクランプ機構部19の油圧シリンダ24を作動させ、掘削装置1により地盤Gを掘削しながら油圧シリンダ24により昇降フレーム25及びチャック部26を下降させて矢板Pの圧入を行う。
【0050】
矢板Pが油圧シリンダ24のストローク分だけ圧入されたら、地盤Gの掘削及び矢板Pの圧入を停止すると共に、チャック部26を操作して矢板P及び掘削装置1のケーシング10を解放し、昇降フレーム25及びチャック部26を油圧シリンダ24により上昇させた後、チャック部26により矢板Pと掘削装置1のケーシング10を再び掴み、この状態で再度掘削装置1により地盤Gの掘削を掘削しながら油圧シリンダ24により昇降フレーム25及びチャック部26を下降させて矢板Pの圧入を行う。
以下、同様の動作を繰り返し行うことにより矢板Pを所定の深さまで圧入する。
【0051】
そして、矢板Pの圧入が完了したら、掘削装置1の掘削主軸9を掘削方向と反対方向へ回転させて掘削工具13のビット部15を縮径状態とすると共に、チャック部26を操作して矢板Pのみを解放し、この状態で昇降フレーム25及びチャック部26を油圧シリンダ24により上昇させ、掘削装置1を引き上げる。
【0052】
掘削装置1が油圧シリンダ24のストローク分だけ引き上げられたら、チャック部26を操作して掘削装置1のケーシング10を解放し、昇降フレーム25及びチャック部26を油圧シリンダ24により下降させた後、チャック部26により掘削装置1のケーシング10を掴み、この状態で再度昇降フレーム25及びチャック部26を油圧シリンダ24により上昇させ、掘削装置1を引き上げる。
以下、同様の動作を繰り返し行うことにより掘削装置1を矢板Pに沿って地盤G中から引き抜くことができる。
【0053】
掘削装置1及び静荷重型の圧入機19を用いた矢板Pの圧入工法も、三点式の杭打機2を用い矢板Pの圧入工法と同様の作用効果を奏することができる。
【0054】
尚、上記の実施の形態に於いては、ダウンザホールハンマー12は、エアー圧によって駆動されるようにしたが、他の実施の形態に於いては、ダウンザホールハンマー12として油圧で駆動されるものを使用しても良い。
【0055】
又、上記の実施の形態に於いては、掘削工具13には、ビット部15を三つのビットヘッド15′から構成した掘削工具13を用いたが、他の実施の形態に於いては、掘削工具13に、ビット部15を二つのビットヘッド15′又は四つのビットヘッド15′から構成した掘削工具13を用いても良い。
【符号の説明】
【0056】
1は掘削装置、2は三点式の杭打機、6はオーガマシン、9は掘削主軸、10はケーシング、12はダウンザホールハンマー、13は掘削工具、14はガイドデバイス、15はビット部、15′はビットヘッド、19は静荷重型圧入機のクランプ機構部、Gは地盤、Oは掘削主軸の軸線、PはU形の矢板、Paは矢板の一方の継手用係合部、Pbは矢板の他方の継手用係合部、Sは拡径状態に於けるビット部の回転による最大軌跡円、Wは矢板の幅。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オーガマシン(6)により回転駆動される掘削主軸(9)に円筒状のケーシング(10)を外嵌装備すると共に、当該ケーシング(10)の外周面にU形の矢板(P)を配設支持し、前記掘削主軸(9)の先端部に、掘削主軸(9)が掘削方向へ回転したときに地盤(G)からの掘削抵抗により掘削主軸(9)の軸線(O)を中心にして均等に拡径し、又、掘削主軸(9)が掘削方向と反対方向へ回転したときに地盤(G)との摩擦抵抗により矢板(P)に衝突しない大きさに縮径する縮拡径自在なビット部(15)を備えた掘削工具(13)をダウンザホールハンマー(12)を介して取り付けた掘削装置(1)を用い、当該掘削装置(1)を三点式の杭打機(2)又は静荷重型圧入機のクランプ機構部(19)により起立姿勢で昇降自在に支持し、この状態で掘削主軸(9)及びダウンザホールハンマー(12)により回転打撃される掘削工具(13)の拡径状態のビット部(15)によって地盤(G)を掘削しながらケーシング(10)及び矢板(P)を圧入し、矢板(P)の圧入完了後に掘削主軸(9)を掘削方向と反対方向へ回転させて掘削工具(13)のビット部(15)を矢板(P)に衝突しない縮径状態とし、この状態でケーシング(10)及び掘削工具(13)を地盤(G)中から引き抜くようにしたことを特徴とする矢板の圧入工法。
【請求項2】
掘削装置(1)を、静荷重型圧入機のオーガ駆動部や掘削主軸、オーガスクリュー、オーガヘッド等からパイルオーガ部のオーガヘッドに替えて、ダウンザホールハンマー(12)及び掘削工具(13)を配設した構成の掘削装置(1)としたことを特徴とする請求項1に記載の矢板の圧入工法。
【請求項3】
拡径状態のビット部(15)の回転による最大軌跡円(S)の直径がU形の矢板(P)の幅(W)とほぼ同じなる掘削工具(13)を用い、U形の矢板(P)を、その一方の継手用係合部(Pa)が前記最大軌跡円(S)の内側に位置し且つ他方の継手用係合部(Pb)が前記最大軌跡円(S)の外側に位置するようにケーシング(10)の外周面に配設支持し、この状態で掘削工具(13)の回転打撃作用によって地盤(G)を掘削しながらケーシング(10)及び矢板(P)を圧入するようにしたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の矢板の圧入工法。
【請求項4】
前記掘削工具(13)には、ダウンザホールハンマー(12)の先端部に掘削主軸(9)の軸線(O)に合致する状態で取り付けられ、掘削主軸(9)の回転力及びタウンザホールハンマー(12)の打撃力を受ける円柱状のガイドデバイス(14)と、ガイドデバイス(14)の先端部にその円周方向に均等に配置され、ガイドデバイス(14)の先端部に所定角度回転自在に且つ交換可能に取り付けられた複数個のビットヘッド(15′)から成る縮拡径自在なビット部(15)とから構成した掘削工具(13)を用いたことを特徴とする請求項1、請求項2又は請求項3に記載の矢板の圧入工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−21374(P2011−21374A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−166928(P2009−166928)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【出願人】(509200668)株式会社徳永組 (1)
【Fターム(参考)】