説明

研磨スラリーの製造方法

【課題】 被研磨面のスクラッチの発生を効果的に低減し、所望の特性で良好な研磨を可能にする。
【解決手段】 研磨材1と分散媒2を分散機3に投入し、研磨材1を均一に分散処理させる(ステップ11)。分散後の被処理液4を遠心分級機5で遠心分級し、スクラッチの発生要因となる可能性のある重量の重い粒子を除去する(ステップ12)。それから、分級後の被処理液6に薬剤8を添加して、濃度調整やpH調整などの様々な特性の調整を行う(ステップ13)。こうして所望の組成に調整した研磨スラリー7をフィルター9でろ過してごみを除去する(ステップ14)。フィルター9は、研磨材1の粒子を捕捉しない程度にメッシュサイズの大きなものでよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は精密研磨加工に用いられる研磨スラリーの製造方法に関し、特に、半導体基板の化学的機械的研磨に好適に用いられる研磨スラリーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体集積回路の製造方法において、層間膜等の平坦化プロセスとして化学的機械的研磨(CMP:Chemical Mechanical Polishing)法が用いられている。その理由は次の通りである。半導体集積回路の一層の小型化を可能にするために導通パターンをより微細化かつ高密度化する設計ルールを採用するには、フォトリソグラフィ技術において用いられる露光用ビームを短波長化して、パターン間のマージンをより小さくすることが不可欠である。その結果、半導体基板(ウエハ)の僅かな凹凸であっても、微細なパターンに大きな影響を及ぼし、所望のパターンが形成できない可能性がある。このように、所望のパターンを精度良く形成するには半導体基板のより一層の平坦化が必要になるため、平坦化プロセスとして優れたCMP法が採用される。
【0003】
また、半導体集積回路のメタル配線の形成工程においてもCMP法は用いられている。具体的には、シリコン製半導体基板上の絶縁膜に形成された溝や接続孔の凹部を埋め込むようにメタル膜を成膜し、その後にCMP法によって凹部以外のメタル膜を研磨して除去することによって、埋め込み配線やヴィアプラグやコンタクトプラグ等の電気接続部を形成している。電気接続部が形成された面上に別の層が積層されたり導通パターンが形成される場合には、この面もできるだけ平坦化させる必要があるため、やはりCMP法が採用される。
【0004】
なお、昨今では半導体集積回路の処理スピード向上のため、メタル配線として銅を用いることが主流となってきている。以下に、半導体基板上のCu膜を研磨する場合を例にとってCMP法について説明する。
【0005】
CMP法は、酸化剤と研磨材を主成分とする研磨スラリーを研磨パット上に滴下し、被研磨物(例えばCu膜が形成された半導体基板)を研磨パッドに接触させながら両者を相対的に回転させて半導体基板の表面を研磨するのが一般的である。そして、酸化剤の化学作用で表面のCu膜を酸化するとともに、酸化されたCu膜を研磨材により機械的に除去するのがCMP法の基本原理である。研磨スラリーは、研磨材と、酸化剤やpH調整剤や酸化防止剤などの薬剤とを含んでいる。
【0006】
CMP法に用いられる研磨スラリーは、粒子径が数nm程度に揃っている多量の研磨材を均一に分散した状態で用いられるのが理想的である。しかし、研磨スラリーの製造工程において、研磨材の粗大粒子や凝集粒子が微量ではあるが形成され、このような粗大粒子や凝集粒子が研磨スラリー中に含まれる。この研磨スラリーを用いてCMP法を実施する際に、研磨材の粗大粒子や凝集粒子が原因となって半導体基板の表面にスクラッチが発生し、それが電気的特性の低下などの不良を引き起こし、結果的に半導体基板の歩留まりを低下させると今まで考えられてきた。そこで、粗大粒子や凝集粒子をできるだけ除去するために、研磨スラリーの製造工程の最後、または研磨スラリーを用いて研磨を行う直前に、フィルターを用いて粗大粒子を除去する作業が一般的に行われてきた。
【0007】
例えば特許文献1には、研磨スラリーをCMP装置に供給する際に粗大粒子を除去する目的で、研磨スラリーが供給される供給管と、この研磨スラリーを遠心分離する遠心ドラムと、遠心分離された研磨スラリーをろ過するフィルターと、このフィルターによりろ過された研磨スラリーを排出する排出管とを備えた研磨スラリー用フィルター装置が開示されている。
【0008】
前記したように研磨スラリーの製造工程の最後、または研磨スラリーを用いる直前に粗大粒子を除去する際に、メッシュサイズの小さいフィルターを用いてろ過すると、粗大粒子の数を減少させる上では効果的であるが、フィルターの目詰まりが発生し易い。そのため、フィルターを頻繁に交換しなければならず、研磨スラリーの収率も悪くなる。そこで特許文献1では、フィルターによるろ過の前に遠心分離工程を行って粗大粒子をある程度除去しておくことにより、フィルターの目詰まりを緩和させてフィルターの寿命を長くする方法を提案している。
【特許文献1】特開2001−9706号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
メッシュサイズが細かいフィルターを用いる場合、または特許文献1のようにろ過の前に遠心分離を行う場合には、多くの粗大粒子を除去することができる。しかし、多くの粗大粒子を除去したにもかかわらず、その研磨スラリーを用いて研磨を行った際に、半導体基板の表面に発生するスクラッチの数はあまり減少しなかった。しかも、研磨量や被研磨面の均一性が低下するという問題が生じた。
【0010】
また、特許文献1に記載の方法では、前記した通りフィルターの目詰まりの緩和のために遠心分離を行っているので、小さな遠心力しか加えていない。そのため、かなり大きな研磨材粒子しか除去できず、スクラッチの発生要因となる粒子はあまり除去できない。
【0011】
このように、メッシュサイズが細かいフィルターを用いたり、遠心分離を行ったりしても、スクラッチの発生は、メッシュサイズが大きいフィルターを用いてろ過する場合に比べると多少低減するものの、十分に低減することはできず、しかも研磨特性が悪くなった。
【0012】
そこで本発明の目的は、被研磨面におけるスクラッチの発生を効果的に低減でき、しかも所望の研磨特性が得られる研磨スラリーの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の研磨スラリーの製造方法は、研磨材と分散媒とを混合した被処理液中で研磨材を分散させる分散工程と、分散工程後の被処理液に対して分級を行う分級工程と、分級工程後の被処理液に薬剤を添加して所望の組成にする調整工程とを含むことを特徴とする。なお、分級工程は、研磨材の、研磨スラリーを用いた研磨時にスクラッチの発生要因となる粒子を選択的に除去する工程である。
【0014】
この方法によると、研磨材の濃度低下や薬剤の濃度上昇などのような研磨スラリーの組成の変動を生じることなく、しかも、被研磨面にスクラッチが発生する要因となる粒子を選択的かつ効率的に除去することができるため、良好な研磨が可能になる。
【0015】
分級工程が遠心分級を行う工程であると、スクラッチの発生する要因となる可能性のある、重量の重い粒子を効率よく除去することができる。
【0016】
そして、分級工程は、被処理液中に含まれる研磨材のうち、粒子径0.99μmの粒子に相当する重量以上の重量を有する粒子および粒子群の数を、分級前の20%以下に減少させ、かつ、粒子径9.99μmの粒子に相当する重量以上の重量を有する粒子および粒子群の数を、分級前の1%以下に減少させるように行われることが好ましい。これは、重い研磨材粒子および大きな研磨材粒子が研磨スラリー中にこれ以上多く存在すると、スクラッチの発生防止の効果が乏しいと思われるからである。なお、ここでいう粒子群とは、複数の粒子が焼結や溶融や凝集などによって一体化したものを指す。
【0017】
分級工程は、所定の値よりも重量の重い粒子を選択的に除去する工程であってもよい。この場合、所定の値とは、製造する研磨スラリーに含まれる研磨材の標準的な一次粒子の重量を基準として、作業者が、どの程度の重量の粒子がスクラッチの発生要因となるかを推測して適宜設定すればよい。また、分級工程は、被処理液中の研磨材のうち、重量の重い方から3wt%の粒子を除去する工程であってもよい。これらの分級工程は、大きさは小さくても重い粒子がスクラッチが発生する要因となる可能性があるので、それらを予め除去しておくことによりスクラッチの発生を抑制できるから効果的である。
【0018】
調整工程は、少なくとも研磨材の濃度調整および/または被処理液のpH調整を行う工程であってもよい。この調整工程を分級工程後に行うことによって、研磨スラリーを所望の組成に保つことができる。
【0019】
調整工程後に、フィルターを用いてろ過する工程をさらに含んでいてもよく、その場合には、それまでの製造工程において混入したごみを取り除くことができる。なお、このろ過工程は、従来のように大きな研磨材粒子の除去を目的とするものではなく、外部から混入したごみの除去を主目的とするものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の製造方法によると、化学的機械的研磨時のスクラッチの発生を、従来に比べて大幅に抑制することができる研磨スラリーを製造することができる。しかも、この研磨スラリーを所望の組成に保つことができるため、所望の特性で良好な研磨が行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0022】
まず、本発明のスラリーの製造方法について簡単に説明すると、研磨材と分散媒とを混合した被処理液中で研磨材を分散させる分散工程と、分散工程後に被処理液に対して分級を行う分級工程と、分級工程後に被処理液に薬剤を添加して所望の組成にする調整工程とを含む。特に、分散工程の後に分級工程を行い、その後に調整工程を行うという順番が、本発明の主要な特徴である。
【0023】
図1は、本発明の研磨スラリーの製造方法を模式的に示す流れ図である。
【0024】
この方法では、まず、研磨材1と分散媒2を分散機3に投入し、研磨材1を分散媒2中でできるだけ均一になるように分散処理する(ステップ11)。このとき分散機3に投入するのは研磨材1と分散媒2のみ、または研磨材1と分散媒2と少量の分散剤(図示せず)のみである。分散剤以外の、研磨スラリーに必要な薬剤は、研磨材1を凝集させるなど分散性に悪影響を及ぼす場合があるので、ここでは投入しない。
【0025】
なお、分散機3および分散方法は特に限定されるものではなく、インペラー撹拌型分散機、ローター高速撹拌型分散機、超音波分散機、粒子衝突式分散機、ビーズミル分散機、ニーダー分散機、ボールミル分散機などを用いて行うことができる。研磨材1や分散媒2の投入量や分散処理の時間は、それぞれの分散方法に応じて、分散効率を考慮して適宜に設定すればよい。例えば、分散効率を考慮して、研磨材1と分散媒2を含む被処理液が高粘度かつ高濃度になるように分散処理を行う場合には、次工程を考慮して、分散工程後の被処理液4に分散媒2を追加して希釈してもよい。
【0026】
次に、分散処理済みの被処理液4を分級処理する(ステップ12)。スクラッチの発生要因となる粒子を選択的に除去するためには、被処理液4を分散工程後の分散安定状態で分級する必要があるので、被処理液4に様々な薬剤が添加される前に分級処理を行う。分散処理済みの被処理液4に含まれる、一次粗大粒子、焼結粒子、溶融粒子、凝集粒子などスクラッチの発生する要因となる可能性のある様々な不均一粒子を効果的に除去できる方法として、沈降分級や遠心分級が行われる。特に、図1に模式的に示す遠心分級機5では、適切な遠心加速度を付与することにより、寸法の大きな粒子や比重の大きい粒子を優先的に捕捉することができ、スクラッチの発生要因となる可能性のある様々な不均一粒子を効果的に除去できるので好ましい。
【0027】
なお、遠心分級時の遠心加速度は、除去すべき粒子のサイズ、比重、スラリー粘度に応じて任意に設定できるが、粒子径1ミクロン以下の粒子を選択的に分級するためには、遠心加速度は500G〜2500Gであるのが好ましく、より好ましくは1500〜2000Gである。
【0028】
この分級工程によって、被処理液中に含まれる研磨材のうち、粒子径0.99μmの粒子に相当する重量以上の重量を有する粒子および粒子群の数を、分級前の20%以下に減少させ、かつ、粒子径9.99μmの粒子に相当する重量以上の重量を有する粒子および粒子群の数を、分級前の1%以下に減少させることが好ましい。その結果、この分級工程によって粗大粒子の多くは除去され、分級処理後の被処理液中には粗大粒子があまり存在しなくなる。例えば、粒子径9.99μm以上の研磨材粒子を、1mlの被処理液中に100個以下、より好ましくは1mlの被処理液中に50個以下にする。
【0029】
これによって、この製造方法で製造された研磨スラリーを用いて研磨したときのスクラッチの発生を大きく抑制することができる。なお、図2には、分級工程後の被処理液6内の研磨材粒子を示し、図3には、分級工程によって除去された研磨材粒子を示している。
【0030】
遠心分級によると、比重の大きな粒子が除去でき、さらに厳密には、重量の重い粒子が除去でき、例えば同じ比重の粒子でも、粒子径が大きい粒子の方が優先的に除去される。スクラッチの発生要因となる粒子は、重量が重くて硬い粒子(および粒子群)であると考えられるので、これらを除去することが望ましい。例えば、この分級工程において、被処理液中の研磨材のうち、重量の重い方から所定の範囲の粒子を除去してもよい。または、この分級工程において、所定の値よりも重量の重い粒子を選択的に除去してもよい。いずれの場合にも、製造する研磨スラリーに含まれる研磨材の標準的な一次粒子の重量や濃度等を基準として、作業者が、どの程度の重量の粒子がスクラッチの発生要因となるかを推測して、所定の重量範囲または所定の値(重量の上限値)を適宜設定すればよい。
【0031】
一例としては、研磨材が、標準的な一次粒子の径が30nmで、その重さが3.1×10-14g程度であるヒュームドシリカ(真比重2.2)である場合に、重量の重い方から3wt%以上の粒子を除去すると、スクラッチ防止の効果が期待できる。なお、この場合、粒子径が9.99μmの粗大粒子の重さは、標準的な一次粒子の107倍以上(1.2×10-6g程度)である。ただし、研磨材として使用する材質、特にその真比重や一次粒子径に応じて、これらの値は変動する。
【0032】
次に、分級工程後の被処理液6に対して様々な薬剤8を添加して、濃度調整やpH調整などの様々な特性の調整を行う(ステップ13)ことによって、所望の研磨スラリー7が得られる。この調整工程では、研磨材粒子の濃度調整のほか、CMP法に用いられる研磨スラリー7として所望の特性となるように、酸化剤や有機酸や酸化防止剤等、化学反応に必要な薬剤8を添加して様々な調整を行う。さらに、水系スラリーである場合にはpH調整剤を添加してpHの調整を行う。その他、必要に応じて、分散安定剤、界面活性剤、液体潤滑剤、個体潤滑剤、酸、アルカリ、腐食防止剤、凍結防止剤、防腐剤など様々な薬剤8を添加して様々な特性を調整する。
【0033】
このようにして特性の調整を行って、所望の研磨スラリー7が得られる。ただし、図1に示す例では、ここまでの工程で混入した不特定のゴミなどを除去するために、フィルターろ過工程(ステップ14)をさらに行う。ここで用いられるフィルター9は、研磨材1の粗大粒子の除去を行うことを目的としているのではないため、研磨に用いられる研磨材の好適な粒子の径が数十〜数百nm程度である場合には、公称メッシュサイズが20μm程度であってよく、研磨材の粒子の大きさによってはそれより大きなメッシュサイズのものであってもよい。ただし、研磨スラリー7の収率を考慮すると、公称メッシュサイズが5〜20μm程度であるフィルター9を用いることがより好ましい。なお、フィルター9によるろ過工程は省略しても構わない。
【0034】
ここで、以上説明した本発明の方法によって従来の問題を解決できる理由について詳細に説明する。
【0035】
従来、メッシュサイズが細かいフィルターを用いたり、遠心分離とろ過を組み合わせたりして、多くの粗大粒子を除去しても、その研磨スラリーを用いて研磨を行った際に半導体基板の表面に発生するスクラッチの数はあまり減少しないという現象が見られた。その点について本発明者は以下のように考察した。すなわち、研磨スラリーに含まれる研磨材には、その製造工程において、もともと粒子径が大きい一次粗大粒子のほか、一次粒子同士が結合した焼結粒子、溶融粒子、凝集粒子など、様々な不均一粒子が存在する。特に、気相反応法で製造されるヒュームドシリカからなる研磨材の場合には、反応ガスの供給バランスや反応温度分布等により一次粒子径が大きな、いわゆる一次粗大粒子や、反応時の熱により焼結した焼結粒子等が多数形成される。すなわち、ヒュームドシリカは、材料のガスが1000〜2000℃で燃焼されることによって製造され、この燃焼温度とガスの量で粒子径が決まるが、燃焼時の温度分布やガス分布によって、製造される一次粒子の径にばらつきが生じる。このように大きさのばらついた一次粒子のうち、特に大きなものが一次粗大粒子である。また、製造工程中に一次粒子と一次粒子とが熱で溶着し結合したものが焼結粒子である。シリカは強アルカリで溶融するため、一次粒子が被処理液中で溶融して一次粒子同士が溶着したものが溶融粒子である。
【0036】
従来は、サイズの大きな粒子がスクラッチの発生要因となると考えられていたため、メッシュサイズの細かいフィルターを用いることによって、または遠心分離を行うことによって、大きな粒子をできるだけ除去すればスクラッチの発生が低減すると考えられていた。しかし、このように粗大粒子を減少させた研磨スラリーを用いてCMP法を実施しても半導体基板の表面に発生するスクラッチの数があまり減少しなかったことから、本発明者は、粒子径が比較的小さくてもスクラッチの発生要因となる粒子が存在すること、また、逆に、今までスクラッチ発生の主要な要因であると考えられてきた粗大粒子や凝集粒子の中に、スクラッチの発生にあまり関与しない粒子が存在すると考えられることを見出した。
【0037】
例えば、CMP法に用いられる研磨スラリーには、化学作用を生じさせるためにpH調整剤など各種の薬剤が添加されている。研磨材粒子が均一に分散した研磨スラリーにこれらの薬剤を添加すると、研磨材粒子同士が軟凝集を起こす。しかしながら、軟凝集してサイズが大きくなった研磨材粒子は、研磨する際の圧力で容易に分解するため、被研磨面にスクラッチを発生させる要因にはならない。従って、軟凝集粒子を除去してもスクラッチの発生の防止には寄与しない。それにもかかわらず軟凝集粒子を除去すると、後述するように研磨材の濃度の低下および研磨スラリーの組成の変動に伴う研磨特性の低下を招いてしまう。例えば特許文献1に開示されている方法では、各種の薬剤が添加されて特性の調整が行われた研磨スラリーに対して遠心分離工程を行うため、スクラッチの発生する要因とはならずむしろ除去しない方が好ましい軟凝集粒子も除去されてしまう。
【0038】
一方、研磨材には一次粗大粒子や焼結粒子や溶融粒子など、分散工程において粒子1個ずつに分離させて均一に分散することが困難な未分散粒子が存在する。すなわち、焼結粒子や凝集粒子などを含む粒子に均一に剪断応力をかけても、全てを分解させて一次粒子に戻すことは物理的に難しく、若干の未分散粒子が残る。これらの未分散粒子の中に、スクラッチの発生要因となる粒子が含まれていると考えられるが、これらの粒子がさほど大型化していない場合には、フィルターによるろ過では必ずしも除去されない可能性があった。焼結粒子、凝集粒子、溶融粒子などは、通常の一次粒子よりは当然大きいものの、それでもまだかなり小さいので、フィルターのメッシュサイズをある程度小さくしても除去するのは困難であった。
【0039】
このように、従来は、被研磨面にスクラッチが発生する要因となる粒子と、被研磨面にスクラッチが発生する要因とならない粒子とを選択的に除去することができなかった。結果的に、スクラッチの発生を抑制するのは困難であった。
【0040】
このような考察の結果、スクラッチの発生を抑えるためには、研磨スラリーの中から単純にサイズの大きな粒子のみを除去するのはあまり効率的ではなく、スクラッチの発生原因となる粒子を選択的に除去する必要があると考えられる。そして、スクラッチの発生要因となる粒子は、重量が重くて硬い粒子(および粒子群)であると考えられる。ただし、例えば一次粒子が10個まとまっている粒子群であっても、10個の一次粒子の結合力が強いものはスクラッチの発生要因となるが、ただ単に電気的に10個集っているだけで結合力が弱いものは、たとえ重さは同じであってもスクラッチの発生要因とはならないと考えられる。
【0041】
また、従来は、研磨スラリーの製造工程の最後、または研磨スラリーを用いる直前に、遠心分離および/またはフィルターを用いたろ過によって粗大粒子の除去を行っていた。この場合、所望の組成となるように各種薬剤が添加されて調整された研磨スラリー中から研磨材粒子の一部が除去されるので、研磨スラリー中の研磨材の濃度が低下し、研磨スラリーの組成が変化する。特に、メッシュサイズの細かいフィルターを用いる場合や、特許文献1のように遠心分離とフィルターによるろ過とを併用する場合のように、可能な限りスクラッチの発生を防止しようとして多くの粗大粒子を除去すると、研磨材の濃度の低下が著しい。遠心分離してさらにフィルターによるろ過を行うと、研磨スラリーの研磨材の多くが除去されて、その濃度は例えば10wt%から8wt%になるなど大きく低下する。その結果、この研磨スラリーを用いて半導体基板の表面を研磨すると、研磨材粒子が少ないなどの理由から、研磨量や被研磨面の均一性が低下するという問題がある。研磨スラリーを所望の組成にするためには、研磨材粒子の減少に対応して酸化剤等の薬剤の添加量を変えなければならないが、研磨材の濃度がどの程度変化するかは、研磨スラリーの製造を行う度に異なるので、実際に遠心分離やろ過を行ってみないと判らず、予め予測することは困難であった。結局、メッシュサイズの細かいフィルターを用いたり、大きな遠心力で遠心分離を行ったりすると、スクラッチの発生を多少低減することはできても、スクラッチの発生に関与しない研磨材粒子も多量に除去してしまい、研磨スラリーの組成が大きく変化して研磨特性が悪くなる。メッシュサイズが大きいフィルターを用いてろ過したり、遠心力を小さくして遠心分離を行うと、当然のことながら除去される研磨材粒子が少なくなり、スクラッチの発生をあまり低減させることができない。
【0042】
そこで本発明では、分級工程(ステップ12)において、スクラッチの発生する要因となる可能性のある研磨材粒子を選択的に除去した後に、調整工程(ステップ13)において、研磨スラリーを所望の組成になるように調整するようにした。そのため、分級工程における研磨材粒子の除去量に応じて、薬剤8の添加量を適宜調節して所望の組成を得ることができる。そして、調整工程において形成される軟凝集粒子などスクラッチの発生要因とはならない粒子は除去しないため、研磨材粒子の濃度を必要以上に低下させることはない。
【0043】
仮に、分級工程を行わずに調整工程を行うと、濃度調整や薬剤添加時に発生する軟凝集粒子と、分散工程で均一に分散処理できない、スクラッチの発生要因となる粒子とが混在した状態になる。この被処理液からスクラッチの発生要因となる粒子を除去するために、メッシュサイズの細かいフィルターを用いてろ過すると、スクラッチの発生要因とならない軟凝集粒子をも多数捕捉してしまう。これは、必要以上にフィルターの目詰まりを促進し、研磨スラリーの収率が悪くなる原因となる。そして、このようなメッシュサイズの細かいフィルターを用いたろ過工程、または遠心分離では、確かに被処理液中の粗大粒子は減少するものの、スクラッチの発生要因となる粒子を選択的に除去できるわけではないので、半導体基板の表面に発生するスクラッチを抑制することはあまりできない。
【0044】
これに対して、本発明に基づいて製造された研磨スラリー7は所望の組成に保たれ、所望の特性で良好な研磨を行える。そして、分級工程において、被研磨面のスクラッチの発生要因となる可能性のある粒子、特に、標準的な一次粒子に比べてある程度重量の大きな粒子、例えば一次粗大粒子や焼結粒子や溶融粒子や凝集粒子などを選択的かつ効率的に除去することができるため、研磨時の被研磨面へのスクラッチの発生を大きく抑制することができる。なお、本発明は、スクラッチの発生要因となる粒子を多く含むヒュームドシリカを研磨材として有する研磨スラリーや、化学反応を生じさせるCMP法に用いられる研磨スラリーを製造するのに特に適している。なお、本実施形態におけるフィルター9によるろ過工程(ステップ14)は、研磨材粒子ではなくごみを除去するためのものであるため、軟凝集粒子などを捕捉しない程度の大きなメッシュサイズのフィルター9が用いられ、目詰まりは生じにくい。
【実施例】
【0045】
以下に本発明の具体的な実施例を説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0046】
[実施例1]
研磨材1としてヒュームドシリカ、分散媒2として水を含む研磨スラリー7を、本発明の製造方法に従って製造した。
【0047】
図1に示すように、まず、インペラー型分散機3に、ヒュームドシリカの分散濃度が15wt%となるようにヒュームドシリカ(研磨材1)と水(分散媒2)を投入し、インペラーの回転数を1000rpm、周速度を20m/secに設定して1時間の分散処理を行った(ステップ11)。この時点で、分散処理後の被処理液4について、図示しない粒度分布計(パーティクル・サイジング・システムズ製アキュサイザー780:商品名)を用いて、粒子径0.99μm以上の粒子個数(個数/ml)と、粒子径9.99μm以上の粒子個数(個数/ml)を測定した。その測定結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
次に、分散処理済みの被処理液4を、図示しないダイヤフラムポンプを用いて流量1.5l/minで遠心分級機5(クレテック製ナノカットECA1000:商品名)に供給し、遠心ドラムの回転数を3000rpm、遠心加速度(遠心場)を1700Gに設定して遠心分級を行った(ステップ12)。そして、分級処理後の被処理液6について、前記したのと同じ粒度分布計を用いて粒子個数を測定した。その測定結果を表2に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
それから、遠心分級後の被処理液6を、図示しない排出管を通して特性調整用タンク10に送る。そして、被処理液6を攪拌しながら粒子濃度が10wt%になるように調整し、有機酸、酸化防止剤、pH調整剤など、必要な薬剤8を添加して様々な特性の調整を行い(ステップ13)、所望の組成とした。さらに、特性調整後の所望の組成の被処理液に対して、ゴミなどの異物を除去するため、公称メッシュサイズが20μmのフィルター9を用いてろ過を行った(ステップ14)。こうして研磨スラリー7を製造した。この研磨スラリー7を用いてCMP法を実施した結果については後述する。
【0052】
[実施例2]
実施例1と同様に、研磨材1としてヒュームドシリカ、分散媒2として水を含む研磨スラリー7を、図4に示す製造方法に従って製造した。
【0053】
まず、インペラー型分散機3に、ヒュームドシリカの分散濃度が15wt%となるようにヒュームドシリカ(研磨材1)と水(分散媒2)を投入し、インペラーの回転数を1000rpm、周速度を20m/secに設定して1時間の分散処理を行った(ステップ11)。この時点で、分散処理後の被処理液4について、実施例1と同じ粒度分布計を用いて、粒子径0.99μm以上の粒子個数(個数/ml)と、粒子径9.99μm以上の粒子個数(個数/ml)を測定した。その測定結果を表3に示す。
【0054】
【表3】

【0055】
次に、分散処理済みの被処理液4を処理タンク20内に2週間放置し、自然沈降処理を行った(ステップ15)。2週間の放置後に図示しないホースを処理タンク20の上部より差し込んで、図示しないポンプを用いて上澄み液を取り出して粒子個数を測定した。その測定結果を表4に示す。
【0056】
【表4】

【0057】
ポンプを用いて取り出した上澄み液を特性調整用タンク10に送り、攪拌しながら粒子濃度が10wt%になるように調整し、有機酸、酸化防止剤、pH調整剤など必要な薬剤8を添加して様々な特性の調整を行い(ステップ13)、所望の組成とした。さらに、特性調整後の所望の組成の被処理液に対して、ゴミなどの異物を除去するため、公称メッシュサイズが20μmのフィルター9を用いてろ過を行った(ステップ14)。こうして研磨スラリー7を製造した。この研磨スラリー7を用いてCMP法を実施した結果については後述する。
【0058】
(比較例1〜4)
実施例1と同様に分散処理(ステップ11)を行った被処理液を用いて、遠心分級や自然沈降処理を行わずに、実施例1と同様の特性調整を行い(ステップ13)、所望の組成とした。それから、特性調整後の所望の組成の被処理液に対して、粗大粒子を除去するため、様々なメッシュサイズのフィルターを用いてろ過を行った。具体的には、比較例1では公称メッシュサイズが5μmのフィルター、比較例2では公称メッシュサイズが3μmのフィルター、比較例3では公称メッシュサイズが1μmのフィルター、比較例4では公称メッシュサイズが0.5μmのフィルターをそれぞれ用いてろ過を行って研磨スラリーを製造した。これらの研磨スラリーを用いてCMP法を実施した結果については後述する。
【0059】
(研磨実験)
前記した実施例1,2および比較例1〜4の研磨スラリーを用いてCMP法を実施する研磨実験を行った。被研磨物としては、半導体基板(ウエハ)の半製品である、シリコン基板上に形成された絶縁膜をフォトリソグラフィ技術及びドライエッチング技術を用いてパターニングして、ダマシン構造の基礎となるパターンを形成した後、バリアメタル膜とCu膜を堆積したものを用いた。
【0060】
研磨後の被研磨物の評価は、欠陥検査装置を用いて、ウエハ全面におけるスクラッチ発生数を調べた。比較のため、実施例1,2と比較例1〜4の研磨スラリーの粒子個数とスクラッチ発生数とを表5に示した。スクラッチ発生数は、比較例1のスクラッチ発生数を100としたときの相対値で示した。また、実施例1,2と比較例1〜4の研磨スラリーの粒子濃度を表6に示した。粒子濃度は、100gの研磨スラリーを蒸発皿に入れて200℃で4時間加熱して水分を蒸発させ、蒸発の前後の重量から求め、実施例1の粒子濃度を100とした時の相対値で示した。
【0061】
【表5】

【0062】
【表6】

【0063】
表5から明らかなように、実施例1の研磨スラリーはスクラッチ発生数が1〜2と少なく非常に良好な結果が得られた。これに対し、比較例1〜4では、メッシュサイズを小さくすることにより、粒子径0.99μm以上の粒子も粒子径9.99μm以上の粗大粒子も減少しているが、スクラッチ発生数が多いことがわかる。実施例2の研磨スラリーは粗大粒子の数が最も多いが、スクラッチ発生数は52であり、実施例1には及ばないものの比較例1〜4と比較すると少なくなっている。また、表6から明らかなように、研磨スラリー中の粒子濃度はフィルターサイズが小さいほど低下している。図示しないが、比較例3,4の研磨スラリーでは、スクラッチが多数発生しているのみならず、研磨量の低下や研磨量の面内均一性の悪化が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明のスラリー製造工程を説明する模式的な工程図である。
【図2】分級工程後の被処理液内の研磨材粒子を示す図である。
【図3】分級工程によって除去された研磨材粒子を示す図である。
【図4】本発明のスラリー製造工程の他の例を説明する模式的な工程図である。
【符号の説明】
【0065】
1 研磨材
2 分散媒
3 分散機
4 分散後の被処理液
5 遠心分級機
6 分級後の被処理液
7 研磨スラリー
8 薬剤
9 フィルター
10 特性調整用タンク
11 分散工程
12 遠心分級による分級工程
13 調整工程
14 フィルターによるろ過工程
15 自然沈降による分級工程
20 処理タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨材と分散媒とを混合した被処理液中で前記研磨材を分散させる分散工程と、
前記分散工程後の被処理液に対して分級を行う分級工程と、
前記分級工程後の被処理液に薬剤を添加して所望の組成にする調整工程とを含む、研磨スラリーの製造方法。
【請求項2】
前記分級工程は、前記研磨材の、前記研磨スラリーを用いた研磨時にスクラッチの発生要因となる粒子を選択的に除去する工程である、請求項1に記載の研磨スラリーの製造方法。
【請求項3】
前記分級工程は遠心分級を行う工程である、請求項1または2のいずれか1項に記載の研磨スラリーの製造方法。
【請求項4】
前記分級工程は、前記被処理液中に含まれる前記研磨材のうち、粒子径0.99μmの粒子に相当する重量以上の重量を有する粒子および粒子群の数を、分級前の20%以下に減少させ、かつ、粒子径9.99μmの粒子に相当する重量以上の重量を有する粒子および粒子群の数を、分級前の1%以下に減少させるように行われる、請求項3に記載の研磨スラリーの製造方法。
【請求項5】
前記分級工程は、所定の値よりも重量の重い粒子を選択的に除去する工程である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の研磨スラリーの製造方法。
【請求項6】
前記分級工程は、前記被処理液中の前記研磨材のうち、重量の重い方から3wt%の粒子を除去する工程である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の研磨スラリーの製造方法。
【請求項7】
前記調整工程は、少なくとも前記研磨材の濃度調整および/または前記被処理液のpH調整を行う工程である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の研磨スラリーの製造方法。
【請求項8】
前記調整工程後に、フィルターを用いてろ過する工程をさらに含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の研磨スラリーの製造方法。

【図1】
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【図4】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−43781(P2006−43781A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−223914(P2004−223914)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(302062931)NECエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【出願人】(390027443)株式会社TMP (8)
【Fターム(参考)】