説明

研磨布

【課題】研磨効率を向上させることができる研磨布を提供する。
【解決手段】研磨布20はウレタンシート5を備えている。ウレタンシート5は、ポリウレタン樹脂製の弾性糸7で作製された織物シート5aを有している。織物シート5aは、ポリウレタン樹脂製のナノ短繊維で形成されたファイバ被覆部5bで被覆されている。織物シート5aは、研磨加工時に被研磨物側に位置するシート面6を有している。シート面6は、経糸7a、緯糸7bの交差により凹凸状に形成されている。隣り合う経糸7a、隣り合う緯糸7bの間には間隙8が形成されている。ファイバ被覆部5bは、ナノ短繊維がシート面6側に露出した弾性糸7の表面を直接被覆している。ファイバ被覆部5bの織物シート5aと反対側の面が研磨面Pを形成する。研磨面P側で間隙が確保される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は研磨布に係り、特に、樹脂繊維の交絡または織編により網目状に形成され被研磨物を研磨加工するための研磨面を有する繊維シートを備えた研磨布に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスや液晶ディスプレイ用ガラス基板等の材料(被研磨物)の表面(加工面)では、平坦性を向上させるために研磨加工が行われている。半導体デバイスでは半導体回路の集積度が急激に増大するにつれて高密度化を目的とした微細化や多層配線化が進められており、液晶ディスプレイでは大型化が進められている。このため、加工面を一層高精度に平坦化する技術が重要となっている。
【0003】
従来研磨加工には、ポリウレタン発泡体を備えた研磨パッド、ポリウレタン樹脂を含浸させた不織布や織編物等を備えた研磨布等が用いられている。研磨布は、被研磨物を研磨加工するための研磨面を有している。加工面の平滑性向上とスクラッチ低減とを両立させ、高精度な平坦化を実現するために、研磨面に極細繊維を配した研磨布が知られている。すなわち、研磨布を構成する繊維を細くして、研磨布を柔らかくすることが望まれている。研磨布を柔らかくすると研磨量が低下することがあるため、研磨加工時に研磨布に与える加工圧力(研磨圧)が高く設定され、被研磨物への研磨布の当たりが強くされる。ところが、加工圧力が高くなると、研磨加工時に研磨布の安定性が低下し、研磨布自体の伸びにより加工面にスクラッチ(キズ)等の欠点を生じさせることがある。
【0004】
極細繊維を配した研磨布としては、例えば、極細繊維で形成された織編物の表面を研磨面とした研磨布の技術が開示されている(特許文献1参照)。また、極細繊維で形成された不織布の表面を研磨面とした研磨布の技術が開示されている(特許文献2、特許文献3参照)。ところが、特許文献1の技術では、研磨面が極細繊維で緻密に形成されているため、研磨屑等の異物の入り込める余地がなく、さらには研磨加工時に供給されるスラリ(研磨粒子を含む研磨液)の循環性が悪くなる。このため、研磨効率を低下させ、研磨面側に異物等が堆積することで加工面に対するスクラッチの発生が懸念される。これに対して、特許文献2、特許文献3の技術では、研磨面側に溝ないし貫通孔を形成することでスラリの循環性を向上させ、研磨除去速度(被研磨物の加工面を削り取る速度)を高めると共に異物等の堆積が抑制されるものの、研磨加工中、溝ないし貫通孔の内側に極細繊維が縒れてしまい、極細繊維の分布が不均一となる。このため、研磨圧の分布が不均一となり、加工面の平坦性が損なわれるうえ、研磨特性が経時的に変化してしまうことが懸念される。
【0005】
また、使用される極細繊維は、通常、高分子相互配列体繊維法による海島型繊維や剥離型複合紡糸法による分割型繊維であり、多成分樹脂を複合紡糸したのち1成分を取り出すことで得られる。複合紡糸し得られる極細繊維では、極細繊維が束状になりやすく分散性に劣ることから、極細繊維本来の特性(研磨布を柔らかくすること)を得ることが難しくなる。また、各成分の分散性や分割性を考慮した樹脂の選定が必要であり、ポリエステルやポリアクリロニトリル等の材質に制限される。ポリエステル等の極細繊維では、弾力性が不十分なため、研磨面に配しても、ミクロレベルでの研磨粒子凝集物や研磨屑等の沈み込みの効果が得られにくくなる。このため、凝集体等が研磨面と加工面との間に挟まれスクラッチの原因となる。更には、大きな研磨負荷に対する戻りが悪く回復性が不十分なため、加工面の高精度な平坦性向上が難しくなる。また、ポリエステル等の極細繊維を編織して形成された編織物では、極細繊維が固定されないため、研磨加工時に極細繊維が脱離しスクラッチを引き起こすおそれがある。一方、複合紡糸し得られた極細繊維に代えて、エレクトロスピニング(電界紡糸)法により得られた極細繊維の不織布を用いた研磨布の技術が開示されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−207319号公報
【特許文献2】特開2008−240168号公報
【特許文献3】特開2008−238282号公報
【特許文献4】特開2008−254136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献4の技術では、極細繊維がエレクトロスピニング法で得られることから極細繊維の分散性が向上するものの、研磨面が極細繊維で緻密に覆われるため、特許文献1と同様にスラリの循環性が悪くなり、研磨効率の低下を招くこととなる。一方、ポリエステル等の繊維と比べて優れた弾力性や回復性を有する繊維としてポリウレタン樹脂で形成されたポリウレタン繊維が知られているが、ポリウレタン樹脂では、複合紡糸しても極細繊維化が難しく、研磨面にポリウレタン樹脂の極細繊維を配した研磨パッドや研磨布は知られていないのが現状である。
【0008】
本発明は上記事案に鑑み、研磨効率を向上させることができる研磨布を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、樹脂繊維の交絡または織編により網目状に形成され被研磨物を研磨加工するための研磨面を有する繊維シートを備えた研磨布において、前記繊維シートは、少なくとも前記研磨面側に露出した前記樹脂繊維の表面がナノファイバで被覆されたことを特徴とする。
【0010】
本発明では、繊維シートの少なくとも研磨面側に露出した樹脂繊維の表面がナノファイバで被覆されたことで、研磨面側で樹脂繊維の間隙が確保されるため、研磨加工時に供給される研磨液がナノファイバに保持され樹脂繊維の間隙に入り込むので、研磨液循環性を高め研磨効率を向上させることができる。
【0011】
この場合において、ナノファイバが電界紡糸法により繊維シートの少なくとも研磨面側に露出した樹脂繊維の表面を直接被覆することが好ましい。また、ナノファイバの被覆厚さを0.1μm〜50μmの範囲とすることができる。また、ナノファイバが繊維径100nm〜300nmの範囲、繊維長1μm〜50μmの範囲の繊維で構成されてもよい。繊維シートを構成する樹脂繊維に導電性物質が含有されていることが好ましい。ナノファイバがポリウレタン樹脂を含むようにしてもよい。また、繊維シートを、ポリウレタン樹脂を含む弾性糸の織編により形成された織物シートまたは編物シートとすることができる。繊維シートを、樹脂繊維の交絡により形成された不織布シートとしてもよい。このとき、不織布シートを構成する樹脂繊維の表面がポリウレタン樹脂で被覆されていてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、繊維シートの少なくとも研磨面側に露出した樹脂繊維の表面がナノファイバで被覆されたことで、研磨面側で樹脂繊維の間隙が確保されるため、研磨加工時に供給される研磨液がナノファイバに保持され樹脂繊維の間隙に入り込むので、研磨液循環性を高め研磨効率を向上させることができる、という効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明を適用した実施形態の研磨布を模式的に示す断面図である。
【図2】実施形態の研磨布を構成するウレタンシートを模式的に示す平面図である。
【図3】実施形態の研磨布のウレタンシートを構成する弾性糸の間隙を意図的に拡大しファイバ被覆部を模式的に示す拡大断面図である。
【図4】実施形態の研磨布を構成するファイバ被覆部の形成に用いた電界紡糸装置の概略を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明を適用した研磨布の実施の形態について説明する。
【0015】
(構成)
本実施形態の研磨布20は、図1に示すように、被研磨物を研磨加工するための研磨面を有するウレタンシート5を備えている。ウレタンシート5は、ポリウレタン樹脂を含む弾性糸で作製された繊維シートとしての織物シート5aを有している。織物シート5aは、ポリウレタン樹脂製で繊維径がナノスケールのナノ短繊維で形成されたナノファイバとしてのファイバ被覆部5bで被覆されている。
【0016】
図2に示すように、織物シート5aは、ポリウレタン樹脂を含む弾性糸7を用いた経糸7aおよび緯糸7bが1本ずつ交互に交差した平織組織の織物で形成されている。すなわち、織物シート5aは、弾性糸7で網目状に形成されている。織物シート5aの一方の表面は、研磨加工時に被研磨物側に位置するシート面6を形成している。シート面6は、経糸7a、緯糸7bの交差により略均等な凹凸状に形成されている。隣り合う経糸7aおよび隣り合う緯糸7bの間には間隙8が形成されている。換言すれば、間隙8は、2本の経糸7aおよび2本の緯糸7bで画定されており、経糸7aおよび緯糸7bの交差により連続的に形成されている。経糸7aおよび緯糸7bは、その重なる部分で熱融着されている。また、弾性糸7には、導電性を有するカーボンブラック(導電性物質)9が略均等に分散された状態で含有されている。なお、図2では、間隙8をわかりやすくするため、隣り合う経糸7aの間隔、隣り合う緯糸7bの間隔をそれぞれ誇張して示している。
【0017】
弾性糸7は、ポリウレタン重合体を含有させた紡糸原液を紡糸することで形成されたモノフィラメント(単繊維)の1〜125本が束ねられ構成されている。このモノフィラメントは、繊度が5〜50デシテックス(Dtex)の範囲となるように紡糸されている。モノフィラメントの繊度や本数を変えることで、織物シート5aの厚さを100〜2000μm程度に調整することができる。本例では、弾性糸7として、15デシテックスのモノフィラメントが5本束ねられた、いわゆるマルチフィラメントが用いられている。
【0018】
モノフィラメントには、ポリウレタン重合体の溶媒に可溶で、水に不溶の弾性調整ポリマが配合されている。この弾性調整ポリマは、得られるモノフィラメントの弾性を調整する機能を果たす。弾性調整ポリマとしては、アクリル酸系モノマの単独重合体やアクリル酸系モノマとアクリルアミド等の不飽和モノマとの共重合体等のアクリル樹脂系ポリマ、アクリロニトリルの単独重合体やアクリロニトリルを主成分とする共重合体等のアクリロニトリル系ポリマ、酢化度(アセチル化度)30〜62.5%、重合度200〜400のジアセチルセルロースないしトリアセチルセルロース等のアセチルセルロース等が用いられる。弾性調整ポリマの配合量は、ポリウレタン重合体に対し10〜70重量%の範囲に設定されている。弾性調整ポリマの配合量が10重量%に満たないと、モノフィラメントの伸長モジュラスが小さくなりすぎ、高伸長時に過度の弾性を示すため、製編織時のテンションコントロールが難しくなりやすく、安定した製編織性が得られなくなる。反対に、配合量が70重量%を超えると、弾性が低下し、伸長モジュラスが大きくなりすぎるため、被研磨物に対するスクラッチの発生を抑制できなくなる。伸長モジュラスや製造上の観点を考慮すれば、弾性調整ポリマの配合量を30〜50重量%の範囲とすることが好ましい。
【0019】
弾性調整ポリマを含有させたモノフィラメントでは、1.2倍の長さに伸長したときの伸長モジュラスが0.03〜0.5cN(センチニュートン)/Dtexの範囲となるように調整されている。伸長モジュラスは、ポリウレタン重合体の濃度や弾性調整ポリマの配合量を変えることで、調整することができる。
【0020】
図3に示すように、ファイバ被覆部5bは、織物シート5aのシート面6側(図3の上側)に露出した弾性糸7の表面を被覆している。すなわち、経糸7aが緯糸7bの上側に位置する部分では経糸7aの表面を、緯糸7bが経糸7aの上側に位置する部分では緯糸7bの表面をそれぞれファイバ被覆部5bが被覆している。図3に示す経糸7aでは、円形状断面の上側半分程度の表面がファイバ被覆部5bで被覆されている。また、緯糸7bでは、上側を経糸7aで覆われない部分の表面がファイバ被覆部5bで被覆されている。換言すれば、ファイバ被覆部5bは、シート面6側に露出した弾性糸7の表面に沿うように形成されている。このファイバ被覆部5bは、電界紡糸(エレクトロスピニング)法により紡出されたナノ短繊維がシート面6側に露出した弾性糸7の表面に直接集積され形成されている。ファイバ被覆部5bでは、ナノ短繊維が交絡した状態で集積されている。ファイバ被覆部5bの平均の厚さ(ナノファイバの被覆厚さ)は、本例では、0.1〜50μmの範囲に調整されている。この厚さは、ファイバ被覆部5bを形成するときのナノ短繊維の紡出条件で調整することができる。ファイバ被覆部5bを構成するナノ短繊維は、本例では、繊維径が100〜300nmの範囲、繊維長が1〜50μmの範囲に形成されている。ナノ短繊維は交絡部分で固着しており、ナノ短繊維の間には間隙が形成されている。ファイバ被覆部5bの弾性糸7側に位置するナノ短繊維は、弾性糸7に固着している。ファイバ被覆部5bの織物シート5aと反対側(表面側)に被研磨物を研磨加工するための研磨面Pが形成される。ファイバ被覆部5bが弾性糸7の表面に沿うように形成されることで間隙8が塞がれず、研磨面Pで間隙が確保されていることとなる。
【0021】
また、図1に示すように、織物シート5aのシート面6と反対の面(織物シート5aの他方の表面)側には、両面テープ13が貼り合わされている。両面テープ13は、図示を省略した基材の両面に、アクリル系粘着剤等の粘着剤が略均一な厚さで塗工された粘着剤層を有している。基材にはポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記する。)等の樹脂製フィルムが用いられている。両面テープ13との接着面積を大きくするために、織物シート5aのシート面6と反対の面側にバフ処理が施され凹凸が平坦化されている。両面テープ13は、一面側の粘着剤層を介して織物シート5aと貼り合わされており、他面側の粘着剤層が剥離紙14で覆われている。
【0022】
(製造)
研磨布20は、ポリウレタン重合体を含む紡糸原液を紡糸することで得られたマルチフィラメントの弾性糸7で織物シート5aを織成(織物作製)し、電界紡糸法により織物シート5aに向けてナノ短繊維を紡出することでファイバ被覆部5bを形成した後、得られたウレタンシート5の研磨面Pと反対の面側に両面テープ13を貼り合わせることで製造される。以下、織物シート5aの織成、ファイバ被覆部5bの形成、貼り合わせの順に説明する。
【0023】
(織物シートの織成)
織物シート5aの織成に使用する弾性糸7の作製では、ポリウレタン重合体、弾性調整ポリマのアセチルセルロース、カーボンブラック9を含有させた紡糸原液を調製した後、紡糸ノズルから高温雰囲気中に紡糸原液を吐出してモノフィラメントを乾式紡糸する。紡糸原液は、有機ジイソシアネート化合物とジオール化合物とを反応させたイソシアネート基末端プレポリマ(以下、単に、プレポリマという。)に、鎖伸長剤および末端停止剤を有機溶媒中で反応させて調製したポリウレタン重合体溶液と、同じ有機溶媒を用いて調製したアセチルセルロース溶液と、同じ有機溶媒に分散させたカーボンブラック9と、を混合し調製する。
【0024】
プレポリマの調製に用いられるジオール化合物としては、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、ポリオキシペンタメチレングリコール、ポリオキシヘキサメチレングリコール、ポリオキシプロピレンテトラメチレングリコール等のポリエーテルジオールと、アジピン酸、セバシン酸、マレイン酸等のジカルボン酸の1種または2種以上との反応で生成されるポリエステルジオール化合物、ポリエーテルポリエステルジオール化合物、ポリラクトンジオール化合物、ポリカーボネートジオール化合物、ポリエステルポリカーボネートジオール化合物等の高分子ジオール化合物から選ばれる1種または2種以上を挙げることができる。用いるジオール化合物は、数平均分子量が1000〜2500の範囲であればよい。また、ジオール化合物にエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール等の低分子ジオール化合物やブタノール、ヘキサノール等のモノオール化合物を少量添加、混合してもよいが、上述した高分子ジオール化合物の割合が80重量%に満たないと、鎖伸長反応が十分に進行しないため、好ましくない。本例では、ポリエーテルジオール化合物の中から、数平均分子量が2000のポリオキシテトラメチレングリコールが用いられる。
【0025】
また、プレポリマの調製に用いられる有機ジイソシアネート化合物としては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の1種または2種以上の組み合わせを挙げることができる。本例では、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートが用いられる。
【0026】
プレポリマの調製では、ジオール化合物と有機ジイソシアネート化合物とを、夫々が固化しない温度にて混合し、90℃以下の温度環境下で30〜120分間反応を行い、末端に2個のイソシアネート基を有するプレポリマを得る。このとき、ジオール化合物に対する有機ジイソシアネート化合物の量は、110〜210モル%の範囲、好ましくは150〜190モル%の範囲に調整する。ジオール化合物に対する有機ジイソシアネート化合物の量が110モル%に満たないと、得られるモノフィラメントの強度が不十分となり、紡糸工程で糸切れを起こしやすいので好ましくなく、反対に、210モル%を超えると、プレポリマ中に未反応の有機ジイソシアネート化合物が多く残留するため、鎖伸長反応を行っても得られるポリウレタン重合体中に占める低分子鎖ポリウレタンの割合が多くなり好ましくない。
【0027】
得られたプレポリマに、イソシアネート基と反応しうる活性水素基を2個以上有する鎖伸長剤、および、イソシアネート基と反応しうる活性水素基を1個有する末端停止剤を有機溶媒中で重合反応させて、ポリウレタン重合体溶液を調製する。重合方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、バッチ式重合法や紡糸ノズルに直結して連続的に供給する連続重合法も採用できる。重合時間としては、重合反応が終了する時間であればよく、例えば、バッチ式重合法では、通常30〜90分間反応させればよい。重合温度は、0〜70℃の範囲で行うことが好ましい。重合温度が低すぎると重合に長時間を要し効率が悪くなり、反対に、高すぎると副反応が促進されるため好ましくない。
【0028】
重合反応に用いられる鎖伸長剤としては、エチレンジアミン、1,2−プロピレンジアミン、1,3−プロピレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、4,4’−ジフェニルメタンジアミン、シクロヘキシレンジアミン、2,4−トリレンジアミン、2,6−トリレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヒドラジン、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール等の1種または2種以上の組み合わせを挙げることができる。また、末端停止剤としては、ジメチルアミン、メチルエチルアミン、ジエチルアミン、メチル−n−プロピルアミン、メチルイソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジ−n−ブチルアミン、ジ−n−ヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等を挙げることができる。本例では、鎖伸長剤としてエチレンジアミン、末端停止剤としてジエチルアミンがそれぞれ用いられる。
【0029】
ポリウレタン重合体溶液の調製に用いられる有機溶媒は、上述したプレポリマ、鎖伸長剤、末端停止剤およびこれらの反応生成物であるポリウレタン重合体を溶解させることができ、通常用いられる条件下で各物質および反応生成物に対して不活性な極性溶媒であれば特に限定されるものではない。このような有機溶媒として、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチルピロリドン(NMP)等を挙げることができる。本例では、有機溶媒としてDMFが用いられる。
【0030】
一方、ポリウレタン重合体溶液と混合するアセチルセルロース溶液は、アセチルセルロースをDMFに溶解させ調製する。本例で用いたアセチルセルロースは、酢化度50%、重合度300のため、ポリウレタン重合体溶液の調製に用いた有機溶媒のDMFに可溶で、かつ、水に不溶である。アセチルセルロース溶液の濃度は、ポリウレタン重合体溶液に十分に混合できる範囲で、モノフィラメントとして紡出可能な範囲であれば特に制限されるものではないが、概ね15〜40重量%の濃度とすることが好ましい。アセチルセルロースの配合量は、ポリウレタン重合体に対し、10〜70重量%となるように調整する。また、カーボンブラック9の分散液は、カーボンブラック9をDMFに分散させて調製し、カーボンブラック9の配合量は、ポリウレタン重合体に対して1〜5重量%となるように調整する。
【0031】
得られたポリウレタン重合体溶液と、アセチルセルロース溶液と、カーボンブラック9の分散液と、を略均一に混合攪拌して紡糸原液を調製する。混合するタイミングとしては、ポリウレタン重合体の重合反応が終了した時点以降であればよい。混合時の攪拌方法は特に制限されるものではなく、一般的な攪拌装置を用いることができる。なお、紡糸原液中に必要に応じてポリウレタン系の弾性糸の製造に通常用いられる、艶消剤、耐光剤、紫外線吸収剤、ガス変色防止剤等を添加混合させてもよい。
【0032】
調製した紡糸原液を、紡糸ノズルから高温雰囲気中に吐出してモノフィラメントを乾式紡糸する。このときの紡糸条件としては、特に制限されるものではなく、通常用いられる条件であればよい。紡糸ノズルの孔径や紡糸原液の吐出速度と巻取速度、高温雰囲気中の溶媒濃度や温度によりモノフィラメントの繊度を調整することができ、紡糸ノズルの孔数により所望の本数のマルチフィラメントを得ることができる。本例では、15デシテックスのモノフィラメントが得られるように紡糸ノズルの孔径が設定されており、孔数が5個に設定されている。すなわち、5本のモノフィラメントが引き揃えられて紡糸されることで、マルチフィラメントの弾性糸7が得られる。得られた弾性糸7は仮撚りしながら糸管に巻き取られ巻糸体とされる。
【0033】
得られた弾性糸7を経糸7aおよび緯糸7bとし、平織組織の織物シート5aを織成する。織物シート5aの織成では、一般的な織機、例えば、シャトル織機、エアジェット織機、ウォータージェット織機、レピア織機等を用いることができる。一般に、ポリウレタン等の弾性糸では、伸縮性を有するため、織成することが難しい。すなわち、シャトル織機では弾性糸を緯糸として打ち込む際に弾性糸が伸びきってしまい、打ち込みができなくなり、エアジェット織機やウォータージェット織機では緯糸を入れるときに切断が生じ、レピア織機では緯糸の受け渡しが不安定となる。従来弾性糸の織成では、弾性糸をポリエステル糸やナイロン糸等の非弾性糸でカバリングしたカバリング糸とし、弾性糸の伸縮性を安定的に維持、制限した状態で織成されている。
【0034】
上述したように紡糸して得られた弾性糸7では、モノフィラメントの伸長モジュラスが0.03〜0.5cN/Dtexの範囲となるように調整されている。このため、弾性糸7の伸縮性が制限されることから、カバリング糸とすることなく織成することができる。すなわち、弾性糸7の巻糸体から、通常のビーム成経で経糸7aを準備し、緯糸7bを準備した後、織機を用いて織成する。織成した織物シート5aを、ホットプレートで熱プレスすることや、対向配置された熱ローラ間を通過させることで、経糸7aおよび緯糸7bの交差部分を熱融着させる。このとき、ホットプレートや熱ローラの温度は、弾性糸7が加熱により粘着性を発現する温度(粘着温度)より高く、融点より少なくとも10℃程度低い温度に設定する。温度が弾性糸7の粘着温度を下回ると十分な融着ができないこととなる。反対に、融点に近すぎると、弾性糸7が熱で溶融しすぎて間隙8を狭めることとなり、フィラメント切れを起こしてしまうため、好ましくない。得られた平織組織の織物シート5aは、ロール状に巻き取られる。
【0035】
得られた織物シート5aのシート面6と反対の面側にバフ処理が施される。織物シート5aでは、経糸7aおよび緯糸7bの交差により両面が凹凸状に形成されている。このため、両面テープ13との接着強度が若干低下する可能性がある。シート面6と反対の面側にバフ処理を施すことで、両面テープ13との接着面積を増大させ、接着強度を確保することができる。織物シート5aをバフ処理するときは、ロール状に巻き取られた織物シート5aを引き出し、シート面6側に、表面平坦性を有する圧接ローラ等の表面を圧接させ、シート面6と反対の面側にバフローラでバフ処理を施す。バフ処理された織物シート5aは、再度ロール状に巻き取られる。
【0036】
(ファイバ被覆部の形成)
ファイバ被覆部5bは、ポリウレタン樹脂を揮発性の良溶媒で溶解させた紡糸液を調製し、電界紡糸装置で織物シート5aのシート面6に向けてナノ短繊維を紡出することで形成される。揮発性の良溶媒としては、DMF、メチルエチルケトン(MEK)、テトラヒドロフラン(THF)、クロロホルム、ジクロロメタン等から選択される1種以上を使用することができる。また、紡糸液には、ナノ短繊維の紡出性を良化するためにカーボンブラック等の導電性微粒子を添加することができる。ポリウレタン樹脂には、織物シート5aに使用した弾性糸7の作製と同じポリウレタン樹脂を用い、例えば、ポリウレタン樹脂が5重量%となるようにDMFに溶解させる。得られた溶液を濾過することで凝集塊等を除去した後、真空下で脱泡して紡糸液を調製する。
【0037】
電界紡糸装置40は、図4に示すように、紡糸液を貯留する紡糸液槽33を有している。紡糸液槽33は、下端部に紡糸液を噴霧するための金属製の紡糸ノズル34を有している。紡糸ノズル34は、先端が下側となるように略垂直に紡糸液槽33から突出している。紡糸ノズル34の先端の口径は、上述したナノファイバの繊維径に合わせて0.3〜2.0μmに設定されている。紡糸ノズル34には、4〜30kV、好ましくは6〜25kVの高電圧を発生可能な電源Vが接続されている。紡糸ノズル34の下方には導電基板37が略水平に配置されている。導電基板37および電源Vはそれぞれ接地されている。
【0038】
ファイバ被覆部5bの形成時には、導電基板37の上面に織物シート5aがシート面6を上側にして載置され、紡糸液が紡糸液槽33に注入される。紡糸ノズル34および導電基板37間に電源Vにより4〜30kVの高電圧が印加されると、紡糸液槽33に注入された紡糸液が紡糸ノズル34の先端から連続的に噴霧される。噴霧された紡糸液中のポリウレタン樹脂が分子間に作用する電気的反発力により分散され繊維状となる。このとき、紡糸液の粘性、換言すれば、紡糸液の調製に用いたポリウレタン樹脂の分子量や濃度、紡糸時に印加する電圧の大きさ、導電性微粒子の添加等により噴霧されたポリウレタン樹脂が切れることで、上述した繊維長のナノ短繊維が形成される。導電基板37の上面に載置された織物シート5aの上面(シート面6)側がナノ短繊維で被覆されてファイバ被覆部5bが形成される。すなわち、ファイバ被覆部5bは、シート面6側に露出した弾性糸7の表面に形成される。紡糸液を噴霧する時間によりファイバ被覆部5bの厚さを調整することができる。
【0039】
紡糸ノズル34から紡出されたナノ短繊維は、織物シート5aのシート面6側に露出した弾性糸7の表面を直接被覆する。紡糸ノズル34からの紡糸液の紡出初期では、ナノ短繊維がウェット状態で織物シート5aと接触し固着する。また、紡出されたナノ短繊維がウェット状態で絡み合い、乾燥する過程で交絡部分が固着する。上述した厚さ範囲に形成されたファイバ被覆部5bでは、織物シート5aと反対側の表面が研磨面Pを形成する。
【0040】
(貼り合わせ)
貼り合わせでは、ファイバ被覆部5bを形成した織物シート5aと両面テープ13とを貼り合わせる。このとき、両面テープ13の一側の粘着剤層が織物シート5aのファイバ被覆部5bと反対側の面(バフ処理された面)と貼り合わされる。両面テープ13の他面側には剥離紙14が残されている。その後、円形等の所望の形状、サイズに裁断した後、汚れや異物等の付着がないことを確認する等の検査を行い、研磨布20を完成させる。
【0041】
得られた研磨布20で被研磨物の研磨加工を行うときは、例えば、両面研磨機の対向配置された2つの定盤にそれぞれ研磨布20が装着される。このとき、研磨布20の剥離紙14を取り外し、露出した接着剤層で2つの定盤に接着固定する。両面研磨機では、被研磨物が2つの定盤にそれぞれ貼付された2枚の研磨布20間に挟まれて押圧されながら両面同時に研磨加工される。研磨加工時には、研磨粒子を含む研磨液(スラリ)が被研磨物および研磨布20間に供給される。
【0042】
(作用等)
次に、本実施形態の研磨布20の作用等について説明する。
【0043】
本実施形態の研磨布20では、織物シート5aのシート面6側に露出した弾性糸7の表面がファイバ被覆部5bで被覆されている。織物シート5aでは、弾性糸7の間に間隙8が形成されているため、研磨面Pでも間隙が確保されている。このため、研磨加工時に発生した研磨屑等の異物が間隙8に入り込む。これにより、被研磨物および研磨布20間での研磨屑の滞留が抑制されるので、被研磨物に対するスクラッチ発生を抑制することができる。
【0044】
また、本実施形態の研磨布20では、ナノ短繊維が繊維長1〜50μmの範囲のため、経糸7a、緯糸7bの交差による凹凸に沿うように、シート面6側に露出した弾性糸7の表面に集積される。このため、長繊維のナノ繊維ではシート面6を略平坦に覆ってしまい、間隙8が塞がれてしまうのに対して、間隙8を塞ぐことなくシート面6の形状に追従するようにファイバ被覆部5bを形成することができる。
【0045】
更に、ファイバ被覆部5bでは、ナノ短繊維が交絡部分で固着しており、シート面6側のナノ短繊維が弾性糸7に固着している。ファイバ被覆部5bを構成するナノ短繊維と、織物シート5aの弾性糸7とが同じポリウレタン樹脂を含むため、電界紡糸法により織物シート5aに向けてナノ短繊維を紡出したときに固着しやすくなる。従って、研磨加工時にナノ短繊維の脱離が発生しにくくなるため、被研磨物に対するスクラッチを低減することができる。
【0046】
また更に、本実施形態の研磨布20では、ファイバ被覆部5bを形成するナノスケールの繊維径のナノ短繊維が柔軟性を有している。つまり、ファイバ被覆部5bの硬度が織物シート5aの硬度より小さくなる。このため、ファイバ被覆部5bでは研磨屑等の異物がナノ短繊維の間隙に入り込むことで柔軟なナノ短繊維で囲まれる。換言すれば、ファイバ被覆部5bにより、ミクロなレベルで異物を沈み込ませる軟らかさが付与される。これにより、研磨加工時に異物が被研磨物の表面にこすり付けられることなく、キズ(スクラッチ)の発生を抑制することができる。
【0047】
更にまた、本実施形態の研磨布20では、ファイバ被覆部5bがシート面6側に露出した弾性糸7の表面に形成され織物シート5aの形状に追従した形で形成されている。ファイバ被覆部5bでは、ナノ短繊維がナノスケールの繊維径のため、比表面積が増大することとなる。従って、ファイバ被覆部5bによりスラリが保持されると共に、織物シート5aの間隙8にスラリが入り込むため、スラリ循環性が高められ、研磨レートの向上を図ることができる。
【0048】
また、本実施形態の研磨布20では、織物シート5aがポリウレタン樹脂を含む弾性糸7の織物で形成されている。このため、ウレタンシート5では外力により変形することで弾性を発揮する。これにより、研磨加工時に被研磨物に負荷される押圧力が均等化されるので、被研磨物の平坦性向上を図ることができる。
【0049】
更に、本実施形態の研磨布20では、織物シート5aを構成する弾性糸7に導電性を有するカーボンブラック9が略均等に分散された状態で含有されている。このため、ファイバ被覆部5bを形成するときに、電界紡糸装置40で高電圧を負荷することで、織物シート5aの全体にほぼ一様に電界を作用させることができる。これにより、紡糸ノズル34から紡出されたナノ短繊維が偏ることなく織物シート5aにファイバ被覆部5bを形成することができる。
【0050】
また更に、本実施形態の研磨布20では、織物シート5aを用いることで次のような効果を得ることもできる。通常、研磨加工で被研磨物の高精度の平坦性を実現する場合、研磨布を構成する織物シートには、構成繊維を細くした柔らかい織物シートが要求されるが、これに伴い研磨量が低下し研磨効率を損なうこととなる。研磨量を稼ぐためには、研磨加工時に研磨布に与える加工圧力を高く設定する必要があるが、加工圧力を高くすると、研磨加工時の安定性が低下し、織物シート自体の伸びにより被研磨物表面にスクラッチなどの欠点が発生することとなる。本実施形態で示したように、弾性糸7で形成された織物シート5aのシート面6側に露出した弾性糸7をファイバ被覆部5bで被覆することで、研磨面P側の軟らかさを確保しつつ、弾性糸7の繊度や強力により高加工圧力にも耐えうる研磨布20を得ることができる。
【0051】
なお、本実施形態では、弾性糸7で形成された織物シート5aのシート面6側に露出した弾性糸7をファイバ被覆部5bで被覆する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。織物シート5aに代えて、例えば、弾性糸7で形成した編物シート、更には、一般的な樹脂で形成された不織布シートを用いることができる。編物シートや不織布シートでは、構成繊維の間に間隙が連続状に形成されている。このため、織物シート5aと同様に、上述した効果を得ることができる。また、不織布シートとしては、例えば、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維やアクリル繊維等を原料繊維に用いたニードルパンチ法や水流交絡法による不織布を使用することができ、これらの不織布にポリウレタン樹脂を含浸させてもよい。ポリウレタン樹脂を含浸させた不織布は次のようにして得ることができる。すなわち、不織布シートをポリウレタン樹脂と架橋剤とを含む溶液に浸漬した後、水系凝固液中に浸漬することでポリウレタン樹脂を凝固再生させる。乾燥後、加熱処理することで、架橋剤による架橋結合を形成させ、原料繊維の表面にポリウレタン樹脂の層を形成する。このようにすれば、原料繊維の表面にポリウレタン樹脂が存在するため、ファイバ被覆部5bを形成する際に固着しやすく、研磨加工時の脱落等を抑制することができる。
【0052】
また、本実施形態では、織物シート5aの組織として平織組織を例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。織物シートの組織としては、平織組織以外に、例えば、斜紋織や繻子織の組織、更には、変化組織を挙げることができる。また、織物シート5aに代えて編物シートを用いた場合にも、その組織を、例えば、平編(天竺編み)組織、ゴム編(フライス)組織、パール編組織等のいずれとしてもよいことはもちろんである。
【0053】
更に、本実施形態では、電界紡糸法により紡出されたナノ短繊維で織物シート5aのシート面6側に露出した弾性糸7を直接被覆することで、ウェット状態でナノ短繊維同士、ナノ短繊維と織物シート5aを構成する弾性糸7とを接触させ固着させる例を示したが、本発明はこれに制限されるものではない。例えば、織物シート5aに向けてファイバ被覆部5bを構成するナノ短繊維を紡出した後、熱カレンダ等により加熱することで融着させるようにしてもよい。このようにすれば、ナノ短繊維が確実に固定されるため、研磨加工時の脱落を抑制することができる。
【0054】
また更に、本実施形態では、ファイバ被覆部5bの形成に電界紡糸装置40を使用した電界紡糸法を例示したが、本発明はこれに制限されるものではない。繊維径がナノスケールのナノ短繊維を得ることができれば、いかなる方法を用いてもよいが、織物シート5aの形状に追従するようにファイバ被覆部5bを形成することを考慮すれば、電界紡糸法を用いることが好ましい。
【0055】
更にまた、本実施形態では、織物シート5aの厚さを0.5〜2.0mmの範囲、ファイバ被覆部5bの厚さを0.1〜50μmの範囲とする例を示したが、本発明はこれらの厚さに制限されるものではない。織物シート5aの厚さが小さすぎると研磨加工時に十分な弾性が得られず被研磨物の平坦性の低下を招くこととなり、反対に、厚さが大きすぎるとシート面6の平坦性を損なう可能性がある。このため、織物シート5aの厚さを上述した範囲に設定することが好ましい。また、ファイバ被覆部5bの厚さが小さすぎると研磨加工時に早期に摩滅してしまい、反対に、ファイバ被覆部5bの厚さが大きすぎると研磨加工時の押圧力でファイバ被覆部5bが押しつぶされて間隙8を塞いでしまい研磨効率を損なうこととなる。このため、ファイバ被覆部5bの厚さを上述した範囲に調整することが好ましい。
【0056】
また、本実施形態では、ポリウレタン樹脂を含む弾性糸7で作製した織物シート5aのシート面6側に露出した弾性糸7の表面を、ポリウレタン樹脂製のファイバ被覆部5bで被覆する例を示したが、本発明はこれに制限されるものではない。織物シート5aとファイバ被覆部5bとで樹脂の材質が異なるようにしてもよい。電界紡糸法により形成されるファイバ被覆部5bと織物シート5aとの固着性を考慮すれば、同じ材質とすることが好ましい。
【0057】
更に、本実施形態では、織物シート5aの弾性糸7に導電性を有するカーボンブラック9を含有させる例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。導電性を有する物質であればいかなるものを用いてもよいが、研磨加工時に織物シート5aが摩耗すると含有させた物質が研磨面に露出することを考慮すれば、スクラッチ低減を図るために炭素材を用いることが好ましい。また、カーボンブラックとしては、製法の違いにより、ケッチェンブラックやアセチレンブラックが知られているが、いずれのものを用いてもよいことはもちろんである。
【0058】
更に、本実施形態では、特に言及していないが、本発明は研磨布20の大きさ、形状に制限されるものではない。例えば、円形状や矩形状としてもよく、長尺のテープ状としてもよい。テープ状とした場合は、例えば、被研磨物をスピンドルに固定して回転させると共に、一定方向に移動するテープ状の研磨布をゴムローラ等で被研磨物の表面に押し付けることで研磨加工することができる。
【実施例】
【0059】
次に、本実施形態に従い製造した研磨布20の実施例について説明する。
【0060】
(実施例1)
実施例1では、次のように調製した紡糸原液を紡糸し得られた弾性糸7で織物シート5aを織成した後、ファイバ被覆部5bを形成し、研磨布20を製造した。すなわち、数平均分子量1800のポリオキシテトラメチレングリコールの2870部、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートの595部を45℃にて混合した後、75℃にて80分間反応させて、プレポリマの3465部を得た。このときのイソシアネート基含有量はプレポリマ100g中1880gであった。これとは別に、鎖伸長剤としてエチレンジアミンの44部と末端停止剤としてジエチルアミンの6部とを、0℃に冷却したDMFの1262部に加えて十分に攪拌し、鎖伸長剤と末端停止剤との混合溶液を得た。先に得たプレポリマの3400部を、0℃に冷却したDMFの5896部に加え、十分に攪拌した後、プレポリマのイソシアネート基に対して、鎖伸長剤と末端停止剤との活性水素基が等モルとなるように鎖伸長剤と末端停止剤との混合溶液を添加し反応させて濃度35%のポリウレタン重合体溶液を得た。
【0061】
一方、アセチルセルロース(酢化度50%、重合度300)をDMFに溶解させて、濃度30%のアセチルセルロース溶液を得た。また、カーボンブラック9をDMFに分散させて、5重量%のカーボンブラック9の分散液を得た。ポリウレタン重合体溶液にアセチルセルロース溶液およびカーボンブラック9の分散液を添加混合して紡糸原液を得た。このとき、アセチルセルロースおよびカーボンブラック9がポリウレタン重合体に対しそれぞれ30重量%および5重量%となるように混合した。得られた紡糸原液を直径0.2mmのオリフィスを5個有する紡糸ノズルを用いて乾式紡糸した。紡糸速度を300m/分に設定し、20%伸長しながら仮撚りをかけてポリウレタン弾性糸に用いられているポリジメチルシロキサン系仕上げ油剤を3%付着させた後、紙管に巻き取り、78Dtex(フィラメント数5本)の弾性糸7の巻糸体を得た。この弾性糸7で織物シート5aを織成し、精錬処理により油剤を除去した後、140℃のホットプレートにて荷重8.4g/cmをかけながら1分間圧着させた。
【0062】
ファイバ被覆部5bの形成には織物シート5aと同じポリウレタン樹脂を用いた。電界紡糸するときの紡糸液としては、ポリウレタン樹脂を5重量%となるようにMEKに溶解させた。得られた紡糸液では、回転式粘度計(B型粘度計)による粘度が780cpsを示した。この紡糸液を用い、電界紡糸装置40で20kVの電圧を印加してナノ短繊維を紡出し、織物シート5aのシート面6側に露出した弾性糸7の表面をファイバ被覆部5bで被覆した。このとき紡出されたナノ短繊維は、繊維径300nm、繊維長20μmであった。織物シート5aのファイバ被覆部5bと反対側の面に両面テープ13を貼り合わせて実施例1の研磨布20を製造した。
【0063】
(評価)
得られた実施例1の研磨布20について、断面写真(走査型電子顕微鏡)から、ファイバ被覆部5b、ナノ繊維シートの厚さをそれぞれ測定した。それぞれ10箇所について測定し、平均値および標準偏差を算出した。この結果、ファイバ被覆部5bの厚さの平均値が23.0μm、標準偏差が7.4μmを示した。ナノ短繊維は、織物シート5aの表面に沿った形で固着されているため、比較的大きな標準偏差を示したものと考えられる。
【0064】
また、実施例1の研磨布20を用いて、ガラス基板の研磨加工を行った結果、加工面にスクラッチが発生することなく、研磨除去速度が向上することが確認された。従って、織物シート5aのシート面6側に露出した弾性糸7の表面に、電界紡糸法によりナノ短繊維を直接集積させてファイバ被覆部5bを形成することで、スラリ循環性を高め、研磨効率の向上を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は研磨効率を向上させることができる研磨布を提供するため、研磨布の製造、販売に寄与するので、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0066】
P 研磨面
5 ウレタンシート(繊維シート)
5a 織物シート
5b ファイバ被覆部(ナノファイバ)
7 弾性糸(樹脂繊維)
8 空隙
20 研磨布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂繊維の交絡または織編により網目状に形成され被研磨物を研磨加工するための研磨面を有する繊維シートを備えた研磨布において、前記繊維シートは、少なくとも前記研磨面側に露出した前記樹脂繊維の表面がナノファイバで被覆されたことを特徴とする研磨布。
【請求項2】
前記ナノファイバは、電界紡糸法により前記繊維シートの少なくとも前記研磨面側に露出した前記樹脂繊維の表面を直接被覆したことを特徴とする請求項1に記載の研磨布。
【請求項3】
前記ナノファイバの被覆厚さは、0.1μm〜50μmの範囲であることを特徴とする請求項2に記載の研磨布。
【請求項4】
前記ナノファイバは、繊維径が100nm〜300nmの範囲、繊維長が1μm〜50μmの範囲の繊維で構成されたことを特徴とする請求項3に記載の研磨布。
【請求項5】
前記繊維シートを構成する樹脂繊維に導電性物質が含有されていることを特徴とする請求項2に記載の研磨布。
【請求項6】
前記ナノファイバは、ポリウレタン樹脂を含むことを特徴とする請求項5に記載の研磨布。
【請求項7】
前記繊維シートは、ポリウレタン樹脂を含む弾性糸の織編により形成された織物シートまたは編物シートであることを特徴とする請求項6に記載の研磨布。
【請求項8】
前記繊維シートは、前記樹脂繊維の交絡により形成された不織布シートであることを特徴とする請求項6に記載の研磨布。
【請求項9】
前記不織布シートを構成する樹脂繊維は、表面がポリウレタン樹脂で被覆されたことを特徴とする請求項8に記載の研磨布。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−201531(P2010−201531A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−47567(P2009−47567)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【出願人】(000005359)富士紡ホールディングス株式会社 (180)
【Fターム(参考)】