説明

硫黄を含んだリン含有化合物の塩およびその[生成]方法

【課題】 耐摩耗性および熱安定性を有する潤滑油添加剤の提供。
【解決手段】 化学式(III)の油溶性の化合物であって:
【化1】


式中R、R、R、R、R、R、R、R、およびRは水素、シアノ、および約1つから約30の炭素原子を含んだヒドロカルビル基から成るグループから独立して選択される化合物。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2005年11月9日提出の米国特許仮出願第60/734,757号の優先権の利益を主張するものである。
【技術分野】
【0002】
本開示は、硫黄を含んだリン含有化合物の塩およびその塩の生成方法に関連する。
【背景技術】
【0003】
潤滑剤組成物中で使用されるリン含有化合物の用途は既知のものである。特に、リン含有化合物は、通常直鎖アルキルから成る。しかしながら、これらの化合物に関する問題は、それらが完全に調合されたギア潤滑剤中、高温下で熱的に不安定であることが分かっているという点である。熱的に不安定な化合物は潤滑剤組成物中で尚早に分解してしまい、潤滑剤組成物に耐摩耗性のような特性を提供しなくなる傾向がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ギアオイルのような潤滑剤組成物は一般的に高温にさらされるため、高温で尚早に分解しないような、熱的に安定な化合物を提供することが有用である。熱的に安定な化合物は従って、長時間にわたって潤滑剤組成物中に残り、例えば耐摩耗性などの特性を長時間組成物に提供する。必要となるのは耐摩耗性を保持するのに適した熱安定性を有する化合物である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
開示に従って、化学式(III)の油溶性の化合物が開示されている:
【化1】

式中R、R、R、R、R、R、R、R、およびRは、水素、シアノ、および約1つから約30の炭素原子を含んだヒドロカルビル基から成るグループから個々に選択されている。
【0006】
化学式(VI)の化合物もまた開示されている:
【化2】

式中nは1から5の整数であり;また
このときR、R、R、R、R、R、R、R、R、R10、およびR11は水素、シアノ、および約1つから約30の炭素原子を含んだヒドロカルビル基から成るグループから個々に選択されている。
【0007】
別の態様において、硫黄含有化合物、窒素含有化合物および化学式(I)および(IV)の少なくとも一つの化合物を供給することを含んだ、硫黄を含むリン含有化合物の塩を調整するプロセスが開示されている:
【化3】

式中nは1から5の整数であり;また
、R、R、R、R、R、R10、およびR11は、水素、シアノ、および約1つから約30の炭素原子を含んだヒドロカルビル基から成るグループから個々に選択されている。
【0008】
さらに、窒素含有化合物、亜リン酸ネオペンチルグリコール、および硫黄含有化合物の反応生成物から成る組成物も開示されている。
【0009】
本開示の追加的な目的および利点は、以下の記載により部分的に説明され、また本開示を実行することにより習得することができる。本開示の目的および利点は、添付の請求項で特に示されている要素および組み合わせを用いて実現および達成される。
【0010】
前述の概要および以下の詳しい説明は、共に例示および説明のみを目的としたものであり、本開示を請求された通りに限定するものではないと判断される。
【0011】
本明細書中で使用される「ヒドロカルビル置換基」または「ヒドロカルビル基」という用語は、当技術分野に精通した技術者に周知の通常の意味で使用されている。具体的には、これらは分子の残りの部分に直接結合した炭素原子を有し、また主に炭化水素の特性を有する基を指す。ヒドロカルビル基の例には以下のものが含まれる:
【0012】
(1)炭化水素置換基、すなわち脂肪族(例えばアルキルまたはアルケニル)置換基、脂環式(例えばシクロアルキル、シクロアルケニル)置換基、また芳香族、脂肪族、および脂環基によって置換された芳香族置換基、また環が分子の別の部分によって完成されている(例えば二つの置換基が一緒になって脂環式ラジカルを形成している)ような環状置換基;
【0013】
(2)置換された炭化水素置換基、すなわち、本発明の状況下で、主に炭化水素である置換基(例えばハロ(特にクロロおよびフルオロ)、ヒドロキシ、アルコキシ、メルカプト、アルキルメルカプト、ニトロ、ニトロソ、およびスルホキシ)を変化させないような非炭化水素基を含んだ置換基;
【0014】
(3)ヘテロ置換基、すなわち、主に炭化水素の特性を有しながら、主に本発明の状況下で、そうでなければ炭素原子から成る環または鎖の中に炭素以外[の原子]を含んでいるような置換基。ヘテロ原子には硫黄、酸素、および窒素があり、またピリジル、フリル、チエニル、およびイミダゾリルのような置換基が含まれる。ヒドロカルビル基中で、炭素原子10個につき通常二つ以下、例えば一つ以下の非炭化水素置換基が存在する。一般的にはヒドロカルビル基中に非炭化水素置換基は存在しない。
【0015】
本明細書中で使用される「重量パーセント」という用語は、別段の定めが明記されていない限り、列挙された成分が組成物全体の重量に対して占めるパーセンテージを意味する。
【0016】
ある態様では、向上された耐摩耗性と熱安定性のうちの少なくとも一つを有する化合物が提供される。当該化合物は、高温での化合物の分解を最小化するおよび/または防止するために立体障害を含む、硫黄を含んだリン含有化合物および/またはその塩である。開示された化合物および/またはその塩は、向上された熱安定性を示し、そのため立体障害のない組成物よりも、潤滑剤組成物中に長時間滞留する。立体障害は、ヒドロカルビル鎖や依存ヒドロカルビル鎖などの分岐のような任意の形態で存在する。
【0017】
亜リン酸塩またはリン酸塩などのようなリン含有化合物を、本明細書に開示されたプロセスで使用することができる。亜リン酸塩およびリン酸塩の両方の生成方法は既知のものである。例えば、亜リン酸塩は亜リン酸または別の亜リン酸塩のいずれかを各種アルコールと反応させることによって作られる。別の合成方法に、三塩化リンと超価量のアルコールとの反応が含まれる。また、環状亜リン酸塩は、結果としてモノマー性およびポリマー性生産物の混合物をもたらす、グリコールによる亜リン酸塩のトランスエステル化によって作られる。それらの開示が参照することにより本明細書に組み込まれている、Oswald,Alexis A.、“Synthesis of Cyclic Phosphorous Acid Esters by Transesterification”(「トランスエステル化による環状亜リン酸エステルの合成」)、Can.J.Chem.、37:1498−1504(1959年)、およびMusa A.,et al.、“Reactivity of Cyclic Arsenites and Phosphites:X−ray structures of bis(5,5−dimethyl−1,3,2,−diosarsenan−2−yl)ether and bis(2,4,8,10−tetra−tert−butyl−12H−dibenzo[d,g][1,3,2]dioxarsenocin−6−yl)ether”(「環
状亜ヒ酸塩および亜リン酸塩の反応性:ビス(5,5−ジメチル−1,3,2,−ジオサルセナン−2−イル)エーテルおよびビス(2,4,8,10−テトラ−t−ブチル−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサルセノシン−6−イル)エーテルのX線構造」)、J.Chem.Soc.、22:2945−51(1995年)を参照されたい。環状クロロホスファイトと硫化水素とをピリジンの存在下で反応させるなど、環状チオ亜リン酸水素の生成方法もまた既知のものである。それらの開示が参照することにより本明細書に組み込まれている、Zwierzak,A.、“Cyclic organophosphorus compounds.I.Synthesis and infrared spectral studies of cyclic hydrogen phosphites and thiophosphites”(「環状有機リン化合物。I.環状亜リン酸水素とチオホスフィアイトの合成および赤外線スペクトル」)、Can.J.Chem.、45:2501−12(1967年)を参照されたい。
【0018】
ある態様において、亜リン酸塩はジ−またはトリヒドロカルビルの亜リン酸塩である。各ヒドロカルビル基は、約1つから約24の炭素原子、または1つから約18の炭素原子、あるいは約2つから約8の炭素原子を有する。各ヒドロカルビル基は、それぞれにアルキル、アルケニル、アリル、およびそれらの混合物である。ヒドロカルビル基がアリル基である場合、それには少なくとも約6の炭素原子、または約6から約18の炭素原子が含まれる。アルキルまたはアルケニル基の非限定的な例には、プロピル、ブチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、オレイル、リノレイル、ステアリル、その他が含まれる。アリル基の非限定的な例には、フェニル、ナフチル、ヘプチルフェノール、その他が含まれる。ある態様では、各ヒドロカルビル基はそれぞれに、メチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オレイルあるいはフェニル、例えばメチル、ブチル、オレイルまたはフェニル、またさらなる例としてはメチル、ブチル、オレイル、あるいはフェニルである。
【0019】
有用な亜リン酸塩の非限定的な例には、ジブチルホスホン酸水素、ジイソブチルホスホン酸水素、ジオレイルホスホン酸水素、ジ(C14−18)ホスホン酸水素、亜リン酸トリフェニル、そしてどちらも以下に示されている、化学式(I)の化合物のような亜リン酸ジヒドロカルビル、および化学式(IV)の化合物のようなポリマー性亜リン酸塩などが含まれる。
【化4】

式中nは約1から約5の整数であり;また
、R、R、R、R、R、R10、およびR11は、水素、シアノ、および
約1つから約30の炭素原子、例えば約1つから約20の炭素原子、そしてさらなる例としては約1つから約10の炭素原子を含んだヒドロカルビル基から成るグループから個々に選択されている。ある態様において、nが約5以上の整数である場合、いかなる特定の論理にも限定されることなく、反復単位は完全には硫化しないと考えられている。
【0020】
ある態様では、化学式(I)の化合物において、R、R、R、およびRは水素であり、またRとRはメチルである。この化合物は通常亜リン酸ネオペンチルグリコール(NPGP)と呼ばれ、CAS#4090−60−2(5,5−ジメチル−1,3,2−ジオキサホスホリナン−2−オン)の称号で化学情報検索データベース(Chemical Abstracts Select)に登録されている。ある態様では、化学式(IV)の化合物において、RおよびRはメチル、R、R、R、およびRは水素、またR10およびR11は約1つから約6つの炭素原子から成るアルキル基である。この化合物は、亜リン酸ネオペンチルグリコールの製造プロセスのポリマー性副産物である。
【0021】
リン含有化合物はまた、リン酸エステルまたはその塩、リン酸または無水物と不飽和化合物との反応生成物、およびそれら二つ以上の混合物のうちの少なくとも一つである。
【0022】
金属ジチオリン酸塩は、モノ−またはジチオリン酸であるような少なくとも一つのチオリン酸と反応させることによって調整される。
【0023】
リン酸あるいは無水物を、アミド、エステル、酸、無水物、およびエーテルなどを含むが、これらに限定はされない不飽和化合物と反応させることができる。
【0024】
ある態様では、亜リン酸塩のようなリン含有化合物には、化合物の立体障害を増加させ、それにより熱分解に対する耐性を増加させるような各種の官能基が含まれる。ある態様では、ヒドロカルビル鎖中の酸素原子に対してベータの位置で、リン含有化合物が分岐する。このベータ炭素での分岐により、潤滑剤組成物中のリン含有化合物の熱安定性が変化、例えば向上されると考えられている。
【0025】
また、結果として得られる化合物の立体障害を増加させるような成分を用いてリン含有化合物を作ることができる。例えば、亜リン酸塩を作るために使用されるアルコールは、ベータ分岐アルコールである。ベータ分岐アルコールの非限定的な例に、イソブタノール、2−エチルヘキサノール、ネオペンチルグリコール、ネオペンチルアルコール、プリスタノール、およびメチルイソブチルカルビノール(MIBC)などが含まれる。
【0026】
開示されたリン含有化合物を、硫黄を含有したリン含有化合物を生成するための出発物質として使用することができる。ある態様では、硫黄を含んだリン含有化合物の塩の生成プロセスには、上述のようなリン含有化合物、硫黄含有化合物、および窒素含有化合物を供給することによって硫黄を含んだリン含有化合物の塩を生成することが含まれる。別の態様では、窒素含有化合物、亜リン酸ネオペンチルグリコールのようなリン含有化合物、および硫黄含有化合物の反応生成物から成る組成物が熟考されている。当反応の生成物は、硫黄を含有していないリン含有化合物と比べて、向上された耐摩耗性を提供することができる。
【0027】
硫黄含有化合物は、遊離硫黄および/または活性硫黄から成る任意の化合物である。硫黄含有化合物の非限定的な例としては、動物性または植物性の硫化脂肪または硫化油、動物性または植物性の硫化脂肪酸エステル、リンの三価または五価の酸の完全にまたは部分的にエステル化されたエステル、硫化オレフィン、ジヒドロカルビルポリスルフィド、硫化ディールスアルダー付加物、硫化ジシクロペンタジエン、脂肪酸エステルとモノ不飽和
オレフィンの硫化または共硫化された混合物、脂肪酸、脂肪酸エステル、およびαオレフィンの共硫化混和物、機能的に置換されたジヒドロカルビルポリスルフィド、チオアルデヒド、チオケトンおよびそれらの誘導体(例えば酸、エステル、イミン、またはラクトン)、エピチオ化合物、硫黄含有 アセタール誘導体、テルペンと非環式オレフィンの共硫化混和物、ポリスルフィドオレフィン生成物、および硫黄元素などが含まれる。
【0028】
ある態様では、イソブテンのようなオレフィンを硫黄と反応させることにより、硫黄含有化合物を作ることができる。生成物、例えば硫化イソブチレンまたは硫化ポリイソブチレンは、一般的に約10重量%から約55重量%、例えば約30重量%から約50重量%の硫黄を含有している。このような硫黄含有化合物を形成するため、その他の様々なオレフィンまたは不飽和炭化水素、例えばイソブテン二量体または三量体などを使用することができる。
【0029】
別の態様において、ポリスルフィドは、化学式R20--S−R21で表される一つ以上の化合物から成り、式中R20およびR21は各々が約3から約18の炭素原子を含むようなヒドロカルビル基であり、またxは約2から約8の間、例えば約2から約5、またさらなる例としては3である。当該のヒドロカルビル基は、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アリル、またはアラルキルのような多様な種類のものである。ジ−t−ブチルトリスルフィドや、ジ−t−ブチルトリスルフィドから成る混合物(例えば主にあるいは完全にトリ、テトラ、およびペンタスルフィドから成る混合物)のような3級アルキルポリスルフィドを使用することもできる。その他の有用なジヒドロカルビルポリスルフィドの例として、ジアミルポリスルフィド、ジノリルポリスルフィド、ジドデシルポリスルフィド、およびジベンジルポリスルフィドなどが含まれる。
【0030】
等価量のリン含有化合物につき、少なくとも等モル量あるいはそれ以上の硫黄含有化合物を使用することができる。ある態様では、約1モルから約1.5モル等量の硫黄含有化合物が使用される。
【0031】
開示されたプロセスには溶媒の使用が含まれる。溶媒は、反応物質の少なくとも一つあるいはは生成物が可溶性であるような、任意の不活性液状物質である。非限定的な例に、ベンゼン、トルエン、キシレン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、ナフサ、ジエチルエーテルカルビトール、ジブチルエーテルジオキサン、クロロベンゼン、ニトロベンゼン、四塩化炭素、クロロホルム、ポリアルファオレフィン、基油、およびプロセスオイルなどが含まれる。
【0032】
開示されたプロセスはさらに、窒素含有化合物を供給することから成る。当該の窒素含有化合物は、開示されたリン含有化合物の硫化の促進を助けること、および/または任意の酸の中和を助けることができる。基油から成る潤滑組成物に可溶である限り、任意の窒素含有化合物を使用することができる。窒素含有化合物の非限定的な例に、アミド、アミン、ピリジンのような塩基性窒素から成るヘテロ環状化合物などが含まれる。ある態様では、当該窒素含有化合物は、1級、2級、あるいは3級のアミンである。
【0033】
ある態様において、ヒドロカルビルアミンはヒドロカルビル基中に約4から約30の炭素原子、例えば約8から約20の炭素原子を含む1級ヒドロカルビルアミンである。ヒドロカルビル基は飽和の場合も不飽和の場合もある。1級飽和アミンの代表例は、脂肪族の1級脂肪族アミンとして知られているものである。一般的な脂肪族アミンには、n−ヘキシルアミン、n−オクチルアミン、n−デシルアミン、n−ドデシルアミン、n−テトラデシルアミン、n−ペンタデシルアミン、n−ヘキサデシルアミン、n−オクタデシルアミン(ステアリルアミン)などのようなアルキルアミンが含まれる。これらの1級アミンは、蒸留用および工業用の両方が入手可能である。蒸留用はより純粋な反応生成物を提供
することができるが、アミドとイミドは工業用のアミンとの反応中に形成できる。さらに適切なものに混合脂肪族アミンがある。
【0034】
ある態様では、開示された化合物のアミン塩は、アルキル基に少なくとも約4つの炭素原子を有する3級脂肪族1級アミンから得られたものである。ほとんどの場合、それらはアルキル基に合計約30未満の炭素原子を有するアルキルアミンから得られる。
【0035】
通常、3級脂肪族1級アミンは以下の化学式で表されるモノアミンである:
【化5】

式中R、R、およびRは同一あるいは異なったものであり、また約1つから約30の炭素原子を含んだヒドロカルビル基である。このようなアミンは、3級ブチルアミン、3級ヘキシル1級アミン、1−メチル−1−アミノ−シクロヘキサン、3級オクチル1級アミン、3級デシル1級アミン、3級ドデシル1級アミン、3級テトラデシル1級アミン、3級ヘキサデシル1級アミン、3級オクタデシル1級アミン、3級テトラコサニル1級アミン、および3級オクタコサニル1級アミンなどによって例証される。
【0036】
アミンの混合物もまた本開示の目的のため有用である。この種のアミン混合物の実例には、C−C16の3級アルキル1級アミンの混合物や、[それらと]同様のC14−C24の3級アルキル1級アミンの混合物がある。3級アルキル1級アミンおよびそれらの調製方法は、当技術分野における通常の技術を有する者に周知のものであり、従ってこれ以上の論議は不要である。本開示の目的のために有用な3級アルキル1級アミンおよびそれらの調製方法は、本件に関しその教示が参照することによって本明細書に組み込まれている、米国特許第2,945,749号に記載されている。
【0037】
その炭化水素鎖がオレフィン不飽和を含むような1級アミンもまた、非常に有用である。従って、R基は、鎖の長さに基づき、少なくとも一つのオレフィン不飽和、通常は10個の炭素原子につき一つ以下の二重結合を含むことができる。代表的なアミンに、ドデセニルアミン、ミリストレイルアミン、パルミトレイルアミン、オレイルアミンおよびリノレイルアミンがある。
【0038】
2級アミンには、脂肪族2級アミンを含む上記のアルキル基を二つ有するジアルキルアミン、またさらに、R’が脂肪族アミン、R”がメチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、ブチルなどのような低級アルキル基(1−9炭素原子)、あるいはR”がその他の非反応性置換基または極性置換基(CN、アルキル、カルバルコキシ、アミド、エーテル、チオエーテル、ハロ、スルホキシド、スルホン)を含んだアルキル基であるような混合ジアルキルアミンが含まれる。脂肪族ポリアミンジアミンには、モノ−またはジアルキル、対称または非対称のエチレンジアミン、プロパンジアミン(1,2または1,3)、およびそれらのポリアミン類似物が含まれる。適切な脂肪族ポリアミンとしては、N−ココ−1,3−ジアミノプロパン、N−大豆アルキルトリメチレンジアミン、N−獣脂−1,3−ジアミノプロパン、およびN−オレイル−1,3−ジアミノプロパンが含まれる。
【0039】
ある態様において、窒素含有化合物はトリエチルアミンまたはシクロヘキシルアミンではない。
【0040】
窒素含有化合物は、開示されたプロセスを行使し完了させるために必要となる任意の量で存在する。すなわち、窒素含有化合物が十分存在しないとリン含有化合物は完全に硫化されない。ある態様では、窒素含有化合物は、等価量のリン含有化合物につき、約0.05モルから約2モル等量、また例えば約1モルから約1.5モル等価量供給される。
【0041】
開示されたプロセスは、ほぼ室温(23℃)またはそれ以上、例えば少なくとも約50℃、またさらなる例としては約50℃から約90℃の間で起こる。通常、室温で約1分から約8時間混合すれば十分である。
【0042】
結果として得られる化合物は、どちらも以下に示してある、化学式(III)および(VI)の少なくとも一つで表される化合物である。
【化6】

式中nは1から5の整数であり;また
、R、R、R、R、R、R、R、R、R10、およびR11は、水素、シアノ、および約1つから約30の炭素原子、例えば約1つから約20の炭素原子、そしてさらなる例としては約1つから約10の炭素原子を含んだヒドロカルビル基から成るグループから個々に選択されている。
【0043】
ある態様では、化学式(III)の化合物において、R、R、R、R、R、およびRは水素、RとRはメチル、またRはC12−14の3級アルキル基である。ある態様では、化学式(VI)の化合物において、RとRはメチル、R、R、R、R、R、およびRは水素、RはC12−14の3級アルキル基、そしてR10とR11は約1から約6の炭素原子から成るアルキル基である。
【0044】
このような塩の調製方法は既知のものであり、文献に報告されている。それらの開示が参照することによって本明細書に組み込まれている、例えば米国特許第2,063,629号、2,224,695号、2,447,288号、2,616,905号、3,984,448号、4,431,552号、5,354,484号、Pesinその他、Zhurnal Obshchei Khimii、31(8):2508−2515(1961年)、およびPCT国際出願WO87/07638号を参照されたい。
【0045】
硫黄を含んだリン含有化合物の塩を別々に形成した後、潤滑あるいは機能流体組成物に添加することができる。また一方、当該の塩は、潤滑あるいは機能流体組成物を形成するために、開示された亜リン酸塩のようなリン含有化合物がその他の成分と混和されたとき
に形成される。しかしながら、in situで塩を形成する場合、酸は窒素含有化合物と反応し、また硫化および塩の形成を停止させるため、防錆成分などで組成物中に存在する酸を制限することが重要である。
【0046】
硫黄を含んだリン含有化合物の塩は油溶性である。すなわち、当該の塩のヒドロカルビル鎖は、結果として得られる化合物が調合された組成物に可溶であるよう、少なくとも6つの炭素原子分などの十分な長さをしている。疎水基を取り入れることにより、非分極性の媒体の可溶性が増加される。硫黄を含んだリン含有化合物の塩の非限定的な例に、ジイソブチルチオリン酸C8−163級アルキル1級アミン塩、ジ−2−エチルヘキシル−チオリン酸C8−163級アルキル1級アミン塩、およびネオペンチルグリコールチオリン酸C8−163級アルキル1級アミン塩などが含まれる。ある態様では、ジチオリン酸の塩が熟考されている。
【実施例】
【0047】
例1:分岐アミンによる亜リン酸ネオペンチルグリコール(NPGP)の硫化
均圧添加漏斗を備えた1Lの反応装置に硫黄(53.3g、1.7モル)、窒素含有化合物(PRIMENE(R)81R)(320.7g、1.7モル)および4cStのポリアルファオレフィン(375.6g)を加えた。次に別の漏斗に液体NPGP(250.04g、1.7モル)を加えた。NPGPは標準状態では固体であり、融点は約60℃から約65℃の間である。固体化を避けるため、この漏斗を加熱した。
【0048】
かくはんしながら窒素で覆い、質量の温度を約60から約90℃に保ちながらNPGPを反応装置に加えた。添加速度は、反応系の発熱反応の制御能力によって決定された。当プロセスは発熱反応であるため、添加中の反応質量の冷却が必要であった。添加が終了した後、70℃から90℃で2時間から6時間、硫黄がすべて消費されるまで反応混合物をかくはんした。
【0049】
観測された硫化NPGPのP−31 NMR化学シフト(ppm)は52.96であった。
【0050】
上述のように、遊離した活性硫黄が存在する限り、任意の硫黄含有化合物を硫黄源として使用することができる。例えば、次のプロセスもまた開示された化合物を生成すると想定される。
【0051】
均圧添加漏斗を備えた2Lの反応装置に2,5−ビス(t−ノニルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール(396.8g、0.85モル)、PRIMENE(R)81R(320.7g、1.7モル)、および4cStのPAO(375.6g)を加えた。次に別の漏斗に液体NPGP(250.04g、1.7モル)を加えられた。NPGPは標準状態では固体であり、融点は約60℃から約65℃の間である。固体化を避けるため、別の漏斗が加熱された。
【0052】
かくはんしながら窒素で覆い、質量の温度を約60から約90℃に保ちながらNPGPを反応装置に加えた。添加速度は、反応系の発熱反応の制御能力によって決定される。添加が終了した後、反応混合物を約70℃から約90℃で約2時間かくはんする。
【0053】
例2:直鎖アミンによる亜リン酸ネオペンチルグリコール(NPGP)の硫化
均圧添加漏斗を備えた1Lの反応装置に硫黄(53.3g、1.7モル)、窒素含有化合物(ARMEEN(R)OL)(464.1g、1.7モル)、および4cStポリアルファオレフィン(375.6g)を添加することができる。次に別の漏斗に液体NPGP(250.04g、1.7モル)を加えることができる。NPGPは標準状態では固体で
あり、融点は約60℃から約65℃の間である。固体化を避けるため、別の漏斗を加熱しなくてはならない。かくはんしながら窒素で覆い、質量の温度を約60から約90℃に保ちながらNPGPを反応装置に加えることができる。添加速度は、反応系の発熱反応の制御能力によって決定される。当プロセスは発熱反応であるため、添加中の反応質量の冷却が必要となる。添加が終了した後、約70℃から約90℃で約2時間から約6時間、硫黄がすべて消費されるまで反応混合物をかくはんする。
【0054】
例3:耐摩耗性効率
耐摩耗性効率のポテンシャルを、高温下での各種のリンの持続期間によって測定した。完全に調合されたギア液を約325°Fのヒートバスに入れた。一定分量の、完全に調合されたギア液を一定時間ごとに摂り、31リン核磁気共鳴(NMR)スペクトルを測定した。31リンNMRスペクトルで観測された各種のリンを時間と熱分解を対比した座標に示し、耐摩耗性の各種のリンの統計データを作成した。各種のリンの分解速度または分解量は、ヒドロカルビル鎖の化学構造によって異なった。耐摩耗性のリン成分の例に、ジアルキルチオリン酸のアミン塩がある。アルキル分岐に変化することにより、325°Fのヒートバス内のジアルキルチオリン酸アミン塩の熱分解率が変化した。リン・酸素結合に対するベータ炭素がメチルあるいはより高い同族のアルキル基によって分岐した場合に、熱安定性の効率が最も高くなる。浅い傾斜によって実証された、安定性の増加した例を、図1に示す。
【0055】
本明細書および添付の請求項の目的のため、特記されていない限り、明細書および請求項で使用されている数量、パーセンテージや比率、またその他の数値を表すの数はすべて、あらゆる場合において「約」という言葉で修飾されているものとして理解される。従って、それに反する指定がない限り、以下の明細書および添付の請求項で示されている数値パラメータは、本開示が目指している希望の特性によって変化し得る近似値である。少なくとも、また当請求項の範囲に対応する原理の適応を制限する試みとしてではなく、各数値パラメータは少なくとも報告された多くの有効数字と通常の四捨五入の使用を考慮に入れて解釈されるべきものである。
【0056】
本明細書および添付の請求項の英文において使用されている、「a」、「an」、および「the」などの単数形を表す単語は、明白に、はっきりと単数の対象物に限定されていない限り、複数の意を含むことに注意されたい。従って、例えば「an antioxidant」という表現には二つあるいはそれ以上の異なった酸化防止剤が含まれる。また、ここで使用される「含む(include)」という表現およびその文法的な変化形は、リストに挙げられた項目が、それらに代用するあるいは付加され得る他の同様の項目を除外しないように、非限定的であることを意図したものである。
【0057】
特定の実施例について説明してきたが、現時点で予見されていないあるいは予見できない代替案、変更、変化、改良点、および実質的に対応する内容が出願人あるいは当技術分野に精通した他の技術者に発見されることもある。従って、提出され、修正される可能性のある添付の請求項は、このような代替案、変更、変化、改良点、および実質的に対応する内容をすべて含むことを意図している。
【0058】
本発明の主な特徴及び態様を挙げれば以下のとおりである。
1.化学式(III)の油溶性の化合物であって:
【化7】

式中R、R、R、R、R、R、R、R、およびRは水素、シアノ、および約1つから約30の炭素原子を含んだヒドロカルビル基から成るグループから独立して選択される化合物。
2.R、R、R、R、R、およびRは水素、RおよびRはメチル、またRはC12−14の第3級アルキル基である上記1に記載の化合物。
3.化学式(VI)の化合物であって:
【化8】

式中nは1から5の整数であり;また
、R、R、R、R、R、R、R、R、R10、およびR11は、水素、シアノ、および約1つから約30の炭素原子を含んだヒドロカルビル基から成るグループから独立して選択される化合物。
4.RとRはメチル、R、R、R、R、R、およびRは水素、RはC12−14の第3級アルキル基、またR10とR11は約1つから約6の炭素原子を含んで成るアルキル基である上記3に記載の化合物。
5.硫黄含有化合物、窒素含有化合物、また化学式(I)および(IV)の化合物のうち少なくとも一つを提供することを含んで成る、硫黄を含んだリン含有化合物の塩を調製する方法:
【化9】

式中nは1から5の整数であり;また
、R、R、R、R、R、R10、およびR11は、水素、シアノ、および約1つから約30の炭素原子を含んだヒドロカルビル基から成るグループから独立して選択される。
6.化学式(I)の化合物において、R、R、R、およびRは水素、またRとRはメチルである上記5に記載の方法。
7.化学式(IV)の化合物において、RとRはメチル、R、R、R、およびRは水素、またR10とR11は約1つから約6の炭素原子を含んで成るアルキル基である上記5に記載の方法。
8.硫黄含有化合物が、元素硫黄、ポリスルフィド、および硫化オレフィンから選択される上記5に記載の方法。
9.硫黄含有化合物が元素硫黄である上記8に記載の方法。
10.1モル等量またはそれ以上の硫黄含有化合物が使用される、上記5に記載の方法。11.反応温度が約23℃から約90℃の範囲内である上記5に記載の方法。
12.硫黄を含んだリン含有化合物の塩が化学式(III)および(VI)の化合物のうち少なくとも一つである上記5に記載の方法であって:
【化10】

式中nは1から5の整数であり;また
、R、R、R、R、R、R、R、R、R10、およびR11は、水素、シアノ、および約1つから約30の炭素原子を含んだヒドロカルビル基から成るグループから独立して選択される方法。
13.化学式(III)において、R、R、R、R、R、およびRが水素、RとRがメチル、またRがC12−14の第3級アルキル基である上記12に記載の方法。
14.化学式(VI)において、RとRがメチル、R、R、R、R、R、およびRが水素、RがC12−14の第3級アルキル基、またR10とR11が約1つから約6の炭素原子を含んで成るアルキル基である上記12に記載の方法。
15.窒素含有化合物がアミンである上記5に記載の方法。
16.窒素含有化合物が、直鎖および分岐アミンから選択される上記5に記載の方法。
17.アミンが、C8−16の第3級アルキル1級アミンの混合物とC14−24の第3級アルキル1級アミンの混合物の中から選択された分岐アミンである上記16に記載の方法。
18.窒素含有化合物が直鎖アミンである上記16に記載の方法。
19.約0.05から約2モル等量の窒素含有化合物が使用される上記5に記載の方法。20.プロセスに約1時間から約8時間かかる上記11に記載の方法。
21.窒素含有化合物、亜リン酸ネオペンチルグリコール、および硫黄含有化合物の反応生成物を含んで成る組成物。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】様々なリンを含有した[化合物の]熱安定性を例証するグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式(III)の油溶性の化合物であって:
【化1】

式中R、R、R、R、R、R、R、R、およびRは水素、シアノ、および約1つから約30の炭素原子を含んだヒドロカルビル基から成るグループから独立して選択される化合物。
【請求項2】
化学式(VI)の化合物であって:
【化2】

式中nは1から5の整数であり;また
、R、R、R、R、R、R、R、R、R10、およびR11は、水素、シアノ、および約1つから約30の炭素原子を含んだヒドロカルビル基から成るグループから独立して選択される化合物。
【請求項3】
硫黄含有化合物、窒素含有化合物、また化学式(I)および(IV)の化合物のうち少なくとも一つを提供することを含んで成る、硫黄を含んだリン含有化合物の塩を調製する方法:
【化3】

式中nは1から5の整数であり;また
、R、R、R、R、R、R10、およびR11は、水素、シアノ、および約1つから約30の炭素原子を含んだヒドロカルビル基から成るグループから独立して選択される。
【請求項4】
硫黄を含んだリン含有化合物の塩が化学式(III)および(VI)の化合物のうち少なくとも一つである請求項3に記載の方法であって:
【化4】

式中nは1から5の整数であり;また
、R、R、R、R、R、R、R、R、R10、およびR11は、水素、シアノ、および約1つから約30の炭素原子を含んだヒドロカルビル基から成るグループから独立して選択される方法。
【請求項5】
窒素含有化合物がアミンである請求項3に記載の方法。
【請求項6】
窒素含有化合物、亜リン酸ネオペンチルグリコール、および硫黄含有化合物の反応生成
物を含んで成る組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2007−131624(P2007−131624A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−303287(P2006−303287)
【出願日】平成18年11月8日(2006.11.8)
【出願人】(391007091)アフトン・ケミカル・コーポレーション (123)
【氏名又は名称原語表記】Afton Chemical Corporation
【Fターム(参考)】