説明

硫黄原子を含有する縮合多環芳香族化合物のシート状結晶が基板上に積層された有機半導体薄膜、及びその製法

【課題】常温ウェットプロセスによる高いキャリア移動度を発現する有機半導体薄膜の製造方法、及び該方法により製造された有機半導体薄膜を有する半導体素子の提供。
【解決手段】以下のステップ:硫黄原子を含有する縮合多環芳香族化合物及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の結晶粒子を含む有機半導体材料を液状媒体に分散してなる有機半導体薄膜用分散体を基材上に配置させ、そして前記液状媒体を除去する、を含む有機半導体薄膜の製造方法;該製造方法により製造された、硫黄原子を含有する縮合多環芳香族化合物及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の結晶粒子を含む有機半導体材料が基材上の少なくとも一部に積層されてなる有機半導体薄膜;及び該有機半導体薄膜の一部に電極が接合されてなる有機半導体素子が、提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫黄原子を含有する縮合多環芳香族化合物のシート状結晶とこのシート状結晶を基板上に積層された有機半導体薄膜、該薄膜の製造に用いる分散体、該薄膜の製造方法、及び当該製造方法により製造された有機半導体膜を有する有機半導体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)素子や有機薄膜トランジスタを用いた表示装置は、高画質、低消費電力、及び省スペースといった利点により、薄型テレビや携帯端末の表示装置として期待されている。
ところで、無機半導体であるアモルファスシリコンや多結晶シリコン薄膜の製造プロセスは、高価な真空装置と高温プロセスを必要とし、また、フォトリソグラフィーを用いているため複数の工程を経る必要があるため、製造コストが高いという問題がある。また、無機半導体の場合、薄膜の成膜温度として約300〜ないし400℃超の高温を必要とするため、ガラス基板やシリコンウエハを基板として用いなければならず、耐衝撃性及びフレキシブル性が望まれるプラスティック基板などへの応用は極めて困難である。
【0003】
一方、有機半導体の場合には、成膜温度が室温〜200℃以下と無機半導体の場合の成膜温度よりも低温であるので、プラスティック基板上への成膜が可能である。さらに、有機半導体材料を含有する液体(分散体を含む)の塗布による塗布プロセスによる有機半導体薄膜の形成が可能となれば、製造の低コスト化、薄膜形成の大面積化、半導体素子のフレキシブル化等が期待できる。
【0004】
従来、有機半導体材料として、ポリフェニレンビニレンやポリピロール、ポリチオフェンなどの共役系高分子や、それら高分子のオリゴマー等とともにアントラセン、テトラセン、ペンタセンなどのポリアセン化合物を中心とした低分子系有機半導体材料が用いられてきた。とりわけ、ペンタセンは、産業界から学術界までに亘る研究機関により広く用いられ、真空蒸着で成膜されたペンタセン薄膜トランジスタのキャリア移動度は1cm2/V・sを超えるものも報告され、アモルファスシリコンに匹敵する性能を示すに至っている。また、有機半導体単結晶を用いて作製したトランジスタにおいて10cm2/Vsを超える極めて高い移動度を発現することが報告されている(以下、非特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、最も移動度が高い材料のひとつであるペンタセンは、溶媒への溶解性が極めて低く、主に真空蒸着法を用いた成膜プロセスが用いられており、塗布プロセスへの応用が困難であり、また、高分子系有機半導体材料を用いた薄膜トランジスタでは、低分子系有機半導体材料に比較して溶媒への溶解性が高く、スピンコート法やドロップキャスト法のような簡便な塗布プロセスからインクジェットなどの高度な印刷技術を用いて成膜されている。しかしながら、高分子系有機半導体材料の薄膜トランジスタのキャリア移動度は、ペンタセンなどの薄膜トランジスタのものと比較して低いので、デバイス用途が限られる。それゆえ、高い電気特性と溶解性を併せ持つ材料の開発が強く求められ活発な開発が行われてきた。
【0006】
これまで、キャリア移動度が高いペンタセンを基本骨格として置換基を導入することにより、ペンタセンの溶解性を向上させる試みがなされてきた。ペンタセンの6,13−位を架橋したペンタセン前駆体を得ることにより、溶解性を向上させ、この前駆体溶液を一般的な塗布プロセスで成膜したのち、200℃程度の温度で焼成することで前駆体をペンタセンに変換するという方法が報告されている(以下、非特許文献2、3を参照のこと)。しかしながら、かかる方法では塗布後の焼成により薄膜中に構造欠陥を生じ性能や機械的強度を低下させるだけではなく、焼成温度が200℃程度と比較的高いことから、プラスティック基板などの選択肢が限られるという問題がある。
【0007】
一方、本願発明者は、ペンタセンを1,2,4−トリクロロベンゼンなどを可溶性溶媒に用いることで、ペンタセン前駆体を用いることなく、ペンタセンの加熱溶液を形成し、加熱した基板に展開して薄膜を形成する方法(溶液直接塗布法)を報告した(以下、非特許文献4を参照のこと)。また、縮合多環芳香族化合物の微粒子を可溶性溶媒に分散した分散体を基板上に展開し、加熱して一旦溶液を形成した後に薄膜を作製する方法が提案されている(以下、特許文献1を参照のこと)。
また、硫黄原子を含有する縮合多環化合物が真空蒸着された薄膜形態で高移動度を発現することが報告されている。ところが、これら材料は溶媒溶解性に乏しく、塗布薄膜形成が難しい。(以下、非特許文献5、6参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−281180号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】V.C. Sunder, J. Zaumseilら、 Science, 303, 1644 (2004)
【非特許文献2】A. Afzali, C. D. Dimitrakopoulos, and T. L. Breen, Journal of American chemical society, 124, 8812 (2002)
【非特許文献3】P. T. Herwig, and K. Mullen, Advanced Materials, 11, 480 (1999)
【非特許文献4】T. Minakata, and Y. Natsume, Synthetic Metals, 153, 1 (2005)
【非特許文献5】T. Yamamoto, K. Takimiya, J. Am. Chem. Soc., 129, 2224(2007)
【非特許文献6】K. Takimiya, Y. Kunugi, T. Otsubo, Chem. Lett., 36, 578(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記したように、有機半導体材料の溶液直接塗布法や溶液経由の分散体塗布で作製した薄膜は、高移動度、高結晶性を示すものの、利用できる溶媒が限られ、溶液及び基板の温度を高くしなければならないため、適用できる基板が限られ、溶液が酸化されやすいため不活性ガス雰囲気中で薄膜を形成しなければならないなどの問題点がある。したがって、従来の薄膜形成方法では作製条件が限られ、作製プロセスの制御性も悪く、適用できる基板材料や素子も限定される。例えば、高温及び溶液を用いる場合には、基板と有機半導体層との間の線膨張係数差によりクラックが発生して欠陥基板が製造される。また、溶液状態においては、有機半導体材料の分子が孤立した状態となり該分子が酸化され易いため、有機半導体材料の溶液は、酸素を排除した雰囲気制御環境下で取り扱う必要がある。酸化安定性に優れた有機半導体材料、インク材料が求められている。
【0011】
溶液を基板上に塗布して有機半導体薄膜を成長させる方法では、成長する薄膜結晶が大きく成長できるため高い移動度を示す薄膜が形成される。ところがこの方法で大面積の基板上に塗布薄膜形成する際、局所的に生成する欠陥により素子アレイの性能均一性が低下するという問題が残されている。
したがって、前記した従来の薄膜形成法が有する問題点を解決しうる、常温ウエットプロセスによる高いキャリア移動度を示す均一性の高い有機半導体薄膜、及びその製法を提供する必要性が未だ在る。
【0012】
また、印刷製法を用いたパターン塗布を行なうためには適用する印刷製法に応じたインク(有機半導体材料の分散体)の粘度調整が必要である。さらに前記のインクを基板上に塗布するために基板の表面エネルギーに応じインクの表面張力を調整する必要がある。
これら粘度や表面張力などの物性が制御されたインク材料を用い、常温、常圧において印刷製法など液体プロセスを用いれば、基材の必要な部位に必要量だけのインク材料で薄膜、素子が形成できるため材料利用効率が高められるだけでなく、従来の電子素子が形成できなかった基材である汎用フルムや紙などが利用できる。また、この液体プロセスに従来適用できなかった優れた性能を発現する有機半導体材料を用いてインク材料が作製できれば、印刷製法に適用して汎用フィルム上に高材料利用率で薄膜、素子が作製でき、これによって素子の高性能化が実現できる。
また、汎用フィルムなど安価な基材上に高精度で素子を形成するには、半導体以外の素子構成要素である電極、配線の形成を含め常温に近い条件で行うことが要求されている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明者は、前記した課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、今般、驚くべきことに、これまで真空蒸着法でしか作製できなかった硫黄原子を含有する縮合多環芳香族化合物の半導体インク(有機半導体材料の分散体)を作製することに成功し、この半導体インクを用い常温常圧で薄膜形成するとともに塗布形成した薄膜が優れた素子性能を発現することを見出した。また、素子を構成する電極、配線を基板表面に常温で局所形成する工程によって半導体素子形成の全工程が常温付近の温度で行うことができ、従来の素子で利用困難とされた汎用樹脂フィルムに高い性能を発現する素子を作製することができ本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明は、硫黄原子を含有する縮合多環芳香族化合物又はその誘導体から選ばれる有機半導体材料を用いた半導体インク材料(有機半導体材料の分散体)であり、該分散体は、半導体材料が液状媒体に分散された形態を有する。また、本発明は、該分散体を用いた有機半導体薄膜の製造方法であり、さらに該製造方法により製造された有機半導体薄膜、及び該薄膜を有する有機半導体素子である。また、本発明により、有機半導体素子の構成要素である電極や配線を、常温付近の温度において形成することによって、有機半導体素子の製造方法の全工程を常温付近の温度で行うことができるようになる。
【0015】
具体的には、前記課題は、以下の手段により解決される。
[1]硫黄原子を含有する縮合多環芳香族化合物及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の結晶粒子を含む有機半導体材料を液状媒体に分散してなる有機半導体薄膜用分散体。
【0016】
[2]前記硫黄原子を含有する縮合多環芳香族化合物が、ベンゾチエノベンゾチオフェン、ジナフトチエノチオフェン、ナフトチエノベンゾチオフェン、ジアントラセノチエノチオフェン、アントラセノチエノベンゾチオフェン、アントラセノナフトチオフェン、ベンゾジチオフェン、ナフトジチオフェン、アントラセノジチオフェン及びこれらの誘導体からなる群から選ばれる、前記[1]に記載の有機半導体薄膜用分散体。
【0017】
[3]前記硫黄原子を含有する縮合多環芳香族化合物の誘導体が、ベンゾチエノベンゾチオフェン、ジナフトチエノチオフェン、ナフトチエノベンゾチオフェン、ジアントラセノチエノチオフェン、アントラセノチエノベンゾチオフェン、アントラセノナフトチオフェン、ベンゾジチオフェン、ナフトジチオフェン及びアントラセノジチオフェンからなる群から選ばれる化合物のアルキル置換体、フェニル置換体又はナフチル置換体である、前記[2]に記載の有機半導体薄膜用分散体。
【0018】
[4]前記硫黄原子を含有する縮合多環芳香族化合物が、テトラチアフルバレン、ビスエチレンジチオテトラアフルバレン、ジベンゾテトラチアフルバレン、ジナフトテトラチアフルバレン、ビスベンゾエチレンジチオテトラチアフルバレン、ビスナフタレノエチレンジチオテトラチアフルバレン、及びこれらの誘導体からなる群から選択ばれる、前記[1]に記載の有機半導体薄膜用分散体。
【0019】
[5]前記硫黄原子を含有する縮合多環芳香族化合物及びその誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の結晶粒子が、平板シート状の形態を有し、かつ、該平板シート状形態の平均長径が5nm以上30μm以下である、前記[1]〜[4]のいずれかに記載の有機半導体薄膜用分散体。
【0020】
[6]前記有機半導体材料が液相成長法で製造されたものである、前記[1]〜[5]のいずれかに記載の有機半導体薄膜用分散体。
【0021】
[7]前記有機半導体材料が気相成長法で製造されたものである、前記[1]〜[5]のいずれかに記載の有機半導体薄膜用分散体。
【0022】
[8]前記有機半導体材料の表面が表面処理剤で被覆されている、前記[1]〜[7]のいずれかに記載の有機半導体薄膜用分散体。
【0023】
[9]前記有機半導体材料を0.1重量%以上8重量%未満含有する、前記[1]〜[8]のいずれかに記載の有機半導体薄膜用分散体。
【0024】
[10]前記有機半導体材料を0.1重量%以上8重量%未満で、該有機半導体材料を溶解可能な可溶性溶媒を10重量%以下で、そしてアルコール類、エーテル類、ケトン類、エステル類及び脂肪族炭化水素からなる群から選ばれる非可溶性液体媒体を残部として、含む、前記[9]に記載の有機半導体薄膜用分散体。
【0025】
[11]該非可溶性液体媒体が、アルコール類又は脂肪族炭化水素である、前記[10]に記載の有機半導体薄膜用分散体。
【0026】
[12]前記有機半導体薄膜用分散体の粘度が、0.5センチポイズ以上10ポイズ以下である、前記[1]〜[11]のいずれかに記載の有機半導体用分散体。
【0027】
[13]前記有機半導体薄膜用分散体の表面張力が、10mN/m以上45mN/m以下である、前記[1]〜[12]のいずれかに記載の有機半導体薄膜用分散体。
【0028】
[14]以下のステップ:
前記[1]〜[13]のいずれかに記載の有機半導体薄膜用分散体を基材上に配置させ、そして
前記液状媒体を除去する、
を含む有機半導体薄膜の製造方法。
【0029】
[15]前記液状媒体を除去するステップにおいて、100℃以下の基材温度で該液状媒体を蒸発させる、前記[14]に記載の有機半導体薄膜の製造方法。
【0030】
[16]前記[14]又は[15]に記載の有機半導体薄膜の製造方法により製造された、硫黄原子を含有する縮合多環芳香族化合物及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の結晶粒子を含む有機半導体材料が基材上の少なくとも一部に積層されてなる有機半導体薄膜。
【0031】
[17]前記基材が、ガラス、樹脂フィルム、紙又は不織布のいずれかである、前記[16]に記載の有機半導体薄膜。
【0032】
[18]前記樹脂フィルムが、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、シクロオレフィン系ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、及びシリコーン樹脂からなる群から選ばれる、前記[17]に記載の有機半導体薄膜。
【0033】
[19]前記樹脂フィルムが、ポリエステルである、前記[18]に記載の有機半導体薄膜。
【0034】
[20]前記[16]〜[19]のいずれかに記載の有機半導体薄膜の一部に電極が接合されてなる有機半導体素子。
【0035】
[21]前記有機半導体薄膜の少なくとも一部が絶縁体を介して電極に接合される、前記[20]に記載の有機半導体素子。
【0036】
[22]前記電極が、無電解メッキ法によってパターニングされている、前記[20]又は[21]に記載の有機半導体素子。
【0037】
[23]前記電極が、金、銀、銅、ニッケル、コバルト、鉄、すず、及び亜鉛からなる群から選ばれる、前記[20]〜[22]のいずれかに記載の有機半導体素子。
【0038】
[24]以下のステップ:
メッキ剤に作用して無電解メッキを生じさせる触媒を、印刷法、局所吸着法、及びパターン化法からなる群から選ばれる方法によって、基材の所定部分に配し、
メッキ剤を該所定部分に配して、該所定部分に無電解メッキを施して電極を設ける、
を含む、前記[20]〜[23]のいずれかに記載の有機半導体素子の製造方法。
【0039】
[25]前記有機半導体素子の表面の少なくとも一部に絶縁性保護層が形成されている、前記[20]〜[23]のいずれかに記載の有機半導体素子。
【0040】
[26]前記絶縁性保護層を形成する絶縁体の比誘電率が3以下の低誘電率材料である、前記[25]に記載の有機半導体素子。
【0041】
[27]前記[20]〜[23]、[25]、及び[26]のいずれかに記載の有機半導体素子が複数個以上形成された有機半導体素子アレイ。
【0042】
[28]前記[20]〜[23]、[25]、及び[26]のいずれかに記載の有機半導体素子又は前記[27]に記載の有機半導体素子アレイのいずれか一つからなる薄膜トランジスタ。
【0043】
[29]前記[28]に記載の薄膜トランジスタの少なくとも一部に信号検出部が配置されたセンサー。
【0044】
[30]前記[28]に記載の薄膜トランジスタの少なくとも一部に表示機能部が配置されたディスプレイ。
【0045】
[31]前記[20]〜[23]、[25]、及び[26]のいずれかに記載の有機半導体素子又は前記[27]に記載の有機半導体素子アレイのいずれか一つからなる光電変換素子。
【0046】
[32]フレキシブル基材上に形成された前記[20]〜[23]、[25]、及び[26]のいずれかに記載の有機半導体素子又は前記[27]に記載の有機半導体素子アレイ。
【発明の効果】
【0047】
本発明に係る有機半導体薄膜は、結晶粒子が積層された構造を有し、電極と有機半導体薄膜との界面抵抗が極めて低く、良好な半導体素子動作を示す。本発明においては、溶液化が難しい硫黄原子を含有する縮合多環芳香族化合物の高結晶性薄膜を、液体プロセスを通じ形成することができる。結晶化した薄膜は高移動度を示すが、本発明においては、通常の方法を用い基板上で溶液から結晶を成長させる場合に比較して、結晶サイズが制御された結晶粒子を分散した分散体を塗布して薄膜を形成するため、性能を均一化し易く、高性能を発現することができる。さらにまた、溶液状態に比較して分散体中での有機半導体材料の耐酸化安定性は優れているため薄膜形成プロセスにおける雰囲気制御がより容易となる。
【0048】
また、本発明に係わる有機半導体薄膜は、動作の温度安定性に優れ、低温及び高温の環境下においても性能変化が小さく、広い温度範囲で均一した性能を示す。さらに、本発明に係る有機半導体薄膜は、大気中保存安定性に優れる特徴を有する。このため、本発明に係る有機半導体薄膜は、通常の有機半導体素子で用いられる薄膜保護層を軽減し、簡略化できるという効果も併せ持つ。
【0049】
本発明に係る有機半導体薄膜の製造方法によれば、塗布工程における分散体及び基板はともに室温で存在することができ、塗布工程後の液状媒体の除去工程においても100℃以下、好ましくは80℃以下の温度で高性能、高結晶性の有機半導体薄膜が作製できる。また、分散体は有機半導体材料の含有量の調整範囲が広いため液状媒体の選択自由度が高い。例えば、溶液よりも分散体のほうが、有機半導体材料の固形分濃度を高めることができる。また、溶液よりも分散体の方が、分散媒の選択の自由度が高く、例えば、脱ハロゲン溶媒とすることもできる。また、分散媒の選択自由度が高いため、分散液の粘度調整が容易で、各種印刷製法に適合させたインクを調整できる。また、分散媒の選択自由度が高いため、分散液の表面張力を広い範囲で調整でき、塗布形成する基板の表面エネルギーに適合させ基板表面のインク濡れ性を制御することもできる。
【0050】
すなわち、本発明に係る有機半導体薄膜の製造方法は、従来の薄膜形成方法に比べ格段に薄膜形成プロセスの制御性が容易であり、適用できる基板材料の選択範囲も広いため、有機半導体素子の製造範囲を拡大することに貢献しうる。
また、本発明に係る有機半導体薄膜の製造方法では、高温及び溶液を用いる場合に見られる、基板と有機半導体層との間の線膨張係数差によりクラックが発生して欠陥基板が製造されるという問題が著しく低減される。
さらに、本発明に係る有機半導体薄膜の製造方法により製造された有機半導体薄膜は、電界効果トランジスタとして高いキャリア移動度とともに良好なスイッチング性を発現し、アレイにおいては素子間ばらつきが少なく性能均一性に優れており、有機半導体素子として優れた電子特性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】実施例1のジフェニルベンゾチエノベンゾチオフェン分散体を塗布した膜の結晶粒子形態を示す図面に代わる写真である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
本発明に係る有機半導体薄膜の製造方法により製造された有機半導体薄膜は、有機半導体材料である硫黄原子を含有する縮合多環芳香族化合物のシート状結晶が単層又は多層で積層されている。有機半導体結晶の形状はシート状であり、高アスペクト比3以上であることが好ましく、より好ましくは5以上、さらに好ましくは10以上である。また、シート状有機半導体結晶はドメイン内に欠陥のない単結晶であることが好ましい。シート状結晶の長辺は利用する素子用途、作製プロセスにより範囲が異なるが、好ましくは30nm以上10mm以下であり、より好ましくは100nm以上30μm以下、さらに好ましくは300nm以上10μm以下である。薄膜は、シート状結晶が単層又は多層で積層されており、シート状結晶粒子の長辺が基板面に並行に配列する。本発明に係る有機半導体薄膜の製造方法により製造された有機半導体薄膜では、シート状結晶同士が面でコンタクトした構造を形成しており、多数の粒子から形成される薄膜(多結晶薄膜)においても薄膜の電気抵抗が低く、薄膜トランジスタとして高キャリア移動度を発現するなど好ましい特性を有する。薄膜構造中のシート状結晶(粒子)間の接合が良好で粒子間抵抗が低減されているようである。
【0053】
本発明のシート状結晶が積層された薄膜の粒子間の電気伝導性は、例えば薄膜に複数の電極を接合させた構造の素子を形成し、電極間の電気抵抗を評価することによって確認できる。電極間距離の異なる前記素子の低電圧領域の薄膜抵抗と電極間距離の関係から電極間距離をゼロに外挿した抵抗値を、電極と半導体薄膜の界面抵抗として求めることができる。この電極は、半導体薄膜を電極上に形成する前に予め設けた素子構造(ボトムコンタクト構造)又は基板上に半導体薄膜を形成後、薄膜表面に局所的に電極を形成した素子構造(トップコンタクト構造)を有することができる。本発明の有機半導体薄膜にけるシート状結晶面が電極と面状にコンタクトした構造が形成できることが、界面抵抗が低い原因であると考えられる。
【0054】
また、このように電極間に半導体薄膜が介在する構想で形成した素子の電気抵抗や電界効果移動度の温度依存性により、結晶粒子間の接合を評価することができる。粒子間の接合が良好である場合、電子キャリアの輸送における接合障壁は小さく、この結果、電気抵抗や電界効果移動度の温度依存性は小さい。一方、粒子間の接合が不良である場合、電子キャリアの輸送障壁が大きく、大きな温度依存性を示す。本発明のシート状結晶が積層された薄膜の電気抵抗、電界効果移動度の温度依存性は小さいことが特徴である。このように電界効果移動度の温度依存性が低いことは、幅広い温度範囲で安定した素子性能を示すため好ましいものとなる。また、電界効果移動度や電気抵抗が高温において急激に増加しないことは、急激な電流変化においても素子性能が安定して示され、異常電流発熱による素子抵抗の急激な低下と連鎖する発熱暴走を抑制する効果も併せ持つため好ましい。
【0055】
本発明で用いる有機半導体材料として、硫黄原子を含有する縮合多環芳香族化合物又はその誘導体が用いられる。この材料例として、二つの構造系が選択可能である。一つは、芳香環がラダー状に結合した分子構造を有する化合物群であり、この例として、ベンゾチエノベンゾチオフェン、ジナフトチエノチオフェン、ナフトチエノベンゾチオフェン、ジアントラセノチエノチオフェン、アントラセノチエノベンゾチオフェン、アントラセノナフトチオフェン、アントラチオフェン、アントラジチオフェン、ナフタレノチオフェン、ナフタレノジチオフェン、ペンタセノチオフェン、ペンタセノジチオフェン、ベンゾジチオフェン、ナフトジチオフェン、アントラセノジチオフェン及びこれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。また、これらの誘導体として、アルキル基、アルキニル基、アルケニル基等の脂肪族炭化水素基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、エステル基、アルキルオキシカルボニル基、カルボニル基、ホルミル基、水酸基、ハロゲン基、アミノ基、イミノ基、アミド基、シアノ基、シリル基、メルカプト基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホニル基、ウレタン基、尿素基、又はこれらのうち2以上の基を含む官能基が、縮合多環芳香族の水素基の少なくとも一つに結合された構造を有する誘導体である。このうちアルキル基、フェニル基、ナフチル置換体が導入された誘導体は高移動度を発現するため特に好ましい。
【0056】
また、本発明に用いる硫黄原子を含有する縮合多環芳香族化合物の構造系として、チアフルバレン骨格の縮合多環芳香族化合物が挙げられる。この例として、テトラチアフルバレン、ビスエチレンジチオテトラアフルバレン、ヘキサメチレンテトラチアフルバレン、ジベンゾテトラチアフルバレン、ジナフトテトラチアフルバレン、ビスベンゾエチレンジチオテトラチアフルバレン、ビスナフタレノエチレンジチオテトラチアフルバレンが、挙げられる。また、これらの化合物の水素基の少なくとも一つに、アルキル基、アルキニル基、アルケニル基等の脂肪族炭化水素基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、エステル基、アルキルオキシカルボニル基、カルボニル基、ホルミル基、水酸基、ハロゲン基、アミノ基、イミノ基、アミド基、シアノ基、シリル基、メルカプト基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホニル基、ウレタン基、尿素基又はこれらのうち2以上の基を含む官能基が結合された構造を有する誘導体が挙げられる。
【0057】
分子量範囲として3,000(ダルトン)以下の結晶性低分子系材料が用いられる。
前記した硫黄原子を含有する縮合多環芳香族化合物又は誘導体は、硫黄原子の含有によって分子間結合の増強を伴うため、高いキャリア移動度を発現するため好ましい。また、硫黄原子の含有によってイオン化ポテンシャルやバンドギャップの増加を伴う場合があり電子構造が安定化され好ましいものとなる。芳香環がラダー状に結合した分子構造を有する化合物群は、分子同士でスタックして導電面が2次元的ネットワークを有するヘリンボン構造を取りやすいため、π電子軌道の重なりが大きくなり、キャリアが分子間を移動し易い。一方、チアフルバレン骨格を有する縮合多環芳香族化合物も同様に分子間でスタックした構造を形成し、前記のラダー状に結合した分子構造の化合物に比べ、隣接分子同士の共役面の重なりが大きい場合が多く、この重なり方向にキャリアが高速で輸送され易い。
【0058】
本発明で用いる結晶粒子は、これら分子から形成されたシート状形態であることが好ましく、針状や低アスペクト比のブロック形状は好ましくない。有機半導体結晶の形状はシート状であり、高アスペクト比3以上であることが好ましく、さらに好ましくは5以上、そして最も好ましくは10以上である。また、シート状有機半導体結晶はドメイン内に欠陥のない単結晶であることが好ましい。
【0059】
硫黄原子を含有する縮合多環芳香族化合物誘導体は、縮合多環芳香族化合物骨格に導入された官能基によって、シート状結晶を溶液から形成する場合の溶媒溶解性や、シート状結晶を昇華により形成する場合の昇華温度を調整することができる。また、誘導体の分子構造によって、シート状結晶粒子の表面エネルギーを調整することができ、シート状結晶が分散された液状分散体の分散媒や分散液の表面張力を調整することができ、さらに、シート状結晶が積層された薄膜の積層や溶解除去などの加工性を調整することができる。
【0060】
有機半導体薄膜の作製
本発明によれば、有機半導体薄膜は、有機半導体のシート状結晶を液状媒体に分散させた分散体から、ウェットプロセスによって製造される。
有機半導体結晶の製造方法としては、有機半導体材料が溶解した溶液を冷却することにより、前記溶液から有機半導体材料の微粒子を析出させる方法や、前記溶液を有機半導体材料の難溶性溶媒と混合することにより、前記溶液から有機半導体材料の微粒子を析出させる方法等が挙げられる。溶液の冷却は、容器等に入れた状態で行ってもよいが、溶液の噴霧によってもよい。噴霧により形成された液滴は急冷されるので、液滴内に有機半導体材料の微粒子が析出する。また、噴霧により形成された液滴を加熱乾燥して、有機半導体材料の微粒子を得ることもできる。さらに、本発明においては、有機半導体材料の蒸気を用い気相中又は気相固体界面で成長させた有機半導体材料の結晶を用いることもできる。
【0061】
さらに、結晶粒子を機械的に粉砕して得た微粒子を用いることができる。
シート状結晶の長辺は利用する素子の用途、作製プロセスにより範囲が異なるが、30nm以上10mm以下が好ましく、より好ましくは50nm以上30μm以下である。また、太陽電池などの用途によっては複数の有機化合物粒子結晶を混合して用いることもできる。
【0062】
有機半導体材料のシート状結晶を液状媒体に分散させて得た分散体を用いて、有機半導体材料の薄膜を製造する。液状媒体の種類は特に限定されるものではないが、一般的な溶剤を使用することができ、塗布する分散体の加工工程の内容に応じて適宜選択しうる。例えば、粘度、蒸気圧、分散体と接触する基板部分の耐溶剤性、環境安全性等を考慮して選択することが好ましい。
【0063】
本発明の硫黄原子を含有する縮合多環芳香族化合物のシート状結晶が分散された液状分散体において、液状分散媒は用いる用途に応じて自由に選択できる。この分散媒として、本発明では硫黄原子を含有する縮合多環芳香族化合物が溶解しないことが要件であり、液状媒体における可溶性溶媒は30重量%未満の可溶性溶媒であることが好ましい。また、液状媒体を構成する可溶性溶媒以外の媒体、非可溶性溶媒としては各種の溶媒が利用でき、例えば、アルコール類、エーテル類、ケトン類、エステル類、脂肪族炭化水素、アミン類、ラクトン類、アミド類、スルホン類、芳香族化合物、水、イオン性流体、超臨界状態の炭酸ガスなどが挙げられる。これらのうち、インクジェットやグラビアなどの印刷製法に用いる分散体の液状分散媒として、アルコール類、エーテル類、ケトン類、エステル類、及び脂肪族炭化水素からなる群から選ばれる非可溶性液状媒体が好ましい。非可溶性溶媒の例として、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、ペンタノール、n-ヘキサノール、シクロヘキサノール、シクロヘキシルフェノール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール類、エチレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、オテトラヒドロフラン、ジオキサン、オリゴジメチルシロキサンなどのエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチルなどのエステル類、デカン、ドデカン、ウンデカン、テトラデカン、デカリン、ジシキロへキサン、ドデセン、パラフィンなどの脂肪族炭化水素が挙げられる。これら非可溶性溶媒は、単体又は混合物で分散液として液状媒体に用いることができる。
【0064】
非可溶性溶媒は混合して用いることが好ましく、シート状結晶の分散媒として非可溶性液状媒体がアルコール類、脂肪族炭化水素の混合物である場合、シート状結晶の分散安定化できるためより好ましい。また、非可溶性液状媒体としてアルコール類を含有する場合の該アルコール類の含有量は20重量%以上80%未満であることが、分散液中のシート状結晶の分散安定化の観点から好ましい。
【0065】
本発明の有機半導体薄膜用分散体は、通常の有機半導体溶液と異なり、分散体の組成調整によって様々な印刷製法、塗布製法に適用できる。本発明を特定の印刷製法に適用する場合、印刷動作安定化のために粘度調整を行なうことが好ましい。本発明の分散液の粘度は、広い範囲で調整でき、液状分散体の室温における粘度は好ましくは、0.5センチポイズ以上10ポイズ以下の範囲である。例えば、前記の非可溶性液状媒体として適用可能なアルコール類は分子構造によって高粘度から低粘度まで広い粘度範囲を採ることが可能であるためアルコールの種類と含量によって粘度調整を容易に行うことができる。
【0066】
また、本発明の有機半導体結晶分散体を印刷製法、塗布製法によって基板上に有機半導体薄膜を形成する際、基板の表面エネルギーによっては分散液の濡れ性が十分でないため、すなわち基板表面で分散液がはじかれ、流動する場合には欠陥が生じるため、好ましくない。このような場合に対処するためには、分散液の組成を調整することによって表面張力を基板の表面エネルギーに近づけることが好ましい。本発明の有機半導体結晶が分散された分散液は、液状分散媒の組成によって表面張力を調整することができ、縮合多環芳香族化合物のシート状結晶が分散された液状分散体の表面張力は、10mN/m以上45mN/m以下であることが好ましい。特に、有機半導体を用いて薄膜トランジスタを作製する場合、有機半導体に隣接する絶縁膜は素子性能に大きく寄与し、絶縁膜として低誘電率材料を用いることが電子キャリアのトラップ低減のために好ましい。本発明の有機半導体分散液を印刷、塗布するためには分散液の表面張力を低くすることが好ましい。低い表面張力の分散液を形成するために、低誘電率の分散媒を用いたり、該分散媒の含量を調整したり、フッ素系やシリコ−ン系など微量の界面活性剤を添加したりすることができる。
【0067】
分散体中の有機半導体材料のシート状結晶の含有量は、好ましくは0.3重量%以上8重量%以下である。0.3重量%未満では形成する有機半導体材料の膜厚が極めて薄く、薄膜中に欠陥を生じ易いため好ましくない。また、8重量%を超えると、分散体中の結晶粒子の凝集による粘性不安定化が生じ易くなるため好ましくない。
液状媒体の組成によってシート状結晶の含有量がさらに高い分散液を形成することも可能であり、印刷製法によっては高粘度が好ましい場合もあるため、分散液におけるシート状結晶の含有量は、最大20%まで利用できる。従って、分散液におけるシート状結晶の好ましい含有量は、0.3重量%以上20重量%以下である。
【0068】
本発明に係る有機半導体薄膜の製造方法は、有機半導体材料の結晶粒子が、シート状結晶の形状を維持した状態で、基板にトランスファされることを特徴としており、液状(分散)媒体中に有機半導体材料を溶解することができる可溶性溶媒を含まないことが好ましい。例えば、有機半導体材料結晶の作製過程で有機半導体材料の溶液から析出させて有機半導体材料の結晶粒子を作製する際に、結晶粒子沈降後に再分散で分散体を調製する場合、可溶性溶媒が残存する可能性がある。本発明においては、分散体中の可溶性溶媒の含有量は、好ましくは30重量%未満である。分散体中に30重量%以上の可溶性溶媒が含有される場合、有機半導体材料のシート状結晶粒子が溶解して結晶粒子の形態が保持されなくなって薄膜構造を変化させて、性能の劣化をもたらすため好ましくない。シート状結晶分散液における可溶性溶媒の含有量は、より好ましくは10重量%未満、さらに好ましくは2重量%未満である。
【0069】
使用される可溶性溶媒は、対象とする有機半導体材料の性質によって変化するため、必ずしも限定されない。本発明に係る有機半導体薄膜の製造方法における液状媒体の除去は、80℃以下、70℃以下、60℃以下、50℃以下、40℃以下又は30℃以下の温度で行われる。当該温度は、液体媒体の除去に要する時間、溶液の形成を経由しないことや、形成される薄膜の性能などの様々な条件を考慮して、最適化されうるが、通常、室温で行われる。可溶性溶媒は、所定の処理温度において溶解度0.01g/リットル以上を有するものとする。
【0070】
例えば、有機半導体材料としてベンゾチエノベンゾチオフェンを用いる場合、可溶性溶媒の例として、ハロゲン化炭化水素が挙げられる。ハロゲン化炭化水素の具体例としては、ジクロロベンゼン、ジブロモベンゼン、ジヨードベンゼン、トリクロロベンゼン、ジクロロエチルベンゼン、ジブロモエチルベンゼン、クロロナフタレン、ブロモナフタレン、ジクロロナフタレン、ジクロロアントラセン、トリフルオロベンゼン、トリクロロベンゼン、トリブロモベンゼン等の芳香族ハロゲン化炭化水素や、ジクロロエタン、トリクロロエタン、ジフルオロエタン、テトラクロロエタン、テトラフルオロエタン、フルオロクロロエタン、クロロプロパン、ジクロロプロパン、クロロペンタン、クロロヘキサン、クロロシクロペンタン等の脂肪族ハロゲン化炭化水素が挙げられる。
これらハロゲン化炭化水素に限らず、例えば、メチルナフタレン、ジメチルナフタレン、ナフタレン、アントラセン、トルエン、キシレン、テトラリンなどの芳香族炭化水素、ジメチルスルフォキシドなどのスルフォキシド類、ピロリドン、カーボネート類も可溶性溶媒として用いることができる。
【0071】
分散体の調製としては、例えば、可溶性溶媒に溶解した有機半導体溶液から有機半導体結晶を形成した後、有機半導体結晶を沈降、浮遊させて、可溶性溶媒を取り除き、有機半導体結晶の濃縮又は有機半導体結晶の分取を行い、次いで、分散媒を添加してこれを再分散させて、本発明の有機半導体結晶が分散された分散液を作製することが挙げられる。また、気相成長、粉砕などにより得た有機半導体結晶を用いる場合も、有機半導体結晶成分に分散媒を添加して分散液を調製することができる。ここで添加する分散媒の組成は、非可溶性溶媒、可溶性溶媒、界面活性剤などの添加物を適宜調整して行なうことが好ましい。また、有機半導体結晶粒子の分散体中の分散安定化を図るため、高濃度の有機半導体結晶と少量の分散媒で混合し、機械的な分散処理を施したミルベースを作製した後、分散媒をさらに添加して分散液を調製することもできる。
【0072】
分散体は、種々の印刷方法や印刷装置を用いて、(基板等の)ベース上に配され、薄膜が形成される。前記したように分散媒体の種類は限定されず種々の溶媒を使用することができるため、分散体をベース上に配するために用いる塗布プロセスや印刷プロセスも様々なものであることができる。また、有機半導体材料薄膜の用途が光学材料、発光材料等である場合には、有機半導体材料の結晶粒子を固体中に分散させた分散体でも差し支えなく、分散体中の有機半導体材料以外の固形分が残存していてもよい。
【0073】
本発明に係る有機半導体薄膜の製造方法において使用される有機半導体材料の結晶が分散される分散体中の液状媒体は、当該分散体を基板上にトランスファした後、100℃以下、好ましくは80℃以下、より好ましくは75℃以下、さらに好ましくは70℃以下、よりさらに好ましくは65℃以下の温度、特に好ましくは室温で、当該有機半導体材料の溶液の形成を経由せずに、蒸発や抽出などの方法で除去可能であることを特徴とする。分散体を(基板等の)ベース上にトランスファする方法としては、塗布や噴霧の他、ベースを分散体に接触させる方法等が挙げられる。具体的には、スピンコート、ディップコート、スクリーン印刷、インクジェット印刷、ブレード塗布、印刷(平版印刷,凹版印刷,凸版印刷等)などの公知の方法が挙げられる。液体媒体(分散媒)の例としては、各種有機溶媒、液状電解質、超臨界流体などが利用可能である。
【0074】
例えば、分散体のトランスファ方法にもよるが、通常のインクジェット、ディスペンサ、活版印刷などの方法を用いる場合、液体媒体の沸点は100℃以上、さらに好ましくは150℃以上、そして最も好ましくは200℃程度であることが好ましい。さらに、分散体又は溶液から、含有されることができる前記した可溶性溶媒を除去して薄膜を形成するために、可溶性溶媒の蒸気圧は有機半導体材料の蒸気圧よりも高いことが好ましい。また、電解質を用いる場合、基板上に分散体をトランスファした後に、可溶性溶媒や水を用いて電解質を抽出して薄膜を形成することもできる。
【0075】
本発明に係る有機半導体薄膜の製造方法においては、酸化されにくい有機半導体の結晶粒子分散体を用い、かつ、酸化されやすい溶液状態を経由することなく有機半導体薄膜が形成できるため、薄膜形成時の雰囲気制御が容易となるため好ましい。この理由として、有機半導体の結晶粒子では半導体分子が自己集積した強固な結晶を形成し、酸素分子が結晶粒子内部に侵入しにくいことが考えられる。
【0076】
さらにこの特徴は薄膜状態でも反映され、本発明の薄膜は大気中でも極めて高い保存安定性を示す。一般の有機半導体薄膜や素子は、大気中保存で大気中の酸素や水蒸気を吸着したりそれと反応したりすることによって劣化するが、本発明の有機半導体薄膜では、有機半導体結晶粒子が基板上に積層して形成され、前記のように粒子内部に酸素や水蒸気が拡散することが困難であるため、保存安定性に優れるものと思われる。このため、本発明の素子は、保存安定化、信頼性向上を図ることができる。さらに、通常の有機半導体素子で用いられる有機半導体層の保護層を軽減、簡略でき、さらに用途によっては保護層のない構造で素子を用いることもできるため、素子構造だけでなく、作製工程を簡略化し、低コストで製造できることもできる。
【0077】
本発明に係る有機半導体薄膜の製造方法においては、前記したように、液状媒体の除去工程は室温で行うことが特に好ましいが、場合によっては液状媒体の蒸発を調整するために加熱してもよい。但し、この加熱処理の温度は100℃以下である。
【0078】
分散体の調製、加熱、分散体のベース上への供給、液体媒体の蒸発等の操作は、縮合多環芳香族化合物の構造によっても異なるが、通常は大気下又は窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うことができる。本発明に係る有機半導体薄膜の製造方法は、有機半導体材料の溶液状態を本質的に経由しない。分散体に含有される有機半導体材料結晶は、溶液状態に比べ耐酸化安定性に優れるため、有機半導体材料の溶液を取り扱う場合の雰囲気に比べ、雰囲気の制御が容易であるため工業上好ましいものである。
【0079】
有機半導体薄膜を形成するためのベース材料(基材)としては、各種材料が挙げられる。例えば、ガラス、石英、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、シリコン、ガリウム砒素、インジウム・スズ酸化物(ITO)、酸化亜鉛、マイカ等のセラミックス、アルミニウム、金、ステンレス鋼、鉄、銀等の金属が挙げられる。また、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリカーボネート、ノルボルネン系樹脂、ポリエーテルスルフォン、ポリイミド、ポリアミド、セルロース、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂、炭素、紙等が挙げられる。また、ベース材料として各種材料の複合体を用いてもよい。ベースが膨潤したり溶解したりして不都合が生じるおそれがある場合には、ベースに溶媒などが拡散することを抑制するために、バリア層を設けることが好ましい。
【0080】
ベースの形状は、特に限定されるものではないが、通常はフィルム状のベースや板状のベース(基板)が用いられる。さらに、線状体や繊維構造体をベースとして用いることもできる。なお、分散物や必要があれば用いる前記有機化合物に対するベースの濡れ性を調整するため、ベースの表面に表面処理を施してもよい。分散体の濡れ性にあわせてベース表面を局所的に表面処理して表面エネルギーを調整して局所塗布を行うこともできる。また、ベースに表面エネルギーを調整した材料を局所的にパターン化してバンク構造を形成して分散体を所定の位置(バンク)に保持して薄膜パターンを形成することもできる。
【0081】
本発明によれば、本発明の有機半導体を含有する分散体を用いて実質的に室温で塗布・印刷によって半導体薄膜が製造できるため、ガラス、樹脂フィルム、紙、不織布などの身近な素材に半導体薄膜を形成することができる。。特に、樹脂フィルムはフィルムの特徴が活かされた電子素子が作製できるため、これを用いれば、フレキシブルで、薄型、軽量、割れないなどの性質を兼ね備えた素子を形成することができる。また、本発明により、樹脂フィルム材料として最も多く利用されるポリエステル樹脂フィルムにも半導体素子を形成することができる。
【0082】
有機半導体素子の製造方法
本発明に係る有機半導体薄膜の製造方法により製造された有機半導体薄膜を有する半導体素子がトランジスタである場合には、その素子構造は、例えば、基板/ゲート電極(シリコン基板)/絶縁体層(誘電体層、ゲート絶縁膜、シリコン酸化膜)/ソース電極及びドレイン電極/有機半導体層という構造;基板/有機半導体層/ソース電極及びドレイン電極/絶縁体層(誘電体層、ゲート絶縁膜、シリコン熱酸化膜)/ゲート電極(シリコン基板)という構造;基板/ソース電極(又はドレイン電極)/半導体層+絶縁体層(誘電体層)+ゲート電極/ドレイン電極(又はソース電極)という構造などが挙げられる。ソース電極、ドレイン電極、及びゲート電極は、それぞれ、複数設けてもよい。また、複数の半導体層を同一平面内に設けてもよいし、積層して設けてもよい。
【0083】
トランジスタの構成としては、MOS(メタル−酸化物(絶縁体層)−半導体)型、及びバイポーラ型のいずれでもあってもよい。有機半導体のうち、多くはp型半導体であるので、ドナードーピングしてn型半導体とした有機半導体と組み合わせたり、有機半導体又は有機半導体以外のn型半導体と組み合わせたりすることにより、素子を構成することができる。
【0084】
また、有機半導体素子がダイオードである場合には、その素子構造としては、例えば、電極/n型半導体層/p型半導体層/電極という構造が挙げられ、p型半導体層及び/又はn型半導体層に、本発明に係る有機半導体薄膜の製造方法により製造された有機半導体薄膜を使用することができる。
【0085】
本発明に係る有機半導体薄膜の製造方法により製造された有機半導体薄膜を有する半導体素子における有機半導体薄膜内部又は有機半導体薄膜表面と電極との接合面の少なくとも一部は、ショットキー接合及び/又はトンネル接合とすることができる。このような接合構造を有する有機半導体素子は、単純な構成でダイオードやトランジスタを作製することができるので好ましい。さらに、このような接合構造を有する有機半導体素子を複数接合して、インバータ、オスシレータ、メモリ、センサ等の素子を形成することもできる。
【0086】
さらに、本発明に係る有機半導体薄膜の製造方法により製造された有機半導体薄膜を有する半導体素子を表示素子として用いる場合は、表示素子の各画素に配置され各画素の表示をスイッチングするトランジスタ素子(ディスプレイTFT)として利用できる。このようなアクティブ駆動表示素子は、対向する導電性基板のパターニングが不要なため、回路構成によっては、画素をスイッチングするトランジスタを持たないパッシブ駆動表示素子と比べて画素配線を簡略化できる。通常は、1画素当たり1個から数個のスイッチング用トランジスタが配置される。このような表示素子は、基板面に二次元的に形成したデータラインとゲートラインとを交差した構造を有し、データラインやゲートラインがトランジスタのゲート電極、ソース電極、ドレイン電極に、それぞれ、接合されている。なお、データラインとゲートラインとを分割することや、電流供給ライン、信号ラインを追加することもできる。
【0087】
また、表示素子の画素に、画素配線、トランジスタに加えてキャパシタを併設して、信号を記録する機能を付与することもできる。さらに、表示素子が形成された基板に、データライン及びゲートラインのドライバ、画素信号のメモリ、パルスジェネレータ、信号分割器、コントローラ等を搭載することもできる。
また、本発明に係る有機半導体薄膜の製造方法により製造された有機半導体薄膜を有する半導体素子は、ICカード、スマートカード、及び電子タグにおける演算素子、記憶素子としても利用することができる。その場合、これらが接触型であっても非接触型であっても、問題なく適用可能である。このようなICカード、スマートカード、及び電子タグは、メモリ、パルスジェネレータ、信号分割器、コントローラ、キャパシタ等で構成されており、さらにアンテナ,バッテリを備えていてもよい。
さらに、本発明に係る有機半導体薄膜の製造方法により製造された有機半導体薄膜を有する半導体素子で、ダイオード、ショットキー接合構造を有する素子、トンネル接合構造を有する素子を構成すれば、そのような素子は光電変換素子、太陽電池、赤外線センサ等の受光素子、フォトダイオードとして利用することもできるし、発光素子として利用することもできる。また、本発明に係る有機半導体薄膜の製造方法により製造された有機半導体薄膜を有する半導体素子でトランジスタを構成すれば、そのようなトランジスタは発光トランジスタとして利用することができる。これらの発光素子の発光層には、公知の有機材料や無機材料を使用することができる。
【0088】
さらに、本発明に係る有機半導体薄膜の製造方法により製造された有機半導体薄膜を有する半導体素子はセンサとして利用することができ、ガスセンサ、バイオセンサ、血液センサ、免疫センサ、人工網膜、味覚センサ等、種々のセンサに応用することができる。通常は、有機半導体素子を構成する有機半導体薄膜に測定対象物を接触又は隣接させた際に生じる有機半導体薄膜の抵抗値の変化によって、測定対象物の分析を行うことができる。
なお、本発明に係る有機半導体薄膜の製造方法により製造された有機半導体薄膜を有する半導体素子においては、有機半導体薄膜の上に、保護層、配線、別素子等をさらに積層することもできる。
【0089】
本発明の素子を構成する電極は各種の方法で形成することができる。たとえば、基材の全面に電極材料の薄膜を形成した後、フォトリソグラフィーの手法でパターン形成する方法、電極材料の薄膜形成時に基材と薄膜形成源との間にマスクを介してマスクの空隙部分を通じて基材表面に電極材料の薄膜パターンを形成する方法、印刷製法によって電極材料のインクを基材の所定部位に配する方法などが挙げられる。ただし、電極材料の薄膜形成およびパターン化の工程において、加工温度が低いことが、基材上のパターン精度向上に好ましい。すなわち高温の工程を経ることによる基材の熱膨張、加熱工程後室温に復帰した際の基材寸法変化などが高温工程で誘起されることが、加工温度低減により著しく抑制されるため好ましい。特に樹脂フィルム材料などの有機材料からなる基材は無機系基材に比べ線膨張係数が大きく、基材の寸法安定性が工程温度によって大きく影響受けるため、これら有機材料からなる基材上に素子形成する場合は、加工温度を低く保つことが好ましい。本発明の有機半導体薄膜は前記のように常温又は僅かに加熱した条件で形成できるが、素子全体のプロセス温度を考慮した場合、特に電極とそのパターン化の工程温度を低減することが好ましい。本発明の素子の作製方法は電極、パターンの作製温度が100℃以下であることを特徴とする。これによって、前記で説明した基材として樹脂フィルム、紙、不織布などの有機材料からなる基材に高精度で素子、素子アレイが形成できる。
【0090】
また、前記の100℃以下の温度で電極パターンを形成する方法として、無電解メッキ法を用いることが好ましい。無電解メッキ法によれば、金、銀、銅、ニッケル、コバルト、鉄、すず、亜鉛、及びこれらの合金からなる群から選ばれる金属を主体とする導電性材料が形成できる。
無電解メッキは、前記の電極形成用金属の塩と塩を金属に還元できる還元剤又は触媒が用いられる。具体的なメッキ方法として、基材の表面に触媒、還元剤、金属塩の少なくとも一部を溶液状態で基材に配することによって行うことができる。この金属塩は還元剤とともに混合した溶液(メッキ剤)が用いられ、基材表面の電極パターン形成部位に触媒を配した後メッキ剤を接触させて金属薄膜が形成される。本発明の素子製造方法においては、この無電界メッキの触媒を印刷法、局所吸着法、パターン化法により配した後、メッキ剤を触媒が配された部位に接触させて電極を形成する。メッキ剤、触媒は水溶液で利用することが可能であり、無電解メッキによる電極パターン形成温度は100℃以下で実施できる。
【0091】
前記の無電解メッキにおける触媒を基材に配する方法として、印刷製法で行う場合は、触媒の元素を含む溶液を、例えば、インクジェット、フレキソ、スクリーン印刷、グラビア印刷などの方法で基材の電極パターン形成部位に配置した後、メッキ剤を接触させて、触媒が配置された部分に電極パターンを形成することができる。また、局所吸着法は、例えば、基材の表面を加工して親水部と疎水部にパターン化した後、触媒溶液を基材上に接触させ、溶液が浸漬する親水部(または疎水部)に触媒を配置した後、めっき剤を触媒に接触させて、電極パターンを形成することができる。またパターン化法の例として、基材表面に予め剥離部位を設けた後電極を形成し、剥離部分上の電極層を除去して電極パターンを形成する方法、あるいは基材表面に電極を均一形成後、電極層の一部をエッチング、剥離などによって除去して電極パターンを形成する方法などが挙げられる。
【0092】
さたに素子形成した後、保護層を形成することができ、この保護層材料として絶縁性材料であることが信号の保持性、キャリアトラップの低減に好ましい。本発明の素子では、この保護層材料として、低誘電率であることが好ましく、比誘電率3以下であることが特に好ましい。
【0093】
本発明に係る有機半導体薄膜の製造方法により製造された有機半導体薄膜を有する半導体素子の性能
本発明に係る有機半導体薄膜の製造方法により製造された有機半導体薄膜は、シート状結晶から構成され、高いキャリア移動度を有するなど、半導体特性に優れている。このため、本発明に係る方法により得られる有機半導体素子は、高性能となり好ましい。本発明に係る有機半導体薄膜の製造方法により製造された有機半導体薄膜を用いることにより、エレクトロニクス、フォトニクス、バイオエレクトロニクス等の分野において有益な半導体素子を製造することができる。このような半導体素子の例としては、ダイオード、トランジスタ、薄膜トランジスタ、メモリ、フォトダイオード、フォトトランジスタ、発光ダイオード、発光トランジスタ、センサ等が挙げられる。
【0094】
トランジスタ又は薄膜トランジスタは、ディスプレイに利用することが可能であり、液晶ディスプレイ、分散型液晶ディスプレイ、電気泳動型ディスプレイ、粒子回転型表示素子、エレクトロクロミックディスプレイ、有機発光ディスプレイ、電子ペーパー等の各種表示素子に利用可能である。トランジスタ又は薄膜トランジスタは、これらの表示素子において表示画素のスイッチング用トランジスタ、信号ドライバー回路素子、メモリ回路素子、信号処理回路素子等に利用される。
【実施例】
【0095】
以下の例示を目的とする実施例において、本発明をさらに説明する。
実施例1:液体媒体(イソプロパノール97%以上トリクロロベンゼン1%以下)中ジフェニルベンゾチエノベンゾチオフェンの1重量%の分散体
2,7−ジフェニルベンゾチエノベンゾチオフェン(東京化成工業製)30mgと1,2,4−トリクロロベンゼン30mlの混合物を、窒素雰囲気下で180℃に加熱して、赤紫色の均一溶液を調製した。この溶液を室温のイソプロパノール270mlに滴下してジフェニルベンゾチエノベンゾチオフェン結晶粒子を作製した。結晶粒子を放置して沈降させた後デカンテーションで濃縮、溶媒置換して1wt%の分散体(イソプロパノール97%以上トリクロロベンゼン1%以下)とした。なお、これら工程は窒素雰囲気中(酸素濃度5ppm以下)で行った。得られた結晶粒子は、光散乱により平均粒径2.6μm(長径)であり、別途シリコン基板上にイソプロパノールで希釈した分散体を塗布して作製した基板表面のペンタセン粒子の原子間力顕微鏡により、厚さ約50nmの角板シート状粒子であることがわかった。
また、光学顕微鏡によりシリコン基板上のジフェニルベンゾチエノチオフェン結晶粒子像を観察した。
【0096】
n型ドーパントでドープされたシリコン基板(厚さ200nmの酸化膜を表面に備えていた)を用意し、その表面にソース及びドレイン電極として金電極のパターンを形成した。次いで基板表面にヘキサメチレンジシラザン(和光純薬製)をスピンコート(2,000rpm、20秒)した。このような電極パターンが形成されたシリコン基板表面に、前記分散体を、室温で、塗布(分散液をピペットで基板上に展開)した。その後、液体媒体(分散媒)又は可溶性溶媒を、室温で、蒸発させて平均膜厚200nmの薄膜を作製した。ジフェニルベンゾチエノチオフェン薄膜の表面を走査型電子顕微鏡観察した結果、粒子(平均径約3μm)が層状に積層された構造であることが観察された。
【0097】
得られた薄膜の広角X線回折パターンを測定した結果、(00n)回折ピーク(n=1〜6)が観測され、これ以外の回折ピークは観測されなかった。また面間距離は1.95nmであり分子が基板面に垂直方向に配列した結晶性薄膜であることが判明した。
ソース・ドレイン電極パターン上に形成したジフェニルベンゾチエノチオフェン薄膜トランジスタを、シリコン基板をゲート電極として電界効果トランジスタの動作を測定した結果、飽和領域の電界効果キャリア移動度0.28cm2/v・s(20個のトランジスタの平均値)、on/off比7桁、閾値電圧+8V(20個のトランジスタの平均値)であった。
前記ジフェニルベンゾチエノベンゾチオフェン分散体を前記したものと同一の基板に、大気中で、塗布して薄膜を作製した。このようにして得られた大気中で塗布し形成された薄膜を有する素子のトランジスタ特性を同様に評価したところ、電界効果キャリア移動度0.12cm2/v・s(20個のトランジスタの平均値)、on/off比6桁〜7桁、閾値電圧−5Vであり、大気中で薄膜を形成した素子も良好な性能を示した。
【0098】
実施例2:液体媒体(ジエチレングリコール:イソプロパノール=体積比50%:50%)中ジフェニルベンゾチエノベンゾチオフェンの1重量%の分散体
2,7−ジフェニルベンゾチエノベンゾチオフェン(東京化成工業製20mgと2−メチルナフタレン20mlの混合物を、窒素雰囲気下で180℃に加熱して、赤紫色の均一溶液を調製した。該溶液を室温のジエチレングリコール−イソプロパノール混合液(体積比50%ジエチレングリコール)200mlに滴下してジフェニルベンゾチエノベンゾチオフェン結晶粒子を析出させた。これを静止放置後、沈降した結晶粒子をデカンテーションして濃縮し、同様の操作により溶媒置換を行いジエチレングリコール−イソプロパノール(体積比50%−50%)の分散体(ジフェニルベンゾチエノベンゾチオフェン固形分1重量%)を調製した。
【0099】
実施例1で用いたものと同様の基板上に前記分散体をピペットで、室温で、滴下した。その後、約90℃の温度で減圧乾燥して基板表面にジフェニルベンゾチエノベンゾチオフェン薄膜(平均膜厚300nm)を形成した。
別途シリコン基板上にイソプロパノールで希釈した分散体を塗布して作製した基板表面のジフェニルベンゾチエノベンゾチオフェン粒子の光学顕微鏡観察により平均粒径5〜20μmの板状結晶であり、偏光観察において偏光角回転時に粒子内のコントラスト反転が一斉に起こることから単一粒子は単結晶であることが判明した。また、触針式膜厚計により厚さ約50nmのシート状結晶であることが判明した。
【0100】
この薄膜の広角X線回折パターンを測定した結果、(00n)回折ピーク(n=1〜6)が観測され、これ以外の回折ピークは観測されなかった。また、面間距離は1.95nmであり、ジフェニルベンゾチエノベンゾチオフェン分子が基板面にほぼ垂直方向に配列した結晶性薄膜であることが判明した。
ソース及びドレイン電極パターン上に形成したジフェニルベンゾチエノベンゾチオフェン薄膜トランジスタを、シリコン基板をゲート電極として電界効果トランジスタの動作を測定したところ、飽和領域の電界効果キャリア移動度0.18cm2/v・s(20個のトランジスタの平均値)、on/off比6桁、閾値電圧−7V(20個のトランジスタの平均値)であった。
【0101】
実施例3:液体媒体(テトラデカン:イソプロパノール=体積比50%:50%)中ジフェニルベンゾチエノベンゾチオフェンの5重量%の分散体
2,7−ジフェニルベンゾチエノベンゾチオフェン(東京化成工業製20mgと2−メチルナフタレン20mlの混合物を、窒素雰囲気下で180℃に加熱して、赤紫色の均一溶液を調製した。該溶液を室温のイソプロパノール200mlに滴下して、ジフェニルベンゾチエノベンゾチオフェン結晶粒子を析出させた。これを静止放置後、沈降した結晶粒子をデカンテーションにより濃縮し、同様の操作により溶媒置換を行い、テトラデカン−イソプロパノール(体積比50%−50%)の分散体(2,3−ジプロピルペンタセン固形分5重量%)を調製した。
【0102】
実施例1で用いたものと同様の基板上に前記分散体をピペットで、室温で、滴下した。
その後、常温で10時間放置して、基板表面にジフェニルベンゾチエノベンゾチオフェン薄膜(平均膜厚250nm)を形成した。
ソース及びドレイン電極パターン上に形成したジフェニルベンゾチエノベンゾチオフェン薄膜トランジスタを、シリコン基板をゲート電極として電界効果トランジスタの動作を測定したところ、飽和領域の電界効果キャリア移動度0.19cm2/v・s(20個のトランジスタの平均値)、on/off比6桁、閾値電圧−6V(20個のトランジスタの平均値)であった。
【0103】
実施例4:液体媒体(テトラデカン:シクロヘキサノール=体積比50%:50%)中のジフェニルベンゾチエノベンゾチオフェン3重量%の分散体
実施例2と同様に2,7−ジフェニルベンゾチエノベンゾチオフェン(東京化成工業製20mgと2−メチルナフタレン20mlの混合物を、窒素雰囲気下で180℃に加熱して、赤紫色の均一溶液を調製した。該溶液を室温のイソプロパノール200mlに滴下して、2,3−ジプロピルペンタセン結晶粒子を析出させた。これを静止放置後、沈降した結晶粒子をデカンテーションにより濃縮し、同様の操作により溶媒置換を行い、テトラデカン−シクロヘキサノール(体積比50%−50%)の分散体(ジフェニルベンゾチエノベンゾチオフェン固形分10重量%)を調製した。分散体の粘度を回転式粘度計で測定した結果、2.5ポイズであった。
さらに同様の操作によってジフェニルベンゾチエノベンゾチオフェンの10重量%分散体(分散媒はテトラデカン50%−シクロヘキサノール)を調整した。この分散液の粘度は8ポイズであった。
【0104】
実施例1で用いたものと同様の基板上に前記分散液(3重量%)をスピンコート(回転数1000rpm)して基板表面にジフェニルベンゾチエノベンゾチオフェン薄膜(平均膜厚80nm)を形成した。また、10重量%の分散液を同様にしてスピンコート(2,000rpm)して平均膜厚150nmの薄膜を作製した。
別途シリコン基板上にイソプロパノールで希釈した分散体を塗布して作製した基板表面のジフェニルベンゾチエノベンゾチオフェン粒子は、光学顕微鏡観察により平均粒径約1.5μmの板状結晶であることが、そして触針式膜厚計により厚さ約50nmのシート状結晶であることが判明した。
【0105】
ソース及びドレイン電極パターン上に形成した3重量%の分散液で形成したジフェニルベンゾチエノベンゾチオフェン薄膜トランジスタを、シリコン基板をゲート電極として電界効果トランジスタの動作を測定したところ、飽和領域の電界効果キャリア移動度0.17cm2/v・s(20個のトランジスタの平均値)、on/off比7桁、閾値電圧−5V(20個のトランジスタの平均値)であった。
また、同様にして10重量%の分散液で形成した20個の薄膜トランジスタの電界効果キャリア移動度の平均値は、0.16cm2/V・s、on/off比7桁、閾値電圧平均値は−9Vであった。
【0106】
実施例5:液体媒体(テトラデカン:イソプロパノール=体積比66%:33%)中のジベンゾテトラチアフルバレン5重量%の分散体
ジベンゾテトラチアフルバレン(アルドリッチ社製)20mgをキシレン20mlに混合して100℃に加熱して均一溶液を調製した。該溶液を室温のイソプロパノール200mlに滴下して、ジベンゾテトラチアフルバレン結晶粒子を析出させた。これを静止放置後、沈降したジベンゾテトラチアフルバレン結晶粒子をデカンテーションにより濃縮し、同様の操作により溶媒置換を行い、テトラデカン−イソプロパノール(体積比66%−33%)の分散体(ジベンゾテトラチアフルバレン固形分5重量%)を調製した。
【0107】
実施例1で用いたものと同様の基板上に前記分散体をピペットで、室温で滴下して、基板表面にジベンゾテトラチアフルバレン薄膜(平均膜厚200nm)を形成した。
別途シリコン基板上にイソプロパノールで希釈した分散体を塗布して作製した基板表面のジベンゾテトラチアフルバレン粒子は、光学顕微鏡観察により平均粒径約5μmの角板状結晶であり、偏光観察において偏光角回転時に粒子内のコントラスト反転が一斉に起こることから、単一粒子は単結晶であることが判明した。また、触針式膜厚計により厚さ約45nmの角板状結晶であることが判明した。これにより、得られた膜厚200nmの薄膜は略4層のシート状結晶が積層された構造であることが判明した。
ソース及びドレイン電極パターン上に形成した薄膜トランジスタを、シリコン基板をゲート電極として電界効果トランジスタの動作を測定したところ、飽和領域の電界効果キャリア移動度0.55cm2/v・s(20個のトランジスタの平均値)、on/off比7桁、閾値電圧−5V(20個のトランジスタの平均値)であった。
【0108】
実施例6:液体媒体(テトラデカン:イソプロパノール=テトラデカン体積比20%〜80%)中のジフェニルベンゾチエノベンゾチオフェン2重量%の分散体
実施例2と同様に作製したジフェニルベンゾチエノベンゾチオフェン30mgと2−メチルナフタレン50mlの180℃均一溶液を室温のイソプロパノール270mlに滴下してジフェニルベンゾチエノベンゾチオフェン結晶粒子を作製した。結晶粒子を放置して沈降させた後デカンテーションで濃縮、溶媒置換して2wt%の分散体(テトラデカン20%シクロヘキサノール80%)を調整した。得られた結晶粒子は光散乱により平均粒径0.8μm(長径)であり、別途分散体を塗布して作製した基板表面のジフェニルベンゾチエノベンゾチオフェン粒子の触針式膜厚計により、厚さ約20nmのシート状粒子であることが分かった。
【0109】
同様にして繰り返し作製した結晶をそれぞれ調製して2重量%のジフェニルベンゾチエノベンゾチオフェン分散液(テトラデカン40%、60%、80%のシクロヘキサノール混合液に分散)を作製した。これら4種類の分散液の粘度を回転式粘度計で測定した結果、テトラデカン含量20%、40%、60%、80%の分散液の粘度は、それぞれ、35cps、30cps、23cps、14cpsであった。
【0110】
実施例1と同様のシリコン基板(厚さ200nmの酸化膜、表面にソース及びドレイン電極として金電極のパターンを形成)の表面にヘキサメチレンジシラザン(和光純薬製)を、スピンコート(2,000rpm、20秒)を用い、4種類の分散体を、室温で、ドクターブレード塗布(分散液をピペットで基板上に展開)した。その後、液体媒体(分散媒)又は可溶性溶媒を、室温で、蒸発させて平均膜厚約180〜220nmのジフェニルベンゾチエノベンゾチオフェン薄膜を作製した。
【0111】
それぞれの分散液を用いソース・ドレイン電極パターン上に形成したジフェニルベンゾチエノベンゾチオフェン薄膜トランジスタを、シリコン基板をゲート電極として電界効果トランジスタの動作を測定した結果、飽和領域の電界効果キャリア移動度は、テトラデカン含量20%、40%、60%、80%の分散液に対し、20個のトランジスタの平均値として、それぞれ、0.17cm2/v・s、0.18cm2/V・s、0.20cm2/V・s、0.22cm2/V・sであり、on/off比はいずれも6桁〜7桁、閾値電圧は、それぞれ、−4V、−5V、−5V、−6Vであった。
【0112】
実施例7:液体媒体(シクロヘキサノール:混合溶媒=体積比30%:70%)中のジフェニルベンゾチエノベンゾチオフェン2重量%の分散体
実施例6と同様にしてジフェニルベンゾチエノベンゾチオフェン粉末30mgと2−メチルナフタレン50mlの混合物を、窒素雰囲気下で180℃に加熱して、赤紫色の均一溶液を調製後、室温のイソプロパノール270mlに滴下してジフェニルベンゾチエノベンゾチオフェン結晶粒子を作製した。この操作を繰り返し作製した3組の結晶粒子を沈降させた後、デカンテーションにより濃縮し、遠心分離して得たケーキをイソプロパノールで洗浄した後、減圧乾燥し、その後窒素中で溶媒置換して2wt%の分散体を調製した。ここで分散媒としてシクロヘキサノール30体積%に、それぞれ、ジエチレングリコールジメチルエーテル、メチルイソブチルケトン、酢酸プロピルをランスした分散媒を用いて分散液を調製した。
【0113】
これら分散液の表面張力を自動接触角計により評価した結果、分散媒にシクロヘキサノール30体積%にジエチレングリコールジメチルエーテル、メチルイソブチルケトン、酢酸プロピルを、それぞれ、混合した分散液の表面張力は、それぞれ、31mN/m、28mN/m、30mN/mであった。
なお、得られたジフェニルベンゾチエノベンゾチオフェン結晶粒子は光散乱により平均粒径2μm(長径)であり、別途分散体を塗布して作製した基板表面のジフェニルベンゾチエノベンゾチオフェン粒子の触針式膜厚計により、厚さ約30nmのシート状粒子であることが分かった。
【0114】
実施例1と同様に前記3種類の分散体を、室温で、ドクターブレード塗布(分散液をピペットで基板上に展開)した。その後、液体媒体(分散媒)又は可溶性溶媒を、室温で、蒸発させて平均膜厚約150nmのジフェニルベンゾチエノベンゾチオフェン薄膜を作製した。
前記各分散液を用いてソース・ドレイン電極パターン上に形成したジフェニルベンゾチエノベンゾチオフェン薄膜トランジスタを、シリコン基板をゲート電極として電界効果トランジスタの動作を測定した結果、飽和領域の電界効果キャリア移動度は、前記各分散液に対し、20個のトランジスタの平均値として、それぞれ、0.15cm2/V・s(シクロヘキサノール/ジエチレングリコール分散液)、0.19cm2/V・s(シクロヘキサノール/メチルイソブチルケトン分散液)、0.23cm2/V・s(シクロヘキサノール/酢酸プロピル分散液)、閾値電圧は、それぞれ、−3V、−5V、−4Vであった。このように分散媒の組成を変化させて調製した分散体を用いても良好なトランジスタ性能を発揮することが分かった。
【0115】
実施例8:液体媒体(シクロヘキサノール:混合溶媒=体積比30%:70%)への界面活性剤添加中のジフェニルベンゾチエノベンゾチオフェン2重量%の分散体
実施例7で調製した各分散液に、フッ素系界面活性剤(エフトップ351:エチレングリコール/プロピレングリコールアクリレート−パーフルオロアルキルアクリレート共重合体)を、各分散液の重量の0.05%で混合した分散液を調製した。
これらフッ素系界面活性剤を含有する分散液の表面張力を自動接触角計により評価した結果、分散媒にシクロヘキサノール30体積%にジエチレングリコールジメチルエーテル、メチルイソブチルケトン、酢酸プロピルをそれぞれ混合した分散液の表面張力は、それぞれ、22mN/m、18mN/m、19mN/mであった。
【0116】
実施例1と同様に表面に熱酸化膜が形成されたシリコン基板の表面にソース及びドレイン電極として金電極のパターンを形成した後、撥水性表面処理剤(オプツールDSX)をスピンコートして、表面にフッ素系極薄膜を形成した。被覆後の基板の水接触角より表面エネルギーは15mN/mである。このような電極パターンが形成されフッ素系薄膜が形成されたシリコン基板表面に、前記3種類の分散体を、室温で、塗布(分散液をピペットで基板上に展開)して平均膜厚約約200nmのジフェニルベンゾチエノベンゾチオフェン薄膜を作製した。
フッ素系界面活性剤を添加した分散液の基板表面濡れ性は良好であり、均一薄膜が形成されていた。一方、比較として実施例7で調整した分散液(界面活性剤無添加)を該基板に塗布したが、基板表面で分散液がはじかれ、分散液が流動し均一な薄膜は得られなかった。
【0117】
界面活性剤を添加した各分散液を用いてソース・ドレイン電極パターン上に形成したペンタセン薄膜トランジスタを、シリコン基板をゲート電極として電界効果トランジスタの動作を測定した結果、飽和領域の電界効果キャリア移動度は、各分散液に対し、20個のトランジスタの平均値としてそれぞれ0.25cm2/V・s(シクロヘキサノール/ジエチレングリコール分散液)、0.32cm2/V・s(シクロヘキサノール/メチルイソブチルケトン分散液)、0.38cm2/V・s(シクロヘキサノール/酢酸プロピル分散液)、閾値電圧は、それぞれ、−5V、−7V、−6Vであった。
【0118】
実施例9:ポリエステルフィルム上へのジフェニルベンゾチエノベンゾチオフェン分散体を塗布した素子の形成
ポリエステルフィルム(帝人製、膜厚75μm)の表面に無電解メッキの触媒溶液(塩化パラジウム1%、塩酸10%、イソプロピルアルコール30%の水溶液)をディスペンサにより幅100μm、塗布間隙100μmのパターン塗布した。このフィルムを無電界メッキ浴(塩化ニッケル0.1モル/リットル、次亜硫酸ナトリウム0.1モル/リットル、酒石酸0.1モル/リットルを60℃に加熱)に浸漬してフィルム表面にニッケル電極パターンを形成した。
【0119】
このフィルムの表面に樹脂溶液(サイトップ、旭硝子製)をスピンコートして膜厚200nmの樹脂層を均一に形成した。この表面をオゾン照射装置で30秒間処理した後、ニッケル電極の間隙の上部分に前記と同様にして無電解メッキ触媒をパターン塗布、無電解メッキ浴に浸漬してサイトップ樹脂層の表面に電極パターン(間隙100μm)を形成した。
この表面のニッケル電極部の間隙を覆うように実施例1で作製したジフェニルベンゾチエノベンゾチオフェン分散体を滴下塗布して薄膜トランジスタ作製した。
【0120】
実施例1と同様にしてトランジスタ特性を評価した結果、電界効果移動度0.25cm2/Vs、on/off比7桁、閾値電圧−5Vであり良好に動作することを確認した。
さらに、測定後のフィルムの表面にさらに樹脂溶液(サイトップ)をスピンコートして膜厚200nmの保護層を形成した。保護層形成後プローバー探針で電極にコンタクトをとり素子性能を評価した結果、電界効果移動度0.20cm2/Vs、on/off比7桁、閾値電圧−5Vであった。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明に係る有機半導体薄膜の製造方法、及び当該方法により製造された薄膜を有する有機半導体素子は、エレクトロニクス、フォトニクス、バイオエレクトロニクス等において利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄原子を含有する縮合多環芳香族化合物及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の結晶粒子を含む有機半導体材料を液状媒体に分散してなる有機半導体薄膜用分散体。
【請求項2】
前記硫黄原子を含有する縮合多環芳香族化合物が、ベンゾチエノベンゾチオフェン、ジナフトチエノチオフェン、ナフトチエノベンゾチオフェン、ジアントラセノチエノチオフェン、アントラセノチエノベンゾチオフェン、アントラセノナフトチオフェン、及びこれらの誘導体からなる群から選ばれる、請求項1に記載の有機半導体薄膜用分散体。
【請求項3】
前記硫黄原子を含有する縮合多環芳香族化合物の誘導体が、ベンゾチエノベンゾチオフェン、ジナフトチエノチオフェン、ナフトチエノベンゾチオフェン、ジアントラセノチエノチオフェン、アントラセノチエノベンゾチオフェン、及びアントラセノナフトチオフェンからなる群から選ばれる化合物のアルキル置換体、フェニル置換体又はナフチル置換体である、請求項2に記載の有機半導体薄膜用分散体。
【請求項4】
前記硫黄原子を含有する縮合多環芳香族化合物が、テトラチアフルバレン、ビスエチレンジチオテトラアフルバレン、ジベンゾテトラチアフルバレン、ジナフトテトラチアフルバレン、ビスベンゾエチレンジチオテトラチアフルバレン、ビスナフタレノエチレンジチオテトラチアフルバレン、及びこれらの誘導体からなる群から選択ばれる、請求項1に記載の有機半導体薄膜用分散体。
【請求項5】
前記硫黄原子を含有する縮合多環芳香族化合物及びその誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の結晶粒子が、平板シート状の形態を有し、かつ、該平板シート状形態の平均長径が5nm以上30μm以下である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の有機半導体薄膜用分散体。
【請求項6】
前記有機半導体材料が液相成長法で製造されたものである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の有機半導体薄膜用分散体。
【請求項7】
前記有機半導体材料が気相成長法で製造されたものである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の有機半導体薄膜用分散体。
【請求項8】
前記有機半導体材料の表面が表面処理剤で被覆されている、請求項1〜7のいずれか一項に記載の有機半導体薄膜用分散体。
【請求項9】
前記有機半導体材料を0.1重量%以上8重量%未満含有する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の有機半導体薄膜用分散体。
【請求項10】
前記有機半導体材料を0.1重量%以上8重量%未満で、該有機半導体材料を溶解可能な可溶性溶媒を10重量%以下で、そしてアルコール類、エーテル類、ケトン類、エステル類及び脂肪族炭化水素からなる群から選ばれる非可溶性液体媒体を残部として、含む、請求項9に記載の有機半導体薄膜用分散体。
【請求項11】
該非可溶性液体媒体が、アルコール類又は脂肪族炭化水素である、請求項10に記載の有機半導体薄膜用分散体。
【請求項12】
前記有機半導体薄膜用分散体の粘度が、0.5センチポイズ以上10ポイズ以下である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の有機半導体用分散体。
【請求項13】
前記有機半導体薄膜用分散体の表面張力が、10mN/m以上45mN/m以下である、請求項1〜12のいずれか一項に記載の有機半導体薄膜用分散体。
【請求項14】
以下のステップ:
請求項1〜13のいずれか一項に記載の有機半導体薄膜用分散体を基材上に配置させ、そして
前記液状媒体を除去する、
を含む有機半導体薄膜の製造方法。
【請求項15】
前記液状媒体を除去するステップにおいて、100℃以下の基材温度で該液状媒体を蒸発させる、請求項14に記載の有機半導体薄膜の製造方法。
【請求項16】
請求項14又は15に記載の有機半導体薄膜の製造方法により製造された、硫黄原子を含有する縮合多環芳香族化合物及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の結晶粒子を含む有機半導体材料が基材上の少なくとも一部に積層されてなる有機半導体薄膜。
【請求項17】
前記基材が、ガラス、樹脂フィルム、紙又は不織布のいずれかである、請求項16に記載の有機半導体薄膜。
【請求項18】
前記樹脂フィルムが、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、シクロオレフィン系ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、及びシリコーン樹脂からなる群から選ばれる、請求項17に記載の有機半導体薄膜。
【請求項19】
前記樹脂フィルムが、ポリエステルである、請求項18に記載の有機半導体薄膜。
【請求項20】
請求項16〜19のいずれか一項に記載の有機半導体薄膜の一部に電極が接合されてなる有機半導体素子。
【請求項21】
前記有機半導体薄膜の少なくとも一部が絶縁体を介して電極に接合される、請求項20に記載の有機半導体素子。
【請求項22】
前記電極が、無電解メッキ法によってパターニングされている、請求項20又は21に記載の有機半導体素子。
【請求項23】
前記電極が、金、銀、銅、ニッケル、コバルト、鉄、すず、及び亜鉛からなる群から選ばれる、請求項20〜22のいずれか一項に記載の有機半導体素子。
【請求項24】
以下のステップ:
メッキ剤に作用して無電解メッキを生じさせる触媒を、印刷法、局所吸着法、及びパターン化法からなる群から選ばれる方法によって、基材の所定部分に配し、
メッキ剤を該所定部分に配して、該所定部分に無電解メッキを施して電極を設ける、
を含む、請求項20〜23のいずれか一項に記載の有機半導体素子の製造方法。
【請求項25】
前記有機半導体素子の表面の少なくとも一部に絶縁性保護層が形成されている、請求項20〜23のいずれか一項に記載の有機半導体素子。
【請求項26】
前記絶縁性保護層を形成する絶縁体の比誘電率が3以下の低誘電率材料である、請求項25に記載の有機半導体素子。
【請求項27】
請求項20〜23、25、及び26のいずれか一項に記載の有機半導体素子が複数個以上形成された有機半導体素子アレイ。
【請求項28】
請求項20〜23、25、及び26のいずれか一項に記載の有機半導体素子又は請求項27に記載の有機半導体素子アレイのいずれか一つからなる薄膜トランジスタ。
【請求項29】
請求項28に記載の薄膜トランジスタの少なくとも一部に信号検出部が配置されたセンサー。
【請求項30】
請求項28に記載の薄膜トランジスタの少なくとも一部に表示機能部が配置されたディスプレイ。
【請求項31】
請求項20〜23、25、及び26のいずれか一項に記載の有機半導体素子又は請求項27に記載の有機半導体素子アレイのいずれか一つからなる光電変換素子。
【請求項32】
フレキシブル基材上に形成された請求項20〜23、25、及び26のいずれか一項に記載の有機半導体素子又は請求項27に記載の有機半導体素子アレイ。

【図1】
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【公開番号】特開2011−3852(P2011−3852A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−147891(P2009−147891)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】