説明

硬化性エポキシ樹脂組成物及びこれから製造された複合材

強化材とエポキシ樹脂組成物とを含んだ硬化性エポキシ樹脂複合材組成物、及び、そのような組成物から複合材を調製する方法;ここにおいて少なくとも1種のアルカノールアミンと前記少なくとも1種のスチレン化フェノールの組合せは、少なくとも1種のエポキシ樹脂と少なくとも1種のアルカノールアミン硬化剤との反応速度を上昇させるとともに、前記エポキシ樹脂組成物の硬化による複合材の熱的及び機械的特性を維持するのに十分な量で、前記エポキシ樹脂組成物中に存在する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化可能な又は硬化性のエポキシ樹脂組成物及びこのエポキシ樹脂組成物から製造される複合材物品に関する。さらに具体的には、本発明は、熱硬化可能なエポキシ樹脂組成物を硬化させることにより複合材を調製するプロセスに関するものであって、ここにおいて前記組成物は、少なくとも1種のエポキシ樹脂と、少なくとも1種のアルカノールアミン硬化剤と、少なくとも1種のスチレン化フェノールとを含み、そして、前記スチレン化フェノールは、前記少なくとも1種のエポキシ樹脂と前記少なくとも1種のアルカノールアミン硬化剤との反応の速度を向上させるように選択される。
【背景技術】
【0002】
エポキシ熱硬化性樹脂は、最も広く用いられているエンジニアリング樹脂のひとつであり、その接着剤、被覆剤及び複合材分野での用途についてよく知られている。エポキシ樹脂は、ガラス状の網状組織を形成し、腐食と溶剤に対する優れた抵抗性、良好な接着性、適度に高いガラス転移温度、そして適切な電気的特性を示す。
【0003】
熱硬化可能な又は硬化性のエポキシ樹脂の配合物には、エポキシ樹脂を架橋して複合材や積層体などの硬化生成物を形成するために、アミン硬化剤などの硬化剤を用いることが一般的である。複合材の用途に用いられるエポキシ樹脂配合物の反応性は、通常、促進剤の添加によって調整される。エポキシ/アミン系についての既知の標準的な促進剤には、例えば、ビスフェノール−A、ノニルフェノール(NP)、NPとアミノエチルピペラジン(AEP)の組合せ、及びベンジルアルコールが含まれる。
【0004】
これらの既知の促進剤はそれぞれ、硬化複合材物品の調製のためのエポキシ樹脂配合物に用いられる場合には、一つ又はそれ以上の問題を生じる。例えば、ビスフェノール−Aは、非常に効率的で比較的安価であるという利点がある一方で、配合系において容易に結晶化してしまうという難点があり、このために、ビスフェノール−Aの使用は、取扱い及び処理の点で問題を生じる。NPは、非常に否定的な毒性プロフィールを示すという難点がある。NPとAEPの組合せは、エポキシ化合物と、異常に速く高度に発熱性の反応を生じる。そして、ベンジルアルコールは揮発性であり、かつ、多くの用途で重要な意味を持つガラス転移温度のような、エポキシ樹脂の硬化時の特性を大きく低下させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、エポシキ樹脂配合物のための容易に入手可能で手ごろな価格の促進剤成分であって、この促進剤が、従来の促進剤の問題を有さず、かつ元の硬化剤を含んだエポキシ樹脂配合物の全体的な物理的特性を落とさずに従来の促進剤の系と同等又はそれ以上の促進効果を有すものであり、そして、このエポキシ樹脂配合物が複合材の製造に使用されるものであるような、促進剤成分を提供することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、複合材の用途に使用されるエポキシ/アミン配合物を促進するために、スチレン化フェノールを採用することにより、エポキシ/アミン配合物に従来の促進剤を用いた場合に直面する課題の解決策を提供するものである。
【0007】
本発明のひとつの実施形態は、
(I)強化材;並びに
(II)次の(a)〜(c)を含むエポキシ樹脂組成物;
(a)1分子当たり平均で1を超えるグリシジル基を有する、少なくとも1種のエポキシ樹脂;
(b)少なくとも1種のアルカノールアミン硬化剤;及び
(c)少なくとも1種のスチレン化フェノール;
を含む、複合材造形品を調製するための硬化性エポキシ樹脂複合材組成物であって、前記少なくとも1種のアルカノールアミンと前記少なくとも1種のスチレン化フェノールの組合せが、目標粘度(target viscosity)に至るまでの時間又はゲル化時間を、スチレン化フェノールとアルカノールアミンとの組合せを含まない元の配合物に対して約5パーセント(%)以上(≧)の率で減少させるとともに、ガラス転移温度(Tg)をTg≧約70℃に維持するのに十分な量で、前記エポキシ樹脂組成物中に存在するものである、複合材成形物品を調製するための硬化性エポキシ樹脂複合材配合物、を対象にするものである。
【0008】
本明細書で開示される別の実施形態は、上記の硬化性エポキシ樹脂複合材組成物を調製する方法に関する。
【0009】
本明細書で開示されるなお別の実施形態は、上記の硬化性エポキシ樹脂複合材組成物を用いて硬化複合材生成物を製造する方法に関する。
【0010】
本明細書で開示されるさらに別の実施形態は、上記の方法によって製造される硬化生成物に関する。この硬化生成物は複合材であっても接着剤であってもよい。
【0011】
本発明のなお別の実施形態は、構造用複合材の用途に有用な、強化材を含有する複合材配合物を対象とする。
【0012】
本発明の他の実施形態及び利点は、以下の説明及び特許請求の範囲から明らかとなるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、その最も広い範囲において、複合材物品を製造するために、硬化性エポキシ樹脂複合材組成物を利用するものであり、ここにおいて、前記複合材組成物は、(I)強化材、並びに、(II)次の(a)〜(c)を含むエポキシ樹脂組成物;(a)1分子当たり平均で1を超えるグリシジル基を有する、少なくとも1種又はそれ以上のエポキシ樹脂;(b)少なくとも1種のアルカノールアミン硬化剤;及び(c)少なくとも1種のスチレン化フェノール;を含むものであり、ここにおいて、前記少なくとも1種のアルカノールアミンと前記少なくとも1種のスチレン化フェノールの組合せは、目標粘度(target viscosity)に至るまでの時間又はゲル化時間を、前記少なくとも1種のエポキシ樹脂、すなわち成分(a)、と前記少なくとも1種のアルカノールアミン硬化剤、すなわち成分(b)、との組合せを含まない、元の配合物に対する数値で、約5パーセント(%)以上(≧)の率で減少させるとともに、ガラス転移温度(Tg)をTg≧約70℃に維持するのに十分な量で、前記エポキシ樹脂組成物中に存在するものである。
【0014】
本発明において有用な強化材、すなわち成分(I)は、当技術分野の複合材に典型的に用いられる強化材であればいずれでもよい。本発明の一つの実施形態においては、例えば、強化材として繊維を含有させて構造複合材を調製することができる。「強化繊維」としては、例えば、炭素繊維、グラファイト繊維、アラミド繊維及びガラス繊維の1種又は2種以上が含まれ得る。他の実施形態では、強化材としての繊維は、例えば、ホウ素;石英;酸化アルミニウム;Eガラス、Sガラス、S−2GLASS(登録商標)若しくはCガラスなどのガラス;及び、 炭化ケイ素若しくはチタンを含む炭化ケイ素繊維;もまた含まれ得る。 市販の繊維もまた、例えば、(登録商標)などの有機繊維;3M社のNEXTEL(登録商標)繊維のような酸化アルミニウム含有繊維;日本カーボン社のNICALON(登録商標)のような炭化ケイ素繊維;及び宇部興産社のTYRRANO(登録商標)のようなチタン含有炭化ケイ素繊維、が含まれ得る。
【0015】
繊維にはサイズ剤を施しても施さなくてもよい。繊維に施すサイズ剤の実際のタイプ及び量は、当業者には周知である。
【0016】
繊維強化には種々の形態があり得、連続的な場合も不連続な場合も、又はそれらの組合せの場合もあり得る。連続的なストランドロービング(strand roving)は、 一方向又は斜交(angle-ply)複合材を作り上げるために用いることができる。連続的なストランドロービングはまた、平織、朱子織、もじり織、クローフット織(crowfoot)、三次元織などの、種々の織り方を用いて織物や布にすることができる。連続的な繊維強化の他の形態の例としては、組みひも(braid)、縫合布、並びに、一方向性のテープ及び布などがあげられる。
【0017】
本発明に適した不連続繊維には、ミルドファイバー、ウィスカー、チョップドファイバーマットが含まれ得る。強化材が不連続な場合は、ある実施形態では複合材の約20〜約60容積パーセントで、別の実施形態では複合材の約20〜約30容積パーセントで、加えることができる。適切な不連続強化材の例には、ガラス繊維やケイ酸カルシウム繊維などのミルドファイバー又はチョップドファイバーが含まれる。適切な不連続強化材の一つの例は、ケイ酸カルシウムのミルドファイバー (珪灰石;NYAD G SPECIAL(登録商標))である。
【0018】
同じ複合材内で、連続繊維と不連続繊維の組合せを使用することができる。例えば、織物ロービングマットは、織物ロービングとチョップドストランドマットの組合せであり、そのような織物ロービングマットは本明細書で開示される実施形態での使用に適している。
【0019】
タイプの異なる繊維を含有する混成物もまた、本発明で使用することができる。例えば、異なるタイプの強化材の層を用いることができる。例えば、飛行機の室内では、強化材は繊維とコアの組合せを含んでもよい。コアには、例えばNOMEXハニカムコア、ポリウレタンから作られた発泡体コア、又はポリ塩化ビニルから作られた発泡体コアが含まれ得る。もう一つの混成物強化材の例は、ガラス繊維、炭素繊維、及びアラミド繊維の組合せである。
【0020】
複合材中の強化材の量は、強化材のタイプと形態及び想定される最終製品に応じて変わり得る。いくつかの実施形態では、本発明の硬化性エポキシ樹脂組成物は、例えば、強化材と複合材マトリックスの合計重量に対して約5重量パーセント(重量%)〜約80重量%の強化材を含むことができる。他の実施形態では、硬化性組成物は、例えば、約35重量%〜約80重量%の強化材を、含むことができる。そしてさらに別の実施形態では、硬化性組成物は、約55重量%〜約80重量%の強化材を含むことができる。
【0021】
強化材が繊維である場合、いくつかの実施形態では、繊維は複合材中に約20容積パーセント〜約70容積パーセントで存在し得る;そして他の実施形態では複合材の約50容積パーセント〜約65容積パーセントである。本発明のさらに別の実施形態では、本明細書で開示されるエポキシ樹脂組成物は複合材に有用であり得るものであり、ここにおいて前記複合材は、上述した炭素、グラファイト、ガラス、ホウ素等の高強度フィラメント又は繊維を、複合材の総容積を基準にして、いくつかの実施形態では約30%〜約70%、他の実施形態では約40%〜約70%含むことができる。
【0022】
エポキシ樹脂組成物である成分(II)は、(a)1分子当たり平均で1を超えるグリシジル基を有する少なくとも1種のエポキシ樹脂;(b)少なくとも1種のアルカノールアミン硬化剤;及び(c)少なくとも1種のスチレン化フェノール;を含む。
【0023】
本発明の成分(II)であるエポキシ樹脂組成物は、少なくとも1種のエポキシ樹脂、成分(a)、を含む。エポキシ樹脂は、近接する複数のエポキシ基を少なくとも1組有する化合物である。エポキシ樹脂は、飽和又は不飽和、脂肪族、脂環式、芳香族又は複素環式であってよく、置換されていてもよい。エポキシ樹脂はまた、モノマーでもポリマーでもよい。本発明に有用なエポキシ樹脂の詳細な一覧は、Lee,H.及びNeville,K,「Handbook of Epoxy Resins」、McGraw−Hill Book Company、ニューヨーク、1967、第2章第257−307頁、から得ることができ、ここで参照することにより本明細書中に組み込まれる。
【0024】
本明細書で開示される実施形態において本発明の成分(a)として使用されるエポキシ樹脂は様々であって、従来型及び市販のエポキシ樹脂を含み、単独で又は2以上を組み合わせて使用することができる。本明細書で開示される組成物のためのエポシキ樹脂を選ぶに際しては、最終製品の特性だけではなく、樹脂組成物の加工に影響し得る他の特性も考慮すべきである。
【0025】
熟練労働者に知られた特に適切なエポキシ樹脂は、多官能価アルコール、フェノール、脂環式カルボン酸、芳香族アミン、又はアミノフェノールと、エピクロロヒドリンとの反応生成物に基くものである。2、3の制限的でない実施形態では、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、及びパラ−アミノフェノールのトリグリシジルエーテルが含まれる。熟練労働者に知られた他の適切なエポキシ樹脂には、エピクロロヒドリンとo−クレゾール及びフェノールノボラックそれぞれとの反応生成物が含まれる。2以上のエポキシ樹脂の混合物を用いることも可能である。
【0026】
本発明において硬化性組成物の調製に有用な成分(a)のエポキシ樹脂は、市販の製品から選択してもよい。例えば、ザ・ダウ・ケミカル・カンパニーから入手可能な、D.E.R.331、D.E.R.332、D.E.R.334、D.E.R.580、D.E.N.431、D.E.N.438、D.E.R.736、又はD.E.R.732を使用することができる。本発明の一例として、エポキシ樹脂成分(a)は、液状のエポキシ樹脂、エポキシ当量が175−185、粘度が9.5Pa−s、密度が1.16gms/ccであるD.E.R.(登録商標)383(DGEBPA)、であってよい。エポキシ樹脂成分として使用できる他の市販のエポキシ樹脂としては、D.E.R.330、D.E.R.354、又はD.E.R.332があり得る。
【0027】
成分(a)として有用な他の適切なエポシキ樹脂は、例えば、米国特許第3018262号;第7163973号;第6887574号;第6632893号;第6242083号;第7037958号;第6572971号;第6153719号;及び第5405688号;PCT公開WO2006/052727;米国特許出願公開第20060293172号及び第20050171237号に開示されており、これらはいずれもここで参照することにより本明細書中に組み込まれる。
【0028】
一般に、エポキシ樹脂組成物は、約15重量%〜約90重量%のエポキシ樹脂を含むことができる。他の実施形態では、エポキシ樹脂組成物は、約25重量%〜約90重量%のエポキシ樹脂を含むことができる;他の実施形態では約35重量%〜約90重量%のエポキシ樹脂;他の実施形態では約45重量%〜約90重量%のエポキシ樹脂;そしてさらに別の実施形態では約55重量%〜約90重量%のエポキシ樹脂である。
【0029】
本発明の成分(II)のエポキシ樹脂組成物は、少なくとも1種の硬化剤、成分(b)、をも含む。本発明で有用な硬化剤(ハードナー又は架橋剤ともいう)は、エポキシ樹脂(a)の硬化又は架橋に有用な任意のアルカノールアミンであり得る。本発明において、硬化剤として有用なアルカノールアミンは、化合物内に少なくとも1つの水酸基と少なくとも1つのアミノ基を含んでいる。アルカノールアミン硬化剤の具体例には、プロパノールアミン(例えば、l−アミノ−2−プロパノール)、エタノールアミン(例えば、2−アミノ−l−エタノール)、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、アミノエチルエタノールアミン(AEEA)、及びこれらの混合物が含まれる。
【0030】
少なくとも1種のアルカノールアミンは、スチレン化フェノールと組み合わされて、エポキシ樹脂組成物中に、目標粘度(target viscosity)に至るまでの時間又はゲル化時間を、スチレン化フェノールとアルカノールアミンとの組合せを含まない元の配合物に対して、≧約5%の率で減少させるとともに、Tg≧約70℃に維持するのに十分な量で、前記エポキシ樹脂組成物中に存在する。得られるエポキシ樹脂組成物は、優れた特性バランスを示し、そのなかには低粘度であることも含まれ、例えば室温(約25℃)で約1000センチポアズ(cp)未満、そして好適には約500cps未満である。低粘度であると繊維の湿潤に役立つ。組成物の硬化により得られる複合材もまた、例えば熱的及び機械的特性などの、優れた特性バランスを保持している。
【0031】
いくつかの実施形態において、本発明のエポキシ樹脂組成物はアルカノールアミン硬化剤を約5重量%〜約25重量%含むことができる。他の実施形態では、エポキシ樹脂組成物は約 5重量%〜約20重量%のアルカノールアミン硬化剤を含むことができる。さらに他の実施形態では、エポキシ樹脂組成物は約5重量%〜約16重量%のアルカノールアミン硬化剤を含むことができる。アルカノールアミン硬化剤の量が5重量%よりも少ないと、促進効果は急速に減少する;そしてアルカノールアミン硬化剤の量が25重量%を超えると、さらなる促進の利益はみられない。
【0032】
本発明の成分(II)のエポキシ樹脂組成物は、少なくとも1種のスチレン化フェノール、成分(c)、をも含む。本発明で用いられる適切なスチレン化フェノール促進剤成分は、配合をする者が配合を単純化しこれまでに知られている配合よりもはるかに取扱いが容易な配合物を提供することを、有利に支援する。本発明でアルカノールアミンと組み合わせて使用される適切なスチレン化フェノールは、目標粘度(target viscosity)に至るまでの時間又はゲル化時間を、スチレン化フェノールとアルカノールアミンとの組合せを含まない元の配合物に対して、≧約5パーセントの率)で減少させることに役立つ。アルカノールアミンと組み合わされる、適切なスチレン化フェノール促進剤成分は、Tg≧約70℃に維持するのにも有利に役立つ。
【0033】
本発明で有用なスチレン化フェノールには、例えば、W0/2006/005723号、特開昭62−16132号及び特開2008−88348号に記載された具体的なスチレン化フェノール材料を含むことができ、それらはすべてここで参照することにより本明細書中に組み込まれる。本発明で使用される好適なスチレン化フェノールには、例えば、SI Group社から入手可能なモノ−スチリルフェノール(MSP−75)を含むことができる。
【0034】
これら先行技術文献のいずれも、スチレン化フェノールをアルカノールアミンと組み合わせて促進剤として用いるプロセスを開示しておらず、そして、これら先行技術文献のいずれも、スチレン化フェノールとアルカノールアミンとの組合せを用いて複合材生成物を製造するプロセスを開示していない。複合材生産のための候補としてのスチレン化フェノールは、エポキシ樹脂配合物中で反応性の増大を示すスチレン化フェノールであればいずれでもよい。先行技術のいずれにおいても、スチレン化フェノールがアルカノールアミンと組み合わされて複合材を調製するための硬化性エポキシ樹脂/アミン硬化剤配合物において用いられる既知の促進剤の適切な代替物となり得ること、及び、目標粘度に至るまでの時間又はゲル化時間を、スチレン化フェノールとアルカノールアミンを含まない元の配合物に対して、≧約5%の率で減少させることは、開示もまた認識もされていない。
【0035】
他の液状スチレン化C1-4−アルキル置換フェノールであって、本発明のエポキシ樹脂配合物の促進にも用いることができるものには、例えば、モノスチレン化p−クレゾール若しくはo−クレゾールが含まれる。本発明において有用な典型的なアルキル化フェノール、成分(c)には、例えば、クレゾール、p−tert−ブチルフェノール、p−オクチルフェノール、p−ノニルフェノール、ドデシルフェノール、オクタドデシルフェノール、スチレン化フェノール、デシルフェノール、ウンデシルフェノール、テトラデシルフェノール、ヘキサデシルフェノール、これらの化合物の異性体と混合物、及びナフトール類と呼ばれる縮合環フェノール類の対応物などが含まれる。これらのフェノールは、モノ−、ジ−及びトリ−アルキル化置換フェノールであってよい。好適には、本発明で有用なアルキル化フェノールは、モノアルキル化フェノールである。最も好適には、アルキル化フェノールは、ノニルフェノール(SI Group社から商業的に入手可能)、及び、MSP−75(SI Group社から商業的に入手可能)などのモノスチレン化フェノール、両者とも室温で液状、であり得る。
【0036】
アルカノールアミンと組み合わせる少なくとも1種のスチレン化フェノールは、目標粘度に至るまでの時間又はゲル化時間を、スチレン化フェノールとアルカノールアミンとの組合せを含まない元の配合物に対して、≧約5%の率で減少させるとともに、Tg≧約70℃に維持するのに役立つような十分な量で、エポキシ樹脂組成物中に存在するものである。複合体の硬化により得られる複合材もまた、例えば熱的及び機械的特性などの特性の、優れたバランスを保持している。
【0037】
例えば、いくつかの実施形態において、本発明のエポキシ樹脂組成物は約1重量%〜約65重量%のスチレン化フェノールを含むことができる。他の実施形態では、エポキシ樹脂組成物中に存在するスチレン化フェノールは約1重量%〜約50重量%である。さらに他の実施形態では、エポキシ樹脂組成物中に存在するスチレン化フェノールは約1重量%〜約30重量%である。組成物中のスチレン化フェノールの濃度は、組成物の最終用途によるであろう。スチレン化フェノールの量は、構造用複合材に望まれる機械的特性とバランスがとれるようにしなければならない。
【0038】
いくつかの実施形態では、所望の効果を得るために、スチレン化フェノールをエポキシ樹脂組成物にスチレン化フェノール約1重量%〜約40重量%の濃度で加えることができる。そしてさらに別の実施形態では、スチレン化フェノール約1重量%〜約15重量%にできる。スチレン化フェノールの量が1重量%よりも少ないと、エポキシ樹脂とアルカノールアミン硬化剤との反応を促進する効果が大きく減少する。そしてスチレン化フェノールの量が65重量%を超えると、構造用複合材の機械的特性が、スチレン化フェノールとアルカノールアミンとの組合せを含まない元の配合物よりも低下する可能性がある。
【0039】
本発明のスチレン化フェノールとアルカノールアミンの組合せは、これらの化合物の両方を含むエポキシ樹脂配合物の反応性を、これらの化合物の両方は含まない配合物よりも促進するために用いられる。相対的反応性は種々の方法で測定することができる。例えば、「樹脂、ハードナー及び促進剤、並びに触媒添加樹脂」と題するDIN16945の方法Bを、樹脂配合物の試料の相対的反応性を得るために用いることができる。DIN16945の方法Bによる方法は、自由流動性の反応混合物が試験温度でゲル化点(樹脂が流動性でなくなった時点)に達するまでにかかる時間を測定するステップを含む。後出の実施例で示されるように、硬化がより速い配合物は、硬化がより遅い対照配合物と比較して、より短い(すなわち、≧5%)時間でゲル化点に達する。
【0040】
樹脂配合物の試料の相対的反応性を測定する別の方法は、樹脂配合物の経時的な粘度増加を測定することである。例えば、「透明及び不透明液体の動粘度の標準試験法(並びに絶対粘度の計算)」と題するASTM D−445を、樹脂配合物の試料の相対的反応性を得るために用いることができる。後出の実施例で示されるように、硬化がより速い配合物は、硬化がより遅い対照配合物と比較して、目標粘度に至るまでの時間がより短いであろう。
【0041】
本発明の実施形態の一つの例として、スチレン化フェノールを、アミノエチルエタノールアミン(AEEA)とエポキシ化合物との反応速度を促進するために用いることができる。AEPとNPの組合せと同様に、スチレン化フェノールとAEEAの組合せによる促進効果は、これら2つの化合物に特有のものである。他のタイプのアミンと一緒に同様の効果を達成するために広く使用されるNPのような他のアルキルフェノールは、AEEAについては有効ではない。例えば、AEEAと、スチレン化フェノールと、トリス(2,4,4−ジメチルアミノメチル)フェノール(DMP30)のような3級アミンとの組合せは、AEPとNPとの場合に近い反応速度と発熱特性を生じる。
【0042】
本発明のいくつかの実施形態において、特にエポキシ樹脂組成物の反応性のさらなる増大が望まれる場合には、本発明の組成物においてその反応性を増大させるために、追加的な触媒又は促進剤を用いることができる。例えば、本発明の成分(II)のエポキシ樹脂組成物は、追加的な任意成分として、エポキシ樹脂と硬化剤の反応を触媒する少なくとも1種の触媒を含むことができる。触媒はさらに、エポキシ成分(a)と硬化剤成分(b)との反応におけるスチレン化フェノールをも助けるために使用することができる。触媒は単一の成分であっても2以上の異なる触媒の組合せであってもよい。
【0043】
例えば、触媒/促進剤には次のものが含まれる。ドイツ特許番号DE1770045に開示されるp−トルエンスルホン酸メチルのようなアレーンスルホネート、米国特許第3740373号及び第7414097号に開示されるようなサリチル酸、米国特許第3785997号及び第4894431号に開示されるようなメタンスルホン酸、米国特許第4683281号に開示されるようなトリフェニルホスファイト、欧州特許EP767189号に開示されるようなDMP30、欧州特許EP783010号に開示されるようなネオペンチルグリコールジグリシジルエーテルなどのポリグリシジルエーテルのメチルアミンアダクト、米国特許第4835241号に開示されるようなトリメチロールプロパントリアクリレート、米国特許第5243014号及び第5198146号に開示されるような硝酸カルシウム、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(例えば、Air Products社から商業的に入手可能なAncamine K54など)、ベンジルジメチルアミン、及び、エポキシ−アミン反応の触媒技術に精通した産業で周知の他の触媒/促進剤。触媒/促進剤を開示する上記のすべての参照文献は、参照することにより本明細書中に組み込まれる。
【0044】
周知の追加的な触媒、例えば米国特許第4925901号に記載されるものなど、の任意のものもまた、本発明で使用することが可能である。一例として、本発明で使用できる既知の触媒の例には、例えば次のものが含まれる。エチルトリフェニルホスホニウムアセテート、エチルトリフェニルホスホニウムアセテート−酢酸錯体、トリエチルアミン、メチルジエタノールアミン、及びベンジルジメチルアミンなどの適切なオニウム又はアミン化合物;2−メチルイミダゾール及びベンズイミダゾールなどのイミダゾール化合物; DMP30;及びこれらの混合物。
【0045】
触媒は、エポキシ樹脂組成物中に存在する場合、いくらかの架橋を伴ってエポキシ樹脂の実質的に完全な硬化がもたらされるのに十分な量で用いられる。例えば、触媒は、樹脂100部当たり約0.01〜約5部の量で使用することができ、好ましくは樹脂100部当たり約0.01〜約1.0部、より好ましくは樹脂100部当たり約0.02〜約0.5部である。
【0046】
本発明のエポキシ樹脂組成物では、ポリマー組成物を形成するためのエポキシ樹脂組成物の架橋をさらに促進するように、アルカノールアミン硬化剤とは異なる他の任意追加的なハードナー又は硬化剤を1種又は2種以上用いることができる。他の任意的な架橋剤成分、本明細書では共硬化剤と呼ぶ、には、エポキシ樹脂のエポキシ基と反応性がある活性基を有する任意の化合物が含まれ得る。エポキシ樹脂に用いる場合、硬化剤は単独で用いてもよいし、2以上の共硬化剤との混合物として用いてもよい。
【0047】
共硬化剤は、エポキシ環を開環させて重合と架橋を可能にするのに有効なものとして当業者によく知られた任意のものから選択することができる。本発明で有用な共硬化剤の例には、フェノール含有化合物、アミン、これらの組合せ、などが含まれる。本発明で有用な追加的共硬化剤又はハードナーは、EP−A2 373440から見出すことができ、これはその全体が参照することにより本明細書中に組み込まれる。
【0048】
共硬化剤のひとつの実施形態には、第1級及び第2級ポリアミンとそのアダクト並びにポリアミドが含まれる。例えば、多官能価アミンには、ジエチレントリアミン(ザ・ダウ・ケミカル・カンパニーから入手可能なD.E.H.20)、トリエチレンテトラミン(ザ・ダウ・ケミカル・カンパニーから入手可能なD.E.H.24)、テトラエチレンペンタミン(ザ・ダウ・ケミカル・カンパニーから入手可能なD.E.H.26)などの脂肪族アミン化合物、上記アミンとエポキシ樹脂、希釈剤、又は他のアミン反応性化合物とのアダクトが含まれ得る。メタフェニレンジアミン及びジアミンジフェニルスルホンなどの芳香族アミン、アミノエチルピペラジン及びポリエチレンポリアミンなどの脂肪族ポリアミン、並びに、メタフェニレンジアミン、ジアミンジフェニルスルホンジエチル及びトルエンジアミンなどの芳香族ポリアミンもまた、共硬化剤として使用できる。好適なアミノ共硬化剤は、立体障害を受けたアミノ基を含んでおり、ここにおいてアミノ基のごく近くにアルキル、シクロアルキル又はアラルキル基が存在しており、それにより前記アルキル、シクロアルキル又はアラルキル基がない場合よりも反応性が低くなっている。ヒンダードアミン基を含む製品には、ポリエーテルアミン(例えば、Huntsman Chemical社のJeffamine D−230)、イソホロンジアミン(例えば、Evonik社のVestamin IPD)、メンタンジアミン(例えば、ダウ・ケミカル社のPrimene MD)、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン(例えば、BASF社のLaromin C−260)、及びこれらの組合せがある。
【0049】
本発明で用いられる任意追加的な共硬化剤の量は、いくつかの実施形態ではエポキシ樹脂100重量部当たり約1重量部からエポキシ樹脂100重量部当たり約50重量部の間で変動し得る。他の実施形態では、任意追加的な共硬化剤はエポキシ樹脂100重量部当たり約1重量部からエポキシ樹脂100重量部当たり約28重量部の範囲の量で使用可能であり、さらに他の実施形態では、共硬化剤はエポキシ樹脂100重量部当たり約1重量部からエポキシ樹脂100重量部当たり約15重量部の範囲の量で使用可能である。
【0050】
本発明の成分(II)のエポキシ樹脂組成物は、従来のエポキシ樹脂系で見出される添加剤を任意追加的に1種以上含んでもよい。例えば、本発明のエポキシ樹脂組成物は、次のような添加剤を含むことができる。触媒;他の硬化剤;他の樹脂;珪灰石、バライト、マイカ、長石、タルク、シリカ、フュームドシリカ、ガラス、金属粉、炭酸カルシウムなどの充てん材;ガラスビーズ、ポリテトラフルオロエチレン、ポリオール樹脂、歩栄エステル樹脂、フェノール樹脂、グラファイト、二硫化モリブデン、研磨顔料などの骨材;粘度低下剤;窒化ホウ素;核剤;染料;二酸化チタン、カーボンブラック、酸化鉄、酸化クロム、有機顔料などの顔料;着色剤;チキソトロープ剤、光開始剤;潜在性光開始剤、潜在性触媒;抑制剤;流動性改良剤;促進剤;乾燥添加剤;界面活性剤;接着促進剤; 流動性調整剤;安定剤;イオンスカベンジャー; UV安定剤;軟化剤;難燃剤;加工を助ける希釈剤;強化剤;湿潤剤;離型剤;カップリング剤;粘着剤;その他の、組成物の製造、応用、又は適切な性能のために求められる物質。これらの任意追加的な添加剤は、エポキシ樹脂組成物の特性に対して、硬化前及び/又は硬化後に、影響する可能性があり、エポキシ樹脂複合材組成物及び所望の反応生成物の配合を行う際に考慮すべきである。
【0051】
一般的に、本発明で使用される他の任意追加的な添加剤の量は、エポキシ樹脂100重量部当たり0〜約80重量部の範囲で変動する場合があり、いくつかの実施形態では、エポキシ樹脂100重量部当たり約0.01〜約80重量部である。他の実施形態では、任意追加的な添加剤は、エポキシ樹脂100重量部当たり約0.05〜約70重量部の範囲で使用することができ、さらに他の実施形態では、添加剤はエポキシ樹脂100重量部当たり約0.1〜約60重量部の範囲で使用することができる。当業者であれば、これらの添加剤の効果や選択は承知しているであろうし、それらの適切な使用は、当分野に従事する者の技術の範囲内のことと考えられる。
【0052】
成分(II)のエポキシ樹脂組成物は、(a)1分子当たり平均で1を超えるグリシジル基を有する、少なくとも1種のエポキシ樹脂;(b)少なくとも1種のアルカノールアミン硬化剤;及び(c)前記の少なくとも1種のエポキシ樹脂である成分(a)と前記の少なくとも1種のアルカノールアミンである成分(b)との反応速度が十分増大するために適切な量の、少なくとも1種のスチレン化フェノール;を含む成分を混合することにより調製できる。
【0053】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、組成物のすべての成分を既知の手順で一緒に混合することにより調製できる。例えば、本発明のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂成分を含む第1の組成物(たとえば、実施例における「サイドA」)と、硬化剤成分を含む第2の組成物(例えば、実施例における「サイドB」)とを調製して作ることができる。エポキシ樹脂組成物を作るうえで有用な他のすべての成分は、同じ組成物中にあってもよいし、いくつかは第1の組成物中にありいくつかは第2の組成物中にあるようにしてもよい。次いで、第1の組成物は第2の組成物と混合されエポキシ樹脂組成物を生成するが、これは硬化剤を含んでいるために硬化性である。エポキシ樹脂組成物は、複合材物品を製造するために使用可能な溶液又はワニスの形態であることが好ましい。
【0054】
エポキシ樹脂組成物の粘度が容易に調整できるように、エポキシ樹脂組成物を調製することが有利である。組成物の調製はまた、エポキシ樹脂組成物の硬化により得られる複合材の熱的及び機械的特性が維持されるように行われる。
【0055】
複合材成形物品の調製のための硬化性エポキシ樹脂複合材配合物は、(I)強化材と、(II)上述のエポキシ樹脂組成物とを、混合することにより調製できる。上述のエポキシ樹脂組成物混合物を最初に調製し、次いで強化材と混合することができる。混合された組成物混合物は、次いでエポキシ樹脂複合体熱硬化性材料を作るために硬化することができる。
【0056】
本明細書で開示される硬化性エポキシ樹脂複合材組成物は、複合材の製造に使用可能な硬化性エポキシ樹脂複合材配合物中に、少なくとも1種のスチレン化フェノールを含有させたことにより、改善された反応速度を有する。さらに、この組成物配合物は、後述されるように、優れた熱的及び機械的特性を保持する複合材を提供する。
【0057】
本発明のエポキシ樹脂組成物において少なくとも1種のスチレン化フェノールを用いることによる利益のひとつは、スチレン化フェノールが配合物の他のすべての成分に対して優れた溶解性を示すことであり、これは反応混合物が均一であることを確保するのに役立つ。本発明のエポキシ樹脂組成物において少なくとも1種のスチレン化フェノールを用いることによる別の利益は、スチレン化フェノールが低粘度(例えば、約500cps未満)の液体であり、このことが配合物の粘度を下げるのに役立ち、この配合物をスチレン化フェノールを含まない配合物よりも加工しやすいものとしている。
【0058】
強化材がエポキシ樹脂組成物と混合されると、得られた本発明の硬化性複合材配合物は、熱可塑性樹脂を形成するための従来の処理条件下で硬化させることができる。得られた熱硬化性樹脂は、良好な靭性や機械的強度などの優れた熱−機械特性を示すと同時に、高い熱安定性を示す。
【0059】
本発明の複合材又は熱硬化性樹脂製品を製造する方法は、重力注型、減圧注型、自動加圧ゲル化(APG)、吸引加圧ゲル化(VPG)、インフージョン成形、フィラメントワインディング、レイアップ注入法、トランスファー成形、樹脂注入成形(SEEMAN、SCRIMP、VARTM)などの注入成形、注型封入、封入成形、含浸プロセスを利用して行うことができる。
【0060】
ひとつの実施形態では、複合材は、硬化性エポキシ樹脂組成物を前記のような強化材に含浸や塗布などによって適用し、次に強化材とともに硬化性エポキシ樹脂組成物を硬化させることによって、形成することができる。
【0061】
繊維強化複合体は、例えばホットメルトプリプレグ法によって形成することができる。プリプレグ法は、連続繊維のバンド又は織物を本明細書に記載される熱硬化性エポキシ樹脂組成物の溶融物で含浸してプリプレグを製造し、これをレイアップして硬化させ、繊維と熱硬化性樹脂との複合材を提供することによって特徴づけられる。
【0062】
他の加工技術を用いて本明細書に開示されるエポキシベースの組成物を含む複合材を形成することができる。例えば、フィラメントワインディング法、溶媒プリプレグ法、及び引き抜き成形が、未硬化エポキシ樹脂を用いることができる典型的な加工技術である。さらに、束状の形態の繊維を未硬化エポキシ樹脂組成物で被覆し、フィラメントワインディング法による場合のようにレイアップし、硬化して、複合材を形成してもよい。
【0063】
本発明の一つの例において、スチレン化フェノールは、例えば風車の羽根のためのガラス積層体を製造するプロセスのような、複合材の応用の場面で典型的に用いられるエポキシ/アミン配合物に使用される。反応性の調整は、スチレン化フェノールをそのような用途に用いられるアミンハードナーへ添加することによって可能である。スチレン化フェノールは液体であるという利点を有し、この性質により、例えばビスフェノールAを用いた場合に生じる結晶化の問題が回避される。
【0064】
本発明の組成物は、周囲環境下でも又は加熱によっても硬化することができる。本明細書で開示される組成物の硬化は、エポキシ樹脂と硬化剤と触媒(使用する場合)に応じて、少なくとも約20℃から約200℃までの温度で、数分から数時間かけて行うことができる。他の実施形態では、硬化は、少なくとも約70℃の温度で数分から数時間かけて行うことができる。さらに後処理を用いてもよく、そのような後処理は通常約70℃から200℃の間である。
【0065】
いくつかの実施形態では、硬化は、発熱を防ぐために段階分けしてもよい。例えば、ある温度での一定時間の硬化とそれに続くより高い温度での一定時間の硬化とを含むような段階分けである。段階分けした硬化には2段階以上の硬化段階を含むことができ、いくつかの実施形態では約40℃よりも低い温度で開始することができ、他の実施形態では約80℃よりも低い温度で開始することができる。
【0066】
一般的に、硬化性エポキシ樹脂複合材組成物を硬化する温度は、約20℃から約300℃の間で選択することができ、好適には約25℃から約250℃の間、より好適には約30℃から約220℃の間である。硬化温度が20℃より低いと、温度が低すぎて一般的な加工条件下で十分に速い反応を確保することができない。温度が300℃よりも高いと、温度が高すぎて熱硬化性材料が劣化する可能性がある。
【0067】
硬化性組成物の後硬化を、通常約100℃よりも高い温度で行うことができ、好適には約110℃よりも高い温度で、より好適には約120℃よりも高い温度で、さらに好適には約130℃よりも高い温度で、もっとも好適には約140℃よりも高い温度で行うことができる。
【0068】
熱硬化性樹脂の硬化時間は、例えば約1分から約96時間の間で、好適には約5分から約48時間の間で、より好適には約10分から約24時間の間で、選択することができる。1分よりも短いと、時間が短すぎて一般的な加工条件下で十分な反応を確保することができない。96時間を超えると、時間が長すぎて実際的な利益がない。
【0069】
本発明の最終的な熱硬化性樹脂は優れた機械的熱的特性を示す。すなわち、本発明の硬化樹脂は、その樹脂を複合材を作るために有用なものとする種々の特性を有利に示す。一般的に、硬化樹脂は産業上の最低基準、例えば、引張特性、曲げ強度、水分吸収などを含む、積層用樹脂の手順及び特性に関する最低基準などを満たすべきである。例えば、最低基準は、ドイツ船級協会(Germanischer Lloyd)によって、その検査、認証及び技術コンサルタント会社であるGL Industrial Services社を通じて確立されたようなものであってもよい。このドイツ船級協会のいくつかの特性に関する最低基準は、当業者によって知られ従来認められている。これらの特性に関する基準は、次の表Aに記載されている。
【0070】
【表1】

【0071】
以下の例は、本発明を説明するものであるが、制限的なものではない。すべての部及び百分率は、他に特に定めがなければ、重量を基準とするものである。
【0072】
実施例1及び2; 比較例A、B及びC
実施例1、実施例2,比較例A、比較例B、及び比較例Cが、次の一般的手順に従って取り扱われた。
【0073】
D.E.R.*330、エポキシ当量(EEW)が170〜190のエポキシ樹脂(ダウ・ケミカル・カンパニーから商業的に入手可能)と、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDGE)との成分を所望の割合で混合することにより、サイドAを調製した。混合は室温(23℃で湿度50%)で行った。実験室規模で、一度に500グラムのサイドAを調製した。また、混合操作は10分間継続した。
【0074】
ひとつの実施例では、サイドBはAirstone*724Hアミン硬化剤(ダウ・ケミカル・カンパニーから商業的に入手可能)からなっていた。他の実施例では、サイドBは数個の成分をサイドAと同じように混合したものからなっていた。一度に約100グラムのサイドBが調製された。
【0075】
サイドAとサイドBは、一般的な回転攪拌機を用いて、所望の量で2分間混ぜ合わされた。次いで、すべての測定が同じ基準時間に開始することを確保するために、Gel Norm装置の「スタート」スイッチが押された。次に、100グラムの配合物がガラス管(DIN 16945 [89]によるGel Norm RVN ゲルタイマー法によって特定されたもの)中に投入された。ゲルタイマーのスピンドル(Gel Norm法により特定されたもの)がガラス管の内側に浸漬され、回転するようにされた。混合物の粘度が自動的に経時的に記録された。系が硬化されたときに実験はひとりでに止まった。用いたガラス管は実験の最後に処分された。
【0076】
実験では、Tg値は示差走査熱量測定法(DSC)により、70℃で7時間硬化された透明な成形品について測定された。次の方法が用いられた:
【0077】
Tg1は、DSCを25℃から200℃まで毎分10℃で走らせることにより発生する熱流曲線の変化を測定するための、半外挿タンジェント法(half extrapolated tangent method)を用いて得られた;そして、Tg2は、同じサンプルを200℃から25℃まで毎分30℃で冷却した後に、DSCの2回目の走査を25℃から150℃まで毎分10℃で行うことにより、同様に測定された。
【0078】
比較例A(表1)は、アミン硬化剤Airstone 724Hに基くものである。比較例Aには、アルカノールアミン又はスチレン化フェノールは存在していなかった。実施例1及び2(それぞれ表II及びIII)は、AEEAとスチレン化フェノールの組合せに基づくものである。これらのゲル化時間は比較例Aの>5%である。Tg値は70℃よりも大きい。
【0079】
比較例B(表IV)及び比較例C(表V)は、アルカノールアミン及び/又はスチレン化フェノールを用いることなく高い反応性を得るための試みとして調製された2つの配合物である。比較例Bはスチレン化フェノール及び/又はアルカノールアミンを含まない。比較例BのTg値は>70℃である一方で、比較例Bは、実施例1(42%のゲル化時間短縮)よりも10分遅れてゲル化し、実施例2(54%のゲル化時間短縮)よりも13分遅れである。比較例Cはスチレン化フェノールを含むがアルカノールアミンを含まない。比較例CのTg値は>70℃であるが、比較例Cは、実施例1(33%のゲル化時間短縮)よりも7分遅れてゲル化し、実施例2(47%のゲル化時間短縮)よりも10分遅れである。
【0080】
上記の例の組成物及び上記の手順の結果(例えば、組成物のTg特性)を、次の表IからVに示す。
【0081】
【表2】

【0082】
【表3】

【0083】
【表4】

【0084】
【表5】

【0085】
【表6】

【0086】
実施例3及び4;比較例D
以下の表VIに示すゲル化時間は、Gardco Standardゲルタイマー(フロリダ州ポンパノビーチのポールN.ガードナー・カンパニー社(Paul N.Gardner Company,Inc.)から入手可能なGT−Sモデル)を用いて測定された。この装置は、特別な形状の攪拌機を配合物中で回転させる低トルクの同期電動機を有している。ゲル化が生じ始めるにしたがって、効力がトルクを上回り、モーターは停止する。モーターが停止した時間がゲル化時間として記録され、ゲルタイマーのLCDディスプレー上に表示される。
【0087】
比較例Dは、スチレン化フェノールとアルカノールアミンの両方は含まない配合物の硬化体のゲル化時間、Tg及びいくつかの屈曲及び引張り特性を示す。実施例3及び4は比較例Dと同様であるが、実施例3と4はいずれもスチレン化フェノールとアルカノールアミンとの組合せを異なる量で有している。実施例3は、比較例Dと比べて43%のゲル化時間の短縮を示す。実施例3ではTg>70℃であり、その屈曲及び引張り特性は同程度である。実施例4は、スチレン化フェノールとアルカノールアミンの量がより高くなるとゲル化がさらに速く(ゲル化時間が比較例Dに対して90%短縮)起こることを示す。そのTgは依然として>70℃であり、かつその屈曲及び引張り特性は依然として高水準である。
【0088】
【表7】

【0089】
本開示には限られた数の実施形態が含まれているが、本発明の範囲は特許請求の範囲のみによって制限されるべきであり、当業者には本開示を利用すれば他の実施形態も可能であることから、本明細書中の実施形態によって制限されるべきではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I)強化材;並びに
(II)次の(a)〜(c)を含むエポキシ樹脂組成物;
(a)1分子当たり平均で1を超えるグリシジル基を有する、少なくとも1種のエポキシ樹脂;
(b)少なくとも1種のアルカノールアミン硬化剤;及び
(c)少なくとも1種のスチレン化フェノール;
を含む、複合材造形品を調製するための硬化性エポキシ樹脂複合材組成物であって、前記少なくとも1種のアルカノールアミンと前記少なくとも1種のスチレン化フェノールの組合せが、目標粘度に至るまでの時間又はゲル化時間を、スチレン化フェノールとアルカノールアミンとの組合せを含まない元の配合物に対して約5パーセント(%)以上(≧)の率で減少させるとともに、ガラス転移温度(Tg)をTg≧約70℃に維持するのに十分な量で、前記エポキシ樹脂組成物中に存在するものである、硬化性エポキシ樹脂複合材組成物。
【請求項2】
前記少なくとも1種のエポキシ樹脂がビスフェノールAのジグリシジルエーテルを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記少なくとも1種のアルカノールアミンが、プロパノールアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、アミノエチルエタノールアミン、又はこれらの混合物を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
前記少なくとも1種のスチレン化フェノールが、ノニルフェノール、モノスチレン化フェノール又はこれらの混合物を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
前記少なくとも1種のスチレン化フェノールが、前記硬化性組成物中に約1重量パーセント〜約40重量パーセントの範囲で存在する、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
前記少なくとも1種のエポキシ樹脂が、前記硬化性組成物中に約15重量パーセント〜約90重量パーセントの範囲で存在する、請求項1記載の組成物。
【請求項7】
前記少なくとも1種のアルカノールアミン硬化剤が、前記硬化性組成物中に約1重量パーセント〜約65重量パーセントの範囲で存在する、請求項1記載の組成物。
【請求項8】
前記強化材(I)が、前記組成物中に約1重量パーセント〜約80重量パーセントの範囲で存在する、請求項1記載の組成物。
【請求項9】
前記強化材(I)が繊維強化材である、請求項1記載の組成物。
【請求項10】
前記エポキシ樹脂組成物(II)が、少なくとも1種の熱可塑性樹脂又は少なくとも1種の無機充填材を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項11】
前記エポキシ樹脂組成物(II)が、(d)前記アルカノールアミン硬化剤とは異なる共硬化剤、を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項12】
前記エポキシ樹脂組成物(II)が、(e)前記エポキシ樹脂成分(a)とは異なる第2のエポキシ樹脂、を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項13】
前記第2のエポキシ樹脂成分(e)が1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテルを含む、請求項12記載の組成物。
【請求項14】
請求項1記載の組成物を硬化させて硬化生成物を生成させることを含む、硬化生成物の製造方法。
【請求項15】
前記硬化が2以上の段階を含む、請求項14記載の方法。
【請求項16】
請求項14記載の方法によって製造された硬化複合材生成物。
【請求項17】
(I)強化材;並びに
(II)次の(a)〜(c)を含むエポキシ樹脂組成物;
(a)1分子当たり平均で1を超えるグリシジル基を有する、少なくとも1種のエポキシ樹脂;
(b)少なくとも1種のアルカノールアミン硬化剤;及び
(c)少なくとも1種のスチレン化フェノール;
を一緒に接触させることを含む、硬化性エポキシ樹脂組成物を製造する方法であって、前記少なくとも1種のアルカノールアミン硬化剤と前記少なくとも1種のスチレン化フェノールの組合せが、目標粘度に至るまでの時間又はゲル化時間を、スチレン化フェノールとアルカノールアミンとの組合せを含まない元の配合物に対して約5パーセント(%)以上(≧)の率で減少させるとともに、ガラス転移温度(Tg)をTg≧約70℃に維持するのに十分な量で、前記エポキシ樹脂組成物中に存在する、硬化性エポキシ樹脂組成物を製造する方法。

【公表番号】特表2013−506030(P2013−506030A)
【公表日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−530964(P2012−530964)
【出願日】平成22年9月21日(2010.9.21)
【国際出願番号】PCT/US2010/049598
【国際公開番号】WO2011/037895
【国際公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー (1,383)
【Fターム(参考)】