説明

硬化性シリコーンレジン組成物およびその硬化物

【課題】 室温で固体であり、加熱により溶融し、トランスファー成形またはインジェクション成形することができ、硬化して、高強度で、紫外線や熱による変色の少ない硬化物を形成することができる硬化性シリコーンレジン組成物、およびその組成物を硬化して得られる、高強度で、紫外線や熱による変色の少ない硬化物を提供する。
【解決手段】 軟化点が50℃以上であり、150℃における溶融粘度が5,000mPa・s以上であるヒドロシリル化反応硬化性シリコーンレジン組成物であって、リン含有ヒドロシリル化反応遅延剤を含有することを特徴とする硬化性シリコーンレジン組成物、およびそれを硬化してなる硬化物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロシリル化反応により硬化する硬化性シリコーンレジン組成物およびその硬化物に関し、詳しくは、室温で固体であり、加熱により溶融し、トランスファー成形またはインジェクション成形することができ、硬化して、高強度で、紫外線や熱による変色の少ない硬化物を形成することができる硬化性シリコーンレジン組成物、およびその組成物を硬化して得られる、高強度で、紫外線や熱による変色の少ない硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
一分子中に少なくとも2個の脂肪族不飽和炭化水素基を有するオルガノポリシロキサンレジン、一分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノポリシロキサン、およびヒドロシリル化反応用触媒から少なくともなる硬化性シリコーンレジン組成物は公知であり、その多くは室温において液状またはパテ状であり、トランスファー成形あるいはインジェクション成形には不適であった。このため、特許文献1、2には、室温で固体であり、加熱により溶融し、トランスファー成形またはインジェクション成形することができる、ヒドロシリル化反応により硬化する硬化性シリコーンレジン組成物が開示されている。
【0003】
しかし、特許文献1、2に開示されている硬化性シリコーンレジン組成物は、室温で固体とはいえ、ヒドロシリル化反応用触媒の活性により硬化が進行し、貯蔵安定性が乏しく、また、該組成物を調製する際の熱により硬化が進行するため、トランスファー成形あるいはインジェクション成形における成形の再現性が乏しいという問題がある。
【0004】
また、ヒドロシリル化反応により硬化する硬化性シリコーンレジン組成物を1液化したり、あるいは貯蔵安定性を向上させるためにヒドロシリル化反応遅延剤を多量に配合することも検討されているが、硬化して得られる硬化物が着色したり、また、紫外線や熱により、硬化物が変色するという問題があることに気づいた。このため、このような硬化性シリコーンレジン組成物を発光ダイオードの封止剤等の光学材料形成用として適用するには問題があった。
【特許文献1】特開昭50−80356号公報
【特許文献2】特開昭51−34259号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、室温で固体であり、1液化が可能であり、加熱により溶融し、トランスファー成形またはインジェクション成形に好適であり、硬化して、高強度で、紫外線や熱による変色の少ない硬化物を形成することができる硬化性シリコーンレジン組成物、および高強度で、透明性が優れ、紫外線や熱による変色の少ない硬化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、軟化点が50℃以上であり、150℃における溶融粘度が5,000mPa・s以上であるヒドロシリル化反応硬化性シリコーンレジン組成物であって、リン含有ヒドロシリル化反応遅延剤を含有することを特徴とする硬化性シリコーンレジン組成物、およびそれを硬化させてなる硬化物に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の硬化性シリコーンレジン組成物は、1液化が可能であり、加熱により溶融し、トランスファー成形またはインジェクション成形に好適であり、硬化して、高強度で、透明性が優れ、紫外線や熱による変色の少ない硬化物を形成できるという特徴がある。
また、本発明の硬化物は、高強度で、透明性が優れ、紫外線や熱による変色が少ないという特徴がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の硬化性シリコーンレジン組成物は、軟化点が50℃以上であり、150℃における溶融粘度が5,000mPa・s以上である。このような本組成物は、室温(25℃)では固体であり、50℃以上の温度に加熱すると軟化し、150℃において、溶融粘度が5,000mPa・s以上であるので、トランスファー成形あるいはインジェクション成形に好適である。
【0009】
このような本組成物は、ヒドロシリル化反応により硬化するものであって、リン含有ヒドロシリル化反応遅延剤を含有することを特徴とする。この遅延剤は、本組成物のヒドロシリル化反応による硬化を調整するための成分であり、例えば、ジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン、ジメチルフェニルホスフィン、ジエチルフェニルホスフィン、トリプロピルホスフィン、ジシクロヘキシルフェニルホスフィン、ビス(ジフェニルホスフィノ)メタン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、2,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、1,5−ビス(ジフェニルホスフィノ)ペンタン、1,6−ビス(ジフェニルホスフィノ)ヘキサン、ビス(2-ジフェニルホスフィノエチル)フェニルホスフィンビス(ジフェニルホスフィノ)アセチレン、1,1−ビス(ジフェニルホスフィノ)エチレン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エチレン、1,1−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、1,3−ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)プロパン、1,2−ビス(ジメチルホスフィノ)エタン、1,2−ビス(ジメチルホスフィノ)ベンゼン1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)ベンゼン等のホスフィン系化合物;ジフェニルホスフィンオキサイド、トリフェニルホスフィンオキサイド、ジメチルフェニルホスフィンオキサイド、ジエチルフェニルホスフィンオキサイド、トリプロピルホスフィンオキサイド、トリブチルホスフィンオキサイド等のホスフィンオキサイド系化合物;リン酸トリフェニル、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリプロピル、リン酸トリブチル、リン酸ジフェニルメチルのリン酸系化合物;メチルホスホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジエチル、メチルホスホン酸ジプロピル、メチルホスホン酸ジブチル、フェニルホスホン酸ジエチル、フェニルホスホン酸ジプロピル等のホスホン酸系化合物;亜リン酸トリフェニル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリプロピル、亜リン酸トリブチル、亜リン酸ジフェニル、亜リン酸ジメチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸ジプロピル、亜リン酸ジブチルの亜リン酸系化合物;フェニル亜ホスホン酸ジメチル、フェニル亜ホスホン酸ジエチル、フェニル亜ホスホン酸ジプロピル等の亜ホスホン酸系化合物が挙げられ、好ましくは、ホスフィン系化合物であり、特に好ましくは、ビス(ジフェニルホスフィノ)メタン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパンである。
【0010】
本組成物において、上記遅延剤の含有量は特に限定されないが、例えば、本組成物中のヒドロシリル化反応用金属系触媒中の金属原子1モルに対して、0.01〜1,000モルとなる量であることが好ましくは、特に、0.1〜500モルとなる量であることが好ましい。これは、この遅延剤の含有量が上記範囲の下限未満であると、本組成物の1液化が困難であり、またトランスファー成形またはインジェクション成形に好適でなくなるためであり、一方、上記範囲の上限を超えると、硬化がし難くなるからである。
【0011】
このような硬化性シリコーンレジン組成物としては、
(A)一分子中に少なくとも2個の脂肪族不飽和炭化水素基を有するオルガノポリシロキサン、
(B)一分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノポリシロキサン{(A)成分中の脂肪族不飽和炭化水素基1モルに対して、本成分中のケイ素原子結合水素原子が0.1〜10モルとなる量}、
(C)ヒドロシリル化反応用金属系触媒(本組成物の硬化を促進する量)、および
(D)リン含有ヒドロシリル化反応遅延剤{(C)成分中の金属原子1モルに対して、本成分が0.01〜1,000モルとなる量}
から少なくともなるものであることが好ましい。
【0012】
(A)成分のオルガノポリシロキサンは、一分子中に少なくとも2個の脂肪族不飽和炭化水素基を有し、その分子構造は特に限定されないが、例えば、直鎖状、一部分岐を有する直鎖状、分岐鎖状が挙げられ、好ましくは、分岐鎖状である。また、この脂肪族不飽和炭化水素基としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、オクテニル基等のアルケニル基;シクロヘキセニル基、シクロヘプテニル基等のシクロアルケニル基が例示され、好ましくは、アルケニル基であり、特に好ましくは、ビニル基、アリル基、ヘキセニル基である。このような(A)成分は、平均組成式:
1aSiO(4-a)/2
で表される。式中、R1は置換もしくは非置換の一価炭化水素基、アルコキシ基、または水酸基であり、R1の一価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、オクテニル基等のアルケニル基;シクロヘキセニル基、シクロヘプテニル基等のシクロアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基;3−クロロプロピル基、2−ブロモエチル基、3,3,3−トリフロロプロピル基等のハロゲン置換アルキル基が挙げられる。但し、一分子中の少なくとも2個のR1は、アルケニル基、シクロアルケニル基等の脂肪族不飽和結合を有する一価炭化水素基であり、好ましくは、前記アルケニル基である。また、上式中、aは、1≦a<2を満たす数である。
【0013】
上記の(A)成分のオルガノポリシロキサンにおいて、高屈折率の硬化物を得るためにはフェニル基の導入が有効であり、このような(A)成分として、平均組成式:
1p(C65)qSiO(4-p-q)/2
で表されるフェニル基含有オルガノポリシロキサンを用いることが好ましい。式中、R1は上記と同様であり。また、式中、p、qは、それぞれ、1≦p+q<2、好ましくは、1≦p+q≦1.8、さらに好ましくは、1≦p+q≦1.5であり、かつ0.20≦q/(p+q)≦0.95、好ましくは0.30≦q/(p+q)≦0.80、さらに好ましくは、0.45≦q/(p+q)≦0.70を満たす数である。
【0014】
このような(A)成分を調製する方法としては、例えば、フェニルトリクロロシランとアルケニル基を含有するクロロシラン、例えば、ビニルトリクロロシラン、メチルビニルジクロロシラン、ジメチルビニルクロロシラン、アリルメチルジクロロシラン、ブテニルメチルジクロロシラン、メチルペンテニルジクロロシラン、ヘキニセルトリクロロシラン、ヘキセニルメチルジクロロシラン、ヘキセニルジメチルクロロシラン、ヘプテニルメチルジクロロシラン、メチルオクテニルジクロロシラン、メチルノネニルジクロロシラン、デセニルメチルジクロロシラン、メチルウンデセニルジクロロシラン、ドデセニルメチルジクロロシランとを、必要に応じて、テトラクロロシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシランまたはトリメチルクロロシランの存在下で共加水分解および縮合反応する方法、フェニルトリメトキシシランとアルケニル基を含有するアルコキシシラン、例えば、ビニルトリメトキシシラン、メチルビニルジメトキシシラン、ジメチルビニルメトキシシラン、アリルメチルジメトキシシラン、ブテニルメチルジメトキシシラン、メチルペンテニルジメトキシシラン、ヘキニセルトリメトキシシラン、ヘキセニルメチルジメトキシシラン、ヘキセニルジメチルメトキシシラン、ヘプテニルメチルジメトキシシラン、メチルオクテニルジメトキシシラン、メチルノネニルジメトキシシラン、デセニルメチルジメトキシシラン、メチルウンデセニルジメトキシシラン、ドデセニルメチルジメトキシシランとを、必要に応じて、テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシランまたはトリメチルメトキシシランの存在下で共加水分解および縮合反応する方法、上記の方法により調製されたシリコーンレジン中のシラノール基を酸性もしくは塩基性の重合触媒の存在下で縮合反応する方法、C65SiO3/2単位からなるシリコーンレジンと分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルビニルシロキサンとを酸性もしくは塩基性の重合触媒の存在下で再平衡重合する方法、C65SiO3/2単位からなるシリコーンレジンと環状メチルビニルシロキサンとを酸性もしくは塩基性の重合触媒の存在下で再平衡重合する方法、C65SiO3/2単位からなるシリコーンレジンと環状メチルビニルシロキサンと環状ジメチルシロキサンとを酸性もしくは塩基性の重合触媒の存在下で再平衡重合する方法、C65SiO3/2単位からなるシリコーンレジンと分子鎖両末端シラノール基封鎖メチルヘキセニルシロキサンとを酸性もしくは塩基性の重合触媒の存在下で再平衡重合する方法、C65SiO3/2単位からなるシリコーンレジンと環状ヘキセニルメチルシロキサンとを酸性もしくは塩基性の重合触媒の存在下で再平衡重合する方法、C65SiO3/2単位からなるシリコーンレジンと環状ヘキセニルメチルシロキサンと環状メチルビニルシロキサンとを酸性もしくは塩基性の重合触媒の存在下で再平衡重合する方法が挙げられる。
【0015】
(B)成分のオルガノポリシロキサンは、一分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有し、本組成物の架橋剤として作用する。(B)成分の分子構造は限定されないが、直鎖状、一部分岐を有する直鎖状、分岐鎖状が例示され、好ましくは分岐鎖状である。このような(B)成分は、好ましくは、平均組成式:
2bcSiO(4-b-c)/2
で表される。式中、R2は脂肪族不飽和結合を有さない置換または非置換の一価炭化水素基であり、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基;3−クロロプロピル基、2−ブロモエチル基、3,3,3−トリフロロプロピル基等のハロゲン置換アルキル基が挙げられる。また、式中、b、cは、それぞれ、0.7≦b≦2.1、0.001≦c≦1.0、かつ0.8≦b+c≦2.6を満たす数であり、好ましくは、0.8≦a≦2、0.01≦b≦1、1≦b+c≦2.4を満たす数である。
【0016】
このような(B)成分としては、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、(CH3)2HSiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(CH3)2HSiO1/2単位とSiO4/2単位とC65SiO3/2単位とからなる共重合体が例示される。
【0017】
上記組成物において、(B)成分の含有量は限定されないが、(A)成分中の脂肪族不飽和炭化水素基1モルに対して、(B)成分中のケイ素原子結合水素原子が0.1〜10モルとなる量であることが好ましく、特に、0.5〜5モルとなる量であることが好ましい。これは、(A)成分中の脂肪族不飽和炭化水素基に対する(B)成分中のケイ素原子結合水素原子のモル比が上記範囲の下限未満であると、得られる組成物が十分に硬化しなくなる傾向があり、一方、上記範囲の上限を超えると、硬化物中に気泡が生じたり、機械的特性が著しく低下する傾向があるからである。
【0018】
(C)成分のヒドロシリル化反応用金属系触媒は上記組成物のヒドロシリル化反応による硬化を促進するための触媒である。このような(C)成分は特に限定されないが、例えば、白金系触媒、ロジウム系触媒、パラジウム系触媒が挙げられ、好ましくは、白金系触媒である。このような白金系触媒としては、塩化白金酸のアルコール変性物、白金のオレフィン錯体、白金のアルケニルシロキサン錯体、白金のカルボニル錯体が挙げられる。また、これらの白金系触媒を熱可塑性樹脂の中に溶解または分散している微粒子、あるいは熱可塑性樹脂の殻の中に白金系触媒が核として含有されている構造のマイクロカプセル微粒子を用いてもよい。この熱可塑性樹脂としては、シリコーン樹脂、ポリシラン樹脂、アクリル樹脂、メチルセルロース、ポリカーボネート樹脂が例示される。この熱可塑性樹脂は軟化点あるいはガラス転移点が40〜200℃の範囲内であることが好ましい。
【0019】
上記組成物において、(C)成分の含有量は、本組成物の硬化を促進する量であれば特に限定されず、例えば、(C)成分として白金系触媒を用いた場合には、好ましくは、本組成物中の白金金属が質量単位で0.1〜2,000ppmの範囲内となる量であり、特に好ましくは、1〜1,000ppmの範囲内となる量である。これは、(C)成分の含有量が上記範囲の下限未満であると、十分に硬化しにくくなるからであり、一方、上記範囲の上限を超えても硬化は著しく向上しないからである。
【0020】
(D)成分のリン含有ヒドロシリル化反応遅延剤は、上記組成物のヒドロシリル化反応による硬化を調整するための化合物であり、前記と同様の化合物が例示される。また、(D)成分の含有量は特に限定されないが、(C)成分中の金属原子1モルに対して0.01〜1,000モルとなる量であることが好ましくは、特に、0.1〜500モルとなる量であることが好ましい。これは、(D)成分の含有量が上記範囲の下限未満であると、得られる組成物の1液化の過程でヒドロシリル化反応による粘度が上昇し、トランスファー成形またはインジェクション成形に好適でなくなるためであり、一方、上記範囲の上限を超えると、硬化がし難くなるからである。
【0021】
上記組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、さらに上記(D)成分以外のヒドロシリル化反応遅延剤を含有してもよい。このような遅延剤としては、2−メチル−3−ブチン−2−オール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、2−フェニル−3−ブチン−2−オール等のアルキンアルコール;3−メチル−3−ペンテン−1−イン、3,5−ジメチル−3−ヘキセン−1−イン等のエンイン化合物;1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラビニルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラヘキセニルシクロテトラシロキサン、ベンゾトリアゾールが例示される。上記組成物において、この遅延剤の含有量は限定されないが、通常の白金系触媒を含有する硬化性シリコーンレジン組成物における含有量に対して、著しく少ない量とすることができ、具体的には、(A)成分100質量部に対して0.0001〜10質量部の範囲内であることが好ましく、特に、0.001〜5質量部の範囲内であることが好ましい。
【0022】
また、上記組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、無機質充填剤、接着付与剤等を含有してもよい。この無機質充填剤としては、ヒュームドシリカ、沈降性シリカ、二酸化チタン、カーボンブラック、アルミナ、石英粉末等の無機質充填剤、これらの表面をオルガノアルコキシシラン、オルガノクロロシラン、オルガノシラザン等の有機ケイ素化合物により疎水化処理してなる無機質充填剤等を含有してもよい。また、この接着付与剤としては、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のアクリロキシ基含有オルガノアルコキシシラン;3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有オルガノアルコキシシラン;3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のエポキシ基含有オルガノアルコキシシラン等のシランカップリング剤;3−グリシドキシプロピルトリアルコキシシランと末端シラノール基封鎖ジメチルポリシロキサンの縮合反応生成物、3−グリシドキシプロピルトリアルコキシシランと末端シラノール基封鎖メチルビニルポリシロキサンの縮合反応生成物、3−グリシドキシプロピルトリアルコキシシランと末端シラノール基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体の縮合反応生成物が挙げられる。
【0023】
上記組成物の調製方法は限定されないが、(C)成分と(D)成分を予め混合した後、(A)成分と(B)成分を有機溶剤により溶解して混合し、その後、有機溶剤を除去し、得られた室温で固体状の混合物を粉砕して調製する方法、あるいは(C)成分と(D)成分を予め混合した後、(A)成分と(B)成分を溶融混合して調製する方法が例示される。このように、本組成物は、従来の液状またはペースト状の硬化性シリコーンレジン組成物の調製方法とは異なる方法で調製することができる。
【0024】
このような本発明の硬化性シリコーンレジン組成物は、硬化して、高強度で、透明性が優れ、紫外線や熱による変色の少ない硬化物を形成することができるので、レンズ材等の光学部材の形成用樹脂、あるいは発光ダイオード等の光素子の保護剤、封止剤等の光学用材料として有用である。
【0025】
次に、本発明の硬化物を詳細に説明する。
本発明の硬化物は上記の硬化性シリコーレジン組成物を硬化してなることを特徴とする。このような硬化物は、高強度で、紫外線や熱による変色が少ないので、発光ダイオードの保護材または封止材、レンズ材、光導波路材等の光学材料として好適である。
【実施例】
【0026】
本発明の硬化性シリコーンレジン組成物および硬化物を実施例・比較例により詳細に説明する。なお、硬化性シリコーンレジン組成物の軟化点、150℃における溶融粘度、おおび硬化物の機械的強度の測定は次のようにして行った。
[軟化点の測定]
融点測定器により、粉末状の硬化性シリコーンレジン組成物の一部が液状化しはじめてから全体が液化するまでの平均温度を軟化点とした。
[150℃における溶融粘度の測定]
レオメトリックス社製のRDA−IIにより、Φ25mmのパラレルプレートを用いて、150℃における硬化性シリコーンレジン組成物の粘度を測定した。
[硬化物の機械的強度]
硬化性シリコーンレジン組成物を170℃、10分間の成形条件でトランスファー成形を行い、その後、170℃で2時間2次加熱を行うことにより棒状に成形した硬化物を、JIS K 7171−1994「プラスチック−曲げ特性の試験方法」に規定の方法により、その曲げ応力および曲げ弾性率を測定した。
【0027】
[実施例1] 平均単位式:
[(CH3)CH2=CHSiO2/2]0.10[(CH3)2SiO2/2]0.15(C65SiO3/2)0.75
で表されるオルガノポリシロキサン86.2質量部と平均単位式:
[(CH3)2HSiO1/2]0.60(C65SiO3/2)0.40
で表されるオルガノポリシロキサン13.8質量部を100質量部のトルエンに溶解した。次に、上記オルガノポリシロキサンの合計質量に対して白金原子が5ppmとなる量の白金(0)のジビニルテトラメチルジシロキサン錯体のジビニルテトラメチルジシロキサン溶液と、ヒドロシリル化反応遅延剤として、白金原子に対して1.5倍モルの1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパンを含有するジビニルテトラメチルジシロキサン溶液からなる混合溶液を調製し、これを先ほど調製したオルガノポリシロキサンのトルエン溶液に添加して攪拌した。エバポレーターによりトルエンおよびジビニルテトラメチルジシロキサンを除去することにより粉末状の硬化性シリコーンレジン組成物を調製した。この硬化性シリコーンレジン組成物の軟化点は85℃であり、150℃における溶融粘度は20,000mPa・sであった。
【0028】
次に、この粉末状の硬化性シリコーンレジン組成物を圧縮してペレットを作製し、170℃、10分間の成形条件でトランスファー成形を行い、その後、170℃で2時間2次加熱して、透明な硬化物を作製した。この硬化物の曲げ応力は42MPaであり、曲げ弾性率は1.3GPaであった。また、この粉末状の硬化性シリコーンレジン組成物を圧縮してペレットを作製し、50℃のオーブン中で3日間放置した後、170℃、10分間の成形条件でトランスファー成形を行い、その後、170℃で2時間2次加熱したところ、オーブン内で保管する前の組成物と同様の透明性、曲げ応力、および曲げ弾性率を有する硬化物を得ることができた。
【0029】
[比較例1]
実施例1で調製した硬化性シリコーンレジン組成物において、ヒドロシリル化反応遅延剤として、メチルトリス(1,1−ジメチル−2−プロペニルオキシ)シランを組成物の質量に対して1,000ppmとなる量配合した以外は実施例1と同様にして粉末状の硬化性シリコーンレジン組成物を調製しようとしたところ、一部がゲル化し、その後のトランスファー成形を行うことができなかった。
【0030】
[比較例2]
実施例1で調製した硬化性シリコーンレジン組成物において、ヒドロシリル化反応遅延剤として、メチルトリス(1,1−ジメチル−2−プロペニルオキシ)シランを組成物の質量に対して3,500ppmとなる量配合した以外は実施例1と同様にして粉末状の硬化性シリコーンレジン組成物を調製した。この硬化性シリコーンレジン組成物の軟化点は85℃であり、150℃における溶融粘度は20,000mPa・sであった。
【0031】
次に、この粉末状の硬化性シリコーンレジン組成物を圧縮してペレットを作製し、170℃、10分間の成形条件でトランスファー成形したところ、得られた硬化物は薄茶色に着色していた。このため、硬化物の機械的特性は測定しなかった。また、この粉末状の硬化性シリコーンレジン組成物を圧縮してペレットを作製し、50℃のオーブン中で3日間放置した後、170℃、10分間の成形条件でトランスファー成形を行ったところ、得られた硬化物は薄茶色に着色していた。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の硬化性シリコーンレジン組成物は、1液化が可能であり、加熱により溶融し、トランスファー成形またはインジェクション成形に好適であり、硬化して、高強度で、透明性が優れ、紫外線や熱による変色の少ない硬化物を形成することができるので、レンズ材等の光学部材の形成用樹脂、あるいは発光ダイオード等の光素子の保護剤、封止剤等の光学用材料として有用である。また、本発明の光学部材は、高強度で、紫外線や熱による変色が少ないので、レンズ、光素子の封止材として利用可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟化点が50℃以上であり、150℃における溶融粘度が5,000mPa・s以上であるヒドロシリル化反応硬化性シリコーンレジン組成物であって、リン含有ヒドロシリル化反応遅延剤を含有することを特徴とする硬化性シリコーンレジン組成物。
【請求項2】
リン含有ヒドロシリル化反応遅延剤が、ホスフィン系化合物、リン酸系化合物、ホスホン酸系化合物、ホスフィンオキサイド系化合物、亜リン酸系化合物、および亜ホスホン酸系化合物からなる群から選らばれる少なくとも一種であることを特徴とする、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
ホスフィン系化合物が、ジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン、ジメチルフェニルホスフィン、ジエチルフェニルホスフィン、トリプロピルホスフィン、ジシクロヘキシルフェニルホスフィン、ビス(ジフェニルホスフィノ)メタン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、2,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、1,5−ビス(ジフェニルホスフィノ)ペンタン、1,6−ビス(ジフェニルホスフィノ)ヘキサン、ビス(2-ジフェニルホスフィノエチル)フェニルホスフィンビス(ジフェニルホスフィノ)アセチレン、1,1−ビス(ジフェニルホスフィノ)エチレン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エチレン、1,1−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、1,3−ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)プロパン、1,2−ビス(ジメチルホスフィノ)エタン、1,2−ビス(ジメチルホスフィノ)ベンゼン、および1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)ベンゼンからなる群から選らばれる少なくとも一種の化合物であることを特徴とする、請求項2記載の組成物。
【請求項4】
硬化性シリコーンレジン組成物が、
(A)一分子中に少なくとも2個の脂肪族不飽和炭化水素基を有するオルガノポリシロキサン、
(B)一分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノポリシロキサン{(A)成分中の脂肪族不飽和炭化水素基1モルに対して、本成分中のケイ素原子結合水素原子が0.1〜10モルとなる量}、
(C)ヒドロシリル化反応用金属系触媒(本組成物の硬化を促進する量)、および
(D)リン含有ヒドロシリル化反応遅延剤{(C)成分中の金属原子1モルに対して、本成分が0.01〜1,000モルとなる量}
から少なくともなることを特徴とする、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
(A)成分が、平均組成式:
1aSiO(4-a)/2
(式中、R1は置換もしくは非置換の一価炭化水素基、アルコキシ基、または水酸基であり、但し、一分子中の少なくとも2個のR1は脂肪族不飽和結合を有する一価炭化水素基であり、aは、1≦a<2を満たす数である。)
で表されるオルガノポリシロキサンであることを特徴とする、請求項4記載の組成物。
【請求項6】
(B)成分が、平均組成式:
2bcSiO(4-b-c)/2
(式中、R2は脂肪族不飽和結合を有さない置換または非置換の一価炭化水素基であり、b、cは、それぞれ、0.7≦b≦2.1、0.001≦c≦1.0、かつ0.8≦b+c≦2.6を満たす数である。)
で表されるオルガノポリシロキサンであることを特徴とする、請求項4記載の組成物。
【請求項7】
(C)成分がヒドロシリル化反応用白金系触媒であることを特徴とする、請求項4記載の組成物。
【請求項8】
(D)成分が、ホスフィン系化合物、リン酸系化合物、ホスホン酸系化合物、ホスフィンオキサイド系化合物、亜リン酸系化合物、および亜ホスホン酸系化合物からなる群から選らばれる少なくとも一種のリン含有ヒドロシリル化反応遅延剤であることを特徴とする、請求項4記載の組成物。
【請求項9】
(D)成分のホスフィン系化合物が、ジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン、ジメチルフェニルホスフィン、ジエチルフェニルホスフィン、トリプロピルホスフィン、ジシクロヘキシルフェニルホスフィン、ビス(ジフェニルホスフィノ)メタン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、2,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、1,5−ビス(ジフェニルホスフィノ)ペンタン、1,6−ビス(ジフェニルホスフィノ)ヘキサン、ビス(2-ジフェニルホスフィノエチル)フェニルホスフィンビス(ジフェニルホスフィノ)アセチレン、1,1−ビス(ジフェニルホスフィノ)エチレン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エチレン、1,1−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、1,3−ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)プロパン、1,2−ビス(ジメチルホスフィノ)エタン、1,2−ビス(ジメチルホスフィノ)ベンゼン、および1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)ベンゼンからなる群から選らばれる少なくとも一種の化合物であることを特徴とする、請求項8記載の組成物。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の組成物を硬化させてなる硬化物。


【公開番号】特開2007−308542(P2007−308542A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−137074(P2006−137074)
【出願日】平成18年5月16日(2006.5.16)
【出願人】(000110077)東レ・ダウコーニング株式会社 (338)
【Fターム(参考)】