説明

硬化性樹脂組成物及び反射防止膜

【課題】硬化させた際に屈折率が低く、耐擦傷性に優れる硬化物を与える硬化性樹脂組成物及びそれからなる低屈折率層を有する反射防止膜を提供する。
【解決手段】下記成分(A)、(B)、及び(C): (A)水酸基含有含フッ素重合体、 (B)無機フッ化物粒子、 (C)架橋性化合物 を含有する硬化性樹脂組成物。(A)及び(B)の合計を100質量部としたとき、(A)を20〜95質量部、(B)を5〜80質量部含有する。(B)が、波長589nmにおける屈折率が1.45未満である無機フッ化物からなる粒子である。(C)が、水酸基含有フッ素重合体中に存在する水酸基と反応可能なアミノ基を有する化合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性樹脂組成物及び反射防止膜に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、マルチメディアの発達に伴い、各種の表示装置(ディスプレイ装置)において種々の発展が見られている。そして、各種の表示装置のうち、特に、携帯用を中心に屋外で使用されるものでは、その視認性の向上がますます重要となってきており、大型表示装置においても、より見易くすることが需要者に要求されており、この事項がそのまま技術課題となっている。
【0003】
従来、表示装置の視認性を向上させるための一手段として、低屈折率材料から構成される反射防止膜を、表示装置の基板に被覆することが行われており、反射防止膜を形成する方法としては、例えば、フッ素化合物の薄膜を蒸着法により形成する方法が知られている。然るに、近年では、液晶表示装置を中心として、低いコストで、しかも大型の表示装置に対しても、反射防止膜を形成することのできる技術が求められている。しかしながら、蒸着法による場合には、大面積の基板に対して、高い効率で均一な反射防止膜を形成することが困難であり、しかも真空装置を必要とするために、コストを低くすることが困難である。
【0004】
このような事情から、屈折率の低いフッ素系重合体を有機溶剤に溶解して液状の組成物を調製し、これを基板の表面に塗布することによって反射防止膜を形成する方法が検討されている。例えば、基板の表面にフッ素化アルキルシランを塗布することが提案されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。また、特定の構造を有するフッ素系重合体を塗布する方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
ところで、反射防止膜の耐擦傷性を改善するために、反射防止膜の最外層である低屈折率膜にシリカ粒子を添加する技術が広く用いられている(例えば、特許文献4,5)。しかし、多くの場合、粒径が比較的均一なシリカ粒子が1種類用いられているため、粒子の充填率を上げることができず、十分な耐擦傷性が得られるには至っていない。
【0006】
また、より低反射率の反射防止膜を提供するために、従来よりもさらに低屈折率を有する低屈折率膜用材料が望まれている。そこでアクリル等の樹脂成分よりも空気の屈折率が低いことを利用して、多孔質粒子や中空粒子等の粒子内部に空隙を有する粒子(以下、総称として中空粒子」という。)を用いた技術が知られている(例えば、特許文献6〜8)。
しかし、中空粒子を用いると、かかる空隙を有しない粒子(中実粒子)に比べて硬化膜の耐擦傷性が低下する欠点があった。
【0007】
【特許文献1】特開昭61−40845号公報
【特許文献2】特公平6−98703号公報
【特許文献3】特開平6−115023号公報
【特許文献4】特開2002−265866号公報
【特許文献5】特開平10−316860号公報
【特許文献6】特開2003−139906号公報
【特許文献7】特開2002−317152号公報
【特許文献8】特開平10−142402号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明は、従来のシリカ粒子を用いた場合に比べて屈折率が低く、耐擦傷性に優れる硬化膜を与える硬化性樹脂組成物及びその硬化膜を有する反射防止膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、本発明は、下記の硬化性樹脂組成物、それを硬化させた膜及び反射防止膜を提供する。
1.下記成分(A)、(B)、及び(C):
(A)水酸基含有含フッ素重合体、
(B)無機フッ化物、
(C)架橋性化合物
を含有する硬化性樹脂組成物。
2.硬化性樹脂組成物の前記(A)水酸基含有含フッ素重合体、及び前記(B)無機フッ化物の合計を100質量部としたとき、前記(A)水酸基含有含フッ素重合体を20〜95質量部、前記(B)無機フッ化物を5〜80質量部含有する1に記載の硬化性樹脂組成物。
3.前記(B)無機フッ化物が、波長589nmにおける屈折率が1.45未満である無機フッ化物からなる粒子である1又は2に記載の硬化性樹脂組成物。
4.前記(B)無機フッ化物が、フッ化マグネシウムである1〜3のいずれか一に記載の硬化性樹脂組成物。
5.前記(C)架橋性化合物が、水酸基含有含フッ素重合体中に存在する水酸基と反応可能なアミノ基を有する化合物である1〜4のいずれか一に記載の硬化性樹脂組成物。
6.さらに、(D)酸触媒を含有する1〜5のいずれか一に記載の硬化性樹脂組成物。
7.反射防止膜用である1〜6のいずれか一に記載の硬化性樹脂組成物。
8.上記1〜7のいずれか一に記載の硬化性樹脂組成物を硬化させて得られ、波長589nmにおける屈折率が1.45未満である膜。
9.上記8に記載の膜を有する反射防止膜。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、低い屈折率、優れた耐擦傷性を有する硬化膜を与える硬化性樹脂組成物及び該硬化膜を有する反射防止膜が得られる。
また、本発明によれば、加熱することにより、簡便かつ効率的に低い屈折率、優れた耐擦傷性を有する硬化膜、及び該硬化膜を有する反射防止膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の硬化性樹脂組成物及び反射防止膜の実施形態について以下説明する。
1.硬化性樹脂組成物
本発明の硬化性樹脂組成物(以下、「本発明の組成物」ということがある)は、下記の成分(A)〜(F)を含み得る。これらの成分のうち、(A)〜(C)は必須成分であり、(D)〜(F)は適宜含むことのできる任意成分である。
(A)水酸基含有含フッ素重合体
(B)無機フッ化物
(C)架橋性化合物
(D)酸触媒
(E)有機溶媒
(F)その他の添加剤
【0012】
本発明の組成物においては、(A)成分により低屈折率、撥水性、撥油性、ホコリ拭取り性、指紋拭取り性など反射防止膜としての優れた機能を発現することができる。
無機フッ化物((B)成分)の添加により、低屈折率でかつ高硬度の硬化膜硬化膜が得られる。
また、(A)成分が水酸基を有することで、熱重合性の(C)成分と架橋することができ、耐擦傷性が向上する。
これらの成分について以下説明する。
【0013】
(A)水酸基含有含フッ素重合体
水酸基含有含フッ素重合体は、好ましくは、下記構造単位(a)及び/又は(b)、並びに(c)及び/又は(d)を含んでなる(ただし、(b)及び(c)のみを含んでなる水酸基含有含フッ素重合体は除く)。
(a)下記式(1)で表される構造単位。
(b)下記式(2)で表される構造単位。
(c)下記式(3)で表される構造単位。
(d)下記式(4)で表される構造単位。
【0014】
【化1】

[式(1)中、R1はフッ素原子、フルオロアルキル基又は−OR2で表される基(R2はアルキル基又はフルオロアルキル基を示す)を示す]
【0015】
【化2】

[式(2)中、R3は水素原子又はメチル基を、R4はアルキル基、−(CH2)x−OR5若しくは−OCOR5で表される基(R5はアルキル基、フルオロアルキル基又はグリシジル基を、xは0又は1の数を示す)、−O−(CH2)x’−R5’で表される基(R5’はパーフルオロアルキル基を、x’は1〜10の数を示す)、カルボキシル基又はアルコキシカルボニル基を示す]
【0016】
【化3】

[式(3)中、R6は水素原子又はメチル基を、R7は水素原子又はヒドロキシアルキル基を、vは0又は1の数を示す]
【0017】
【化4】

[式(4)中、Rfはフッ素を含有する炭素数2〜10の2価の有機基を示す。]
【0018】
(i)構造単位(a)
上記式(1)において、R1及びR2のフルオロアルキル基としては、トリフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロヘキシル基、パーフルオロシクロヘキシル基等の炭素数1〜6のフルオロアルキル基が挙げられる。また、R2のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等の炭素数1〜6のアルキル基が挙げられる。
【0019】
構造単位(a)は、含フッ素ビニル単量体を重合成分として用いることにより導入することができる。このような含フッ素ビニル単量体としては、少なくとも1個の重合性不飽和二重結合と、少なくとも1個のフッ素原子とを有する化合物であれば特に制限されるものではない。このような例としてはテトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、3,3,3−トリフルオロプロピレン等のフルオロオレフィン類;アルキルパーフルオロビニルエーテル又はアルコキシアルキルパーフルオロビニルエーテル類;パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)、パーフルオロ(ブチルビニルエーテル)、パーフルオロ(イソブチルビニルエーテル)等のパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)類;パーフルオロ(プロポキシプロピルビニルエーテル)等のパーフルオロ(アルコキシアルキルビニルエーテル)類の一種単独又は二種以上の組み合わせが挙げられる。
これらの中でも、ヘキサフルオロプロピレンとパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)又はパーフルオロ(アルコキシアルキルビニルエーテル)がより好ましく、これらを組み合わせて用いることがさらに好ましい。
【0020】
尚、構造単位(a)の含有率は、水酸基含有含フッ素重合体における構成単位(a)〜(d)の合計量に対して、20〜70モル%である。この理由は、含有率が20モル%未満になると、本願が意図するところの光学的にフッ素含有材料の特徴である、低屈折率の発現が困難となる場合があるためであり、一方、含有率が70モル%を超えると、水酸基含有含フッ素重合体の有機溶剤への溶解性、透明性、又は基材への密着性が低下する場合があるためである。
また、このような理由により、構造単位(a)の含有率を、水酸基含有含フッ素重合体における構成単位(a)〜(d)の合計量に対して、25〜65モル%とするのがより好ましく、30〜60モル%とするのがさらに好ましい。
【0021】
(ii)構造単位(b)
式(2)において、R4又はR5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ラウリル基等の炭素数1〜12のアルキル基が挙げられ、アルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等が挙げられる。また、R5’のフルオロアルキル基としては、パーフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基、パーフルオロヘプチル基、パーフルオロオクチル基、パーフルオロノニル基、パーフルオロデシル基等が挙げられる。
【0022】
構造単位(b)は、上述の置換基を有するビニル単量体を重合成分として用いることにより導入することができる。このようなビニル単量体の例としては、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、tert−ブチルビニルエーテル、n−ペンチルビニルエーテル、n−ヘキシルビニルエーテル、n−オクチルビニルエーテル、n−ドデシルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル;3,3,3-プロピルフルオロプロピルビニルエーテル、3,3,4,4,4−ペンタフルオロブチルビニルエーテル、3,3,4,4,5,5,5−ヘプタフルオロペンチルビニルエーテル、3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシルビニルエーテル3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,7−ドデカフルオロヘプチルビニルエーテル、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−プロパデカフルオロオクチルビニルエーテル3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,9−ペンタデカフルオロノニルビニルエーテル、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−ヘプタデカフルオロデシルビニルエーテル等のフルオロアルキルビニルエーテル;シクロアルキルビニルエーテル類;エチルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル等のアリルエーテル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプロン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ステアリン酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル類;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、2−(n−プロポキシ)エチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸類等の一種単独又は二種以上の組み合わせが挙げられる。
【0023】
尚、構造単位(b)の含有率は、水酸基含有含フッ素重合体における構成単位(a)〜(d)の合計量に対して、10〜70モル%である。この理由は、含有率が10モル%未満になると、水酸基含有含フッ素重合体の有機溶剤への溶解性が低下する場合があるためであり、一方、含有率が70モル%を超えると、水酸基含有含フッ素重合体の透明性、及び低反射率性等の光学特性が低下する場合があるためである。
また、このような理由により、構造単位(b)の含有率を、水酸基含有含フッ素重合体における構成単位(a)〜(d)の合計量に対して、20〜60モル%とするのがより好ましい。
【0024】
(iii)構造単位(c)
式(3)において、R7のヒドロキシアルキル基としては、2−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシプロピル基、3−ヒドロキシプロピル基、4−ヒドロキシブチル基、3−ヒドロキシブチル基、5−ヒドロキシペンチル基、6−ヒドロキシヘキシル基が挙げられる。
【0025】
構造単位(c)は、水酸基含有ビニル単量体を重合成分として用いることにより導入することができる。このような水酸基含有ビニル単量体の例としては、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、3−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、3−ヒドロキシブチルビニルエーテル、5−ヒドロキシペンチルビニルエーテル、6−ヒドロキシヘキシルビニルエーテル等の水酸基含有ビニルエーテル類、2−ヒドロキシエチルアリルエーテル、4−ヒドロキシブチルアリルエーテル、グリセロールモノアリルエーテル等の水酸基含有アリルエーテル類、アリルアルコール等が挙げられる。
また、水酸基含有ビニル単量体としては、上記以外にも、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、カプロラクトン(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等を用いることができる。
【0026】
尚、構造単位(c)の含有率は、水酸基含有含フッ素重合体における構成単位(a)〜(d)の合計量に対して、5〜70モル%とすることが好ましい。この理由は、含有率が5モル%未満になると、水酸基含有含フッ素重合体の有機溶剤への溶解性が低下する場合があるためであり、一方、含有率が70モル%を超えると、水酸基含有含フッ素重合体の透明性、及び低反射率性等の光学特性が低下する場合があるためである。
また、このような理由により、構造単位(c)の含有率を、水酸基含有含フッ素重合体における構成単位(a)〜(d)の合計量に対して、5〜40モル%とするのがより好ましく、5〜30モル%とするのがさらに好ましい。
【0027】
(iv)構造単位(d)
水酸基含有含フッ素重合体は、さらに構造単位(d)を含んで構成することも好ましい。これにより従来のフッ素重合体よりも、さらに低屈折率を示す硬化膜が得られる。
式(4)において、Rfのフッ素を含有する炭素数2〜10の2価の有機基としては、テトラフルオロエチレン基、ヘキサフルオロプロピレン基、下記式(5)で表される構造単位が挙げられる。
【化5】

【0028】
構造単位(d)は、含フッ素ビニル単量体を重合成分として用いることにより導入することができる。このような含フッ素ビニル単量体としては、ユニマテック製 商品名FVEP等が挙げられる。
【0029】
構造単位(d)の含有率は、水酸基含有含フッ素重合体における構成単位(a)〜(d)の合計量に対して、5〜60モル%であることが好ましい。この理由は、含有率が5モル%未満になると、本願が意図するところの光学的にフッ素含有材料の特徴である、低屈折率の発現が困難となる場合があるためであり、一方、含有率が50モル%を超えると、メチルイソブチルケトンなどの有機溶媒への溶解性が低下する場合があるためである。
このような理由により、構造単位(d)の含有率は、水酸基含有含フッ素重合体における構成単位(a)〜(d)の合計量に対して、10〜60モル%とするのがより好ましく、25〜60モル%とするのがさらに好ましい。
【0030】
(v)構造単位(e)及び構造単位(f)
水酸基含有含フッ素重合体は、さらに下記構造単位(e)を含んで構成することも好ましい。
【0031】
(e)下記式(6)で表される構造単位。
【化6】

[式(6)中、R8及びR9は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基又はアリール基を示す]
【0032】
式(6)において、R8又はR9のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜3のアルキル基が、ハロゲン化アルキル基としてはトリフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基等の炭素数1〜4のフルオロアルキル基等が、アリール基としてはフェニル基、ベンジル基、ナフチル基等がそれぞれ挙げられる。
【0033】
構造単位(e)は、前記式(6)で表されるポリシロキサンセグメントを有するアゾ基含有ポリシロキサン化合物を用いることにより導入することができる。このようなアゾ基含有ポリシロキサン化合物の例としては、下記式(7)で表される化合物が挙げられる。
【0034】
【化7】

[式(7)中、R10〜R13は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基又はシアノ基を示し、R14〜R17は、同一でも異なっていてもよく、水素原子又はアルキル基を示し、p、qは1〜6の数、s、tは0〜6の数、yは1〜200の数、zは1〜20の数を示す。]
【0035】
式(7)で表される化合物を用いた場合には、構造単位(e)は、構造単位(f)の一部として水酸基含有含フッ素重合体に含まれる。
【0036】
(f)下記式(8)で表される構造単位。
【化8】

[式(8)中、R10〜R13、R14〜R17、p、q、s、t及びyは、上記式(7)と同じである。]
【0037】
式(7),(8)において、R10〜R13のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等の炭素数1〜12のアルキル基が挙げられ、R14〜R17のアルキル基としてはメチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜3のアルキル基が挙げられる。
【0038】
本発明において、上記式(7)で表されるアゾ基含有ポリシロキサン化合物としては、下記式(9)で表される化合物が特に好ましい。
【0039】
【化9】

[式(9)中、y及びzは、上記式(7)と同じである。]
【0040】
尚、構造単位(e)の含有率を、水酸基含有含フッ素重合体における構成単位(a)〜(d)の合計量を100モル部としたときに、0.1〜10モル部とすることが好ましい。この理由は、含有率が0.1モル部未満になると、硬化後の塗膜の表面滑り性が低下し、塗膜の耐擦傷性が低下する場合があるためであり、一方、含有率が10モル部を超えると、水酸基含有含フッ素重合体の透明性に劣り、コート材として使用する際に、塗布時にハジキ等が発生し易くなる場合があるためである。
また、このような理由により、構造単位(e)の含有率を、水酸基含有含フッ素重合体の全体量に対して、0.1〜5モル部とするのがより好ましく、0.1〜3モル部とするのがさらに好ましい。同じ理由により、構造単位(f)の含有率は、その中に含まれる構造単位(e)の含有率を上記範囲にするよう決定することが望ましい。
【0041】
(vi)構造単位(g)
水酸基含有含フッ素重合体は、さらに下記構造単位(g)を含んで構成することも好ましい。
【0042】
(g)下記式(10)で表される構造単位。
【化10】

[式(10)中、R18は乳化作用を有する基を示す]
【0043】
式(10)において、R18の乳化作用を有する基としては、疎水性基及び親水性基の双方を有し、かつ、親水性基がポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド等のポリエーテル構造である基が好ましい。
【0044】
このような乳化作用を有する基の例としては下記式(11)で表される基が挙げられる。
【化11】

[式(11)中、nは1〜20の数、mは0〜4の数、uは3〜50の数を示す]
【0045】
構造単位(g)は、反応性乳化剤を重合成分として用いることにより導入することができる。このような反応性乳化剤としては、下記式(12)で表される化合物が挙げられる。
【0046】
【化12】

[式(12)中、n、m及びuは、上記式(11)と同様である]
【0047】
尚、構造単位(g)の含有率を、水酸基含有含フッ素重合体における構成単位(a)〜(d)の合計量を100モル部としたときに、0.1〜5モル部とすることが好ましい。この理由は、含有率が0.1モル部以上になると、水酸基含有含フッ素重合体の溶剤への溶解性が向上し、一方、含有率が5モル部以内であれば、硬化性樹脂組成物の粘着性が過度に増加せず、取り扱いが容易になり、コート材等に用いても耐湿性が低下しないためである。
また、このような理由により、構造単位(g)の含有率を、水酸基含有含フッ素重合体の全体量に対して、0.1〜3モル部とするのがより好ましく、0.2〜3モル部とするのがさらに好ましい。
【0048】
(vii)分子量
水酸基含有含フッ素重合体は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで、テトラヒドロフランを溶剤として測定したポリスチレン換算数平均分子量が5,000〜500,000であることが好ましい。この理由は、数平均分子量が5,000未満になると、水酸基含有含フッ素重合体の機械的強度が低下する場合があるためであり、一方、数平均分子量が500,000を超えると、後述する硬化性樹脂組成物の粘度が高くなり、薄膜コーティングが困難となる場合があるためである。
また、このような理由により、水酸基含有含フッ素重合体のポリスチレン換算数平均分子量を10,000〜300,000とするのがより好ましく、10,000〜100,000とするのがさらに好ましい。
【0049】
(A)成分の添加量については、特に制限されるものではないが、(A)成分と(B)成分の合計を100質量部としたとき、通常20〜95質量部である。この理由は、添加量が20質量部未満となると、硬化性樹脂組成物の硬化塗膜の屈折率が高くなり、十分な反射防止効果が得られない場合があるためであり、一方、添加量が95質量部を超えると、硬化性樹脂組成物の硬化塗膜の耐擦傷性が得られない場合があるためである。
また、このような理由から、(A)成分の添加量を25〜85質量部とするのがより好
ましく、30〜80質量部の範囲内の値とするのがさらに好ましい。
【0050】
本発明において、水酸基含有含フッ素重合体は、上記各構成単位を形成する単量体をラジカル重合開始剤を用いて重合することで製造できる。重合様式は、乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法又は溶液重合法のいずれをも用いることができ、重合操作としても、回分式、半連続式又は連続式の操作等から適宜のものを選択することができる。
ラジカル重合開始剤は公知のものを使用できる。
【0051】
水酸基含有含フッ素重合体を得るための重合反応は、溶媒を用いた溶媒系で行うことが好ましい。ここに、好ましい有機溶媒としては、例えば、(1)酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチル、酢酸セロソルブ等のエステル類;(2)アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;(3)テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル類;(4)N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;(5)トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;その他を挙げることができる。さらに必要に応じて、アルコール類、脂肪族炭化水素類等を混合使用することもできる。
【0052】
(B)無機フッ化物
本発明に使用される無機フッ化物は、波長589nmにおける屈折率が1.45未満であることが好ましい。(B)成分は硬化膜の強度を向上させる効果を有するとともに、波長589nmにおける屈折率が1.45未満である無機フッ化物を使用することで硬化膜の屈折率をシリカ粒子を用いた場合よりも低下させることが可能となり、優れた反射防止特性を有する反射防止膜を得ることができる。この様な無機フッ化物としては、フッ化アルミニウム(屈折率:1.38)、フッ化カルシウム(屈折率:1.23〜1.45)、フッ化リチウム(屈折率:1.30)、フッ化マグネシウム(屈折率:1.38〜1.40)等が挙げられ、これらの中で、フッ化リチウム、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウムが好ましく、フッ化マグネシウムが特に好ましい。
【0053】
また、粒子硬度や吸湿性、屈折率を考慮するとフッ化マグネシウムが最も好ましい。市販品のフッ化マグネシウムとしては、ステラケミファ製フッ化マグネシウム、フッ化マグネシウムOP、フッ化マグネシウムG1、フッ化マグネシウムH、三和研磨製フッ化マグネシウムを挙げることができる。
【0054】
本発明の硬化性樹脂組成物には、数平均粒径200nm以下、好ましくは粒径100nm以下、特に好ましくは数平均粒径10〜50nm、さらに好ましくは数平均粒径10〜30nmの無機フッ化物が使用される。粒径は、透過型電子顕微鏡により測定する。数平均粒径が200nmより大きいと形成した塗膜の透明性が低下する可能性がある。また、本発明の硬化性樹脂組成物を硬化させて得られる硬化膜を反射防止膜の低屈折率層として使用する場合、低屈折率層の膜厚は、100nm程度であるため無機フッ化物粒子の粒径が膜厚よりも大きいと、反射防止膜の光学特性や機械的特性が低下するおそれがある。
また、無機フッ化物としては、平均粒径を中心とした上下10nm以内の粒子が全体の95重量%以上である粒度分布を有することが好ましく、平均粒径を中心とした上下5nm以内の粒子が全体の95重量%以上である粒度分布を有することが特に好ましい。
なお、上記市販品は粒径数μmの粗粒子であるため、本発明において(B)成分として用いるためには、粉砕機などを用いて粉砕、分散する必要がある。
【0055】
また、これらの無機フッ化物を水あるいは有機溶剤に分散させて使用してもよい。分散媒として使用できる有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、ブタノール、エチレングリコールモノプロピルエーテル等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類;酢酸エチル、酢酸ブチル、γ−ブチロラクトン等のエステル類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエ−テル類等を挙げることができ、これらの中で、アルコール類及びケトン類が好ましい。これら有機溶剤は、単独で、又は2種以上混合して分散媒として使用することができる。このような有機溶剤に分散した市販のフッ化マグネシウムゾルとしては、日産化学工業製MFS−10Pを挙げることができる。
【0056】
また、無機フッ化物の表面に化学修飾等の表面処理を行ったものを使用することができ、例えば分子中に1以上のアルキル基を有する加水分解性ケイ素化合物又はその加水分解物を含有するもの等を反応させることができる。このような加水分解性ケイ素化合物としては、トリメチルメトキシシラン、トリブチルメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジブチルジメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、1,1,1―トリメトキシ−2,2,2−トリメチル−ジシラン、ヘキサメチル−1,3−ジシロキサン、1,1,1―トリメトキシ−3,3,3−トリメチル−1,3−ジシロキサン、α−トリメチルシリル−ω−ジメチルメトキシシリル−ポリジメチルシロキサン、α−トリメチルシリル−ω−トリメトキシシリル−ポリジメチルシロキサン、ヘキサメチル−1,3−ジシラザン等を挙げることができる。
【0057】
(B)成分の樹脂組成物中における配合量は、(A)成分と(B)成分の合計を100質量部としたとき、通常5〜80質量部配合され、15〜75質量部が好ましく、20〜70質量部がさらに好ましい。尚、粒子の量は、固形分を意味し、粒子が溶剤分散ゾルの形態で用いられるときは、その配合量には溶剤の量を含まない。
【0058】
(C)架橋性化合物
本発明の組成物は、実際上、硬化性を有することが必要であり、水酸基含有含フッ素重合体それ自体が十分な硬化性を有しない場合には、架橋性化合物を配合することにより、必要な硬化性を付与することができ、また硬化特性を改善することができる。架橋性化合物としては、例えば、各種アミノ化合物や、ペンタエリスリトール、ポリフェノール、グリコール等の各種水酸基含有化合物、その他を挙げることができる。
【0059】
架橋性化合物として用いられるアミノ化合物は、水酸基含有含フッ素重合体中に存在する水酸基と反応可能なアミノ基、例えば、ヒドロキシアルキルアミノ基及びアルコキシアルキルアミノ基のいずれか一方又は両方を合計で2個以上含有する化合物であり、具体的には、例えば、メラミン系化合物、尿素系化合物、ベンゾグアナミン系化合物、グリコールウリル系化合物等を挙げることができる。
【0060】
メラミン系化合物は、一般にトリアジン環に窒素原子が結合した骨格を有する化合物として知られているものであり、具体的には、メラミン、アルキル化メラミン、メチロールメラミン、アルコキシ化メチルメラミン等を挙げることができるが、1分子中にメチロール基及びアルコキシ化メチル基のいずれか一方又は両方を合計で2個以上有するものが好ましい。具体的には、メラミンとホルムアルデヒドとを塩基性条件下で反応させて得られるメチロール化メラミン、アルコキシ化メチルメラミン、又はそれらの誘導体が好ましく、特に硬化性樹脂組成物に良好な保存安定性が得られる点、及び良好な反応性が得られる点で、アルコキシ化メチルメラミンが好ましい。架橋性化合物として用いられるメチロール化メラミン及びアルコキシ化メチルメラミンには特に制約はなく、例えば、文献「プラスチック材料講座[8]ユリア・メラミン樹脂」(日刊工業新聞社)に記載されている方法で得られる各種の樹脂状物の使用も可能である。
【0061】
また、尿素系化合物としては、尿素の他、ポリメチロール化尿素その誘導体であるアルコキシ化メチル尿素、ウロン環を有するメチロール化ウロン及びアルコキシ化メチルウロン等を挙げることができる。そして、尿素誘導体等の化合物についても、上記の文献に記載されている各種樹脂状物の使用が可能である。
【0062】
架橋性化合物としては、下記式(13)又は(14)で示される構造を有する化合物が好ましい。
【化13】

式(13)及び(14)中、R25、R27、R29はメチレン基又は炭素数2〜4のアルキレン基を示し、好ましくはメチレン基である。R26、R28、R30は水素又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、好ましくはメチル基である。
上記式(13)又は(14)で示される構造を有する化合物の例としては、サイメル300、301、303、350、370、771、325、327、703、712、272、202、207、212、253、254、506、508、1123、1123−10、1128、1170、1172、1141、1125−80、マイコート102、105、106、130(いずれも三井サイテック製)等が挙げられる。
【0063】
本発明の組成物中における成分(C)の含有量は、(A)成分と(B)成分の合計を100質量部としたとき、好ましくは1〜50質量部であり、さらに好ましくは1〜45質量部、特に好ましくは1〜40質量部である。架橋性化合物の使用量が過少であると、得られる硬化性樹脂組成物により形成される薄膜の耐久性が不十分となる場合があり、50質量部を超えると、水酸基含有含フッ素重合体との反応においてゲル化を回避することが困難であり、しかも硬化膜が低屈折率のものとならず、硬化物が脆いものとなる場合がある。
【0064】
また、本発明において(A)成分の水酸基含有含フッ素重合体と(C)成分の架橋性化合物とを予め反応させて用いることもできる。例えば、フッ素重合体を溶解させた有機溶剤の溶液に架橋性化合物を添加し、適宜の時間加熱、攪拌等により反応系を均一化させながら行えばよい。この反応のための加熱温度は、好ましくは30〜150℃の範囲であり、さらに好ましくは50〜120℃の範囲である。この加熱温度が30℃未満では、反応の進行が極めて遅く、150℃を超えると、目的とする反応の他に、架橋性化合物中のメチロール基やアルコキシ化メチル基同士の反応による橋掛け反応が生じてゲルが生成するので、好ましくない。反応の進行は、メチロール基又はアルコキシ化メチル基を赤外分光分析等により定量する方法、あるいは溶解している重合体を再沈殿法によって回収して、その増加量を測定することにより、定量的な確認を行うことができる。
【0065】
また、水酸基含有含フッ素重合体と架橋性化合物との反応には、有機溶剤、例えば、水酸基含有含フッ素重合体の製造において用いられる有機溶剤と同じもの用いることが好ましい。本発明においては、このようにして得られる、水酸基含有含フッ素重合体と架橋性化合物による反応溶液を、そのまま本発明の組成物の溶液として用いることもできるし、必要に応じて各種の添加剤を配合した上で使用することもできる。
【0066】
(D)酸触媒
酸触媒は、本発明の組成物から形成される硬化膜の硬度及び耐久性の改善を目的として添加される。
本発明の組成物に配合することができる酸触媒は、本発明の組成物の塗膜等を加熱して硬化させる場合に、その加熱条件を、より穏和なものに改善することができる物質である。
本発明で用いることができる酸触媒としては、加熱することによって酸を発生する熱酸発生剤及び放射線を照射することによって酸を発生する感光性酸発生剤が挙げられる。
【0067】
(i)熱酸発生剤
熱酸発生剤の具体例としては、例えば、各種脂肪族スルホン酸とその塩、クエン酸、酢酸、マレイン酸等の各種脂肪族カルボン酸とその塩、安息香酸、フタル酸等の各種芳香族カルボン酸とその塩、アルキルベンゼンスルホン酸とそのアンモニウム塩、各種金属塩、リン酸や有機酸のリン酸エステル等を挙げることができる。
【0068】
(ii)感光性酸発生剤
感光性酸発生剤は、本発明の組成物の塗膜に感光性を付与し、例えば、光等の放射線を照射することによって当該塗膜を光硬化させることを可能にする物質である。感光性酸発生剤としては、例えば、(1)ヨードニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、ジアゾニウム塩、アンモニウム塩、ピリジニウム塩等の各種オニウム塩;(2)β−ケトエステル、β−スルホニルスルホンとこれらのα−ジアゾ化合物等のスルホン化合物;(3)アルキルスルホン酸エステル、ハロアルキルスルホン酸エステル、アリールスルホン酸エステル、イミノスルホネート等のスルホン酸エステル類;(4)下記式(15)で示されるスルホンイミド化合物類;(5)下記式(16)で示されるジアゾメタン化合物類;その他を挙げることができる。
【0069】
【化14】

式(15)中、Xは、アルキレン基、アリレーン基、アルコキシレン基等の2価の基を示し、R19は、アルキル基、アリール基、ハロゲン置換アルキル基、ハロゲン置換アリール基等の1価の基を示す。
【0070】
【化15】

式(16)中、R20及びR21は、互いに同一でも異なってもよく、アルキル基、アリール基、ハロゲン置換アルキル基、ハロゲン置換アリール基等の1価の基を示す。
【0071】
熱酸発生剤及び感光性酸発生剤は併用することができ、さらに、それぞれ単独で、又は2種以上を併用することもできる。熱酸発生剤又は感光性酸発生剤は、形成される硬化膜の硬度及び耐久性の改善を目的でされ、特に、本発明の組成物の硬化後の透明性を低下させず、かつその溶液に均一に溶解するものを選択して用いるのが好ましい。
【0072】
本発明の組成物中における成分(D)の含有量は、(A)成分と(B)成分の合計を100質量部としたとき、通常0.01〜20質量部である。成分(D)の含有量が0.01質量部未満であると、添加した効果が得られない場合があり、20質量部を超えると、得られる硬化膜の強度が低下する場合がある。
上記理由から、成分(D)の含有量は、0.1〜15質量部であることが好ましく、1〜10質量部であることがより好ましい。
【0073】
(E)有機溶剤
有機溶剤は、通常、前記(A)水酸基含有含フッ素重合体の製造に用いた溶剤、あるいは(A)水酸基含有含フッ素重合体と(C)架橋性化合物との反応に用いた溶剤による溶液として得られ、従って、通常は、そのままで溶剤を含有するものであるが、本発明の組成物の塗布性等を改善すること、その他の目的で、別途溶剤を添加し、配合することができる。
【0074】
また、本発明の組成物に含有される好ましい溶剤としては、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、アセトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル類、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、sec−ブタノール、t−ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール類、ベンゼン、トルエン、キシレン、ニトロベンゼン、クロロベンゼン、フェノール等の芳香族類、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル等のエーテル類を挙げることができる。これらの溶剤の中でケトン類、アルコール類、エステル類が特に好ましい。
【0075】
本発明の組成物中における成分(E)の含有量は、(A)成分と(B)成分の合計を100質量部としたとき、通常100〜10000質量部であり、500〜5000質量部が好ましく、1000〜5000重量部がより好ましい。
【0076】
(F)添加剤
本発明の組成物には、当該組成物の塗布性及び硬化後の薄膜の物性の改善や、塗膜に対する感光性の付与等を目的として、例えば、水酸基を有する種々のポリマーやモノマー、顔料又は染料等の着色剤、老化防止剤や紫外線吸収剤等の安定化剤、界面活性剤、重合禁止剤、溶剤、シリカを主成分とする中空粒子、シリカを主成分とする中実粒子等の各種の添加剤を含有させることができる

【0077】
(i)水酸基を有するポリマー
本発明の組成物に配合することができる水酸基を有するポリマーとしては、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有共重合性単量体を共重合して得られるポリマー、ノボラック樹脂又はレゾール樹脂として公知のフェノール骨格を有する樹脂等を挙げることができる。
【0078】
(ii)顔料又は染料等の着色剤
本発明の組成物に配合することができる着色剤としては、例えば、(1)アルミナ白、クレー、炭酸バリウム、硫酸バリウム等の体質顔料;(2)亜鉛華、鉛白、黄鉛、鉛丹、群青、紺青、酸化チタン、クロム酸亜鉛、ベンガラ、カーボンブラック等の無機顔料;(3)ブリリアントカーミン6B、パーマネントレッド6B、パーマネントレッドR、ベンジジンイエロー、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等の有機顔料;(4)マゼンタ、ローダミン等の塩基性染料;(5)ダイレクトスカーレット、ダイレクトオレンジ等の直接染料;(6)ローセリン、メタニルイエロー等の酸性染料;その他を挙げることができる。
【0079】
(iii)老化防止剤、紫外線吸収剤等の安定化剤
本発明の組成物に配合することができる老化防止剤、紫外線吸収剤としては、公知のものを使用することができる。
老化防止剤の具体例としては、例えば、ジ−tert−ブチルフェノール、ピロガロール、ベンゾキノン、ヒドロキノン、メチレンブルー、tert−ブチルカテコール、モノベンジルエーテル、メチルヒドロキノン、アミルキノン、アミロキシヒドロキノン、n−ブチルフェノール、フェノール、ヒドロキノンモノプロピルエーテル、4,4′−[1−〔4−(1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−メチルエチル)フェニル〕エチリデン]ジフェノール、1,1,3−トリス(2,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)−3−フェニルプロパン、ジフェニルアミン類、フェニレンジアミン類、フェノチアジン、メルカプトベンズイミダゾール等を挙げることができる。
【0080】
また、紫外線吸収剤の具体例としては、例えば、フェニルサリシレートに代表されるサリチル酸系紫外線吸収剤、ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤等の各種プラスチックの添加剤として使用される紫外線吸収剤を利用することができる。
【0081】
(iv)界面活性剤
本発明の組成物には、当該組成物の塗布性を改善する目的で界面活性剤を配合することができる。この界面活性剤としては、公知のものを使用することができ、具体的には、例えば、各種アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤を利用することができるが、特に、硬化膜が優れた強度を有し、しかも良好な光学特性を有するものとするために、カチオン系界面活性剤を用いることが好ましい。さらには、第4級アンモニウム塩であることが好ましく、その中でも第4級ポリエーテルアンモニウム塩を用いると、埃拭き取り性がさらに改善される点で特に好ましい。第4級ポリエーテルアンモニウム塩であるカチオン系界面活性剤としては、旭電化工業社製アデカコールCC−15、CC−36、CC−42等が挙げられる。界面活性剤の使用割合は、本発明の組成物100重量部に対して、好ましくは5重量部以下である。
【0082】
次に、本発明の硬化性樹脂組成物の調製方法及び硬化条件を説明する。
本発明の硬化性樹脂組成物は、上記(A)、(B)及び(C)成分、又は必要に応じて上記(D)成分、(E)有機溶媒、及び(F)添加剤をそれぞれ添加して、室温又は加熱条件下で混合することにより調製することができる。
【0083】
(C)成分を添加する場合は、予め(A)成分と(C)成分を反応させてもよい。
(A)成分である水酸基含有含フッ素重合体と(C)成分である架橋性化合物との反応は、例えば、(A)成分を溶解させた有機溶媒の溶液に(C)成分を添加し、適宜の時間加熱、攪拌等により反応系を均一化させながら行えばよい。
【0084】
この反応のための加熱温度は、好ましくは30〜150℃の範囲であり、さらに好ましくは50〜120℃の範囲である。この加熱温度が30℃未満では、反応の進行が極めて遅く、150℃を超えると、目的とする反応の他に、架橋性化合物中のメチロール基やアルコキシ化メチル基同士の反応による橋掛け反応が生じてゲルが生成するので、好ましくない。反応の進行は、メチロール基又はアルコキシ化メチル基を赤外分光分析等により定量する方法、あるいは溶解している重合体を再沈殿法によって回収して、その増加量を測定することにより、定量的な確認を行うことができる。
【0085】
なお、(A)成分と(C)成分との反応には、有機溶媒、例えば、水酸基含有含フッ素重合体の製造において用いられる有機溶媒と同じもの用いることが好ましい。本発明においては、このようにして得られる、水酸基含有含フッ素重合体と架橋性化合物による反応溶液を、そのまま硬化性樹脂組成物の溶液として用いることもできるし、必要に応じて各種の添加剤を配合した上で使用することもできる。
(A)成分と(C)成分との反応後、(B)成分、又は必要に応じて(D)成分、(E)有機溶媒、及び(F)添加剤をそれぞれ添加すればよい。
【0086】
本発明の硬化性樹脂組成物は、溶液状で各種の基材に塗布することができ、得られた塗膜を硬化させることにより、優れた低屈折率膜が形成される。
塗布法としては、公知の塗布方法を使用することができ、特に、ディップ法、コーター法、印刷法等各種の方法を適用することができる。
【0087】
塗布により形成される硬化性樹脂組成物の塗膜は、硬化させて優れた光学特性と耐久性を有する硬化膜を形成させるために、特に、加熱による熱履歴を与えることが好ましい。もちろん、常温で放置した場合にも、時間の経過と共に硬化反応が進み、目的とする硬化膜が形成されるが、実際上は、加熱して硬化させることが、所要時間を短縮する上で効果的である。また、(D)成分の熱酸発生剤を硬化触媒として添加しておくことにより、さらに硬化反応を促進させることができる。硬化反応のための加熱条件は適宜選択することができるが、加熱温度は、塗布の対象である基材の耐熱限界温度以下であることが必要である。
【0088】
2.反射防止膜
本発明の反射防止膜は、上記硬化性樹脂組成物を硬化させた膜からなる低屈折率層を含む。さらに、本発明の反射防止膜は、低屈折率層の下に、高屈折率層、ハードコート層及び/又は基材等を含むことができる。
図1に、かかる反射防止膜10を示す。図1に示すように、基材12の上に、ハードコート層14、低屈折率層18が積層されている。
このとき、基材12の上に、ハードコート層14を設けずに、直接、高屈折率層(図示せず。)を形成してもよく、又はハードコート層14と低屈折率層18との間に高屈折率層を設けてもよい。
また、高屈折率層と低屈折率層18の間、又は高屈折率層とハードコート層14の間に、さらに、中屈折率層(図示せず。)を設けてもよい。
【0089】
(1)低屈折率層
低屈折率層は、本発明の硬化性樹脂組成物を硬化して得られる膜から構成される。硬化性樹脂組成物の構成等については、上述の通りであるため、ここでの具体的な説明は省略するものとし、以下、低屈折率層の屈折率及び厚さについて説明する。
【0090】
硬化性樹脂組成物を硬化して得られる硬化物の589nmにおける屈折率(Na−D線の屈折率、測定温度25℃)、即ち、低屈折率膜の屈折率を1.45未満とすることが好ましい。この理由は、低屈折率膜の屈折率が1.45以上では、高屈折率膜と組み合わせた場合に、反射防止効果が著しく低下する場合があるためである。
従って、低屈折率膜の屈折率を1.44以下とするのがより好ましく、1.43以下とするのがさらに好ましい。
尚、低屈折率膜を複数層設ける場合には、そのうちの少なくとも一層が上述した範囲内の屈折率の値を有していればよく、従って、その他の低屈折率膜は1.45を超えた値であってもよい。
【0091】
また、低屈折率層を設ける場合、より優れた反射防止効果が得られることから、低屈折率層と下層との間の屈折率差を0.05以上の値とするのが好ましい。この理由は、低屈折率層と下層との間の屈折率差が0.05未満の値となると、これらの反射防止膜層での相乗効果が得られず、却って反射防止効果が低下する場合があるためである。
従って、低屈折率層と下層との間の屈折率差を0.1〜0.5の範囲内の値とするのがより好ましく、0.15〜0.5の範囲内の値とするのがさらに好ましい。
【0092】
低屈折率層の厚さについても特に制限されるものではないが、例えば、50〜300nmであることが好ましい。この理由は、低屈折率層の厚さが50nm未満となると、下地としての高屈折率膜に対する密着力が低下する場合があるためであり、一方、厚さが300nmを超えると、光干渉が生じて反射防止効果が低下する場合があるためである。
従って、低屈折率層の厚さを50〜250nmとするのがより好ましく、60〜200nmとするのがさらに好ましい。
尚、より高い反射防止性を得るために、低屈折率層を複数層設けて多層構造とする場合には、その合計した厚さを50〜300nmとすればよい。
【0093】
(2)高屈折率層
高屈折率層を形成するための硬化性組成物としては、特に制限されるものでないが、被膜形成成分として、エポキシ系樹脂、フェノ−ル系樹脂、メラミン系樹脂、アルキド系樹脂、シアネート系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、シロキサン樹脂等の一種単独又は二種以上の組み合わせを含むことが好ましい。これらの樹脂であれば、高屈折率層として、強固な薄膜を形成することができ、結果として、反射防止膜の耐擦傷性を著しく向上させることができるためである。
しかしながら、通常、これらの樹脂単独での屈折率は1.45〜1.62であり、高い反射防止性能を得るには十分で無い場合がある。そのため、高屈折率の無機粒子、例えば金属酸化物粒子を配合することがより好ましい。また、硬化形態としては、熱硬化、紫外線硬化、電子線硬化できる硬化性組成物を用いることができるが、より好適には生産性の良好な紫外線硬化性組成物が用いられる。
【0094】
高屈折率層の厚さは特に制限されるものではないが、例えば、50〜30,000nmであることが好ましい。この理由は、高屈折率層の厚さが50nm未満となると、低屈折率層と組み合わせた場合に、反射防止効果や基材に対する密着力が低下する場合があるためであり、一方、厚さが30,000nmを超えると、光干渉が生じて逆に反射防止効果が低下する場合があるためである。
従って、高屈折率層の厚さを50〜1,000nmとするのがより好ましく、60〜500nmとするのがさらに好ましい。
また、より高い反射防止性を得るために、高屈折率層を複数層設けて多層構造とする場合には、その合計した厚さを50〜30,000nmとすればよい。
尚、高屈折率層と基材との間にハードコート層を設ける場合には、高屈折率層の厚さを50〜300nmとすることができる。
【0095】
(3)ハードコート層
本発明の反射防止膜に用いるハードコート層の構成材料については特に制限されるものでない。このような材料としては、シロキサン樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂等の一種単独又は二種以上の組み合わせを挙げることができる。
【0096】
また、ハードコート層の厚さについても特に制限されるものではないが、1〜50μmとするのが好ましく、5〜10μmとするのがより好ましい。この理由は、ハードコート層の厚さが1μm未満となると、反射防止膜の基材に対する密着力を向上させることができない場合があるためであり、一方、厚さが50μmを超えると、均一に形成するのが困難となる場合があるためである。
【0097】
(4)基材
本発明の反射防止膜に用いる基材の種類は特に制限されるものではないが、例えば、ガラス、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、トリアセチルセルロース樹脂(TAC)、ノルボルネン系樹脂等からなる基材を挙げることができる。これらの基材を含む反射防止膜とすることにより、カメラのレンズ部、テレビ(CRT)の画面表示部、あるいは液晶表示装置におけるカラーフィルター等の広範な反射防止膜の利用分野において、優れた反射防止効果を得ることができる。
【実施例】
【0098】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例の記載に限定されるものではない。
【0099】
(製造例1)
水酸基含有含フッ素重合体1の合成
内容積2.0リットルの電磁攪拌機付きステンレス製オートクレーブを窒素ガスで十分置換した後、酢酸エチル400g、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)53.2g、エチルビニルエーテル36.1g、ヒドロキシエチルビニルエーテル44.0g、過酸化ラウロイル1.00g、上記式(8)で表されるアゾ基含有ポリジメチルシロキサン(VPS1001(商品名)、和光純薬工業(株)製)6.0g及びノニオン性反応性乳化剤(NE−30(商品名)、旭電化工業(株)製)20.0gを仕込み、ドライアイス−メタノールで−50℃まで冷却した後、再度窒素ガスで系内の酸素を除去した。
【0100】
次いでヘキサフルオロプロピレン120.0gを仕込み、昇温を開始した。オートクレーブ内の温度が60℃に達した時点での圧力は5.3×105Paを示した。その後、70℃で20時間攪拌下に反応を継続し、圧力が1.7×105Paに低下した時点でオートクレーブを水冷し、反応を停止させた。室温に達した後、未反応モノマーを放出してオートクレーブを開放し、固形分濃度26.4%のポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液をメタノールに投入しポリマーを析出させた後、メタノールにて洗浄し、50℃にて真空乾燥を行い220gの水酸基含有含フッ素重合体を得た。これを水酸基含有含フッ素重合体とする。使用した単量体と溶剤の仕込み量(g)を表1に示す。
【0101】
【表1】

【0102】
得られた水酸基含有含フッ素重合体に付き、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算数平均分子量及びアリザリンコンプレクソン法によるフッ素含量をそれぞれ測定した。また、1H−NMR、13C−NMRの両NMR分析結果、元素分析結果及びフッ素含量から、水酸基含有含フッ素重合体を構成する各単量体成分の割合を決定した。結果を表2に示す。
【0103】
【表2】

【0104】
尚、VPS1001は、数平均分子量が7〜9万、ポリシロキサン部分の分子量が約10,000の、上記式(8)で表されるアゾ基含有ポリジメチルシロキサンである。NE−30は、上記式(11)において、nが9、mが1、uが30であるノニオン性反応性乳化剤である。
さらに、表2において、単量体と構造単位との対応関係は以下の通りである。
単量体 構造単位
ヘキサフルオロプロピレン (a)
パーフルオロ(プロピルビニルエーテル) (a)
エチルビニルエーテル (b)
ヒドロキシエチルビニルエーテル (c)
NE−30 (g)
ポリジメチルシロキサン骨格 (e)
【0105】
(製造例2)
水酸基含有含フッ素重合体2の合成
内容積2.0リットルの電磁攪拌機付きステンレス製オートクレーブを窒素ガスで十分置換した後、酢酸エチル200g、1−ビニロキシ−3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−ヘプタデカフルオロデカン(FAVE−8)41.2g、1H,1H−パーフルオロ−2−(2−ビニロキシエトキシ)プロパノール(FVEP)58.8g、過酸化ラウロイル0.5g、上記式(8)で表されるアゾ基含有ポリジメチルシロキサン(VPS1001)3.0g及びノニオン性反応性乳化剤(NE−30)5.0gを仕込み、ドライアイス−メタノールで−50℃まで冷却した後、再度窒素ガスで系内の酸素を除去した。
次に昇温を開始し、70℃で20時間攪拌下に反応を継続した。反応を20時間の時点でオートクレーブを水冷し、反応を停止させた。室温に達した後オートクレーブを開放し、固形分濃度24.0%のポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液をメタノールに投入しポリマーを析出させた後、メタノールにて洗浄し、50℃にて真空乾燥を行い100gの水酸基含有含フッ素重合体を得た。これを水酸基含有含フッ素重合体とする。使用した単量体と溶剤を表3に示す。
【0106】
【表3】

【0107】
得られた水酸基含有含フッ素重合体に付き、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算数平均分子量及びアリザリンコンプレクソン法によるフッ素含量をそれぞれ測定した。また、1H−NMR、13C−NMRの両NMR分析結果、元素分析結果及びフッ素含量から、水酸基含有含フッ素重合体を構成する各単量体成分の割合を決定した。結果を表4に示す。
【0108】
【表4】

【0109】
表4において、単量体と構造単位との対応関係は以下の通りである。
単量体 構造単位
FAVE−8 (b)
FVEP (d)
NE−30 (g)
ポリジメチルシロキサン骨格 (e)
【0110】
(製造例3)
フッ化マグネシウム粒子分散ゾル(B−1)((B)成分)の調製
メチルイソブチルケトン1400部、高分子界面活性剤(日本油脂製マリアリムAAB0851)を10部、フッ化マグネシウムゾル(ステラケミファ製フッ化マグネシウムOP(数平均粒子径5μm))190部をホモミキサーにて混合した液を分散機(寿工業製ウルトラアスペックミル)を用いて分散を行った。プレ分散としてジルコニアビーズ(粒径0.5mm)600部を先の混合液に加え、周速5m/sで1時間分散を行った。その後、プレ分散液を回収し、ジルコニアビーズをろ別した。ろ液を用いて本分散として、ジルコニアビーズ(粒径0.2μm)600部をろ液に加え、周速10m/sで2時間分散を行い、白色透明の粒子分散液B−1を得た。B−1をアルミ皿に2g秤量後、120℃のホットプレ−ト上で1時間乾燥、秤量して固形分含量を求めたところ、12質量%であった。
このフッ化マグネシウム系粒子の平均粒子径は、20〜50nmであった。ここで、平均粒子径は透過型電子顕微鏡により測定した。
【0111】
(製造例4)
フッ化マグネシウム分散ゾル(B−2)((B)成分)の調製日産化学製フッ化マグネシウムのIPAゾル・サンコロイドMSF−10P(粒径約0.2μm)。B−2をアルミ皿に2g秤量後、120℃のホットプレート上で1時間乾燥、秤量して固形分含有量を求めたところ、10%質量であった。
サンコロイドMSF−10P1900部、高分子界面活性剤(日本油脂製マリアリムAAB0851)を10部、MIBK1900部を混合した後エバポレーターにて濃縮し、溶液が1910部になるまで濃縮した。
この濃縮した液にMIBKを1900部加え、再度濃縮する。この作業を繰り返し分散液の溶剤をMIBKに置換する。
【0112】
(製造例5)
シリカ粒子(C−1)の調製
固形分が20重量%、pHが2.7、BET法での比表面積が226m/g、メチルレッド吸着法により求めたシリカ粒子上のシラノール濃度が4.1×10−5モル/g、原子吸光法で求めた溶媒中の金属含量が、Naとして4.6ppm、Caとして0.013ppm、Kとして0.011ppmの水分散コロイダルシリカ(日産化学工業(株)製、商品名:スノーテックス−O)30kgをタンクに入れ、50℃に加熱し、循環流量50リットル/分、圧力1kg/cmで、限外濾過膜モジュール((株)トライテック製)及びアルミナ製限外濾過膜(日本碍子(株)製、商品名:セラミックUFエレメント、仕様:4mmΦ、19穴、長さ1m、分画分子量=15万、膜面積=0.24m)を用いて濃縮を行った。0.5時間後、10kgの濾液を排出したところ、固形分は30重量%となった。濃縮開始前の平均透過流速(限外濾過膜の単位面積、単位時間あたりの膜透過重量)は90kg/m/時間であり、濃縮終了時は55kg/m/時間であった。動的光散乱法で求めた数平均粒子径は11nmと濃縮前後で変化しなかった。
【0113】
前述の工程終了後、メタノール14kgを加え、温度50℃、循環流量50リットル/分、圧力1kg/cmで前記限外濾過膜モジュール及び限外濾過膜を用いて濃縮を行い、14kgの濾液を排出する操作を6回繰り返すことで、固形分30重量%、カールフィッシャー法で求めた水分量が1.5重量%、動的光散乱法で求めた数平均粒子径が11nmのメタノール分散コロイダルシリカ20kgを調製した。6回の平均透過流速は60kg/m/時間、所要時間は6時間であった。得られたメタノール分散コロイダルシリカのBET法での比表面積は237m/g、メチルレッド吸着法により求めたシリカ粒子上のシラノール濃度は3.5×10−5モル/gであった。以上により得られたメタノール分散コロイダルシリカを「C−1」とする。
【0114】
(製造例6)
特定有機化合物(Bb−1)の合成
攪拌機付きの容器内のメルカプトプロピルトリメトキシシラン221部及びジブチル錫ジラウレート1部の混合溶液に、イソホロンジイソシアネート222部を、乾燥空気中、50℃で1時間かけて滴下した後、さらに70℃で3時間攪拌した。
続いて、この反応溶液中に新中村化学製NKエステルA−TMM−3LM−N(ペンタエリスリトールトリアクリレート60質量%とペンタエリスリトールテトラアクリレート40質量%からなる。このうち、反応に関与するのは、水酸基を有するペンタエリスリトールトリアクリレートのみである。)549部を30℃で1時間かけて滴下した後、さらに60℃で10時間攪拌して反応液を得た。
この反応液中の生成物、すなわち、重合性不飽和基を有する有機化合物における残存イソシアネート量をFT−IRで測定したところ、0.1質量%以下であり、各反応がほぼ定量的に行われたことを確認した。生成物の赤外吸収スペクトルは原料中のメルカプト基に特徴的な2550カイザーの吸収ピーク及び原料イソシアネート化合物に特徴的な2260カイザーの吸収ピ−クが消失し、新たにウレタン結合及びS(C=O)NH−基に特徴的な1660カイザーのピーク及びアクリロキシ基に特徴的な1720カイザーのピークが観察され、重合性不飽和基としてのアクリロキシ基と−S(C=O)NH−、ウレタン結合を共に有するアクリロキシ基修飾アルコキシシランが生成していることを示した。以上により、チオウレタン結合と、ウレタン結合と、アルコキシシリル基と、重合性不飽和基とを有する化合物773部と反応に関与しなかったペンタエリスリトールテトラアクリレート220部の組成物(Bb−1)を得た。
【0115】
(製造例7)
アクリル変性シリカ粒子(C’−1)の調製
製造例6で合成した特定有機化合物(Bb−1)8.7部、メチルエチルケトンシリカゾル(日産化学工業(株)製、商品名:MEK−ST(数平均粒子径0.022μm、シリカ濃度30%))91.3部(固形分27.4部)、イソプロパノール0.2部及びイオン交換水0.1部の混合液を、80℃、3時間攪拌後、オルト蟻酸メチルエステル1.4部を添加し、さらに1時間同一温度で加熱攪拌することで無色透明の粒子分散液C’−1を得た。C’−1をアルミ皿に2g秤量後、120℃のホットプレート上で1時間乾燥、秤量して固形分含量を求めたところ、35質量%であった。
このシリカ系粒子の平均粒子径は、20nmであった。ここで、平均粒子径は透過型電子顕微鏡により測定した。
【0116】
(製造例8)
シリカ粒子含有ハードコート層用組成物の調製
紫外線を遮蔽した容器中において、製造例7で合成したC’−1を86部(固形分として30部)、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート65部、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルフォリノプロパン−1−オン5部、MIBK44部を50℃で2時間攪拌することで均一な溶液のハードコート層用組成物を得た。この組成物をアルミ皿に2g秤量後、120℃のホットプレート上で1時間乾燥、秤量して固形分含量を求めたところ、50質量%であった。
【0117】
(製造例9)
硬化性樹脂組成物塗工用基材の作製
片面易接着ポリエチレンテレフタレートフィルムA4100(東洋紡績(株)製、膜厚188μm)の易接着処理面に、製造例8で調製したシリカ粒子含有ハードコート層用組成物をワイヤーバーコータで膜厚3μmとなるように塗工し、オーブン中、80℃で1分間乾燥し、塗膜を形成し、硬化性樹脂組成物塗工用基材を作製した。
【0118】
(実施例1)
表5に示すように、製造例1で得た水酸基含有含フッ素重合体1・70g、製造例3で得たフッ化マグネシウムゾルB−1を固形分量にて15g、尿素化合物サイメル303(日本サイテック(株)製)10g、熱酸発生剤キャタリスト4050(日本サイテック(株)製)22.2g(固形分濃度22.5%)及びMIBK 1982.8gを、攪拌機をつけたガラス製セパラブルフラスコに仕込み、室温にて1時間攪拌し均一な硬化性樹脂組成物を得た。また、製造例3の方法により固形分濃度を求めたところ5質量%であった。
【0119】
(実施例2〜6、比較例1〜4)
表5の組成に従った他は、実施例1と同様にして各硬化性組成物を得た。表中の成分の組成単位は質量%であり、各成分の配合量は固形分量を示す。
る。
【0120】
【表5】

【0121】
(評価例1)
外観の評価
各硬化性樹脂組成物をワイヤーバーコータを用いて製造例9で得られたハードコート上に膜厚0.1μmとなるように塗工し、得られた塗膜を、120℃で1時間加熱して反射防止膜層を形成した。得られた反射防止膜の外観を目視で評価した。評価基準は以下の通りである。結果を表5に示す。
○:透明で塗布ムラがない
△:若干塗布ムラあり又は若干濁りがある
×:全面に塗布ムラあり又は濁りがある
【0122】
(評価例2)
硬化膜の屈折率測定
各硬化性樹脂組成物をスピンコーターによりシリコンウェハー上に、乾燥後の厚さが約0.1μmとなるように塗布後、120℃で1時間加熱して硬化させた。得られた硬化物について、エリプソメーターを用いて25℃での波長589nmにおける屈折率(n25)を測定した。結果を表5に示す。
【0123】
(評価例3)
反射防止膜の反射率測定
評価例1で得られた反射防止膜の裏面を黒色スプレーで塗装し、分光反射率測定装置(大型試料室積分球付属装置150−09090を組み込んだ自記分光光度計U−3410、日立製作所(株)製)により、波長340〜700nmの範囲で反射率をマイクロレンズ側から測定して評価した。具体的には、アルミの蒸着膜における反射率を基準(100%)として、各波長における反射防止用積層体(反射防止膜)の反射率を測定し、そのうち波長589nmにおける光の反射率から反射防止性を評価した。
【0124】
(評価例4)
耐擦傷性試験(スチールウール耐性テスト)
評価例1で得られた硬化膜を、スチールウール(ボンスターNo.0000、日本スチールウール(株)製)を学振型摩擦堅牢度試験機(AB-301、テスター産業(株)製)に取りつけ、硬化膜の表面を荷重500gの条件で10回繰り返し擦過し、当該硬化膜の表面における傷の発生の有無を、以下の基準により目視で確認した。結果を表5に示す。
◎:硬化膜の剥離や傷の発生がほとんど認められない。
○:硬化膜にわずかな細い傷が認められる。
△:硬化膜全面に筋状の傷が認められる。
×:硬化膜の剥離が生じる。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明の硬化性樹脂組成物は、耐擦傷性、塗工性及び耐久性に優れ、特に反射防止膜として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】本発明の一実施形態による反射防止膜の断面図である。
【符号の説明】
【0127】
10 反射防止膜
12 基材
14 ハードコート層
18 低屈折率層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)、(B)、及び(C):

(A)水酸基含有含フッ素重合体、
(B)無機フッ化物、
(C)架橋性化合物
を含有する硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
硬化性樹脂組成物の前記(A)水酸基含有含フッ素重合体、及び前記(B)無機フッ化物の合計を100質量部としたとき、前記(A)水酸基含有含フッ素重合体を20〜95質量部、前記(B)無機フッ化物を5〜80質量部含有する請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記(B)無機フッ化物が、波長589nmにおける屈折率が1.45未満である無機フッ化物からなる粒子である請求項1又は2に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記(B)無機フッ化物が、フッ化マグネシウムである請求項1〜3のいずれか一に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記(C)架橋性化合物が、水酸基含有含フッ素重合体中に存在する水酸基と反応可能なアミノ基を有する化合物である請求項1〜4のいずれか一に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
さらに、(D)酸触媒を含有する請求項1〜5のいずれか一に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
反射防止膜用である請求項1〜6のいずれか一に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一に記載の硬化性樹脂組成物を硬化させて得られ、波長589nmにおける屈折率が1.45未満である膜。
【請求項9】
請求項8に記載の膜を有する反射防止膜。

【図1】
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【公開番号】特開2008−7680(P2008−7680A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−180973(P2006−180973)
【出願日】平成18年6月30日(2006.6.30)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】