説明

硬脆材料板

【課題】把持して移動する等の取扱いによっても破損し難い貫通孔を備えた硬脆材料板を提供すること。
【解決手段】表裏面5a、5bに貫通して形成された貫通孔17を備えた硬脆材料板5であって、貫通孔17の内周面の少なくとも一部が、貫通方向に沿って接線の傾きが連続する曲面部であることにより、貫通方向に沿う直線状の内周面に比べて貫通孔17の内周面積が大きく、硬脆材料板5に掛る曲げ荷重が集中しやすい貫通孔17において、貫通孔17の内周面に作用する応力を小さく抑えることができるばかりか、曲面部においては角部が存在せずに、曲げ荷重による応力が局部的に加わらず分散されることで、硬脆材料板5が曲げ荷重に対し割れ難い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表裏面に貫通して形成された貫通孔を備えた硬脆材料板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の貫通孔を備えた硬脆材料板は、鋼製のシャンクの先端にダイヤモンド等からなる砥石を取り付けた砥石部を回転させることで、貫通孔が形成されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2005−199619号公報(第6頁、第12図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1にあっては、硬脆材料板に形成された貫通孔の内周面が、貫通孔の貫通方向に直線状に形成されているため、貫通孔が形成された硬脆材料板の移動等の取扱い時に、貫通孔の内周面におけるこの段差部分に曲げ荷重などの負荷が集中して、硬脆材料板が破損してしまい易く、硬脆材料板の取扱いが困難であった。
【0005】
例えば、貫通孔を有する硬脆材料板を、移動機能を備えた把持手段により、板面を床面に対し略平行に配置して把持した場合に、硬脆材料板全体に、その自重による曲げ荷重が生じることになる。この曲げ荷重による応力は、平面方向に拡がる硬脆材料板の所定箇所にて板面の表裏面を貫通する貫通孔において作用しやすく、例えば、前記把持手段により硬脆材料板を把持した状態で移動しようとした場合に、わずかな衝撃によっても、貫通孔の内周面において亀裂が生じ硬脆材料板が破損する虞があった。
【0006】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、把持して移動する等の取扱いによっても破損し難い貫通孔を備えた硬脆材料板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に記載の硬脆材料板は、
表裏面に貫通して形成された貫通孔を備えた硬脆材料板であって、
該貫通孔の内周面の少なくとも一部が、貫通方向に沿って接線の傾きが連続する曲面部であることを特徴としている。
この特徴によれば、貫通孔の内周面の少なくとも一部が、貫通方向に沿って接線の傾きが連続する曲面部であるため、貫通方向に沿う直線状の内周面に比べて貫通孔の内周面積が大きく、硬脆材料板に掛る曲げ荷重が集中しやすい貫通孔において、貫通孔の内周面に作用する応力を小さく抑えることができるばかりか、曲面部においては角部が存在せずに、曲げ荷重による応力が局部的に加わらず分散されることで、硬脆材料板が曲げ荷重に対し割れ難い。
【0008】
本発明の請求項2に記載の硬脆材料板は、請求項1に記載の硬脆材料板であって、
前記曲面部は、硬脆材料板の表裏面の少なくとも何れか一面に形成された貫通孔の開口部よりも大径に形成されていることを特徴としている。
この特徴によれば、貫通孔の曲面部は、硬脆材料板の表裏面の少なくとも何れか一面に形成された貫通孔の開口部よりも大径に形成されているため、硬脆材料板に掛る曲げ荷重が最も大きく作用する硬脆材料板の表面若しくは裏面において、曲げ荷重に対し割れ難さを向上させることができる。また、硬脆材料板に掛る曲げ荷重による応力が、貫通孔から径方向に離間する方向に分散されるため、貫通孔に集中する曲げ荷重を、硬脆材料板における貫通孔の径方向周辺部分で受け持たせることができる。
【0009】
本発明の請求項3に記載の硬脆材料板は、請求項2に記載の硬脆材料板であって、
前記曲面部は、硬脆材料板の表裏面の中間に位置する中心面を中心として、貫通方向に略対称に形成されていることを特徴としている。
この特徴によれば、硬脆材料板に作用する引張り力と圧縮力の何れもが略0に成る仮想の中心の面を、硬脆材料板の表裏面の中間に位置させることができるため、曲げ荷重に対する硬脆材料板の割れ難さを向上させることができる。
【0010】
本発明の請求項4に記載の硬脆材料板は、請求項1に記載の硬脆材料板であって、
前記曲面部は、硬脆材料板の表裏面の両面に形成された貫通孔の開口部よりも小径に形成されるとともに、硬脆材料板の表裏面の中間に位置する中心面を中心として、貫通方向に略対称に形成されていることを特徴としている。
この特徴によれば、貫通孔の曲面部が、硬脆材料板の表裏面の両面に形成された貫通孔の開口部よりも小径に形成されるとともに、硬脆材料板の表裏面の中間に位置する中心面を中心として、貫通方向に略対称に形成されているため、この曲面部を、硬脆材料板の表面若しくは裏面に連続した面取り面として利用できるばかりか、硬脆材料板に作用する引張り力と圧縮力の何れもが略0に成る仮想の中心の面を、硬脆材料板の表裏面の中間に位置させることができるため、曲げ荷重に対する硬脆材料板の割れ難さを向上させることができる。
【0011】
本発明の請求項5に記載の硬脆材料板は、請求項3または4に記載の硬脆材料板であって、
前記曲面部は、貫通方向に沿って均一の曲率のみを有していることを特徴としている。
この特徴によれば、貫通孔の内周面に、貫通方向に沿って均一の曲率のみを有する曲面部が形成されており、貫通孔の内周面において接線の傾きが均一に連続しているため、曲げ荷重による応力を均等に分散させることができる。
【0012】
本発明の請求項6に記載の硬脆材料板は、請求項1ないし5のいずれかに記載の硬脆材料板であって、
前記貫通孔の開口部に、前記曲面部と硬脆材料板の表裏面の少なくとも何れか一面とを連続する面取り部が形成されていることを特徴としている。
この特徴によれば、貫通孔の開口部に、曲面部と硬脆材料板の表裏面の少なくとも何れか一面とを連続する面取り部が形成されているため、硬脆材料板の取扱い時に欠損が生じ難い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施例を以下に説明する。
【実施例1】
【0014】
本発明の実施例1を図1〜図9及び図13に基づいて説明する。先ず図1は、本発明に係る硬脆材料板の適用例を示す概略斜視図である。図2は、本発明の実施例1における孔形成用ドリルを示す斜視図である。図3は、図2と同じく正面図である。図4は、図2と同じく側面図である。図5は、図2と同じく断側面図である。図6は、図2と同じく板ガラスを穿孔する状況を示す断面図である。図7は、図6のA−A断面図である。図8(a)は、図2と同じく板ガラスを貫通した状況を示す断面図であり、(b)は、中間砥石部で研削する状況を示す断面図である。図9(a)は、図2と同じく研削後の板ガラスの研削孔を示す断面図であり、(b)は、板ガラスに曲げ荷重が掛った状況を示す断面図である。図13(a)は、実施例1において研削孔の貫通方向の位置における接線の傾き角度を例示した図であり、(b)は、研削孔の貫通方向の位置における接線の傾き角度を示すグラフである。
【0015】
まず、図1に示されるように、表裏面に貫通した貫通孔を備えた硬脆材料板の適用例を説明する。プラズマディスプレイパネル1は、互いに組み合わされてケースを構成するフロントケース部2及びバックケース部8と、該ケース内に収容される内部ユニット10と、を備えている。
【0016】
内部ユニット10は、放熱用保持板としてのシャーシ部材7と、該シャーシ部材7の前面に支持される表示パネル9と、シャーシ部材7と表示パネル9との間に介在させた接着部材としての熱伝導シート6と、帯電防止、色調・輝度補正、電磁波遮蔽等の機能を有し、表示パネル9の前面に配置される光学機能フィルタ3と、からなる。
【0017】
表示パネル9は、前面側に設けた板ガラス4と、背面側に設けた硬脆材料板としての板ガラス5とから構成されており、板ガラス4は板ガラス5に比べて長辺方向が長く、短辺方向が短く形成されている。これにより板ガラス4と板ガラス5とは互いに重合しない領域が存在し、その非重合領域には表示パネル9内に設けられた電極(図示略)に接続された端子(図示略)が形成されている。この端子には、先端にコネクタ(図示略)を有する複数のフィルム状配線(図示略)が圧着され、前記コネクタがシャーシ部材7の背面に配置される回路基板(図示略)に設けられたコネクタ(図示略)と連結されることにより、該回路基板と表示パネル9とが電気的に接続されている。
【0018】
前面側の板ガラス4と背面側の板ガラス5との周縁部は、ガス放電用空間を形成するために低融点ガラスからなるシール材(図示略)により接着されてシールされ、密封されたガス放電用空間内には所定圧の希ガス(ネオン及びキセノンの混合ガス等)が封入されている。
【0019】
そして、板ガラス5の角部近傍の所定箇所に、前記したガス放電用空間の内部に封入する希ガスを流通させるための貫通孔が、板ガラス5の表裏面を貫通して形成されている。以下に、孔形成用ドリルによる貫通孔の形成工程について説明する。
【0020】
図2の符号11は、本実施例における孔形成用ドリルとしてのダイヤモンドドリルであり、このダイヤモンドドリル11は、先端面と外周面にダイヤモンドを着装した砥石部としてのダイヤモンド砥石部12と、回転軸として作用する鋼製のシャンク13とで構成されている。尚、ダイヤモンド砥石部12は、ダイヤモンド砥粒を用いてメタルボンド砥石あるいは電着砥石として製作される。
【0021】
また、図2ないし図4に示されるように、ダイヤモンド砥石部12は、先端側に形成された小径をなす貫通砥石部としての先端砥石部14と、中間部に形成されて先端砥石部14よりも大径をなす曲面研削部としての後方砥石部15と、で構成されている。
【0022】
先端砥石部14には、粒径が大きな粗いダイヤモンド砥粒が付着されるとともに、後方砥石部15には、先端砥石部14に付着されたダイヤモンド砥粒よりも粒径が小さい細かいダイヤモンド砥粒が付着されている。
【0023】
また、先端砥石部14は、軸方向に沿って略同径に形成された略円筒形状をなし、先端砥石部14の側周には、円筒面14aが形成されるとともに、先端砥石部14の先端側には、先端に向かって直径が小さくなるように形成された円錐面14bが形成されている。尚、図2の部分拡大斜視図に示すように、先端砥石部14の先端部には、円錐面14bによって形成される円錐体の先端が切り欠かれて平坦面に形成された先端面14cが設けられ、すなわち先端砥石部14の先端部の形状が切頭円錐形状となっている。
【0024】
また、後方砥石部15は、先端砥石部14よりもダイヤモンドドリル11の軸方向後方側において設けられているとともに、回転軸の径方向に膨出した曲面を備えている。より具体的には、後方砥石部15は、回転軸の軸方向に沿って接線の傾きが連続する曲面であって、硬脆材料板の表面における開口部を研削する開口部研削面15aと、同様に硬脆材料板の裏面における開口部を研削する開口部研削面15cと、この開口部研削面15a、15cよりも漸次拡径して形成され硬脆材料板の軸方向に内方側を研削する内方部研削面15bと、から成る曲面を有している。また、後方砥石部15は、回転軸の軸方向において内方部研削面15bの中間に位置する中心部を中心として、軸方向に略対称の連続した曲面を備えている。
【0025】
先端砥石部14の先端面14cの中央部には、略半球形状に刳り貫かれて形成された微小な凹部14dが形成されている。また、図3に示すように、先端砥石部14の先端面14cは、ダイヤモンドドリル11の正面視において略円形状をなすとともに、先端面14cに形成された凹部14dは、先端面14cの同心円として形成されている。
【0026】
次に、ダイヤモンドドリル11を用いて硬脆材料板としての板ガラス5が研削される工程について図5から図8を用いて詳述する。図5に示すように、ダイヤモンドドリル11を用いて硬脆材料板である板ガラス5を研削する際には、先ずダイヤモンドドリル11をシャンク13の軸心αを中心に軸回転させつつ、先端砥石部14の先端面14cを板ガラス5の表面に当接させる。このとき先端砥石部14の先端が切頭円錐形状をなしていることで、押圧力が先端面14cに集中するようになり、板ガラス5が研削され易くなっている。
【0027】
また、図6に示すように、ダイヤモンドドリル11のダイヤモンド砥石部12が、シャンク13の軸心αを中心に軸回転しつつ、ダイヤモンド砥石部12と板ガラス5との間に相対的な偏心運動が与えられるようになっている。
【0028】
ダイヤモンドドリル11の偏心運動について詳述すると、図7に示すように、ダイヤモンドドリル11の先端砥石部14の円筒面14aを、板ガラス5に形成された被研削面である略円形状の研削孔17の内周面に当接させ、ダイヤモンドドリル11を軸心α周りにa方向に軸回転させながら、先端砥石部14の円筒面14aが研削孔17の内周面の全周に渡って当接するように、ダイヤモンドドリル11の軸回転の軸心αを偏心軸βの周りにb方向に回転させ、すなわちダイヤモンドドリル11を偏心軸βを中心として遊星回転運動させる。尚、偏心軸βが円形状をなす研削孔17の中心軸となっている。
【0029】
ダイヤモンドドリル11と板ガラス5との間に相対的な偏心運動を与える手段としては、板ガラス5を静止させた状態で固定し、ダイヤモンドドリル11を軸心α周りに軸回転させる第1モータ(図示略)を設けるとともに、ダイヤモンドドリル11及び前記第1モータを研削孔17の中心軸である偏心軸β周りに回転させるための第2モータ(図示略)を設け、これら第1モータ及び第2モータの両方を駆動させることで、ダイヤモンドドリル11と板ガラス5との間に相対的な偏心運動を与える方法がある。
【0030】
また、ダイヤモンドドリル11に偏心運動を与えることによって、板ガラス5に形成される研削孔17の直径は、先端砥石部14の外径よりも大きく、更に後述するように、後方砥石部15の外径よりも大きくなるように形成される。尚、研削孔17の直径は、ダイヤモンドドリル11の回転軸の軸心αと偏心運動の偏心軸βとの離間距離eによって変化するようになっており、軸心αと偏心軸βとの離間距離eが大きければ研削孔17の直径が大きく形成される。
【0031】
更に、本実施例におけるダイヤモンドドリル11では、ダイヤモンド砥石部12をシャンク13の軸心αを中心として軸回転させるとともに、少なくとも研削孔17の中心点(偏心軸β)を先端面14cが通過するように、ダイヤモンド砥石部12と板ガラス5との間に偏心運動を与えて板ガラス5の研削を行うようになっている。そのためダイヤモンド砥石部12が軸回転されたときに、凹部14dに対応した位置や研削孔17の中心点(偏心軸β)に生じる板ガラス5の残存部位を、偏心運動されるダイヤモンド砥石部12の先端面14cによって研削して無くすことができる。
【0032】
また、凹部14dが、板ガラス5が研削されることで発生する切粉を一時的に収容できるようになっている。そのため切粉がダイヤモンド砥石部12の先端面14cと板ガラス5との間に介在することで生じるダイヤモンドドリル11の研削効率の低下を防止できる。尚、ダイヤモンドドリル11を用いた研削の際に、研削孔17と先端砥石部14との間隙に洗浄水を流し込むこともでき、研削によって生じた切粉等をこの洗浄水で洗い流しながら研削できるようになっている。
【0033】
また、凹部14dは、その奥部に行く従って狭くなる形状となっており、このようにすることで、板ガラス5の研削の際に発生する切粉等が凹部14d内から排除され易くなり、切粉等が凹部14d内に詰まり難くなるため、使用後のダイヤモンドドリル11の手入れが容易になる。
【0034】
先端砥石部14が板ガラス5を貫通した後、ダイヤモンドドリル11の軸回転の軸心αと偏心運動の偏心軸βとの離間距離eを徐々に大きくすることで、先端砥石部14の円筒面14aにより研削孔17の内周面を研削して研削孔17の直径が大きくなるように研削孔17を拡大させる。
【0035】
そして、図8(a)に示されるように、先端砥石部14による上述した偏心運動で、研削孔17の直径L2を後方砥石部15の内方部研削面15bの外径L1よりも大きく形成した後に、ダイヤモンド砥石部12を軸方向に研削孔17に更に挿入させ、後方砥石部15を研削孔17の内周面に当接させる。そして、図8(b)に示されるように、ダイヤモンドドリル11を軸心α周りに軸回転させつつ、後方砥石部15の周面が研削孔17の内周面の全周に及ぶように、ダイヤモンドドリル11を偏心運動させる。
【0036】
また、このように、先端砥石部14により板ガラス5を貫通した研削孔17を形成した後に、ダイヤモンドドリル11の軸方向にダイヤモンド砥石部12と板ガラス5との相対位置を移動させ、先端砥石部14よりも後方側において形成された回転軸の径方向に膨出した曲面である後方砥石部15と、板ガラス5との間に偏心運動を与えることにより、板ガラス5に、この後方砥石部15に沿った形状の曲面部を有する研削孔17を形成できる。すなわち、図9(a)に示されるように、貫通孔としての研削孔17の内周面は、後方砥石部15の径方向外方に膨出した曲面に沿って、貫通方向に沿って接線の傾きが連続して径方向外方に拡径した曲面部である。この曲面部は、具体的には板ガラス5の表面5a開口部と裏面5b開口部においては直径L2に形成されるとともに、中間面5cに向けて漸次拡径し、中間面5cにおいては直径L2よりも大径の直径L3に形成される。また、この曲面部は、板ガラス5の表面5a及び裏面5bの中間に位置する中心面5cを中心として、貫通方向に略対称に形成されている。尚、後方砥石部15は、先端砥石部14よりも大径に形成されているため、本実施例のダイヤモンドドリル11は、比較的大径の研削孔17を形成する用途に適している。
【0037】
また、後方砥石部15には、先端砥石部14に付着されたダイヤモンド砥粒よりも細かいダイヤモンド砥粒が付着されているため、後方砥石部15によって研削孔17の内周面の面取りができるようになっている。尚、ダイヤモンド砥石部12に別段に円錐面を設け、該円錐面を用いて研削孔17周縁の面取りを行うこともできる。
【0038】
このように、始めに粗いダイヤモンド砥粒が付着された先端砥石部14を用いて板ガラス5を貫通させて研削孔17を形成した後、細かいダイヤモンド砥粒が付着された後方砥石部15により研削孔17の面取りを行うことで、板ガラス5に研削孔17を形成する研削時間を短縮できるばかりか、貫通用のドリルとその他の面取り用の器具との交換作業が必要なくなり、研削孔17形成のための作業時間を短縮できるようになっている。
【0039】
次に、図13(a)に示されるように、本実施例の板ガラス5に形成された研削孔17における曲面部の接線の傾きについて説明すると、板ガラス5の表面5aに平行の仮想の基準面Kに対する接線の傾き角度θは、図13(a)で例示されるθ1ないしθ6のように連続して変化している。図13(b)に示されるように、板ガラス5に形成された研削孔17の貫通方向の位置t(横軸)における接線の傾き角度θ(縦軸)は、板ガラス5の表面5a(t=0)から裏面5b(t=T)に向かって連続して増加している。具体的には、板ガラス5の表面5aと裏面5bとの仮想の中間面5c(t=T/2)において、傾き角度θ4はπ/2を示し、この中間面5cを中心として板ガラス5の表裏面に向かって、傾き角度θは略対称に変化している。
【0040】
次に、図9(b)に示されるように、上述したようにダイヤモンドドリル11により形成された研削孔17を有する板ガラス5に作用する曲げ荷重について説明すると、例えば板ガラス5の表面5aを上面として図示しない把持手段により把持すると、図示白抜き矢印方向に曲げ荷重が掛る。具体的には板ガラス5の中間面5cを中心として、表面5a側に引張り力が発生し、この引張り力は、表面5aにおいて最も大きい力として作用する。同様に、中間面5cの裏面5b側に圧縮力が発生し、この圧縮力は、裏面5bにおいて最も大きい力として作用する。
【0041】
次に、板ガラス5の表裏面に貫通した研削孔17の内周面において作用する曲げ荷重について説明すると、曲げ荷重による応力は、研削孔17の内周面の貫通方向における接線方向に向けて作用する。上述したように、ダイヤモンドドリル11のダイヤモンド砥石部12に形成された後方砥石部15により、研削孔17の内周面に、貫通方向に沿って接線の傾きが連続した曲面部が形成されているため、貫通方向に沿う直線状の内周面に比べて研削孔17の内周面積が大きく、板ガラス5に掛る曲げ荷重が集中しやすい研削孔17において、研削孔17の内周面に作用する応力を小さく抑えることができるばかりか、曲面部においては角部が存在せずに、曲げ荷重による応力が局部的に加わらず分散されることで、板ガラス5が曲げ荷重に対し割れ難い。
【0042】
特に、本実施例のように、ダイヤモンドドリル11の後方砥石部15が、板ガラス5の表面5a及び裏面5bにおける開口部を研削する開口部研削面15a、15cから、板ガラス5の開口部よりも内方側を研削する内方部研削面15bに向かって漸次拡径する曲面を有していることで、図9(a)に示されるように、開口部研削面15a、15cにより研削される開口部の孔径L2を、内方部研削面15bにより研削される孔径L3と比べて小径に形成できるため、すなわち、研削孔17の内周面に、開口部から貫通方向内方部に向かって、孔径が漸次拡径する曲面部が形成されているため、板ガラス5に掛る曲げ荷重が最も大きく作用する板ガラス5の表面5a若しくは裏面5bにおいて、曲げ荷重に対し割れ難さを向上させることができる。また、板ガラス5に掛る曲げ荷重による応力が、研削孔17から径方向に離間する方向に分散されるため、研削孔17に集中する曲げ荷重を、板ガラス5における研削孔17の径方向周辺部分で受け持たせることができる。
【0043】
また、内方部研削面15bの中心部を中心として軸方向に略対称の連続した曲面を有した後方砥石部15により、板ガラス5に、この後方砥石部15に沿った曲面を形成できるため、板ガラス5に作用する引張り力と圧縮力の何れもが略0に成る仮想の中心の面を、板ガラス5の表裏面の中間に位置させることができるため、曲げ荷重に対する板ガラス5の割れ難さを向上させることができる。また、板ガラス5の表面5aを上方に向けて把持した場合に生じる、板ガラス5の表面5aに引張り力が掛り裏面5bに圧縮力が掛る方向の曲げ荷重と、この方向と反対に、板ガラス5の裏面5bを上方に向けて把持した場合等に生じる、板ガラス5の裏面5bに引張り力が掛り表面5aに引張り力が掛る曲げ荷重とに対し、同様の割れ難さを生じさせることができる。
【0044】
更に、研削孔17の内周面に、貫通方向に沿って均一の曲率のみを有する曲面部が形成されており、研削孔17の内周面において接線の傾きが均一に連続しているため、曲げ荷重による応力を均等に分散させることができる。
【実施例2】
【0045】
次に、実施例2に係る貫通孔を備えた硬脆材料板につき、図10に基づいて説明する。図10は、本発明の実施例2における板ガラスの研削孔を示す断面図である。なお、上記実施例と同一構成で重複する構成を省略する。
【0046】
図10に示されるように、板ガラス5に形成された貫通孔としての研削孔27の内周面は、板ガラス5の表裏面に形成された研削孔27の開口部よりも大径に形成されている曲面部27cに加えて、この曲面部27cと板ガラス5の表面5aとを連続する面取り部27a、及び曲面部27cと板ガラス5の裏面5bとを連続する面取り部27bを有することとなるため、曲げ荷重による応力を面取り部27a、27bの接線方向に逃がすことができるばかりか、面取りがされているため、板ガラス5の取扱い時に欠損が生じ難い。また、この研削孔27は、板ガラス5の表面5a及び裏面5bの中間に位置する中心面5cを中心として、貫通方向に略対称に形成されている。尚、面取部は、必ずしも板ガラス5の表面5a及び裏面5b両方に形成される必要はなく、板ガラス5の表面5a若しくは裏面5b何れか一方のみに形成されていてもよい。
【実施例3】
【0047】
次に、実施例3に係る貫通孔を備えた硬脆材料板につき、図11及び図14に基づいて説明する。図11は、本発明の実施例3における板ガラスの研削孔を示す断面図である。図14は、実施例3において研削孔の貫通方向の位置における接線の傾き角度を示すグラフである。なお、上記実施例と同一構成で重複する構成を省略する。
【0048】
図11に示されるように、板ガラス5に形成された貫通孔としての研削孔57の内周面は、板ガラス5の表面5a側から内方に向かって表面5aと裏面5bとの略中間まで貫通方向に直線状に延びる内周面57aと、この内周面57aに連続して貫通方向先方に向かって漸次縮径した曲面部57bと、この曲面部57bの最も縮径した縮径箇所57b’に連続して板ガラス5の裏面5bまで貫通方向に直線状に延びる内周面57cと、から形成されている。
【0049】
図14に示されるように、本実施例の板ガラス5に形成された研削孔57の接線の傾きについて説明すると、接線の傾き角度θは、内周面57aで形成される板ガラス5の表面5a(t=0)から中間面5c(t=T/2)に向かって、一定のπ/2であり、傾き角度θは、内周面57bが形成される板ガラス5の裏面5b(t=T)側に向かって連続して増加する。更に、接線の傾き角度θは、縮径箇所57b’(t=T1)において不連続に変化し、この被研削部(t=T1)から裏面5b(t=T)まで一定のπ/2である。
【実施例4】
【0050】
次に、実施例4に係る貫通孔を備えた硬脆材料板につき、図12及び図15に基づいて説明する。図12は、本発明の実施例4における板ガラスの研削孔を示す断面図である。図15(a)は、実施例4において研削孔の貫通方向の位置における接線の傾き角度を例示した図であり、(b)は、研削孔の貫通方向の位置における接線の傾き角度を示すグラフである。なお、上記実施例と同一構成で重複する構成を省略する。
【0051】
図12に示されるように、板ガラス5に形成された貫通孔としての研削孔67の内周面に形成された曲面部は、板ガラス5の表面5a及び裏面5bの両面に形成された研削孔67の開口部よりも小径に形成され、すなわち、開口部から貫通方向内方部に向かって、孔径が漸次縮径して形成されており、また、板ガラス5の表面5a及び裏面5bの両面の中間に位置する中心面5cを中心として、貫通方向に略対称に形成されている。このようにすることで、この曲面部を、板ガラス5の表面5a若しくは裏面5bに連続した面取り面として利用できるばかりか、板ガラス5に作用する引張り力と圧縮力の何れもが略0に成る仮想の中心の面を、板ガラス5の表裏面の中間に位置させることができるため、曲げ荷重に対する板ガラス5の割れ難さを向上させることができる。また、板ガラス5の表面5aに引張り力が掛る方向の曲げ荷重と、この方向と反対に、板ガラス5の裏面5bに引張り力が掛る曲げ荷重とに対し、同様の割れ難さを生じさせることができる。
【0052】
次に、図15(a)に示されるように、本実施例の板ガラス5に形成された貫通孔としての研削孔67における曲面部の接線の傾きについて説明すると、板ガラス5の表面5aに平行の仮想の基準面Kに対する接線の傾き角度θは、図15(a)で例示されるθ1ないしθ6のように連続して変化している。図15(b)に示されるように、板ガラス5に形成された研削孔67の貫通方向の位置t(横軸)における接線の傾き角度θ(縦軸)は、板ガラス5の表面5a(t=0)から裏面5b(t=T)に向かって連続して減少している。具体的には、板ガラス5の表面5aと裏面5bとの仮想の中間面5c(t=T/2)において、傾き角度θ4はπ/2を示し、この中間面5cを中心として板ガラス5の表裏面に向かって、傾き角度θは略対称に変化している。
【0053】
更に、研削孔67の内周面に、貫通方向に沿って均一の曲率のみを有する曲面部が形成されており、研削孔67の内周面において接線の傾きが均一に連続しているため、曲げ荷重による応力を均等に分散させることができる。
【0054】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0055】
例えば、上記実施例では、内周面に、貫通方向に沿って接線の傾きが連続する曲面部が形成されている貫通孔が示されているが、接線の傾きが連続するとは、実施例1における図13(a)、(b)若しくは実施例4における図15(a)、(b)に示されるように、硬脆材料板の貫通方向に亘って連続して変化するものであってもよいし、実施例3における図11、図14に示されるように、硬脆材料板の貫通方向に沿った一部のみに、連続して変化する部分を有するものであってもよい。また、貫通孔の内周面の断面視形状については、必ずしも本実施例に限られず、例えば断面視略正弦曲線であってもよいし、また例えば曲面部の形状が断面視略二次曲線であって、図16に示されるように、接線の傾きが直線状に増減する、すなわち接線の傾きが一次式で表せるものであってもよい。すなわち、接線の傾きが連続する曲面部とは、接線の傾きが一定である面を除外した面のことである。ここで接線の傾きが一定である面とは、例えば、図17(a)に示されるように、板ガラス5の貫通孔としての研削孔87の内周面が、板ガラス5の表裏面に直交する方向に形成された内周面87bと、この内周面87bの板ガラス表面5a側に形成された面取り部87aと、内周面87bの板ガラス裏面5b側に形成された面取り部87cと、から成る断面視連続した直線状に形成されており、図17(b)に示されるように、接線の傾き角度θ(縦軸)が、研削孔87の貫通方向の位置t(横軸)に対し、平行に示される。
【0056】
また、上記実施例では、貫通孔を備えた硬脆材料板の適用例としてプラズマディスプレイパネル1における板ガラス5が示され、前記貫通孔として内部に封入する希ガスを流通させるための研削孔が示されているが、例えば、硬脆材料板の材料は樹脂材等であってもよいし、また例えば、硬脆材料板に備えた貫通孔の用途はネジ部材挿通用の挿通孔等であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明に係る硬脆材料板の適用例を示す概略斜視図である。
【図2】本発明の実施例1における孔形成用ドリルを示す斜視図である。
【図3】図2と同じく正面図である。
【図4】図2と同じく側面図である。
【図5】図2と同じく断側面図である。
【図6】図2と同じく板ガラスを穿孔する状況を示す断面図である。
【図7】図6のA−A断面図である。
【図8】(a)は、図2と同じく板ガラスを貫通した状況を示す断面図であり、(b)は、中間砥石部で研削する状況を示す断面図である。
【図9】(a)は、図2と同じく研削後の板ガラスの研削孔を示す断面図であり、(b)は、板ガラスに曲げ荷重が掛った状況を示す断面図である。
【図10】本発明の実施例2における板ガラスの研削孔を示す断面図である。
【図11】本発明の実施例3における板ガラスの研削孔を示す断面図である。
【図12】本発明の実施例4における板ガラスの研削孔を示す断面図である。
【図13】(a)は、実施例1において研削孔の貫通方向の位置における接線の傾き角度を例示した図であり、(b)は、研削孔の貫通方向の位置における接線の傾き角度を示すグラフである。
【図14】実施例3において研削孔の貫通方向の位置における接線の傾き角度を示すグラフである。
【図15】(a)は、実施例4において研削孔の貫通方向の位置における接線の傾き角度を例示した図であり、(b)は、研削孔の貫通方向の位置における接線の傾き角度を示すグラフである。
【図16】断面視略二次曲線に形成される研削孔の貫通方向の位置における接線の傾き角度を示すグラフである。
【図17】(a)は、板ガラスの断面視連続した直線状に形成された研削孔を示す断面図である。(b)は、研削孔の貫通方向の位置における接線の傾き角度を示すグラフである。
【符号の説明】
【0058】
1 プラズマディスプレイパネル
5 板ガラス(硬脆材料板)
5a 表面
5b 裏面
5c 中間面
11 ダイヤモンドドリル
12 ダイヤモンド砥石部
13 シャンク
14 先端砥石部
15 後方砥石部
17 研削孔(貫通孔)
27 研削孔(貫通孔)
27a 面取り部
27b 面取り部
27c 曲面部
57 研削孔(貫通孔)
57a 内周面
57b 曲面部
57b’ 縮径箇所
57c 内周面
67 研削孔(貫通孔)
87 研削孔
87a 面取り部
87b 内周面
87c 面取り部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表裏面に貫通して形成された貫通孔を備えた硬脆材料板であって、
該貫通孔の内周面の少なくとも一部が、貫通方向に沿って接線の傾きが連続する曲面部であることを特徴とする硬脆材料板。
【請求項2】
前記曲面部は、硬脆材料板の表裏面の少なくとも何れか一面に形成された貫通孔の開口部よりも大径に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の硬脆材料板。
【請求項3】
前記曲面部は、硬脆材料板の表裏面の中間に位置する中心面を中心として、貫通方向に略対称に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の硬脆材料板。
【請求項4】
前記曲面部は、硬脆材料板の表裏面の両面に形成された貫通孔の開口部よりも小径に形成されるとともに、硬脆材料板の表裏面の中間に位置する中心面を中心として、貫通方向に略対称に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の硬脆材料板。
【請求項5】
前記曲面部は、貫通方向に沿って均一の曲率のみを有していることを特徴とする請求項3または4に記載の硬脆材料板。
【請求項6】
前記貫通孔の開口部に、前記曲面部と硬脆材料板の表裏面の少なくとも何れか一面とを連続する面取り部が形成されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の硬脆材料板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2008−266036(P2008−266036A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−107146(P2007−107146)
【出願日】平成19年4月16日(2007.4.16)
【出願人】(390001535)旭栄研磨加工株式会社 (9)
【Fターム(参考)】