説明

磁気エンコーダおよび回転検出装置

【課題】 複列の磁気エンコーダトラックについて、磁気干渉を生じることなく簡単に着磁し得ると共に着磁精度の向上を図り、製造コストの低減を図ることができる磁気エンコーダおよび回転検出装置を提供する。
【解決手段】 この発明の磁気エンコーダ1は、隣合う複列の環状の磁気エンコーダトラック3,4と、芯金2とを有する。複列の磁気エンコーダトラック3,4の被検出面3a,4aを、この磁気エンコーダ1の軸心方向L1を含む平面で切断して見た断面について、前記軸心方向L1に対し斜めに設ける。芯金2を、この磁気エンコーダ1の軸心方向L1を含む平面で切断して見た断面でL形とし、円筒状の内周面7を、回転部材からなる取付対象8の外周面8aに圧入嵌合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、各種機器の回転検出、回転角度検出に使用する磁気エンコーダおよび回転検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
軸受要素の技術分野に関し、ライン状に並べた磁気センサを使用して、内挿したパルス信号を得る技術が開示されている(特許文献1,2)。
1回転あたりの磁極対数が異なる磁気ドラムと、複数の磁気センサとを使用して絶対角度を演算する技術が開示されている(特許文献3)。
前記特許文献1,2における磁気センサを使用して、異なる2つの磁気エンコーダの位相差に基づいて絶対角度を検出する角度検出装置が開示されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2001−518608号公報
【特許文献2】特表2002−541485号公報
【特許文献3】特開平6−58766号公報
【特許文献4】特開2008−233069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1,2を応用した特許文献4の角度検出装置において、センサ素子および演算処理回路を半導体上に集積する場合、センサを可能な限り省スペースに配置したい。
特許文献3で使用する2つの磁気エンコーダを近接配置すると、互いの磁気パターンが干渉して角度検出精度が悪化する。その結果、絶対角度を算出するための位相差が正確に求められず、絶対角度を算出する誤差が増大する。
【0005】
特許文献4に記載された磁気エンコーダを別構成で実現する場合、磁気エンコーダの組立工程時に変形が起こると、着磁精度が悪化する。特に、着磁後に磁気エンコーダを組立てる場合はその影響が大きい。
また、それぞれの磁気エンコーダに着磁された信号を合わせることが難しいため、絶対角度検出の演算回路に位相調整工程や、位相ずれの補正値を設定する必要がある。
複数のセンサ素子間隔を大きくして構成すると上記の問題は解決できるが、半導体チップ面積が大きくなり、製造コストの増加になる。
【0006】
この発明の目的は、複列の磁気エンコーダトラックについて、磁気干渉を生じることなく簡単に着磁し得ると共に着磁精度の向上を図り、製造コストの低減を図ることができる磁気エンコーダおよび回転検出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の磁気エンコーダは、隣合う複列の環状の磁気エンコーダトラックを有する磁気エンコーダにおいて、前記複列の磁気エンコーダトラックの被検出面を、この磁気エンコーダの軸心方向を含む平面で切断して見た断面について、前記軸心方向に対し斜めに設けたことを特徴とする。
【0008】
この構成によると、複列の磁気エンコーダトラックの被検出面を前記軸心方向に対し斜めに設けたため、ラジアルタイプの構造の磁気エンコーダよりも軸方向がコンパクトになり、アキシアルタイプの構造の磁気エンコーダよりも径方向がコンパクトになる。これら複列の磁気エンコーダトラックを芯金上に設ける場合、この磁気エンコーダの取付対象の例えば外周面および端面に沿って、前記芯金の曲げ形状部を配設し得る。この場合、芯金の曲げ形状部自体が互いの磁気エンコーダトラックを分離しているため、複列の磁気エンコーダトラックを近接配置することに起因する互いの磁気パターンで発生する磁気干渉を防ぐことが可能となる。また、磁気干渉を防ぐ部品を新たに追加する必要がないため、磁気エンコーダの構造を簡単化でき製造コストの低減を図ることができると共に、磁気エンコーダのコンパクト化をより図ることができる。
【0009】
隣合う複列の磁気エンコーダトラックの被検出面を、一つの円すい面に沿って設けても良い。この場合において、例えば、隣合う複列の磁気エンコーダトラックの被検出面を同心に設ける。この構成によると、複列の磁気エンコーダトラックの成形性の向上を図ることができる。これら被検出面を一つの円すい面に沿って容易に後加工することができ、製造コストの低減を図れる。また、複列の磁気エンコーダトラックを成形する金型の構造を簡単化することも可能となる。さらにこの金型の補修を容易化できる。よって、製造コストの低減をより図れる。
【0010】
前記複列の磁気エンコーダトラックを芯金上に設け、この芯金を磁性体材料で構成すると、さらに効果的に磁気干渉を低減することができる。非磁性体である芯金を採用した場合であっても、複列の磁気エンコーダトラックの被検出面を前述のように斜めに設けた複列の磁気エンコーダトラックを支持する芯金構造そのものによって、隣合う磁気エンコーダトラックの磁気干渉を防ぐことができるが、磁性体とした場合には、より効果的に磁気干渉を低減することができ、より望ましい構成となる。このように芯金により、互いの磁気エンコーダトラックの磁気パターンで発生する磁気干渉を防ぐことができる。芯金が磁性体スペーサの役割をはたすため、部品点数の低減を図り製造コストの低減を図ることができる。また、磁気エンコーダの組立てを簡単化できる。
【0011】
前記芯金を、前記軸心方向を含む平面で切断して見た断面で、L形としても良い。この場合、芯金の材質が非磁性体であっても、前記L形をなす芯金の曲げ形状部分によって、互いの磁気エンコーダトラックの距離を離す効果がある。このため、磁気干渉を減らすことができる。よって、芯金の材質変更に伴う製造コストの低減を図れるうえ、設計の自由度を高めることができる。
【0012】
前記芯金は、前記L形断面における一端部を隣合う列の磁気エンコーダトラックの間に介在させるものとしても良い。この芯金の一端部まで複列の磁気エンコーダトラックで覆うと磁性体スペーサの幅を狭くでき、磁気エンコーダのコンパクト化が可能になる。芯金の一端部を磁気エンコーダトラックから露出させると、互いの磁気エンコーダトラックの磁気パターンで発生する磁気干渉をより防ぐことができる。
【0013】
前記芯金の一面だけに、前記複列の磁気エンコーダトラックを接着して設けても良い。この場合、芯金と磁気エンコーダトラックとの間の成形性が向上し、剥離が起こり難い。したがって、磁気エンコーダの耐久性が上がる。
【0014】
前記磁気エンコーダトラックは、ゴムまたはプラスチックに磁性粉を混合させた材質から成るものであっても良い。
前記磁気エンコーダトラックは、等ピッチの着磁パターンで磁極が交互に繰り返す回転検出用トラックを含むものであっても良い。
【0015】
前記磁気エンコーダトラックは、回転検出用トラックに加えて形成されるトラックの一つが、一回転に一回または数回の繰り返しパターンを設けて、回転の基準位置を示すZ相信号を生成するものであっても良い。
前記磁気エンコーダトラックは、回転検出用トラックに加えて形成されるトラックの一つが、前記回転検出用の等ピッチの着磁パターンとは磁極間隔が異なる等ピッチの着磁パターンで形成されるものであっても良い。
前記磁気エンコーダトラックは、回転検出用トラックに加えて形成されるトラックの一つが、前記回転検出用の等ピッチの着磁パターンと同じ磁極数で且つ位相関係がずれたパターンで形成されるものであっても良い。
前記磁気エンコーダが軸受に組み込まれたものであっても良い。
【0016】
この発明における第1の回転検出装置は、請求項1ないし請求項12のいずれか1項の磁気エンコーダと、この磁気エンコーダの磁界を検出する磁気センサとを備えた回転検出装置において、前記磁気センサが、互いに磁極ピッチ内でずれた位置に配置された複数のセンサ素子を有し、sinおよびcosの2相の信号出力を得られるものであって、磁極内における位置を逓倍して検出するものである。
磁気センサをこのような構成にすると、磁気エンコーダの磁界分布をオン・オフ信号としてではなく、アナログ電圧による正弦波状の信号としてより細かく検出でき、精度の良い絶対角度検出が可能となる。
【0017】
この発明における第2の回転検出装置は、請求項1ないし請求項12のいずれか1項の磁気エンコーダと、この磁気エンコーダの磁界を検出する磁気センサとを備えた回転検出装置において、前記磁気センサが、磁気エンコーダの磁極の並び方向に沿ってセンサ素子が並ぶラインセンサで構成され、sin,cosの2相の信号出力を演算によって生成して、磁極内における位置を検出するものである。
磁気センサをこのようにラインセンサで構成した場合、磁界パターンの歪みやノイズの影響が低減されて、より高い精度で磁気エンコーダの位相を検出し得る。
【発明の効果】
【0018】
この発明の磁気エンコーダは、隣合う複列の環状の磁気エンコーダトラックを有する磁気エンコーダにおいて、前記複列の磁気エンコーダトラックの被検出面を、この磁気エンコーダの軸心方向を含む平面で切断して見た断面について、前記軸心方向に対し斜めに設けたため、複列の磁気エンコーダトラックについて、磁気干渉を生じることなく簡単に着磁し得ると共に着磁精度の向上を図り、製造コストの低減を図ることができる。
【0019】
この発明における第1の回転検出装置は、請求項1ないし請求項12のいずれか1項の磁気エンコーダと、この磁気エンコーダの磁界を検出する磁気センサとを備えた回転検出装置において、前記磁気センサが、互いに磁極ピッチ内でずれた位置に配置された複数のセンサ素子を有し、sinおよびcosの2相の信号出力を得られるものであって、磁極内における位置を逓倍して検出するものであるため、複列の磁気エンコーダトラックについて、磁気干渉を生じることなく簡単に着磁し得ると共に着磁精度の向上を図り、製造コストの低減を図ることができる。
【0020】
この発明における第2の回転検出装置は、請求項1ないし請求項12のいずれか1項の磁気エンコーダと、この磁気エンコーダの磁界を検出する磁気センサとを備えた回転検出装置において、前記磁気センサが、磁気エンコーダの磁極の並び方向に沿ってセンサ素子が並ぶラインセンサで構成され、sin,cosの2相の信号出力を演算によって生成して、磁極内における位置を検出するものであるため、複列の磁気エンコーダトラックについて、磁気干渉を生じることなく簡単に着磁し得ると共に着磁精度の向上を図り、製造コストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】(A)は、この発明の一実施形態に係る磁気エンコーダの要部断面図、(B)は、同磁気エンコーダの芯金の端部を露出させた例を示す要部断面図である。
【図2】各磁気エンコーダトラックに着磁する磁極の各パターン例を示す図である。
【図3】この発明の他の実施形態に係る磁気エンコーダの要部断面図である。
【図4】この発明のさらに他の実施形態に係る磁気エンコーダの要部断面図である。
【図5】この発明のさらに他の実施形態に係る磁気エンコーダの要部断面図である。
【図6】この発明のさらに他の実施形態に係る磁気エンコーダの要部断面図である。
【図7】(A)はこの発明のいずれかの磁気エンコーダと、この磁気エンコーダの磁界を検出する磁気センサとを備えた回転検出装置の概念図、(B)は磁気センサの一構成例の説明図である。
【図8】磁気センサの他の構成例の説明図である。
【図9】この発明のいずれかの実施形態に係る磁気エンコーダを軸受に組込んだ例を示す要部断面図である。
【図10】(A)は、従来のラジアルタイプの磁気エンコーダの断面図、(B)は、従来のアキシアルタイプの磁気エンコーダの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
この発明の一実施形態を図1および図2と共に説明する。
この発明の実施形態に係る磁気エンコーダは、例えば、各種モータの回転制御に用いられる回転検出装置等に適用される。ただし、各種モータの回転制御用に限定されるものではない。
【0023】
図1(A)に示すように、磁気エンコーダ1は、芯金2と、複列(この例では2列)の環状の磁気エンコーダトラック3,4とを備えている。前記芯金2は、例えば、円筒状の磁性体からなり、この芯金2の一部を内向きのフランジ状に形成している。このフランジ状の底部5を折返して軸方向に互いに重なる重なり部分6を設け、芯金2の一端部2aを、前記円筒状の外周面の外径位置に略一致させている。すなわち芯金2を、この磁気エンコーダ1の軸心方向L1を含む平面で切断して見た断面でL形とし、円筒状の内周面7を、回転部材からなる取付対象8の外周面8aに圧入嵌合するようになっている。前記回転部材としては、例えば、回転軸、モータ軸、軸受内輪、軸受外輪等を適用することができる。
【0024】
またフランジ状の底面5aを前記取付対象8の端部に当接させることで、取付対象8に対する磁気エンコーダ1の相対的な軸方向位置が規定される。この芯金2上に複列の磁気エンコーダトラック3,4を設けている。
特に、複列の磁気エンコーダトラック3,4の被検出面3a,4aを、前記軸心方向L1を含む平面で切断して見た断面について、前記軸心方向L1に対し斜めに設けている。この場合において、隣合う複列の磁気エンコーダトラック3,4の被検出面3a,4aは、一つの円すい面に沿って設けられている。これら被検出面3a,4aは同心に設けられ、且つ、被検出面3a,4aの傾斜角度αは、軸心L1に対し例えば45度に設定される。但し、傾斜角度αは45度に限定されるものではない。
【0025】
芯金2は、隣合う列の磁気エンコーダトラック3,4の間に介在させる環状の磁性体からなる磁性体スペーサとしての役割を含む。芯金2の材質は、磁性体、非磁性体のいずれであっても良く、前記L形をなす芯金2の曲げ形状部分によって、互いの磁気エンコーダトラックの距離を離すことができるため、磁気干渉を低減することができる。この芯金を磁性体材料で構成すると、さらに効果的に磁気干渉を低減することができる。芯金2は、この磁性体スペーサとしての役割により、隣合う複列の磁気エンコーダトラック3,4の磁気干渉を防ぐ。芯金2の一端部2aまで複列の磁気エンコーダトラック3,4を覆い、芯金2の一端部2aを磁気エンコーダトラック3,4から露出させないようになっている。また、芯金2の一面だけに、複列の磁気エンコーダトラック3,4を接着して設けている。このため、芯金2と磁気エンコーダトラック3,4との成形性が向上し、芯金2に対し磁気エンコーダトラック3,4が剥離が起こり難い。
【0026】
図10(A)、(B)の従来構造の場合、磁気エンコーダトラック3,4と芯金2との接着面は、芯金2の主たる表面部2aに対し直角となっている部分2bがある。このため、熱収縮時に発生する磁気エンコーダトラック3,4の内部応力により、芯金2と磁気エンコーダトラック3,4との間に剥離が発生する可能性があった。
【0027】
図1(A)に示すように、磁気エンコーダトラック3,4は、例えば、フェライト系、希土類系、または磁性粉を添加して形成した焼結磁石等からなる環状磁性体に着磁したものであっても良い。容易に着磁することができる点と、防錆処理を省ける点でフェライト系が望ましい。各列の磁気エンコーダトラック3,4は例えば個別に着磁される。具体的には、前記環状磁性体をこの軸心回りに回転させながら、この環状磁性体の円周方向の一部ずつ図示外の着磁ヘッドにより着磁する。すなわち、インデックス着磁を行う。これにより、各トラック形成領域を、着磁パターンが互いに異なる磁気エンコーダトラック3,4とする。
その他、磁気エンコーダトラック3,4は、磁性粉を含むゴム、プラスチックからなり、着磁によってそれぞれゴム磁石、プラスチック磁石となるものであっても良い。
【0028】
図2(A)〜(D)は、前述のインデックス着磁等を用いて、環状磁性体の各磁気エンコーダトラックに着磁する磁極の各パターン例を示す。図2(A)のパターン例は、1列の磁気エンコーダトラック3を、互いに異なる磁極を等ピッチで交互に着磁して回転検出用トラックとしている。他の1列の磁気エンコーダトラック4には、回転基準位置検出用の磁極をトラックの一周の一箇所(または複数箇所)に着磁して、回転の基準位置を示すZ相信号を生成するZ相信号生成用トラックとしたものである。
図2(B)のパターン例は、1列の磁気エンコーダトラック3に、互いに異なる磁極を等ピッチで交互に着磁して回転検出用トラックとしている。他の1列の磁気エンコーダトラック4には、互いに異なる磁極を等ピッチで交互に、かつ前記回転検出用トラックとは磁極数を異ならせて着磁して、別の回転検出用トラックとしたものである。
【0029】
図2(C)のパターン例は、1列の磁気エンコーダトラック3に、互いに異なる磁極を等ピッチで交互に着磁して回転検出用トラックとしている。他の1列の磁気エンコーダトラック4には、互いに異なる磁極を交互に、かつ前記回転検出用トラックと磁極数が同じで磁極の位相をずらして着磁して、別の回転検出用トラックとしたものである。
【0030】
図2(D)のパターン例では、アキシアルタイプの環状磁性体での磁気エンコーダトラック3(4)の各磁極対Aにおいて、図2(C)の例と同様なパターンを形成するために、そのN磁極の幅とS磁極の幅とがトラック外周半部つまり径方向内外で互いに異なるように着磁したものである。
これらの複雑な磁気パターンが形成された場合でも、磁性体スペーサとしての役割を含む芯金2によって、互いの磁気干渉が低減される。このため、精度良く回転検出を行うことができる。
【0031】
以上説明した磁気エンコーダ1によると、複列の磁気エンコーダトラック3,4の被検出面3a,4aを軸心方向L1に対し斜めに設けたため、図10(A)に示すラジアルタイプの構造の磁気エンコーダよりも軸方向がコンパクトになり、図10(B)に示すアキシアルタイプの構造の磁気エンコーダよりも径方向がコンパクトになる。これら複列の磁気エンコーダトラック3,4を芯金2上に設け、取付対象8の外周面8aおよび端面に沿って、芯金2の曲げ形状部を配設し得る。この場合、芯金2の曲げ形状部自体が互いの磁気エンコーダトラック3,4を分離しているため、磁性体スペーサの役割となる。このため、複列の磁気エンコーダトラック3,4を近接配置することに起因する互いの磁気パターンで発生する磁気干渉を防ぐことが可能となる。また、磁気干渉を防ぐ部品を新たに追加する必要がないため、磁気エンコーダ1の構造を簡単化でき製造コストの低減を図ることができると共に、磁気エンコーダ1のコンパクト化をより図ることができる。芯金の他に磁性体スペーサを追加して設ける場合よりも、磁気エンコーダ1の組立てを簡単化できる。
【0032】
隣合う複列の磁気エンコーダトラック3,4の被検出面3a,4aを、一つの円すい面に沿って設けたため、複列の磁気エンコーダトラック3,4の成形性の向上を図ることができる。これら被検出面3,4を一つの円すい面に沿って容易に後加工することができ、製造コストの低減を図れる。また、複列の磁気エンコーダトラック3,4を成形する金型の構造を簡単化することも可能となる。さらにこの金型の補修を容易化できる。よって、製造コストの低減をより図れる。
【0033】
前記芯金2をL形断面としたため、芯金2の材質が非磁性体であっても、L形をなす芯金2の曲げ形状部分によって、互いの磁気エンコーダトラック3,4の距離を離す効果がある。このため、磁気干渉を減らすことができる。よって、芯金2の材質変更に伴う製造コストの低減を図れるうえ、設計の自由度を高めることができる。
【0034】
芯金2は、前記L形断面における一端部2aを隣合う列の磁気エンコーダトラック3,4の間に介在させるものとしている。この芯金2の一端部2aまで複列の磁気エンコーダトラック3,4で覆うと、図1(A)に示すラジアルタイプの磁気エンコーダの軸方向X1は図10(A)の従来の構造の軸方向Xよりもコンパクトになり、図1(B)に示すアキシアルタイプの磁気エンコーダの径方向Y1は図10(A)の従来の構造の径方向Yよりもコンパクトになり、磁気エンコーダ1のコンパクト化を図っても所望の磁界強度を満たす磁気エンコーダ1とすることができる。
【0035】
芯金2の一面だけに、複列の磁気エンコーダトラック3,4を接着して設けたため、芯金2と磁気エンコーダトラック3,4との間の成形性が向上する。これにより、熱収縮時に磁気エンコーダトラック3,4が熱収縮した場合でも、芯金2と磁気エンコーダトラック3,4との間に剥離が起こり難くなり、したがって、芯金2に磁気エンコーダトラック3,4を安定させて固定することができる。よって磁気エンコーダ1の耐久性を上げることができる。
図1(B)に示すように、芯金2の一端部2aを磁気エンコーダトラック3,4から露出させると、互いの磁気エンコーダトラックの磁気パターンで発生する磁気干渉をより防ぐことができる。その他図1(A)のものと同様の作用効果を奏する。
【0036】
この発明の他の実施形態について説明する。以下の説明においては、各形態で先行する形態で説明している事項に対応している部分には同一の参照符を付し、重複する説明を略する場合がある。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、先行して説明している形態と同様とする。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0037】
図3に示すように、芯金2の底部5に重なり部分を設けず、L形断面の芯金2としても良い。この例では、芯金2の曲げ形状部の角部2cを、複列の磁気エンコーダトラック3,4から露出させている。この構成によると、芯金2の底部5を折返して軸方向に互いに重ねる加工を減らすことができる。よって製造コストの低減を図れる。この場合にも、複列の磁気エンコーダトラック3,4の被検出面3a,4aを軸心方向L1に対し斜めに設けたため、軸方向および径方向のコンパクト化を図れる。
【0038】
図4に示すように、芯金2の重なり部分を省略し、芯金2のうち、磁気エンコーダトラック3,4を固着するL形断面の部分9と、取付対象8の外周面8aに圧入嵌合する嵌合部分10とを設けても良い。また、芯金2におけるL形断面の部分9は、繋ぎ部分11を介して嵌合部分10に一体に設けられている。この場合にも、芯金2の加工工数の低減を図り、製造コストの低減を図れる。
【0039】
図5に示すように、複列の磁気エンコーダトラック3,4の被検出面3a,4aの傾斜角度αを、図1のものとは逆向きにしても良い。この例の芯金2は、トラックを形成する芯金本体12に、嵌合部分10が延在する。この場合、芯金2の嵌合部分10の外周面に磁気エンコーダトラック3,4を設けない構成にし得るため、芯金2の嵌合部分10の先端を弾性変形し易くできる。したがって、芯金2の嵌合部分10を取付対象8の外周面8aに圧入嵌合し易くできる。よって磁気エンコーダ1の組立て性が向上する。
図6に示すように、芯金2を、トラックを形成する芯金本体12に、段部13を介して、嵌合部分10を一体に設けても良い。この場合、段部13が介在している分、芯金2の嵌合部分10の先端をさらに弾性変形し易くできる。よって磁気エンコーダ1の組立て性が向上する。これら図5、図6の例では、磁気エンコーダ1を組み立てるタクトタイムの短縮を図り、製造コストの低減を図れる。
【0040】
図7(A)に示すように、この発明のいずれかの磁気エンコーダ1と、この磁気エンコーダ1の磁界を検出する磁気センサ18A,18Bとを備えた回転検出装置19を実現し得る。磁気センサ18A,18Bは、対応する磁気エンコーダトラック4,3の磁極対の数よりも高い分解能で磁極検出できる機能、つまり磁気エンコーダトラック4,3の磁極の範囲内における位置の情報を検出する機能を有するものとされる。この機能を満たすために、例えば磁気センサ18Aとして、対応する磁気エンコーダトラック4の1磁極対のピッチλを1周期とするとき、図7(B)のように90度位相差(λ/4)となるように磁極の並び方向に離して配置したホール素子などの2つの磁気センサ素子18A1,18A2を用い、これら2つの磁気センサ素子18A1,18A2により得られる2相の信号(sinφ,cosφ) から磁極内位相(φ=tan-1(sinφ/cosφ))を逓倍して算出するものとしても良い。他の磁気センサ18Bについても同様である。なお、図7(B)の波形図は、磁気エンコーダ4の磁極の配列を磁界強度に換算して示したものである。
磁気センサ18A,18Bをこのような構成とすると、磁気エンコーダトラック4,3の磁界分布をオン・オフ信号としてではなく、アナログ電圧による正弦波状の信号としてより細かく検出でき、精度の良い絶対角度検出が可能となる。
【0041】
磁気エンコーダの磁極内における位置の情報を検出する機能を有する磁気センサ18A,18Bの他の例として、図8(B)に示すようなラインセンサを用いても良い。すなわち、例えば磁気センサ18Aとして、対応する磁気エンコーダトラック4の磁極の並び方向に沿って磁気センサ素子18aが並ぶラインセンサ18AA,18ABを用いる。図8(A)は、磁気エンコーダトラック4における1磁極の区間を磁界強度に換算して波形図で示したものである。この場合、磁気センサ18Aの第1のラインセンサ18AAは、図8(A)における180度の位相区間のうち90度の位相区間に対応付けて配置し、第2のラインセンサ18ABは残りの90度の位相区間に対応付けて配置する。このような配置構成により、第1のラインセンサ18AAの検出信号を加算回路20で加算した信号S1と、第2のラインセンサ18ABの検出信号を加算回路21で加算した信号S2を別の加算回路22で加算することで、図8(C)に示すような磁界信号に応じたsin 信号を得る。また、信号S1と、インバータ23を介した信号S2をさらに別の加算回路24で加算することで、図8(C)に示すような磁界信号に応じたcos 信号を得る。このようにして得られた2相の出力信号から、磁極内における位置を検出する。
磁気センサ18A,18Bをこのようにラインセンサで構成した場合、磁界パターンの歪みやノイズの影響が低減されて、より高い精度で磁気エンコーダトラック4,3の位相を検出することが可能である。
【0042】
図9に示すように、各実施形態のいずれかの磁気エンコーダ1と、この磁気エンコーダ1の磁界を検出する磁気センサ18A,18Bとを転がり軸受に設けても良い。この転がり軸受は、例えば深溝玉軸受が適用され、内輪14と、外輪15と、転動体16と、シール部材17とを有する。この例では、回転側軌道輪である内輪14のうち、シール部材17が配設されていない図9右側の外周面14aに、磁気エンコーダ1の芯金2を圧入嵌合し、外輪15の右側内周面に、磁気センサ18A,18Bを保持するセンサ用芯金25の内周面25aを圧入嵌合している。このセンサ用芯金25の環状内部に、非磁性体からなる樹脂部材26が設けられ、この樹脂部材26内に磁気センサ18A,18Bが埋め込まれている。このように磁気エンコーダ1等を転がり軸受に設けた場合、回転検出の精度を高めることができる。
【符号の説明】
【0043】
1…磁気エンコーダ
2…芯金
3,4…磁気エンコーダトラック
3a,4a…被検出面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣合う複列の環状の磁気エンコーダトラックを有する磁気エンコーダにおいて、
前記複列の磁気エンコーダトラックの被検出面を、この磁気エンコーダの軸心方向を含む平面で切断して見た断面について、前記軸心方向に対し斜めに設けたことを特徴とする磁気エンコーダ。
【請求項2】
請求項1において、隣合う複列の磁気エンコーダトラックの被検出面を、一つの円すい面に沿って設けた磁気エンコーダ。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記複列の磁気エンコーダトラックを芯金上に設け、この芯金は、隣合う列の磁気エンコーダトラックの間に介在させる環状の磁性体からなる磁性体スペーサとしての役割を含む磁気エンコーダ。
【請求項4】
請求項3において、前記芯金を、前記軸心方向を含む平面で切断して見た断面で、L形とした磁気エンコーダ。
【請求項5】
請求項4において、前記芯金は、前記L形断面における一端部を隣合う列の磁気エンコーダトラックの間に介在させるものとした磁気エンコーダ。
【請求項6】
請求項3ないし請求項5のいずれか1項において、前記芯金の一面だけに、前記複列の磁気エンコーダトラックを接着して設けた磁気エンコーダ。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、前記磁気エンコーダトラックは、ゴムまたはプラスチックに磁性粉を混合させた材質から成る磁気エンコーダ。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、前記磁気エンコーダトラックは、等ピッチの着磁パターンで磁極が交互に繰り返す回転検出用トラックを含む磁気エンコーダ。
【請求項9】
請求項8において、前記磁気エンコーダトラックは、回転検出用トラックに加えて形成されるトラックの一つが、一回転に一回または数回の繰り返しパターンを設けて、回転の基準位置を示すZ相信号を生成するものである磁気エンコーダ。
【請求項10】
請求項8において、前記磁気エンコーダトラックは、回転検出用トラックに加えて形成されるトラックの一つが、前記回転検出用の等ピッチの着磁パターンとは磁極間隔が異なる等ピッチの着磁パターンで形成されるものである磁気エンコーダ。
【請求項11】
請求項8において、前記磁気エンコーダトラックは、回転検出用トラックに加えて形成されるトラックの一つが、前記回転検出用の等ピッチの着磁パターンと同じ磁極数で且つ位相関係がずれたパターンで形成されるものである磁気エンコーダ。
【請求項12】
請求項1ないし請求項11のいずれか1項において、前記磁気エンコーダが軸受に組み込まれた磁気エンコーダ。
【請求項13】
請求項1ないし請求項12のいずれか1項の磁気エンコーダと、この磁気エンコーダの磁界を検出する磁気センサとを備えた回転検出装置において、
前記磁気センサが、互いに磁極ピッチ内でずれた位置に配置された複数のセンサ素子を有し、sinおよびcosの2相の信号出力を得られるものであって、磁極内における位置を逓倍して検出するものである回転検出装置。
【請求項14】
請求項1ないし請求項12のいずれか1項の磁気エンコーダと、この磁気エンコーダの磁界を検出する磁気センサとを備えた回転検出装置において、
前記磁気センサが、磁気エンコーダの磁極の並び方向に沿ってセンサ素子が並ぶラインセンサで構成され、sin,cosの2相の信号出力を演算によって生成して、磁極内における位置を検出するものである回転検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−112471(P2011−112471A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−268233(P2009−268233)
【出願日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】