説明

磁気センサー、磁気式エンコーダー、及び磁気センサーの製造方法

【課題】 工業的量産性に優れ、高い摺動性を有するセンサー基板を備える磁気センサーを製造する。
【解決手段】 Siウェハ上に形成した検出素子をフォトレジストで被覆する工程と、前記フォトレジストを加熱して稜に凸曲面を有するレジストパターンを形成する工程と、レジストパターン及びSiウェハをドライエッチングして前記凸曲面の少なくとも一部をSiウェハに転写する工程と、前記Siウェハを切断して前記凸曲面の少なくとも一部を稜に有する矩形状のセンサー基板を得る工程とを備えることを特徴とする磁気センサーの製造方法を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気媒体から出ている磁気を磁気センサーで検出し、可動部材の変位あるいは速度を得ることができる磁気式エンコーダーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
可動部材の変位や速度を精密に検出し帰還制御を行う機械装置は多い。一例として、オートフォーカスカメラ用のレンズ鏡筒がある。レンズ鏡筒内には、電動モーターや超音波モーターで合焦用レンズを進退させるフォーカス機構が設けられている。フォーカス機構を構成する回転筒の回転変位を検出するには、磁気媒体の移動量(すなわち、合焦用レンズ群の進退量)を高精度に検出するため、磁気式エンコーダーが使われている。
【0003】
高精度に変位検出するため、磁気式エンコーダーには高い分解能が要求される。分解能は磁気媒体の着磁ピッチで表すこともでき、その着磁ピッチは従来30〜50μmであったのが、10〜20μmさらに10μm以下が求められて来ている。高分解能化を進めるに従い、磁気媒体と検出素子の間隔であるギャップの影響が大きくなり、ギャップ変動をなくすことが必要となってくる。そのため、磁気媒体と検出素子を接触させて摺動させる方式が有利であり、多く採用されている。
【0004】
本願において、磁気センサーと磁気媒体の位置関係の説明を解りやすくするため、磁気媒体と磁気センサーが相対的に往復移動する方向をX軸、X軸と垂直な方向の内、磁気媒体の曲率中心と交わる方向をZ軸、他方をY軸と定義する。磁気媒体が曲面である場合、X軸は磁気センサーと接触している点における磁気媒体の接線方向をX軸とする。また、磁気センサーを磁気媒体に押し当てる力が加わる点(加圧点)が、Z軸上に位置するときをX軸の原点とし、X軸原点からX方向への位置ずれ(すなわち加圧点のずれ)をXオフセットと定義する。更に、磁気センサーの摺動面と磁気媒体の相対姿勢の説明を解りやすくするため、摺動面がX軸を回転軸として回転する角度をピッチ角、Y軸を回転軸として回転する角度をロール角とし、摺動面がX軸に平行なとき、ロール角を0度、Y軸に平行なとき、ピッチ角を0度と定義する。
【0005】
特許文献1には、検出素子のXオフセットとロール角によるギャップ変動を低減する方法が開示されている。検出素子の摺動方向の幅wが、着磁ピッチの2〜15倍で、0.04〜0.3mmと非常に狭い検出素子を提案している。磁気媒体と接する検出素子の摺動方向幅を0.3mm以下と小さくすることで、Xオフセットやロール角変動によるギャップ変動を減らし、信号出力振幅の安定化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−64381号公報
【特許文献2】特開2006−187839号公報
【特許文献3】特開2006−234542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の様に摺動方向の幅を0.3mm以下と小さくすることで、Xオフセットやロール角の変動があっても、ギャップ変動を抑えることはできるが、実装する上で次の様な問題が発生している。摺動方向の幅wが小さいため、検出素子の摺動方向の両端の稜部が磁気媒体と接触し易くなるので、稜部に面取りを施す必要がある。従来の検出素子は、ウェハ上に素子を形成した後、砥石でウェハを切断して得られた。しかし、稜部に面取り面の形成を行うには検出素子を有する個々の基体単体にしてから行う必要があり、製造コスト低減が難しい。
【0008】
特許文献2は1列に連なったセンサーチップをワイヤで研磨する方法を開示している。しかし、ワイヤの断面形状を反映して面取り面が凹面になり易く、研磨してもエッジが残る可能性があり、磁気媒体と摺動させる際に高い摺動性を得ることが難しい。例えば、図9のセンサー基板310に示すように、Si基板301上にGMRセンサー302を形成し、被覆303を覆った後に、Si基板の角に研削用ワイヤーで面取りを施すと、断面が凹面の面取り面307が形成される恐れがある。
【0009】
特許文献3はセンサーチップの両側にダミーチップを配しているが、センサーチップ自体のエッジは媒体対向面に露出して残っている。円筒面の一部を構成する磁気媒体の曲面に対してはエッジが接触する可能性がある。センサーチップと同等の大きさの部品を2個追加するため、組立工程が複雑になり、製造コスト低減が難しい。
【0010】
本発明は、工業的量産性に優れ、高い摺動性を有する磁気センサー、それを用いた磁気式エンコーダおよび磁気センサーの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の磁気センサーは、磁気媒体に摺動させるセンサー基板と、前記センサー基板を設ける配線基板と、前記配線基板を介して前記センサー基板を支持するセンサー保持板と、前記配線基板に接続されるフレキシブルケーブルとを備え、
前記センサー基板は、磁気媒体と摺動させる検出面の稜にR面取りが施されており、
R面取りされた面は磁気媒体に対向する凸曲面であり、Ra<1nmの面粗さを備えることを特徴とする。
【0012】
前記R面取りされた面は、ドライエッチングで形成された面であることが望ましい。
【0013】
前記センサー基板(センサーチップ)には、巨大磁気抵抗効果を利用した検出素子を有することが望ましい。センサー基板の幅wは0.6mm以上が好ましい。wは媒体が摺動するX方向における幅寸法であり、図2でいうとA−A´に沿った向きの寸法に相当する。一対のR面取り面の間にある検出面は、摺動面となる箇所が平面または凸曲面の少なくとも1つで連続的に構成されており、エッジや凹面を含まない。検出素子を被覆した被膜の面が検出面に相当する。
【0014】
本発明の磁気式エンコーダーは、前記磁気センサーと磁気媒体を用い、カメラ用レンズ鏡筒の回転変位を検知することを特徴とする。
【0015】
本発明の磁気センサーの製造方法は、Siウェハ上に形成した磁気センサーを構成する検出素子をフォトレジストで被覆する工程と、
前記フォトレジストを加熱して、稜に凸曲面を有するレジストパターンを形成する工程と、
レジストパターン及びSiウェハをドライエッチングして、前記凸曲面の形状の少なくとも一部をSiウェハに転写する工程と、
前記Siウェハを切断して、前記凸曲面の少なくとも一部を稜に有すると共に、凸曲面がRa<1nmの面粗さを備える矩形状のセンサー基板を得る工程とを備えることを特徴とする。
【0016】
本発明の磁気センサーの製造方法は、巨大磁気抵抗効果を用いた検出素子をSiウェハに形成する工程と、
前記検出素子を矩形状のフォトレジストで被覆する工程と、
前記矩形状のフォトレジストを加熱して稜線の角を丸めて、凸曲面の稜を有するレジストパターンを得る工程と、
前記レジストパターン及び前記Siウェハをドライエッチングすることにより、レジストパターンの残部及びSiウェハに前記凸曲面の稜の形状を転写する工程と、
前記レジストパターンの残部を除去する工程と、
前記Siウェハに転写された凸曲面の稜の少なくとも一部を残すように、前記Siウェハを切断し、稜に面粗さRa<1nmのR面取りの施された矩形状のセンサー基板を得る工程とを備えることを特徴とする。
【0017】
本発明の磁気式エンコーダーは、センサー保持板に垂直な方向において、磁気媒体に対して50mN以上800mN以下の押し付け荷重を有することが好ましい。
【0018】
50mN未満、すなわち5gf未満では、磁気媒体に対する検出素子の押付け荷重力が小さ過ぎるため、摺動時に検出面が磁気媒体面から離れ、出力電圧が変動するという問題が発生する。これは、磁気媒体の表面の僅かなうねりや凸部での飛び跳ね、外力による離れ等で起こる。800mN、すなわち82gfを超えると検出素子の飛び跳ねや、外力による離れは押させることできるが、耐磨耗性の問題が発生する。プラスチックフィルム上に磁性体をコーティングした磁気媒体では、荷重を上げると磁気媒体表面が変形し検出素子の幅が小さい場合、検出素子の摺動方向側の端部(稜部)で、磁性体を削る現象が起こり、耐摩耗性が急激に悪化する。
【0019】
磁気媒体表面が変形する荷重値は次のようにして求めることができる。曲率半径25mmの磁気媒体表面に透明ガラス板を押し当て、透明ガラスと磁気媒体の接触幅が0.5mmになる荷重を求める。透明ガラスの裏面から観察したときに、磁気媒体が透明ガラス表面に密着している領域と、密着せず離隔している領域の違いが、透明ガラス裏面の側より視覚的にも明瞭に判別できる。そこで密着している領域の幅を接触幅と定義する。接触幅が0.5mmで、磁気媒体表面が変形したとした。磁気媒体の幅方向は3mmとした。また、磁気媒体の表面は平均面粗さRaで約1μmである。磁気媒体のプラスチックフィルムはPETで200μm厚、磁性体は平均粒径1μmから10μmのストロンチュームフェライト粉末を、30μm厚に塗布したものである。変形が始まる押し当て荷重は1136mN(116gf)であり、接触している面積から磁気媒体が変形を起こす単位当たりの荷重は、757mN/mmである。安全率を考え押し当て荷重は800mN(82gf)以下とし、約530mN/mm以下とすることが好ましい。単位当たりの荷重値を530mN/mm以下とすることで、センサー基板による磁気媒体表面の変形が起こらない。言い換えると、センサー基板の長手方向寸法を固定して、単位面積当たりの荷重値を530mN/mmとした場合、センサー基板の摺動方向の幅は0.5mm以上とする必要がある。
【0020】
センサー保持部の略中心部が、磁気媒体に押し付け荷重を与える荷重点になる。この荷重点に検出素子を配すると、磁気媒体との相対的な往復移動に対し、移動方向による検出素子の出力の差を最小限にすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、工業的量産性に優れ、高い摺動性を有する磁気センサー、それを用いた磁気式エンコーダおよび磁気センサーの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】センサー基板の製造工程を説明する概略図である。
【図2】実施例のセンサー基板の上面図である。
【図3】図2のセンサー基板のA−A’断面図である。
【図4】図2のセンサー基板を設けた配線基板の斜視図である。
【図5】実施例の磁気式エンコーダの概略図である。
【図6】図5の磁気式エンコーダの側面図である。
【図7】参考例のセンサー基板の断面図である。
【図8】センサー基板の位置ズレについて概略を説明する断面図である。
【図9】比較例のセンサー基板の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら実施例を詳細に説明する。本発明は必ずしもこれらに限定されるものではない。判り易くするため、同一の部品又は部位には同じ符号を用いる。一対となっている部位には、左右のどちら側であるかを示す為に、符号の後にa又はb等のアルファベットを付した。例えば符号50であれば50aと50bが対応する。
【0024】
(実施例1)
図1はセンサー基板の製造工程を説明する概略図である。
まず、6インチ径のシリコンウェハ1の一方の面上に熱酸化で酸化シリコン膜を形成し、おって検出素子であるGMR素子を形成したい箇所にのみ、パターニングした酸化シリコン膜(図示を省略した)を残した。ついで、フォトリソ技術、真空成膜技術およびエッチング技術を用いて、配線やGMR素子を含むGMRセンサー2を複数個(数千)形成した。GMRセンサーは電極端子を除いて酸化物の保護膜である被覆3で覆うものとした。
【0025】
(工程S1)ついで、被覆3を有するGMRセンサー2を覆うように、シリコンウェハ上にフォトレジスト膜を塗布し、プリベークを行った。i線ステッパーを用い、フォトマスクを通して露光した後、数分間現像を行い、矩形状のフォトレジスト4の膜を形成した。なお、図1のプロセスで形成されたセンサー基板の断面は、図2のA−A´断面に模式的に対応している。
【0026】
(工程S2)ついで、フォトレジスト4の膜を120℃の温度で150secかけて加熱ベークした(所謂、リフローを行った。)。このとき、加熱の影響でフォトレジストの流動性が高くなり、表面張力で矩形の稜が丸くなった。加熱を終了すると、稜の丸みを維持した状態で固化し、レジストパターン5を得た。
【0027】
(工程S3)ついで、ICP(誘導結合プラズマ)ドライエッチング装置で、CFガスを50sccm,酸素ガス10sccmの流量で用いながら、レジストパターン5及びシリコンウェハ1の露出面に対してプラズマ6でドライエッチングを行った。レジストパターン5で被覆されていない箇所は前記酸化シリコン膜も無いので、エッチングが進み、シリコンウェハに溝部が形成されていった。溝部の内壁面が所定のR形状7’となったら、エッチングを終了した。レジストパターンはGMRセンサー2が露出しない範囲でエッチングされるにとどめた。
【0028】
(工程S4)ついで、残っていたレジストパターンを溶剤で除去した。
(工程S5)ついで、エッチングで形成された溝部1aにおいて、ダイサーでシリコンウェハを切断し、矩形状の基部1bを切り分けた。その結果、基部の側は、ドライエッチングで稜線にR面取りが施されたセンサー基板になった。この切り分けでは、隣り合うGMRセンサー2同士の分離も行うので、1つのGMRセンサー2を備えるセンサー基板を複数個得た。なお、工程S5の図示は、図1で省略した。
【0029】
レジストパターン5の稜のR面の形状を、溝部のR形状に正確に転写するために、ドライエッチングのレートがシリコンウェハと同等のフォトレジストを用いる。異種の相或いは粒構造が組み合わさった複合材のウェハ(例えば、薄膜磁気ヘッド用のアルチック基板)は、相或いは粒構造毎にドライエッチングのレートが異なるので、滑らかなR形状の面に仕上げるうえで、本発明に適用することは好ましくない。
【0030】
図2は、図1の製造工程を用いて作製したセンサー基板10の上面図である。センサー基板10の媒体対向側の面と、切断で得られた側面との間には、R面取り部7が形成されている。GMRセンサー2は複数個のGMR素子2aでブリッジ回路を構成しており、配線膜2bを介して電極パッド2cに接続されている。各々のGMR素子2aは、詳しくはスピンバルブ型巨大磁気抵抗効果素子となる積層膜で構成されている。センサー基板の幅w0.5mm、センサー基板の長さ3.0mmとした。幅wはA−A’方向、すなわち摺動方向における寸法である。長さは、図2ではセンサー基板の長手方向寸法であり、wに直交する。
【0031】
図3は、図2のセンサー基板10のA−A’断面図である。GMRセンサー2の詳細を簡略化して図示している。シリコン基板1cでGMRセンサー2を形成された面の両側の稜にはR面取り部が形成されている。SiOの被覆3の端は滑らかなテーパーとなるように形成した。平坦な領域での被覆厚さは約2μmとした。GMR素子や配線を含めても数μm厚であり、センサー基板の厚さ=ウェハの厚さと見なしても差し支えない。GMR素子上のSiO膜は磁気シート60の表面との磁気的なギャップとなっている。R面取り面の間にある検出面は、平面と滑らかな凸曲面で構成されている。
【0032】
図4は、図2のセンサー基板10とそれを設けた配線基板20の斜視図である。配線基板20は配線回路を作りこんだガラスエポキシ基板であり、センサー基板の電極パッド2cと配線基板の配線パッド21とをボンディングワイヤー23を介して導通させている。配線パッド21と配線端子22は対になっており、配線基板内で電気的に接続されている。電極パッド2cにFPC(Flexible Print Circuit)を直接接続することはサイズの違いから難しい。そこで配線基板を設けた。配線端子には無鉛半田を介してFPCを接続する。
【0033】
図5に実施例の磁気式エンコーダの概略図を示す。磁気媒体である磁気シート60、GMR素子2aを有するセンサー基板10、ガラスエポキシ配線基板20、センサー保持板30および取り付け台50について、磁気媒体側から見たときの配置を示す。判り易くするために、透視した磁気シート60を点線で示し、センサー保持板30の背面に隠れている取り付け台50を鎖線で示す。取り付け台はカメラ用レンズ鏡筒の一部分に相当する。
【0034】
図5において、センサー保持板30は、固定部37に形成した孔39a,39bを用いて取り付け台50a,50bにねじ止めで固定した。センサー保持板30を取り付け台に固定することで、磁気シート60に対してセンサー基板10を所定の位置に所定の荷重で押付ける。センサー保持板30は一体の金属薄板からなる板バネで構成されており、具体的には、ガラスエポキシ配線基板20を保持するセンサー保持部31と、2本の弾性アーム部と、1つの固定部37という部位を備える。
【0035】
弾性アーム部を剛性の高い別の部材で作製して組み立てる場合やセンサー保持板のほかにピボットを併用する場合に比べて、一体の板バネからなるセンサー保持板は薄型化を図っている。また、一体の板バネからなるセンサー保持板は、センサー基板の姿勢角変動を低減し、部品点数の低減及び組立コストの低減にも寄与している。このセンサー保持板を磁気式エンコーダに使う際には、平板の状態で用いる。バネ性を高めようと、予め曲げておいてZ方向(厚さ方向)で立体的な構造にすると、加工コストが増加するだけでなく、磁気式エンコーダの組立工程を経ることによる不測の変形により、バネ荷重にバラツキが生じ、姿勢角にもバラツキを生じるので、好ましくない。
【0036】
前記弾性アーム部は、弾性変形部32と支持部33で構成されている。L4の寸法補助線(図5では下方の側の補助線)を仮想的に延長すると、その線は支持部33と固定部37の境界に相当する。弾性変形部は、M2に沿った向きに延びており、L2に沿った向きで蛇行するつづら折り形状である。それらのピッチ方向の回転軸を一点鎖線で示す。この一点鎖線がセンサー保持部31のピッチ方向の回転軸となるよう、センサー保持部31の両側にはそれぞれ弾性変形部32a,32bが連なっている。それぞれの弾性変形部32の他方の端は、片持ち梁として機能する支持部33で支持され、支持部は固定部37に接合するよう連なっている。
【0037】
弾性変形部32は、センサー基板10を磁気シート60に押し付ける際に、バネ荷重を発生する部位となり、磁気シート60とセンサー基板10の摺動を安定させる。また、弾性変形部32は、ピッチ剛性を小さくすることが出来るので、ピッチ角変動に対して、エアギャップの広がりを抑えることができる。
【0038】
センサー基板10中のGMR素子2aの中心(一点鎖線の中心線と2点鎖線の交点)は、弾性変形部32のピッチ方向の回転軸(Y軸に平行な1点鎖線)よりも、磁気シートの縁60aの側にある。これの位置関係を採用することで、GMR素子2aにおいてピッチ角変動の影響を抑制することができ、そして、センサー基板を磁気シートに押し付ける際に支持部33が変形することを抑制することができる。
【0039】
一対の支持部33a,33bの端は、固定部37に接続されている。そして、支持部33は、弾性変形部を支持する交差部34と、交差部34と固定部の間にある太幅部35及び広幅部36で構成されている。前記交差部34において、弾性変形部32と接続する箇所の両側にはX軸方向にスリットを設ける。スリット33sを形成した領域では交差部の幅M1は、交差部の残りの部分における幅M2よりも小さい。スリット33sを設けると、衝撃等の外力が加わっても、弾性変形部と交差部の接続箇所に応力が集中することが抑制される。交差部の大部分において幅を太くしてM2としているので、支持部が等幅の細いアームで延伸された構成に比べて、剛性が高められている。広幅部36においては、衝撃等の外力で配線基板20が傾いたときのためのスペース36sを確保するべく、配線基板20を避けられる程度に内側(中心線側)に向けて、幅M3を拡幅して剛性を高めている。広幅部36においては、外側に向けて更に幅を(M3+M4)まで拡幅して固定部37との間を埋めることで、剛性の向上に寄与している。広幅部36に設けた小さい方の孔38はセンサー保持板の仮止めに利用するものであり、確実に固定するための孔ではない。
【0040】
このように支持部を、その付け根に向って拡幅することで、剛性を高め、センサー基板10がロール方向で傾くことを抑制する。この剛性向上により、平板の板バネの状態で用いても、薄型且つピボットレスで用いることができる。Y軸方向に平行な一点鎖線は、センサー保持部31の中心と固定部37の中心を結ぶ中心線に相当する。弾性アーム部同士は中心線に対して対称に形成した。
【0041】
図5において、センサー基板10の下方の端近傍には電極パッドを有し、配線基板20とはワイヤー配線を介して導通させ、配線基板20の配線端子には無鉛はんだを介してFPC40と導通させている(無鉛はんだはFPCで隠されるので、図5では表示されていない)。FPC40は樹脂51によって固定部37の下方の端に支持されている。GMR素子2aからの電気信号は、配線基板20及びFPC40を介して、外部に取り出している。FPC(フレキシブルケーブル)は配線基板20と樹脂51の間で細幅にしている。この細幅化によって、ピッチ方向におけるセンサー保持板の動作を妨げないようにしている。太い幅のFPCを用いると、FPCの剛性が支配的となり、センサー保持板を磁気シートと平行に対面させるように弾性変形部が作用することは妨げられる傾向にあるので好ましくない。
【0042】
L0は、弾性変形部のピッチ方向の回転軸とGMR素子の中心との距離であり、X方向に沿った1点鎖線と2点鎖線の間隔に相当する。L1は、弾性変形部のピッチ方向の回転軸から磁気シートの縁60a(固定部に近い側の縁)までの距離に相当する。L2は弾性変形部のピッチ方向の回転軸(X軸に沿った向きの1点鎖線)から交差部34の付け根(太幅部35との境界)までの寸法に相当する。L3は弾性変形部のピッチ方向の回転軸から太幅部35の付け根(広幅部36との境界)までの寸法に相当する。L4は弾性変形部のピッチ方向の回転軸から広幅部36の付け根(固定部37との境界)までの寸法に相当する。
【0043】
図6は、図5の左から右に向って(Y軸の負の向き)、磁気媒体側から見たときの側面図である。磁気シート60にセンサー基板10を押し当てて、弾性変形部を撓ませた状態である。磁気シート60をカメラ用のレンズ鏡筒に設けると、図示した回転方向における変位を磁気センサーで検出することができる。
【0044】
図5に係る磁気シート60は、テープ状のプラスチックフィルム上に磁性体をコーティングしたものを、所定の曲率を有する非磁性面に接着剤で固着して作製した。磁気シートの幅Wbは3mm、磁気シート表面の曲率半径は27.5mmとした。
【0045】
(参考例1)
図7の(a)は、参考例1のセンサー基板110の断面図である。Si基板101cの上にGMRセンサー102とそれを覆う被覆103を形成した。図3の実施例と異なる点は、Si基板101cの稜に斜面の面取り部107aを形成した為、角がエッジ107bとなったことである。面取り部107aのテーパーはウェットエッチング加工で形成した。具体的には、テーパー面を形成したい稜の部位以外はレジストでマスクして、Si基板の稜にKOH溶液で異方性エッチングを施して、テーパー面を形成した。このセンサー基板110を図6のセンサー基板10と交換して、磁気シート60に往復移動を行わせたところ、センサー基板110のテーパー面の角はエッジを構成し、磁気シートを削ってしまうという問題が発生した。
【0046】
(参考例2)
図7の(b)は、参考例2のセンサー基板210の断面図である。Si基板201cの上にGMRセンサー202とそれを覆う被覆203を形成した。図3の実施例と異なる点は、Si基板201cの稜にR面取りのブレンド加工部207を形成したことである。ブレンド加工部207は、ラッピングテープ(#10000)をSi基板の稜に押し付けながら往復移動させることで形成した。参考例2の面取り条件は2通りを検討した。各条件毎に、センサー基板110を図6のセンサー基板10と交換して、磁気シート60に往復移動を行わせた。結果を表1のNo.3及びNo.4に示す。
【0047】
図8は、センサー基板の位置ズレについて概略を説明する断面図である。図8(a)はカメラ用のレンズ鏡筒61の一部に貼り付けて固着した磁気シート60と、センサー基板110とが、摺動する様子を示している。図8(b)はカメラに衝撃等の外力が加わったときに、センサー基板が符号110’で示した位置までずれる様子を示している。このような場合、センサー基板が元の位置に戻ろうとするが、センサー基板の稜にエッジがあると、磁気シートを傷つけてしまう恐れがある。そこで、図7(a)参考例1及び図8(c)に示すように、センサー基板110の角を落としてテーパー面を形成することを検討した。aはテーパー面の幅(センサー基板の媒体対向面に平行な向きにおける寸法)、bはテーパー面の深さ(センサー基板の厚さ方向における寸法)を表す。図8(d)に示すように、テーパー面が磁気シート60の面と接することで、損傷を回避することを期待したが、表1のNo.2に示すように良い結果を得ることは出来なかった。なお、平坦なテーパー面に代えてワイヤー研磨による凹曲面の面取り面についても検討したが、エッジを形成することに変りはなく、評価項目の結果は同様であった。
【0048】
表1は、実施例と参考例について、摺動性等を比較した結果である。面取り箇所における幅及び深さは図8の説明のa及びbと同様である。表1のNo.1は実施例1であり、RaはAFM(原子間力顕微鏡)を用いて、センサー基板の媒体対向側の面に垂直な向きからみて、面取り面のうち、任意に選択した10μm×10μm四方の面積内をスキャンして測定した。同じウェハから得た10個のサンプルについて測定したところ、Raの平均値は0.6nmとなり、評価項目も良好な結果を得た。低コスト、高品質で量産性が高く、高い摺動性も得られた。気相エッチングされた実施例1のセンサー基板のR面取り面はRaが1nm未満であるが、磁気シート60に吸着するという問題(スティッキング)は発生しなかった。
【0049】
図7の(a)の構成でテストした表1の評価項目のうち、摺動性○は2万回の往復でも問題なかったが、摺動性×は1回目の往復でびびりが発生し、使用に耐えなかった。びびり○はびびりが発生しなかったものを示し、びびり×は引っ掛りと振動を生じて適切にセンサー基板の摺動動作を行えなかったものを示している。コスト○はウェハプロセスの途中にドライエッチング(気相エッチング)工程を追加する為に多数の面取りを一括でウェハに適用することができるため、加工工数やコストの増加が抑制されたことを示している。コスト×は、テーパー加工及びブレンド加工のいずれも、ウェハ単位での一括面取りはできず、加工コストが増大してしまったことを示している。No.4のブレンド加工は深さを大きくすることで摺動性については良い結果を得ることができたが、機械加工により微小な塵(パーティクル)が発生する。パーティクルを除去するための洗浄を伴うため、加工にかかる工数やコストは更に増加した。
【0050】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0051】
磁気媒体から出ている磁気を磁気センサーで検出し、可動部材の変位あるいは速度を求めることができる磁気式エンコーダーとして、本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0052】
1:シリコンウェハ、
1a:溝部、
1b:基部、
1c:シリコン基板、
2:GMRセンサー、
2a:GMR素子、
2b:配線膜、
2c:電極パッド、
3:被覆、
4:フォトレジスト、
5:レジストパターン、
6:プラズマ、
7:R面取り部、
7’:R形状、
10:センサー基板、
11:媒体対向側の面、
20:配線基板、
30:センサー保持板、
30’:センサー保持板、
30’’:センサー保持板、
31:センサー保持部、
32a,32b:弾性変形部、
32e,32f:弾性変形部、
32d:弾性変形部、
33a,33b:支持部、
33s:スリット、
34a,34b:交差部、
35a,35b:太幅部、
36a,36b:広幅部、
36s:スペース、
37:固定部、
38:孔、
39a,39b:孔、
40:FPC、
41:樹脂、
50a、50b:取り付け台、
60:磁気シート、
60a:磁気シートの縁、
61:鏡筒、
101c:Si基板、
102:GMRセンサー、
103:被覆、
107a:面取り部、
107b:エッジ、
110:センサー基板、
130:センサー保持板、
133a,133b:支持部、
133s:スリット
201c:Si基板、
202:GMRセンサー、
203:被覆、
207:ブレンド加工部、
210:センサー基板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気媒体に摺動させるセンサー基板と、前記センサー基板を設ける配線基板と、前記配線基板を介して前記センサー基板を支持するセンサー保持板と、前記配線基板に接続されるフレキシブルケーブルとを備え、
前記センサー基板は、磁気媒体と摺動させる検出面の稜にR面取りが施されており、
R面取りされた面は磁気媒体に対向する凸曲面であり、Ra<1nmの面粗さを備えることを特徴とする磁気センサー。
【請求項2】
前記R面取りされた面は、ドライエッチングで形成された面であることを特徴とする請求項1に記載の磁気センサー。
【請求項3】
前記センサー基板には、巨大磁気抵抗効果を利用した検出素子を有することを特徴とする請求項1または2に記載の磁気センサー。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の前記磁気センサーと磁気媒体を用い、カメラ用レンズ鏡筒の回転変位を検知することを特徴とする磁気式エンコーダ。
【請求項5】
Siウェハ上に形成した磁気センサーを構成する検出素子をフォトレジストで被覆する工程と、
前記フォトレジストを加熱して、稜に凸曲面を有するレジストパターンを形成する工程と、
レジストパターン及びSiウェハをドライエッチングして、前記凸曲面の形状の少なくとも一部をSiウェハに転写する工程と、
前記Siウェハを切断して、前記凸曲面の少なくとも一部を稜に有すると共に、凸曲面がRa<1nmの面粗さを備える矩形状のセンサー基板を得る工程とを備えることを特徴とする磁気センサーの製造方法。
【請求項6】
巨大磁気抵抗効果を用いた検出素子をSiウェハに形成する工程と、
前記検出素子を矩形状のフォトレジストで被覆する工程と、
前記矩形状のフォトレジストを加熱して稜線の角を丸めて、凸曲面の稜を有するレジストパターンを得る工程と、
前記レジストパターン及び前記Siウェハをドライエッチングすることにより、レジストパターンの残部及びSiウェハに前記凸曲面の稜の形状を転写する工程と、
前記レジストパターンの残部を除去する工程と、
前記Siウェハに転写された凸曲面の稜の少なくとも一部を残すように、前記Siウェハを切断し、稜に面粗さRa<1nmのR面取りの施された矩形状のセンサー基板を得る工程とを備えることを特徴とする磁気センサーの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−2802(P2012−2802A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109116(P2011−109116)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】