説明

磁気データ処理装置、磁気データ処理方法および磁気データ処理プログラム

【課題】3次元地磁気センサから出力される地磁気データのオフセット誤差を補正する磁気データ処理装置を提供する。
【解決手段】3次元磁気センサ20から出力される磁気データを順次取得しながら前記磁気データを母集団として繰り返し蓄積する蓄積手段91と、前記母集団が蓄積される度に、球面の方程式から導かれる目的関数f(p)の最小値を前記母集団の信頼指数Sとして導出し、前記母集団を十分信頼できるか否かを前記信頼指数Sを用いて判定する判定手段92と、前記母集団を十分信頼できる場合、前記母集団に基づいて前記磁気データのオフセットを導出するオフセット導出手段94a、94bと、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気データ処理装置、磁気データ処理方法及び磁気データ処理プログラムに関し、特に3次元地磁気データのオフセット補正に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、携帯型電話機等の移動体に搭載され、地磁気の方向を検出する3次元地磁気センサが知られている。磁気データ処理装置が磁気データに基づいて方位を導出するとき、移動体の着磁による測定誤差を打ち消すために磁気データを補正する処理が必要である。この補正処理の操作値は、複数の磁気データに基づいて導出され、オフセットと呼ばれる(特許文献1,2,3参照)。
【0003】
ところで、磁気データには移動体の着磁によるオフセット成分以外にも、移動体に搭載されている電子回路が発生源となる磁気や、ガウス分布に従う磁気センサの出力のゆらぎなどによる誤差成分が含まれている。したがって、移動体の着磁による真のオフセットを正確に導出するためには、広い範囲に立体的に拡散した磁気データを蓄積することが必要となる。しかし、このような磁気データが蓄積されるような移動体の運動は特殊であるから、一般には、移動体に特殊な運動をさせるための操作がユーザーに要求される。そして、真のオフセットは不定期に変動するため、ユーザーが頻繁にそのような操作をしない限り、磁気データ処理装置によって導出される方位と実際の方位とがずれる可能性が高まる。これまでに本件発明者は、ユーザーに特殊な操作を要求することなく、真のオフセットに近いオフセットを導出できる発明を創作している(特許文献1参照)。特許文献1には、母集団としての磁気データの分布が立体的である場合には母集団に基づいて3次元的にオフセットを導出し、母集団としての磁気データの分布が平面的である場合には2次元的にオフセットを導出する方法が開示されている。この方法は、磁気データが立体的に拡散していない場合であっても、磁気データが平面的に拡散している場合であれば、磁気データが拡散している平面に平行な方向について、過去に導出されたオフセットを2次元的に補正するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−240270号公報
【特許文献2】特開2007−107921号公報
【特許文献3】特開2007−139715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1、2,3のいずれに記載の方法においても、母集団がオフセットを導出するために十分信頼できるか否かが判定される。特許文献1,2,3に記載の方法では、その判定に用いる指数として、母集団に基づいて導出したオフセット候補と母集団を構成しているそれぞれの磁気データとの距離の平均rの関数を用いている。しかし、特許文献1に記載の方法によると、過去に導出されたオフセットを2次元的に補正したオフセット候補の位置は、過去に導出されたオフセットの位置に依存する。したがって、オフセット候補が導出される母集団が同じであったとしても、過去に導出されたオフセットの位置が異なれば、母集団に基づいて導出したオフセット候補と母集団を構成しているそれぞれの磁気データとの距離の平均rも異なることになる。その結果、オフセット候補が導出される母集団が同じであったとしても、その母集団がオフセットを導出するために十分信頼できるかを示す指数が異なることになる。また、特許文献1,2,3に記載の方法では、その母集団がオフセットを導出するために十分信頼できるか否かを判定するには、オフセット候補を導出する必要があるため、オフセット候補が棄却される場合にはオフセット候補を導出したことが無駄になる。
本発明は、磁気データのオフセットを導出するために用いる母集団の信頼性判定に一貫性を持たせるとともに、信頼性判定に費やされる計算量を低減することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)上記目的を達成するための磁気データ処理装置は、3次元磁気センサから出力される磁気データを順次取得しながら前記磁気データを母集団q,・・・,q(N≧4)として繰り返し蓄積する蓄積手段と、前記母集団が蓄積される度にf(p)の最小値を前記母集団の信頼指数Sとして導出し、前記母集団を十分信頼できるか否かを前記信頼指数Sを用いて判定する判定手段と、前記母集団を十分信頼できる場合、前記母集団に基づいて前記磁気データのオフセットを導出するオフセット導出手段と、を備える。ここで、
【数1】

である。
関数f(p)の最小値は母集団が近傍に集中している球面を基準にして母集団がばらついているほど大きくなる。したがって関数f(p)の最小値を信頼指数Sとして用いて母集団の信頼性を判定することができる。そして本発明によると、過去に導出されたオフセットと無関係に母集団によって決まるXおよびjを定数とする関数f(p)の最小値を用いて母集団の信頼性を判定するため、母集団の信頼性判定に一貫性がある。また本発明によると、オフセット候補を導出することなく母集団の信頼性を判定できるため、母集団の信頼性判定に費やされる計算量を低減できる。
【0007】
(2)上記目的を達成するための磁気データ処理装置において、前記判定手段は、対称行列Aの固有値をλ、λ、λ(λ≧λ≧λ)とし、λ、λ、λにそれぞれ対応する大きさ1の固有ベクトルをu,u,u、αを所定の閾値とするとき、
【数2】

として前記信頼指数Sを導出してもよい。ここで、
【数3】

である。
【0008】
(3)上記目的を達成するための磁気データ処理装置において、前記判定手段は、前記母集団が立体的に拡散しているか否かを閾値を用いて判定し、前記オフセット導出手段は、前記母集団が立体的に拡散している場合、f(p)が最小値をとるpを前記オフセットとして導出してもよい。
本発明によると、母集団の信頼性を判定するために用いる関数に現れる係数と、オフセットを導出するために用いる連立方程式の係数とが一致するため、オフセットを導出するために費やされる計算量を低減できる。
(4)上記目的を達成するための磁気データ処理装置において、前記判定手段は、前記母集団が平面的に拡散しているか否かを閾値を用いて判定し、前記オフセット導出手段は、前記母集団が平面的に拡散している場合、対称行列Aの固有値をλ、λ、λ(λ≧λ≧λ)とし、λ、λ、λにそれぞれ対応する大きさ1の固有ベクトルをu,u,u、前回導出した前記オフセットをpとするとき、
p=p0+β11+β22(β1、β2は実数)
の制約条件の下でf(p)が最小値をとるpを前記オフセットとして導出してもよい。ここでA=XXである。
本発明によると、母集団の信頼性を判定するために用いる関数に現れる係数と、オフセットを導出するために用いる連立方程式の係数とが一致するため、オフセットを導出するために費やされる計算量を低減できる。また、母集団が三次元的に拡散していない場合であっても、二次元的に拡散していれば真のオフセットにより近いオフセットを導出することができる。
【0009】
なお、請求項に記載された各手段の機能は、構成自体で機能が特定されるハードウェア資源、プログラムにより機能が特定されるハードウェア資源、又はそれらの組み合わせにより実現される。また、これら各手段の機能は、各々が物理的に互いに独立したハードウェア資源で実現されるものに限定されない。さらに、本発明は磁気データ処理方法としても、磁気データ処理プログラムとしても、磁気データ処理プログラムの記録媒体としても成立する。むろん、そのコンピュータプログラムの記録媒体は、磁気記録媒体であってもよいし光磁気記録媒体であってもよいし、今後開発されるいかなる記録媒体であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態にかかるブロック図。
【図2】本発明の実施形態にかかるフローチャート。
【図3】本発明の実施形態にかかる模式図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照しながら説明する。尚、各図において対応する構成要素には同一の符号が付され、重複する説明は省略される。
1.第一実施形態
(概要)
本発明の第一実施形態では、母集団としての磁気データの分布が立体的である場合には母集団に基づいて3次元的にオフセットが導出される。一方、母集団としての磁気データの分布が平面的である場合には過去に導出されたオフセット(旧オフセット)を母集団に基づいて2次元的に補正することによってオフセットが導出される。そして、母集団としての磁気データが近傍に集中している球面を基準としてばらついている場合には、その母集団を用いてオフセットを導出する処理は実行されない。
【0012】
(磁気データ処理装置の構成)
図1は本発明の磁気データ処理装置の一実施形態を示すブロック図である。磁気データ処理装置1は携帯電話機、PND(Personal Navigation Device)、電子コンパス、デジタルカメラなどの携帯型情報端末に搭載される。
【0013】
磁気データ処理装置1は磁気センサ20とマイクロコンピューターとで構成されている。マイクロコンピューターは、CPU40、ROM42、RAM44、入出力機構(I/O)30などからなり、磁気センサ20から出力される磁気データを入力し、オフセット補正された磁気データに基づいて進行方位や走行予定経路を画像や音声によってユーザーに報知するための方位データを出力する。表示部60は方位を示す画像を表示するためのディスプレイとディスプレイドライバーとを含む。
【0014】
磁気センサ20は、磁界ベクトルの直交する3軸の成分をそれぞれ検出するx軸センサ21とy軸センサ22とz軸センサ23とインターフェース24とを備えた3次元磁気センサである。x軸センサ21、y軸センサ22、z軸センサ23は、いずれも磁気抵抗素子、ホール素子等で構成され、指向性のある1次元磁気センサであればどのようなものであってもよい。x軸センサ21、y軸センサ22およびz軸センサ23は、それぞれの感度方向が互いに直交するように固定されている。インターフェース24は、x軸センサ21、y軸センサ22およびz軸センサ23の出力を時分割して取得し、x軸センサ21、y軸センサ22およびz軸センサ23からの入力を増幅してAD変換し、磁気データq=(q、q、q)を出力する。インターフェース24から出力されるディジタル信号である磁気データqはRAM44の所定のアドレスに格納される。不揮発性の記憶媒体であるROM42には、RAM44にロードされ、CPU40によって実行される磁気データ処理プログラム90や、携帯型情報端末の機能を実現するための種々のプログラムが格納されている。
【0015】
磁気データ処理プログラム90は、磁気データに基づいて方位データを出力するためのプログラムであって、ROM42に格納されている。方位データは地磁気の方向を示すベクトルデータである。磁気データ処理プログラム90は、蓄積モジュール91、判定モジュール92、3次元オフセット更新モジュール94a、2次元オフセット更新モジュール94b、方位導出モジュール95等のモジュール群で構成されている。
【0016】
蓄積モジュール91は、3次元磁気センサから出力される磁気データを順次取得しながら4つ以上のN個の磁気データq、・・・、qを母集団として繰り返し蓄積する機能を実現するプログラム部品である。すなわち蓄積モジュール91は、磁気センサ20から順次出力される磁気データを一定の時間間隔で順次取得し、取得した磁気データをバッファに蓄積する機能を実現する。バッファは、N個の磁気データを記憶するためのRAM44の記憶領域である。
【0017】
判定モジュール92は、母集団が蓄積される度に母集団の信頼性を判定し、母集団が立体的に拡散しているか否かを判定し、母集団が平面的に拡散しているか否かを判定する機能を実現するプログラムモジュールである。
【0018】
本実施形態において、判定モジュール92は、母集団q、・・・、qの分布の主値に相当する対称行列Aの固有値をλ、λ、λ(λ≧λ≧λ)、固有値λ、λ、λにそれぞれ対応する固有ベクトルをu,u,u、αを予め決められた閾値とするとき、次式(1)によって定義されるSを母集団の信頼性を示す信頼指数とし、信頼指数Sと予め決められた閾値αがS>αを満たす場合に、母集団を十分信頼できると判定する。
【数4】

ただし、
【数5】

である。なお、行列Aは、次式のようにも書けるため、母集団の分散共分散行列のN倍に相当する。
【数6】

【0019】
ここで、母集団が近傍に集中している球面を基準にしてどの程度ばらついているかを信頼指数Sが表すことについて、その理由を説明する。
母集団が同一平面上にない4つの磁気データq、・・・、qで構成されている場合、母集団を含む球面は統計的手法を用いることなく一意に特定される。この球面の中心の位置ベクトルp=(px、py、p)と4つの磁気データq、・・・、qとの間には次式(11)が成り立つ。したがってこの球面の中心は式(11)を変形した連立方程式(12)を解くことによって得られる。尚、3変数に対して等号制約が4つあるが、等号制約の1つは冗長になっているため方程式(12)は必ず解を持つ。
【数7】

【0020】
母集団が5つ以上の磁気データで構成されている場合、pについての連立一次方程式(14)が解を持てば、その解p=(px、py、p)は、母集団データ群を含む球面の中心である。
Xp=j・・・(14)
【0021】
しかし、磁気センサ20自体の測定誤差を考慮すると、現実には、方程式(14)が解を持つことはまれである。そこで、統計的な手法により尤もらしい解を得るために、次式(15)で定義されるベクトルeを導入する。
e=Xp−j・・・(15)
【0022】
||e||22(すなわちeTe)を最小にするpが、母集団との距離が最も近い球面、すなわち母集団が近傍に集中している球面の中心であるといえる。||e||22を最小にするpを求める問題は、行列Aが正則のときには次式(16)の目的関数を最小にする最適化問題となる。
【数8】

【0023】
そして、f(p)は、母集団が近傍に集中する特定の球面を基準として母集団がばらついているほど大きくなり、母集団を構成している磁気データが全てその球面に含まれる場合には0となる。したがって、f(p)の最小値は、母集団が近傍に集中する球面を基準として母集団がばらついている程度を示すことになる。すなわち、f(p)の最小値は母集団の信頼指数Sとして用いることができる。ここで式(7)のようにb、cを定義すると、式(16)は、次式(17)のように2次形式で表現できる。
【数9】

【0024】
対称行列Aの固有値が0を含む場合であっても、式(4)のように行列Aを定義し、式(7)のようにbを定義する場合には、目的関数f(p)は最小値を必ず持つ。ここで対称行列Aの固有値λ、λ、λ(λ≧λ≧λ)にそれぞれ対応する大きさ1の固有ベクトルをu,u,uとし、Lを式(10)によって定義すると、対称行列Aは式(18)のように対角化できる。
【数10】

【0025】
またbについてもLを用いて式(8)の座標変換を施すと、対称行列Aが正定値のとき(固有値が0を含まないとき)には目的関数f(p)の最小値minは式(19)と表される。
【数11】

そして式(9)のようにb'を表して式(19)を書き直すと、目的関数f(p)の最小値minは次式(20)によって表される。
【数12】

【0026】
コンピューターによる計算誤差を考慮すると、対称行列Aが正定値であるという条件は、0に極めて近い閾値αを定めることによって次式(21)と表される。
λ>α・・・(21)
【0027】
次に対称行列Aが重複していない固有値0を持つ場合、すなわちλ≧λ>0、λ=0の場合について考える。この場合、証明は省略するが、式(20)の括弧中の第3項は0になる。なお、λが極めて小さく、かつ式(21)が満たされる場合には、信頼指数Sに与えるλの影響は無視できないほど大きい。したがって、閾値αは0で除する計算において例外処理が発生しない範囲での最小値に設定することが好ましい。
以上述べたように、式(16)で定義される目的関数f(p)の最小値を母集団の信頼指数Sとするならば、信頼指数Sは式(1)のように表されることになる。すなわち、判定モジュール92は、信頼指数Sと予め決められた閾値αとの大小関係を比較し、閾値αよりも信頼指数Sが大きい場合には、母集団を十分信頼できると判定する。
【0028】
また本実施形態においては、母集団が立体的に拡散している程度を示す指数をλ/λとする。また母集団が平面的に拡散している程度を示す指数をλ/λとする。そして判定モジュール92は、λ/λが予め決められた閾値を越える場合には、母集団が立体的に拡散していると判定する。また判定モジュール92は、λ/λがその閾値を越えずλ/λが予め決められた別の閾値を越える場合には、母集団が平面的に拡散していると判定する。
【0029】
三次元オフセット更新モジュール94aは、母集団に基づいて3次元的にオフセットを導出する機能を実現するプログラム部品である。具体的には式(16)の目的関数f(p)を最小にするpを求めることにより、オフセットとしてのpが導出される。目的関数f(p)を最小にするpは、本実施形態で想定している(XX)が正則のときは式(22)のように書くことができる。
【数13】

【0030】
二次元オフセット更新モジュール94bは、母集団に基づいて二次元的に過去のオフセット(旧オフセット)を補正することによって最新のオフセットを導出する機能を実現するプログラム部品である。すなわち、二次元オフセット更新モジュール94bは、蓄積モジュール91によって保持されている母集団と、過去のオフセットとに基づいて最新のオフセットを導出し、過去のオフセットを最新のオフセットに更新する機能を実現する。具体的には次の通りである。
【0031】
母集団が特定の平面の近傍に集中して拡散している場合(分布が二次元的である場合)、旧オフセットに対する補正方向をその平面に平行で互いに直交する2方向に制限して新オフセットが導出される。母集団がある特定の平面近傍に集中し、その平面に垂直な方向から見て拡散している場合、その平面と平行な方向については母集団を十分信頼できる一方でその平面に垂直な方向についてはオフセット補正のために用いるデータ群として母集団を信頼できないことになる。このような場合には、その平面に垂直な方向については旧オフセットを補正しないことにより、信頼に値しない情報に基づいてオフセットが更新されることを防止できる。
【0032】
母集団がある特定の平面近傍に集中し、その平面に垂直な方向から見て拡散している場合、その平面に垂直な方向は、最小固有値λ3に対応する固有ベクトルu3の方向に一致し、その平面に平行で互いに直交する方向は、最大固有値λ1、中間固有値λ2にそれぞれ対応するu1、u2の方向に一致する。したがって、その平面に垂直な方向について旧オフセットpを補正せずに新オフセットpを導出するため、次式(23)の制約条件のもとで式(16)の目的関数が最小になる新オフセットpを求める。
p=p0+β11+β22(β1、β2は実数)・・・(23)
なお、式(23)は次式(24)と等価である。
【数14】

【0033】
式(21)の制約条件のもとで式(16)の最適化問題を解く式は、ラグランジュの未定乗数法によって等価な連立方程式に変形できる。未定乗数ρを導入し、
【数15】

とすると、xの連立一次方程式(26)がその方程式となる。
【数16】

【0034】
方位導出モジュール95は、磁気センサ20から順次取得する磁気データを最新のオフセットを用いて補正して方位データを生成するプログラム部品である。具体的には、方位導出モジュール95は、ベクトルデータである磁気データの各成分からオフセットの各成分を引き算して得られるベクトルデータを方位データとして出力する。
【0035】
(磁気データ処理方法)
次に磁気データ処理プログラム90を実行することによって実現される磁気データ処理方法について図2を参照しながら説明する。図2に示す処理は、一定時間間隔(例えば10ミリ秒間隔)で繰り返し実行される。
【0036】
はじめに、磁気センサ20から出力された磁気データが蓄積モジュール91によって取得され、バッファに蓄積される(S100)。
【0037】
次に、予め決められた数の磁気データが母集団としてバッファに蓄積されているか否かが判定モジュール92によって判定される(S101)。予め決められた数の磁気データが母集団としてバッファに蓄積されていない場合、所定時間後に次の磁気データがバッファに蓄積される(S100)。
【0038】
予め決められた数の磁気データが母集団としてバッファに蓄積されている場合、母集団を十分信頼できるか否かが判定モジュール92によって判定される(S102)。すなわち、式(1)で表される信頼指数Sが導出され、信頼指数Sと予め決められた閾値αとがS>αを満たす場合、母集団は十分信頼できると判定され、S>αを満たさない場合、母集団は十分信頼できないと判定される。
【0039】
母集団が十分信頼できる場合、母集団が立体的に拡散しているかが判定モジュール92によって判定される(S103)。すなわち、λ/λが予め決められた閾値を越える場合には、母集団が立体的に拡散していると判定され、λ/λが予め決められた閾値を越えない場合には、母集団が立体的に拡散していないと判定される。
【0040】
母集団が立体的に拡散している場合、母集団のみに基づいてオフセットが3次元的に更新される(S104)。すなわち、バッファに記憶されている磁気データを母集団として式(22)によって表されるpが3次元オフセット更新モジュール94aによって最新のオフセットとして導出され、過去のオフセットが最新のオフセットに更新される。
【0041】
母集団が立体的に拡散していない場合、母集団が平面的に拡散しているか否かが判定モジュール92によって判定される(S105)。すなわち、λ/λが予め決められた閾値を越えずλ/λが予め決められた別の閾値を越える場合には、母集団は平面的に拡散していると判定され、λ/λも予め決められた閾値を越えずλ/λも予め決められた別の閾値を越えない場合には、母集団は平面的に拡散していないと判定される。
【0042】
母集団が平面的に拡散している場合、旧オフセットを母集団に基づいて二次元的に補正することによってオフセットが更新される(S106)。すなわち、二次元オフセット更新モジュール92bによって、連立一次方程式(26)の解pが最新のオフセットとして導出され、旧オフセットが導出された最新のオフセットに更新される。
【0043】
母集団が十分信頼できない場合、あるいは、母集団が立体的にも平面的にも拡散していない場合、蓄積モジュール91によって母集団が破棄される(S107)。
【0044】
以上の処理では、最新のオフセットpを導出する前に母集団の信頼性を判定できるため、オフセット候補を導出した後に母集団の信頼性を判定する場合に比べると、母集団の信頼性を判定するために費やされる計算量が低減される。
【0045】
ここで仮に、母集団に基づいて導出したオフセット候補pと、母集団を構成しているそれぞれの磁気データとの距離の平均rの関数を信頼指数S'として次式(29)のように定めるとする。
【数17】

【0046】
いま、図3に黒点で示すように母集団が立体的に拡散しておらず平面的に拡散しているとし、上述したように旧オフセットを直交する2方向についてのみ補正することによってオフセット候補を導出するとする。すると、旧オフセットがp0aの場合、オフセット候補はpとなり、旧オフセットがp0bの場合、オフセット候補はpとなる。オフセット候補p、pは、いずれも母集団が近傍に集中している円Cの中心O'を通り、円Cを含む平面に対して垂直な直線上にあるが、2つの旧オフセットがその直線に対して垂直な面上にない限り、一致しない。したがって、母集団を構成しているそれぞれの磁気データとオフセット候補との距離の平均r、rの関数である信頼指数S'は評価対象が同一であるにも関わらず、旧オフセットの位置に応じて異なる値となる。このため、信頼指数S'と閾値との大小関係に応じて母集団の信頼性を判定するならば、母集団が近傍に集中する平面と旧オフセットとの距離が取り得る範囲を加味して閾値を設定しなければならない。閾値を緩く(小さく)設定すれば、母集団がノイズ成分を多く含んでばらついている場合であっても、母集団が近傍に集中している平面と旧オフセットの距離が遠ければ、母集団は信頼できると判定されることになる。一方、閾値を厳しく(大きく)設定すれば、母集団がノイズ成分をふくんでいなくても、母集団が近傍に集中している平面と旧オフセットの距離が近ければ、母集団は信頼できないと判定されることになる。
これに対し、本実施形態においては、母集団の信頼性は、式(1)で表されるように母集団のみの関数である信頼指数Sを用いて判定されるため、母集団が同じであれば、母集団の信頼指数Sは常に一致する。したがって、信頼指数Sと比較される閾値αを、旧オフセットを考慮した信頼指数S'のばらつきと無関係に厳密に定めることができる。このため、本実施形態によると母集団の信頼性を精度良く判定できる。
【0047】
2.他の実施形態
尚、本発明の技術的範囲は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
例えば、母集団に基づいて3次元的にオフセットを導出する手段も、母集団に基づいて2次元的に旧オフセットを補正する手段も、上記実施形態に開示した手段に限定されず、どのような公知の手段を用いてもよいし、今後開発されるいかなる手段を用いても良い。公知の手段としては、統計的手法を用いて2次元的または3次元的にオフセットを導出するものや、3つまたは4つの磁気データを母集団から選抜し、選抜された母集団からオフセットとしての球面の中心または旧オフセットを補正するための仮オフセットとしての円の中心を求めるもの等がある。尚、磁気データのオフセットを導出する方法は、本件発明者によっても複数提案されている(特開2007−240270号公報、特開2007−205944号公報、特開2007−139715号公報、特開2007−107921号公報、特願2007−339478など)。
【0048】
また例えば、母集団が立体的に拡散しているか平面的に拡散しているかを判定する手段は、上記実施形態に開示した手段に限定されず、どのような公知の手段を用いてもよいし、今後開発されるいかなる手段を用いても良い。公知の手段としては、母集団の分散の大きさを閾値と比較する手段などがある。
【0049】
また例えば、母集団に基づいてオフセットを導出した後に、さらに別の指数と閾値とを用いてそのオフセットの信頼性を判定するとともに信頼性が低い場合には、導出したオフセットを棄却してもよい。
【符号の説明】
【0050】
1:磁気データ処理装置、20:磁気センサ、21:x軸センサ、22:y軸センサ、23:z軸センサ、24:インターフェース、30:I/O、40:CPU、42:ROM、44:RAM、60:表示部、90:磁気データ処理プログラム、91:蓄積モジュール、92:判定モジュール、94a:3次元オフセット更新モジュール、94b:二次元オフセット更新モジュール、95:方位導出モジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元磁気センサから出力される磁気データを順次取得しながら前記磁気データを母集団q,・・・,q(N≧4)として繰り返し蓄積する蓄積手段と、
前記母集団が蓄積される度にf(p)の最小値を前記母集団の信頼指数Sとして導出し、前記母集団を十分信頼できるか否かを前記信頼指数Sを用いて判定する判定手段と、
前記母集団を十分信頼できる場合、前記母集団に基づいて前記磁気データのオフセットを導出するオフセット導出手段と、
を備え、
【数18】

である磁気データ処理装置。
【請求項2】
前記判定手段は、対称行列Aの固有値をλ、λ、λ(λ≧λ≧λ)とし、λ、λ、λにそれぞれ対応する大きさ1の固有ベクトルをu,u,u、αを所定の閾値とするとき、
【数19】

として前記信頼指数Sを導出し、
【数20】

である請求項1に記載の磁気データ処理装置。
【請求項3】
前記判定手段は、前記母集団が立体的に拡散しているか否かを閾値を用いて判定し、
前記オフセット導出手段は、前記母集団が立体的に拡散している場合、f(p)が最小値をとるpを前記オフセットとして導出する、
請求項1又は2に記載の磁気データ処理装置。
【請求項4】
前記判定手段は、前記母集団が平面的に拡散しているか否かを閾値を用いて判定し、
前記オフセット導出手段は、前記母集団が平面的に拡散している場合、対称行列Aの固有値をλ、λ、λ(λ≧λ≧λ)とし、λ、λ、λにそれぞれ対応する大きさ1の固有ベクトルをu,u,u、前回導出した前記オフセットをpとするとき、
p=p0+β11+β22(β1、β2は実数)
の制約条件の下でf(p)が最小値をとるpを前記オフセットとして導出し、
A=X
である請求項1又は2に記載の磁気データ処理装置。
【請求項5】
前記3次元磁気センサをさらに備える、
請求項1から4のいずれか一項に記載の磁気データ処理装置。
【請求項6】
3次元磁気センサから出力される磁気データを順次取得しながら前記磁気データを母集団q,・・・,q(N≧4)として繰り返し蓄積し、
前記母集団が蓄積される度にf(p)の最小値を前記母集団の信頼指数Sとして導出し、前記母集団を十分信頼できるか否かを前記信頼指数Sを用いて判定し、
前記母集団を十分信頼できる場合、前記母集団に基づいて前記磁気データのオフセットを導出する、
ことを含み、
【数21】

である磁気データ処理方法。
【請求項7】
3次元磁気センサから出力される磁気データを順次取得しながら前記磁気データを母集団q,・・・,q(N≧4)として繰り返し蓄積する蓄積手段と、
前記母集団が蓄積される度にf(p)の最小値を前記母集団の信頼指数Sとして導出し、前記母集団を十分信頼できるか否かを前記信頼指数Sを用いて判定する判定手段と、
前記母集団を十分信頼できる場合、前記母集団に基づいて前記磁気データのオフセットを導出するオフセット導出手段と、
してコンピューターを機能させ、
【数22】

である磁気データ処理プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−22073(P2011−22073A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−168977(P2009−168977)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】