磁気ヘッドスライダの洗浄方法、製造方法および洗浄装置
【課題】良好な清浄度を有する磁気ヘッドスライダを得ることが可能な磁気ヘッドスライダの洗浄方法、製造方法および洗浄装置を提供する。
【解決手段】濯ぎ工程において、磁気ヘッドスライダ15は、収容トレイ14に形成された収容部内に収容されており、この収容トレイ14を濯ぎ液中に浸漬され、濯ぎ液中で移動される。これにより、磁気ヘッドスライダ15は、貫通孔11b・12bから収容部内へ入り込んだ濯ぎ液から浮力を得て浮き上がるとともに、濯ぎ液から水圧を受けることになるので、十分な濯ぎを行うことができる。
【解決手段】濯ぎ工程において、磁気ヘッドスライダ15は、収容トレイ14に形成された収容部内に収容されており、この収容トレイ14を濯ぎ液中に浸漬され、濯ぎ液中で移動される。これにより、磁気ヘッドスライダ15は、貫通孔11b・12bから収容部内へ入り込んだ濯ぎ液から浮力を得て浮き上がるとともに、濯ぎ液から水圧を受けることになるので、十分な濯ぎを行うことができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ヘッドスライダの洗浄方法、製造方法および洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、磁気ディスク装置は、装置の小型化および記憶容量の大容量化が急速に進んでおり、これに伴い、データを記録・再生するためのヘッドを保持する磁気ヘッドスライダの、磁気ディスクからの浮上量が10nm以下程度まで低減されている。
【0003】
このような磁気ディスク装置では、磁気ヘッドスライダ等に、塵埃、粉塵、ガス化した有機物などの汚染物が付着していると、磁気ヘッドスライダと磁気ディスクの間の耐摺動信頼性が低下してしまうことがある。そのため、磁気ヘッドスライダには、高い清浄度が要求される。
【0004】
そこで、磁気ヘッドスライダには、製造の最終段階で洗浄が施される。ここでの洗浄は、一般に、磁気ヘッドスライダに付着している汚染物を洗浄液によって洗い落とす洗浄工程と、これにより付着した洗浄液を濯ぎ液によって洗い落とす濯ぎ工程と、これにより付着した濯ぎ液を乾燥させる乾燥工程と、を含んでいる。
【特許文献1】特開平4−29787号公報
【特許文献2】特開2005−158132号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、磁気ヘッドスライダのように微小で損傷しやすい部品に洗浄を施す場合、磁気ヘッドスライダをトレイなどに収容した状態で洗浄や濯ぎを施す必要があることから、洗浄や濯ぎが不十分となって良好な清浄度を得ることが困難である。
【0006】
例えば、特許文献1には、被洗浄物を洗浄籠に収納し、収納効率を高めるために洗浄籠を複数段重ねて、その状態で洗浄槽内の洗浄液に浸漬し、揺動させながら超音波によって洗浄を行う洗浄方法が開示されている。しかしながら、この洗浄方法では、磁気ヘッドスライダが槽内のほぼ一箇所に留まることから、超音波発振器の配置位置による超音波の強度分布のばらつきの影響や、定在波ができることによる超音波の強度分布のばらつきの影響によって、洗浄性にムラが生じやすい。また、洗浄籠を複数段重ねることから、超音波が他の洗浄籠などに遮蔽されやすく、これによっても、洗浄性にムラが生じやすい。その結果、洗浄が不十分となって良好な清浄度を得ることが困難となる。
【0007】
また、特許文献2には、被洗浄物を洗浄液で超音波によって洗浄した後、濯ぎ液としての純水を貯留した濯ぎ槽に浸漬し、超音波によって濯ぎを行う洗浄方法が開示されている。しかしながら、この洗浄方法では、超音波によって洗浄槽やトレイから汚染物が発塵し、この汚染物が純水中に分散せずに磁気ヘッドスライダに付着してしまうことがある。また、超音波によって純水中に気泡が生じやすくなることから、純水中に生じた気泡が収容トレイの収容部に繋がる開口部分を塞いでしまい、収容部内に純水が入り込みづらくなってしまうことがある。その結果、濯ぎが不十分となって良好な清浄度を得ることが困難となる。
【0008】
本発明は、上記問題に鑑みて為されたものであり、良好な清浄度を有する磁気ヘッドスライダを得ることが可能な磁気ヘッドスライダの洗浄方法、製造方法および洗浄装置を提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の磁気ヘッドスライダの洗浄方法は、超音波振動を付与した洗浄液中に磁気ヘッドスライダを浸漬する洗浄工程と、前記磁気ヘッドスライダの収容部と外部から該収容部内へ通じる少なくとも2つの通孔とを有する収容トレイの該収容部内に前記磁気ヘッドスライダを収容し、濯ぎ液に超音波振動を付与せずに、前記収容トレイを前記濯ぎ液中に浸漬し、前記濯ぎ液中で移動させる濯ぎ工程と、を含むことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の磁気ヘッドスライダの洗浄方法において、前記濯ぎ工程は、前記収容トレイを前記濯ぎ液中で前記通孔の貫通方向と交差する方向に移動させることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の磁気ヘッドスライダの洗浄方法において、前記濯ぎ工程は、前記磁気ヘッドスライダを収容した前記収容トレイに前記濯ぎ液を浴びせかける手順と、前記磁気ヘッドスライダを収容した前記収容トレイを前記濯ぎ液中に浸漬し、前記濯ぎ液中で移動させる手順と、を交互に行うことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の磁気ヘッドスライダの洗浄方法において、前記洗浄工程は、前記磁気ヘッドスライダを収容した前記収容トレイを、超音波振動を付与した前記洗浄液中に浸漬し、前記洗浄液中で移動させることを特徴とする。
【0013】
次に、本発明の磁気ヘッドスライダの製造方法は、上述の本発明の磁気ヘッドスライダの洗浄方法を含むことを特徴とする。
【0014】
次に、本発明の磁気ヘッドスライダの洗浄装置は、磁気ヘッドスライダの収容部と外部から該収容部内へ通じる少なくとも2つの通孔とを有する収容トレイと、前記収容トレイを自身の回転中心から離れた位置に保持するトレイ保持具と、洗浄液を貯留する洗浄槽と、前記洗浄槽に貯留された前記洗浄液に超音波振動を付与する超音波発振器と、前記収容トレイを保持した前記トレイ保持具を、前記洗浄槽に貯留された前記洗浄液中に浸漬した状態で回転させる洗浄用回転機構と、濯ぎ液を貯留する濯ぎ槽と、前記収容トレイを保持した前記トレイ保持具を、前記濯ぎ槽に貯留された前記濯ぎ液中に浸漬した状態で回転させる濯ぎ用回転機構と、を備えることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の磁気ヘッドスライダの洗浄装置は、前記収容トレイを保持した前記トレイ保持具を、前記洗浄槽に貯留された前記洗浄液中に浸漬した状態で、前記洗浄用回転機構により回転する前記トレイ保持具の回転軸方向に沿って揺動させる洗浄用揺動機構を備えることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の磁気ヘッドスライダの洗浄装置は、前記濯ぎ槽内で前記収容トレイに前記濯ぎ液を浴びせかける噴液機構を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
上記本発明によれば、良好な清浄度を有する磁気ヘッドスライダを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0019】
まず、磁気ヘッドスライダの製造方法について説明する。
【0020】
図1は、磁気ヘッドスライダの製造工程の説明図である。磁気ヘッドスライダの製造工程では、まず、セラミック基板の表面に記録素子と再生素子を形成して得たウエハーを、機械加工により切断して棒板状に成形する(S1)。次に、棒板状に成形したウエハーをラップ加工して、磁気ディスクと対向する面となる浮上面を形成し(S2)、露出した各素子の腐食防止と摺動性向上のための保護膜を浮上面に形成し(S3)、安定浮上を実現するための浮上面レールを浮上面に形成する(S4)。その後、このようにして加工された棒板状のウエハーをスライダサイズに切断し(S5)、最終的に仕上げ洗浄を施す(S6)。
【0021】
次に、磁気ヘッドスライダの洗浄方法および洗浄装置について説明する。これらは、上述した製造工程の仕上げ洗浄(S6)に適用される。
【0022】
図2は、磁気ヘッドスライダの洗浄装置100の概略構成を表す図である。洗浄装置100は、主に、磁気ヘッドスライダに付着している汚染物を洗浄槽200に貯留された洗浄液21によって洗い落とすための洗浄ブロック2と、これにより付着した洗浄液を濯ぎ槽300に貯留された濯ぎ液31によって洗い落とすための濯ぎブロック3と、これにより付着した濯ぎ液を乾燥槽400内で乾燥させるための乾燥ブロック4と、に区分けすることができる。
【0023】
洗浄装置100では、磁気ヘッドスライダが収容トレイに収容されており、この収容トレイを複数保持した保持体10がそれぞれのブロック2〜4において取り扱われる。この保持体10は、図示しない搬送機構によって、保持体10を収納するローダ500から取出され、洗浄ブロック2、濯ぎブロック3、乾燥ブロック4の順に搬送されて、最後にアンローダ600へ収納される。
【0024】
収容トレイの構造を、図3により説明する。図3(A)は、収容トレイの一部となるトレイベース11の構造を表す図である。図3(B)は、収容トレイの一部となるトレイカバー12の構造を表す図である。図3(C)は、これらトレイベース11とトレイカバー12を組合わせてなる収容トレイ14の構造を表す図である。
【0025】
トレイベース11は、磁気ヘッドスライダ15を収容保持するためのものである。このトレイベース11は、板状とされ、トレイカバー12に嵌め込まれる側の主面であるベース表面11eには、格子状の仕切り部11aによってそれぞれ仕切られた窪みが多数設けられている。これらの窪みは、磁気ヘッドスライダ15を個別に収容可能な大きさを有しており、磁気ヘッドスライダ15の収容スペースとされる。トレイベース11に設けられたそれぞれの窪みの底には、収容トレイ14の外面となる側の主面へ貫通する貫通孔(通孔)11bが形成されている。この貫通孔11bは、洗浄液や濯ぎ液を通過させるためのものであり、磁気ヘッドスライダ15が抜け落ちない程度の大きさを有している。
【0026】
また、トレイベース11には、主面間を貫通する止め孔11cが、1つの辺に沿うようにして複数箇所(ここでは2箇所)に形成されている。また、トレイベース11には、ベース表面11eの周縁に沿って、内側が凸状となる段差11dが形成されている。この段差11dは、トレイカバー12に嵌め込むための形状である。
【0027】
トレイカバー12は、トレイベース11に設けられた窪みに収容された磁気ヘッドスライダ15が洗浄中などに飛び出ないようにするために、トレイベース11を覆うものである。このトレイカバー12は、板状とされ、トレイベース11に嵌め込まれた場合のそれぞれの窪みに対応する位置に、主面間を貫通する貫通孔(通孔)12bが形成されている。この貫通孔12bは、洗浄液や濯ぎ液を通過させるためのものであり、磁気ヘッドスライダ15が抜け落ちない程度の大きさを有している。
【0028】
また、トレイカバー12には、トレイベース11に嵌め込まれた場合の止め孔11cに対応する位置に、主面間を貫通する止め孔12cが形成されている。これらの止め孔11c・12cは、後述するトレイ保持具50によって収容トレイ14が保持される場合に使用される。また、トレイカバー12には、トレイベース11に嵌め込まれる側の主面であるカバー表面12eに沿って、内側が凹状となる段差12dが形成されている。この段差12dは、トレイベース11に嵌め込むためのものである。
【0029】
収容トレイ14は、以上のようなトレイベース11とトレイカバー12を組合わせて構成される。すなわち、トレイベース11に設けられたそれぞれの窪みに磁気ヘッドスライダ15を収容した状態で、ベース表面11eとカバー表面12eとを向き合わせる形で、トレイベース11の段差11dとトレイカバー12の段差12dとが嵌め合わされる。
【0030】
また、嵌め合わされたトレイベース11とトレイカバー12は、両者の周縁部分を挟み込むクリップ13によって固定される。このクリップ13は、磁気ヘッドスライダ15が収容されている部分、すなわち貫通孔11b・12bが形成されている部分を塞がない形状とされる。
【0031】
このようにして得られる収容トレイ14は、1つの辺に沿うようにして複数箇所に設けられた止め孔11cおよび止め孔12cが位置し、後述するトレイ保持具50によって収容トレイ14が保持される場合に使用されるスライダ未収納範囲60と、磁気ヘッドスライダ15が収容されているスライダ収納範囲61と、で構成される。
【0032】
図4に、収容トレイ14に収容された磁気ヘッドスライダ15の状態を表す図を示す。磁気ヘッドスライダ15は、トレイベース11の仕切り部11aによって囲われた窪みと、この窪みの開口を覆うトレイカバー12と、により形成される空間内に収容されている。このように磁気ヘッドスライダ15を取り囲む構成が、磁気ヘッドスライダ15の収容部である。また、トレイベース11に形成された貫通孔11bおよびトレイカバー12に形成された貫通孔12bは、それぞれ外部から収容部内へ通じている。
【0033】
図5(A)に、収容トレイ14を保持するためのトレイ保持具50の構造を示す。また、図5(B)には、収容トレイ14がトレイ保持具50によって保持された状態(保持体10)を表す。
【0034】
トレイ保持具50は、環状の平板形状を有しており、周縁に沿って収容トレイ14を保持するためのトレイ保持ピン53が複数形成されている。このトレイ保持ピン53は、収容トレイ14の止め孔11c・12cに差込まれるものである。ここで、トレイ保持具50は、周縁に沿って10個の収容トレイ14を保持可能なようにトレイ保持ピン53が設けられているが、収容トレイ14を保持する数はこれに限られない。
【0035】
また、トレイ保持具50は、環状部分の内側に、それぞれのブロック2〜4において回転させられる際に使用される複数(ここでは2つ)の保持孔51と、それぞれのブロック2〜4の間を搬送される際に搬送機構によって把持されるハンドル52と、を有している。
【0036】
このトレイ保持具50は、それぞれのブロック2〜4において回転させながら用いられるものであり、その回転中心は環状部分の中央に位置する。そのため、トレイ保持具50は、環状部分の周縁に沿って形成されたトレイ保持ピン53によって、収容トレイ14を回転中心から離れた位置に保持する。これにより、収容トレイ14は、トレイ保持具50の回転によって、回転中心の周りを公転移動することになる。
【0037】
また、収容トレイ14は、トレイ保持具50によって保持された状態において、磁気ヘッドスライダ15を収容するスライダ収納範囲61が環状部分の外側に位置する。すなわち、収容トレイ14の止め孔11c・12cにトレイ保持具50のトレイ保持ピン53が差込まれることから、収容トレイ14のうち、止め孔11c・12cが位置するスライダ未収納範囲60のみがトレイ保持具50の周縁部分と重なっており、磁気ヘッドスライダ15が収容されているスライダ収納範囲61は、どちらの主面側も解放された状態となっている。すなわち、スライダ収納範囲61の両主面に形成されている貫通孔11b・12bがトレイ保持具50によって遮られていない。
【0038】
次に、洗浄装置100のそれぞれのブロック2〜4について詳細に説明する。
【0039】
図6は、洗浄装置100の洗浄ブロック2による洗浄工程の説明図である。図6において、下側の図は洗浄ブロック2の正面図であり、上側の図は上面図である。洗浄ブロック2において、洗浄槽200は、界面活性剤を純水で希釈した洗浄液21を貯留している。洗浄液21は、これに限らず、界面活性剤を含む水溶性溶剤や油溶性溶剤であっても良い。洗浄槽200の側面と底面には、洗浄槽200内の洗浄液21に超音波振動を付与する超音波発振器201・202が取付けられている。洗浄液21に付与される超音波の周波数は、20KHz〜200KHz程度(例えば、170KHz)とすることができる。ここで、洗浄槽200の側面と底面に超音波発振器201・202を取付けるのは、洗浄槽200内の洗浄液21にムラなく超音波振動を付与するためである。
【0040】
また、洗浄槽200内の洗浄液21の貯留部分の脇には、貯留部分から溢れ出した洗浄液21を加温および濾過する機構へ送り出すためのオーバフロー槽207が設けられている。洗浄液21は、このオーバフロー槽207から、洗浄槽200の下部に位置する加温槽203に送り込まれる。この加温槽203には、洗浄液21を加温するためのヒータ204が設けられている。洗浄液21の加温温度は、被洗浄物の汚染度合や洗浄液の性質によって適宜決定することができる(例えば、35℃〜45℃)。この加温槽203で加温された洗浄液21は、循環ポンプ205を経由して、フィルタ206に送り込まれて濾過される。このフィルタ206で濾過された洗浄液21は、加温槽203に戻される。このような洗浄液21の循環は、循環ポンプ205の動作によって行われる。
【0041】
また、洗浄ブロック2には、洗浄槽200内で保持体10を支持する回転アーム208が設けられている。回転アーム208に支持された保持体10は、洗浄槽200内の洗浄液21に浸漬される。回転アーム208は保持ピン211を有しており、この保持ピン211が保持体10におけるトレイ保持具50の保持孔51に差込まれることで、保持体10が支持される。この保持体10は、洗浄槽200内で水平に支持されている。すなわち、板状に構成されている収容トレイ14およびトレイ保持具50が洗浄槽200の底面と平行な状態となっている。
【0042】
また、回転アーム208は、洗浄槽200の上部に設けられたアーム回転モータ(洗浄用回転機構)209に接続されている。このアーム回転モータ209により、回転アーム208は、自身が支持している保持体10とともに回転する。ここで、保持体10は、板状に構成されているトレイ保持具50の周縁に沿って水平方向に回転し、収容トレイ14は、洗浄槽200内を公転移動する。また、アーム回転モータ209は、揺動機構(洗浄用揺動機構)210に接続されている。この揺動機構210により、回転アーム208は、自身が支持している保持体10とともに揺動する。揺動機構210による揺動距離は、10mm〜300mm程度(例えば、80mm)とすることができる。ここで、保持体10は、板状に構成されているトレイ保持具50の板厚方向に沿って揺動し、収容トレイ14は、洗浄槽200内を底面付近から液面付近まで上下移動する。
【0043】
以上に説明した洗浄動作によれば、収容トレイ14は、洗浄槽200内の超音波振動が付与された洗浄液21の中を、公転移動および上下移動により幅広く移動することになる。このように、収容トレイ14が洗浄槽200内を幅広く移動することで、超音波発振器の配置位置による超音波の強度分布のばらつきの影響や、定在波ができることによる超音波の強度分布のばらつきの影響を極力低減して、十分な洗浄を行うことができる。
【0044】
また、洗浄槽200内で支持されている保持体10は、収容トレイ14のスライダ収納範囲61と、洗浄槽200の底面および側面と、の間に遮る物が何もない状態となることから、洗浄槽200の底面および側面に取付けられた超音波発振器201・202からの超音波振動が十分に照射されることになり、十分な洗浄を行うことができる。
【0045】
図7は、洗浄装置100の濯ぎブロック3による濯ぎ工程の説明図である。濯ぎブロック3において、濯ぎ槽300は、純水からなる濯ぎ液31を貯留する。濯ぎ液31は、これに限らず、界面活性剤を含まない水溶性溶剤や油溶性溶剤であっても良い。なお、濯ぎ槽300には、上述の洗浄槽200のような超音波発振器が取付けられておらず、濯ぎ槽300内の濯ぎ液31に超音波振動が付与されない。
【0046】
濯ぎ槽300内には、保持体10を支持する円板状の回転テーブル301が設けられている。回転テーブル301には、保持体10のトレイ保持具50が載置される。また、回転テーブル301は、濯ぎ槽300の下部に設けられた回転モータ(濯ぎ用回転機構)302にシャフトを介して接続されている。この回転モータ302により、回転テーブル301は、自身が支持している保持体10とともに回転する。ここで、保持体10は、板状に構成されているトレイ保持具50の周縁に沿って水平方向に回転し、収容トレイ14は、濯ぎ槽300内を公転移動する。
【0047】
また、濯ぎ槽300の上部には、濯ぎ槽300内で支持されている保持体10に濯ぎ液31をシャワー状にして浴びせかけるシャワーノズル(噴液機構)303が設けられている。このシャワーノズル303は、濯ぎ槽300内で支持されている保持体10のうち収容トレイ14の上側に位置するように複数(ここでは2つ)設置されており、保持体10が回転することによって、全ての収容トレイ14の貫通孔(ここでは貫通孔12b)が形成された面に濯ぎ液31を浴びせかけられるようになっている。
【0048】
また、濯ぎ槽300の底には、濯ぎ液31を排出するためのバルブ305が設けられており、このバルブ305が開放されることによって、濯ぎ槽300内の濯ぎ液31は、濯ぎ槽300の下部に設けられた排水タンク306に排水パイプ308を通って排出される。
【0049】
次に、濯ぎ工程の具体的な流れについて説明する。
【0050】
まず、手順1では、洗浄工程が終了して洗浄ブロック2から搬送されてきた保持体10を、濯ぎ槽300内の回転テーブル301上に載置し、固定する。このとき、濯ぎ槽300の底面に設けられた排水用のバルブ305を開いたままにしておく。そして、この状態で回転モータ302を駆動し、回転テーブル301とともに保持体10を回転させる。ここでは、回転テーブル301を、例えば、毎分50回転〜250回転程度で回転させる。これにより、保持体10に付着している洗浄液、ひいては保持体10の収容トレイ14に収容されている磁気ヘッドスライダ15に付着している洗浄液を、振り切ることができる。また、ここで振り切った洗浄液は、濯ぎ槽300の底に落ち、開いているバルブ305から排水タンク306へ排出される。この手順を行うことによって、手順3以降で濯ぎ槽300に貯留して使用される濯ぎ液31に洗浄液の成分(例えば、界面活性剤)が混ざってしまうことを極力防ぐことができる。
【0051】
次に、手順2では、バルブ305を開いたままの状態で、回転テーブル301とともに保持体10を回転させ、回転している保持体10の収容トレイ14の部分に対してシャワーノズル303から濯ぎ液31をシャワー状にして浴びせかける。ここでは、回転テーブル301を、例えば、毎分5回転〜20回転程度で回転させる。これにより、収容トレイ14の収容部には、一方の貫通孔(ここでは貫通孔12b)から濯ぎ液31が入り込み、他方の貫通孔(ここでは貫通孔11b)から流れ出るので、収容部内の磁気ヘッドスライダ15を濯ぐことができる。また、バルブ305を開いたままにしておくことで、濯ぎに使用された濯ぎ液31が、濯ぎ槽300の底に落ち、開放されたバルブ305から排水タンク306へ排出される。この手順を行うことによって、手順3以降で濯ぎ槽300に貯留して使用される濯ぎ液31に洗浄液の成分(例えば、界面活性剤)が混ざってしまうことを極力防ぐことができる。
【0052】
次に、手順3では、バルブ305を閉じて、回転テーブル301とともに保持体10を回転させ、回転している保持体10の収容トレイ14の部分に対してシャワーノズル303から濯ぎ液31を浴びせかけ続ける。ここでは、回転テーブル301を、例えば、毎分5回転〜20回転程度で回転させる。そして、保持体10の収容トレイ14が浸る程度まで濯ぎ槽300に濯ぎ液31が溜まったら、シャワーノズル303からの濯ぎ液31の供給を止める。濯ぎ液31を浴びせかけている間、上述したように、濯ぎ液31が収容トレイ14の収容部内を通り抜けるので、収容部内の磁気ヘッドスライダ15を濯ぐことができる。
【0053】
次に、手順4では、保持体10の収容トレイ14が濯ぎ液31に浸った状態で、回転テーブル301とともに保持体10を回転させる。これにより、収容トレイ14は、濯ぎ液31の中を公転移動することになる。ここでは、回転テーブル301を、例えば、毎分80回転〜130回転程度で回転させる。
【0054】
図8に、手順4における磁気ヘッドスライダ15の状態を示す。磁気ヘッドスライダ15は、トレイベース11の仕切り部11aによって囲われた窪みと、この窪みの開口を覆うトレイカバー12と、により形成される収容部内に収容されている。収容トレイ14を濯ぎ液31に浸漬することによって、収容部内は、貫通孔11b・12bから入り込んだ濯ぎ液31で満たされる。そのため、収容部内の磁気ヘッドスライダ15は、収容部内の底にある状態(図4参照)から浮力を得て浮き上がりやすくなり、その結果、濯ぎ液31が外面全体に接触することとなって、十分な濯ぎを行うことができるようになる。
【0055】
また、収容トレイ14を濯ぎ液31に浸漬することで、収容部内の磁気ヘッドスライダ15には、収容部内に入り込んだ濯ぎ液31から水圧が加わることになるので、これにより、十分な濯ぎを行うことができる。さらに、収容トレイ14を濯ぎ液31の中で公転移動させることで、収容部内の磁気ヘッドスライダ15には、収容部内に入り込んだ濯ぎ液31からより大きな水圧が加わることになるので、これにより、十分な濯ぎを行うことができる。
【0056】
ここで、収容トレイ14は、濯ぎ液31の中で、貫通孔11b・12bの貫通方向とは交差する方向(ここでは直交方向)に公転移動する。これによれば、磁気ヘッドスライダ15が、収容部内で貫通孔11b・12bが形成された壁面へ当接してしまうことを防止でき、収容部内で浮き上がった状態を維持しやすくなる。また、磁気ヘッドスライダ15が、収容部内で貫通孔11b・12bを塞いで、濯ぎ液31の流れを遮ってしまうことを防止することができる。
【0057】
また、収容トレイ14を貫通孔11b・12bの貫通方向とは交差する方向に公転移動させると、収容部内の磁気ヘッドスライダ15は、回転方向の後側に寄って仕切り部11aで構成された壁面に当接し、これによって、この当接した部分に濯ぎ液31が回り込みにくくなるが、保持体10を回転させる回転モータ302の回転方向を定期的に切替えるようにすることで、磁気ヘッドスライダ15の外面全体に濯ぎ液31を十分に接触させることができる。
【0058】
なお、本実施形態では、収容トレイ14を濯ぎ液31の中で公転移動させているが、これに限らず、流れを付与した濯ぎ液31の中で収容トレイ14を保持するようにしても良い。すなわち、両者とも、濯ぎ液31に対して収容トレイ14を相対的に移動させているため、同様の効果を得ることができる。
【0059】
図7の説明に戻り、次に、手順5では、濯ぎ槽300の底面に設けられた排水用のバルブ305を開くことで、濯ぎ槽300に貯留されている濯ぎ液31を排水タンク306へ排水する。そして、手順5が終了したら手順3に戻り、以上に説明した手順3〜手順5の動作を複数回に渡って繰り返す。このように、収容トレイ14に濯ぎ液31を浴びせかける手順3と、収容トレイ14を濯ぎ液31の中で公転移動させる手順4と、を交互に行うことによって、収容トレイ14に収容されている磁気ヘッドスライダ15を十分に濯ぐことができる。
【0060】
以上に説明した濯ぎ動作によれば、濯ぎ槽300内の濯ぎ液31に超音波振動を付与することなく、収容トレイ14に収容されている磁気ヘッドスライダ15を十分に濯ぐことができる。濯ぎ液31に超音波振動を付与しないことにより、濯ぎ槽300や収容トレイ14から発塵した汚染物が磁気ヘッドスライダ15に付着してしまったり、濯ぎ液31中に発生した気泡が収容トレイ14の貫通孔11b・12bを塞いでしまうような事態を引き起こすことがない。
【0061】
図9は、洗浄装置100の乾燥ブロック4による乾燥工程の説明図である。乾燥ブロック4には、乾燥槽400が設けられており、この乾燥槽400内には、保持体10を支持する円板状の回転テーブル401が設けられている。回転テーブル401には、保持体10のトレイ保持具50が載置される。また、回転テーブル401は、乾燥槽400の下部に設けられた回転モータ402にシャフトを介して接続されている。
【0062】
この回転モータ402により、回転テーブル401は、自身が支持している保持体10とともに回転する。保持体10は、板状に構成されているトレイ保持具50の周縁に沿って水平方向に回転し、収容トレイ14は、乾燥槽400内を公転移動する。ここでは、回転テーブル401を、例えば、毎分2000回転〜3000回転程度で回転させる。ここで、収容トレイ14は保持体10の回転中心から離れた位置に保持されていることから、保持体10の回転によって収容トレイ14には十分な速度を与えることができ、これによって、保持体10に付着している濯ぎ液、ひいては保持体10の収容トレイ14に収容されている磁気ヘッドスライダ15に付着している濯ぎ液を、十分に振り切って乾燥させることができる。
【0063】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の形式に限定されない。
【0064】
例えば、上記の実施形態では、洗浄装置100の洗浄ブロック2で洗浄工程、濯ぎブロック3で濯ぎ工程、乾燥ブロック4で乾燥工程を行っていたが、これに限らず、1つのブロックで複数の工程を行うことができる。具体的には、濯ぎ工程が終了した後に、濯ぎ槽300の底面に設けられた排水用のバルブ305を開いて濯ぎ液31を排出し、空となった濯ぎ槽300内で乾燥工程を行っても良い。これによれば、同じブロックで濯ぎ工程と乾燥工程を行うことができ、乾燥工程用のブロックを別に設ける必要がない。
【0065】
以上に説明した本発明の実施形態の効果について説明する。図10は、洗浄装置100による洗浄結果および濯ぎ結果を表す図である。
【0066】
図10(A)は、洗浄装置100による洗浄結果を表す図である。磁気ヘッドスライダに残留した汚染物の率を調査し、汚染物残り率を洗浄結果として表している。比較例としては、特許文献1のように、磁気ヘッドスライダを洗浄籠に収容し、洗浄液に超音波振動を付与しながら洗浄籠を洗浄槽内で揺動させたものを用いた。他の洗浄条件は、同じとしている。この結果、比較例では汚染物残り率が8%〜15%であるのに対し、本発明の実施例では汚染物残り率が2%以下と、大きな差が生じており、本発明の実施例の方が良好な洗浄結果を得ることができた。
【0067】
図10(B)は、洗浄装置100による濯ぎ結果を表す図である。磁気ヘッドスライダに残留した洗浄液の成分(界面活性剤)を高感度有機分析であるTOF−SIMSにて分析し、界面活性剤の検出強度を濯ぎ結果として表している。比較例としては、特許文献2のように、濯ぎ液としての純水中に超音波を付与して磁気ヘッドスライダの濯ぎを行ったものを用いた。洗浄条件および他の濯ぎ条件は、同じとしている。この結果、比較例では界面活性剤検出強度が3〜44であるのに対し、本発明の実施例では界面活性剤検出強度が5以下と、大きな差が生じており、本発明の実施例の方が良好な濯ぎ結果を得ることができた。
【0068】
以上により、本発明の実施形態では、磁気ヘッドスライダを十分に洗浄すること及び濯ぐことができるので、これにより、良好な清浄度を有する磁気ヘッドスライダを得ることができる。このようにして得られた磁気ヘッドスライダは、磁気ディスク装置に搭載された際に、安定した浮上性能および高い耐摺動性能を実現することができ、ひいては信頼性の高い磁気ディスク装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】磁気ヘッドスライダの製造工程の説明図である。
【図2】磁気ヘッドスライダの洗浄装置の概略構成を表す図である。
【図3】収容トレイの構造を表す図である。
【図4】収容トレイに収容された磁気ヘッドスライダの状態を表す図である。
【図5】トレイ保持具の構造を表す図である。
【図6】洗浄装置の洗浄ブロックを表す図である。
【図7】洗浄装置の濯ぎブロックを表す図である。
【図8】濯ぎ工程時の磁気ヘッドスライダの状態を表す図である。
【図9】洗浄装置の乾燥ブロックを表す図である。
【図10】洗浄装置による洗浄結果および濯ぎ結果を表す図である。
【符号の説明】
【0070】
2 洗浄ブロック、3 濯ぎブロック、4 乾燥ブロック、10 保持体、14 収容トレイ、15 磁気ヘッドスライダ、21 洗浄液、31 濯ぎ液、50 トレイ保持具、100 洗浄装置、200 洗浄槽、201,202 超音波発振器、203 加温槽、204 ヒータ、205 循環ポンプ、206 フィルタ、207 オーバフロー槽、208 回転アーム、209 アーム回転モータ(洗浄用回転機構)、210 揺動機構(洗浄用揺動機構)、211 保持ピン、300 濯ぎ槽、301 回転テーブル、302 回転モータ(濯ぎ用回転機構)、303 シャワーノズル(噴液機構)、305 バルブ、306 排水タンク、308 排水パイプ、400 乾燥槽、401 回転テーブル、402 回転モータ、500 ローダ、600 アンローダ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ヘッドスライダの洗浄方法、製造方法および洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、磁気ディスク装置は、装置の小型化および記憶容量の大容量化が急速に進んでおり、これに伴い、データを記録・再生するためのヘッドを保持する磁気ヘッドスライダの、磁気ディスクからの浮上量が10nm以下程度まで低減されている。
【0003】
このような磁気ディスク装置では、磁気ヘッドスライダ等に、塵埃、粉塵、ガス化した有機物などの汚染物が付着していると、磁気ヘッドスライダと磁気ディスクの間の耐摺動信頼性が低下してしまうことがある。そのため、磁気ヘッドスライダには、高い清浄度が要求される。
【0004】
そこで、磁気ヘッドスライダには、製造の最終段階で洗浄が施される。ここでの洗浄は、一般に、磁気ヘッドスライダに付着している汚染物を洗浄液によって洗い落とす洗浄工程と、これにより付着した洗浄液を濯ぎ液によって洗い落とす濯ぎ工程と、これにより付着した濯ぎ液を乾燥させる乾燥工程と、を含んでいる。
【特許文献1】特開平4−29787号公報
【特許文献2】特開2005−158132号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、磁気ヘッドスライダのように微小で損傷しやすい部品に洗浄を施す場合、磁気ヘッドスライダをトレイなどに収容した状態で洗浄や濯ぎを施す必要があることから、洗浄や濯ぎが不十分となって良好な清浄度を得ることが困難である。
【0006】
例えば、特許文献1には、被洗浄物を洗浄籠に収納し、収納効率を高めるために洗浄籠を複数段重ねて、その状態で洗浄槽内の洗浄液に浸漬し、揺動させながら超音波によって洗浄を行う洗浄方法が開示されている。しかしながら、この洗浄方法では、磁気ヘッドスライダが槽内のほぼ一箇所に留まることから、超音波発振器の配置位置による超音波の強度分布のばらつきの影響や、定在波ができることによる超音波の強度分布のばらつきの影響によって、洗浄性にムラが生じやすい。また、洗浄籠を複数段重ねることから、超音波が他の洗浄籠などに遮蔽されやすく、これによっても、洗浄性にムラが生じやすい。その結果、洗浄が不十分となって良好な清浄度を得ることが困難となる。
【0007】
また、特許文献2には、被洗浄物を洗浄液で超音波によって洗浄した後、濯ぎ液としての純水を貯留した濯ぎ槽に浸漬し、超音波によって濯ぎを行う洗浄方法が開示されている。しかしながら、この洗浄方法では、超音波によって洗浄槽やトレイから汚染物が発塵し、この汚染物が純水中に分散せずに磁気ヘッドスライダに付着してしまうことがある。また、超音波によって純水中に気泡が生じやすくなることから、純水中に生じた気泡が収容トレイの収容部に繋がる開口部分を塞いでしまい、収容部内に純水が入り込みづらくなってしまうことがある。その結果、濯ぎが不十分となって良好な清浄度を得ることが困難となる。
【0008】
本発明は、上記問題に鑑みて為されたものであり、良好な清浄度を有する磁気ヘッドスライダを得ることが可能な磁気ヘッドスライダの洗浄方法、製造方法および洗浄装置を提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の磁気ヘッドスライダの洗浄方法は、超音波振動を付与した洗浄液中に磁気ヘッドスライダを浸漬する洗浄工程と、前記磁気ヘッドスライダの収容部と外部から該収容部内へ通じる少なくとも2つの通孔とを有する収容トレイの該収容部内に前記磁気ヘッドスライダを収容し、濯ぎ液に超音波振動を付与せずに、前記収容トレイを前記濯ぎ液中に浸漬し、前記濯ぎ液中で移動させる濯ぎ工程と、を含むことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の磁気ヘッドスライダの洗浄方法において、前記濯ぎ工程は、前記収容トレイを前記濯ぎ液中で前記通孔の貫通方向と交差する方向に移動させることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の磁気ヘッドスライダの洗浄方法において、前記濯ぎ工程は、前記磁気ヘッドスライダを収容した前記収容トレイに前記濯ぎ液を浴びせかける手順と、前記磁気ヘッドスライダを収容した前記収容トレイを前記濯ぎ液中に浸漬し、前記濯ぎ液中で移動させる手順と、を交互に行うことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の磁気ヘッドスライダの洗浄方法において、前記洗浄工程は、前記磁気ヘッドスライダを収容した前記収容トレイを、超音波振動を付与した前記洗浄液中に浸漬し、前記洗浄液中で移動させることを特徴とする。
【0013】
次に、本発明の磁気ヘッドスライダの製造方法は、上述の本発明の磁気ヘッドスライダの洗浄方法を含むことを特徴とする。
【0014】
次に、本発明の磁気ヘッドスライダの洗浄装置は、磁気ヘッドスライダの収容部と外部から該収容部内へ通じる少なくとも2つの通孔とを有する収容トレイと、前記収容トレイを自身の回転中心から離れた位置に保持するトレイ保持具と、洗浄液を貯留する洗浄槽と、前記洗浄槽に貯留された前記洗浄液に超音波振動を付与する超音波発振器と、前記収容トレイを保持した前記トレイ保持具を、前記洗浄槽に貯留された前記洗浄液中に浸漬した状態で回転させる洗浄用回転機構と、濯ぎ液を貯留する濯ぎ槽と、前記収容トレイを保持した前記トレイ保持具を、前記濯ぎ槽に貯留された前記濯ぎ液中に浸漬した状態で回転させる濯ぎ用回転機構と、を備えることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の磁気ヘッドスライダの洗浄装置は、前記収容トレイを保持した前記トレイ保持具を、前記洗浄槽に貯留された前記洗浄液中に浸漬した状態で、前記洗浄用回転機構により回転する前記トレイ保持具の回転軸方向に沿って揺動させる洗浄用揺動機構を備えることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の磁気ヘッドスライダの洗浄装置は、前記濯ぎ槽内で前記収容トレイに前記濯ぎ液を浴びせかける噴液機構を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
上記本発明によれば、良好な清浄度を有する磁気ヘッドスライダを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0019】
まず、磁気ヘッドスライダの製造方法について説明する。
【0020】
図1は、磁気ヘッドスライダの製造工程の説明図である。磁気ヘッドスライダの製造工程では、まず、セラミック基板の表面に記録素子と再生素子を形成して得たウエハーを、機械加工により切断して棒板状に成形する(S1)。次に、棒板状に成形したウエハーをラップ加工して、磁気ディスクと対向する面となる浮上面を形成し(S2)、露出した各素子の腐食防止と摺動性向上のための保護膜を浮上面に形成し(S3)、安定浮上を実現するための浮上面レールを浮上面に形成する(S4)。その後、このようにして加工された棒板状のウエハーをスライダサイズに切断し(S5)、最終的に仕上げ洗浄を施す(S6)。
【0021】
次に、磁気ヘッドスライダの洗浄方法および洗浄装置について説明する。これらは、上述した製造工程の仕上げ洗浄(S6)に適用される。
【0022】
図2は、磁気ヘッドスライダの洗浄装置100の概略構成を表す図である。洗浄装置100は、主に、磁気ヘッドスライダに付着している汚染物を洗浄槽200に貯留された洗浄液21によって洗い落とすための洗浄ブロック2と、これにより付着した洗浄液を濯ぎ槽300に貯留された濯ぎ液31によって洗い落とすための濯ぎブロック3と、これにより付着した濯ぎ液を乾燥槽400内で乾燥させるための乾燥ブロック4と、に区分けすることができる。
【0023】
洗浄装置100では、磁気ヘッドスライダが収容トレイに収容されており、この収容トレイを複数保持した保持体10がそれぞれのブロック2〜4において取り扱われる。この保持体10は、図示しない搬送機構によって、保持体10を収納するローダ500から取出され、洗浄ブロック2、濯ぎブロック3、乾燥ブロック4の順に搬送されて、最後にアンローダ600へ収納される。
【0024】
収容トレイの構造を、図3により説明する。図3(A)は、収容トレイの一部となるトレイベース11の構造を表す図である。図3(B)は、収容トレイの一部となるトレイカバー12の構造を表す図である。図3(C)は、これらトレイベース11とトレイカバー12を組合わせてなる収容トレイ14の構造を表す図である。
【0025】
トレイベース11は、磁気ヘッドスライダ15を収容保持するためのものである。このトレイベース11は、板状とされ、トレイカバー12に嵌め込まれる側の主面であるベース表面11eには、格子状の仕切り部11aによってそれぞれ仕切られた窪みが多数設けられている。これらの窪みは、磁気ヘッドスライダ15を個別に収容可能な大きさを有しており、磁気ヘッドスライダ15の収容スペースとされる。トレイベース11に設けられたそれぞれの窪みの底には、収容トレイ14の外面となる側の主面へ貫通する貫通孔(通孔)11bが形成されている。この貫通孔11bは、洗浄液や濯ぎ液を通過させるためのものであり、磁気ヘッドスライダ15が抜け落ちない程度の大きさを有している。
【0026】
また、トレイベース11には、主面間を貫通する止め孔11cが、1つの辺に沿うようにして複数箇所(ここでは2箇所)に形成されている。また、トレイベース11には、ベース表面11eの周縁に沿って、内側が凸状となる段差11dが形成されている。この段差11dは、トレイカバー12に嵌め込むための形状である。
【0027】
トレイカバー12は、トレイベース11に設けられた窪みに収容された磁気ヘッドスライダ15が洗浄中などに飛び出ないようにするために、トレイベース11を覆うものである。このトレイカバー12は、板状とされ、トレイベース11に嵌め込まれた場合のそれぞれの窪みに対応する位置に、主面間を貫通する貫通孔(通孔)12bが形成されている。この貫通孔12bは、洗浄液や濯ぎ液を通過させるためのものであり、磁気ヘッドスライダ15が抜け落ちない程度の大きさを有している。
【0028】
また、トレイカバー12には、トレイベース11に嵌め込まれた場合の止め孔11cに対応する位置に、主面間を貫通する止め孔12cが形成されている。これらの止め孔11c・12cは、後述するトレイ保持具50によって収容トレイ14が保持される場合に使用される。また、トレイカバー12には、トレイベース11に嵌め込まれる側の主面であるカバー表面12eに沿って、内側が凹状となる段差12dが形成されている。この段差12dは、トレイベース11に嵌め込むためのものである。
【0029】
収容トレイ14は、以上のようなトレイベース11とトレイカバー12を組合わせて構成される。すなわち、トレイベース11に設けられたそれぞれの窪みに磁気ヘッドスライダ15を収容した状態で、ベース表面11eとカバー表面12eとを向き合わせる形で、トレイベース11の段差11dとトレイカバー12の段差12dとが嵌め合わされる。
【0030】
また、嵌め合わされたトレイベース11とトレイカバー12は、両者の周縁部分を挟み込むクリップ13によって固定される。このクリップ13は、磁気ヘッドスライダ15が収容されている部分、すなわち貫通孔11b・12bが形成されている部分を塞がない形状とされる。
【0031】
このようにして得られる収容トレイ14は、1つの辺に沿うようにして複数箇所に設けられた止め孔11cおよび止め孔12cが位置し、後述するトレイ保持具50によって収容トレイ14が保持される場合に使用されるスライダ未収納範囲60と、磁気ヘッドスライダ15が収容されているスライダ収納範囲61と、で構成される。
【0032】
図4に、収容トレイ14に収容された磁気ヘッドスライダ15の状態を表す図を示す。磁気ヘッドスライダ15は、トレイベース11の仕切り部11aによって囲われた窪みと、この窪みの開口を覆うトレイカバー12と、により形成される空間内に収容されている。このように磁気ヘッドスライダ15を取り囲む構成が、磁気ヘッドスライダ15の収容部である。また、トレイベース11に形成された貫通孔11bおよびトレイカバー12に形成された貫通孔12bは、それぞれ外部から収容部内へ通じている。
【0033】
図5(A)に、収容トレイ14を保持するためのトレイ保持具50の構造を示す。また、図5(B)には、収容トレイ14がトレイ保持具50によって保持された状態(保持体10)を表す。
【0034】
トレイ保持具50は、環状の平板形状を有しており、周縁に沿って収容トレイ14を保持するためのトレイ保持ピン53が複数形成されている。このトレイ保持ピン53は、収容トレイ14の止め孔11c・12cに差込まれるものである。ここで、トレイ保持具50は、周縁に沿って10個の収容トレイ14を保持可能なようにトレイ保持ピン53が設けられているが、収容トレイ14を保持する数はこれに限られない。
【0035】
また、トレイ保持具50は、環状部分の内側に、それぞれのブロック2〜4において回転させられる際に使用される複数(ここでは2つ)の保持孔51と、それぞれのブロック2〜4の間を搬送される際に搬送機構によって把持されるハンドル52と、を有している。
【0036】
このトレイ保持具50は、それぞれのブロック2〜4において回転させながら用いられるものであり、その回転中心は環状部分の中央に位置する。そのため、トレイ保持具50は、環状部分の周縁に沿って形成されたトレイ保持ピン53によって、収容トレイ14を回転中心から離れた位置に保持する。これにより、収容トレイ14は、トレイ保持具50の回転によって、回転中心の周りを公転移動することになる。
【0037】
また、収容トレイ14は、トレイ保持具50によって保持された状態において、磁気ヘッドスライダ15を収容するスライダ収納範囲61が環状部分の外側に位置する。すなわち、収容トレイ14の止め孔11c・12cにトレイ保持具50のトレイ保持ピン53が差込まれることから、収容トレイ14のうち、止め孔11c・12cが位置するスライダ未収納範囲60のみがトレイ保持具50の周縁部分と重なっており、磁気ヘッドスライダ15が収容されているスライダ収納範囲61は、どちらの主面側も解放された状態となっている。すなわち、スライダ収納範囲61の両主面に形成されている貫通孔11b・12bがトレイ保持具50によって遮られていない。
【0038】
次に、洗浄装置100のそれぞれのブロック2〜4について詳細に説明する。
【0039】
図6は、洗浄装置100の洗浄ブロック2による洗浄工程の説明図である。図6において、下側の図は洗浄ブロック2の正面図であり、上側の図は上面図である。洗浄ブロック2において、洗浄槽200は、界面活性剤を純水で希釈した洗浄液21を貯留している。洗浄液21は、これに限らず、界面活性剤を含む水溶性溶剤や油溶性溶剤であっても良い。洗浄槽200の側面と底面には、洗浄槽200内の洗浄液21に超音波振動を付与する超音波発振器201・202が取付けられている。洗浄液21に付与される超音波の周波数は、20KHz〜200KHz程度(例えば、170KHz)とすることができる。ここで、洗浄槽200の側面と底面に超音波発振器201・202を取付けるのは、洗浄槽200内の洗浄液21にムラなく超音波振動を付与するためである。
【0040】
また、洗浄槽200内の洗浄液21の貯留部分の脇には、貯留部分から溢れ出した洗浄液21を加温および濾過する機構へ送り出すためのオーバフロー槽207が設けられている。洗浄液21は、このオーバフロー槽207から、洗浄槽200の下部に位置する加温槽203に送り込まれる。この加温槽203には、洗浄液21を加温するためのヒータ204が設けられている。洗浄液21の加温温度は、被洗浄物の汚染度合や洗浄液の性質によって適宜決定することができる(例えば、35℃〜45℃)。この加温槽203で加温された洗浄液21は、循環ポンプ205を経由して、フィルタ206に送り込まれて濾過される。このフィルタ206で濾過された洗浄液21は、加温槽203に戻される。このような洗浄液21の循環は、循環ポンプ205の動作によって行われる。
【0041】
また、洗浄ブロック2には、洗浄槽200内で保持体10を支持する回転アーム208が設けられている。回転アーム208に支持された保持体10は、洗浄槽200内の洗浄液21に浸漬される。回転アーム208は保持ピン211を有しており、この保持ピン211が保持体10におけるトレイ保持具50の保持孔51に差込まれることで、保持体10が支持される。この保持体10は、洗浄槽200内で水平に支持されている。すなわち、板状に構成されている収容トレイ14およびトレイ保持具50が洗浄槽200の底面と平行な状態となっている。
【0042】
また、回転アーム208は、洗浄槽200の上部に設けられたアーム回転モータ(洗浄用回転機構)209に接続されている。このアーム回転モータ209により、回転アーム208は、自身が支持している保持体10とともに回転する。ここで、保持体10は、板状に構成されているトレイ保持具50の周縁に沿って水平方向に回転し、収容トレイ14は、洗浄槽200内を公転移動する。また、アーム回転モータ209は、揺動機構(洗浄用揺動機構)210に接続されている。この揺動機構210により、回転アーム208は、自身が支持している保持体10とともに揺動する。揺動機構210による揺動距離は、10mm〜300mm程度(例えば、80mm)とすることができる。ここで、保持体10は、板状に構成されているトレイ保持具50の板厚方向に沿って揺動し、収容トレイ14は、洗浄槽200内を底面付近から液面付近まで上下移動する。
【0043】
以上に説明した洗浄動作によれば、収容トレイ14は、洗浄槽200内の超音波振動が付与された洗浄液21の中を、公転移動および上下移動により幅広く移動することになる。このように、収容トレイ14が洗浄槽200内を幅広く移動することで、超音波発振器の配置位置による超音波の強度分布のばらつきの影響や、定在波ができることによる超音波の強度分布のばらつきの影響を極力低減して、十分な洗浄を行うことができる。
【0044】
また、洗浄槽200内で支持されている保持体10は、収容トレイ14のスライダ収納範囲61と、洗浄槽200の底面および側面と、の間に遮る物が何もない状態となることから、洗浄槽200の底面および側面に取付けられた超音波発振器201・202からの超音波振動が十分に照射されることになり、十分な洗浄を行うことができる。
【0045】
図7は、洗浄装置100の濯ぎブロック3による濯ぎ工程の説明図である。濯ぎブロック3において、濯ぎ槽300は、純水からなる濯ぎ液31を貯留する。濯ぎ液31は、これに限らず、界面活性剤を含まない水溶性溶剤や油溶性溶剤であっても良い。なお、濯ぎ槽300には、上述の洗浄槽200のような超音波発振器が取付けられておらず、濯ぎ槽300内の濯ぎ液31に超音波振動が付与されない。
【0046】
濯ぎ槽300内には、保持体10を支持する円板状の回転テーブル301が設けられている。回転テーブル301には、保持体10のトレイ保持具50が載置される。また、回転テーブル301は、濯ぎ槽300の下部に設けられた回転モータ(濯ぎ用回転機構)302にシャフトを介して接続されている。この回転モータ302により、回転テーブル301は、自身が支持している保持体10とともに回転する。ここで、保持体10は、板状に構成されているトレイ保持具50の周縁に沿って水平方向に回転し、収容トレイ14は、濯ぎ槽300内を公転移動する。
【0047】
また、濯ぎ槽300の上部には、濯ぎ槽300内で支持されている保持体10に濯ぎ液31をシャワー状にして浴びせかけるシャワーノズル(噴液機構)303が設けられている。このシャワーノズル303は、濯ぎ槽300内で支持されている保持体10のうち収容トレイ14の上側に位置するように複数(ここでは2つ)設置されており、保持体10が回転することによって、全ての収容トレイ14の貫通孔(ここでは貫通孔12b)が形成された面に濯ぎ液31を浴びせかけられるようになっている。
【0048】
また、濯ぎ槽300の底には、濯ぎ液31を排出するためのバルブ305が設けられており、このバルブ305が開放されることによって、濯ぎ槽300内の濯ぎ液31は、濯ぎ槽300の下部に設けられた排水タンク306に排水パイプ308を通って排出される。
【0049】
次に、濯ぎ工程の具体的な流れについて説明する。
【0050】
まず、手順1では、洗浄工程が終了して洗浄ブロック2から搬送されてきた保持体10を、濯ぎ槽300内の回転テーブル301上に載置し、固定する。このとき、濯ぎ槽300の底面に設けられた排水用のバルブ305を開いたままにしておく。そして、この状態で回転モータ302を駆動し、回転テーブル301とともに保持体10を回転させる。ここでは、回転テーブル301を、例えば、毎分50回転〜250回転程度で回転させる。これにより、保持体10に付着している洗浄液、ひいては保持体10の収容トレイ14に収容されている磁気ヘッドスライダ15に付着している洗浄液を、振り切ることができる。また、ここで振り切った洗浄液は、濯ぎ槽300の底に落ち、開いているバルブ305から排水タンク306へ排出される。この手順を行うことによって、手順3以降で濯ぎ槽300に貯留して使用される濯ぎ液31に洗浄液の成分(例えば、界面活性剤)が混ざってしまうことを極力防ぐことができる。
【0051】
次に、手順2では、バルブ305を開いたままの状態で、回転テーブル301とともに保持体10を回転させ、回転している保持体10の収容トレイ14の部分に対してシャワーノズル303から濯ぎ液31をシャワー状にして浴びせかける。ここでは、回転テーブル301を、例えば、毎分5回転〜20回転程度で回転させる。これにより、収容トレイ14の収容部には、一方の貫通孔(ここでは貫通孔12b)から濯ぎ液31が入り込み、他方の貫通孔(ここでは貫通孔11b)から流れ出るので、収容部内の磁気ヘッドスライダ15を濯ぐことができる。また、バルブ305を開いたままにしておくことで、濯ぎに使用された濯ぎ液31が、濯ぎ槽300の底に落ち、開放されたバルブ305から排水タンク306へ排出される。この手順を行うことによって、手順3以降で濯ぎ槽300に貯留して使用される濯ぎ液31に洗浄液の成分(例えば、界面活性剤)が混ざってしまうことを極力防ぐことができる。
【0052】
次に、手順3では、バルブ305を閉じて、回転テーブル301とともに保持体10を回転させ、回転している保持体10の収容トレイ14の部分に対してシャワーノズル303から濯ぎ液31を浴びせかけ続ける。ここでは、回転テーブル301を、例えば、毎分5回転〜20回転程度で回転させる。そして、保持体10の収容トレイ14が浸る程度まで濯ぎ槽300に濯ぎ液31が溜まったら、シャワーノズル303からの濯ぎ液31の供給を止める。濯ぎ液31を浴びせかけている間、上述したように、濯ぎ液31が収容トレイ14の収容部内を通り抜けるので、収容部内の磁気ヘッドスライダ15を濯ぐことができる。
【0053】
次に、手順4では、保持体10の収容トレイ14が濯ぎ液31に浸った状態で、回転テーブル301とともに保持体10を回転させる。これにより、収容トレイ14は、濯ぎ液31の中を公転移動することになる。ここでは、回転テーブル301を、例えば、毎分80回転〜130回転程度で回転させる。
【0054】
図8に、手順4における磁気ヘッドスライダ15の状態を示す。磁気ヘッドスライダ15は、トレイベース11の仕切り部11aによって囲われた窪みと、この窪みの開口を覆うトレイカバー12と、により形成される収容部内に収容されている。収容トレイ14を濯ぎ液31に浸漬することによって、収容部内は、貫通孔11b・12bから入り込んだ濯ぎ液31で満たされる。そのため、収容部内の磁気ヘッドスライダ15は、収容部内の底にある状態(図4参照)から浮力を得て浮き上がりやすくなり、その結果、濯ぎ液31が外面全体に接触することとなって、十分な濯ぎを行うことができるようになる。
【0055】
また、収容トレイ14を濯ぎ液31に浸漬することで、収容部内の磁気ヘッドスライダ15には、収容部内に入り込んだ濯ぎ液31から水圧が加わることになるので、これにより、十分な濯ぎを行うことができる。さらに、収容トレイ14を濯ぎ液31の中で公転移動させることで、収容部内の磁気ヘッドスライダ15には、収容部内に入り込んだ濯ぎ液31からより大きな水圧が加わることになるので、これにより、十分な濯ぎを行うことができる。
【0056】
ここで、収容トレイ14は、濯ぎ液31の中で、貫通孔11b・12bの貫通方向とは交差する方向(ここでは直交方向)に公転移動する。これによれば、磁気ヘッドスライダ15が、収容部内で貫通孔11b・12bが形成された壁面へ当接してしまうことを防止でき、収容部内で浮き上がった状態を維持しやすくなる。また、磁気ヘッドスライダ15が、収容部内で貫通孔11b・12bを塞いで、濯ぎ液31の流れを遮ってしまうことを防止することができる。
【0057】
また、収容トレイ14を貫通孔11b・12bの貫通方向とは交差する方向に公転移動させると、収容部内の磁気ヘッドスライダ15は、回転方向の後側に寄って仕切り部11aで構成された壁面に当接し、これによって、この当接した部分に濯ぎ液31が回り込みにくくなるが、保持体10を回転させる回転モータ302の回転方向を定期的に切替えるようにすることで、磁気ヘッドスライダ15の外面全体に濯ぎ液31を十分に接触させることができる。
【0058】
なお、本実施形態では、収容トレイ14を濯ぎ液31の中で公転移動させているが、これに限らず、流れを付与した濯ぎ液31の中で収容トレイ14を保持するようにしても良い。すなわち、両者とも、濯ぎ液31に対して収容トレイ14を相対的に移動させているため、同様の効果を得ることができる。
【0059】
図7の説明に戻り、次に、手順5では、濯ぎ槽300の底面に設けられた排水用のバルブ305を開くことで、濯ぎ槽300に貯留されている濯ぎ液31を排水タンク306へ排水する。そして、手順5が終了したら手順3に戻り、以上に説明した手順3〜手順5の動作を複数回に渡って繰り返す。このように、収容トレイ14に濯ぎ液31を浴びせかける手順3と、収容トレイ14を濯ぎ液31の中で公転移動させる手順4と、を交互に行うことによって、収容トレイ14に収容されている磁気ヘッドスライダ15を十分に濯ぐことができる。
【0060】
以上に説明した濯ぎ動作によれば、濯ぎ槽300内の濯ぎ液31に超音波振動を付与することなく、収容トレイ14に収容されている磁気ヘッドスライダ15を十分に濯ぐことができる。濯ぎ液31に超音波振動を付与しないことにより、濯ぎ槽300や収容トレイ14から発塵した汚染物が磁気ヘッドスライダ15に付着してしまったり、濯ぎ液31中に発生した気泡が収容トレイ14の貫通孔11b・12bを塞いでしまうような事態を引き起こすことがない。
【0061】
図9は、洗浄装置100の乾燥ブロック4による乾燥工程の説明図である。乾燥ブロック4には、乾燥槽400が設けられており、この乾燥槽400内には、保持体10を支持する円板状の回転テーブル401が設けられている。回転テーブル401には、保持体10のトレイ保持具50が載置される。また、回転テーブル401は、乾燥槽400の下部に設けられた回転モータ402にシャフトを介して接続されている。
【0062】
この回転モータ402により、回転テーブル401は、自身が支持している保持体10とともに回転する。保持体10は、板状に構成されているトレイ保持具50の周縁に沿って水平方向に回転し、収容トレイ14は、乾燥槽400内を公転移動する。ここでは、回転テーブル401を、例えば、毎分2000回転〜3000回転程度で回転させる。ここで、収容トレイ14は保持体10の回転中心から離れた位置に保持されていることから、保持体10の回転によって収容トレイ14には十分な速度を与えることができ、これによって、保持体10に付着している濯ぎ液、ひいては保持体10の収容トレイ14に収容されている磁気ヘッドスライダ15に付着している濯ぎ液を、十分に振り切って乾燥させることができる。
【0063】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の形式に限定されない。
【0064】
例えば、上記の実施形態では、洗浄装置100の洗浄ブロック2で洗浄工程、濯ぎブロック3で濯ぎ工程、乾燥ブロック4で乾燥工程を行っていたが、これに限らず、1つのブロックで複数の工程を行うことができる。具体的には、濯ぎ工程が終了した後に、濯ぎ槽300の底面に設けられた排水用のバルブ305を開いて濯ぎ液31を排出し、空となった濯ぎ槽300内で乾燥工程を行っても良い。これによれば、同じブロックで濯ぎ工程と乾燥工程を行うことができ、乾燥工程用のブロックを別に設ける必要がない。
【0065】
以上に説明した本発明の実施形態の効果について説明する。図10は、洗浄装置100による洗浄結果および濯ぎ結果を表す図である。
【0066】
図10(A)は、洗浄装置100による洗浄結果を表す図である。磁気ヘッドスライダに残留した汚染物の率を調査し、汚染物残り率を洗浄結果として表している。比較例としては、特許文献1のように、磁気ヘッドスライダを洗浄籠に収容し、洗浄液に超音波振動を付与しながら洗浄籠を洗浄槽内で揺動させたものを用いた。他の洗浄条件は、同じとしている。この結果、比較例では汚染物残り率が8%〜15%であるのに対し、本発明の実施例では汚染物残り率が2%以下と、大きな差が生じており、本発明の実施例の方が良好な洗浄結果を得ることができた。
【0067】
図10(B)は、洗浄装置100による濯ぎ結果を表す図である。磁気ヘッドスライダに残留した洗浄液の成分(界面活性剤)を高感度有機分析であるTOF−SIMSにて分析し、界面活性剤の検出強度を濯ぎ結果として表している。比較例としては、特許文献2のように、濯ぎ液としての純水中に超音波を付与して磁気ヘッドスライダの濯ぎを行ったものを用いた。洗浄条件および他の濯ぎ条件は、同じとしている。この結果、比較例では界面活性剤検出強度が3〜44であるのに対し、本発明の実施例では界面活性剤検出強度が5以下と、大きな差が生じており、本発明の実施例の方が良好な濯ぎ結果を得ることができた。
【0068】
以上により、本発明の実施形態では、磁気ヘッドスライダを十分に洗浄すること及び濯ぐことができるので、これにより、良好な清浄度を有する磁気ヘッドスライダを得ることができる。このようにして得られた磁気ヘッドスライダは、磁気ディスク装置に搭載された際に、安定した浮上性能および高い耐摺動性能を実現することができ、ひいては信頼性の高い磁気ディスク装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】磁気ヘッドスライダの製造工程の説明図である。
【図2】磁気ヘッドスライダの洗浄装置の概略構成を表す図である。
【図3】収容トレイの構造を表す図である。
【図4】収容トレイに収容された磁気ヘッドスライダの状態を表す図である。
【図5】トレイ保持具の構造を表す図である。
【図6】洗浄装置の洗浄ブロックを表す図である。
【図7】洗浄装置の濯ぎブロックを表す図である。
【図8】濯ぎ工程時の磁気ヘッドスライダの状態を表す図である。
【図9】洗浄装置の乾燥ブロックを表す図である。
【図10】洗浄装置による洗浄結果および濯ぎ結果を表す図である。
【符号の説明】
【0070】
2 洗浄ブロック、3 濯ぎブロック、4 乾燥ブロック、10 保持体、14 収容トレイ、15 磁気ヘッドスライダ、21 洗浄液、31 濯ぎ液、50 トレイ保持具、100 洗浄装置、200 洗浄槽、201,202 超音波発振器、203 加温槽、204 ヒータ、205 循環ポンプ、206 フィルタ、207 オーバフロー槽、208 回転アーム、209 アーム回転モータ(洗浄用回転機構)、210 揺動機構(洗浄用揺動機構)、211 保持ピン、300 濯ぎ槽、301 回転テーブル、302 回転モータ(濯ぎ用回転機構)、303 シャワーノズル(噴液機構)、305 バルブ、306 排水タンク、308 排水パイプ、400 乾燥槽、401 回転テーブル、402 回転モータ、500 ローダ、600 アンローダ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波振動を付与した洗浄液中に磁気ヘッドスライダを浸漬する洗浄工程と、
前記磁気ヘッドスライダの収容部と外部から該収容部内へ通じる少なくとも2つの通孔とを有する収容トレイの該収容部内に前記磁気ヘッドスライダを収容し、濯ぎ液に超音波振動を付与せずに、前記収容トレイを前記濯ぎ液中に浸漬し、前記濯ぎ液中で移動させる濯ぎ工程と、
を含むことを特徴とする磁気ヘッドスライダの洗浄方法。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気ヘッドスライダの洗浄方法であって、
前記濯ぎ工程は、前記収容トレイを前記濯ぎ液中で前記通孔の貫通方向と交差する方向に移動させることを特徴とする磁気ヘッドスライダの洗浄方法。
【請求項3】
請求項1に記載の磁気ヘッドスライダの洗浄方法であって、
前記濯ぎ工程は、前記磁気ヘッドスライダを収容した前記収容トレイに前記濯ぎ液を浴びせかける手順と、前記磁気ヘッドスライダを収容した前記収容トレイを前記濯ぎ液中に浸漬し、前記濯ぎ液中で移動させる手順と、を交互に行うことを特徴とする磁気ヘッドスライダの洗浄方法。
【請求項4】
請求項1に記載の磁気ヘッドスライダの洗浄方法であって、
前記洗浄工程は、前記磁気ヘッドスライダを収容した前記収容トレイを、超音波振動を付与した前記洗浄液中に浸漬し、前記洗浄液中で移動させることを特徴とする磁気ヘッドスライダの洗浄方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の磁気ヘッドスライダの洗浄方法を含むことを特徴とする磁気ヘッドスライダの製造方法。
【請求項6】
磁気ヘッドスライダの収容部と外部から該収容部内へ通じる少なくとも2つの通孔とを有する収容トレイと、
前記収容トレイを自身の回転中心から離れた位置に保持するトレイ保持具と、
洗浄液を貯留する洗浄槽と、
前記洗浄槽に貯留された前記洗浄液に超音波振動を付与する超音波発振器と、
前記収容トレイを保持した前記トレイ保持具を、前記洗浄槽に貯留された前記洗浄液中に浸漬した状態で回転させる洗浄用回転機構と、
濯ぎ液を貯留する濯ぎ槽と、
前記収容トレイを保持した前記トレイ保持具を、前記濯ぎ槽に貯留された前記濯ぎ液中に浸漬した状態で回転させる濯ぎ用回転機構と、
を備えることを特徴とする磁気ヘッドスライダの洗浄装置。
【請求項7】
請求項6に記載の磁気ヘッドスライダの洗浄装置であって、
前記収容トレイを保持した前記トレイ保持具を、前記洗浄槽に貯留された前記洗浄液中に浸漬した状態で、前記洗浄用回転機構により回転する前記トレイ保持具の回転軸方向に沿って揺動させる洗浄用揺動機構を備えることを特徴とする磁気ヘッドスライダの洗浄装置。
【請求項8】
請求項6に記載の磁気ヘッドスライダの洗浄装置であって、
前記濯ぎ槽内で前記収容トレイに前記濯ぎ液を浴びせかける噴液機構を備えることを特徴とする磁気ヘッドスライダの洗浄装置。
【請求項1】
超音波振動を付与した洗浄液中に磁気ヘッドスライダを浸漬する洗浄工程と、
前記磁気ヘッドスライダの収容部と外部から該収容部内へ通じる少なくとも2つの通孔とを有する収容トレイの該収容部内に前記磁気ヘッドスライダを収容し、濯ぎ液に超音波振動を付与せずに、前記収容トレイを前記濯ぎ液中に浸漬し、前記濯ぎ液中で移動させる濯ぎ工程と、
を含むことを特徴とする磁気ヘッドスライダの洗浄方法。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気ヘッドスライダの洗浄方法であって、
前記濯ぎ工程は、前記収容トレイを前記濯ぎ液中で前記通孔の貫通方向と交差する方向に移動させることを特徴とする磁気ヘッドスライダの洗浄方法。
【請求項3】
請求項1に記載の磁気ヘッドスライダの洗浄方法であって、
前記濯ぎ工程は、前記磁気ヘッドスライダを収容した前記収容トレイに前記濯ぎ液を浴びせかける手順と、前記磁気ヘッドスライダを収容した前記収容トレイを前記濯ぎ液中に浸漬し、前記濯ぎ液中で移動させる手順と、を交互に行うことを特徴とする磁気ヘッドスライダの洗浄方法。
【請求項4】
請求項1に記載の磁気ヘッドスライダの洗浄方法であって、
前記洗浄工程は、前記磁気ヘッドスライダを収容した前記収容トレイを、超音波振動を付与した前記洗浄液中に浸漬し、前記洗浄液中で移動させることを特徴とする磁気ヘッドスライダの洗浄方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の磁気ヘッドスライダの洗浄方法を含むことを特徴とする磁気ヘッドスライダの製造方法。
【請求項6】
磁気ヘッドスライダの収容部と外部から該収容部内へ通じる少なくとも2つの通孔とを有する収容トレイと、
前記収容トレイを自身の回転中心から離れた位置に保持するトレイ保持具と、
洗浄液を貯留する洗浄槽と、
前記洗浄槽に貯留された前記洗浄液に超音波振動を付与する超音波発振器と、
前記収容トレイを保持した前記トレイ保持具を、前記洗浄槽に貯留された前記洗浄液中に浸漬した状態で回転させる洗浄用回転機構と、
濯ぎ液を貯留する濯ぎ槽と、
前記収容トレイを保持した前記トレイ保持具を、前記濯ぎ槽に貯留された前記濯ぎ液中に浸漬した状態で回転させる濯ぎ用回転機構と、
を備えることを特徴とする磁気ヘッドスライダの洗浄装置。
【請求項7】
請求項6に記載の磁気ヘッドスライダの洗浄装置であって、
前記収容トレイを保持した前記トレイ保持具を、前記洗浄槽に貯留された前記洗浄液中に浸漬した状態で、前記洗浄用回転機構により回転する前記トレイ保持具の回転軸方向に沿って揺動させる洗浄用揺動機構を備えることを特徴とする磁気ヘッドスライダの洗浄装置。
【請求項8】
請求項6に記載の磁気ヘッドスライダの洗浄装置であって、
前記濯ぎ槽内で前記収容トレイに前記濯ぎ液を浴びせかける噴液機構を備えることを特徴とする磁気ヘッドスライダの洗浄装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2008−77764(P2008−77764A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−256083(P2006−256083)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(503116280)ヒタチグローバルストレージテクノロジーズネザーランドビーブイ (1,121)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(503116280)ヒタチグローバルストレージテクノロジーズネザーランドビーブイ (1,121)
【Fターム(参考)】
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