説明

磁気共鳴イメージング装置

【課題】渦巻状の電気導体32の電気抵抗を増加させることなく、渦巻状の電気導体32における電流中心の偏りを矯正可能な磁気共鳴イメージング装置を提供する。
【解決手段】渦巻状の電気導体32の厚さが、電気導体32の幅方向で異なり、電気導体32の湾曲部11では、幅方向を曲率半径の半径方向として、半径方向の湾曲部11の外側は内側に比べて、電気導体32の厚さが厚くなっている。電気導体32は、厚さが略一定の定厚部材と、定厚部材の上に局所的に設置される追加部材とを有する。また、電気導体32は、厚さが略一定の定厚部材を有し、定厚部材には、略一定の厚さより薄い異厚部が局所的に設けられている。そして、電気導体32は、傾斜磁場コイルと、シムコイルと、高周波照射コイル、高周波受信コイルの内の、少なくともいずれか1つである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、渦巻形状又は分岐形状の電気導体を有する磁気共鳴イメージング(以下、MRI;Magnetic Resonance Imagingと称す)装置に関する。
【背景技術】
【0002】
MRI装置は、核磁気共鳴(以下、NMR;Nuclear Magnetic Resonanceと称す)現象を利用して被検体の物理的、化学的性質を表す断層画像を撮像するものであり、特に医療用として広く用いられている。
【0003】
MRI装置には、計測されるNMR信号に位置情報を持たせるために傾斜磁場発生装置が用いられる。傾斜磁場発生装置は、撮像領域内において、互いに直交する3方向それぞれに沿って磁場強度が線形的に変化する傾斜磁場を発生させる、複数の渦巻形状の電気導体(コイル)を有している。この傾斜磁場により、MRI装置は、NMR信号の3次元的な位置情報を得ている。このため、傾斜磁場の磁場分布の精度は、計測されるNMR信号の位置情報の精度ひいては画像の空間分解能に影響するため重要である。
【0004】
傾斜磁場発生装置は、画像の空間分解能を向上させ、傾斜磁場の磁場分布の精度を高めるために、大きな傾斜磁場を発生させる必要がある。そのため、傾斜磁場発生装置に流される電流を大きくしつつ、電源装置の負担を減らすために、傾斜磁場発生装置の電気抵抗を小さくし、傾斜磁場発生装置を構成する複数の渦巻形状の電気導体の幅や厚みを大きくしている。ここで、渦巻状の電気導体のコイルパターンが形成されている面の法線方向の厚さを、渦巻状の電気導体の厚さとし、電流方向とその法線方向に直交する方向の渦巻状の電気導体の寸法を幅と定義している。傾斜磁場発生装置は、一定の厚みのフラットな板状の電気導体を、所望の磁場を発生させる渦巻形状のコイルパターンに加工することで製作されることが多い。
【0005】
渦巻状(のコイルパターン)の電気導体内を流れる電流は、電流方向と直交する方向(前記幅の方向)に分布を有する。これは、電気導体が湾曲している(直線形状でない)箇所では、電流は電気抵抗が小さくなるよう渦巻の内側寄りの最短経路を流れる傾向があるからである。特に、電気導体の湾曲部の内側の曲率半径に比べて電気導体の幅が大きい場合には、電流分布の電流中心は導体幅方向の電気導体の中心から内側に偏る。
【0006】
傾斜磁場発生装置の渦巻形状の電気導体のコイルパターンの(設計)寸法に対して電流中心の偏りが無視できないほどに大きくなると、傾斜磁場発生装置が実際に発生させる傾斜磁場と設計した傾斜磁場との誤差が大きくなり、NMR信号の位置情報の計測精度を悪化させ、画像の空間分解能を低下させる原因となっていた。
【0007】
電流中心の偏りを矯正する従来技術としては、分岐形状の電気導体でありMRIの撮像時に高周波磁場を発生させる高周波(以下、RF;Radio Frequencyと称す)照射コイルにおいて、幅方向にスリットを設け、電流の経路をシフトさせて適切な電流分布を実現する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−332177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来技術では、スリットを設けるために導体を取り除くことから、スリットを設ける前と比べてRF照射コイル全体の電気抵抗が増加し、電源装置にかかる負荷が増大したり、RF照射コイルの発熱量が増加したりする。
【0010】
これは、分岐形状の電気導体のRF照射コイルに限らず、MRI装置に搭載された渦巻状の電気導体にも生じうる課題であり、傾斜磁場発生装置が有する複数の渦巻形状の電気導体(コイル)にも同様の課題が生じると考えられる。MRI装置には、渦巻形状又は分岐形状の電気導体として、傾斜磁場発生装置、RF照射コイル、RF受信コイル、シムコイル等が搭載されている。
【0011】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、渦巻形状又は分岐形状の電気導体における電流中心の偏りを矯正可能な磁気共鳴イメージング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、渦巻形状又は分岐形状の電気導体を有する磁気共鳴イメージング装置において、前記電気導体の厚さが、前記電気導体の幅方向で異なることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、渦巻形状又は分岐形状の電気導体における電流中心の偏りを矯正可能な磁気共鳴イメージング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る垂直磁場型のMRI装置の斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る垂直磁場型のMRI装置の縦断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る垂直磁場型のMRI装置の傾斜磁場発生装置の分解斜視図である。
【図4】傾斜磁場発生装置のメインコイル(y)の一部を構成する渦巻形状の電気導体の平面図である。
【図5】図4のA−A方向の矢視断面図である。
【図6】本発明の作用・効果を説明するための、渦巻形状の電気導体の一部分の湾曲部と直線部の平面図である。
【図7】(a)は図6のA−A´方向の矢視断面図であり、(b)は図6のB−B´方向の矢視断面図であり、(c)は図6のC−C´方向の矢視断面図である。
【図8】図6のA−A´方向の矢視断面図であり、曲率半径の中心からの距離r1、r2であり、厚さt1、t2である電気導体の微小体積が記載された模式図である。
【図9】本発明の第2の実施形態に係る垂直磁場型のMRI装置の傾斜磁場発生装置のメインコイル(y)を構成する渦巻形状の電気導体の一部分の湾曲部の分解斜視図(追加部材の積層前の斜視図)である。
【図10】本発明の第2の実施形態に係る垂直磁場型のMRI装置の傾斜磁場発生装置のメインコイル(y)を構成する渦巻形状の電気導体の一部分の湾曲部の斜視図(追加部材の積層後の斜視図)である。
【図11】本発明の第3の実施形態に係る垂直磁場型のMRI装置の傾斜磁場発生装置のメインコイル(y)を構成する渦巻形状の電気導体の一部分の湾曲部の分解斜視図(追加部材の追加設置前の斜視図)である。
【図12】本発明の第3の実施形態に係る垂直磁場型のMRI装置の傾斜磁場発生装置のメインコイル(y)を構成する渦巻形状の電気導体の一部分の湾曲部の斜視図(追加部材の追加設置後の斜視図)である。
【図13】本発明の第4の実施形態に係る垂直磁場型のMRI装置の傾斜磁場発生装置のメインコイル(y)を構成する渦巻形状の電気導体の一部分の湾曲部の斜視図である。
【図14】本発明の第5の実施形態に係る垂直磁場型のMRI装置のシムコイル(渦巻形状の電気導体(湾曲部))の平面図である。
【図15】本発明の第6の実施形態に係る垂直磁場型のMRI装置の高周波(RF)受信コイル(分岐形状の電気導体(分岐部))の斜視図と、RF受信コイルの分岐部の拡大図である。
【図16】本発明の第6の実施形態に係る垂直磁場型のMRI装置の高周波(RF)照射コイル(分岐形状の電気導体(分岐部))の平面図と、RF照射コイルの分岐部の拡大図である。
【図17】本発明の第7の実施形態に係る水平磁場型のMRI装置の斜視図である。
【図18】本発明の第7の実施形態に係る水平磁場型のMRI装置の縦断面図である。
【図19】本発明の第7の実施形態に係る水平磁場型のMRI装置の傾斜磁場発生装置のメインコイル(y)(渦巻形状の電気導体)の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、共通する部分には同一の符号を付し重複した説明を省略する。
【0016】
(第1の実施形態)
図1に、本発明の第1の実施形態に係る磁気共鳴イメージング(MRI)装置1の斜視図を示す。第1の実施形態の磁気共鳴イメージング(MRI)装置1は、静磁場の向き7が垂直方向(z方向)の垂直磁場型(オープン型)のMRI装置である。MRI装置1では、撮像領域8を挟むように上下一対の電磁石装置2を対向配置することで、被検体5がベッド6に仰臥して検査者からアクセスされるための十分なガントリーギャップを確保している。被検体5の周囲を囲むようにRF受信コイル22が設けられている。連結柱17は、上下一対の電磁石装置2の間に設けられ、上下一対の電磁石装置2それぞれに連結して、上下1対の電磁石装置2を互いに離して保持している。上下一対の電磁石装置2は、撮像領域8に、向き7で磁場強度が均一の静磁場を発生させる。
【0017】
また、傾斜磁場発生装置3は、電磁石装置2の撮像領域8の側に配置されている。傾斜磁場発生装置3は、撮像領域8に、互いに直交する3方向それぞれに沿って磁場強度が線形的に変化する傾斜磁場を発生させ、計測されるNMR信号に位置情報を持たせている。MRI装置1は、この位置情報に基づいて、被検体5の検査画像を作成している。
【0018】
また、RF照射コイル4も、電磁石装置2の撮像領域8の側に配置されている。RF照射コイル4は、撮像領域8に仰臥した被検体5に、高周波の電磁波を照射し、被検体5からNMR信号を発生させている。
【0019】
なお、このMRI装置1では、その構造の理解を容易にするために、撮像領域8の中に原点を有するxyz座標系を設定している。z軸の方向は静磁場の向き7に一致する方向に定義し、y軸の方向は被検体5の仰臥の方向に一致する方向に定義し、x軸の方向はy軸とz軸に直交する方向に定義している。
【0020】
図2に、本発明の第1の実施形態に係る垂直磁場型のMRI装置1の縦断面図を示す。上下一対の電磁石装置2は、撮像領域8の上下に対向配置された1対のメインコイル(超電導コイル)2aと、一対のメインコイル2aのz軸方向外側に配置された上下1対のシールドコイル(超電導コイル)2bを有している。
【0021】
冷却容器2eは、上下一対のメインコイル2aと、上下一対のシールドコイル2bとを、液体ヘリウム(He)のような冷媒と共に収納して、冷却することができる。冷却されたメインコイル2aとシールドコイル2bは、超電導コイルとして機能することができる。真空容器2cは、冷却容器2eを収納し、真空容器2cと冷却容器2eとの間の空間を真空に保持することができる。冷却容器2eを外気(外部)から断熱することができ、冷却容器2eを低温に保持することができる。輻射シールド2dは、冷却容器2eと真空容器2cとの間の真空の空間に設けられ、真空容器2cから冷却容器2eへの輻射熱を低減することができ、冷却容器2eを低温に保持することができる。
【0022】
上下一対のシムコイル21が、上下一対の電磁石装置2のz軸方向の内側に、撮像領域8を挟んで上下に対向配置されている。上下一対のシムコイル21は、上下一対の傾斜磁場発生装置3の近傍に配置されている。各シムコイル21の起磁力を調整することにより、撮像領域8に電磁石装置2が発生させた静磁場の磁場均一度を向上させることができる。
【0023】
また、上下一対の傾斜磁場発生装置3が、上下一対の電磁石装置2のz軸方向の内側に、撮像領域8を挟んで上下に対向配置されている。上下一対の傾斜磁場発生装置3は、例えば、図2に示すように、y軸方向に磁場強度が傾斜した傾斜磁場を発生させている。
【0024】
上下一対のRF照射コイル4が、上下一対の電磁石装置2のz軸方向の内側に、撮像領域8を挟んで上下に対向配置されている。上下一対のRF照射コイル4は、上下一対の傾斜磁場発生装置3の近傍に配置されている。
【0025】
図3に、本発明の第1の実施形態に係る垂直磁場型のMRI装置1の傾斜磁場発生装置3の分解斜視図を示す。傾斜磁場発生装置3は、x軸、y軸、z軸の3方向に独立な傾斜磁場を発生させるために、3つのメインコイル(x)31とメインコイル(y)32とメインコイル(z)33を有している。また、傾斜磁場発生装置3は、3つのメインコイル(x)31とメインコイル(y)32とメインコイル(z)33からの漏れ磁場をシールドするために、それぞれに対応する3つのシールドコイル(x)35とシールドコイル(y)36とシールドコイル(z)34を有している。垂直磁場型のMRI装置1では、傾斜磁場発生装置3は、上下に一対配置されているが、それぞれの傾斜磁場発生装置3に計6つのコイル31〜36が設けられている。図3に示す6つのコイル31〜36の積層の順番は、上下一対の傾斜磁場発生装置3の上側のものであり、下側の傾斜磁場発生装置3では、積層の順番が逆になっている。
【0026】
メインコイル(x)31とシールドコイル(x)35はそれぞれ、x軸方向に並んだ2つの渦巻中心3aを有する線対称形状で渦巻形状の電気導体を有している。メインコイル(y)32とシールドコイル(y)36はそれぞれ、y軸方向に並んだ2つの渦巻中心3aを有する線対称形状で渦巻形状の電気導体を有している。メインコイル(z)33とシールドコイル(z)34はそれぞれ、中央に1つの渦巻中心3aを有する渦巻形状の電気導体を有している。
【0027】
図4に、渦巻中心3aを有する渦巻形状の電気導体の具体例として、メインコイル(y)32を構成する2つの内の一方の渦巻中心3aに対応する渦巻形状の電気導体の平面図(コイルパターン図)を示す。図4に示すメインコイル(y)32の一部は、図3に示すメインコイル(y)の線対称形状の片側半分である。メインコイル(y)32等の渦巻形状の電気導体は、第1湾曲部11aと、第1湾曲部11aより曲率半径が大きく湾曲が緩やかな第2湾曲部11bと、湾曲していない直線部12とを有している。メインコイル(y)32等の渦巻形状の電気導体は、銅(Cu)またはアルミニウム(Al)等の良導体の板を切り抜いて製作される。渦巻形状の電気導体を形成する手法としては、エッチング、ウォータージェット、パンチングによる切断等を用いることができる。
【0028】
図5に、図4のA−A方向の矢視断面図を示す。すなわち、図5は、メインコイル(y)32の第1湾曲部11aの幅方向の断面図である。第1湾曲部11aの厚さが、幅方向で均一でなく異なっている。第1湾曲部11aでは、幅方向が、第1湾曲部11aの湾曲の曲率半径の半径方向と一致している。この曲率半径の半径方向について、曲率半径が大きくなる第1湾曲部11aの側を第1湾曲部11aの外側と定義でき、曲率半径が小さくなる第1湾曲部11aの側を第1湾曲部11aの内側と定義できる。そして、第1湾曲部11aの外側は内側に比べて、厚さが厚くなっている。
【0029】
図6に、メインコイル(y)32の渦巻形状の電気導体の一部分の第1湾曲部11aと第2湾曲部11bと直線部12を示す。第2湾曲部11bは、第1湾曲部11aより湾曲が緩やかになっており、第2湾曲部11bの内側の曲率半径rbは、第1湾曲部11aの内側の曲率半径raより大きくなっている。なお、詳細は後記するが、微小角度dθは、曲率半径raの半径方向の傾きの角度の微小角度を表している。
【0030】
図7(a)に、図6のA−A´方向の矢視断面図を示す。すなわち、図7(a)は、メインコイル(y)32の第1湾曲部11aの幅方向の断面図である。第1湾曲部11aの厚さが幅方向で異なり、第1湾曲部11aの外側の厚さtaoは、内側の厚さtaiに比べて厚くなっている(tao>tai)。
【0031】
図7(b)に、図6のB−B´方向の矢視断面図を示す。すなわち、図7(b)は、メインコイル(y)32の第2湾曲部11bの幅方向の断面図である。第2湾曲部11bの厚さが幅方向で異なり、第2湾曲部11bの外側の厚さtboは、内側の厚さtbiに比べて厚くなっている(tbo>tbi)。なお、第1湾曲部11aと第2湾曲部11bの幅が等しいとすると、図6に示すように、第2湾曲部11bの内側の曲率半径rbは、第1湾曲部11aの内側の曲率半径raより大きくなっているので、第2湾曲部11bの外側と内側の厚さの比(tbo/tbi)は、第1湾曲部11aの外側と内側の厚さの比(tao/tai)より小さくなっている。
【0032】
図7(c)に、図6のC−C´方向の矢視断面図を示す。すなわち、図7(c)は、メインコイル(y)32の直線部12の幅方向の断面図である。直線部12の厚さは幅方向で一定であり、直線部12の外側の厚さtcoは、内側の厚さtciに等しくなっている(tco=tci)。
【0033】
そして、図5や図7(a)、(b)、(c)に示したメインコイル(y)32の渦巻形状の電気導体の幅方向の厚さの分布は、設計者が所望する電流経路(コイルパターン)に応じ、以下の原理に従って決定されることになる。
【0034】
電気導体の電気抵抗と寸法との関係は、下式(式1)で表される。ここでRは電気導体の電気抵抗、ρは電気導体の電気抵抗率、lは電気導体の長さ、Sは電気導体の断面積である。
【数1】

【0035】
上式(式1)の関係を利用して、電気導体の幅方向で厚さ(微小断面積)を変化させることで、幅方向で(微小断面積の)電気抵抗を変化させることができる。即ち、電気導体内部で電流中心が通る経路を幅方向に任意に移動させることが可能である。具体的には、電流中心を近づけたい部分の厚さを厚くし、反対に電流中心を遠ざけたい部分の厚さを薄くすれば良い。したがって、電流中心の内側(曲率半径の半径方向)への偏りに対しては、電気導体の幅方向の外側で内側より導体が厚くなるよう、電気導体をテーパ構造にすることで、電気導体の内側によっていた電流中心を、電気導体の幅方向の中央に設定する補正が可能である。前記の原理によれば、電気導体内の電流中心の経路が矯正でき、傾斜磁場の調整が可能である。
【0036】
図8を用いて、前記の原理を更に詳細に説明する。図8は、図6のA−A´方向の矢視断面図であり、図8には、電気導体の幅方向の任意の位置に2つの微小体積dV1、dV2が記載されている。微小体積dV1は、曲率半径raの中心からの距離が距離r1であり、厚さが厚さt1であり、幅が微小幅dwであり、曲率半径raの中心からの見込み角が微小角度dθである。微小体積dV2は、曲率半径raの中心からの距離が距離r2であり、厚さが厚さt2であり、幅が微小体積dV1と共通の微小幅dwであり、曲率半径raの中心からの見込み角が微小体積dV1と共通の微小角度dθである。電流中心を、電気導体の幅方向の中央に一致させるには、幅方向の電気抵抗の分布を均一にすればよいと考えられる。幅方向の電気抵抗の分布を均一にする条件は、幅方向の任意の位置の2つの微小体積dV1の電気抵抗R1と、微小体積dV2の電気抵抗R2の値が等しくなる条件であると言い換えられる。下式(式2)に微小体積dV1の電気抵抗R1を示し、下式(式3)に微小体積dV2の電気抵抗R2を示す。
【数2】

【0037】
これらの式から、微小体積dV1の電気抵抗R1と、微小体積dV2の電気抵抗R2の値が等しい(R1=R2)とすると、下式(式4)が成り立つ。
【数3】

【0038】
これより、電気導体の幅方向の電気抵抗の分布を均一にする条件、すなわち、電流中心を電気導体の幅方向の中心に一致させる条件は、曲率半径raの中心からの距離r1、r2と、厚さt1、t2の比が、幅方向に一定(定数)であることがわかる。幅方向に対して、曲率半径raの中心からの距離r1、r2は変動し異なった値を取るので、厚さt1、t2も変動し異なった値を取ることになる。そして、距離r1、r2が大きくなる程(幅方向で外側である程)、厚さt1、t2が厚くなる傾向であることがわかる。
【0039】
なお、この傾向があれば、厚さt1、t2の変化は幅方向に直線状(前記比が一定(定数)である必要は必ずしもなく、図5に示すように曲線状に変化していても良い。曲線状でも、電流中心を幅方向の外側へ移動させることができる。更に、厚さt1、t2の幅方向の変化は連続的でなく、階段状のように離散的に変化していても良い。また、電気導体の断面形状は、幅方向を対称軸とする厚さt1、t2方向に関しての線対称でも非対称でも良い。
【0040】
このように、幅方向で厚さt1、t2が異なることによって電流中心の位置が導体内でシフトし、電流経路が適切に補正されることで所望の傾斜磁場が得られ、MRI画像の画質を向上させることができる。従来技術のように導体幅をスリットで変更するわけでないので、電気抵抗の上昇を抑制でき、通電時の発熱が小さくなり、電源への負荷も小さくなる。また、スリットを設けた場合、スリット周辺の導体には電流がほとんど流れないが、本発明の構造とすることで導体全体に電流が流れるため、電流密度を低減でき、局所的な発熱を抑えることができる。
【0041】
電気導体の厚さt1、t2を幅方向に変化させる手段としては、電気導体の切削加工、導電性部材の電気導体への溶接・はんだ付け・ろう付けといった冶金的接合、ボルトやリベットを用いた機械的接合、物理蒸着(PVD)や化学蒸着(CVD)による電気導体の表面への薄膜形成等が挙げられる。
【0042】
(第2の実施形態)
図9に、本発明の第2の実施形態に係る垂直磁場型のMRI装置の傾斜磁場発生装置のメインコイル(y)32を構成する渦巻形状の電気導体の一部分の第1湾曲部11aの分解斜視図(追加部材14a、14bの積層前の斜視図)を示し、図10に、追加部材14a、14bの積層後の第1湾曲部11aの斜視図を示す。第2の実施形態のMRI装置が、第1の実施形態のMRI装置1と異なる点は、厚さが略一定の定厚部材13の上に局所的に追加部材14a、14bを設置することで、第1湾曲部11aの厚さを幅方向に異ならしている点である。これによっても、第1の実施形態と同様な効果が得られ、特に、追加部材14a、14bによって厚さを増加させて電気抵抗を小さくすることで、電流中心の電流経路を追加部材14a、14bの側に引き寄せることができる。
【0043】
なお、追加部材14a、14bは、図10では定厚部材13の表側のみに積層したが、これに限らず、表裏どちら側に積層してもよく、表裏の両側に積層してもよい。また、追加部材14a、14bが積層される場所は、定厚部材13の外側に限らず、内側でも良いが、第1湾曲部11aにおける電流中心の内側への偏りを抑制する場合は、定厚部材13の外側に追加部材14a、14bが積層される。
【0044】
定厚部材13への追加部材14a、14bの積層手法としては、特に、溶接・はんだ付け・ろう付けといった冶金的接合、ボルトやリベットを用いた機械的接合が挙げられる。定厚部材13への追加部材14a、14bの積層のみで、第2の実施形態が実現できることから、第2の実施形態は製作性に優れ、容易に実施することができる。
【0045】
(第3の実施形態)
図11に、本発明の第3の実施形態に係る垂直磁場型のMRI装置の傾斜磁場発生装置のメインコイル(y)32を構成する渦巻形状の電気導体の一部分の第1湾曲部11aの分解斜視図(追加部材14の追加設置前の斜視図)を示し、図12に、追加部材14の追加設置後の第1湾曲部11aの斜視図を示す。第3の実施形態のMRI装置が、第2の実施形態のMRI装置と異なる点は、厚さが略一定の定厚部材13に、その側面から定厚部材13の厚さと同程度の寸法の追加部材14の溝を嵌め込むことで、厚さが略一定の定厚部材13の上に局所的に追加部材14を設置している点である。これによっても、第1湾曲部11aの厚さを幅方向に異ならすことができ、第1、第2の実施形態と同様な効果が得られ、特に、追加部材14によって厚さを増加させて電気抵抗を小さくすることで、電流中心の電流経路を追加部材14の側に引き寄せることができる。
【0046】
なお、追加部材14が嵌め込まれる場所は、定厚部材13の外側に限らず、内側でも良いが、第1湾曲部11aにおける電流中心の内側への偏りを抑制する場合は、定厚部材13の外側に追加部材14は嵌め込まれる。
【0047】
定厚部材13への追加部材14の嵌め込み手法としては、特に溶接・はんだ付け・ろう付けといった冶金的接合、ボルトやリベットを用いた機械的接合に加え、はめ込みによる機械的接合が挙げられる。定厚部材13への追加部材14の嵌め込みのみで、第3の実施形態が実現できることから、第3の実施形態は製作性に優れ、容易に実施することができる。
【0048】
(第4の実施形態)
図13に、本発明の第4の実施形態に係る垂直磁場型のMRI装置の傾斜磁場発生装置のメインコイル(y)32を構成する渦巻形状の電気導体の一部分の第1湾曲部11aの斜視図を示す。第4の実施形態のMRI装置が、第2の実施形態のMRI装置と異なる点は、厚さが略一定の定厚部材13には、追加部材14a、14bの設置に替えて、その略一定の厚さより薄い異厚部15が局所的に設けられている点である。これによっても、第1湾曲部11aの厚さを幅方向に異ならすことができ、第1、第2の実施形態と同様な効果が得られる。ただ、第2の実施形態と同じく追加部材14a、14bによって厚さを増加させて電気抵抗を小さくするのではなく、第4の実施形態は定厚部材13の厚さより薄い異厚部15で電気抵抗を大きくすることで、電流中心の電流経路を異厚部15の側から引き離している。
【0049】
なお、異厚部15が設けられる場所は、定厚部材13の内側に限らず、外側でも良いが、第1湾曲部11aにおける電流中心の内側への偏りを抑制する場合は、定厚部材13の内側に異厚部15が設けられる。
【0050】
第4の実施形態では、異厚部15を設けるために、第1湾曲部11aに有底凹部16を形成することになるので、第1湾曲部11aの電気抵抗は上昇傾向にあるが、その上昇量は、スリットを第1湾曲部11aに形成した場合に比べ抑えることができる。
【0051】
有底凹部16の形成手法としては、切削加工やレーザ切断、エッチング等による導体部の除去が挙げられる。有底凹部16の形成のみで、追加部材14a、14b等の部材を追加する必要が無く、第4の実施形態が実現できることから、第4の実施形態は製作性に優れ、容易に実施することができる。
【0052】
(第5の実施形態)
図14に、本発明の第5の実施形態に係る垂直磁場型のMRI装置のシムコイル21の平面図を示す。シムコイル21は、垂直磁場型のMRI装置には、図2に示すように上下一対配置されるが、どちらも図14に示す形状をしている。シムコイル21は、図14に示すように、1つの渦巻中心3aを有する渦巻形状の電気導体であり、渦巻中心3aの近傍では、湾曲のきつい第1湾曲部11aを有し、渦巻中心3aから離れた領域には湾曲の緩い第2湾曲部11bを有している。
【0053】
第1湾曲部11aは、第1の実施形態の図7(a)での説明と同様に、電気導体の幅方向で厚さが異なり、外側の厚さは、内側の厚さに比べて厚くなっている。第2湾曲部11bは、第1の実施形態の図7(b)での説明と同様に、電気導体の幅方向で厚さが異なり、外側の厚さは、内側の厚さに比べて厚くなっている。
【0054】
シムコイル21は、傾斜磁場発生装置3(図3参照)のメインコイル(y)32等と比較すると、流される電流が小さく、電気導体の幅方向の断面積は小さいので、電流中心の偏りは生じにくい。しかし、シムコイル21による磁場の調整量を大きくする場合は、電流を大きくするので、偏りが発生しやすくなるが、第5の実施形態のシムコイル21によれば、その偏りを抑制することができる。
【0055】
(第6の実施形態)
図15には、本発明の第6の実施形態に係る垂直磁場型のMRI装置のRF受信コイル22を示し、さらに、RF受信コイル22の分岐形状の電気導体の分岐部19を示す。また、図16には、本発明の第6の実施形態に係る垂直磁場型のMRI装置のRF照射コイル4を示し、RF照射コイル4の分岐形状の電気導体の分岐部19を示す。RF照射コイル4は、垂直磁場型のMRI装置には、図2に示すように上下一対配置されるが、どちらも図16に示す形状をしている。
【0056】
RF受信コイル22及びRF照射コイル4の分岐部19には、定厚部材13の厚さに対して、例えば異厚部15によって薄くなっているところと、例えば追加部材14によって厚くなっているところが設けられている。すなわち、分岐部19では、電気導体の幅方向で厚さが異なり、分岐によって電気導体の二股に分かれる角度(二股のなす角度)が急になる(小さくなる)程、内側の厚さは薄くなり、外側の厚さは厚くなっている。分岐部19は、複数の前記第1湾曲部11a又は前記第2湾曲部11bが、背中合わせに一体化したものであると考えられる。したがって、分岐部19でも、仮想的に前記第1湾曲部11a又は前記第2湾曲部11bに分解すれば、それぞれの前記第1湾曲部11a又は前記第2湾曲部11bに対して、曲率半径や、電気導体(湾曲部)の内側、外側と定めることができる。そして、電気導体(湾曲部)の外側は内側に比べて厚さが厚くなっている。
【0057】
RF照射コイル4とRF受信コイル22には、高周波の電流が流れるが、この高周波の電流は、表皮効果によって、電気導体の表皮を流れ、すなわち、電気導体の表面に集中して流れる。このため、いわゆる、見かけの電気抵抗は数1の通りにはならない。電気導体の表皮の深さδは、下式(式5)で表される。ここで、ωは電流の角速度(周波数に比例する)、σは電気導体の導電率、μは透磁率である。
【数4】

【0058】
電気導体の厚さが、上式(式5)で算出された表皮の深さδよりも薄い場合、電流は電気導体の断面の全面を流れるため前記式(式1)が成立する。よって、このような場合にも、第6の実施形態のRF照射コイル4とRF受信コイル22によれば、電気導体の幅方向の電流中心の偏りを抑制し矯正することができる。
【0059】
(第7の実施形態)
図17に、本発明の第7の実施形態に係る水平磁場型のMRI装置1の斜視図を示し、図18にその縦断面図を示す。第7の実施形態の水平磁場型のMRI装置1も、第1の実施形態の垂直磁場型のMRI装置1(図1参照)と同様に、電磁石装置2、傾斜磁場発生装置3、RF照射コイル4、シムコイル21を有すが、それらの形状は円筒形状になって、多層に構成されている。被検体(患者)5は、周囲にRF受信コイル22を配置しベッド6に仰臥したまま、円筒形状の電磁石装置2の内側に挿入される。円筒形状の電磁石装置2の内側には、水平方向(z軸方向)の向き7の静磁場が電磁石装置2によって撮像領域8に形成されている。また、撮像領域8には、傾斜磁場発生装置3によって、傾斜磁場9が形成されている。なお、このMRI装置1では、その構造の理解を容易にするために、撮像領域8の中に原点を有するxyz座標系を設定している。z軸の方向は第1の実施形態と同様に静磁場の向き7に一致する方向に定義し、y軸の方向は垂直方向に定義し、x軸の方向はy軸とz軸に直交する方向に定義している。また、円筒形状の電磁石装置2は、円筒形状のメインコイル(超電導コイル)2a、シールドコイル(超電導コイル)2b、真空容器2c、輻射シールド2d、冷却容器2eを有し、第1の実施形態と同様に、撮像領域8に、向き7の静磁場を発生させている。
【0060】
図19に、本発明の第7の実施形態に係る水平磁場型のMRI装置の傾斜磁場発生装置3のメインコイル(y)32の斜視図を示す。メインコイル(y)32は、4つの渦巻中心3aを有する渦巻形状の電気導体であり、樹脂製円筒19に固定されている。渦巻中心3aを有する渦巻形状の電気導体はそれぞれ、第1乃至第4の実施形態と同様の第1湾曲部11aと、第2湾曲部11bと、直線部12とを有している。図18では、傾斜磁場発生装置3のメインコイル(y)32のみを示したが、図3に示した第1の実施形態の傾斜磁場発生装置3と同様に、6種類のコイル31〜36を有し、6種類のコイル31〜36それぞれが、渦巻中心3aを有する渦巻形状の電気導体であって、第1乃至第4の実施形態と同様の第1湾曲部11aや第2湾曲部11bを有している。また、RF照射コイル4、シムコイル21も、図示は省略したが、渦巻中心3aを有する渦巻形状の電気導体であって、第1乃至第4の実施形態と同様の第1湾曲部11aや第2湾曲部11bを有している。これらによれば、垂直磁場型のMRI装置1に限らず、水平磁場型のMRI装置1においても、傾斜磁場発生装置3、RF照射コイル4、シムコイル21等の渦巻形状の電気導体において、幅方向に厚さを異なるようにすることで、第1乃至第6の実施形態と同様に、電流中心の偏りを矯正することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 MRI装置(磁気共鳴イメージング装置)
3 傾斜磁場発生装置
4 RF照射コイル
11 湾曲部
11a 第1湾曲部
11b 第2湾曲部
13 定厚部材
14、14a、14b 追加部材
15 異厚部
16 有底凹部
19 分岐部
21 シムコイル
31 メインコイル(x)(渦巻形状の電気導体)
32 メインコイル(y)(渦巻形状の電気導体)
33 メインコイル(z)(渦巻形状の電気導体)
34 シールドコイル(z)(渦巻形状の電気導体)
35 シールドコイル(x)(渦巻形状の電気導体)
36 シールドコイル(y)(渦巻形状の電気導体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
渦巻形状又は分岐形状の電気導体を有する磁気共鳴イメージング装置において、
前記電気導体の厚さが、前記電気導体の幅方向で異なることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
前記電気導体の湾曲部では、前記幅方向を曲率半径の半径方向として、前記半径方向の前記湾曲部の外側は内側に比べて、前記電気導体の厚さが厚いことを特徴とする請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
前記電気導体は、
厚さが略一定の定厚部材と、
前記定厚部材の上に局所的に設置される追加部材とを有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
前記電気導体は、
厚さが略一定の定厚部材を有し、
前記定厚部材には、前記略一定の厚さより薄い異厚部が局所的に設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
前記電気導体は、
傾斜磁場コイルと、シムコイルと、高周波受信コイルと、高周波照射コイルの内の、少なくともいずれか1つであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の磁気共鳴イメージング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2010−284184(P2010−284184A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−137814(P2009−137814)
【出願日】平成21年6月9日(2009.6.9)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】