説明

磁気回路部品の製造方法

【課題】優れた特性を有する磁気回路部品の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の磁気回路部品の製造方法は、希土類磁石粉末の成形体と、軟磁性材料粉末の成形体とが一体化された磁気回路部品の製造方法であって、(a)磁気異方性を有する希土類磁石粉末を配向磁界中でプレス成形することによって、各々が所定の方向に磁界配向した複数の磁石仮成形体12a’、12b’を作製する工程と、(b)複数の磁石仮成形体と、粉末状態の軟磁性材料粉末または軟磁性材料粉末の仮成形体とを熱間プレス成形することによって、複数の磁石成形体12と軟磁性材料粉末の成形体22とが一体化された成形品100を得る工程とを包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁石部品と軟磁性部品とが一体成形された磁気回路部品の製造方法に関する。ここで、特に示さない限り、「磁石」とは「永久磁石」を指すものとする。
【背景技術】
【0002】
近年、各種モータや、発電機用回転子、ボイスコイルモータ(VCM)などの磁気回路部品に用いられる磁石の高性能化に対するニーズは益々高まっている。希土類焼結磁石は、種々の磁石の中で最も磁気特性に優れており、広く応用されつつある。
【0003】
従来の磁気回路部品(例えば磁石回転子)の一般的な製造方法は、所定の形状および寸法を有する磁石部品を作製し、これを軟磁性部品(例えば鉄心)と組み立て、互いに接着するという方法を採用している。希土類焼結磁石を用いる場合は、ブロック状の希土類焼結磁石を所望の形状に加工(例えば、切断、研削および研磨)することによって、磁石部品を作製していた。
【0004】
しかしながら、希土類焼結磁石は加工し難い材料であり、得られる磁石部品の形状や寸法には限界があり、その結果として、磁気回路部品の形状、寸法および磁気特性が制限されていた。さらに、加工ひずみによって磁石特性が低下するという問題もある。
【0005】
また、組み立てのために一定のクリアランスが必要であるため、組み立て工程におけるアライメントずれや、磁石部品の加工誤差の影響を受けて、磁気回路特性が低下する、あるいは、磁気回路部品間で磁気回路特性がばらつくという問題があった。
【0006】
上述の組み立て工程を必要とする製造方法の問題を解決するために、磁石部品と軟磁性部品とを一体成形する方法が、下記の特許文献1および2に開示されている。
【0007】
特許文献1は、磁石部品および軟磁性部品の両方を、結合材を含む粉末材料をプレス成形することによって一体的に成形する方法を開示している。
【0008】
特許文献2は、希土類磁石材料を軟磁性材料と密着させた状態で熱間成形加工することによって、希土類磁石を最終形状に成形するとともに、軟磁性材料からなる部品に希土類磁石を一体成形する方法を開示している。
【特許文献1】特開2005−20991号公報
【特許文献2】特開平02−219207号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、希土類磁石粉末と結合材とを用いている(すなわちボンド磁石を用いている)ので、得られる磁気回路特性に限界がある。
【0010】
また、特許文献2に記載の方法は、希土類磁石が塑性変形する際に異方化することを利用していると推測され、軟磁性部品と磁石部品との間で塑性変形のし易さに違いがあると、部品間の配置にばらつきが生じる。また、この方法を適用できる磁気回路部品の形状も制限される。さらに、塑性変形による磁気異方化を利用しているため、磁化方向の配列を自由に設計することができず、単純なラジアル異方性しか得ることが出来ない。すなわち、特許文献2に記載されている方法では、図4に模式的に示すように、中心部に孔92aを有する鉄粉の成形体92の周囲に希土類磁石82が一体に成形された回転子90が得られるが、希土類磁石の磁化方向は、全て中心軸の方向を向いたラジアル配向となる。さらに、この方法では、塑性変形の際の寸法変化量が50%以上と大きく、高い寸法精度の成形体を得ることが困難であると考えられる。
【0011】
本発明は上記諸点に鑑みてなされたものであり、優れた特性を有する磁気回路部品の製造方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の磁気回路部品の製造方法は、希土類磁石粉末の成形体と、軟磁性材料粉末の成形体とが一体化された磁気回路部品の製造方法であって、(a)磁気異方性を有する希土類磁石粉末を配向磁界中でプレス成形することによって、各々が所定の方向に磁界配向した複数の磁石仮成形体を作製する工程と、(b)前記複数の磁石仮成形体と、粉末状態の軟磁性材料粉末または軟磁性材料粉末の仮成形体とを熱間プレス成形することによって、複数の磁石成形体と軟磁性材料粉末の成形体とが一体化された成形品を得る工程とを包含することを特徴とする。
【0013】
ある実施形態において、前記工程(b)の前に、前記軟磁性材料粉末をプレス成形することによって前記軟磁性材料粉末の仮成形体を作製する工程(c)をさらに包含し、前記工程(b)は、前記軟磁性材料粉末の仮成形体と前記複数の磁石仮成形体とを熱間プレス成形することによって、複数の磁石成形体と軟磁性材料粉末の成形体とが一体化された成形品を得る工程である。
【0014】
ある実施形態において、前記工程(b)において、前記軟磁性材料粉末は粉末状態で熱間プレス成形される。
【0015】
ある実施形態において、前記工程(b)は、400℃以上1000℃未満の温度で行われる。
【0016】
ある実施形態において、前記工程(b)は、20MPa以上500MPa以下の圧力で行われる。
【0017】
ある実施形態において、前記工程(a)は、300MPa以上1GPa以下の圧力で行われる。
【0018】
ある実施形態において、前記工程(b)において、前記複数の磁石成形体の密度を、真密度の95%以上まで上昇させる。
【0019】
ある実施形態において、前記磁石粉末は、HDDR法で作製されたものであり、結晶粒径が0.1μm以上1.0μm以下の金属組織を有する。
【0020】
ある実施形態において、前記磁気回路部品は磁石回転子である。
【0021】
本発明の磁気回路部品は、上記の製造方法で製造されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によると、優れた特性を有する磁気回路部品の製造方法が提供される。本発明の磁気回路部品の製造方法においては、磁石部品および軟磁性部品をそれぞれ結合材(バインダ)を用いることなく磁石粉末および軟磁性材料粉末の成形体から作製するので、磁石部品および軟磁性部品の密度は、バインダを用いたときに比べるとそれぞれ真密度により近くなり、その結果、各材料に固有の特性が十分に発揮される。また、磁気回路部品、特に磁石部品を加工する必要がないので、加工による磁気特性に低下がない。
【0023】
さらに、磁気異方性を有する希土類磁石粉末から仮成形体を作製する工程で、磁界配向させているので、磁石部品における磁化方向を自由に設定できる。
【0024】
また、軟磁性材料粉末の成形体と磁石粉末の成形体とを熱間プレス成形によって一体化するので接着工程が不要で、軟磁性材料粉末の成形体と磁石粉末の成形体との間に接着剤が介在しない。従って、高い位置精度で磁石部品と軟磁性部品との位置関係を制御することが可能で、ばらつきも小さい。その結果、高い磁気回路特性を有する磁気回路を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面を参照して、本発明による磁気回路部品の製造方法の実施形態を説明する。以下では、図1(a)に示す回転子100を例に、本発明によって製造される磁気回路部品の実施形態を説明する。
【0026】
図1(a)に示す回転子100は、軟磁性部品(鉄芯)22と、軟磁性部品22の外周に配置された複数の希土類磁石部品12aおよび12bとを有する。希土類磁石部品12aおよび12bは軟磁性部品22の外周に直接結合されており、回転子100は一体成形品である。磁石部品12aおよび12bは互いに反対方向に磁化されており、交互に配置されている。磁石部品12aと12bとの間も直接結合されている。軟磁性部品22は、回転軸を挿入するための孔22aをその中央に有している。
【0027】
なお、図1(a)の磁石部品12aに代えて例えば図1(b)に示すハルバッハ型の磁石部品12c〜12eを用い、同様に磁石部品12bに代えて、磁石部品12c〜12eと反対方向に磁化されたハルバッハ型の磁石部品を用いることもできる。このように、本発明によると、磁石部品および軟磁性部品の形状の自由度が大きく、ひいては多様な形状の磁気回路部品を製造することができる。
【0028】
本発明の実施形態による回転子100は、結合材を含まない希土類磁石粉末を用いて磁石部品12a〜12eが作製されており、磁石材料そのものが有する磁石特性が発揮される。さらに、磁石部品12a〜12eは、磁気異方性を有する希土類磁石仮成形体を熱間プレスすることによって作製されており、磁石部品12a〜12eのそれぞれの磁化の方向は、配向磁界を印加しながらプレス成形によって仮成形体を作製する工程で決められている。従って、磁石部品12a〜12eのそれぞれにおける磁化の方向が高い精度で制御されている。また、軟磁性部品22も結合材を含まない軟磁性材料粉末(例えば鉄粉末)を用いて作製されているので、軟磁性材料そのものの特性(透磁率)を発揮する。
【0029】
さらに、磁石部品12a、12bの間および磁石部品12a、12bと軟磁性部品22との間に接着剤を介在しないので、これらの相対位置は高い精度で制御されており、回転子100は優れた磁気回路特性を有している。例えば、本発明による実施形態の回転子を用いることによって、モータにおけるコギングトルクの発生を抑制することができる。コギングトルクとは、磁気回路中の磁気抵抗が回転子の回転位置に応じて変化することが原因で生じるトルク変動であり、磁石部品12a、12bの位置や、磁石部品12a、12のそれぞれにおける配向方向のばらつきに起因して発生するが、本発明によると、位置精度および磁化配向方向を高い精度で制御できる。
【0030】
さらに、本発明によると、磁石部品12a、12bおよび軟磁性部品22は、熱間プレス成形によって直接接合されているので、接着剤を用いるよりも高い接合強度ならびに接合信頼性を有する磁気回路部品を得ることができる。なお、本発明において、磁石部品および軟磁性部品はいずれも仮成形体を熱間プレス成形することによって作製されるので、磁石部品および軟磁性部品をそれぞれ磁石成形体および軟磁性材料粉末の成形体と呼ぶことがある。
【0031】
次に、図2を参照しながら、回転子100の製造方法の実施形態を説明する。
【0032】
まず、磁気異方性を有する希土類磁石粉末を配向磁界中でプレス成形することによって図2(a)に示すような、各々が所定の方向に磁界配向した複数の磁石仮成形体12a’、12b’を作製する。この工程は、例えば特開2003−203818号公報記載の、交流磁界などの振動磁界を印加しながら成形する磁界配向プレス成形法によって行うことができる。この方法によれば、配向のための磁界の強度を極めて低くできるので、成形直後における成形体の残留磁化を低減することができ、後の一体化工程における作業性が向上する。このとき好ましい交流ピーク磁界は、24kA/m以上36kA/m以下であり、好ましい圧力は、300MPa以上1GPa以下である。圧力が上記の範囲よりも低いと、熱間プレスによる一体化工程における変形量(収縮量)が過大となり、磁石部品および軟磁性部品の相対位置にずれが生じるので、高い寸法精度で磁気回路部品を成形するのが困難となることがある。一方、圧力が上記の範囲よりも高いと、後の一体化工程において十分な接合強度が得られないおそれがある。磁石仮成形体12a’、12b’の密度(かさ密度)は、真密度の約70%以上約90%以下の範囲となるようにすることが好ましく、約75%以上約80%以下がさらに好ましい。また、成形温度は、約15℃以上約40℃以下であることが好ましく、特に加熱や冷却をする必要は無い。雰囲気は、希土類磁石粉末の酸化を防止するために、不活性ガス(希ガスおよび窒素を含む)雰囲気下で行うことが好ましい。希土類磁石粉末については後述する。
【0033】
別途、軟磁性材料粉末(例えば、鉄粉末などの軟磁性金属粉末)をプレス成形することによって、図2(b)に示すように、軟磁性材料粉末の仮成形体22’を作製する。この工程も公知のプレス成形方法で行うことができる。好ましい圧力は、300MPa以上1GPa以下である。このとき、軟磁性材料粉末の仮成形体22’の密度(かさ密度)は、真密度の約70%以上約90%以下の範囲にあることが好ましく、約75%以上約80%以下がさらに好ましい。圧力を上記範囲に設定することが好ましい理由は、磁石仮成形体12a’、12b’について上述した理由と同じである。なお、本発明の製造方法によれば、一体化工程における変形量(体積変化率)は30%以下となり、高い寸法精度で磁気回路部品を製造することができる。
【0034】
上述のように、複数の磁石仮成形体12a’、12b’と軟磁性材料粉末の仮成形体22’を準備した後、図2(c)に示すように、磁石仮成形体12a’、12b’と軟磁性材料粉末の仮成形体22’とを金型内でセットし、熱間プレス成形することによって、図1(a)に示した、複数の磁石成形体12a、12bと軟磁性材料粉末の成形体22とが一体化された磁気回路部品100を得る。
【0035】
この工程も公知の熱間プレス成形方法で行うことができる。好ましい圧力は、20MPa以上500MPa以下である。圧力が上記の範囲よりも低いと、磁石形成体と軟磁性材料粉末の成形体との接合強度が十分に得られないおそれがある。圧力が上記の範囲よりも高いと、熱間プレス工程でプレス装置自体が変形してしまうおそれがあり、これを防止するために大型の装置を必要とするなど、製造コストの増大を招くことがある。成形温度は、400℃以上1000℃未満であることが好ましく、600℃以上900℃以下であることがより好ましく、700℃以上800℃以下であることが最も好ましい。成形温度が400℃よりも低いと、磁石成形体および軟磁性材料粉末の成形体が十分に緻密化されないことがある。また、成形温度が1000℃以上になると、結晶粒が粗大化し、異方性磁石粉末が有している磁気特性をかえって低下させるおそれがある。また、上記温度および圧力に保持する時間(以下、「成形時間」という。)は、10秒以上1時間以下であることが好ましく、生産性の観点から1分以上10分以下の短時間であることがさらに好ましい。もちろん、成形時間は、成形温度および成形圧力との関係で適宜設定されるものであるが、成形時間が10秒よりも短いと成形体を十分に緻密化できないおそれがあり、また1時間よりも長いと、結晶粒の粗大化によって磁気特性が低下するおそれがある。また、熱間プレス工程は、希土類磁石粉末の酸化を防止するために、不活性ガス(希ガスおよび窒素を含む)雰囲気下で行うことが好ましい。
【0036】
このようにして得られる磁気回路部品100における磁石成形体12a、12bの密度は真密度の約95%以上であり、軟磁性材料粉末の成形体22の密度は真密度の約95%以上である。
【0037】
ここでは、磁石仮成形体12a’、12b’と別に、軟磁性材料粉末の仮成形体22’を予め成形し、これを熱間プレス形成することによって一体化する例を説明したが、軟磁性材料粉末の仮成形体22’を予め形成することなく、磁石仮成形体12a’、12b’と粉末状態のままの軟磁性材料粉末とを熱間プレス成形することによって、一体化することも出来る。但し、高い寸法精度の磁気回路部品を得るためには、上述したように、磁石部品および軟磁性部品のそれぞれの仮成形体を予め成形してから、これらを一体化するというプロセスが好ましい。
【0038】
(希土類磁石粉末)
本発明による磁気回路部品の製造方法の特徴の1つは、仮成形体をプレス成形する際に磁界配向が可能な、すなわち磁気異方性を有し、かつ粉末の状態で保磁力を発現する希土類磁石粉末を用いる点にある。このような磁石粉末を用いて所定の方向に磁化を有する磁石仮成形体を作製し、これを熱間プレス成形することによって、僅かな変形量で緻密化することが可能となり、かつ、高い配向異方性を維持することが可能となる。
【0039】
磁気異方性を有するNd−Fe−B系希土類磁石粉末として、現在のところ入手可能な磁石粉末としては、HDDR法によって作製された磁石粉末が挙げられる。
【0040】
HDDR粉末は、異方性ボンド磁石用の磁石粉末として用いられており、平均粒径は100μm〜200μm程度あるが、結晶粒径が0.1〜1.0μmと非常に微細で、かつ容易磁化軸が一方向に揃った結晶の集合体で構成される金属組織を有しており、粉末の状態で高い保磁力を有している。
【0041】
HDDR(Hydrogenation−Disproportionation−Desorption−Recombination)法は、水素化(Hydrogenation)および不均化(Disproportionation)と、脱水素化(Desorption)および再結合(Recombination)とを順次実行するプロセスを意味している。公知のHDDR処理によれば、R−Fe−B系合金のインゴットまたは粉末をH2ガス雰囲気またはH2ガスと不活性ガスとの混合雰囲気中で温度500℃〜1000℃に保持し、それによって、上記インゴットまたは粉末に水素を吸蔵させた後、例えばH2分圧13Pa以下の真空雰囲気またはH2分圧13Pa以下の不活性雰囲気になるまで温度500℃〜1000℃で脱水素処理し、次いで冷却することによって合金磁石粉末を得る。
【0042】
HDDR処理を施して製造されたR−Fe−B系合金粉末(以下、「HDDR粉末」という。)は、高い保磁力を示し、磁気的な異方性を有している。このような性質を有する理由は、金属組織が、実質的に0.1〜1.0μmと非常に微細で、かつ容易磁化軸が一方向にそろった結晶の集合体となるためである。より詳細には、HDDR処理によって得られる極微細結晶の粒径が正方晶R2Fe14B系化合物の単磁区臨界粒径に近いために高い保磁力を発揮する。この正方晶R2Fe14B系化合物の非常に微細な結晶の集合体を「再結晶集合組織」とよぶ。HDDR処理を施すことによって、再結晶集合組織を持つR−Fe−B系合金粉末を製造する方法は、特公平6−82575号公報、特公平7−68561号公報、特開2000−96102号公報、特開2002−93610号公報、特開2005−97711号公報および特開2005−15918号公報に開示されている。
【0043】
本発明の磁気回路部品の製造方法に用いる希土類磁石粉末は、このHDDR法で作製された磁石粉末のように、例えば粉末の状態で既に500kA/m以上の高い保磁力を有する異方性磁石粉末である。従って、上述のように熱間プレス工程で短時間で緻密化でき、得られた磁石成形体12a、12bは、その後に焼結工程(典型的には1000℃以上の温度を必要とする)を必要とせず、そのまま希土類永久磁石として使用される。このように真密度に近い密度を有する磁石は「フルデンス磁石」と呼ばれることがある。
【0044】
HDDR粉末を用いた場合の緻密化は、以下のように起こっていると考えられる。なお以下の説明は本発明を限定するものではない。また、Nd−Fe−B系希土類磁石の熱間プレス成形法については、例えば、K.Morimoto、et al.、「Preparation of fully dense Nd−Fe−B magnets using semi−processed HDDR powders」、J.Mgn.Mgn.Mater.,vol.265、p.345、2003、に記載されている。
【0045】
まず、熱間での加圧によって粒界すべり機構によって粒子自体が変形し、粒子間の隙間を埋めると考えられる。さらには、その機械的な噛み込みにより固体としての機械的強度が確保され、また加えて、構成元素の高温下での固相拡散により、粉体粒間の結合が促進されると考えられる。
【0046】
このように、HDDR粉末は、原料粉末の磁界中配向成形が可能な異方性粉末であり、かつすでに保磁力を持つため、その微細な組織をほとんど変えることのない、比較的短時間で比較的低温(1000℃未満)下の加圧によって緻密化し良好な磁気特性を確保することができる。なお、HDDR粉末以外の、磁気的異方性を有しかつ粉末の状態で保磁力を発現するNd−Fe−B系希土類磁石粉末としては、特開2003−31407号公報などに記載の異方性ナノコンポジット磁石粉末、Nd−Fe−B系焼結磁石を粉砕した磁石粉末や、超急冷法によって作製されたNd−Fe−B系等方性合金を鉄容器などに封入し、熱間塑性加工することによって得られる異方性Nd−Fe−B系磁石を粉砕した磁石粉末などが挙げられる。
【0047】
焼結磁石用の原料粉末は比較的粒径の小さい粉末(平均粒径が1μm以上10μm以下)であり、これをプレス成形によって十分に緻密化することは困難であり、一般に、1000℃以上の温度で数時間に亘る焼結工程を経て、焼結磁石が製造される。また、この焼結過程で、主相であるNd2Fe14B結晶相の周囲に液相が生成し、この液相の働きによって結晶粒の成長および緻密化が起こると共に、磁気的な構造が安定化され、初めて所望の磁気特性(特に保磁力)を発現する磁石となるのであって、粉末の状態で保磁力を有しないので、本発明には用いられない。
【0048】
以下、実験例を示して、本発明による磁気回路部品の製造方法を説明する。ここでは、図1(a)に示した回転子100を製造する方法を説明する。
【0049】
〈HDDR粉末の製造〉
組成が、Nd:28.6質量%,Co: 7.3質量%,B:1.07質量%,Ga:0.54質量%,Zr:0.14質量%,Al:0.21質量%,Fe:残部の合金を公知の鋳造方法によって作製し、1100℃、24時間、Ar雰囲気中で焼鈍する。
【0050】
得られた鋳隗を酸素濃度が0.5%以下に制限されたAr雰囲気中で粉砕し、平均粒径150μmの合金粉末を作製する。
【0051】
次に、得られた合金粉末を管状炉に投入し、100kPa(大気圧)の水素流気中で840℃で、3時間保持して、水素化・不均化を行う。
【0052】
その後、5kPaに減圧したAr流気中で、840℃で1時間保持し、脱水素・再結合反応を生じさせる。
【0053】
その後、大気圧Ar流気中で室温まで冷却する。
【0054】
このようにしてHDDR処理を完了した後、得られたHDDR粉末を解砕する。得られるHDDR粉末の平均粒径は150μmである。
【0055】
〈仮成形体の作製〉
ここでは、図1(a)に示した外径が35mmの回転子100を作製する。鉄芯(軟磁性部品)22は直径が20mmの円に内接する正八角形である。磁石部品12aおよび12bは、鉄芯22の外周に合計8個配置したときに、外径が35mmの円となる形状を有している。
【0056】
上述したHDDR粉末を用いて特開2003−203818号公報の磁界配向プレス成形法で、図2(a)に示した磁石仮成形体12a’、12b’を作製する。交流ピーク磁界は32kA/mで、成形圧力は例えば600MPaである。もちろん、磁石仮成形体12a’と磁石仮成形体12b’とでは配向磁界の方向を逆にする。得られた磁石仮成形体12a’および12b’の密度は例えば5.5g/cm3で、真密度の72%である。
【0057】
一方、平均粒度150μmの鉄粉を用いて公知のプレス形成方法で、図2(b)に示した鉄芯仮成形体22’を作製する。成形圧力は例えば500MPaである。得られた鉄心仮成形体22’の密度は例えば7.0g/cm3で、真密度の89%である。
【0058】
〈熱間プレス成形〉
次に、図3(a)〜(d)に示すように、磁石仮成形体12a’および12b’と鉄芯仮成形体22’とを熱間プレス形成する。
【0059】
図3(a)に示す熱間プレス装置は、所定の形状のキャビティを形成することができる孔を有するダイ32と、ダイ32の孔内を移動する可能な下パンチ42a、42bと、センターシャフト42cと、これらを支持するとともに必要に応じて上下に移動可能な下ラム52と、ダイ32の孔内を移動する可能な上パンチ44a、44bと、これらを支持するとともに必要に応じて上下に移動可能な上ラム54とを有している。下パンチ42aおよび上パンチ44aは、磁石仮成形体12a’12b’を加圧するためのもので、下パンチ42bおよび上パンチ44bは、鉄芯仮成形体22’を加圧するためのものである。このように、磁石仮成形体12a’12b’と、鉄芯仮成形体22’とに対して、独立に加圧できるプレス装置(「多軸プレス装置」と呼ばれることもある。)を用いることによって、各仮成形体に適した加圧プロセスを行い、圧縮初期に大きい、仮成形体間の圧縮変形量の違いを吸収することができるので好ましい。また、図では省略しているが、熱間プレス装置は、加熱装置を備えており、下ラム54、ダイ32および上下パンチ42a、42b、44a、44bおよびセンターシャフト42cは所定の温度に加熱される。
【0060】
まず、図3(a)に示すように、磁石仮成形体12a’および12b’と鉄芯仮成形体22’とをダイ32の所定の位置に組み立てる。このとき、磁石仮成形体12a’および12b’と鉄芯仮成形体22’は、図2(c)に示すように組み立てられ、鉄芯仮成形体の孔22a’内をセンターシャフト42cが貫通する。
【0061】
次に、図3(b)に示すように、下パンチ42a、42bおよび上パンチ44a、44bを上下に移動し、組み立てられた磁石仮成形体12a’および12b’と鉄芯仮成形体22’とをダイ32内に形成されるキャビティ内に挿入する。その後、キャビティの温度を例えば約800℃に維持する。
【0062】
次に、図3(c)に示すように、下パンチ42a、42bおよび上パンチ44a、44bを上下に移動することによって、磁石仮成形体12a’および12b’と鉄芯仮成形体22’とを加圧する。圧力は2ton/cm2で、5分間加圧する。
【0063】
次に、図3(d)に示すように、下パンチ42a、42bおよび上パンチ44a、44bを上下に移動することによって、磁石部品12a、12bと鉄芯(軟磁性部品)22とが一体化された回転子100をダイ32から取り出す。
【0064】
この後、室温まで冷却することによって、回転子100が得られる。この後、焼結工程を行う必要はない。
【0065】
上述の製造方法で試作した磁石部品12a、12bの密度は例えば7.4g/cm3で、真密度(7.6g/cm3)の97.4%であり通常の焼結磁石の密度と同等であった。また、鉄芯22の密度は7.7g/cm3で、真密度(7.8g/cm3)の98.7%であった。
【0066】
試作した回転子は、例えば33000回転でも破壊が起こらず、十分な接合強度を有していた。せん断試験によって測定した磁石部品12a、12bと鉄芯22との接合強度は54MPaであった。また、表面磁束密度は0.39Tを得ることができた。
【0067】
なお、さらに量産性を向上するために、以下のようなプロセスにすることもできる。
【0068】
まず、図3(a)に示した組み立て工程を熱間プレス装置とは別に用意したダイおよびパンチのセット内で行い、結晶成長が起こらない程度の温度(例えば600℃程度)まで予備的に加熱する。所定の温度に到達した後、当該セットを熱間プレス装置に移動し、そこで高周波誘導加熱もしくは通電加熱により、短時間で最適な温度(例えば800℃)まで昇温し、引き続き短時間一体化プレスを行う。また、上記のダイおよびパンチのセットを複数個準備し、上記の予備的な加熱工程から一体化プレス工程までを減圧あるいは不活性ガス雰囲気中で、例えばプッシャー炉方式を用いて複数の処理を連続的に行うことにより、さらに効率的な生産が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明によると、従来よりも優れた特性を有する磁気回路部品の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】(a)は、本発明による実施形態の製造方法によって製造される回転子100の構造を示す模式図であり、(b)は回転子100に用いられる他の磁石部品の構造を示す模式図である。
【図2】(a)〜(c)は、本発明による実施形態の回転子100の製造方法を説明するための模式図である。
【図3】(a)〜(d)は、本発明による実施形態の回転子100の製造方法における熱間プレス形成工程を説明するための模式的な断面図である。
【図4】従来の回転子の構造を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0071】
12a’、12b’ 磁石仮成形体
12a、12b 磁石成形体(磁石部品)
22’ 軟磁性材料粉末の仮成形体(鉄芯仮成形体)
22 軟磁性材料粉末の成形体(軟磁性部品、鉄心)
32 ダイ
42a、42b 下パンチ
42c センターシャフト
44a、44b 上パンチ
52 下ラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類磁石粉末の成形体と、軟磁性材料粉末の成形体とが一体化された磁気回路部品の製造方法であって、
(a)磁気異方性を有する希土類磁石粉末を配向磁界中でプレス成形することによって、各々が所定の方向に磁界配向した複数の磁石仮成形体を作製する工程と、
(b)前記複数の磁石仮成形体と、粉末状態の軟磁性材料粉末または軟磁性材料粉末の仮成形体とを熱間プレス成形することによって、複数の磁石成形体と軟磁性材料粉末の成形体とが一体化された成形品を得る工程と、
を包含する、磁気回路部品の製造方法。
【請求項2】
前記工程(b)の前に、前記軟磁性材料粉末をプレス成形することによって前記軟磁性材料粉末の仮成形体を作製する工程(c)をさらに包含し、
前記工程(b)は、前記軟磁性材料粉末の仮成形体と前記複数の磁石仮成形体とを熱間プレス成形することによって、複数の磁石成形体と軟磁性材料粉末の成形体とが一体化された成形品を得る工程である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記工程(b)において、前記軟磁性材料粉末は粉末状態で熱間プレス成形される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記工程(b)は、400℃以上1000℃未満の温度で行われる、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記工程(b)は、20MPa以上500MPa以下の圧力で行われる、請求項1から4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記工程(a)は、300MPa以上1GPa以下の圧力で行われる、請求項1から5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記工程(b)において、前記複数の磁石成形体の密度を、真密度の95%以上まで上昇させる、請求項1から6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記磁石粉末は、HDDR法で作製されたものであり、結晶粒径が0.1μm以上1.0μm以下の金属組織を有する、請求項1から7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
前記磁気回路部品は磁石回転子である、請求項1から8のいずれかに記載の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−180368(P2007−180368A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−378780(P2005−378780)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000183417)株式会社NEOMAX (121)
【Fターム(参考)】