磁気式エンコーダ
【課題】長さ寸法や角度などを測定する計測器具の用途に適した高精度・高信頼度でかつ安価な磁気式エンコーダを実現すること。
【解決手段】同一ピッチでN極とS極が交互に着磁されたテープ状磁気スケール部材を外周面に貼り付けて構成された磁気記録回転体と、磁気記録回転体に近接配置したA相、B相の磁気情報検出出力を出力する磁気情報検出手段とを有し、テープ状磁気スケール部材の両端部における出力信号の変化に基づいてZ相の信号出力が得られるようにした。また、磁気情報検出手段を適当な間隔で2個以上配設することで、磁気シート部材の貼り付け範囲の角度以上の回転角度の情報を得ることができるようにした。
【解決手段】同一ピッチでN極とS極が交互に着磁されたテープ状磁気スケール部材を外周面に貼り付けて構成された磁気記録回転体と、磁気記録回転体に近接配置したA相、B相の磁気情報検出出力を出力する磁気情報検出手段とを有し、テープ状磁気スケール部材の両端部における出力信号の変化に基づいてZ相の信号出力が得られるようにした。また、磁気情報検出手段を適当な間隔で2個以上配設することで、磁気シート部材の貼り付け範囲の角度以上の回転角度の情報を得ることができるようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気式エンコーダに関するものであり、特に、長さ寸法や角度などを測定する計測器具の用途に適した磁気式エンコーダに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、長さ寸法や角度などを測定する際に使用される計測器具の分野においては、取り扱いが容易で、迅速かつ高精度に測定できるものが求められている。かかる要望に対応するものとして、例えば、特開2001−259745号公報(特許文献1)には、磁気式エンコーダの原理を応用して、回転子の外周に設けたマグネスケールの目盛りを読み取ることで曲げ角度を測定するものが開示されている。
【0003】
磁気式エンコーダは、断面がリング状若しくは円形状からなる磁気記録回転体と、磁気記録回転体に近接配置した磁気情報検出手段とを有しており、磁気記録回転体の外周面などに形成された着磁パターンの磁気情報を、近接配置した磁気情報検出手段により読み取るものである。
特開昭63−261112号公報(特許文献2)には、断面がほぼリング状あるいは円形状であって、その外周面にアルマイト磁気皮膜が形成された磁気記録回転体などを用いた磁気式ロータリーエンコーダが開示されている。
【0004】
また、特開平2−236415号公報(特許文献3)には、機械の回転数や回転速度の制御等に用いる磁気式ロータリーエンコーダとして、外周に、同一ピッチでN極とS極を交互に繰り返し着磁し、そのうちの1箇所の隣り合うN極とS極の磁束密度を他より大きくまたは小さくすることにより、回転の始まりを示す原点信号の発生手段とした磁気ドラム(磁気記録回転体)を用いたものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−259745号公報(第4頁)
【特許文献2】特開昭63−261112号公報(第1頁、請求項1)
【特許文献3】特開平2−236415号公報(第1頁、請求項1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
磁気記録回転体としては、特許文献2あるいは特許文献3に開示されているように、非磁性材料からなる円筒状あるいは円盤状基体の外周面に磁性膜を形成し、この磁性膜に同一ピッチでN極とS極を交互に繰り返し着磁を行うことにより作製した磁気記録回転体が広く用いられている。しかしながら、かかる形態の磁気記録回転体を得るためには、円周面あるいは円盤面等に磁性膜を形成し、更に回転体と着磁装置を相対的に移動させながら所定の磁気パターンを着磁することが必要である。このため、極めて高度な着磁技術が要求されるのみならず、各磁気記録回転体について個別に着磁処理を行わなければならないため、生産効率が悪く高価なものとなる。したがって、長さ寸法や角度などを測定する計測器具などの構成部品として採用し易い磁気式エンコーダが提供されていないのが実情である。
すなわち、種々の形態の計測器具などの用途に適したものであるためには、比較的安価に製作可能であって、かつ汎用性に優れた形態の磁気式エンコーダであることが必要とされる。また、磁気記録回転体におけるマグネスケールの開始位置情報等を示す基準信号(
いわゆるZ相信号)が得られることも必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る磁気式エンコーダは、回動または揺動可能に軸支された円筒状または円盤状もしくは扇形等の基体の円弧状外周面にテープ状の磁気スケール部材を貼り付けて構成された磁気記録回転体と、磁気記録回転体に非接触状態に近接配置した少なくとも1個の磁気情報検出手段とを有し、該磁気情報検出手段は上記磁気記録回転体の回動方向に沿って間隔を介して配置された2つの磁気情報検出素子を備え、上記磁気スケール部材に同一ピッチでN極とS極を交互に着磁することにより形成された磁気情報を、前記2つの磁気情報検出素子により検出し、得られる2つの磁気情報検出出力(A相およびB相)から基準出力信号(Z相)を生成するように構成したことを特徴とするものである。
このように構成することで、計測器具等に使用する場合に必要とされる、2個の磁気情報検出素子により検出され出力されるA相およびB相の磁気情報検出出力と、磁気情報を有効なものとして取得する領域(範囲)の開始位置や終了位置を提供するZ相の磁気情報検出出力の、3種類の磁気情報検出出力を得ることができる。
【0008】
請求項2記載の磁気式エンコーダは、請求項1記載のものにおいて、上記磁気スケール部材が貼り付けられている回動角度範囲内に、上記磁気情報検出手段を2個配設したことを特徴とするものである。
このように構成することで、磁気スケール部材が貼り付けられている角度範囲を越える角度まで上記磁気記録回転体が回転若しくは揺動しても、有効な磁気情報を取得することができる。
【0009】
請求項3記載の磁気式エンコーダは、請求項1または請求項2記載のものにおいて、上記磁気スケール部材の両端部を上記磁気記録回転体の外周面に開口するように形成された溝に嵌入して接着固定したことを特徴とするものである。
このように構成することで、外周面に貼り付け固着した磁気スケール部材の端部が剥離したり浮き上ったりすることを防止できる。このため、磁気スケール部材端部の経年変化に起因する測定誤差等を回避若しくは低減でき、磁気式エンコーダとしての信頼性を向上することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、取扱が容易であり,高精度で且つ信頼性が高く、汎用性の高い磁気式エンコーダを比較的安価に実現できるため、長さや角度などを測定するための各種計測機器の高精度・高信頼度の向上に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明による磁気式エンコーダの構成概念図である。
【図2】本発明磁気式エンコーダにおける磁気スケール部材と1つだけの磁気検出素子を有する磁気情報検出手段との関係を示す基本概念図である。
【図3】本発明磁気式エンコーダにおいて、磁気スケール部材の両端部分における磁気情報検出手段の検出出力の状態を説明するための基本概念図である。
【図4】本発明磁気式エンコーダにおける磁気スケール部材と2つの磁気検出素子を内蔵する一つの磁気情報検出手段との関係を説明する基本概念図である。
【図5】図4に示した構成の本発明磁気式エンコーダにおいて、上記2つの磁気検出素子の検出出力信号A相およびB相と、有効な磁気情報としてのカウントを行う範囲を示すZ相出力信号との関係について示した図であり、磁気スケール部材の一端側における出力信号の関係についての説明図である。
【図6】図4および図5に示した構成の本発明磁気式エンコーダにおいて、磁気スケール部材の他端側における各出力信号の関係についての説明図である。
【図7】本発明磁気式エンコーダにおいて、それぞれ2つの磁気検出素子を有する2個の磁気情報検出手段を配設する事例についての要部構成概念図である。
【図8】図7に示す構成の本発明磁気式エンコーダにおける磁気スケール部材と2個の磁気情報検出手段との関係についての説明図である。
【図9】2個の磁気情報検出手段のZ相出力信号と、各磁気情報検出手段が分担する磁気情報抽出範囲(カウント範囲)についての説明図である。
【図10】本発明磁気式エンコーダの一実施態様に係る磁気記録回転体の構成説明図である。
【図11】本発明磁気式エンコーダにおける基体の一実施態様に係る概略構成説明図である。
【図12】本発明磁気式エンコーダにおける磁気スケール部材の一実施態様に係る概略構成説明図である。
【図13】本発明磁気式エンコーダにおける磁気情報検出手段の一実施態様に係る概略構成説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1に本発明磁気式エンコーダの要部構成概念図を示す。本発明において、磁気記録回転体1は、中心部に回転軸2を有する円盤状の回転子基体部3の外周面4にテープ状の磁気スケール部材5を貼り付けて構成してある。なお、磁気スケール部材5には、図示していないが、同一ピッチでN極とS極を交互に着磁することにより形成された磁気情報が一列設けられている。磁気スケール部材5は、円形状の外周長全域に亘って貼り付けられてはおらず、テープ状磁気スケール部材5の両端部が適当な間隔Gで隔てられるように貼り付けてある。このように間隔Gを介して貼り付けることにより、詳細については後述するが、磁気スケール部材5の両端部分の貼り付け処置を適切に行うことができるため、経年変化等により剥離して浮き上がって動作が不安定になるなどの弊害を防止することができる。磁気スケール部材5に記録されている磁気情報は、磁気記録回転子1に近接して配置された磁気情報検出手段6により検出する。なお、図1には示していないが、後述するように、本発明においては、磁気情報検出手段6には、適当なピッチ間隔で配置された2つの磁気情報検出素子が内蔵されている。
なお、上記円盤状回転子基体部は、いわゆる円板状あるいは円柱状の回転子基体部なども概念として包含するものである。
【0013】
図2は、磁気スケール部材5を展開して示したものであり、説明の便宜上、磁気情報検出手段6に内蔵されている2つの磁気情報検出素子のうちの一つの磁気情報検出素子7についてのみ着目し、該磁気情報検出素子7が、一方の端部5a側から他端部5b側まで、矢印で示す方向に相対的に移動したときの磁気情報検出素子7の検出信号を図3(イ)に示す。図3(ロ)は、この検出信号から得られるカウント対象となるパルス信号を示した説明図である。
図2に示すように、磁気情報検出素子7が一方の端部5a側から他方の端部5b側に相対移動したとき、磁気スケール部材5の端部5a近傍における検出信号は、図3(イ)の左側波形部分8に示すように、徐々に振幅が大きくなり、数ピッチ程度の磁気情報を検出した後に、一定振幅の安定した波形の検出信号が得られるようになる。なお、磁気情報検出素子7の検出信号自体は極めて微弱であるため、この信号を増幅器により増幅し、得られる出力信号を磁気情報検出信号としている。
一方、磁気スケール部材5の他方の端部5b近傍における検出信号は、図3(イ)の右側波形部分9に示すように、一定振幅の安定した波形の検出信号から徐々に振幅が小さくなり、数ピッチ程度の磁気情報を検出した後に、無信号出力となる。すなわち、磁気スケール部材5の両端部における検出信号は乱れる。なお、上記説明は、磁気情報が磁気スケール部材5の一方の端部5aから他方の端部5bの全域に亘って一列着磁形成されていることを前提とした説明であり、全域にわたっていない場合には、磁気情報の存在する領域
の両端部が端部5aおよび端部5bに該当することになることは言うまでもない。
このため、本発明においては、磁気情報検出信号を波形整形回路に入力し、例えば、図3(ロ)に示すように、検出信号を所定の振幅レベルで電気的にフィルターをかけることにより矩形波信号(パルス信号)に変換して、これを磁気情報検出出力信号としている。
なお、本発明において使用する波形整形回路としては、例えばシュミット回路など、公知の波形整形回路を適宜選択することができる。
【0014】
便宜上、磁気情報検出手段6に内蔵されているうちの一つの磁気情報検出素子7について上述したが、本発明による磁気式エンコーダにおいては、図4に示すように、磁気情報検出手段6には2つの磁気情報検出素子7a、7bが内蔵されている。図2乃至図3における説明と同様に、図4において、2つの磁気情報検出素子7a、7b(すなわち磁気情報検出手段6)が端部5a側から端部5b側に相対移動したときに、磁気スケール部材5の端部5a部分における磁気情報検出素子7aと磁気情報検出素子7bの検出出力の関係は、図5に示すようになる。すなわち、磁気情報検出素子7aの磁気情報検出出力信号であるA相出力信号が得られ始めた後、磁気情報検出素子7aと磁気情報検出素子7bとの配置間隔Pに対応した時間遅れTが経過してから、磁気情報検出素子7bの磁気情報検出出力信号であるB相出力信号が得られ始める。一方、磁気スケール部材5の端部5b部分における磁気情報検出素子7aと磁気情報検出素子7bの検出出力の関係は、図6に示すようになる。すなわち、磁気情報検出素子7aの磁気情報検出出力信号であるA相出力信号が得られなくなった後、磁気情報検出素子7aと磁気情報検出素子7bとの配置間隔pに対応した時間遅れTが経過してから、磁気情報検出素子7bの磁気情報検出出力信号であるB相出力信号が得られなくなる。
このため、本発明においては、図5および図6に示すように、例えば、アンド回路とオア回路とを組み合わせた処理回路など、公知の処理回路に上記2つの磁気情報検出出力信号を入力して処理することにより、A相出力信号とB相出力信号が同時に得られているときを1、両信号出力が同時に得られていないときを0とする矩形波出力信号を生成して、これをZ相出力信号と得ることができる。
したがって、本発明磁気式エンコーダにおいては、Z相出力信号が1である期間に得られる磁気情報信号を有効な信号(カウント信号)として計数し、Z相出力信号が0のときの磁気情報信号を無効な信号(非カウント信号)として計数しない、などの手段をとることができる。なお、以下の説明においては、前者の期間をカウント有効期間、後者の期間をカウント無効期間と称することがある。
以上詳述したように、本発明磁気式エンコーダにおいては、単一トラックの磁気情報を検知しているにも拘わらず、A相出力信号とB相出力信号の2つの出力だけではなく、Z相出力信号も確立できるという利点がある。
【0015】
本発明磁気エンコーダは、上記のような構成であるため、例えば、磁気スケール部材5の一端5a側から他端5b側へ磁気情報検出手段6が相対移動したとき(換言すれば、磁気情報検出素子7a、7bが相対移動したとき)に、Z相出力信号が1となったとき(換言すれば、カウント期間の開始時)をカウントの基準絶対値(カウント0)として、パルス信号(矩形波信号)のカウントを開始し、該カウント数を演算処理手段のメモリに逐次格納記憶させる。これによって、磁気記録回転体1の回動量若しくは揺動量を求めることができる。なお、Z相出力信号が0に変わったとき(換言すれば、カウント期間の終了時)のカウント値が計測できる回動量若しくは揺動量の最大値となる。
したがって、例えば、本発明磁気エンコーダを角度測定器に適用した場合には、基準角度位置における絶対カウント数を相対カウント数の基準値(カウント0)として設定し、更に規定の角度位置まで動かしたときのカウント数を較正値として設定するにより、被測定角度を求めることができる。したがって、本発明エンコーダを用いることにより、回動量や揺動量を精度良く測定することができる。
なお、相対カウント数は、磁気記録回転体の回動方向あるいは揺動方向に対応して、カ
ウントを加算もしくは減算して求めなければならないが、磁気記録回転体の回転方向もしくは揺動方向を判定するための手法としては、例えば、公知の位相判別回路を用いることにより、A相出力信号に対するB相出力信号の位相が進んでいる相なのか遅れている相なのかを検知し、それに基づいて判定するなど、公知の手段を採用することができる。
【0016】
本発明磁気式エンコーダにおいて、2個の磁気情報検出手段を配設した実施態様についての要部構成概略図を図7に示す。なお、説明の便宜上、磁気スケール部材5Aは磁気記録回転体1の回転子基体部3Aの外周面の3/4(270°に相当)の範囲に亘り貼り付けられており、2個の磁気情報検出手段6A,6Bは磁気スケール部材5Aが貼り付けられている範囲内で、約120°の間隔をもたせて配置してある。
図8は、図7に示した構成の磁気式エンコーダにおける磁気記録回転体1の外周面4を展開して示したものであり、磁気スケール部材5Aは、外周面4Aの全周長Lの3/4(270°に相当)の範囲に存在する。なお、図8において、Gは磁気スケール部材が存在しない外周面範囲を示す。ここで、第1の磁気情報検出手段6Aと第2の磁気情報検出手段6Bが、位置8a側から位置8b側に向かって相対移動すると、第1の磁気情報検出手段6Aにおけるカウント有効期間と第2の磁気情報検出手段6Bにおけるカウント有効期間との関係は、図9に示すようになる。
したがって、例えば、図9に範囲CMと範囲CSで示すように、磁気式エンコーダの磁気情報出力信号を、第1の磁気情報検出手段6aの出力信号でカバーする範囲と第2の磁気情報検出手段6bの出力信号でカバーする範囲と切り替えることにより、磁気記録回転子1が磁気スケール部材5の貼付範囲を越えて回転しても磁気情報の検出をすることができる。すなわち、360°以上の回動量であっても、有効にカウントできるため、計測機器に適用した場合に、測定範囲を容易に拡大することが可能であるという特長を有する。
なお、図9に示した分担範囲CMとCSは、少なくともいずれか一方のカウント有効期間内であるように設定するならば、任意に範囲設定が可能であることは自明である。
【0017】
上記説明においては、便宜上、2つの磁気情報検出手段を磁気スケール部材が貼り付けてある範囲内で120°の間隔で配置した場合について説明したが、本発明において、2個の磁気情報検出手段は、磁気スケール部材の両端部近傍を除いた磁気スケール部材が貼り付けてある範囲内であって、磁気スケール部材が貼り付けてない部分の間隔を十分に越える間隔を持たせて配置するならば、両磁気情報検出手段の間隔は任意に設定可能である。
また、本発明において、回転子基体部の形状は、必ずしも円盤状あるいは円筒状に限定されるものではなく、回転軸の周りに回動若しくは揺動可能であって、回転軸を中心とする円弧状外周面を有する形状であれば、半円状や扇形状など、他の形状であっても良い。例えば、微少角度を精密に測定するような器具に適用する場合などには、回転半径が大きくて、開き角度が比較的小さな扇形状の回転子基体を用いる方が好ましい場合がある。
更にまた、本発明の磁気式エンコーダは、同一ピッチでN極とS極を交互に着磁することにより形成された磁気情報が一列設けられている磁気スケール部材を、回転子基体部に貼り付けた構成としているため、極めて簡単な構造の磁気記録回転体を実現出来るだけではなく、磁気スケール部材を貼り付ける回転子基体部の外径(回転半径)を変えるだけで寸法や角度を測定する際の解像度を簡単に調整できるという利点を有している。
以下、本発明を実施例に基づいて、より詳細に説明する。
【実施例】
【0018】
図10に、本発明磁気式エンコーダの一実施態様に係る磁気記録回転体の要部構成図を示す。磁気記録回転体10は、径3mmの止めねじ11により固定された外径16mmの回転軸12を中心に有しており、外周面の角度270°の範囲に亘り幅3mm、長さ90mmの磁気スケール部材13を貼り付けて構成してある。また、図示はしていないが、2つの磁気情報検出素子を内蔵する一つの磁気情報検出手段が、磁気スケール部材10の
表面から50μmの空隙を介してケース14の中に配設されており、その検出出力回路はケーブル15を通じて図示しない計測演算処理部本体に接続されている。
【0019】
図11に本実施態様における回転子基体部16の構成を示す。回転子基体16は、外径36mm、厚さ3.5mmの円環形状からなり、その中心部に、外径20mm、内径16mm、長さ約16mmの回転軸係止用ボス部17を有している。また、外周面には、磁気スケール部材の両端部を挿入し固定するために、高さ約1mm、深さ約5mmの円弧状溝18が2箇所設けてある。本実施態様においては、この溝18に磁気スケール部材の端部を挿入し、しっかりと固定することで、磁気スケール部材の両端部が経年変化により剥離したり、浮き上がったりすることを防止することができる。溝の形状は、使用する磁気スケール部材の特性や、回転子基体部の形状等に応じて、曲率半径や深さ、高さなどを決めることが望ましい。また、本発明において、磁気スケール部材の両端部の処理は、必ずしも溝に挿入する形態に限定されるものではなく、信頼性等に問題がなければ、例えば、外周面に切り欠け部を設け、そこに治具で端部を押さえつけるように固定するなど、他の方法を採用しても良いことは勿論である。
【0020】
図12に本実施態様で用いた磁気スケール部材の構成断面図を示す。図12に示すように、本実施態様においては、一方の面にセパレータ19を他面側にPET(ポリエチレンテレフタレート)層20が貼り付けられている粘着テープ21のPET層20上に、薄く磁性層22を形成してなる磁気スケール部材13を用いた。磁気スケール部材13は、84.7μmのピッチでN極、S極が交互に着磁されているものであり、シート状の部材から切り出すことにより作成したものである。本発明においては、このように磁気印刷をしたシート部材から切り出すことにより、容易に磁気スケール部材を作製することが可能であり、従来から用いられている個々の回転体に磁気情報を着磁して作製する磁気記録回転体に比べて極めて容易かつ安価に作製できる。なお、本実施態様で用いた磁気スケール部材の全長は90mmだが、両端からそれぞれ約5mm程度の部分は、前述した磁気記録回転体の基体部に設けた係止溝内に挿入・固定されるため、有効領域は約80mm程度である。
また、図13に本実施態様で用いた磁気情報検出手段の概略構成説明図を示す。磁気情報検出手段6Cは、幅2mm、長さ4mm程度の大きさの領域内に2つの磁気情報検出素子を内蔵し、各情報検出素子の出力端子は幅約9mm、長さ約100mm程度のフレキシブルリード線23の一端側に接続され、リード線23の他端側には、接続端子24が設けられている構成のものである。
【産業上の利用可能性】
【0021】
長さや角度などを測定する計測器具などを作製する際に、本発明の磁気式エンコーダを用いることで、取り扱いが容易で、高精度・高信頼度のコストパフォーマンスに優れた計測器具を実現することができる。
【符号の説明】
【0022】
1、10 磁気記録回転体
2、12 回転軸
3、16 回転子基体部
4、外周面
5、13 磁気スケール部材
6、6A,6B、6C 磁気情報検出手段
7、7a、7b 磁気情報検出素子
18 溝
19 セパレータ
20 PET
21 粘着テープ
22 磁性層
23 フレキシブルリード線
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気式エンコーダに関するものであり、特に、長さ寸法や角度などを測定する計測器具の用途に適した磁気式エンコーダに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、長さ寸法や角度などを測定する際に使用される計測器具の分野においては、取り扱いが容易で、迅速かつ高精度に測定できるものが求められている。かかる要望に対応するものとして、例えば、特開2001−259745号公報(特許文献1)には、磁気式エンコーダの原理を応用して、回転子の外周に設けたマグネスケールの目盛りを読み取ることで曲げ角度を測定するものが開示されている。
【0003】
磁気式エンコーダは、断面がリング状若しくは円形状からなる磁気記録回転体と、磁気記録回転体に近接配置した磁気情報検出手段とを有しており、磁気記録回転体の外周面などに形成された着磁パターンの磁気情報を、近接配置した磁気情報検出手段により読み取るものである。
特開昭63−261112号公報(特許文献2)には、断面がほぼリング状あるいは円形状であって、その外周面にアルマイト磁気皮膜が形成された磁気記録回転体などを用いた磁気式ロータリーエンコーダが開示されている。
【0004】
また、特開平2−236415号公報(特許文献3)には、機械の回転数や回転速度の制御等に用いる磁気式ロータリーエンコーダとして、外周に、同一ピッチでN極とS極を交互に繰り返し着磁し、そのうちの1箇所の隣り合うN極とS極の磁束密度を他より大きくまたは小さくすることにより、回転の始まりを示す原点信号の発生手段とした磁気ドラム(磁気記録回転体)を用いたものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−259745号公報(第4頁)
【特許文献2】特開昭63−261112号公報(第1頁、請求項1)
【特許文献3】特開平2−236415号公報(第1頁、請求項1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
磁気記録回転体としては、特許文献2あるいは特許文献3に開示されているように、非磁性材料からなる円筒状あるいは円盤状基体の外周面に磁性膜を形成し、この磁性膜に同一ピッチでN極とS極を交互に繰り返し着磁を行うことにより作製した磁気記録回転体が広く用いられている。しかしながら、かかる形態の磁気記録回転体を得るためには、円周面あるいは円盤面等に磁性膜を形成し、更に回転体と着磁装置を相対的に移動させながら所定の磁気パターンを着磁することが必要である。このため、極めて高度な着磁技術が要求されるのみならず、各磁気記録回転体について個別に着磁処理を行わなければならないため、生産効率が悪く高価なものとなる。したがって、長さ寸法や角度などを測定する計測器具などの構成部品として採用し易い磁気式エンコーダが提供されていないのが実情である。
すなわち、種々の形態の計測器具などの用途に適したものであるためには、比較的安価に製作可能であって、かつ汎用性に優れた形態の磁気式エンコーダであることが必要とされる。また、磁気記録回転体におけるマグネスケールの開始位置情報等を示す基準信号(
いわゆるZ相信号)が得られることも必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る磁気式エンコーダは、回動または揺動可能に軸支された円筒状または円盤状もしくは扇形等の基体の円弧状外周面にテープ状の磁気スケール部材を貼り付けて構成された磁気記録回転体と、磁気記録回転体に非接触状態に近接配置した少なくとも1個の磁気情報検出手段とを有し、該磁気情報検出手段は上記磁気記録回転体の回動方向に沿って間隔を介して配置された2つの磁気情報検出素子を備え、上記磁気スケール部材に同一ピッチでN極とS極を交互に着磁することにより形成された磁気情報を、前記2つの磁気情報検出素子により検出し、得られる2つの磁気情報検出出力(A相およびB相)から基準出力信号(Z相)を生成するように構成したことを特徴とするものである。
このように構成することで、計測器具等に使用する場合に必要とされる、2個の磁気情報検出素子により検出され出力されるA相およびB相の磁気情報検出出力と、磁気情報を有効なものとして取得する領域(範囲)の開始位置や終了位置を提供するZ相の磁気情報検出出力の、3種類の磁気情報検出出力を得ることができる。
【0008】
請求項2記載の磁気式エンコーダは、請求項1記載のものにおいて、上記磁気スケール部材が貼り付けられている回動角度範囲内に、上記磁気情報検出手段を2個配設したことを特徴とするものである。
このように構成することで、磁気スケール部材が貼り付けられている角度範囲を越える角度まで上記磁気記録回転体が回転若しくは揺動しても、有効な磁気情報を取得することができる。
【0009】
請求項3記載の磁気式エンコーダは、請求項1または請求項2記載のものにおいて、上記磁気スケール部材の両端部を上記磁気記録回転体の外周面に開口するように形成された溝に嵌入して接着固定したことを特徴とするものである。
このように構成することで、外周面に貼り付け固着した磁気スケール部材の端部が剥離したり浮き上ったりすることを防止できる。このため、磁気スケール部材端部の経年変化に起因する測定誤差等を回避若しくは低減でき、磁気式エンコーダとしての信頼性を向上することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、取扱が容易であり,高精度で且つ信頼性が高く、汎用性の高い磁気式エンコーダを比較的安価に実現できるため、長さや角度などを測定するための各種計測機器の高精度・高信頼度の向上に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明による磁気式エンコーダの構成概念図である。
【図2】本発明磁気式エンコーダにおける磁気スケール部材と1つだけの磁気検出素子を有する磁気情報検出手段との関係を示す基本概念図である。
【図3】本発明磁気式エンコーダにおいて、磁気スケール部材の両端部分における磁気情報検出手段の検出出力の状態を説明するための基本概念図である。
【図4】本発明磁気式エンコーダにおける磁気スケール部材と2つの磁気検出素子を内蔵する一つの磁気情報検出手段との関係を説明する基本概念図である。
【図5】図4に示した構成の本発明磁気式エンコーダにおいて、上記2つの磁気検出素子の検出出力信号A相およびB相と、有効な磁気情報としてのカウントを行う範囲を示すZ相出力信号との関係について示した図であり、磁気スケール部材の一端側における出力信号の関係についての説明図である。
【図6】図4および図5に示した構成の本発明磁気式エンコーダにおいて、磁気スケール部材の他端側における各出力信号の関係についての説明図である。
【図7】本発明磁気式エンコーダにおいて、それぞれ2つの磁気検出素子を有する2個の磁気情報検出手段を配設する事例についての要部構成概念図である。
【図8】図7に示す構成の本発明磁気式エンコーダにおける磁気スケール部材と2個の磁気情報検出手段との関係についての説明図である。
【図9】2個の磁気情報検出手段のZ相出力信号と、各磁気情報検出手段が分担する磁気情報抽出範囲(カウント範囲)についての説明図である。
【図10】本発明磁気式エンコーダの一実施態様に係る磁気記録回転体の構成説明図である。
【図11】本発明磁気式エンコーダにおける基体の一実施態様に係る概略構成説明図である。
【図12】本発明磁気式エンコーダにおける磁気スケール部材の一実施態様に係る概略構成説明図である。
【図13】本発明磁気式エンコーダにおける磁気情報検出手段の一実施態様に係る概略構成説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1に本発明磁気式エンコーダの要部構成概念図を示す。本発明において、磁気記録回転体1は、中心部に回転軸2を有する円盤状の回転子基体部3の外周面4にテープ状の磁気スケール部材5を貼り付けて構成してある。なお、磁気スケール部材5には、図示していないが、同一ピッチでN極とS極を交互に着磁することにより形成された磁気情報が一列設けられている。磁気スケール部材5は、円形状の外周長全域に亘って貼り付けられてはおらず、テープ状磁気スケール部材5の両端部が適当な間隔Gで隔てられるように貼り付けてある。このように間隔Gを介して貼り付けることにより、詳細については後述するが、磁気スケール部材5の両端部分の貼り付け処置を適切に行うことができるため、経年変化等により剥離して浮き上がって動作が不安定になるなどの弊害を防止することができる。磁気スケール部材5に記録されている磁気情報は、磁気記録回転子1に近接して配置された磁気情報検出手段6により検出する。なお、図1には示していないが、後述するように、本発明においては、磁気情報検出手段6には、適当なピッチ間隔で配置された2つの磁気情報検出素子が内蔵されている。
なお、上記円盤状回転子基体部は、いわゆる円板状あるいは円柱状の回転子基体部なども概念として包含するものである。
【0013】
図2は、磁気スケール部材5を展開して示したものであり、説明の便宜上、磁気情報検出手段6に内蔵されている2つの磁気情報検出素子のうちの一つの磁気情報検出素子7についてのみ着目し、該磁気情報検出素子7が、一方の端部5a側から他端部5b側まで、矢印で示す方向に相対的に移動したときの磁気情報検出素子7の検出信号を図3(イ)に示す。図3(ロ)は、この検出信号から得られるカウント対象となるパルス信号を示した説明図である。
図2に示すように、磁気情報検出素子7が一方の端部5a側から他方の端部5b側に相対移動したとき、磁気スケール部材5の端部5a近傍における検出信号は、図3(イ)の左側波形部分8に示すように、徐々に振幅が大きくなり、数ピッチ程度の磁気情報を検出した後に、一定振幅の安定した波形の検出信号が得られるようになる。なお、磁気情報検出素子7の検出信号自体は極めて微弱であるため、この信号を増幅器により増幅し、得られる出力信号を磁気情報検出信号としている。
一方、磁気スケール部材5の他方の端部5b近傍における検出信号は、図3(イ)の右側波形部分9に示すように、一定振幅の安定した波形の検出信号から徐々に振幅が小さくなり、数ピッチ程度の磁気情報を検出した後に、無信号出力となる。すなわち、磁気スケール部材5の両端部における検出信号は乱れる。なお、上記説明は、磁気情報が磁気スケール部材5の一方の端部5aから他方の端部5bの全域に亘って一列着磁形成されていることを前提とした説明であり、全域にわたっていない場合には、磁気情報の存在する領域
の両端部が端部5aおよび端部5bに該当することになることは言うまでもない。
このため、本発明においては、磁気情報検出信号を波形整形回路に入力し、例えば、図3(ロ)に示すように、検出信号を所定の振幅レベルで電気的にフィルターをかけることにより矩形波信号(パルス信号)に変換して、これを磁気情報検出出力信号としている。
なお、本発明において使用する波形整形回路としては、例えばシュミット回路など、公知の波形整形回路を適宜選択することができる。
【0014】
便宜上、磁気情報検出手段6に内蔵されているうちの一つの磁気情報検出素子7について上述したが、本発明による磁気式エンコーダにおいては、図4に示すように、磁気情報検出手段6には2つの磁気情報検出素子7a、7bが内蔵されている。図2乃至図3における説明と同様に、図4において、2つの磁気情報検出素子7a、7b(すなわち磁気情報検出手段6)が端部5a側から端部5b側に相対移動したときに、磁気スケール部材5の端部5a部分における磁気情報検出素子7aと磁気情報検出素子7bの検出出力の関係は、図5に示すようになる。すなわち、磁気情報検出素子7aの磁気情報検出出力信号であるA相出力信号が得られ始めた後、磁気情報検出素子7aと磁気情報検出素子7bとの配置間隔Pに対応した時間遅れTが経過してから、磁気情報検出素子7bの磁気情報検出出力信号であるB相出力信号が得られ始める。一方、磁気スケール部材5の端部5b部分における磁気情報検出素子7aと磁気情報検出素子7bの検出出力の関係は、図6に示すようになる。すなわち、磁気情報検出素子7aの磁気情報検出出力信号であるA相出力信号が得られなくなった後、磁気情報検出素子7aと磁気情報検出素子7bとの配置間隔pに対応した時間遅れTが経過してから、磁気情報検出素子7bの磁気情報検出出力信号であるB相出力信号が得られなくなる。
このため、本発明においては、図5および図6に示すように、例えば、アンド回路とオア回路とを組み合わせた処理回路など、公知の処理回路に上記2つの磁気情報検出出力信号を入力して処理することにより、A相出力信号とB相出力信号が同時に得られているときを1、両信号出力が同時に得られていないときを0とする矩形波出力信号を生成して、これをZ相出力信号と得ることができる。
したがって、本発明磁気式エンコーダにおいては、Z相出力信号が1である期間に得られる磁気情報信号を有効な信号(カウント信号)として計数し、Z相出力信号が0のときの磁気情報信号を無効な信号(非カウント信号)として計数しない、などの手段をとることができる。なお、以下の説明においては、前者の期間をカウント有効期間、後者の期間をカウント無効期間と称することがある。
以上詳述したように、本発明磁気式エンコーダにおいては、単一トラックの磁気情報を検知しているにも拘わらず、A相出力信号とB相出力信号の2つの出力だけではなく、Z相出力信号も確立できるという利点がある。
【0015】
本発明磁気エンコーダは、上記のような構成であるため、例えば、磁気スケール部材5の一端5a側から他端5b側へ磁気情報検出手段6が相対移動したとき(換言すれば、磁気情報検出素子7a、7bが相対移動したとき)に、Z相出力信号が1となったとき(換言すれば、カウント期間の開始時)をカウントの基準絶対値(カウント0)として、パルス信号(矩形波信号)のカウントを開始し、該カウント数を演算処理手段のメモリに逐次格納記憶させる。これによって、磁気記録回転体1の回動量若しくは揺動量を求めることができる。なお、Z相出力信号が0に変わったとき(換言すれば、カウント期間の終了時)のカウント値が計測できる回動量若しくは揺動量の最大値となる。
したがって、例えば、本発明磁気エンコーダを角度測定器に適用した場合には、基準角度位置における絶対カウント数を相対カウント数の基準値(カウント0)として設定し、更に規定の角度位置まで動かしたときのカウント数を較正値として設定するにより、被測定角度を求めることができる。したがって、本発明エンコーダを用いることにより、回動量や揺動量を精度良く測定することができる。
なお、相対カウント数は、磁気記録回転体の回動方向あるいは揺動方向に対応して、カ
ウントを加算もしくは減算して求めなければならないが、磁気記録回転体の回転方向もしくは揺動方向を判定するための手法としては、例えば、公知の位相判別回路を用いることにより、A相出力信号に対するB相出力信号の位相が進んでいる相なのか遅れている相なのかを検知し、それに基づいて判定するなど、公知の手段を採用することができる。
【0016】
本発明磁気式エンコーダにおいて、2個の磁気情報検出手段を配設した実施態様についての要部構成概略図を図7に示す。なお、説明の便宜上、磁気スケール部材5Aは磁気記録回転体1の回転子基体部3Aの外周面の3/4(270°に相当)の範囲に亘り貼り付けられており、2個の磁気情報検出手段6A,6Bは磁気スケール部材5Aが貼り付けられている範囲内で、約120°の間隔をもたせて配置してある。
図8は、図7に示した構成の磁気式エンコーダにおける磁気記録回転体1の外周面4を展開して示したものであり、磁気スケール部材5Aは、外周面4Aの全周長Lの3/4(270°に相当)の範囲に存在する。なお、図8において、Gは磁気スケール部材が存在しない外周面範囲を示す。ここで、第1の磁気情報検出手段6Aと第2の磁気情報検出手段6Bが、位置8a側から位置8b側に向かって相対移動すると、第1の磁気情報検出手段6Aにおけるカウント有効期間と第2の磁気情報検出手段6Bにおけるカウント有効期間との関係は、図9に示すようになる。
したがって、例えば、図9に範囲CMと範囲CSで示すように、磁気式エンコーダの磁気情報出力信号を、第1の磁気情報検出手段6aの出力信号でカバーする範囲と第2の磁気情報検出手段6bの出力信号でカバーする範囲と切り替えることにより、磁気記録回転子1が磁気スケール部材5の貼付範囲を越えて回転しても磁気情報の検出をすることができる。すなわち、360°以上の回動量であっても、有効にカウントできるため、計測機器に適用した場合に、測定範囲を容易に拡大することが可能であるという特長を有する。
なお、図9に示した分担範囲CMとCSは、少なくともいずれか一方のカウント有効期間内であるように設定するならば、任意に範囲設定が可能であることは自明である。
【0017】
上記説明においては、便宜上、2つの磁気情報検出手段を磁気スケール部材が貼り付けてある範囲内で120°の間隔で配置した場合について説明したが、本発明において、2個の磁気情報検出手段は、磁気スケール部材の両端部近傍を除いた磁気スケール部材が貼り付けてある範囲内であって、磁気スケール部材が貼り付けてない部分の間隔を十分に越える間隔を持たせて配置するならば、両磁気情報検出手段の間隔は任意に設定可能である。
また、本発明において、回転子基体部の形状は、必ずしも円盤状あるいは円筒状に限定されるものではなく、回転軸の周りに回動若しくは揺動可能であって、回転軸を中心とする円弧状外周面を有する形状であれば、半円状や扇形状など、他の形状であっても良い。例えば、微少角度を精密に測定するような器具に適用する場合などには、回転半径が大きくて、開き角度が比較的小さな扇形状の回転子基体を用いる方が好ましい場合がある。
更にまた、本発明の磁気式エンコーダは、同一ピッチでN極とS極を交互に着磁することにより形成された磁気情報が一列設けられている磁気スケール部材を、回転子基体部に貼り付けた構成としているため、極めて簡単な構造の磁気記録回転体を実現出来るだけではなく、磁気スケール部材を貼り付ける回転子基体部の外径(回転半径)を変えるだけで寸法や角度を測定する際の解像度を簡単に調整できるという利点を有している。
以下、本発明を実施例に基づいて、より詳細に説明する。
【実施例】
【0018】
図10に、本発明磁気式エンコーダの一実施態様に係る磁気記録回転体の要部構成図を示す。磁気記録回転体10は、径3mmの止めねじ11により固定された外径16mmの回転軸12を中心に有しており、外周面の角度270°の範囲に亘り幅3mm、長さ90mmの磁気スケール部材13を貼り付けて構成してある。また、図示はしていないが、2つの磁気情報検出素子を内蔵する一つの磁気情報検出手段が、磁気スケール部材10の
表面から50μmの空隙を介してケース14の中に配設されており、その検出出力回路はケーブル15を通じて図示しない計測演算処理部本体に接続されている。
【0019】
図11に本実施態様における回転子基体部16の構成を示す。回転子基体16は、外径36mm、厚さ3.5mmの円環形状からなり、その中心部に、外径20mm、内径16mm、長さ約16mmの回転軸係止用ボス部17を有している。また、外周面には、磁気スケール部材の両端部を挿入し固定するために、高さ約1mm、深さ約5mmの円弧状溝18が2箇所設けてある。本実施態様においては、この溝18に磁気スケール部材の端部を挿入し、しっかりと固定することで、磁気スケール部材の両端部が経年変化により剥離したり、浮き上がったりすることを防止することができる。溝の形状は、使用する磁気スケール部材の特性や、回転子基体部の形状等に応じて、曲率半径や深さ、高さなどを決めることが望ましい。また、本発明において、磁気スケール部材の両端部の処理は、必ずしも溝に挿入する形態に限定されるものではなく、信頼性等に問題がなければ、例えば、外周面に切り欠け部を設け、そこに治具で端部を押さえつけるように固定するなど、他の方法を採用しても良いことは勿論である。
【0020】
図12に本実施態様で用いた磁気スケール部材の構成断面図を示す。図12に示すように、本実施態様においては、一方の面にセパレータ19を他面側にPET(ポリエチレンテレフタレート)層20が貼り付けられている粘着テープ21のPET層20上に、薄く磁性層22を形成してなる磁気スケール部材13を用いた。磁気スケール部材13は、84.7μmのピッチでN極、S極が交互に着磁されているものであり、シート状の部材から切り出すことにより作成したものである。本発明においては、このように磁気印刷をしたシート部材から切り出すことにより、容易に磁気スケール部材を作製することが可能であり、従来から用いられている個々の回転体に磁気情報を着磁して作製する磁気記録回転体に比べて極めて容易かつ安価に作製できる。なお、本実施態様で用いた磁気スケール部材の全長は90mmだが、両端からそれぞれ約5mm程度の部分は、前述した磁気記録回転体の基体部に設けた係止溝内に挿入・固定されるため、有効領域は約80mm程度である。
また、図13に本実施態様で用いた磁気情報検出手段の概略構成説明図を示す。磁気情報検出手段6Cは、幅2mm、長さ4mm程度の大きさの領域内に2つの磁気情報検出素子を内蔵し、各情報検出素子の出力端子は幅約9mm、長さ約100mm程度のフレキシブルリード線23の一端側に接続され、リード線23の他端側には、接続端子24が設けられている構成のものである。
【産業上の利用可能性】
【0021】
長さや角度などを測定する計測器具などを作製する際に、本発明の磁気式エンコーダを用いることで、取り扱いが容易で、高精度・高信頼度のコストパフォーマンスに優れた計測器具を実現することができる。
【符号の説明】
【0022】
1、10 磁気記録回転体
2、12 回転軸
3、16 回転子基体部
4、外周面
5、13 磁気スケール部材
6、6A,6B、6C 磁気情報検出手段
7、7a、7b 磁気情報検出素子
18 溝
19 セパレータ
20 PET
21 粘着テープ
22 磁性層
23 フレキシブルリード線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回動または揺動可能に軸支された円筒状または円盤状もしくは扇形等の基体の円弧状外周面にテープ状磁気スケール部材を貼り付けて構成された磁気記録回転体と、該磁気記録回転体に非接触状態に近接配置した少なくとも1個の磁気情報検出手段とを有し、該磁気情報検出手段は上記磁気記録回転体の回動方向に沿って間隔を介して配置された2つの磁気情報検出素子を備え、上記磁気スケール部材に同一ピッチでN極とS極を交互に着磁することにより形成された磁気情報を、前記2つの磁気情報検出素子により検出し、得られる2つの磁気情報検出出力(A相およびB相)から基準出力信号(Z相)を生成するように構成したことを特徴とする磁気式エンコーダ。
【請求項2】
上記磁気スケール部材が貼り付けられている回動角度範囲内において、上記磁気情報検出手段を2個配設したことを特徴とする請求項1記載の磁気式エンコーダ。
【請求項3】
上記磁気スケール部材の両端部を上記磁気記録回転体の外周面に開口するように形成された溝に嵌入し接着固定したことを特徴とする請求項1または請求項2記載の磁気式エンコーダ。
【請求項1】
回動または揺動可能に軸支された円筒状または円盤状もしくは扇形等の基体の円弧状外周面にテープ状磁気スケール部材を貼り付けて構成された磁気記録回転体と、該磁気記録回転体に非接触状態に近接配置した少なくとも1個の磁気情報検出手段とを有し、該磁気情報検出手段は上記磁気記録回転体の回動方向に沿って間隔を介して配置された2つの磁気情報検出素子を備え、上記磁気スケール部材に同一ピッチでN極とS極を交互に着磁することにより形成された磁気情報を、前記2つの磁気情報検出素子により検出し、得られる2つの磁気情報検出出力(A相およびB相)から基準出力信号(Z相)を生成するように構成したことを特徴とする磁気式エンコーダ。
【請求項2】
上記磁気スケール部材が貼り付けられている回動角度範囲内において、上記磁気情報検出手段を2個配設したことを特徴とする請求項1記載の磁気式エンコーダ。
【請求項3】
上記磁気スケール部材の両端部を上記磁気記録回転体の外周面に開口するように形成された溝に嵌入し接着固定したことを特徴とする請求項1または請求項2記載の磁気式エンコーダ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−141259(P2012−141259A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−1092(P2011−1092)
【出願日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(710010803)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(710010803)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]