説明

磁気検出センサ

【課題】小形化、感度の向上および低コスト化を実現しつつ幅広い用途で使用可能な磁気検出センサを提供する。
【解決手段】フラックスゲート型の磁気検出素子11と、交流電流Ihを出力する交流電流出力部12と、磁気検出素子11に対して交流電流Ihが供給されている状態において磁気検出素子11から出力される電圧信号Svを検出する検出部13とを備え、磁気検出素子11は、導電体で形成されて交流電流Ihの供給によって励磁用の磁界Heを発生する線状の励磁用電極21と、励磁用電極21とは別体に形成されると共に励磁用電極21の近傍に配置されて磁界Heによって励磁される線状の軟磁性体23と、励磁用電極21および軟磁性体23の近傍に配置されて磁界Heの強度および磁気検出素子11に印加される外部からの磁界Heの強度に応じた電圧信号Svを出力する検出コイル24とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラックスゲート型の磁気検出素子を備えた磁気検出センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の磁気検出センサとして、特許第2617498号公報に開示された磁気検出センサ(磁気センサ)が知られている。この磁気検出センサは、線状または棒状の磁性体(例えば、アモルファス磁性線)と、磁性体に巻回された検出コイル(検出巻線)と、磁性体に交流電流(またはパルス電流)を供給する電源とを備えて構成されている。この磁気検出センサでは、磁性体に対する交流電流の供給によって内部磁界が発生している状態において外部磁界が印加されたときに、その外部磁界の大きさによって検出コイルから出力される電気信号(検出コイルの両端部間の電圧)が変化する。このため、電気信号の変化を検出することによって外部磁界の強度を特定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2617498号公報(第2−3頁、第1−14図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記の磁気検出センサには、以下の課題がある。すなわち、この磁気検出センサでは、アモルファス磁性線にパルス電流を供給して内部磁界を発生させている。この場合、アモルファス磁性線は比較的抵抗値が大きいため、発熱を抑えるためには供給する交流電流の電流値を比較的小さな値に抑える必要がある。一方、上記の磁気検出センサを用いて金属探知や金属(導電体)表面の探傷検査を行う際には、交流電流の供給によってアモルファス磁性線から比較的強い磁界を発生させて、探知対象体や検査対象体を励磁させる必要がある。しかしながら、上記の磁気検出センサでは、交流電流の電流値が比較的小さな値に抑えられているため、強い磁界の発生が困難となる結果、金属探知や金属表面の探傷検査への使用が制約されるという課題が存在する。
【0005】
一方、筒状の磁性体と、磁性体に挿入された磁性体とは別体の導電体と、磁性体の周囲に巻回された検出巻線(検出コイル)と、導電体に交流電流を供給する電源とを備えて、導電体に対する交流電流の供給によって内部磁界を発生させる磁気検出センサ(例えば、上記公報の図14に開示されている磁気検出センサ)が知られている。この磁気検出センサでは、導電体に対して交流電流を供給するため、交流電流の電流値を大きく規定することができる結果、金属探知や金属表面の探傷検査への使用が可能となる。しかしながら、この構成では、筒状の磁性体を用いるため、磁性体の小形化が困難な分、磁気検出センサ全体の小形化が困難となるという課題が存在する。また、この種の磁気検出センサでは、磁性体が大きければ大きいほど、磁性体が磁気飽和するのに強い磁界が必要となるため、磁気検出感度が低くなる。したがって、筒状の磁性体を用いるこの構成では、磁性体の小形化が困難な分、感度の向上が困難となるという課題も存在する。この場合、筒状の磁性体に導電体を挿入する構成に代えて、導体に磁性体を蒸着させることによって小形化を図る構成も考えられる。しかしながら、この構成では、蒸着に要するコストに起因して、磁気検出センサの製造コストが高騰するという課題が生じる。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、小形化、感度の向上および低コスト化を実現しつつ幅広い用途で使用可能な磁気検出センサを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成すべく請求項1記載の磁気検出センサは、フラックスゲート型の磁気検出素子と、励磁用電流を出力する励磁用電流出力部と、前記磁気検出素子に対して前記励磁用電流が供給されている状態において当該磁気検出素子から出力される電気信号を検出する検出部とを備えた磁気検出センサであって、前記磁気検出素子は、導電体で形成されて前記励磁用電流の供給によって励磁用磁界を発生する帯状または線状の励磁用電極と、当該励磁用電極とは別体に形成されると共に当該励磁用電極の近傍に配置されて前記励磁用磁界によって励磁される帯状または線状の軟磁性体と、前記励磁用電極および前記軟磁性体の近傍に配置されて前記励磁用磁界の強度および当該磁気検出素子に印加される外部磁界の強度に応じた前記電気信号を出力する検出コイルとを備えている。
【0008】
また、請求項2記載の磁気検出センサは、請求項1記載の磁気検出センサにおいて、前記励磁用電極、前記軟磁性体および前記検出コイルは、各々の中心軸が互いに平行またはほぼ平行となるように配置されている。
【0009】
また、請求項3記載の磁気検出センサは、請求項2記載の磁気検出センサにおいて、前記検出コイルは、前記励磁用電極および前記軟磁性体を取り囲むようにして巻回されている。
【0010】
また、請求項4記載の磁気検出センサは、請求項3記載の磁気検出センサにおいて、前記励磁用電極は、その中心軸と前記検出コイルの中心軸とが同軸となるように配置され、前記軟磁性体は、その中心軸が前記検出コイルの前記中心軸に対して偏心するように配置されている。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載の磁気検出センサによれば、導電体で形成されて励磁用電流の供給によって励磁用磁界を発生する帯状または線状の励磁用電極と、励磁用電極とは別体に形成されると共に励磁用電極の近傍に配置された帯状または線状の軟磁性体と、励磁用電極および軟磁性体の近傍に配置された検出コイルとを備えて磁気検出素子を構成したことにより、軟磁性体としてのアモルファス磁性線に励磁用電流を供給する従来の構成とは異なり、軟磁性体とは別体であって導電体によって形成された励磁用電極に励磁用電流を供給するため、励磁用電流の電流値を十分に大きく規定することができる。このため、この磁気検出センサによれば、十分に大きい励磁用磁界を発生させることができる結果、金属(導電体)の有無や金属(導電体)表面における傷の有無に起因する励磁用磁界の変化量や変化率に明確な差異を生じさせることができる。したがって、この磁気検出センサによれば、金属探知や金属表面の探傷検査などの幅広い用途で使用することができる。また、励磁用電極および軟磁性体が帯状または線状にそれぞれ形成されているため、励磁用電極および軟磁性体を小形化することができる結果、磁気検出素子を十分に小形化することができる。また、この種の磁気検出素子では、軟磁性体が小さければ小さいほど、低強度の磁界で磁性体が磁気飽和するため、外部磁界の強度の変化が小さいときにおいても、検出コイルから大きな値の電圧信号が出力される、つまり外部磁界の強度の変化を敏感に検出できる。このため、この磁気検出センサによれば、軟磁性体を小形化することができる分、外部磁界の強度の変化を検出する能力、つまり検出感度を十部に向上することができる。また、この磁気検出センサによれば、磁気検出素子の励磁用電極および軟磁性体が線状にそれぞれ形成されているため、例えば筒状の軟磁性体を用いる構成と比較して、形状が単純な分、励磁用電極および軟磁性体を安価に構成することができる、また、例えば、励磁用電極に磁性体を蒸着させた部材を用いる構成と比較して、磁気検出素子の製造工程を単純化することができる。したがって、この磁気検出センサによれば、製造コストを十分に低減することができる。
【0012】
また、請求項2記載の磁気検出センサによれば、各々の中心軸が互いに平行またはほぼ平行となるように、励磁用電極、軟磁性体および検出コイルを配置したことにより、励磁用電極に対する励磁用電流の供給によって発生する磁界を軟磁性体および検出コイルに対して確実かつ効率的に印加することができるため、軟磁性体を確実かつ効率的に励磁させることができると共に、検出コイルに対して磁界の変化を確実かつ効率的に検出させることができる。したがって、この磁気検出センサによれば、検出精度をさらに高めることができる。
【0013】
また、請求項3記載の磁気検出センサによれば、励磁用電極および軟磁性体を取り囲むように検出コイルを巻回したことにより、励磁用電極、軟磁性体および検出コイルを十分に近接させることができるため、励磁用電極から発生する励磁用磁界を軟磁性体および検出コイルに対して確実かつ効率的に印加することができる。
【0014】
また、請求項4記載の磁気検出センサでは、励磁用電極の中心軸と検出コイルの中心軸とが同軸となるように励磁用電極が配置され、軟磁性体の中心軸が検出コイルの中心軸に対して偏心するように軟磁性体が配置されている。このため、この磁気検出センサでは、対象体に磁気検出素子を近接させる際の軟磁性体の位置よって検出感度が異なり、その結果磁気検出素子に指向性を生じさせることができる。したがって、この磁気検出センサによれば、金属探知や探傷検査において、その指向性を利用して金属や傷の位置の特定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】探傷装置100の構成を示す構成図である。
【図2】磁気検出素子11の構成を示す斜視図である。
【図3】磁気検出素子11の構成を示す断面図である。
【図4】磁気検出センサ1についての実験結果を説明する説明図である。
【図5】磁気検出素子211の構成を示す断面図である。
【図6】磁気検出素子311の構成を示す断面図である。
【図7】磁気検出素子411の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る磁気検出センサの実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0017】
最初に、探傷装置100の構成について説明する。図1に示す探傷装置100は、金属(導電体)表面の傷の有無を検査する(探傷を行う)装置であって、磁気検出センサ(磁気検出装置)1、処理部2および表示部3を備えて構成されている。磁気検出センサ1は、磁気検出素子11、交流電流出力部(励磁用電流出力部)12および検出部13を備えて構成されている。磁気検出素子11は、フラックスゲート型の磁気検出素子であって、図2に示すように、励磁用電極21、ボビン22、軟磁性体23および検出コイル24を備えて構成されている。
【0018】
励磁用電極21は、導電体(例えば、銅)によって、図2に示すように、直線的な線状(円柱状:帯状または線状の一例)に形成されて、後述する高周波電流Ihの供給によって励磁用の磁界Heを発生する(図1参照)。また、励磁用電極21は、一例として、直径が0.2mm〜1mm程度で、長さが5mm〜15mm程度に形成されている。また、励磁用電極21は、図2,3に示すように、その中心軸21aと検出コイル24の中心軸24aとが同軸となるように配置されている。
【0019】
ボビン22は、絶縁性を有する非磁性材料(例えば、樹脂)によって、図2に示すように、例えば円柱状に形成されている。また、ボビン22の中心部には、励磁用電極21を挿通させる挿通孔22aが長手方向に沿って形成されている。また、ボビン22は、その長さが励磁用電極21の長さよりもやや短く規定されて、励磁用電極21を挿通孔22aに挿通させた状態(励磁用電極21がボビン22の中心部に配置された状態)において、励磁用電極21の両端部がボビン22の両端部から突出するように構成されている。
【0020】
軟磁性体23は、軟磁性材料(例えば、ケイ素鋼、パーマロイ、センダスト、パーメンジュール、ソフトフェライト、アモルファス磁性合金など)によって、図2,3に示すように、励磁用電極21とは別体に形成されると共に励磁用電極21の近傍に配置されて、磁界Heによって励磁される。また、軟磁性体23は、直径が励磁用電極21よりも小径(例えば、10μm〜150μm程度)で、長さがボビン22の長さと同程度の直線的な線状(円柱状)に形成されている。この場合、軟磁性体23は、ボビン22の長手方向に沿ってボビン22の外周面に接触して、その中心軸23aが検出コイル24の中心軸24aに対して偏心するように配置されている。
【0021】
検出コイル24は、図2,3に示すように、軟磁性体23の外側を通るようにしてボビン22の周囲に被覆導線51を巻回することによって形成されている。つまり、この磁気検出素子11では、検出コイル24が励磁用電極21および軟磁性体23を取り囲むようにして巻回されている。また、検出コイル24は、磁界Heの強度、および励磁用の磁界Heとは別個に外部から磁気検出素子11に印加される磁界Ho(図1参照)の強度に応じた電圧信号Sv(電気信号)を出力する。
【0022】
交流電流出力部12は、励磁用電流の一例としての交流電流(正弦波電流)Ih(例えば、1MHz〜100MHzの高周波電流)を出力可能に構成されて、図1に示すように、磁気検出素子11の励磁用電極21に対して交流電流Ihを供給する。検出部13は、同図に示すように、検波回路31と増幅回路32とを備えて構成され、磁気検出素子11の励磁用電極21に対して交流電流Ihが供給されている状態において、磁気検出素子11の検出コイル24から出力される電圧信号Svを検出する。また、検出部13では、検波回路31が電圧信号Svを検波し、増幅回路32が検波された検波信号Sdを所定の利得で増幅して増幅電圧Vaを生成すると共にその増幅電圧Vaを出力する。
【0023】
処理部2は、磁気検出センサ1から出力される増幅電圧Vaに基づいて磁界を特定すると共に、特定した磁界の変化に基づいて検査対象の金属表面における傷の有無を検査する検査処理を実行する。表示部3は、例えば液晶ディプレイで構成されて処理部2によって実行される検査処理の結果などを表示する。
【0024】
次に、磁気検出センサ1における磁気検出素子11の製造方法について説明する。まず、軟磁性体23をボビン22の外周面に接触させつつボビン22の長手方向に沿って配置して、ボビン22に仮止めする。次いで、軟磁性体23の外側を通るようにしてボビン22の周囲に被覆導線51を巻回する。これにより、検出コイル24が形成される。この場合、図3に示すように、軟磁性体23は、その中心軸23aが検出コイル24の中心軸24aに対して偏心するように配置されている。続いて、励磁用電極21をボビン22の挿通孔22aに挿通することにより、励磁用電極21の中心軸21aと検出コイル24の中心軸24aとが同軸となるように励磁用電極21を配置する。以上により、磁気検出素子11が完成する。この場合、この磁気検出素子11では、励磁用電極21、軟磁性体23および検出コイル24を上記のように配置することにより、図2,3に示すように、励磁用電極21、軟磁性体23および検出コイル24における各々中心軸21a,23a,24aが互いに平行(またはほぼ平行)な状態で互いに近接している(つまり、互いに近傍に配置されている)。
【0025】
ここで、この磁気検出素子11に用いられる励磁用電極21および軟磁性体23は、上記したように、直線的な線状(つまり、極めて単純な形状)にそれぞれ形成されている。このため、この磁気検出素子11では、励磁用電極21および軟磁性体23を安価に構成することができ、また、磁気検出素子11の製造工程も、上記したように極めて簡易な工程となっている。したがって、この磁気検出素子11では、筒状の軟磁性体23を用いる構成や、励磁用電極21に磁性体を蒸着させた部材を用いる構成と比較と比較して、製造コストを十分に低くに抑えることが可能となっている。また、励磁用電極21および軟磁性体23が単純な線状に形成されているため、励磁用電極21および軟磁性体23を小形化することが可能な結果、磁気検出素子11を全体として小形化することが可能となっている。
【0026】
次に、磁気検出センサ1の使用形態の一例として、磁気検出センサ1を備えた探傷装置100を用いて金属表面における傷の有無を検査する際の磁気検出センサ1の動作(磁気の検出原理)について、図面を参照して説明する。
【0027】
この探傷装置100を用いて金属表面における傷の有無を検査する際には、検査対象の金属表面に磁気検出センサ1の磁気検出素子11を近接させる。この場合、金属表面に軟磁性体23が対向するように(軟磁性体23を下向きにした状態で)、金属表面に磁気検出素子11を近接させる。次いで、交流電流出力部12から交流電流Ihを出力させて、磁気検出素子11の励磁用電極21に供給する。この際に、交流電流Ihの供給によって励磁用電極21の周囲に高周波の励磁用の磁界Heが発生する。また、この高周波の磁界Heによって軟磁性体23が励磁され、軟磁性体23の励磁に伴って検出コイル24に誘導起電力が生じ、これによって検出コイル24から電圧信号Svが出力される。次いで、検出部13が検出コイル24から出力された電圧信号Svを検出する。この際に、検出部13の検波回路31が電圧信号Svを検波して検波信号Sdを生成し、増幅回路32が検波信号Sdを所定の利得で増幅して増幅電圧Vaを出力する。
【0028】
次いで、処理部2が、検査処理を実行する。この検査処理では、処理部2は、磁気検出センサ1(検出部13)から出力された増幅電圧Vaに基づいて磁界Heの変化を特定する。一方、励磁用電極21の周囲に発生した高周波の磁界Heによって検査対象の金属表面に渦電流が発生し、この渦電流によって発生する磁界Hoによって磁界Heが変化する。この場合、金属表面に傷が存在しているときと、傷が存在していないときとでは、渦電流の向きや大きさが異なるため、金属表面における傷の有無によって磁界Heの変化量や変化率に差異が生じることとなる。したがって、処理部2は、特定した磁界Heの変化量や変化率に基づいて検査対象の金属表面における傷の有無を検査する。続いて、処理部2は、表示部3に表示データDdを出力することにより、検査処理の結果を表示部3に表示させる。
【0029】
この場合、この磁気検出センサ1では、軟磁性体としてのアモルファス磁性線に交流電流を供給する従来の構成とは異なり、軟磁性体23とは別体であって導電体によって形成された励磁用電極21に交流電流Ihを供給するため、交流電流Ihの電流値を十分に大きく規定することが可能となっている。このため、この磁気検出センサ1では、十分に大きい磁界Heを発生させることができる結果、検査対象の金属表面における傷の有無に起因する磁界Heの変化量や変化率に明確な差異を生じさせることが可能となっている。また、この種のフラックスゲート型の磁気検出素子では、軟磁性体が小さければ小さいほど、低強度の磁界で磁性体が磁気飽和するため、その分検出感度が高くなる。このため、軟磁性体23が単純な線状に形成されて小形化された磁気検出素子11では、検出感度が十部に向上されている。したがって、この磁気検出素子11を有する磁気検出センサ1を備えた探傷装置100では、磁気検出センサ1から出力される増幅電圧Vaに基づき、検査対象の金属表面における傷の有無を正確に検出することが可能となっている。
【0030】
なお、発明者は、磁気検出センサ1と従来の磁気検出センサとを比較するため、次のような実験を行った。この実験に用いた磁気検出センサ1の磁気検出素子11では、導電体としての銅によって直径が0.5mmで長さが5mmの直線的な線状に励磁用電極21を形成すると共に、軟磁性材料としてのFeCoSiB系アモルファスによって直径が30μmで長さが4.5mmの直線的な線状に軟磁性体23を形成した。この実験では、実施例として、上記の磁気検出センサ1の磁気検出素子11における励磁用電極21に対して20MHzの交流電流Ihを100mAの電流値に規定して供給している状態において、軟磁性体23を下向きにした状態で磁気検出素子11を金属板(導電体)に対して5mmまで近接させ、そのときに検出部13から出力された増幅電圧Va1を測定した。また、交流電流Ihを励磁用電極21に供給している状態の磁気検出センサ1を樹脂板(非導電体)に対して5mmまで近接させ、そのときに検出部13によって検出された増幅電圧Va2を測定した。
【0031】
また、比較例として、上記した実験用の磁気検出センサ1の磁気検出素子11における軟磁性体23に対して20MHzの交流電流Ihを供給し、その状態の検出電極を上記と同じ条件で金属板および樹脂板に近接させ、そのときに検出部13によってそれぞれ検出された増幅電圧Va1,Va2を測定した。この場合、比較例における軟磁性体23の加熱を防止するため、交流電流Ihの電流値を10mAに規定した。この結果、図4に示すように、比較例では、増幅電圧Va1と増幅電圧Va2との間の差が僅かであった。これは、軟磁性体23の加熱防止のために交流電流Ihが小さな値に制限され、これによって軟磁性体23から発生する磁界Heも小さく、この結果、金属板において発生する渦電流に伴う磁界Heの変化が小さいことに起因しているものと考えられる。これに対して、磁気検出センサ1(実施例)では、増幅電圧Va1と増幅電圧Va2とが大きく異なった。これは、導電体によって軟磁性体23とは別体に形成された励磁用電極21に十分に大きな値の交流電流Ihを供給することで、十分に大きい磁界Heが発生し、この結果、金属板において発生する渦電流に伴う磁界Heの変化が大きいことに起因しているものと考えられる。このことから、磁気検出センサ1を用いることで、金属探知を十分に高い精度で検査できることが明らかである。また、上記した現象から、磁気検出センサ1では、金属表面における傷の有無によって検出部13によって検出される電圧信号Svが大きく異なることが理解される。このため、磁気検出センサ1を用いることで、金属表面の探傷を十分に高い精度で検査できることが明らかである。
【0032】
このように、この磁気検出センサ1によれば、導電体で形成されて交流電流Ihの供給によって磁界Heを発生する線状の励磁用電極21と、励磁用電極21とは別体に形成されると共に励磁用電極21の近傍に配置された線状の軟磁性体23と、励磁用電極21および軟磁性体23の近傍に配置された検出コイル24とを備えて磁気検出素子11を構成したことにより、軟磁性体としてのアモルファス磁性線に交流電流Ihを供給する従来の構成とは異なり、軟磁性体23とは別体であって導電体によって形成された励磁用電極21に交流電流Ihを供給するため、交流電流Ihの電流値を十分に大きく規定することができる。このため、この磁気検出センサ1によれば、十分に大きい磁界Heを発生させることができる結果、金属(導電体)の有無や金属(導電体)表面における傷の有無に起因する磁界Heの変化量や変化率に明確な差異を生じさせることができる。したがって、この磁気検出センサ1によれば、金属探知や金属表面の探傷検査などの幅広い用途で使用することができる。
【0033】
また、この磁気検出センサ1によれば、磁気検出素子11の励磁用電極21および軟磁性体23が線状にそれぞれ形成されているため、励磁用電極21および軟磁性体23を小形化することができる結果、磁気検出素子11を十分に小形化することができる。また、この種の磁気検出素子では、軟磁性体が小さければ小さいほど、低強度の磁界で磁性体が磁気飽和するため、外部磁界の強度の変化が小さいときにおいても、検出コイルから大きな値の電圧信号が出力される、つまり外部磁界の強度の変化を敏感に検出できる。このため、この磁気検出センサ1によれば、軟磁性体23を小形化することができる分、外部磁界の強度の変化を検出する能力、つまり検出感度を十部に向上することができる。また、この磁気検出センサ1によれば、磁気検出素子11の励磁用電極21および軟磁性体23が線状にそれぞれ形成されているため、例えば筒状の軟磁性体を用いる構成と比較して、形状が単純な分、励磁用電極21および軟磁性体23を安価に構成することができる、また、例えば、励磁用電極に磁性体を蒸着させた部材を用いる構成と比較して、磁気検出素子11の製造工程を単純化することができる。したがって、この磁気検出センサ1によれば、製造コストを十分に低減することができる。
【0034】
また、この磁気検出センサ1によれば、各々の中心軸21a,23a,24aが互いに平行またはほぼ平行となるように、励磁用電極21、軟磁性体23および検出コイル24を配置したことにより、励磁用電極21に対する交流電流Ihの供給によって発生する磁界Heを軟磁性体23および検出コイル24に対して確実かつ効率的に印加することができるため、軟磁性体23を確実かつ効率的に励磁させることができると共に、検出コイル24に対して磁界Heの変化を確実かつ効率的に検出させることができる。したがって、この磁気検出センサ1によれば、検出精度をさらに高めることができる。
【0035】
また、この磁気検出センサ1によれば、励磁用電極21および軟磁性体23を取り囲むように検出コイル24を巻回したことにより、励磁用電極21、軟磁性体23および検出コイル24を十分に近接させることができるため、励磁用電極21から発生する磁界Heを軟磁性体23および検出コイル24に対して確実かつ効率的に印加することができる。
【0036】
また、この磁気検出センサ1では、励磁用電極21の中心軸21aと検出コイル24の中心軸24aとが同軸となるように励磁用電極21が配置され、軟磁性体23の中心軸23aが検出コイル24の中心軸24aに対して偏心するように軟磁性体23が配置されている。このため、この磁気検出センサ1では、対象体に磁気検出素子11を近接させる際の軟磁性体23の位置よって検出感度が異なり、その結果磁気検出素子11に指向性を生じさせることができる。したがって、この磁気検出センサ1によれば、金属探知や探傷検査において、その指向性を利用して金属や傷の位置の特定を行うことができる。
【0037】
なお、探傷装置100における探傷用のセンサとして磁気検出センサ1を使用する例について上記したが、金属を探知する金属探知装置においても、磁気検出センサ1を金属探知用のセンサとして好適に使用することができる。また、励磁用電極21および軟磁性体23を直線的な線状にそれぞれ形成した例について上記したが、これらの一方または双方を帯状(板状)に形成する構成を採用することもできる。
【0038】
また、励磁用電極21、軟磁性体23および検出コイル24の配置の形態は上記の形態に限定されない。例えば、図5に示すように、ボビン22の外周面に溝を形成して、軟磁性体23をその溝に嵌め込んだ磁気検出素子211や、図6に示すように、軟磁性体23を挿通させる挿通孔22bをボビン22に形成して、その挿通孔22bに軟磁性体23を挿通させた磁気検出素子311を採用することもできる。また、図7に示すように、検出コイル24の外側に励磁用電極21および軟磁性体23を配置した磁気検出素子411を採用することもできる。この場合、励磁用電極21、軟磁性体23および検出コイル24は、必ずしも互いに平行である必要はなく、例えば、平面視状態で互いに交差するように配置することもできる。
【0039】
また、励磁用電流の一例として、正弦波の交流電流Ihを用いる例について上記したが、正弦波に限定されず、矩形波、三角波、鋸歯状波などの各種の交流電流を用いることができる。また、交流電流に代えて、パルス電流を励磁用電流として用いることもできる。
【符号の説明】
【0040】
1 磁気検出センサ
11,211,311,411 磁気検出素子
12 交流電流出力部
13 検出部
21 励磁用電極
21a,23a,24a 中心軸
23 軟磁性体
24 検出コイル
He,Ho 磁界
Ih 交流電流
Sv 電圧信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラックスゲート型の磁気検出素子と、励磁用電流を出力する励磁用電流出力部と、前記磁気検出素子に対して前記励磁用電流が供給されている状態において当該磁気検出素子から出力される電気信号を検出する検出部とを備えた磁気検出センサであって、
前記磁気検出素子は、導電体で形成されて前記励磁用電流の供給によって励磁用磁界を発生する帯状または線状の励磁用電極と、当該励磁用電極とは別体に形成されると共に当該励磁用電極の近傍に配置されて前記励磁用磁界によって励磁される帯状または線状の軟磁性体と、前記励磁用電極および前記軟磁性体の近傍に配置されて前記励磁用磁界の強度および当該磁気検出素子に印加される外部磁界の強度に応じた前記電気信号を出力する検出コイルとを備えている磁気検出センサ。
【請求項2】
前記励磁用電極、前記軟磁性体および前記検出コイルは、各々の中心軸が互いに平行またはほぼ平行となるように配置されている請求項1記載の磁気検出センサ。
【請求項3】
前記検出コイルは、前記励磁用電極および前記軟磁性体を取り囲むようにして巻回されている請求項2記載の磁気検出センサ。
【請求項4】
前記励磁用電極は、その中心軸と前記検出コイルの中心軸とが同軸となるように配置され、
前記軟磁性体は、その中心軸が前記検出コイルの前記中心軸に対して偏心するように配置されている請求項3記載の磁気検出センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−53160(P2011−53160A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−204202(P2009−204202)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【出願人】(000227180)日置電機株式会社 (982)
【Fターム(参考)】