説明

磁気粘性流体緩衝器

【課題】磁気粘性流体の使用量を低減する磁気粘性流体緩衝器を提供すること。
【解決手段】本発明は、第1の軸部材10に対して軸方向に自由に支持される第2の軸部材20と、第2の軸部材の軸方向変位を回転変位に変換する変換手段30と、変換手段に接続し、回転変位により回転するロータ41と、内部にロータを回転可能に配置するとともに磁気粘性流体1を密封した隔室49と、ロータの外周側に配置され、磁気粘性流体1に対して磁界を作用させるコイル42と、を備え、ロータは、外周面に環状の溝部を設けた磁気粘性流体緩衝器である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁界の作用によって粘性が変化する磁気粘性流体を利用した磁気粘性流体緩衝器の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両に搭載される緩衝器として、磁界の作用によって粘度が変化する磁気粘性流体を用い、ピストン部に減衰力調整弁の代りに、コイルを配置し、そのコイルに電流を印加し、制御部を流れる磁気粘性流体の粘性を変化させることにより、減衰力を調整するようにした減衰力調整式緩衝器が種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1の緩衝器では、コイルへの制御電流を小さくすると、磁気粘性流体の通路に作用する磁界が弱くなり、磁気粘性流体の粘度が低くなって減衰力が小さくなり、制御電流を大きくすると、通路に作用する磁界が強くなり、磁気粘性流体の粘度が高くなって、減衰力が大きくなる。
【特許文献1】米国特許第6260675号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の緩衝器では、緩衝器のシリンダ内に磁気粘性流体を充填するため、高価な磁気粘性流体を大量に必要とするとともに、緩衝器の重量が重くなるという課題がある。
【0005】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、減衰力特性を維持したまま、磁気粘性流体の量を低減して重量の軽量化及び低コスト化を図る磁気粘性流体緩衝器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、第1の軸部材と、前記第1の軸部材に対して軸方向に自由に支持される第2の軸部材と、前記第2の軸部材の軸方向変位を回転変位に変換する変換手段と、前記変換手段に接続し、前記回転変位により回転するロータと、内部に前記ロータを回転可能に配置するとともに磁気粘性流体を密封した隔室と、前記ロータの外周側に配置され、前記磁気粘性流体に対して磁界を作用させるコイルと、を備え、前記ロータは、外周面に環状の溝部を設け、前記コイルに印加する電流に応じて、前記ロータの回転抵抗となる磁気粘性流体の粘性を変化させて減衰力を変化させることを特徴とする磁気粘性流体緩衝器である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、第1の軸部材と第2の軸部材との間の相対変位に伴って回転するロータの回りに磁気粘性流体を密封する隔室を備えることで、磁気粘性流体の量を著しく減少させることができる。これにより、緩衝器の重量の軽量化と低コスト化を図ることができる。また、ロータ外周面に溝部を設けたので、ロータと磁気粘性流体との接触面積が増大し、抵抗が大きくなり、結果として減衰力を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1を参照して本発明の実施の形態である磁気粘性流体緩衝器100について説明する。
【0009】
本発明の磁気粘性流体緩衝器100は、車軸を懸架する懸架装置に接続する外筒(第1の軸部材)10と、車体に接続するロッド部材22を備えたロッド(第2の軸部材)20と、外筒10とロッド20との間での上下(軸)方向の直線変位をロッド20の中心線回りの回転変位に変換する変換手段30と、磁界の作用により磁気粘性流体1の粘性特性が変化して減衰力を生じる減衰力発生部40とを備える。
【0010】
外筒10は、円筒状の円筒部材11と、その底部開口端を閉止する蓋材19と、円筒部材11の中心線に直交するように中心線が配置されて蓋材19に固定される環状のブラケット12と、このブラケット12に圧入されるゴムブッシュ13と、第1円筒部材11の開口端部近傍に設置され、ロッド20を軸方向に摺動可能に支持する軸受14とから構成される。
【0011】
ロッド20は、下側に開口端を配置した蓋付き円筒状の第2円筒部材21と、第2円筒部材21の蓋部に固定され、車体に接続される棒状のロッド部材22とを第1円筒部材11の中心線上に配置して構成される。
【0012】
変換手段30は、いわゆるボールネジ機構30aからなり、ボールネジナット31がロッド20の第2円筒部材21の開口端部近傍の内周面に嵌合、固定される。また、ボールネジナット31と螺合するボールネジ軸32は、軸方向に配置されて一端が第2円筒部材21内に伸出する。ボールネジ軸32の先端部には不図示の雄ねじが形成され、この雄ねじ部にボールネジナット31の伸び側の移動量を規制するためのストッパナット33が螺合する。このストッパナット33は、ストッパナット33とボールネジナット31とが接触する時の衝撃を軽減するための緩衝材34を備える。緩衝材34は、例えばウレタン材やゴム材から構成される。一方、ボールネジ軸32の他端は、第1円筒部材11の底面16(図2参照)に配置された軸受15により中心線回りに回転自在に支持される。
【0013】
このような構成により、車体に対して車軸が上下方向に相対変位するのに伴い、外筒10がロッド20に対して軸方向変位すると、ボールネジ機構30aの作用により軸方向変位が中心線回りの回転変位に変換され、ボールネジナット31に螺合するボールネジ軸32が中心線回りに回転する。
【0014】
図2は、減衰力発生部40の詳細構成を示す図である。第1円筒部材11内には、底面16から軸方向に所定距離離れて区画部材43が設置され、区画部材43により第1円筒部材11内に隔室49を区画して形成し、この隔室49の内部に磁気粘性流体1を充満させる。またこの隔室49内に、ボールネジ軸32と一体に回転するロータ41を配置して磁気粘性流体1の粘性がロータ41の回転の抵抗力となり、この抵抗力が緩衝器の減衰力となる。更に、この減衰力を運転状態によって変化させるために、磁気粘性流体1に磁界を作用させ、その粘性を変えられるようにしている。このため、ロータ41の外周部に所定の間隙をもって配置され、配線48を通じて外部電源から電流が印加される環状のコイル42を備える。
【0015】
また、磁気粘性流体1が外部へ漏洩するのを防止するため、区画部材43と蓋材19の内周面との間から磁気粘性流体1が漏洩するのを防止するOリング46と、ボールネジ軸32の外周面とロータ41との間に、この間隙から磁気粘性流体1が漏洩することを防止するOリング47と、区画部材43に設けられて前記ロータ41との間での磁気粘性流体1の漏洩を防止するシール45を設ける。
【0016】
ロータ41は、ボールネジ軸32の端部外周面に、その内周面が嵌合する円筒状の本体部51と、この本体部51から外径方向へ延出する円板状の複数の鍔部52とからなり、この鍔部52の外周側に所定距離をもって取り囲むようにコイル42が配置される。
【0017】
ここで、ロータ41と区画部材43と及び蓋材19は、コイル42への電流印加時の回転抵抗をより大きくするために磁性材料で構成されることが望ましい。
【0018】
鍔部52は、軸方向に所定間隔を持って配置されており、隣接する鍔部52間に環状の溝部53が複数形成され、鍔部52と溝部53のロータ41の外周面の断面形状が櫛型となるように構成される。なお、ロータ41は、製造方法を容易にするため、外径の異なる2種類の薄肉円板を軸方向に交互に積層して形成するようにしてもよい。
【0019】
コイル42は、第1円筒部材11の内周側底面16に接して配置され、このコイル42上面に区画部材43が軸方向から挿入されて磁気粘性流体1が充満される隔室49が区画される。そしてこの隔室49内にロータ41が回転可能に配置される。
【0020】
このように構成された減衰力発生部40では、ボールネジ軸32とともに回転するロータ41の鍔部52の周囲に磁気粘性流体1を満たす隔室49が第1円筒部材11内に区画されて、減衰力を生じる磁気粘性流体1の必要量を著しく低減し、重量の低減及び低コスト化を図ることができる。また、ロータ41の外周面に溝部53を設けたので、ロータ41と磁気粘性流体1との接触面積が増大し、抵抗が大きくなり、結果として減衰力を高めることができる。
【0021】
さらに緩衝器100が長期間に渡って放置されたような場合に、磁気粘性流体1の量が多い場合には、分散している磁気粘性流体1内の鉄粉等の強磁性粒子が沈殿するため、十分撹拌されるまでの間、所期の減衰特性を発揮できないが、本発明のように使用する磁気粘性流体1の量が少ない場合には、撹拌時間が短縮され、早期に所期の減衰特性を得ることができる。
【0022】
そしてコイル42に電流が印加されると、図3に示すように磁界が軸方向に、言い換えると鍔部52間の磁気粘性流体1に対して直角方向に発生する。図3に電流供給時の磁場の状態を示す。発生した磁界により磁気粘性流体1の粘性が変化し、電流値が大きいほど磁力が強まり磁気粘性流体1の粘性が高まる。緩衝器100の伸縮に伴って、すなわち第1円筒部材11に対してロッド20が伸縮動作すると、ロータ41が磁気粘性流体1内を回転し、このとき磁気粘性流体1の粘性がロータ41の回転を抑制する抵抗力として作用することになり、この抵抗力が本発明の緩衝器100の伸縮動作に対する減衰力となる。ここで、磁気粘性流体1は、コイル42に印加される電流に応じて瞬時に粘性が変化し、電流が大きいほど粘性が高まり、高減衰力を生じ、したがって、電流値を制御することで、発生する減衰力を可変制御することができる。
【0023】
本発明は上記の実施の形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、車両に搭載する磁気粘性流体緩衝器に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明を適用する磁気粘性流体緩衝器100を示す断面図である。
【図2】減衰力発生部の詳細断面図である。
【図3】減衰力発生部の磁界の状態を説明する図である。
【符号の説明】
【0026】
1 磁気粘性流体
10 外筒
11 第1円筒部材
20 ロッド
21 第2円筒部材
22 ロッド部材
30 変換手段
31 ボールネジナット
32 ボールネジ軸
34 緩衝材
40 減衰力発生部
41 ロータ
42 コイル
43 区画部材
45 シール
49 隔室
51 本体部
52 鍔部
53 溝部
100 磁気粘性流体緩衝器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の軸部材と、
前記第1の軸部材に対して軸方向に自由に支持される第2の軸部材と、
前記第2の軸部材の軸方向変位を回転変位に変換する変換手段と、
前記変換手段に接続し、前記回転変位により回転するロータと、
内部に前記ロータを回転可能に配置するとともに磁気粘性流体を密封した隔室と、
前記ロータの外周側に配置され、前記磁気粘性流体に対して磁界を作用させるコイルと、を備え、
前記ロータは、外周面に環状の溝部を設け、
前記コイルに印加する電流に応じて、前記ロータの回転抵抗となる磁気粘性流体の粘性を変化させて減衰力を変化させることを特徴とする磁気粘性流体緩衝器。
【請求項2】
前記変換手段は、ボールネジ機構からなることを特徴とする請求項1に記載の磁気粘性流体緩衝器。
【請求項3】
前記第2の軸部材は、前記第1の軸部材に摺動自由に支持される筒部を備え、
前記ボールネジ機構は、前記筒部の内周面に嵌合するボールネジナットと、このボールネジナットに螺合して一端が前記筒部内に伸出するとともに、他端が前記第1の軸部材の底面に前記第2の軸部材の中心線回りに回転自在に支持されるボールネジ軸とを備え、
前記ロータは、前記ボールネジ軸に固定されることを特徴とする請求項2に記載の磁気粘性流体緩衝器。
【請求項4】
前記第1の軸部材内の一部を画成部材で軸方向に区画して前記隔室を画成し、
前記ロータは、前記隔室内に設置されることを特徴とする請求項3に記載の磁気粘性流体緩衝器。
【請求項5】
前記ロータは、外径の異なる2種類の円板を軸方向に交互に積層してそれらの間に前記溝部を形成することを特徴とする請求項1に記載の磁気粘性流体緩衝器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−68572(P2009−68572A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−236381(P2007−236381)
【出願日】平成19年9月12日(2007.9.12)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】