説明

磁気記録ディスクの製造方法、および磁気記録ディスク製造装置

【課題】 スループットを低下させることなく、所定の温度まで基板温度を低下させた状態で成膜可能な磁気記録ディスクの製造方法およびその製造装置を提供すること。
【解決手段】 垂直磁気記録方式の磁気記録ディスクの記録層16をスパッタ法により形成するにあたっては、真空チャンバー230内の成膜部100に磁気記録ディスク用基板10とターゲット110とが対向する空間150の周りを囲むように筒状の陰極シールド体160を配置しておき、陰極シールド体160の内側に冷却ガスを供給して磁気記録ディスク用基板10を冷却する強制冷却工程と、100℃以下まで冷却された磁気記録ディスク用基板10にスパッタ成膜を行うスパッタ成膜工程とを行う。強制冷却工程を行う際、磁気記録ディスク用基板10に向かう冷却ガスの流れを磁気記録ディスク用基板10に垂直な方向とする整流部材180を磁気記録ディスク用基板10に対向配置させておく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録ディスクの製造方法および磁気記録ディスク製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気記録ディスクの高密度記録化を実現する技術として、従来の面内磁気記録方式に代えて、垂直磁気記録方式が注目されつつある。垂直磁気記録ディスクでは、上層側から下層側に向けて、少なくとも、ダイヤモンドライクカーボンからなる保護層と、硬質磁性材料からなる記録層と、この記録層への記録に用いられる磁気ヘッドが発生する磁束を集中させる軟磁性材料からなる裏打ち層、および非磁性下地層が形成されている。現在、実用程度の軟磁性層では、磁壁がブロッホ(Bloch)型となっていることから、磁壁内でスピンは膜厚方向に回転しているため、磁壁上下端に、垂直方向の磁壁が現れることとなり、ノイズ発信源となっている。そのノイズ発信源の磁壁形成を防止するために、反強磁性膜を用いて軟磁性裏打ち層との交換結合により障壁の制御を行う従来の方法は、交換結合が十分得られた場合には、軟磁性裏打ち層の磁壁形成を阻止することができ、非常に効果的である。しかしながら、ブロッキング温度が高く、大きな交換結合磁界が得られるPtMnやNiMnなどの規則合金系反強磁性材料では、十分な交換結合磁界を得るためには、成膜後、数分〜数時間の加熱処理を必要とするため、磁性層の形成後、ランプヒータと冷却ガスであるHe、フロン、N2とを用いて、フラッシュアニール法による加熱、および磁場中での冷却を行う必要がある。
【0003】
また、近年、垂直磁気記録ディスクの記録層をCo合金SiO2グラニュラー膜により構成するのが主体になってきており、この場合、記録層を成膜する前も温度調整が必要である。このような記録層形成の温度としては100℃以下であることが求められている。すなわち、100℃以下で成膜を開始しないと、グラニュラー成分であるSiO2が偏析し始めるからである。
【特許文献1】特開2002−367160号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来は、基板に対する冷却方法として、自然冷却、あるいは真空チャンバーの外壁からガス配管を通して冷却ガスを供給する冷却システムが採用されているため、冷却効率が低く、短時間のうちに、目標とされている100℃以下に達することができないという問題点がある。それ故、現状のスループットを維持したまま温度を目標値まで低下させることができる。かといって、冷却チャンバーを別途、設けた場合も、スループットが低下するという問題点がある。また、Co合金SiO2グラニュラー膜を成膜する際には、高い精度で温度制御を行い、均一に相分離させる必要があるが、かかる温度制御が不可能である。さらに、真空チャンバー外壁から冷却ガスを供給すると、パーティクルが発生してしまうという問題点もある。
【0005】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、スループットを低下させることなく、所定の温度まで基板温度を低下させた状態で成膜を行うことのできる磁気記録ディスクの製造方法および磁気記録ディスク製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明では、磁気記録ディスク用基板の表面に少なくとも記録層を含む複数の薄膜が形成された磁気記録ディスクの製造方法において、前記複数の薄膜のうち、少なくとも1つの薄膜をスパッタ法により形成するにあたっては、真空チャンバー内に前記磁気記録ディスク用基板とターゲットとが対向する空間の周りを囲むように筒状の陰極シールド体を配置しておき、前記陰極シールド体の内側に冷却ガスを供給して前記磁気記録ディスク用基板を冷却する強制冷却工程と、該強制冷却工程で冷却された前記磁気記録ディスク用基板にスパッタ法により成膜を行うスパッタ成膜工程とを行うことを特徴とする。
【0007】
また、本発明では、磁気記録ディスク用基板の表面に少なくとも記録層を含む複数の薄膜を連続して積層していく複数の成膜部を備えた磁気記録ディスク製造装置において、前記複数の成膜部のうちの1つには、真空チャンバー内に前記磁気記録ディスク用基板とスパッタ成膜用のターゲットとが対向する空間の周りを囲むように筒状の陰極シールド体が配置されているとともに、当該陰極シールド体の内側に冷却ガスを供給する冷却ガス導入路が構成されていることを特徴とする。
【0008】
本発明では、真空チャンバー内に磁気記録ディスク用基板とターゲットとが対向する空間の周りを囲むように陰極シールド体を配置しておき、この陰極シールド体の内側に冷却ガス導入路から冷却ガスを導入する。このため、真空チャンバー全体を冷却する必要がなく、かつ、冷却ガス導入路から導入された冷却ガスは、磁気記録ディスク用基板に効率よく到達し、磁気記録ディスク用基板を短時間のうちに所定の温度にまで冷却することができる。また、陰極シールド体で磁気記録ディスク用基板とターゲットとが対向する空間を囲った状態でスパッタ成膜工程を行うため、磁気記録ディスク用基板の基板面に対して、強制的に指向性を持たせた状態で成膜でき、膜質の良好な薄膜を形成することができる。さらに、陰極シールド体は前記磁気記録ディスク基板に比して負の電圧が印加されているため、パーティクルの付着がない。それ故、真空チャンバーからの冷却ガスを噴射する場合と違って、パーティクルの発生を防止することができる。
【0009】
本発明において、前記強制冷却工程を行う際、前記磁気記録ディスク用基板に向かう冷却ガスの流れを前記磁気記録ディスク用基板に垂直な方向とする整流部材を前記磁気記録ディスク用基板に対向配置させ、前記スパッタ成膜工程を行う際、前記整流部材を前記磁気記録ディスク用基板に対向する位置から退避させることが好ましい。このような製造方法を実施するには、磁気記録ディスク製造装置において、前記陰極シールド体の内側で前記空間に導入された冷却ガスの流れを前記磁気記録ディスク用基板に垂直な方向とする整流部材と、該整流部材を前記磁気記録ディスク用基板に対向する対向位置と前記磁気記録ディスク用基板に対向しない退避位置との間で駆動する整流部材駆動装置とが構成されていることが好ましい。
【0010】
このように構成すると、強制冷却工程を行う際、磁気記録ディスク用基板に向かう冷却ガスの流れを磁気記録ディスク用基板に垂直な方向とするため、冷却ガスは磁気記録ディスク用基板に効率よく到達する。従って、磁気記録ディスク用基板を短時間のうちに所定温度にまで冷却する。また、スパッタ成膜工程では、整流部材を磁気記録ディスク用基板に対向する位置から退避させるため、成膜時、整流部材が邪魔にならない。それ故、1つの成膜部で強制冷却工程とスパッタ成膜工程とを行うことができる。よって、冷却チャンバーを増設する必要がなく、かつ、その増設に伴う水分等の不純物が磁気記録ディスク表面に付着することを防止できる。
【0011】
本発明の別の形態では、磁気記録ディスク用基板の表面に少なくとも記録層を含む複数の薄膜を積層していく磁気記録ディスクの製造方法において、前記複数の薄膜のうち、少なくとも1つの薄膜をスパッタ法により形成するにあたっては、前記磁気記録ディスク用基板とターゲットとが対向する空間に冷却ガスを供給して前記磁気記録ディスク用基板を冷却する強制冷却工程と、該強制冷却工程で冷却された前記磁気記録ディスク用基板にスパッタ法により成膜を行うスパッタ成膜工程とを行い、前記強制冷却工程を行う際、前記磁気記録ディスク用基板に向かう冷却ガスの流れを前記磁気記録ディスク用基板に垂直な方向とする整流部材を前記磁気記録ディスク用基板に対向配置し、前記スパッタ成膜工程を行う際、前記整流部材を前記磁気記録ディスク用基板に対向する位置から退避させることを特徴とする。
【0012】
また、本発明では、磁気記録ディスク用基板の表面に少なくとも記録層を含む複数の薄膜を連続して積層していく複数の成膜部を備えた磁気記録ディスク製造装置において、前記複数の成膜部のうちの1つには、前記磁気記録ディスク用基板とスパッタ成膜用のターゲットとが対向する空間に導入された冷却ガスの流れを前記磁気記録ディスク用基板に垂直な方向とする整流部材と、該整流部材を前記磁気記録ディスク用基板に対向する対向位置と前記磁気記録ディスク用基板に対向しない退避位置との間で駆動する整流部材駆動装置とが構成されていることを特徴とする。
【0013】
本発明では、強制冷却工程を行う際、磁気記録ディスク用基板に向かう冷却ガスの流れを磁気記録ディスク用基板に垂直な方向とするため、冷却ガスは磁気記録ディスク用基板に効率よく到達する。従って、磁気記録ディスク用基板を短時間のうちに所定温度にまで冷却する。また、スパッタ成膜工程では、整流部材を磁気記録ディスク用基板に対向する位置から退避させるため、成膜時、整流部材が邪魔にならない。それ故、1つの成膜部で強制冷却工程とスパッタ成膜工程とを行うことができる。よって、冷却チャンバーを増設する必要がなく、かつ、その増設に伴う水分等の不純物が磁気記録ディスク表面に付着することを防止できる。
【0014】
本発明では、前記複数の薄膜のうち、前記記録層を形成する際、前記強制冷却工程と前記スパッタ成膜工程とを行い、前記スパッタ成膜工程では、複合ターゲットを用いて磁性粒子の間に非磁性の分離母材が導入されたグラニュラー薄膜を形成することが好ましい。この場合、前記スパッタ成膜工程を開始する際、前記冷却工程により前記磁気記録ディスク用基板を100℃以下まで冷却することが好ましい。垂直磁気記録ディスクの記録層をグラニュラー膜として成膜する際、例えば100℃以下で成膜を開始しないと、グラニュラー成分が偏析してしまうが、本発明によれば、磁気記録ディスク用基板を短時間のうちに冷却することができるので、スループットを低下させることなく、グラニュラー薄膜を形成するのに適した温度まで磁気記録ディスク用基板を冷却することができる。
【0015】
本発明において、前記強制冷却工程と前記成膜工程を交互に複数回行うことが好ましい。本発明によれば、グラニュラー薄膜を形成するのに適した温度まで磁気記録ディスク用基板を短時間のうちに冷却することができるので、成膜を複数回に分けてもスループットが大幅に低下することがない。また、冷却と成膜を複数回に分けてグラニュラー薄膜を形成すると、グレインサイズを小さくすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、真空チャンバー内に磁気記録ディスク用基板とターゲットとが対向する空間の周りを囲むように陰極シールド体を配置しておき、この陰極シールド体の内側に冷却ガス導入路から空間内に冷却ガスを導入する。このため、真空チャンバー全体を冷却する必要がなく、かつ、冷却ガス導入路から導入された冷却ガスは、磁気記録ディスク用基板に効率よく到達し、磁気記録ディスク用基板を短時間のうちに所定の温度にまで冷却することができる。また、陰極シールド体で磁気記録ディスク用基板とターゲットとが対向する空間を囲った状態でスパッタ成膜工程を行うため、磁気記録ディスク用基板の基板面に対して、強制的に指向性を持たせた状態で成膜でき、膜質の良好な薄膜を形成することができる。さらに、陰極シールド体は前記磁気記録ディスク基板に比して負の電圧が印加されているため、パーティクルの付着がない。それ故、真空チャンバーからの冷却ガスを噴射する場合と違って、パーティクルの発生を防止することができる。
【0017】
また、本発明において、強制冷却工程を行う際、磁気記録ディスク用基板に向かう冷却ガスの流れを整流部材によって磁気記録ディスク用基板に垂直な方向とすると、冷却ガスは磁気記録ディスク用基板に効率よく到達する。従って、磁気記録ディスク用基板を短時間のうちに所定温度にまで冷却する。また、スパッタ成膜工程では、整流部材を磁気記録ディスク用基板に対向する位置から退避させるため、成膜時、整流部材が邪魔にならない。それ故、1つの真空チャンバー内で強制冷却工程とスパッタ成膜工程とを行うことができる。よって、冷却チャンバーを増設する必要がなく、かつ、その増設に伴う水分等の不純物が磁気記録ディスク表面に付着することを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、図面を参照して、本発明を適用した実施の形態を説明する。なお、参照する各図において、図面上で認識容易とするために各層や各部材ごとに縮尺や倍率を相違させてある。
【0019】
(磁気記録ディスクおよびその製造方法の概略)
図1(a)および(b)はそれぞれ、磁気記録ディスクを示す平面図、および磁気記録ディスクの概略断面図である。これらの図に示すように、本形態の磁気記録ディスク1は、中心穴111を備えた円形の非磁性基板11の表面に、シード層12、反強磁性層13、軟磁性層14、非磁性層15、記録層16、保護層17および潤滑層18がこの順に積層された構造を有している。
【0020】
非磁性基板11は、アモルファス、結晶化、ディスクリートなどのガラス基板であり、本形態では、アルミノシリケートガラスなどの化学強化ガラスが用いられている。ここで、非磁性基板11の表面は、表面粗さがRaで0.3nm以下、Rmaxで3nm以下となるように鏡面研磨が施されている。
【0021】
このような磁気記録ディスク1の製造工程の概略を説明しながら、各薄膜の構成を以下に説明する。磁気記録ディスク1を製造するには、詳しくは後述するように、まず、非磁性基板11の表面に対してDCマグネトロンスパッタリング法によりCrTi合金層などからなるシード層12を形成する。次に、シード層12の上層にDCマグネトロンスパッタリング法によりPtMn、FeMn、NiMn、NiOなどの反強磁性層13を形成する。次に、反強磁性層13の上層にDCマグネトロンスパッタリング法により軟磁性層14を形成する。ここで、軟磁性層を1層で構成する場合には、CoTnZrなどから形成されるが、CoTnZrなどの軟磁性層をRuなどの非磁性層(スペーサ層)で互いに分離された複数の層により構成し、交換結合膜として構成してもよい。次に、軟磁性層14の上層にDCマグネトロンスパッタリング法により非磁性層15を形成する。非磁性層15は、記録層16の配向を調整する機能を担っている。ここで、非磁性層15については、NiTa、CrNiTaなどからなる下層側の第1の非磁性層と、Ruなどからなる上層側の第2の非磁性層とによって構成してもよい。次に、非磁性層15の上層にDCマグネトロンスパッタリング法により記録層16を形成する。
【0022】
本形態では、ターゲットとして、CoCrPtSiO2などの複合ターゲットを用い、磁性粒子の間に非磁性の分離母材が導入されたグラニュラー薄膜として記録層16を形成し、磁気記録ディスク1を垂直磁気記録型の記録媒体として構成する。
【0023】
次に、記録層16の上層に対してプラズマCVD法などにより保護層17を形成する。保護層17は、例えば、厚さが4nmのアモルファスのダイヤモンドライクカーボンからなり、耐摩耗性を向上させて記録層16を保護する機能を担っている。次に、保護層17の表面に潤滑層18を浸漬法などにより形成する。潤滑層18は、例えば、厚さが1.2nmの薄いパーフルオロポリエーテル層などから構成され、磁気ヘッドとの接触した際の衝撃を緩和するなどの機能を担っている。
【0024】
(磁気記録ディスク製造装置の全体構成)
図2は、本発明に係るインライン型の枚葉式磁気記録ディスク製造装置の一例を模式的に示す説明図である。
【0025】
本形態においては、非磁性基板11の表面にシード層12、反強磁性層13、軟磁性層14、非磁性層15、記録層16および保護層17を形成するにあたって、例えば、図2に示す磁気記録ディスク製造装置200が用いられる。ここで、未成膜の非磁性基板11も含む製造途中品(以下、磁気記録ディスク用基板10という)は、基板ホルダ300によって複数枚保持された状態で磁気記録ディスク製造装置200内を搬送される。磁気記録ディスク製造装置200は、基板ホルダ300に保持された磁気記録ディスク用基板10の搬送方向に向かって上流側から仕込室210と、基板加熱装置400が設置された加熱チャンバー220と、複数の成膜部100を備えたスパッタ成膜用の真空チャンバー230と、プラズマCVD室240と、取出室250と備えており、複数の成膜部100には、所定のターゲット110が配置されている。
【0026】
(強制冷却機構を備えた成膜部の構成)
図3は、本発明に係る磁気記録ディスク製造装置の記録層形成用の成膜部の平面構成を模式的に示す説明図である。図4は、図3に示す成膜部で行われるプロセスシーケンスの一例を示す説明図である。
【0027】
本形態の磁気記録ディスク製造装置200に構成されている複数の成膜部100のうち、記録層16を形成するための成膜部100の構成を図3を参照して詳述する。
【0028】
図3に示すように、記録層16を形成するための成膜室100には、基板ホルダに保持された複数枚の磁気記録ディスク用基板10の両面に対向するように、スパッタ成膜用のターゲット110が複数、ターゲットクランプ115に保持された状態に配置され、その背面には冷却板121が配置されている。本形態では、成膜室100においてDCマグネトロンスパッタリング法により成膜を行うため、冷却板121の背面にはカソードマグネット123が配置され、カソードマグネット123の背面には陰極ヨーク125が配置されている。また、成膜部100には、アルゴンなどのプロセスガスを成膜部100に導入するためのプロセスガス導入口130が真空チャンバー230の壁面で開口している。ここで、真空チャンバー230の壁面には電解処理が施されている。また、真空チャンバー230には、その下部に成膜部100を排気するためのクライオポンプ140(排気ポンプ)が配置されており、真空チャンバー230内を10-4(Pa)の真空度を実現することが可能である。
【0029】
また、真空チャンバー230では、磁気記録ディスク用基板10とターゲット110とが対向する空間150の周りを囲むように筒状の陰極シールド体160が配置されている。ここで、陰極シールド体160は、アルミニウムブラストやアルミナ溶射、SiO2メッキ等で表面処理されたアルミニウム製あるいはSUS製のドーナツ体であり、ターゲットクランプ115に保持されている。
【0030】
また、本形態では、陰極シールド体160の胴部に沿うように、空間150内に、アルゴンガスやヘリウムガスなどの冷却ガスを供給するための冷却ガス導入管170(冷却ガス導入路)が配置され、この冷却導入管170は陰極シールド体160の胴部で開口し、冷却ガス導入口172が形成されている。なお、冷却ガス導入口172の正面にはカバー174が配置されている。
【0031】
さらに、本形態では、磁気記録ディスク用基板10と対向するようにプレート状の整流部材180が配置されているとともに、この整流部材180を上下させて磁気記録ディスク用基板10と対向する対向位置と磁気記録ディスク用基板10と対向しない退避位置とに駆動する整流部材駆動装置(図示せず)が構成されている。ここで、整流部材180には多数の穴が形成されており、冷却ガス導入口172から陰極シールド体160の内側に導入された冷却ガスの流れを磁気記録ディスク用基板10に垂直な方向とするコリメート型シャワープレートとしての機能を有している。従って、冷却ガス導入口172から陰極シールド体160の内側に導入された冷却ガスは、矢印Gで示すように、陰極シールド体160の内側で整流部材180を経由して磁気記録ディスク用基板10に垂直に当たった後、クライオポンプ140に流れる。
【0032】
このように構成した成膜室100において、記録層16を形成するには、ターゲット110として、CoCrPtSiO2などの複合ターゲットが用いられる。また、記録層16を形成する際、基本的には、図4に示すプロセスシーケンスに沿って処理が行われる。図4において、まず、時間T1では冷却ガス、プロセスガス、放電電力の供給は停止している。また、整流部材180は、磁気記録ディスク用基板10と対向する位置への移動を開始する。
【0033】
次に、時間T2では、整流部材180が磁気記録ディスク用基板10と対向する位置で停止し、冷却ガスの供給が開始される。従って、冷却ガス導入口172から陰極シールド体160の内側に導入された冷却ガスは、図3に矢印Gで示すように、陰極シールド体160の内側で整流部材180を経由して磁気記録ディスク用基板10に垂直に当たった後、クライオポンプ140に流れる。このようにして強制冷却工程が行われる。
【0034】
次に、時間T3では、冷却ガスの供給が停止されるとともに、整流部材180が磁気記録ディスク用基板10と対向する位置から退避位置へ移動する。また、プロセスガスの導入と、放電電力の供給が開始される。
【0035】
次に、時間T4では、プロセスガスで真空チャンバー230内で封止されると、放電が開始され、記録層16のスパッタ成膜が開始される。このようにしてスパッタ成膜工程が行われる。
【0036】
次に、時間T5では、プロセスガスの供給と放電が停止される。同時に冷却ガスの供給が開始されるとともに、整流部材180が磁気記録ディスク用基板10と対向する位置に出現する。従って、冷却ガス導入口172から陰極シールド体160の内側に導入された冷却ガスは、図3に矢印Gで示すように、陰極シールド体160の内側で整流部材180を経由して磁気記録ディスク用基板10に垂直に当たった後、クライオポンプ140に流れる。このようにして強制冷却工程が行われる。
【0037】
そして、時間T6では、冷却ガスの供給が停止されるとともに、整流部材180が磁気記録ディスク用基板10と対向する位置から退避位置へ移動する。
【0038】
(成膜方法の一例)
図5は、図3に示す成膜部で成膜を行った際の温度変化を示すグラフである。図4に示すプロセスシーケンスを利用して、本形態では、図5に示す条件で記録層16を形成する。なお、図5には、本発明を適用した成膜方法の温度変化を点線L1で示すとともに、従来構成の成膜部で成膜を行った際の温度変化を実線L2で示してある。
【0039】
図5において、時間T10〜T11において、磁気記録ディスク用基板10の温度を300℃の条件で非磁性層15の形成を行う。そして、時間T11〜T12において、磁気記録ディスク用基板10の温度を300℃の条件で非磁性層15の形成を行う。
【0040】
そして、時間T11において、記録層16を形成するための成膜部100に磁気記録ディスク用基板10が搬送されてくると、時間T11〜T12では、図4を参照して説明したプロセスシーケンスに沿って、磁気記録ディスク用基板10に対する第1回目の強制冷却工程を行う。すなわち、冷却ガス導入口172から陰極シールド体160の内側に導入された冷却ガスは、図3に矢印Gで示すように、陰極シールド体160の内側で整流部材180を経由して磁気記録ディスク用基板10に垂直に当たった後、クライオポンプ140に流れる。その結果、磁気記録ディスク用基板10は、100℃以下の温度にまで短時間のうちに強制冷却される。
【0041】
次に、時間T12〜T13において、磁気記録ディスク用基板10を100℃以下の温度に設定した状態で第1回目のスパッタ成膜工程を行う。その際、成膜速度を高めるためにパワーを上げていくため、磁気記録ディスク用基板10の温度が150℃をやや下回る温度にまで上昇する。
【0042】
そこで、時間T13〜T14において、図4を参照して説明したプロセスシーケンスに沿って、磁気記録ディスク用基板10に対する第2回目の強制冷却工程を行う。その際も、冷却ガス導入口172から陰極シールド体160の内側に導入された冷却ガスは、図3に矢印Gで示すように、陰極シールド体160の内側で整流部材180を経由して磁気記録ディスク用基板10に垂直に当たった後、クライオポンプ140に流れる。それ故、磁気記録ディスク用基板10は、100℃以下の温度にまで短時間のうちに強制冷却される。
【0043】
次に、時間T14〜T15において、磁気記録ディスク用基板10を100℃以下の温度に設定した状態で第2回目のスパッタ成膜工程を行う。その際、成膜速度を高めるためにパワーを上げていくため、磁気記録ディスク用基板10の温度が150℃をやや下回る温度にまで上昇する。
【0044】
なお、図5に実線L2で示すように、従来構成の成膜部には強制冷却のための機構が構成されていないので、図5に示す時間で各処理を行った場合、時間T12で成膜を開始する際、磁気記録ディスク用基板10の温度が約150℃までしか低下せず、グラニュラー成分であるSiO2が偏析してしまうなど、膜質の良好な記録層16を形成することができない。
【0045】
(本形態の効果)
以上説明したように、本形態では、記録層16をスパッタ法により形成するにあたっては、真空チャンバー230内に磁気記録ディスク用基板10とターゲット110とが対向する空間150の周りを囲むように筒状の陰極シールド体160を配置しておき、陰極シールド体160の内側に冷却ガスを供給して磁気記録ディスク用基板10を冷却する強制冷却工程と、この強制冷却工程で冷却された磁気記録ディスク用基板10にスパッタ法により成膜を行うスパッタ成膜工程とを行う。このため、真空チャンバー230全体を冷却する必要がなく、かつ、冷却ガス導入管170から導入された冷却ガスは、磁気記録ディスク用基板10に効率よく到達し、磁気記録ディスク用基板10を短時間のうちに所定の温度にまで冷却することができる。また、陰極シールド体160は磁気記録ディスク基板10に比して負の電圧が印加されているため、パーティクルの付着がない。それ故、真空チャンバーからの冷却ガスを噴射する場合と違って、パーティクルの発生を防止することができる。
【0046】
また、本形態では、強制冷却工程を行う際、磁気記録ディスク用基板10に向かう冷却ガスの流れを磁気記録ディスク用基板10に垂直な方向とする整流部材180を磁気記録ディスク用基板10に対向配置させ、スパッタ成膜工程を行う際、整流部材180を磁気記録ディスク用基板10に対向する位置から退避させる。このため、強制冷却工程を行う際、冷却ガスは磁気記録ディスク用基板10に効率よく到達するので、磁気記録ディスク用基板10を短時間のうちに所定温度にまで冷却することができる。また、スパッタ成膜工程では、整流部材180を磁気記録ディスク用基板10に対向する位置から退避させるため、成膜時、整流部材180が邪魔にならない。それ故、1つの成膜部100内で強制冷却工程とスパッタ成膜工程とを行うことができる。よって、冷却チャンバーを増設する必要がなく、かつ、その増設に伴う水分等の不純物が磁気記録ディスク表面に付着することを防止できる。
【0047】
特に本形態では、記録層16を形成する際、強制冷却工程によって磁気記録ディスク用基板10の温度を100℃以下まで冷却してからスパッタ成膜工程を開始する。このため、記録層16を垂直磁気記録ディスク用のグラニュラー膜として成膜する際でも、グラニュラー成分が偏析することがなく、かつ、このような温度条件を実現する場合でも、磁気記録ディスク用基板10を短時間のうちに冷却することができるので、スループットを低下させることがない。
【0048】
しかも、本形態では、記録層16を形成する際、強制冷却工程と成膜工程を交互に複数回行っているので、グラニュラー薄膜のグレインサイズを小さくすることができる。しかも、このように成膜工程を分割しても、磁気記録ディスク用基板10を短時間のうちに冷却することができるので、スループットが大幅に低下することがない。
【0049】
さらに、陰極シールド体160で磁気記録ディスク用基板10とターゲット110とが対向する空間150を囲った状態でスパッタ成膜工程を行うため、磁気記録ディスク用基板10の基板面に対して、強制的に指向性を持たせることになる。このため、記録層16を形成する際、指向性の高い成膜が可能であるため、膜質の良好な記録層16を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】(a)および(b)はそれぞれ、磁気記録ディスクを示す平面図、および磁気記録ディスクの概略断面図である。
【図2】本発明に係るインライン型の枚葉式磁気記録ディスク製造装置の一例を模式的に示す説明図である。
【図3】本発明に係る磁気記録ディスク製造装置の記録層形成用の成膜部の平面構成を模式的に示す説明図である。
【図4】図3に示す成膜部で行われるプロセスシーケンスの一例を示す説明図である。
【図5】図3に示す成膜部で成膜を行った際の温度変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0051】
1 磁気記録ディスク
10 磁気記録ディスク用基板
11 非磁性基板
12 シード層
13 反強磁性層
14 軟磁性層
15 非磁性層
16 記録層
17 保護層
18 潤滑層
100 成膜室
110 ターゲット
115 ターゲットクランプ
130 プロセスガス導入口
140 クライオポンプ
150 磁気記録ディスク用基板とターゲットとが対向する空間
160 陰極シールド体
170 冷却ガス導入管(冷却ガス導入路)
172 冷却ガス導入口
180 整流部材
200 磁気記録ディスク製造装置
230 真空チャンバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気記録ディスク用基板の表面に少なくとも記録層を含む複数の薄膜が積層された磁気記録ディスクの製造方法において、
前記複数の薄膜のうち、少なくとも1つの薄膜をスパッタ法により形成するにあたっては、真空チャンバー内に前記磁気記録ディスク用基板とターゲットとが対向する空間の周りを囲むように筒状の陰極シールド体を配置しておき、前記陰極シールド体の内側に冷却ガスを供給して前記磁気記録ディスク用基板を冷却する強制冷却工程と、該強制冷却工程で冷却された前記磁気記録ディスク用基板にスパッタ法により成膜を行うスパッタ成膜工程とを行うことを特徴とする磁気記録ディスクの製造方法。
【請求項2】
前記強制冷却工程を行う際、前記磁気記録ディスク用基板に向かう冷却ガスの流れを前記磁気記録ディスク用基板に垂直な方向とする整流部材を前記磁気記録ディスク用基板に対向配置させ、
前記スパッタ成膜工程を行う際、前記整流部材を前記磁気記録ディスク用基板に対向する位置から退避させることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録ディスクの製造方法。
【請求項3】
磁気記録ディスク用基板の表面に少なくとも記録層を含む複数の薄膜が積層された磁気記録ディスクの製造方法において、
前記複数の薄膜のうち、少なくとも1つの薄膜をスパッタ法により形成するにあたっては、前記磁気記録ディスク用基板とターゲットとが対向する空間に冷却ガスを供給して前記磁気記録ディスク用基板を冷却する強制冷却工程と、該強制冷却工程で冷却された前記磁気記録ディスク用基板にスパッタ法により成膜を行うスパッタ成膜工程とを行い、
前記強制冷却工程を行う際、前記磁気記録ディスク用基板に向かう冷却ガスの流れを前記磁気記録ディスク用基板に垂直な方向とする整流部材を前記磁気記録ディスク用基板に対向配置し、
前記スパッタ成膜工程を行う際、前記整流部材を前記磁気記録ディスク用基板に対向する位置から退避させることを特徴とする磁気記録ディスクの製造方法。
【請求項4】
前記複数の薄膜のうち、前記記録層を形成する際、前記強制冷却工程と前記スパッタ成膜工程とを行い、
前記スパッタ成膜工程では、複合ターゲットを用いて磁性粒子の間に非磁性の分離母材が導入されたグラニュラー薄膜を形成することを特徴とする請求項1または2に記載の磁気記録ディスクの製造方法。
【請求項5】
前記スパッタ成膜工程を開始する際、前記冷却工程により前記磁気記録ディスク用基板を100℃以下まで冷却しておくことを特徴とする請求項4に記載の磁気記録ディスクの製造方法。
【請求項6】
前記強制冷却工程と前記成膜工程を交互に複数回行うことを特徴とする請求項4または5に記載の磁気記録ディスクの製造方法。
【請求項7】
磁気記録ディスク用基板の表面に少なくとも記録層を含む複数の薄膜を連続して形成する複数の成膜部を備えた磁気記録ディスク製造装置において、
前記複数の成膜部のうちの1つには、真空チャンバー内に前記磁気記録ディスク用基板とスパッタ成膜用のターゲットとが対向する空間の周りを囲むように筒状の陰極シールド体が配置されているとともに、当該陰極シールド体の内側に冷却ガスを供給する冷却ガス導入路が構成されていることを特徴とする磁気記録ディスク製造装置。
【請求項8】
前記陰極シールド体の内側に導入された冷却ガスの流れを前記磁気記録ディスク用基板に垂直な方向とする整流部材と、該整流部材を前記磁気記録ディスク用基板に対向する対向位置と前記磁気記録ディスク用基板に対向しない退避位置との間で駆動する整流部材駆動装置とが構成されていることを特徴とする請求項7に記載の磁気記録ディスク製造装置。
【請求項9】
磁気記録ディスク用基板の表面に少なくとも記録層を含む複数の薄膜を連続して形成する複数の成膜部を備えた磁気記録ディスク製造装置において、
前記複数の成膜部のうちの1つには、前記磁気記録ディスク用基板とスパッタ成膜用のターゲットとが対向する空間に導入された冷却ガスの流れを前記磁気記録ディスク用基板に垂直な方向とする整流部材と、該整流部材を前記磁気記録ディスク用基板に対向する対向位置と前記磁気記録ディスク用基板に対向しない退避位置との間で駆動する整流部材駆動装置とが構成されていることを特徴とする磁気記録ディスク製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−95179(P2007−95179A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−283935(P2005−283935)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】