説明

磁気記録媒体、その製造方法および磁気記録再生装置

【課題】記録時の書き込み能力を維持しつつ、垂直磁気記録録層の垂直配向性を向上させることができ、また、垂直配向性の向上と磁性結晶粒子の粒径の均一化及び微細化を両立させることができ、情報の高密度記録再生が可能な磁気記録媒体、その製造方法および磁気記録再生装置を提供すること。
【解決手段】本発明の磁気記録媒体10は、非磁性基板1上に、少なくとも軟磁性裏打ち層2、配向制御層3、磁気記録層4および保護層5を具備し、このうち配向制御層3は、シード層6および中間層7によって構成されている。シード層6は、Cuを主成分とし、面心立方構造を有するCu−Ti合金を主材料とする。そして、このCu−Ti合金は、非磁性基板1の表面に対して略垂直方向に(111)結晶面配向するとともに擬似六方晶構造を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体、その製造方法およびこの磁気記録媒体を用いた磁気記録再生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気ディスク装置、可撓性ディスク装置、磁気テープ装置等の磁気記録装置の適用範囲は著しく増大され、その重要性が増すと共に、これらの装置に用いられる磁気記録媒体について、その記録密度の著しい向上が図られている。特にMR(Magneto Resistive)ヘッド、およびPRML(Partial Response Maximum Likelihood)技術の導入以来、面記録密度の上昇は激しさを増し、近年ではさらにGMR(Giant Magneto Resistive)ヘッド、TuMR(Tunneling Magneto Resistive)ヘッドなども導入され、磁気記録媒体の面記録密度は著しい増加を続けている。
このように、磁気記録媒体については、今後更に高記録密度化を達成することが要求されており、そのために磁気記録層の高保磁力化と高信号対雑音比(S/N比)、高分解能を達成することが要求されている。これまで広く用いられてきた長手磁気記録方式においては、線記録密度が高まるにつれて、磁化の遷移領域の隣接する記録磁区同士がお互いの磁化を弱め合おうとする自己減磁作用が支配的になるため、それを避けるために磁気記録層を薄くして形状磁気異方性を高める必要がある。
【0003】
その一方で、磁気記録層の膜厚を薄くしていくと、磁区を保つためのエネルギー障壁の大きさと熱エネルギーの大きさが同レベルに近づいてくるため、記録された磁化量が温度の影響によって緩和される現象(熱揺らぎ現象)が無視できなくなる。このような熱揺らぎ現象や自己減磁作用の問題が、線記録密度の限界を決めてしまうと言われている。
【0004】
このような中、前述のような熱磁気緩和の問題を回避して、長手磁気記録方式における線記録密度の向上を図るべく検討がなされており、最近では、磁区の磁化状態を高度に保持し得るものとして、AFC(Anti-Ferromagnetic Coupling)構造を有する媒体が提案されている。
【0005】
一方、今後一層の面記録密度を実現するための有力な技術として注目されているのが垂直磁気記録技術である。従来の長手磁気記録方式が、媒体を面内方向へ磁化させるのに対し、垂直磁気記録方式では、媒体を面方向に対して略垂直な方向に磁化させることを特徴とする。このことにより、垂直磁気記録録方式では、長手磁気記録方式で高線記録密度を達成する妨げとなる自己減磁作用の影響を回避することができ、より高密度記録に適していると考えられている。また、一定の磁性層膜厚を保つことができるため、長手磁気記録で問題となっている熱磁気緩和の影響も比較的少ないと考えられている。
【0006】
垂直磁気記録媒体は、非磁性基板上に、配向制御層、磁気記録層および保護層が、この順に積層形成されて構成されるのが一般的である。また、保護層の表面に、さらに潤滑層を塗布する場合が多い。また、多くの場合、裏打ち層とよばれる軟磁性膜が、配向制御層の下に設けられる。配向制御層は、通常シード層および中間層を有し、これら各層が基板側からこの順に積層形成されて構成される。中間層は、磁気記録層の特性をより高める目的で形成される。また、シード層は、中間層および磁気記録層の結晶配向を整えると同時に、磁性結晶の形状を制御する働きをすると言われている。
【0007】
優れた特性を有する垂直磁気記録媒体を製造するためには、磁気記録層の結晶構造が重要である。すなわち、垂直磁気記録媒体においては、多くの場合、その磁気記録層の結晶構造は六方最密(hcp)構造をとるが、その(002)結晶面が基板面に対して平行であること、換言するならば、結晶c軸[002]軸が基板面に対して略垂直な方向にできるだけ乱れなく配列していることが重要である。しかしながら、垂直磁気記録媒体は、比較的厚い磁気記録層を使用できるという利点がある反面、媒体に設けられる積層薄膜の総膜厚が現行の長手磁気記録媒体に比べて大きくなりがちであり、そのために薄膜を積層形成する過程において結晶構造を乱す要因を内包しやすいという欠点があった。
【0008】
従来、磁気記録層の結晶をできるだけ乱れなく配向させるため、垂直磁気記録媒体の中間層としては、磁気記録層と同様に六方最密(hcp)構造をとる、Ruが用いられてきた。この場合、Ruの(002)結晶面上に、磁気記録層の結晶がエピタキシャル成長するため、結晶配向の良い磁気記録媒体が得られる(例えば、特許文献1参照。)。
【0009】
一方、中間層の下に位置するシード層に求められる特性としては、中間層の結晶配向を向上させることがある。そのため、従来、シード層としては、面心立方(fcc)構造をとるものが用いられてきた(例えば、特許文献2参照。)。この場合、面心立方(fcc)構造の(111)結晶面上に、六方最密(hcp)構造の(002)結晶面が優先配向するため、直接裏打ち層上にRuを成膜するよりも、同じ配向性を得るためのトータルの膜厚を低減することができる。
【0010】
また、特許文献3では、裏打ち層の直上に設ける第1中間層(シード層)として、六方最密(hcp)構造を有するTiを、第2中間層としてfcc構造を有するCu−5at%Tiを、第3中間層としてRuを用いている。
ただし、六方最密(hcp)構造をとるシード層においては、結晶配向性を向上させるために、シード層もある程度(10nm以上)膜厚を厚くする必要がある。しかし、シード層が非磁性材料である場合に、シード層の膜厚を増大させると、磁気記録層と軟磁性裏打ち層との距離が広がるため、記録時においてヘッドからの磁束の引き込みが弱まり、書き込み能力が低減する。
【0011】
これに対して、前述の面心立方(fcc)構造を有する元素の場合、5nm程度の膜厚で、ある程度の結晶配向性を示すが、結晶配向性が向上すると同時に結晶粒径も増大する。シード層の1つの結晶上に、中間層の1つの結晶および磁気記録層の1つの結晶が成長するため、シード層の結晶粒径の増大は、磁気記録層の結晶粒径の増大を意味する。今後の更なる面記録密度の向上のためには、磁気記録層の高い結晶c軸配向性とともに粒径の均一化と微細化が不可欠な技術となるが、面心立方(fcc)構造をとるシード層を用いた場合、このような配向性と粒径均一化・微細化の両立が困難である。
【0012】
以上のように、面心立方(fcc)構造や六方最密(hcp)構造をとる結晶性材料によって構成されたシード層では、記録再生特性に優れた垂直磁気記録媒体を得るには不十分であり、裏打ち層‐磁気記録層間の膜厚低減による記録時の書き込み能力を維持しつつ、磁気記録層における結晶配向性の向上と結晶粒径の均一化及び微細化を実現し、尚且つ、簡易な工程で製造することが可能な垂直磁気記録媒体が要望されていた。
なお、特許文献4には、配向制御膜としてC11b構造をとる組成材料を用いることが記載され、配向制御膜として少なくともAl、Ag、Au、Cu、Ge、Hf、Ni、Si、Ti、Zn、Zrの1種または2種以上を含む材料を用いることが記載されている。
【特許文献1】特開2001−6158号公報
【特許文献2】特開2002−109720号公報
【特許文献3】特開2005−190517号公報
【特許文献4】特開2004−46990号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、記録時の書き込み能力を維持しつつ、垂直磁気記録録層の垂直配向性を向上させることができ、また、垂直配向性の向上と磁性結晶粒子の粒径の均一化及び微細化を両立させることができ、情報の高密度記録再生が可能な磁気記録媒体、その製造方法および磁気記録再生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
(1)非磁性基板上に、少なくとも裏打ち層、配向制御層、磁気記録層および保護層を有する磁気記録媒体であって、前記配向制御層は、少なくともシード層および中間層を有する複層構造を有し、前記シード層が前記中間層よりも前記非磁性基板側に配されており、前記シード層は、Cuを主成分とするCu−Ti合金を主材料とする合金層を有し、前記Cu−Ti合金は、前記非磁性基板の表面に対して略垂直方向に(111)結晶面配向するとともに擬似六方晶構造を有することを特徴とする磁気記録媒体。
(2)前記Cu−Ti合金は、Cuの組成比が85at%〜95at%、Tiの組成比が5at〜15at%の範囲であることを特徴とする(1)に記載の磁気記録媒体。
(3)前記シード層の膜厚は、3nm以上10nm以下であることを特徴とする(1)または(2)に記載の磁気記録媒体。
(4)前記裏打ち層は、アモルファス構造を有する軟磁性材料を主材料として構成されていることを特徴とする(1)1乃至(3)の何れかに記載の磁気記録媒体。
【0015】
(5)前記中間層は、Ru、Reまたはこれら金属の少なくともいずれかを含有する合金材料を主材料とし、六方最密構造を有する金属層を有することを特徴とする(1)乃至(4)の何れかに記載の磁気記録媒体。
(6)前記中間層は、面心立方構造をとる元素群から選ばれる少なくとも1種を主成分とし、且つ、体心立方構造をとる元素群から選ばれる少なくとも1種を含有する合金を主材料とし、前記非磁性基板の表面に対して略垂直方向に(111)結晶面配向する面心立方構造と、面心立方構造と体心立方構造の混在による層状不整格子を併せもつ金属層を有することを特徴とする(1)乃至(4)の何れかに記載の磁気記録媒体。
【0016】
(7)前記中間層は、面心立方構造をとる元素群から選ばれる少なくとも1種を主成分とし、且つ、六方最密構造をとる元素群から選ばれる少なくとも1種を含有する合金を主材料とし、前記非磁性基板の表面に対して略垂直方向に(111)結晶面配向する面心立方構造と、面心立方構造と六方最密構造の混在による層状不整格子を併せもつ金属層を有することを特徴とする(1)乃至(4)の何れかに記載の磁気記録媒体。
【0017】
(8)前記磁気記録層は、強磁性結晶粒と非磁性酸化物よりなる結晶粒界とから形成されるグラニュラ構造を有し、透過型電子顕微鏡による粒径解析において、前記強磁性結晶粒の平均粒径が7.5nm以下となる磁性層を有することを特徴とする(1)乃至(7)の何れかに記載の磁気記録媒体。
【0018】
(9)非磁性基板上に、少なくとも裏打ち層、シード層、中間層、磁気記録層および保護層を形成することによって磁気記録媒体を製造する磁気記録媒体の製造方法であって、前記シード層を、Cuを主成分とするCu−Ti合金を原料として、該Cu−Ti合金が前記非磁性基板の表面に対して略垂直方向に(111)結晶面配向する擬似六方晶構造をなすように成膜することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【0019】
(10)本発明において、前記中間層の形成工程は、気相成膜技術を用い、成膜雰囲気中に導入するガスの圧力を1Pa以下に設定して第1中間層を成膜する第1の工程と、前記第1中間層上に、気相成膜技術を用い、成膜雰囲気中に導入するガスの圧力を1.5Pa以上に設定して第2中間層を形成する第2の工程とを有することを特徴とする(9)に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【0020】
(11)磁気記録媒体と、該磁気記録媒体に対して情報を記録再生する磁気ヘッドとを備えた磁気記録再生装置であって、前記磁気記録媒体は、請求項1乃至8の何れか1項に記載の磁気記録媒体であることを特徴とする磁気記録再生装置。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、シード層は、所定の結晶構造を有していることにより、その結晶粒の粒径が均一且つ微細であり、比較的薄い膜厚範囲で高度な結晶配向性を示す。このため、シード層上に設けられる中間層および磁気記録層も、シード層における結晶粒の粒径および配向性に倣って、その結晶粒の粒径が均一且つ微細なものになり、高度な結晶配向性を示す。例えば、六方最密(hcp)構造を有する磁気記録層では、非磁性基板の表面に対して、結晶c軸が角度分散の小さい状態で配向する。
また、磁気記録層における結晶粒の粒径が均一且つ微細であることにより、記録ビット遷移境界線がスムーズな直線状になり、高記録密度領域においても優れた特性を得ることができる。
【0022】
また、シード層は、比較的薄い膜厚範囲で高度な結晶配向性を示すことから、十分な結晶配向性を確保しつつ、その膜厚を薄く抑えることができる。これにより、軟磁性裏打ち層と磁気記録層との距離を狭くすることができるとともに、記録ヘッドによって記録磁界を印加したときに、該記録ヘッドと軟磁性裏打ち層との距離を狭くすることができる。このため、記録ヘッドからの磁束が磁気記録層に効率よく引き込まれ、高い書き込み能力を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、本発明の内容を具体的に説明する。まず、本発明の磁気記録媒体の実施形態について説明する。
図1は、本発明の磁気記録媒体の実施形態を示す縦断面図である。
図1に示す磁気記録媒体10は、非磁性基板1上に、少なくとも軟磁性裏打ち層2、直上の膜の配向性を制御する配向制御層3、磁化容易軸(結晶c軸)が基板に対し主に略垂直に配向した磁気記録層4、保護層5を有し、これら各層が非磁性基板1側からこの順に設けられている。ここで、配向制御層3は複数層(本実施形態では2層)から構成されている。以下、配向制御層3を構成する各層のうち、基板側の層をシード層6、他方の層を中間層7と称する。
【0024】
非磁性基板1としては、Alを主成分とした例えばAl−Mg合金等のAl合金基板や、通常のソーダガラス、アルミノシリケート系ガラス、アモルファスガラス類、シリコン、チタン、セラミックス、サファイア、石英、各種樹脂からなる基板など、非磁性基板であれば任意のものを用いることができる。中でもAl合金基板や結晶化ガラス、アモルファスガラス等のガラス製基板を用いることが好ましい。ガラス基板の場合、ミラーポリッシュ基板や、表面粗さRaが1(Å)未満の低Ra基板などが好ましい。また、非磁性基板1には、軽度であれば、テクスチャが入っていても構わない。
【0025】
次に、非磁性基板1上に設けられる各層について説明する。
軟磁性裏打ち層2は、多くの垂直磁気記録媒体に設けられており、磁気記録媒体10に信号を記録する際、ヘッドからの記録磁界を導き、磁気記録層4に対して記録磁界の垂直成分を効率よく印加する働きをする。
【0026】
軟磁性裏打ち層2の材料としては、FeCo系合金、CoZrNb系合金、CoTaZr系合金などの、いわゆる軟磁気特性を有する材料ならばいずれも使用することができる。ここで、軟磁性裏打ち層2は、アモルファス構造を有することが好ましい。軟磁性裏打ち層2をアモルファス構造とすることで、磁気記録媒体10の表面粗さRaを低く抑えることができる。その結果、ヘッドの浮上量を低減することが可能となり、さらなる高記録密度化が可能となる。また、軟磁性裏打ち層2は、軟磁性層の単層構成に限らず、2層の軟磁性層の間にRu等よりなるの極薄い非磁性薄膜をはさみ込んだAFC(Anti-Ferromagnetic Coupling)構造とされていてもよい。
軟磁性裏打ち層2の総膜厚は、10nm〜50nm程度とされ、記録再生特性とOW(
Over-Write)特性とのバランスにより適宜決定される。
【0027】
軟磁性裏打ち層2の上には、直上の膜の配向性を制御する配向制御層3が設けられている。
配向制御層3は、シード層6および中間層7を有し、これら各層が非磁性基板1側からこの順に積層形成されて構成されている。
シード層6は、中間層7および磁気記録層4の結晶配向を整えるとともに、磁気記録層4の磁性結晶粒の形状を制御する機能を有する。
【0028】
ここで、本発明では、特に、シード層6は、Cuを主成分とするCu−Ti合金によって構成されており、このCu−Ti合金が、非磁性基板1の表面に対して略垂直方向に(111)結晶面配向するとともに擬似六方晶構造を有している。
【0029】
このような構成のシード層6は、その結晶粒の粒径が均一且つ微細であり、比較的薄い膜厚範囲で高度な結晶配向性を示す。このため、シード層6上に設けられる中間層7および磁気記録層4も、シード層6における結晶粒の粒径および配向性に倣って、その結晶粒の粒径が均一且つ微細なものになり、高度な結晶配向性を示す。例えば、六方最密(hcp)構造を有する磁気記録層4では、非磁性基板1の表面に対して、結晶c軸が角度分散の小さい状態で配向する。
また、磁気記録層4における結晶粒の粒径が均一且つ微細であることにより、記録ビット遷移境界線がスムーズな直線状になり、高記録密度領域においても優れた特性を得ることができる。
【0030】
また、シード層6は、比較的薄い膜厚範囲で高度な結晶配向性を示すことから、十分な結晶配向性を確保しつつ、その膜厚を薄く抑えることができる。これにより、軟磁性裏打ち層2と磁気記録層4との距離を狭くすることができるとともに、記録ヘッドによって記録磁界を印加したときに、記録ヘッドと軟磁性裏打ち層2との距離を狭くすることができる。このため、記録ヘッドからの磁束が磁気記録層4に効率よく引き込まれ、高い書き込み能力を得ることができる。
【0031】
ここで、Cu−Ti合金の結晶構造は、例えば、Cu−Ti合金の組成比を変化させることによって制御することができ、本発明では、特にTiの割合を5〜15at%とすることが好ましい。これにより、Cu−Ti合金を、容易に前述の結晶構造、すなわち、非磁性基板1の表面に対して略垂直方向に(111)結晶面配向するとともに擬似六方晶構造を有するものとすることができる。この理由を、以下に説明する。
図2は、バルク状態でのCu−Ti合金の状態図、図3は、Ti、CuおよびTi−Cu合金のインプレーン(In−plane:表面面方向)X線回折プロファイルである。
まず、Cu−Ti合金において、Tiの割合を5〜15at%(Cuの割合を85〜95at%)とすると、バルク状では、面心立方構造をなすCu相とβTiCu相との共晶相になる(図2参照)。
【0032】
次に、図3を見ると、Ti(Ti:100at%)のプロファイルでは、2つの回折ピークが現れているのがわかる。ここで、Tiは、基板面に対して(002)結晶面配向した六方最密(hcp)構造を有しており、このプロファイルの高角側のピークはhcp(110)結晶面に起因するピーク、低角側のピークはhcp(100)結晶面に起因するピークであると判断される。
【0033】
一方、Cu(Ti:0%)は、面心立方(fcc)構造を有する。このCuのプロファイルでは、fcc(220)結晶面に起因するピークのみが観測される。
次に、Cu−Ti合金のプロファイルを見ると、Cuの割合が15at%の場合のプロファイルでは、Tiのプロファイルと同様に、2つのピークが観測される。このうち高角側のピークは、fcc(220)結晶面に起因するピークである。このピークの存在により、該結晶が、基板面に対して略垂直にfcc(111)結晶面配向していると判断される。
【0034】
また、このCu−Ti合金(Cu:15at%)のプロファイルを、六方最密(hcp)構造のプロファイル(Tiのプロファイル)に対応させ、fcc(220)結晶面に起因するピーク(高角側のピーク)をhcp(110)面に起因するピーク、低角側のピークをhcp(100)面に起因するピークと考えると、このCu−Ti合金は、基板面に対して略垂直にhcp(002)結晶面配向していると見做すこともできる。
【0035】
なお、本明細書中では、結晶のX線回折プロファイルを観測したときに、このように六方最密(hcp)構造のプロファイルとはピークの位置が異なるが、hcp(110)面に起因するピークに対応するピークと、hcp(100)面に起因するピークに対応するピークの2つのピークが観測される場合、この結晶を「擬似的な六方晶構造」を有するものと言う。
【0036】
一方、Tiの割合が20at%および30at%の場合のプロファイルでは、fcc(220)結晶面に起因するピークが消失し、低角側のピークのみが現われる。
【0037】
以上のことを総合すると、Tiの割合が15at%のCu−Ti合金は、基板面に対して略垂直にfcc(111)結晶面配向しており、また、バルクの状態図において六方晶構造をとるような合金組成を有しないにも拘わらず、擬似的な六方晶構造も有している、すなわち、本発明で規定するシード層の条件を満たすものであることがわかる。
また、バルクの状態図において、このCu−Ti合金と同様の合金組成を有するもの、すなわち、Tiの割合が5〜15at%のCu−Ti合金も、Tiの割合が15at%の場合と同様の結晶構造を有するものと考えられる。
【0038】
これらのことから、Cu−Ti合金は、Tiの割合を5〜15at%とすることにより、容易に所定の結晶構造とすることができ、シード層6の構成材料として好適なものであると言うことができる。
【0039】
シード層6の膜厚は、3nm以上10nm以下にすることが好ましく、3nm以上6nm以下にすることがより好ましい。膜厚がこの範囲より厚い場合には、磁気記録媒体10に情報を記録する際に、ヘッドと軟磁性裏打ち層2との距離が離れすぎ、信号の書き込み能力が十分に得られない可能性がある。また、膜厚がこの範囲より薄い場合には、Cu−Ti合金は擬似六方晶構造を維持できなくなりランダム構造またはfcc構造となり、シード層6の(111)結晶配向性が悪化し、その影響で磁気記録層4の結晶配向性も悪化するおそれがある。シード層6の膜厚を上記範囲内とすることにより、シード層6を、確実に、擬似六方晶構造を有する結晶構造とすることができる。その結果、シード層6上に設けられる各層、例えば、六方最密(hcp)構造をとるRu中間層7やCo合金磁気記録層4を容易に配向させ、且つ、各層における結晶粒の粒径を微細且つ均一にすることができる。
【0040】
中間層7は、その上に積層される磁気記録層4の結晶配向性を制御する機能を有する。
中間層7の上に積層される磁気記録層4の結晶配向性は、中間層7の結晶配向性によりほぼ決定されるため、この中間層7の配向制御は垂直磁気記録媒体の特性を高める上で重要である。
【0041】
ここで、中間層7は複層構成とされているのが好ましい。これにより、中間層7において、その組成や結晶構造、成膜条件を、シード層6側の部分と磁気記録層4側の部分とで、それぞれ最適化することができるので、より配向制御性に優れた中間層7を得ることができる。
なお、本実施形態では、中間層7は、シード層側に配された第1中間層8と、磁気記録層側に配された第2中間層9の2層構成とされている。この場合、中間層7を構成する各層の材料および成膜条件は、具体的には、次のような点から設定するのが好ましい。
【0042】
まず、中間層7の結晶配向性を向上させるためには、中間層7の初期成長段階では、成膜雰囲気中に導入するガスの圧力が低いことが好ましい。しかし、低ガス圧条件のまま膜成長し続けると、膜成長の途中で結晶粒同士の合体が起こる。ここで、中間層7の1個の結晶上に、磁気記録層4の1個の結晶がエピタキシャル成長するため、中間層7において結晶粒同士が合体すると、その上に成長する磁気記録層4の結晶粒の粒径は、合体した中間層7の結晶粒の粒径程度まで大きくなってしまう。
【0043】
このような点から、2層構成の中間層7では、第1中間層8は、該中間層8の結晶配向性を向上させるため、成膜雰囲気中に導入するガスの圧力を1Pa以下などの低ガス圧に設定して成膜することが好ましい。
また、結晶配向性を向上させるとともに結晶粒同士の合体を抑制するため、第1中間層8の膜厚は1nm以上15nm以下であることが好ましく、5nm以上10nm以下であることがより好ましい。
【0044】
また、第1中間層8の構成材料としては、六方最密(hcp)構造を有するもの、具体的には、Ru、Reまたはこれら金属を含有する合金等を用いることができる。また、この他に、下記(1)および(2)のような結晶構造を有するものも用いることができる。
(1)面心立方構造をとる元素群から選ばれる少なくとも1種を主成分とし、且つ、体心立方構造をとる元素群から選ばれる少なくとも1種を含有する合金を主材料とし、非磁性基板の表面に対して略垂直方向に(111)結晶面配向する面心立方構造と、面心立方構造と体心立方構造の混在による層状不整格子(積層欠陥)を併せもつもの。
(2)面心立方構造をとる元素群から選ばれる少なくとも1種を主成分とし、且つ、六方最密構造をとる元素群から選ばれる少なくとも1種を含有する合金を主材料とし、非磁性基板の表面に対して略垂直方向に(111)結晶面配向する面心立方構造と、面心立方構造と六方最密構造の混在による層状不整格子(積層欠陥)を併せもつもの。
このような結晶構造を有する合金材料も、優れた配向性を有し、また、微細な結晶粒を形成する。
【0045】
一方、第2中間層9は、成膜雰囲気中の導入するガスの圧力を、第1中間層8の場合よりも高いガス圧、例えば、1.5Pa以上の高ガス圧に設定して成膜することが好ましい。これにより、成膜の過程で結晶粒間に空隙が生じ、結晶粒同士の合体を抑制することができる。
【0046】
第2中間層9の構成材料としては、その上に磁気記録層4がエピタキシャル成長するため、六方最密(hcp)構造または面心立方(fcc)構造をとる材料を用いるのが好ましい。また、第2中間層9は、各結晶粒の周りを酸化物や窒化物の粒界で取り囲んだ、いわゆるグラニュラ構造を有していてもよい。これにより、結晶粒同士の合体を抑制することができるとともに、粒界幅が太くなるので、結晶粒をより微細化することができる。前述のように、中間層7の1個の結晶粒上に、磁気記録層4の1個の結晶粒がエピタキシャル成長するため、中間層7の結晶粒が微細化することにより、磁気記録層4の結晶粒も微細化することができる。
【0047】
次に、磁気記録層4について説明する。
磁気記録媒層4は、情報が磁気反転による磁気信号として記録される層である。
垂直磁気記録媒体においては、多くの場合、その磁気記録層4の結晶構造はhcp構造をとるが、その(002)結晶面が基板面に対して平行であること、換言するならば結晶c軸[002]軸が垂直な方向にできるだけ乱れなく配列していることが重要である。
ここで、結晶c軸[002]軸の配向度の指標としては、ロッキングカーブの半値幅を用いることができる。このロッキングカーブの半値幅は、次のようにして求めることができる。
【0048】
まず、基板上に成膜した膜(試料)をX線回折装置にかけ、基板面に対して平行な結晶面を分析する。前述の中間層や磁気記録層のように六方最密構造をとる膜を試料が含有する場合には、その結晶面に対応する回折ピークが観測される。例えば、Co系合金を用いた垂直磁気記録録層の場合、六方最密構造のc軸[002]軸方向が基板面に略垂直になるように配向するので、hcp(002)結晶面に対応するピークが観測される。次に、このhcp(002)結晶面を回折するブラッグ角を維持したまま、光学系を基板面に対してスイングさせる。このときに光学系を傾けた角度に対してhcp(002)結晶面の回折強度をプロットすると、ひとつのピークを描くことができる。これをロッキングカーブと称する。
【0049】
このときhcp(002)結晶面が基板面に対して極めてよく平行に揃っている場合には、鋭い形状のロッキングカーブが得られるが、逆に、hcp(002)結晶面の向きが広く分散しているとブロードなロッキングカーブが得られる。従って、このロッキングカーブの半値幅Δθ50は、垂直磁気記録録膜の結晶c軸[002]軸の配向度の指標とすることができる。すなわち、半値幅Δθ50の値が比較的小さい場合には、結晶c軸[002]軸が基板面に対して高度に略垂直配向していると判断することができ、半値幅Δθ50の値が比較的大きい場合には、結晶c軸[002]軸の配向度が低いと判断することができる。
そして、本発明によれば、シード層6の組成および結晶構造を規定していることにより、この半値幅Δθ50の小さい垂直磁気記録層を容易に得ることができる。
【0050】
磁気記録層4の材料としては、CoCr、CoCrPt、CoCrPtB、CoCrPtB−X、CoCrPtB−X−Y、CoCrPt−O、CoCrPt−SiO、CoCrPt−Cr、CoCrPt−TiO2、CoCrPt−ZrO2、CoCrPt−Nb5、CoCrPt−Ta5、 CoCrPt−B3、CoCrPt−WO2、CoCrPt−WO3、などよりなるCo系合金薄膜(磁性層)等が挙げられる。このうち、特に、酸化物系の磁性層を用いる場合には、該磁性層は、酸化物が磁性Co結晶粒の周りを取り囲んだグラニュラ構造を有することが好ましい。これにより、Co結晶粒同士の磁気的相互作用が弱まりノイズが減少する。最終的には、この磁気記録層の結晶構造および磁気的性質が、磁気記録媒体10の記録再生特性を決定するため、磁気記録層4がノイズの少ないものとされていることにより、該磁気記録媒体10は優れた記録再生特性を発揮するものとなる。
【0051】
また、磁気記録層における磁性結晶粒の平均粒径は、7.5nm以下であるのが好ましい。これにより、記録ビット遷移境界線がスムーズな直線状になり、高記録密度領域においても優れた特性を得ることができる。
【0052】
保護層6は、ヘッドとの接触によるダメージから媒体を保護する機能を有する。
保護層6としては、カーボン膜、SiO膜などが用いられるが、保護性能に優れることからカーボン膜を用いるのが好ましい。これら膜の形成には、スパッタリング法、プラズマCVD法などが用いられるが、近年ではプラズマCVD法を用いることが多い。また、これらの膜は、マグネトロンプラズマCVD法によっても成膜することも可能である。
保護層6の膜厚は、1nm〜10nm程度とされ、好ましくは2nm〜6nm程度、さらに好ましくは2nm〜4nmである。
【0053】
以上のような磁気記録媒体は、高密度記録領域においても優れた特性が得られることから、今後のさらなる記録密度の向上が期待される媒体、例えば、ECC(Exchange Coupled Composite)媒体や、ディスクリートトラックメデイア、パターンメディアのような新しい垂直記録媒体においても適用可能である。
【0054】
次に、本発明の磁気記録媒体の製造方法を、図1に示す磁気記録媒体を製造する場合を例にして説明する。
まず、非磁性基板1を用意し、洗浄・乾燥する。
非磁性基板1を洗浄・乾燥することにより、その上に形成される各層を密着性よく成膜することができる。洗浄方法としては、水洗浄の他、エッチング(逆スパッタ)による洗浄も用いることができる。
【0055】
次に、この非磁性基板1上に、軟磁性裏打ち層2、シード層6、第1中間層8、第2中間層9および磁気記録層4を順次成膜する。
成膜方法としては、例えば、各層の構成材料に対応するターゲットを用いるスパッタリング法が用いられる。スパッタリング法としては、通常、DCマグネトロンスパッタリング法またはRFスパッタリング法が用いられるが、この他の電圧印加方式、例えば、RFバイアス、DCバイアス、パルスDC、パルスDCバイアス等を用いるスパッタリング法を用いてもよい。また、スパッタガスとしては、Krガス、Oガス、HOガス、Hガス、Nガス等が用いられる。
【0056】
スパッタガスの圧力は、各層ごとに特性が最適になるように適宜決定されるが、一般に0.1〜30Pa程度の範囲とされる。また、特に第1中間層8および第2中間層9の成膜に際しては、前述のように、第1中間層8では1Pa以下、第2中間層9では1.5Pa以上のガス圧力とするのが好ましい。これにより、配向制御性に優れた中間層7を形成することができる。
【0057】
次に、磁気記録層4上に保護層3を形成する。
保護層3は、スパッタリング法、プラズマCVD法、プラズマCVD法、マグネトロンプラズマCVD法等によって成膜することができる。以上のようにして、図1に示す磁気記録媒体10が得られる。
【0058】
次に、本発明の磁気記録再生装置の実施形態について説明する。
図4は、本発明の磁気記録再生装置の一例を示す概略構成図である。
図4に示す磁気記録再生装置は、図1に示す構成の磁気記録媒体10と、磁気記録媒体10を回転駆動させる媒体駆動部11と、磁気記録媒体10に情報を記録再生する磁気ヘッド12と、この磁気ヘッド12を磁気記録媒体10に対して相対運動させるヘッド駆動部13と、記録再生信号処理系14とを備えて構成されている。
【0059】
記録再生信号処理系14は、外部から入力されたデ−タを処理して記録信号を生成し、この記録信号を磁気ヘッド12に入力するとともに、磁気ヘッド12からの再生信号を処理してデ−タを生成し、このデータを外部に出力することができるようになっている。
【0060】
本発明の磁気記録再生装置に用いる磁気ヘッド12には、再生素子として異方性磁気抵抗効果(AMR)を利用したAMR素子の他、巨大磁気抵抗効果(GMR)を利用したGMR素子、トンネル効果を利用したTuMR素子などを有した、より高記録密度に適した磁気ヘッドを用いることができる。
このように構成された磁気記録再生装置では、磁気記録媒体の磁気記録層が高度に略垂直配向しており、その磁性粒子の粒径が均一且つ微細であることにより、高密度記録領域においても良好な記録再生特性を得ることができる。また、磁気記録媒体のシード層の膜厚を比較的薄く設定することができるので、記録ヘッドからの記録磁界を効率よく磁気記録層に印加することができ、情報の書き込みを確実に行うことができる。
【0061】
以上、本発明の磁気記録媒体、その製造方法および磁気記録再生装置について説明したが、本発明の構成はこれに限るものではない。
例えば、本実施形態では、シード層および磁気記録層が単層構成とされているが、複層構成とされていても構わない。また、中間層は、2層構成に限らず、単層構成もしくは3層以上の複層構成とされていてもよい。
【実施例】
【0062】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明する。
(実施例1−1)
まず、HD用ガラス基板を、スパッタリング装置の真空チャンバ内にセットし、真空チャンバ内を1.0×10−5Pa以下に真空排気した。
次に、真空チャンバ内をAr雰囲気とし、スパッタリング法により、ガラス基板上に、Co−10Ta−5Zrなる組成の軟磁性裏打ち層(膜厚50nm)を成膜した。ここで、Arガスのガス圧は0.6Paとした。
(なお、各合金組成式において、各元素の前に付した全角数字は、合金中に含まれる各元素の割合(at%)を示し、数字が付されていない元素の割合は他の元素の割合の残部であるものとする。)
【0063】
次に、軟磁性裏打ち層の上に、Ar雰囲気中、スパッタリング法により、Cu−7Tiなる組成のシード層(膜厚5nm程度)を成膜した。ここで、Arガスのガス圧力は0.6Paとした。
このシード層について、In−plane X線回折のプロファイルを観測したところ、fcc(220)結晶面に起因するピークと、これよりも低角側にもう1つのピークが観測された。このことから、このシード層は、基板面に対して略垂直にfcc(111)結晶面配向しており、また、擬似的な六方晶構造を有していることが確認された。
【0064】
次に、シード層上に、スパッタリング法によりAr雰囲気中において、Ruよりなる第1中間層(膜厚5nm)を成膜した。ここで、Arガスのガス圧力は0.6Paとした。
次に、第1中間層上に、スパッタリング法により、Ar雰囲気中において、Ruよりなる第2中間層(膜厚15nm)を成膜した。ここで、Arガスのガス圧力は5Paとした。
【0065】
次に、第2中間層上に、スパッタリング法によりAr雰囲気中において、90(Co−12Cr−18Pt)−10(SiO)(但し、各化合物の組成式の前に付した数字は、各化合物の割合(mol%)を表す)なる組成の磁気記録層(膜厚14nm)を形成した。ここで、Arガスのガス圧力は5Paとした。
【0066】
次に、CVD法により、磁気記録層上に、保護層としてカーボン膜(膜厚4nm)を成膜し、潤滑剤を塗布して垂直磁気記録媒体を製造した。
【0067】
(実施例1−2〜実施例1−3)
シード層の組成を表1に示すように変更した以外は、実施例1−1と同様にして垂直磁気記録媒体を製造した。
なお、各磁気記録媒体で形成したシード層について、In−plane X線回折のプロファイルを観測したところ、いずれも、fcc(220)結晶面に起因するピークと、これよりも低角側にもう1つのピークが観測された。このことから、各シード層は、基板面に対して略垂直にfcc(111)結晶面配向した擬似的な六方晶構造を有していることが確認された。
【0068】
(比較例1−1〜比較例1−4)
シード層の組成を表1に示すように変更した以外は、実施例1−1と同様にして垂直磁気記録媒体を製造した。
【0069】
各実施例(実施例1−1〜実施例1−3)および各比較例(比較例1−1〜比較例1−4)で得られた各磁気記録媒体について、以下のようにして記録再生特性、静磁気特性、磁気記録層の結晶配向性および結晶粒径を評価した。
【0070】
「記録再生特性」
各磁気記録媒体について、GUZIK社製リードライトアナライザ1632及びスピンスタンドS1701MPを用い、SNRを測定することによって評価した。
「磁気特性」
各磁気記録媒体について、Kerr測定装置を用い、保磁力Hcを測定することによって評価した。
「結晶配向性」
各磁気記録層について、X線回折装置を用いてロッキングカーブを観測し、その半値幅Δθ50を計測することによって評価した。
「結晶粒径」
各磁気記録層を透過型電子顕微鏡(TEM)によって観察し、観察された磁気記録層の平面画像について、粒径解析を行うことによって評価した。以上の評価結果を、表1にまとめて示す。
【0071】
【表1】

【0072】
表1より、各実施例で作製された磁気記録媒体は、各比較例で作製された磁気記録媒体に比べて、磁気記録層が結晶配向性に優れ(Δθ50が小さく)、磁性粒子の平均結晶粒径が小さく、高いSNRを有していることがわかる。なお、各実施例で作製された磁気記録媒体において保磁力Hcが比較的低くなる傾向が見られるが、これは、磁気記録層の結晶粒径が微細化することにより、熱揺らぎの影響を受け易くなったからと考えられる。また、比較例1−3で作製された磁気記録媒体も保磁力Hcが低くなっているが、これは、磁気記録層の配向性が低いことに起因していると思われる。
【0073】
(実施例2−1)
実施例1−1と同様にしてガラス基板上に軟磁性裏打ち層を形成した。
次に、軟磁性裏打ち層の上に、スパッタリング法によりAr雰囲気中において、Cu−7Tiなる組成のシード層(膜厚4nm程度)を成膜した。ここで、Arガスのガス圧力は0.6Paとした。
【0074】
次に、シード層上に、スパッタリング法によりAr雰囲気中において、Ruよりなる第1中間層(膜厚8nm)を成膜した。ここで、Arガスのガス圧力は0.6Paとした。
次に、第1中間層上に、スパッタリング法によりAr雰囲気中において、Ruよりなる第2中間層(膜厚8nm)を成膜した。ここで、Arガスのガス圧力は10Paとした。
【0075】
次に、第2中間層上に、スパッタリング法によりAr雰囲気中において、90(Co−12Cr−20Pt)−10(SiO)(但し、各化合物の組成式の前に付した数字は、各化合物の割合(mol%)を表す)なる組成の磁気記録層(膜厚12nm)を形成した。ここで、Arガスのガス圧力は10Paとした。
次に、CVD法により、磁気記録層上に、保護層としてカーボン膜(膜厚4nm)を成膜し、その後、カーボン膜上に潤滑剤を塗布した。
【0076】
(実施例2−2〜実施例2−9)
シード層の組成および膜厚を、表2に示すように変更した以外は、実施例2−1と同様にして垂直磁気記録媒体を製造した。
【0077】
(比較例2−1〜比較例2−12)
シード層の組成および膜厚を、表2に示すように変更した以外は、実施例2−1と同様にして垂直磁気記録媒体を製造した。
なお、各比較例でシード層の材料として用いたもののうち、Ni、Cu、Ptは面心立方(fcc)構造を有するものであり、Tiは六方最密(hcp)構造を有するものである。
【0078】
各実施例および各比較例で得られた各磁気記録媒体について、前述と同様にして記録再生特性、静磁気特性、磁気記録層の結晶配向性および結晶粒径を評価した。
その評価結果を、表2に示す。
【0079】
【表2】

【0080】
表2において、シード層の組成が同じで膜厚が異なるもの同士を比較すると、各実施例で作製された磁気記録媒体では、シード層の膜厚を厚くしても磁気記録層の結晶粒径がほぼ変化しないのがわかる。また、シード層の膜厚を4nm程度に薄くしても、磁気記録層において結晶配向性と結晶粒径の微細化が両立できている。
【0081】
これに対して、各比較例で作製された磁気記録媒体のうちfcc構造を有するシード層を用いたもの(比較例2−1〜比較例2−9)では、シード層の膜厚を厚くすると、磁気記録層の結晶配向性は改善するが、結晶粒径の増加も同時に起こる。このため、SNRが低下している。
また、各比較例で作製された磁気記録媒体のうちhcp構造を有するシード層を用いたもの(比較例2−10〜比較例2−12)では、シード層の膜厚を厚くすることで磁気記録層の結晶配向性の改善が見られるが、それでも各実施例に比べて劣っており、磁気記録層の結晶粒径も大きい。
比較例2−13と14は、結晶粒径は実施例と同等に小さいがRuの結晶配向性が非常に悪く、保磁力、SNRともに低い値を示している。これは、Cu15Tiが実施例で用いられているような4(nm)程度以上の膜厚であれば擬似六方晶として振舞うことができるが、1(nm)程度の薄い膜厚ではfcc(111)の結晶配向を有さないランダムな配向になっており擬似六方晶として振舞うことができないためである。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明に係る磁気記録媒体の実施形態を示す縦断面図。
【図2】バルク状態でのCu−Ti合金の状態図。
【図3】Ti、CuおよびTi−Cu合金のIn−planeX線回折プロファイル。
【図4】本発明に係る磁気記録再生装置の一例を示す概略構成図。
【符号の説明】
【0083】
1…非磁性基板、2…軟磁性裏打ち層、3…配向制御層、4…磁気記録層、5…保護層、6…シード層、7…中間層、8…第1中間層、9…第2中間層、10…磁気記録媒体、11…媒体駆動部、12…磁気ヘッド、13…ヘッド駆動部、14…記録再生信号系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性基板上に、少なくとも裏打ち層、配向制御層、磁気記録層および保護層を有する磁気記録媒体であって、
前記配向制御層は、少なくともシード層および中間層を有する複層構造を有し、前記シード層が前記中間層よりも前記非磁性基板側に配されており、
前記シード層は、Cuを主成分とするCu−Ti合金を主材料とする合金層を有し、前記Cu−Ti合金は、前記非磁性基板の表面に対して略垂直方向に(111)結晶面配向するとともに擬似六方晶構造を有することを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
前記Cu−Ti合金は、Cuの組成比が85at%〜95at%、Tiの組成比が5at〜15at%の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記シード層の膜厚は、3nm以上10nm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
前記裏打ち層は、アモルファス構造を有する軟磁性材料を主材料として構成されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
前記中間層は、Ru、Reまたはこれら金属の少なくともいずれかを含有する合金材料を主材料とし、六方最密構造を有する金属層を有することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
前記中間層は、面心立方構造をとる元素群から選ばれる少なくとも1種を主成分とし、且つ、体心立方構造をとる元素群から選ばれる少なくとも1種を含有する合金を主材料とし、前記非磁性基板の表面に対して略垂直方向に(111)結晶面配向する面心立方構造と、面心立方構造と体心立方構造の混在による層状不整格子を併せもつ金属層を有することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
前記中間層は、面心立方構造をとる元素群から選ばれる少なくとも1種を主成分とし、且つ、六方最密構造をとる元素群から選ばれる少なくとも1種を含有する合金を主材料とし、前記非磁性基板の表面に対して略垂直方向に(111)結晶面配向する面心立方構造と、面心立方構造と六方最密構造の混在による層状不整格子を併せもつ金属層を有することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項8】
前記磁気記録層は、強磁性結晶粒と非磁性酸化物よりなる結晶粒界とから形成されるグラニュラ構造を有し、透過型電子顕微鏡による粒径解析において、前記強磁性結晶粒の平均粒径が7.5nm以下となる磁性層を有することを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項9】
非磁性基板上に、少なくとも裏打ち層、シード層、中間層、磁気記録層および保護層を形成することによって磁気記録媒体を製造する磁気記録媒体の製造方法であって、
前記シード層を、Cuを主成分とするCu−Ti合金を原料として、該Cu−Ti合金が前記非磁性基板の表面に対して略垂直方向に(111)結晶面配向する擬似六方晶構造をなすように成膜することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項10】
前記中間層の形成工程は、
気相成膜技術を用い、成膜雰囲気中に導入するガスの圧力を1Pa以下に設定して第1中間層を成膜する第1の工程と、前記第1中間層上に、気相成膜技術を用い、成膜雰囲気中に導入するガスの圧力を1.5Pa以上に設定して第2中間層を形成する第2の工程とを有することを特徴とする請求項9に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項11】
磁気記録媒体と、該磁気記録媒体に対して情報を記録再生する磁気ヘッドとを備えた磁気記録再生装置であって、
前記磁気記録媒体は、請求項1乃至8の何れか1項に記載の磁気記録媒体であることを特徴とする磁気記録再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−44842(P2010−44842A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−209907(P2008−209907)
【出願日】平成20年8月18日(2008.8.18)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】