説明

磁気軸受装置、および回転機械

【課題】曲げ振動モードの固有周波数を安定化できる磁気軸受装置と、このスラスト磁気軸受を備えた回転機械を提供する。
【解決手段】シャフト5と一体に回転するスラストディスク27と、磁力によりスラストディスク27のスラスト力を支持するスラスト磁気軸受25と、スラストディスク27の傾きを検出する第1ラジアルセンサ23aおよび第2ラジアルセンサ23b(傾斜検出手段)と、第1ラジアルセンサ23aおよび第2ラジアルセンサ23bに検出された傾きに起因する所定周期の振動によって、スラスト磁気軸受25の磁力を制御するコントローラ21(制御部)と、から構成され、スラスト磁気軸受25は、周方向に複数に分割された第1電磁石26aおよび第2電磁石26b(磁力発生部)を有し、コントローラ21は、第1電磁石26aおよび第2電磁石26bを各々制御することを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、曲げ振動モードの抑制効果を有する磁気軸受装置、およびこの磁気軸受装置を備えた回転機械に関するものである。
【背景技術】
【0002】
産業用圧縮機やターボ冷凍機、小型ガスタービンなどの回転機械に用いられる軸受装置の一つとして、電磁石を用いた磁気軸受装置が知られている(例えば非特許文献1参照)。磁気軸受装置は、流体潤滑軸受よりも損失が少なく、軸受のドライ化および雰囲気のクリーン化が図れるため、特に真空状態では有効な軸受装置である。
【0003】
図7は、一般的な磁気軸受装置200を備えた回転機械250の説明図である。
図8は、シャフト202の各振動モードの説明図である。
図9は、各振動モードの周波数域の説明図である。
図7に示すように、回転機械250は、シャフト202と一体に回転するインペラ201と、磁気軸受装置200とにより構成されている。
【0004】
また、磁気軸受装置200は、シャフト202のラジアル位置を検出するラジアルセンサ203と、シャフト202のスラスト位置を検出するスラストセンサ204と、シャフト202のラジアル負荷を支持するラジアル磁気軸受208(208a,208b)と、シャフト202のスラスト負荷を支持するスラスト磁気軸受207と、ラジアル磁気軸受208およびスラスト磁気軸受207を制御するコントローラ210とを備えている。
【0005】
ところで、回転駆動するシャフト5は、例えば図8(b)から(d)に示すような振動モードを有する。
図8(b)および図8(c)は、シャフト5がほとんど曲がらない剛体振動モードである。図8(b)の剛体振動モードは、シャフト5の回転中心が偏心する剛体1次振動モードである。また、図8(c)の剛体振動モードは、シャフト5の重心を挟んでシャフト5の端部が反対側に配置される剛体2次振動モードである。
また、図8(d)は、シャフト5が湾曲する曲げ振動モードであり、シャフト5の重心を挟んで、シャフト5の端部が同じ側に配置される。
【0006】
そして、コントローラ210は、ラジアルセンサ203およびスラストセンサ204の値を基に、図8に示す各振動モードの判別を行い、PID制御によりフィードバック制御を行っている。
【0007】
ここで、通常、各振動モードは、その固有周波数が位相進み周波数域にあれば、振動が減衰して安定化することが知られている。換言すれば、位相進み周波数域は、シャフト202の振動を減衰させる安定化領域であり、位相遅れ周波数域は、シャフト202の振動を発散させる不安定化領域である。
【0008】
したがって、コントローラ210は、ラジアル磁気軸受208およびスラスト磁気軸受207の吸引力を制御し、剛体1次振動モード、および剛体2次振動モードの固有周波数を操作している。具体的には、図9に示すように、剛体1次振動モードおよび剛体2次振動モードの固有周波数を位相進み周波数域に入れて、剛体1次振動モードおよび剛体2次振動モードの安定化を行っている。
また、曲げ振動モードについては位相進み周波数域に入らないため、例えば、フィードバック信号にノッチフィルタをかけることにより、曲げ振動モードの固有周波数付近におけるゲインを下げて安定化させている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】我妻隆夫、金光陽一、高橋直彦、福島康夫、松下修己「回転機械設計者のための磁気軸受ガイドブック」、日本工業出版株式会社、平成16年7月30日発刊、p.86−91
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、一般に、遠心圧縮機等の大型の回転機械に磁気軸受装置を適用する場合、曲げ振動モードの固有周波数が低下し、剛体1次振動モードおよび剛体2次振動モードの固有周波数に近くなることがある。
このとき、前述のようにノッチフィルタにより曲げ振動モードの固有周波数におけるゲインを下げると、曲げ振動モードの固有周波数近傍のゲインも低下する。これにより、剛体1次振動モードおよび剛体2次振動モードの固有周波数が不安定となり、安定化できなくなるおそれがある。
【0011】
そこで本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、曲げ振動モードの固有周波数と、剛体1次振動モードおよび剛体2次振動モードの固有周波数とが近接している場合であっても、曲げ振動モードの安定化ができる磁気軸受装置と、この磁気軸受装置を備えた回転機械の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、本発明の磁気軸受装置は、回転駆動するシャフトの端部に設けられ、前記シャフトと一体に回転するスラストディスクと、磁力により前記スラストディスクのスラスト力を支持するスラスト磁気軸受と、前記スラストディスクの傾きを検出する傾斜検出手段と、前記傾斜検出手段に検出された傾きに起因する所定周期の振動によって、前記スラスト磁気軸受の磁力を制御する制御部と、から構成され、前記スラスト磁気軸受は、周方向に複数に分割された磁力発生部を有し、前記制御部は、前記磁力発生部を各々制御することを特徴としている。
【0013】
本発明によれば、スラスト磁気軸受の磁力発生部は、周方向に複数に分割されているので、各磁力発生部の吸引力を細かく制御することができる。すなわち、スラスト磁気軸受は、シャフトに曲げ振動モードが発生したときであっても、ゲインを低下させることなく、シャフトの湾曲を低減させる方向に吸引力を発生させ、シャフトの振動を減衰させることができる。したがって、大型の回転機械のように、曲げ振動モードの固有周波数と、剛体1次振動モードおよび剛体2次振動モードの固有周波数とが近接している場合であっても、曲げ振動モードの安定化ができる。
【0014】
また、前記傾斜検出手段は、前記シャフトのラジアル方向の変位を検出するラジアルセンサを使用していることが望ましい。
本発明によれば、ラジアルセンサを使用してスラストディスクの傾斜を検出するので、従来と同じ装置構成でスラストディスクの傾斜を検出することができる。したがって、新たにスラストディスクの傾斜を検出するセンサを追加する必要がないので、低コストに磁気軸受装置を構成することができる。
【0015】
また、前記所定周期は、曲げ振動モードの振動周期であることが望ましい。
本発明によれば、曲げ振動モードの振動周期を基にスラスト磁気軸受の磁力を制御しているので、ゲインを低下させることなく振動を減衰させて、曲げ振動モードの安定化ができる。
【0016】
また、前記所定周期は、コニカルモードの振動周期であることが望ましい。
本発明によれば、コニカルモードの振動周期を基にスラスト磁気軸受の磁力を制御しているので、ゲインを低下させることなく振動を減衰させて、コニカルモードの安定化ができる。
【0017】
また、本発明の回転機械は、上述の磁気軸受装置を備えたことを特徴としている。
本発明の回転機械は、曲げ振動モードの安定化ができる磁気軸受装置を備えている。したがって、例えば、遠心圧縮機のように、曲げ振動モードの固有周波数と、剛体1次振動モードおよび剛体2次振動モードの固有周波数とが近接している大型の回転機械であっても、曲げ振動モードの安定化ができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、スラスト磁気軸受の磁力発生部は、周方向に複数に分割されているので、各磁力発生部の吸引力を細かく制御することができる。すなわち、スラスト磁気軸受は、シャフトに曲げ振動モードが発生したときであっても、ゲインを低下させることなく、シャフトの湾曲を低減させる方向に吸引力を発生させ、シャフトの振動を減衰させることができる。したがって、大型の回転機械のように、曲げ振動モードの固有周波数と、剛体1次振動モードおよび剛体2次振動モードの固有周波数とが近接している場合であっても、曲げ振動モードの安定化ができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の回転機械の説明図である。
【図2】磁気軸受装置の説明図である。
【図3】図2のA−A線における断面図である。
【図4】磁気軸受装置のブロック図である。
【図5】曲げ振動モード発生時の磁気軸受装置の説明図である。
【図6】第2実施形態のスラスト磁気軸受の説明図である。
【図7】一般的な磁気軸受装置を備えた回転機械の説明図である。
【図8】シャフトの各振動モードの説明図である。
【図9】各振動モードの周波数域の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
(遠心圧縮機)
図1は、本発明の磁気軸受装置20を適用した遠心圧縮機100の説明図である。
遠心圧縮機100は、主として、中心軸O周りに回転するシャフト5と、シャフト5に取り付けられ、遠心力を利用してガス(気体)Gを圧縮するインペラ10と、シャフト5を回転可能に支持すると共にガスGを上流側から下流側に流す流路104を形成したケーシング105と、によって構成されている。なお、図示例ではシャフト5にインペラ10が直列に6個設けられているが、少なくとも1個設けられていればよい。
【0021】
ケーシング105のうち軸方向の一方側(図1における左側)には、ガスGを外部から流入させる吸込口105cが設けられている。また、軸方向の他方側(図1における右側)には、ガスGが外部に流出する排出口105dが設けられている。
ケーシング105内には、これら吸込口105c及び排出口105dにそれぞれ連通し、縮径及び拡径を繰り返す内部空間が設けられている。この内部空間は、インペラ10を収容する空間として機能すると共に流路104としても機能する。すなわち、吸込口105cと排出口105dとは、インペラ10及び流路104を介して連通している。
【0022】
(第1実施形態の磁気軸受装置)
次に、第1実施形態の磁気軸受装置20について説明する。
図2は、磁気軸受装置20の説明図である。
なお、以下の説明では、説明を簡単にするために、遠心圧縮機100(図1参照)を流れるガスGの上流側(図2における左側)を単に前側といい、下流側(図2における右側)を単に後側として説明する場合がある。
【0023】
本実施形態の磁気軸受装置20は、主にスラストディスク27のスラスト力を支持するスラスト磁気軸受25と、スラストディスク27の傾きを検出する第1ラジアルセンサ23aおよび第2ラジアルセンサ23b(傾斜検出手段)と、スラスト磁気軸受25を制御するコントローラ21(制御部)と、により構成されている。
【0024】
スラストディスク27は、ケーシング105(図1参照)の中心を貫くシャフト5の後側(図2における右側)に配置されている。スラストディスク27は、略円盤状の部材であり、プレス等により形成される。特に、薄板の電磁鋼板を積層することにより、渦電流が発生しにくいスラストディスク27を形成することができる。スラストディスク27は、例えば、焼き嵌めや圧入等によってシャフト5と同軸になるように嵌合されており、シャフト5と一体的に回転する。
【0025】
(スラスト磁気軸受)
スラスト磁気軸受25は、スラストディスク27を挟んで軸方向の前側に配置された前側スラスト磁気軸受25aと、軸方向の後側に配置された後側スラスト磁気軸受25bとにより構成されている。なお、前側スラスト磁気軸受25aと、後側スラスト磁気軸受25bとは同一の構造をしているため、以下では、後側スラスト磁気軸受25bについて説明し、前側スラスト磁気軸受25aについては説明を省略している。
【0026】
図3は、図2のA−A線における断面図である。
図3に示すように、後側スラスト磁気軸受25bは、電磁石26(磁力発生部)を有している。後側スラスト磁気軸受25bの電磁石26は、軸方向から見て上側に配置された第1電磁石26a、および下側に配置された第2電磁石26bの、2個の電磁石により構成されている。すなわち、後側スラスト磁気軸受25bの磁力発生部は、周方向に2分割されている。
【0027】
第1電磁石26aおよび第2電磁石26bは、それぞれ第1コイル29aおよび第2コイル29bが巻回されることにより形成されている。
スラストディスク27における第1電磁石26aおよび第2電磁石26bが形成される領域には、第1コイル29aおよび第2コイル29bを収容するためのリング状の溝(不図示)が設けられている。そして、リング状の溝に沿うように導線を巻回することにより、第1コイル29aおよび第2コイル29bが形成されている。
【0028】
第1コイル29aおよび第2コイル29bの中心軸は、シャフトの中心軸Oと略平行になるように形成される。したがって、コントローラ21のドライバ(図4参照)から第1コイル29aおよび第2コイル29bに励磁電流を供給すると、スラスト磁気軸受25からは、中心軸Oに沿った方向に磁界が発生する。なお、本実施形態のスラスト磁気軸受25は、前側から後側(図2における左側から右側)に向かって磁界を発生している。そして、スラストディスク27を後側に吸引することにより、スラストディスク27とスラスト磁気軸受25とのエアギャップを所定の値に保持している。
【0029】
さらに本発明のスラスト磁気軸受25は、前述のように第1電磁石26aと第2電磁石26bとを有している。したがって、ドライバD3およびドライバD4(図4参照)をPID制御部C3で制御することにより、第1コイル29aおよび第2コイル29bに供給する励磁電流値を制御し、第1電磁石26aおよび第2電磁石26bの磁力を制御することができる。したがって、スラストディスク27が、前側スラスト磁気軸受25aと後側スラスト磁気軸受25bとの間で傾斜しても、第1電磁石26aおよび第2電磁石26bの磁力を制御し、スラストディスク27の傾斜を抑制することができる。これにより、シャフト5に曲げ振動モードが発生しても、曲げ振動モードの安定化ができる。なお、スラスト磁気軸受25の作用の詳細については後述する。
【0030】
(ラジアル磁気軸受)
ラジアル磁気軸受28は、シャフト5の両端に配置されており、シャフト5の前側(図2における左側)に配置された第1ラジアル磁気軸受28aと、シャフト5の後側(図2における右側)に配置された第2ラジアル磁気軸受28bとにより構成されている。
ラジアル磁気軸受28は、不図示の鉄心に複数の不図示のコイルが巻回されることにより形成される。ラジアル磁気軸受28は、コイルに励磁電流が流れることによりシャフト5の径方向に磁界を発生し、シャフト5とラジアル磁気軸受28とのエアギャップが所定の値になるように保持している。
【0031】
第1ラジアル磁気軸受28aのコイルには、ドライバD1から励磁電流が供給され、第2ラジアル磁気軸受28bのコイルには、ドライバD2から励磁電流が供給される。ドライバD1は、PID制御部C1により制御され、ドライバD2は、PID制御部C2により制御されている。
【0032】
(傾斜検出手段)
磁気軸受装置20には、スラストディスク27の傾きを検出する傾斜検出手段が設けられている。本実施形態の傾斜検出手段は、ラジアルセンサ23(第1ラジアルセンサ23aおよび第2ラジアルセンサ23b)により構成されている。
ラジアルセンサ23は、シャフト5の両端に配置されており、第1ラジアルセンサ23aは第1ラジアル磁気軸受28aの前側に、第2ラジアルセンサ23bは第2ラジアル磁気軸受28bの後側に配置されている。なお、第1ラジアル磁気軸受28aおよび第2ラジアルセンサ23bの配置はこれに限られることなく、例えば、第1ラジアルセンサ23aは第1ラジアル磁気軸受28aの後側に、第2ラジアルセンサ23bは第2ラジアル磁気軸受28bの前側に配置されていてもよい。
【0033】
第1ラジアルセンサ23aおよび第2ラジアルセンサ23bは、渦電流式やインダクション式のセンサが採用される。例えば、渦電流式のセンサの場合、各振動モードでシャフト5が傾くと、電磁誘導作用により、第1ラジアルセンサ23aおよび第2ラジアルセンサ23b内のコイルを通過する磁束密度が変化し、磁束密度の変化に応じてコイルのインピーダンスが変化する。このコイルのインピーダンスの変化から、シャフト5の傾斜、およびスラストディスク27の傾斜を検出することができる。
【0034】
(コントローラ)
図4は、磁気軸受装置20のブロック図である。
上述したラジアル磁気軸受28およびスラスト磁気軸受25は、コントローラ21(制御部)により制御される。
コントローラ21は、主に、PID制御部C1,C2,C3と、各電磁石のコイルに励磁電流を供給するドライバD1,D2,D3,D4と、曲げ振動モードの発生を検出する検出フィルタFと、により構成されている。
また、コントローラ21は、ラジアル磁気軸受28を制御するラジアル制御系と、スラスト磁気軸受25を制御するスラスト制御系と、検出フィルタFにより曲げ振動モードが検出されたときにスラスト磁気軸受25を制御する曲げ減衰制御系と、により構成されている。
【0035】
ラジアル制御系では、第1ラジアルセンサ23aおよび第2ラジアルセンサ23bにより、シャフト5のラジアルずれを検出すると、PID制御部C1,C2が演算を行い、第1ラジアル磁気軸受28a、および第2ラジアル磁気軸受28bの各コイルに流す励磁電流を算出している。そして、ドライバD1,D2は、PID制御部C1,C2が算出した励磁電流値に基づき、第1ラジアル磁気軸受28a、および第2ラジアル磁気軸受28bの各コイルに励磁電流を供給している。
【0036】
スラスト制御系では、スラストセンサ24により、スラストディスク27のスラストずれを検出すると、PID制御部C3が演算を行い、スラスト磁気軸受25の第1コイル29aおよび第2コイル29bに流す励磁電流を算出している。
さらに、シャフト5に曲げ振動モードが発生した場合には、第1ラジアルセンサ23aおよび第2ラジアルセンサ23bの各値から、検出フィルタFがシャフト5の曲げ振動モードを検出する。そして、曲げ減衰制御系は、曲げ振動モードを減衰させるように、スラスト磁気軸受25の第1コイル29aおよび第2コイル29bに流す励磁電流を算出している。
また、ドライバD3は、PID制御部C3および曲げ減衰制御系が算出した励磁電流値に基づき、スラスト磁気軸受25の第1コイル29aおよび第2コイル29bに励磁電流を供給している。
【0037】
その後、ラジアル制御系、スラスト制御系、および曲げ減衰制御系の各制御系により操作され、変位したシャフト5のラジアル位置、スラストディスク27のスラスト位置、およびスラストディスク27の傾斜(すなわち曲げ振動モードの有無)を、第1ラジアルセンサ23a、第2ラジアルセンサ23bおよびスラストセンサ24により再度検出する。そして、再度PID制御部C1〜C3で演算を行い、各ドライバD1〜D4が供給する電流を調整するというフィードバック制御を繰り返している。
【0038】
(作用)
次に、本実施形態の磁気軸受装置20の作用について説明する。
図5は、曲げ振動モード発生時の磁気軸受装置20の説明図である。
図5に示すように、シャフト5が湾曲する曲げ振動モードが発生すると、スラストディスク27に傾斜が発生する。なお、以下では、スラストディスク27の上側が前側(図5における左側)に傾斜し、スラストディスク27の下側が、後側(図5における右側)に傾斜している場合について説明する。
【0039】
曲げ振動モードが発生するとシャフト5が湾曲する(図8(d)参照)。このため、曲げ振動モード時のシャフト5と、第1ラジアルセンサ23aおよび第2ラジアルセンサ23bとのエアギャップは、定常状態におけるシャフト5と、第1ラジアルセンサ23aおよび第2ラジアルセンサ23bとのエアギャップから変化している。
第1ラジアルセンサ23aおよび第2ラジアルセンサ23bは、エアギャップの変化を検出し、さらにコントローラ21に設けられた検出フィルタFにより、コントローラ21は曲げ振動モードの発生を検出する。
【0040】
検出フィルタFが曲げ振動モードの発生を検出すると、曲げ減衰制御系が動作する。曲げ減衰制御系では、スラストディスク27の傾斜を抑制してシャフトを伸長させ、曲げ振動モードの振動を減衰させるための励磁電流値を算出している。そして、第1電磁石26aに励磁電流を供給するドライバD3、および第2電磁石26bに励磁電流を供給するドライバD4に指令を与える。
【0041】
ここで、本実施形態のスラスト磁気軸受25は、前側から後側(図2における左側から右側)に向かってスラストディスク27を吸引して、スラストディスク27とスラスト磁気軸受25とのエアギャップを所定の値に保持している。
そのため、図5に示すように、スラストディスク27の上側が前方に移動し、スラストディスク27の下側が後方に移動するように傾斜を生じようとしている場合には、上側に配置された第1電磁石26aの吸引力を増大させ、下側に配置された第2電磁石26bの吸引力を減少させればよい。
【0042】
したがって、曲げ減衰制御系は、第1電磁石26aに励磁電流を供給するドライバD3には、第1コイル29aに流れる励磁電流を増加させるように指令を与える。これに対して、第2電磁石26bに励磁電流を供給するドライバD4には、第2コイル29bに流れる励磁電流を減少させるように指令を与える。
そして、フィードバック制御により以上の操作を繰り返すことにより、スラストディスク27の傾斜を抑制し、曲げ振動モードの振動を減衰させている。
【0043】
(第1実施形態の効果)
本実施形態によれば、スラスト磁気軸受25の磁力発生部である電磁石26は、上側の第1電磁石26aと、下側の第2電磁石26bとに分割されているので、第1電磁石26a、および第2電磁石26bの吸引力を細かく制御することができる。すなわち、本実施形態のスラスト磁気軸受25は、シャフト5に曲げ振動モードが発生したときであっても、ゲインを低下させることなく、シャフト5の曲げを低減させる方向に吸引力を発生させ、シャフト5の振動を減衰させることができる。したがって、例えば遠心圧縮機100(図1参照)等の大型の回転機械1のように、曲げ振動モードの固有周波数と、剛体1次振動モードおよび剛体2次振動モードの固有周波数とが近接している場合であっても、曲げ振動モードの安定化ができる。
【0044】
また、本実施形態によれば、ラジアルセンサ23を使用して、ラジアルセンサ23とシャフト5とのエアギャップの変化を検知することでスラストディスク27の傾斜を検出しているので、従来と同じ装置構成でスラストディスク27の傾斜を検出することができる。したがって、新たにスラストディスク27の傾斜を検出するセンサを追加する必要がないので、低コストに磁気軸受装置20を構成することができる。
【0045】
また、本実施形態によれば、曲げ振動モードの振動周期を基にスラスト磁気軸受25に設けられた第1電磁石26aおよび第2電磁石26bの磁力を制御している。したがって、ゲインを低下させることなくシャフト5の振動を減衰させ、曲げ振動モードの安定化ができる。
【0046】
また、本実施形態の遠心圧縮機100(図1参照)は、上述の磁気軸受装置20を備えているので、曲げ振動モードの固有周波数と、剛体1次振動モードおよび剛体2次振動モードの固有周波数とが近接していても、曲げ振動モードの安定化ができる。
【0047】
(第2実施形態のスラスト磁気軸受)
次に、第2実施形態のスラスト磁気軸受25について説明する。
図6は、第2実施形態のスラスト磁気軸受25の説明図である。
第1実施形態のスラスト磁気軸受25では、電磁石26は2箇所に設けられており、軸方向から見て上側に配置された第1電磁石26aと、下側に配置された第2電磁石26bとにより構成されていた。しかし、第2実施形態のスラスト磁気軸受25では、周方向に沿って電磁石26が4箇所に設けられている点で、第1実施形態とは異なっている。なお、第1実施形態と同様の構成部分については、詳細な説明を省略する。
【0048】
また、第2実施形態のスラスト磁気軸受25は、第1実施形態と同様に、前側スラスト磁気軸受25aと、後側スラスト磁気軸受25bとにより構成されており、前側スラスト磁気軸受25aと、後側スラスト磁気軸受25bとは同一の構造をしている。したがって、以下では後側スラスト磁気軸受25bについて説明し、前側スラスト磁気軸受25aについては説明を省略している。
【0049】
図6に示すように、後側スラスト磁気軸受25bには、軸方向から見て上側には第1電磁石26aが、下側には第2電磁石26bが、左側には第3電磁石26cが、右側には第4電磁石26dがそれぞれ配置されている。すなわち、後側スラスト磁気軸受25bの磁力発生部は、周方向に4分割されている。
第1電磁石26a、第2電磁石26b、第3電磁石26c、および第4電磁石26dは、それぞれ第1コイル29a、第2コイル29b、第3コイル29c、および第4コイル29dが巻回されることで形成される。
【0050】
第1実施形態と同様に、第1コイル29aおよび第2コイル29bは、それぞれコントローラ21のドライバD3およびドライバD4(図4参照)と接続されている。そして、ドライバD3およびドライバD4から供給される励磁電流値を変化させることにより、第1電磁石26aおよび第2電磁石26bの磁力の強さを変化させることができる。したがって、スラストディスク27が、前側スラスト磁気軸受25aと後側スラスト磁気軸受25bとの間で鉛直方向に傾斜しても、第1電磁石26aと第2電磁石26bとの間で吸引力を変化させ、スラストディスク27の傾斜を抑制している。
【0051】
さらに、第3コイル29cおよび第4コイル29dは、図4に示すドライバD3およびドライバD4と同様に構成された、ドライバD5およびドライバD6(不図示)と接続されている。そして、ドライバD5およびドライバD6から供給される励磁電流値を変化させることにより、第3電磁石26cと第4電磁石26dとで磁力の強さを変化させることができる。したがって、スラストディスク27が、前側スラスト磁気軸受25aと後側スラスト磁気軸受25bとの間で水平方向に傾斜しても、第3電磁石26cと第4電磁石26dとの間で吸引力を変化させ、スラストディスク27の傾斜を抑制している。
【0052】
(第2実施形態の効果)
本実施形態によれば、スラスト磁気軸受25の磁力発生部である電磁石26は、軸方向平面視で上側の第1電磁石26a、下側の第2電磁石26b、左側の第3電磁石26c、および右側の第4電磁石26dの4個に分割されている。これにより、第1電磁石26a、第2電磁石26b、第3電磁石26c、および第4電磁石26dの吸引力を細かく制御し、スラストディスク27の傾斜を抑制して、シャフト5の振動を減衰させることができる。したがって、第1実施形態よりも高精度にすばやく曲げ振動モードの安定化ができる。
【0053】
なお、この発明は上述した実施の形態に限られるものではない。
各実施形態では、回転機械1として遠心圧縮機100を例にして説明した。しかし、本発明はこれに限定されることはなく、例えば、斜流型の圧縮機に本発明を適用することもできる。
また、本発明の回転機械1は遠心圧縮機100に限定されることなく、例えば、送風機に適用することもできる。
【0054】
また、第1実施形態および第2実施形態では、磁気軸受装置20による曲げ振動モードが発生した場合の振動の安定化について説明した。しかし、磁気軸受装置20の適用は、曲げ振動モードに限られることはなく、例えばコニカルモードの振動の安定化についても適用できる。
【0055】
また、第1実施形態におけるスラスト磁気軸受25の電磁石26は2分割されており、第2実施形態におけるスラスト磁気軸受25の電磁石26は4分割されていた。しかし、電磁石26の分割数はこれらに限定されることはなく、例えば3分割や6分割であってもよい。
【符号の説明】
【0056】
1・・・回転機械 5・・・シャフト 20・・・磁気軸受装置 21・・・コントローラ(制御部) 23・・・ラジアルセンサ(傾斜検出手段) 25・・・スラスト磁気軸受 26・・・電磁石(磁力発生部) 27・・・スラストディスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動するシャフトの端部に設けられ、前記シャフトと一体に回転するスラストディスクと、
磁力により前記スラストディスクのスラスト力を支持するスラスト磁気軸受と、
前記スラストディスクの傾きを検出する傾斜検出手段と、
前記傾斜検出手段に検出された傾きに起因する所定周期の振動によって、前記スラスト磁気軸受の磁力を制御する制御部と、から構成され、
前記スラスト磁気軸受は、周方向に複数に分割された磁力発生部を有し、
前記制御部は、前記磁力発生部を各々制御することを特徴とする磁気軸受装置。
【請求項2】
前記傾斜検出手段は、前記シャフトのラジアル方向の変位を検出するラジアルセンサを使用していることを特徴とする請求項1に記載の磁気軸受装置。
【請求項3】
前記所定周期は、曲げ振動モードの振動周期であることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気軸受装置。
【請求項4】
前記所定周期は、コニカルモードの振動周期であることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気軸受装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の磁気軸受装置を備えたことを特徴とする回転機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−172756(P2012−172756A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35048(P2011−35048)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(310010564)三菱重工コンプレッサ株式会社 (45)
【Fターム(参考)】