説明

磁石用粉末

【課題】磁石特性に優れる希土類磁石が得られ、成形性に優れる磁石用粉末及びその製造方法、上記磁石の原料に利用される粉末成形体、希土類-鉄系合金材、希土類-鉄-窒素系合金材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】磁石用粉末を構成する各磁性粒子1は、Feなどの鉄含有物の相2中に希土類元素の水素化合物の相3の粒子が分散して存在する組織を有する。磁性粒子1中に鉄含有物の相2が均一的に存在することで、この粉末は成形性に優れ、相対密度が高い粉末成形体4が得られる。上記磁石用粉末は、希土類-鉄系合金粉末を水素雰囲気中で熱処理して希土類元素と鉄含有物とを分離し、かつ希土類元素の水素化合物を生成することで得られる。この磁石用粉末を圧縮成形して粉末成形体4が得られ、粉末成形体4を真空中で熱処理して希土類-鉄系合金材5が得られる。希土類-鉄系合金材5を窒素雰囲気中で熱処理して希土類-鉄-窒素系合金材6が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類磁石の原料に利用される磁石用粉末、この磁石用粉末の製造方法、この粉末から得られる粉末成形体、希土類-鉄系合金材、希土類-鉄-窒素系合金材、及び希土類-鉄系合金材の製造方法、希土類-鉄-窒素系合金材の製造方法に関する。特に、成形性に優れて、相対密度が高い粉末成形体を形成することができる磁石用粉末に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モータや発電機などに利用される永久磁石として、希土類磁石が広く利用されている。希土類磁石は、Nd(ネオジム)-Fe-BといったR-Fe-B系合金(R:希土類元素、Fe:鉄、B:ホウ素)からなる焼結磁石やボンド磁石が代表的である。ボンド磁石では、Nd-Fe-B系合金からなる磁石よりも更に磁石特性に優れるものとして、Sm(サマリウム)-Fe-N(窒素)系合金からなる磁石が検討されている。
【0003】
焼結磁石は、R-Fe-B系合金からなる粉末を圧縮成形した後、焼結することで製造され、ボンド磁石は、R-Fe-B系合金やSm-Fe-N系合金からなる合金粉末と結合樹脂とを混合した混合物を圧縮成形したり、射出成形することで製造される。特に、ボンド磁石に利用される合金粉末では、保磁力を高めるために、HDDR処理(Hydrogenation−Disproportionation−Desorption−Recombination、HD:水素化及び不均化、DR:脱水素及び再結合)を施すことが行われている。
【0004】
焼結磁石は、磁性相の比率が高いことで磁石特性に優れるものの、形状の自由度が小さく、例えば、円筒状や円柱状、ポット形状(有底筒形状)といった複雑な形状を成形することが困難であり、複雑な形状の場合、焼結材を切削する必要がある。一方、ボンド磁石は、形状の自由度が高いものの、焼結磁石よりも磁石特性に劣る。これに対して、特許文献1では、Nd-Fe-B系合金からなる合金粉末を微細なものとし、この合金粉末を圧縮成形した圧粉体(粉末成形体)にHDDR処理を施すことで、形状の自由度を高められる上に、磁石特性に優れる磁石が得られることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-123968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように焼結磁石では、磁石特性に優れるものの、形状の自由度が小さく、ボンド磁石では、形状の自由度が高いものの、結合樹脂が存在することで磁性相の比率が高々80体積%程度であり、磁性相の比率の向上が難しい。従って、磁性相の比率が高く、かつ複雑な形状であっても容易に製造可能な希土類磁石用原料の開発が望まれる。
【0007】
特許文献1に開示されるようなNd-Fe-B系合金からなる合金粉末や、この合金粉末にHDDR処理を施した粉末は、粉末を構成する粒子自体の剛性が高く、変形し難い。そのため、焼結することなく磁性相の比率が高い希土類磁石を得るために、相対密度が高い粉末成形体を圧縮成形により得ようとすると、比較的大きな圧力が必要となる。特に、合金粉末を粗大なものとすると、更に大きな圧力が必要となる。従って、相対密度が高い粉末成形体を成形し易い原料の開発が望まれる。
【0008】
また、特許文献1に記載されるように圧粉体にHDDR処理を施すと、当該処理時に圧粉体が膨張収縮することで、得られた磁石用多孔質体が崩壊する恐れがある。従って、製造途中に崩壊し難く、十分な強度を具えると共に、磁石特性に優れる希土類磁石が得られる原料の開発や製造方法の開発が望まれる。
【0009】
そこで、本発明の目的の一つは、成形性に優れて、相対密度が高い粉末成形体が得られる磁石用粉末を提供することにある。また、本発明の他の目的は、上記磁石用粉末の製造方法を提供することにある。
【0010】
更に、本発明の他の目的は、磁石特性に優れる希土類磁石が得られる、粉末成形体、希土類-鉄系合金材及びその製造方法、希土類-鉄-窒素系合金材及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、焼結することなく、希土類磁石における磁性相の比率を高めて磁石特性に優れる磁石を得るために、ボンド磁石のように結合樹脂を利用した成形ではなく、粉末成形体を利用することを検討した。上述のように、従来の原料粉末、即ち、Nd-Fe-B系合金、Sm-Fe-N系合金からなる合金粉末や、これらの合金粉末にHDDR処理を施した処理粉末は、硬くて変形能が小さく、圧縮成形時の成形性に劣り、粉末成形体の密度を向上させることが難しい。そこで、本発明者らは、成形性を高めるために種々検討した結果、希土類-鉄-ホウ素系合金や希土類-鉄-窒素系合金のように、希土類元素と鉄とが結合したものではなく、希土類元素と鉄とが結合せず、言わば鉄成分が希土類元素成分と独立的に存在する組織の粉末とすると、変形能が高く成形性に優れて、相対密度が高い粉末成形体が得られるとの知見を得た。また、当該粉末は、希土類-鉄系合金からなる合金粉末に特定の熱処理を施すことで製造できる、との知見を得た。そして、得られた粉末を圧縮成形した粉末成形体に特定の熱処理を施すことで、圧粉体にHDDR処理を施した場合や、HDDR処理が施された処理粉末を用いて成形体を作製した場合と同様な希土類-鉄系合金材が得られ、特に、相対密度が高い粉末成形体から得られた希土類-鉄系合金材を用いることで、磁性相の比率が高く、磁石特性に優れる希土類磁石が得られる、との知見を得た。本発明は、上記知見に基づくものである。
【0012】
本発明の磁石用粉末は、希土類磁石に用いられる粉末であり、当該磁石用粉末を構成する各磁性粒子が40体積%未満の希土類元素の水素化合物と、残部がFeを含む鉄含有物とから構成されている。上記各磁性粒子中では、上記希土類元素の水素化合物の相と上記鉄含有物の相とが隣接して存在しており、上記鉄含有物の相を介して隣り合う上記希土類元素の水素化合物の相間の間隔が3μm以下である。
【0013】
上記本発明磁石用粉末は、以下の本発明の磁石用粉末の製造方法により製造することができる。この製造方法は、希土類磁石に用いられる磁石用粉末を製造する方法であって、以下の準備工程と、水素化工程とを具える。
準備工程:添加元素に希土類元素を含有する希土類-鉄系合金からなる合金粉末を準備する工程。
水素化工程:上記希土類-鉄系合金粉末を、水素元素を含む雰囲気中、上記希土類-鉄系合金の不均化温度以上の温度で熱処理して、以下の磁性粒子から構成される磁石用粉末を形成する工程。
上記各磁性粒子は、40体積%未満の希土類元素の水素化合物と残部がFeを含む鉄含有物とからなり、上記希土類元素の水素化合物の相と上記鉄含有物の相とが隣接して存在しており、かつ上記鉄含有物の相を介して隣り合う上記希土類元素の水素化合物の相間の間隔が3μm以下である。
【0014】
本発明磁石用粉末を構成する各磁性粒子は、R-Fe-B系合金やR-Fe-N系合金のように単一相の希土類合金から構成されるのではなく、FeやFe化合物といった鉄含有物からなる相と希土類元素の水素化合物からなる相との複数相から構成される。上記鉄含有物の相は、上記R-Fe-B系合金やR-Fe-N系合金、上記希土類元素の水素化合物に比較して、柔らかく成形性に富む。また、本発明粉末を構成する各磁性粒子は、Fe(純鉄)を含む鉄含有物を主成分(60体積%以上)とすることで、本発明粉末を圧縮成形するとき、当該磁性粒子中のFe相といった鉄含有物の相が十分に変形できる。更に、上記鉄含有物の相は、上述のように希土類元素の水素化合物の相間に存在している、即ち、各磁性粒子中に鉄含有物の相が偏在せず均一的に存在しているため、圧縮成形時、各磁性粒子の変形が均一的に行われる。これらのことから、本発明粉末を用いることで、相対密度が高い粉末成形体を成形することができる。また、このような相対密度が高い粉末成形体を利用することで、焼結することなく、磁性相が高割合な希土類磁石を得ることができる。更に、Feなどの鉄含有物が十分に変形することで、磁性粒子同士が結合されるため、ボンド磁石のように結合樹脂を介在させることなく、磁性相の比率が80体積%以上、好ましくは90体積%以上といった希土類磁石が得られる。
【0015】
かつ、本発明磁石用粉末を圧縮成形した粉末成形体は、焼結磁石のように焼結を行わないことから、焼結時に生じる収縮の異方性に起因する形状の制約がなく、形状の自由度が大きい。従って、本発明粉末を用いることで、例えば、円筒状や円柱状、ポット形状といった複雑な形状であっても、切削加工などを実質的に行うことなく、容易に成形することができる。また、切削加工を不要とすることで、原料の歩留まりを飛躍的に向上したり、希土類磁石の生産性を向上したりすることができる。
【0016】
上記本発明磁石用粉末は、上述のように、希土類-鉄系合金の粉末を水素元素を含む雰囲気中で、特定の温度で熱処理することで容易に製造できる。この熱処理では、上記希土類-鉄系合金中の希土類元素と鉄含有物(Feなど)とを分離すると共に、当該希土類元素と水素とを結合する。
【0017】
本発明粉末の一形態として、上記希土類元素がSmである形態が挙げられる。
【0018】
上記形態によれば、磁石特性に優れるSm-Fe-N系合金からなる希土類磁石を得ることができる。
【0019】
本発明粉末の一形態として、上記希土類元素の水素化合物の相が粒状であり、上記鉄含有物の相中に、上記粒状の希土類元素の水素化合物が分散して存在する形態が挙げられる。
【0020】
上記形態によれば、上記希土類元素の水素化合物の粒子の周囲に鉄含有物が均一的に存在することで、鉄含有物を変形させ易く、相対密度が85%以上、更に90%以上、特に95%以上といった高密度の粉末成形体が得られ易い。
【0021】
本発明粉末の一形態として、上記磁性粒子の外周に酸素の透過係数(30℃)が1.0×10-11m3・m/(s・m2・Pa)未満である酸化防止層を具える形態が挙げられる。特に、上記酸化防止層は、酸素の透過係数(30℃)が1.0×10-11m3・m/(s・m2・Pa)未満である材料から構成された酸素低透過層と、透湿率(30℃)が1000×10-13kg/(m・s・MPa)未満である材料から構成された湿気低透過層とを具える形態が挙げられる。
【0022】
上記磁性粒子は酸化され易い希土類元素を含有している。これに対し、上記形態によれば、酸化され易い環境で圧縮成形されて、新生面が形成されても、上記酸化防止層により上記新生面の酸化を効果的に抑制できる。また、酸素低透過層と湿気低透過層との双方を具える形態によれば、多湿環境で圧縮成形された場合でも、湿気低透過層により雰囲気中の水分と上記新生面とが接触して上記磁性粒子が酸化されることを効果的に抑制できる。
【0023】
本発明粉末の一形態として、上記磁性粒子の平均粒径が10μm以上500μm以下である形態が挙げられる。
【0024】
上記形態によれば、平均粒径が10μm以上と比較的大きいことで、各磁性粒子の表面において希土類元素の水素化合物が占める割合(以下、占有率と呼ぶ)を相対的に小さくすることができる。上述のように希土類元素は一般に酸化し易いが、上記平均粒径を満たす粉末は、上記占有率が小さいことで酸化し難く、大気中で取り扱える。そのため、上記形態によれば、例えば、粉末成形体を大気中で成形でき、粉末成形体の生産性に優れる。また、本発明磁石用粉末は、上述のように鉄含有物の相を具えることで成形性に優れるため、例えば、平均粒径が100μm以上といった比較的粗大な粉末であっても、気孔が少なく、相対密度が高い粉末成形体を形成できる。平均粒径が500μm以下であると、粉末成形体の相対密度の低下を抑制でき、50μm以上200μm以下がより好ましい。
【0025】
上記本発明磁石用粉末は、粉末成形体の原料に好適に利用できる。例えば、本発明の粉末成形体は、希土類磁石の原料に用いられるものであり、上記本発明粉末を圧縮成形して製造され、相対密度が85%以上である形態が挙げられる。
【0026】
本発明磁石用粉末は、上述のように成形性に優れるため、上記形態のような高密度な粉末成形体が得られる。また、上記形態の粉末成形体を原料に用いることで、磁性相の比率が高い希土類磁石が得られる。
【0027】
本発明粉末成形体は、希土類-鉄系合金材の原料に好適に利用できる。例えば、本発明の希土類-鉄系合金材は、希土類磁石の原料に用いられるものであり、上記本発明粉末成形体を不活性雰囲気中、又は減圧雰囲気中で熱処理して製造された形態が挙げられる。この本発明希土類-鉄系合金材は、例えば、本発明希土類-鉄系合金材の製造方法により製造することができる。本発明の希土類-鉄系合金材の製造方法は、希土類磁石に用いられる希土類-鉄系合金材を製造する方法に係るものであり、上述した本発明磁石用粉末の製造方法により得られた磁石用粉末を圧縮成形して、相対密度が85%以上である粉末成形体を成形する成形工程と、上記粉末成形体を不活性雰囲気中、又は減圧雰囲気中で、当該粉末成形体の再結合温度以上の温度で熱処理して、上記希土類-鉄系合金材を形成する脱水素工程とを具える。
【0028】
上記熱処理(脱水素)により、上記粉末成形体を構成する各磁性粒子中の希土類元素の水素化合物から水素を除去すると共に、鉄含有物の相と、水素が除去された希土類元素とを化合することで、上記希土類-鉄系合金材が得られる。得られた本発明希土類-鉄系合金材は、高密度な粉末成形体を利用することで、磁性相の比率が高く、磁石特性に優れる希土類磁石の素材として好適に利用できる。
【0029】
本発明希土類-鉄系合金材は、希土類-鉄-窒素系合金材の原料に好適に利用できる。例えば、本発明の希土類-鉄-窒素系合金材は、希土類磁石の原料に用いられ、上記本発明希土類-鉄系合金材を窒素元素を含む雰囲気中で熱処理して製造された形態が挙げられる。この本発明希土類-鉄-窒素系合金材は、例えば、本発明の希土類-鉄-窒素系合金材の製造方法により製造することができる。本発明の希土類-鉄-窒素系合金材の製造方法は、希土類磁石に用いられる希土類-鉄-窒素系合金材を製造する方法に係るものであり、上述した本発明希土類-鉄系合金材の製造方法により得られた希土類-鉄系合金材を窒素元素を含む雰囲気中、上記希土類-鉄系合金の窒化温度以上窒素不均化温度以下の温度で熱処理して、希土類-鉄-窒素系合金材を形成する窒化工程を具える。
【0030】
上記熱処理(窒化)により、上記希土類-鉄系合金に窒素が結合して、上記希土類-鉄-窒素系合金材が形成される。得られた本発明希土類-鉄-窒素系合金材は、適宜磁化することで、希土類磁石として好適に利用することができる。上述のように希土類-鉄合金材は、高密度な粉末成形体を利用して製造されていることで、得られた希土類磁石は磁性相の比率が高く、磁石特性に優れる。
【0031】
本発明希土類-鉄系合金材の一形態として、上記熱処理(脱水素)の前の粉末成形体と、当該熱処理(脱水素)の後の希土類-鉄系合金材との体積変化率が5%以下である形態が挙げられる。また、本発明希土類-鉄-窒素系合金材の一形態として、上記熱処理(窒化)の前の希土類-鉄系合金材と、当該熱処理(窒化)の後の希土類-鉄-窒素系合金材との体積変化率が5%以下である形態が挙げられる。
【0032】
上述のように高密度な粉末成形体を利用することで、上記形態のように熱処理(脱水素)前後や熱処理(窒化)前後の体積変化が小さい、即ち、ネットシェイプである希土類-鉄系合金材や希土類-鉄-窒素系合金材が得られる。ネットシェイプであることで、所望の形状にするための加工(例えば、切断、切削加工)を不要、或いは簡単にすることができ、上記形態によれば、希土類磁石の生産性に優れる。特に、上記両熱処理(脱水素及び窒化)の前後において体積変化が小さい場合、最終形状にするための上記切断などの加工を不要、或いはより簡単にできる。
【0033】
本発明希土類-鉄-窒素系合金材の一形態として、上記希土類-鉄-窒素系合金材を構成する希土類-鉄-窒素系合金が、Sm-Fe-Ti-N合金である形態が挙げられる。
【0034】
希土類磁石に利用可能な希土類-鉄-窒素系合金材を構成する希土類-鉄-窒素系合金として、Sm-Fe-N合金、より具体的にはSm2Fe17N3が挙げられ、この原料となる希土類-鉄系合金材を構成する希土類-鉄系合金として、Sm2Fe17が挙げられる。Sm2Fe17を窒化してSm2Fe17N3にするには、窒素の比率を高精度に制御する必要があり、希土類-鉄-窒素系合金材の生産性の向上が望まれる。
【0035】
これに対し、希土類-鉄-窒素系合金材の構成材料をSm-Ti-Fe-N合金、より具体的にはSm1Fe11Ti1N1とし、この原料となる希土類-鉄系合金材の構成材料をSm1Fe11Ti1とすると、Sm1Fe11Ti1は窒化処理を安定かつ均一的に行え、希土類-鉄-窒素系合金材の生産性に優れる。
【0036】
また、Sm1Fe11Ti1は、希土類元素:Smに対して、鉄含有成分:Fe,FeTiの比率が、Sm2Fe17よりも高い。具体的には、Sm2Fe17がSm:Fe=2:17であるのに対し、Sm1Fe11Ti1は、Sm:Fe:Ti=1:11:1、即ち、Sm:(Fe+FeTi)=1:12である。従って、Sm1Fe11Ti1からなる希土類-鉄系合金材を製造するための原料粉末として、FeやFeTi化合物を含有する鉄含有物の相とSmの水素化合物の相とを含む磁性粒子から構成されるものを利用すると、成形性に富む鉄含有成分が多く存在するため、成形性にも優れる。そして、このような粉末を利用することで、高密度な粉末成形体を安定して、かつ容易に得られる。また、上記Tiを含む材質とすることで、希少資源であるSmの使用量の抑制にもつながる。以上の知見から、希土類-鉄-窒素系合金材として、Sm-Ti-Fe-N合金からなるものを提案する。
【0037】
上記形態によれば、上述のように粉末成形体の成形性、窒化処理時の安定性に優れることから、生産性に優れる。また、上記形態によれば、上述のように高密度な粉末成形体を利用して製造することで、磁性相の比率が高く、磁石特性に優れる希土類磁石が得られる。
【0038】
本発明粉末の一形態として、上記希土類元素がSmであり、上記鉄含有物がFeとFeTi化合物とを含有する形態が挙げられる。
【0039】
上記形態によれば、上述のように希土類元素:Smに対して、鉄含有物:Fe,FeTi化合物(金属間化合物)が相対的に多いことで成形性に優れ、例えば、相対密度が90%以上である粉末成形体を形成することができる。また、上記形態によれば、上述のように安定かつ均一的に窒化処理を行える。従って、上記形態の本発明磁石用粉末を利用することで、磁性相が高割合な希土類磁石が得られる上に、窒素含有量のばらつきによる磁石特性のばらつきを抑制できるため、磁石特性に優れる希土類磁石を安定して生産性よく製造することができる。
【0040】
本発明粉末成形体の一形態として、上記希土類元素がSmであり、上記鉄含有物にFeとFeTi化合物とを含有する本発明粉末を圧縮成形して製造され、相対密度が90%以上である形態が挙げられる。
【0041】
上記形態によれば、上述のように窒化処理を安定して、かつ当該粉末成形体全体に亘って均一的に行えることから、磁性相の比率が高く、かつ窒素含有量による磁石特性のばらつきが少ない希土類磁石を製造することができ、当該磁石の素材に好適に利用することができる。また、上記形態によれば、このような磁石特性に優れる希土類磁石の生産性の向上に寄与することができる。
【0042】
本発明磁石用粉末の製造方法の一形態として、上記希土類-鉄系合金がSm-Fe-Ti合金である形態が挙げられる。
【0043】
上記形態によれば、水素化工程により、Sm-Fe-Ti合金をSmの水素化合物と、Fe及びFe-Ti合金を含有する鉄含有物とに分離することができ、上述のように鉄含有成分が相対的に多く存在して成形性に優れる磁石用粉末が得られる。また、得られた磁石用粉末を利用することで、上述のように高密度な粉末成形体が得られる上に、当該粉末成形体に脱水素熱処理を施した後、窒化処理を施す際、安定して、かつ均一的に窒化処理を行える。
【0044】
本発明希土類-鉄-窒素系合金材の製造方法の一形態として、上記窒化工程を100MPa以上の加圧下で行う形態が挙げられる。
【0045】
上記形態によれば、窒化処理を加圧下とすることで、窒化処理時の温度を低下できるため、希土類-鉄系合金を構成する鉄元素や希土類元素などがそれぞれ分解されて、鉄窒化物や希土類元素の窒化物が独立して形成されることを防止できる。即ち、所望の窒化物:希土類-鉄-窒素系合金材以外の窒化物が形成されることを効果的に防止できる。従って、上記形態によれば、上記加圧により、所望の希土類-鉄-窒素化合物を得るための熱処理温度を低下できることから、窒化処理の対象である希土類-鉄系合金を構成する各元素の窒化反応性を低下して、不要な窒化物の生成による磁石特性の低下を防止できる。
【発明の効果】
【0046】
本発明磁石用粉末は、成形性に優れ、相対密度が高い本発明粉末成形体が得られる。本発明粉末成形体や、本発明希土類-鉄系合金材、本発明希土類-鉄-窒素系合金材を用いることで、磁性相の比率が高い希土類磁石が得られる。本発明磁石用粉末の製造方法、本発明希土類-鉄系合金材の製造方法、本発明希土類-鉄-窒素系合金材の製造方法は、上記本発明磁石用粉末、上記本発明希土類-鉄系合金材、本発明希土類-鉄-窒素系合金材を生産性よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】図1は、試験例1で作製した本発明磁石用粉末を用いて磁石を製造する工程の一例を説明する工程説明図である。
【図2】図2は、試験例3で作製した本発明磁石用粉末を用いて磁石を製造する工程の一例を説明する工程説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、本発明をより詳細に説明する。
[磁石用粉末]
本発明磁石用粉末を構成する各磁性粒子は、主成分を鉄含有物とし、その含有量を60体積%以上とする。鉄含有物の含有量が60体積%未満であると、硬質である希土類元素の水素化合物が相対的に多くなって、圧縮成形時、鉄含有物を十分に変形することが難しく、多過ぎると最終的に磁石特性の低下を招くことから90体積%以下が好ましい。
【0049】
鉄含有物は、Fe(純鉄)のみの形態、Feの一部がCo,Ga,Cu,Al,Si,及びNbから選択される少なくとも一種の元素に置換され、Feと当該置換元素とからなる形態、FeとFeを含む鉄化合物(例えば、FeTi化合物)とからなる形態、Feと上記置換元素と上記鉄化合物とからなる形態が挙げられる。鉄含有物が上記置換元素を含む形態では、磁石特性や耐食性を向上することができ、FeTiといった鉄化合物を含む形態では、上述のように(1)希土類元素に対して相対的に鉄含有物の割合を高めて成形性に優れ、高密度な粉末成形体が得られる、(2)脱水素熱処理後の窒化処理を安定して行える、(3)最終的に磁性相の比率が高く、磁石特性に優れる希土類磁石が得られる、といった優れた効果を奏する。鉄含有物中のFeと鉄化合物などとの存在比率は、例えば、X線回折のピーク強度(ピーク面積)を測定し、測定したピーク強度を比較することで求められる。上記存在比率は、本発明磁石用粉末の原料になる希土類-鉄-窒素系合金の組成を適宜変更することで調整できる。
【0050】
一方、希土類元素の水素化合物を含有しないと、希土類磁石が得られないことから、その含有量は、0体積%超とし、10体積%以上が好ましく、40体積%未満とする。鉄含有物の含有量、及び希土類元素の水素化合物の含有量は、本発明磁石用粉末の原料となる希土類-鉄系合金の組成や当該粉末を製造する際の熱処理条件(主に温度)を適宜変化させることで調整できる。なお、上記磁石用粉末を構成する各磁性粒子は、不可避不純物の含有を許容する。
【0051】
上記各磁性粒子に含有される希土類元素は、Sc(スカンジウム),Y(イットリウム),ランタノイド及びアクチノイドから選択される1種以上の元素とする。特に、ランタノイドのSm(サマリウム)であると、磁石特性に優れるSm-Fe-N系合金からなる希土類磁石が得られる。Smに加えて別の希土類元素を含有する場合、例えば、Pr,Dy,La,及びYの少なくとも1種の元素が好ましい。希土類元素の水素化合物は、例えば、SmH2が挙げられる。
【0052】
上記各磁性粒子は、上記希土類元素の水素化合物の相と上記鉄含有物の相とが均一的に離散して存在した組織を有する。この離散した状態とは、上記各磁性粒子中において、上記希土類元素の水素化合物の相と上記鉄含有物の相とが隣接して存在し、上記鉄含有物の相を介して隣り合う上記希土類元素の水素化合物の相間の間隔が3μm以下であることを言う。代表的には、上記両相が多層構造となっている層状形態、上記希土類元素の水素化合物の相が粒状であり、上記鉄含有物の相を母相として、この母相中に上記粒状の希土類元素の水素化合物が分散して存在する粒状形態が挙げられる。
【0053】
上記両相の存在形態は、本発明磁石用粉末を製造する際の熱処理条件(主に温度)に依存し、上記温度を高めると粒状形態になり、上記温度を不均化温度近傍とすると、層状形態となる傾向にある。
【0054】
上記層状形態の粉末を用いることで、結合樹脂を用いることなく、例えば、磁性相の比率がボンド磁石と同程度(80体積%程度)である希土類磁石を得ることができる。なお、上記層状形態の場合、希土類元素の水素化合物の相と鉄含有物の相とが隣接するとは、上記磁性粒子の断面をとったとき、各相が実質的に交互に積層された状態を言う。また、上記層状形態の場合、隣り合う希土類元素の水素化合物の相間の間隔とは、上記断面において鉄含有物の相を介して隣り合う二つの希土類元素の水素化合物の相の中心間の距離を言う。
【0055】
上記粒状形態は、希土類元素の水素化合物の粒子の周囲に鉄含有物が均一的に存在することで、上記層状形態よりも鉄含有物を変形させ易く、例えば、円筒状や円柱状、ポット形状といった複雑な形状の粉末成形体や、相対密度が85%以上、更に90%以上、特に95%以上といった高密度の粉末成形体を得易い。上記粒状形態の場合、希土類元素の水素化合物の相と鉄含有物の相とが隣接するとは、代表的には、上記磁性粒子の断面をとったとき、希土類元素の水素化合物の粒子の周囲を覆うように鉄含有物が存在し、隣り合う各希土類元素の水素化合物の粒子間に鉄含有物が存在する状態を言う。また、上記粒状形態の場合、隣り合う希土類元素の水素化合物の相間の間隔とは、上記断面において隣り合う二つの希土類元素の水素化合物の粒子の中心間の距離を言う。
【0056】
上記間隔の測定は、例えば、上記断面をエッチングして鉄含有物の相を除去して希土類元素の水素化合物を抽出したり、或いは溶液の種類によっては希土類元素の水素化合物を除去して鉄含有物を抽出したり、上記断面をEDX(エネルギー分散型X線分光法)装置により組成分析したりすることで測定することができる。上記間隔が3μm以下であることで、この粉末を用いた粉末成形体に適宜熱処理を施して、希土類元素の水素化合物と鉄含有物との混合組織を希土類-鉄系合金に変化させて希土類-鉄系合金材を形成する場合に、過度なエネルギーを投入しなくて済む上に、希土類-鉄系合金の結晶の粗大化による特性の低下を抑制できる。希土類元素の水素化合物の相間に鉄含有物が十分に存在するためには、上記間隔は、0.5μm以上、特に1μm以上が好ましい。上記間隔は、例えば、原料に用いる希土類-鉄系合金の組成を調整したり、磁石用粉末を製造する際の熱処理条件、特に温度を特定の範囲にすることで調整できる。例えば、希土類-鉄系合金において鉄の比率(原子比)を多くしたり、上記特定の条件において上記熱処理(水素化)時の温度を高くすると、上記間隔が大きくなる傾向にある。
【0057】
上記磁性粒子は、その断面における円形度が0.5以上1.0以下である形態が挙げられる。円形度が上記範囲を満たすことで、(1)後述する酸化防止層や絶縁被覆などを均一的な厚さで形成し易い、(2)圧縮成形時に酸化防止層や絶縁被覆などの破損を抑制できる、といった効果が得られて好ましい。上記磁性粒子が真球に近い、即ち、円形度が1に近いほど、上記効果が得られる。円形度の測定方法は後述する。
【0058】
≪酸化防止層≫
本発明粉末は、酸化し易い希土類元素を含有することから、例えば、大気雰囲気などの酸素を含む雰囲気で圧縮成形を行うと、圧縮により各磁性粒子に形成された新生面が酸化され、生成された酸化物の存在により、最終的に得られる磁石中の磁性相の割合の低下を招く恐れがある。これに対して、各磁性粒子の全周を覆うように上述した酸化防止層を具える形態とすると、各磁性粒子が雰囲気中の酸素と十分に遮断されて、上記磁性粒子の新生面の酸化を防止できる。この効果を得るためには、酸化防止層の酸素の透過係数(30℃)が小さいほど好ましく、1.0×10-11m3・m/(s・m2・Pa)未満、特に0.01×10-11m3・m/(s・m2・Pa)以下が好ましく、下限は設けない。
【0059】
また、酸化防止層は、透湿率(30℃)が1000×10-13kg/(m・s・MPa)未満であることが好ましい。大気雰囲気など、一般に水分を含む雰囲気では、水分(代表的には水蒸気)が比較的多く存在する多湿状態(例えば、気温30℃程度/湿度80%程度など)が有り得る。この水分と接触して上記磁性粒子の新生面が酸化する恐れがある。従って、酸化防止層が透湿率も低いものであれば、湿気による酸化を効果的に防止できる。透湿率も小さいほど好ましく、10×10-13kg/(m・s・MPa)以下がより好ましく、下限は設けない。
【0060】
上記酸化防止層は、酸素の透過係数や透湿率が上記範囲を満たす種々の材料、例えば、樹脂、セラミックス(酸素透過性でないもの)、金属、ガラス質材料などにより構成することができる。樹脂の場合、(1)圧縮成形時、上記各磁性粒子の変形に十分に追従して、変形中に磁性粒子の新生面が露出されることを効果的に防止できる、(2)粉末成形体を熱処理する際に焼失でき、酸化防止層の残滓による磁性相の割合の低下を抑制できる、といった効果を有する。セラミックスや金属の場合、酸化防止効果が高く、ガラス質材料では、後述するように絶縁被膜としても機能することができる。
【0061】
上記酸化防止層は、単層でも多層でもよく、例えば、上記酸化防止層は、酸素の透過係数(30℃)が1.0×10-11m3・m/(s・m2・Pa)未満である材料から構成された酸素低透過層のみを具える単層形態、或いは、上述のように上記酸素低透過層と湿気低透過層とを積層して具える多層形態とすることができる。
【0062】
上記酸素低透過層の構成材料は、樹脂では、ポリアミド系樹脂、ポリエステル、及びポリ塩化ビニルから選択される一種が挙げられる。ポリアミド系樹脂は、代表的にはナイロン6が挙げられる。ナイロン6は、酸素の透過係数(30℃)が0.0011×10-11m3・m/(s・m2・Pa)と非常に小さく好ましい。上記湿気低透過層の構成材料は、樹脂では、ポリエチレン、フッ素樹脂、ポリプロピレンなどが挙げられる。ポリエチレンは、透湿率(30℃)が7×10-13kg/(m・s・MPa)〜60×10-13kg/(m・s・MPa)と非常に小さく好ましい。
【0063】
上記酸化防止層を上述の酸素低透過層と湿気低透過層との二層構造とする場合、いずれの層が内側(上記磁性粒子側)、外側(最表面側)に配置されていてもよいが、酸素低透過層を内側、湿気低透過層を外側に配置させると、酸化をより効果的に防止できると期待される。また、酸素低透過層と湿気低透過層との両層が上述のように樹脂で構成される場合、両層の密着性に優れて好ましい。
【0064】
上記酸化防止層の厚さは適宜選択することができるが、薄過ぎると酸化防止効果を十分に得られず、厚過ぎると、粉末成形体の密度の低下を招き、例えば、相対密度が85%以上の粉末成形体を形成したり、焼失により除去したりすることが困難になる。従って、酸化防止層の厚さは、10nm以上1000nm以下が好ましく、特に磁性粒子の直径の2倍以下、更に100nm以上300nm以下であると、酸化や密度の低下を抑えられる上に、成形性に優れて好ましい。酸化防止層が上述のように二層構造といった多層構造である場合、各層の厚さは10nm以上500nm以下が好ましい。
【0065】
≪絶縁被覆≫
更に、上記本発明磁石用粉末は、各磁性粒子の外周に絶縁材料からなる絶縁被覆を具える形態とすることができる。絶縁被覆を具える粉末を用いることで、電気抵抗が高い希土類磁石が得られ、例えば、この磁石をモータに利用した場合、渦電流損を低減できる。絶縁被覆は、例えば、Si,Al,Tiなどの酸化物の結晶性被膜や非晶質のガラス被膜、Me-Fe-O(Me=Ba,Sr,Ni,Mnなどの金属元素)といったフェライトやマグネタイト(Fe3O4)、Dy2O3といった金属酸化物、シリコーン樹脂といった樹脂、シルセスキオキサン化合物などといった酸化物からなる被膜が挙げられる。また、熱伝導性を向上する目的で、Si-N、Si-C系のセラミックス被覆を施してもよい。上記結晶性被膜やガラス被膜、酸化物被膜、セラミックス被膜などは、酸化防止機能を有する場合があり、この場合、磁性粒子の酸化を防止できる。また、上述した酸化防止層に加えて上記酸化防止機能を有する被膜を具えることで、磁性粒子の酸化をより防止することができる。
【0066】
これら絶縁被覆やセラミックス被覆と上記酸化防止層との双方を具える形態では、上記磁性粒子の表面に接するように絶縁被覆を具え、その上にセラミックス被覆や上記酸化防止層を具えることが好ましい。
【0067】
[製造方法]
≪準備工程≫
上記磁石用粉末の原料となる希土類-鉄系合金(例えば、Sm2Fe17,Sm1Fe11Ti1)からなる粉末は、例えば、所望の希土類-鉄系合金からなる溶解鋳造インゴットや急冷凝固法で得られる箔状体をジョークラッシャー、ジェットミルやボールミルなどの粉砕装置により粉砕したり、ガスアトマイズ法といったアトマイズ法を利用することで製造することができる。特に、ガスアトマイズ法を利用する場合、非酸化性雰囲気で粉末を形成することで、実質的に酸素が含有されない粉末(酸素濃度:500質量ppm以下)とすることができる。即ち、希土類-鉄系合金からなる粉末を構成する粒子中の酸素濃度が500質量ppm以下であることは、非酸化性雰囲気のガスアトマイズ法により製造された粉末であることを示す指標の一つとなり得る。上記希土類-鉄系合金からなる粉末の製造には、公知の製造方法を利用してもよいし、アトマイズ法により製造した粉末を更に粉砕してもよい。粉砕条件や製造条件を適宜変更することで、磁石用粉末の粒度分布や粒子の形状を調整することができる。例えば、アトマイズ法を利用すると、真球度が高く、成形時の充填性に優れた粉末を製造し易い。上記希土類-鉄系合金粉末を構成する各粒子は多結晶体でも単結晶体でもよい。多結晶体からなる粒子に適宜熱処理を加えて単結晶体からなる粒子とすることができる。
【0068】
準備工程で用意する希土類-鉄系合金粉末の大きさは、後工程の水素化熱処理時に実質的に大きさを変えないように当該熱処理を施した場合、その大きさが維持され、実質的に本発明磁石用粉末の大きさになる。本発明粉末は上述のように特定の組織を有することで成形性に優れることから、例えば、磁性粒子の平均粒径が100μm程度といった比較的粗大なものとすることができる。従って、上記希土類-鉄系合金粉末も平均粒径が100μm程度のものを利用することができる。このような粗大な合金粉末は、例えば、溶解鋳造インゴットに粗粉砕のみを行ったり、溶湯噴霧法といったアトマイズ法によって製造できる。ここで、焼結磁石やボンド磁石では、焼結前の成形体を形成する原料粉末や樹脂と混合する原料粉末に10μm以下といった微粒のものが利用されている。上記粗大な合金粉末を利用することで、このような微粉砕を不要にでき、製造工程の短縮などにより、製造コストの低減を図ることができる。
【0069】
なお、後述する水素化熱処理には、一般的な加熱炉を利用することができる。その他、ロータリーキルン炉といった揺動式炉を利用すると、水素化に伴い、原料の希土類-鉄系合金が崩壊して微細な粒になる、との知見を得た。従って、本発明磁石用粉末の原料には、平均粒径が数ミリオーダー、十数ミリオーダーといった非常に粗大な希土類-鉄系合金を利用することができる。このような粗大な原料を用いることで、上述の粉砕工程を省略したり、或いは時間の短縮を図ることができ、製造コストの更なる低減を図ることができる。
【0070】
≪水素化工程≫
水素化工程において、上記水素元素を含む雰囲気は、水素(H2)のみの単一雰囲気、或いは水素(H2)とArやN2といった不活性ガスとの混合雰囲気が挙げられる。上記水素化工程の熱処理時の温度は、上記希土類-鉄系合金の不均化反応が進行する温度、即ち不均化温度以上とする。不均化反応とは、希土類元素の優先水素化により、希土類水素化合物と、Fe(或いはFe及び鉄化合物)とに分離する反応であり、この反応が生じる下限温度を不均化温度と呼ぶ。上記不均化温度は、上記希土類-鉄系合金の組成や希土類元素の種類により異なる。例えば、希土類-鉄系合金がSm2Fe17,Sm1Fe11Ti1の場合、600℃以上が挙げられる。水素化熱処理時の温度を不均化温度近傍とすると、上述した層状形態が得られ易く、当該温度を不均化温度+100℃以上に高めると、上述した粒状形態が得られ易い。上記水素化工程の熱処理時の温度を高めることで、Fe相のマトリックス化が進行するため、Feと同時に析出する硬質の希土類元素の水素化物が変形の阻害因子になり難くなり磁石用粉末の成形性を高められるが、高過ぎると粉末の溶融固着などの不具合が発生するため、この温度は1100℃以下が好ましい。特に、希土類-鉄系合金がSm2Fe17,Sm1Fe11Ti1の場合、上記水素化工程の熱処理時の温度を700℃以上900℃以下の比較的低めにすると、上記間隔が小さい微細な組織となり、このような粉末を利用することで保磁力が高い希土類磁石が得られ易い。保持時間は、0.5時間以上5時間以下が挙げられる。この熱処理は、上述したHDDR処理の不均化工程までの処理に相当し、公知の不均化条件を適用することができる。
【0071】
≪被覆工程≫
上記各磁性粒子の表面に酸化防止層を具える形態とする場合、上記水素化工程により得られた各磁性粒子に酸化防止層を形成する。酸化防止層の形成には、乾式法及び湿式法のいずれもが利用できる。乾式法では、上記磁性粒子が雰囲気中の酸素に接触して表面が酸化することを防止するために、非酸化性雰囲気、例えば、ArやN2などの不活性雰囲気、減圧雰囲気などとすることが好ましい。湿式法では、上記磁性粒子の表面が雰囲気中の酸素に実質的に接触しないため、上述の不活性雰囲気などとする必要が無く、例えば、大気雰囲気で酸化防止層を形成できる。従って、湿式法は、酸化防止層の形成の作業性に優れる上に、上記磁性粒子の表面に酸化防止層を均一的な厚さに形成し易く好ましい。
【0072】
例えば、上記酸化防止層を樹脂やガラス質材料で湿式法により形成する場合、湿式乾燥塗膜法やゾルゲル法を利用できる。より具体的には、適宜な溶媒に原料を溶解・混合などして作製した溶液と被覆対象となる粉末と混合して、上記原料の硬化・上記溶媒の乾燥を行うことで酸化防止層を形成できる。上記酸化防止層を樹脂で乾式法により形成する場合、例えば、粉体塗装を利用できる。上記酸化防止層をセラミックスや金属で乾式法により形成する場合、スパッタなどのPVD法、CVD法といった蒸着法やメカニカルアロイング法を利用できる。上記酸化防止層を金属で湿式法により形成する場合、各種のめっき法を利用できる。
【0073】
なお、上述した絶縁被覆やセラミックス被覆を具える形態とする場合、上記磁性粒子の表面に絶縁被覆を形成した後、上記酸化防止層やセラミックス被膜を形成することが好ましい。
【0074】
≪成形工程≫及び[粉末成形体]
上記本発明磁石用粉末を圧縮成形することで、本発明粉末成形体が得られる。上述のように本発明粉末は、成形性に優れることから相対密度(粉末成形体の真密度に対する実際の密度)が高い粉末成形体、例えば、相対密度が85%以上のものが得られる。相対密度が高いほど、最終的に磁性相の比率を高められる。但し、上記酸化防止層を具える形態において、当該酸化防止層の構成成分を窒化処理などの熱処理工程や、別途除去のための熱処理工程で焼失させる場合、相対密度が高過ぎると、上記酸化防止層の構成成分を十分に焼失させることが難しい。従って、酸化防止層を具える粉末を用いて粉末成形体を形成する場合、粉末成形体の相対密度は、90%〜95%程度が好ましいと考えられる。粉末成形体の相対密度を高める場合は、酸化防止層の厚さを薄めにしたり、別途熱処理(被覆除去)を行うと、酸化防止層を除去し易く好ましい。酸化防止層を有していない粉末を用いて粉末成形体を形成する場合、粉末成形体の相対密度の上限は特に設けない。
【0075】
上述のように本発明磁石用粉末を構成する磁性粒子がSmの水素化合物と、Fe及びFeTi化合物を含む鉄含有物とを含む形態である場合、成形性により優れ、相対密度が90%以上である粉末成形体を安定して製造することができる。
【0076】
本発明磁石用粉末は、成形性に優れることから、圧縮成形時の圧力を比較的小さくすることができ、例えば、8ton/cm2以上15ton/cm2以下とすることができる。また、本発明粉末は、成形性に優れることから、複雑な形状の粉末成形体であっても、容易に形成することができる。更に、本発明磁石用粉末は、各磁性粒子が十分に変形できることで磁性粒子同士の接合性に優れ(粒子表面の凹凸の噛み合いによって生じる強度(所謂ネッキング強度)の発現)、強度が高く、製造中に崩壊し難い粉末成形体が得られる。
【0077】
本発明磁石用粉末が上記酸化防止層を具える形態では、上述のように大気雰囲気といった酸素含有雰囲気で成形しても、磁性粒子が酸化し難く、作業性に優れる。酸化防止層を有していない形態では、非酸化性雰囲気で成形すると、磁性粒子の酸化を防止できて好ましい。
【0078】
その他、圧縮成形時、成形用金型を適宜加熱することで、変形を促進することができ、高密度の粉末成形体が得られ易くなる。
【0079】
≪脱水素工程≫及び[希土類-鉄系合金材]
脱水素工程では、上記磁性粒子と反応せず、かつ水素を効率よく除去できるように非水素雰囲気にて熱処理を行う。非水素雰囲気には、不活性雰囲気や減圧雰囲気が挙げられる。不活性雰囲気は、例えば、ArやN2が挙げられる。減圧雰囲気は、標準の大気雰囲気よりも圧力を低下させた真空状態を言い、最終真空度は、10Pa以下が好ましい。減圧雰囲気で希土類元素の水素化合物から水素の除去を行うと、希土類元素の水素化合物が残存し難く、希土類-鉄系合金化を完全に起こさせることができる。従って、得られた希土類-鉄系合金材を素材とすることで、磁気特性に優れる希土類磁石が得られる。
【0080】
上記脱水素熱処理時の温度は、上記粉末成形体の再結合温度(分離していた鉄含有物と希土類元素とが化合する温度)以上とする。再結合温度は、粉末成形体(磁性粒子)の組成により異なるものの、代表的には、600℃以上が挙げられる。この温度が高いほど水素を十分に除去できる。但し、上記脱水素熱処理時の温度が高過ぎると蒸気圧の高い希土類元素が揮発して減少したり、希土類-鉄系合金の結晶の粗大化により希土類磁石の保磁力が低下する恐れがあるため、1000℃以下が好ましい。保持時間は、10分以上600分以下が挙げられる。この脱水素熱処理は、上述したHDDR処理のDR処理に相当し、公知のDR処理の条件を適用できる。
【0081】
上記脱水素工程を経て得られた本発明希土類-鉄系合金材は、実質的に希土類-鉄系合金から構成される単一形態、或いは実質的に希土類-鉄系合金と鉄とから構成される混合形態が挙げられる。上記単一形態は、例えば、上記本発明磁石用粉末の原料に用いた希土類-鉄系合金と実質的に同じ組成からなるものが挙げられ、特に、希土類-鉄系合金がSm2Fe17からなるものは、最終の窒化処理の後、磁石特性に優れるSm2Fe17N3が得られることから、磁石特性に優れる希土類磁石が得られて好ましい。また、希土類-鉄系合金がSm1Fe11Ti1からなるものは、最終の窒化処理を安定して行える上に、磁石特性に優れるSm1Fe11Ti1N1からなる希土類磁石を生産性良く製造できて好ましい。
【0082】
上記混合形態は、原料に用いる希土類-鉄系合金の組成により変化する。例えば、鉄の比率(原子比)が高い合金粉末を用いると、鉄相と、希土類-鉄系合金の相とが存在する形態が得られる。なお、希土類-鉄系合金からなる粉末を圧縮成形して製造された希土類-鉄系合金材では、当該合金材を構成する粉末粒子に平面的な破面が存在し、熱間鍛造により製造された希土類-鉄系合金材では、当該合金材に粉末粒子の界面が明瞭に存在する。これに対し、本発明希土類-鉄系合金材は、上記破面や粉末粒子の界面が実質的に存在しない。
【0083】
上述した酸化防止層を具える形態であって、当該酸化防止層が樹脂といった高熱により焼失可能な材質から構成されている場合、上記脱水素熱処理は、当該酸化防止層の除去を兼ねることもできる。上記酸化防止層を除去するための熱処理(被覆除去)を別途施してもよい。この被覆除去の熱処理は、上記酸化防止層の構成材料にもよるが、加熱温度:200℃以上400℃以下、保持時間:30分以上300分以下が利用し易い。この被覆除去の熱処理は、特に、粉末成形体の密度が高い場合に行うと、上記酸化防止層が脱水素熱処理のための加熱温度に急激に昇温されて不完全燃焼を起こし、残滓が発生することを効果的に防止できて好ましい。
【0084】
上述した本発明粉末成形体を利用することで、上記脱水素熱処理の前後で体積の変化度合い(熱処理後の収縮量)が少なく、例えば、上述のように体積変化率を5%以下とすることができる。このように本発明粉末成形体を利用すると、従来の焼結磁石を製造する場合と比較して大きな体積変化が無く、形状調整のための切削加工などを省略できる。なお、脱水素熱処理後に得られた上記希土類-鉄系合金材は、焼結体と異なり、粉末の粒界が確認できる。即ち、希土類-鉄系合金材において、粉末の粒界が存在することが粉末成形体に熱処理を施したものであって、焼結体ではないことを示す指標の一つとなり、切削加工などの加工痕が無いことが熱処理前後における体積変化率が小さいことを示す指標の一つになる。
【0085】
≪窒化処理≫及び[希土類-鉄-窒素系合金材]
窒化工程において窒素元素を含む雰囲気は、窒素(N2)のみの単一雰囲気、或いはアンモニア(NH3)雰囲気、或いは窒素(N2)やアンモニアとArといった不活性ガスとの混合ガスの雰囲気が挙げられる。上記窒化工程の熱処理時の温度は、上記希土類-鉄系合金が当該合金として窒素元素と反応する温度(窒化温度)以上、窒素不均化温度(鉄含有物と希土類元素とがそれぞれ分離・独立して、窒素元素と反応する温度)以下とする。上記窒化温度や窒素不均化温度は、上記希土類-鉄系合金の組成により異なる。例えば、希土類-鉄系合金がSm2Fe17,Sm1Fe11Ti1の場合、上記窒化処理時の温度は、200℃以上550℃以下(好ましくは300℃以上)が挙げられる。保持時間は、10分以上600分以下が挙げられる。特に、希土類-鉄系合金がSm1Fe11Ti1の場合、窒化処理を安定して、かつ希土類-鉄系合金材の全体に亘って均一的に窒化することができる。
【0086】
上記窒化工程を加圧下で行うことで、上述のように窒化処理を安定して行えて、Sm1Fe11Ti1N1といった希土類-鉄-窒素系合金材を生産性よく製造できる。圧力は、100MPa〜500MPa程度が利用し易いと考えられる。
【0087】
上記窒化工程を経て、本発明希土類-鉄-窒素系合金材、例えば、Sm2Fe17N3からなる合金材、Sm1Fe11Ti1N1からなる合金材が得られる。なお、上述のように成形性に優れる本発明磁石用粉末を圧縮成形した成形体を素材とした希土類-鉄系合金材を利用して得られた希土類-鉄-窒素系合金材は、当該合金材を構成する粒子のアスペクト比が大きい傾向にある。
【0088】
また、上述のように本発明希土類-鉄系合金材を利用して、希土類-鉄-窒素系合金材を製造することで、上記窒化処理の前後でも体積の変化度合いが少なく、例えば、上述のように体積変化率を5%以下とすることができる。従って、本発明希土類-鉄系合金材を利用すると、最終形状のための切削加工などを省略できる。なお、窒化処理後に得られた本発明希土類-鉄-窒素系合金材も、粉末の粒界が確認でき、粉末の粒界が存在することが粉末成形体を素材として適宜な熱処理を施して得られたものであって、焼結体ではないことを示す指標の一つとなり、切削加工などの加工痕が無いことが窒化処理などの熱処理の前後における体積変化率が小さいことを示す指標の一つになる。
【0089】
[希土類磁石]
上記本発明希土類-鉄-窒素系合金材を適宜着磁することで、希土類磁石を製造することができる。特に、上述した相対密度が高い粉末成形体を利用することで、磁性相の比率が80体積%以上、更に90体積%以上といった希土類磁石が得られる。
【0090】
上述した酸化防止層を具える本発明磁石用粉末を利用した場合、酸化物の介在による磁性相の割合の低下を抑制できるため、この点からも磁性相の割合が高い希土類磁石が得られる。また、Sm1Fe11Ti1N1からなる希土類-鉄-窒素系合金材を着磁して得られた希土類磁石は、磁束密度と保磁力との双方が大きく、減磁曲線の角形性に優れる。更に、Sm1Fe11Ti1N1といった希土類-鉄-窒素系合金材は、窒化が均一的になされ易いため、当該合金材内部の磁石特性が均質になり易く、この点からも、上記得られた希土類磁石は磁石特性に優れる。加えて、Sm1Fe11Ti1N1といった希土類-鉄-窒素系合金材は、Smの含有量がSm2Fe17N3よりも少なく、希少なSmの使用量を低減することができる。
【0091】
以下、試験例を挙げて、適宜図面を参照しながら、本発明のより具体的な実施形態を説明する。図中の同一符号は同一名称物を示す。なお、図1,図2では、分かり易いように希土類元素の水素化合物や酸化防止層などを誇張して示す。
【0092】
[試験例1]
希土類元素と鉄元素とを含む粉末を種々作製し、得られた粉末を圧縮成形して、各粉末の成形性を調べた。
【0093】
上記粉末は、準備工程:合金粉末の準備→水素化工程:水素雰囲気中での熱処理という手順で作製した。
【0094】
まず、表1に示す組成の希土類-鉄系合金(SmxFey)のインゴットを用意し、このインゴットをAr雰囲気中で超硬合金製乳鉢により粉砕して、平均粒径100μmの合金粉末(図1(I))を作製した。上記平均粒径は、レーザ回折式粒度分布装置により、積算重量が50%となる粒径(50%粒径)を測定した。
【0095】
上記合金粉末を水素(H2)雰囲気中、850℃×3時間で熱処理した。この水素化熱処理により得られた粉末をエポキシ樹脂で固めて、組織観察用のサンプルを作製し、上記サンプルの内部の粉末が酸化しないようにこのサンプルを任意の位置で切断又は研磨し、この切断面(又は研磨面)に存在する上記粉末を構成する各粒子の組成をEDX装置により調べた。また、上記切断面(又は研磨面)を光学顕微鏡又は走査型電子顕微鏡:SEM(100倍〜10000倍)で観察し、上記粉末を構成する各粒子の形態を調べた。すると、得られた粉末のうち、一部の試料の粉末を除く各粉末では、図1(II)に示すように、粉末を構成する各磁性粒子1は、鉄含有物の相2(ここではFe相)を母相とし、この母相中に複数の粒状の希土類元素の水素化合物の相3(ここではSmH2)が分散して存在しており、隣り合う希土類元素の水素化合物の粒子間に鉄含有物の相2が介在していることを確認した。
【0096】
上記エポキシ樹脂を混錬して作製したサンプルを用いて、各磁性粒子の希土類元素の水素化合物:SmH2,鉄含有物:Feの含有量(体積%)を求めた。その結果を表1に示す。上記含有量は、ここでは、後述するシリコーン樹脂が一定の体積割合(0.75体積%)で存在する場合を想定した体積比を演算により求めた。より具体的には、原料に用いた合金粉末の組成、及びSmH2,Feの原子量を用いて体積比を演算し、小数第2位を四捨五入した値を表1に示す。その他、上記含有量は、例えば、作製した成形体の切断面(或いは研磨面)の面積におけるSmH2,Feの面積割合をそれぞれ求め、得られた面積割合を体積割合に換算したり、X線分析を行ってピーク強度比を利用したりすることで求めることができる。
【0097】
上記EDX装置により、得られた各粉末の組成の面分析(マッピングデータ)を利用して、隣り合う希土類元素の水素化合物の粒子間の間隔を測定した。ここでは、上記切断面(或いは研磨面)に面分析を行って、SmH2のピーク位置を抽出し、隣り合うSmH2のピーク位置間の間隔を測定し、全ての間隔の平均値を求めた。その結果を表1に示す。
【0098】
上記各粉末に、絶縁被膜として、Si-O皮膜の前駆体となるシリコーン樹脂を被覆し、この絶縁被覆を有する粉末を用意した。用意した各粉末を面圧10ton/cm2で油圧プレス装置により圧縮成形したところ(図1(III))、試料No.1-8を除いて面圧10ton/cm2で十分に圧縮することができ、外径10mmφ×高さ10mmの円柱状の粉末成形体4(図1(IV))を形成できた。試料No.1-8は、Feの相が少な過ぎて、十分に圧縮することが難しく、粉末成形体を形成できなかったと考えられる。
【0099】
得られた粉末成形体の実際の密度(成形密度)、及び相対密度(真密度に対する実際の密度)を求めた。その結果を表1に示す。実際の密度は、市販の密度測定装置を利用して測定した。真密度は、SmH2の密度:6.51g/cm3,Feの密度:7.874g/cm3,シリコーン樹脂の密度:1.1g/cm3とし、表1に示す体積比を利用して演算により求めた。
【0100】
【表1】

【0101】
表1に示すように、希土類元素の水素化合物が40体積%未満で、残部が実質的にFeといった鉄含有物である粉末であって、希土類元素の水素化合物が上記鉄含有物中に離散した組織を有する粉末は、複雑な形状の粉末成形体や、相対密度が85%以上、特に90%以上と高密度である粉末成形体が得られることが分かる。
【0102】
得られた粉末成形体を水素雰囲気中で900℃まで昇温し、その後、真空(VAC)に切り替えて真空中(最終真空度:1.0Pa)、900℃×10minで熱処理した。昇温を水素雰囲気とすることで、十分に高い温度になってから脱水素反応を開始することができ、反応斑を抑制できる。この熱処理後に得られた円柱状部材の組成をEDX装置により調べた。その結果を表2に示す。表2に示すように、各円柱状部材は、実質的に鉄と希土類-鉄系合金とからなる希土類-鉄系合金材、又は実質的にSm2Fe17などの希土類-鉄系合金からなる希土類-鉄系合金材5(図1(V))であり、上記熱処理により水素が除去されたことが分かる。
【0103】
得られた各希土類-鉄系合金材を窒素(N2)雰囲気中、450℃×3時間で熱処理した。この熱処理後に得られた円柱状部材の組成をEDX装置により調べたところ、各円柱状部材は、実質的にSm2Fe17N3といった希土類-鉄-窒素系合金からなる希土類-鉄-窒素系合金材6(図1(VI))であり、上記熱処理により窒化物が形成されたことが分かる。
【0104】
得られた各希土類-鉄-窒素系合金材を2.4MA/m(=30kOe)のパルス磁界で着磁した後、得られた各試料(希土類-鉄-窒素系合金からなる希土類磁石7(図1(VII)))の磁石特性を、BHトレーサ(理研電子株式会社製DCBHトレーサ)を用いて調べた。その結果を表2に示す。ここでは、磁石特性として、飽和磁束密度:Bs(T)、残留磁束密度:Br(T)、固有保磁力:iHc(kA/m)、磁束密度Bと減磁界の大きさHとの積の最大値:(BH)max(kJ/m3)を求めた。
【0105】
【表2】

【0106】
表2に示すように、40体積%未満の希土類元素の水素化合物と、残部が実質的にFeといった鉄含有物とからなり、隣り合う希土類元素の水素化合物からなる粒子間の間隔が3μm以下である粉末(磁石用粉末)を用いて作製した希土類磁石は、磁石特性に優れることが分かる。特に、Feの含有量が90体積%以下の粉末を用いたり、相対密度が90%以上の粉末成形体を用いたりすることで、磁石特性に更に優れる希土類磁石が得られることが分かる。
【0107】
[試験例2]
試験例1と同様にして希土類磁石を作製し、磁石特性を調べた。
【0108】
この試験では、SmとFeとの原子比(at%)がSm:Fe≒10:90であるSm2Fe17合金のインゴットを用意し、試験例1と同様にして平均粒径100μmの合金粉末を作製し、水素雰囲気中、表3に示す温度で1時間熱処理を施した。この熱処理後に得られた粉末に対して、試験例1と同様にしてSmH2,Feの含有量(体積%)、隣り合うSmH2の相間の間隔を調べた。その結果を表3に示す。また、試験例1と同様にして上記熱処理後に得られた粉末を構成する各粒子の形態を調べたところ、No.2-3〜2-6は、SmH2相が粒子状であり、No.2-2は、SmH2相とFe相とがいずれも層状であった。なお、試料No.2-1の合金粉末には、上記熱処理を施さなかった。
【0109】
更に、上記熱処理後に得られた粉末を試験例1と同様に圧縮成形して粉末成形体を作製したところ、試料No.2-1は、成形できず、試料No.2-2は、十分に成形できなかった。この理由は、上記合金粉末を十分に不均化できず、Feの相を十分に出現させることができなかったためと考えられる。
【0110】
得られた粉末成形体について、試験例1と同様にして、真密度、実際の密度、及び相対密度を求めた。その結果を表3に示す。
【0111】
【表3】

【0112】
表3に示すように、水素化熱処理時の温度を高めるほど、相対密度が高い粉末成形体が得られることが分かる。この理由は、上記温度を高めることで、Feの相を十分に出現させることができ、成形性を高められたためであると考えられる。
【0113】
得られた粉末成形体を試験例1と同様に水素雰囲気中で昇温し、真空中(最終真空度:1.0Pa)、900℃×10minで熱処理した後、試験例1と同様にして組成を調べたところ、実質的にSm2Fe17からなる希土類-鉄系合金材であることが確認できた。
【0114】
更に、得られた各希土類-鉄系合金材を窒素雰囲気中、450℃×3時間で熱処理して、希土類-鉄-窒素系合金材を作製した。得られた希土類-鉄-窒素系合金材を2.4MA/m(=30kOe)のパルス磁界で着磁した後、試験例1と同様にして、得られた各試料の磁石特性を調べた。その結果を表4に示す。
【0115】
【表4】

【0116】
表4に示すように、40体積%未満の希土類元素の水素化合物と、残部が実質的にFeといった鉄含有物とからなり、隣り合う希土類元素の水素化合物の相間の間隔が3μm以下である粉末(磁石用粉末)を用いると共に、水素化熱処理時の温度を比較的低めに調整することで、保磁力が高く、磁石特性に更に優れる希土類磁石が得られることが分かる。
【0117】
[試験例3]
希土類元素と鉄元素とを含む粉末を作製し、得られた粉末を圧縮成形して、粉末の成形性、酸化状態を調べた。この試験では、上記粉末を構成する磁性粒子の外周に酸化防止層を具えるものを作製した。
【0118】
上記粉末は、準備工程:合金粉末の準備→水素化工程:水素雰囲気中での熱処理→被覆工程:酸化防止層の形成という手順で作製した。
【0119】
まず、希土類-鉄系合金(Sm1Fe11Ti1)からなり、平均粒径100μmの合金粉末(図2(I))をガスアトマイズ法(Ar雰囲気)により作製した。上記平均粒径は、試験例1と同様にして測定した。ここでは、ガスアトマイズ法により、上記合金粉末を構成する各粒子が多結晶体からなるものを作製した。
【0120】
上記合金粉末を水素(H2)雰囲気中、800℃×1時間で熱処理した。この水素化熱処理後に得られた粉末(以下、ベース粉末と呼ぶ)に、ポリアミド系樹脂(ここではナイロン6、酸素の透過係数(30℃):0.0011×10-11m3・m/(s・m2・Pa))からなる酸素低透過層を形成した。より具体的には、アルコール溶媒に溶かした上記ポリアミド系樹脂に上記ベース粉末を混合した後、上記溶媒を乾燥させると共に、当該樹脂を硬化して、ポリアミド系樹脂からなる酸素低透過層を形成した。ここでは、酸素低透過層の平均厚さが200nmとなるように上記樹脂量を調整した。上記酸素低透過層を具えるベース粉末に、更に、ポリエチレン(透湿率(30℃):50×10-13kg/(m・s・MPa))からなる湿気低透過層を形成した。より具体的には、溶媒:キシレンに溶かしたポリエチレンに、上記酸素低透過層を有するベース粉末を混合した後、この溶媒を乾燥させると共にポリエチレンを硬化して、ポリエチレンからなる湿気低透過層を形成した。ここでは、湿気低透過層の平均厚さが250nmとなるようにポリエチレンの量を調整した。上記酸素低透過層、及び湿気低透過層の厚さは、ベース粉末を構成する各磁性粒子の表面に各層が均一的に形成されたと想定した平均厚さ(ポリアミド系樹脂の体積/上記各磁性粒子の表面積の総和)、(ポリエチレンの体積/上記酸素低透過層を具える上記各磁性粒子の表面積の総和)とする。上記各磁性粒子の表面積は、例えば、BET法で測定することができる。上記樹脂の体積は、例えば、樹脂重量をDTA(示差熱分析法)などで測定し、樹脂密度から算出することができる。上記工程により、磁性粒子1の外周に、酸素低透過層11と、湿気低透過層12とからなる酸化防止層10(合計平均厚さ:450nm)を具える磁石用粉末が得られる。
【0121】
得られた磁石用粉末をエポキシ樹脂で固めて、組織観察用のサンプルを作製し、試験例1と同様にして切断面(又は研磨面)をとり、切断面(又は研磨面)に存在する当該粉末を構成する各磁性粒子の組成をEDX装置により調べた。また、上記切断面(又は研磨面)を試験例1と同様にして顕微鏡観察し、上記各磁性粒子の形態を調べた。すると、図2(II-1),(II-2)に示すように、上記各磁性粒子1は、鉄含有物の相2(ここではFe相及びFeTi化合物相)を母相とし、この母相中に複数の粒状の希土類元素の水素化合物の相3(ここではSmH2)が分散して存在しており、隣り合う希土類元素の水素化合物の粒子間に鉄含有物の相2が介在していることを確認した。また、図2(II-2)に示すように磁性粒子1の表面の実質的に全面が酸化防止層10に覆われて、外気と遮断されていることを確認した。更に、磁性粒子1からは希土類元素の酸化物(ここでは、Sm2O3)が検出されなかった。
【0122】
上記EDX装置により、得られた磁石用粉末の組成の面分析(マッピングデータ)を利用して、試験例1と同様にして、隣り合う希土類元素の水素化合物の粒子間の間隔を測定したところ、2.3μmであった。また、試験例1と同様にして、各磁性粒子のSmH2,鉄含有物(Fe,FeTi化合物)の含有量(体積%)を求めたところ、SmH2:22体積%、鉄含有物:78体積%であった。
【0123】
上記エポキシ樹脂を混錬して作製したサンプルを用いて、磁性粒子の円形度を求めたところ、1.09であった。円形度は、以下のようにして求める。上記サンプルを任意の位置で切断又は研磨し、この切断面(又は研磨面)を光学顕微鏡やSEMなどで観察して、粉末の断面の投影像を得て、各磁性粒子についてそれぞれ、実際の断面積Sr及び実際の周囲長を求め、上記実際の断面積Srと、上記実際の周囲長と同じ周長を有する真円の面積Scとの比率:Sr/Scを当該粒子の円形度とする。ここでは、上記切断面(又は研磨面)を利用して、n=50のサンプリングを行い、n=50の磁性粒子の円形度の平均値を磁性粒子の円形度とする。
【0124】
上述のようにして作製した酸化防止層を具える磁石用粉末を面圧10ton/cm2で油圧プレス装置により圧縮成形した(図2(III))。ここでは、成形は、大気雰囲気(気温:25℃、湿度:75%(多湿))で行った。その結果、面圧10ton/cm2で十分に圧縮することができ、外径10mmφ×高さ10mmの円柱状の粉末成形体4(図2(IV))を形成できた。
【0125】
試験例1と同様にして、得られた粉末成形体の相対密度を求めたところ、93%であった。また、得られた粉末成形体をX線分析したところ、希土類元素の酸化物(ここでは、Sm2O3)の明瞭な回折ピークは検出されなかった。
【0126】
試験例3で作製した粉末も、試験例1と同様に複雑な形状の粉末成形体や、相対密度が90%以上といった高密度な粉末成形体が得られることが分かる。特に、試験例3では、鉄含有物:78体積%であり、試験例1で示した、Tiを含まない形態で磁気特性に優れる試料No.1-5(鉄含有物:72.6体積%)と比較して、成形性に優れる鉄含有成分の割合が高いことで、成形性に更に優れており、上述のような高密度な粉末成形体を精度よく作製することができた。また、試験例3では、酸化防止層を具える磁石用粉末を利用することで、希土類元素の酸化物の生成を抑制し、当該酸化物が実質的に存在しない粉末成形体が得られることが分かる。
【0127】
得られた粉末成形体を水素雰囲気中で825℃まで昇温し、その後、真空(VAC)に切り替えて、真空(VAC)中(最終真空度:1.0Pa)、825℃×60minで熱処理した。この熱処理後に得られた円柱状部材の組成をEDX装置により調べたところ、Sm1Fe11Ti1が主相(92体積%以上)である希土類-鉄系合金材5(図2(V))であり、上記熱処理により水素が除去されたことが分かる。
【0128】
また、上記円柱状部材をX線分析したところ、希土類元素の酸化物(ここでは、Sm2O3)や酸化防止層の残滓の明瞭な回折ピークは検出されなかった。このように酸化防止層を具える磁石用粉末を用いることで、保磁力の低下を招くSm2O3といった希土類元素の酸化物の生成を抑制できることが分かる。また、ここでは、酸化防止層を構成する各層のいずれも樹脂で形成していることから、圧縮成形時に上記粉末を構成する磁性粒子の変形に両層が十分に追従できて成形性に優れる上に、両層が密着性に優れて剥離し難いことで、耐酸化性に優れる。
【0129】
得られた希土類-鉄系合金材を窒素(N2)雰囲気中、425℃×180minで熱処理した。この熱処理後に得られた円柱状部材の組成をEDX装置により調べたところ、円柱状部材は、実質的にSm1Fe11Ti1N1といった希土類-鉄-窒素系合金からなる希土類-鉄-窒素系合金材6(図2(VI))であり、上記熱処理により窒化物が形成されたことが分かる。
【0130】
得られた希土類-鉄-窒素系合金材を試験例1と同様に着磁した後、得られた希土類磁石7(図2(VII))について、試験例1と同様にして磁石特性を調べたところ、飽和磁束密度:Bs(T)が1.08T、残留磁束密度:Br(T)が0.76T、固有保磁力:iHcが610kA/m、磁束密度Bと減磁界の大きさHとの積の最大値:(BH)maxが108kJ/m3であった。このように、特に、Sm1Fe11Ti1N1といった希土類-鉄-窒素系合金からなる希土類-鉄-窒素系合金材は、希土類元素の使用量を低減しても磁石特性に非常に優れる希土類磁石が得られることが分かる。
【0131】
なお、上述した実施形態は、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であり、上述した構成に限定されるものではない。例えば、磁性粒子の組成、磁石用粉末の平均粒径、酸化防止層の厚さ、粉末成形体の相対密度、各種の熱処理条件(加熱温度、保持時間)などを適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明磁石用粉末、この粉末から得られた粉末成形体、希土類-鉄系合金材、希土類-鉄-窒素系合金材は、各種のモータ、特に、ハイブリッド車(HEV)やハードディスクドライブ(HDD)などに具備される高速モータに用いられる永久磁石の原料に好適に利用することができる。本発明磁石用粉末の製造方法、本発明希土類-鉄系合金材の製造方法、本発明希土類-鉄-窒素系合金材の製造方法は、上記本発明磁石用粉末、本発明希土類-鉄系合金材、本発明希土類-鉄-窒素系合金材の製造に好適に利用することができる。また、本発明希土類-鉄系合金材は、希土類磁石の他、La-Fe系の磁気冷凍材料といった磁性部材に利用することができると期待される。
【符号の説明】
【0133】
1 磁性粒子 2 鉄含有物の相 3 希土類元素の水素化合物の相
4 粉末成形体 5 希土類-鉄系合金材 6 希土類-鉄-窒素系合金材
7 希土類磁石
10 酸化防止層 11 酸素低透過層 12 湿気低透過層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類磁石に用いられる磁石用粉末であって、
前記磁石用粉末を構成する各磁性粒子は、
40体積%未満の希土類元素の水素化合物と、残部がFeを含む鉄含有物とからなり、
前記希土類元素の水素化合物の相と前記鉄含有物の相とが隣接して存在しており、
前記鉄含有物の相を介して隣り合う前記希土類元素の水素化合物の相間の間隔が3μm以下であることを特徴とする磁石用粉末。
【請求項2】
前記希土類元素は、Smであることを特徴とする請求項1に記載の磁石用粉末。
【請求項3】
前記希土類元素の水素化合物の相は、粒状であり、
前記鉄含有物の相中に、前記粒状の希土類元素の水素化合物が分散して存在することを特徴とする請求項1又は2に記載の磁石用粉末。
【請求項4】
前記希土類元素は、Smであり、
前記鉄含有物は、FeとFeTi化合物とを含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁石用粉末。
【請求項5】
前記磁性粒子の外周に酸素の透過係数(30℃)が1.0×10-11m3・m/(s・m2・Pa)未満である酸化防止層を具えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁石用粉末。
【請求項6】
前記酸化防止層は、酸素の透過係数(30℃)が1.0×10-11m3・m/(s・m2・Pa)未満である材料から構成された酸素低透過層と、透湿率(30℃)が1000×10-13kg/(m・s・MPa)未満である材料から構成された湿気低透過層とを具えることを特徴とする請求項5に記載の磁石用粉末。
【請求項7】
前記磁性粒子の平均粒径が10μm以上500μm以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の磁石用粉末。
【請求項8】
希土類磁石の原料に用いられ、
請求項1〜7のいずれか1項に記載の磁石用粉末を圧縮成形して製造され、相対密度が85%以上であることを特徴とする粉末成形体。
【請求項9】
希土類磁石の原料に用いられ、
請求項4に記載の磁石用粉末を圧縮成形して製造され、相対密度が90%以上であることを特徴とする粉末成形体。
【請求項10】
希土類磁石の原料に用いられ、
請求項8又は9に記載の粉末成形体を不活性雰囲気中、又は減圧雰囲気中で熱処理して製造されたことを特徴とする希土類-鉄系合金材。
【請求項11】
前記熱処理の前の粉末成形体と、前記熱処理の後の希土類-鉄系合金材との体積変化率が5%以下であることを特徴とする請求項10に記載の希土類-鉄系合金材。
【請求項12】
希土類磁石の原料に用いられ、
請求項10又は11に記載の希土類-鉄系合金材を窒素元素を含む雰囲気中で熱処理して製造されたことを特徴とする希土類-鉄-窒素系合金材。
【請求項13】
前記希土類-鉄-窒素系合金材を構成する希土類-鉄-窒素系合金は、Sm-Fe-Ti-N合金であることを特徴とする請求項12に記載の希土類-鉄-窒素系合金材。
【請求項14】
前記熱処理の前の希土類-鉄系合金材と、前記熱処理の後の希土類-鉄-窒素系合金材との体積変化率が5%以下であることを特徴とする請求項12又は13に記載の希土類-鉄-窒素系合金材。
【請求項15】
希土類磁石に用いられる磁石用粉末を製造する磁石用粉末の製造方法であって、
添加元素に希土類元素を含有する希土類-鉄系合金からなる合金粉末を準備する準備工程と、
前記希土類-鉄系合金粉末を、水素元素を含む雰囲気中、前記希土類-鉄系合金の不均化温度以上の温度で熱処理して、40体積%未満の希土類元素の水素化合物と残部がFeを含む鉄含有物とからなり、前記希土類元素の水素化合物の相と前記鉄含有物の相とが隣接して存在しており、かつ前記鉄含有物の相を介して隣り合う前記希土類元素の水素化合物の相間の間隔が3μm以下である磁性粒子から構成される磁石用粉末を形成する水素化工程とを具えることを特徴とする磁石用粉末の製造方法。
【請求項16】
前記希土類-鉄系合金は、Sm-Fe-Ti合金であることを特徴とする請求項15に記載の磁石用粉末の製造方法。
【請求項17】
希土類磁石に用いられる希土類-鉄系合金材を製造する希土類-鉄系合金材の製造方法であって、
請求項15又は16に記載の磁石用粉末の製造方法により得られた磁石用粉末を圧縮成形して、相対密度が85%以上である粉末成形体を成形する成形工程と、
前記粉末成形体を不活性雰囲気中、又は減圧雰囲気中で、当該粉末成形体の再結合温度以上の温度で熱処理して、前記希土類-鉄系合金材を形成する脱水素工程とを具えることを特徴とする希土類-鉄系合金材の製造方法。
【請求項18】
希土類磁石に用いられる希土類-鉄-窒素系合金材を製造する希土類-鉄-窒素系合金材の製造方法であって、
請求項17に記載の希土類-鉄系合金材の製造方法により得られた希土類-鉄系合金材を窒素元素を含む雰囲気中、前記希土類-鉄系合金の窒化温度以上窒素不均化温度以下の温度で熱処理して、希土類-鉄-窒素系合金材を形成する窒化工程を具えることを特徴とする希土類-鉄-窒素系合金材の製造方法。
【請求項19】
前記窒化工程は、100MPa以上の加圧下で行うことを特徴とする請求項18に記載の希土類-鉄-窒素系合金材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−137218(P2011−137218A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−253753(P2010−253753)
【出願日】平成22年11月12日(2010.11.12)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(593016411)住友電工焼結合金株式会社 (214)
【Fターム(参考)】