説明

秩序結晶性有機膜の成長

有機気相堆積を利用した、有機感光デバイス、ヘテロ接合、および膜のためのバルク有機結晶層を成長させる方法と、そのようなヘテロ接合を使用したデバイスとが開示される。また、ヘテロ接合および有機感光デバイスを製造する新しい方法と、それによって製造されたヘテロ接合およびデバイスとが開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2007年8月24日に出願された暫定的な米国出願第60/957,902号に関し、その優先権を主張するものであり、その内容は、これによって参照して全体的に併合されている。
【0002】
本発明は、米国空軍科学研究局により交付された契約番号FA9550−07−1−0364に基づき米国政府の支援によってなされたものである。米国政府は、本発明に関して一定の権利を有する。
【0003】
本発明は、概して電子デバイスに使用される有機感光膜と、そのような膜を製造する工程と、そのような膜を使用したデバイスとに関する。
【背景技術】
【0004】
光電子デバイスは、電子的に電磁放射を生成または検出するため、あるいは周囲の電磁放射から電気を生成するため、材料の光学および電子特性に依存する。
【0005】
感光性光電子デバイス(photosensitive optoelectronic devices)は、電磁放射を電気に変換する。光起電(PV)デバイスとも呼ばれる太陽電池は、特に電力を生成するために使用される感光性光電子デバイスの一種である。太陽光以外の光源から電気エネルギーを生成し得るPVデバイスは、例えば、照明、暖房を提供するため、電気を消費する負荷を駆動するか、あるいは、電卓、ラジオ、コンピュータ、遠隔監視、または通信設備に電力を供給する。これらの電力生成用途は、しばしば電池または他のエネルギー蓄積装置の充電を含んで、太陽または他の光源からの照明が得られないときに動作が継続できるようにするか、特定用途の要求に伴いPVデバイスの出力を平衡させる。ここで用いられる「抵抗性負荷」という用語は、電力消費または貯蔵回路、装置、設備、あるいはシステムを称するものとする。
【0006】
他の種類の感光性光電子デバイスは、光伝導体セルである。この機能では、信号検出回路は、デバイスの抵抗を監視して、光の吸収による変化を検出する。
【0007】
他の種類の感光性光電子デバイスは、光検出器である。動作中において、光検出器は、電磁放射にさらされるときに電流を計測する電流検出回路に接続されて使用され、印加されたバイアス電圧を有しうる。
【0008】
ここで、説明される検出回路は、光検出器にバイアス電圧を供給することができ、電磁放射に対する光検出器の電子的な応答を計測することができる。
【0009】
感光性光デバイスのこれらの3つの階級は、下で定義される整流接合(rectifying junction)が存在するか、そして、またデバイスまたはバイアス電圧として知られている外部印加電圧で動作するかに応じて特徴付けられる。ここで用いられる、「整流(rectifying)」という用語は、とりわけ、界面が非対称導電特性を有する、すなわち、界面が1方向の電荷輸送を好んで支持することを示す。光伝導体セルは、整流接合を有しておらず、通常はバイアスで動作する。PVデバイスは、少なくとも1つの整流接合を有し、バイアスなしで動作する。光検出器は、少なくとも1つの整流接合を有し、つねにではないが、たいていバイアスで動作する。原則として、太陽電池は、回路、装置、または設備に電力を供給するが、制御検出回路に対する信号または電流、あるいは検出回路からの出力情報を供給しない。対照的に、光検出器または光伝導体は、制御検出回路に対する信号または電流、あるいは検出回路からの出力情報を供給するが、回路、装置、または設備へ電力を供給することはない。
【0010】
従来、感光性光デバイスは、例えば、結晶性(crystalline)、多結晶性(polycrystalline)、およびアモルファスシリコン、ガリウムヒ素、テルル化カドミウムなどの多くの無機半導体で構成されてきた。ここでの「半導体」という用語は、電荷キャリアが温度または電磁励起によって誘発されるときに電気を伝導する材料を意味することとする。「光伝導性の(photoconductive)」という用語は、通常、電磁放射エネルギーが吸収され、それによって、電荷キャリアの励起エネルギーに変換されて、キャリアが伝導することができる、すなわち、材料の中で電荷を輸送することができる工程に関する。「光伝導体(photoconductor)」および「光伝導性の材料(photoconductive material)」という用語は、電磁放射を吸収して電荷キャリアを生成する特性のために選択される半導体材料を称するために使用される。
【0011】
PVデバイスは、光電流(photocurrent)掛ける光電圧(photovoltage)の最大の積(product)のため、標準照明条件(つまり、1000W/m、AM1.5のスペクトル照明の標準試験条件(Standard Test Conditions))の下での最大電力生成のために最適化されうる。
【0012】
標準照明条件の下でのそのようなセルの電力変換効率(power conversion efficiency)は、次の3つのパラメータ、(1)ゼロバイアスの下での電流、つまり短絡回路電流ISC、(2)開回路条件の下での光電圧、つまり開回路電圧VOC、および(3)フィルファクタ(fill factor)ffに依存する。
【0013】
PVデバイスは、負荷に接続され、光により照射を受けるとき、光生成電流(photo−generated current)を生成する。無限の負荷の下で照射を受けるとき、PVデバイスは、その最大の可能な電圧、V開回路またはVOCを生成する。電気接続が短絡されて照射を受けるとき、PVデバイスは、その最大の可能な電流、I短絡回路、またはISCを生成する。実際に電力を生成するために使用されるとき、PVデバイスは、有限の抵抗性負荷に接続され、電力出力は、電流と電圧との積I×Vによって与えられる。PVデバイスによって生成される最大総出力は、本質的に積ISC×VOCを越えることはできない。最大電力抽出について負荷値が最適化されるとき、電流および電圧は、それぞれIMAXおよびVMAXの値を有する。
【0014】
PVデバイスの性能指数は、フィルファクタffであり、ff=(IMAXMAX)/(ISC×VOC)(1)で定義され、実際の使用においてISCおよびVOCが決して同時に得られないので、ffはつねに1未満である。それにも関わらず、ffが1に近づくと、デバイスはより少ない直列または内部抵抗を有し、したがって、最適な条件の下で負荷にISCとVOCとの積のより多くの割合を伝達する。ここで、PINCはデバイスへの電力入射であり、デバイスの電力効率ηはη=ff×(ISC×VOC)/PINCで計算されうる。
【0015】
PVデバイスは、入射ソーラーパワーを有効な電力に変換することができる効率によって特徴付けられうる。結晶性またはアモルファスシリコンを使用しているデバイスは、商業的な用途を独占し、いくつかは23%以上の効率を有する。しかしながら、効率的な結晶性ベース(crystalline−based)のデバイス、特に大きな表面積のものは、効率を劣化させる大きな欠陥なしで大きな結晶を生産することの固有の問題により生産することが困難で高価である。一方、高効率のアモルファスシリコンデバイスは、未だに安定性の問題に悩まされている。現在商業的に入手可能なアモルファスシリコンセルは、4ないし8%の安定化された効率性を有する。最近の取り組みは、経済的な生産コストで許容可能な光起電変換効率を達成することができる有機太陽電池の使用に焦点が当てられてきた。
【0016】
有機PVセルは、従来のシリコンベースのデバイスと比較すると、多くの潜在的な利点を有する。有機PVセルは、軽量で材料の使用において経済的であり、例えばフレキシブル樹脂膜のような低コストの基板に堆積されうる。
【0017】
適当なエネルギーの電磁放射が有機半導体材料に入射するとき、フォトンが吸収されて分子励起状態(excited molecular state)を生成しうる。有機光伝導性材料では、生成された分子状態は、一般的に励起子(exciton)、つまり準粒子(quasi−particle)として輸送される束縛状態(bound state)にある電子正孔対であると考えられている。励起子は、元の電子と正孔が互いに再結合(他の対からの正孔または電子と再結合することに対して)することを称する対再結合(「クエンチング(quenching)」の前に相当の寿命(appreciable life−time)を有する可能性がある。光電流を生成するため、励起子を形成する電子正孔対は、通常は整流接合において分離されている。
【0018】
感光デバイス(photosensitive devices)の場合、整流接合は光起電ヘテロ接合(photovoltaic heterojunction)と称される。光起電ヘテロ接合の種類は、ドナー材料およびアクセプタ材料の界面に形成されるドナー−アクセプタヘテロ接合と、光伝導性材料および金属の界面に形成されるショットキーバリアヘテロ接合(Schottky−barrier heterojunction)とを含む。
【0019】
図1は、ドナー−アクセプタヘテロ接合の一例を説明するエネルギー準位図である。有機材料との関連では、「ドナー」および「アクセプタ」という用語は、接触してはいるが、異なる2つの有機材料の最高被占軌道(「HOMO」)および最低空軌道(「LUMO」)エネルギー準位の相対的な位置を称する。もし、他と接している一の材料のLUMOエネルギー準位が、より低いならば、その材料はアクセプタである。そうでなければ、それはドナーである。外部バイアスがない限り、ドナー−アクセプタ接合の電子にとっては、アクセプタ材料へ移動することがエネルギー的に好ましい。
【0020】
ドナー152またはアクセプタ154において、フォトン6の吸収の後、励起子8が作られ、励起子8は、整流接合部分で分離する。ドナー152は、正孔(白丸)を、アクセプタ154は電子(黒丸)を輸送する。
【0021】
有機半導体における重要な特性は、キャリア移動度である。移動度は、電界に応じて電荷キャリアが導電材料を通じて移動することができる容易さを測定する。有機感光デバイスとの関連では、高い電子移動度により、電子によって優先的に導電する材料は、電子輸送材料と呼ばれる可能性がある。高い正孔移動度により、正孔によって優先的に導電する材料は、正孔輸送材料と呼ばれる可能性がある。移動度および/またはデバイス中の位置により、電子によって優先的に導電する層は、電子輸送層(「ETL」)と呼ばれる可能性がある。移動度および/またはデバイス中の位置により、正孔によって優先的に導電する材料は、正孔輸送層(「HTL」)と呼ばれる可能性がある。好適には、アクセプタ材料は、電子輸送材料であり、ドナー材料は、正孔輸送材料であるが、必ずしも必須ではない。
【0022】
キャリア移動度ならびに相対的なHOMOおよびLUMO準位に基づく光起電へテロ接合において、ドナーおよびアクセプタとして役目を果たすために、どのように2つの有機光伝導性材料の対をつくるかは、周知技術であり、ここでは言及しない。
【0023】
一般的な構造、特性、材料、および特徴を含む有機感光デバイスに対する最新技術の追加的な背景説明および解説のために、Forrestらへの米国特許第6,657,378号、Forrestらへの米国特許第6,580,027号、およびBulovicらへの米国特許第6,352,777号が、参照することにより本願に組み込まれる。
【0024】
有機PVデバイスの多くの利点に関わらず、それらは、通常、1パーセント以下のオーダーの比較的低い外部量子効率(external quantum efficiency)を有する。これは、部分的に、光伝導性工程に固有な2次の特質によると考えられる。つまり、キャリア生成は、励起子生成と、拡散と、イオン化または集積とを要求する。これらの工程のそれぞれに関して効率ηがある。添え字は、以下のように使用されうる。電力効率に対してP、外部量子効率に対してEQE、フォトン吸収に対してA、励起子拡散に対してED、電荷集積に対してCC、および内部量子効率に対してIQE。この表記を使用すると、η〜ηEQE=η×ηED×ηCC、かつ、ηEQE=η×ηIQEである。
【0025】
過去10年間にわたった、有機光起電(PV)セルの電力変換効率(η)を増加させることにおける進歩は、主として強固に束縛した光生成励起子(photogenerated excitons)のための分解場所(dissociation site)として機能するドナー−アクセプタ(DA)ヘテロ接合の導入の結果であると考えられる。通常、光吸収長(optical absorption length)Lのオーダーの総厚さLの2重層DA PVセルでは、もし、光学的な干渉効果が無視され、ηA≒100%であるのならば、吸収効率は、1−exp(−L/L)>50%である。しかしながら、非常に無秩序(disordered)な有機材料における励起子拡散長(exciton diffusion length)(L)は、通常、LAよりも小さいオーダーの大きさであり、光生成励起子の大部分は、光電流生成には使用されないままになり(図2a)、この種のセルについて、ηEQE、したがってηを制限する。励起子拡散の障害は、バルクヘテロ接合(図2b)の導入を通じて部分的に除去されてきた。バルクヘテロ接合では、DA界面は、高度に折り畳まれて(folded)、互いに入り込んでいることにより、光生成励起子がそれらの生成場所の距離LDの範囲でつねにDA界面を見つける。現在、最新のバルクヘテロ接合ポリマーPVセルは、5%超の電力変換効率を有する。ポリマバルクヘテロ接合は、通常、ドナーおよびアクセプタ材料の溶解版の混合物をスピンコーティングすることによって加工される。スピンコーティングおよび溶媒蒸発の間、ドナーおよびアクセプタ材料の相は分離され、入り組んだ網目を作る。しかしながら、この種のセルは、通常、励起子の拡散長(L)が、光吸収長(〜500Å)よりもかなり短い(L〜50Å)という不利点を有し、厚く、それゆえに抵抗のある、多重または高度に折り畳まれた界面を備えたセルを用いるか、あるいは、低い光吸収効率の薄いセルを用いるかの間のトレードオフを要求する。これらのバルクヘテロ接合アモルファス有機混合(bulk heterojunction amorphous organic blends)の高い直列抵抗は、活性層の厚さを制限し、減少した光吸収をもたらす一方で、低いフィルファクタと、したがって低い太陽エネルギー変換効率とを示す。
【0026】
しかしながら、バルクヘテロ接合の吸収効率は空間的に制限される。一般的には、ヘテロ接合の吸収特性は、異なる吸収スペクトルを備えるドナー材料およびアクセプタ材料を選択することにより最大化される。もし、入射フォトンが、第2材料ではなく、第1材料の吸収ピークに近い波長を有し、かつ、入射フォトンが主に第2材料を経由してバルクヘテロ接合を通じて遷移する(例えば、第2材料の「指(finger)」の長さを伝わって)ならば、フォトンが光電流に寄与する公算は少ない。
【0027】
それゆえに、励起子が分離するドナー−アクセプタ界面領域と全体的な層の厚さとを増加させることにより、さらにフォトンから励起子への変換を増加させる一方で、例えば励起子が分離する前に移動する短い距離などの秩序のあるバルクヘテロ接合の利点を保持することは有益でありうる。
【0028】
無秩序な有機膜における電荷キャリアの低い移動度に取り組む1つの方法は、有機材料に秩序性および結晶性を作る加工アプローチ(processing approach)を展開することである。ここに参照することにより併合される、米国出願第11/880,210号は、1つのそのような方法を提供し、活性層がナノ結晶有機領域を含むPVセルを提供して、電荷抽出のための高導電率網(high conductivity networks)を形成する。このセルは、バルクヘテロ接合の高い表面領域に結合して低下された抵抗を含む、結晶材料を使用することによって付与される多くの利益を保持する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
発明の概要
有機感光デバイス用のバルク有機結晶層(bulk organic crystalline layers)を成長させるための有機気相堆積を利用する新しい方法と、そのような方法によって作製されたヘテロ接合および膜と、そのようなヘテロ接合および膜を用いたデバイスが開示される。加えて、ヘテロ接合および有機感光デバイスを製造するための新しい方法と、それによって製造されたヘテロ接合およびデバイスも開示される。
【課題を解決するための手段】
【0030】
例えば、一実施形態において、基板を提供することと、有機気相堆積法により第1有機材料の結晶層を基板に成長させることと、を含む有機感光性光電子デバイスで使用される層の形成方法が開示される。この方法は、例えば少なくとも約0.25cmの長距離秩序度(long range order)の結晶を有する結晶層を形成するために使用されてきた。
【0031】
別の実施形態では、開示された方法にしたがって作製された少なくとも1つの層、例えば長距離結晶秩序度(long range crystallinity order)を有する第1有機材料の結晶材料を有する、基板を含む層を含む有機感光デバイスが開示される。
【0032】
さらに、別の実施形態では、−100℃から約200℃の範囲、例えば−40℃から約90℃の温度に維持された基板上に第1有機材料の第1結晶層を成長させること、第1層の表面上に第2有機材料の第2配向結晶層(second oriented and crystalline layer)を成長させること、を含み、第1結晶層は、アクセプタまたはドナー材料であり、第2結晶層は、第1結晶層とは反対である、有機感光デバイス用のヘテロ接合を形成する方法が開示される。
【0033】
本明細書に組み込まれ、一部を構成する添付の図面は、本発明のいくつかの実施形態を説明し、記載とともに本発明の原理を説明する役目を果たす。図は、必ずしも寸法のとおりになっていない。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】ドナー−アクセプタヘテロ接合を説明するエネルギー準位図である。
【図2】2種類のドナー−アクセプタ有機太陽電池を説明する。
【図3】本開示の第1実施形態によるOVPD工程の説明である。
【図4】図aは、[100]方向に向けられた電子ビームを用いた、むき出しのKBr基板のための反射高エネルギー電子回折(RHEED)パターンを説明する。図bは、表面上に約40nmの層厚のPTCDA層が成長された2つの異なるKBr基板配向に沿ったRHEEDパターンを説明する。図cは、表面上に約40nmの層厚のPTCDA層が成長された2つの異なるKBr基板配向に沿ったRHEEDパターンを説明する。
【図5】走査型電子顕微鏡(SEM)画像と、温度および反応速度の関数として高配向熱分解黒鉛(HOPG)上に成長したCuPcの40nm厚の膜の対応するRHEEDパターンとを説明する。白いスケールバーは、500nmに対応する。
【図6】左側は、PTCDAの第1の40nm厚層に対する[100]KBr方向に沿ったRHEEDパターンを説明する。中央は、PTCDA層上に成長した15nm厚CuPcに対するRHEEDパターンが説明される。右側は、完全な被覆ではあるが、「オレンジの皮」表面形態を示す2重層の表面形態を説明する。
【図7】様々な成長速度で堆積された100nm厚膜のPTCDAの正孔移動度を示す。
【図8】本開示の別の実施形態にしたがったヘテロ接合を作製するための別の工程を説明する。
【図9】タンデムセルの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
詳細な説明
したがって、一実施形態では、基板を提供すること、有機気相堆積によって基板上に第1有機材料の厚い結晶層を成長させること、を含み、前記結晶層は、例えば、少なくとも0.25cm、少なくとも1.0cm、または少なくとも4.0cmの長距離秩序度の結晶を有する、有機感光性光電子デバイスにおける層を形成する方法が開示される。結晶層は、少なくとも約150Åの厚さであり、例えば少なくとも約400Åの厚さである。
【0036】
一実施形態では、基板上にハロゲン化アルカリ材料を含みうる第2有機材料の結晶層を堆積させることをさらに含む。一実施形態では、ハロゲン化アルカリ材料は、KBrを含む。別の実施形態では、基板は、高配向熱分解黒鉛(highly oriented pyrolytic graphite)を含む。一実施形態では、開示された基板は、有機気相堆積の間−40℃から90℃の範囲の温度に維持される。
【0037】
一実施形態では、開示された方法は、基板上に第1有機材料の前記結晶層を成長させる前に自己集合単分子層(self assembled monolayer)を堆積することをさらに含む。一実施形態では、自己集合単分子層は、アルカンチオールを含む。
【0038】
第1有機材料は、小分子またはポリマー材料を含みうることが理解される。PTCDAおよびCuPcを含む小分子材料の例は限定されない。一実施形態では、第1有機材料CuPcを含み、第2有機材料はPTCDAを含む。
【0039】
基板を含む少なくとも1つの層を含む有機感光デバイスであって、前記基板は、第1有機材料の結晶材料を含み、前記結晶材料は、長距離結晶秩序度を有する、有機感光デバイスが開示される。
【0040】
一実施形態では、有機感光デバイスは、ヘテロ接合を形成する、ここに説明された少なくとも1つの層を含む。有機感光デバイス用のヘテロ接合を形成する方法も開示される。前記方法は、通常、例えば−40℃から約90℃の範囲の低温に維持された基板上に第1有機材料の第1結晶層を成長させること、第1層の表面上に第2有機材料の第2配向結晶層を成長させること、を含み、第1結晶層は、アクセプタまたはドナー材料であり、第2結晶層は、第1結晶層とは反対である。
【0041】
この実施形態では、前記方法は、基板上に第1有機材料の第1結晶層を成長させる前に自己集合単分子層を堆積することを含みうる。
【0042】
別の実施形態では、基板は、スタンプ基板(stamp substrate)であり、前記方法は、第1電極上に第1および第2結晶層と自己集合単分子層とを押圧すること、を含む。この実施形態は、スタンプ基板および自己集合単分子層を除去すること、第1結晶層上に励起子阻止層(exciton blocking layer)を堆積することをさらに含む。加えて、この方法は、励起子阻止層を覆って第2電極を堆積することをさらに含みうる。
【0043】
一実施形態で記載されたとおり、第1結晶層はCuPcを含む可能性があり、第2結晶層はC60を含む可能性がある。別の実施形態では、第1結晶層は、CuPcを含む可能性があり、第2結晶層はPTCDAを含む可能性がある。
【0044】
一実施形態では、有機気相堆積(OVPD)は、結晶有機膜の成長のための主な手段として使用される。OVPDは、以前に使用された真空技術とは異なり、複数の有機分子が、それらを熱い壁の反応器部(炉それ自体上に堆積することを防止するため)を通じて冷却された基板に輸送する熱い不活性搬送ガス(inert carrier gas)の中に蒸発される。
【0045】
OVPDは、広く使用される真空温度蒸発(VTE)と異なり、OVPDは堆積チャンバに蒸気を輸送するために搬送ガスを使用する。蒸発および輸送の機能を空間的に分離することは、堆積工程の間、正確な制御(control)をもたらし、例えば、滑らかな表面を備えた平面、または突起を備えた層などの有機表面形態上を制御することを可能にする。VTEと比較すると、OVPDの別の特徴は、大きな分子表面拡散(molecular surface diffusivity)と、表面に到達する分子に続く非弾道軌跡(non−ballistic trajectories)とである。OVPDは、既存の空孔(preexisting voids)および他の表面非均一性を埋めるのに特に有効である一方、VTEは、長い平均自由工程と入射分子に続く弾道軌跡とにより効果がない。
【0046】
OVPDで使用される通常の堆積条件において、基板周囲の搬送ガスの流れは、分子輸送が拡散律速(diffusion−limited)である流体力学的境界層(hydrodynamic boundary layer)を作る。堆積速度、堆積効率、および膜形態は、有機種濃度(organic species concentration)、流れの流体力学、および表面拡散を調節することにより制御される。
【0047】
キャリア移動度、直列抵抗、およびスピンコーティング設計上の全体的な効率の改善に加え、OVPDで成長したヘテロ接合の秩序のある特質は、電極への浸透経路(percolation pathway)によって電気的に接続されていないドナーおよびアクセプタ材料のポケット(pockets)の発生を除去することができる。
【0048】
VTEを越えるOVPDのさらなる利点は、(1)非常に大きな基板領域を覆って堆積することが可能であり、そして(2)それは、周囲圧力および基板温度の両方を変化させる能力により結晶形態(crystalline morphology)上に相当の制御(control)を与える。もちろん、周囲の気体の圧力は、吸着原子(adatoms)の表面移動度を制御し、それによって、長距離結晶秩序度と同様に表面組織の制御をもたらす。
【0049】
結晶層は、それらの無秩序の対照物と比較して劇的に高い移動度を有し(約10から10倍高い)、したがって、励起子拡散長、層導電率、そして結果的に使用に適した厚さおよび吸収効率において顕著な増加をもたらす。しかしながら、有機膜における結晶の長距離秩序度は、ここで説明されるOVPD工程以外の方法で得るのは非常に困難である。したがって、そのような劇的な高移動度を備える層を得ることは、過去においてはとらえどころのないものであった。ηEQEは、すべて電荷移動度に依存する個々の効率の積に依存するので、ここで説明された方法で高い結晶性を得ることは、そのような結晶膜を使用するセルの電力変換効率に劇的な影響を及ぼしうる。最後に、広い領域にわたる結晶性は、バルクヘテロ接合構造に代表される準安定混合(metastable mixtures)を避けることによって、より安定的な材料をもたらし、PVセルにより現実的な稼動寿命をもたらすはずである。総合すれば、>4cmの面積を有する高効率セルが、有機薄膜材料の低処理温度特性によって利用可能にされた軽量で柔軟性のある基板を用いて低コストで生成できる
一実施形態では、バルクに延びるほど複数の層は「厚い」、それによって、追加的な材料の継続された成長は、層の結晶の相(habits)または形態(morphologies)を変化させない。別の実施形態では、層は少なくとも約150Åの厚さである。さらなる実施形態では、層は、少なくとも約400Åの厚さである。
【0050】
少なくとも1つの形成された層は、長距離結晶秩序度を有するべきであり、例えば、少なくとも約0.25cm(0.5cm×0.5cm)、少なくとも約1.0cm(1.0cm×1.0cm)、または少なくとも約4.0cm(2.0cm×2.0cm)の結晶秩序度である。
【0051】
一実施形態では、少なくとも1つの層が隣接する1つの層と同じ方向に配向されている。
【0052】
一実施形態では、少なくとも1つの層を作製するために小分子有機材料が使用される。そのような材料の限定されない例は、CuPc、PTCDA、およびC60を含む。
【0053】
一実施形態では、OVPDにおける基板温度は低く保たれ、例えば、−40℃ないし90℃または−40℃ないし25℃の範囲の温度である。
【0054】
EBLsの例は、Forrestらの米国特許第6,451,415号および7,230,269号に記載されており、EBLに関するその開示を参照することによって、本願に引用したものとする。EBLの付加的な背景説明は、Peumansらの「高光強度での極薄有機二重ヘテロ構造光起電性ダイオードにおける効率的なフォトン捕獲」、応用物理会報76、2650〜52(2000)にも見られる。EBLは、励起子がドナーおよび/またはアクセプタ材料から移動することを妨げることによって、クエンチングを減少させる。
【0055】
基板は、所望の構造特性を提供する任意の適した基板でありうる。基板は、柔軟性があってもなくても、平らであってもなくてもよい。いくつかの実施形態では、ハロゲン化アルカリ基板、例えばKBrが使用される。別の実施形態では、熱分解黒鉛および配向熱分解黒鉛も用いられる。いくつかの実施形態では、基板は、有機材料の厚い結晶層を含みうる。基板は透明、半透明、または不透明でありうる。硬い樹脂およびガラスは、硬い基板材料の例である。柔軟性のある樹脂および金属箔は、柔軟性のある基板材料の例である。図8に示されているように、貨幣金属、例えば、金、銀に流し込める(cast onto)自己集合単分子層は、基板として使用されうる。一実施形態では、SAMはアルカンチオールを含む。別の実施形態では、SAMは、膜とアノード(または図8に示されるようにITO皮膜されたアノード)との間の結合強度が、膜と選択されたSAMとの間よりも強くなるように選択されて、SAMが皮膜された基板からの膜の移動を容易にする。
【0056】
アノード平滑化層(Anode−smoothing layers)は、アノード層とヘテロ接合層、例えばドナー層との間に位置しうる。アノード−平滑化層は、Forrestらへの米国特許6,657,378号に説明されており、この特徴に関連する開示は、参照により本願に引用したものとする。
【0057】
説明された実施形態にしたがって製造されたセルは、真空堆積、スピンコーティング、溶解処理、有機気相堆積、インクジェット印刷、有機蒸気ジェット印刷(organic vapor jet printing)、および他の知られている技術によって製造される付加的な有機層を含みうる。有機材料は、シクロメタル化された(cyclometallated)有機金属化合物を含む有機金属化合物でありうる。
【0058】
図9に示されるセルは、要素608に接続されうる。もし、デバイスが光起電デバイスであるならば、その要素は、電力を消費または蓄積する抵抗性負荷である。もし、デバイスが光検出器である場合、要素608は、光検出器が光にさらされるときに生成される電流を測定する電流検出回路であって、デバイスにバイアスを加えうる(たとえば、2005年5月26日に公開されたForrestらへの米国出願公開2005−0110007A1号に説明されている)。(たとえば、光活性領域として単一の光伝導性材料を使用して)デバイスから整流接合が除去される場合、その結果の構造物は、光伝導体セルとして使用されてもよく、この場合、構成190は、光吸収に起因するデバイス全体の抵抗の変化を監視する信号検出回路である。特に明記しない限り、ここで開示される各図面および実施形態中において、デバイスには上記のような配置や変更が使用される。
【0059】
有機感光性光電子デバイスは、また、複数の透明電荷移動層(transparent charge transfer layers)、複数の電極、または複数の電荷再結合領域(charge recombination zones)を含みうる。電荷移動層は、有機または無機であり、光伝導的にアクティブまたはアクティブではない可能性がある。電荷移動層は、電極と似ているが、デバイスの外部に電気的接続を有さず、光電子デバイスのあるサブセクションから隣接するサブセクションにキャリアを運ぶだけである。電荷再結合領域は、電荷移動層と似ているが、光電子デバイスの隣接したサブセクション間で電子と正孔の再結合を許す。Forrestらへの米国特許第6,657,378号、2006年2月16日に公開されたRandらの「有機感光デバイス」と題された米国特許出願公開2006−0032529A1、2006年2月9日に公開されたForrestらの「積層有機感光デバイス」と題された米国特許出願公開2006−0027802A1のそれぞれが、本願に電荷再結合領域材料および構造の開示について参照により組み込まれる。例示されるように、電荷再結合領域は、半透明金属またはナノクラスタ、ナノ粒子、および/またはナノロッドを含む金属代替物の再結合中心(recombination center)を含んでもよい。電荷再結合領域は、再結合中心が埋め込まれる透明マトリックス層を含んでも、含まなくてもよい。電荷移動層、電極、または電荷再結合領域は、光電子デバイスのサブセクションのカソードおよび/またはアノードとして機能する。電極または電荷移動層は、ショットキーコンタクトとして機能しうる。
【0060】
上述の各デバイスにおいて、例えば平滑化層および励起子阻止層のように、層が省略されてもよい。たとえば、反射層または追加の光活性領域のような他の層が加えられてもよい。層の順番は、変更または逆転されてもよい。集信装置(concentrator)またはトラッピング構造が、効率向上のために採用されてもよく、たとえば、Forrestらへの米国特許第6,333,458号およびPeumansらへの米国特許第6,440,769号のように開示されており、これらの内容は参照により本願明細書に引用したものとする。デバイスの所望の領域に光学エネルギーを集中するためにコーティングが使用されてもよく、例えば、Peumansらによる「非周期的誘電多層スタック」と題された米国特許出願公開2005−0266218A1のように開示されており、これらの内容は参照により本願明細書に引用したものとする。タンデムデバイスにおいて、電極を経て提供されているセル間の電気的接続と共に、透明絶縁用層がセル間に形成されてもよい。また、タンデムデバイスにおいて、1以上の光活性領域が、ドナー−アクセプタヘテロ接合の代わりにショットキー障壁ヘテロ接合であってもよい。これらの特記されたものとは異なる配置が用いられてもよい。
【0061】
定義
アノードおよびカソードなどの電極は、金属または「金属代替物(metal substitutes)」を含みうる。ここで、用語「金属」は、基本的に純粋な金属で構成される材料と、2以上の基本的に純粋な金属で構成される材料である金属合金との両者を包含するために用いられる。用語「金属代替物」は、通常の定義の範囲内において金属ではない材料であるが、導電率といった金属のような特性を有するもの、たとえば、ドープされたバンドギャップの大きい半導体、縮退した半導体、導電性酸化物、および導電性ポリマーをいう。電極は、単一層または多重層(「化合物」電極)を有し、透明、半透明または不透明体である。電極と電極材の例は、Bulovicらへの米国特許第6,352,777号、およびParthasarathyらへの米国特許第6,420,031に開示されており、これらのそれぞれの特徴の開示は参照により、本願に組み込まれる。本願では、層が「透明」であるとは、関連する波長の周囲電磁放射の少なくとも50%を透過することをいう。
【0062】
「有機の」という用語は、光電子デバイスを作るために用いられる可能性のある小分子有機材料と同様にポリマー材料も含む。「小分子(small molecules)」は、ポリマーではないあらゆる有機材料を参照し、「小分子」は、実際には非常に大きい可能性がある。小分子は、いくつかの状況において繰り返しの構成単位を含む可能性がある。たとえば、長い鎖状のアルキル基を置換基として用いることは、「小分子」類から分子を除かない。小分子は、また、たとえば、ポリマー骨格上のペンデントグループ(pendent group)または骨格の一部としてポリマーに含まれる可能性がある。小分子は、また、中心部分上に形成された連続する化学的な外郭構造(chemical shells)を含むデンドリマーの中心部分としても役割を果たす可能性がある。デンドリマーの中心部分は、蛍光性あるいはリン光を発する小分子の放射体でありうる。デンドリマーは、「小分子」の可能性がある。一般的に、小分子は分子から分子の間で同等の分子量を伴う所定の化学式を有し、一方で、ポリマーは分子から分子の間で変化する分子量を伴う所定の化学式を有する。本願では、「有機の」は、ヒドロカルビル(hydrocarbyl)の金属化合物およびヘテロ原子置換型のヒドロカルビル・リガンド(hydrocarbyl ligands)を含む。
【0063】
もし、第1のエネルギー準位が、真空エネルギー準位10により近いならば、第1のHOMOまたはLUMOエネルギー準位は、第2のHOMOまたはLUMO「より大きい」または「より高い」。より高いHOMOエネルギー準位は、真空準位に比べて、より小さい絶対エネルギーを有するイオン化ポテンシャル(「IP」)に対応する。同様に、より高いLUMOエネルギー準位は、真空準位に比べて小さい絶対エネルギーを有する電子親和力(「EA」)に対応する。従来のエネルギー準位図上では、真空準位が最上位にあり、材料のLUMOエネルギー準位が、同じ材料のHOMOエネルギー準位より高い。
【0064】
ここで使用される用語「有機金属」は、当業者によって一般的に理解されているもので、例えば、Gary L. MiesslerおよびDonald A. Tarr著の「無機化学」(第2版) Prentice Hall(1999)の第13章に与えられる。
【0065】
「高配向熱分解黒鉛」という用語は、1度未満のモザイク状の広がりを有する黒鉛材料のことを称する。
【0066】
ここで用いられる「長距離秩序度」という用語は、通常、少なくとも1平方ミクロン(um)、数平方ミクロン(um)、またはいくつかの場合では少なくとも0.5mmの基板を横切って観測される秩序度のことを称する。
【0067】
複数の例
本発明の具体例がここに図解および/または説明される。しかしながら、本発明の変更および変形は、本発明の精神および範囲を離れることなく上記の教示および添付の特許請求の範囲によって保護される。
【0068】
通常のOVPD工程
OVPDシステムの概略図の限定されない例が図3に示される。OVPDにおいて、熱い不活性搬送ガス1は、ソースセル3から放射する蒸発された有機2とともに注入される。有機2は、堆積が起きる冷却された基板4に輸送され、それゆえに膜5を形成する。ガス温度、基板温度、および圧力は、変化されて膜5の結晶性に影響を与える。
【0069】
一実施形態では、膜5の結晶性を監視するために原位置で(in situ)の診断、例えば有機分子線蒸着(molecular beam deposition)(OMBD)などのような超真空システムでよく使用される技術である、例えば反射高速電子回折(RHEED)が使用されうる。
【0070】
長距離結晶秩序度を得るOVPDの能力の限定されない例は、KBrの単結晶上に3,4,9,10ペリレンテトラカルボン酸二無水物(perylenetetracarboxylic dianhydride)(PTCDA)の原型分子結晶を成長させることによって実証される。成長は、前述の垂直なマルチバレル石英(multibarrel quartz)OVPDチャンバで実行された。Shteinらのジャーナル・オブ・アプライド・フィジクス89巻1470頁(2001)を参照、ここに参照することにより組み入れられる。結晶構造は、HP−RHEED(Luntらの応用物理会報,2007,70を参照、ここに参照することにより組み入れられる)でリアルタイムに原位置で、そしてリガク(Rigaku)Cu−Kα回転アノードソースを用いたブラッグ−ブレンターノ配置(Bragg−Brentano configuration)でのX線回折で実験施設内(ex−situ)において監視された。0.1×20mm電子ビームを用いてHP−RHEEDパターンが、ビームエネルギー、電流、入射角がそれぞれ20keV、<100nA、および〜1°において記録された。ビーム電流は、帯電することを避けるため、>100nAにおいて最小化された。溶剤で洗浄されたSi基板上を可変角度分光偏光解析器(variable−angle spectroscopic ellipsometer)を用いて膜厚が成長後に計測された。帯電を防止するために表面を20ÅのAuで皮膜したのち、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて表面トポグラフィー(surface topography)が観測された。
【0071】
PTCDAは、OVPDチャンバのバレルの中に位置する石英ソースボート(quartz source boat)に装填する前に勾配昇華(gradient sublimation)によって2回精製された。PTCDAは、60mTorrの成長圧力における0.7Å/sの表面堆積速度(nominal deposition rate)に対応する385℃、25sccmの窒素流において蒸発された。単結晶KBr基板は、成長チャンバに装填される前にただちに開列された(cleaved)。
【0072】
HP−RHEEDパターンに指標を付けるため、それぞれの割り付けられた筋の位置について格子面間隔(d−spacings)が計算され、KBrパターンを用いて調整(calibrate)された。X線回折が、面内の表面メッシュの識別を助ける膜のスタック方向(stacking direction)を決定するために使用された。複数の格子定数が格子面間隔に合わせられて、すべてのデータの非線形最小二乗回帰を用いて複数の指標を割り付けた。
【0073】
図4aは、[100]方向に向けられた電子ビームを用いた、むき出しのKBr基板のためのRHEEDパターンを説明する。
【0074】
400Å厚のPTCDA膜の結果的なRHEEDパターンが、2つのKBr結晶方向に沿って図4bおよび図4cに示される。筋の位置は、白い目盛りで強調されている。RHEEDパターン中において、よく画定され、連続的な筋は、電子ビームをプローブする距離または約0.1mm×2cmにわたって平らで秩序度の良い構造であることを示している。図4bについて測定された格子面間隔は、それぞれ(02),(20)=9.7Å,6.0Åである。図4cについて測定された格子面間隔は、それぞれ(11),(12),(14),(24),(26),(28),(55),(66)=10.4Å,7.9Å,4.7Å,3.9Å,2.96Å,2.29Å,2.10Å,1.72Åである。筋の指標付け(単位メッシュ指標が記された短い白線によって表示されているように)は、PTCDAがその緩和されたα−フェーズで成長することを明確に表示している。その上、(110)および(100)KBr方向に沿った筋のパターンの変化は、下層の結晶に対して優先的な配置を明確に示す。歪が5%超える、PTCDAとKBr構造との間には明らかな格子整合(lattice match)がないので、これは注目すべきことである。整合性なしで、秩序化される一方で緩和される基板上の結晶のこの能力は、有機材料の「ソフトな(soft)」ファン・デル・ワールス結合特性の直接的な結果と考えられている。この特性は、世界中の研究機関で大々的に研究されてきており、「準エピタキシー(quasi−epitaxy)」として知られている。特に注目すべきなのは、特にこの膜/基板の組合せについてのこのような大きな、巨視的領域にわたってほぼ完全な配置であることである。秩序化されたPTCDA膜の全体的な大きさは、12mm×25mmであり、膜は1mmの厚さであった。このような大きな寸法の厚い膜について、この膜結晶の完全性の度合いは、観測されたことがなかったと考えられる。
【0075】
図5には、ドナー材料、高配向熱分解グラファイト(HOPG)上に成長された銅フタロシアニン(CuPc)の結晶形態上の基板温度および背景反応器圧力(background reactor pressures)のマトリクス(matrix)が示される。成長パラメータの範囲にわたり結晶パラメータ上にかなりの程度の制御(control)があることは明らかである。再び、いくつかの成長条件の下で、基板に対する膜の準エピタキシャル配置(quasi−epitaxial alignment)が観測される。
【0076】
別の限定されない例では、第1有機の結晶層、PTCDAは、基板KBr上に成長し、PTCDAの表面上に第2有機材料の第2方向結晶層CuPcの成長が続く。RHEEDパターンおよび第1および第2層の形態が図6に示される。両方の層は、それらのバルク形態に延びるほど「厚い」ので、付加的な材料の継続的な成長は、結晶の相または層の形態を変化させない。PTCDA層は、40nmの厚さを有し、CuPc層は、15nmの厚さを有する。これが、完全に秩序化されたプレナーヘテロ接合(以下、「有機結晶プレナーヘテロ接合」)を形成する、一の上に他が重ねられたバルク結晶有機材料の成長の最初の実証であると考えられる。
【0077】
上の複数の例は、結晶の長距離秩序度を有する膜が、OVPDにより利用可能となった好ましい成長条件下において小分子有機材料を用いて得ることができることを明らかに示している。さらに、電荷移動度は秩序度の強い関数である。図7に示されるように、PTCDA中の正孔移動度は、成長速度の関数として示される。図7は、超真空で成長されるとき、移動度は2桁増加し、50Å/sの速度で最大1.5cm/(V・s)に達することを実証している。この増加された移動度は、OVPDによって成長したペンタセン中でも観測されている。応用物理会報第81巻268頁(2002)、M.Shtein,J.Mapel,J.B.Benziger,およびS.R.Forrest、「有機気相堆積されたペンタセン薄膜トランジスタの電気特性上の膜形態およびゲート誘電体表面前処理の効果」を参照、ここに参照することにより本願に組み込まれる。したがって、有機結晶プレナーヘテロ接合を含むPVセル中のそのようなヘテロ接合は、とても高い電力変換効率を有することが予想される。
【0078】
PVセルを製造する一般的な方法
別の実施形態にしたがって、a)成長テンプレートを形成するAu上の予め堆積された自己集合単分子層(SAM)を用いてスタンプ(stamp)上のドナー−アクセプタヘテロ接合のOVPDによる堆積、b)結晶ヘテロ接合をインジウムスズ酸化物(ITO)が皮膜された基板にスタンプすることによる転写、(c)こうして、完全なヘテロ接合が形成され、その上に、(c)励起子阻止層(EBL)および金属カソードが堆積されてセルを完成させる、複数の段階を含むPVセルを製造する例示的な方法が提供される。この限定されない複数の工程の詳細は、図8(a)から図8(d)にそれぞれ示されている。
【0079】
図8(a)および図8(b)に示されている工程段階を繰り返すことにより、例えば、図9に示される例示的なタンデム(または「積層された(stacked)」)デバイスのような、より複雑なセルが形成されうる。複数の有機層を有する有機感光性光電子セルまたは複数層デバイス600の限定されない例が図9に示される。絶縁または導電基板601がデバイスを支持する。第1電極602は、例えば、適切な厚さのITOを有する。前記限定されない例示的なデバイスは有機層603,604,605,606を有する。最後に、第2透明電極607が有機層606に隣接する。
【0080】
タンデムセルでは、様々な波長の光の吸収を最適化するため、様々な層厚を有するヘテロ接合が積層されうる。一実施形態では、タンデムセルは、用いられる基板が透明ガラスであり、基板上のアノードがITOであり、ヘテロ接合(または複数のヘテロ接合、例えば二重ヘテロ接合)が赤い光を選択的に吸収する層厚を有し、まず、図8(c)に示されるように少なくともヘテロ接合を形成することによって形成される。次に、青い光を優先的に吸収する層厚を有する第2ヘテロ接合が第1ヘテロ接合の上にスタンプされる。最後に、第2ヘテロ接合上に(図8(d)に示されるのと同じだけ)カソードが堆積され、タンデムセルが完成する。
【0081】
透明な電荷移動層、電極、または電荷再結合領域がタンデムセルに含まれうる。例えば、隣接する吸収層中の光場を強めるため、銀ナノ粒子層(示されていない)が第1ヘテロ接合および第2ヘテロ接合との間に使用されうる一方で、同時に光生成電子および正孔の再結合場所として機能する。
【0082】
上で説明された例説明された典型的な本発明の実施形態は、明確に規定されない限り、本発明に制約を設けるものではない。
【0083】
別段に示されない限り、明細書および特許請求の範囲で使われる、構成要素の量、反応条件などを表現するすべての数字は、すべての場合において「約」という語で修飾されて理解される。したがって、反対のことが示されない限り、以下の明細書および添付の特許請求の範囲に説明された数値パラメータは、本発明によって得ることを目指している望ましい特性に依存して変化しうる近似である。
【0084】
本発明の具体例が、ここに図解および/または説明される。しかしながら、本発明の変更および変形は、本発明の精神および範囲を離れることなく上記の教示および添付の特許請求の範囲によって保護される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を提供すること、および
有機気相堆積で基板上に第1有機材料の結晶層を成長させることを含み、
前記結晶層は、長距離秩序度の結晶性を有する、有機感光性光電子デバイスに層を形成する方法。
【請求項2】
前記結晶層は、少なくとも約150Åの厚さである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記結晶層は、少なくとも約400Åの厚さである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記基板上に第2有機材料の結晶層を堆積することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記基板は、ハロゲン化アルカリ材料を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ハロゲン化アルカリ材料は、KBrを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記基板上に第1有機材料の前記結晶層を成長させる前に自己集合単分子層を堆積することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記自己集合単分子層は、アルカンチオールを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記基板は、高配向熱分解黒鉛を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記第1有機材料は、小分子またはポリマー材料を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記小分子材料は、PTCDAを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記小分子材料は、CuPcを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記第1有機材料は、CuPcを含み、前記第2有機材料は、PTCDAを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項14】
前記基板は、前記有機気相堆積の間において−40℃から90℃の範囲の温度に維持される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記形成された層は、少なくとも約0.25cmの長距離結晶秩序度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記形成された層は、少なくとも約1.0cmの長距離結晶秩序度を有する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記形成された層は、少なくとも約4.0cmの長距離結晶秩序度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
基板を含む少なくとも1つの層を含む有機感光デバイスであって、
前記基板は、第1有機材料の結晶材料を含み、
前記結晶材料は、少なくとも0.25cmの結晶秩序度を有する、有機感光デバイス。
【請求項19】
前記結晶材料は、少なくとも150Åの厚さである、請求項18に記載の有機感光デバイス。
【請求項20】
前記基板は、第2有機材料の結晶層をさらに含む、請求項18に記載の有機感光デバイス。
【請求項21】
前記基板は、ハロゲン化アルカリ材料を含む、請求項18に記載の有機感光デバイス。
【請求項22】
ハロゲン化アルカリ材料は、KBrを含む、請求項21に記載の有機感光デバイス。
【請求項23】
前記基板と前記結晶材料との間に自己集合単分子層をさらに含む、請求項18に記載の有機感光デバイス。
【請求項24】
前記自己集合単分子層は、アルカンチオールを含む、請求項23に記載の有機感光デバイス。
【請求項25】
前記基板は、高配向熱分解黒鉛を含む、請求項18に記載の有機感光デバイス。
【請求項26】
前記第1有機材料は、小分子またはポリマー材料を含む、請求項18に記載の有機感光デバイス。
【請求項27】
前記小分子材料は、PTCDAを含む、請求項26に記載の有機感光デバイス。
【請求項28】
前記小分子材料は、CuPcを含む、請求項26に記載の有機感光デバイス。
【請求項29】
前記第1有機材料は、CuPcを含み、前記第2有機材料は、PTCDAおよびC60から選択される、請求項20に記載の有機感光デバイス。
【請求項30】
前記層は、少なくとも約0.25cmの結晶秩序度を有する、請求項18に記載の有機感光デバイス。
【請求項31】
前記層は、少なくとも約4.0cmの結晶秩序度を有する、請求項18に記載の有機感光デバイス。
【請求項32】
前記層は、前記少なくとも1つの層は、ヘテロ接合を形成する、請求項18に記載の有機感光デバイス。
【請求項33】
−40℃から約90℃の範囲の温度に維持された基板上に第1有機材料の第1結晶層を成長させること、
前記第1層の表面上に第2有機材料の第2方向結晶層を成長させること、を含み、
前記第1結晶層はアクセプタまたはドナー材料であり、前記第2結晶層は前記第1結晶層と反対である、有機感光デバイス用のヘテロ接合を形成する方法。
【請求項34】
前記第1結晶層を成長させる前に前記基板上に自己集合単分子層を堆積させることを含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記基板は、スタンプ基板であり、前記方法は、前記第1および第2結晶層ならびに前記自己集合単分子層を第1電極に押圧することをさらに含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記スタンプ基板および前記自己集合単分子層を除去すること、および
前記第1結晶層を覆って励起子阻止層を堆積させることをさらに含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記励起子阻止層を覆って第2電極を堆積させることをさらに含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記第1結晶層は、CuPcを含み、前記第2結晶層は、C60を含む、請求項33に記載の方法。
【請求項39】
前記第1結晶層は、CuPcを含み、前記第2結晶層は、PTCDAを含む、請求項33に記載の方法。

【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図1】
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【図3】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2010−537432(P2010−537432A)
【公表日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−522094(P2010−522094)
【出願日】平成20年8月22日(2008.8.22)
【国際出願番号】PCT/US2008/074120
【国際公開番号】WO2009/029548
【国際公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(509009692)
【Fターム(参考)】