説明

移動体のシステム制御装置及びこれを搭載した移動体

【課題】制御に大きな負荷がかかるのを抑制しながらバッテリの残容量を監視して、電動車両といった移動体の走行中にシステム全体の電源が突然OFFになるという危険性を回避することが可能な電動車両を含む移動体のシステム制御装置を提供する。
【解決手段】移動体である電動車両のシステム制御装置30は、バッテリ22の残容量を推定する残容量推定部21aと、バッテリ22の電圧、電流、温度のうち少なくともいずれか1つに基づいて残容量推定部21aが推定したバッテリ22の推定残容量を補正する残容量補正部21bと、残容量補正部21bが補正したバッテリ22の残容量が第1所定残容量である3%以下になることを条件としてモータ15の駆動をOFFにさせるシステム制御部31と、を備える。これにより、バッテリ22の推定残容量が3%の段階で比較的正確な残容量に補正され、モータ15の駆動がOFFにされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリを搭載した電動車両を含む移動体のモータ及びシステム全体を制御するシステム制御装置に関する。また、このシステム制御装置を搭載した電動車両を含む移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車や自動二輪車は、ガソリンや軽油を燃料として駆動力を得るエンジンを駆動源とするのが一般的であった。しかしながら昨今、環境保護の対策として、電力をエネルギーとして駆動力を得るモータを駆動源とする電動車両の開発に注目が集まっている。
【0003】
電動車両はパーソナルコンピュータなどと同様に二次電池であるバッテリを搭載し、このバッテリからモータや制御部等に対して電力を供給しているものがある。電動車両やパーソナルコンピュータといったアプリケーションに搭載されたバッテリは一般家庭やオフィス等の商用電源で充電が可能であり、それらアプリケーションの使用により充電と放電とのサイクルが繰り返されている。
【0004】
上述のバッテリに関して、その残容量の推定についてはバッテリの電流を積算して残容量を推定する方法が従来広く知られている。また、バッテリの充放電時における電圧、電流に対応させてバッテリの残容量を割り付けたマップや相関を予め調べておき、このマップや相関に基づいてバッテリの残容量を確認する方法も知られている。これらのバッテリ残容量の推定方法、確認方法は特許文献1及び2において開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−91604号公報
【特許文献2】特開2001−37001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、電流積算によるバッテリの残容量の推定は比較的容易に実行できるもののその精度が低いことが知られている。また、電圧、電流に対応させてバッテリの残容量を割り付けたマップや相関に基づくバッテリの残容量の確認はバッテリ残容量の低下とともに逐次実行すると制御に大きな負荷がかかる可能性が高い。一方、ユーザフレンドリーなアプリケーションの提供を心掛けると、バッテリの残容量を逐次表示することが求められる場合もある。
【0007】
特に電動車両ではモータにおける電力消費が大きいこともあり、できるだけ正確なバッテリ残容量の確認が必要である。そして、バッテリの残容量に応じたモータの駆動OFFとシステム全体の電源OFFとのタイミングが重要である。
【0008】
例えば、モータの駆動OFFが所望のタイミングより早い場合、実際のバッテリ残容量に対して走行距離が短くなる虞がある。逆にモータの駆動OFFが所望のタイミングより遅い場合、モータの駆動OFFより先にシステム全体の電源がOFFになる可能性がある。システム全体の電源OFFが所望のタイミングより早い場合も同様の懸念がある。また、システム全体の電源OFFが所望のタイミングより遅い場合、バッテリが過放電の状態となり、劣化して低寿命化する可能性がある。
【0009】
このようにして、電動車両の走行中にシステム全体の電源が突然OFFになると不便であり、また危険を伴う場合もあるので、バッテリの残容量の低下に伴って注意深く残容量を監視することが要求される。そして、バッテリの残容量が残り僅かになってきたとき、モータの駆動OFF、システム全体の電源OFFの順で電動車両が制御されることが望ましい。
【0010】
本発明は上記の点に鑑みなされたものであり、制御に大きな負荷がかかるのを抑制しながらバッテリの残容量を監視して、電動車両といった移動体の走行中にシステム全体の電源が突然OFFになるという危険性を回避することが可能な電動車両を含む移動体のシステム制御装置を提供することを目的とする。また、そのシステム制御装置を搭載した信頼性の高い電動車両を含む移動体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、本発明は、バッテリの残容量を監視しながら電動車両といった移動体のモータ及びシステム全体を制御する移動体のシステム制御装置において、前記バッテリの残容量を推定する残容量推定部と、前記バッテリの電圧、電流、温度のうち少なくとも1つに基づいて前記残容量推定部が推定した前記バッテリの推定残容量を補正する残容量補正部と、前記残容量補正部が補正した前記バッテリの残容量が第1所定残容量以下になることを条件として前記モータの駆動をOFFにさせるシステム制御部と、を備えることとした。
【0012】
この構成によれば、移動体のバッテリの残容量を残容量推定部によって推定しながら、その推定残容量が残容量補正部によって第1所定残容量の段階で比較的正確な残容量に補正される。そして、バッテリの残容量が第1所定残容量になるとき、モータの駆動をOFFにさせる。
【0013】
なお、上記「第1所定残容量」の「所定」とは予め設定したということを意味する。したがって、「第1所定残容量」は予め設定したバッテリの任意の残容量であり、バッテリ全体の容量に対して例えば3%、5%などといった容量として構わない。後述する実施形態では「第1所定残容量」を「3%」と設定しているが、このような容量に限定されるわけではない。
【0014】
また、ここで述べた「モータの駆動をOFFにする」ということは、モータの駆動を停止させることを意味する。なおこのとき、移動体のシステム全体の電源はONのままであり、例えばモータ駆動以外の制御系やライト点灯などに対しては電力が供給される。したがって、モータの駆動を停止した後も、残った電力により例えばライトの点灯が可能であるので、移動体、特に人が運転する移動体では夜間における安全性を確保できる。
【0015】
また、上記構成の移動体のシステム制御装置において、前記システム制御部は、前記残容量補正部が補正した前記バッテリの残容量が前記第1所定残容量より少ない第2所定残容量以下になることを条件として前記システム全体の電源をOFFにすることとした。
【0016】
この構成によれば、確実にモータの駆動OFF、システム全体の電源OFFの順で移動体が制御される。
【0017】
なお、上記「第2所定残容量」の「所定」とは前述の第1所定残容量同様、予め設定したということを意味する。したがって、「第2所定残容量」は予め設定したバッテリの任意の残容量であり、第1所定残容量より少なければバッテリ全体の容量に対して例えば0%、1%などといった容量として構わない。後述する実施形態では「第2所定残容量」を「0%」と設定しているが、このような容量に限定されるわけではない。
【0018】
また、ここで述べた「システム全体の電源をOFFにする」ということは、例えば移動体のメインスイッチを切ることと同等の状態にすることを意味する。例えば移動体が電動車両である場合、例えばヘッドライト、メータ、ウインカーのいずれか1つでも動作しない状態にすることを「システム全体の電源をOFFにする」という。すなわち、システム全体の電源がOFFの状態においてヘッドライト、ウインカーは消灯され、メータは非表示の状態となる。システム全体の電源をOFFにすることにより動作が制限される要素としては上記のほかに、例えばモータ駆動以外の制御系やワイパー、オーディオ関係、エアコンなどが該当する。
【0019】
また、上記構成の移動体のシステム制御装置において、前記残容量推定部は、前記バッテリの電流を積算することにより前記バッテリの残容量を推定することとした。
【0020】
この構成によれば、移動体のシステム全体の制御に対する負荷をできるだけ低く抑制しながら比較的容易にバッテリの残容量が推定される。
【0021】
また、上記構成の移動体のシステム制御装置において、前記残容量補正部は、前記バッテリの電流と温度との関係から前記バッテリの残容量に対応する補正実施電圧が得られるマップを有し、前記バッテリの電圧が前記マップを用いて得た前記第1所定残容量または前記第1所定残容量より少ない前記第2所定残容量各々に対応する前記補正実施電圧以下になることを条件として前記残容量推定部が推定した前記バッテリの推定残容量を補正することとした。
【0022】
この構成によれば、残容量補正部が有するマップを用いることにより、移動体のバッテリの推定残容量が第1所定残容量または第2所定残容量各々の段階で比較的正確な残容量に補正される。
【0023】
なお、ここで述べた「マップ」とは、バッテリの電流と温度との関係からバッテリの残容量に対応する補正実施電圧を得ることができるものであって、残容量推定部が推定したバッテリの推定残容量の補正のために用いられる。残容量補正部はバッテリの電圧、電流、温度に基づいて残容量推定部が推定したバッテリの推定残容量を補正するので、バッテリの電圧、電流、温度各々を変数として上記「マップ」を構成することができる。このとき、変数としてはバッテリの電圧、電流、温度のうち少なくとも1つを用いれば良い。すなわち、変数としてバッテリの電圧、電流、温度のいずれか1つを用いても良いし、いずれか2つを組み合わせて用いても良い。
【0024】
また、上記構成の移動体のシステム制御装置において、前記第1所定残容量より少ない前記第2所定残容量に対応する電圧を基準とする前記バッテリの電圧に対応して放電電流を制限するモータ駆動制限を実行することとした。
【0025】
また、上記構成の移動体のシステム制御装置において、前記バッテリの電圧が前記第1所定残容量より少ない前記第2所定残容量に対応する電圧以下になることを条件として前記バッテリの電圧が前記第2所定残容量に対応する電圧を超えるように前記モータの出力を調整して放電電流を制限するモータ駆動制限を実行することとした。
【0026】
バッテリの電圧が移動体のシステム全体を停止させるための第2所定残容量に対応する電圧以下になるとバッテリが劣化して低寿命化する可能性があるが、これらの構成によれば、バッテリの電圧が第2所定残容量に対応する電圧以下にならないように放電が制限される。
【0027】
なお、例えばバッテリの残容量が第1所定残容量であることを確定させる処理のための一定の処理時間(例えば数秒〜数分)を要する場合がある。この場合、モータを駆動している状態でバッテリの電圧が第2所定残容量に対応する電圧に達することがあり得る。このため、上記のようにバッテリの電圧が第2所定残容量に対応する電圧以下になることを条件としてバッテリの電圧が第2所定残容量に対応する電圧を超えるようにモータの出力を調整して放電電流を制限するモータ駆動制限を実行する。
【0028】
また、上記構成の移動体のシステム制御装置において、前記第1所定残容量に対応する電圧を基準とする前記バッテリの電圧に対応して放電電流を制限するモータ駆動制限を実行することとした。
【0029】
また、上記構成の移動体のシステム制御装置において、前記バッテリの電圧が前記第1所定残容量に対応する電圧に達したことを条件として前記バッテリの電圧が前記第1所定残容量に対応する電圧より低下しないように前記モータの出力を調整して放電電流を制限するモータ駆動制限を実行することとした。
【0030】
これらの構成によれば、モータの駆動がOFFになってからシステム全体の電源がOFFになるまで、バッテリの電力が確保される。したがって、例えばモータ駆動以外の制御系やライト点灯などに対して電力が供給され得る。
【0031】
また、上記構成の移動体のシステム制御装置において、前記モータ駆動制限を実行する前記バッテリの電圧を、前記バッテリに設けられ、前記バッテリの動作を制御するバッテリ制御部が導出することとした。
【0032】
この構成によれば、システム制御部の負荷が軽減される。
【0033】
また本発明では、上記システム制御装置を電動車両を含む移動体に搭載することとした。
【0034】
この構成によれば、電動車両といった移動体において、バッテリの残容量を残容量推定部によって推定しながら、その推定残容量が残容量補正部によって第1所定残容量の段階で比較的正確な残容量に補正される。そして、バッテリの残容量が第1所定残容量になるとき、移動体のモータの駆動が停止する。
【0035】
なお、ここで述べた「移動体」とは電動自転車や自動二輪車、自動三輪車、自動四輪車などといった電動車両を含むことはもちろんであるが、モータボート等の船舶や水上遊具といった乗り物、さらにモータを駆動源とし、人が搭乗せず無人で移動する移動体を含んでいる。
【0036】
また、上記構成のシステム制御装置を搭載した移動体において、移動体の前方に向かって光を照射するヘッドライトを備え、前記システム制御部は、前記残容量補正部が補正した前記バッテリの残容量が前記第1所定残容量より少ない第2所定残容量以下になった場合に、前記ヘッドライトを消灯することとした。
【0037】
この構成によれば、確実にモータの駆動OFF、ヘッドライトの消灯(システム全体の電源OFF)の順で移動体が制御される。すなわち、モータの駆動を停止した後も、残った電力によりヘッドライトの点灯が可能であるので、特に人が運転する移動体では昼夜を問わず視認性が向上して安全性が確保される。
【発明の効果】
【0038】
本発明の構成によれば、電動車両といった移動体のバッテリの残容量を残容量推定部によって推定するので、制御に大きな負荷がかかるのを抑制しながらバッテリの残容量を監視することができる。さらに、残容量補正部が補正したバッテリの残容量が第1所定残容量以下になることを条件としてモータの駆動を停止させるので、電動車両といった移動体の走行中にシステム全体の電源が突然OFFになるという危険性を回避することが可能な電動車両を含む移動体のシステム制御装置を提供することができる。
【0039】
また、このようなシステム制御装置を電動車両を含む移動体に搭載することにより、走行中にシステム全体の電源が突然OFFになるという危険性を回避することが可能な信頼性が高い電動車両を含む移動体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施形態に係るシステム制御装置を搭載した移動体である電動車両の一例を示す側面図である。
【図2】図1の電動車両の構成を示すブロック図である。
【図3】バッテリの残容量計算に係る動作を示すフローチャートである。
【図4】モータ駆動OFF及びシステム電源OFFの判定に係る動作を示すフローチャートである。
【図5】モータ駆動制限の判定に係る動作を示すフローチャートである。
【図6】バッテリ残容量の推移と電動車両の動作との関係を示すグラフにして、推定残容量が実残容量より低い場合のものである。
【図7】バッテリ残容量の推移と電動車両の動作との関係を示すグラフにして、推定残容量が実残容量より高い場合のものである。
【図8】バッテリ電圧とバッテリ放電制限との関係を示すグラフである。
【図9】本発明の第2の実施形態に係るシステム制御装置におけるモータ駆動制限の判定に係る動作を示すフローチャートである。
【図10】図9の動作フローに関するバッテリ電圧とバッテリ放電制限との関係を示すグラフである。
【図11】本発明の第3の実施形態に係るシステム制御装置を搭載した移動体である電動車両の一例を示す側面図である。
【図12】図11の電動車両の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の実施形態を図1〜図12に基づき説明する。ここでは、本発明のシステム制御装置を搭載した移動体である電動車両の例として、第1及び第2の実施形態で電動自転車を掲げ、第3の実施形態で自動二輪車を掲げて説明するものとする。
【0042】
最初に、本発明の第1の実施形態に係るシステム制御装置を搭載した移動体である電動車両について、図1及び図2を用いてその構造を説明する。図1はシステム制御装置を搭載した電動車両の一例を示す側面図、図2は電動車両の構成を示すブロック図である。
【0043】
電動車両1は、図1に示すようにフレーム2が主たる骨組みとして構成され、その前後に前輪3及び後輪4を備えた電動式の自転車である。
【0044】
フレーム2は前端部が上方に向かって屈曲しており、その前端部で前輪3及びハンドル5を操舵可能に支持している。前輪3はフレーム2の前端部から下方に向かって延びるフロントフォーク6に支持されている。ハンドル5にはブレーキレバー7と、メータ部8とが設けられている。ブレーキレバー7は走行中の電動車両1に制動をかけたり、停止状態を維持したりするときに用いられる。メータ部8はバッテリパック20との間で接続された信号線8aを介してバッテリ残容量に関する情報を受け取り、表示する。
【0045】
電動車両1の前後方向の略中央部には運転者が腰を掛けるサドル9と、バッテリパック20とが備えられている。バッテリパック20はサドル9のすぐ下方に設けられている。サドル9の後方であって、後輪4の上方の箇所にはリアキャリア10が備えられている。
【0046】
電動車両1の前後方向の略中央部であって、サドル9の下方にはペダル11及びペダルクランク12が設けられている。ペダルクランク12に連結された駆動スプロケット(図示せず)と後輪4に連結された従動スプロケット(図示せず)との間にはチェーン13が介在し、各々のスプロケットに巻き掛けられている。これにより、ペダル11を踏むことでペダルクランク12を介して駆動スプロケットを回転させ、さらにチェーン13及び従動スプロケットを介して回転動力が後輪4に伝達される。
【0047】
一方、電動車両1である電動自転車はトルクセンサ14とモータ15とを備えている。トルクセンサ14はペダルクランク12の近傍の箇所に設けられ、ペダル11の踏力が後輪4を駆動するトルクを検出する。モータ15は前輪3のフロントハブ16に内蔵されている。モータ15はトルクセンサ14の信号に基づいてバッテリパック20から電力が供給され、前輪3を回転させる。
【0048】
また、電動車両1は車両全体の動作制御のため、図2に示すようにその内部にシステム制御装置30を備えている。システム制御装置30はシステム制御部31と、モータ駆動部32と、前述のバッテリパック20とを備えている。
【0049】
システム制御部31は一般的なマイコンによって構成され、このマイコン内部に記憶、入力されたプログラム、データに基づいて電動車両1の走行に係る一連の動作を制御するプロセッサとして機能するものである。また、システム制御部31はモータ駆動OFF及びシステム電源OFF判定部33と、モータ駆動制限判定部34とを備えている。モータ駆動OFF及びシステム電源OFF判定部33はバッテリパック20のバッテリ残容量に基づいてモータ駆動をOFFにする(モータ駆動を停止する)タイミング、またシステム電源をOFFにするタイミングを判定する。モータ駆動制限判定部34はバッテリの電圧に基づいてモータ15の駆動に制限をかける判定を実行する。
【0050】
なお、電動式の自転車である電動車両1においてシステム電源をOFFにするということは、例えばメータ部8、その他モータ駆動以外の制御系のうちいずれか1つでも動作しない状態にすることを意味する。すなわち、システム電源がOFFの状態においてメータ部8は非表示の状態となる。
【0051】
モータ駆動部32はバッテリパック20から供給される電力を制御してモータ15を駆動するものであって、例えばインバータ装置がこれに該当する。電動車両1を走行させるとき、システム制御部31はトルクセンサ14から得られるペダル11の踏力に応じた目標トルクをモータ駆動部32に送信する。そして、モータ駆動部32はシステム制御部31からの制御指令に基づき電流や電圧などを調整し、モータ15を駆動させる。
【0052】
バッテリパック20はバッテリ制御部21、バッテリ22、温度センサ23、電流センサ24、及び電圧センサ25を備えている。
【0053】
バッテリ制御部21はバッテリ22のセル電圧や電流、温度、残容量などを監視し、安全に充放電を制御している。また、バッテリ制御部21はバッテリ22の残容量推定部21aと、残容量補正部21bとを備えている。
【0054】
残容量推定部21aは電流センサ24から得られるバッテリ22の電流を積算することによりバッテリ22の残容量を推定する。これにより、比較的容易なバッテリ22の残容量の推定方法を用いて、電動車両1のシステム全体の制御に対する負荷をできるだけ低く抑制することが可能である。
【0055】
ここで、モータ15の駆動OFFやシステム全体の電源OFFなどの重大なタイミングでない限り、メータ部8へのバッテリ残容量表示は精度が比較的低くても構わない。したがって、バッテリ制御部21は主として、残容量推定部21aによってシステム全体の制御に対する負荷を低く抑制して導出される推定残容量をメータ部8へのバッテリ残容量表示に用いる。
【0056】
残容量補正部21bはバッテリ22の電流と温度との関係からバッテリ22の残容量に対応する補正実施電圧が得られるマップ21cを備えている。マップ21cは、例えば第1所定残容量である3%と、第1所定残容量より少ない第2所定残容量である0%とに対応するものが記憶されている。残容量補正部21bはバッテリ22の電圧がマップ21cを用いて得た残容量3%、0%各々に対応する補正実施電圧以下になることを条件として残容量推定部21aが推定したバッテリ22の推定残容量を補正する。したがって、バッテリ22の推定残容量を3%、0%各々の段階で比較的正確な残容量に補正することが可能である。
【0057】
なお、マップ21cはバッテリ22の電流と温度との関係からバッテリ22の残容量に対応する補正実施電圧を得ることができるものであって、残容量推定部21aが推定したバッテリ22の推定残容量の補正のために用いられる。残容量補正部21bはバッテリ22の電圧、電流、温度に基づいて残容量推定部21aが推定したバッテリ22の推定残容量を補正するので、バッテリ22の電圧、電流、温度各々を変数としてマップ21cを構成することができる。
【0058】
このとき、変数としてはバッテリ22の電圧、電流、温度のうち少なくとも1つを用いれば良い。すなわち、変数としてバッテリ22の電圧、電流、温度のいずれか1つを用いても良いし、いずれか2つを組み合わせて用いても良い。例えば、バッテリ22の電流、温度に関係なく、電圧に応じて補正実施電圧を決定しても良い。また例えば、バッテリ22の電流に基づいて、或いは温度に基づいて補正実施電圧を決定しても良い。また例えば、バッテリ22の電流と温度に基づいて補正実施電圧を決定しても良い。
【0059】
また、バッテリ22は直列、並列に接続された複数のバッテリセルで構成されている。温度センサ23はバッテリ22の温度を検出するセンサであって、例えば所定数のバッテリセルごとに対応付けて複数設けることもできる。電流センサ24はバッテリ22が充放電するときの電流を測定する。電圧センサ25はバッテリ22の電圧、またはバッテリ22の各バッテリセルの電圧を測定する。
【0060】
なお、バッテリ22は電動車両1における電力を要するすべての構成要素の電力供給源である。
【0061】
続いて、電動車両1のシステム制御装置30によるバッテリ22の残容量と電圧とに関係する動作について、図3〜図5に示すフローに沿って、図6〜図8を用いて説明する。図3はバッテリの残容量計算に係る動作を示すフローチャート、図4はモータ駆動OFF及びシステム電源OFFの判定に係る動作を示すフローチャート、図5はモータ駆動制限の判定に係る動作を示すフローチャート、図6はバッテリ残容量の推移と電動車両の動作との関係を示すグラフにして、推定残容量が実残容量より低い場合のもの、図7はバッテリ残容量の推移と電動車両の動作との関係を示すグラフにして、推定残容量が実残容量より高い場合のもの、図8はバッテリ電圧とバッテリ放電制限との関係を示すグラフである。
【0062】
なお、図6及び図7は横軸にバッテリ22の使用電流量を、縦軸に残容量を設定して、バッテリ22の推定残容量の推移(実線)と実残容量の推移(破線)との関係を描画している。図8は横軸にバッテリ22の電流を、縦軸に電圧を設定して、3%残容量補正実施電圧及び0%残容量補正実施電圧(ともに実線)と実際のバッテリ22の電圧(破線)との関係を描画している。
【0063】
まず、バッテリ22の残容量計算に係る動作フローについて図3、図6及び図7を用いて説明する。
【0064】
電動車両1がシステム電源ONの状態(図3のスタート)において、システム制御装置30のシステム制御部31はバッテリパック20のバッテリ制御部21に対してバッテリ22の残容量の推定を実行させる(図3のステップ#101、図6及び図7の#101)。バッテリ制御部21はバッテリ22の電流を積算することにより残容量を推定する。例えば図6に示すように、バッテリ22の推定残容量(実線)は実残容量(破線)より低めに推移する。また例えば図7に示すように、バッテリ22の推定残容量(実線)は実残容量(破線)より高めに推移する。なお、推定残容量と実残容量とがほぼ同じ残容量で推移することもある。
【0065】
そして、バッテリ制御部21はバッテリ22の推定残容量が第1所定残容量である3%に近い4%以下まで低下したか否かを判定する(ステップ#102)。推定残容量がまだ4%以下まで低下していない場合(ステップ#102のNo)、そのままステップ#107に進む。
【0066】
ステップ#102においてバッテリ22の推定残容量が4%以下である場合(ステップ#102のYes)、次にバッテリ制御部21は推定残容量が3%以下まで低下したか否かを判定する(ステップ#103)。推定残容量がまだ3%以下まで低下していない場合(ステップ#103のNo)、バッテリ制御部21は推定残容量を4%に保持する(図3のステップ#104、図6の#104)。
【0067】
ステップ#103においてバッテリ22の推定残容量が3%以下である場合(ステップ#103のYes)、次にバッテリ制御部21は推定残容量が第2所定残容量である0%に近い1%以下まで低下したか否かを判定する(ステップ#105)。推定残容量がまだ1%以下まで低下していない場合(ステップ#105のNo)、そのままステップ#107に進む。推定残容量が1%以下に低下した場合(ステップ#105のYes)、バッテリ制御部21は推定残容量を1%に保持する(図3のステップ#106、図6の#106)。
【0068】
そして、バッテリ制御部21はバッテリ22の推定残容量を補正してより正確な残容量を確認するために3%補正実施電圧を計算する(ステップ#107)。このとき、バッテリ制御部21はマップ21cを用いて、バッテリ22の電流と温度との関係からバッテリ22の残容量に対応する3%補正実施電圧を得る。続いて、バッテリ制御部21はバッテリ22の電圧がステップ#107で得た3%補正実施電圧以下であるか否かを判定する(ステップ#108)。
【0069】
バッテリ22の電圧が3%補正実施電圧以下である場合(ステップ#108のYes)、バッテリ制御部21はバッテリ22の残容量を3%に補正する(図3のステップ#109、図6及び図7の#109)。このとき、図6に示すように推定残容量が実残容量より低めに推移する場合、図3のステップ#104で保持した残容量4%を3%に補正する。また、図7に示すように推定残容量が実残容量より高めに推移する場合、図3のステップ#102のNoで手を加えなかった残容量を3%に補正する。
【0070】
バッテリ22の電圧が3%補正実施電圧を超えている場合(ステップ#108のNo)、残容量を補正することなくそのままステップ#110に進む。
【0071】
なお、バッテリ22の残容量の3%の補正を確定させる処理のため、バッテリ22の電圧の判定に一定の処理時間を設けている。この一定の処理時間としては、例えば2〜3秒ごとに2、3回の判定を実行するという時間が設定されている。
【0072】
そして、ステップ#110において、バッテリ制御部21はバッテリ22の補正後の残容量が3%以下であるか否かを判定する。バッテリ22の残容量が3%以下まで低下していない場合(ステップ#110のNo)、ステップ#101のバッテリ22の残容量推定に戻る。
【0073】
バッテリ22の補正後の残容量が3%以下まで低下した場合(ステップ#110のYes)、バッテリ制御部21はバッテリ22の第2所定残容量である0%の状態をより正確に確認するために0%補正実施電圧を計算する(ステップ#111)。このとき、バッテリ制御部21はマップ21cを用いて、バッテリ22の電流と温度との関係からバッテリ22の残容量に対応する0%補正実施電圧を得る。続いて、バッテリ制御部21はバッテリ22の電圧がステップ#111で得た0%補正実施電圧以下であるか否かを判定する(ステップ#112)。
【0074】
バッテリ22の電圧が0%補正実施電圧以下である場合(ステップ#112のYes)、バッテリ制御部21はバッテリ22の残容量を0%に補正して(図3のステップ#113、図6及び図7の#113)、バッテリ22の残容量計算に係る動作フローを終了する(図3のエンド)。バッテリ22の電圧が0%補正実施電圧を超えている場合(ステップ#112のNo)、残容量を補正することなくそのままステップ#101に戻る。
【0075】
次に、モータ15の駆動OFF、及び電動車両1のシステム全体の電源OFFの判定に係る動作フローについて図4、図6及び図7を用いて説明する。
【0076】
電動車両1がシステム電源ONの状態(図4のスタート)において、システム制御装置30のシステム制御部31はバッテリパック20のバッテリ制御部21に対してバッテリ22の残容量を逐次確認する(図4のステップ#201)。そして、システム制御部31はバッテリ22の残容量が図3のステップ#109において補正された残容量3%以下に低下したか否かを判定する(ステップ#202)。残容量がまだ3%を超えている場合(ステップ#202のNo)、ステップ#201のバッテリ22の残容量確認に戻る。
【0077】
バッテリ22の補正後の残容量が3%以下まで低下した場合(図4のステップ#202のYes、図6及び図7の#202)、システム制御部31はモータ駆動部32に対してモータ15の駆動OFFの制御指令を送信して、モータ15の駆動をOFFにする(図4のステップ#203、図6及び図7の#203)。
【0078】
なお、電動車両1のシステム全体の電源はONのままであり、モータ駆動以外の制御系やライト点灯などに対しては電力が供給される。したがって、モータ15の駆動を停止した後も、残った電力により例えばライトの点灯が可能であるので、移動体、特に人が運転する電動車両1では昼夜を問わず視認性が向上して安全性を確保できる。
【0079】
続いて、システム制御部31はバッテリ22の残容量が図3のステップ#111において補正された残容量0%以下に低下したか否かを判定する(ステップ#204)。残容量がまだ0%を超えている場合(ステップ#204のNo)、ステップ#201のバッテリ22の残容量確認に戻る。
【0080】
バッテリ22の補正後の残容量が0%以下まで低下した場合(図4のステップ#204のYes、図6及び図7の#204)、システム制御部31は電動車両1のシステム全体の電源をOFFにして(図4のステップ#205、図6及び図7の#205)、モータ15の駆動OFF、及び電動車両1のシステム全体の電源OFFの判定に係る動作フローを終了する(図4のエンド)。これにより、確実にモータ15の駆動OFF、システム全体の電源OFFの順で電動車両1が制御されるので、電動車両1の走行中にシステム全体の電源が突然OFFになるという危険性を回避する効果を高めることができる。
【0081】
なお、電動車両1のシステム全体の電源がOFFになることにより、モータ駆動以外の制御系やライト点灯などに対しても電力の供給が停止される。
【0082】
次に、モータ15の駆動制限の判定に係る動作フローについて図5及び図8を用いて説明する。
【0083】
電動車両1がシステム電源ONの状態(図5のスタート)において、システム制御装置30のシステム制御部31はバッテリパック20のバッテリ制御部21に対して図3のステップ#111において得た0%補正実施電圧を確認する(ステップ#301)。そして、システム制御部31はバッテリ22の電圧がステップ#301で得た0%補正実施電圧以下であるか否かを判定する(ステップ#302)。
【0084】
バッテリ22の電圧が0%補正実施電圧以下である場合(ステップ#302のYes)、システム制御部31はモータ15の駆動制限をONにするようモータ駆動部32に対して制御指令を送信する(図5のステップ#303)。これにより、モータ駆動部32はバッテリ22の電圧が0%補正実施電圧を超える状態を保持するようにモータ15の出力を調整して放電電流を制限するモータ駆動制限を実行する(図5の#303)。
【0085】
すなわち、図8においてバッテリ22の実際の電圧(破線)と0%補正実施電圧(下側の実線)との交点より左側の領域の状態をバッテリ22の電圧が維持するよう、放電電流を制限する。したがって、バッテリ22の電圧が0%補正実施電圧以下になることに起因するバッテリ22の劣化、低寿命化を防止することが可能である。
【0086】
なお、図8について、実際には温度により各補正実施電圧は変動することがある。また、図3を用いて説明したバッテリ22の残容量計算に係る動作フローのステップ#108及び#109において通常バッテリ22の残容量の3%の補正を確定させる処理のため判定に一定の処理時間を設けるので、その間にバッテリ22の電圧が3%補正実施電圧以下になる期間があり得る。
【0087】
すなわち、モータ15を駆動している状態でバッテリ22の電圧が0%補正実施電圧に達することがあり得る。このため、上記のようにモータ駆動部32はバッテリ22の電圧が0%補正実施電圧以下になることを条件としてバッテリ22の電圧が0%補正実施電圧を超えるようにモータ15の出力を調整して放電電流を制限するモータ駆動制限を実行している。これにより、少しでも多くのバッテリ22の電力をモータ15の駆動のために使用することが可能である。
【0088】
なお、バッテリ22の電圧が0%補正実施電圧より低下しないようにするモータ駆動制限としては、バッテリ22の電圧が0%補正実施電圧以下になることを条件とするほか、バッテリ22の電圧が0%補正実施電圧に接近するに従って、0%補正実施電圧を基準とするバッテリ22の電圧に対応して放電電流を制限するモータ駆動制限も適用できる。例えば、バッテリ22の電圧が0%補正実施電圧に接近するほど放電電流の制限を大きくするといった処理を採用することができる。この場合、例えばバッテリ22の電圧から0%補正実施電圧を引いた電圧差が例えば1V以下のとき、バッテリ22として許容する放電電流値を(1V−電圧差)に比例した電流分だけ低減させるなどの処理を採用することができる。
【0089】
そして、モータ駆動制限を実行すると、モータ15の駆動制限の判定に係る動作フローを終了する(図5のエンド)。
【0090】
一方、バッテリ22の電圧が0%補正実施電圧を超えている場合(ステップ#302のNo)、モータ駆動制限をOFFにして(ステップ#304)、モータ15の駆動制限を実行することなくそのままステップ#301に戻る。このようにして、モータ駆動制限を実行するバッテリ22の0%補正実施電圧をバッテリ制御部21が導出するので、システム制御部31の負荷が軽減され、電動車両1のシステム全体の制御が一層円滑になる。
【0091】
上記実施形態によれば、電動車両1のバッテリ22の残容量を残容量推定部21a(バッテリ制御部21)によって推定するので、制御に大きな負荷がかかるのを抑制しながらバッテリ22の残容量を監視することができる。さらに、残容量補正部21b(バッテリ制御部21)が補正したバッテリ22の残容量が3%以下になることを条件としてモータ15の駆動を停止させるので、その後も残った電力により例えばライトの点灯が可能であって昼夜を問わず視認性が向上して安全性を確保できる。したがって、電動車両1の走行中にシステム全体の電源が突然OFFになるという危険性を回避することが可能な電動車両1のシステム制御装置30を提供することができる。
【0092】
そして、このようなシステム制御装置30を電動車両1に搭載することにより、走行中にシステム全体の電源が突然OFFになるという危険性を回避することが可能な信頼性が高い電動車両1を提供することができる。
【0093】
次に、本発明の第2の実施形態に係る移動体のシステム制御装置によるバッテリの残容量と電圧とに関係する動作について、図9に示すフローに沿って図10を用いて説明する。図9はモータ駆動制限の判定に係る動作を示すフローチャート、図10はバッテリ電圧とバッテリ放電制限との関係を示すグラフである。なお、この実施形態の基本的な構成は、図1〜図8を用いて説明した前記第1の実施形態と同じであるので、第1の実施形態と共通する構成について図面の記載及びその説明を省略するものとする。
【0094】
第2の実施形態に係る移動体である電動車両1はモータ駆動制限を実行するタイミングが、バッテリ22の電圧が3%補正実施電圧に達したときである。以下、その動作について説明する。
【0095】
電動車両1がシステム電源ONの状態(図9のスタート)において、システム制御装置30のシステム制御部31はバッテリパック20のバッテリ制御部21に対して図3のステップ#107において得た3%補正実施電圧を確認する(ステップ#401)。そして、システム制御部31はバッテリ22の電圧がステップ#401で得た3%補正実施電圧に達したか否かを判定する(ステップ#402)。
【0096】
バッテリ22の電圧が3%補正実施電圧に達したとき(ステップ#402のYes)、システム制御部31はモータ15の駆動制限をONにするようモータ駆動部32に対して制御指令を送信する(図9のステップ#403)。これにより、モータ駆動部32はバッテリ22の電圧が3%補正実施電圧より低下しない状態を保持するようにモータ15の出力を調整して放電電流を制限するモータ駆動制限を実行する(図10の#403)。
【0097】
すなわち、図10においてバッテリ22の実際の電圧(破線)が3%補正実施電圧(上側の実線)との交点より下側まで低下せず、3%補正実施電圧に沿う状態を維持するよう、モータ駆動部32は放電電流を制限する。そして、モータ駆動制限を実行すると、モータ15の駆動制限の判定に係る動作フローを終了する(図9のエンド)。
【0098】
一方、バッテリ22の電圧が3%補正実施電圧を超えている場合(ステップ#402のNo)、モータ駆動制限をOFFにして(ステップ#404)、モータ15の駆動制限を実行することなくそのままステップ#401に戻る。
【0099】
なお、モータ駆動制限を実行した後、バッテリ22が3%補正実施電圧を維持することが困難になり、3%以下の残容量に相当する電圧まで低下したとき(図3のステップ#110のYes、図4のステップ#202のYes)、システム制御部31はモータ15の駆動をOFFにする(図4のステップ#203)。これにより、モータ15の駆動がOFFになってからシステム全体の電源がOFFになるまで、バッテリ22の電力を確保することができる。したがって、モータ駆動以外の制御系やライト点灯などに対して電力を供給することが可能である。
【0100】
また、バッテリ22の電圧が3%補正実施電圧より低下しないようにするモータ駆動制限としては、バッテリ22の電圧が3%補正実施電圧に達したことを条件とするほか、バッテリ22の電圧が3%補正実施電圧に接近するに従って、3%補正実施電圧を基準とするバッテリ22の電圧に対応して放電電流を制限するモータ駆動制限も適用できる。例えば、バッテリ22の電圧が3%補正実施電圧に接近するほど放電電流の制限を大きくするといった処理を採用することができる。この場合、例えばバッテリ22の電圧から3%補正実施電圧を引いた電圧差が例えば5V以下のとき、バッテリ22として許容する放電電流値を(5V−電圧差)に比例した電流分だけ低減させるなどの処理を採用することができる。
【0101】
次に、本発明の第3の実施形態に係るシステム制御装置を搭載した移動体である電動車両について、図11及び図12を用いてその構造を説明する。図11はシステム制御装置を搭載した電動車両の一例を示す側面図、図12は電動車両の構成を示すブロック図である。
【0102】
第3の実施形態に係る移動体である電動車両101は、図11に示すように前輪102及び後輪103を備えた電動式の二輪車であり、具体的には電動式の自動二輪車である。電動車両101はメインフレーム104及びスイングアーム105が主たる骨組みとして構成されている。
【0103】
メインフレーム104は前端部が上方に向かって屈曲しており、その前端部で前輪102及びハンドル106を操舵可能に支持している。ハンドル106には電動車両101の加減速時に用いるスロットル107と、制動時に用いるブレーキレバー108とが設けられている。ハンドル106の前側には電動車両101の前方に向かって光を照射するヘッドライト109が設けられている。
【0104】
左右のハンドル6の中央にはメータ部110が設けられている。メータ部110は電源のON/OFFや走行速度など運転情報を表示するほか、バッテリパック120との間で接続された図示しない信号線を介してバッテリ残容量に関する情報を受け取り、表示する。また、メータ部110は電動車両101に障害が発生したときにその異常情報をエラーコード等によって運転者に報知する報知部として機能する。
【0105】
メインフレーム104の後端側であって、電動車両1の前後方向の略中央部には運転者が腰を掛けるシート111と、収容部112とが備えられている。収容部112はシート111の下方に設けられ、内部にバッテリパック120とシステム制御装置130とを収容している。シート111は収容部112の蓋の役目も果たし、収容部112に対して開閉可能に取り付けられている。メインフレーム104のシート111の後方であって、後輪103の上方の箇所には荷物台113が備えられている。
【0106】
スイングアーム105はメインフレーム104後部の、シート111及び収容部112の箇所の下方から後方に向かって延びている。後輪103はスイングアーム105の後端に支持されている。また、後輪103は駆動輪であり、スイングアーム105との間に後輪103を駆動させるモータ114を備えている。すなわち、スイングアーム105はモータ114及び後輪103の回転軸を水平にして支持している。また、スイングアーム105のモータ114の箇所の上部から上方の荷物台113に向かって、モータ114及び後輪103を吊り下げるサスペンションユニット115が設けられている。
【0107】
また、電動車両101は車両全体の動作制御のため、図12に示すシステム制御装置130を備えている。システム制御装置130はシステム制御部131と、モータ駆動部132と、前述のバッテリパック120とを備えている。
【0108】
システム制御部131は一般的なマイコンによって構成され、このマイコン内部に記憶、入力されたプログラム、データに基づいて電動車両101の走行に係る一連の動作を制御するプロセッサとして機能するものである。また、システム制御部131はモータ駆動OFF及びシステム電源OFF判定部133と、モータ駆動制限判定部134とを備えている。モータ駆動OFF及びシステム電源OFF判定部133はバッテリパック120のバッテリ残容量に基づいてモータ駆動をOFFにするタイミング、またシステム電源をOFFにするタイミングを判定する。モータ駆動制限判定部134はバッテリの電圧に基づいてモータ114の駆動に制限をかける判定を実行する。
【0109】
なお、電動式の二輪車である電動車両101においてシステム電源をOFFにするということは、例えばヘッドライト109、メータ部110、ウインカー(図示せず)、その他モータ駆動以外の制御系のいずれか1つでも動作しない状態にすることを意味する。例えば四輪車の場合、システム全体の電源をOFFにすることにより動作が制限される要素としては上記のほかに、例えばワイパー、オーディオ関係、エアコンなどが該当する。
【0110】
モータ駆動部132はバッテリパック120から供給される電力を制御してモータ114を駆動するものであって、例えばインバータ装置がこれに該当する。電動車両101を走行させるとき、システム制御部131は運転者が操作するスロットル107から得られるスロットル107の開き具合に応じたモータ114に対する目標トルクを設定し、モータ駆動部132に送信する。モータ駆動部132はシステム制御部131からの制御指令に基づきバッテリパック120から供給される電力に対して電流や電圧などを調整し、モータ114を駆動させる。
【0111】
バッテリパック120はバッテリ制御部121、バッテリ122、温度センサ123、電流センサ124、及び電圧センサ125を備えている。
【0112】
バッテリ制御部121はバッテリ122のセル電圧や電流、温度、残容量などを監視し、安全に充放電を制御している。また、バッテリ制御部121はバッテリ122の残容量推定部121aと、残容量補正部121bとを備えている。
【0113】
残容量推定部121aは電流センサ124から得られるバッテリ122の電流を積算することによりバッテリ122の残容量を推定する。これにより、比較的容易なバッテリ122の残容量の推定方法を用いて、電動車両101のシステム全体の制御に対する負荷をできるだけ低く抑制することが可能である。
【0114】
ここで、モータ114の駆動OFFやシステム全体の電源OFFなどの重大なタイミングでない限り、メータ部110へのバッテリ残容量表示は精度が比較的低くても構わない。したがって、バッテリ制御部121は主として、残容量推定部121aによってシステム全体の制御に対する負荷を低く抑制して導出される推定残容量をメータ部110へのバッテリ残容量表示に用いる。
【0115】
残容量補正部121bはバッテリ122の電流と温度との関係からバッテリ122の残容量に対応する補正実施電圧が得られるマップ121cを備えている。マップ121cは、例えば第1所定残容量である3%と、第2所定残容量である0%とに対応するものが記憶されている。残容量補正部121bはバッテリ122の電圧がマップ121cを用いて得た残容量3%、0%各々に対応する補正実施電圧以下になることを条件として残容量推定部121aが推定したバッテリ122の推定残容量を補正する。したがって、バッテリ122の推定残容量を3%、0%各々の段階で比較的正確な残容量に補正することが可能である。
【0116】
なお、マップ121cはバッテリ122の電流と温度との関係からバッテリ122の残容量に対応する補正実施電圧を得ることができるものであって、残容量推定部121aが推定したバッテリ122の推定残容量の補正のために用いられる。残容量補正部121bはバッテリ122の電圧、電流、温度に基づいて残容量推定部121aが推定したバッテリ122の推定残容量を補正するので、バッテリ122の電圧、電流、温度各々を変数としてマップ121cを構成することができる。
【0117】
このとき、変数としてはバッテリ122の電圧、電流、温度のうち少なくとも1つを用いれば良い。すなわち、変数としてバッテリ122の電圧、電流、温度のいずれか1つを用いても良いし、いずれか2つを組み合わせて用いても良い。例えば、バッテリ122の電流、温度に関係なく、電圧に応じて補正実施電圧を決定しても良い。また例えば、バッテリ122の電流に基づいて、或いは温度に基づいて補正実施電圧を決定しても良い。また例えば、バッテリ122の電流と温度に基づいて補正実施電圧を決定しても良い。
【0118】
また、バッテリ122は直列、並列に接続された複数のバッテリセルで構成されている。温度センサ123はバッテリ122の温度を検出するセンサであって、例えば所定数のバッテリセルごとに対応付けて複数設けることもできる。電流センサ124はバッテリ122が充放電するときの電流を測定する。電圧センサ125はバッテリ122の電圧、またはバッテリ122の各バッテリセルの電圧を測定する。なお、バッテリ122は電動車両101における電力を要するすべての構成要素の電力供給源である。
【0119】
このような構成の電動車両101において、システム制御装置130はその基本的な構成が第1の実施形態と同様であるので、図3〜図8を用いて説明した動作と同様の動作を遂行する。すなわち、システム制御部131は、残容量推定部121aが推定して残容量補正部121bがバッテリ122の電圧、電流、温度に基づいて補正したバッテリ122の残容量が第1所定残容量である3%以下になることを条件としてモータ114の駆動をOFFにさせる。また、システム制御部131は補正したバッテリ122の残容量が第2所定残容量である0%以下になることを条件として電動車両101のシステム全体の電源をOFFにさせる。このとき、システム制御部131は、例えばヘッドライト109を消灯させる。
【0120】
さらに詳細には第1の実施形態における図3〜図8に係る説明を参照するものとし、ここではその説明を省略する。また、システム制御装置130は第2の実施形態のように、バッテリ122の電圧が3%補正実施電圧に達したことを条件としてモータ駆動制限を実行しても良い。
【0121】
上記構成によれば、本発明のシステム制御装置130を移動体である電動車両101、すなわち電動式の自動二輪車に搭載することにより、走行中にシステム全体の電源が突然OFFになるという危険性を回避することが可能な信頼性が高い電動式自動二輪車を提供することができる。
【0122】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えて実施することができる。
【0123】
例えば、本発明の実施形態では、システム制御装置30を搭載した移動体である電動車両1に、図1に示す電動自転車を一例として掲げて説明したが、搭載対象となる電動車両は電動自転車に限定されるわけではなく、第3の実施形態として図11に示した電動式の自動二輪車や自動四輪車であっても構わない。
【0124】
そして、本発明のシステム制御装置の搭載対象となる移動体はモータボート等の船舶や水上遊具といった乗り物、さらにモータを駆動源とし、人が搭乗せず無人で移動する移動体であっても構わない。
【0125】
また、上記実施形態ではモータ15の駆動OFFを判定するバッテリ22の第1所定残容量として3%を、システム全体の電源OFFを判定するバッテリ22の第2所定残容量として0%を設定したが、これら所定残容量は各々3%、0%に限定されるわけではなく、他の残容量、例えば5%、1%などに設定しても構わない。また、これら所定残容量は3%、0%のような相対量に限定されるわけではなく、300mAh、0mAhのような絶対量などで設定しても構わない。
【0126】
また、バッテリ22の推定残容量が実残容量より低めに推移する場合(図6参照)、図3のステップ#104及び図6において推定残容量が3%に低下する前の4%で、さらに図3のステップ#106及び図6において推定残容量が0%に低下する前の1%で各々推定残容量を保持するようにしているが、これら推定残容量は各々4%、1%に限定されるわけではなく、他の推定残容量、例えば3.5%、0.5%などに設定しても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明は、バッテリを搭載した電動車両のシステム制御装置において利用可能である。
【符号の説明】
【0128】
1、101 電動車両(移動体)
2、104 フレーム
3、102 前輪
4、103 後輪
109 ヘッドライト
8、110 メータ部
15、114 モータ
20、120 バッテリパック
21、121 バッテリ制御部
21a、121a 残容量推定部
21b、121b 残容量補正部
21c、121c マップ
22、122 バッテリ
30、130 システム制御装置
31、131 システム制御部
32、132 モータ駆動部
33、133 モータ駆動OFF及びシステム電源OFF判定部
34、134 モータ駆動制限判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリの残容量を監視しながら移動体のモータ及びシステム全体を制御する移動体のシステム制御装置において、
前記バッテリの残容量を推定する残容量推定部と、
前記バッテリの電圧、電流、温度のうち少なくとも1つに基づいて前記残容量推定部が推定した前記バッテリの推定残容量を補正する残容量補正部と、
前記残容量補正部が補正した前記バッテリの残容量が第1所定残容量以下になることを条件として前記モータの駆動をOFFにさせるシステム制御部と、
を備えることを特徴とする移動体のシステム制御装置。
【請求項2】
前記システム制御部は、前記残容量補正部が補正した前記バッテリの残容量が前記第1所定残容量より少ない第2所定残容量以下になることを条件として前記システム全体の電源をOFFにすることを特徴とする請求項1に記載の移動体のシステム制御装置。
【請求項3】
前記残容量推定部は、前記バッテリの電流を積算することにより前記バッテリの残容量を推定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の移動体のシステム制御装置。
【請求項4】
前記残容量補正部は、前記バッテリの電流と温度との関係から前記バッテリの残容量に対応する補正実施電圧が得られるマップを有し、前記バッテリの電圧が前記マップを用いて得た前記第1所定残容量または前記第1所定残容量より少ない前記第2所定残容量各々に対応する前記補正実施電圧以下になることを条件として前記残容量推定部が推定した前記バッテリの推定残容量を補正することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の移動体のシステム制御装置。
【請求項5】
前記第1所定残容量より少ない前記第2所定残容量に対応する電圧を基準とする前記バッテリの電圧に対応して放電電流を制限するモータ駆動制限を実行することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の移動体のシステム制御装置。
【請求項6】
前記バッテリの電圧が前記第1所定残容量より少ない前記第2所定残容量に対応する電圧以下になることを条件として前記バッテリの電圧が前記第2所定残容量に対応する電圧を超えるように前記モータの出力を調整して放電電流を制限するモータ駆動制限を実行することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の移動体のシステム制御装置。
【請求項7】
前記第1所定残容量に対応する電圧を基準とする前記バッテリの電圧に対応して放電電流を制限するモータ駆動制限を実行することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の移動体のシステム制御装置。
【請求項8】
前記バッテリの電圧が前記第1所定残容量に対応する電圧に達したことを条件として前記バッテリの電圧が前記第1所定残容量に対応する電圧より低下しないように前記モータの出力を調整して放電電流を制限するモータ駆動制限を実行することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の移動体のシステム制御装置。
【請求項9】
前記モータ駆動制限を実行する前記バッテリの電圧を、前記バッテリに設けられ、前記バッテリの動作を制御するバッテリ制御部が導出することを特徴とする請求項5〜請求項8のいずれか1項に記載の移動体のシステム制御装置。
【請求項10】
請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載のシステム制御装置を搭載したことを特徴とする移動体。
【請求項11】
移動体の前方に向かって光を照射するヘッドライトを備え、
前記システム制御部は、前記残容量補正部が補正した前記バッテリの残容量が前記第1所定残容量より少ない第2所定残容量以下になった場合に、前記ヘッドライトを消灯することを特徴とする請求項10に記載の移動体。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図1】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−223862(P2011−223862A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41958(P2011−41958)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】