説明

移動物体検出装置

【課題】昆虫などの小型の移動物体の誤検出を容易に防止できる。
【解決手段】判定回路89は回転角の積算値と小型移動物体O1が受波範囲A1を通過する際に同一方向に移動する移動距離に対応して設定された閾値とを比較し、積算値が閾値未満であるときは移動物体無しと判定する。さらに判定回路89は継続時間Txと小型移動物体O1が受波範囲A1を通過する際に要するであろう時間に対応して設定された基準時間とを比較し、継続時間Txが基準時間未満であるときは移動物体無しと判定する。故にドップラー信号E,E’の継続時間Txだけではなく、ドップラー信号E,E’から算出される移動物体の移動方向や移動距離も考慮して判定するので、受波器4の近傍における受波範囲A1を移動する小型移動物体O1の誤検出を容易に防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波や電波などの連続エネルギ波を監視空間に放射し、監視空間内の物体の移動によって生じる反射波の周波数偏移を検出することにより、監視空間内において移動する物体の存在を検出する移動物体検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の車両盗難並びに車上盗難が増加しているため、駐車中の車両に不審者が侵入した場合に警報音を鳴動する車載用盗難警報装置が普及してきており、かかる車載用盗難警報装置には監視空間(車内)における移動物体(人)の存否を検出するために移動物体検出装置が搭載されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載されている従来例では、超音波受信機で受信する受信信号と、超音波送信機に送信信号を供給する発振回路の発振信号とをミキシングすることで両信号の位相差信号を生成し、当該位相差信号から人の移動速度に対応する周波数成分のみを弁別することでドップラシフト信号を取得するとともに、このドップラシフト信号が、人の侵入に要する時間以上継続したときに人が侵入したと判断している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−274080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、監視空間(車内)に小型の移動物体、例えば、ハエなどの昆虫が進入した場合、このような小型移動物体が超音波受信機から遠方に居るときは受信信号レベルが非常に小さくなるために誤検出される可能性は低いが、超音波受信機の近くに居るときは受信信号レベルが相対的に大きくなるために誤検出される可能性が高くなる。ここで、上記従来例ではドップラシフト信号の継続時間が人の侵入に要する時間未満であるときは人が侵入したと判断しないため、人の移動速度に近い速度で移動する小型移動物体が超音波受信機の近くに居るときでも誤検出される可能性は低いと考えられる。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されている従来例では、単にドップラシフト信号の継続時間のみで判断しており、移動物体の移動距離や移動方向を考慮していないため、しきい値としての継続時間の設定が困難であった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みて為されたものであり、その目的は、昆虫などの小型の移動物体の誤検出が容易に防止できる移動物体検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、上記目的を達成するために、所定の周波数で発振する発振手段と、発振手段から出力する送波信号によりエネルギ波を監視空間に送波する送波手段と、前記エネルギ波が監視空間に存在する物体に反射して生じる反射波を受波する受波手段と、送波信号と同周波数で互いに位相の異なる基準信号と受波信号とを混合することで基準信号との位相差に応じた振幅を有し且つ互いに位相の異なる一対のドップラー信号を得る位相検波手段と、二次元直交座標系において原点を始点とし一対のドップラー信号の振幅レベルの数値を終点とするベクトルが時間の経過に伴って回転するときの回転角を演算する回転角演算手段と、回転角演算手段で演算された回転角を積算する積算手段と、少なくとも何れか一方のドップラー信号の振幅が所定の下限値以上となる継続時間を測定する測定手段と、積算手段で積算された回転角の積算値と測定手段で測定された継続時間に基づいて移動物体の有無を判定する判定手段とを備え、判定手段は、回転角の積算値が所定の閾値以上であり且つ継続時間が所定の基準時間以上である場合に移動物体が存在すると判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明によれば、一対のドップラー信号から得られるベクトルの回転角が移動物体の移動方向に対応し、当該回転角の積算値が移動物体の移動距離に対応しており、ドップラー信号の継続時間だけでなく移動物体の移動方向と移動距離を考慮して移動物体の有無を判定しているので、昆虫などの小型の移動物体の誤検出が容易に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態を示すブロック図である。
【図2】同上の動作説明図である。
【図3】同上における判定回路の動作を説明するためのフローチャートである。
【図4】同上における受波器の受波範囲を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の技術思想を車載用盗難警報装置に用いられる移動物体検出装置に適用した実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。尚、本実施形態では検出媒体であるエネルギ波として超音波を利用しているが、超音波以外のエネルギ波、例えば、電波などを利用しても構わない。
【0012】
図1に本実施形態のブロック図を示す。発振回路1が発振する所定周波数の送波信号により送波器3が駆動され、発振回路1の発振周波数と同周波数の超音波が監視空間に送波され、監視空間内に存在する物体Oに超音波が反射して生じる反射波を受波器4で受波する。受波器4では受波した反射波を受波信号Einに変換し、この受波信号Einを第1及び第2の位相検波回路6A,6Bにそれぞれ入力して発振回路1の発振周波数と同周波数の基準信号E0,E0’と混合(ミキシング)する。ここで、一方の基準信号E0は移相回路10の出力であって、両基準信号E0,E0’の位相が互いに異なるように設定される。したがって、第1及び第2の位相検波回路6A,6Bの出力にビート信号として得られる一対のドップラー信号E,E’も位相が互いに異なったものとなる。そして、一対のドップラー信号E,E’は各々増幅回路13A,13Bで増幅された後に信号処理部8に取り込まれる。
【0013】
信号処理部8では、一対のドップラー信号E,E’をサンプリング回路85において所定のサンプリング周期でサンプリングし且つ量子化することでアナログ値からディジタル値に変換し、さらに変換したディジタル値を不揮発性のメモリ81に順次格納する。ここで、一方のドップラー信号Eをサンプリング回路85で変換したディジタル値(ディジタルデータ)をXn,他方のドップラー信号E’をサンプリング回路85で変換したディジタル値(ディジタルデータ)をYn(nは正の整数)とし、二次元直交座標系の原点を始点とし且つ(Xn,Yn)を終点とするベクトルRnを定義する。なお、ベクトルRnの大きさはドップラー信号E,E’の振幅に対応している。
【0014】
前回のサンプリングで得られてメモリ81に格納しているベクトルRn-1と今回のサンプリングで得られたベクトルRnとがなす角度(この角度をベクトルの回転角と呼ぶ。)φnを信号処理部8のベクトル回転角演算回路86で演算する(図2参照)。なお、ベクトル回転角演算回路86では下記式により回転角φnを演算している。
【0015】
φn=arctan{(Xn-1・Yn−Yn-1・Xn)/(Xn-1・Xn+Yn-1・Yn)}
従って、物体Oが近付く場合はベクトルRnが反時計回りに回転するから回転角φnの極性は正となり、物体Oが遠ざかる場合はベクトルRnが時計回りに回転するから回転角φnの極性は負となる。そして、ベクトル回転角演算回路86で求めた回転角φnを回転角積算回路87で積算すれば、その積算値(=φ1+φ2+…+φn+…)が物体Oの移動距離に比例することになる。
【0016】
また、信号処理部8には、少なくとも何れか一方のドップラー信号の振幅が所定の下限値以上となる継続時間Txを測定する時間測定回路88が設けてある。時間測定回路88では、メモリ81に順次格納されるベクトルRiの大きさを予め設定されている下限値と比較し、大きさが下限値以上となるベクトルRiの個数をカウントすることで継続時間Txを測定している。
【0017】
さらに回転角積算回路87で積算した積算値と時間測定回路88で測定された継続時間Txとに基づいて判定回路89が移動物体(物体O)の有無を判定する。判定回路89は、図3のフローチャートに示すように回転角の積算値を所定の閾値と比較し(ステップS1)、積算値が閾値以上であれば、継続時間Txを所定の基準時間と比較し(ステップS2)、継続時間Txが基準時間以上であれば、監視空間に移動物体が存在すると判定して報知器駆動回路11に検出信号を出力する(ステップS3)。一方、回転角の積算値が閾値未満である場合、若しくは継続時間Txが基準時間未満である場合、判定回路89は監視空間に移動物体が存在しないと判定してステップS1に戻る(ステップS1,S2)。尚、報知器駆動回路11では判定回路89から検出信号を受け取ると報知器(図示せず)を駆動して移動物体の存在を報知する。
【0018】
図4(a)は受波器4で反射波を受波する範囲(受波範囲)Aを示す斜視図、同図(b)は受波範囲Aの平面図である。受波範囲Aは受波器4に近付くほど狭くなり、受波器4から遠いほど広くなっている。例えば、受波器4から5cmの距離に存在する1cm角の物体O1と、受波器4から1.5mの距離に存在する30cm角の物体O2とではほぼ同程度の超音波を反射すると考えられる(尚、数値は一例に過ぎない。)。ここで、遠方の物体O2が本来検出したい移動物体(例えば、侵入者によって持ち去られようとしている鞄など)であり、近くの物体O1は本来検出したくない小型移動物体(例えば、ハエなどの昆虫)である。小型移動物体O1が受波器4の近傍を飛行する場合、その移動方向(移動向き)は不規則に変化すると考えられるが、受波器4の近傍における受波範囲A1は相対的に狭いので、例えば、図4(b)に矢印で示すように受波器4に近付く向きの移動距離は精々数cm程度であり、それ以上移動した場合は移動向きが変化するか、あるいは受波範囲A1の外に出てしまうと考えられる。また、小型移動物体O1が受波器4の近傍における受波範囲A1を通過するのに要する時間は、小型移動物体O1の飛行速度が侵入者の移動速度と同程度(例えば、時速8km〜12km)としても数十ミリ秒に過ぎない。つまり、受波範囲A1を通過する小型移動物体O1に反射した反射波によって得られるドップラー信号E,E’の継続時間Txも数十ミリ秒と非常に短くなるはずである。
【0019】
一方、本来検出したい遠方の移動物体O2は、小型移動物体O1と比較して移動距離が大幅に長くなるとともに受波器4の遠方における受波範囲A2を通過するのに要する時間も小型移動物体O1が受波範囲A1を通過するのに要する時間よりも十分に長くなると考えられる。
【0020】
そこで本実施形態では、物体Oの移動距離に比例する積算値と、小型移動物体O1が受波範囲A1を通過する際に同一方向に移動する移動距離に対応して設定された閾値とを比較し、積算値が閾値未満であるときは小型移動物体O1が受波器4の近傍における受波範囲A1を通過したものとみなして判定回路89が移動物体無しと判定している。さらに本実施形態では、時間測定回路88で測定される継続時間Txと、小型移動物体O1が受波範囲A1を通過する際に要するであろう時間に対応して設定された基準時間とを比較し、継続時間Txが基準時間未満であるときは小型移動物体O1が受波器4の近傍における受波範囲A1を通過したものとみなして判定回路89が移動物体無しと判定している。つまり、従来例のように受波信号から取得したドップラシフト信号の継続時間のみで判定すると小型移動物体O1が受波器4の近傍における受波範囲A1を行きつ戻りつ移動するような場合に誤検出してしまう虞があるが、本実施形態ではドップラー信号E,E’の継続時間Txだけではなく、ドップラー信号E,E’から算出される移動物体の移動方向や移動距離も考慮して判定しているので、受波器4の近傍における受波範囲A1を移動する小型移動物体O1の誤検出を容易に防止できるものである。
【符号の説明】
【0021】
1 発振回路(発振手段)
3 送波器(送波手段)
4 受波器(受波手段)
6A,6B 位相検波回路(位相検出手段)
86 ベクトル回転角演算回路(回転角演算手段)
87 回転角積算回路(積算手段)
88 時間測定回路(測定手段)
89 判定回路(判定手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の周波数で発振する発振手段と、発振手段から出力する送波信号によりエネルギ波を監視空間に送波する送波手段と、前記エネルギ波が監視空間に存在する物体に反射して生じる反射波を受波する受波手段と、送波信号と同周波数で互いに位相の異なる基準信号と受波信号とを混合することで基準信号との位相差に応じた振幅を有し且つ互いに位相の異なる一対のドップラー信号を得る位相検波手段と、二次元直交座標系において原点を始点とし一対のドップラー信号の振幅レベルの数値を終点とするベクトルが時間の経過に伴って回転するときの回転角を演算する回転角演算手段と、回転角演算手段で演算された回転角を積算する積算手段と、少なくとも何れか一方のドップラー信号の振幅が所定の下限値以上となる継続時間を測定する測定手段と、積算手段で積算された回転角の積算値と測定手段で測定された継続時間に基づいて移動物体の有無を判定する判定手段とを備え、判定手段は、回転角の積算値が所定の閾値以上であり且つ継続時間が所定の基準時間以上である場合に移動物体が存在すると判定することを特徴とする移動物体検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−2337(P2011−2337A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−145758(P2009−145758)
【出願日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】