説明

移動通信システムおよび無線基地局

【課題】ハンドオーバの際のマルチキャストデータのデータロスを容易に削減する。
【解決手段】端末401−2が配下に存在している基地局301−2において、端末401−2を基地局301−3の配下へハンドオーバさせる際に、ハンドオーバ要求メッセージと端末401−2が行っているマルチキャスト通信のマルチキャスト情報とを基地局301−3へ送信し、基地局301−3において、マルチキャスト情報に応じたマルチキャスト通信を行うマルチキャストグループへ加入するためのマルチキャストグループ加入要請メッセージを中継装置201−3へ送信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線技術を用いて通信を行う移動通信システムおよび無線基地局に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、インターネット等を利用したデータの配信において、多数の受信者が同一のデータを受信する場合に適用される技術として、ブロードキャストとマルチキャストとが用いられている。これらの技術としては、IPブロードキャストやIPマルチキャストが広く知られており、データ送信元からデータ受信者への転送経路上にある中継装置によってデータが複製されながら転送される。そのため、回線を効率よく使用することができる。
【0003】
ブロードキャストでは予め設定された範囲内すべてにデータが送信されるのに対して、マルチキャストでは受信を希望するクライアントがマルチキャストグループへの登録を行うことにより、到達するために必要な経路上にだけデータが送信される。このデータが送信されるための経路をマルチキャストツリーと言う。
【0004】
図6は、マルチキャスト配信を説明するための一般的なネットワークの一例を示す図である。
【0005】
図6に示したネットワークは、マルチキャストデータを送信するデータ送信装置1101と、データ送信装置1101から送信されたマルチキャストデータをクライアントが有する端末1501−1〜1501−4へ中継する中継装置1201−1〜1201−3とから構成されている。
【0006】
以下、図6に示したネットワークにおけるマルチキャストデータ送信について、端末1501−3がマルチキャストデータの受信を希望する場合を例に挙げて説明する。
【0007】
端末1501−3が中継装置1201−3にマルチキャストグループへの加入を要請するためのマルチキャストグループ加入要請を送信する。中継装置1201−3がマルチキャストグループに登録されていない場合、中継装置1201−3がさらに中継装置1201−1にマルチキャストグループ加入要請を送信する。中継装置1201−1も同様に繰り返し、最終的に既にマルチキャストグループに所属している中継装置、もしくはデータ送信装置1101までマルチキャストグループ加入要請が送信されることにより、端末1501−3へマルチキャストデータを送信するためのマルチキャストグループが作成される。
【0008】
したがって、この状態で端末1501−4が受信を希望する場合、端末1501−4は中継装置1201−3にマルチキャストグループ加入要請を送信するが、中継装置1201−3はすでにマルチキャストグループに含まれているため、中継装置1201−1にマルチキャストグループ加入要請を送信する必要はない。
【0009】
以下に、移動端末へのマルチキャスト配信について説明する。
【0010】
図7は、移動端末へのマルチキャスト配信を説明するための一般的なネットワークの一例を示す図である。
【0011】
図7に示したネットワークは、マルチキャストデータを送信するデータ送信装置1101と、クライアントが有する移動可能な端末1401−1〜1401−2と、データ送信装置1101から送信されたマルチキャストデータを無線信号として端末1401−1〜1401−2へ送信する無線基地局である基地局1301−1〜1304−4と、データ送信装置1101から送信されたマルチキャストデータを基地局1301−1〜1304−4へ中継する中継装置1201−1〜1201−3とから構成されている。
【0012】
以下、図7に示したネットワークにおけるマルチキャストデータ送信について、端末1401−2がマルチキャストデータの受信を希望する場合を例に挙げて説明する。ここで、データ送信装置1101からマルチキャスト配信が行われており、基地局1301−1〜1304−4まではマルチキャスト配信範囲に含まれているものとする。また、端末1401−2が基地局1301−2の配下から基地局1301−3の配下へ移動してハンドオーバする場合を例に挙げて説明する。この場合、ユニキャストとは異なった課題が生じる。
【0013】
端末1401−2は基地局1301−2配下に在圏しながら、データ送信装置1101から送信されたマルチキャストデータを受信しているため、基地局1301−2はマルチキャストグループに属している。一方、基地局1301−3配下および基地局1301−4配下には受信を希望する端末がいないため、マルチキャストグループには属していない。
【0014】
この状態で端末1401−2が基地局1301−3配下に移動することによりハンドオーバすると、基地局1301−3にはマルチキャストデータが送信されていないため、データ送信装置1101は端末1401−2へマルチキャストデータを送信することができない。
【0015】
また、モバイル(移動)通信では、ハンドオーバの際にデータを受信できない時間が発生するため、データロスが生じてしまうおそれがある。このデータロスを可能な限り少なくすることが重要である。
【0016】
ユニキャストであれば、データの再送、あるいは携帯電話システムのようにハンドオーバ元のネットワーク装置で端末に送信できなかったデータを、ネットワーク装置間でハンドオーバ先に転送し、ハンドオーバ先から端末に送信することにより、データロスレスを実現する方法などが実現、あるいは考案されている。
【0017】
しかし、多数の端末に対して同じデータを同時に送信するマルチキャストでは、データ受信を失敗した端末に対して再送や転送を行うことが困難と考えられている。そのため、データ送信の中断時間を可能な限り短縮することがデータロスの減少に有効である。
【0018】
上述した課題を解決するために、端末1401−2がハンドオーバ後にマルチキャストグループへの加入を要請するためのマルチキャストグループ加入要請を送信する技術が考えられている(例えば、特許文献1〜4参照。)。
【0019】
この技術を用いることにより、マルチキャストグループ加入要請を受信した基地局1301−3から中継装置1201−3へマルチキャストグループ加入要請が送信され、同様に中継装置1201−3からマルチキャストグループに含まれている中継装置1201−1へマルチキャストグループ加入要請が送られる。それにより、基地局1301−3を経由したマルチキャストツリーが作成され、端末1401−2がマルチキャストデータを受信することができるようになる。
【0020】
また、端末がマルチキャストグループに登録を実施するときに、在圏している基地局の周辺基地局まで含めてマルチキャストツリーを生成する技術が考えられている(例えば、特許文献5,6参照。)。また、モバイルシステムで標準化されているMBMSでは予め決められた範囲内すべてにマルチキャストデータを送信する技術が考えられている(例えば、特許文献7参照。)。これらの技術を用いることにより、端末の移動にともなうパケットロスを減少でき、毎回のグループ登録が回避できる。
【0021】
また、ネットワーク内の制御サーバが端末の移動先を予測し、マルチキャストルータに移動先のマルチキャストツリーを予め構築するよう要求する技術が考えられている(例えば、特許文献8参照。)。この技術を用いることにより、端末の移動にともなうパケットロスを減少でき、毎回のグループ登録が回避できる。
【0022】
また、移動端末の移動をパケット中継装置に登録し、パケットを中継するパケット中継装置が移動端末のネットワークにパケットを転送することで、移動先でのデータ受信を実現する技術が考えられている(例えば、特許文献9,10参照。)。
【0023】
また、マルチキャストエリア管理装置がホームエージェントから受信した情報に基づいて端末の移動を検知し、移動先のマルチキャストルータにマルチキャストツリーの作成を要求する技術が考えられている(例えば、特許文献11参照。)。この技術を用いることにより、端末がハンドオーバ先のマルチキャストルータにマルチキャスト参加要求を送信する必要がなくなる。
【特許文献1】特開2004−320725号公報
【特許文献2】特開2005−136502号公報
【特許文献3】特開2007−195046号公報
【特許文献4】特開2004−135292号公報
【特許文献5】特開2004−297579号公報
【特許文献6】特開2007−258982号公報
【特許文献7】特開2007−195046号公報
【特許文献8】特開2003−258897号公報
【特許文献9】特開2004−304644号公報
【特許文献10】特開2006−128795号公報
【特許文献11】特開2006−067499号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
しかしながら、特許文献1〜4に記載された技術では、ハンドオーバ先のネットワークがマルチキャストグループに含まれていない場合、端末がハンドオーバしてからデータの転送経路を作成し、その後にデータが送信されるため、データの中断時間が大きくなってしまう。この中断時間に送信されていたマルチキャストデータはロスとなってしまうという問題点がある。また、端末がハンドオーバする毎にマルチキャストグループ加入要請を送信しなければならないため、端末での処理が必要になる上に、基地局と端末とが無線接続の場合は、有線と比較して貴重な無線資源を消費してしまうという問題点がある。
【0025】
図8は、図7に示したネットワークにおいてマルチキャストされたパケットデータの送受信の様子を示す図である。
【0026】
図8に示すように、端末1401−2が、ハンドオーバ処理が完了した後、マルチキャスト広告を受けてマルチキャストグループ加入要請を行う。そのため、ハンドオーバの中断時間に送信されたパケット4に加えて、マルチキャストツリーが作成されるまでのマルチキャスト加入時間においてもパケット5およびパケット6の受信が不可となる。またハンドオーバ元の基地局1301−2にマルチキャストパケットが流れ続けるため、無駄に受信するパケットが生じてしまう。
【0027】
また、特許文献4に記載された技術においては、CRNCが予め決められているSGSNへマルチキャストデータの送信を要求するため、例えば、RNCの上位装置(SGSN等)も含めて経路が変更になる場合には対応ができないという問題点がある。
【0028】
また、特許文献5〜7に記載された技術においては、受信を希望する端末がいないネットワークにまでマルチキャストデータを送信してしまうおそれがあり、無駄な送信処理を実行してしまうという問題点がある。
【0029】
また、特許文献8に記載された技術においては、端末の移動予測をどのように行うかが困難であり、また、移動予測が外れた場合には効果がなくなってしまうという問題点がある。
【0030】
また、特許文献9,10に記載された技術においては、転送されるパケットがユニキャストになってしまう、あるいは経路が最適化されない、端末が移動後に中継装置に登録するために中断時間が長くなってしまうなどの問題点がある。
【0031】
また、特許文献11に記載された技術においては、マルチキャストエリア管理装置が必要になってしまうという問題点がある。また、この装置に処理が集中してしまうという問題点がある。さらに、ホームエージェントからの通知に基づいて移動を検知するため、移動検知までの時間が長くなってしまうという問題点がある。
【0032】
本発明は、上述した課題を解決する移動通信システムおよび無線基地局を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0033】
上記目的を達成するために本発明は、
移動端末と、互いに隣接する2つの無線基地局と、マルチキャスト通信の通信経路を作成するマルチキャストルータとを有してなる移動通信システムにおいて、
前記2つの無線基地局のうち配下に前記移動端末が存在している第1の無線基地局は、前記移動端末がマルチキャスト通信を行っているかどうかと前記マルチキャスト通信に必要な情報であるマルチキャスト情報とを管理し、前記移動端末から送信されてきた無線状態に基づいて、前記移動端末を前記2つの無線基地局のうち第2の無線基地局の配下へハンドオーバさせるかどうかを決定し、前記移動端末を前記第2の無線基地局の配下へハンドオーバさせると決定した場合、前記移動端末がマルチキャスト通信を行っているかどうかを判断し、前記移動端末がマルチキャスト通信を行っていると判断した場合、前記ハンドオーバを要求するメッセージであるハンドオーバ要求メッセージと前記マルチキャスト情報とを前記第2の無線基地局へ送信し、
前記第2の無線基地局は、前記第1の無線基地局から送信されてきた前記マルチキャスト情報を受信した場合、該マルチキャスト情報に応じたマルチキャスト通信を行うマルチキャストグループへ加入するためのマルチキャストグループ加入要請メッセージを当該第2の無線基地局と接続されたマルチキャストルータへ送信することを特徴とする。
【0034】
また、移動端末とマルチキャスト通信の通信経路を作成するマルチキャストルータとに接続可能に構成された無線基地局であって、
前記移動端末から送信されてきた無線状態に基づいて、前記移動端末を当該無線基地局以外の他の無線基地局の配下へハンドオーバさせるかどうかを決定するモビリティ管理部と、
前記移動端末がマルチキャスト通信を行っているかどうかと前記マルチキャスト通信に必要な情報であるマルチキャスト情報とを管理し、前記モビリティ管理部が前記移動端末を前記他の無線基地局の配下へハンドオーバさせると決定した場合、前記移動端末がマルチキャスト通信を行っているかどうかを判断するマルチキャスト通信管理部とを有し、
前記モビリティ管理部は、前記マルチキャスト通信管理部が前記移動端末がマルチキャスト通信を行っていると判断した場合、前記ハンドオーバを要求するメッセージであるハンドオーバ要求メッセージと前記マルチキャスト情報とを前記他の無線基地局へ送信する。
【発明の効果】
【0035】
以上説明したように本発明においては、移動端末が配下に存在している無線基地局において、移動端末を当該無線基地局と隣接する他の無線基地局の配下へハンドオーバさせる際に、ハンドオーバ要求メッセージと移動端末が行っているマルチキャスト通信のマルチキャスト情報とを他の無線基地局へ送信し、他の無線基地局において、マルチキャスト情報に応じたマルチキャスト通信を行うマルチキャストグループへ加入するためのマルチキャストグループ加入要請メッセージを他の無線基地局と接続されたマルチキャストルータへ送信する構成としたため、ハンドオーバの際のマルチキャストデータのデータロスを容易に削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0037】
図1は、本発明の移動通信システムの実施の一形態を示す図である。
【0038】
本形態は図1に示すように、データ送信装置101と、中継装置201−1〜201−3と、本発明の無線基地局である基地局301−1〜301−4とから構成されている。また、端末401−1が基地局301−1配下、つまり基地局301−1の通信エリアに存在しており、また、端末401−2が基地局301−2配下、つまり基地局301−2の通信エリアから基地局301−3配下、つまり基地局301−3の通信エリアへ移動している。
【0039】
データ送信装置101は、マルチキャストデータをマルチキャストで送信する装置である。
【0040】
中継装置201−1は、データ送信装置101から送信されてきたマルチキャストデータを中継装置201−2〜201−3へ中継して送信することによりマルチキャスト通信の通信経路を作成するマルチキャストルータである。このとき、中継装置201−2〜201−3がマルチキャストグループに所属していることが中継(送信)条件となる。
【0041】
中継装置201−2は、データ送信装置101から中継装置201−1を介して送信されてきたマルチキャストデータを基地局301−1〜301−2へ中継して送信することによりマルチキャスト通信の通信経路を作成するマルチキャストルータである。
【0042】
中継装置201−3は、データ送信装置101から中継装置201−1を介して送信されてきたマルチキャストデータを基地局301−3〜301−4へ中継して送信することによりマルチキャスト通信の通信経路を作成するマルチキャストルータである。
【0043】
基地局301−1〜301−4は、データ送信装置101から中継装置201−1〜201−3から送信されてきたマルチキャストデータを配下に存在する端末401−1〜401−2へ送信する無線基地局である。
【0044】
端末401−1〜401−2は、無線通信を行う移動端末である。
【0045】
図1に示した形態においては、データ通信はIPv4技術で行われるものであり、マルチキャストはIPマルチキャストである。また、端末401−1〜401−2のモビリティは基地局301−1〜301−4が管理し、ハンドオーバは、在圏基地局301−1〜301−4からの指示で実施される。
【0046】
なお、基地局および中継装置の数については限定しない。
【0047】
ここで、図1に示した形態におけるユニキャストデータ通信時のハンドオーバ処理について説明する。
【0048】
図2は、図1に示した形態におけるユニキャストデータ通信時のハンドオーバ処理を説明するためのシーケンス図である。この処理は、一般的に用いられている処理である。
【0049】
端末401−2から無線状態の報告が在圏基地局(第1の無線基地局)である基地局301−2へ送信されると(ステップS1)、基地局301−2にて端末401−2から送信されてきた無線状態に基づいて端末401−2のハンドオーバが決定される(ステップS2)。このとき、当該無線状態に基づいて、ハンドオーバ先の第2の無線基地局である基地局301−3が決定される。
【0050】
すると、基地局301−2からハンドオーバ先の基地局301−3へハンドオーバが要求される(ステップS3)。これは一般的に用いられているハンドオーバ要求メッセージを用いて、当該ハンドオーバ要求メッセージが基地局301−3へ送信されるものであっても良い。
【0051】
続いて、ハンドオーバが要求された基地局301−3にて、端末401−2との通信のためのリソースが確保されると(ステップS4)、基地局301−3におけるハンドオーバの受け入れを許可する応答が基地局301−3から基地局301−2へ送信される(ステップS5)。
【0052】
すると、基地局301−2から端末401−2へハンドオーバが指示され(ステップS6)、端末401−2から基地局301−3へハンドオーバ完了通知が送信される(ステップS7)。
【0053】
その後、基地局301−3から上位装置(不図示)へ、端末401−2へ送信されるデータの経路の切り替え要求が送信され(ステップS8)。上位装置にて当該経路が切り替えられる(ステップS9)。ここで、上位装置とは、基地局301−1〜301−4と接続され、基地局301−1〜301−4を制御および管理する装置である。
【0054】
なお、本発明の対象はIPv4およびIPマルチキャストに限定されるものではなく、例えばIPv6の場合もメッセージ名は異なるが動作は同様となる。
【0055】
次に、本発明の基地局301−1〜301−4の構成について説明する。
【0056】
図3は、図1に示した基地局301−1の構成の一例を示す図である。なお、基地局301−2〜301−4の構成についても、基地局301−1の構成と同じ構成である。
【0057】
図1に示した基地局301−1には図3に示すように、メッセージ送受信部310と、モビリティ管理部311と、マルチキャスト通信管理部312と、無線管理部313とが設けられている。
【0058】
メッセージ送受信部310は、端末401−1〜401−2および他の基地局301−2〜301−4、中継装置201−2〜201−3などのネットワーク装置との間においてメッセージの送受信を行う。
【0059】
モビリティ管理部311は、端末401−1〜401−2の接続先基地局の決定および移動の判断を行う。
【0060】
マルチキャスト通信管理部312は、端末401−1〜401−2毎にマルチキャスト通信の実施を管理する。また、マルチキャスト通信が複数同時に実施されている場合は、端末401−1〜401−2毎にどのマルチキャスト通信を行っているかも管理する。
【0061】
無線管理部313は、端末401−1〜401−2と基地局301−1との間で通信するための無線リソースを管理する。
【0062】
なお、図3には、図1に示した基地局301−1の構成要素のうち、本発明に係わる構成要素のみを示した。
【0063】
以下に、図1に示した形態におけるマルチキャストデータ通信時のハンドオーバ方法について説明する。
【0064】
図4は、図1に示した形態におけるマルチキャストデータ通信時のハンドオーバ方法を説明するためのシーケンス図である。
【0065】
端末401−2は無線状態を監視しており、監視した無線状態を在圏の基地局301−2に報告する(ステップS21)。これは、無線状態を示す所定の信号である無線報告メッセージを送信することにより実現される。
【0066】
無線報告メッセージを受信した基地局301−2は、端末401−2の無線状態に基づいて端末401−2を基地局301−3へハンドオーバさせることを決定する(ステップS22)。具体的には、メッセージ送受信部310が端末401−2から送信されてきた無線報告メッセージを受信し、モビリティ管理部311へ当該無線報告メッセージを転送する。モビリティ管理部311は無線報告メッセージの内容および無線リソース状況、近隣の基地局状態などから端末401−2をハンドオーバさせるかどうかを決定する。
【0067】
その後、基地局301−2は、基地局301−3へハンドオーバ受け入れを要求するための信号であるハンドオーバ要求メッセージを送信する(ステップS23)。このとき、マルチキャスト通信に必要な情報(マルチキャストアドレス等)であるマルチキャスト情報を当該ハンドオーバ要求メッセージに含めて送信する。または、マルチキャスト情報を当該ハンドオーバ要求メッセージと同時に基地局301−3へ送信する。
【0068】
ここで、マルチキャスト情報の送信について説明する。ステップS22にて、端末401−2を基地局301−3へハンドオーバさせることを決定した場合、端末401−2のマルチキャスト通信実施状況、つまりマルチキャスト通信を行っているかどうかをマルチキャスト通信管理部312に問い合わせる。マルチキャスト通信管理部312は端末401−2がマルチキャスト通信を行っていると判断した場合、該当するマルチキャスト通信のマルチキャスト情報をモビリティ管理部311へ出力するとともに、該当するマルチキャスト通信を他の端末が実施しているか判定する。モビリティ管理部311は、ハンドオーバ要求メッセージにマルチキャスト通信管理部312から出力されたマルチキャスト情報を含め、メッセージ送受信部310を通じてハンドオーバ先の基地局301−3へ送信する。または、マルチキャスト情報をハンドオーバ要求メッセージと同時に基地局301−3へ送信する。
【0069】
基地局301−3は、基地局301−2から送信されたハンドオーバ要求メッセージを受信し、端末401−2のハンドオーバ受け入れを決定したら、無線のリソースを確保するなどハンドオーバに必要な準備を行う(ステップS24)。具体的には、基地局301−3のモビリティ管理部311は、メッセージ送受信部310を通じて受信したハンドオーバ要求メッセージに従って、無線管理部313に無線リソースの確保を要求することにより、無線管理部313が無線リソースを確保する。
【0070】
また、基地局301−3は、基地局301−2からハンドオーバ要求メッセージに含まれて、またはハンドオーバ要求メッセージと同時に送信されてきたマルチキャスト情報を参照して、基地局301−3が当該マルチキャスト通信を行うマルチキャストグループに含まれているかどうか判断する(ステップS25)。これは、基地局301−3のモビリティ管理部311が、マルチキャスト通信管理部312にマルチキャスト情報を転送し、マルチキャスト通信管理部312は該当するマルチキャスト通信を行っている端末が基地局301−3配下にすでに存在するかどうかを確認することにより実現される。
【0071】
基地局301−3がマルチキャストグループに含まれていないと判断した場合、当該マルチキャストグループに属するために、マルチキャストルータである中継装置201−3へマルチキャストグループへの加入を要請するためのマルチキャストグループ加入要請メッセージをメッセージ送受信部310から送信する(ステップS26)。
【0072】
基地局301−3が送信したマルチキャストグループ加入要請メッセージを受信したマルチキャストルータである中継装置201−3は、マルチキャストグループへの参加を通知するためのIGMP Joinメッセージをマルチキャストグループ(中継装置201−1)へ送信する(ステップS27)。これにより、端末401−2がハンドオーバした際に、早い段階でマルチキャストツリーを生成し、マルチキャストグループに属することができる。また、これ以降、基地局301−3のマルチキャスト通信管理部312は、端末401−2を該当するマルチキャスト通信を行っている端末として管理する。
【0073】
また、基地局301−3のモビリティ管理部311は、基地局301−2へハンドオーバの受け入れを通知するためのハンドオーバ応答メッセージを送信する(ステップS28)。
【0074】
なお、ステップS24〜S28の処理順序は入れ替わることもあり得る。
【0075】
基地局301−3から送信されてきたハンドオーバ応答メッセージを基地局301−2が受信すると、基地局301−2のモビリティ管理部311は、端末401−2へハンドオーバの指示を行う(ステップS29)。
【0076】
また、基地局301−2のモビリティ管理部311は、基地局301−2のマルチキャスト通信管理部312へ端末401−2がハンドオーバしたことを通知する。すると、マルチキャスト通信管理部312は、端末401−2が受信していたマルチキャスト通信を受信する端末が、基地局301−2配下で端末401−2以外の端末の中に存在するかどうかを判断する。マルチキャスト通信管理部312が、端末401−2が受信していたマルチキャスト通信を受信する端末が基地局301−2配下で端末401−2以外の端末の中に存在しないと判断した場合、モビリティ管理部311は、中継装置201−2に対してマルチキャストグループの離脱を要請するためのマルチキャストグループ離脱要請メッセージを送信する(ステップS31)。これにより、受信を希望する端末が存在しなくなった場合、マルチキャストグループから離脱することができる。
【0077】
なお、ステップS29とステップS30との処理順序はどちらが先でも良い。また、ステップS30およびステップS31の処理は省略も可能であるが、データ送信を早期にとめられる効果はなくなる。
【0078】
その後、端末401−2は基地局301−3にハンドオーバしてきたことを通知するため、ハンドオーバ完了通知を送信する(ステップS32)。
【0079】
通常であれば、この段階で基地局301−3はマルチキャストデータに加入済みで、マルチキャストデータが送信されてきていることが期待できる。したがって、すぐにマルチキャストデータを端末401−2へ送信することができる。
【0080】
図5は、図1に示した形態においてマルチキャストされたパケットデータの送受信の様子を示す図である。
【0081】
図5に示すように、基地局301−2からの端末401−2のハンドオーバ要求から基地局301−3からのハンドオーバ応答までの間に、マルチキャスト加入要請を行うため、ハンドオーバを開始する際には、ハンドオーバ後のマルチキャストツリーの作成がすでに完了している。これにより、端末401−2がハンドオーバする前に、ハンドオーバ先の基地局301−3にマルチキャストパケットが到達しているため、パケット5から送信可能となる。さらに、ハンドオーバ元の基地局301−2はグループ離脱要請を行っているため、無駄なパケットの受信を減少させることができる。また、端末401−2にも特別な動作を必要としない。
【0082】
また、上述したステップS25の判断処理を行わずに、マルチキャストデータを受信している端末がハンドオーバしてきたら、常にマルチキャストルータ(中継装置201−3)へマルチキャストグループ加入要請メッセージを送信するものであっても良い。
【0083】
また、モビリティを管理する装置が当該ネットワークのマルチキャストを扱うことが可能な場合は、直接マルチキャストグループへの加入要請および離脱要請を行う方法もある。例えば、ネットワークの形態は上述した形態と同様であるが、基地局もIPマルチキャストルータの場合を考える。この場合、上述したステップS26の処理において送信されるマルチキャストグループ加入要請メッセージの代わりに、IGMP Joinを送信するものであっても良い。
【0084】
また、上述したステップS31の処理において送信されるマルチキャストグループ離脱要請メッセージ代わりに、IGMP Leaveを送信するものであっても良い。
【0085】
なお、本形態においては、端末401−2が基地局301−2の配下から基地局301−3の配下へ移動した場合を例に挙げて説明したが、端末401−2が基地局301−1の配下から基地局301−2の配下へ移動した場合や、端末401−2が基地局301−3の配下から基地局301−4の配下へ移動した場合でも同様の処理が行われることは言うまでもない。それは、上述したように基地局301−1〜301−4の内部構成が互いに同じであるからである。
【0086】
以上説明したように、本発明を用いれば、移動通信システムにおいて、マルチキャストデータの受信を希望する端末がいないネットワーク経路にデータを送信することを避けることができる。また、端末が移動に伴ってマルチキャストグループの加入を申請することもなく、マルチキャストデータの受信継続を、特別な装置の追加なしに実現することができる。さらに、ハンドオーバ時のデータ中断時間を短縮し、データロスを減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の移動通信システムの実施の一形態を示す図である。
【図2】図1に示した形態におけるユニキャストデータ通信時のハンドオーバ処理を説明するためのシーケンス図である。
【図3】図1に示した基地局の構成の一例を示す図である。
【図4】図1に示した形態におけるマルチキャストデータ通信時のハンドオーバ方法を説明するためのシーケンス図である。
【図5】図1に示した形態においてマルチキャストされたパケットデータの送受信の様子を示す図である。
【図6】マルチキャスト配信を説明するための一般的なネットワークの一例を示す図である。
【図7】移動端末へのマルチキャスト配信を説明するための一般的なネットワークの一例を示す図である。
【図8】図7に示したネットワークにおいてマルチキャストされたパケットデータの送受信の様子を示す図である。
【符号の説明】
【0088】
101 データ送信装置
201−1〜201−3 中継装置
301−1〜301−4 基地局
310 メッセージ送受信部
311 モビリティ管理部
312 マルチキャスト通信管理部
313 無線管理部
401−1〜401−2 端末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動端末と、互いに隣接する2つの無線基地局と、マルチキャスト通信の通信経路を作成するマルチキャストルータとを有してなる移動通信システムにおいて、
前記2つの無線基地局のうち配下に前記移動端末が存在している第1の無線基地局は、前記移動端末がマルチキャスト通信を行っているかどうかと前記マルチキャスト通信に必要な情報であるマルチキャスト情報とを管理し、前記移動端末から送信されてきた無線状態に基づいて、前記移動端末を前記2つの無線基地局のうち第2の無線基地局の配下へハンドオーバさせるかどうかを決定し、前記移動端末を前記第2の無線基地局の配下へハンドオーバさせると決定した場合、前記移動端末がマルチキャスト通信を行っているかどうかを判断し、前記移動端末がマルチキャスト通信を行っていると判断した場合、前記ハンドオーバを要求するメッセージであるハンドオーバ要求メッセージと前記マルチキャスト情報とを前記第2の無線基地局へ送信し、
前記第2の無線基地局は、前記第1の無線基地局から送信されてきた前記マルチキャスト情報を受信した場合、該マルチキャスト情報に応じたマルチキャスト通信を行うマルチキャストグループへ加入するためのマルチキャストグループ加入要請メッセージを当該第2の無線基地局と接続されたマルチキャストルータへ送信することを特徴とする移動通信システム。
【請求項2】
請求項1に記載の移動通信システムにおいて、
前記第1の無線基地局は、前記ハンドオーバ要求メッセージを送信した後、前記第2の無線基地局から送信されたハンドオーバ応答メッセージを受信した際、前記移動端末が行っていたマルチキャスト通信を行っている移動端末が当該第1の無線基地局の配下に存在するかどうかを判断し、該マルチキャスト通信を行っている移動端末が当該第1の無線基地局の配下に存在しないと判断した場合、該マルチキャスト通信を行うマルチキャストグループから離脱するためのマルチキャストグループ離脱要請メッセージを当該第1の無線基地局と接続されたマルチキャストルータへ送信することを特徴とする移動通信システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の移動通信システムにおいて、
前記第2の無線基地局は、前記第1の無線基地局から送信されてきた前記マルチキャスト情報を受信した際に、該マルチキャスト情報に応じたマルチキャスト通信を行っている移動端末が当該第2の無線基地局の配下に存在しない場合、該マルチキャスト通信を行うマルチキャストグループへ加入するためのマルチキャストグループ加入要請メッセージを前記第2の無線基地局と接続されたマルチキャストルータへ送信することを特徴とする移動通信システム。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の移動通信システムにおいて、
前記第1の無線基地局は、前記マルチキャスト情報を前記ハンドオーバ要求メッセージに含めて送信することを特徴とする移動通信システム。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の移動通信システムにおいて、
前記第1の無線基地局は、前記マルチキャスト情報と前記ハンドオーバ要求メッセージとを同時に送信することを特徴とする移動通信システム。
【請求項6】
移動端末とマルチキャスト通信の通信経路を作成するマルチキャストルータとに接続可能に構成された無線基地局であって、
前記移動端末から送信されてきた無線状態に基づいて、前記移動端末を当該無線基地局以外の他の無線基地局の配下へハンドオーバさせるかどうかを決定するモビリティ管理部と、
前記移動端末がマルチキャスト通信を行っているかどうかと前記マルチキャスト通信に必要な情報であるマルチキャスト情報とを管理し、前記モビリティ管理部が前記移動端末を前記他の無線基地局の配下へハンドオーバさせると決定した場合、前記移動端末がマルチキャスト通信を行っているかどうかを判断するマルチキャスト通信管理部とを有し、
前記モビリティ管理部は、前記マルチキャスト通信管理部が前記移動端末がマルチキャスト通信を行っていると判断した場合、前記ハンドオーバを要求するメッセージであるハンドオーバ要求メッセージと前記マルチキャスト情報とを前記他の無線基地局へ送信する無線基地局。
【請求項7】
請求項6に記載の無線基地局において、
前記モビリティ管理部は、当該無線基地局以外の他の無線基地局から送信されてきた前記マルチキャスト情報を受信した場合、該マルチキャスト情報に応じたマルチキャスト通信を行うマルチキャストグループへ加入するためのマルチキャストグループ加入要請メッセージを前記マルチキャストルータへ送信することを特徴とする無線基地局。
【請求項8】
請求項7に記載の無線基地局において、
前記モビリティ管理部は、当該無線基地局以外の他の無線基地局から送信されてきた前記マルチキャスト情報を受信した際に、該マルチキャスト情報に応じたマルチキャスト通信を行っている移動端末が当該無線基地局の配下に存在するかどうかを前記マルチキャスト通信管理部に確認し、該マルチキャスト通信を行っている移動端末が当該無線基地局の配下に存在しない場合、該マルチキャスト通信を行うマルチキャストグループへ加入するためのマルチキャストグループ加入要請メッセージを前記マルチキャストルータへ送信することを特徴とする無線基地局。
【請求項9】
請求項6乃至8のいずれか1項に記載の無線基地局において、
前記マルチキャスト通信管理部は、前記ハンドオーバ要求メッセージを送信した後、前記他の無線基地局からハンドオーバ応答メッセージを受信した際、前記移動端末が行っていたマルチキャスト通信を行っている移動端末が当該無線基地局の配下に存在するかどうかを判断し、
前記モビリティ管理部は、前記マルチキャスト通信管理部が該マルチキャスト通信を行っている移動端末が当該無線基地局の配下に存在しないと判断した場合、該マルチキャスト通信を行うマルチキャストグループから離脱するためのマルチキャストグループ離脱要請メッセージを前記マルチキャストルータへ送信することを特徴とする無線基地局。
【請求項10】
請求項6に記載の無線基地局において、
前記モビリティ管理部は、前記マルチキャスト情報を前記ハンドオーバ要求メッセージに含めて送信することを特徴とする無線基地局。
【請求項11】
請求項6に記載の無線基地局において、
前記モビリティ管理部は、前記マルチキャスト情報と前記ハンドオーバ要求メッセージとを同時に送信することを特徴とする無線基地局。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−225291(P2009−225291A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−69577(P2008−69577)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】