説明

穀物の収量を増加させる遺伝子、並びにその利用

【課題】植物種子の着粒数の増加をすることにより、農産物の収率向上を目指し、そのためにQTL解析を用いて特定の遺伝子座の解明を基にする育種法の提供。
【解決手段】連鎖解析により、植物の着粒数(頴花・果実・種子を含む)の増減に関する遺伝子の単離・同定をすること。また、該遺伝子を利用した植物の着粒数(頴花・果実・種子を含む)を増加させる育種手法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の着粒数(頴花・果実・種子を含む)の増減に関する遺伝子の単離・同定、並びに該遺伝子を利用した植物の着粒数(頴花・果実・種子を含む)を増加させる育種手法に関する。
【背景技術】
【0002】
世界人口が爆発的に増え続ける一方、環境汚染や地球温暖化・砂漠化による急激な耕地減少が起こっており、発展途上国を中心に慢性的な食糧不足が続いている。また現在、世界の年間人口増加率1.4%に対し、穀物生産増加率は1.0%と人口増加率に比べ低く、世界人口が80億を突破する2025年には、穀物需要は50%上昇すると予想され食糧不足は一層加速している。この深刻な状況を打破する為には、政治・経済的な政策はもちろん、穀物生産量を上昇させる科学的な穀物育種戦略が不可欠である。交配と選抜を主体とする従来育種ではもはやこの深刻な状況を回避する事はできず、収量増加を目指した穀物の草型研究と具体的かつ効率的な穀物育種が必須である。
【0003】
1960年代世界の食糧危機が懸念された際、国際イネ研究所(フィリピン)においてミラクルライスと呼ばれる短桿多収イネが、国際ムギ・トウモロコシ研究所(メキシコ)において短桿多収コムギが育成され、これら両品種の速やかな普及により世界の食糧危機が回避された。いわゆる「緑の革命」である。両品種は従来品種の2倍の収量を示したが、この多収性は半矮性と呼ばれる短桿性の草型によってもたらされた。すなわち多収を目指す場合、窒素肥料の投与が不可欠であるが、これは同時に草丈の伸長も誘導し、伸長した穀物は風雨により倒伏し収量を激減させる。一方、短桿品種は、施肥した場合でも、草丈の徒長なしに収量を増加させる事が可能となる。つまり「緑の革命」に貢献した両短桿品種は耐倒伏性を獲得する事によって、劇的に収量の増加をもたらした。現在においても、穀物の半矮性化は増収に多大に貢献しているが、既に多くの穀物品種は半矮性遺伝子を利用しているため、この技術を用いたさらなる増収は期待できず、新たな技術を利用した穀物生産技術の開発が必須である。
【0004】
コメは世界の人類の50%の人々が食糧として利用し、特にアジアに住む人々にとって、コメの栽培特性がモンスーンという多湿の気候条件に合い、長いあいだ主食としてエネルギーの供給源になっていたばかりでなく、深く生活・文化に根付き、これまでに様々な地域で育種が進められ、人類が利用しやすい性質に改善されてきた。また最近イネのゲノム塩基配列が決定されるなど、分子遺伝学的ツールが整いつつあり、ゲノム遺伝学を用いた新たな育種技術が期待されるところである。
【0005】
これまで、穀類(植物)の収量増加のため、様々な試みが行われたが、直接的に収量増加を担う、花・種子(頴花)数の増減に関与する遺伝子について単離・同定が行われたという報告はなされていない。従来の穀物の半矮性化に加えて、花・種子(頴花)数の増減を制御する技術が開発されれば、さらなる穀物の収量の増加が期待される。
【発明の開示】
【0006】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、植物の着粒数(頴花・果実・種子を含む)の増減に関する遺伝子の単離・同定、並びに該遺伝子を利用した植物の着粒数(頴花・果実・種子を含む)を増加させる育種方法を提供することにある。
【0007】
発明者らは、穀類(植物)の収量増加を試みるため、単子葉植物のモデルであるイネを用いて直接的に収量増加を担う遺伝子、すなわち花・種子(頴花)数の増減に関する遺伝子の探索を試みた。花・種子(頴花)数は複数の遺伝子の相互作用による量的形質(QTL)として支配されている。そこでまず、QTL解析を行う雑種集団の育成に先駆け、雑種集団の親となる品種の選定を試み、着粒数に明瞭な差が見られた日本型イネの「コシヒカリ」とインド型イネ「ハバタキ」2つの品種を選抜した(図1)。これら二つの品種を交雑したF1個体に、コシヒカリを反復親とした戻し交雑と自殖を行い、74系統のBC2F1, BC2F2およびBC3F2の集団を育成後、名古屋大学付属農場に展開した。BC2F2 74個体を用いて、着粒数に関するQTL解析を行った結果、着粒数を増加させる複数のQTLを検出した(図2)。特に第1染色体短腕約28cM近傍にハバタキのlocusがコシヒカリに対して着粒数を増加させる効果の大きいQTL(YQ1; Yielding QTL 1)を見いだすことに成功した(図2)。YQ1の存在を検証するために、返し戻し交雑とMASを用いて、YQ1準同質遺伝子系統を作製し、Nil-YQ1及びコシヒカリ(コントロール)の最大着粒数を調査した。その結果、QTL(YQ1)の存在を確認し、第1染色体短腕、約28cM近傍がハバタキに置換した系統は平均で50粒着粒数を増加させることがわかった。
【0008】
次に74個体のBC2F1からそれぞれCTAB法を用いてDNAを抽出すると共全染色体を網羅的に包含する93個の分子マーカーを用いて各個体の遺伝子型を決定した。その自殖後代BC2F2を1系統に各10個体展開し、その中から、ランダムに1系統に1個体を選定し、選定した個体についてそれぞれ6穂をサンプリング後、各穂の着粒数を調査した。各系統6穂の内、最も着粒数の多かった穂を選出し、最大着粒数とした後、Qgene ソフトを用いてQTL解析を行った。
【0009】
次にBC3F2集団を用いて、分子マーカーによる遺伝子型と表現型(F2及びF3)を調査し、再度連鎖解析を行った。その結果分子マーカー(6Aと8A)に挟まれる領域にYQ1が座乗することが明らかになった(図3)。YQ1座乗領域と詳細に特定するために、YQの分離集団(12500個体)を用いて高精度連鎖解析を行った結果、YQ1は分子マーカー(4A9と20)に挟まれる約8Kbを特定する事ができた(図4)。この領域において遺伝子予測を行ったところ、1個の遺伝子が予測され、相同性検索の結果、CKX(サイトカイニン酸化酵素)と高い相同性を有する遺伝子を見いだした(図4)。このCKX遺伝子について、ハバタキとコシヒカリの塩基配列を決定したところ、塩基の違いがみいだされ、ハバタキのCKXは機能を欠失していると思われた(図5)。
【0010】
さらに、イネゲノム配列を検索し、イネにおけるCKX遺伝子を解析したところ、イネゲノム中に11ヶのCKX遺伝子が存在する事が判明した。シロイヌナズナにおけるCKX遺伝子と共に、これらについて遺伝的系統樹を作成した結果、シロイヌナズナのAtCKX2, 3 及び4と5つのイネCKX遺伝子(Chr.1 25cM P695A4に座乗するCKX, Chr.127 P419B01に座乗するCKX(本遺伝子)、Chr.6 79cM OsJ0006A22-GSに座乗するCKX遺伝子、Chr.2 32cMに座乗する2つのCKX遺伝子)が非常に近縁である事が判明した(図6)。これらの遺伝子の相同性を調べたところアミノ酸レベルで高い相同性を有する事が判明した(図7〜9)。また、イネにおけるすべてのCKX遺伝子について座乗位置を確認したところ、いくつかのYQ領域に座乗することが明らかになった(図10)。
【0011】
即ち、本発明者らは、植物の着粒数の増減に関与する新たな遺伝子を単離することに成功し、これにより本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明は、植物の着粒数(頴花・果実・種子を含む)の増減を調節する遺伝子の単離・同定、並びに該遺伝子を利用した植物の着粒数(頴花・果実・種子を含む)を増加させる育種方法に関し、以下の〔1〕〜〔19〕を提供するものである。
〔1〕 その機能の欠失により植物の着粒数を増加させる植物由来のタンパク質をコードする、下記(a)から(d)のいずれかに記載のDNA。
(a)配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
(b)配列番号:1もしくは2に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA。
(c)配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
(d)配列番号:1もしくは2に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
〔2〕 イネ由来である、〔1〕に記載のDNA。
〔3〕 〔1〕または〔2〕に記載のDNAの転写産物と相補的なRNAをコードするDNA。
〔4〕 〔1〕または〔2〕に記載のDNAの転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNA。
〔5〕 植物細胞における発現時に、共抑制効果により、〔1〕または〔2〕に記載のDNAの発現を抑制させるRNAをコードするDNA。
〔6〕 〔1〕から〔5〕のいずれかに記載のDNAを含むベクター。
〔7〕 〔6〕に記載のベクターが導入された宿主細胞。
〔8〕 〔6〕に記載のベクターが導入された植物細胞。
〔9〕 〔8〕に記載の植物細胞を含む形質転換植物体。
〔10〕 〔9〕に記載の形質転換植物体の子孫またはクローンである、形質転換植物体。
〔11〕 〔9〕または〔10〕に記載の形質転換植物体の繁殖材料。
〔12〕 〔1〕から〔5〕のいずれかに記載のDNAを植物細胞に導入し、該植物細胞から植物体を再生させる工程を含む、形質転換植物体の製造方法。
〔13〕 〔1〕または〔2〕に記載のDNAによりコードされるタンパク質。
〔14〕 〔7〕に記載の宿主細胞を培養し、該細胞またはその培養上清から組換えタンパク質を回収する工程を含む、〔13〕に記載のタンパク質の製造方法。
〔15〕 〔13〕に記載のタンパク質に結合する抗体。
〔16〕 配列番号:1もしくは2に記載の塩基配列またはその相補配列に相補的な少なくとも15の連続する塩基を含むポリヌクレオチド。
〔17〕 〔3〕から〔5〕のいずれかに記載のDNAを植物体の細胞内で発現させる工程を含む、植物の着粒数を増加させる方法。
〔18〕 〔1〕から〔5〕のいずれかに記載のDNA、もしくは〔6〕に記載のベクターを有効成分とする、植物の着粒数を改変する薬剤。
〔19〕 植物の着粒数を判定する検査方法であって、
(a)被検植物体またはその繁殖媒体からDNA試料を調製する工程、
(b)該DNA試料から〔1〕に記載のDNA領域を増幅する工程、
(c)増幅されたDNA領域の塩基配列を決定する工程、
を含み、該塩基配列がその機能の欠失により植物の着粒数を増加させるタンパク質をコードしている場合に、着粒数が少ない品種であると判断し、該タンパク質をコードしていない場合に、着粒数が多い品種であると判断する方法。
【0013】
本発明は、イネ由来のCKXタンパク質をコードするDNAを提供する。「コシヒカリ」のゲノムDNAの塩基配列を配列番号:1に、「コシヒカリ」のcDNAの塩基配列を配列番号:2に、該DNAがコードするタンパク質のアミノ酸配列を配列番号:3に示す。また、「ハバタキ」のゲノムDNAの塩基配列を配列番号:4に、「ハバタキ」のcDNAの塩基配列を配列番号:5に、該DNAがコードするタンパク質のアミノ酸配列を配列番号:6に示す。
【0014】
本発明により単離されたCKX遺伝子は「ハバタキ」と「コシヒカリ」の交雑後代を利用して検出された量的形質遺伝子座(QTL)の一つであり、第1染色体上に座乗することが明らかとなった。また、このCKX遺伝子について、ハバタキとコシヒカリの塩基配列を決定したところ、塩基の違いが見出され、コシヒカリ等の他の品種に比べ着粒数が多いハバタキのCKXタンパク質は機能を欠失していることがわかった。
【0015】
植物ホルモンの1つサイトカイニン(カイネチンと同様な生理活性を有する化合物群で、アデニンの6位に置換基を持つものの総称)は、細胞分裂促進、花芽形成、側芽形成、老化抑制、気孔の開閉、根の伸長促進等に関与している。特に花芽形成、側芽形成の促進は本形質(頴花数の増加)と密接に連鎖していると言える。サイトカイニンはメバロン酸を基質として4つの触媒反応を通して合成されるが、サイトカイニン酸化酵素によってアデニンの6位が切断され不活性化される(ゼアチンの場合はアデニンとメチルブテナルに分解)。つまり、CKX (サイトカイニン酸化酵素) 遺伝子の機能欠損は、サイトカイニンを分解する事ができず、結果的にサイトカイニンを蓄積することになる。サイトカイニンの蓄積は花芽形成誘導を行うので、着粒数(頴花数)の増加につながると考えられCKX遺伝子はその機能と表現型に非常に合致する。以上の結果から、CKX遺伝子の機能欠失は、イネの着粒数(頴花数)を上昇させ、結果収量を増加させることがわかる。これまで、着粒数(頴花数)の増加につながると考えられる遺伝子については、同定および単離には至っていなかった。本発明者らは、複雑なステップを経て遂にその存在領域を解明し、単一の遺伝子として該遺伝子を単離することに初めて成功した。
【0016】
現在、日本のイネの品種改良においては、着粒数の増加は重要な育種目標である。着粒数の増加は、そのまま穀類の収量を増加させる形質に繋がり、それらの形質は農業的に極めて重要な形質であるため、CKX遺伝子を用いた育種への応用が期待されている。
【0017】
CKX遺伝子の機能欠失は、植物の着粒数を上昇させることから、アンチセンス法、リボザイム法等を利用して該DNAの発現制御を行うことにより、結果的に穀物の収量を増加させることが可能である。例えば、CKX遺伝子が機能している品種、例えば「コシヒカリ」に、アンチセンス方向にCKX遺伝子を導入することにより、着粒数を増加させることができる。また、分子マーカーを用いて不活性型CKX遺伝子を導入し、着粒数を増加させることができる。導入方法は形質転換であっても、交配であってもよい。形質転換に要する期間は交配による遺伝子移入に比較して極めて短期間であり、他の形質の変化を伴わないで着粒数を増加が可能となる。本発明において単離した、着粒数の増減に関るCKX遺伝子を利用することにより、イネの着粒数を容易に変化させることができ、着粒数が増加したイネ品種育成に貢献できると考えられる。また、穀類には、ゲノムシンテニー(遺伝子の相同性)が極めてよく保存されているため、イネCKX遺伝子のコムギ、オオムギ、トウモロコシなどの穀物育種への応用が期待できる。さらに、穀類のみならず、CKX遺伝子は植物に広く分布することから、CKX遺伝子の機能欠失は全ての植物で花・種子(頴花)数を増加させ、収量の増加を導くと考えられる。
【0018】
本発明のCKXタンパク質をコードするDNAには、ゲノムDNA、cDNA、および化学合成DNAが含まれる。ゲノムDNAおよびcDNAの調製は、当業者にとって常套手段を利用して行うことが可能である。ゲノムDNAは、例えば、該CKX遺伝子を有するイネ品種 (例えば、「コシヒカリ」)からゲノムDNAを抽出し、ゲノミックライブラリー(ベクターとしては、プラスミド、ファージ、コスミド、BAC、PACなどが利用できる)を作成し、これを展開して、本発明タンパク質をコードするDNA(例えば、配列番号:1もしくは2)を基に調製したプローブを用いてコロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより調製することが可能である。また、本発明タンパク質をコードするDNA(例えば、配列番号:1もしくは2)に特異的なプライマーを作成し、これを利用したPCRをおこなうことによって調製することも可能である。また、cDNAは、例えば、CKX遺伝子を有するイネ品種 (例えば、「コシヒカリ」)から抽出したmRNAを基にcDNAを合成し、これをλZAP等のベクターに挿入してcDNAライブラリーを作成し、これを展開して、上記と同様にコロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより、また、PCRを行うことにより調製することが可能である。
【0019】
本発明は、配列番号:3に記載のCKXタンパク質(「コシヒカリ」)と機能的に同等なタンパク質をコードするDNAを包含する。ここで「CKXタンパク質と同等の機能を有する」とは、対象となるタンパク質の機能を欠失させることにより、着粒数を増加させる機能を有することを指す。このようなDNAは、好ましくは単子葉植物由来であり、より好ましくはイネ科植物由来であり、最も好ましくはイネ由来である。
【0020】
このようなDNAには、例えば、配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする変異体、誘導体、アレル、バリアントおよびホモログが含まれる。
【0021】
アミノ酸配列が改変されたタンパク質をコードするDNAを調製するための当業者によく知られた方法としては、例えば、site-directed mutagenesis法(Kramer, W.& Fritz,H.-J. (1987) Oligonucleotide-directed construction of mutagenesis via gapped duplex DNA.Methods in Enzymology, 154: 350-367)が挙げられる。また、塩基配列の変異によりコードするタンパク質のアミノ酸配列が変異することは、自然界においても生じ得る。このように天然型のCKXタンパク質をコードするアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失もしくは付加したアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNAであっても、天然型のCKXタンパク質(配列番号:3)と同等の機能を有するタンパク質をコードする限り、本発明のDNAに含まれる。また、たとえ、塩基配列が変異した場合でも、それがタンパク質中のアミノ酸の変異を伴わない場合(縮重変異)もあり、このような縮重変異体も本発明のDNAに含まれる。
【0022】
配列番号:3に記載のCKXタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードするDNAを調製するために、当業者によく知られた他の方法としては、ハイブリダイゼーション技術(Southern, E.M. (1975) Journal of Molecular Biology, 98, 503)やポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術(Saiki, R. K. et al. (1985) Science, 230, 1350-1354、Saiki, R. K. et al. (1988) Science, 239, 487-491)を利用する方法が挙げられる。即ち、当業者にとっては、CKX遺伝子の塩基配列(配列番号:2)もしくはその一部をプローブとして、またCKX遺伝子(配列番号:2)に特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドをプライマーとして、イネや他の植物からCKX遺伝子と高い相同性を有するDNAを単離することは通常行いうることである。このようにハイブリダイズ技術やPCR技術により単離しうるCKXタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNAもまた本発明のDNAに含まれる。
【0023】
このようなDNAを単離するためには、好ましくはストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーション反応を行う。本発明においてストリンジェントなハイブリダイゼーション条件とは、6M尿素、 0.4%SDS、0.5xSSCの条件またはこれと同等のストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件を指す。よりストリンジェンシーの高い条件、例えば、6M尿素、0.4%SDS、0.1xSSCの条件を用いることにより、より相同性の高いDNAの単離を期待することができる。これにより単離されたDNAは、アミノ酸レベルにおいて、CKXタンパク質のアミノ酸配列(配列番号:3または6)と高い相同性を有すると考えられる。高い相同性とは、アミノ酸配列全体で、少なくとも50%以上、さらに好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、95%,96%,97%,98%,99%以上)の配列の同一性を指す。アミノ酸配列や塩基配列の同一性は、カーリンおよびアルチュールによるアルゴリズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-2268, 1990、Proc Natl Acad Sci USA 90: 5873, 1993)を用いて決定できる。BLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul SF, et al: J Mol Biol 215: 403, 1990)。BLASTNを用いて塩基配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=100、wordlength=12とする。また、BLASTXを用いてアミノ酸配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=50、wordlength=3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合は、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である。
【0024】
あるDNAが植物の着粒数の増減に関るタンパク質をコードするか否かは以下のようにして評価することができる。最も一般的な方法としては、該DNAの機能を欠失させた上で栽培を行い、着粒数を調べる手法である。すなわち該DNAの機能を保った条件と該DNAの機能を欠失させた条件で栽培し、着粒数を比較する方法である。着粒数が変わらないかほとんど同じ場合は、該DNAは着粒数の増減に関与しないと判断する。該DNAが着粒数の増減に関る場合は、着粒数はより増加し、その差を着粒数の増減の程度とみなすことができる。
【0025】
本発明のDNAは、例えば、組み換えタンパク質の調製や着粒数が改変された形質転換植物体の作出などに利用することが可能である。組み換えタンパク質を調製する場合には、通常、本発明のタンパク質をコードするDNAを適当な発現ベクターに挿入し、該ベクターを適当な細胞に導入し、形質転換細胞を培養して発現させたタンパク質を精製する。組み換えタンパク質は、精製を容易にするなどの目的で、他のタンパク質との融合タンパク質として発現させることも可能である。例えば、大腸菌を宿主としてマルトース結合タンパク質との融合タンパク質として調製する方法(米国New England BioLabs社発売のベクターpMALシリーズ)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)との融合タンパク質として調製する方法(Amersham Pharmacia Biotech社発売のベクターpGEXシリーズ)、ヒスチジンタグを付加して調製する方法(Novagen社のpETシリーズ)などを利用することが可能である。宿主細胞としては、組み換えタンパク質の発現に適した細胞であれば特に制限はなく、上記の大腸菌の他、例えば、酵母、種々の動植物細胞、昆虫細胞などを用いることが可能である。宿主細胞へのベクターの導入には、当業者に公知の種々の方法を用いることが可能である。例えば、大腸菌への導入には、カルシウムイオンを利用した導入方法(Mandel, M. & Higa, A. (1970) Journal of Molecular Biology, 53, 158-162、Hanahan, D. (1983) Journal of Molecular Biology, 166, 557-580)を用いることができる。宿主細胞内で発現させた組み換えタンパク質は、該宿主細胞またはその培養上清から、当業者に公知の方法により精製し、回収することが可能である。組み換えタンパク質を上記のマルトース結合タンパク質などとの融合タンパク質として発現させた場合には、容易にアフィニティー精製を行うことが可能である。また、後述する手法で、本発明のDNAが導入された形質転換植物体を作成し、該植物体から本発明のタンパク質を調製することも可能である。従って、本発明の形質転換植物体には、後述する、着粒数を改変するために本発明のDNAが導入された植物体のみならず、本発明のタンパク質の調製のために本発明のDNAが導入された植物体も含まれる。
【0026】
得られた組換えタンパク質を用いれば、これに結合する抗体を調製することができる。例えば、ポリクローナル抗体は、精製した本発明のタンパク質若しくはその一部のペプチドをウサギなどの免疫動物に免疫し、一定期間の後に血液を採取し、血ぺいを除去することにより調製することが可能である。また、モノクローナル抗体は、上記タンパク質若しくはペプチドで免疫した動物の抗体産生細胞と骨腫瘍細胞とを融合させ、目的とする抗体を産生する単一クローンの細胞(ハイブリドーマ)を単離し、該細胞から抗体を得ることにより調製することができる。これにより得られた抗体は、本発明のタンパク質の精製や検出などに利用することが可能である。本発明には、本発明のタンパク質に結合する抗体が含まれる。これらの抗体を用いることにより、植物体における着粒数の増減に関与するタンパク質の発現部位の判別、もしくは植物種が着粒数の増減に関与するタンパク質を発現するか否かの判別を行うことが出来る。
【0027】
例えば、着粒数が少ない「コシヒカリ」のカルボキシル末端側のアミノ酸配列を特異的に認識する抗体は、着粒数が多い「ハバタキ」等の品種において発現するタンパク質には結合しないため、植物種内において着粒数の増減に関与するタンパク質が発現するかいなかを判別する際に用いることができる。
【0028】
本発明のDNAを利用して着粒数が増加した形質転換植物体を作製する場合には、本発明のタンパク質をコードするDNAの発現を抑制するためのDNAを適当なベクターに挿入して、これを植物細胞に導入し、これにより得られた形質転換植物細胞を再生させる。ベクターを導入する植物細胞としては、本発明のDNAが正常に発現している植物細胞であることが好ましい。「本発明のタンパク質をコードするDNAの発現を抑制」には、遺伝子の転写の抑制およびタンパク質への翻訳の抑制が含まれる。また、DNAの発現の完全な停止のみならず発現の減少も含まれる。
【0029】
植物における特定の内在性遺伝子の発現の抑制は、例えば、本発明のタンパク質をコードするDNAの転写産物と相補的なRNAをコードするDNAを利用して行なうことができる。
【0030】
「本発明のタンパク質をコードするDNAの転写産物と相補的なRNAをコードするDNA」の一つの態様は、本発明のタンパク質をコードするDNAの転写産物と相補的なアンチセンスRNAをコードするDNAである。植物細胞におけるアンチセンス効果は、エッカーらが一時的遺伝子発現法を用いて、電気穿孔法で導入したアンチセンスRNAが植物においてアンチセンス効果を発揮することで初めて実証した(J.R.Eckerand R.W.Davis, (1986) Proc.Natl.Acad.USA.83:5372)。その後、タバコやペチュニアにおいても、アンチセンスRNAの発現によって標的遺伝子の発現を低下させる例が報告されており(A.R.van der Krol et al. (1988) Nature 333:866)、現在では植物における遺伝子発現を抑制させる手段として確立している。
【0031】
アンチセンス核酸が標的遺伝子の発現を抑制する作用としては、以下のような複数の要因が存在する。すなわち、三重鎖形成による転写開始阻害、RNAポリメラーゼによって局部的に開状ループ構造がつくられた部位とのハイブリッド形成による転写抑制、合成の進みつつあるRNAとのハイブリッド形成による転写阻害、イントロンとエキソンとの接合点でのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、スプライソソーム形成部位とのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、mRNAとのハイブリッド形成による核から細胞質への移行抑制、キャッピング部位やポリ(A)付加部位とのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、翻訳開始因子結合部位とのハイブリッド形成による翻訳開始抑制、開始コドン近傍のリボソーム結合部位とのハイブリッド形成による翻訳抑制、mRNAの翻訳領域やポリソーム結合部位とのハイブリッド形成によるペプチド鎖の伸長阻止、および核酸とタンパク質との相互作用部位とのハイブリッド形成による遺伝子発現抑制などである。これらは、転写、スプライシング、または翻訳の過程を阻害して、標的遺伝子の発現を抑制する(平島および井上「新生化学実験講座2 核酸IV 遺伝子の複製と発現」,日本生化学会編,東京化学同人,pp.319-347,1993)。
【0032】
本発明で用いられるアンチセンス配列は、上記のいずれの作用で標的遺伝子の発現を抑制してもよい。一つの態様としては、遺伝子のmRNAの5'端近傍の非翻訳領域に相補的なアンチセンス配列を設計すれば、遺伝子の翻訳阻害に効果的であろう。しかし、コード領域もしくは3'側の非翻訳領域に相補的な配列も使用し得る。このように、遺伝子の翻訳領域だけでなく非翻訳領域の配列のアンチセンス配列を含むDNAも、本発明で利用されるアンチセンスDNAに含まれる。使用されるアンチセンスDNAは、適当なプロモーターの下流に連結され、好ましくは3'側に転写終結シグナルを含む配列が連結される。このようにして調製されたDNAは、公知の方法で、所望の植物へ形質転換できる。アンチセンスDNAの配列は、形質転換する植物が持つ内在性遺伝子またはその一部と相補的な配列であることが好ましいが、遺伝子の発現を有効に阻害できる限り、完全に相補的でなくてもよい。転写されたRNAは、標的とする遺伝子の転写産物に対して好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相補性を有する。アンチセンス配列を用いて、効果的に標的遺伝子の発現を阻害するには、アンチセンスDNA の長さは、少なくとも15塩基以上であり、好ましくは100塩基以上であり、さらに好ましくは500塩基以上である。通常、用いられるアンチセンスDNAの長さは5kbよりも短く、好ましくは2.5kbよりも短い。
【0033】
内在性遺伝子の発現の抑制は、また、リボザイムをコードするDNAを利用して行うことも可能である。リボザイムとは触媒活性を有するRNA分子のことをいう。リボザイムには種々の活性を有するものがあるが、中でもRNAを切断する酵素としてのリボザイムの研究により、RNAの部位特異的な切断を目的とするリボザイムの設計が可能となった。リボザイムには、グループIイントロン型や、RNasePに含まれるM1RNAのように400ヌクレオチド以上の大きさのものもあるが、ハンマーヘッド型やヘアピン型と呼ばれる40ヌクレオチド程度の活性ドメインを有するものもある(小泉誠および大塚栄子, (1990) 蛋白質核酸酵素,35:2191)。
【0034】
例えば、ハンマーヘッド型リボザイムの自己切断ドメインは、G13U14C15のC15の3'側を切断するが、活性にはU14が9位のAと塩基対を形成することが重要とされ、15位の塩基はCの他にAまたはUでも切断されることが示されている(M.Koizumi et al. (1988) FEBS Lett.228:225)。リボザイムの基質結合部を標的部位近傍のRNA 配列と相補的になるように設計すれば、標的RNA中のUC、UUまたはUAという配列を認識する制限酵素的なRNA切断リボザイムを作出することが可能である(M.Koizumi et al. (1988) FEBS Lett. 239:285、小泉誠および大塚栄子,(1990) 蛋白質核酸酵素,35:2191、 M.Koizumi et al. (1989) Nucleic Acids Res. 17:7059)。例えば、CKX遺伝子のコード領域(配列番号:2)中には標的となりうる部位が複数存在する。
【0035】
また、ヘアピン型リボザイムも、本発明の目的のために有用である。ヘアピン型リボザイムは、例えばタバコリングスポットウイルスのサテライトRNAのマイナス鎖に見出される(J.M.Buzayan Nature 323:349,1986)。このリボザイムも、標的特異的なRNA切断を起こすように設計できることが示されている(Y.Kikuchi and N.Sasaki (1992) Nucleic Acids Res. 19:6751、 菊池洋, (1992) 化学と生物 30:112)。
【0036】
標的を切断できるよう設計されたリボザイムは、植物細胞中で転写されるようにカリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーターなどのプロモーターおよび転写終結配列に連結される。しかし、その際、転写されたRNAの5'末端や3'末端に余分な配列が付加されていると、リボザイムの活性が失われてしまうことがある。このようなとき、転写されたリボザイムを含むRNAからリボザイム部分だけを正確に切り出すために、リボザイム部分の5'側や3'側に、トリミングを行うためのシスに働く別のトリミングリボザイムを配置させることも可能である(K.Taira et al. (1990) Protein Eng. 3:733、A.M.Dzianottand J.J.Bujarski (1989) Proc.Natl.Acad.Sci.USA. 86:4823、 C.A.Grosshansand R.T.Cech (1991) Nucleic Acids Res. 19:3875、 K.Taira et al. (1991) Nucleic Acids Res. 19:5125)。また、このような構成単位をタンデムに並べ、標的遺伝子内の複数の部位を切断できるようにして、より効果を高めることもできる(N.Yuyama et al. Biochem.Biophys.Res.Commun.186:1271,1992)。このようなリボザイムを用いて本発明で標的となる遺伝子の転写産物を特異的に切断し、該遺伝子の発現を抑制することができる。
【0037】
「本発明のタンパク質をコードするDNAの転写産物と相補的なRNAをコードするDNA」の他の一つの態様は、本発明のタンパク質をコードするDNAの転写産物と相補的なdsRNAをコードするDNAである。RNAiは、標的遺伝子配列と同一もしくは類似した配列を有する二重鎖RNA(以下dsRNA)を細胞内に導入すると、導入した外来遺伝子および標的内在性遺伝子の発現がいずれも抑制される現象である。細胞に約40〜数百塩基対のdsRNAが導入されると、ヘリカーゼドメインを持つダイサー(Dicer)と呼ばれるRNaseIII様のヌクレアーゼがATP存在下で、dsRNAを3’末端から約21〜23塩基対ずつ切り出し、siRNA(short interference RNA)を生じる。このsiRNAに特異的なタンパク質が結合して、ヌクレアーゼ複合体(RISC:RNA-induced silencing complex)が形成される。この複合体はsiRNAと同じ配列を認識して結合し、RNaseIII様の酵素活性によってsiRNAの中央部で標的遺伝子のmRNAを切断する。また、この経路とは別にsiRNAのアンチセンス鎖がmRNAに結合してRNA依存性RNAポリメラーゼ(RsRP)のプライマーとして作用し、dsRNAが合成される。このdsRNAが再びダイサーの基質となって、新たなsiRNAを生じて作用を増幅する経路も考えられている。
【0038】
上記RNAiは、当初、線虫において発見されたが(Fire, A. et al. Potent and specific genetic interference by double-stranded RNA in Caenorhabditis elegans. Nature 391, 806-811, (1998))、現在では、線虫のみならず、植物、線形動物、ショウジョウバエ、原生動物などの種々の生物において観察されている(Fire, A. RNA-triggered gene silencing. Trends Genet. 15, 358-363 (1999)、Sharp, P. A. RNA interference 2001. Genes Dev. 15, 485-490 (2001)、Hammond, S. M., Caudy, A. A. & Hannon, G. J. Post-transcriptional gene silencing by double-stranded RNA. Nature Rev. Genet. 2, 110-1119 (2001)、Zamore, P. D. RNA interference: listening to the sound of silence. Nat Struct Biol. 8, 746-750 (2001))。これら生物では、実際に外来よりdsRNAを導入することにより標的遺伝子の発現が抑制されることが確認され、さらにはノックアウト個体を創生する方法としも利用されつつある。
【0039】
RNAiの登場当初はdsRNAはある程度の長さ(40塩基)以上でなければ効果がないと考えられていたが、米ロックフェラー大のTuschlらは21塩基対前後の単鎖dsRNA(siRNA)を細胞に導入すれば、哺乳動物細胞においてもPKRによる抗ウイルス反応を起こさず、RNAiの効果があることを報告し(Tuschl, Nature, 411, 494-498(2001))、RNAiは分化したヒトなどの哺乳動物細胞に応用可能な技術として俄然注目を集めることになった。
【0040】
本発明のDNAは、標的遺伝子mRNAのいずれかの領域に対するアンチセンスRNAをコードしたアンチセンスコードDNAと、前記標的遺伝子mRNAのいずれかの領域のセンスRNAをコードしたセンスコードDNAを含み、前記アンチセンスコードDNAおよび前記センスコードDNAより前記アンチセンスRNAおよび前記センスRNAを発現させることができる。また、これらのアンチセンスRNAおよびセンスRNAよりdsRNAを作成することもできる。
【0041】
本発明のdsRNAの発現システムを、ベクター等に保持させる場合の構成としては、同一のベクターからアンチセンスRNA、センスRNAを発現させる場合と、異なるベクターからそれぞれアンチセンスRNA、センスRNAを発現させる場合がある。例えば、同一のベクターからアンチセンスRNA、センスRNAを発現させる構成としては、アンチセンスコードDNAおよびセンスコードDNAの上流にそれぞれpolIII系のような短いRNAを発現し得るプロモーターを連結させたアンチセンスRNA発現カセット、センスRNA発現カセットをそれぞれ構築し、これらカセットを同方向にあるいは逆方向にベクターに挿入することにより構成することができる。また、異なる鎖上に対向するようにアンチセンスコードDNAとセンスコードDNAと逆向きに配置した発現システムを構成することもできる。この構成では、アンチセンスRNAコード鎖とセンスRNAコード鎖とが対となった一つの二本鎖DNA(siRNAコードDNA)が備えられ、その両側にそれぞれの鎖からアンチセンスRNA、センスRNAとを発現し得るようにプロモータを対向して備えられる。この場合には、センスRNA、アンチセンスRNAの下流に余分な配列が付加されることを避けるために、それぞれの鎖(アンチセンスRNAコード鎖、センスRNAコード鎖)の3'末端にターミネーターをそれぞれ備えることが好ましい。このターミネーターは、A(アデニン)塩基を4つ以上連続させた配列などを用いることができる。また、このパリンドロームスタイルの発現システムでは、二つのプロモーターの種類を異ならせることが好ましい。
【0042】
また、異なるベクターからアンチセンスRNA、センスRNAを発現させる構成としては、例えば、アンチセンスコードDNAおよびセンスコードDNAの上流にそれぞれ polIII系のような短いRNAを発現し得るプロモータを連結させたアンチセンスRNA発現カセット、センスRNA発現カセットをそれぞれ構築し、これらカセットを異なるベクターに保持させることにより構成することができる。
【0043】
本発明のRNAiにおいては、dsRNAとしてsiRNAが使用されたものであってもよい。「siRNA」は、細胞内で毒性を示さない範囲の短鎖からなる二重鎖RNAを意味し、Tuschlら(前掲)により報告された全長21〜23塩基対に限定されるものではなく、毒性を示さない範囲の長さであれば特に限定はなく、例えば、15〜49塩基対と、好適には15〜35塩基対と、さらに好適には21〜30塩基対とすることができる。あるいは、発現されるsiRNAが転写され最終的な二重鎖RNA部分の長さが、例えば、15〜49塩基対、好適には15〜35塩基対、さらに好適には21〜30塩基対とすることができる。
【0044】
本発明のDNAとしては、標的配列のインバーテッドリピートの間に適当な配列(イントロン配列が望ましい)を挿入し、ヘアピン構造を持つダブルストランドRNA(self-complementary ‘hairpin’ RNA(hpRNA))を作るようなコンストラクト(Smith, N.A. et al. Nature, 407:319, 2000、Wesley, S.V. et al. Plant J. 27:581, 2001、Piccin, A. et al. Nucleic Acids Res. 29:E55, 2001)を用いることもできる。
【0045】
RNAiに用いるDNAは、標的遺伝子と完全に同一である必要はないが、少なくとも70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の配列の同一性を有する。また、配列の同一性は上述した手法により決定できる。
【0046】
dsRNAにおけるRNA同士が対合した二重鎖RNAの部分は、完全に対合しているものに限らず、ミスマッチ(対応する塩基が相補的でない)、バルジ(一方の鎖に対応する塩基がない)などにより不対合部分が含まれていてもよい。本発明においては、dsRNAにおけるRNA同士が対合する二重鎖RNA領域中に、バルジおよびミスマッチの両方が含まれていてもよい。
【0047】
内在性遺伝子の発現の抑制は、さらに、標的遺伝子配列と同一もしくは類似した配列を有するDNAの形質転換によってもたらされる共抑制によっても達成されうる。「共抑制」とは、植物に標的内在性遺伝子と同一若しくは類似した配列を有する遺伝子を形質転換により導入すると、導入する外来遺伝子および標的内在性遺伝子の両方の発現が抑制される現象のことをいう。共抑制の機構の詳細は明らかではないが、植物においてはしばしば観察される(Curr.Biol.7:R793,1997, Curr.Biol.6:810,1996)。例えば、CKX遺伝子が共抑制された植物体を得るためには、CKX遺伝子若しくはこれと類似した配列を有するDNAを発現できるように作製したベクターDNAを目的の植物へ形質転換し、得られた植物体からCKX変異体の形質を有する植物、即ち感光性が低下した植物を選択すればよい。共抑制に用いる遺伝子は、標的遺伝子と完全に同一である必要はないが、少なくとも70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、95%,96%,97%,98%,99%以上)の配列の同一性を有する。
【0048】
さらに、本発明における内在性遺伝子の発現の抑制は、標的遺伝子のドミナントネガティブの形質を有する遺伝子を植物へ形質転換することによっても達成することができる。ドミナントネガティブの形質を有する遺伝子とは、該遺伝子を発現させることによって、植物体が本来持つ内在性の野生型遺伝子の活性を消失もしくは低下させる機能を有する遺伝子のことをいう。
【0049】
また、本発明は、上記本発明のDNAや本発明のDNAの発現を抑制するDNAが挿入されたベクターを提供する。本発明のベクターとしては、組み換えタンパク質の生産に用いる上記したベクターの他、形質転換植物体作製のために植物細胞内で本発明のDNAあるいは本発明のDNAの発現を抑制するDNAを発現させるためのベクターも含まれる。このようなベクターとしては、植物細胞で転写可能なプロモーター配列と転写産物の安定化に必要なポリアデニレーション部位を含むターミネーター配列を含んでいれば特に制限されず、例えば、プラスミド「pBI121」、「pBI221」、「pBI101」(いずれもClontech社製)などが挙げられる。植物細胞の形質転換に用いられるベクターとしては、該細胞内で挿入遺伝子を発現させることが可能なものであれば特に制限はない。例えば、植物細胞内での恒常的な遺伝子発現を行うためのプロモーター(例えば、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター)を有するベクターや外的な刺激により誘導的に活性化されるプロモーターを有するベクターを用いることも可能である。ここでいう「植物細胞」には、種々の形態の植物細胞、例えば、懸濁培養細胞、プロトプラスト、葉の切片、カルスなどが含まれる。
【0050】
本発明のベクターは、本発明のタンパク質を恒常的または誘導的に発現させるためのプロモーターを含有しうる。恒常的に発現させるためのプロモーターとしては、例えば、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター(Odell et al. 1985 Nature 313:810)、イネのアクチンプロモーター(Zhang et al.1991 Plant Cell 3:1155)、トウモロコシのユビキチンプロモーター(Cornejo et al. 1993 Plant Mol.Biol. 23:567)などが挙げられる。
【0051】
また、誘導的に発現させるためのプロモーターとしては、例えば糸状菌・細菌・ウイルスの感染や侵入、低温、高温、乾燥、紫外線の照射、特定の化合物の散布などの外因によって発現することが知られているプロモーターなどが挙げられる。このようなプロモーターとしては、例えば、糸状菌・細菌・ウイルスの感染や侵入によって発現するイネキチナーゼ遺伝子のプロモーター(Xu et al. 1996 Plant Mol.Biol.30:387)やタバコのPRタンパク質遺伝子のプロモーター(Ohshima et al. 1990 Plant Cell 2:95)、低温によって誘導されるイネの「lip19」遺伝子のプロモーター(Aguan et al. 1993 Mol.GenGenet. 240:1)、高温によって誘導されるイネの「hsp80」遺伝子と「hsp72」遺伝子のプロモーター(Van Breusegem et al. 1994 Planta 193:57)、乾燥によって誘導されるシロイヌナズナの「rab16」遺伝子のプロモーター(Nundy et al. 1990 Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:1406)、紫外線の照射によって誘導されるパセリのカルコン合成酵素遺伝子のプロモーター(Schulze-Lefert et al. 1989 EMBO J. 8:651)、嫌気的条件で誘導されるトウモロコシのアルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子のプロモーター(Walker et al. 1987 Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:6624)などが挙げられる。また、イネキチナーゼ遺伝子のプロモーターとタバコのPRタンパク質遺伝子のプロモーターはサリチル酸などの特定の化合物によって、「rab16」は植物ホルモンのアブシジン酸の散布によっても誘導される。
【0052】
また、本発明は、本発明のベクターが導入された形質転換細胞を提供する。本発明のベクターが導入される細胞には、組み換えタンパク質の生産に用いる上記した細胞の他に、形質転換植物体作製のための植物細胞が含まれる。植物細胞としては特に制限はなく、例えば、シロイヌナズナ、イネ、トウモロコシ、ジャガイモ、タバコなどの細胞が挙げられる。本発明の植物細胞には、培養細胞の他、植物体中の細胞も含まれる。また、プロトプラスト、苗条原基、多芽体、毛状根も含まれる。植物細胞へのベクターの導入は、ポリエチレングリコール法、電気穿孔法(エレクトロポーレーション)、アグロバクテリウムを介する方法、パーティクルガン法など当業者に公知の種々の方法を用いることができる。形質転換植物細胞からの植物体の再生は、植物細胞の種類に応じて当業者に公知の方法で行うことが可能である(Toki et al. (1995) Plant Physiol. 100:1503-1507参照)。例えば、イネにおいては、形質転換植物体を作出する手法については、ポリエチレングリコールによりプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体(インド型イネ品種が適している)を再生させる方法(Datta,S.K. (1995) In Gene Transfer To Plants(Potrykus I and Spangenberg Eds.) pp66-74)、電気パルスによりプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体(日本型イネ品種が適している)を再生させる方法(Toki et al. (1992) Plant Physiol. 100, 1503-1507)、パーティクルガン法により細胞へ遺伝子を直接導入し、植物体を再生させる方法(Christou et al. (1991) Bio/technology, 9: 957-962.)およびアグロバクテリウムを介して遺伝子を導入し、植物体を再生させる方法(Hiei et al. (1994) Plant J. 6: 271-282.)など、いくつかの技術が既に確立し、本願発明の技術分野において広く用いられている。本発明においては、これらの方法を好適に用いることができる。
【0053】
形質転換された植物細胞は、再分化させることにより植物体を再生させることが可能である。再分化の方法は植物細胞の種類により異なるが、例えば、イネであればFujimuraら(Plant Tissue Culture Lett. 2:74 (1995))の方法が挙げられ、トウモロコシであればShillitoら(Bio/Technology 7:581 (1989))の方法やGorden-Kammら(Plant Cell 2:603(1990))が挙げられ、ジャガイモであればVisserら(Theor.Appl.Genet 78:594 (1989))の方法が挙げられ、タバコであればNagataとTakebe(Planta 99:12(1971))の方法が挙げられ、シロイヌナズナであればAkamaら(Plant Cell Reports12:7-11 (1992))の方法が挙げられ、ユーカリであれば土肥ら(特開平8-89113号公報)の方法が挙げられる。
【0054】
一旦、ゲノム内に本発明のDNAあるいは本発明のDNAの発現を抑制するDNAが導入された形質転換植物体が得られれば、該植物体から有性生殖または無性生殖により子孫を得ることが可能である。また、該植物体やその子孫あるいはクローンから繁殖材料(例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラスト等)を得て、それらを基に該植物体を量産することも可能である。本発明には、本発明のDNAが導入された植物細胞、該細胞を含む植物体、該植物体の子孫およびクローン、並びに該植物体、その子孫、およびクローンの繁殖材料が含まれる。
【0055】
このようにして作出された着粒数が改変された植物体は、野生型植物体と比較して、その着粒数および収量が変化している。例えば、アンチセンスDNAなどの導入によりCKXタンパク質をコードするDNAの発現が抑制された植物体は、その着粒数の増加により、収量の増加が期待される。本発明の手法を用いれば、有用農作物であるイネにおいては、その着粒数を増加することができ、収量が増加したイネ品種の育成の上で非常に有益である。
【0056】
また、本発明は、配列番号:1もしくは2に記載の塩基配列またはその相補配列に相補的な少なくとも15の連続する塩基を含むポリヌクレオチドを提供する。ここで「相補配列」とは、A:T、G:Cの塩基対からなる2本鎖DNAの一方の鎖の配列に対する他方の鎖の配列を指す。また、「相補的」とは、少なくとも15個の連続したヌクレオチド領域で完全に相補配列である場合に限られず、少なくとも70% 、好ましくは少なくとも80% 、より好ましくは90% 、さらに好ましくは95% 以上の塩基配列の同一性を有すればよい。このようなDNAは、本発明のDNAの検出や単離を行なうためのプローブとして、また、増幅を行なうためのプライマーとして有用である。
【0057】
さらに、本発明は、植物の着粒数の増減を判定する遺伝子診断方法を提供する。植物の着粒数は植物の収穫量に密接に係わり、植物の着粒数を判定することは収穫量の増大を目的としたイネ品種育成において非常に重要なことである。
【0058】
本発明において「植物の着粒数の増減を判定」とは、これまでに栽培されていた品種における着粒数の増減の判定のみならず、交配や遺伝子組換え技術による新しい品種における着粒数の増減の判定も含まれる。
【0059】
本発明の植物の着粒数の増減を評価する方法は、植物がCKXタンパク質をコードするDNAの機能を欠失しているか否かを検出することを特徴とする。植物がCKXタンパク質をコードするDNAの機能を欠失しているか否かは、ゲノムDNAのCKX遺伝子に相当する塩基配列の違いを検出することにより評価することが可能である。
【0060】
本発明のDNAに相当する被検植物体のDNA領域の塩基配列を直接決定し、該塩基配列がその機能の欠失により植物の着粒数を増加させるタンパク質をコードしている場合には、着粒数が少ない品種であると判定し、該タンパク質をコードしていない場合には、着粒数が多い品種であると判定する。
【0061】
例えば、イネのCKXタンパク質の機能を欠失させる変異が被検植物のDNAの塩基配列に見出されれば、この被検植物は着粒数が多い品種であると診断される。
【0062】
本発明の方法による植物の着粒数の増減の評価は、例えば、植物の交配による品種改良を行なう場合において利点を有する。例えば、着粒数を増加させる形質の導入を望まない場合に、着粒数を増加させる性質を有する品種との交配を避けることができ、逆に、着粒数を増加させる形質の導入を望む場合に、着粒数を増加させる性質を有する品種との交配を行うことができる。また交雑後代個体から望ましい個体を選抜する際にも有効である。植物の着粒数の増減を、その表現型により判断することに比して、遺伝子レベルで判断することは簡便で確実であるため、本発明の着粒数の増減の評価方法は、植物の品種改良において大きく貢献し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0063】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【実施例】
【0064】
〔実施例1〕 試験材料の選定および準同質遺伝子系統の作製
QTL解析を行う雑種集団の育成に先駆け、雑種集団の親となる品種の選定を試みた。まず、日本型イネ-数品種、インド型イネ-数品種の平均着粒数を調査し、両品種間で着粒数に明瞭な差が見られた日本型イネの「コシヒカリ」とインド型イネ「ハバタキ」2つの品種を選抜した(図1)。日本型品種「コシヒカリ」にインド型品種「ハバタキ」を交雑したF1個体に、コシヒカリを反復親とした戻し交雑と自殖を行い、74系統のBC2F1, BC2F2およびBC3F2の集団を育成後、名古屋大学付属農場に展開した。
BC2F2 74個体を用いて、着粒数に関するQTL解析を行った結果、着粒数を増加させる複数のQTLを検出した(図2)。特に第1染色体短腕約28cM近傍にハバタキのlocusがコシヒカリに対して着粒数を増加させる効果の大きいQTL(YQ1; Yielding QTL 1)を見いだすことに成功した(図2)。YQ1の存在を検証するために、返し戻し交雑とMASを用いて、YQ1準同質遺伝子系統(Nil-YQ1:コシヒカリの染色体にハバタキの第1染色体約28cM近傍が置換した系統)を作製した。Nil-YQ1及びコシヒカリ(コントロール)の最大着粒数を調査し、QTL(YQ1)の存在を確認した。第1染色体短腕、約28cM近傍がハバタキに置換した系統は平均で50粒着粒数を増加させた。
【0065】
〔実施例2〕 QTL解析
74個体のBC2F1からそれぞれCTAB法を用いてDNAを抽出すると共全染色体を網羅的に包含する93個の分子マーカーを用いて各個体の遺伝子型を決定した。その自殖後代BC2F2を1系統に各10個体展開し、その中から、ランダムに1系統に1個体を選定し、選定した個体についてそれぞれ6穂をサンプリング後、各穂の着粒数を調査した。各系統6穂の内、最も着粒数の多かった穂を選出し、最大着粒数とした。Qgene ソフトを用いてQTL解析を行った。
【0066】
〔実施例3〕 YQの分離集団を用いた高精度連鎖解析
BC3F2集団を用いて、分子マーカーによる遺伝子型と表現型(F2及びF3)を調査し、再度連鎖解析を行った。その結果分子マーカー(6Aと8A)に挟まれる領域にYQ1が座乗することが明らかになった(図3)。YQ1座乗領域を詳細に特定するために、YQの分離集団(12500個体)を用いて高精度連鎖解析を行った結果、YQ1は分子マーカー(4A9と20)に挟まれる約8Kbを特定する事ができた(図4)。この領域において遺伝子予測を行ったところ、1個の遺伝子が予測され、相同性検索の結果、CKX(サイトカイニン酸化酵素)と高い相同性を有する遺伝子を見いだした(図4)。このCKX遺伝子について、ハバタキとコシヒカリの塩基配列を決定したところ、塩基の違いがみいだされ、ハバタキのCKXは機能を欠失していると思われた(図5)。
【0067】
〔実施例4〕 イネゲノムにおけるCKX遺伝子の解析
またイネゲノム配列を検索し、イネにおけるCKX遺伝子を解析したところ、イネゲノム中に11ヶのCKX遺伝子が存在する事が判明した。シロイヌナズナにおけるCKX遺伝子と共に、これらについて遺伝的系統樹を作成した結果、シロイヌナズナのAtCKX2, 3 及び4と5つのイネCKX遺伝子(Chr.1 25cM P695A4に座乗するCKX, Chr.127 P419B01に座乗するCKX(本遺伝子)、Chr.6 79cM OsJ0006A22-GSに座乗するCKX遺伝子、Chr.2 32cMに座乗する2つのCKX遺伝子)が非常に近縁である事が判明した(図6)。これらの遺伝子の相同性を調べたところアミノ酸レベルで高い相同性を有する事が判明した(図7〜9)。また、イネにおけるすべてのCKX遺伝子について座乗位置を確認したところ、いくつかのYQ領域に座乗することが明らかになった(図10)。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明により提供されたCKX遺伝子の機能欠失は、植物の着粒数を上昇させることから、アンチセンス法、リボザイム法等を利用して該DNAの発現制御を行うことにより、結果的に穀物の収量を増加させることが可能である。穀類には、ゲノムシンテニー(遺伝子の相同性)が極めてよく保存されているため、イネCKX遺伝子のコムギ、オオムギ、トウモロコシなどの穀物育種への応用が期待できる。さらに、穀類のみならず、CKX遺伝子は植物に広く分布することから、CKX遺伝子の機能欠失は全ての植物で花・種子(頴花)数を増加させ、収量の増加を導くと考えられる。
さらに、本発明は、植物の着粒数の増減を判定する遺伝子診断方法を提供する。植物の着粒数の増減を、その表現型により判断することに比して、遺伝子レベルで判断することは簡便で確実であるため、本発明の着粒数の増減の評価方法は、植物の品種改良において大きく貢献し得る。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】図1は、コシヒカリおよびハバタキの表現型を示す写真である。左側がコシヒカリ、右側がハバタキを示す。
【図2】図2は、Yielding QTL(YQ)の染色体における位置を示す図である。
【図3】図3は、Yielding QTL(YQ)の小規模連鎖MAPを示す図である。
【図4】図4は、Yielding QTL(YQ)の高精度連鎖MAPを示す図である。
【図5】図5は、コシヒカリとハバタキのYielding QTL(YQ)の高精度連鎖MAPの比較を示す図である。
【図6】図6は、シロイヌナズナとイネのCKX遺伝子の系統樹を示す図である。
【図7】図7は、各CKX遺伝子の配列を比較した図である。
【図8】図8は、図7の続きを示す図である。
【図9】図9は、図8の続きを示す図である。
【図10】図10は、イネにおけるすべてのCKX遺伝子の座乗位置を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
その機能の欠失により植物の着粒数を増加させる植物由来のタンパク質をコードする、下記(a)から(d)のいずれかに記載のDNA。
(a)配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
(b)配列番号:1もしくは2に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA。
(c)配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1または複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
(d)配列番号:1もしくは2に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
【請求項2】
イネ由来である、請求項1に記載のDNA。
【請求項3】
請求項1または2に記載のDNAの転写産物と相補的なRNAをコードするDNA。
【請求項4】
請求項1または2に記載のDNAの転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNA。
【請求項5】
植物細胞における発現時に、共抑制効果により、請求項1または2に記載のDNAの発現を抑制させるRNAをコードするDNA。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載のDNAを含むベクター。
【請求項7】
請求項6に記載のベクターが導入された宿主細胞。
【請求項8】
請求項6に記載のベクターが導入された植物細胞。
【請求項9】
請求項8に記載の植物細胞を含む形質転換植物体。
【請求項10】
請求項9に記載の形質転換植物体の子孫またはクローンである、形質転換植物体。
【請求項11】
請求項9または10に記載の形質転換植物体の繁殖材料。
【請求項12】
請求項1から5のいずれかに記載のDNAを植物細胞に導入し、該植物細胞から植物体を再生させる工程を含む、形質転換植物体の製造方法。
【請求項13】
請求項1または2に記載のDNAによりコードされるタンパク質。
【請求項14】
請求項7に記載の宿主細胞を培養し、該細胞またはその培養上清から組換えタンパク質を回収する工程を含む、請求項13に記載のタンパク質の製造方法。
【請求項15】
請求項13に記載のタンパク質に結合する抗体。
【請求項16】
配列番号:1もしくは2に記載の塩基配列またはその相補配列に相補的な少なくとも15の連続する塩基を含むポリヌクレオチド。
【請求項17】
請求項3から5のいずれかに記載のDNAを植物体の細胞内で発現させる工程を含む、植物の着粒数を増加させる方法。
【請求項18】
請求項1から5のいずれかに記載のDNA、もしくは請求項6に記載のベクターを有効成分とする、植物の着粒数を改変する薬剤。
【請求項19】
植物の着粒数を判定する検査方法であって、
(a)被検植物体またはその繁殖媒体からDNA試料を調製する工程、
(b)該DNA試料から請求項1に記載のDNA領域を増幅する工程、
(c)増幅されたDNA領域の塩基配列を決定する工程、
を含み、該塩基配列がその機能の欠失により植物の着粒数を増加させるタンパク質をコードしている場合に、着粒数が少ない品種であると判断し、該タンパク質をコードしていない場合に、着粒数が多い品種であると判断する方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図1】
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【公開番号】特開2007−49994(P2007−49994A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−228763(P2006−228763)
【出願日】平成18年8月25日(2006.8.25)
【分割の表示】特願2004−551229(P2004−551229)の分割
【原出願日】平成15年11月13日(2003.11.13)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】